説明

アクリル酸アルキルエステルの製造方法

【課題】
工業的規模で効率よく、高純度のアクリル酸エステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】
酢酸を含有するアクリル酸と炭素数が4〜8個のアルコールからアクリル酸エステルを製造する方法であって、反応液を次の(1)〜(5)の工程で処理する。
(1)反応液にアルカリ水溶液を加え、大気圧下、35〜65℃の温度で、アクリル酸および触媒成分を中和し、アクリル酸エステルおよび酢酸エステルの一部を鹸化加水分解する工程、
(2)有機相と水相に分離する工程、
(3)有機相から蒸留によりアクリル酸エステルを留出させ、一方、水相に酸を添加して、アクリル酸および酢酸を遊離させる工程、
(4)遊離したアクリル酸および酢酸を、アクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとアルコールとの混合物からなる抽出剤を用いて抽出する工程、
(5)抽出相を反応器へ循環して再利用する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル酸アルキルエステルの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、原料のアクリル酸に不純物として含まれている酢酸を中和工程および抽出工程にて効率よく除去することにより、不純物の含有量が少ないアクリル酸アルキルエステルを工業的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸アルキルエステルは重合性能を有する化合物であり、得られる重合体に優れた特性を付与することができるため、種々の用途、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、合成樹脂および繊維等の原料として幅広く用いられている。
アクリル酸アルキルエステルの製造方法としては、酸触媒の存在下に、アクリル酸とアルコールとをエステル化反応させて製造する方法が用いられている。該方法におけるエステル化反応で得られた、主成分がアクリル酸アルキルエステルである反応液から、酸触媒および未反応のアクリル酸を除去する方法として、反応液をアルカリ水溶液で処理することで、酸触媒および未反応アクリル酸を水相に移して分離する方法が知られている(特許文献1参照)。
さらに、アルカリ水溶液で除去された未反応アクリル酸を酸性水と有機溶剤と接触させることによってアクリル酸を回収する方法が開示されている(特許文献2参照)。
しかしながら、原料のアクリル酸に含まれている酢酸も、同様にエステル化されて酢酸アルキルエステルが生成する。生成した酢酸アルキルエステルは、アクリル酸アルキルエステルと沸点が近いために蒸留操作では十分な分離が困難なために、アクリル酸アルキルエステル中に不純分として含まれることになる。そのため、原料のアクリル酸に酢酸が含まれる場合には、不純物である酢酸アルキルエステルの含有量が少ないアクリル酸アルキルエステルを製造することは困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−243046号公報
【特許文献2】特開2006−213647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の製造方法では、原料のアクリル酸に酢酸が含まれる場合には、不純物である酢酸アルキルエステルの含有量が少ないアクリル酸アルキルエステルを製造することは困難であるという問題点を解決し、効率よく、酢酸アルキルエステルの含有量が少ない高純度のアクリル酸アルキルエステルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、未反応のアルコールとアクリル酸を含むアクリル酸アルキルエステルと酢酸アルキルエステルからなる反応混合物のアルカリ水溶液による中和および鹸化加水分解工程の条件の選定、未反応および鹸化加水分解したアクリル酸および酢酸を選択的に抽出するのに適した抽出剤を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1発明は、酢酸を含有するアクリル酸と、炭素数が4〜8個のアルコールとを用いるアクリル酸アルキルエステルを製造する方法であって、エステル化反応工程で生じる水を、水と共沸を形成する有機溶剤との共沸蒸留により除去して得られた反応液について、少なくとも次の(1)〜(5)の工程を含む方法で処理することを特徴とするアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
(1)反応液にアルカリ水溶液を加え、大気圧下、35℃〜65℃の温度で、アクリル酸および触媒成分を中和し、かつ、アクリル酸アルキルエステルおよび酢酸アルキルエステルの一部または全部を鹸化加水分解する工程、
(2)上記工程の後に、有機相と水相に分離する工程、
(3)上記で分離した有機相から蒸留によりアクリル酸アルキルエステルを留出させ、一方、分離した水相に酸を添加して、水相中にアルカリ塩の形で存在するアクリル酸および酢酸を遊離させる工程、
(4)上記で遊離したアクリル酸および酢酸を、アクリル酸アルキルアクリレートまたはアクリル酸アルキルエステルとアルコールとの混合物からなる抽出剤を用いて抽出する工程、
(5)上記抽出相を反応器へ循環して再利用する工程
【0007】
本発明の第2発明は、前記工程(1)において、4〜25質量%のアルカリ水溶液を反応液中の酸分に対して1.05〜1.5倍当量添加しながら、大気圧下、35℃〜65℃の温度で、5〜30分間反応を行なう第1発明のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
本発明の第3発明は、前記アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液である第1発明または第2発明に記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
本発明の第4発明は、前記工程(2)の分離に遠心分離機を用いる第1発明〜第3発明のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
本発明の第5発明は、前記工程(4)で用いる抽出剤が、工程(2)で得られる有機相である第1発明〜第4発明のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
本発明の第6発明は、前記工程(4)で用いる抽出剤のアクリル酸アルキルエステル/アルコールの質量比が、1/0〜1/0.5である第1発明〜第5発明のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
本発明の第7発明は、炭素数4〜8個のアルコールがn−ブチルアルコールあるいはイソブチルアルコールである、第1発明〜第6発明のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
本発明の第8発明は、工程(1)〜(5)を連続で行うことを特徴とする第1発明〜第7発明のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、酢酸を含有するアクリル酸を原料に使用した場合でも、工業的に容易な方法で、効率よく、酢酸に起因する酢酸アルキルエステルなどの不純物の含有量が少ない、極めて高純度のアクリル酸アルキルエステルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は、酸触媒の存在下、アクリル酸とアルコールとをエステル化反応させて、アクリル酸アルキルエステルを製造する方法に係わるものであり、かかる製造方法自体は広く知られている方法である。
原料であるアクリル酸は工業的に使用されているものが使用できる。アクリル酸の製造時の酢酸の分離精製能力にも依存するが、一般に市販されているアクリル酸には不純物である酢酸が通常0.1質量%以下の範囲で含まれている。本願発明の効果をよく発現するためには、酢酸を0.005〜0.1質量%含むアクリル酸に好ましく適用される。
【0010】
原料のアルコールとしては、炭素数が4〜8個のアルコールが用いられ、脂肪族アルコール、脂環式アルコールおよび芳香族アルコールのいずれもが適用される。
それらの具体例を挙げると、脂肪族アルコールとしては、例えば、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソオクチルアルコール、(ポリ)アルキレングリコール、アルキレンオキサイド変性2−エチルヘキシルアルコール、アルキレンオキサイド変性(ジ)グリセリン、(ジ)ペンタエリスリトール、(ジ)トリメチロールプロパン、アルキレンオキサイド変性(ジ)トリメチロールプロパン、アルキレンオキサイド変性ペンタエリスリトール等が挙げられる。
脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロヘキシルアルコール等が挙げられる。
芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、アルキレンオキサイド変性フェノール、アルキレンオキサイド変性ノニルフェノール、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA、アルキレンオキサイド変性p−クミルフェノール、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールF等が挙げられる。
これらのアルコールの中でも、本願発明の効果が発現しやすいとの理由から、n−ブチルアルコールおよびイソブチルアルコールが好ましい。
【0011】
前記エステル化におけるアクリル酸とアルコールの使用割合は、特に限定されないが、アクリル酸1モルに対して、アルコール0.1〜10モルの範囲から選択することが好ましく、未反応分による損失を抑制する目的から、さらに好ましくは、アルコールが0.8〜1.5モルの範囲である。
エステル化反応に使用する触媒としては、通常エステル化触媒として用いられているルイス酸が幅広く適用され、具体的には、硫酸および塩酸等の鉱酸、パラトルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸等の有機酸、陽イオン交換樹脂等が挙げられる。
また、触媒の使用量は、特に限定されないが、アクリル酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルの範囲から選択することが好ましい。
【0012】
また、前記エステル化反応において水が副生するが、この水を反応液から除去するために、水と共沸組成を形成する有機溶剤を、あらかじめ反応前および/または反応中に反応器内に供給することが必要である。このような有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、n−へキサン、シクロヘキサン、イソプロピルエーテルなどが例示され、これらの中でもn−ヘキサンが好ましい。
エステル化反応の温度、圧力および反応時間などの条件は、公知の反応条件を特に限定なく選択することが出来る。例えば、反応温度80〜130℃で、1〜12時間かけて行うことが例示できる。エステル化反応により副生する水は、前記水と共沸組成を形成する有機溶剤と同伴して反応系外に除去される。この水の除去はエステル化反応と同時に行なうことによりエステル化反応を促進することができ、さらに必要に応じて、反応工程とは別に、反応液に含まれる有機溶剤を除去する脱溶剤工程を適宜設定してもよい。
【0013】
前記エステル化反応で得られた反応液には、生成したアクリル酸アルキルエステルと酢酸アルキルエステル、未反応のアクリル酸と酢酸、未反応のアルコール、触媒などが含まれている。本発明の製造方法は、この反応液を、次の(1)〜(5)の各工程で処理することが特徴である。
【0014】
工程(1)
反応液にアルカリ水溶液を加え、アクリル酸および触媒成分を中和し、かつ、アクリル酸アルキルエステルおよび酢酸アルキルエステルの一部または全部を鹸化加水分解する。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物もしくは炭酸塩等の水溶液を挙げることができる。これらの中でも、反応性の面から、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
水溶液の濃度としては、4〜25質量%のものを用いることが好ましい。水溶液濃度が4質量%より低い場合には水相の量が多くなり、その後の廃水処理工程の負荷が大きくなるため経済的ではない。また、水溶液濃度が25質量%を超える場合には過剰に鹸化分解が起こる恐れがある。
アルカリ水溶液の供給量は、目的とする反応が十分に進行させるため、反応液中に含まれる酸分に対して1.05〜1.5倍当量であることが好ましい。
本発明の製造方法において、工程(1)の反応温度が35℃〜65℃であることが重要である。温度が35℃より低い場合には鹸化加水分解が十分に起こらず、65℃を超える場合には、過剰に鹸化加水分解が起こるため、アクリル酸アルキルエステルの収量が少なくなるために経済的ではない。
前記中和・鹸化加水分解の反応時間は、大気圧下で、5〜30分であることが好ましい。5分より短い場合には十分な鹸化加水分解が起こらず、酢酸を十分に除去することができない恐れがある。一方、30分を超える場合には過剰に鹸化加水分解が起こってしまい、アクリル酸エステルの収量が少なくなるために経済的ではない。
なお、アルカリ水溶液を加えた後の反応液のpHは、未反応および鹸化分解による酸の除去のために、9以上にするのが好ましい。
【0015】
工程(2)
中和・鹸化加水分解工程の後に、アクリル酸アルキルエステルおよびアルコールを含む有機相と、アクリル酸、酢酸および触媒成分のアルカリ塩と、過剰のアルカリ成分とアルコールの一部を含んだ水相に分離する。この分離には、静置分離器や遠心分離機などを用いることができるが、特開平10−45669号公報等に記載されているように、有機相と水相の分離境界面にポリマーやスラッジ等の副生成物が蓄積されやすく、それらが起因となって分離不良を起こし、安定な連続運転ができなくなるという問題が生じる恐れがあるので、遠心分離機を用いた分離方法が好ましい。
【0016】
工程(3)
前記工程(2)で分離された有機相は、通常の蒸留分離により、目的とするアクリル酸アルキルエステルを留出することができる。
一方、工程(2)で分離された水相は、アクリル酸塩および酢酸塩を含み、塩濃度は通常5〜25質量%である。これに酸を添加することで、アクリル酸塩および酢酸塩がアクリル酸および酢酸として水相から遊離する。酸を添加することで、液のpHを2以下にすることが好ましく、さらに好ましくは1.5〜2の範囲にすることである。pHが2より高いと、アクリル酸の回収率が減少する。
酸としては、硫酸、塩酸および硝酸等が例示され、装置の腐食やコストの面から硫酸が好ましい。酸の添加の際に水相中の塩濃度が飽和し塩が析出する場合には、水を加えてそれを溶解することが好ましい。
【0017】
工程(4)
前記工程(3)で遊離したアクリル酸および酢酸を抽出剤を用いて抽出する。抽出剤としては、
アクリル酸を選択的に抽出することができる、アクリル酸アルキルエステルまたはアクリル酸アルキルエステルとアルコールとの混合物からなる抽剤剤が好ましい。製品となるアクリル酸アルキルエステルとは異なるアクリル酸アルキルエステルおよびアルコールを用いることは可能ではあるが、製品への混入を避けるためには、同種のアクリル酸アルキルエステルおよびアルコールを用いることが好ましい。
また、アクリル酸アルキルエステル/アルコールの重量比は、1/0〜1/0.5であることが好ましい。製品により抽出を行うことも可能ではあるが、前記工程(2)で得られた有機相を用いることが好ましい。また、エステル化反応における脱水に用いる有機溶剤が一部混入しても良い。
【0018】
抽出工程は1段でも可能であるが、抽出率を高めるために多段抽出が好ましい。多段抽出における好ましい段数は、溶剤の種類によっても異なるが、好ましくは3段〜10段である。また、抽出はバッチ式または連続式のいずれを用いてもよい。連続抽出は通常抽出塔を用いて、上方から水相を供給し、下方から有機相を供給することにより両者を接触させる向流抽出によって行われる。連続の場合にも、抽出理論段数としては3〜10段が好ましい。本発明において、特に好ましい方法は、理論段数3〜10段の連続抽出である。連続抽出に使用できる抽出塔としては、多孔板の棚段塔、充填塔、回転円板式抽出塔、ミキサーセトラータイプの抽出塔および往復振動式抽出塔等が挙げられる。
抽出における水相と有機相の割合としては、水相1当たり有機相0.5〜2(容量比)が好ましく、さらに好ましくは有機相1.0〜1.5である。
抽出塔への水相および有機相の供給速度、抽出塔の内径および塔高等は、目的とする抽出速度および抽出率等に応じて適宜選択すればよい。
【0019】
工程(5)
前記工程(4)で得られた抽出液を反応器に循環させて、抽出したアクリル酸をエステル化反応に再利用する。
なお、前記工程(4)における抽出残渣は、必要に応じて公知の方法で処理を行った後、廃液とする。
【0020】
本発明の製造方法で得られるアクリル酸アルキルエステルは、不純物の含有量が少ない高純度なものである。
不純物である酢酸アルキルエステルは、原料に含まれる酢酸に起因するものであり、酢酸アルキルエステルはアクリル酸アルキルエステルと沸点が近いので、通常の蒸留では分離が困難である。
従って、本発明における反応液の処理工程(1)〜(5)により、回収されて、エステル化反応に再利用されるアクリル酸に同伴される酢酸の量を少なくすることが重要である。
【0021】
すなわち、アルカリ水溶液によりアクリル酸アルキルエステルおよび酢酸アルキルエステルは鹸化加水分解されるが、酢酸アルキルエステルの方がアクリル酸アルキルエステルより鹸化加水分解されやすいこと、また、抽出に用いるアクリル酸アルキルエステルまたはアクリル酸アルキルエステルとアルコール混合物はアクリル酸より酢酸をより選択的に水相に分配することから、本発明における反応液の処理工程(1)〜(5)の操作により、酢酸成分を水相側に選択的に抜き出すことができ、アクリル酸アルキルエステル製品中の酢酸エステルの濃度を低下させる効果があると推定される。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例により詳細に説明する。なお、特に断りのない限りは、%は質量%を意味する。
実施例1
酢酸を750ppm含有するアクリル酸とイソブチルアルコールを、硫酸を触媒として反応させて得られた反応生成物(残留アクリル酸3.9質量%)について、以下の工程(1)〜(5)の処理を行った。
工程(1):中和槽で10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、40℃、滞留時間10分で中和を行い、pH11の液を得た。
工程(2):遠心分離機にて、有機相(アクリル酸イソブチル90%、酢酸イソブチル0.5%、イソブタノール3.4%、水分0.6%、高沸成分等5.5%)および水相を分離した。
工程(3):前記水相に98質量%硫酸を加えpHを1.8にして、有機分25%、無機塩15%、水分65%の水溶液を得た。
工程(4):前記水溶液を回転円板式の抽出塔(理論段数3段)にて、水相1に対して前記中和にて分離した有機相を重量比1.4で連続抽出を行った。
工程(5):抽出相は反応に戻し、抽残相は廃水処理設備にて処理を行った。
前記工程(2)で分離した有機相を蒸留精製した結果、アクリル酸イソブチル中の酢酸イソブチル濃度は490ppmであった(参考:原料に用いたアクリル酸中に含まれている酢酸が全てエステル化して製品に入る場合は816ppmとなる)。
抽出塔での抽出率を測定したところ、アクリル酸が99.5%に対して、酢酸は36.4%であった。
【0023】
実施例2
実施例1の反応生成物(残留アクリル酸3.9%)について、以下の工程(1)〜(5)の処理を行った。
工程(1):中和槽で10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、温度60℃、滞留時間10分で中和を行い、pH11の液を得た。
工程(2):有機相(アクリル酸イソブチル90%、酢酸イソブチル0.4%、イソブタノール3.5%、水分0.6%、高沸成分等5.5%)と水相に遠心分離機にて分離した。
工程(3)前記水相に98質量%硫酸を加えpHを1.8にして、有機分27%、無機塩15%、水分63%の水溶液が得た。
工程(4):前記水溶液を回転円板式の抽出塔(理論段数3段)にて、水相1に対して中和にて分離した有機相を重量比1.4で連続抽出を行った。
工程(5):抽出相は反応に戻し、抽残相は廃水処理設備にて処理を行った。
前記工程(2)で分離した有機相を蒸留精製した結果、アクリル酸イソブチル中の酢酸イソブチル濃度は250ppmであった(参考:原料に用いたアクリル酸中に含まれている酢酸が全てエステル化して製品に入る場合は816ppmとなる)。
抽出塔での抽出率を測定したところ、アクリル酸が99.5%に対して、酢酸は36.4%であった。
【0024】
実施例3
酢酸を900ppm含有するアクリル酸とn−ブタノールを、硫酸触媒で反応した反応生成物(残留アクリル酸2.7%)について、以下の工程(1)〜(5)の処理を行った。
工程(1):中和槽で10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、温度40℃、滞留時間20分で中和を行い、pH10の液を得た。
工程(2):有機相(アクリル酸n−ブチル90%、酢酸n−ブチル0.5%、n−ブタノール3.4%、水分0.6%、高沸成分等5.5%)と水相に遠心分離機にて分離した。
工程(3):前記水相に98質量%硫酸を加えpHを1.5にして、有機分24%、無機塩15%、水分65%の水溶液を得た。
工程(4):前記水溶液を回転円板式の抽出塔(理論段数3段)にて、水相1に対してアクリル酸n−ブチルを重量比1.4で連続抽出を行った。
工程(5):抽出相は反応に戻し、抽残相は廃水処理設備にて処理を行った。
前記工程(2)で分離した有機相を蒸留精製した結果、アクリル酸n−ブチル中の酢酸n−ブチル濃度は350ppmであった(参考:原料に用いたアクリル酸中に含まれている酢酸が全てエステル化して製品に入る場合は1010ppmとなる)。
抽出塔での抽出率を測定したところ、アクリル酸が99.6%に対して、酢酸は35.2%であった。
【0025】
比較例1
実施例1の反応生成物(残留アクリル酸3.9%)について、以下の工程(1)〜(5)の処理を行った。
工程(1):中和槽で10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、温度30℃、滞留時間5分で中和を行い、pH11の液を得た。
工程(2):有機相(アクリル酸イソブチル90%、酢酸イソブチル0.3%、イソブタノール3.2%、水分0.6%、高沸成分等5.9%)と水相に遠心分離機にて分離した。
工程(3):前記水相に98質量%硫酸を加えpHを1.8にして、有機分25%、無機塩15%、水分65%の水溶液を得た。
工程(4):前記水溶液を回転円板式の抽出塔(理論段数3段)にて、水相1に対して中和にて分離した有機相を重量比1.4で連続抽出を行った。
工程(5):抽出相は反応に戻し、抽残相は廃水処理設備にて処理を行った。
前記工程(2)で分離した有機相を蒸留精製した結果、アクリル酸イソブチル中の酢酸イソブチル濃度は720ppmであった(参考:原料に用いたアクリル酸中に含まれている酢酸が全てエステル化して製品に入る場合は816ppmとなる)。
抽出塔での抽出率を測定したところ、アクリル酸が99.5%に対して、酢酸は36.4%であった。
【0026】
比較例2
実施例1の反応生成物(残留アクリル酸3.9%)について、以下の工程(1)〜(5)の処理を行った。
工程(1):中和槽で10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、温度70℃、滞留時間10分で中和を行い、pH11の液を得た。
工程(2):有機相(アクリル酸イソブチル87%、酢酸イソブチル0.3%、イソブタノール5.2%、水分1.6%、高沸成分等5.9%)と水相に遠心分離機にて分離した。
工程(3):前記水相に98質量%硫酸を加えpHを1.8にして、有機分30%、無機塩15%、水分55%の水溶液を得た。
工程(4):前記水溶液を回転円板式の抽出塔(理論段数3段)にて、水相1に対して中和にて分離した有機相を重量比1.4で連続抽出を行った。
工程(5):抽出相は反応に戻し、抽残相は廃水処理設備にて処理を行った。
前記工程(2)で分離した有機相中の水分および分解したイソブタノールが増加して、蒸留精製工程のスチーム使用量が増加して精製系の運転が不安定になったので、条件を実施例2に戻した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のアクリル酸アルキルエステルの製造方法によれば、工業的に容易な方法で、純度の極めて高いアクリル酸アルキルエステルを得ることができる。純度の高いアクリル酸アルキルエステルは、種々の用途、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、合成樹脂および繊維等の原料として用いた場合、従来より性能に優れた製品を製造することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸を含有するアクリル酸と、炭素数が4〜8個のアルコールとを用いるアクリル酸アルキルエステルを製造する方法であって、エステル化反応工程で生じる水を、水と共沸を形成する有機溶剤との共沸蒸留により除去して得られた反応液について、少なくとも次の(1)〜(5)の工程を含む方法で処理することを特徴とするアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
(1)反応液にアルカリ水溶液を加え、大気圧下、35℃〜65℃の温度で、アクリル酸および触媒成分を中和し、かつ、アクリル酸アルキルエステルおよび酢酸アルキルエステルの一部または全部を鹸化加水分解する工程、
(2)上記工程の後に、有機相と水相に分離する工程、
(3)上記で分離した有機相から蒸留によりアクリル酸アルキルエステルを留出させ、一方、分離した水相に酸を添加して、水相中にアルカリ塩の形で存在するアクリル酸および酢酸を遊離させる工程、
(4)上記で遊離したアクリル酸および酢酸を、アクリル酸アルキルエステルまたはアクリル酸アルキルエステルとアルコールとの混合物からなる抽出剤を用いて抽出する工程、
(5)上記抽出相を反応器へ循環して再利用する工程
【請求項2】
前記工程(1)において、4〜25質量%のアルカリ水溶液を反応液中の酸分に対して1.05〜1.5倍当量添加しながら、大気圧下、35℃〜65℃の温度で、5〜30分間反応を行なう請求項1記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液である請求項1または請求項2に記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)の分離に遠心分離機を用いる請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
前記工程(4)で用いる抽出剤が、工程(2)で得られる有機相である請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
前記工程(4)で用いる抽出剤のアクリル酸アルキルエステル/アルコールの質量比が、1/0〜1/0.5である請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項7】
炭素数が4〜8個のアルコールがn−ブチルアルコールあるいはイソブチルアルコールである、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項8】
工程(1)〜(5)を連続で行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル酸アルキルエステルの製造方法。



【公開番号】特開2010−189335(P2010−189335A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36571(P2009−36571)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】