アクチュエータ制御装置
【課題】ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現する。
【解決手段】電気モータなどの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現する。外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定し、電気モータの制御にフィードバックすることで、電気モータの高応答性と人工筋肉やバネ要素の高出力特性をともに活用した力制御を実現する。
【解決手段】電気モータなどの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現する。外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定し、電気モータの制御にフィードバックすることで、電気モータの高応答性と人工筋肉やバネ要素の高出力特性をともに活用した力制御を実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ制御装置に係り、特に、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現するアクチュエータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、さまざまなタイプのロボットの開発が盛んに行なわれている。ロボットとは、目的とする作業を自動的に行なうことができる機械又は装置のことであり、脚式、車輪型、あるいはクローラ式の移動ロボットなど、ハードウェア構成の異なるさまざまなタイプがあるが、基本的には、関節などの複数の可動部を備えている。
【0003】
例えば、人間形のロボットであれば32個又はその前後の自由度で構成される(例えば、特許文献1を参照のこと)。そして、足平や指先などの制御対象の位置や姿勢は、各関節をアクチュエータによって所定の変位量又は変位速度で作動させることにより実現される。また、ロボットが多様な外界との物理インタラクションを行ないながらタスクを遂行する場合においては、位置制御ではなく力制御系で駆動されることが望まれる。
【0004】
また、ロボットの関節用アクチュエータとして、小型且つ高トルクで、しかも応答性に優れている電気モータを用いることが一般的である。特に、ACサーボ・モータ(若しくはDCブラシレス・モータ)は、ブラシがなく、メンテナンス・フリーであることから、無人化された作業空間での適用することができる。
【0005】
電気モータは年々小型化、高出力化が進んでいる。他方、例えばロボット・ハンドなどを製作する場合には、さらに小型にモータを構成する必要があり、十分なトルクを得ることができないという問題がある。
【0006】
他方、電気モータに変わる駆動源として人工筋肉が開発されている。人工筋肉は、例えば形状記憶合金(Ti−Ni系、Cu−Zn−Al系合金など)や水素吸蔵合金アクチュエータ(例えば、非特許文献1を参照のこと)、イオン性EAP(電気駆動型ポリマー)などの高分子アクチュエータ(例えば、非特許文献2を参照のこと)などで構成される。人工筋肉は、ロボット用のアクチュエータ以外にも、高齢者など筋力の弱ったヒトのための補助機械など医療・福祉目的にも使用される。
【0007】
バネ要素や人工筋肉などで構成されるアクチュエータは、小型でも比較的高い出力トルクを得ることができる。しかしながら、電気モータに比べると応答速度が低く、また出力が正確には判らないことから、精度の高い力制御を実現することが困難である。
【0008】
形状記憶合金による形状記憶効果自体は高速であるものの、熱交換速度(とりわけ冷却速度)が遅く有効でない。また、水素吸蔵合金アクチュエータの場合、応答速度は水素吸蔵合金層の熱伝導率に左右され、通電から圧上昇開始までに0.5秒程度の遅延がある。また、高分子アクチュエータは応答速度が秒レベルと概して遅い(非特許文献1〜2を参照のこと)。
【0009】
【特許文献1】特開平13−150371号公報
【非特許文献1】「新版ロボット工学ハンドブック」(コロナ社、2005)
【非特許文献2】長田義仁著「ソフトウェアアクチュエータ開発の最前線:人工筋肉の実現を目指して」(エヌ・ティー・エス、2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現することができる、優れたアクチュエータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、所定の制御対象を駆動するためのアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置であって、
前記制御対象を駆動する、第1の応答速度を持つ第1のアクチュエータと、
前記制御対象を駆動する、前記第1の応答速度よりも速い第2の応答速度を持つ第2のアクチュエータと、
前記制御対象における目標駆動トルクに応じて前記第1のアクチュエータを駆動する第1のアクチュエータ駆動手段と、
前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する出力推定手段と、
目標駆動トルクと前記出力推定手段により推定された出力トルクの差に応じて前記第2のアクチュエータを駆動する第2のアクチュエータ駆動手段と、
を具備することを特徴とするアクチュエータ制御装置である。ここで、前記第1のアクチュエータは人工筋肉又はバネ要素で構成され、前記第2のアクチュエータは電気モータで構成される。
【0012】
ロボットの関節駆動用として電気モータを用いることが一般的であるが、ロボット・ハンドなどのために小型異モータを構成すると十分なトルクを得ることができない。他方、電気モータに変わる駆動源として人工筋肉が開発されて折り、小型でも比較的高い出力トルクを得ることができるが、電気モータに比べると応答速度が低く、また出力が正確には判らないことから、精度の高い力制御を実現することが困難である。
【0013】
そこで、本発明に係るアクチュエータ制御装置は、ロボット・ハンドの関節など、1つの制御対象の駆動用アクチュエータとして、応答速度は遅いが十分な駆動トルクを出力する人工筋肉若しくはバネ要素と、高い応答性を持つ電気モータを併用したハイブリッド・システムを導入している。
【0014】
人工筋肉の駆動トルクを直接計測することはできないが、本発明に係るアクチュエータ制御装置では、電気モータのための外乱アクチュエータを用いて、摩擦などの外乱と同時に人工筋肉の駆動トルクを推定することができる。
【0015】
関節などの制御対象における目標駆動トルクを、第2のアクチュエータとしての電気モータでのみ発生させるときに必要となる指令値として電気モータに与える。このとき、センサなどを用いて、制御対象の駆動状態(現在の関節角速度)を計測する。外乱オブザーバを用いて、その瞬間に前記第1のアクチュエータで発生しているトルクを外乱トルクとともに推定することができる。そして、外乱トルクの推定結果を第2のアクチュエータとしての電気モータの指令値にフィードバックする。
【0016】
人工筋肉のみで関節を駆動した場合には、応答速度が遅い場合がある。また、電気モータのみで関節を駆動した場合には、関節トルクが不足する場合がある。そこで、1つの制御対象を人工筋肉と電気モータを併用して駆動するハイブリッド・システムを構成するとともに、外乱トルクによる人工筋肉の駆動トルクの推定結果に基づいて、人工筋肉による駆動トルクを電気モータで補助したり、あるいは、人工筋肉と電気モータそれぞれのトルクが拮抗したりするようにする。
【0017】
これによって、ハイブリッド・システム全体としては、十分な駆動トルクを得るとともに、精度の高い力制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人工筋肉を用いてロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現することができる、優れたアクチュエータ制御装置を提供することができる。
【0019】
サーボ・モータに代表される電気モータは応答性が高く、精度よく位置制御や力制御を実現することができる。しかしながら、例えばロボット・ハンドのような小型の自動機械を製作する場合、要求を十分に満たす小型で且つ高出力の電気モータは存在しないことが多い。これに対し、本発明では、電気モータなどの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現することができる。
【0020】
人工筋肉やバネ要素は、電気モータに比べ応答が遅く、特性は基本的に相違する。また、人工筋肉やバネ要素による発生力を直接正確に計測できないことから、力目標値を正確に実現できないという問題がある。そこで、本発明では、外乱オブザーバを利用して、人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定するように構成されている。したがって、電気モータの制御にフィードバックすることで、電気モータの高応答性と人工筋肉やバネ要素の高出力特性をともに活用した力制御を実現することができる。
【0021】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0023】
ロボットの関節用アクチュエータとして電気モータを用いることが一般的であるが、例えばロボット・ハンドなどを製作する場合には小型にモータを構成する必要があり、十分なトルクを得ることができない。これに対し、本発明では、電気モータなどの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現する。
【0024】
図1Aには、電気モータと人工筋肉を併用して関節駆動を行なうハイブリッド・システムの構成例を示している。人工筋肉は、電気モータに比べると応答速度が遅く、また、出力が正確に分からないため精度の高い力制御を実現することは困難である。このため、人工筋肉と電気モータを併用したハイブリッド・システム全体としても、応答が遅く、力目標値を実現できないことになる。
【0025】
なお、人工筋肉の代替若しくは等価的な手段として、空気圧アクチュエータや油圧アクチュエータ、さまざまなエンジンを適用することができる。
【0026】
また、図1Bに示すように人工筋肉ではなくバネ要素を適用したハイブリッド・システムも考えられるが、バネ要素の出力が正確に分からないことから、精度の高い力制御を実現することは同様に困難である。なお、バネ要素としてはさまざまな弾性素材の復元力を利用して構成することができる。
【0027】
そこで、本発明では、外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定しフィードバックすることにより、電気モータの高応答性と人工筋肉やバネ要素などの高出力性をともに活かした力制御を実現するようにした。
【0028】
図2には、人工筋肉の出力に対する外乱オブザーバ並びにフィードバック機能を備えたハイブリッド・システムの機能的構成を示している。また、図3には、同システム10において電気モータ及び人工筋肉の各アクチュエータを駆動制御するための処理手順をフローチャートの形式で示している。同システム10は、図3に示した処理手順を、所定の制御周期(例えば1ミリ秒)毎に実行する。
【0029】
目標関節トルク決定部11は、例えばロボットの動作計画を司る上位アプリケーションからの指令に基づいて、制御対象となる関節部において生成すべき目標トルクを決定する(ステップS1)。
【0030】
次いで、人工筋肉駆動トルク制御部12は、先行ステップS1において決定した目標トルクを実現するように、人工筋肉及び電気モータからなるハイブリッド関節部14を駆動する(ステップS2)。但し、人工筋肉は、応答が遅いため、実際には目標通りのトルクは出力できないことが想定される。また、人工筋肉から出力されているトルクは直接計測することができない。
【0031】
ハイブリッド関節部14では、人工筋肉駆動トルク制御部12からの駆動トルク発生指示により人工筋肉が動作するとともに、電気モータ駆動トルク制御部13からの駆動トルク発生指示により電気モータが動作して、これらの協働的作用として制御対象の関節を駆動することができる。
【0032】
ここで、電気モータの電流指令値及びこれに伴うモータ回転角速度は回転センサなどで計測することが可能である。ステップS3では、現在の電気モータの電流指令値が計測される。
【0033】
また、関節角速度計測部15は、人工筋肉と電気モータの協働的作用により駆動した関節の角速度を計測する(ステップS4)。
【0034】
人工筋肉駆動トルク推定部16は、ステップS3において計測された電気モータの電流指令値と、ステップS4において現在の関節角速度の計測値に基づいて、人工筋肉によって発生している関節トルクを、外乱オブザーバにより推定する(ステップS5)。このとき、関節で摩擦が発生している場合や、重力の影響なども同時に推定される。
【0035】
人工筋肉によって発生している関節トルクを直接計測することはできない。そこで、ハイブリッド関節部14は、電気モータで発生させたいトルクと人工筋肉によって発生させたいトルクの合計を、仮に電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与える。そして、人工筋肉駆動トルク推定部16は、電気モータの外乱抑制制御のために用いられる外乱オブザーバを用いることによって、その瞬間に人工筋肉で発生しているトルクを、摩擦などに起因する外乱トルクとともに推定する。
【0036】
人工筋肉が出力する駆動トルクを摩擦などに起因する外乱トルクとともに外乱オブザーバを用いて推定する仕組みについては後述に譲る。なお、外乱オブザーバの詳細に関しては、例えば、堀洋一、大西公平共著「応用制御工学」(丸善株式会社 1998)、島田明著「モーションコントロール」(オーム社、2004)などに記載されている。
【0037】
そして、人工筋肉駆動トルク推定部16は、目標関節トルク決定部11からの目標トルク指令にフィードバックする。
【0038】
ハイブリッド関節部14が人工筋肉のみで関節を駆動した場合には、応答速度が遅い場合がある。また、ハイブリッド関節部14が電気モータのみで関節を駆動した場合には、関節トルクが不足する場合がある。そこで、ハイブリッド関節部14は、人工筋肉トルク推定部16による駆動トルクの推定結果に基づいて、人工筋肉による駆動トルクを電気モータで補助したり、あるいは、人工筋肉と電気モータそれぞれのトルクが拮抗したりするようにする。
【0039】
人工筋肉駆動トルク推定部16により推定された駆動トルクが目標トルクに対して不足している場合には(ステップS6のYes)、ハイブリッド関節部14は、ステップS5で推定された人工筋肉の駆動トルクでは目標関節トルクから不足するトルクを電気モータで補う(ステップS7)。
【0040】
一方、人工筋肉駆動トルク推定部16により推定された駆動トルクが目標トルクを超えている場合には(ステップS6のNo)、ハイブリッド関節部14は、電気モータで逆向きのトルクを関節に印加することで、ステップS5で推定された人工筋肉の駆動トルクが目標関節トルクから超えるトルクを調整する(ステップS8)。
【0041】
図4には、外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定して、人工筋肉及び電気モータをフィードバック制御するための制御ブロック線図を示している。
【0042】
決定された目標関節トルクに基づいて、電流指令値iaref(ia)が、電気モータ及び人工筋肉にそれぞれ入力される。すなわち、所望する関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値iaが電気モータに対する電流指令値として与えられる。
【0043】
このとき、電気モータには、電流指令値iaと現実のトルク定数Ktに応じたトルクTMが発生する。そして、当該フィードバック制御系としては、電流指令値iaとトルク定数のノミナル値Ktnに応じたトルクTMnを見積もることができる。また、人工筋肉には、電流指令値iaに応じたトルクTSが発生する。
【0044】
電気モータには、電流指示値iaに応じた現実の発生トルクTMとともに、人工筋肉による発生トルクTSと、摩擦などに起因する外乱トルクTDが加わり、これらの合計トルクによって電気モータの現実の機械モデル1/(Js+B)が駆動され、モータの回転角速度dθ/dtがセンサにより観測される。但し、Jは電気モータが持つ慣性モーメントであり、Bは電気モータの粘性抵抗係数である。
【0045】
一方、電気モータの現実の慣性モーメントJや粘性抵抗係数Bは不知であり、これらのノミナル値Jn並びにBnしか分からない。そして、計測されたモータ回転角速度に対し電気モータのノミナルの機械モデル1/(Jns+Bn)を逆算することで、電気モータに印加されたノミナルのトルクが算出される。ここで求まるノミナルのトルクには、電流指令値iaに応じて電気モータに発生するトルクと、摩擦などに起因する外乱トルクTDと、人工筋肉による発生トルクTSが含まれる。
【0046】
一方、上述したように、電流指令値iaとトルク定数のノミナル値Ktnに応じたトルクTMnが見積もられている。電気モータに印加されたノミナルのトルクから、電流指令値iaに応じた電気モータのノミナルの発生トルクKtnを減算することで、摩擦などに起因する外乱トルクTDと、人工筋肉による発生トルクTSが推定される。図示の制御ブロック線図では、ローパス・フィルタ(ωC/(s+ωC))を通して高周波成分を除去して、TD+TSの推定値を得ている(但し、ωCはカットオフ周波数)。
【0047】
このようにして、外乱オブザーバを利用して、人工筋肉の出力トルクTSを関節の摩擦などの外乱トルクTDと同時に推定することができる。電気モータに印加されたトルクのノミナル値が目標トルクのノミナル値に不足する場合には、TD+TSの推定値は負の値となる。また、電気モータに印加されたトルクのノミナル値が目標トルクのノミナル値を超えるときには、TD+TSの推定値は正の値となる。
【0048】
そして、TD+TSの推定値を電気モータのトルク定数のノミナル値Ktnで逆算することで、目標関節トルクから決定される電流指令値iarefに対するフィードバック電流が求まり、このフィードバック電流を電流指令値iarefから減算して、電気モータへの供給電流iaが求められる。
【0049】
このように、図4に示した制御フィードバック系では、目標関節トルクを電気モータで発生させたいトルクと人工筋肉によって発生させたいトルクの合計で実現するように構成されている。この目標関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与える。このとき、電気モータの外乱抑制制御のために用いられる外乱オブザーバを用いることによって、その瞬間に人工筋肉で発生しているトルクを、摩擦などに起因する外乱トルクを含んだ外乱トルクとして推定することができる。そして、推定された外乱トルクをキャンセルするように、電気モータへの供給電流をフィードバック制御することで、ハイブリッド・システム全体としては、十分な駆動トルクを得るとともに、精度の高い力制御を実現することができる。
【0050】
電気モータは、外乱オブザーバによる関節駆動トルクの推定結果に基づいて、人工筋肉による駆動トルクを電気モータで補助したり、あるいは、人工筋肉と電気モータそれぞれのトルクが拮抗したりするように動作する。
【0051】
人工筋肉の応答速度は、電気モータに比べて極めて遅い。人工筋肉のみで関節を駆動した場合には、制御指令を発してから人工筋肉による駆動トルクが目標トルクに到達するまでには長い時間を要する。このため、図5に示すように、人工筋肉の出力が定常化する過渡期では、目標トルクと人工筋肉の駆動トルクを比較すると、駆動トルクが不足する。
【0052】
一方、電気モータの応答速度は非常に速いが、ロボット・ハンドを製作する場合のようにスペースや重量が制限されると、トルクが不足することが多い。このため、図6に示すように、目標トルクの決定とともに電気モータは定常的なトルクを出力するが、目標トルクと電気モータの駆動トルクを比較すると、駆動トルクが不足したままとなる。
【0053】
本実施形態に係るハイブリッド・システムでは、目標関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与えるようになっている。図7には、この場合の人工筋肉と電気モータそれぞれの動作特性を示している。人工筋肉の応答が遅いために駆動トルクが不足するときには、図7に示すように、電気モータが素早く作動してその不足分を補償する。よって、図8に示すように、人工筋肉による駆動トルクと電気モータによる駆動トルクを加算した駆動トルクの合計により目標トルクを実現することができる。この場合、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向は図9に示すように同一の方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動を補助している格好となる。
【0054】
他方、人工筋肉の駆動トルクにオーバーシュートが生じたり、目標トルクが急に減少したりした場合には、図10に示すように、人工筋肉による駆動トルクが過大となる。本実施形態に係るハイブリッド・システムでは、人工筋肉により発生する過大な駆動トルクを相殺するために、図10中の点線で示すように、電気モータで逆向きの駆動トルクを発生させる。この結果、図11に示すように、人工筋肉による駆動トルクと電気モータによる駆動トルクの合計が目標トルクに一致するように制御することができる。この場合、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向は図12に示すように逆方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動と拮抗している格好となるが、制御系での切り替えを行なうことなく、補助する場合(図9を参照のこと)と統一的に制御することができる。図9と図12の相違は、図4に示したブロック線図において、電流フィードバックの符号が反転することだけである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0056】
本明細書では、ロボット・ハンドに適用した場合を例示して本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。制御対象を高い応答性により高精度で力制御を行なう必要があるとともに電気モータでは十分なトルクを得ることができないようなさまざまな自動機械において、同様に本発明を適用することができる。
【0057】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1A】図1Aは、電気モータと人工筋肉を併用して関節駆動を行なうハイブリッド・システムの構成例を示した図である。
【図1B】図1Bは、電気モータとバネ要素を併用して関節駆動を行なうハイブリッド・システムの構成例を示した図である。
【図2】図2は、人工筋肉の出力に対する外乱オブザーバ並びにフィードバック機能を備えたハイブリッド・システムの機能的構成を示した図である。
【図3】図3は、図2に示したシステムにおいて電気モータ及び人工筋肉の各アクチュエータを駆動制御するための処理手順を示したフローチャートである。
【図4】図4は、外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定して、人工筋肉及び電気モータをフィードバック制御するための制御ブロック線図である。
【図5】図5は、人工筋肉が制御指令を受け取ってから駆動トルクが目標トルクに到達するまでの動作特性を示した図である。
【図6】図6は、電気モータが制御指令に応じた駆動トルクを出力する動作特性を示した図である。
【図7】図7は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、目標関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与えたときの、人工筋肉と電気モータそれぞれの動作特性を示した図である。
【図8】図8は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、人工筋肉の応答が遅いために不足する駆動トルクを電気モータで補償して高い精度で目標トルクを実現する動作特性を示した図である。
【図9】図9は、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動を補助している様子を示した図である。
【図10】図10は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、人工筋肉の駆動トルクにオーバーシュートが生じたり、目標トルクが急に減少したりした場合における人工筋肉と電気モータそれぞれの動作特性を示した図である。
【図11】図11は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、人工筋肉により発生する過大な駆動トルクを電気モータによって相殺することによって高い精度で目標トルクを実現する動作特性を示した図である。
【図12】図12は、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向が逆方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動と拮抗している様子を示した図である。
【符号の説明】
【0059】
10…ハイブリッド・システム
11…目標関節トルク決定部
12…人工筋肉駆動トルク制御部
13…電気モータ駆動トルク制御部
14…ハイブリッド関節部
15…関節角速度計測部
16…人工筋肉駆動トルク推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ制御装置に係り、特に、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現するアクチュエータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、さまざまなタイプのロボットの開発が盛んに行なわれている。ロボットとは、目的とする作業を自動的に行なうことができる機械又は装置のことであり、脚式、車輪型、あるいはクローラ式の移動ロボットなど、ハードウェア構成の異なるさまざまなタイプがあるが、基本的には、関節などの複数の可動部を備えている。
【0003】
例えば、人間形のロボットであれば32個又はその前後の自由度で構成される(例えば、特許文献1を参照のこと)。そして、足平や指先などの制御対象の位置や姿勢は、各関節をアクチュエータによって所定の変位量又は変位速度で作動させることにより実現される。また、ロボットが多様な外界との物理インタラクションを行ないながらタスクを遂行する場合においては、位置制御ではなく力制御系で駆動されることが望まれる。
【0004】
また、ロボットの関節用アクチュエータとして、小型且つ高トルクで、しかも応答性に優れている電気モータを用いることが一般的である。特に、ACサーボ・モータ(若しくはDCブラシレス・モータ)は、ブラシがなく、メンテナンス・フリーであることから、無人化された作業空間での適用することができる。
【0005】
電気モータは年々小型化、高出力化が進んでいる。他方、例えばロボット・ハンドなどを製作する場合には、さらに小型にモータを構成する必要があり、十分なトルクを得ることができないという問題がある。
【0006】
他方、電気モータに変わる駆動源として人工筋肉が開発されている。人工筋肉は、例えば形状記憶合金(Ti−Ni系、Cu−Zn−Al系合金など)や水素吸蔵合金アクチュエータ(例えば、非特許文献1を参照のこと)、イオン性EAP(電気駆動型ポリマー)などの高分子アクチュエータ(例えば、非特許文献2を参照のこと)などで構成される。人工筋肉は、ロボット用のアクチュエータ以外にも、高齢者など筋力の弱ったヒトのための補助機械など医療・福祉目的にも使用される。
【0007】
バネ要素や人工筋肉などで構成されるアクチュエータは、小型でも比較的高い出力トルクを得ることができる。しかしながら、電気モータに比べると応答速度が低く、また出力が正確には判らないことから、精度の高い力制御を実現することが困難である。
【0008】
形状記憶合金による形状記憶効果自体は高速であるものの、熱交換速度(とりわけ冷却速度)が遅く有効でない。また、水素吸蔵合金アクチュエータの場合、応答速度は水素吸蔵合金層の熱伝導率に左右され、通電から圧上昇開始までに0.5秒程度の遅延がある。また、高分子アクチュエータは応答速度が秒レベルと概して遅い(非特許文献1〜2を参照のこと)。
【0009】
【特許文献1】特開平13−150371号公報
【非特許文献1】「新版ロボット工学ハンドブック」(コロナ社、2005)
【非特許文献2】長田義仁著「ソフトウェアアクチュエータ開発の最前線:人工筋肉の実現を目指して」(エヌ・ティー・エス、2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現することができる、優れたアクチュエータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、所定の制御対象を駆動するためのアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置であって、
前記制御対象を駆動する、第1の応答速度を持つ第1のアクチュエータと、
前記制御対象を駆動する、前記第1の応答速度よりも速い第2の応答速度を持つ第2のアクチュエータと、
前記制御対象における目標駆動トルクに応じて前記第1のアクチュエータを駆動する第1のアクチュエータ駆動手段と、
前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する出力推定手段と、
目標駆動トルクと前記出力推定手段により推定された出力トルクの差に応じて前記第2のアクチュエータを駆動する第2のアクチュエータ駆動手段と、
を具備することを特徴とするアクチュエータ制御装置である。ここで、前記第1のアクチュエータは人工筋肉又はバネ要素で構成され、前記第2のアクチュエータは電気モータで構成される。
【0012】
ロボットの関節駆動用として電気モータを用いることが一般的であるが、ロボット・ハンドなどのために小型異モータを構成すると十分なトルクを得ることができない。他方、電気モータに変わる駆動源として人工筋肉が開発されて折り、小型でも比較的高い出力トルクを得ることができるが、電気モータに比べると応答速度が低く、また出力が正確には判らないことから、精度の高い力制御を実現することが困難である。
【0013】
そこで、本発明に係るアクチュエータ制御装置は、ロボット・ハンドの関節など、1つの制御対象の駆動用アクチュエータとして、応答速度は遅いが十分な駆動トルクを出力する人工筋肉若しくはバネ要素と、高い応答性を持つ電気モータを併用したハイブリッド・システムを導入している。
【0014】
人工筋肉の駆動トルクを直接計測することはできないが、本発明に係るアクチュエータ制御装置では、電気モータのための外乱アクチュエータを用いて、摩擦などの外乱と同時に人工筋肉の駆動トルクを推定することができる。
【0015】
関節などの制御対象における目標駆動トルクを、第2のアクチュエータとしての電気モータでのみ発生させるときに必要となる指令値として電気モータに与える。このとき、センサなどを用いて、制御対象の駆動状態(現在の関節角速度)を計測する。外乱オブザーバを用いて、その瞬間に前記第1のアクチュエータで発生しているトルクを外乱トルクとともに推定することができる。そして、外乱トルクの推定結果を第2のアクチュエータとしての電気モータの指令値にフィードバックする。
【0016】
人工筋肉のみで関節を駆動した場合には、応答速度が遅い場合がある。また、電気モータのみで関節を駆動した場合には、関節トルクが不足する場合がある。そこで、1つの制御対象を人工筋肉と電気モータを併用して駆動するハイブリッド・システムを構成するとともに、外乱トルクによる人工筋肉の駆動トルクの推定結果に基づいて、人工筋肉による駆動トルクを電気モータで補助したり、あるいは、人工筋肉と電気モータそれぞれのトルクが拮抗したりするようにする。
【0017】
これによって、ハイブリッド・システム全体としては、十分な駆動トルクを得るとともに、精度の高い力制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人工筋肉を用いてロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現することができる、優れたアクチュエータ制御装置を提供することができる。
【0019】
サーボ・モータに代表される電気モータは応答性が高く、精度よく位置制御や力制御を実現することができる。しかしながら、例えばロボット・ハンドのような小型の自動機械を製作する場合、要求を十分に満たす小型で且つ高出力の電気モータは存在しないことが多い。これに対し、本発明では、電気モータなどの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現することができる。
【0020】
人工筋肉やバネ要素は、電気モータに比べ応答が遅く、特性は基本的に相違する。また、人工筋肉やバネ要素による発生力を直接正確に計測できないことから、力目標値を正確に実現できないという問題がある。そこで、本発明では、外乱オブザーバを利用して、人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定するように構成されている。したがって、電気モータの制御にフィードバックすることで、電気モータの高応答性と人工筋肉やバネ要素の高出力特性をともに活用した力制御を実現することができる。
【0021】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0023】
ロボットの関節用アクチュエータとして電気モータを用いることが一般的であるが、例えばロボット・ハンドなどを製作する場合には小型にモータを構成する必要があり、十分なトルクを得ることができない。これに対し、本発明では、電気モータなどの応答性の高いアクチュエータと、人工筋肉やバネ要素などの応答性の低いアクチュエータを併用して、ロボット・ハンドなどに適用可能となる十分な出力の力制御を実現する。
【0024】
図1Aには、電気モータと人工筋肉を併用して関節駆動を行なうハイブリッド・システムの構成例を示している。人工筋肉は、電気モータに比べると応答速度が遅く、また、出力が正確に分からないため精度の高い力制御を実現することは困難である。このため、人工筋肉と電気モータを併用したハイブリッド・システム全体としても、応答が遅く、力目標値を実現できないことになる。
【0025】
なお、人工筋肉の代替若しくは等価的な手段として、空気圧アクチュエータや油圧アクチュエータ、さまざまなエンジンを適用することができる。
【0026】
また、図1Bに示すように人工筋肉ではなくバネ要素を適用したハイブリッド・システムも考えられるが、バネ要素の出力が正確に分からないことから、精度の高い力制御を実現することは同様に困難である。なお、バネ要素としてはさまざまな弾性素材の復元力を利用して構成することができる。
【0027】
そこで、本発明では、外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定しフィードバックすることにより、電気モータの高応答性と人工筋肉やバネ要素などの高出力性をともに活かした力制御を実現するようにした。
【0028】
図2には、人工筋肉の出力に対する外乱オブザーバ並びにフィードバック機能を備えたハイブリッド・システムの機能的構成を示している。また、図3には、同システム10において電気モータ及び人工筋肉の各アクチュエータを駆動制御するための処理手順をフローチャートの形式で示している。同システム10は、図3に示した処理手順を、所定の制御周期(例えば1ミリ秒)毎に実行する。
【0029】
目標関節トルク決定部11は、例えばロボットの動作計画を司る上位アプリケーションからの指令に基づいて、制御対象となる関節部において生成すべき目標トルクを決定する(ステップS1)。
【0030】
次いで、人工筋肉駆動トルク制御部12は、先行ステップS1において決定した目標トルクを実現するように、人工筋肉及び電気モータからなるハイブリッド関節部14を駆動する(ステップS2)。但し、人工筋肉は、応答が遅いため、実際には目標通りのトルクは出力できないことが想定される。また、人工筋肉から出力されているトルクは直接計測することができない。
【0031】
ハイブリッド関節部14では、人工筋肉駆動トルク制御部12からの駆動トルク発生指示により人工筋肉が動作するとともに、電気モータ駆動トルク制御部13からの駆動トルク発生指示により電気モータが動作して、これらの協働的作用として制御対象の関節を駆動することができる。
【0032】
ここで、電気モータの電流指令値及びこれに伴うモータ回転角速度は回転センサなどで計測することが可能である。ステップS3では、現在の電気モータの電流指令値が計測される。
【0033】
また、関節角速度計測部15は、人工筋肉と電気モータの協働的作用により駆動した関節の角速度を計測する(ステップS4)。
【0034】
人工筋肉駆動トルク推定部16は、ステップS3において計測された電気モータの電流指令値と、ステップS4において現在の関節角速度の計測値に基づいて、人工筋肉によって発生している関節トルクを、外乱オブザーバにより推定する(ステップS5)。このとき、関節で摩擦が発生している場合や、重力の影響なども同時に推定される。
【0035】
人工筋肉によって発生している関節トルクを直接計測することはできない。そこで、ハイブリッド関節部14は、電気モータで発生させたいトルクと人工筋肉によって発生させたいトルクの合計を、仮に電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与える。そして、人工筋肉駆動トルク推定部16は、電気モータの外乱抑制制御のために用いられる外乱オブザーバを用いることによって、その瞬間に人工筋肉で発生しているトルクを、摩擦などに起因する外乱トルクとともに推定する。
【0036】
人工筋肉が出力する駆動トルクを摩擦などに起因する外乱トルクとともに外乱オブザーバを用いて推定する仕組みについては後述に譲る。なお、外乱オブザーバの詳細に関しては、例えば、堀洋一、大西公平共著「応用制御工学」(丸善株式会社 1998)、島田明著「モーションコントロール」(オーム社、2004)などに記載されている。
【0037】
そして、人工筋肉駆動トルク推定部16は、目標関節トルク決定部11からの目標トルク指令にフィードバックする。
【0038】
ハイブリッド関節部14が人工筋肉のみで関節を駆動した場合には、応答速度が遅い場合がある。また、ハイブリッド関節部14が電気モータのみで関節を駆動した場合には、関節トルクが不足する場合がある。そこで、ハイブリッド関節部14は、人工筋肉トルク推定部16による駆動トルクの推定結果に基づいて、人工筋肉による駆動トルクを電気モータで補助したり、あるいは、人工筋肉と電気モータそれぞれのトルクが拮抗したりするようにする。
【0039】
人工筋肉駆動トルク推定部16により推定された駆動トルクが目標トルクに対して不足している場合には(ステップS6のYes)、ハイブリッド関節部14は、ステップS5で推定された人工筋肉の駆動トルクでは目標関節トルクから不足するトルクを電気モータで補う(ステップS7)。
【0040】
一方、人工筋肉駆動トルク推定部16により推定された駆動トルクが目標トルクを超えている場合には(ステップS6のNo)、ハイブリッド関節部14は、電気モータで逆向きのトルクを関節に印加することで、ステップS5で推定された人工筋肉の駆動トルクが目標関節トルクから超えるトルクを調整する(ステップS8)。
【0041】
図4には、外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定して、人工筋肉及び電気モータをフィードバック制御するための制御ブロック線図を示している。
【0042】
決定された目標関節トルクに基づいて、電流指令値iaref(ia)が、電気モータ及び人工筋肉にそれぞれ入力される。すなわち、所望する関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値iaが電気モータに対する電流指令値として与えられる。
【0043】
このとき、電気モータには、電流指令値iaと現実のトルク定数Ktに応じたトルクTMが発生する。そして、当該フィードバック制御系としては、電流指令値iaとトルク定数のノミナル値Ktnに応じたトルクTMnを見積もることができる。また、人工筋肉には、電流指令値iaに応じたトルクTSが発生する。
【0044】
電気モータには、電流指示値iaに応じた現実の発生トルクTMとともに、人工筋肉による発生トルクTSと、摩擦などに起因する外乱トルクTDが加わり、これらの合計トルクによって電気モータの現実の機械モデル1/(Js+B)が駆動され、モータの回転角速度dθ/dtがセンサにより観測される。但し、Jは電気モータが持つ慣性モーメントであり、Bは電気モータの粘性抵抗係数である。
【0045】
一方、電気モータの現実の慣性モーメントJや粘性抵抗係数Bは不知であり、これらのノミナル値Jn並びにBnしか分からない。そして、計測されたモータ回転角速度に対し電気モータのノミナルの機械モデル1/(Jns+Bn)を逆算することで、電気モータに印加されたノミナルのトルクが算出される。ここで求まるノミナルのトルクには、電流指令値iaに応じて電気モータに発生するトルクと、摩擦などに起因する外乱トルクTDと、人工筋肉による発生トルクTSが含まれる。
【0046】
一方、上述したように、電流指令値iaとトルク定数のノミナル値Ktnに応じたトルクTMnが見積もられている。電気モータに印加されたノミナルのトルクから、電流指令値iaに応じた電気モータのノミナルの発生トルクKtnを減算することで、摩擦などに起因する外乱トルクTDと、人工筋肉による発生トルクTSが推定される。図示の制御ブロック線図では、ローパス・フィルタ(ωC/(s+ωC))を通して高周波成分を除去して、TD+TSの推定値を得ている(但し、ωCはカットオフ周波数)。
【0047】
このようにして、外乱オブザーバを利用して、人工筋肉の出力トルクTSを関節の摩擦などの外乱トルクTDと同時に推定することができる。電気モータに印加されたトルクのノミナル値が目標トルクのノミナル値に不足する場合には、TD+TSの推定値は負の値となる。また、電気モータに印加されたトルクのノミナル値が目標トルクのノミナル値を超えるときには、TD+TSの推定値は正の値となる。
【0048】
そして、TD+TSの推定値を電気モータのトルク定数のノミナル値Ktnで逆算することで、目標関節トルクから決定される電流指令値iarefに対するフィードバック電流が求まり、このフィードバック電流を電流指令値iarefから減算して、電気モータへの供給電流iaが求められる。
【0049】
このように、図4に示した制御フィードバック系では、目標関節トルクを電気モータで発生させたいトルクと人工筋肉によって発生させたいトルクの合計で実現するように構成されている。この目標関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与える。このとき、電気モータの外乱抑制制御のために用いられる外乱オブザーバを用いることによって、その瞬間に人工筋肉で発生しているトルクを、摩擦などに起因する外乱トルクを含んだ外乱トルクとして推定することができる。そして、推定された外乱トルクをキャンセルするように、電気モータへの供給電流をフィードバック制御することで、ハイブリッド・システム全体としては、十分な駆動トルクを得るとともに、精度の高い力制御を実現することができる。
【0050】
電気モータは、外乱オブザーバによる関節駆動トルクの推定結果に基づいて、人工筋肉による駆動トルクを電気モータで補助したり、あるいは、人工筋肉と電気モータそれぞれのトルクが拮抗したりするように動作する。
【0051】
人工筋肉の応答速度は、電気モータに比べて極めて遅い。人工筋肉のみで関節を駆動した場合には、制御指令を発してから人工筋肉による駆動トルクが目標トルクに到達するまでには長い時間を要する。このため、図5に示すように、人工筋肉の出力が定常化する過渡期では、目標トルクと人工筋肉の駆動トルクを比較すると、駆動トルクが不足する。
【0052】
一方、電気モータの応答速度は非常に速いが、ロボット・ハンドを製作する場合のようにスペースや重量が制限されると、トルクが不足することが多い。このため、図6に示すように、目標トルクの決定とともに電気モータは定常的なトルクを出力するが、目標トルクと電気モータの駆動トルクを比較すると、駆動トルクが不足したままとなる。
【0053】
本実施形態に係るハイブリッド・システムでは、目標関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与えるようになっている。図7には、この場合の人工筋肉と電気モータそれぞれの動作特性を示している。人工筋肉の応答が遅いために駆動トルクが不足するときには、図7に示すように、電気モータが素早く作動してその不足分を補償する。よって、図8に示すように、人工筋肉による駆動トルクと電気モータによる駆動トルクを加算した駆動トルクの合計により目標トルクを実現することができる。この場合、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向は図9に示すように同一の方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動を補助している格好となる。
【0054】
他方、人工筋肉の駆動トルクにオーバーシュートが生じたり、目標トルクが急に減少したりした場合には、図10に示すように、人工筋肉による駆動トルクが過大となる。本実施形態に係るハイブリッド・システムでは、人工筋肉により発生する過大な駆動トルクを相殺するために、図10中の点線で示すように、電気モータで逆向きの駆動トルクを発生させる。この結果、図11に示すように、人工筋肉による駆動トルクと電気モータによる駆動トルクの合計が目標トルクに一致するように制御することができる。この場合、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向は図12に示すように逆方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動と拮抗している格好となるが、制御系での切り替えを行なうことなく、補助する場合(図9を参照のこと)と統一的に制御することができる。図9と図12の相違は、図4に示したブロック線図において、電流フィードバックの符号が反転することだけである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0056】
本明細書では、ロボット・ハンドに適用した場合を例示して本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。制御対象を高い応答性により高精度で力制御を行なう必要があるとともに電気モータでは十分なトルクを得ることができないようなさまざまな自動機械において、同様に本発明を適用することができる。
【0057】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1A】図1Aは、電気モータと人工筋肉を併用して関節駆動を行なうハイブリッド・システムの構成例を示した図である。
【図1B】図1Bは、電気モータとバネ要素を併用して関節駆動を行なうハイブリッド・システムの構成例を示した図である。
【図2】図2は、人工筋肉の出力に対する外乱オブザーバ並びにフィードバック機能を備えたハイブリッド・システムの機能的構成を示した図である。
【図3】図3は、図2に示したシステムにおいて電気モータ及び人工筋肉の各アクチュエータを駆動制御するための処理手順を示したフローチャートである。
【図4】図4は、外乱オブザーバを利用して人工筋肉やバネ要素などの出力を関節の摩擦などの外乱と同時に推定して、人工筋肉及び電気モータをフィードバック制御するための制御ブロック線図である。
【図5】図5は、人工筋肉が制御指令を受け取ってから駆動トルクが目標トルクに到達するまでの動作特性を示した図である。
【図6】図6は、電気モータが制御指令に応じた駆動トルクを出力する動作特性を示した図である。
【図7】図7は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、目標関節トルクを電気モータでのみ発生させるときに必要となる電流値を電気モータに対する電流指令値として与えたときの、人工筋肉と電気モータそれぞれの動作特性を示した図である。
【図8】図8は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、人工筋肉の応答が遅いために不足する駆動トルクを電気モータで補償して高い精度で目標トルクを実現する動作特性を示した図である。
【図9】図9は、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動を補助している様子を示した図である。
【図10】図10は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、人工筋肉の駆動トルクにオーバーシュートが生じたり、目標トルクが急に減少したりした場合における人工筋肉と電気モータそれぞれの動作特性を示した図である。
【図11】図11は、本発明に係るハイブリッド・システムにおいて、人工筋肉により発生する過大な駆動トルクを電気モータによって相殺することによって高い精度で目標トルクを実現する動作特性を示した図である。
【図12】図12は、人工筋肉で発生する駆動トルクの方向と電気モータで発生する駆動トルクの方向が逆方向となり、電気モータが人工筋肉の駆動と拮抗している様子を示した図である。
【符号の説明】
【0059】
10…ハイブリッド・システム
11…目標関節トルク決定部
12…人工筋肉駆動トルク制御部
13…電気モータ駆動トルク制御部
14…ハイブリッド関節部
15…関節角速度計測部
16…人工筋肉駆動トルク推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の制御対象を駆動するためのアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置であって、
前記制御対象を駆動する、第1の応答速度を持つ第1のアクチュエータと、
前記制御対象を駆動する、前記第1の応答速度よりも速い第2の応答速度を持つ第2のアクチュエータと、
前記制御対象における目標駆動トルクに応じて前記第1のアクチュエータを駆動する第1のアクチュエータ駆動手段と、
前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する出力推定手段と、
目標駆動トルクと前記出力推定手段により推定された出力トルクの差に応じて前記第2のアクチュエータを駆動する第2のアクチュエータ駆動手段と、
を具備することを特徴とするアクチュエータ制御装置。
【請求項2】
前記第1のアクチュエータは人工筋肉又はバネ要素で構成され、前記第2のアクチュエータは電気モータで構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項3】
前記出力推定手段は、外乱オブザーバにより前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項4】
前記制御対象の駆動状態を計測する状態計測手段をさらに備え、
前記出力推定手段は、前記第2のアクチュエータ駆動手段による前記第2のアクチュエータへの制御指令値と、前記状態計測手段による計測結果に基づいて、前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項5】
前記第2のアクチュエータで発生させたいトルクと、前記第1のアクチュエータによって発生させたいトルクの合計を、前記第2のアクチュエータでのみ発生させるときに必要となる指令値として前記第2のアクチュエータに与え、前記出力推定手段は、外乱オブザーバを用いて、その瞬間に前記第1のアクチュエータで発生しているトルクを外乱トルクとともに推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項1】
所定の制御対象を駆動するためのアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置であって、
前記制御対象を駆動する、第1の応答速度を持つ第1のアクチュエータと、
前記制御対象を駆動する、前記第1の応答速度よりも速い第2の応答速度を持つ第2のアクチュエータと、
前記制御対象における目標駆動トルクに応じて前記第1のアクチュエータを駆動する第1のアクチュエータ駆動手段と、
前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する出力推定手段と、
目標駆動トルクと前記出力推定手段により推定された出力トルクの差に応じて前記第2のアクチュエータを駆動する第2のアクチュエータ駆動手段と、
を具備することを特徴とするアクチュエータ制御装置。
【請求項2】
前記第1のアクチュエータは人工筋肉又はバネ要素で構成され、前記第2のアクチュエータは電気モータで構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項3】
前記出力推定手段は、外乱オブザーバにより前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項4】
前記制御対象の駆動状態を計測する状態計測手段をさらに備え、
前記出力推定手段は、前記第2のアクチュエータ駆動手段による前記第2のアクチュエータへの制御指令値と、前記状態計測手段による計測結果に基づいて、前記第1のアクチュエータの出力トルクを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【請求項5】
前記第2のアクチュエータで発生させたいトルクと、前記第1のアクチュエータによって発生させたいトルクの合計を、前記第2のアクチュエータでのみ発生させるときに必要となる指令値として前記第2のアクチュエータに与え、前記出力推定手段は、外乱オブザーバを用いて、その瞬間に前記第1のアクチュエータで発生しているトルクを外乱トルクとともに推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ制御装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−87143(P2008−87143A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273660(P2006−273660)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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