説明

アクティブ除振装置

【課題】アクティブ除振装置において、簡単な構成で、1Hz付近の低周波数域における除振性能を向上させる。
【解決手段】除振対象物(定盤7、トッププレート27及び精密装置)を基礎構造部3に対して支持する空気ばね21と、リニアモータ23と、リニアモータ23を駆動して除振対象物の振動を制御するコントローラ37と、変位センサ33とを備えたアクティブ除振装置である。コントローラ37は、変位センサ33により検出された相対変位X−Xに変位フィードバック制御ゲインGを乗算してリニアモータ23の制御量G・(X−X)を決定する変位フィードバック制御部37aを有している。変位フィードバック制御部37aは、制御ゲインGを調整することにより、空気ばね21のばね定数Kと制御ゲインGに比例する値との差で表される見かけのばね定数K’を小さくするような制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば試験器機、電子顕微鏡、半導体関連の製造装置といった精密機器を床振動から概ね絶縁した状態で設置するための除振装置に関し、特に、アクチュエータを用いて、これらの機器の振動を低減するような制御力を付加するようにしたアクティブタイプの除振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体露光装置や電子顕微鏡等の精密機器を床上に設置する場合において、床からの振動を遮断するために、空気ばね、コイルばね、防振ゴム等のばね要素を用いた所謂パッシブタイプの除振装置(以下、パッシブ除振装置ともいう)により精密機器を支持することが行われている。かかるパッシブ除振装置の等価モデルは図9(a)のように表されるとともに、この等価モデルの運動方程式は、
M・X′′+C・(X′−X′)+K・(X−X)=0 …(式1)
と表される。ここで、M:ばね上重量、C:減衰定数、K:ばね定数、X′′:ばね上の加速度、X′:ばね上の速度、X′:床の速度、X:ばね上の変位、X:床の変位である。
【0003】
そして、ラプラス演算子sを用いると、図9(a)に示す等価モデルの振動伝達率は、
/X=(C・s+K)/(M・s+C・s+K) …(式2)
と表される。
【0004】
図10は、周波数と除振装置の振動伝達率との関係を対数目盛で表示したグラフ図であり、図中の破線はパッシブ除振装置の一例の振動伝達率を示すものである。この除振装置では、3Hz〜4Hzという低周波数域に共振点が現れており、これに起因して1Hz〜5Hzにおける振動伝達率が1(0dB)以上になっていることが分かる。
【0005】
そうして、さらに大きな除振効果を得るために、ばね要素で支持された精密機器の変位及び振動状態をセンサで検出し、それらをフィードバックしてアクチュエータを駆動し、精密機器の振動を低減するような制御力を付加することにより、精密機器の位置決めと除振とを行う所謂アクティブタイプの除振装置(以下、アクティブ除振装置ともいう)が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、加速度センサにより検出した除振対象物の上下方向加速度の検出値にフィードバック制御ゲインを乗算するとともに、加速度を1回積分して得られる速度に対してフィードバック制御ゲインを乗算し、また、加速度を2回積分して得られる変位に対してフィードバック制御ゲインを乗算して、アクチュエータの制御量を決定するコントローラを備え、予め所定範囲内に設定した除振対象物の複数の質量値に対応して、それぞれ最適なフィードバック制御ゲインの値を実験により求めて設定したマップにおいて、除振対象物の実際の質量よりも小さく且つ最も近い質量値に対応して設定されている最適値を、フィードバック制御ゲインの値とするアクティブ振動制御装置が提案されている。
【0007】
このアクティブ振動制御装置によれば、速度のフィードバックによっていわゆるスカイフックダンパの効果が得られ、高周波数域での除振性能を損なうことなく共振倍率を低下させることができるとともに、変位のフィードバックによっていわゆるスカイフックスプリングの効果が得られ、共振周波数以下の領域で振動伝達率を低下させることができるとされている。
【0008】
ここで、スカイフックダンパ(制御)とは、あたかも空中に静止した点からダンパを介して物体を接続すれば床の振動を伝えることなく減衰が得られる制御をいう。かかるスカイフックダンパ制御を用いたアクティブ除振装置は、物体と空中に静止した点とをダンパで接続した図9(b)に示す等価モデルで表される。この等価モデルの運動方程式は、
M・X′′+C・(X′−X′)+K・(X−X)+C・X′=0 …(式3)
と表される。ここで、C:空中に静止した点と接続されるスカイフックダンパの減衰定数である。
【0009】
また、この等価モデルの振動伝達特性(振動伝達率)は、
X/X=(C・s+K)/{M・s+(C+C)・s+K} …(式4)
と表される。
【0010】
図10中の実線は、速度のフィードバックによるスカイフックダンパ制御を用いたアクティブ除振装置(図10中の破線で示す振動伝達率を有するパッシブ除振装置の一例にスカイフックダンパ制御を付加したもの)の振動伝達率を示すものである。このスカイフックダンパ制御を用いたアクティブ除振装置では、周波数が0に近づくとsが0に近づくことから、(式4)によりX/X≒K/K=1(0dB)となるとともに、周波数が高くなっても振動伝達率が減衰を加えたパッシブのように悪化することがなく、全周波数域で大きな除振効果が得られる。
【0011】
一方、スカイフックスプリング(制御)とは、スカイフックダンパと同様、スカイフック理論に基づいて、あたかも空中に静止した点に固定されたスプリングに物体を吊るしたかのような制御をいう。かかるスカイフックスプリング制御を用いたアクティブ除振装置は、物体と空中に静止した点とをスプリングで接続した図9(c)に示す等価モデルで表される。この等価モデルの運動方程式は、
M・X′′+C・(X′−X′)+K・(X−X)+K・X=0 …(式5)
と表される。ここで、K:空中に静止した点と接続されるスプリングのばね定数である。
【0012】
また、この等価モデルの振動伝達率は、
X/X=(C・s+K)/(M・s+C・s+K+K) …(式6)
と表される。
【0013】
図10中の二点鎖線は、変位のフィードバックによるスカイフックスプリング制御を用いたアクティブ除振装置(図10中の破線で示す振動伝達率を有するパッシブ除振装置の一例にスカイフックスプリング制御を付加したもの)の振動伝達率を示すものである。このスカイフックスプリング制御を用いたアクティブ除振装置では、周波数が0に近づくとsが0に近づくことから、(式6)によりX/X≒K/(K+K)となる。これにより、スカイフックスプリング制御を用いたアクティブ除振装置では、周波数が0に近づくと振動伝達率が1(0dB)よりも小さくなるので、固有振動数よりも低い低周波数域において大きな除振効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4355536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、除振装置には、近年、1Hz付近の低周波数域での除振性能に対する要求が高まっている。しかしながら、従来のパッシブ除振装置では、ばね要素を調整することにより共振点(固有振動数)を下げようとしても、1Hz弱が限界であることから、1Hz付近の低周波数域での除振性能を高めることは困難である。
【0016】
また、上記特許文献1のものでは、速度のフィードバックによるスカイフックダンパの効果は、固有振動数付近では大きい反面、1Hz以下の低周波数域では小さい。また、変位のフィードバックによるスカイフックスプリングの効果は、1Hz未満の低周波数域でも得られる反面、10Hz付近に固有振動数が現れることから、固有振動数付近で除振性能が悪化する。
【0017】
このように、1Hz以下の低周波数域において除振性能を高めることは、従来のパッシブ除振装置によっても、また、速度や変位をフィードバックすることでスカイフックダンパ制御やスカイフックスプリング制御を取り入れた従来のアクティブ除振装置によっても困難となっている。
【0018】
また、スカイフックダンパやスカイフックスプリングは加速度信号を積分するため、センサや電気回路の低周波のノイズがオフセットやドリフトとして現れ積分されて制御できなくなったり、それを避けるためオフセットやドリフトをカットするハイパスフィルタを使用すると位相が変化して性能が著しく劣化する。
【0019】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アクティブ除振装置において、簡単な構成で、1Hz付近の低周波数域における除振性能を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために本発明では、変位センサによって実際に検出された相対変位を用いて、装置全体の固有振動数を下げることにより、スカイフックダンパの効果により得られる除振性能とも、スカイフックスプリングの効果により得られる除振性能とも異なる除振性能を発現させるようにしている。
【0021】
具体的には、第1の発明は、除振対象物を床上に設置される基礎に対して支持するばね要素と、当該除振対象物にその振動を低減するような制御力を付加するためのアクチュエータと、当該アクチュエータを駆動して当該除振対象物の振動を能動的に制御する制御手段と、を備えたアクティブ除振装置を対象とする。
【0022】
そして、上記基礎に対する上記除振対象物の相対変位を検出する変位センサをさらに備え、上記制御手段は、上記変位センサによって検出された上記相対変位に変位フィードバック制御ゲインを乗算して上記アクチュエータのフィードバック制御量を決定する変位フィードバック制御部を有しており、上記変位フィードバック制御部は、上記変位フィードバック制御ゲインを調整することにより、上記ばね要素のばね定数と当該変位フィードバック制御ゲインに比例する値との差で表される見かけのばね定数を小さくするような制御を行うことを特徴とするものである。
【0023】
第1の発明に係るアクティブ除振装置では、基礎が設置された床が振動すると、その振動が基礎及びばね要素を介して除振対象物に伝達される。そして、除振対象物と基礎との間にばね要素が設けられたかかる除振装置では、単にばね要素を用いたパッシブタイプの除振装置であれ、アクチュエータを用いて除振対象物の振動を低減するアクティブタイプの除振装置であれ、ばね要素によって発生するばね力は、除振対象物と基礎との相対変位に当該ばね要素のばね定数を乗じた値、すなわち、「ばね定数×除振対象物の変位」と「ばね定数×基礎の変位」との差で表される(上記(式1)、(式3)、(式5)参照)。このため、「除振対象物の変位」÷「床の変位」の関係で表される振動伝達率は、その分母にも分子にも、当然にばね定数を含むことになる(上記(式2)、(式4)、(式6)参照)。
【0024】
ここで、第1の発明によれば、基礎に対する除振対象物の相対変位が変位センサによって検出され、この実際に検出された検出値が制御手段に入力される。そうして、変位フィードバック制御部は、入力された検出値に変位フィードバック制御ゲインを乗算してアクチュエータのフィードバック制御量を決定する。このように、変位フィードバック制御ゲインは除振対象物と基礎との相対変位に、すなわち、除振対象物の変位にも床の変位にも乗算されることから、かかる変位フィードバック制御ゲインは振動伝達率の分母及び分子の両方に取り込まれることになる。これにより、振動伝達率は、その分母にも分子にも、「ばね定数−変位フィードバック制御ゲインに比例する値」で表される「見かけのばね定数」を有することになる。換言すると、第1の発明に係るアクティブ除振装置では、除振対象物を基礎に対して、「見かけのばね定数」を有するばね要素によって支持していることになる。なお、本発明において「変位フィードバック制御ゲインに比例する値」とは、変位フィードバック制御ゲイン、又は、当該変位フィードバック制御ゲインにアクチュエータの特性を表す比例定数を乗算したものを意味する。
【0025】
このため、変位フィードバック制御ゲインに比例する値を調整してばね定数に近づけるほど、見かけのばね定数が小さくなることから、見かけのばね定数の1/2乗に比例する「装置全体の固有振動数」を1Hzよりも大幅に低い低周波数域(例えば0.2Hz付近)まで下げることができるとともに、1Hz付近の低周波数域の振動伝達率を下げることが可能となる。これにより、アクティブ除振装置において、簡単な構成で、1Hz付近の低周波数域における除振性能を向上させることができる。
【0026】
また、アクチュエータのフィードバック制御量を決定する際、加速度センサにより検出した除振対象物の加速度を2回積分して得られる変位ではなく、変位センサによって直接検出された相対変位を用いることから、特にパッシブタイプの除振装置に第1の発明を適用すれば、重力加速度によるDC成分をカットするために時定数の大きなフィルタを用いる必要がなく、また、積分によってセンサ出力が無限大に大きくなったり、DC成分のカットと増幅との繰り返しによって位相が大幅にずれ、制御できなくなったり、性能が著しく劣化したりすることを回避することができる。
【0027】
一方、従来のアクティブタイプの除振装置に第1の発明を適用すれば、速度フィードバック等による除振効果と相俟って、除振性能をさらに向上させることができる。具体的には、第2の発明は、上記第1の発明において、上記除振対象物の振動状態を検出する振動センサをさらに備え、上記制御手段は、上記振動センサによって検出された除振対象物の加速度又は速度に基づいて上記アクチュエータのフィードバック制御量を決定するフィードバック制御部をさらに有していることを特徴とするものである。
【0028】
第2の発明によれば、変位フィードバック制御部によって1Hz付近の低周波数域での除振性能が高められるとともに、速度や加速度等のフィードバックによって高周波数域で大きな除振効果が得られることから、低周波数域から高周波数域に亘って高い除振性能を得ることができる。
【0029】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記アクチュエータは、上記除振対象物と上記基礎との間に配設されたリニアモータであることを特徴とするものである。
【0030】
第3の発明によれば、応答性に優れるリニアモータを用いることによって、制御系の時間遅れが小さくなるとともに、より広い周波数域の振動に対して第1及び第2の発明の制御を適用することができる。
【0031】
第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記ばね要素は気体ばねであり、上記気体ばねは、当該気体ばねの圧力状態を調整するためのサーボ弁の制御により、制御力を付加するための上記アクチュエータとしても用いられることを特徴とするものである。
【0032】
第4の発明によれば、除振対象物を気体ばねにより支持することで、ばね特性を非常に柔らかなものとして、制御力を付加しない状態での基本的な除振性能を向上させることができる。また、その気体ばねをアクチュエータとして利用することで、アクチュエータを別途設ける必要がなくなり、しかも、気体ばねの特性として比較的大きな力を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るアクティブ除振装置によれば、変位フィードバック制御部は、基礎に対する除振対象物の相対変位に、すなわち、除振対象物の変位にも床の変位にも変位フィードバック制御ゲインを乗算してアクチュエータのフィードバック制御量を決定することから、かかる変位フィードバック制御ゲインが「除振対象物の変位」÷「床の変位」の関係で表される振動伝達率の分母及び分子に取り込まれる。
【0034】
そうして、除振対象物と基礎との間にばね要素が設けられた除振装置では、振動伝達率の分母にも分子にも当然にばね定数を含むことことから、アクティブ除振装置の振動伝達率は、その分母にも分子にも「ばね定数−変位フィードバック制御ゲインに比例する値」で表される「見かけのばね定数」を含むことになる。
【0035】
これにより、本発明に係るアクティブ除振装置では、除振対象物を基礎に対して、「見かけのばね定数」を有するばね要素によって支持していることになり、変位フィードバック制御ゲインに比例する値をばね定数に近づけるほど、「見かけのばね定数」が小さくなるので、簡単な構成で、アクティブ除振装置全体の固有振動数を1Hzよりも大幅に低い低周波数域まで下げることができるとともに、その振動伝達率を下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る精密除振台の概略構成を示し斜視図である。
【図2】実施形態1に係るアクティブ振動制御装置の概略構成を示す図である。
【図3】リニアモータ制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【図4】周波数と振動伝達率との関係を示すグラフ図である。
【図5】実施形態2に係るアクティブ振動制御装置の概略構成を示す図である。
【図6】リニアモータ制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【図7】実施形態3に係るアクティブ振動制御装置の概略構成を示す図である。
【図8】空圧制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【図9】除振装置の等価モデルを示す図であり、同図(a)は、パッシブタイプのものであり、同図(b)は、スカイフックダンパを用いたアクティブタイプのものであり、同図(c)は、スカイフックスプリングを用いたアクティブタイプのものである。
【図10】従来のパッシブタイプ及びアクティブタイプの除振装置における周波数と振動伝達率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0038】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る精密除振台の一例を示し、この精密除振台1は、例えば、半導体関連の製造装置、試験機器、原子間力顕微鏡(AFM)、レーザ顕微鏡等の精密計測機器のように、振動の影響を受けやすい精密な装置を搭載して、それらを床の振動からできるだけ絶縁した状態で設置するためのものである。より詳しくは、図示の精密除振台1は、高さ調整用のレベラー19,19,19,19を介して図示しない床上、より詳しくは専用のテーブル上や台上等に設置される基礎構造部(基礎)3と、その上面の4隅にそれぞれ配設された空気ばねユニット5,5,5,5とを備え、これら4つの空気ばねユニット5,5,…により支持された定盤7の上に精密装置(図示せず)などが搭載されるようになっている。
【0039】
基礎構造部3は、鋼製角パイプの構造部材を概ね直方体形状となるように櫓組みしたものであり、符号9は脚部を、符号11,13はそれぞれ梁部を示している。また、符号15は、空気ばねユニット5の配設される水平板であり、符号17は、キャスターである。なお、この図では、空気ばねユニット5のコントローラ37は示していない。
【0040】
空気ばねユニット5は、図2に模式的に示すように、ベースプレート25の上に配設された空気ばね(気体ばね(ばね要素))21と、リニアモータ(アクチュエータ)23とを有していて、当該空気ばね21によって、定盤7及び搭載機器(精密装置)の荷重を受けるトッププレート27を弾性的に支持するとともに、当該トッププレート27に対しその振動を低減するような制御振動(制御力)をリニアモータ23によって付加するようにしたものである。そして、定盤7、トッププレート27及びこれに搭載される精密装置が、本実施形態に係るアクティブ除振装置における除振対象物になる。このように、除振対象物を気体ばね21により支持することで、ばね特性を非常に柔らかなものとして、制御力を付加しない状態での基本的な除振性能を向上させることができる。
【0041】
空気ばね21は、例えば、内部に空気が充填された空気室21aと、この空気室21aの上壁の開口部にダイヤフラム29を介して気密状に内挿されたピストン31とを備えたダイヤフラム形のものが好適であり、さらに、当該ピストン31にジンバル機構を組み込んで、水平方向に非常に柔らかなばね特性が得られるようにすることもできる。なお、空気ばね21としてベローズ形のものを用いることもできる。
【0042】
また、空気ばねユニット5には、基礎構造部3に対する除振対象物の相対変位を、より具体的には、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−Xを検出するための変位センサ33が設けられている。この変位センサ33からの出力信号は、コントローラ(制御手段)37に入力されるようになっている。
【0043】
コントローラ37は、除振対象物と基礎構造部3との間に配設されたリニアモータ23を駆動して除振対象物の振動を能動的に制御するように構成されている。より具体的には、コントローラ37は、各空気ばねユニット5毎のリニアモータ23に対し制御信号(電流)を出力して、トッププレート27に対しその振動を低減するような制御力を付加する、すなわち、定盤7及びその上の搭載機器の振動を低減するアクティブ振動制御を行うようになっている。なお、リニアモータ23は、不図示のコイル及び磁石を備え、コイルに電流を供給することで生じた磁力と、磁石の磁力との間で吸引力または反発力を発生させるものである。コイルはトッププレート27に、また、磁石はベースプレート25にそれぞれ取り付けられているが、両者の間には間隙があり非接触になっているため、基礎構造部3の振動がリニアモータ23を介して除振対象物に伝わらないようになっている。
【0044】
これにより、空気ばねユニット5,5,…の空気ばね21と、リニアモータ23と、変位センサ33と、コントローラ37とによって、精密除振台1のアクティブ除振装置が構成されている。そして、本実施形態に係るアクティブ除振装置では、従来のアクティブ除振装置の如くベースプレート25及びトッププレート27の振動状態をそれぞれ検出する加速度センサを用いる必要がないので、装置構成を大幅に簡略化することができる。なお、図2には、空気ばねユニット5の上下方向の変位センサ33及び上下方向のリニアモータ23のみが示されているが、これ以外に水平方向の変位センサ及びリニアモータも配設されており、下記の上下方向の制御と同様にして水平方向の制御も行われるようになっている。
【0045】
コントローラ37は、詳細は図示しないが、マイクロコンピュータ、I/Oインタフェース、データバスの他、RAM、ROM、或いはHDD等のメモリを備えた従来周知構造のデジタルコントローラであり、変位センサ33から出力される信号を受け入れて、これに応じて各空気ばねユニット5毎のリニアモータ23に制御信号を出力するようになっている。具体的には、コントローラ37は、変位センサ33からの信号に基づいて、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−Xを認識し、定盤7、トッププレート27及び精密装置の振動を打ち消すようなフィードバック制御量を決定し、当該決定されたフィードバック制御量に基づいて制御力を発生するようにリニアモータ23を駆動する変位フィードバック制御部37aを有している。この変位フィードバック制御部37aによるリニアモータ23の基本的な制御について、以下、説明の便宜のために上下方向の振動を低減する制御についてのみ、図3を参照して詳細に説明する。
【0046】
図3は、変位フィードバック制御部37aによる上下方向のリニアモータ制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。より詳しくは、このブロック図における符合Pの部分は、ばね上重量Mの除振対象物が、減衰定数C且つばね定数Kの空気ばね21によって支持されていることを表し、符合FB1の部分は、相対変位X−Xに変位フィードバック制御ゲインGを乗算して得られたフィードバック制御量G・(X−X)を、Kで表されるリニアモータ23を介して、かかる除振対象物に制御力として作用させることを表している。なお、空気ばね21の減衰定数C及びばね定数Kは予め設定したり、測定により求めておくことができる値であり、また、ばね上重量Mは実際に精密装置を定盤7に搭載すれば決まる値である。また、フィードバック制御量を決定する際に用いられる相対変位は、基礎構造部3に対する除振対象物の距離ではなく、X及びXの初期値からの変動分の差であり、実際には、変位センサから直接出力された値や、出力された信号に一定のずれであるDC成分が含まれる場合には、そのDC成分を差し引いた値を用いるが、以下便宜上(X−X)で表す。
【0047】
ここで、変位フィードバック制御部37aは、変位センサ33によって検出された相対変位X−Xに変位フィードバック制御ゲインGを乗算してリニアモータ23のフィードバック制御量G・(X−X)を決定するが、ここに言うフィードバック制御量G・(X−X)は電流であり、リニアモータ23は上述の如く電流を流せば力を発生することから、リニアモータ23によって除振対象物に付加される制御力は制御量G・(X−X)に比例することになる。そして、この比例定数をKとし、かかる物理的な現象を数式で表すと、変位フィードバック制御部37aによる上下方向のフィードバック制御を行った場合の除振対象物の運動方程式は、
M・X′′+C・(X′−X′)+K・(X−X)−G・K・(X−X)=0 …(式7)
と表される。ここで、X′′:除振対象物の加速度、X′:除振対象物の速度、X′:基礎構造部3の速度、X:除振対象物の変位、X:基礎構造部3の変位である。
【0048】
そして、ラプラス演算子sを用いると、アクティブ除振装置の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K−G・K)/(M・s+C・s+K−G・K) …(式8)
と表される。
【0049】
さらに、見かけのばね定数K’を、
K’=K−G・K …(式9)
と置いて、(式8)に代入すると、アクティブ除振装置の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K’)/(M・s+C・s+K’) …(式10)
と表される。
【0050】
すなわち、変位フィードバック制御部37aによる上下方向のフィードバック制御を行うということは、(式2)と上記(式10)とを比べれば明らかなように、重量Mの除振対象物を基礎に対して、減衰定数C及び見かけのばね定数K’のばね要素によって支持していること、及び、(式9)から明らかなように、変位フィードバック制御ゲインGを調整することによって、かかる見かけのばね定数K’を自在に変更できることを意味する。換言すると、変位フィードバック制御部37aは、変位フィードバック制御ゲインGを調整することにより、空気ばね21のばね定数Kと、変位フィードバック制御ゲインGと比例定数Kの積(変位フィードバック制御ゲインGに比例する値)との差で表される見かけのばね定数K’を小さくするような制御を行うように構成されている。
【0051】
そして、アクティブ除振装置の固有振動数fはf=(K’/M)1/2/2πと表されるところ、変位フィードバック制御ゲインGを調整することにより、その固有振動数fを下げることが可能となる。このように、固有振動数fを大幅に下げることができれば、除振可能な周波数の下限を下げて除振可能な範囲を広げることができるとともに、従来除振可能であった固有振動数より高い周波数における除振性能も向上させることができる。のみならず、変位フィードバック制御ゲインGと比例定数Kの積をばね定数Kに極めて近づければ、固有振動数fが限りなく0に近い振動制御装置を実現すること、換言すると、理想である除振対象物の無振動を実現することが可能となる。
【0052】
図4は、周波数と振動伝達率との関係を対数目盛で表した、シミュレーション結果を示すグラフ図であり、図中の実線は本実施形態のアクティブ除振装置の振動伝達率を、破線はパッシブ除振装置の振動伝達率を、二点鎖線は従来例のアクティブ除振装置の振動伝達率をそれぞれ示すものである。同図より、本実施形態に係るアクティブ除振装置によれば、パッシブ除振装置と異なり、装置全体の固有振動数を1Hzよりも大幅に低い低周波数域(例えば0.2Hz付近)まで容易に下げることが可能となるとともに、1Hz付近の低周波数域において、従来のものに比して、除振性能が格段に高まることが分かる。
【0053】
また、本実施形態に係るアクティブ除振装置は、0.3Hz〜0.4Hzに共振点が現れることから、0.5Hzより低い極低周波数域では振動伝達率が1(0dB)を超えるものの、それよりも高い周波数域では、従来のアクティブ除振装置に比して振動伝達率が大幅に小さくなっていることも同図から分かる。つまり、本実施形態に係るアクティブ除振装置によれば、従来のアクティブ除振装置における、スカイフックダンパの効果やスカイフックスプリングの効果では得られなかった、1Hz付近の低周波数域における除振性能を確実に向上させることができる。
【0054】
さらに、変位のフィードバックに用いる変位値として、加速度を二重積分したものを用いる従来のアクティブ除振装置とは異なり、変位センサ33によって検出された、ベースプレート25とトッププレート27との相対変位X−Xを用いる本実施形態に係るアクティブ除振装置には、以下のような利点がある。
【0055】
すなわち、先ず第1に、微振動を制御する除振台では振動を検出する加速度センサの信号を大幅(1000倍以上)に増幅する必要がある。しかしながら、上下方向の加速度センサには重力加速度(0Hzで1G)が常にDC成分として作用し、振動に比して1Gという重力加速度は非常に大きいことから、かかるDC成分を含むセンサ出力を全て増幅すると、信号が飽和して、微振動の加速度情報が失われる。このため、時定数の大きなハイパスフィルタをかけて重力加速度によるDC成分をカットし、その後信号を増幅する必要がある。つまり、加速度センサにより検出された加速度を増幅する場合には、時定数の大きなハイパスフィルタが必要になるのに対し、変位センサ33によって検出された相対変位X−Xを用いる場合には、フィルタが不要になる。
【0056】
第2に、スカイフックダンパ制御などを使用するため加速度センサにより検出された加速度を積分する場合には、センサ出力からハイパスフィルタで重力加速度を取り除いて大幅に増幅する必要があり、この時電気回路にはDCオフセット成分が生じる。このため、小さいDCオフセット成分が生じた場合にも、積分するとセンサ出力が無限大に大きくなり、制御用の数値として成り立たない。これに対し、変位センサ33によって検出された相対変位X−Xを用いる場合には、積分しないためかかるDCオフセット成分を無限大に増幅することを回避できるという利点がある。
【0057】
第3に、ハイパスフィルタをかけてDCカットと増幅とを繰り返すと、位相が大きくずれて制御に支障を来すという問題があるのに対し、変位センサ33によって検出された相対変位X−Xを用いる場合には、かかる位相のずれが生じるのを回避できるという利点がある。
【0058】
また、本実施形態のアクティブ除振装置では、アクチュエータとして応答性に優れるリニアモータ23を用いているので、制御系の時間遅れが小さくなるとともに、より広い周波数域の振動に対して本発明の制御を適用することができる。
【0059】
(実施形態2)
本実施形態は、コントローラ37による制御方法、及び、加速度センサ35を備えていることが実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0060】
図5は、本発明の実施形態2に係る精密除振台1における空気ばねユニット5を示す。図5に模式的に示すように、空気ばねユニット5には、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−Xを検出するための変位センサ33のみならず、除振対象物の振動状態、具体的には、トッププレート27の振動状態を検出する加速度センサ(振動センサ)35が設けられている。そうして、変位センサ33及び加速度センサ35からの出力信号がそれぞれコントローラ37に入力されるようになっている。
【0061】
コントローラ37は、各空気ばねユニット5毎のリニアモータ23に対し制御信号を出力して、トッププレート27に対しその振動を低減するような制御振動(制御力)を付加するように、すなわち、定盤7、トッププレート27及び精密装置の振動を低減するアクティブ振動制御を行うようになっている。換言すれば、空気ばねユニット5,5,…の空気ばね21と、リニアモータ23と、加速度センサ35及び変位センサ33と、コントローラ37とによって、精密除振台1のアクティブ除振装置が構成されている。
【0062】
コントローラ37は、上記変位フィードバック制御部37aに加えて、加速度センサ35によって検出された除振対象物の加速度に基づいてリニアモータ23のフィードバック制御量を決定する第1フィードバック制御部37bを有している。より詳しくは、この第1フィードバック制御部37bは、加速度センサ35からの信号に基づいて、トッププレート27の加速度X′′を認識し、定盤7、トッププレート27及び精密装置の振動を打ち消すようなフィードバック制御量を決定し、当該決定されたフィードバック制御量に基づいて制御力を発生するようにリニアモータ23を駆動する。なお、図5においては、空気ばねユニット5の上下方向の加速度センサ35、変位センサ33及び上下方向のリニアモータ23のみが示されているが、これ以外に水平方向の変位センサ、加速度センサ及びリニアモータも配設されており、以下に述べる上下方向の制御と同様にして水平方向の制御も行われる。
【0063】
これら変位フィードバック制御部37a及び第1フィードバック制御部37bによるリニアモータ23の基本的な制御について、以下、説明の便宜のために上下方向の振動を低減する制御についてのみ、図6を参照して詳細に説明する。図6は、上記変位フィードバック制御部37a及び第1フィードバック制御部37bによる上下方向のリニアモータ制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。上記実施形態1と同様に、符合Pの部分は、除振対象物が空気ばね21によって支持されていることを示し、符合FB1の部分は、変位フィードバック制御部37aで決定されたフィードバック制御量G・(X−X)を、リニアモータ23を介して制御力として除振対象物に作用させていることを表している。
【0064】
さらに、図6における符合FB2の部分は、除振対象物の上下方向加速度X′′にフィードバック制御ゲインGを乗算し、加速度X′′を1回積分して得られる速度X′にフィードバック制御ゲインGを乗算し、また、加速度X′′を2回積分して得られる変位Xにフィードバック制御ゲインGを乗算して得られたフィードバック制御量G・X′′、G・X′、G・Xを、Kで表されるリニアモータ23を介して、かかる除振対象物に制御力として作用させることを表している。そうして、制御力が付加された後の除振対象物の振動状態(加速度X′′)は、当該除振対象物及び空気ばね21などからなる制御対象から再びフィードバックされる。
【0065】
かかる物理的な現象を数式で表すと、変位フィードバック制御部37a及び第1フィードバック制御部37bによる上下方向のフィードバック制御を行った場合の除振対象物の運動方程式は、
(M+G・K)・X′′+(C+G・K)・X′−C・X′+(K+G・K−G・K)・X−(K−G・K)・X=0 …(式11)
と表される。
【0066】
そして、ラプラス演算子sを用いると、アクティブ除振装置の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K−G・K)/{(M+G・K)・s+(C+G・K)・s+(G・K+K−G・K)} …(式12)
と表される。
【0067】
(式12)から明らかなように、加速度X′′に制御ゲインGを乗じてフィードバックすることは、振動系の質量を増やすのと略同等であり、これにより共振周波数を低下させることができる。また、速度X′のフィードバックによっていわゆるスカイフックダンパの効果が得られ、高周波域での除振性能を損なうことなく共振倍率を低下させることができる。さらに、変位Xのフィードバックによっていわゆるスカイフックスプリングの効果が得られ、共振周波数以下の領域で振動伝達率を低下させることができる。
【0068】
さらに、(式12)と上記(式4)及び(式6)とを比べれば明らかなように、相対変位X−Xに変位フィードバック制御ゲインGを乗算して得られたフィードバック制御量G・(X−X)に比例する制御力を作用させることで、みかけ上のばね定数を大幅に下げ、パッシブの固有振動数を下げることができる。この固有振動数の低いパッシブ除振台に上記の第1フィードバック制御部37bによるアクティブ制御を加えると、固有振動数が高く且つ変位のフィードバック制御を行わない状態に、アクティブ制御を加えたものに比べて、除振性能は格段に優れる。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、変位フィードバック制御部37aによる除振効果と、第1フィードバック制御部37bによる除振効果とが相俟って、低周波数域から高周波数域に亘って高い除振性能を得ることができる。
【0070】
(実施形態3)
本実施形態は、リニアモータ23ではなく空気ばね21を制御力を付加するためのアクチュエータとして用いる点が実施形態2と異なるものである。以下、実施形態2と異なる点について説明する。
【0071】
図7に示すように、各空気ばね21は配管43を介してそれぞれサーボ弁39に接続されており、当該サーボ弁39がコントローラ37からの制御信号を受けて開閉作動することにより、各空気ばねユニット5毎の空気ばね21に対する空気の給排流量が調整されて、当該空気ばね21の空気圧が速やかに変更されるようになっている。換言すると、空気ばね21は、当該空気ばね21の圧力状態を調整するためのサーボ弁39の制御により、除振対象物に対して制御振動(制御力)を付加するためのアクチュエータとして用いられている。このように、気体ばね21をアクチュエータとして利用することで、上記実施形態1及び2のようにリニアモータ23を別途設ける必要がなくなり、しかも、気体ばね21の特性として比較的大きな力を容易に得ることができる。
【0072】
なお、サーボ弁39は、圧搾空気を貯留するリザーバタンク41に接続され、このリザーバタンク41には図示しない電動ポンプが接続されていて、この電動ポンプの作動によりリザーバタンク41内の空気圧が所定値に維持されるようになっている。また、図7には、空気ばねユニット5の上下方向の加速度センサ35及び変位センサ33のみが示されているが、これ以外に水平方向の変位センサ及び加速度センサも配設されており、以下に述べる上下方向の制御と同様にして水平方向の制御も行われるようになっている。
【0073】
コントローラ37は、上記変位フィードバック制御部37aに加えて、加速度センサ35からの信号に基づいて、トッププレート27の加速度X′′を認識し、定盤7、トッププレート27及び精密装置の振動を打ち消すようなフィードバック制御量を決定し、当該決定されたフィードバック制御量に基づいてサーボ弁39を作動させることにより、空気ばね21の空気室21aの空気圧を調整する第2フィードバック制御部37cを有している。この変位フィードバック制御部37a及び第2フィードバック制御部37cによる空気ばね21の基本的な制御について、以下、説明の便宜のために上下方向の振動を低減する制御についてのみ、図8を参照して詳細に説明する。
【0074】
図8は、変位フィードバック制御部37a及び第2フィードバック制御部37cによる上下方向の空圧制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。上述の如く、符合Pの部分は、除振対象物が空気ばね21によって支持されていることを表している。
【0075】
また、符合FB1の部分は、除振対象物に対して、変位フィードバック制御部37aで決定されたフィードバック制御量に(1+T・s)/(K・A)を乗算して得られた値を、その特性がK・A/(1+T・s)で表されるサーボ弁39を介して作用させていることを示している。ここで、Kはゲインであり、Tは時定数であり、Aは空気ばね21の受圧面積である。
【0076】
これについて詳述すると、フィードバック制御量G・(X−X)は上記実施形態1及び2と同様電流であるが、制御力がフィードバック制御量に比例するリニアモータ23と異なり、空気ばね21の場合には、フィードバック制御量G・(X−X)によってサーボ弁39を制御することで、空気ばね21の空気室21aに対し空気の出し入れを行い、圧力を変更することで除振対象物に対して制御力を付加するようになっている。このため、本実施形態のようにアクチュエータとして空気ばね21を利用する場合、フィードバック制御量G・(X−X)に比例するのはサーボ弁39の開度であり、空気ばね21の内圧はフィードバック制御量G・(X−X)の近似積分に比例することになるから、フィードバック制御量G・(X−X)と制御力とは、比例関係になく一次遅れの関係にある。
【0077】
そうして、フィードバック制御量G・(X−X)をそのまま用いると、一次遅れ要素であるK・A/(1+T・s)によって近似積分されることから、それを避けるために、サーボ弁39の特性の逆数をフィードバック制御量G・(X−X)に乗算している。これにより、空気ばね21によって除振対象物に付加される制御力は、一次遅れの関係になることなく、フィードバック制御量G・(X−X)に比例することになる。
【0078】
さらに、図8における符合FB3の部分は、第2フィードバック制御部37cによる上下方向のフィードバック制御を示している。ただし、空気ばね21を利用する場合には、上述の如くその力がフィードバック制御量の近似積分値に比例することを考慮して、加速度X′′の微分値、比例値及び積分値をフィードバックする。具体的には、符合FB3の部分は、加速度センサ35により検出したトッププレート27の上下方向加速度X′′の検出値にフィードバック制御ゲインGを乗算し、加速度X′′を1回積分して得られる速度X′に対してフィードバック制御ゲインGを乗算し、また、加速度X′′を1回微分して得られるX′′′に対してフィードバック制御ゲインGを乗算し、得られたフィードバックフィードバック制御量G・X′′′,G・X′′,G・X′を、サーボ弁39を介して除振対象物に作用させることを表している。
【0079】
そして、上述の如く、制御力は内圧に比例するので、フィードバック制御量G・X′′′,G・X′′,G・X′をサーボ弁39を介して空気ばね21に作用させることにより、除振対象物に対して付加される制御力は、以下のように近似される。
・X′′′・{K・A/(1+T・s)}≒G・X′′ …(式13)
・X′′・{K・A/(1+T・s)}≒G・X′ …(式14)
・X′・{K・A/(1+T・s)}≒G・X …(式15)
これらにより、変位フィードバック制御部37a及び第2フィードバック制御部37cによる上下方向のフィードバック制御を行った場合の除振対象物の運動方程式は、
(M+G)・X′′+(C+G)・X′−C・X′+(K+G−G)・X−(K−G)・X=0 …(式16)
と表される。
【0080】
そして、ラプラス演算子sを用いると、アクティブ除振装置の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K−G)/{(M+G)・s+(C+G)・s+(G+K−G)} …(式17)
と表される。
【0081】
上記(式17)と(式12)とを比べれば明らかなように、空圧制御の場合の振動伝達率と、リニアモータ制御の場合の振動伝達率との違いは、各制御ゲインG,G,G,Gに比例定数Kが乗算されているか否かだけであるから、空圧制御の場合にも、各制御ゲインG,G,G,Gを調整することで、上記実施形態2と同様に、高周波域での除振性能を損なうことなく共振倍率を低下させたり、共振周波数以下の領域で振動伝達率を低下させたり、パッシブの固有振動数を下げて振動伝達率を容易に下げたりすることが可能となる。したがって、空圧制御においても、変位フィードバック制御部37aによる除振効果と、第2フィードバック制御部37cによる除振効果とが相俟って、低周波数域から高周波数域に亘って高い除振性能を得ることができる。
【0082】
また、サーボ弁39の応答性は非常に高く、微小な空気流量の制御ができることから、除振対象物の微小な振動に対し遅れなく、且つ高精度に空気ばね21の内圧を変更することができる。これにより、収束性の高い安定な振動制御を実現できる。
【0083】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0084】
上記各実施形態では、ばね要素として空気ばね21を用いたが、これに限らず、例えばコイルばねや防振ゴムを用いてもよい。
【0085】
また、上記実施形態2及び3では、除振対象物の振動状態を、加速度センサ35を用いて検出するようにしたが、これに限らず、速度センサを用いて検出するようにしてもよい。
【0086】
さらに、上記各実施形態では、空気ばねユニット5は、空気ばね21と、リニアモータ23と、ベースプレート25と、トッププレート27と、ダイヤフラム29と、ピストン31とを備えたものを用いたが、これに加えて、トッププレート27を予め設定した高さに維持するための機械式レベリングバルブを備えるようにしてもよい。機械式レベリングバルブはトッププレートが下がれば自動的に圧縮空気を供給し、上がれば排気してトッププレートの位置を該一定に保つ機能を持つ。このような機械式レベリングバルブを備えることと、相対変位に基づいてアクチュエータのフィードバック制御量を決定することとは、矛盾するようにも思われるが、機械式レベリングバルブは0.1mm〜1.0mmの不感帯を持ち床振動のような小さい振動には反応しないのに対し、本発明のアクティブ除振装置は、機械式レベリングバルブの不感帯である極めて小さい振動に対して作用するものであり、両者は矛盾しない。
【0087】
また、上記各実施形態では、加速度センサ35により検出したトッププレート27の加速度X′′、速度X′、変位Xに対してそれぞれフィードバック制御ゲインを乗算して得られたフィードバックフィードバック制御量を、除振対象物に対して作用させたが、これに限らず、例えば、これらのうちのいずれか1つ、又は、いずれか2つを作用させてもよい。
【0088】
さらに、上記実施形態2及び3では、空気ばねユニット5に設けられた加速度センサ35のセンサ信号に基づいてフィードバック制御を行うようにしたが、これに限らず、例えば床に別の加速度センサを置き、そのセンサ信号に基づくフィードフォワード制御を加えてもよい。
【0089】
また、アクチュエータとして、上記実施形態1及び2ではリニアモータを、また上記実施形態3では空気ばねをそれぞれ用いたが、これに限らず、例えば圧電素子などのアクチュエータを用いてもよい。
【0090】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明は、精密機器を床振動から概ね絶縁した状態で設置するためのアクティブ除振装置等について有用である。
【符号の説明】
【0092】
3 基礎構造部(基礎)
7 定盤(除振対象物)
21 空気ばね(気体ばね(ばね要素)、アクチュエータ)
23 リニアモータ(アクチュエータ)
27 トッププレート(除振対象物)
33 変位センサ
35 加速度センサ(振動センサ)
37 コントローラ(制御手段)
37a 変位フィードバック制御部
37b 第1フィードバック制御部
37c 第2フィードバック制御部
39 サーボ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除振対象物を床上に設置される基礎に対して支持するばね要素と、当該除振対象物にその振動を低減するような制御力を付加するためのアクチュエータと、当該アクチュエータを駆動して当該除振対象物の振動を能動的に制御する制御手段と、を備えたアクティブ除振装置であって、
上記基礎に対する上記除振対象物の相対変位を検出する変位センサをさらに備え、
上記制御手段は、上記変位センサによって検出された上記相対変位に変位フィードバック制御ゲインを乗算して上記アクチュエータのフィードバック制御量を決定する変位フィードバック制御部を有しており、
上記変位フィードバック制御部は、上記変位フィードバック制御ゲインを調整することにより、上記ばね要素のばね定数と当該変位フィードバック制御ゲインに比例する値との差で表される見かけのばね定数を小さくするような制御を行うことを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項2】
請求項1記載のアクティブ除振装置において、
上記除振対象物の振動状態を検出する振動センサをさらに備え、
上記制御手段は、上記振動センサによって検出された除振対象物の加速度又は速度に基づいて上記アクチュエータのフィードバック制御量を決定するフィードバック制御部をさらに有していることを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアクティブ除振装置において、
上記アクチュエータは、上記除振対象物と上記基礎との間に配設されたリニアモータであることを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載のアクティブ除振装置において、
上記ばね要素は気体ばねであり、
上記気体ばねは、当該気体ばねの圧力状態を調整するためのサーボ弁の制御により、制御力を付加するための上記アクチュエータとしても用いられることを特徴とするアクティブ除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−247314(P2011−247314A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119303(P2010−119303)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】