説明

アクチュエーターの製造方法および液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】信頼性の高いアクチュエーターを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るアクチュエーター100の製造方法は、第1領域125の上方の少なくとも一部における被覆層130を除去して第1開口部150を形成し、かつ第2領域127の上方の少なくとも一部における被覆層130を除去して第2開口部152を形成する工程と、第1領域125の上方、第2領域127の上方、および被覆層130の上方に第1金属層142を成膜する工程と、第1金属層142の上方に第2金属層144を成膜する工程と、第1金属層142および第2金属層144をパターニングして、第2開口部152を介して第2導電層146と電気的に接続するリード配線140を形成する工程と、第1領域125の上方に成膜された第2金属層144を除去して第3導電層128を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエーターの製造方法および液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンター等の液体噴射装置において、例えば、インク等の液滴を噴射するために、アクチュエーターを備えた液体噴射ヘッドが用いられている。このような液体噴射ヘッドは、駆動信号等によって圧電素子の圧電体層を変形させることによって、アクチュエーターの下方に形成された圧力室内の圧力を変化させることができる。これにより、ノズル孔から圧力室内に供給されたインク等の液滴を噴射させることができる。
【0003】
このような圧電素子を備えたアクチュエーターでは、例えば、湿気等により劣化してしまう圧電体層を保護するために、圧電素子の上部電極の上面および圧電体層の側面を覆う酸化アルミニウム等からなる保護膜を有する圧電素子が用いられる。しかしながら、このような保護膜を有する圧電素子では、保護膜が圧電体層の変形を妨げるため、インク等の吐出特性が損なわれてしまう場合がある。したがって、例えば、特許文献1では、上部電極の上面上の保護膜に開口部を形成して、圧電体層の変形の規制を緩和している。
【0004】
しかしながら、このような保護膜に開口部を有する圧電素子では、その製造工程において、保護膜に開口部を形成することにより、上部電極がオーバーエッチングされてしまう場合がある。一般に圧電素子では、上部電極に白金やイリジウムのような貴金属が用いられているが、コストダウンのために上部電極は薄いことが望ましい。このような薄い上部電極においては、上部電極上に保護膜を形成した時、開口部でのオーバーエッチングの影響が大きく、この開口部で上部電極がさらに薄くなることで高抵抗になったり、極端な場合、上部電極が断線してしまったりすることがある。したがって、圧電素子の信頼性が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−276384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、信頼性の高いアクチュエーターを製造する方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上述のアクチュエーターの製造方法を含む液体噴射ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアクチュエーターの製造方法は、
基板の上方に振動板を形成する工程と、
前記振動板の上方に第1導電層を形成する工程と、
前記第1導電層を覆う圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に、前記圧電体層の厚み方向から見て、前記第1導電層と重なる第1領域と、前記第1導電層とは重ならない第2領域と、を有する第2導電層を形成する工程と、
前記圧電体層の側方と、前記第2導電層の側方および上方と、に被覆層を成膜する工程と、
前記第1領域の上方の少なくとも一部における前記被覆層を除去して第1開口部を形成し、かつ前記第2領域の上方の少なくとも一部における前記被覆層を除去して第2開口部を形成する工程と、
前記第1領域の上方、前記第2領域の上方、および前記被覆層の上方に第1金属層を成膜する工程と、
前記第1金属層の上方に第2金属層を成膜する工程と、
前記第1金属層および前記第2金属層をパターニングして、前記第2開口部を介して前記第2導電層と電気的に接続するリード配線を形成する工程と、
前記第1領域の上方に成膜された前記第2金属層を除去して第3導電層を形成する工程と、
を含む。
【0008】
このようなアクチュエーターの製造方法によれば、前記第1領域の上方に前記第3導電層が形成されるため、信頼性の高いアクチュエーターを得ることができる。
【0009】
本発明に係るアクチュエーターの製造方法において、
前記第1金属層は、少なくともニッケル−クロム合金を含む層であり、
前記第2金属層は、少なくとも金を含む層であることができる。
【0010】
このようなアクチュエーターの製造方法によれば、前記第1金属層を前記第2金属層を密着させるための層として機能させることができ、前記第2金属層が高い導電性を有することができる。
【0011】
本発明に係るアクチュエーターの製造方法において、
前記第2金属層を除去して前記第3導電層を形成する工程は、ウエットエッチングによって行われることができる。
【0012】
このようなアクチュエーターの製造方法によれば、前記第2金属層を選択的に除去することができる。
【0013】
本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、
本発明に係るアクチュエーターを形成する工程と、
ノズル孔と連通し、前記アクチュエーターの動作によって容積が変化する圧力室を有する流路形成板を形成する工程と、
を含む。
【0014】
このような液体噴射ヘッドの製造方法によれば、本発明に係るアクチュエーターの製造方法を含むため、信頼性の高い液体噴射ヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図2】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの要部を模式的に示す平面図。
【図3】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの要部を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの要部を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図11】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図12】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【図13】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
1. アクチュエーターおよび液体噴射ヘッド
まず、本実施形態に係るアクチュエーター100および液体噴射ヘッド1000について説明する。ここでは、アクチュエーター100の例として、アクチュエーター100を液体噴射ヘッド1000に用いた場合について説明する。なお、アクチュエーター100の用途は、液体噴射ヘッドに限定されない。
【0018】
図1は、本実施形態に係るアクチュエーター100を用いた液体噴射ヘッド1000を模式的に示す分解斜視図である。図2は、液体噴射ヘッド1000の要部である流路形成板10、アクチュエーター100を模式的に示す平面図である。図3は、図2のIII−III線断面図である。図4は、図2のIV−IV線断面図である。
【0019】
液体噴射ヘッド1000は、図1から図4に示すように、アクチュエーター100と、圧力室11を有する流路形成板10と、ノズル孔21を有するノズル板20と、を含む。液体噴射ヘッド1000は、例えば、さらに、封止板40、を含むことができる。アクチュエーター100は、振動板110と、圧電素子120と、を含むことができる。圧電素子120は、第1導電層122と、圧電体層124と、第2導電層126と、第3導電層128と、被覆層130と、リード配線140と、を含むことができる。
【0020】
流路形成板10は、圧力室11を有する。流路形成板10は、図1に示すように、圧力室11の側壁を構成する壁部12を有する。また、流路形成板10は、圧力室11と供給路13および連通路14を介して連通したリザーバー15を有していてもよい。リザーバー15には、貫通孔16を通って外部からリザーバー15内に液体が供給されてもよい。リザーバー15に液体を供給することによって、供給路13および連通路14を介して圧力室11に液体を供給することができる。圧力室11の形状は、特に限定されない。圧力室11の形状は、例えば、平面視において平行四辺形であってもよく、矩形であってもよい。圧力室11の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。流路形成板10の材質は、特に限定されない。流路形成板10は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス、各種樹脂材料等から形成されてもよい。
【0021】
ノズル板20は、図1に示すように、流路形成板10の下方に形成される。ノズル板20は、プレート状の部材であって、ノズル孔21を有する。ノズル孔21は、圧力室11に連通するように形成される。ノズル孔21の形状は、液体を吐出することができれば、特に限定されない。ノズル孔21を介することで、圧力室11内の液体を、例えば、ノズル板20の下方に向けて吐出することができる。また、ノズル孔21の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。ノズル板20の材質は、特に限定されない。ノズル板20は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス、各種樹脂材料等から形成されてもよい。
【0022】
アクチュエーター100は、図1に示すように、流路形成板10の上に形成されている。アクチュエーター100では、圧電素子120は、外部駆動回路50に電気的に接続され、外部駆動回路50の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。振動板110は、圧電素子120の動作によって変位し、圧力室11の内部圧力を適宜変形させることができる。圧電素子120は、圧力室11ごとに形成されている。圧電素子120は、図2に示すように、第2導電層126の長手方向に直交する第1方向Aに複数配列されている。圧電素子120は、第2導電層126の長手方向に交差する方向に複数配列されていてもよい。例えば、圧力室11の長手方向を第2方向Bとすると、図示の例では、第2導電層126の長手方向は、第2方向Bと同じ方向である。すなわち、第1方向Aは、図示の例では、第2方向Bに直交する方向である。
【0023】
振動板110は、図3および図4に示すように、流路形成板10の上に形成されている。振動板110は、例えば、プレート状の部材である。振動板110は、例えば、第1層112と、第2層114と、からなる積層構造であることができる。第1層112としては、例えば、酸化シリコンを用いることができる。第2層114としては、例えば、酸化ジルコニウムを用いることができる。振動板110としては、これに限定されず、例えば、酸化ジルコニウムや酸化シリコンなどの絶縁膜、ニッケルなどの金属膜、ポリイミドなどの高分子材料膜、からなる単層構造または複数の材料を積層した構造であってもよい。振動板110は、圧電素子120の圧電体層124が変形することによって振動(変位)することができる。これにより、下方に形成された圧力室11の体積を変化させることができる。振動板110には、リザーバー15と連通する貫通孔16が形成される。貫通孔16の形状は、リザーバー15に液体を供給でき得る限り特に限定されない。貫通孔16の周囲には、例えば、第1金属層142および第2金属層144からなる積層体17が形成されていてもよい。
【0024】
第1導電層122は、振動板110の上方に形成されている。第1導電層122は、圧電体層124に電圧を印加するための一方の電極(圧電体層124の下部に形成された下部電極)である。第1導電層122は、図2に示すように、例えば、複数の圧電素子120の共通電極である。第1導電層122の材質としては、例えば、タングステン、ニッケル、イリジウム、パラジウム、金、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(たとえば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物(SrRuO:SRO)、ランタンとニッケルの複合酸化物(LaNiO:LNO)などを例示することができる。第1導電層122は、例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。また、第1導電層122と振動板110との間には、たとえば、密着層(図示しない)等が形成されていてもよい。この場合の密着層としては、たとえばチタン層などが挙げられる。第1導電層122の厚みは、たとえば、50nm以上300nm以下とすることができる。
【0025】
圧電体層124は、第1導電層122を覆うように形成されている。圧電体層122は、図3に示すように、少なくとも第1導電層122の側面および上面を覆っている。圧電体層124と第1導電層122との間には、他の層が形成されてもよい。この場合の他の層としては、たとえば圧電体層124の結晶の配向を制御するための配向制御層(たとえばチタン層)などが挙げられる。圧電体層124の厚さは、たとえば、300nm以上3000nm以下とすることができる。圧電体層124の厚みが前記範囲を外れると、振動板110を変形させるために必要な伸縮が得られなくなる場合がある。
【0026】
圧電体層124は、図4に示すように、上面124aと、上面124aに接続する側面124bと、を有する。図4の例では、圧電体層124の上面124aは、平坦な面(平面)であり、振動板110の上面と略平行となっている。圧電体層124の上面124aは、必ずしも平坦な面には限定されず、下地の第1導電層122の形状を反映した凸形状を有してもよい。圧電体層124の側面124bは、圧電体層124の上面124aと、振動板110の上面とを接続する面である。圧電体層124の側面124bは、一つの平坦な面で構成されてもよいし、複数の平坦な面によって構成されてもよい。また、圧電体層124の側面124bは、曲面を含んで構成されてもよい。
【0027】
圧電体層124は、圧電材料によって形成される。そのため圧電体層124は、第1導電層122および第2導電層126によって電界が印加されることで変形することができる。この変形により振動板110は、たわんだり振動したりすることができる。圧電体層124の材質としては、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物(たとえば、Aは、Pbを含み、Bは、ZrおよびTiを含む。)が好適である。このような材料の具体例としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)(以下、「PZT」と略記することがある)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO)などが挙げられる。これらのうち、圧電体層124の材質としてPZTは、圧電特性が良好であるため特に好適である。
【0028】
第2導電層126は、圧電体層124の上方に形成されている。第2導電層126は、第2方向Bに延びるように形成されている。第2導電層126は、図2および図3に示すように、圧電体層124の厚み方向から見て(平面視において)、第1導電層122と重なる第1領域125と、第1導電層122と重ならない第2領域127と、を有する。図示の例では、第2領域127は、第2導電層126の第1領域125以外の領域である。第2導電層126の厚みは、たとえば10nm以上200nm以下とすることができる。第2導電層126は、圧電体層124に電圧を印加するための他方の電極(圧電体層124の上部に形成された上部電極)である。第2導電層126の材質は、例えば、ニッケル、イリジウム、パラジウム、金、白金、タングステンなどの各種の金属、それらの導電性酸化物(たとえば酸化イリジウムなど)、SRO、LNOなどを例示することができる。また、第2導電層126は、単層でもよいし、複数の層を積層した構造であってもよい。
【0029】
第3導電層128は、第2電極126の第1領域125の上方に形成されている。第3導電層128は、図3および図4に示すように、第1開口部150を覆うように形成されている。第3導電層128は、図示の例では、第2導電層126と接している。図示はしないが、例えば、第1開口部150が第2導電層124aを貫通して、第3導電層128が圧電体層124と接していてもよい。第3導電層128は、第2導電層126と同様に、圧電体層124に電圧を印加するための他方の電極(圧電体層124の上部に形成された上部電極)として機能することができる。第3導電層128は、リード配線140を構成する第1金属層142からなることができる。第3導電層128(第1金属層142)は、後述するように膜厚が薄いため、圧電体層124の変形を妨げないことができる。
【0030】
被覆層130は、図3および図4に示すように、圧電体層124の側方124bと、第2導電層126の上方の開口部150,152を除いた領域と、第2導電層126の側方126bに形成されている。被覆層130は、耐湿性の高い絶縁材料からなり、例えば、酸化アルミニウム、酸化シリコンを用いることができる。被覆層130としては、より耐湿性の高い酸化アルミニウムを用いることが好ましい。被覆層130には、第1開口部150および第2開口部152が形成されている。図示の例では、第1開口部150は、第2導電層126の第1領域125の上方に形成され、第1領域125の一部を露出させている。第2開口部152は、第2導電層126の第2領域127の上方に形成され、第2領域127の一部を露出させている。図示はしないが、第1開口部150は、第2導電層126の第1領域125の少なくとも一部を除去して、圧電体層124と第3導電層128とを接触させていてもよい。第2開口部152は、第2導電層126の第2領域127の少なくとも一部を除去して、圧電体層124と第3導電層128とを接触させていてもよい。アクチュエーター100では、被覆層130に第1開口部150が形成されているため、被覆層130によって圧電体層124の変形が妨げられることを抑制することができる。
【0031】
リード配線140は、第2開口部152を介して、第2導電層126と電気的に接続されている。リード配線140は、第2導電層126と外部駆動回路50とを電気的に接続するための配線であることができる。リード配線140は、例えば、第1金属層142と、第2金属層144と、で構成されている。第1金属層142の材質としては、第2金属層144と下地層(例えば、被覆層130)との間の密着性を確保できれば特に限定されず、例えば、ニッケル−クロム合金、チタン、チタンタングステン合金、ニッケル、クロム、が挙げられる。第2金属層144の材質としては、導電性の高い材質であればよく、例えば、金、白金、アルミニウム、銅、が挙げられる。リード配線140は、第1金属層142および第2金属層144以外の層を有していてもよい。第1金属層142の厚さは、例えば、50nm程度である。第2金属層144の厚さは、例えば、1μmである。
【0032】
封止板40は、圧電素子120を封止することができる。封止板40は、圧電素子120を封止するための領域41を有している。封止板40の領域41は、圧電素子120(圧電体層124)の変形を妨げなければ、その大きさおよび形状は特に限定されない。封止板40は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミック、各種樹脂材料等から形成されていてもよい。
【0033】
液体噴射ヘッド1000は、さらに、各種樹脂材料、各種金属材料からなり、上述された構成を収納することができる筐体(図示しない)を有していてもよい。
【0034】
アクチュエーター100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0035】
アクチュエーター100では、被覆膜130に第1開口部150を形成することができる。これにより、圧電体層124を湿気等から保護しつつ、被覆膜130が圧電体層124の変形を妨げることを抑制または防止することができる。したがって、圧電体層124の変形を妨げることなく、信頼性の高いアクチュエーターを得ることができる。
【0036】
アクチュエーター100は、上述のような特徴を有する。したがって、アクチュエーター100を含む液体噴射ヘッド1000によれば、吐出特性が良く、高い信頼性を有することができる。
【0037】
2. アクチュエーターおよび液体噴射ヘッドの製造方法
次に、本実施形態に係るアクチュエーター100および液体噴射ヘッド1000の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図5から図13は、アクチュエーター100および液体噴射ヘッド1000の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0038】
まず、図5に示すように、シリコン基板1上に振動板110を形成する。振動板110は、例えば、スパッタ法などの公知の成膜技術によって形成される。振動板110が酸化シリコンからなる場合、例えば、シリコン基板1を熱酸化することにより形成してもよい。振動板110は、例えば、複数の層(第1層112,第2層114)を成膜して形成してもよい。
【0039】
図6に示すように、振動板110上に第1導電層122を形成する。第1導電層122は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成されることができる。より具体的には、振動板110上の全面に、導電層(図示せず)を形成し、該導電層をパターニングすることにより、第1導電層122を形成することができる。ここで、第1導電層122を形成するための導電層がエッチングによってパターニングされる前に、該導電層の上にエッチング保護膜(図示しない)を形成してもよい。エッチング保護膜は、後述される圧電体層124と同じ圧電材料から形成された圧電体層であってもよい。エッチング保護膜は、少なくとも、第1導電層122が形成される領域に形成されてもよい。これによれば、第1導電層122をパターニングするエッチング工程において、使用されるエッチャントによる化学的なダメージから第1導電層122の表面を保護することができる。
【0040】
図7に示すように、第1導電層122を覆う圧電体膜124dを形成する。圧電体膜124dは、圧電体層124と同じ材料からなることができる。圧電体膜124dは、例えば、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOD(Metal Organic Deposition)法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成されることができる。ここで圧電体膜124dの材質が、たとえばPZTである場合、酸素雰囲気で700℃程度のアニールを行うことにより、圧電体膜124dを結晶化することができる。なお、結晶化は、圧電体膜124dをパターニングした後に行ってもよい。なお、エッチング保護膜が圧電体膜124dと同じ材料で形成されている場合、アニールを行うことにより圧電体膜124dと一体化させることができる。次に、圧電体膜124dの上の全面に第2導電膜126dを形成する。第2導電膜126dは、例えば、第2導電層126と同じ材料からなる。第2導電膜126dは、たとえば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成されることができる。
【0041】
図8に示すように、第2導電膜126dおよび圧電体膜124dをパターニングする。パターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィ技術、エッチング技術によって行うことができる。これにより、圧電体層124および第2導電層126が形成される。第2導電層126は、圧電体層124の厚み方向から見て、第1導電層122と重なる第1領域125と、第1導電層122と重ならない第2領域127と、を有することができる。なお、第2導電膜126dおよび圧電体膜124dをパターニングして、圧電体層124を形成した後、第2導電膜126dをさらにパターニングすることで、第2導電層126を形成してもよい。
【0042】
図9(A)および図9(B)に示すように、圧電体層124の側面124bと、第2導電層126の側面126bおよび上面126aと、に被覆層130を成膜する。すなわち、圧電素子120を覆うように被覆層130を成膜する。被覆層130は、さらに振動板110上に形成されていてもよい。被覆層130は、例えば、スパッタ法により成膜されることができる。
【0043】
図10に示すように、第2導電層126の第1領域125上の一部における被覆層130を除去して第1開口部150を形成し、かつ第2導電層126の第2領域127上の一部における被覆層130を除去して第2開口部152を形成する。具体的には、まず、被覆層130を覆うレジスト層(図示しない)を成膜し、該レジスト層をパターニングする。次に、このレジスト層をマスクとして、被覆層130をエッチングすることにより、開口部150,152を形成することができる。
【0044】
次に、貫通孔16を形成してもよい(図1参照)。具体的には、例えば、貫通孔16の形成される領域の振動板110をエッチングにより除去することで形成することができる。
【0045】
図11に示すように、第2導電層126の第1領域125上、第2導電層126の第2領域127上、および被覆層130上に、第1金属層142を成膜する。さらに、貫通孔16を覆うように第1金属層142を成膜してもよい。第1金属層142は、例えば、スパッタ法により成膜することができる。次に、第1金属層142上に第2金属層144を成膜する。第2導電層144は、例えば、スパッタ法により成膜することができる。
【0046】
図12に示すように、第1金属層142および第2金属層144をパターニングする。これにより、第2開口部152を介して第2導電層126と電気的に接続するリード配線140を形成することができる。具体的には、パターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィ技術、エッチング技術(例えばウエットエッチング)により行うことができる。第1金属層142がニッケル−クロム合金を主成分とする場合、エッチング液としては、例えば、硝酸セリウムアンモニウムを用いることができる。第2導電層144が金を主成分とする場合、エッチング液としては、ヨウ化カリウムを用いることができる。なお、本行程において、第1領域125上に成膜された第1金属層142および第2金属層144は、除去しない。
【0047】
次に、第1領域125上の第2金属層144を除去する。これにより、第3導電層128を形成することができる。第2金属層144は、例えば、フォトリソグラフィ技術、エッチング技術により除去することができる。エッチングは、例えば、ウエットエッチングにより行うことができる。これにより、選択的に第2導電層126を除去することができる。第2導電層144が金を主成分とする場合、エッチング液としては、ヨウ化カリウムを用いることができる。なお、第1領域125上の第2金属層144を除去する工程で、貫通孔16が形成されている領域の周囲の第2金属層144を除去してもよい。これにより、インク等と第2金属層144とが反応して、第2金属層144が熔解することにより、圧電素子120が形成された領域までインク等が侵入することを防止することができる。
【0048】
以上の工程により、アクチュエーター100を製造することができる。
【0049】
図13に示すように、封止板40をアクチュエーター100上に搭載する。これにより、圧電素子120を封止することができる。封止板40は、例えば、接着剤により固定されることができる。次に、シリコン基板1を所定の厚さになるように薄くする、次に、シリコン基板1に圧力室11、供給路13、連通路14およびリザーバー15を形成する(図1および図13参照)。例えば、所望の形状にパターニングされるようにマスク(図示せず)を振動板110が形成された面とは反対側の面に形成し、エッチング処理することによって、圧力室11、壁部12、供給路13、連通路14およびリザーバー15を区画することができる。以上の工程により、圧力室11を有する流路形成板10を形成することができる。次に、ノズル孔21を有したノズル板20を、例えば接着剤等により所定の位置に接合する。これによって、ノズル孔21は、圧力室11と連通する。
【0050】
以上の工程により、液体噴射ヘッド1000を製造することができる。なお、液体噴射ヘッド1000の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。例えば、流路形成板10およびノズル板20を、電鋳法等を用いて一体形成してもよい。
【0051】
本実施形態に係るアクチュエーターの製造方法によれば、被覆膜130に第1開口部150を形成することができる。これにより、圧電体層124を湿気等から保護しつつ、被覆膜130が圧電体層124の変形を妨げることを抑制または防止することができる。したがって、圧電体層124の変形を妨げることなく、信頼性の高いアクチュエーターを得ることができる。
【0052】
本実施形態に係るアクチュエーターの製造方法によれば、第3導電層128が第1領域125上に形成されることができる。第2導電層126は、例えば、第1金属層142を成膜する工程における逆スパッタ、および図10に示す開口部150,152を形成する工程において、オーバーエッチングされて、薄膜化してしまう、あるいは断線してしまう場合がある。しかしながら、本実施形態に係るアクチュエーターの製造方法によれば、第3導電層128が第2導電層126(圧電素子120の一方の電極)として機能することができるため、第2導電層126の薄膜化および断線による高抵抗化を抑制または防止することができる。したがって、信頼性の高いアクチュエーターを得ることができる。特に、第2導電層126に貴金属を適用した際、コストを下げるために第2導電層126の厚みを薄くするが、そのような際に上述の効果が顕著に発生する。
【0053】
本実施形態に係るアクチュエーターの製造方法によれば、第3導電層128が第1金属層142で形成されることができる。すなわち、リード配線140を形成するための第1金属層142を用いて、第3導電層128を形成することができる。したがって、簡易な工程で、信頼性の高いアクチュエーターを得ることができる。
【0054】
本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法によれば、本実施形態に係るアクチュエーターの製造方法を含むことができる。したがって、上述のとおり、信頼性の高い液体噴射ヘッドを得ることができる。
【0055】
なお、ここでは、液体噴射ヘッドがインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、たとえば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0056】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0057】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0058】
1 シリコン基板、10 流路形成板、11 圧力室、12 壁部、13 供給路、
14 連通路、15 リザーバー、16 貫通孔、17 積層体、20 ノズル板、
21 ノズル孔、40 封止板、41 領域、50 外部駆動回路、
100 アクチュエーター、110 振動板、112 第1層、114 第2層、
120 圧電素子、122 第1導電層、124 圧電体層、124a 上面、
124b 側面、124d 圧電体膜、125 第1領域、126 第2導電層、
126a 上面、126b 側面、126d 第2導電膜、127 第2領域、
128 第3導電層、130 被覆層、140 リード配線、142 第1金属層、
144 第2金属層、150 第1開口部、152 第2開口部、
1000 液体噴射ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方に振動板を形成する工程と、
前記振動板の上方に第1導電層を形成する工程と、
前記第1導電層を覆う圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に、前記圧電体層の厚み方向から見て、前記第1導電層と重なる第1領域と、前記第1導電層とは重ならない第2領域と、を有する第2導電層を形成する工程と、
前記圧電体層の側方と、前記第2導電層の側方および上方と、に被覆層を成膜する工程と、
前記第1領域の上方の少なくとも一部における前記被覆層を除去して第1開口部を形成し、かつ前記第2領域の上方の少なくとも一部における前記被覆層を除去して第2開口部を形成する工程と、
前記第1領域の上方、前記第2領域の上方、および前記被覆層の上方に第1金属層を成膜する工程と、
前記第1金属層の上方に第2金属層を成膜する工程と、
前記第1金属層および前記第2金属層をパターニングして、前記第2開口部を介して前記第2導電層と電気的に接続するリード配線を形成する工程と、
前記第1領域の上方に成膜された前記第2金属層を除去して第3導電層を形成する工程と、
を含む、アクチュエーターの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1金属層は、少なくともニッケル−クロム合金を含む層であり、
前記第2金属層は、少なくとも金を含む層である、アクチュエーターの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第2金属層を除去して前記第3導電層を形成する工程は、ウエットエッチングによって行われる、アクチュエーターの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載されたアクチュエーターを形成する工程と、
ノズル孔と連通し、前記アクチュエーターの動作によって容積が変化する圧力室を有する流路形成板を形成する工程と、
を含む、液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−88311(P2011−88311A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242219(P2009−242219)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】