説明

めっき膜、めっき膜の製造方法、配線基板、配線基板の製造方法

【課題】エネルギー消費量及び材料消費量を低減しつつ、種々の基材上へ自在にめっき膜を形成することが可能な製造技術を提供すること。
【解決手段】本発明に係る一態様の銅めっき膜の製造方法は、(a)第1基材(2)上に触媒層(6)を形成すること、(b)第1基材をめっき浴に浸漬することにより、前記触媒層上にめっき膜(10)を析出させること、(c)前記第1基材上の前記めっき膜を、接着層(22)を介して第2基材(22)と接合すること、(d)第1基材を第2基材から分離することにより、前記めっき膜を前記第1基材上から前記第2基材上へ転写すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき法によってめっき膜を製造する技術並びに当該技術を適用した配線基板の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からめっき法を利用した種々の成膜技術が知られているが、以下に説明するように、それぞれ何らかの不都合を有していた。
例えば、電気めっき法を利用する場合には、フォト工程などを行うことにより、導電性シード層を予めパターニングしておく必要がある。しかし、フォト工程は感光膜の形成、露光、現像といった多くの処理を含むために非効率であり、工程の簡素化という観点で課題がある。また、導電性シード層を外部から導通が取れるパターンにしておく必要があり、レイアウトの自由度を損なう。
また、無電解めっき法を利用する場合には、フォト工程などを行うことにより、触媒を所望の位置に塗布または注入(インプラ)する必要があるため、やはりフォト工程を伴うことに起因した工程の非効率という課題がある。これに対して、インクジェット法を適用して無電解触媒をパターニングする手法が考えられる。しかし、この手法では、シランカップリング反応を利用するため、基材の種類が限られたり、表面にOH基を導入する工程を行う必要があるなどの課題が残る。
また、所望の基材に直接的にめっき膜を形成する場合には、基材がめっき水溶液(めっき浴)に浸漬されることから、多孔質基材であった場合にはめっき水溶液への浸漬の後における基材の乾燥に手間がかかる。また、基材の絶縁性を損なうおそれもある。基材がプラスチック基材の場合には、強酸または強アルカリ性のめっき水溶液に浸漬した場合には基材が侵食されるという不都合もある。
【0003】
上述のような課題を解決する手法の1つとして、特開2004−91878号公報(特許文献1)などの公知文献には、陽極酸化膜付きのアルミニウム基材上へのレーザーパターニングを利用した転写法が開示されている。しかし、この転写法を利用した従来技術においては、レーザーを用いるために高コストであり、またエネルギー消費が大きいという不都合がある。また、アルミニウム基材および陽極酸化膜をエッチングする工程を必要とするために、高コスト、高エネルギー消費エネルギー、材料の浪費という点で改良の余地が残されていた。
【0004】
【非特許文献1】高橋他,表面科学 22(6),370(2001)
【特許文献1】特開2004−91878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、エネルギー消費量及び材料消費量を低減しつつ、種々の基材上へ自在にめっき膜を形成することが可能な製造技術を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様のめっき膜の製造方法は、(a)第1基材上に触媒層を形成すること、(b)前記第1基材をめっき浴に浸漬することにより、前記触媒層上にめっき膜を析出させること、(c)前記第1基材上の前記めっき膜を、接着層を介して第2基材と接合すること、(d)前記第1基材を前記第2基材から分離することにより、前記めっき膜を前記第1基材上から前記第2基材上へ転写すること、を含む。
【0007】
本発明に係る製造方法によれば、接着層を介した転写を利用することにより、様々な基材上へ自在にめっき膜を形成することが可能となる。また、エネルギー消費量や材料消費量の削減を図ることが可能となる。
【0008】
好ましくは、前記(a)における前記触媒層は、所定形状にパターニングされたものである。それにより、触媒層の形状に対応してパターニングされためっき膜が得られる。
【0009】
前記(a)においては、例えばインクジェット法、オフセット印刷法又は凸版印刷法を用いて前記触媒層を形成することができる。これらによれば、必要な箇所に選択的に触媒層を形成することが可能であり、材料消費量の削減が図られる。また、パターニングされた触媒層を形成することも容易である。
【0010】
また、前記(a)の後であって前記(b)工程より先に、前記第1基材を加熱することも好ましい。それにより、触媒層とめっき膜との密着強度を低下させることができるので、第1基材から第2基材へのめっき膜の転写がより容易になる。
【0011】
前記接着層としては、例えば熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いることが可能である。このとき、接着層として熱硬化性樹脂を用いる場合には、前記(c)は、前記熱硬化性樹脂を前記第2基材上へ形成し、当該熱硬化性樹脂を挟んで前記第1基材と前記第2基材とを対向配置し、前記熱硬化性樹脂を加熱すること、を含むことが好ましい。これにより、触媒層の加熱も同時に行い、めっき膜と触媒層との密着強度を低下させることが可能となる。
【0012】
また、前記(b)の後であって前記(c)より先に、前記第1基材上であって前記めっき膜が形成された領域以外の領域に接着防止層を形成することも好ましい。それにより、接着層が第1基材上のめっき膜以外の部分とは接合しない、若しくは接合しにくい状態とすることが可能となり、めっき膜の転写をより一層良好に行うことが可能となる。
【0013】
本発明に係る配線基板の製造方法は、少なくとも一方面上に配線膜を有する配線基板の製造方法であって、上述した本発明に係るめっき膜の製造方法によって前記配線膜としてのめっき膜が形成される、配線基板の製造方法である。
【0014】
かかる製造方法によれば、配線基板に適した様々な基材を選択して、当該基材上へめっき膜からなる配線膜を形成することが可能となる。また、エネルギー消費量や材料消費量の削減を図ることが可能となる。
【0015】
本発明に係るめっき膜は、上述しためっき膜の製造方法によって製造されためっき膜である。また、本発明に係る配線基板は、上述した本発明に係る配線基板の製造方法によって製造された配線基板であって、(a)基材と、(b)前記基材上に設けられた接着層と、(c)前記接着層を介して前記基材と接合された配線膜と、を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1〜図7は、本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【0017】
まず、ガラスなどの基材(第1基材)2上に触媒層6を形成する(図1(A))。触媒層6の形成に用いる触媒液としては、貴金属(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)とのキレート、例えば、パラジウムアセチルアセトナートを含む溶液が用いられる。また、オフセット印刷法、凸版印刷法、インクジェット法を用いるなどすることにより、パターニングされた触媒層6を形成することもできる(図1(B))。基材2としては、例えばガラス基板、シリコンウェハ、ガラスエポキシフィルム、ポリイミドフィルム、有機シリコン樹脂板などを用いることができる。
【0018】
次に、触媒層6が設けられた基材2に対して加熱処理を行う(図2)。ここでの加熱処理は、例えば100℃程度かそれより高い温度で行われる。この加熱処理により、触媒層6中の貴金属とのキレートが分解される。こうすることで、触媒層6中に遊離貴金属微粒子を分散させることができる。
【0019】
次に、触媒層6が設けられた基材2を無電解めっき浴8に浸漬することにより、触媒層6上にめっき膜10を析出させる(図3)。析出させる金属としては、Cu、Ni、Auなど無電解めっき法により析出できるものであればいずれも採用できる。無電解めっき浴8としては、例えばCuを析出させる場合であれば、硫酸銅−ホルムアルデヒド−エチレンジアミン4酢酸(EDTA)浴や、硝酸銅−硝酸コバルト−1,2−エチレンジアミン浴などを用いることができる。めっき膜10の厚さは任意であり、例えば100nm〜50μm程度とすることができる。
【0020】
ここで、本実施形態においては、めっき膜10はその一部または全てが、キレートの分解によって生じた遊離貴金属微粒子から成長するため、基材2との直接または間接的な結合を持たなくなる。こうして、めっき膜10と基材2との密着性が低下する。具体的な数値例を挙げると、基材2がガラス基材であり、触媒層6がPdを含有するものであり、これらが100℃以上に加熱された後に膜厚1.2μmのめっき膜10が形成された場合には、このめっき膜10と基材2との密着強度は80kg/cm2以下である。
【0021】
次に、基材2上であってめっき膜10が形成された領域以外の領域に接着防止層12を形成する(図4)。接着防止層12としては、例えばフルオロアルキルシラン分子などを用いることができる。フルオロアルキルシラン分子を基材2上に塗布すると、基材2の表面においてのみシランカップリング結合を形成し、めっき膜10の表面には強固な結合を形成しない。したがって、基材2上のめっき膜10の形成領域以外の領域に対して選択的に接着防止層12を設けることができる。なお、本工程は省略することもできる。
【0022】
次に、基材2上のめっき膜10を、接着層22を介して基材(第2基材)20と接合する(図5)。接着層22は、例えば基材20の表面に予め塗布または含浸される。めっき膜10側に接着層を設けてもよい。基材20としては、ガラス基板、シリコンウェハ、ガラスエポキシフィルム、ポリイミドフィルム、有機シリコン樹脂板など種々のものを採用し得る。すなわち、基材20については、めっき浴への耐性等が不要であるため、所望の材料からなる基材20を採用することができる。基材20の大きさについても、めっき浴への浸漬等を考慮する必要がないため、より大面積のものを用いることができる。図5における例示では基材2と基材20とがほぼ同じ大きさに描かれているが、基材2よりもな基材20を格段に大きいサイズとすることも可能である。更には、それぞれにめっき膜10が形成された複数の基材2を1つの基材20と接合することも可能である。
【0023】
ここで、上述した接着層22としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などを採用することができ、例えば1液性エポキシ樹脂剤が好適に用いられる。接着層22として熱硬化性樹脂を採用する場合には、例えば接着層22を挟んで基材2および基材20を対向配置してこれらを加熱することにより、接着層22を硬化させる(図6)。一般的な1液型エポキシ接着剤では、90℃の温度で4時間程度の加熱を行うことにより200kg/cm2以上の凝集剥離強度を達成することが可能である。接着層22とめっき膜10との接着強度は、触媒層6を介した基材2とめっき膜10との密着強度よりも高ければよい。例えば、基材2としてガラス基板を用い、この基材2上にPdを含有する触媒層6を塗布し、100℃以上に加熱した場合であれば、接着層22とめっき膜10との接着強度は80kg/cm2以上であればよい。この条件は、上述の1液性エポキシ樹脂を90℃、4時間の条件で硬化させることにより達成し得る。ここで、接着層22として熱硬化性樹脂を採用した場合には、硬化させるための加熱により触媒層6も同時に加熱することが可能である。触媒層6を加熱することにより、上述したように触媒層6中の貴金属とのキレートが分解されるので、触媒層6中に遊離貴金属微粒子を分散させることができる。それにより、めっき膜10と基材2との密着強度を低下させることができる。
【0024】
次に、基材2を基材20から分離することにより、めっき膜10を基材2から基材20へ転写する(図7)。例えば、基材2が基材20から引き剥がされる。これにより、例えば、めっき膜10が所望のパターンを有する配線膜である場合には、基材20上に接着層22を介して配線が接合された配線基板が得られる。このような配線基板は、例えばICカード、フレキシブルプリント基板、薄膜太陽電池集電層などのデバイスに応用可能である。
【0025】
図8は、めっき膜の製造方法についての変形実施例を説明するための模式断面図である。図8に示すように、触媒層6上にめっき膜10を析出させた後に(図3参照)、更に電解めっき法によって別のめっき膜16を析出させることもできる。このときのめっき浴18は、めっき膜16として析出させたいものに応じて適宜に選択される。これにより、例えばめっき膜10上に、より導電性の高い金属(例えば、Cu、Au等)からなるめっき膜16を形成することが可能となる。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、接着層を介した転写を利用することにより、様々な基材上へ自在にめっき膜を形成することが可能となる。また、本実施形態によれば、エネルギー消費量や材料消費量の削減を図ることが可能となる。基材(第2基材)と配線との接着に適した任意の種類の接着剤を選択することが可能となる。
【0027】
また、触媒層を加熱することによって基材(第1基材)とめっき膜との密着強度を低下させることが可能となるため、めっき膜の転写がより容易になる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上述した実施形態においては、めっき膜10を析出させた後あるいは熱硬化性樹脂からなる接着層22を硬化させる際に、併せて触媒層6を加熱していたが、この加熱処理は省略することも可能である。すなわち、触媒層6の加熱を行わずとも、めっき膜10と触媒層6との接着強度よりもめっき膜10と接着層22との接着強度が大きい場合には、触媒層6の加熱を省略できる。加熱を行う場合については、めっき膜10の析出後のみ行うようにしてもよく、接着層22を硬化させる際にのみ行うようにしてもよく、両方のタイミングで行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図2】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図3】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図4】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図5】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図6】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図7】本実施形態に係るめっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図8】めっき膜の製造方法についての変形実施例を説明するための模式断面図である。
【符号の説明】
【0030】
2…基材(第1基材)、6…触媒層、8…無電解めっき浴、10…めっき膜、12…接着防止層、20…基材(第2基材)、22…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1基材上に触媒層を形成すること、
(b)前記第1基材をめっき浴に浸漬することにより、前記触媒層上にめっき膜を析出させること、
(c)前記第1基材上の前記めっき膜を、接着層を介して第2基材と接合すること、
(d)前記第1基材を前記第2基材から分離することにより、前記めっき膜を前記第1基材上から前記第2基材上へ転写すること、
を含む、めっき膜の製造方法。
【請求項2】
前記(a)における前記触媒層が所定形状にパターニングされたものである、
請求項1に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項3】
前記(a)は、インクジェット法、オフセット印刷法又は凸版印刷法を用いて前記触媒層を形成する、
請求項1又は2に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項4】
前記(a)の後であって前記(b)工程より先に、前記第1基材を加熱すること、
を更に含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項5】
前記接着層が熱硬化性樹脂であり、
前記(c)は、前記熱硬化性樹脂を前記第2基材上へ形成し、当該熱硬化性樹脂を挟んで前記第1基材と前記第2基材とを対向配置し、前記熱硬化性樹脂を加熱すること、
を含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項6】
前記(b)の後であって前記(c)より先に、前記第1基材上であって前記めっき膜が形成された領域以外の領域に接着防止層を形成すること、
を更に含む、請求項1乃至5の何れか1項に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項7】
少なくとも一方面上に配線膜を有する配線基板の製造方法であって、
請求項1乃至6の何れかに記載の製造方法によって前記配線膜が形成される、
配線基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れかに記載の製造方法によって製造されためっき膜。
【請求項9】
請求項7に記載の製造方法によって製造された配線基板であって、
基材と、
前記基材上に設けられた接着層と、
前記接着層を介して前記基材と接合された配線膜と、
を備える、配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−177022(P2009−177022A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15359(P2008−15359)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】