アクチビン及びTGF−bのシグナリングのCriptoによる拮抗方法
発生的な腫瘍性タンパク質Criptoは、アクチビン及びTGF-bとそれらのII型受容体と複合体を形成することにより、アクチビン及びTGF-bのシグナリングに拮抗する。この複合体は、機能性のアクチビン/TGF-b−II型−I型複合体の形成を排除し、それにより、アクチビン及びTGF-bのシグナリングを阻止する。Criptoは、抗増殖性のSmad2/3シグナルを一般に阻止することができ、多数の治療的意味を有する新規の発癌作用メカニズムを提供する。Criptoとアクチビン/TGF-bとの間の複合体の形成の阻害は、アクチビン及びTGF-bの抗増殖効果を増強し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、TGF-bスーパーファミリーのシグナリングに関する。より具体的には、本発明は、TGF-bスーパーファミリー・リガンドのシグナリングの拮抗に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
トランスフォーミング増殖因子b(TGF-b)スーパーファミリーは、細胞増殖、ホメオスタシス、分化、組織発生、免疫応答、血管形成、創傷修復、内分泌機能、及びその他の多くの生理学的過程を制御する、ヒトにおける30種を超える分泌型リガンドを含む。このスーパーファミリーのメンバーには、TGF-b、アクチビン、骨形成タンパク質(BMP)、増殖分化因子(Growth and Differentiation Factor)(GDF)、及びnodal関連ファミリーが含まれる。アクチビン及びTGF-bのシグナリングの破壊又は調節不全は、発癌を含む多数の病理学的状態に関連している。
【0003】
TGF-bスーパーファミリー・メンバーは、シスチン・ノット骨格(cystine knot scaffold)として知られる特徴的な構造フレームワークを共有している。アクチビン及びTGF-bは、各々、ジスルフィドで連結された二量体である。アクチビンは2本のb鎖からなる。数個のアクチビンbサブユニット遺伝子が存在し、可能なb-b二量体の広範なアレイが存在するが、bA-bA(アクチビン-A)、bA-bB(アクチビン-AB)、及びbB-bB(アクチビン-B)のみが、二量体のタンパク質として単離され、生物学的活性を有することが示されている。哺乳動物には、TGF-b1、TGF-b2、及びTGF-b3アイソフォームを生成させる3種のTGF-b遺伝子が存在する。
【0004】
受容体セリンキナーゼを介したアクチビン及びTGF-bのシグナリング
TGF-b、アクチビン、及びTGF-bスーパーファミリーのその他のメンバーは、受容体セリンキナーゼ(RSK)と呼ばれる固有のセリン/トレオニン・キナーゼ活性を有する2つの型の膜貫通型受容体(I型及びII型)と相互作用することにより、生物学的効果を発揮する。I型受容体セリンキナーゼは、アクチビン受容体様キナーゼ(Activin receptor-Like Kinases)を表すALK1〜7と呼ばれる。受容体活性化メカニズムは、II型受容体(TbRII)に結合し、それによってI型受容体(ALK5)の動員、リン酸化、及び活性化が引き起こされることが示されたTGF-bについて最初に確立された。アクチビン受容体についても、まずアクチビンがActRII又はActRIIBと結合し、続いて、I型受容体ALK4の動員、リン酸化、及び活性化が起こる、リガンドにより媒介される受容体アセンブリ及びI型受容体リン酸化の類似したメカニズムが証明された。
【0005】
受容体細胞外ドメイン(ECD)のリガンド結合特性は、広範に調査されている。ActRII-ECDの結晶構造は、受容体:リガンド相互作用に関与していると予測される部位に関する詳細な情報を提供した。BMP-7と結合したActRII-ECDの結晶構造が最近解明され、アクチビン-A結合に必要とされるActRII上のアミノ酸が、ActRIIとBMP-7との間の界面接触を構成し、BMP-7結合に必要とされることが示された。BMP-7において、ActRIIとの結合の後、推定されるI型受容体結合部位においてアロステリックなコンフォメーション変化が観察された。これは、二量体のリガンド、2つのII型受容体、及び2つのI型受容体を含有している六量体の複合体が形成される、BMP(又はアクチビン)により誘導される協同的なI型/II型受容体アセンブリの一般的なモデルを示唆した。
【0006】
ActRIIB-ECDと結合したアクチビン-Aの構造も最近解明され、それは、ActRIIA受容体上のアクチビン-A結合部位に関する以前の所見と一般に一致していた。BMP I型受容体(ALK3-ECD)と結合したBMP2の結晶構造を案内として使用し、I型受容体ALK4-ECD上のアクチビン-A結合表面が最近同定された。
【0007】
TbRII-ECDと結合したTGF-b3の構造も解明され、予想外に、TGF-bのII型受容体との結合界面は、対応するアクチビン及びBMP7のActRIIとの界面と極めて異なっていることが示された。これは、アクチビン及びTGF-bは、類似した受容体活性化のメカニズムを有しているが、明らかに、無関係なリガンドII型受容体界面を有していることを示唆している。
【0008】
TGF-bスーパーファミリー・リガンドによる受容体アセンブリの正確なメカニズムにも関わらず、受容体の組み立てに続き、II型受容体が、GSドメインと呼ばれる膜近傍の細胞質グリシン及びセリン・リッチな領域においてI型受容体をリン酸化し、このリン酸化イベントによって、I型受容体キナーゼが活性化され下流シグナリングが開始されることが、一般に確立されている。
【0009】
アクチビン及びTGF-bの受容体へのアクセスの調節
アクチビンは、プロセシングを受けた生物学的活性を有する型で分泌される。しかしながら、シグナリング受容体にアクセスし、それを組み立てるアクチビンの能力は、いくつかの特徴的な手段で阻害され得る。インヒビン(a-b)は、bサブユニットをアクチビンと共有しており、膜プロテオグリカン、ベータグリカンと共同で作用して、アクチビンII型受容体と高親和性複合体を形成し、それにより、これらの受容体がアクチビンに結合しシグナリングを開始させるのを妨げるTGF-bスーパーファミリー・メンバーである。可溶性細胞外アクチビン結合フォリスタチンは、高い親和性でアクチビンに結合し、やはり、細胞表面受容体に結合しシグナリングを開始させるアクチビンの能力を阻止する。さらに、偽(デコイ)I型受容体BAMBI(BMP and Activin Membrane-Bound Inhibitor)は、BMP又はアクチビンを、非機能性の複合体としてアクチビン及びBMPの受容体に結合させ、シグナリングを阻止することができる。
【0010】
アクチビンとは異なり、TGF-bアイソフォームは、活性型で分泌されるのではなく、不活性の「潜在型」複合体として分泌される。これらの複合体は、2つのプロセグメントを含む非共有結合性複合体の中に不活性のTGF-b二量体を含み、それらプロセグメントには、いくつかの「潜在型TGF-b結合タンパク質」のうちの1つが連結されていることが多い。潜在型TGF-b複合体及びそれらの結合タンパク質は、細胞外マトリックスと会合し、いくつかの可能性のある活性化刺激のうちの1つを待っており、高度に局所的なシグナルに応答し得る迅速に利用可能な放出可能TGF-bのプールを提供している。
【0011】
Smadシグナリング
ショウジョウバエ(Drosophila)及び線虫(Caenorhabditis elegans)における遺伝学的研究に基づき、現在Smadと呼ばれているタンパク質の群が、受容体セリンキナーゼからのシグナルを伝達し、アクチビン、TGF-b、及びその他のTGF-bスーパーファミリー・メンバーによる標的遺伝子転写調節を媒介することが見出された。Smadは、構造的及び機能的な考慮により、経路特異型(pathway-specific)Smad、共通メディエーター型(common mediator)Smad、及び抑制型(inhibitory)Smadという三つのサブファミリーへと分類され得る。
【0012】
リガンド/受容体のアセンブリ及びアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)のリン酸化が、一過性のALK/経路特異型Smadの会合を誘発し、その間に、ALKがC末端SSXSモチーフ内の最後の2個のセリン残基でSmadをリン酸化する。アクチビン及びTGF-bのシグナルは、経路特異型SmadであるSmad2及びSmad3により媒介され、これらのSmadは、Smad2/3シグナリングを促進することが示された細胞質膜会合型タンパク質である、受容体活性化のためのSmadアンカー(Smad Anchor for Receptor Activation)(SARA)によりそれらのシグナリング受容体の近傍に隔絶されている。
【0013】
Smad2及びSmad3は、活性化された後、膵臓癌抑制遺伝子DPC4としてヒトにおいて最初に発見された共通メディエーター型SmadであるSmad4とヘテロオリゴマー複合体を形成する。Smad2/3/4複合体は、核へ移行し、DNA、及び/又は細胞型特異的なコアクチベーター・タンパク質もしくはコリプレッサー・タンパク質と直接相互作用して、標的遺伝子の活性化又は抑制を引き起こす。
【0014】
脊椎動物ではSmad6及び7という2つの抑制型Smadが同定されており、それらは、経路特異型Smadに見出されるC末端SSXSモチーフを欠いている。Smad6及び7は、Smadシグナリングの阻害剤であり、アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)と結合して経路特異型Smadのリン酸化及び活性化を妨げる。トランスフェクトされた細胞において、Smad7は、アクチビンもしくはTFG-b、又は常時活性型ALK4により誘導される転写応答を阻害する。従って、Smad7は、アクチビン及びTFG-bの効果を制限するための細胞内フィードバック・シグナルを提供し得る。
【0015】
Smad2/3シグナリング及び増殖制御
TGF-b及びアクチビンは、いずれも、大部分の上皮細胞を含む多数の細胞型の増殖を阻害する能力に関して周知であり、遺伝子発現プロファイリングによって、癌細胞における常時活性型のアクチビン又はTGF-bのI型受容体に対する転写応答の本質的な類似性が示されている。Smad2/3シグナリング経路の活性化は、G1期の細胞周期進行の阻害を引き起こし、いくつかの場合においては、最終分化又はアポトーシスを引き起こす。Smad2/3シグナルに対する増殖阻害応答は、サイクリン依存性キナーゼ(cdk)の阻害を引き起こす遺伝子応答及びc-mycのダウンレギュレーションを引き起こす遺伝子応答という2つの主要なクラスに分類されている。
【0016】
網膜芽細胞腫癌抑制タンパク質(pRb)並びにそのファミリーのメンバーp107及びp130は、細胞周期進行を制御しており、cdkリン酸化により調節される活性を有している。TGF-bシグナルは、p15INK4B(p15)及びp21CIP1/WAF1(p21)を含むcdk阻害剤を誘導し、チロシンホスファターゼcdc25Aをダウンレギュレートすることが示されている。p15は、cdk4及びcdk6に結合し不活化して、サイクリンD-cdk4/6からのp27の置換を引き起こし、それがサイクリンE-cdk2に結合し阻害することを可能にする。p21もサイクリンE-cdk2に結合し阻害する。cdc25AはサイクリンD-cdk4の活性化剤であり、従って、そのダウンレギュレーションはこのcdkの活性を減少させる。全体として、Smad2/3シグナリングに応答して減少したcdk活性は、これらのcdkによるpRbリン酸化を減少させ、pRbがE2F機能を妨げ細胞周期進行を阻止することを可能にする。
【0017】
細胞型依存性の多様性を示すcdk阻害とは異なり、転写因子の塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス・ロイシンジッパー(bHLH-LZ)ファミリーのメンバーであるc-Mycのダウンレギュレーションは、Smad2/3シグナルにより増殖阻害される大部分の細胞型において観察される。さらに、Smadシグナルによるc-Mycのダウンレギュレーションはcdkの不活化に必要とされ、cdc25A発現の正の調節剤としてc-Mycを関係付けている証拠も存在する。最近、E2F4/5タンパク質及びRbタンパク質p107が、c-mycプロモーターに結合するための複合体の核への移行及びc-myc遺伝子の抑制を引き起こすTGF-b受容体活性化、Smad3リン酸化、及びSmad4アセンブリを待つ細胞質内のSmad3との予め形成された複合体を形成していることが示された。
【0018】
転写調節剤のIdファミリーは、最終分化を阻害し、細胞増殖を促進し、癌に関係づけられている。Mycタンパク質及びIdタンパク質は、pRbの癌抑制機能を克服するよう共同作用する複合体を形成することができる。興味深いことに、TGF-bは、TGF-b受容体活性化の後、Smad4及び標的Idプロモーターと共に核へと移行する予め組み立てられた細胞質Smad3-ATF3複合体を介してId遺伝子発現の抑制を引き起こすことが最近示された。cdk阻害剤p21の誘導を含むTGF-bシグナルに対する重要な細胞応答が、Smad2と腫瘍抑制因子及び転写調節剤p53との間の直接相互作用に依存することも最近証明された。要約すると、これらの結果は、Smad2及びSmad3が、細胞増殖の調節において、不可欠ではあるが別々の役割を果たしている可能性が高いことを示している。
【0019】
Smad2/3経路及び癌
アクチビン及びTGF-bのシグナリング経路における破壊又は改変が、いくつかの型のヒト癌で観察されているのは、驚くべきことではない。TbRIIの不活化変異が結腸直腸癌及び胃癌で観察されており、ActRIIの不活化が胃腸の癌で最近観察された。観察された卵巣癌の3分の1においてTbRI(ALK5)の不活化変異が起こっており、ALK4が癌抑制遺伝子であることを指摘するALK4変異が膵臓癌において記載されている。
【0020】
アクチビン/TGF-bシグナリング経路は、Smad4及びSmad2の変異によっても破壊される。前述のように、Smad4は当初DPC4(deleted in pancreatic carcinoma locus 4)として同定され、この遺伝子は、全ての膵臓癌の半分及び結腸癌の3分の1において機能的に欠如している。Smad2も結腸直腸癌及び肺癌の極一部で不活化されている。Smad3変異はヒト癌ではまだ観察されていないが、Smad3-/-マウスは結腸直腸癌を発症した。
【0021】
興味深いことに、Smad2/3シグナリングは、その抗増殖効果にも関わらず、細胞がSmad2/3により誘導される増殖阻害に対して抵抗性になっている状態において癌表現型を悪化させることもできる。例えば、もはやSmad2/3シグナルにより増殖阻害されない腫瘍細胞による増加したTGF-b又はアクチビンの産生は、増加した血管形成、減少した免疫監視、及び/又は腫瘍細胞の上皮−間葉転換(EMT)の増加を引き起こし得る。総体として、これらの効果は、増加した腫瘍の増殖及び転移を引き起こし得る。
【0022】
上皮細胞成長因子(Epidermal Growth Factor)-Cripto,FRL-1,Cryptic(EGF-CFC)タンパク質ファミリー
アクチビンと同様に、nodalファミリーのメンバー及びGDF-1/Vg1は、アクチビン受容体ActRII/IIB及びALK4を介してシグナル伝達することが示されている。しかしながら、アクチビンとは異なり、これらのTGF-bスーパーファミリー・メンバーは、II型及びI型の受容体を組み立てシグナルを発生するために上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質ファミリーからの付加的なコレセプターを必要とする。
【0023】
EGF-CFCファミリーは、ヒト及びマウスのCripto及びCryptic、アフリカツメガエル(Xenopus)FRL-1、並びにゼブラフィッシュone-eyed pinhead(oep)を含む、小さなグリコシル化細胞外シグナリング・タンパク質からなる。EGF-CFCタンパク質は、固定された細胞表面コレセプターとして作用することが知られているが、可溶性タンパク質として発現した場合、又はGPIアンカーの酵素的分解の後に細胞表面から分泌された場合にも、活性を有する。ゼブラフィッシュ及びマウスにおける遺伝学的研究により、EGF-CFCタンパク質は、胚発生の間の中胚葉及び内胚葉の形成、心発生、並びに左右非対称の確立に必要であることが示されている。Criptoノックアウト・マウス胚は、原始線条を欠き、胚性中胚葉を形成することができない。この表現型は、ActRIIA-/-;ActRIIB-/-マウス、ALK4-/-マウス、及びNodal-/-マウスにおいて観察されたものと極めて類似しており、このことは、原始線条伸長及び中胚葉形成を開始させるためのアクチビン受容体を介したnodalシグナリングの必要性及びCriptoの役割と一致している。
【0024】
Criptoは、独立に、EGF様ドメインを介してnodalに結合し、CFCドメインを介してALK4に結合することが示されている。さらに、nodal結合又はALK4結合を阻止する選択されたCriptoの点変異は、nodalシグナリングを破壊する。実質的な生化学的証拠が、nodal及びVg1/GDF1が、EGF-CFCタンパク質の存在下でのみアクチビン受容体と複合体を形成することを示している。
【0025】
Criptoは腫瘍増殖因子である
Criptoは、ヒト奇形癌腫細胞系から推定癌遺伝子として当初単離されたEGF-CFCタンパク質であり、後に、足場非依存性の増殖をNOG-8マウス乳房上皮細胞に賦与し得ることが示された。Criptoは、ヒトの乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、及び前立腺の腫瘍において高レベルに発現しているが、正常カウンターパートにおいては存在しないか又は低レベルに発現している。これらの腫瘍における高レベルのCripto発現の基礎となるシグナル及び転写イベントの解明は、未だ将来の研究の重要な分野である。
【0026】
Criptoの細胞分裂促進作用のメカニズムに関連して、組換え可溶性Cripto、及びEGF様ドメインにわたる合成47アミノ酸Cripto断片が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路及びホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)経路の両方を活性化し得ることが示された。可溶性Cripto又は47merペプチドによるHC-11乳房上皮細胞の処理は、SH2-アダプター・タンパク質Shcのチロシンリン酸化、ShcのGrb2との会合、及びp42/44 Erk/MAPK経路の活性化をもたらした。可溶性Criptoが、PI3Kのp85調節サブユニットのリン酸化を引き起こし、SiHa子宮頸癌細胞におけるAKTのリン酸化及び活性化をもたらすことも示された。CriptoはEGF受容体ファミリーのメンバーと結合しないが、[125I]-Criptoは、乳癌細胞系を特異的に標識し、60kDa及び130kDaの膜タンパク質と架橋複合体を形成した。これらのタンパク質は同定されていないが、60kDaタンパク質はALK4であった可能性がある。
【0027】
細胞質チロシンキナーゼc-Srcが可溶性Criptoによって活性化され得、その活性がCriptoによるMAPK/PI3K経路の活性化に必要とされることが、最近示された。GPIアンカープロテオグリカン、グリピカンが、これらのCriptoシグナルの促進において重要であることも報告され、グリピカンが、グリピカンの糖鎖付加(glycanation)に依存する様式でCriptoに結合することも示された。高頻度に増殖刺激性であるMAPK経路及びPI3K経路を活性化するCriptoの能力は、Criptoの発癌効果を説明するものとして一般に提唱されている。
【0028】
Smadシグナリング、Cripto、及び癌
TGF-bの生理学的役割の最初の証明は、インサイチューの発生途中のマウス乳腺の強力かつ可逆的な阻害であった。TGF-bは、現在では、インビボの乳管の増殖及び分岐の重要な阻害剤としてよく確立されており、天然の乳癌の90%超が管癌である。TbRIIの欠損は、女性における浸潤性乳癌の増加したリスクに関連していた。乳管増殖の調節における役割と一致して、TGF-b1ヘテロ接合性ヌル・マウスは、加速された乳房上皮増殖及び管伸長を示す。さらに、乳腺におけるドミナントネガティブTbRII構築物のトランスジェニックな発現によって、TGF-bに対する応答性は消失し、発癌物質に応答した腫瘍発生が対照マウスと比べて増加した。反対に、乳腺におけるTGF-b1のトランスジェニックな過剰発現によって、化学的に誘導された癌が防御される。これらの結果は、TGF-bシグナリングが、マウス乳腺における腫瘍形成を能動的に防止し得ることの直接の証拠を提供する。アクチビンが一次乳房上皮細胞及び形質転換乳房上皮細胞の両方の増殖を阻害することの証拠も存在する。総合すると、これらの結果は、乳房上皮細胞の増殖及び腫瘍形成の阻害におけるSmad2/3経路の重要性を示している。
【0029】
Criptoは、乳癌の〜80%を含む、多くの型のヒト腫瘍において過剰発現しているが、正常カウンターパートにおけるその発現は、低いか又は存在しない。TGF-bとは対照的に、Criptoは、乳房細胞における増殖を促進し、Cripto過剰発現はマウスのNOG-8及びCID-9乳房上皮細胞を形質転換する。これらの細胞系におけるCripto過剰発現はそれらの軟寒天における増殖を可能にし、各々は、単層培養において増強された増殖速度を示した。しかしながら、これらの細胞は、ヌードマウスにおいては腫瘍を形成することができなかった。
【0030】
CID-9細胞における内因性Criptoのレトロウイルス・アンチセンス構築物を介して標的化された破壊によって、細胞増殖の速度が減少することも示された。可溶性Criptoタンパク質及び47アミノ酸EGF様ドメインCriptoペプチドの両方が、管の分岐を促進し、乳管の過形成を引き起こすことも示された。前述のように、これらの効果は、MAPK経路及びPI3K経路を含む細胞分裂促進シグナリング経路を活性化するCriptoの能力の結果として説明されている。しかしながら、Criptoの増殖関連効果の多くは、Smad2/3経路の拮抗とも一般に一致している。
【0031】
Criptoが癌遺伝子としての二重の役割を果たすことができ、細胞分裂促進性MAPK/PI3K経路を活性化することにより作用するのみならず、抗増殖性Smad2/3経路に拮抗することもできるか否かに関する証拠を、先行技術は欠いている。従って、本発明は、アクチビン/TGF-bシグナリングに対する効果を洞察するため、Criptoタンパク質の発癌メカニズムを研究する。
【発明の開示】
【0032】
発明の概要
TGF-b及びアクチビンは、Smad2/3細胞内シグナリング経路を活性化し、上皮細胞を含む多数の細胞型の増殖の強力な阻害を引き起こすにより、組織ホメオスタシスを調節する。このシグナリング経路の破壊は、発癌及び腫瘍形成に関連している。Criptoは、ヒト腫瘍で高度に発現しているが、正常組織カウンターパートでは発現していない発生的な腫瘍性タンパク質である。インビトロで、Criptoの過剰発現は、乳房上皮細胞を形質転換する。本発明は、Criptoがアクチビン及びTGF-bのシグナリングに拮抗し得ることを示す。これらの結果は、Criptoが、抗増殖性のSmad2/3シグナルを一般に阻止することができ、多数の治療的意味を有する新規の発癌作用メカニズムを提供することを示唆する。
【0033】
以下に提示されるデータに基づき、アクチビン及びTGF-bのシグナリングのCriptoによる調節のメカニズムのモデルが提唱される(図13)。Criptoの非存在下では、アクチビン及びTGF-bは、それぞれのII型受容体に結合し、次いでI型受容体(ALK4及びALK5)を動員することによりシグナリングする。アクチビン及びTGF-bのII型受容体は、ALK4及びALK5のGSドメインをリン酸化し、それにより、I型キナーゼを活性化し、下流のシグナリングを開始させる。Criptoは、アクチビン及びTGF-bとそれらのII型受容体との複合体を形成することにより、アクチビン及びTGF-bのシグナリングに拮抗する。この複合体は、機能性のアクチビン/TGF-b・II型・I型複合体の形成を妨害し、従ってシグナリングを阻止する。
【0034】
本発明の1つの態様において、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを増強する方法が提供される。本法は、細胞の表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成を阻害することを含む。
【0035】
もう1つの態様において、細胞におけるSmad2/3シグナリングを増強するために受容体セリンキナーゼのリガンドの変異体を使用する方法が提供される。
【0036】
本発明は、アクチビン-Bシグナリングに選択的に拮抗するため、EGFドメインを欠くCripto変異体を使用する方法も提供する。
【0037】
もう1つの態様において、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを阻害する方法が提供される。本法は、細胞の表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成を増強することを含む。
【0038】
その他のさらなる本発明の局面、特色、及び利点は、現在の発明の好ましい態様の以下の説明から明白になるであろう。これらの態様は、開示の目的で与えられるものである。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞の表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼリガンドとの間の複合体の形成を阻害することにより、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドにより誘導されるシグナリングを増強する方法を提供する。受容体セリンキナーゼのリガンドには、以下に制限はされないが、アクチビン及びTGF-bが含まれ、受容体セリンキナーゼの例には、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)が含まれる。一般に、細胞は、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、又は前立腺に由来する。受容体セリンキナーゼにより媒介されるシグナリングの増強は、Smad2及びSmad3のリン酸化及び活性化を増加させ、減少した細胞増殖を引き起こすと考えられる。
【0040】
1つの態様において、Criptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成は、Criptoのエピトープに対する抗Cripto抗体により阻害される。例えば、抗Cripto抗体は、CriptoのEGF様ドメイン内のエピトープに対するものである。又は、Criptoと受容体セリンキナーゼ・リガンドとの間の複合体の形成は、Criptoには結合するが受容体セリンキナーゼのリガンドには結合しない可溶性受容体セリンキナーゼ細胞外ドメインにより阻害され得る。1つの態様において、可溶性細胞外ドメインは、アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)細胞外ドメインである。好ましくは、ALK-4細胞外ドメインは、アミノ酸70位、75位、及び/又は77位のような1つまたは複数の位置に変異を含む。例えば、ALK-4細胞外ドメインは、アミノ酸70位、75位、及び/又は77位にアラニンを含む。
【0041】
もう1つの態様において、Criptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成は、細胞におけるCriptoの発現を阻害することにより阻害される。Cripto発現は、Criptoのアンチセンス転写物、Criptoに対する低分子阻害性RNA(siRNA)、又は相同組換えによる少なくとも1つのCriptoの対立遺伝子の変異により阻害され得る。
【0042】
さらにもう1つの態様において、細胞におけるSmad2/3シグナリングを増強するために、受容体セリンキナーゼのリガンドの変異体を使用する方法が提供される。変異リガンドは、シグナリング活性を保持しているが、Criptoに結合することができず、それによりCriptoによる拮抗を回避する。一般に、受容体セリンキナーゼのリガンドには、以下に制限はされないが、アクチビン及びTGF-bが含まれる。
【0043】
本発明は、選択的にアクチビン-Bシグナリングに拮抗するために、EGFドメインを欠くCripto変異体を使用する方法も提供する。一般に、Cripto変異体は、可溶性であるか、又は細胞表面結合型である。本明細書に開示された結果は、CriptoのEGF様ドメインが、アクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-bに拮抗するために必要であり、CFCドメインは、アクチビン-Bを阻止するには十分であるが、アクチビン-A又はTGF-bを阻止するには十分でないことを示している。従って、EGFドメインを欠くCripto変異体は、様々な生物学的状況において、アクチビン-Bシグナリングに対するアクチビン-Aの相対的重要性を区別するための有用な研究ツールになるであろう。例えば、ラット脳下垂体前葉性腺刺激ホルモン産生細胞からのFSHの放出がアクチビン-Bにより媒介されることも、以前に証明されている。従って、DEGFのようなCripto変異体は、アクチビン-A又はTGF-bのシグナリングに影響を与えることなく、FSH放出を阻止すると予測される。FSH放出の阻止により、精子形成が破壊され、可逆的な不妊が引き起こされる可能性がある。従って、EGF様ドメインが欠失している細胞接着型又は可溶性のCripto構築物は、雄避妊薬としての利用可能性を有しているかもしれない。
【0044】
本発明は、細胞表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼ・リガンドとの間の複合体の形成を増強することにより、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドにより誘導されるシグナリングを阻害する方法を、さらに提供する。受容体セリンキナーゼのリガンドには、以下に制限はされないが、アクチビン及びTGF-bが含まれ、受容体セリンキナーゼの例には、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)が含まれる。一般に、細胞は、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、又は前立腺に由来する。1つの態様において、Criptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成は、細胞におけるCriptoの発現を増加させることにより増強される。例えば、Cripto発現を、Criptoタンパク質をコードするウイルス・ベクター又はプラスミド・ベクターを細胞へ投与することにより増加させることができる。Criptoと受容体セリンキナーゼ・リガンドとの間の複合体の形成は、可溶性Cripto又は細胞表面結合型Criptoを細胞へ投与することにより増強され得る。
【0045】
以下の実施例は、本発明の様々な態様を例示する目的で与えられるものであって、本発明を制限するためのものではない。当実施例は、本明細書に記載された方法、手法、処理、分子、及び特定の化合物と共に、現在の好ましい態様を代表するものである。目的を実施し、言及された目標及び利点、並びに本発明に固有の目的、目標、及び利点を得るために、本発明がよく適応されることが当業者には容易に認識されるであろう。特許請求の範囲により定義されるような本発明の本旨に包含されるそれらの変化及びその他の使用が、当業者に想到されるであろう。
【0046】
実施例1
CriptoはActRIIの存在下でアクチビンに結合し、アクチビン・ActRII結合に関してALK4と競合する
Criptoと架橋複合体を形成する[125I]-アクチビン-Aの能力を、アクチビン受容体の存在下又は非存在下で試験した。図2は、293T細胞をActRII(図2A、レーン2)によりトランスフェクトし、次いで、[125I]-アクチビン-Aによる標識及び架橋、続いてActRIIに対する抗体による免疫沈降に供したところ、以前の架橋の結果と一致して、〜80kDaのアクチビン-ActRII架橋複合体が認められたことを示している。2本のActRII・アクチビン・バンドの出現がルーチンに観察され、これは、ActRIIのディファレンシャルなグリコシル化の結果である可能性が高い。
【0047】
ActRIIのALK4とのコトランスフェクション(図2A、レーン5)によって、〜60kDaのアクチビン・ALK4架橋複合体の出現により示されるように、両方の受容体型への[125I]-アクチビン-Aの架橋が引き起こされた。[125I]-アクチビン-AとCriptoとの結合は、アクチビンII型受容体の非存在下においては検出されなかった(図2C、レーン2)。しかしながら、ActRIIをCriptoとコトランスフェクトした場合には、〜32kDa、〜45kDa、及び〜52kDaのアクチビン架橋複合体が観察された(図2A、レーン6)。これらの複合体は、Criptoをトランスフェクトしていない試料には存在しなかった(レーン1〜3、5;約28kDaのバンドは、架橋[125I]-アクチビン-A二量体を表す)。〜18kDa、〜31kDa、及び〜38kDaのCripto種(アクチビンbAモノマーは〜14kDaであり、ゲルは還元条件下で実行された)は、ディファレンシャルなグリコシル化及び/又はその他の修飾を有している可能性が高い。
【0048】
ActRIIに対する抗体が免疫沈降において使用されたため、[125I]-アクチビン-A・Criptoバンドの存在は、安定的なアクチビン・ActRII・Cripto複合体の形成を示している。293T細胞をActRII及びCriptoでコトランスフェクトし、次いでCriptoに対する抗体を使用した免疫沈降に供した場合には、アクチビン・ActRII及びアクチビン・Criptoの架橋バンドも認められた(図2C、レーン3及び5)。
【0049】
Cripto、ActRII、及びALK4により293T細胞をコトランスフェクトする効果を、さらに試験した。CriptoをActRII及びALK4と共にトランスフェクトした場合(図2A、レーン8)、[125I]-アクチビン-AはActRII及びCriptoと架橋複合体を形成し、Criptoの非存在下での架橋と比較してALK4への架橋は大幅に減少した(図2A、レーン5とレーン8とを比較のこと)。Criptoによるコトランスフェクションは、ウェスタンブロットにより示されるように、ALK4の発現は減少させなかった(データは示さず)。
【0050】
アクチビン・ActRII・ALK4複合体形成に対するCriptoの効果を、ALK4に対する抗体による免疫沈降によって調査した。図2Bは、293T細胞をベクター(図2B、レーン1)、ActRII(図2B、レーン2)、ALK4(図2B、レーン3)、Cripto(図2B、レーン4)でトランスフェクトするか、又はActRII及びCripto(図2B、レーン6)もしくはALK4及びCripto(図2B、レーン7)でコトランスフェクトし、次いで[125I]-アクチビン-Aとの架橋に供した場合、ALK4抗体が、標識された複合体を単離し得なかったことを示している。これは、II型受容体の非存在下では、CriptoもALK4も[125I]-アクチビン-Aに結合し得ないことと一致している。ActRII及びALK4を共発現させた場合、抗ALK4抗体は、ActRII及びALK4の両方が標識された複合体を沈降させた(図2B、レーン5)。
【0051】
アクチビンのALK4への架橋及びALK4のActRIIとの会合を阻止する能力と一致して、CriptoとActRII及びALK4とのコトランスフェクションは、これらのバンドの出現を実質的に阻止した(図2B、レーン8)。しかしながら、ActRII、ALK4、及びCriptoをコトランスフェクトし、細胞を[125I]-アクチビン-Aにより標識した場合、ALK4抗体は、標識された[125I]-アクチビン-A・Cripto複合体を沈降させることができた(図2B、レーン8)。
【0052】
Criptoは、[125I]-アクチビン-AのALK4への標識及び架橋を用量依存的に阻止する。図2Dは、トランスフェクトされるCripto DNAの量が増加するにつれ、ALK4へと架橋する[125I]-アクチビン-Aの能力が減少することを示している。これらの結果は、アクチビン・シグナリングのCriptoによる競合的拮抗のメカニズムを提供する。
【0053】
実施例2
CriptoはTbRIIの存在下でTGF-b1に結合し、TGF-b1・TbRII結合に関してALK5と競合する
アクチビン-Aと同様に、TGF-b1は、そのII型受容体TbRIIの存在下でCriptoに結合する。図3Aは、TbRII及び示された量のCripto DNAによりトランスフェクトされた293T細胞への[125I]-TGF-b1の架橋を示す。顕著な〜32kDaの[125I]-TGF-b1・Cripto架橋バンドが出現し、その強度は、トランスフェクトされるCripto DNAの量が増加するにつれ増加した。〜40kDaのより希薄な種も可視であった(図3A)。
【0054】
I型受容体ALK5へと架橋する[125I]-TGF-b1の能力に対するCriptoの効果を調査した。図3Bは、[125I]-TGF-b1が、II型受容体と〜85kDaの架橋複合体を形成すること(図3B、レーン2)、及びCriptoとTbRIIとのコトランスフェクションによって、[125I]-TGF-b1・TbRII複合体のみならず[125I]-TGF-b1・Cripto複合体も生じることを示している。TbRII及びALK5がコトランスフェクトされた場合、[125I]-TGF-b1は、両方の受容体を標識し、それぞれ〜85kDa及び〜60kDaの複合体を与えた(図3B、レーン4)。TbRII、ALK5、及びCriptoがコトランスフェクトされた場合には、3本のバンド全てが認められた(図3B、レーン5)。しかしながら、ALK5バンドの強さは減少しており、このことから、Criptoが、利用可能なTGF-b・TbRII結合部位に関してALK5と競合するのかもしれないことが示された。
【0055】
実施例3
CriptoはHepG2細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングを阻止する
HepG2細胞は、Criptoを発現しておらず、nodalシグナルに応答するためにトランスフェクトされたCriptoを必要としない。従って、アクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングに対するトランスフェクトされたCriptoの効果を、この細胞系で試験した。Cripto及びアクチビン/TGF-bに応答性のルシフェラーゼ・レポーター構築物3TP-luxを、HepG2細胞へトランスフェクトし、アクチビン-A及びTGF-b1により誘導されるルシフェラーゼ発現に対するCriptoの効果を測定した。図4に示されるように、アクチビン-A及びTGF-b1は、Criptoにより阻害されるルシフェラーゼ発現の用量依存的な増加を引き起こした。これらのリガンドの最大用量においては、シグナリングがほぼ4倍減少していた(図4A、B)。対照として、アクチビン-AパラログBMP7のルシフェラーゼ発現を誘導する能力に対するCriptoの効果が、BMPに選択的なレポーターBRE-lucを使用して、以前に試験されている。BMP7は用量依存的にHepG2細胞におけるルシフェラーゼ発現を誘導したが、Criptoはこの誘導に影響を与えず、このことから、Criptoの効果が、アクチビン、TGF-b、及びSmad2/3経路に選択的であるかもしれないことが示された(Gray et al.,2003)。
【0056】
実施例4
293T細胞の細胞表面におけるCripto変異体の発現
マウスCriptoのドメイン構造は、図5Aに例示される。この図は、シグナルペプチド、EGF様ドメイン、CFCドメイン、及びGPIアンカー接着に必要とされるC末端疎水性領域の位置を示している。さらに、FLAGエピトープ、フコシル化トレオニン残基(Thr72)、及びmCFC変異(H104G、W107G)(Yeo and Whitman,2001)の位置が示されている。
【0057】
以下の5個のCripto構築物をこの研究で評価した:野生型Cripto;フコシル化され得ず、nodalシグナリングを促進しないCripto(T72A);EGF様ドメインが欠失しているCripto DEGF;nodalシグナリングを促進せず、ALK4結合を阻止する2つの変異(H104G、W107G)をCFCドメインに有しているCripto mCFC;及びCFCドメインが欠失しているCripto DCFC。
【0058】
野生型Cripto及びこれらの4個のCripto変異体の細胞表面発現レベルは、図5Bに示される。293T細胞を、示されたCripto構築物によりトランスフェクトし、続いて、細胞表面タンパク質の発現レベルを測定するため、本発明者らが以前に使用した完全細胞ELISA型アッセイ(Harrison et al.,2003)において抗FLAG抗体を使用して細胞表面発現を測定した。簡単に説明すると、ポリリシンでコーティングされた24穴プレートに1ウェル当たり100,000細胞の密度で293T細胞を播種し、24時間後に1ウェル当たり0.5mgのベクター又はCripto DNAによりトランスフェクトし、次いで、トランスフェクションの48時間後に細胞表面発現をアッセイした。細胞を、ヘペス解離緩衝液(Hepes Dissociation Buffer:HDB)(12.5mMヘペス(pH7.4)、140mM NaCl、及び5mM KCl)で濯ぎ、4℃で30分間4%パラホルムアルデヒドで固定し、HDBで濯ぎ、次いで、室温(RT)で30分間、3%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むHDBの中でインキュベートした。次いで、細胞を、3%BSAを含むHDBの中で2μg/ml抗Myc抗体と共に2時間インキュベートし、HDBで濯ぎ、室温で1時間、3%BSAを含むHDBの中でペルオキシダーゼ結合抗マウスIgGと共にインキュベートした。ウェルをHDBで濯ぎ、次いで、100μlのTMBペルオキシダーゼ基質を各ウェルに添加した。溶液が可視に青色になるまで、プレートをRTでインキュベートした。各ウェルに100μlの0.18M H2SO4を添加することによりペルオキシダーゼ活性を中止させ、得られた黄色溶液の吸光度を450nmで測定することにより、ペルオキシダーゼ活性を定量した。
【0059】
図5Bに示されるように、これらのCripto構築物は類似したレベルで細胞表面に発現されていた。
【0060】
実施例5
CriptoのEGF様ドメインはアクチビン-A及びTGF-bのシグナリングの拮抗に必要とされる
その他の上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質ファミリーメンバーと同様に、Criptoは2個の保存されたシステイン・リッチ・ドメイン、N末端EGF様ドメイン、及びC末端CFCドメインを有している。これらのモジュラー・ドメインは、各々、他方の非存在下で活性を有することができ、いずれも、特異的なタンパク質間相互作用及びシグナリング機能に関与している。TGF-bシグナリングの阻止におけるCriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインの役割を決定するため、本発明者らは、野生型CriptoのTGF-bを阻害する能力を、EGF様ドメイン又はCFCドメインのいずれかが変異又は欠失しているCripto変異体の能力と比較した。
【0061】
本質的に以前に記載されたようにして(Gray et al.,2003)、ルシフェラーゼ・アッセイを実施した。HepG2細胞を24穴プレートに1ウェル当たり150,000細胞で播種し、約24時間後に、800ng Cripto/100ng 3TP-lux/100ngサイトメガロウイルス(CMV)-b-ガラクトシダーゼ(CMV-b-ガラクトシダーゼ)の比率で1ウェル当たり1mg DNAでトリプリケートでトランスフェクトした。トランスフェクションの約30時間後にTGF-b1で細胞を処理し、処理の16時間後に採集した。細胞を、氷上で30分間、可溶化緩衝液(1%トリトンX-100、25mMグリシルグリシン(pH7.8)、15mM MgSO4、4mM EGTA、及び1mM DTT)の中でインキュベートし、ルシフェラーゼ・レポーター活性を測定し、CMV-b-gal活性に対して規準化した。ポリリシンで処理された24穴プレートに1ウェル当たり100,000細胞で293T細胞を播種し、約24時間後に、1ウェル当たり400ng Cripto/50ng FAST2(FoxH1)/25ng A3lux/25ng CMV-b-ガラクトシダーゼを使用して、1ウェル当たり0.5mg DNAでトリプリケートでトランスフェクトした。トランスフェクションの約24時間後に細胞を処理し、次いで処理の約16時間後に採集した。前記のHepG2細胞について記載されたようにして、ルシフェラーゼ・アッセイを実施した。
【0062】
図6は、293T細胞を、FAST2/A3-ルシフェラーゼと共に空ベクター又は様々なCripto構築物でトランスフェクトし、次いで100pM TGF-b1で処理した場合、空ベクター(図6、レーン1)でトランスフェクトされた細胞におけるルシフェラーゼの誘導と比較して、野生型Cripto(図6、レーン2)でトランスフェクトされた細胞においてはルシフェラーゼ誘導が約3倍減少したが、Cripto DEGF変異体(DEGF)(図6、レーン3)でトランスフェクトされた細胞においては影響がなかったことを示している。この結果は、CriptoのEGF様ドメインがTGF-b1シグナリングの拮抗に必要とされることを示している。対照的に、mCFC変異体(H104G,W107G)は、野生型Criptoと同程度に効率的にTGF-bシグナリングを阻止し(図6、レーン4)、Cripto DCFC変異体(DCFC)は、野生型Criptoよりさらに効率的にTGF-bシグナリングを阻止した(図6、レーン5)。従って、Cripto DCFCが野生型Criptoより大きな阻止効果を有していたという事実により示されるように、CFCドメインは、TGF-bシグナリングのCriptoによる拮抗には必要とされず、むしろ、TGF-bシグナリングを阻止するCriptoの能力に部分的に干渉し得る。総合すると、これらのデータは、CriptoのEGF様ドメインがTGF-bシグナリングの阻害にとって必要かつ十分であることを示す。
【0063】
もう1つの実験において、アクチビン-A処理は30〜40倍、TGF-b1処理は〜25倍、293T細胞におけるルシフェラーゼ発現を誘導し、それは、野生型Criptoにより阻止された(図7)。Criptoのアクチビン-Bシグナリングを阻止する能力は、これらの細胞におけるアクチビン-Aシグナリングを阻止する能力に類似していた(データは示さず)。野生型Criptoと同様に、Cripto mCFC変異体は、これらの細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングを阻止した(図7)。対照的に、EGF様ドメインが欠失しているCripto DEGF変異体も、EGF1・2mCFC変異体も、293T細胞におけるアクチビン-A又はTGF-b1のシグナリングを阻止することができなかった(図7)。これらの結果は、アクチビン-A及びTGF-bのシグナリングの拮抗に、CriptoのEGF様ドメインが必要とされることを示している。
【0064】
実施例6
CriptoのCFCドメインはTGF-b結合に必要とされない
Cripto DCFC変異体がTGF-b1シグナリングを阻止し得ることが証明されたため、本発明者らは、次に、この変異体がTGF-b1に結合し架橋することができるか否かを試験した。293T細胞を、野生型Cripto(図8、レーン1)、Cripto DCFC(図8、レーン2)、TbRII単独(図8、レーン3)、TbRII及びCripto(図8、レーン4)、又はTbRII及びCripto DCFC(図8、レーン5)でトランスフェクトした。細胞を[125I]-TGF-b1で標識し、共有結合性架橋、続いてTbRII(抗His、図8A)又はCripto(抗FLAG、図8B)に対する抗体による免疫沈降に供した。
【0065】
共有結合性架橋研究のため、293T細胞を、1ウェル当たり400,000細胞の密度でポリリシンでコーティングされた6穴プレートに播種し、次いで、約24時間後にトランスフェクトした。特記しない限り、[125I]-TGF-b1架橋のため、0.5mg TbRII/0.5mg ALK5/3mg Criptoの比率で1ウェル当たり4mg DNAで細胞をトランスフェクトするか、又は[125I]-アクチビン-A架橋のため、2mg ActRII/1mg Cripto/1mgベクターでトランスフェクトした。必要であれば、トランスフェクトされるDNAの量を4mgに一定に維持するため、空ベクターを使用した。共有結合性架橋は、まずヘペス解離緩衝液(HDB)で細胞を洗浄し、次いで、室温で約4時間、結合緩衝液(0.1%BSA、5mM MgS04、及び1.5mM CaCl2を含有しているHDB)の中で[125I]-TGF-b1又は[125I]-アクチビン-Aと共にそれらをインキュベートすることにより、トランスフェクションの約48時間後に実施した。次いで、細胞をHDBで濯ぎ、氷上で30分間、0.5mMジスクシニルスベリン酸(DSS)を含有しているHDBの中でインキュベートし、HDBで濯ぎ、次いで、氷上で1時間、溶解緩衝液(1%NP-40、0.5%デオキシコール酸、及び2mM EDTAを含有しているTBS)の中で可溶化した。可溶化された架橋複合体を、2mgの抗FLAG(M2)抗体、抗His抗体、又は抗myc抗体と共に4℃で約24時間インキュベートした。免疫複合体をプロテイン-Gアガロースを使用して沈降させ、SDS-PAGE及びオートラジオグラフィーを使用して分析した。
【0066】
予想通り、TbRIIを標的とする抗His抗体は、Cripto単独(図8A、レーン1)又はCripto DCFC単独(図8A、レーン2)でトランスフェクトされた細胞から標識された複合体を沈降させなかったが、TbRIIが単独でトランスフェクトされた細胞(図8A、レーン3)又はTbRIIがCripto(図8A、レーン4)又はCripto DCFC(図8A、レーン5)のいずれかと共にコトランスフェクトされた細胞からは、[125I]-TGF-b1で標識されたTbRIIを沈降させた。さらに、TbRII及びCripto(図8A、レーン4)でコトランスフェクトされた細胞から、〜32kDaの標識されたCripto複合体が免疫沈降し、TbRII及びCripto DCFCでコトランスフェクトされた細胞から、〜28kDaの複合体が沈降した。後者の複合体は、〜25kDaの[125I]-TGF-b1二量体よりわずかに大きく(図8A、レーン5)、それは、[125I]-TGF-b1・DCFC複合体の予測されたサイズと一致していた。
【0067】
本発明者らは、Cripto及びCripto DCFCを標的とする抗FLAG抗体によっても標識された複合体を沈降させた。293T細胞を、Cripto単独(図8B、レーン1)又はCripto DCFC単独(図8B、レーン2)でトランスフェクトし、[125I]-TGF-b1で架橋し、抗FLAG抗体で免疫沈降させた場合、バンドは観察されなかった。この結果は、Cripto及びCripto DCFCがTbRIIの非存在下ではTGF-bに結合し得ないことと一致している。予測されたように、TbRII単独のトランスフェクション、それに続く細胞標識、架橋、及び抗FLAG抗体を使用した免疫沈降は、架橋複合体の観察をもたらさなかった(図8B、レーン3)。しかしながら、TbRII及びCripto(図8B、レーン4)又はTbRII及びCripto DCFC(図8B、レーン5)による293T細胞のコトランスフェクションによって、それぞれ[125I]-TGF-b1・Cripto複合体及び[125I]-TGF-b1・DCFC複合体を表す〜32kDa及び〜28kDaの複合体が沈降した。この結果は、CriptoとTGF-bとの結合にCFCドメインが必要とされないことのさらなる証拠を提供した。さらに、[125I]-TGF-b1・TbRIIを表す〜85kDaのバンドが、これらの各レーンに存在した(図8B、レーン4、5)。従って、[125I]-TGF-b1架橋に関して、抗TbRII抗体又は抗Cripto抗体のいずれかは、標識されたTbRII及び標識されたCriptoの両方を含有している複合体を沈降させることができる。これは、II型及びI型両方の受容体の安定的な複合体のアセンブリをリガンドが媒介する、TbRII、[125I]-TGF-b1、及びALK5での架橋実験において観察されたものに類似している。
【0068】
実施例7
トレオニン72の変異はTGF-b及びアクチビンのシグナルのCriptoによる拮抗を阻止する
Criptoが、EGF様ドメイン内の保存されたトレオニン残基(マウスCriptoではThr72、ヒトCriptoではThr88)におけるO-フコシル化により修飾されていること、及びこのトレオニンのアラニンへの変異が、nodalに結合しnodalシグナリングを促進するCriptoの能力を阻止することが、以前に示された。CriptoのEGF様ドメインは、nodalシグナリングの促進において重要な役割を果たしており、上に提示された結果は、TGF-b1及びアクチビン-A両方のシグナリングの阻止においても、それが重要な役割を果たしていることを示している。従って、このドメイン内のフコシル化を妨げ、nodalシグナリングを阻止するThr72のAlaへの変異が、TGF-b及びアクチビンのシグナリングを阻止するCriptoの能力にも同様に干渉するか否かを、本発明者らは試験した。
【0069】
図9は、TGF-b1(図9A)、アクチビン-A(図9B)、及びアクチビン-B(図9C)のシグナリングに対する、野生型Cripto及びThr72→Ala(T72A)Criptoフコシル化変異体の相対的な効果を示す。293T細胞を、FAST2/A3ルシフェラーゼと共に空ベクター、野生型Cripto、又はCripto(T72A)変異体でトランスフェクトした。293T細胞を100pM TGF-b1(図9A)で処理した場合、野生型Criptoでトランスフェクトされた細胞(図9A、レーン2)においては、ベクターでトランスフェクトされた細胞(図9A、レーン1)と比べてルシフェラーゼ誘導が減少したが、Cripto(T72A)変異体でトランスフェクトされた細胞においては影響がなかった(図9A、レーン3)。
【0070】
同様に、細胞を300pMアクチビン-Aで処理した場合、ルシフェラーゼ誘導は、野生型Cripto(図9B、レーン2)により阻止されたが、Cripto(T72A)変異体によっては阻止されなかった(図9B、レーン3)。最後に、細胞を300pMアクチビン-Bで処理した場合、Criptoは、本発明者らの以前の観察及び他者らの観察と一致して、ルシフェラーゼ誘導を阻止した。しかしながら、TGF-b及びアクチビン-Aで観察されたものとは異なり、Cripto(T72A)変異体は、アクチビン-Bシグナリングを部分的に阻止することができた(図9C、レーン3)。これは、この変異体がアクチビン-Bに結合し得ること、及びCriptoのCFCドメインがアクチビン-BのCriptoによる拮抗にとって重要であることを証明している以前の報告と一致している。
【0071】
実施例8
CriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインはいずれもアクチビン-Bシグナリングの阻止に関与する
アクチビン-A及びアクチビン-BのシグナリングのCriptoによる拮抗に対するEGF様ドメイン及びCFCドメインの機能的重要性を明確にすることを試み、293T細胞を、FAST2/A3-ルシフェラーゼと共に空ベクター、Cripto DEGF変異体、又はCripto DCFC変異体でトランスフェクトし、アクチビン-A又はアクチビン-Bによる処理に応答したルシフェラーゼ誘導を測定した。以前の観察と一致して、Cripto DEGF変異体はアクチビン-Aシグナリングを阻止しなかった(図10)。対照的に、Cripto DEGF変異体は、アクチビン-Bにより誘導されるルシフェラーゼ活性のほぼ半分を阻止し(図10)、このことから、アクチビン-Bシグナリングの阻止におけるCFCドメインの独立の役割が示された。Cripto DEGF変異体とは対照的に、Cripto DCFC変異体は、アクチビン-A又はアクチビン-Bのいずれかによるルシフェラーゼ誘導を強く阻止した(図10)。従って、EGF様ドメインは、Criptoによるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングの拮抗にとって必要かつ十分であると考えられ、EGF様ドメイン又はCFCドメインのいずれかは、アクチビン-Bによるシグナリングを阻止するために独立に機能し得ると考えられる。
【0072】
実施例9
CriptoのCFCドメインはアクチビンA結合に必要ではない
CriptoのCFCドメインがアクチビン-Aシグナリングの阻害にとって必要とされないことが証明されたため、本発明者らは、次に、このドメインが、Criptoがアクチビン-A及びアクチビン-Bに結合するために必要とされるか否かを試験した。293T細胞を、Cripto(図11、レーン1);Cripto DCFC(図11、レーン2);ActRII(図11、レーン3);ActRII及びCripto(図11、レーン4);又はActRII及びCripto DCFC(図11、レーン5)でトランスフェクトし、[125I]-アクチビン-A又は[125I]-アクチビン-Bによる標識及び架橋、続いてActRIIを標的とする抗myc抗体(図11A)又はCripto及びCripto DCFCを標的とする抗FLAG抗体(図11B)のいずれかによる免疫沈降に供した。
【0073】
予測されたように、Cripto単独(図11A、レーン1)又はCripto DCFC単独(図11A、レーン1)のトランスフェクション、それに続く細胞標識、架橋、及びActRIIを標的とする抗体を使用した免疫沈降は、架橋複合体の検出をもたらさなかった。しかしながら、ActRII単独(図11A、レーン3)による293T細胞のトランスフェクションは、[125I]-アクチビン-A・ActRII複合体を表す〜80kDaのバンド及び[125I]-アクチビン-A二量体を表す〜28kDaのバンドをもたらした。ActRII及びCripto(図11A、レーン4)又はActRII及びCripto DCFC(図11A、レーン5)のコトランスフェクションは、それぞれ[125I]-アクチビン-A・Cripto複合体及び[125I]-アクチビン-A・DCFC複合体を表す可能性が高い〜34kDa及び〜30kDaの付加的な複合体の沈降をもたらした。平行した実験において、本発明者らは、[125I]-アクチビン-Bを含む架橋複合体を検出することができなかったが、これは、ヨウ素化手法に起因する結合活性の消失によるものであると考えられる。
【0074】
本発明者らは、Cripto及びCripto DCFCを標的とする抗FLAG抗体によっても、[125I]-アクチビン-Aで標識された複合体を沈降させた。293T細胞を、Cripto単独又はCripto DCFC単独でトランスフェクトし、[125I]-アクチビン-Aで架橋し、次いで、抗FLAG抗体による免疫沈降に供した場合、バンドは観察されなかった(図11B)。この結果は、TGF-b架橋(図8)で観察されたものに類似しており、このことから、単独でトランスフェクトされた場合、Cripto及びCripto DCFCは各々アクチビン-Aに結合し得ないことが示唆された。予測されたように、ActRII単独のトランスフェクション、それに続く細胞標識、架橋、及び抗FLAG抗体を使用した免疫沈降は、架橋複合体の観察をもたらさなかった(図11B、レーン3)。ActRII及びCripto(図11B、レーン4)又はActRII及びCripto DCFC(図11B、レーン5)による293T細胞のコトランスフェクションは、[125I]-アクチビン-A・Cripto複合体及び[125I]-アクチビン-A・DCFC複合体をそれぞれ表す〜34kDa及び〜30kDaの複合体の沈降を引き起こし、このことから、CFCドメインがCriptoとアクチビン-Aとの結合に必要とされないことの証拠が提供された。むしろ、機能データと一致して、Cripto DCFC変異体は、相対バンド強度(図11B、レーン4、5)により示されるように、野生型Criptoより効率的に[125I]-アクチビン-Aに結合し架橋すると考えられる。[125I]-アクチビン-A・ActRIIを表す〜80kDaのバンドが、これらの各レーン(図11B、レーン4、5)に存在し、このことから、アクチビン-Aの存在下で、Cripto及びCripto DCFCが各々ActRIIと安定的な複合体を形成し得ることが示された。
【0075】
実施例10
Criptoはアクチビン-A/TGF-b1に拮抗するが、293T細胞におけるnodalシグナリングを促進する
アクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングに対するCriptoの効果を、nodalシグナリングに対するものと比較した。293T細胞へのnodal及びCriptoのトランスフェクションが、それを産生する細胞においてシグナルを発生するプロセシングを受けたnodalタンパク質の分泌をもたらすことが、以前に示された。従って、293T細胞を、FAST2、A3-ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミド及び様々な量のCripto DNAでトランスフェクトした。次いで、細胞をアクチビン-A又はTGF-b1で処理するか、又はマウスnodal発現ベクターでコトランスフェクトした。
【0076】
図12は、Criptoの非存在下で、アクチビン-A処理が、未処理細胞と比べて〜45倍ルシフェラーゼ発現を誘導し、TGF-b1処理が〜30倍ルシフェラーゼ発現を誘導したことを示している。増加する量のCripto DNAによるコトランスフェクションは、アクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングの用量依存的な阻止を引き起こした。反対に、nodalは、Criptoの非存在下では検出可能なシグナルを発生しなかったが、細胞へトランスフェクトされるCripto DNAの量が増加するにつれそのシグナリングは増加した(図12)。従って、アクチビン及びnodalが同じシグナリング受容体を利用しており、これらのリガンドが各々Smad2/3経路を介してシグナリングするという事実にも関わらず、Criptoは、nodalシグナリングに対するものとは反対の効果をアクチビン/TGF-bに対して及ぼし得る。
【0077】
実施例11
CriptoによるTGF-bスーパーファミリーのシグナリングの調節
図13は、Criptoがnodal及びVg1/GDF1のシグナリングを促進するか(図13A)又はTGF-b及びアクチビンのシグナリングを阻害する(図13B)ための提唱されたメカニズムを例示する。Criptoは、nodal又はVg1/GDF1及びALK4に結合し、これらのリガンドが、脊椎動物胚形成の間の中内胚葉誘導のようなシグナリング応答を誘発するため、II型及びI型の受容体を組み立てることを可能にする(図13A)。
【0078】
nodalシグナリングに対する効果とは対照的に、Criptoは、II型受容体の存在下でアクチビン-Aに結合し、アクチビンのシグナリングに拮抗する。Criptoはアクチビン-Bシグナリングも阻害するが、この拮抗のメカニズムはアクチビン-Aのものとは異なっていると考えられる。Criptoはまた、TbRIIの存在下でTGF-b1に結合してTGF-b1シグナリングを阻止し、このことから、アクチビン-Aシグナリングに対するものと類似した拮抗のメカニズムが証明される(図13B)。II型受容体結合は、アクチビン-A及びTGF-b1がI型受容体又はCriptoのいずれかと複合体を形成するために必要とされ、本明細書に提示された架橋データは、Criptoが、I型受容体と機能性の複合体を形成するアクチビン-A及びTGF-b1の能力を破壊し得ることを示している(図13B)。腫瘍抑制因子であり細胞増殖を強力に阻害することができるTGF-b1及びアクチビンを阻害するCriptoの能力は、それが腫瘍形成を促進し得るメカニズムを提供する。
【0079】
実施例12
アクチビン・Cripto又はTGF-b・Cripto複合体形成の阻害
Criptoによるアクチビン及びTGF-bのシグナリングの拮抗はCriptoに対する抗体を使用して破壊され得ることが仮定される。これらの抗体とCriptoとの結合は、アクチビン又はTGF-bに結合するCriptoの能力を破壊し、それにより、Criptoによるアクチビン及びTGF-bのシグナリングの拮抗を逆転させると予測される。
【0080】
Criptoは、機能的に重要であることが示されており、タンパク質間相互作用に関与している2個の高度に保存されたドメイン、EGF様ドメイン及びCFCドメインを有している。CriptoのEGF様ドメインは、TGF-bスーパーファミリー・メンバーnodal並びに関連リガンドVg1及びGDF1に直接結合し、アクチビン受容体ActRII/IIB及びALK4を介したシグナリングを促進する。CriptoのEGF様ドメインは、アクチビン及びTGF-bのシグナリングの拮抗に必要とされる。EGF様ドメイン(DEGF)の欠失は、架橋アッセイにおいてアクチビン結合が検出不可能であり、アクチビン又はTGF-bのシグナリングを阻止する能力を有しないCripto変異体をもたらした。従って、nodalと同様に、アクチビン及びTGF-bが、CriptoのEGF様ドメインに結合すること、及びこのドメインが、アクチビン及びTGF-bのCriptoによる拮抗の抗体による阻止の主要な標的となることが提唱される。
【0081】
CriptoとCFCドメインがALK4と直接結合すること、及び、EGF様ドメインと同様に、このドメインがnodalシグナリングに必要とされることも示された。本発明者らは、ALK4結合及びnodalシグナリングを欠損していることが以前に示された、CFCドメイン内に2個の点変異を有するCripto変異体を試験した。mCFCと呼ばれるこの変異体は、アクチビンII型受容体(ActRII/IIB)と共発現させられた場合、架橋アッセイにおいてアクチビンに結合し、293T細胞へ一過性トランスフェクトされた場合、アクチビン・シグナリングを阻止した。これは、CriptoのEGF様ドメインへのアクチビンの結合と一致している。従って、ALK4へのCriptoの結合を破壊し得る抗体は、アクチビン及びTGF-bのCriptoによる拮抗に対して効果を有するかもしれない。最近、CriptoのCFCドメイン(Adkins et al.,2003)又はEGF様ドメイン(Xing et al.,2004)のいずれかを標的とするモノクローナル抗体が、インビボで腫瘍増殖を阻害し得ることが示された。
【0082】
抗体は、哺乳動物細胞から精製された(EGF様ドメイン及びCFCドメインの両方を含有している)組換え可溶性Criptoタンパク質、又はCriptoのEGF様ドメインを含む合成ペプチドに対して作製され得る。全長可溶性Criptoタンパク質に対する抗体を作製することにより、EGF様ドメイン及びCFCドメインの両方を標的とする抗体の効果を試験することが可能と考えられる。
【0083】
C末端FLAGエピトープ・タグを有する可溶性Criptoは、一過性のトランスフェクションの後、哺乳動物細胞(293T細胞又はCHO細胞)において発現され得る。より大規模なタンパク質の生産のため、G418における選択により、可溶性Cripto-FLAGを安定的に発現する細胞が作製され得る。可溶性Cripto-FLAGを含有している培地は、FLAG-アガロース・イムノアフィニティ・クロマトグラフィを使用して濃縮され得、逆相HPLCにより精製され得る。Cripto EGF様ドメインが、抗Cripto抗体を作製するための抗原として使用される合成ペプチドとして作製されてもよい。ヒトCripto EGF様ドメインを含むペプチドは、以前に合成され、再折り畳みされ、生物学的活性を有していることが示されている。マウスCripto EGF様ドメインを含む類似したポリペプチドは、当技術分野において一般に利用可能なマウスCripto配列を使用して作製され得る。
【0084】
まず、可能性のある抗Cripto中和抗体が、293T細胞におけるアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1のシグナリングのCriptoによる拮抗を破壊する能力に関して、様々な用量で試験され得る。ルシフェラーゼを誘導するアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1の能力が、Cripto、FAST2、及びA3-ルシフェラーゼ構築物でトランスフェクトされた細胞において測定され得る。抗Cripto抗体の効果は、正常ウサギ血清(NRS)と比較され得る。全長Cripto又はEGF様ドメインを含有しているペプチドに対する抗体が、293T細胞におけるアクチビン及びTGF-bのシグナリングに対するCriptoの効果を阻止することが見出されたならば、乳房上皮細胞系及び乳癌細胞系を含むその他の細胞を使用して、さらなる試験が実施され得る。
【0085】
又は、Criptoのアンタゴニスト活性は、Criptoと結合し、それにより、アクチビン又はTGF-bと結合するCriptoの能力を破壊する分子によって、阻害され得る。例えば、Lefty及びTomoregulinは、各々、Criptoと直接結合することが示されており、nodalシグナリングを阻止することが示されている(nodalシグナリングはCriptoを必要とする)。それらは、Criptoと結合することにより、TGF-b/アクチビンと結合するCriptoの能力に干渉し、それにより、これらのリガンドに対するCriptoの効果を阻止するかもしれないことが予測される。
【0086】
実施例13
可溶性変異型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)によるアクチビン・Cripto又はTGF-b・Cripto複合体形成の阻害
本実施例における目標は、Criptoには結合し得るが、アクチビンのようなTGF-bスーパーファミリー・リガンドには結合し得ない可溶型のALK4細胞外ドメイン(ECD)を作出することである。そのようなタンパク質は、TGF-bスーパーファミリー・リガンドに直接結合してシグナリングに干渉するのではなく、Criptoと結合し、アクチビン又はTGF-bの結合及びシグナリングを阻止するCriptoの能力を破壊することができるであろうことが仮定される。
【0087】
ALK4上のアクチビンの機能的結合部位は、最近同定された(Harrison et al.,2003)。I70A、L75A、及びP77A ALK4-ECD変異体は、アクチビンと結合することもシグナリングの活性化を媒介することもできないことが証明された。I70、L75、及びP77が、ALK4-ECD上のアクチビン結合部位の中心であることが結論付けられた。これらの残基のうちの1つを変異させることは、アクチビン・ALK4結合を破壊するのに十分であるが、これらの変異が個々に組み込まれているか、対で組み込まれているか、又は三つの変異全てが組み込まれている可溶型のALK4-ECDも作出され得る。
【0088】
I70A、L75A、及び/又はP77A変異、並びにC末端FLAGエピトープ・タグが組み込まれた可溶性ALK4 ECDタンパク質は、一過性トランスフェクションの後、哺乳動物細胞(293T細胞又はCHO細胞)において発現され得る。可溶性ALK4-ECD-FLAGタンパク質を安定的に発現する細胞は、タンパク質のより大規模な生産のため、G418における選択により作出されるであろう。可溶性ALK4-ECD-FLAGタンパク質を含有している培地は、FLAG-アガロース・イムノアフィニティ・クロマトグラフィを使用して濃縮され、逆相HPLCにより精製され得る。
【0089】
まず、I70A、L75A、及び/又はP77A変異が組み込まれた可溶性ALK4 ECDタンパク質は、293T細胞におけるアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1のシグナリングのCriptoによる拮抗を破壊するそれらの能力に関して、様々な用量で試験され得る。ルシフェラーゼを誘導するアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1の能力が、Cripto、FAST2、及びA3-ルシフェラーゼ構築物でトランスフェクトされた細胞において測定されると考えられる。変異ALK4-ECDタンパク質は、野生型可溶性ALK4-ECDと比較されると考えられる。Criptoの非存在下でのアクチビン・シグナリングに対するこれらのALK4-ECDタンパク質の効果も、それらがアクチビン・シグナリングに干渉するか否かを決定するために試験されると考えられる。293T細胞に加え、乳房上皮細胞系及び乳癌細胞系を含むその他の細胞も使用され得る。
【0090】
実施例14
Cripto発現の阻害
定義されたインビトロ系でアクチビン及びTGF-bのシグナリングのCriptoによる拮抗を防止するために、多数の戦略が追求され得る。有用な戦略には、以下に制限はされないが、相同組換え、以前に確証されたCriptoアンチセンス・ベクター・アプローチ、及びCripto RNA干渉によるCripto発現の破壊が含まれる。
【0091】
相同組換え
マウス胚性幹細胞における相同組換えによるCripto発現の破壊は、以前に記載されている(Ding et al.,1998)。Criptoの両方の対立遺伝子を欠くマウスは、おそらく、Criptoを必要とするnodalシグナリングの欠損のため、胚形成中の極めて初期に死亡することが示された。しかしながら、1つのCripto対立遺伝子を欠失させる効果、又は成体の特定の組織において両方の対立遺伝子を破壊する効果(即ち、条件付きノックアウト)は、癌感受性に対する効果に関して未だ確証されていない。
【0092】
アンチセンス・オリゴヌクレオチド
Cripto発現を破壊するアンチセンス・オリゴヌクレオチドの使用も記載されている(Niemeyer et al.,1998)。CriptoアンチセンスRNAをマウス乳房CID-9細胞に送達するため、レトロウイルス・ベクターが使用された。アンチセンスCriptoベクター構築物の発現を介したこれらの細胞における内因性Cripto発現の減少は、細胞増殖を減少させ、Criptoの過剰発現は細胞増殖を増加させた。Criptoのアンチセンス阻害剤は、結腸癌細胞において形質転換された表現型の欠損も引き起こした(Ciardiello et al.,1994)。
【0093】
ニーマイヤー(Niemeyer)ら(1998)は、CID-9細胞に感染させるためにアンチセンスCripto配列を含有しているレトロウイルス・ベクターpGCENを使用し、アンチセンス構築物を安定的に発現する細胞を作出した。細胞に感染させ、安定的な系を作出するために以前に使用されたレトロウイルスpCLNCベクター(Gray and Vale、未公表のデータ)でも、同様のアプローチが実施され得る。レトロウイルス・ベクターに加え、その他のベクターも、当技術分野における標準的な手法に従い使用され得ることを、当業者であれば認識するであろう。一例において、マウスCripto配列は、アンチセンス方向又はセンス方向でpCLNCベクターへとサブクローニングされ得る。これらの構築物又は空pCLNCベクターは、ウイルスを作出し、CID-9細胞に感染させ、G418耐性細胞を得るために使用される。Criptoを増加又は減少させるためのこのアプローチの有効性は、抗Cripto抗体を用いたウェスタンブロットにより、得られたG418耐性細胞におけるCripto発現を調べることにより直接測定され得る。
【0094】
CID-9細胞(又は当技術分野において周知のその他の標的細胞)の増殖に対するアクチビン及びTGF-b並びにそれらのアンタゴニストの効果は、当業者に一般に利用可能なプロトコルを使用して測定され得る。例えば、CyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイ・キット(Invitrogen)が、製造業者の指示に従い使用され得る。アクチビン及びTGF-b並びにそれらのアンタゴニストによる増殖阻害に対する標的細胞系の感受性は、一連の用量の各リガンド、アンタゴニスト、又は媒体で一連の細胞を処理し、増殖に対する効果を経時的に試験することにより確立され得る。親細胞に対するアクチビン、TGF-b、又はアンタゴニストの効果が確立された後は、レトロウイルス・ベクター、Cripto-センス又はCripto-アンチセンス・レトロウイルスDNAを安定的に発現している細胞において、これらの実験が繰り返され、様々な用量のアクチビン及びTGF-bの細胞増殖に対する得られた効果が比較され得る。Cripto過剰発現がCID-9細胞に足場非依存性の増殖能力を賦与することが示されている。従って、Criptoを過剰発現又は過少発現している細胞の単層培養における増殖速度の測定に加え、これらの細胞の軟寒天中で増殖する能力も測定されるであろう。同様の実験が、(下記のような)安定的にRNAiベクターを過剰発現している細胞に対して実施され得る。
【0095】
RNA干渉
RNA干渉の原理は、サイレンシングを受ける遺伝子に配列が相同な低分子干渉RNA(siRNA)により開始される標的遺伝子発現の消失である(Elbashir et al.,2001)。最近、合成21ヌクレオチドsiRNA二重鎖のトランスフェクションが、種々の哺乳動物細胞系における内因性及び異種の遺伝子の発現を特異的に抑制し得ることが示された。Criptoを標的とする21ヌクレオチドsiRNAを発現させるためのCID-9細胞のような標的細胞のウイルス感染は、pSilencerベクター(Ambion)及び/又はポリメラーゼIII HI-RNAプロモーター(pSUPER)に基づくU6プロモーター系を使用して実施され得る(Brummelkamp et al.,2002)。これらのRNAは、標的遺伝子と結合するために5'UU突出部分を必要とする。従って、siRNAの標的配列は、siRNA UU突出部分に相補的なAA標的を含有している配列についてCripto遺伝子をスキャンすることにより同定されると考えられる。他の遺伝子との有意な相同性を有する配列を排除するため、AA及び下流の19ヌクレオチドは、適切なゲノム・データベースと比較されると考えられる。マウスCripto遺伝子に特異的な配列、並びにマウス、ラット、及びヒトのCriptoの間で共通の配列が、最初のsiRNA標的となると考えられる。
【0096】
レトロウイルス・ベクター及び/又はレンチウイルス・ベクター(Salk InstituteのDr.Inder Vermaより提供される)が、CID-9細胞におけるsiRNAの感染及び安定的発現に使用されるであろう。これらのベクターは、標的細胞における高レベルのsiRNA発現を連続的に駆動するため、ポリメラーゼIII HI-RNAプロモーター又はU6低分子核RNAプロモーターのいずれかを含有するよう設計され得る。Criptoに特異的なインサートは、Criptoの指定された19ヌクレオチド配列が同じ19ヌクレオチド配列の逆相補鎖から短いスペーサーによって隔離されるよう設計され得る。得られた転写物は、それ自体の後方に折り畳まれ、siRNA機能にとって必要な19塩基対ヘアピン−ループ構造を形成すると予測される。これらの2つのベクター系を使用したCripto siRNAの発現は、効率的なCripto破壊を可能にするであろう。
【0097】
培養されたマウスCID-9細胞におけるこのアプローチの確証に加え、レトロウイルス・ベクター又はレンチウイルス・ベクターによる、Cripto発現を標的とするsiRNA又はアンチセンスRNAの送達は、ヒト癌を治療するための可能性のある遺伝子治療アプローチとなる。
【0098】
実施例15
変異アクチビンを使用したSmad2/3シグナリングの増強
アクチビン及びTGF-bのシグナリング(即ち、Smad2/3シグナリング)に対するCriptoの拮抗効果を克服するもう1つの方法は、シグナリング活性を保持しているがCriptoと結合することはできない変異型のアクチビン(又は、おそらくはTGF-b)を設計することである。そのような変異リガンドは、野生型のアクチビン及びTGF-bによるシグナリングがCriptoにより抑制されている組織において、Smad2/3シグナリングを活性化することができると思われるため、治療的な価値を有している可能性がある。
【0099】
Cripto抵抗性アクチビン
アクチビン-A上の受容体結合残基を同定する試みにおいて、アクチビン-A及びアクチビン-Aの変異体を発現させ特徴決定するための迅速な機能的なスクリーンが、293T細胞を使用して確立されている。この系は、FAST2及びA3-ルシフェラーゼが組み込まれており、当初はnodal及びCriptoのシグナリングを特徴決定するために開発された系に基づいている。全長アクチビンbA cDNAが293T細胞において発現され、二量体のプロセシングを受けたアクチビン-Aが培地へ分泌された。これらの細胞からの条件培地がA3-ルシフェラーゼ及びFAST2でトランスフェクトされた別々の293T細胞を処理するために使用された場合、ルシフェラーゼ・レポーター発現が誘導され、このことから、分泌されたアクチビン-Aが完全な活性を有することが示された。
【0100】
上記の系を使用して、いくつかのアクチビン-A変異体を作出し、ウェスタンブロット分析により条件培地から定量した。本発明者らは、Lys102からGluへの変異(K102E)がアクチビン-A活性を破壊することを示した以前の結果を確認した。しかしながら、本発明者らが作出した変異体の大部分は、完全な活性を保持していると考えられる。本発明者らは、現在、トランスフェクトされたCriptoの、293T細胞における野生型アクチビン-Aシグナリングに拮抗する能力を、これらのアクチビン-A変異体に拮抗する能力と比較することを提唱している。目標は、野生型アクチビン-Aと比べて、Cripto拮抗に対して抵抗性のアクチビン-A変異体を同定することである。付加的なアクチビン-Aアラニン置換点変異体が、Criptoの完全なシグナリング活性及びCripto抵抗性を有するアクチビン-A変異体を同定する目的で作出され得る。
【0101】
実施例16
可溶性Cripto及び膜結合型Criptoの構築物及び使用
Criptoは、腫瘍において高レベルに発現され、腫瘍形成を促進することが示されており、TGF-b及びアクチビンは、腫瘍抑制因子であり、細胞増殖を強力に阻害する。逆説的に、腫瘍細胞増殖がもはやTGF-b/アクチビン・シグナリングにより阻害されない、より後期の腫瘍進行の段階で、TGF-b/アクチビンは腫瘍形成を促進することもできる。これらのより後期の段階においては、TGF-b及びアクチビンが腫瘍細胞により高レベルに産生され、これらのリガンドのシグナリングは、腫瘍の増殖及び蔓延にとって好都合な血管形成、免疫抑制、及び上皮−間葉転換を引き起こす。従って、状況(即ち、腫瘍進行の段階)に応じて、TGF-b/アクチビン・シグナリングを促進するか、又はTGF-b/アクチビン・シグナリングを阻止することは、治療的に価値があるかもしれない。
【0102】
TGF-b/アクチビン・シグナリングの阻止は、以下に制限はされないが、癌、創傷治癒、及び肝臓再生を含むいくつかの状況において、治療的な恩典を有している可能性がある。前述のように、腫瘍形成のより後期の段階において、腫瘍細胞は、転移の標的である血管、免疫系の細胞、及び器官に対する効果によりさらなる腫瘍の増殖及び転移にとって好都合な効果を引き起こすTGF-b及びアクチビンを分泌する。Cripto発現をこれらの部位へ差し向けるか、又は可溶型Criptoをこれらの部位へ投与することは、腫瘍進行の遅延を助ける可能性がある。
【0103】
TGF-b及びアクチビンは、創傷治癒を加速するが、過度の細胞外マトリックス沈着及び不要な瘢痕を引き起こす場合がある。従って、Criptoは、この状況におけるTGF-b/アクチビンのモジュレーターとしての利用可能性を有している可能性がある。肝臓再生に関して、TGF-b及びアクチビンは肝臓における強力な抗増殖剤であり、従って、Criptoによるそれらのシグナリングの阻止は、肝臓再生を促進するのに有用であることが判明する可能性がある。
【0104】
Cripto変異体の設計
Cripto構築物の例は図14に示される。まず、全ての構築物が、標準的なPCRに基づく突然変異誘発及びサブクローニング技術を使用して、pcDNA3のような哺乳動物発現ベクターにおいて作出され得る。
【0105】
細胞接着型Cripto構築物には、シグナル・ペプチドのすぐ下流のインフレームのエピトープ・タグ配列(例えば、FLAG又はHis)と共に、Criptoシグナル・ペプチドが組み込まれ得、続いて、示されたCripto配列(図14)、GPI接着に必要とされる疎水性C末端ドメイン、及び終止コドンが組み込まれ得る。マウスCriptoの上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)領域(aa60-134)は、ゼブラフィッシュ胚におけるone-eyed pinked(oep)シグナリングを再構築するのに十分であることが示されている。この領域は、細胞接着型タンパク質として発現させられ、アクチビン及びTGF-bと結合し、それらのシグナリングに拮抗する能力に関して試験され得る(図14)。
【0106】
マウスCriptoのEGF様ドメインは、残基60〜95に相当し(図14〜15)、この領域の欠失は、Criptoのアクチビン-Aと結合する能力を排除し、アクチビン-A及びTGF-b1両方のシグナリングに拮抗する能力も排除する。細胞接着型EGF様ドメイン構築物は、アクチビン-A及びTGF-b1の結合及びシグナリングに対する効果に関して試験され得る。アクチビン-A及びTGF-b1の結合及びシグナリングに対するGPIアンカーCFCドメイン(aa99-134)の効果も試験され得る。
【0107】
CriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインの中の個々のアミノ酸の、アクチビン-A及びTGF-b1との結合にとっての機能的役割は、以下のように決定され得る。CFCドメイン内に2つの点変異を有しておりALK4と結合しないCripto mCFC(H104G,W107G)、及びEGF様ドメイン全体が欠失しておりTGF-b/アクチビン関連リガンドnodalと結合することができないCripto DEGFのような変異体は、既に記載された。Criptoとアクチビンとの結合を阻止し、アクチビン及びTGF-bのシグナリングのCriptoによる拮抗を妨げる変異Cripto EGF1・2mCFCには、mEGF1、mEGF2、及びmCFCのタンデム点変異が組み込まれている(N69G、T72A、R88G、E91G、H104G、W107G)(図14〜15参照)。個々の又は組み合わせられたこれらの変異の効果は、細胞接着型Cripto構築物又は可溶性Cripto構築物にこれら又は対応するアラニン変異を組み込むことにより試験され得る。例えば、重複PCR突然変異誘発が、全長GPIアンカーCriptoバックグラウンドにおいてこれらの点変異を作出するために使用され得る。類似の変異は、可溶性のEGF様ドメイン及びCFCドメインの構築物においても作出され得る。
【0108】
さらに、EGF様ドメインには14個の高度に保存された残基が存在し、CFCドメインには9個の高度に保存された残基が存在する(図15)。これらの保存された残基のうちの15個は、以前に、可溶性マウスCriptoに関する突然変異誘発の標的とされ、母性及び接合子性両方のoep(MZoep)発現を欠くゼブラフィッシュ胚においてone-eyed pinhead(oep)シグナリングを再構築する能力に関して特徴決定されている。可溶性のPro52、Phe85、His92、Arg95及びGlu97のCripto Ala置換変異体(Minchiotti et al.,2001)と同様に、可溶性マウスCripto又は可溶性EGF-CFC領域をコードするRNAは、正常な胚発生を回復させることができた。Gly71Asn又はPhe78Ala変異体をコードする注入されたRNAは、高用量であってもMZoep表現型を救出することができなかったが、Asn63、Ser77、Arg88、Glu91、His104、Leu114、Leu114、Leu122、及びArg116のAla置換変異体は、中間の効果をもたらした(Minchiotti et al.,2001)。各変異体は293T細胞において発現させられ、15個の変異体の各々が、Arg88Ala変異体を例外として、ほぼ野生型レベルで発現されることが示された(Minchiotti et al.,2001)。Cripto上のアクチビン及びTGF-bの結合部位をより完全に特徴決定するため、類似の研究が、全長のGPIアンカーCripto構築物又は可溶性Cripto構築物に関連したAla置換変異体で実施され得る。EGF様ドメイン内の保存された残基がアクチビン及びTGF-bの結合表面を構成する可能性が予想される。
【0109】
Criptoは、可溶性タンパク質として存在する場合、nodalシグナリングを促進し、細胞分裂促進性のMAPK経路及びPI3K経路を活性化し得ることが、以前に示されており、このことから、Criptoが、細胞自律的にも、分泌された可溶性の因子としても、作用し得るという可能性が示唆される。従って、いくつかの可溶性Cripto構築物の、アクチビン及びTGF-bと結合し、それらのシグナリングに拮抗する能力を試験することは興味深い。可溶性Cripto構築物の例は図14に例示される。CriptoのC末端疎水性ドメインがGPI接着に必要とされ、このドメインの欠失が可溶性Criptoタンパク質の分泌をもたらすことが、以前に示されている。従って、可溶性Cripto構築物には、インフレームのC末端FLAGエピトープ・タグ、それに続く終止コドンに加え、このC末端欠失が組み込まれると考えられる(図14)。
【0110】
以下の参考文献が本明細書において引用される:
【0111】
この明細書の中で言及された任意の特許又は出版物が、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示すものである。さらに、これらの特許及び出版物は、あたかも個々の出版物が各々参照として組み込まれると特別に個々に示されたかのごとく、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】提唱されたCriptoの二重発癌メカニズムを示すモデルを示す。Criptoは、まだ特徴決定されていない膜貫通型受容体と結合し、c-Srcの活性化をもたらすことにより、細胞分裂促進性のMAPK経路及びPI3K経路を活性化する。Criptoは、アクチビン及びTGF-bのI型受容体のリガンド・II型受容体複合体への機能的な動員に競合的に拮抗することによって、Smad2/3シグナリングも阻止することが提案されている。
【図2】Criptoが、ActRIIの存在下でアクチビンと結合し、アクチビン・ActRII結合に関してALK4と競合することを示す。293T細胞は、示された構築物によりトランスフェクトされ、前記(Gray et al.,2003)のような[125I]-アクチビン-Aによる架橋に供された。細胞が可溶化され、架橋複合体が、示された抗体を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、前記(Gray et al.,2003)のようなオートラジオグラフィーにより可視化された。
【図3】Criptoが、TbRIIの存在下でTGF-b1と結合し、TGF-b1・TbRII結合に関してALK5と競合することを示す。293T細胞は、示された構築物によりトランスフェクトされ、前記(Gray et al.,2003)のような[125I]-TGF-b1による架橋に供された。細胞が可溶化され、架橋複合体が、示された抗体を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、前記(Gray et al.,2003)のようなオートラジオグラフィーにより可視化された。
【図4】CriptoがHepG2細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングを阻止することを示す。HepG2細胞は、前記(Gray et al.,2003)のような空ベクター又はCriptoのいずれかによりトランスフェクトされ、次いで、示された用量のアクチビン-A(図4A)又はTGF-b1(図4B)のいずれかにより処理された。ルシフェラーゼ活性がb-ガラクトシダーゼ活性に対して規準化され、データが、未処理の細胞と比べたルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図5】図5A〜Bは、293T細胞の細胞表面におけるCripto変異体の発現を示す。図5Aは、シグナルペプチド、N末端FLAGエピトープ、EGF様ドメイン、CFCドメイン、及びC末端のGPIアンカー接着部位の位置を示すマウスCriptoの図である。さらに、フコシル化の部位(トレオニン72)、及びmCFC変異体(W104G,W107G)においてグリシン残基に置換されるトリプトファン残基の位置が示されている。(B)空ベクター又は示されたCripto構築物が、293T細胞へとトリプリケートでトランスフェクトされ、得られた完全細胞におけるこれらの構築物の細胞表面発現が、ELISAに基づくアッセイにおいて抗FLAG抗体を使用して測定された(図5B)。
【図6】CriptoのEGF様ドメインがTGF-bシグナリングの拮抗を媒介することを示す。293T細胞が、ベクター又は示されたCripto構築物及びA3-ルシフェラーゼ/FAST-2/CMV-b-ガラクトシダーゼによりトリプリケートでトランスフェクトされた。細胞が、媒体又は100pM TGF-b1により処理され、得られたルシフェラーゼ活性が、b-gal活性に対して規準化された。データは、媒体で処理された細胞と比べた、TGF-b1で処理された細胞におけるルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図7】CriptoのEGF様ドメインが、293T細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングの拮抗に必要とされることを示す。293T細胞は示された構築物によりトランスフェクトされ、次いで、媒体又は1nMアクチビン-A又は0.3nM TGF-b1により処理された。ルシフェラーゼ活性がb-ガラクトシダーゼ活性に対して規準化され、データが、未処理の細胞と比べたルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図8】図8A〜Bは、CriptoのCFCドメインがTGF-bとの結合に必要とされないことを示す。293T細胞が、示された構築物によりトランスフェクトされ、[125I]-TGF-b1による架橋に供された。可溶化された架橋複合体が、TbRIIを標的とする抗His抗体(図8A)又はCriptoを標的とする抗FLAG抗体(図8B)を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、オートラジオグラフィーにより可視化された。
【図9】図9A〜Cは、Cripto T72A変異がTGF-b及びアクチビンのシグナリングを阻止する能力を破壊したことを示す。293T細胞が、ベクター、Cripto、又はCripto変異体(T72A)、及びA3-ルシフェラーゼ/FAST-2/CMV-b-ガラクトシダーゼによりトリプリケートでトランスフェクトされた。細胞が、媒体、又は100pM TGF-b1(図9A)、300pMアクチビン-A(図9B)もしくは300pMアクチビン-B(図9C)により処理され、得られたルシフェラーゼ活性が、規準化され、媒体で処理された細胞におけるb-ガラクトシダーゼ活性と比べた増加倍率として提示された。
【図10】CriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインが独立にアクチビン-Bシグナリングの拮抗を媒介し得ることを示す。293T細胞が、A3-ルシフェラーゼ/FAST-2/CMV-b-ガラクトシダーゼに加え、ベクター、Cripto DEGF、又はCripto DCFCによりトリプリケートでトランスフェクトされた。細胞が、示されたように、媒体、又は300pMアクチビン-Aもしくは300pMアクチビン-Bのいずれかにより処理され、得られたルシフェラーゼ活性が、規準化され、媒体で処理された細胞におけるb-ガラクトシダーゼ活性と比べた増加倍率として提示された。
【図11】図11A〜Bは、Cripto DCFC変異体がアクチビン-Aと結合することを示す。293T細胞が、示された構築物によりトランスフェクトされ、[125I]-アクチビン-Aによる架橋に供された。可溶化された架橋複合体が、ActRIIを標的とする抗myc抗体(図11A)又はCriptoを標的とする抗FLAG抗体(図11B)を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、オートラジオグラフィーにより可視化された。
【図12】Criptoが、アクチビン/TGF-bに拮抗するが、293T細胞におけるnodalシグナリングを促進することを示す。以前に示されたようにして(Gray et al.,2003)、293T細胞が、空ベクター又はnodalのいずれか、及び示された量のCripto DNAによりトランスフェクトされ、次いで1nMアクチビン-A又は0.3nM TGF-b1により処理された。ルシフェラーゼ値がb-ガラクトシダーゼ活性に対して規準化され、データが、未処理の細胞と比べたルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図13】図13A〜Bは、TGF-bリガンド・シグナリングのCriptoによる調節の提唱されたメカニズムを示す。モデルは、TGF-bスーパーファミリー・メンバーのシグナリングを促進(図13A)又は阻害(図13B)するCriptoの能力を例示する。Cripto及び関連する上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質ファミリー・タンパク質は、nodal又はVg1/GDF1に直接結合し、これらのリガンドがII型及びI型のシグナリング受容体を組み立て、中胚葉誘導を含む応答を開始させることを可能にする(図13A)。反対に、これらのリガンドがそれぞれのII型受容体との複合体として存在する間に、Criptoは、TGF-b及びアクチビンと結合することにより、I型受容体の機能的動員を破壊し、増殖阻害のようなシグナリング応答を阻害する(図13B)。
【図14】Cripto及びCripto変異体の構築物の図を示す。C末端GPI足場を介した膜との接着を示して、野生型マウスCriptoのドメイン構造が示される。取り込まれたエピトープ・タグの位置、並びに欠失及び選択された変異の部位が示される。
【図15】上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質のアラインメントを示す。マウスCriptoが、MEGALIGNプログラム(DNASTAR)のCLUSTALアルゴリズムを使用して、ヒトCripto、マウスCryptic、ヒトCryptic、アフリカツメガエル(Xenopus) FRL-1、及びゼブラフィッシュone-eyed pinhead(oep)を含むEGF-CFCファミリーの他のメンバーと整列化された。EGF様ドメインは赤色の影付きの四角で囲まれ、CFCドメインは青色の影付きの四角で囲まれており、これらのドメイン内の保存されたシスチンは黄色の影付きである。EGF様ドメインのジスルフィド配置が示される。マウスCriptoのシグナル・ペプチドは赤色の文字で示され、疎水性C末端ドメインは紫色の文字で示されており、フコシル化されるトレオニンは白色の影付きである。突然変異誘発の標的とされる保存された残基は、アスタリスクにより示され、EGF1、EGF2、及びmCFCの変異は赤いアスタリスクにより示される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、TGF-bスーパーファミリーのシグナリングに関する。より具体的には、本発明は、TGF-bスーパーファミリー・リガンドのシグナリングの拮抗に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
トランスフォーミング増殖因子b(TGF-b)スーパーファミリーは、細胞増殖、ホメオスタシス、分化、組織発生、免疫応答、血管形成、創傷修復、内分泌機能、及びその他の多くの生理学的過程を制御する、ヒトにおける30種を超える分泌型リガンドを含む。このスーパーファミリーのメンバーには、TGF-b、アクチビン、骨形成タンパク質(BMP)、増殖分化因子(Growth and Differentiation Factor)(GDF)、及びnodal関連ファミリーが含まれる。アクチビン及びTGF-bのシグナリングの破壊又は調節不全は、発癌を含む多数の病理学的状態に関連している。
【0003】
TGF-bスーパーファミリー・メンバーは、シスチン・ノット骨格(cystine knot scaffold)として知られる特徴的な構造フレームワークを共有している。アクチビン及びTGF-bは、各々、ジスルフィドで連結された二量体である。アクチビンは2本のb鎖からなる。数個のアクチビンbサブユニット遺伝子が存在し、可能なb-b二量体の広範なアレイが存在するが、bA-bA(アクチビン-A)、bA-bB(アクチビン-AB)、及びbB-bB(アクチビン-B)のみが、二量体のタンパク質として単離され、生物学的活性を有することが示されている。哺乳動物には、TGF-b1、TGF-b2、及びTGF-b3アイソフォームを生成させる3種のTGF-b遺伝子が存在する。
【0004】
受容体セリンキナーゼを介したアクチビン及びTGF-bのシグナリング
TGF-b、アクチビン、及びTGF-bスーパーファミリーのその他のメンバーは、受容体セリンキナーゼ(RSK)と呼ばれる固有のセリン/トレオニン・キナーゼ活性を有する2つの型の膜貫通型受容体(I型及びII型)と相互作用することにより、生物学的効果を発揮する。I型受容体セリンキナーゼは、アクチビン受容体様キナーゼ(Activin receptor-Like Kinases)を表すALK1〜7と呼ばれる。受容体活性化メカニズムは、II型受容体(TbRII)に結合し、それによってI型受容体(ALK5)の動員、リン酸化、及び活性化が引き起こされることが示されたTGF-bについて最初に確立された。アクチビン受容体についても、まずアクチビンがActRII又はActRIIBと結合し、続いて、I型受容体ALK4の動員、リン酸化、及び活性化が起こる、リガンドにより媒介される受容体アセンブリ及びI型受容体リン酸化の類似したメカニズムが証明された。
【0005】
受容体細胞外ドメイン(ECD)のリガンド結合特性は、広範に調査されている。ActRII-ECDの結晶構造は、受容体:リガンド相互作用に関与していると予測される部位に関する詳細な情報を提供した。BMP-7と結合したActRII-ECDの結晶構造が最近解明され、アクチビン-A結合に必要とされるActRII上のアミノ酸が、ActRIIとBMP-7との間の界面接触を構成し、BMP-7結合に必要とされることが示された。BMP-7において、ActRIIとの結合の後、推定されるI型受容体結合部位においてアロステリックなコンフォメーション変化が観察された。これは、二量体のリガンド、2つのII型受容体、及び2つのI型受容体を含有している六量体の複合体が形成される、BMP(又はアクチビン)により誘導される協同的なI型/II型受容体アセンブリの一般的なモデルを示唆した。
【0006】
ActRIIB-ECDと結合したアクチビン-Aの構造も最近解明され、それは、ActRIIA受容体上のアクチビン-A結合部位に関する以前の所見と一般に一致していた。BMP I型受容体(ALK3-ECD)と結合したBMP2の結晶構造を案内として使用し、I型受容体ALK4-ECD上のアクチビン-A結合表面が最近同定された。
【0007】
TbRII-ECDと結合したTGF-b3の構造も解明され、予想外に、TGF-bのII型受容体との結合界面は、対応するアクチビン及びBMP7のActRIIとの界面と極めて異なっていることが示された。これは、アクチビン及びTGF-bは、類似した受容体活性化のメカニズムを有しているが、明らかに、無関係なリガンドII型受容体界面を有していることを示唆している。
【0008】
TGF-bスーパーファミリー・リガンドによる受容体アセンブリの正確なメカニズムにも関わらず、受容体の組み立てに続き、II型受容体が、GSドメインと呼ばれる膜近傍の細胞質グリシン及びセリン・リッチな領域においてI型受容体をリン酸化し、このリン酸化イベントによって、I型受容体キナーゼが活性化され下流シグナリングが開始されることが、一般に確立されている。
【0009】
アクチビン及びTGF-bの受容体へのアクセスの調節
アクチビンは、プロセシングを受けた生物学的活性を有する型で分泌される。しかしながら、シグナリング受容体にアクセスし、それを組み立てるアクチビンの能力は、いくつかの特徴的な手段で阻害され得る。インヒビン(a-b)は、bサブユニットをアクチビンと共有しており、膜プロテオグリカン、ベータグリカンと共同で作用して、アクチビンII型受容体と高親和性複合体を形成し、それにより、これらの受容体がアクチビンに結合しシグナリングを開始させるのを妨げるTGF-bスーパーファミリー・メンバーである。可溶性細胞外アクチビン結合フォリスタチンは、高い親和性でアクチビンに結合し、やはり、細胞表面受容体に結合しシグナリングを開始させるアクチビンの能力を阻止する。さらに、偽(デコイ)I型受容体BAMBI(BMP and Activin Membrane-Bound Inhibitor)は、BMP又はアクチビンを、非機能性の複合体としてアクチビン及びBMPの受容体に結合させ、シグナリングを阻止することができる。
【0010】
アクチビンとは異なり、TGF-bアイソフォームは、活性型で分泌されるのではなく、不活性の「潜在型」複合体として分泌される。これらの複合体は、2つのプロセグメントを含む非共有結合性複合体の中に不活性のTGF-b二量体を含み、それらプロセグメントには、いくつかの「潜在型TGF-b結合タンパク質」のうちの1つが連結されていることが多い。潜在型TGF-b複合体及びそれらの結合タンパク質は、細胞外マトリックスと会合し、いくつかの可能性のある活性化刺激のうちの1つを待っており、高度に局所的なシグナルに応答し得る迅速に利用可能な放出可能TGF-bのプールを提供している。
【0011】
Smadシグナリング
ショウジョウバエ(Drosophila)及び線虫(Caenorhabditis elegans)における遺伝学的研究に基づき、現在Smadと呼ばれているタンパク質の群が、受容体セリンキナーゼからのシグナルを伝達し、アクチビン、TGF-b、及びその他のTGF-bスーパーファミリー・メンバーによる標的遺伝子転写調節を媒介することが見出された。Smadは、構造的及び機能的な考慮により、経路特異型(pathway-specific)Smad、共通メディエーター型(common mediator)Smad、及び抑制型(inhibitory)Smadという三つのサブファミリーへと分類され得る。
【0012】
リガンド/受容体のアセンブリ及びアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)のリン酸化が、一過性のALK/経路特異型Smadの会合を誘発し、その間に、ALKがC末端SSXSモチーフ内の最後の2個のセリン残基でSmadをリン酸化する。アクチビン及びTGF-bのシグナルは、経路特異型SmadであるSmad2及びSmad3により媒介され、これらのSmadは、Smad2/3シグナリングを促進することが示された細胞質膜会合型タンパク質である、受容体活性化のためのSmadアンカー(Smad Anchor for Receptor Activation)(SARA)によりそれらのシグナリング受容体の近傍に隔絶されている。
【0013】
Smad2及びSmad3は、活性化された後、膵臓癌抑制遺伝子DPC4としてヒトにおいて最初に発見された共通メディエーター型SmadであるSmad4とヘテロオリゴマー複合体を形成する。Smad2/3/4複合体は、核へ移行し、DNA、及び/又は細胞型特異的なコアクチベーター・タンパク質もしくはコリプレッサー・タンパク質と直接相互作用して、標的遺伝子の活性化又は抑制を引き起こす。
【0014】
脊椎動物ではSmad6及び7という2つの抑制型Smadが同定されており、それらは、経路特異型Smadに見出されるC末端SSXSモチーフを欠いている。Smad6及び7は、Smadシグナリングの阻害剤であり、アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)と結合して経路特異型Smadのリン酸化及び活性化を妨げる。トランスフェクトされた細胞において、Smad7は、アクチビンもしくはTFG-b、又は常時活性型ALK4により誘導される転写応答を阻害する。従って、Smad7は、アクチビン及びTFG-bの効果を制限するための細胞内フィードバック・シグナルを提供し得る。
【0015】
Smad2/3シグナリング及び増殖制御
TGF-b及びアクチビンは、いずれも、大部分の上皮細胞を含む多数の細胞型の増殖を阻害する能力に関して周知であり、遺伝子発現プロファイリングによって、癌細胞における常時活性型のアクチビン又はTGF-bのI型受容体に対する転写応答の本質的な類似性が示されている。Smad2/3シグナリング経路の活性化は、G1期の細胞周期進行の阻害を引き起こし、いくつかの場合においては、最終分化又はアポトーシスを引き起こす。Smad2/3シグナルに対する増殖阻害応答は、サイクリン依存性キナーゼ(cdk)の阻害を引き起こす遺伝子応答及びc-mycのダウンレギュレーションを引き起こす遺伝子応答という2つの主要なクラスに分類されている。
【0016】
網膜芽細胞腫癌抑制タンパク質(pRb)並びにそのファミリーのメンバーp107及びp130は、細胞周期進行を制御しており、cdkリン酸化により調節される活性を有している。TGF-bシグナルは、p15INK4B(p15)及びp21CIP1/WAF1(p21)を含むcdk阻害剤を誘導し、チロシンホスファターゼcdc25Aをダウンレギュレートすることが示されている。p15は、cdk4及びcdk6に結合し不活化して、サイクリンD-cdk4/6からのp27の置換を引き起こし、それがサイクリンE-cdk2に結合し阻害することを可能にする。p21もサイクリンE-cdk2に結合し阻害する。cdc25AはサイクリンD-cdk4の活性化剤であり、従って、そのダウンレギュレーションはこのcdkの活性を減少させる。全体として、Smad2/3シグナリングに応答して減少したcdk活性は、これらのcdkによるpRbリン酸化を減少させ、pRbがE2F機能を妨げ細胞周期進行を阻止することを可能にする。
【0017】
細胞型依存性の多様性を示すcdk阻害とは異なり、転写因子の塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス・ロイシンジッパー(bHLH-LZ)ファミリーのメンバーであるc-Mycのダウンレギュレーションは、Smad2/3シグナルにより増殖阻害される大部分の細胞型において観察される。さらに、Smadシグナルによるc-Mycのダウンレギュレーションはcdkの不活化に必要とされ、cdc25A発現の正の調節剤としてc-Mycを関係付けている証拠も存在する。最近、E2F4/5タンパク質及びRbタンパク質p107が、c-mycプロモーターに結合するための複合体の核への移行及びc-myc遺伝子の抑制を引き起こすTGF-b受容体活性化、Smad3リン酸化、及びSmad4アセンブリを待つ細胞質内のSmad3との予め形成された複合体を形成していることが示された。
【0018】
転写調節剤のIdファミリーは、最終分化を阻害し、細胞増殖を促進し、癌に関係づけられている。Mycタンパク質及びIdタンパク質は、pRbの癌抑制機能を克服するよう共同作用する複合体を形成することができる。興味深いことに、TGF-bは、TGF-b受容体活性化の後、Smad4及び標的Idプロモーターと共に核へと移行する予め組み立てられた細胞質Smad3-ATF3複合体を介してId遺伝子発現の抑制を引き起こすことが最近示された。cdk阻害剤p21の誘導を含むTGF-bシグナルに対する重要な細胞応答が、Smad2と腫瘍抑制因子及び転写調節剤p53との間の直接相互作用に依存することも最近証明された。要約すると、これらの結果は、Smad2及びSmad3が、細胞増殖の調節において、不可欠ではあるが別々の役割を果たしている可能性が高いことを示している。
【0019】
Smad2/3経路及び癌
アクチビン及びTGF-bのシグナリング経路における破壊又は改変が、いくつかの型のヒト癌で観察されているのは、驚くべきことではない。TbRIIの不活化変異が結腸直腸癌及び胃癌で観察されており、ActRIIの不活化が胃腸の癌で最近観察された。観察された卵巣癌の3分の1においてTbRI(ALK5)の不活化変異が起こっており、ALK4が癌抑制遺伝子であることを指摘するALK4変異が膵臓癌において記載されている。
【0020】
アクチビン/TGF-bシグナリング経路は、Smad4及びSmad2の変異によっても破壊される。前述のように、Smad4は当初DPC4(deleted in pancreatic carcinoma locus 4)として同定され、この遺伝子は、全ての膵臓癌の半分及び結腸癌の3分の1において機能的に欠如している。Smad2も結腸直腸癌及び肺癌の極一部で不活化されている。Smad3変異はヒト癌ではまだ観察されていないが、Smad3-/-マウスは結腸直腸癌を発症した。
【0021】
興味深いことに、Smad2/3シグナリングは、その抗増殖効果にも関わらず、細胞がSmad2/3により誘導される増殖阻害に対して抵抗性になっている状態において癌表現型を悪化させることもできる。例えば、もはやSmad2/3シグナルにより増殖阻害されない腫瘍細胞による増加したTGF-b又はアクチビンの産生は、増加した血管形成、減少した免疫監視、及び/又は腫瘍細胞の上皮−間葉転換(EMT)の増加を引き起こし得る。総体として、これらの効果は、増加した腫瘍の増殖及び転移を引き起こし得る。
【0022】
上皮細胞成長因子(Epidermal Growth Factor)-Cripto,FRL-1,Cryptic(EGF-CFC)タンパク質ファミリー
アクチビンと同様に、nodalファミリーのメンバー及びGDF-1/Vg1は、アクチビン受容体ActRII/IIB及びALK4を介してシグナル伝達することが示されている。しかしながら、アクチビンとは異なり、これらのTGF-bスーパーファミリー・メンバーは、II型及びI型の受容体を組み立てシグナルを発生するために上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質ファミリーからの付加的なコレセプターを必要とする。
【0023】
EGF-CFCファミリーは、ヒト及びマウスのCripto及びCryptic、アフリカツメガエル(Xenopus)FRL-1、並びにゼブラフィッシュone-eyed pinhead(oep)を含む、小さなグリコシル化細胞外シグナリング・タンパク質からなる。EGF-CFCタンパク質は、固定された細胞表面コレセプターとして作用することが知られているが、可溶性タンパク質として発現した場合、又はGPIアンカーの酵素的分解の後に細胞表面から分泌された場合にも、活性を有する。ゼブラフィッシュ及びマウスにおける遺伝学的研究により、EGF-CFCタンパク質は、胚発生の間の中胚葉及び内胚葉の形成、心発生、並びに左右非対称の確立に必要であることが示されている。Criptoノックアウト・マウス胚は、原始線条を欠き、胚性中胚葉を形成することができない。この表現型は、ActRIIA-/-;ActRIIB-/-マウス、ALK4-/-マウス、及びNodal-/-マウスにおいて観察されたものと極めて類似しており、このことは、原始線条伸長及び中胚葉形成を開始させるためのアクチビン受容体を介したnodalシグナリングの必要性及びCriptoの役割と一致している。
【0024】
Criptoは、独立に、EGF様ドメインを介してnodalに結合し、CFCドメインを介してALK4に結合することが示されている。さらに、nodal結合又はALK4結合を阻止する選択されたCriptoの点変異は、nodalシグナリングを破壊する。実質的な生化学的証拠が、nodal及びVg1/GDF1が、EGF-CFCタンパク質の存在下でのみアクチビン受容体と複合体を形成することを示している。
【0025】
Criptoは腫瘍増殖因子である
Criptoは、ヒト奇形癌腫細胞系から推定癌遺伝子として当初単離されたEGF-CFCタンパク質であり、後に、足場非依存性の増殖をNOG-8マウス乳房上皮細胞に賦与し得ることが示された。Criptoは、ヒトの乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、及び前立腺の腫瘍において高レベルに発現しているが、正常カウンターパートにおいては存在しないか又は低レベルに発現している。これらの腫瘍における高レベルのCripto発現の基礎となるシグナル及び転写イベントの解明は、未だ将来の研究の重要な分野である。
【0026】
Criptoの細胞分裂促進作用のメカニズムに関連して、組換え可溶性Cripto、及びEGF様ドメインにわたる合成47アミノ酸Cripto断片が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路及びホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)経路の両方を活性化し得ることが示された。可溶性Cripto又は47merペプチドによるHC-11乳房上皮細胞の処理は、SH2-アダプター・タンパク質Shcのチロシンリン酸化、ShcのGrb2との会合、及びp42/44 Erk/MAPK経路の活性化をもたらした。可溶性Criptoが、PI3Kのp85調節サブユニットのリン酸化を引き起こし、SiHa子宮頸癌細胞におけるAKTのリン酸化及び活性化をもたらすことも示された。CriptoはEGF受容体ファミリーのメンバーと結合しないが、[125I]-Criptoは、乳癌細胞系を特異的に標識し、60kDa及び130kDaの膜タンパク質と架橋複合体を形成した。これらのタンパク質は同定されていないが、60kDaタンパク質はALK4であった可能性がある。
【0027】
細胞質チロシンキナーゼc-Srcが可溶性Criptoによって活性化され得、その活性がCriptoによるMAPK/PI3K経路の活性化に必要とされることが、最近示された。GPIアンカープロテオグリカン、グリピカンが、これらのCriptoシグナルの促進において重要であることも報告され、グリピカンが、グリピカンの糖鎖付加(glycanation)に依存する様式でCriptoに結合することも示された。高頻度に増殖刺激性であるMAPK経路及びPI3K経路を活性化するCriptoの能力は、Criptoの発癌効果を説明するものとして一般に提唱されている。
【0028】
Smadシグナリング、Cripto、及び癌
TGF-bの生理学的役割の最初の証明は、インサイチューの発生途中のマウス乳腺の強力かつ可逆的な阻害であった。TGF-bは、現在では、インビボの乳管の増殖及び分岐の重要な阻害剤としてよく確立されており、天然の乳癌の90%超が管癌である。TbRIIの欠損は、女性における浸潤性乳癌の増加したリスクに関連していた。乳管増殖の調節における役割と一致して、TGF-b1ヘテロ接合性ヌル・マウスは、加速された乳房上皮増殖及び管伸長を示す。さらに、乳腺におけるドミナントネガティブTbRII構築物のトランスジェニックな発現によって、TGF-bに対する応答性は消失し、発癌物質に応答した腫瘍発生が対照マウスと比べて増加した。反対に、乳腺におけるTGF-b1のトランスジェニックな過剰発現によって、化学的に誘導された癌が防御される。これらの結果は、TGF-bシグナリングが、マウス乳腺における腫瘍形成を能動的に防止し得ることの直接の証拠を提供する。アクチビンが一次乳房上皮細胞及び形質転換乳房上皮細胞の両方の増殖を阻害することの証拠も存在する。総合すると、これらの結果は、乳房上皮細胞の増殖及び腫瘍形成の阻害におけるSmad2/3経路の重要性を示している。
【0029】
Criptoは、乳癌の〜80%を含む、多くの型のヒト腫瘍において過剰発現しているが、正常カウンターパートにおけるその発現は、低いか又は存在しない。TGF-bとは対照的に、Criptoは、乳房細胞における増殖を促進し、Cripto過剰発現はマウスのNOG-8及びCID-9乳房上皮細胞を形質転換する。これらの細胞系におけるCripto過剰発現はそれらの軟寒天における増殖を可能にし、各々は、単層培養において増強された増殖速度を示した。しかしながら、これらの細胞は、ヌードマウスにおいては腫瘍を形成することができなかった。
【0030】
CID-9細胞における内因性Criptoのレトロウイルス・アンチセンス構築物を介して標的化された破壊によって、細胞増殖の速度が減少することも示された。可溶性Criptoタンパク質及び47アミノ酸EGF様ドメインCriptoペプチドの両方が、管の分岐を促進し、乳管の過形成を引き起こすことも示された。前述のように、これらの効果は、MAPK経路及びPI3K経路を含む細胞分裂促進シグナリング経路を活性化するCriptoの能力の結果として説明されている。しかしながら、Criptoの増殖関連効果の多くは、Smad2/3経路の拮抗とも一般に一致している。
【0031】
Criptoが癌遺伝子としての二重の役割を果たすことができ、細胞分裂促進性MAPK/PI3K経路を活性化することにより作用するのみならず、抗増殖性Smad2/3経路に拮抗することもできるか否かに関する証拠を、先行技術は欠いている。従って、本発明は、アクチビン/TGF-bシグナリングに対する効果を洞察するため、Criptoタンパク質の発癌メカニズムを研究する。
【発明の開示】
【0032】
発明の概要
TGF-b及びアクチビンは、Smad2/3細胞内シグナリング経路を活性化し、上皮細胞を含む多数の細胞型の増殖の強力な阻害を引き起こすにより、組織ホメオスタシスを調節する。このシグナリング経路の破壊は、発癌及び腫瘍形成に関連している。Criptoは、ヒト腫瘍で高度に発現しているが、正常組織カウンターパートでは発現していない発生的な腫瘍性タンパク質である。インビトロで、Criptoの過剰発現は、乳房上皮細胞を形質転換する。本発明は、Criptoがアクチビン及びTGF-bのシグナリングに拮抗し得ることを示す。これらの結果は、Criptoが、抗増殖性のSmad2/3シグナルを一般に阻止することができ、多数の治療的意味を有する新規の発癌作用メカニズムを提供することを示唆する。
【0033】
以下に提示されるデータに基づき、アクチビン及びTGF-bのシグナリングのCriptoによる調節のメカニズムのモデルが提唱される(図13)。Criptoの非存在下では、アクチビン及びTGF-bは、それぞれのII型受容体に結合し、次いでI型受容体(ALK4及びALK5)を動員することによりシグナリングする。アクチビン及びTGF-bのII型受容体は、ALK4及びALK5のGSドメインをリン酸化し、それにより、I型キナーゼを活性化し、下流のシグナリングを開始させる。Criptoは、アクチビン及びTGF-bとそれらのII型受容体との複合体を形成することにより、アクチビン及びTGF-bのシグナリングに拮抗する。この複合体は、機能性のアクチビン/TGF-b・II型・I型複合体の形成を妨害し、従ってシグナリングを阻止する。
【0034】
本発明の1つの態様において、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを増強する方法が提供される。本法は、細胞の表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成を阻害することを含む。
【0035】
もう1つの態様において、細胞におけるSmad2/3シグナリングを増強するために受容体セリンキナーゼのリガンドの変異体を使用する方法が提供される。
【0036】
本発明は、アクチビン-Bシグナリングに選択的に拮抗するため、EGFドメインを欠くCripto変異体を使用する方法も提供する。
【0037】
もう1つの態様において、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを阻害する方法が提供される。本法は、細胞の表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成を増強することを含む。
【0038】
その他のさらなる本発明の局面、特色、及び利点は、現在の発明の好ましい態様の以下の説明から明白になるであろう。これらの態様は、開示の目的で与えられるものである。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞の表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼリガンドとの間の複合体の形成を阻害することにより、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドにより誘導されるシグナリングを増強する方法を提供する。受容体セリンキナーゼのリガンドには、以下に制限はされないが、アクチビン及びTGF-bが含まれ、受容体セリンキナーゼの例には、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)が含まれる。一般に、細胞は、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、又は前立腺に由来する。受容体セリンキナーゼにより媒介されるシグナリングの増強は、Smad2及びSmad3のリン酸化及び活性化を増加させ、減少した細胞増殖を引き起こすと考えられる。
【0040】
1つの態様において、Criptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成は、Criptoのエピトープに対する抗Cripto抗体により阻害される。例えば、抗Cripto抗体は、CriptoのEGF様ドメイン内のエピトープに対するものである。又は、Criptoと受容体セリンキナーゼ・リガンドとの間の複合体の形成は、Criptoには結合するが受容体セリンキナーゼのリガンドには結合しない可溶性受容体セリンキナーゼ細胞外ドメインにより阻害され得る。1つの態様において、可溶性細胞外ドメインは、アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)細胞外ドメインである。好ましくは、ALK-4細胞外ドメインは、アミノ酸70位、75位、及び/又は77位のような1つまたは複数の位置に変異を含む。例えば、ALK-4細胞外ドメインは、アミノ酸70位、75位、及び/又は77位にアラニンを含む。
【0041】
もう1つの態様において、Criptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成は、細胞におけるCriptoの発現を阻害することにより阻害される。Cripto発現は、Criptoのアンチセンス転写物、Criptoに対する低分子阻害性RNA(siRNA)、又は相同組換えによる少なくとも1つのCriptoの対立遺伝子の変異により阻害され得る。
【0042】
さらにもう1つの態様において、細胞におけるSmad2/3シグナリングを増強するために、受容体セリンキナーゼのリガンドの変異体を使用する方法が提供される。変異リガンドは、シグナリング活性を保持しているが、Criptoに結合することができず、それによりCriptoによる拮抗を回避する。一般に、受容体セリンキナーゼのリガンドには、以下に制限はされないが、アクチビン及びTGF-bが含まれる。
【0043】
本発明は、選択的にアクチビン-Bシグナリングに拮抗するために、EGFドメインを欠くCripto変異体を使用する方法も提供する。一般に、Cripto変異体は、可溶性であるか、又は細胞表面結合型である。本明細書に開示された結果は、CriptoのEGF様ドメインが、アクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-bに拮抗するために必要であり、CFCドメインは、アクチビン-Bを阻止するには十分であるが、アクチビン-A又はTGF-bを阻止するには十分でないことを示している。従って、EGFドメインを欠くCripto変異体は、様々な生物学的状況において、アクチビン-Bシグナリングに対するアクチビン-Aの相対的重要性を区別するための有用な研究ツールになるであろう。例えば、ラット脳下垂体前葉性腺刺激ホルモン産生細胞からのFSHの放出がアクチビン-Bにより媒介されることも、以前に証明されている。従って、DEGFのようなCripto変異体は、アクチビン-A又はTGF-bのシグナリングに影響を与えることなく、FSH放出を阻止すると予測される。FSH放出の阻止により、精子形成が破壊され、可逆的な不妊が引き起こされる可能性がある。従って、EGF様ドメインが欠失している細胞接着型又は可溶性のCripto構築物は、雄避妊薬としての利用可能性を有しているかもしれない。
【0044】
本発明は、細胞表面におけるCriptoと受容体セリンキナーゼ・リガンドとの間の複合体の形成を増強することにより、細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドにより誘導されるシグナリングを阻害する方法を、さらに提供する。受容体セリンキナーゼのリガンドには、以下に制限はされないが、アクチビン及びTGF-bが含まれ、受容体セリンキナーゼの例には、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)が含まれる。一般に、細胞は、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、又は前立腺に由来する。1つの態様において、Criptoと受容体セリンキナーゼのリガンドとの間の複合体の形成は、細胞におけるCriptoの発現を増加させることにより増強される。例えば、Cripto発現を、Criptoタンパク質をコードするウイルス・ベクター又はプラスミド・ベクターを細胞へ投与することにより増加させることができる。Criptoと受容体セリンキナーゼ・リガンドとの間の複合体の形成は、可溶性Cripto又は細胞表面結合型Criptoを細胞へ投与することにより増強され得る。
【0045】
以下の実施例は、本発明の様々な態様を例示する目的で与えられるものであって、本発明を制限するためのものではない。当実施例は、本明細書に記載された方法、手法、処理、分子、及び特定の化合物と共に、現在の好ましい態様を代表するものである。目的を実施し、言及された目標及び利点、並びに本発明に固有の目的、目標、及び利点を得るために、本発明がよく適応されることが当業者には容易に認識されるであろう。特許請求の範囲により定義されるような本発明の本旨に包含されるそれらの変化及びその他の使用が、当業者に想到されるであろう。
【0046】
実施例1
CriptoはActRIIの存在下でアクチビンに結合し、アクチビン・ActRII結合に関してALK4と競合する
Criptoと架橋複合体を形成する[125I]-アクチビン-Aの能力を、アクチビン受容体の存在下又は非存在下で試験した。図2は、293T細胞をActRII(図2A、レーン2)によりトランスフェクトし、次いで、[125I]-アクチビン-Aによる標識及び架橋、続いてActRIIに対する抗体による免疫沈降に供したところ、以前の架橋の結果と一致して、〜80kDaのアクチビン-ActRII架橋複合体が認められたことを示している。2本のActRII・アクチビン・バンドの出現がルーチンに観察され、これは、ActRIIのディファレンシャルなグリコシル化の結果である可能性が高い。
【0047】
ActRIIのALK4とのコトランスフェクション(図2A、レーン5)によって、〜60kDaのアクチビン・ALK4架橋複合体の出現により示されるように、両方の受容体型への[125I]-アクチビン-Aの架橋が引き起こされた。[125I]-アクチビン-AとCriptoとの結合は、アクチビンII型受容体の非存在下においては検出されなかった(図2C、レーン2)。しかしながら、ActRIIをCriptoとコトランスフェクトした場合には、〜32kDa、〜45kDa、及び〜52kDaのアクチビン架橋複合体が観察された(図2A、レーン6)。これらの複合体は、Criptoをトランスフェクトしていない試料には存在しなかった(レーン1〜3、5;約28kDaのバンドは、架橋[125I]-アクチビン-A二量体を表す)。〜18kDa、〜31kDa、及び〜38kDaのCripto種(アクチビンbAモノマーは〜14kDaであり、ゲルは還元条件下で実行された)は、ディファレンシャルなグリコシル化及び/又はその他の修飾を有している可能性が高い。
【0048】
ActRIIに対する抗体が免疫沈降において使用されたため、[125I]-アクチビン-A・Criptoバンドの存在は、安定的なアクチビン・ActRII・Cripto複合体の形成を示している。293T細胞をActRII及びCriptoでコトランスフェクトし、次いでCriptoに対する抗体を使用した免疫沈降に供した場合には、アクチビン・ActRII及びアクチビン・Criptoの架橋バンドも認められた(図2C、レーン3及び5)。
【0049】
Cripto、ActRII、及びALK4により293T細胞をコトランスフェクトする効果を、さらに試験した。CriptoをActRII及びALK4と共にトランスフェクトした場合(図2A、レーン8)、[125I]-アクチビン-AはActRII及びCriptoと架橋複合体を形成し、Criptoの非存在下での架橋と比較してALK4への架橋は大幅に減少した(図2A、レーン5とレーン8とを比較のこと)。Criptoによるコトランスフェクションは、ウェスタンブロットにより示されるように、ALK4の発現は減少させなかった(データは示さず)。
【0050】
アクチビン・ActRII・ALK4複合体形成に対するCriptoの効果を、ALK4に対する抗体による免疫沈降によって調査した。図2Bは、293T細胞をベクター(図2B、レーン1)、ActRII(図2B、レーン2)、ALK4(図2B、レーン3)、Cripto(図2B、レーン4)でトランスフェクトするか、又はActRII及びCripto(図2B、レーン6)もしくはALK4及びCripto(図2B、レーン7)でコトランスフェクトし、次いで[125I]-アクチビン-Aとの架橋に供した場合、ALK4抗体が、標識された複合体を単離し得なかったことを示している。これは、II型受容体の非存在下では、CriptoもALK4も[125I]-アクチビン-Aに結合し得ないことと一致している。ActRII及びALK4を共発現させた場合、抗ALK4抗体は、ActRII及びALK4の両方が標識された複合体を沈降させた(図2B、レーン5)。
【0051】
アクチビンのALK4への架橋及びALK4のActRIIとの会合を阻止する能力と一致して、CriptoとActRII及びALK4とのコトランスフェクションは、これらのバンドの出現を実質的に阻止した(図2B、レーン8)。しかしながら、ActRII、ALK4、及びCriptoをコトランスフェクトし、細胞を[125I]-アクチビン-Aにより標識した場合、ALK4抗体は、標識された[125I]-アクチビン-A・Cripto複合体を沈降させることができた(図2B、レーン8)。
【0052】
Criptoは、[125I]-アクチビン-AのALK4への標識及び架橋を用量依存的に阻止する。図2Dは、トランスフェクトされるCripto DNAの量が増加するにつれ、ALK4へと架橋する[125I]-アクチビン-Aの能力が減少することを示している。これらの結果は、アクチビン・シグナリングのCriptoによる競合的拮抗のメカニズムを提供する。
【0053】
実施例2
CriptoはTbRIIの存在下でTGF-b1に結合し、TGF-b1・TbRII結合に関してALK5と競合する
アクチビン-Aと同様に、TGF-b1は、そのII型受容体TbRIIの存在下でCriptoに結合する。図3Aは、TbRII及び示された量のCripto DNAによりトランスフェクトされた293T細胞への[125I]-TGF-b1の架橋を示す。顕著な〜32kDaの[125I]-TGF-b1・Cripto架橋バンドが出現し、その強度は、トランスフェクトされるCripto DNAの量が増加するにつれ増加した。〜40kDaのより希薄な種も可視であった(図3A)。
【0054】
I型受容体ALK5へと架橋する[125I]-TGF-b1の能力に対するCriptoの効果を調査した。図3Bは、[125I]-TGF-b1が、II型受容体と〜85kDaの架橋複合体を形成すること(図3B、レーン2)、及びCriptoとTbRIIとのコトランスフェクションによって、[125I]-TGF-b1・TbRII複合体のみならず[125I]-TGF-b1・Cripto複合体も生じることを示している。TbRII及びALK5がコトランスフェクトされた場合、[125I]-TGF-b1は、両方の受容体を標識し、それぞれ〜85kDa及び〜60kDaの複合体を与えた(図3B、レーン4)。TbRII、ALK5、及びCriptoがコトランスフェクトされた場合には、3本のバンド全てが認められた(図3B、レーン5)。しかしながら、ALK5バンドの強さは減少しており、このことから、Criptoが、利用可能なTGF-b・TbRII結合部位に関してALK5と競合するのかもしれないことが示された。
【0055】
実施例3
CriptoはHepG2細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングを阻止する
HepG2細胞は、Criptoを発現しておらず、nodalシグナルに応答するためにトランスフェクトされたCriptoを必要としない。従って、アクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングに対するトランスフェクトされたCriptoの効果を、この細胞系で試験した。Cripto及びアクチビン/TGF-bに応答性のルシフェラーゼ・レポーター構築物3TP-luxを、HepG2細胞へトランスフェクトし、アクチビン-A及びTGF-b1により誘導されるルシフェラーゼ発現に対するCriptoの効果を測定した。図4に示されるように、アクチビン-A及びTGF-b1は、Criptoにより阻害されるルシフェラーゼ発現の用量依存的な増加を引き起こした。これらのリガンドの最大用量においては、シグナリングがほぼ4倍減少していた(図4A、B)。対照として、アクチビン-AパラログBMP7のルシフェラーゼ発現を誘導する能力に対するCriptoの効果が、BMPに選択的なレポーターBRE-lucを使用して、以前に試験されている。BMP7は用量依存的にHepG2細胞におけるルシフェラーゼ発現を誘導したが、Criptoはこの誘導に影響を与えず、このことから、Criptoの効果が、アクチビン、TGF-b、及びSmad2/3経路に選択的であるかもしれないことが示された(Gray et al.,2003)。
【0056】
実施例4
293T細胞の細胞表面におけるCripto変異体の発現
マウスCriptoのドメイン構造は、図5Aに例示される。この図は、シグナルペプチド、EGF様ドメイン、CFCドメイン、及びGPIアンカー接着に必要とされるC末端疎水性領域の位置を示している。さらに、FLAGエピトープ、フコシル化トレオニン残基(Thr72)、及びmCFC変異(H104G、W107G)(Yeo and Whitman,2001)の位置が示されている。
【0057】
以下の5個のCripto構築物をこの研究で評価した:野生型Cripto;フコシル化され得ず、nodalシグナリングを促進しないCripto(T72A);EGF様ドメインが欠失しているCripto DEGF;nodalシグナリングを促進せず、ALK4結合を阻止する2つの変異(H104G、W107G)をCFCドメインに有しているCripto mCFC;及びCFCドメインが欠失しているCripto DCFC。
【0058】
野生型Cripto及びこれらの4個のCripto変異体の細胞表面発現レベルは、図5Bに示される。293T細胞を、示されたCripto構築物によりトランスフェクトし、続いて、細胞表面タンパク質の発現レベルを測定するため、本発明者らが以前に使用した完全細胞ELISA型アッセイ(Harrison et al.,2003)において抗FLAG抗体を使用して細胞表面発現を測定した。簡単に説明すると、ポリリシンでコーティングされた24穴プレートに1ウェル当たり100,000細胞の密度で293T細胞を播種し、24時間後に1ウェル当たり0.5mgのベクター又はCripto DNAによりトランスフェクトし、次いで、トランスフェクションの48時間後に細胞表面発現をアッセイした。細胞を、ヘペス解離緩衝液(Hepes Dissociation Buffer:HDB)(12.5mMヘペス(pH7.4)、140mM NaCl、及び5mM KCl)で濯ぎ、4℃で30分間4%パラホルムアルデヒドで固定し、HDBで濯ぎ、次いで、室温(RT)で30分間、3%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むHDBの中でインキュベートした。次いで、細胞を、3%BSAを含むHDBの中で2μg/ml抗Myc抗体と共に2時間インキュベートし、HDBで濯ぎ、室温で1時間、3%BSAを含むHDBの中でペルオキシダーゼ結合抗マウスIgGと共にインキュベートした。ウェルをHDBで濯ぎ、次いで、100μlのTMBペルオキシダーゼ基質を各ウェルに添加した。溶液が可視に青色になるまで、プレートをRTでインキュベートした。各ウェルに100μlの0.18M H2SO4を添加することによりペルオキシダーゼ活性を中止させ、得られた黄色溶液の吸光度を450nmで測定することにより、ペルオキシダーゼ活性を定量した。
【0059】
図5Bに示されるように、これらのCripto構築物は類似したレベルで細胞表面に発現されていた。
【0060】
実施例5
CriptoのEGF様ドメインはアクチビン-A及びTGF-bのシグナリングの拮抗に必要とされる
その他の上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質ファミリーメンバーと同様に、Criptoは2個の保存されたシステイン・リッチ・ドメイン、N末端EGF様ドメイン、及びC末端CFCドメインを有している。これらのモジュラー・ドメインは、各々、他方の非存在下で活性を有することができ、いずれも、特異的なタンパク質間相互作用及びシグナリング機能に関与している。TGF-bシグナリングの阻止におけるCriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインの役割を決定するため、本発明者らは、野生型CriptoのTGF-bを阻害する能力を、EGF様ドメイン又はCFCドメインのいずれかが変異又は欠失しているCripto変異体の能力と比較した。
【0061】
本質的に以前に記載されたようにして(Gray et al.,2003)、ルシフェラーゼ・アッセイを実施した。HepG2細胞を24穴プレートに1ウェル当たり150,000細胞で播種し、約24時間後に、800ng Cripto/100ng 3TP-lux/100ngサイトメガロウイルス(CMV)-b-ガラクトシダーゼ(CMV-b-ガラクトシダーゼ)の比率で1ウェル当たり1mg DNAでトリプリケートでトランスフェクトした。トランスフェクションの約30時間後にTGF-b1で細胞を処理し、処理の16時間後に採集した。細胞を、氷上で30分間、可溶化緩衝液(1%トリトンX-100、25mMグリシルグリシン(pH7.8)、15mM MgSO4、4mM EGTA、及び1mM DTT)の中でインキュベートし、ルシフェラーゼ・レポーター活性を測定し、CMV-b-gal活性に対して規準化した。ポリリシンで処理された24穴プレートに1ウェル当たり100,000細胞で293T細胞を播種し、約24時間後に、1ウェル当たり400ng Cripto/50ng FAST2(FoxH1)/25ng A3lux/25ng CMV-b-ガラクトシダーゼを使用して、1ウェル当たり0.5mg DNAでトリプリケートでトランスフェクトした。トランスフェクションの約24時間後に細胞を処理し、次いで処理の約16時間後に採集した。前記のHepG2細胞について記載されたようにして、ルシフェラーゼ・アッセイを実施した。
【0062】
図6は、293T細胞を、FAST2/A3-ルシフェラーゼと共に空ベクター又は様々なCripto構築物でトランスフェクトし、次いで100pM TGF-b1で処理した場合、空ベクター(図6、レーン1)でトランスフェクトされた細胞におけるルシフェラーゼの誘導と比較して、野生型Cripto(図6、レーン2)でトランスフェクトされた細胞においてはルシフェラーゼ誘導が約3倍減少したが、Cripto DEGF変異体(DEGF)(図6、レーン3)でトランスフェクトされた細胞においては影響がなかったことを示している。この結果は、CriptoのEGF様ドメインがTGF-b1シグナリングの拮抗に必要とされることを示している。対照的に、mCFC変異体(H104G,W107G)は、野生型Criptoと同程度に効率的にTGF-bシグナリングを阻止し(図6、レーン4)、Cripto DCFC変異体(DCFC)は、野生型Criptoよりさらに効率的にTGF-bシグナリングを阻止した(図6、レーン5)。従って、Cripto DCFCが野生型Criptoより大きな阻止効果を有していたという事実により示されるように、CFCドメインは、TGF-bシグナリングのCriptoによる拮抗には必要とされず、むしろ、TGF-bシグナリングを阻止するCriptoの能力に部分的に干渉し得る。総合すると、これらのデータは、CriptoのEGF様ドメインがTGF-bシグナリングの阻害にとって必要かつ十分であることを示す。
【0063】
もう1つの実験において、アクチビン-A処理は30〜40倍、TGF-b1処理は〜25倍、293T細胞におけるルシフェラーゼ発現を誘導し、それは、野生型Criptoにより阻止された(図7)。Criptoのアクチビン-Bシグナリングを阻止する能力は、これらの細胞におけるアクチビン-Aシグナリングを阻止する能力に類似していた(データは示さず)。野生型Criptoと同様に、Cripto mCFC変異体は、これらの細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングを阻止した(図7)。対照的に、EGF様ドメインが欠失しているCripto DEGF変異体も、EGF1・2mCFC変異体も、293T細胞におけるアクチビン-A又はTGF-b1のシグナリングを阻止することができなかった(図7)。これらの結果は、アクチビン-A及びTGF-bのシグナリングの拮抗に、CriptoのEGF様ドメインが必要とされることを示している。
【0064】
実施例6
CriptoのCFCドメインはTGF-b結合に必要とされない
Cripto DCFC変異体がTGF-b1シグナリングを阻止し得ることが証明されたため、本発明者らは、次に、この変異体がTGF-b1に結合し架橋することができるか否かを試験した。293T細胞を、野生型Cripto(図8、レーン1)、Cripto DCFC(図8、レーン2)、TbRII単独(図8、レーン3)、TbRII及びCripto(図8、レーン4)、又はTbRII及びCripto DCFC(図8、レーン5)でトランスフェクトした。細胞を[125I]-TGF-b1で標識し、共有結合性架橋、続いてTbRII(抗His、図8A)又はCripto(抗FLAG、図8B)に対する抗体による免疫沈降に供した。
【0065】
共有結合性架橋研究のため、293T細胞を、1ウェル当たり400,000細胞の密度でポリリシンでコーティングされた6穴プレートに播種し、次いで、約24時間後にトランスフェクトした。特記しない限り、[125I]-TGF-b1架橋のため、0.5mg TbRII/0.5mg ALK5/3mg Criptoの比率で1ウェル当たり4mg DNAで細胞をトランスフェクトするか、又は[125I]-アクチビン-A架橋のため、2mg ActRII/1mg Cripto/1mgベクターでトランスフェクトした。必要であれば、トランスフェクトされるDNAの量を4mgに一定に維持するため、空ベクターを使用した。共有結合性架橋は、まずヘペス解離緩衝液(HDB)で細胞を洗浄し、次いで、室温で約4時間、結合緩衝液(0.1%BSA、5mM MgS04、及び1.5mM CaCl2を含有しているHDB)の中で[125I]-TGF-b1又は[125I]-アクチビン-Aと共にそれらをインキュベートすることにより、トランスフェクションの約48時間後に実施した。次いで、細胞をHDBで濯ぎ、氷上で30分間、0.5mMジスクシニルスベリン酸(DSS)を含有しているHDBの中でインキュベートし、HDBで濯ぎ、次いで、氷上で1時間、溶解緩衝液(1%NP-40、0.5%デオキシコール酸、及び2mM EDTAを含有しているTBS)の中で可溶化した。可溶化された架橋複合体を、2mgの抗FLAG(M2)抗体、抗His抗体、又は抗myc抗体と共に4℃で約24時間インキュベートした。免疫複合体をプロテイン-Gアガロースを使用して沈降させ、SDS-PAGE及びオートラジオグラフィーを使用して分析した。
【0066】
予想通り、TbRIIを標的とする抗His抗体は、Cripto単独(図8A、レーン1)又はCripto DCFC単独(図8A、レーン2)でトランスフェクトされた細胞から標識された複合体を沈降させなかったが、TbRIIが単独でトランスフェクトされた細胞(図8A、レーン3)又はTbRIIがCripto(図8A、レーン4)又はCripto DCFC(図8A、レーン5)のいずれかと共にコトランスフェクトされた細胞からは、[125I]-TGF-b1で標識されたTbRIIを沈降させた。さらに、TbRII及びCripto(図8A、レーン4)でコトランスフェクトされた細胞から、〜32kDaの標識されたCripto複合体が免疫沈降し、TbRII及びCripto DCFCでコトランスフェクトされた細胞から、〜28kDaの複合体が沈降した。後者の複合体は、〜25kDaの[125I]-TGF-b1二量体よりわずかに大きく(図8A、レーン5)、それは、[125I]-TGF-b1・DCFC複合体の予測されたサイズと一致していた。
【0067】
本発明者らは、Cripto及びCripto DCFCを標的とする抗FLAG抗体によっても標識された複合体を沈降させた。293T細胞を、Cripto単独(図8B、レーン1)又はCripto DCFC単独(図8B、レーン2)でトランスフェクトし、[125I]-TGF-b1で架橋し、抗FLAG抗体で免疫沈降させた場合、バンドは観察されなかった。この結果は、Cripto及びCripto DCFCがTbRIIの非存在下ではTGF-bに結合し得ないことと一致している。予測されたように、TbRII単独のトランスフェクション、それに続く細胞標識、架橋、及び抗FLAG抗体を使用した免疫沈降は、架橋複合体の観察をもたらさなかった(図8B、レーン3)。しかしながら、TbRII及びCripto(図8B、レーン4)又はTbRII及びCripto DCFC(図8B、レーン5)による293T細胞のコトランスフェクションによって、それぞれ[125I]-TGF-b1・Cripto複合体及び[125I]-TGF-b1・DCFC複合体を表す〜32kDa及び〜28kDaの複合体が沈降した。この結果は、CriptoとTGF-bとの結合にCFCドメインが必要とされないことのさらなる証拠を提供した。さらに、[125I]-TGF-b1・TbRIIを表す〜85kDaのバンドが、これらの各レーンに存在した(図8B、レーン4、5)。従って、[125I]-TGF-b1架橋に関して、抗TbRII抗体又は抗Cripto抗体のいずれかは、標識されたTbRII及び標識されたCriptoの両方を含有している複合体を沈降させることができる。これは、II型及びI型両方の受容体の安定的な複合体のアセンブリをリガンドが媒介する、TbRII、[125I]-TGF-b1、及びALK5での架橋実験において観察されたものに類似している。
【0068】
実施例7
トレオニン72の変異はTGF-b及びアクチビンのシグナルのCriptoによる拮抗を阻止する
Criptoが、EGF様ドメイン内の保存されたトレオニン残基(マウスCriptoではThr72、ヒトCriptoではThr88)におけるO-フコシル化により修飾されていること、及びこのトレオニンのアラニンへの変異が、nodalに結合しnodalシグナリングを促進するCriptoの能力を阻止することが、以前に示された。CriptoのEGF様ドメインは、nodalシグナリングの促進において重要な役割を果たしており、上に提示された結果は、TGF-b1及びアクチビン-A両方のシグナリングの阻止においても、それが重要な役割を果たしていることを示している。従って、このドメイン内のフコシル化を妨げ、nodalシグナリングを阻止するThr72のAlaへの変異が、TGF-b及びアクチビンのシグナリングを阻止するCriptoの能力にも同様に干渉するか否かを、本発明者らは試験した。
【0069】
図9は、TGF-b1(図9A)、アクチビン-A(図9B)、及びアクチビン-B(図9C)のシグナリングに対する、野生型Cripto及びThr72→Ala(T72A)Criptoフコシル化変異体の相対的な効果を示す。293T細胞を、FAST2/A3ルシフェラーゼと共に空ベクター、野生型Cripto、又はCripto(T72A)変異体でトランスフェクトした。293T細胞を100pM TGF-b1(図9A)で処理した場合、野生型Criptoでトランスフェクトされた細胞(図9A、レーン2)においては、ベクターでトランスフェクトされた細胞(図9A、レーン1)と比べてルシフェラーゼ誘導が減少したが、Cripto(T72A)変異体でトランスフェクトされた細胞においては影響がなかった(図9A、レーン3)。
【0070】
同様に、細胞を300pMアクチビン-Aで処理した場合、ルシフェラーゼ誘導は、野生型Cripto(図9B、レーン2)により阻止されたが、Cripto(T72A)変異体によっては阻止されなかった(図9B、レーン3)。最後に、細胞を300pMアクチビン-Bで処理した場合、Criptoは、本発明者らの以前の観察及び他者らの観察と一致して、ルシフェラーゼ誘導を阻止した。しかしながら、TGF-b及びアクチビン-Aで観察されたものとは異なり、Cripto(T72A)変異体は、アクチビン-Bシグナリングを部分的に阻止することができた(図9C、レーン3)。これは、この変異体がアクチビン-Bに結合し得ること、及びCriptoのCFCドメインがアクチビン-BのCriptoによる拮抗にとって重要であることを証明している以前の報告と一致している。
【0071】
実施例8
CriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインはいずれもアクチビン-Bシグナリングの阻止に関与する
アクチビン-A及びアクチビン-BのシグナリングのCriptoによる拮抗に対するEGF様ドメイン及びCFCドメインの機能的重要性を明確にすることを試み、293T細胞を、FAST2/A3-ルシフェラーゼと共に空ベクター、Cripto DEGF変異体、又はCripto DCFC変異体でトランスフェクトし、アクチビン-A又はアクチビン-Bによる処理に応答したルシフェラーゼ誘導を測定した。以前の観察と一致して、Cripto DEGF変異体はアクチビン-Aシグナリングを阻止しなかった(図10)。対照的に、Cripto DEGF変異体は、アクチビン-Bにより誘導されるルシフェラーゼ活性のほぼ半分を阻止し(図10)、このことから、アクチビン-Bシグナリングの阻止におけるCFCドメインの独立の役割が示された。Cripto DEGF変異体とは対照的に、Cripto DCFC変異体は、アクチビン-A又はアクチビン-Bのいずれかによるルシフェラーゼ誘導を強く阻止した(図10)。従って、EGF様ドメインは、Criptoによるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングの拮抗にとって必要かつ十分であると考えられ、EGF様ドメイン又はCFCドメインのいずれかは、アクチビン-Bによるシグナリングを阻止するために独立に機能し得ると考えられる。
【0072】
実施例9
CriptoのCFCドメインはアクチビンA結合に必要ではない
CriptoのCFCドメインがアクチビン-Aシグナリングの阻害にとって必要とされないことが証明されたため、本発明者らは、次に、このドメインが、Criptoがアクチビン-A及びアクチビン-Bに結合するために必要とされるか否かを試験した。293T細胞を、Cripto(図11、レーン1);Cripto DCFC(図11、レーン2);ActRII(図11、レーン3);ActRII及びCripto(図11、レーン4);又はActRII及びCripto DCFC(図11、レーン5)でトランスフェクトし、[125I]-アクチビン-A又は[125I]-アクチビン-Bによる標識及び架橋、続いてActRIIを標的とする抗myc抗体(図11A)又はCripto及びCripto DCFCを標的とする抗FLAG抗体(図11B)のいずれかによる免疫沈降に供した。
【0073】
予測されたように、Cripto単独(図11A、レーン1)又はCripto DCFC単独(図11A、レーン1)のトランスフェクション、それに続く細胞標識、架橋、及びActRIIを標的とする抗体を使用した免疫沈降は、架橋複合体の検出をもたらさなかった。しかしながら、ActRII単独(図11A、レーン3)による293T細胞のトランスフェクションは、[125I]-アクチビン-A・ActRII複合体を表す〜80kDaのバンド及び[125I]-アクチビン-A二量体を表す〜28kDaのバンドをもたらした。ActRII及びCripto(図11A、レーン4)又はActRII及びCripto DCFC(図11A、レーン5)のコトランスフェクションは、それぞれ[125I]-アクチビン-A・Cripto複合体及び[125I]-アクチビン-A・DCFC複合体を表す可能性が高い〜34kDa及び〜30kDaの付加的な複合体の沈降をもたらした。平行した実験において、本発明者らは、[125I]-アクチビン-Bを含む架橋複合体を検出することができなかったが、これは、ヨウ素化手法に起因する結合活性の消失によるものであると考えられる。
【0074】
本発明者らは、Cripto及びCripto DCFCを標的とする抗FLAG抗体によっても、[125I]-アクチビン-Aで標識された複合体を沈降させた。293T細胞を、Cripto単独又はCripto DCFC単独でトランスフェクトし、[125I]-アクチビン-Aで架橋し、次いで、抗FLAG抗体による免疫沈降に供した場合、バンドは観察されなかった(図11B)。この結果は、TGF-b架橋(図8)で観察されたものに類似しており、このことから、単独でトランスフェクトされた場合、Cripto及びCripto DCFCは各々アクチビン-Aに結合し得ないことが示唆された。予測されたように、ActRII単独のトランスフェクション、それに続く細胞標識、架橋、及び抗FLAG抗体を使用した免疫沈降は、架橋複合体の観察をもたらさなかった(図11B、レーン3)。ActRII及びCripto(図11B、レーン4)又はActRII及びCripto DCFC(図11B、レーン5)による293T細胞のコトランスフェクションは、[125I]-アクチビン-A・Cripto複合体及び[125I]-アクチビン-A・DCFC複合体をそれぞれ表す〜34kDa及び〜30kDaの複合体の沈降を引き起こし、このことから、CFCドメインがCriptoとアクチビン-Aとの結合に必要とされないことの証拠が提供された。むしろ、機能データと一致して、Cripto DCFC変異体は、相対バンド強度(図11B、レーン4、5)により示されるように、野生型Criptoより効率的に[125I]-アクチビン-Aに結合し架橋すると考えられる。[125I]-アクチビン-A・ActRIIを表す〜80kDaのバンドが、これらの各レーン(図11B、レーン4、5)に存在し、このことから、アクチビン-Aの存在下で、Cripto及びCripto DCFCが各々ActRIIと安定的な複合体を形成し得ることが示された。
【0075】
実施例10
Criptoはアクチビン-A/TGF-b1に拮抗するが、293T細胞におけるnodalシグナリングを促進する
アクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングに対するCriptoの効果を、nodalシグナリングに対するものと比較した。293T細胞へのnodal及びCriptoのトランスフェクションが、それを産生する細胞においてシグナルを発生するプロセシングを受けたnodalタンパク質の分泌をもたらすことが、以前に示された。従って、293T細胞を、FAST2、A3-ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミド及び様々な量のCripto DNAでトランスフェクトした。次いで、細胞をアクチビン-A又はTGF-b1で処理するか、又はマウスnodal発現ベクターでコトランスフェクトした。
【0076】
図12は、Criptoの非存在下で、アクチビン-A処理が、未処理細胞と比べて〜45倍ルシフェラーゼ発現を誘導し、TGF-b1処理が〜30倍ルシフェラーゼ発現を誘導したことを示している。増加する量のCripto DNAによるコトランスフェクションは、アクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングの用量依存的な阻止を引き起こした。反対に、nodalは、Criptoの非存在下では検出可能なシグナルを発生しなかったが、細胞へトランスフェクトされるCripto DNAの量が増加するにつれそのシグナリングは増加した(図12)。従って、アクチビン及びnodalが同じシグナリング受容体を利用しており、これらのリガンドが各々Smad2/3経路を介してシグナリングするという事実にも関わらず、Criptoは、nodalシグナリングに対するものとは反対の効果をアクチビン/TGF-bに対して及ぼし得る。
【0077】
実施例11
CriptoによるTGF-bスーパーファミリーのシグナリングの調節
図13は、Criptoがnodal及びVg1/GDF1のシグナリングを促進するか(図13A)又はTGF-b及びアクチビンのシグナリングを阻害する(図13B)ための提唱されたメカニズムを例示する。Criptoは、nodal又はVg1/GDF1及びALK4に結合し、これらのリガンドが、脊椎動物胚形成の間の中内胚葉誘導のようなシグナリング応答を誘発するため、II型及びI型の受容体を組み立てることを可能にする(図13A)。
【0078】
nodalシグナリングに対する効果とは対照的に、Criptoは、II型受容体の存在下でアクチビン-Aに結合し、アクチビンのシグナリングに拮抗する。Criptoはアクチビン-Bシグナリングも阻害するが、この拮抗のメカニズムはアクチビン-Aのものとは異なっていると考えられる。Criptoはまた、TbRIIの存在下でTGF-b1に結合してTGF-b1シグナリングを阻止し、このことから、アクチビン-Aシグナリングに対するものと類似した拮抗のメカニズムが証明される(図13B)。II型受容体結合は、アクチビン-A及びTGF-b1がI型受容体又はCriptoのいずれかと複合体を形成するために必要とされ、本明細書に提示された架橋データは、Criptoが、I型受容体と機能性の複合体を形成するアクチビン-A及びTGF-b1の能力を破壊し得ることを示している(図13B)。腫瘍抑制因子であり細胞増殖を強力に阻害することができるTGF-b1及びアクチビンを阻害するCriptoの能力は、それが腫瘍形成を促進し得るメカニズムを提供する。
【0079】
実施例12
アクチビン・Cripto又はTGF-b・Cripto複合体形成の阻害
Criptoによるアクチビン及びTGF-bのシグナリングの拮抗はCriptoに対する抗体を使用して破壊され得ることが仮定される。これらの抗体とCriptoとの結合は、アクチビン又はTGF-bに結合するCriptoの能力を破壊し、それにより、Criptoによるアクチビン及びTGF-bのシグナリングの拮抗を逆転させると予測される。
【0080】
Criptoは、機能的に重要であることが示されており、タンパク質間相互作用に関与している2個の高度に保存されたドメイン、EGF様ドメイン及びCFCドメインを有している。CriptoのEGF様ドメインは、TGF-bスーパーファミリー・メンバーnodal並びに関連リガンドVg1及びGDF1に直接結合し、アクチビン受容体ActRII/IIB及びALK4を介したシグナリングを促進する。CriptoのEGF様ドメインは、アクチビン及びTGF-bのシグナリングの拮抗に必要とされる。EGF様ドメイン(DEGF)の欠失は、架橋アッセイにおいてアクチビン結合が検出不可能であり、アクチビン又はTGF-bのシグナリングを阻止する能力を有しないCripto変異体をもたらした。従って、nodalと同様に、アクチビン及びTGF-bが、CriptoのEGF様ドメインに結合すること、及びこのドメインが、アクチビン及びTGF-bのCriptoによる拮抗の抗体による阻止の主要な標的となることが提唱される。
【0081】
CriptoとCFCドメインがALK4と直接結合すること、及び、EGF様ドメインと同様に、このドメインがnodalシグナリングに必要とされることも示された。本発明者らは、ALK4結合及びnodalシグナリングを欠損していることが以前に示された、CFCドメイン内に2個の点変異を有するCripto変異体を試験した。mCFCと呼ばれるこの変異体は、アクチビンII型受容体(ActRII/IIB)と共発現させられた場合、架橋アッセイにおいてアクチビンに結合し、293T細胞へ一過性トランスフェクトされた場合、アクチビン・シグナリングを阻止した。これは、CriptoのEGF様ドメインへのアクチビンの結合と一致している。従って、ALK4へのCriptoの結合を破壊し得る抗体は、アクチビン及びTGF-bのCriptoによる拮抗に対して効果を有するかもしれない。最近、CriptoのCFCドメイン(Adkins et al.,2003)又はEGF様ドメイン(Xing et al.,2004)のいずれかを標的とするモノクローナル抗体が、インビボで腫瘍増殖を阻害し得ることが示された。
【0082】
抗体は、哺乳動物細胞から精製された(EGF様ドメイン及びCFCドメインの両方を含有している)組換え可溶性Criptoタンパク質、又はCriptoのEGF様ドメインを含む合成ペプチドに対して作製され得る。全長可溶性Criptoタンパク質に対する抗体を作製することにより、EGF様ドメイン及びCFCドメインの両方を標的とする抗体の効果を試験することが可能と考えられる。
【0083】
C末端FLAGエピトープ・タグを有する可溶性Criptoは、一過性のトランスフェクションの後、哺乳動物細胞(293T細胞又はCHO細胞)において発現され得る。より大規模なタンパク質の生産のため、G418における選択により、可溶性Cripto-FLAGを安定的に発現する細胞が作製され得る。可溶性Cripto-FLAGを含有している培地は、FLAG-アガロース・イムノアフィニティ・クロマトグラフィを使用して濃縮され得、逆相HPLCにより精製され得る。Cripto EGF様ドメインが、抗Cripto抗体を作製するための抗原として使用される合成ペプチドとして作製されてもよい。ヒトCripto EGF様ドメインを含むペプチドは、以前に合成され、再折り畳みされ、生物学的活性を有していることが示されている。マウスCripto EGF様ドメインを含む類似したポリペプチドは、当技術分野において一般に利用可能なマウスCripto配列を使用して作製され得る。
【0084】
まず、可能性のある抗Cripto中和抗体が、293T細胞におけるアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1のシグナリングのCriptoによる拮抗を破壊する能力に関して、様々な用量で試験され得る。ルシフェラーゼを誘導するアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1の能力が、Cripto、FAST2、及びA3-ルシフェラーゼ構築物でトランスフェクトされた細胞において測定され得る。抗Cripto抗体の効果は、正常ウサギ血清(NRS)と比較され得る。全長Cripto又はEGF様ドメインを含有しているペプチドに対する抗体が、293T細胞におけるアクチビン及びTGF-bのシグナリングに対するCriptoの効果を阻止することが見出されたならば、乳房上皮細胞系及び乳癌細胞系を含むその他の細胞を使用して、さらなる試験が実施され得る。
【0085】
又は、Criptoのアンタゴニスト活性は、Criptoと結合し、それにより、アクチビン又はTGF-bと結合するCriptoの能力を破壊する分子によって、阻害され得る。例えば、Lefty及びTomoregulinは、各々、Criptoと直接結合することが示されており、nodalシグナリングを阻止することが示されている(nodalシグナリングはCriptoを必要とする)。それらは、Criptoと結合することにより、TGF-b/アクチビンと結合するCriptoの能力に干渉し、それにより、これらのリガンドに対するCriptoの効果を阻止するかもしれないことが予測される。
【0086】
実施例13
可溶性変異型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)によるアクチビン・Cripto又はTGF-b・Cripto複合体形成の阻害
本実施例における目標は、Criptoには結合し得るが、アクチビンのようなTGF-bスーパーファミリー・リガンドには結合し得ない可溶型のALK4細胞外ドメイン(ECD)を作出することである。そのようなタンパク質は、TGF-bスーパーファミリー・リガンドに直接結合してシグナリングに干渉するのではなく、Criptoと結合し、アクチビン又はTGF-bの結合及びシグナリングを阻止するCriptoの能力を破壊することができるであろうことが仮定される。
【0087】
ALK4上のアクチビンの機能的結合部位は、最近同定された(Harrison et al.,2003)。I70A、L75A、及びP77A ALK4-ECD変異体は、アクチビンと結合することもシグナリングの活性化を媒介することもできないことが証明された。I70、L75、及びP77が、ALK4-ECD上のアクチビン結合部位の中心であることが結論付けられた。これらの残基のうちの1つを変異させることは、アクチビン・ALK4結合を破壊するのに十分であるが、これらの変異が個々に組み込まれているか、対で組み込まれているか、又は三つの変異全てが組み込まれている可溶型のALK4-ECDも作出され得る。
【0088】
I70A、L75A、及び/又はP77A変異、並びにC末端FLAGエピトープ・タグが組み込まれた可溶性ALK4 ECDタンパク質は、一過性トランスフェクションの後、哺乳動物細胞(293T細胞又はCHO細胞)において発現され得る。可溶性ALK4-ECD-FLAGタンパク質を安定的に発現する細胞は、タンパク質のより大規模な生産のため、G418における選択により作出されるであろう。可溶性ALK4-ECD-FLAGタンパク質を含有している培地は、FLAG-アガロース・イムノアフィニティ・クロマトグラフィを使用して濃縮され、逆相HPLCにより精製され得る。
【0089】
まず、I70A、L75A、及び/又はP77A変異が組み込まれた可溶性ALK4 ECDタンパク質は、293T細胞におけるアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1のシグナリングのCriptoによる拮抗を破壊するそれらの能力に関して、様々な用量で試験され得る。ルシフェラーゼを誘導するアクチビン-A、アクチビン-B、及びTGF-b1の能力が、Cripto、FAST2、及びA3-ルシフェラーゼ構築物でトランスフェクトされた細胞において測定されると考えられる。変異ALK4-ECDタンパク質は、野生型可溶性ALK4-ECDと比較されると考えられる。Criptoの非存在下でのアクチビン・シグナリングに対するこれらのALK4-ECDタンパク質の効果も、それらがアクチビン・シグナリングに干渉するか否かを決定するために試験されると考えられる。293T細胞に加え、乳房上皮細胞系及び乳癌細胞系を含むその他の細胞も使用され得る。
【0090】
実施例14
Cripto発現の阻害
定義されたインビトロ系でアクチビン及びTGF-bのシグナリングのCriptoによる拮抗を防止するために、多数の戦略が追求され得る。有用な戦略には、以下に制限はされないが、相同組換え、以前に確証されたCriptoアンチセンス・ベクター・アプローチ、及びCripto RNA干渉によるCripto発現の破壊が含まれる。
【0091】
相同組換え
マウス胚性幹細胞における相同組換えによるCripto発現の破壊は、以前に記載されている(Ding et al.,1998)。Criptoの両方の対立遺伝子を欠くマウスは、おそらく、Criptoを必要とするnodalシグナリングの欠損のため、胚形成中の極めて初期に死亡することが示された。しかしながら、1つのCripto対立遺伝子を欠失させる効果、又は成体の特定の組織において両方の対立遺伝子を破壊する効果(即ち、条件付きノックアウト)は、癌感受性に対する効果に関して未だ確証されていない。
【0092】
アンチセンス・オリゴヌクレオチド
Cripto発現を破壊するアンチセンス・オリゴヌクレオチドの使用も記載されている(Niemeyer et al.,1998)。CriptoアンチセンスRNAをマウス乳房CID-9細胞に送達するため、レトロウイルス・ベクターが使用された。アンチセンスCriptoベクター構築物の発現を介したこれらの細胞における内因性Cripto発現の減少は、細胞増殖を減少させ、Criptoの過剰発現は細胞増殖を増加させた。Criptoのアンチセンス阻害剤は、結腸癌細胞において形質転換された表現型の欠損も引き起こした(Ciardiello et al.,1994)。
【0093】
ニーマイヤー(Niemeyer)ら(1998)は、CID-9細胞に感染させるためにアンチセンスCripto配列を含有しているレトロウイルス・ベクターpGCENを使用し、アンチセンス構築物を安定的に発現する細胞を作出した。細胞に感染させ、安定的な系を作出するために以前に使用されたレトロウイルスpCLNCベクター(Gray and Vale、未公表のデータ)でも、同様のアプローチが実施され得る。レトロウイルス・ベクターに加え、その他のベクターも、当技術分野における標準的な手法に従い使用され得ることを、当業者であれば認識するであろう。一例において、マウスCripto配列は、アンチセンス方向又はセンス方向でpCLNCベクターへとサブクローニングされ得る。これらの構築物又は空pCLNCベクターは、ウイルスを作出し、CID-9細胞に感染させ、G418耐性細胞を得るために使用される。Criptoを増加又は減少させるためのこのアプローチの有効性は、抗Cripto抗体を用いたウェスタンブロットにより、得られたG418耐性細胞におけるCripto発現を調べることにより直接測定され得る。
【0094】
CID-9細胞(又は当技術分野において周知のその他の標的細胞)の増殖に対するアクチビン及びTGF-b並びにそれらのアンタゴニストの効果は、当業者に一般に利用可能なプロトコルを使用して測定され得る。例えば、CyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイ・キット(Invitrogen)が、製造業者の指示に従い使用され得る。アクチビン及びTGF-b並びにそれらのアンタゴニストによる増殖阻害に対する標的細胞系の感受性は、一連の用量の各リガンド、アンタゴニスト、又は媒体で一連の細胞を処理し、増殖に対する効果を経時的に試験することにより確立され得る。親細胞に対するアクチビン、TGF-b、又はアンタゴニストの効果が確立された後は、レトロウイルス・ベクター、Cripto-センス又はCripto-アンチセンス・レトロウイルスDNAを安定的に発現している細胞において、これらの実験が繰り返され、様々な用量のアクチビン及びTGF-bの細胞増殖に対する得られた効果が比較され得る。Cripto過剰発現がCID-9細胞に足場非依存性の増殖能力を賦与することが示されている。従って、Criptoを過剰発現又は過少発現している細胞の単層培養における増殖速度の測定に加え、これらの細胞の軟寒天中で増殖する能力も測定されるであろう。同様の実験が、(下記のような)安定的にRNAiベクターを過剰発現している細胞に対して実施され得る。
【0095】
RNA干渉
RNA干渉の原理は、サイレンシングを受ける遺伝子に配列が相同な低分子干渉RNA(siRNA)により開始される標的遺伝子発現の消失である(Elbashir et al.,2001)。最近、合成21ヌクレオチドsiRNA二重鎖のトランスフェクションが、種々の哺乳動物細胞系における内因性及び異種の遺伝子の発現を特異的に抑制し得ることが示された。Criptoを標的とする21ヌクレオチドsiRNAを発現させるためのCID-9細胞のような標的細胞のウイルス感染は、pSilencerベクター(Ambion)及び/又はポリメラーゼIII HI-RNAプロモーター(pSUPER)に基づくU6プロモーター系を使用して実施され得る(Brummelkamp et al.,2002)。これらのRNAは、標的遺伝子と結合するために5'UU突出部分を必要とする。従って、siRNAの標的配列は、siRNA UU突出部分に相補的なAA標的を含有している配列についてCripto遺伝子をスキャンすることにより同定されると考えられる。他の遺伝子との有意な相同性を有する配列を排除するため、AA及び下流の19ヌクレオチドは、適切なゲノム・データベースと比較されると考えられる。マウスCripto遺伝子に特異的な配列、並びにマウス、ラット、及びヒトのCriptoの間で共通の配列が、最初のsiRNA標的となると考えられる。
【0096】
レトロウイルス・ベクター及び/又はレンチウイルス・ベクター(Salk InstituteのDr.Inder Vermaより提供される)が、CID-9細胞におけるsiRNAの感染及び安定的発現に使用されるであろう。これらのベクターは、標的細胞における高レベルのsiRNA発現を連続的に駆動するため、ポリメラーゼIII HI-RNAプロモーター又はU6低分子核RNAプロモーターのいずれかを含有するよう設計され得る。Criptoに特異的なインサートは、Criptoの指定された19ヌクレオチド配列が同じ19ヌクレオチド配列の逆相補鎖から短いスペーサーによって隔離されるよう設計され得る。得られた転写物は、それ自体の後方に折り畳まれ、siRNA機能にとって必要な19塩基対ヘアピン−ループ構造を形成すると予測される。これらの2つのベクター系を使用したCripto siRNAの発現は、効率的なCripto破壊を可能にするであろう。
【0097】
培養されたマウスCID-9細胞におけるこのアプローチの確証に加え、レトロウイルス・ベクター又はレンチウイルス・ベクターによる、Cripto発現を標的とするsiRNA又はアンチセンスRNAの送達は、ヒト癌を治療するための可能性のある遺伝子治療アプローチとなる。
【0098】
実施例15
変異アクチビンを使用したSmad2/3シグナリングの増強
アクチビン及びTGF-bのシグナリング(即ち、Smad2/3シグナリング)に対するCriptoの拮抗効果を克服するもう1つの方法は、シグナリング活性を保持しているがCriptoと結合することはできない変異型のアクチビン(又は、おそらくはTGF-b)を設計することである。そのような変異リガンドは、野生型のアクチビン及びTGF-bによるシグナリングがCriptoにより抑制されている組織において、Smad2/3シグナリングを活性化することができると思われるため、治療的な価値を有している可能性がある。
【0099】
Cripto抵抗性アクチビン
アクチビン-A上の受容体結合残基を同定する試みにおいて、アクチビン-A及びアクチビン-Aの変異体を発現させ特徴決定するための迅速な機能的なスクリーンが、293T細胞を使用して確立されている。この系は、FAST2及びA3-ルシフェラーゼが組み込まれており、当初はnodal及びCriptoのシグナリングを特徴決定するために開発された系に基づいている。全長アクチビンbA cDNAが293T細胞において発現され、二量体のプロセシングを受けたアクチビン-Aが培地へ分泌された。これらの細胞からの条件培地がA3-ルシフェラーゼ及びFAST2でトランスフェクトされた別々の293T細胞を処理するために使用された場合、ルシフェラーゼ・レポーター発現が誘導され、このことから、分泌されたアクチビン-Aが完全な活性を有することが示された。
【0100】
上記の系を使用して、いくつかのアクチビン-A変異体を作出し、ウェスタンブロット分析により条件培地から定量した。本発明者らは、Lys102からGluへの変異(K102E)がアクチビン-A活性を破壊することを示した以前の結果を確認した。しかしながら、本発明者らが作出した変異体の大部分は、完全な活性を保持していると考えられる。本発明者らは、現在、トランスフェクトされたCriptoの、293T細胞における野生型アクチビン-Aシグナリングに拮抗する能力を、これらのアクチビン-A変異体に拮抗する能力と比較することを提唱している。目標は、野生型アクチビン-Aと比べて、Cripto拮抗に対して抵抗性のアクチビン-A変異体を同定することである。付加的なアクチビン-Aアラニン置換点変異体が、Criptoの完全なシグナリング活性及びCripto抵抗性を有するアクチビン-A変異体を同定する目的で作出され得る。
【0101】
実施例16
可溶性Cripto及び膜結合型Criptoの構築物及び使用
Criptoは、腫瘍において高レベルに発現され、腫瘍形成を促進することが示されており、TGF-b及びアクチビンは、腫瘍抑制因子であり、細胞増殖を強力に阻害する。逆説的に、腫瘍細胞増殖がもはやTGF-b/アクチビン・シグナリングにより阻害されない、より後期の腫瘍進行の段階で、TGF-b/アクチビンは腫瘍形成を促進することもできる。これらのより後期の段階においては、TGF-b及びアクチビンが腫瘍細胞により高レベルに産生され、これらのリガンドのシグナリングは、腫瘍の増殖及び蔓延にとって好都合な血管形成、免疫抑制、及び上皮−間葉転換を引き起こす。従って、状況(即ち、腫瘍進行の段階)に応じて、TGF-b/アクチビン・シグナリングを促進するか、又はTGF-b/アクチビン・シグナリングを阻止することは、治療的に価値があるかもしれない。
【0102】
TGF-b/アクチビン・シグナリングの阻止は、以下に制限はされないが、癌、創傷治癒、及び肝臓再生を含むいくつかの状況において、治療的な恩典を有している可能性がある。前述のように、腫瘍形成のより後期の段階において、腫瘍細胞は、転移の標的である血管、免疫系の細胞、及び器官に対する効果によりさらなる腫瘍の増殖及び転移にとって好都合な効果を引き起こすTGF-b及びアクチビンを分泌する。Cripto発現をこれらの部位へ差し向けるか、又は可溶型Criptoをこれらの部位へ投与することは、腫瘍進行の遅延を助ける可能性がある。
【0103】
TGF-b及びアクチビンは、創傷治癒を加速するが、過度の細胞外マトリックス沈着及び不要な瘢痕を引き起こす場合がある。従って、Criptoは、この状況におけるTGF-b/アクチビンのモジュレーターとしての利用可能性を有している可能性がある。肝臓再生に関して、TGF-b及びアクチビンは肝臓における強力な抗増殖剤であり、従って、Criptoによるそれらのシグナリングの阻止は、肝臓再生を促進するのに有用であることが判明する可能性がある。
【0104】
Cripto変異体の設計
Cripto構築物の例は図14に示される。まず、全ての構築物が、標準的なPCRに基づく突然変異誘発及びサブクローニング技術を使用して、pcDNA3のような哺乳動物発現ベクターにおいて作出され得る。
【0105】
細胞接着型Cripto構築物には、シグナル・ペプチドのすぐ下流のインフレームのエピトープ・タグ配列(例えば、FLAG又はHis)と共に、Criptoシグナル・ペプチドが組み込まれ得、続いて、示されたCripto配列(図14)、GPI接着に必要とされる疎水性C末端ドメイン、及び終止コドンが組み込まれ得る。マウスCriptoの上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)領域(aa60-134)は、ゼブラフィッシュ胚におけるone-eyed pinked(oep)シグナリングを再構築するのに十分であることが示されている。この領域は、細胞接着型タンパク質として発現させられ、アクチビン及びTGF-bと結合し、それらのシグナリングに拮抗する能力に関して試験され得る(図14)。
【0106】
マウスCriptoのEGF様ドメインは、残基60〜95に相当し(図14〜15)、この領域の欠失は、Criptoのアクチビン-Aと結合する能力を排除し、アクチビン-A及びTGF-b1両方のシグナリングに拮抗する能力も排除する。細胞接着型EGF様ドメイン構築物は、アクチビン-A及びTGF-b1の結合及びシグナリングに対する効果に関して試験され得る。アクチビン-A及びTGF-b1の結合及びシグナリングに対するGPIアンカーCFCドメイン(aa99-134)の効果も試験され得る。
【0107】
CriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインの中の個々のアミノ酸の、アクチビン-A及びTGF-b1との結合にとっての機能的役割は、以下のように決定され得る。CFCドメイン内に2つの点変異を有しておりALK4と結合しないCripto mCFC(H104G,W107G)、及びEGF様ドメイン全体が欠失しておりTGF-b/アクチビン関連リガンドnodalと結合することができないCripto DEGFのような変異体は、既に記載された。Criptoとアクチビンとの結合を阻止し、アクチビン及びTGF-bのシグナリングのCriptoによる拮抗を妨げる変異Cripto EGF1・2mCFCには、mEGF1、mEGF2、及びmCFCのタンデム点変異が組み込まれている(N69G、T72A、R88G、E91G、H104G、W107G)(図14〜15参照)。個々の又は組み合わせられたこれらの変異の効果は、細胞接着型Cripto構築物又は可溶性Cripto構築物にこれら又は対応するアラニン変異を組み込むことにより試験され得る。例えば、重複PCR突然変異誘発が、全長GPIアンカーCriptoバックグラウンドにおいてこれらの点変異を作出するために使用され得る。類似の変異は、可溶性のEGF様ドメイン及びCFCドメインの構築物においても作出され得る。
【0108】
さらに、EGF様ドメインには14個の高度に保存された残基が存在し、CFCドメインには9個の高度に保存された残基が存在する(図15)。これらの保存された残基のうちの15個は、以前に、可溶性マウスCriptoに関する突然変異誘発の標的とされ、母性及び接合子性両方のoep(MZoep)発現を欠くゼブラフィッシュ胚においてone-eyed pinhead(oep)シグナリングを再構築する能力に関して特徴決定されている。可溶性のPro52、Phe85、His92、Arg95及びGlu97のCripto Ala置換変異体(Minchiotti et al.,2001)と同様に、可溶性マウスCripto又は可溶性EGF-CFC領域をコードするRNAは、正常な胚発生を回復させることができた。Gly71Asn又はPhe78Ala変異体をコードする注入されたRNAは、高用量であってもMZoep表現型を救出することができなかったが、Asn63、Ser77、Arg88、Glu91、His104、Leu114、Leu114、Leu122、及びArg116のAla置換変異体は、中間の効果をもたらした(Minchiotti et al.,2001)。各変異体は293T細胞において発現させられ、15個の変異体の各々が、Arg88Ala変異体を例外として、ほぼ野生型レベルで発現されることが示された(Minchiotti et al.,2001)。Cripto上のアクチビン及びTGF-bの結合部位をより完全に特徴決定するため、類似の研究が、全長のGPIアンカーCripto構築物又は可溶性Cripto構築物に関連したAla置換変異体で実施され得る。EGF様ドメイン内の保存された残基がアクチビン及びTGF-bの結合表面を構成する可能性が予想される。
【0109】
Criptoは、可溶性タンパク質として存在する場合、nodalシグナリングを促進し、細胞分裂促進性のMAPK経路及びPI3K経路を活性化し得ることが、以前に示されており、このことから、Criptoが、細胞自律的にも、分泌された可溶性の因子としても、作用し得るという可能性が示唆される。従って、いくつかの可溶性Cripto構築物の、アクチビン及びTGF-bと結合し、それらのシグナリングに拮抗する能力を試験することは興味深い。可溶性Cripto構築物の例は図14に例示される。CriptoのC末端疎水性ドメインがGPI接着に必要とされ、このドメインの欠失が可溶性Criptoタンパク質の分泌をもたらすことが、以前に示されている。従って、可溶性Cripto構築物には、インフレームのC末端FLAGエピトープ・タグ、それに続く終止コドンに加え、このC末端欠失が組み込まれると考えられる(図14)。
【0110】
以下の参考文献が本明細書において引用される:
【0111】
この明細書の中で言及された任意の特許又は出版物が、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示すものである。さらに、これらの特許及び出版物は、あたかも個々の出版物が各々参照として組み込まれると特別に個々に示されたかのごとく、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】提唱されたCriptoの二重発癌メカニズムを示すモデルを示す。Criptoは、まだ特徴決定されていない膜貫通型受容体と結合し、c-Srcの活性化をもたらすことにより、細胞分裂促進性のMAPK経路及びPI3K経路を活性化する。Criptoは、アクチビン及びTGF-bのI型受容体のリガンド・II型受容体複合体への機能的な動員に競合的に拮抗することによって、Smad2/3シグナリングも阻止することが提案されている。
【図2】Criptoが、ActRIIの存在下でアクチビンと結合し、アクチビン・ActRII結合に関してALK4と競合することを示す。293T細胞は、示された構築物によりトランスフェクトされ、前記(Gray et al.,2003)のような[125I]-アクチビン-Aによる架橋に供された。細胞が可溶化され、架橋複合体が、示された抗体を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、前記(Gray et al.,2003)のようなオートラジオグラフィーにより可視化された。
【図3】Criptoが、TbRIIの存在下でTGF-b1と結合し、TGF-b1・TbRII結合に関してALK5と競合することを示す。293T細胞は、示された構築物によりトランスフェクトされ、前記(Gray et al.,2003)のような[125I]-TGF-b1による架橋に供された。細胞が可溶化され、架橋複合体が、示された抗体を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、前記(Gray et al.,2003)のようなオートラジオグラフィーにより可視化された。
【図4】CriptoがHepG2細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングを阻止することを示す。HepG2細胞は、前記(Gray et al.,2003)のような空ベクター又はCriptoのいずれかによりトランスフェクトされ、次いで、示された用量のアクチビン-A(図4A)又はTGF-b1(図4B)のいずれかにより処理された。ルシフェラーゼ活性がb-ガラクトシダーゼ活性に対して規準化され、データが、未処理の細胞と比べたルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図5】図5A〜Bは、293T細胞の細胞表面におけるCripto変異体の発現を示す。図5Aは、シグナルペプチド、N末端FLAGエピトープ、EGF様ドメイン、CFCドメイン、及びC末端のGPIアンカー接着部位の位置を示すマウスCriptoの図である。さらに、フコシル化の部位(トレオニン72)、及びmCFC変異体(W104G,W107G)においてグリシン残基に置換されるトリプトファン残基の位置が示されている。(B)空ベクター又は示されたCripto構築物が、293T細胞へとトリプリケートでトランスフェクトされ、得られた完全細胞におけるこれらの構築物の細胞表面発現が、ELISAに基づくアッセイにおいて抗FLAG抗体を使用して測定された(図5B)。
【図6】CriptoのEGF様ドメインがTGF-bシグナリングの拮抗を媒介することを示す。293T細胞が、ベクター又は示されたCripto構築物及びA3-ルシフェラーゼ/FAST-2/CMV-b-ガラクトシダーゼによりトリプリケートでトランスフェクトされた。細胞が、媒体又は100pM TGF-b1により処理され、得られたルシフェラーゼ活性が、b-gal活性に対して規準化された。データは、媒体で処理された細胞と比べた、TGF-b1で処理された細胞におけるルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図7】CriptoのEGF様ドメインが、293T細胞におけるアクチビン-A及びTGF-b1のシグナリングの拮抗に必要とされることを示す。293T細胞は示された構築物によりトランスフェクトされ、次いで、媒体又は1nMアクチビン-A又は0.3nM TGF-b1により処理された。ルシフェラーゼ活性がb-ガラクトシダーゼ活性に対して規準化され、データが、未処理の細胞と比べたルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図8】図8A〜Bは、CriptoのCFCドメインがTGF-bとの結合に必要とされないことを示す。293T細胞が、示された構築物によりトランスフェクトされ、[125I]-TGF-b1による架橋に供された。可溶化された架橋複合体が、TbRIIを標的とする抗His抗体(図8A)又はCriptoを標的とする抗FLAG抗体(図8B)を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、オートラジオグラフィーにより可視化された。
【図9】図9A〜Cは、Cripto T72A変異がTGF-b及びアクチビンのシグナリングを阻止する能力を破壊したことを示す。293T細胞が、ベクター、Cripto、又はCripto変異体(T72A)、及びA3-ルシフェラーゼ/FAST-2/CMV-b-ガラクトシダーゼによりトリプリケートでトランスフェクトされた。細胞が、媒体、又は100pM TGF-b1(図9A)、300pMアクチビン-A(図9B)もしくは300pMアクチビン-B(図9C)により処理され、得られたルシフェラーゼ活性が、規準化され、媒体で処理された細胞におけるb-ガラクトシダーゼ活性と比べた増加倍率として提示された。
【図10】CriptoのEGF様ドメイン及びCFCドメインが独立にアクチビン-Bシグナリングの拮抗を媒介し得ることを示す。293T細胞が、A3-ルシフェラーゼ/FAST-2/CMV-b-ガラクトシダーゼに加え、ベクター、Cripto DEGF、又はCripto DCFCによりトリプリケートでトランスフェクトされた。細胞が、示されたように、媒体、又は300pMアクチビン-Aもしくは300pMアクチビン-Bのいずれかにより処理され、得られたルシフェラーゼ活性が、規準化され、媒体で処理された細胞におけるb-ガラクトシダーゼ活性と比べた増加倍率として提示された。
【図11】図11A〜Bは、Cripto DCFC変異体がアクチビン-Aと結合することを示す。293T細胞が、示された構築物によりトランスフェクトされ、[125I]-アクチビン-Aによる架橋に供された。可溶化された架橋複合体が、ActRIIを標的とする抗myc抗体(図11A)又はCriptoを標的とする抗FLAG抗体(図11B)を使用した免疫沈降により単離された。免疫沈降させられたタンパク質が、SDS-PAGEにより分離され、オートラジオグラフィーにより可視化された。
【図12】Criptoが、アクチビン/TGF-bに拮抗するが、293T細胞におけるnodalシグナリングを促進することを示す。以前に示されたようにして(Gray et al.,2003)、293T細胞が、空ベクター又はnodalのいずれか、及び示された量のCripto DNAによりトランスフェクトされ、次いで1nMアクチビン-A又は0.3nM TGF-b1により処理された。ルシフェラーゼ値がb-ガラクトシダーゼ活性に対して規準化され、データが、未処理の細胞と比べたルシフェラーゼ活性の増加倍率として提示された。
【図13】図13A〜Bは、TGF-bリガンド・シグナリングのCriptoによる調節の提唱されたメカニズムを示す。モデルは、TGF-bスーパーファミリー・メンバーのシグナリングを促進(図13A)又は阻害(図13B)するCriptoの能力を例示する。Cripto及び関連する上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質ファミリー・タンパク質は、nodal又はVg1/GDF1に直接結合し、これらのリガンドがII型及びI型のシグナリング受容体を組み立て、中胚葉誘導を含む応答を開始させることを可能にする(図13A)。反対に、これらのリガンドがそれぞれのII型受容体との複合体として存在する間に、Criptoは、TGF-b及びアクチビンと結合することにより、I型受容体の機能的動員を破壊し、増殖阻害のようなシグナリング応答を阻害する(図13B)。
【図14】Cripto及びCripto変異体の構築物の図を示す。C末端GPI足場を介した膜との接着を示して、野生型マウスCriptoのドメイン構造が示される。取り込まれたエピトープ・タグの位置、並びに欠失及び選択された変異の部位が示される。
【図15】上皮細胞成長因子-Cripto,FRL-1,Cryptic(Epidermal Growth Factor-Cripto,FRL-1,Cryptic:EGF-CFC)タンパク質のアラインメントを示す。マウスCriptoが、MEGALIGNプログラム(DNASTAR)のCLUSTALアルゴリズムを使用して、ヒトCripto、マウスCryptic、ヒトCryptic、アフリカツメガエル(Xenopus) FRL-1、及びゼブラフィッシュone-eyed pinhead(oep)を含むEGF-CFCファミリーの他のメンバーと整列化された。EGF様ドメインは赤色の影付きの四角で囲まれ、CFCドメインは青色の影付きの四角で囲まれており、これらのドメイン内の保存されたシスチンは黄色の影付きである。EGF様ドメインのジスルフィド配置が示される。マウスCriptoのシグナル・ペプチドは赤色の文字で示され、疎水性C末端ドメインは紫色の文字で示されており、フコシル化されるトレオニンは白色の影付きである。突然変異誘発の標的とされる保存された残基は、アスタリスクにより示され、EGF1、EGF2、及びmCFCの変異は赤いアスタリスクにより示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを増強する方法であって、該細胞の表面におけるCriptoと該リガンドとの間の複合体の形成を阻害する工程を含む、方法。
【請求項2】
複合体の形成が、抗Cripto抗体により阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗Cripto抗体が、CriptoのEGF様ドメイン内のエピトープに対するものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
複合体の形成が、Criptoに結合するが、受容体セリンキナーゼのリガンドには結合しない可溶性受容体セリンキナーゼ細胞外ドメインにより阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
可溶性細胞外ドメインが、アクチビン受容体様キナーゼ-4細胞外ドメインである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞外ドメインが、アミノ酸70位、75位、及び77位からなる群より選択される1つまたは複数の位置に変異を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞外ドメインが、アミノ酸70位、75位、及び77位からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアラニンを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
細胞が、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、及び前立腺からなる群より選択される器官に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
シグナリングの増強が、細胞におけるSmad2及びSmad3のリン酸化及び活性化を増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
シグナリングの増強が、細胞の増殖速度を減少させる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
受容体セリンキナーゼが、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
受容体セリンキナーゼのリガンドが、アクチビン又はTGF-bである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
複合体の形成が、細胞におけるCriptoの発現を阻害することにより阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
Cripto発現の阻害が、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、Criptoに対する低分子阻害性RNA(siRNA)、及び相同組換えによる少なくとも1つのCriptoの対立遺伝子の変異からなる群より選択される方法により達成される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
受容体セリンキナーゼのリガンドの変異体を細胞へ投与する工程を含む、細胞におけるSmad2/3シグナリングを増強する方法であって、該変異体が、シグナリング活性を保持しているが、Criptoに結合することができず、それによりCriptoによる拮抗を回避するものである、方法。
【請求項16】
受容体セリンキナーゼのリガンドが、アクチビン又はTGF-bである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
EGFドメインを欠くCripto変異体を細胞へ投与する工程を含む、アクチビン-Bシグナリングを阻害する方法。
【請求項18】
Cripto変異体が、可溶性Criptoであるか、又は細胞表面上に発現される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
Cripto変異体がCriptoのCFCドメインを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを阻害する方法であって、細胞の表面におけるCriptoとリガンドとの間の複合体の形成を増強する工程を含む、方法。
【請求項21】
受容体セリンキナーゼが、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
受容体セリンキナーゼのリガンドが、アクチビン又はTGF-bである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
細胞が、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、及び前立腺からなる群より選択される器官に由来する、請求項20記載の方法。
【請求項24】
シグナリングの阻害が、過度の細胞外マトリックス沈着を減少させるか、又は肝臓再生を促進する、請求項20記載の方法。
【請求項25】
複合体の形成が、細胞におけるCriptoの発現を増加させることにより増強される、請求項20記載の方法。
【請求項26】
Cripto発現を、Criptoタンパク質をコードするウイルス・ベクター又はプラスミド・ベクターを細胞へ投与することにより増加させる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
複合体の形成が、可溶性Cripto又は細胞表面結合型Criptoを細胞へ投与することにより増強される、請求項20記載の方法。
【請求項1】
細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを増強する方法であって、該細胞の表面におけるCriptoと該リガンドとの間の複合体の形成を阻害する工程を含む、方法。
【請求項2】
複合体の形成が、抗Cripto抗体により阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗Cripto抗体が、CriptoのEGF様ドメイン内のエピトープに対するものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
複合体の形成が、Criptoに結合するが、受容体セリンキナーゼのリガンドには結合しない可溶性受容体セリンキナーゼ細胞外ドメインにより阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
可溶性細胞外ドメインが、アクチビン受容体様キナーゼ-4細胞外ドメインである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞外ドメインが、アミノ酸70位、75位、及び77位からなる群より選択される1つまたは複数の位置に変異を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞外ドメインが、アミノ酸70位、75位、及び77位からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアラニンを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
細胞が、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、及び前立腺からなる群より選択される器官に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
シグナリングの増強が、細胞におけるSmad2及びSmad3のリン酸化及び活性化を増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
シグナリングの増強が、細胞の増殖速度を減少させる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
受容体セリンキナーゼが、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
受容体セリンキナーゼのリガンドが、アクチビン又はTGF-bである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
複合体の形成が、細胞におけるCriptoの発現を阻害することにより阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
Cripto発現の阻害が、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、Criptoに対する低分子阻害性RNA(siRNA)、及び相同組換えによる少なくとも1つのCriptoの対立遺伝子の変異からなる群より選択される方法により達成される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
受容体セリンキナーゼのリガンドの変異体を細胞へ投与する工程を含む、細胞におけるSmad2/3シグナリングを増強する方法であって、該変異体が、シグナリング活性を保持しているが、Criptoに結合することができず、それによりCriptoによる拮抗を回避するものである、方法。
【請求項16】
受容体セリンキナーゼのリガンドが、アクチビン又はTGF-bである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
EGFドメインを欠くCripto変異体を細胞へ投与する工程を含む、アクチビン-Bシグナリングを阻害する方法。
【請求項18】
Cripto変異体が、可溶性Criptoであるか、又は細胞表面上に発現される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
Cripto変異体がCriptoのCFCドメインを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
細胞における受容体セリンキナーゼのリガンドのシグナリングを阻害する方法であって、細胞の表面におけるCriptoとリガンドとの間の複合体の形成を増強する工程を含む、方法。
【請求項21】
受容体セリンキナーゼが、I型アクチビン受容体様キナーゼ-4(ALK-4)又はアクチビン受容体様キナーゼ-5(ALK-5)である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
受容体セリンキナーゼのリガンドが、アクチビン又はTGF-bである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
細胞が、乳房、結腸、胃、膵臓、肺、卵巣、子宮内膜、精巣、膀胱、及び前立腺からなる群より選択される器官に由来する、請求項20記載の方法。
【請求項24】
シグナリングの阻害が、過度の細胞外マトリックス沈着を減少させるか、又は肝臓再生を促進する、請求項20記載の方法。
【請求項25】
複合体の形成が、細胞におけるCriptoの発現を増加させることにより増強される、請求項20記載の方法。
【請求項26】
Cripto発現を、Criptoタンパク質をコードするウイルス・ベクター又はプラスミド・ベクターを細胞へ投与することにより増加させる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
複合体の形成が、可溶性Cripto又は細胞表面結合型Criptoを細胞へ投与することにより増強される、請求項20記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2007−536203(P2007−536203A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526968(P2006−526968)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/029967
【国際公開番号】WO2005/028433
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(505098937)リサーチ ディベロップメント ファウンデーション (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/029967
【国際公開番号】WO2005/028433
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(505098937)リサーチ ディベロップメント ファウンデーション (16)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]