説明

アクリル系化合物、その製造方法及びアクリル系重合体

【課題】優れた耐熱性及び耐溶剤性を有するアクリル系重合体を与えることのできる新規なアクリル系化合物、その製造方法及び前記新規なアクリル系化合物を重合してなるアクリル系重合体の提供。
【解決手段】1−アシロキシエチル(メタ)アクリレート(アシル基は炭素数1〜4のアルキル基を有する)、その製造法、及びそれを重合してなるアクリル系重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系化合物、その製造方法及びアクリル系重合体に関し、さらに詳しくは、新規なアクリル系化合物、その製造方法及び前記新規なアクリル系化合物を単量体とする、耐熱性、耐溶剤性などに優れた新規なアクリル系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体の典型例であるポリメタクリル酸メチルは、透明性及び耐候性に優れると共に、機械的性質、熱的性質及び成形加工性などの特性をバランスよく有していることから、フィルム、シート、パイプなどを得るための成形材料として、多種多様な分野に使用されている。
前記のような特性を有するポリメタクリル酸メチルは、例えば、グレージング材、ランプメーターカバー、プリンターカバーなどのOA機器分野;パチンコなどのゲーム周辺部品などの雑貨分野;店舗用看板などのディスプレー分野;カーポート、バスタブなどの建材分野;液晶用導光板、ビデオディスク、オーディオディスクなどの情報用光学素子分野;自動販売機前面板などの弱電・工業部品分野;照明カバーなどの照明器具分野などにおける成形材料として、広く使用されている。
【0003】
しかしながら、これまでに知られているポリメタクリル酸メチルは、前記のとおり、優れた特性は有するものの、使用に耐え得る許容限界温度が100℃程度であり、耐熱性に劣るという問題があった。
この問題を克服するために、メチルメタクリレートに無水マレイン酸又はスチレンを加えて共重合し、共重合体を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この方法においては、共重合反応が緩慢である上に、得られる共重合体が耐候性に劣るという問題があった。
【0004】
また、用いる単量体自体を変性して、得られる重合体の耐熱性を向上させる方法も提案されている。このような方法として、例えば、単量体としてシクロヘキシルアクリレートを用いる方法(例えば、特許文献2参照)、メタクリル酸ボニル、アダマンチルメタクリレートなどの炭素数8以上の脂環式炭化水素を有するメタクリル酸脂環式炭化水素エステルを用いる方法(例えば、特許文献3参照)を挙げることができる。
しかし、これらの方法は、重合反応性に劣るため、経済的な方法とはいい難く、実用的な面に問題があった。
【0005】
さらに、前記ポリメタクリル酸メチルは、耐溶剤性に劣るため、その使用範囲が限定されるという問題があった。この耐溶剤性の悪化は、ポリメタクリル酸メチルが線状構造を有していることに起因している。このために、メチルメタアクリレートと種々の多価アルコールのアクリレート化合物又はメタクリレート化合物とを共重合させて、架橋構造を有するポリメタクリル酸メチルを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかし、この製造方法においては、得られるポリメタクリル酸メチルの耐熱性及び耐溶剤性は向上するものの、共重合反応中に、突然、反応が暴走する傾向があるため、共重合反応を制御することが困難であるという問題があった。しかも、表面状態が良好で、かつ重合歪の少ない重合体を得るためには長時間を要し、実用上、重大な問題を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−87104号公報
【特許文献2】特開昭58−13652号公報
【特許文献3】特開2003−221418号公報
【特許文献4】特開昭63−75022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような現状に鑑み、アクリル系重合体が本来有している良好な特性を維持しつつ、優れた耐熱性及び耐溶剤性を有するアクリル系重合体を与えることのできる単量体として有用な新規なアクリル系化合物、その製造方法及び前記新規なアクリル系化合物を単量体とする新規なアクリル系重合体を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために、架橋剤を用いることなく重合反応を行うことによって、架橋構造を有するアクリル系重合体を与えることのできる単量体を開発すべく鋭意、検討を重ねた結果、特定の構造を有するアクリル系化合物を用いることによって前記課題が解決されるということを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明の前記課題を解決するための第1の手段は、
〔1〕下記式(1)で表されることを特徴とするアクリル系化合物である。
【0010】
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【0011】
本発明の前記課題を解決するための第2の手段は、
〔2〕触媒の存在下、下記式(2)
【0012】
【化2】

(式中、R1は、前記と同じである。)
で表される(メタ)アクリル酸と、下記式(3)
CH2=CH−OCOR2 (3)
(式中、R2は、前記と同じである。)
で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとを反応させることを特徴とする、下記式(1)
【0013】
【化3】

(式中、R1及びR2は、前記と同じである。)
で表されるアクリル系化合物の製造方法である。
【0014】
本発明の前記課題を解決するための第3の手段は、
〔3〕〔1〕に記載のアクリル系化合物、又はこのアクリル系化合物と、これと共重合可能なエチレン系不飽和化合物を重合させてなることを特徴とするアクリル系重合体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アクリル系重合体が本来有している良好な特性を維持しつつ、優れた耐熱性及び耐溶剤性を有するアクリル系重合体を与えることのできる単量体として有用な新規なアクリル系化合物及びその製造方法が提供されると共に、前記新規なアクリル系化合物を単量体とする耐熱性及び耐溶剤性に優れた新規なアクリル系重合体が架橋剤を用いることなく提供される。
【0016】
このため、前記新規なアクリル系重合体は、例えば、グレージング材、ランプメーターカバー、プリンターカバーなどのOA機器分野;パチンコなどのゲーム周辺部品などの雑貨分野;店舗用看板などのディスプレー分野;カーポート、バスタブなどの建材分野;液晶用導光板、ビデオディスク、オーディオディスクなどの情報用光学素子分野;自動販売機前板などの弱電・工業部品分野;照明カバーなどの照明器具分野において、より優れた成形材料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔1〕本発明のアクリル系化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【0018】
【化4】

式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0019】
前記式(1)で表されるアクリル系化合物の具体例としては、アクリル酸1−アセチルオキシエチル、アクリル酸1−プロピオニルオキシエチル、アクリル酸1−ブチリルオキシエチル、アクリル酸1−イソブチリルオキシエチル、アクリル酸1−バレリルオキシエチル、アクリル酸1−イソバレリルオキシエチル、アクリル酸1−ヘキソイックオキシエチル、アクリル酸1−ヘプトイックオキシエチル、メタクリル酸1−アセチルオキシエチル、メタクリル酸1−プロピオニルオキシエチル、メタクリル酸1−プロピオニルオキシエチル、メタクリル酸1−ブチリルオキシエチル、メタクリル酸1−イソブチリルオキシエチル、メタクリル酸1−バレリルオキシエチル、メタクリル酸1−イソバレリルオキシエチル、メタクリル酸1−ヘキソイックオキシエチル、メタクリル酸1−ヘプトイックオキシエチルなどを挙げることができる。
【0020】
これらアクリル系化合物は、無色透明の液状化合物であり、例えば、アクリル酸1−アセチルオキシエチルの場合、沸点は41〜45℃/0.2kPa、メタクリル酸1−アセチルオキシエチルの場合、沸点は36〜40℃/0.1kPaである。
【0021】
本発明の前記式(1)で表されるアクリル系化合物は、種々の化成品を製造するための原料として用いることができるが、特に、アクリル系重合体を与える単量体として有用である。このアクリル系化合物からなる単量体は、架橋剤を用いることなく重合反応を行うことによって、架橋構造を有するアクリル系重合体を与えることのできる単量体である。
【0022】
〔2〕本発明の〔1〕に記載のアクリル系化合物の製造方法は、触媒の存在下、下記式(2) で表される(メタ)アクリル酸と、下記式(3) で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとを反応させることを特徴とする。
【0023】
【化5】

式中、R1は、前記と同じである。
CH2=CH−OCOR2 (3)
式中、R2は、前記と同じである。
【0024】
前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸を挙げることができ、前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、イソ吉草酸ビニル、ヘキサン酸ビニル及びヘプタン酸ビニルを挙げることができる。
【0025】
前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸と、前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとの反応に特に制限はないが、通常は、前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸と前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとを混合し、ブレンステッド酸又はルイス酸などの酸系触媒を用い、通常は20〜60℃、好ましくは35〜45℃で、通常は0.5〜20時間、好ましくは3〜10時間、攪拌することによって行うことができる。
反応温度が20〜60℃の範囲にあれば、適度の反応速度を有し、かつ重合反応の生起を防止又は抑制することができる。
前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸と、前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとの混合割合にも制限はないが、反応性及び経済性を考慮すると、前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸1モルに対し、前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルを、通常は0.9〜1.5モル、好ましくは1.0〜1.2モルとすることが望ましい。
【0026】
ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸、酢酸、安息香酸、蟻酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸を挙げることができる。
また、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化第二錫、フッ化アンチモン、塩化亜鉛、チタン化合物、ゼオライト類などを挙げることができる。
これら触媒の中でもブレンステッド酸が好ましく、さらには、硫酸及びp−トルエンスルホン酸が特に好ましい。
前記触媒は、前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸と、前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとの全量に対し、通常は0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の割合で用いられる。
【0027】
前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸と前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとの反応は、溶媒を用いることなく行うことができるが、所望により、溶媒を用いて行ってもよい。この溶媒としては、ジクロロメタン、ヘプタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができ、これら溶媒は、二種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
反応終了後、溶媒を用いたときは溶媒を除去し、反応生成物を常法にしたがって洗浄、乾燥及び精製することによって、目的物である、前記式(1)で表されるアクリル系化合物を得ることができる。
このようなアクリル系化合物の製造方法においては、その反応時並びに洗浄、乾燥、精製及び保存時に、前記式(2)で表される(メタ)アクリル酸又は前記式(3)で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルが重合反応を生起することのないよう、p−メトキシフェノールなどの重合禁止剤を添加しておくことが好ましい。
【0029】
〔3〕本発明のアクリル系重合体は、前記〔1〕に記載のアクリル系化合物、又はこのアクリル系化合物と、これと共重合可能なエチレン系不飽和化合物を重合させてなることを特徴とする。
【0030】
前記共重合可能なエチレン系不飽和化合物に特に制限はないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などのエチレン系不飽和カルボン酸、(メタ) アクリル酸メチル、(メタ) アクリル酸エチル、(メタ) アクリル酸ブチルなどの(メタ) アクリル酸エステル、さらには、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどを挙げることができる。
これらエチレン系不飽和化合物は、1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらエチレン系不飽和化合物の使用量は、前記式(1)で表されるアクリル系化合物1モルに対し、通常は0.05〜0.95モル、好ましくは0.1〜0.8モルである。
【0031】
重合方法に特に制限はないが、前記アクリル系化合物、又はこのアクリル系化合物と他のエチレン系不飽和化合物との混合物に重合開始剤を添加し、通常は30〜120℃、好ましくは40〜100℃で、通常は1〜20時間、好ましくは2〜10時間、重合させることによって行うことができる。
重合温度が30℃以上であると、適度の重合速度を有し、また、120℃以下であれば、着色などを防止又は抑制することができる。
【0032】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス−2−メチル−N−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルプロピオアミド、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物;イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジ−クロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5′−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジ−カーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジ−カーボネート、ジ−メトキシブチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジ−カーボネート等のパーオキシジ−カーボネート類;(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等を挙げることができる。
この重合開始剤は、単量体全量に対し、通常は0.05〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%の割合で用いられる。
【0033】
〔1〕に記載のアクリル系化合物の重合は、溶媒を用いることなく行うことができるが、所望により、溶媒を用いて行ってもよい。この溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール、第三級ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、ベンゾニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロペンタンなどを挙げることができる。
前記アクリル系化合物の重合においては、架橋剤を用いることを要しない。
【0034】
本発明の前記アクリル系重合体は、透明性及び耐候性に優れると共に、良好な機械的性質、熱的性質及び成形加工性などの従来のアクリル系重合体が有する特性を維持しつつ、優れた耐熱性及び耐溶剤性を有するアクリル系重合体である。
このため、前記アクリル系重合体は、例えば、グレージング材、ランプメーターカバー、プリンターカバーなどのOA機器分野;パチンコなどのゲーム周辺部品などの雑貨分野;店舗用看板などのディスプレー分野;カーポート、バスタブなどの建材分野;液晶用導光板、ビデオディスク、オーディオディスクなどの情報用光学素子分野;自動販売機前板などの弱電・工業部品分野;照明カバーなどの照明器具分野において、より優れた成形材料として使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例によって、本発明はなんら限定されることはない。
なお、本実施例におけるガラス転移温度及び熱分解温度の測定方法並びに耐熱性、耐溶剤性及び透明性の評価方法は、下記のとおりである。
〔ガラス転移温度の測定方法〕
示差走査熱量測定(DSC)により35℃から20℃/分の条件で、200℃まで温度を上昇させた後に液体窒素で急冷し、再び、35℃から20℃/分の条件で、600℃まで温度を上昇させて吸熱を示す温度を、ガラス転移温度とした。
〔熱分解温度の測定方法〕
熱重量測定(TGA)により、窒素気流下、20℃/分の条件で温度を上昇させて、5%の質量が減少する温度を、熱分解温度とした。
〔耐熱性の評価方法〕
重合体からなるプレートを180℃のシリコンオイルに浸漬し、5分後に取り出して変形などの有無を視認した。
〔耐溶剤性の評価方法〕
重合体からなるプレートを室温でアセトンに10分間浸漬し、取り出して乾燥させた後のプレートの表面状態を観察した(耐溶剤性1)。さらに、ジメチルホルムアミドに対する室温における溶解性を調べた(耐溶剤性2)。
〔透明性の評価方法〕
スガ試験機HZ−2型を使用して、作製した重合体からなるプレートの全光線透過率を測定した。
【0036】
実施例1
〔前記式(1)で表されるアクリル系化合物(A)の製造例〕
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた1リットルのフラスコに、アクリル酸144.1g(2.0モル)、酢酸ビニル172.2g(2.0モル)及び濃硫酸2.0g(0.02モル)を入れて、45℃で6時間、攪拌した。
薄層クロマトグラフィー(TLC)により、アクリル酸が全て消費されたことを確認した後、炭酸水素ナトリウムを含む水で1回洗浄し、次いで、純水で1回洗浄した。
このようにして得られた有機相を、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧蒸留(0.2kPa、41〜45℃)して、無色透明の液状生成物を得た。
この液状生成物の収量は183.4g(理論収率58.0%)であった。
前記液状生成物を1H−NMR及び13C−NMRにより分析した結果、式(1)中、R1が水素であり、R2がメチル基であるアクリル系化合物(A)と同定された。
1H−NMRチャートを図1に、13C−NMRチャートを図2に示す。
【0037】
実施例2
〔アクリル系重合体(A)の製造例〕
実施例1で製造されたアクリル系化合物(A)20g(0.126モル)にアゾビスイソブチロニトリル26mg(0.5モル%)を添加し、窒素ガスにより脱気置換した後、65℃に加熱したところ、30分後に固化した。次いで、5時間静置した状態で65℃に加熱した。
このようにして得られた固化物を粉砕してメタノールで洗浄し、乾燥して、アクリル系重合体(A)を得た。
得られたアクリル系重合体(A)は、トルエン、塩化メチレン、N−メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドのいずれの溶剤にも不溶であった。
また、このアクリル系重合体(A)のガラス転移温度は37℃であり、熱分解温度は260℃であることが確認された。
【0038】
実施例3
〔前記式(1)で表されるアクリル系化合物(B)の製造例〕
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた1リットルのフラスコに、メタクリル酸172.2g(2.0モル)、酢酸ビニル172.2g(2.0モル)及び濃硫酸2.0g(0.02モル)を入れ、40℃で7時間、攪拌した。
TLCによりメタクリル酸が全て消費されたことを確認した後、炭酸水素ナトリウムを含む水で1回洗浄し、次いで、純水で1回洗浄した。
このようにして得られた有機相を、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧蒸留(0.1kPa、36〜40℃)して、無色透明の液状生成物を得た。
この液状生成物の収量は186.7g(理論収率54.2%)であった。
前記液状生成物を1H−NMR及び13C−NMRにより分析した結果、前記式(1)中、R1及びR2がメチル基であるアクリル系化合物(B)と同定された。
1H−NMRチャートを図3に、13C−NMRチャートを図4に示す。
【0039】
実施例4
〔アクリル系重合体(B)の製造例〕
実施例3で製造されたアクリル系化合物(B)20g(0.116モル)にアゾビスイソブチロニトリル20mg(0.1モル%)を反応器に入れ、窒素ガスで脱気置換した後、65℃のオイルバスで4時間加熱した。
次いで、反応器を破断して生成物を取り出した。この生成物は、無色透明のガラス状固形物であった。
前記ガラス状固形物を60℃の真空乾燥器に入れ、未反応単量体を除去して、アクリル系重合体(B)を得た。
このアクリル系重合体(B)を、ジメチルホルムアミド、アセトン、酢酸エチル及びトルエンそれぞれに浸漬したが、いずれの溶媒にも不溶であり、表面も全く白濁せず、無色透明の状態は保持されていた。
また、前記アクリル系重合体(B)のガラス転移温度は160℃であり、熱分解温度は250℃であった。
得られたアクリル系重合体(B)を粉砕し、この粉砕物について、日本電子株式会社製、JNM−CMXP302 NMR装置に5mmCPMAS Probeを装着して、100℃でCPMASを測定した。このCPMASチャートを図5に示す。
【0040】
実施例5
〔アクリル系共重合体(C)の製造例〕
メタクリル酸メチル9.90g(0.115モル)、実施例3で得られた前記式(1)で表されるアクリル系化合物(B)0.20g(0.00116モル)及びアゾビスイソブチルニトリル20mg(0.00012モル)を反応器に入れ、窒素ガスで脱気置換した後、65℃のオイルバスで4時間加熱した。
次いで、反応器を破断して生成物を取り出した。この生成物は、無色透明のガラス状固形物であった。
このガラス状固形物を60℃の真空乾燥器の中に入れ、未反応単量体を除去し、アクリル系共重合体(C)を得た。
このアクリル系共重合体(C)のガラス転移温度は105℃、熱分解温度は255℃であった。
前記アクリル系共重合体(C)を、ジメチルホルムアミド、アセトン、酢酸エチル及びトルエンそれぞれに浸漬したが、いずれの溶媒にも不溶であり、また、表面も全く白濁せず、無色透明の状態は保持されていた。
また、前記アクリル系共重合体(C)を200℃のオイルバスに浸漬したところ、ゴム状弾性体となったが、初期の形状は保持されていた。
【0041】
実施例6
〔前記式(1)で表されるアクリル系化合物(A)の他の製造例〕
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた1リットルのフラスコに、アクリル酸144.1g(2.0モル)、酢酸ビニル172.2g(2.0モル)、p−メトキシフェノール0.1g(アクリル酸及び酢酸ビニル全量に対して300ppm)及び濃硫酸2.0g(0.02モル)を入れ、50℃で4時間、攪拌した。
TLCにより、アクリル酸が全て消費されたことを確認した後、炭酸水素ナトリウムを含む水で1回洗浄し、次いで、純水で1回洗浄した。
このようにして得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、p−メトキシフェノール0.1gを有機相に加え、減圧蒸留(0.2kPa、41〜45℃)して、無色透明の液状生成物を得た。
この液状生成物の収量は183.4g(理論収率53.5%)であった。
また、前記液状生成物については、実施例1と同様のNMRチャートが得られ、前記式(1)中、R1が水素であり、R2がメチル基であるアクリル系化合物(A)と同定された。
【0042】
実施例7
〔前記式(1)で表されるアクリル系化合物(B)の他の製造例〕
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた1リットルのフラスコに、メタクリル酸172.2g(2.0モル)、酢酸ビニル172.2g(2.0モル)、p−メトキシフェノール0.1g(メタクリル酸及び酢酸ビニルに対して300ppm)及び濃硫酸 2.0g(0.02モル)を入れ、45℃で5時間、攪拌した。
TLCにより、メタクリル酸が全て消費されたことを確認した後、炭酸水素ナトリウムを含む水で1回洗浄し、次いで、純水で1回洗浄した。
このようにして得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、p−メトキシフェノール0.1gを有機相に加え、減圧蒸留(0.1kPa、36〜40℃)いて、無色透明の液状生成物を得た。
この液状生成物の収量は、203.5g(理論収率59.1%)であった。
また、前記液状生成物については、実施例3と同様のNMRチャートが得られ、前記式(1)中、R1及びR2がメチル基であるアクリル系化合物(B)と同定された。
【0043】
実施例8〜12
〔評価〕
実施例3で製造された前記式(1)で表されるアクリル系化合物(B)(単量体1)又はこの単量体1とメタクリル酸メチル(単量体2)との混合物に、0.3モル%の過酸化ベンゾイルを添加し、2mm厚さの隙間を有するガラス板の間に流し込んで、40〜80℃で注型重合を行ない、無色透明の重合体からなるプレートを作製した。
このプレートについて、耐熱性、耐溶剤性及び透明性を評価した。
結果を表1に示す。また、表1には、前記重合体を与えた単量体1及び単量体2の使用割合をも示す。
【0044】
比較例1
単量体2を用い、実施例8〜12と同様にして、無色透明の重合体からなるプレートを作製し、このプレートについて、耐熱性、耐溶剤性及び透明性を評価した。
結果を1に示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のアクリル系共重合体は、発泡成形が可能であり、発泡成形することにより、レンジ対応食品容器、自動車用内装材、ユニットバス又は配管用断熱材などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で製造されたアクリル系化合物(A)の1H−NMRチャートである。
【図2】実施例1で製造されたアクリル系化合物(A)の13C−NMRチャートである。
【図3】実施例3で製造されたアクリル系化合物(B)の1H−NMRチャートである。
【図4】実施例3で製造されたアクリル系化合物(B)の13C−NMRチャートである。
【図5】実施例4で製造されたアクリル系重合体(B)のCPMASチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするアクリル系化合物。
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
触媒の存在下、下記式(2)
【化2】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸と、下記式(3)
CH2=CH−OCOR2 (3)
(式中、R2は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される脂肪族カルボン酸ビニルエステルとを反応させることを特徴とする、下記式(1)
【化3】

(式中、R1及びR2は、前記と同じである。)
で表されるアクリル系化合物の製造方法。
【請求項3】
触媒が、酸系触媒である請求項2に記載のアクリル系化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアクリル系化合物、又はこのアクリル系化合物と、これと共重合可能なエチレン系不飽和化合物を重合させてなることを特徴とするアクリル系重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−328012(P2006−328012A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156102(P2005−156102)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】