説明

アクロカルポスポラ(ACROCARPOSPORA)属の新種、ヨージニンを調製する方法、およびヨージニンの使用

【課題】薬剤として貴重な抗生物質であるミキシンにヨージニンを変換することができることから、ヨージニンは抗生物質分野でもおおいに興味を持たれており、それを製造するための適切な方法の開発に多大な努力が費やされてきた。
【解決手段】本発明は、ヨージニンを生産することが可能なアクロカルポスポラ属の新種を提供する。本発明はまた、ヨージニンを調製する方法、ならびに細胞毒性を誘導する、および癌を治療する際におけるヨージニンの使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨージニン(iodinin)を生産することが可能なアクロカルポスポラ(Acrocarpospora)属の新種、ヨージニンを調製する方法、ならびに細胞に細胞毒性を誘導する、および癌を治療する際におけるヨージニンの使用に関係する。
【背景技術】
【0002】
ヨージニン、1,6-フェナジンジオール5,10-ジオキシドは、紫色の、赤く輝く顔料で、適切な固体培地上で単離されたクロモバクテリウム・ヨージナム(Chromobacterium iodinum)のコロニーを覆っているのを当初発見された。それはフェナジン化合物の1種であることが発見されており、微生物により生産されることが知られている。薬剤として貴重な抗生物質であるミキシン(myxin)にヨージニンを変換することができることから、ヨージニンは抗生物質分野でもおおいに興味を持たれており、米国特許番号第3,663,373号に開示されている方法のように、それを製造するための適切な方法の開発に多大な努力が費やされてきた。
【0003】
上記の抗細菌特性に加えて、米国特許番号第3,764,679号により、過敏症患者で血圧を低下させるための有効な降圧剤としてヨージニンを使用することができることが報告された。
【0004】
アクロカルポスポラ属は、最初Tamuraら(2000)により開示され、前記属は現在以下の3種を含む。すなわち:A.コルガタム(A. corrugatum)、A.マルコセファラ(A. macrocephala)、およびA.プライオモルファ(A. pleiomorpha)。属の構成員は、好気性、グラム陽性、非抗酸性(no-acid-fast)、非運動性で、分枝状基生菌糸を形成する生物である。非断片基生菌糸が存在する。コイル状胞子鎖を含む球状およびこん棒状構造が、気中菌糸の先端に現れる。胞子は、滑らかな表面を有する卵形または短桿状で、非運動性である。この生物はメソジアミノピメリン酸(A2pm)を含み、マズロース、グルコース、アラビノース、およびラムノースが全細胞糖(タイプB)の中に検知される(Lechevalier & Lechevalier, 1970)。主な細胞脂肪酸はイソC16:0、C16:0、C17:0、および10-メチル-C17:0であり、ホスファチジルエタノールアミンが特徴的なリン脂質として存在する。主なメナキノンはMK-9(H4)およびMK-9(H2)であり、培養物中にミコール酸は存在しない。属の構成員は68モル%から69モル%のGC含量を有する。
【0005】
本発明で本出願人は、ヨージニンを生産することが可能なアクロカルポスポラ属の新種を発見した。本出願人はまた、これまでに報告されたことのない、哺乳類細胞で細胞毒性を誘導する際におけるヨージニンの新機能も発見した。
【特許文献1】米国特許番号第3,663,373号
【特許文献2】米国特許番号第3,764,679号
【非特許文献1】Lechevalier, M. P. & Lechevalier, H. A. (1970). Int. J. Syst. Bacteriol. 20: 435-443.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主題の一つは、ヨージニンを生産することが可能な新規単離アクロカルポスポラ菌株を提供することである。単離アクロカルポスポラ菌株は、好ましくはATCCに登録番号PTA-8410で寄託された04107M-2菌株、あるいはバリアント、またはその変異体である。
【0007】
本発明の別の主題は、本発明の単離アクロカルポスポラ菌株をインキュベートすることによりヨージニンを生産する、ヨージニンを調製するための方法を提供することである。生産されるヨージニンをさらに単離、または精製してよい。
【0008】
本発明の別の主題は、有効量のヨージニンを含む、動物の細胞で細胞毒性を誘導するための組成物を提供することである。ある態様において、動物は哺乳類であり、好ましくはヒトである。別の態様において、細胞はAGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7のような癌細胞または細胞系統である。
【0009】
本発明のさらなる主題は、動物の細胞で細胞毒性を誘導するための薬剤を製造する際におけるヨージニンの使用を提供することである。ある態様において、動物は哺乳類であり、好ましくはヒトである。別の態様において、細胞はAGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7のような癌細胞または細胞系統である。
【0010】
本発明のさらなる主題は、細胞をヨージニンと接触させることを含む、動物の細胞で細胞毒性を誘導するための方法を提供することである。ある態様において、動物は哺乳類であり、好ましくはヒトである。別の態様において、細胞はAGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7のような癌細胞または細胞系統である。
【0011】
本発明の別の主題は、有効量のヨージニンを含む、動物で癌を治療するための医薬組成物を提供することである。ある態様において、動物は哺乳類であり、好ましくはヒトである。
【0012】
本発明の別の主題は、癌を治療するための薬剤の製造におけるヨージニンの使用を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の主題は、癌の治療を必要とする動物に対して有効量のヨージニンを投与することを含む、動物で癌を治療するための方法を提供することである。ある態様において、動物は哺乳類であり、好ましくはヒトである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
<定義>
別途定義されていない限り、本発明に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者に一般に理解される意味を有するものとする。用語の意味および範囲は明確で無ければならない;しかしながら、いずれかの潜在的な不明確性がある場合、ここで提供される定義は、いずれの辞書または外部の定義を超えて先例とみなす。
【0015】
別途示されない限り、本発明の方法および技術は、当業者に既知であり、ならびにここを通して引用および議論される、種々の一般的およびより特異的引用に記載されるような、伝統的技術により一般に実行される。本発明に関連して使用される用語、ならびに本発明の研究室手順および技術、ならびにここに記載される医学的および医薬化学は当業者に既知であり、一般に使用される。
【0016】
「単離される」または「単離」の語は、元来の環境(例えば、それが天然に存在するのであれば自然環境)から物質が除去されることを意味する。「単離される」の語は、物質が精製されるまでの程度を必ずしも反映しない。
【0017】
「変異体」または「バリアント」の語は、例えば化学的変異導入、自然突然変異、遺伝子工学、形質変換、またはトランスフェクションにより、その物理的または生化学的特性が改変されるように、細胞の遺伝的組成全体が改変されている、微生物のいずれかを包含すると意味される。しかしながら、前記バリアントまたは変異体は、ATCCに登録番号PTA-8410で寄託された菌株04107M-2を同定する特徴の全てを有するべきである。
【0018】
「全ブロス培養物」の語は、細胞および培地の両方を含む液体培養物を言及する。
【0019】
「治療する」または「治療」の語は、平均余命を延長することを含む、重度の症状または病的状態の影響を、防止または軽減することを意味する。癌治療の状況において、治療は以下を含んでよい。すなわち:腫瘍増殖の防止、腫瘍サイズの縮小、増大する腫瘍細胞死、または腫瘍中で増加するアポトーシス。
【0020】
「有効量」の語は、有利な、または所望の結果をもたらすために十分な量を意味する。
【0021】
「組成物」の語は、アジュバントのような、不活性(例えば、検知可能な薬剤または標識あるいは液体担体)または活性の、活性薬剤および他の化合物、担体または組成物の組み合わせを意味する。
【0022】
「細胞毒性」の語は、細胞うっ滞、例えば増殖する能力の喪失となる細胞死および毒性の両方、ならびにアポトーシスに言及する。
【0023】
「哺乳類」の語は、例えばヒト、ウサギ、およびサルを含む、哺乳腺により分泌される乳で子供を養育する高等脊椎動物の綱のいずれかを意味する。
【0024】
<アクロカルポスポラ菌株>
本発明の主題の一つは、アクロカルポスポラの単離菌株を提供することである。本発明の菌株を、天然源、例えば台湾の台東県から集められる土壌試料より単離することができる。本発明の単離菌株はヨージニンを生産することができ、以下の特徴を有する。単離菌株は基生菌糸を提示し、胞子嚢が気中菌糸上に現れる。単離菌株は、そのペプチドグリカン中にメソジアミノピメリン酸を含む。グルコース、マズロース、およびラムノースが菌株の全細胞の糖である。見出される唯一のリン脂質はホスファチジルエタノールアミン(PE)であり、主なメナキノンはMK-9(H4)およびMK-9(H2)である。ミコール酸は検出されない。主な細胞脂肪酸はイソC16:0(19.6 %)、C17:0(16.84 %)、および10-メチル-C17:0(26.51 %)であり、GC含量は 72.40モル%である。表現型および遺伝子型データに基づき、アクロカルポスポラ属の新種すなわちアクロカルポスポラ・プニカ(Acrocarpospora punica)新種として、菌株04107M-2が分類されるべきであることを本出願人は提案する。際立った紫色で、赤く輝く化合物であるヨージニンを、水中の全ブロス培養物の酢酸エチル(EtOAc)抽出物より取得することができ、それはヨージニンを調製するための新規な方法を提供することもまた発見された。
【0025】
アクロカルポスポラ・プニカ 04107M-2の菌株も本発明の範囲内にまた考慮され、ブダペスト条約により2007年5月3日、米国のAmerican Type Culture Collection 10801 University Blvd., Manassas, VA 20110-2209に寄託され、登録番号PTA-8410が割り当てられた。それはまた、2007年1月15日、台湾のBioresource Collection and Research Centerにも寄託された(登録番号BCRC 910341)。
【0026】
寄託された菌株に由来する変異体またはバリアント(伝統的または組換え法により取得される)、ならびに寄託された菌株と同一である特徴を有するアクロカルポスポラ・プニカ菌株のいずれかもまた本発明の範囲内にある。
【発明の効果】
【0027】
<ヨージニンの生産>
寄託された菌株およびその変異体を含む、本発明のアクロカルポスポラ・プニカ菌株全てをヨージニンを生産するために使用することができる。本発明により、ヨージニンを含む全ブロス培養物を取得するために適切な条件下、適切な培地中で本発明のアクロカルポスポラ・プニカ菌株をインキュベートすることにより、ヨージニンを生産してよい。本発明で使用される培地は、炭素および窒素源、ならびにヨージニンを合成するために必要ないずれかの成分を提供することが可能な、HV培地または他のいずれかの培地のような、アクロカルポスポラを培養するために使用されるいずれかの培地を含む。本発明のアクロカルポスポラ・プニカ菌株を、約20℃から約30℃、好ましくは約28℃で、約1週間から約3週間の期間、好ましくは2週間インキュベートしてよい。
【0028】
本発明により、全ブロス培養物中のヨージニンをさらに単離または精製してよい。単離または精製を、当業者に既知の技術のいずれかにより実行してよい。例えば、酢酸エチル、二塩化メチルまたはそれらの混合物のような溶媒によりヨージニンを抽出することができる。
【0029】
<ヨージニンの使用>
本発明の新菌株より取得されるヨージニンを、その特性を同定するために評定した。驚くべきことに、MTTアッセイを実行した際、AGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7のような腫瘍細胞系統を含む細胞系統に対して細胞毒性効果をヨージニンが提示することが発見された。言い換えれば、ヨージニンは細胞に細胞毒性を誘導することができ、それゆえ癌細胞を含む細胞を殺すことができる。ヨージニンについて、抗細菌特性、および過敏症患者の血圧を低下させるための有効な降圧剤としての使用のみが報告されているため、動物細胞で細胞毒性を誘導する際におけるヨージニンの新規使用を本発明は提供する。
【0030】
ヨージニンが細胞を殺すことが可能であるという事実に基づき、癌細胞で細胞毒性を誘導するために、癌の治療を必要とする動物に有効量のヨージニンを投与することを含む、癌を治療する方法を本発明はさらに提供する。好ましくは動物は哺乳類であり、より好ましくはヒトである。
【0031】
本発明で治療することができる癌は、子宮頸部癌、肝臓癌、胃癌、および乳癌を含むが、それに限定されない。
【0032】
本発明で使用されるヨージニンを、伝統的な供給源のいずれかより取得することができる。伝統的な供給源の例は、クロモバクテリウム・ヨージナム、ノカルディオプシス・ダソンヴィライ(Nocardiopsis dassonvillei)およびアシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)を含むが、それに限定されない(Ceskovaら, 2002)。本発明により、上記記述される本発明の調製方法よりまたヨージニンを取得してもよい。
【0033】
化合物ヨージニンを、薬剤組成物として配合し、投与の選択経路に適用される種々の形態でヒトの患者を含む動物に投与することができる。好ましくは化合物は、薬剤として使用できる担体と組み合わせて投与され、特定の送達薬剤と組み合わせられる、または結合させられることができる。
【0034】
既知の方法、例えば、経口、非経口(皮下注射、静脈内、筋肉内、腹板内または注入技術を含む)により、吸入スプレー、局所により、粘膜または直腸を通した吸収により、1種類またはそれ以上の薬剤として許容しうる伝統的な非毒性の担体、アジュバント、または賦形剤を含む単位投与配合物中において、化合物を投与することができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、懸濁液、または経口投与に適する錠剤、吸入スプレー、クリーム、および無菌注入可能水性または油性懸濁液、あるいは座薬のような無菌注入可能調製物の形態である可能性がある。
【0036】
懸濁液としての経口投与のために、医薬配合の当業者に既知の技術により組成物を調製することができる。容量を付与するために微結晶性セルロース、懸濁剤としてアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、増粘剤としてメチルセルロース、および甘味料または香料を組成物は含んでよい。即効型錠剤として、微結晶性セルロース、デンプン、ステアリン酸および乳酸マグネシウム、あるいは当業者に既知の他の添加剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤、および滑剤を組成物は含んでよい。
【0037】
吸入またはエアロゾルによる投与のために、医薬配合の当業者に既知の技術により組成物を調製することができる。ベンジルアルコールまたは適切な他の防腐剤、生物学的利用能を向上させる吸収促進剤、フッ化炭素、あるいは当業者に既知の他の可溶化剤または分散剤を使用した生理食塩水中の溶液として組成物を調製することができる。
【0038】
注入可能な溶液または懸濁液として投与するために、合成モノまたはジグリセリド、およびオレイン酸を含む脂肪酸を含む滅菌油(sterile oil)のような、適切な分散剤または浸潤および懸濁剤を使用して、当業者に既知の技術により組成物を配合することができる。
【0039】
座薬として直腸投与するために、周辺温度で固体であるが直腸温度で液化または溶解して薬剤を放出する、ココアバター、合成グリセリドエステル、またはポリエチレングリコールのような、適切な非刺激性賦形剤と組成物を混合することにより、組成物を調製することができる。
【0040】
好ましい投与経路は、経口、非経口、ならびに静脈内、筋肉内または皮下経路を含む。
【0041】
より好ましくは、非経口で、すなわち静脈内または腹腔内に、点滴または注射により化合物ヨージニンを投与する。本発明のある実施態様では、腫瘍注射により腫瘍に直接化合物を投与することができる。本発明の別の実施態様では、静脈内注射により全身送達を利用して化合物を投与することができる。
【0042】
化合物の溶液または懸濁液を、水中または等張食塩水(PBS)、および任意に非毒性界面活性剤と混合して調製することができる。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレン、グリコール、DNA、植物油、トリアセチン、およびそれらの混合物中で調製することができる。これらの調製物は、通常の貯蔵および使用の条件下で、微生物の増殖を防止するために防腐剤を含んでよい。
【0043】
注射または点滴使用に適切な医薬投与形態は、無菌水溶液、分散液、あるいは注射または点滴可能な無菌溶液または分散液の即時調製のために使用される活性成分を含む無菌粉末を含んでよい。最終投与形態は、製造および貯蔵の条件下で、無菌、液状および安定であるべきである。液体担体または賦形剤は、例えば、水、エタノール、グリセロール、ポリピレングリコール、または液体ポリエチレングリコール、およびその類似物のようなポリオール、植物油、非毒性グリセロールエステル、ならびにそれらの適切な混合物を含む、溶媒または液体分散媒体であってよい。例えば、リポソームの形成により、分散の場合必要な粒子サイズの維持により、または非毒性界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。種々の抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、およびその類似物により、微生物の活動を防止することを達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖、バッファー、または塩化ナトリウムを含むことが望ましいであろう。モノステアリン酸アルミニウムヒドロゲルおよびゼラチンのような、吸収を遅延させる薬剤を組成物中に含むことにより、注射可能な組成物の長期吸収を実行することができる。
【0044】
適切な溶媒中にある必要量の複合体を、上記列挙される他の種々の成分と混合することにより無菌注射可能溶液を調製し、その後必要であればフィルター滅菌を実行する。無菌注射可能溶液を調製するための無菌粉末の場合、調整の好ましい方法は真空乾燥および凍結乾燥技術であり、それにより活性成分に加えて、前のフィルター滅菌溶液中に存在する所望の付加成分のいずれかを産する。
【0045】
癌細胞を殺すためにin vivoで使用されるとき、投与単位量は、腫瘍を軽減または除去するために十分な量のような、所望の効果を生み出すことができる量である。下記実施例で提供されるin vitroデータより、既知の方法および関係性を利用して、当業者により適切な量を決定することができる。
【0046】
投与される有効単位量は、各患者に特異的な条件により変動するであろう。一般に、疾病負荷、腫瘍部位(接触または遠隔)、宿主年齢、代謝、病気、以前の薬剤暴露、およびその類似物のような因子が、薬剤の期待される有効性に寄与する。当業者は、下記の実施例で提供されるデータより推定して、適切な投与量を計算するために、標準の手順および患者の解析を使用するであろう。
【0047】
加えて、他の抗腫瘍治療と組み合わせて本発明の組成物を投与することができる。
【0048】
ここに記載される全ての文献、特許、および特許文献は、十分に説明されるように参照して取り込まれる。代替の実施態様を含むために、ここに記載される発明を改変することができる。そのような明確な代替のすべては、請求項の範囲で記載されるように本発明の範囲内にある。
【実施例】
【0049】
下記の実施例は、本発明を実践する当業者を支援するために提供される。そうであっても、ここで議論される実施態様に対する改変、および実施態様における変動を、本発明の精神または範囲から逸脱することなく当業者が行ってよいように、実施例が過度に本発明を制限するように実施例を解釈するべきではない。
【0050】
<A.アクロカルポスポラ菌株、菌株04107TM-2の単離>
台湾の台東県で集められた土壌試料より、HV寒天を使用することにより菌株04107TM-2を単離し(Hayakawa & Nonomura, 1987)、その後それを28℃で4週間インキュベートした。オートミール寒天上で菌株を維持し、20%(容量/容量)グリセロールを含むブロス中の、菌株の胞子または菌糸断片の懸濁液を-20℃で保存した。
【0051】
<B.菌株04107TM-2の特徴づけ>
(1) 形態学的特徴
菌株04107TM-2の形態学的特徴を、走査電子顕微鏡により観察し(S-450, 日立, Tokyo)、その後HV寒天上28℃で14日間前記菌株をインキュベートし、4%四酸化オスミウム溶液により固定し、その後エタノールおよび酢酸で段階的に脱水し、臨界点乾燥に達した。
【0052】
菌株04107TM-2は分枝状および非断片化基生菌糸を生産し、気中菌糸の先端にこん棒状構造が現れることが発見された。図1に示されるように、胞子は、非運動性、短桿状で滑らかな表面である。
【0053】
(2) 生理学的特徴
全ての生理学的試験は28℃で実行された。増殖温度、エスクリン(aesculin)、カゼイン、ヒポキサンチン、キサンチン、アデニン、およびL-チロシンの加水分解、ならびにアミラーゼ、硝酸還元酵素、およびウレアーゼの生産を、Gordonら(1974)により記載された方法と手順により検知した。
【0054】
種々の培地上における菌株の増殖は貧弱であり、図2に示されるように、金色の光沢を有する赤色調の結晶がオートミール寒天上で観察された。試験された培地のいずれにおいても、可溶性色素が生産されることは見出されなかった。生理学的試験の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(3) 生化学的特徴
28℃で14日間、YSブロス(pH 7.0の蒸留水1.0L中、酵母抽出物10.0gおよびデンプン10.0g)で振盪フラスコ中(125 rpm/分)、菌株を増殖させた後、化学分類学的研究のためのバイオマスを調製した。全細胞の加水分解物中のジアミノピメリン酸および糖の異性体を、Hasegawaら(1983)に記載された方法により決定した。ミコール酸の存在を、Minnikinら(1975)で公開された方法に従うことにより薄層クロマトグラフィー(TLC)によって分析し、Minnikinら(1984)に公開された方法に従うことによりリン脂質を抽出し、同定した。Collinsら(1977)に公開された方法によりメナキノンを抽出、精製し、その後 Nova-Pak C18カラムを有するHPLC(モデル600、Waters)により解析した。細胞脂肪酸含有量の定量解析のために、TSB培地を使用して28℃で7日間、振盪インキュベーター中125rpmで菌株04107TM-2を培養した。メチル化脂肪酸の抽出物を、製造者(Microbial ID Inc., U. S. A.)により提供されたプロトコールにより調製した。
【0057】
メソA2pm、マズロース、ラムノース、およびグルコースが、菌株04107TM-2の全細胞加水分解物中に含まれることが発見された。主なメナキノンはMK-9(H4)およびMK-9(H2)であることが発見され、ミコール酸は検出されなかった。しかしながら、ホスファチジルエタノールアミン(PE)が検出された。主な脂肪酸メチルエステルは、イソC16:0(19.6%)、C17:0(16.84%)、および10-メチル-C17:0(26.51%)であり、DNAのGC含量は72.40モル%である。
【0058】
(4) 系統発生学的特徴
16S rRNA遺伝子の配列を決定するために使用されるDNAを抽出するために、菌株04107TM-2を28℃で14日間、YSブロス中で増殖させた。ピペットチップを使用してブロスより細胞を除去し、QIAGEN(登録商標)ゲノムDNAキットを使用して総DNAを抽出した。DNAのGC含量を、TamaokaとKomagata (1984)に公開されたHPLC法により決定した。16S rRNA遺伝子を、Nakajimaら(1999)により提供された方法を使用してPCR増幅し、BigDye Terminator V3.1キット(Applied Biosystems)でABIモデル3730自動DNAシークエンサーにより直接配列を決定した。CLUSTALX (Thompsonら, 1997)を使用したデータの多重アラインメントの後、ソフトウェアパッケージPHYLIPおよびMEGA (Molecular Evolutionary Genetics Analysis) version 2.1 (Kumarら, 2001)を使用して系統発生学的解析を実行した。進化距離を計算し(木村の2パラメーターモデル(Kimura, 1980)による任意距離)、SaitouとNei, 1987により記載された近接結合法で配列をクラスター化した。近接結合データの系統樹トポロジーを評価するために、1000回の再サンプリングを実行することにより、ブートストラップを実行した。Ezakiら(1989)に開示された方法により、DNA-DNAハイブリダイゼーションを実行した。
【0059】
前述の方法に従って、菌株04107M-2の16S rRNA遺伝子のほぼ完全な配列(1511ヌクレオチド)を決定した。GenBankデータベースに対する配列の予備比較により、アクロカルポスポラ属の一部の構成員と高い配列相同性値があることを明らかとなった。菌株04107M-2、他の確かな刊行されたアクロカルポスポラ種、および関連種の16S rRNA遺伝子の配列に基づき取得される系統樹を図3に示す。バイナリ相同性値(binary similarity value)は、96.5% (A.プライオモルファ IFO 16266T)と98.2% (A.コルガタム NBRC 13972T)の間の範囲にわたる。04107M-2に最も近い種類の菌株、A.コルガタム BCRC 16357T、A.マルコセファラ、およびA.プライオモルファに対する、新規に単離された04107M-2のDNA-DNAハイブリダイゼーション比率は、それぞれ2.9%、0.4%、および1.0%である(表2参照)。
【0060】
【表2】

【0061】
DNA-DNAハイブリダイゼーション研究(<70%)の結果に基づき、菌株04107M-2とこれらの2種は別の種であることは明確である(Wayneら, 1987)。
【0062】
単離物の独自性はまた、最も近い系統学的近縁と比較した表現型上の証拠からも来る。表現型および遺伝型の特徴に基づき、菌株種04107M-2とともに単離物をアクロカルポスポラ属の新種、アクロカルポスポラ・プニカ新種として分類するべきである。
【0063】
<C.ヨージニンの化合物同定>
全ブロス(10 L)を酢酸エチルで抽出し、減圧下で濃縮し、酢酸エチル(画分A, 5 g)-可溶画分が提供される。酢酸エチル(5 g)可溶画分を、ケイ素ゲル(0.25 kg)カラム上でクロマトグラフィーにかけ、n-ヘキサンで溶出し、酢酸エチルを混入し、15画分(画分A1〜画分A15)が得られる。画分A3 (1.56 g)をケイ素ゲル(30 g)カラムにかけ、n-ヘキサンで溶出し、酢酸エチルを混入し、11画分(画分A3-1〜画分A3-11)が得られる。画分A3-11(21.0 mg)を、調製TLC (n-ヘキサン-酢酸エチル, 5:1)により精製し、ヨージニンが供給される。
【0064】
前述の方法に従って、際立った紫で、赤色に輝く化合物(フェナジンタイプ)、ヨージニンが取得され、その物理化学的特徴は以下に与えられる。
【0065】
紫色の針状結晶(ベンゼン); mp 235~236 °C; IR (KBr) vmax 3500 (OH) cm-1; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.15 (2H, dd, J = 7.8, 0.9 Hz), 7.71 (2H, dd, J = 7.8, 9.3 Hz), 8.02 (2H, dd, J = 9.3, 0.9 Hz), 14.70 (2H, s); EIMS m/z 244 [M]+ (90). 分子式C12H8N2O4
【0066】
<D.ヨージニンの細胞毒性効果>
ヨージニンの細胞毒性効果を、以下に記載されるMTTアッセイにより決定した。
【0067】
MRC-5(胎児性肺、正常、ヒト、BCRC60023)、AGS(ヒト胃腺癌、BCRC 60102)、HeLa(ヒト子宮頸部類上皮癌腫、BCRC 60005)、HepG2(ヒト肝芽腫、BCRC 60177)、およびMCF7(ヒト乳腺腺癌、BCRC 60436)を、台湾のBCRC, Food Industry Research and Development Instituteより購入した。
【0068】
MRC-5、HeLa、およびHepG2を、10%ウシ胎仔血清(FBS, GIBCO)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)で補填される最小必須培地(MEM, GIBCO)中で培養した。AGS細胞を、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンで補填されるハムのF-12培地(F-12, GIBCO)中で培養した。MCF7細胞を、10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、および10μg/mlヒト組換えインシュリン(GIBCO)で補填されるMEM中で培養した。全ての細胞系統を、37℃で、5%CO2を含む加湿空気を有するインキュベーター中で維持した。
【0069】
修飾MTT[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム臭化物](Merck)比色分析法により、全ての細胞系統に対する化合物ヨージニンの細胞毒性活性を測定した。MRC-5、AGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7について、96ウェル組織培養プレート(Falcon)中で、細胞培養液180μlを、それぞれ5,000細胞/ウェル、3,,000細胞/ウェル、1,500細胞/ウェル、3,000および3,000細胞/ウェルの濃度で開始した。化合物ヨージニンを3種類の濃度(5μM、2μM、および1μM)で、同じ物4通りで、確立した培養物に分注した。インキュベーション3日後、各細胞系統の細胞数を、以下のMTTアッセイにより決定した。すなわち:1 mg/ml MTT 20 μlをプレートの各ウェルに添加し、その後プレートを37℃で5時間インキュベートした。フォルマザン(Formazan)結晶を、10分間振盪することによりDMSO (Merck)100 μl中に再溶解し、すぐにELISAリーダー(Bio-Tek)により、波長540 nmでプレートを測定した(Mosmann, 1983)。
【0070】
図4に示される結果により、試験された全ての細胞系統で化合物ヨージニンが有意な細胞毒性効果を誘導することができることが明らかにされた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】28°Cで14日間、HV寒天上で増殖させた本発明の新菌株である04107M-2の走査電子顕微鏡写真を示す(バーは1.5 μmを表す)。
【図2】金色の光沢を有する赤色調の結晶をその上に観察することができる、オートミール寒天上における本発明の菌株である04107M-2の増殖を示す。
【図3】16S rDNAのほぼ完全な配列に基づく近隣結合系統樹を示す。系統樹は、アクロカルポスポラ種内における菌株04107M-2の系統発生的位置を示す。節にある数は、1000回のブートストラップ再サンプリングのパーセンテージを示す。50%を超える値のみが与えられている。(バーはヌクレオチド部位あたり0.01置換を表す)
【図4】種々の腫瘍細胞の増殖に対するヨージニンの細胞毒性効果を示す。細胞系統を、2 μg/ml、5 μg/ml、および10 μg/mlのヨージニンで72時間処理した後、MTTアッセイにより細胞増殖阻害効果を決定した。4回の独立実験の平均±標準偏差が示されている。化合物ヨージニンの細胞毒性活性を、MRC-5、AGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7細胞系統において、in vitroで試験した。ヨージニン濃度10 μg/mlでMRC-5、AGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7の細胞生存のパーセンテージがそれぞれ47%、8%、26%、40%、および29%であることから、化合物ヨージニンは有意な細胞毒性効果を提示することが発見された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨージニンを生産することが可能であり、固体培地上で増殖した際に黄金色の輝きを有する赤色調の結晶を生産する特徴を有する、アクロカルポスポラ(Acrocarpospora)の単離菌株。
【請求項2】
基生菌糸を提示し;
胞子嚢が気中菌糸上に現れ;
ペプチドグリカン中にメソジアミノピメリン酸を含み;
グルコース、マズロース、およびラムノースが細胞全体の糖であり;
ホスファチジルエタノールアミン(PE)が唯一のリン脂質であり
MK-9(H4)およびMK-9(H2)が主なメナキノンであり;
ミコール酸が検知されず;
イソC16:0(19.6 %)、C17:0(16.84 %)、および10-メチル-C17:0(26.51 %)が主な細胞脂肪酸であり;および
DNAのGC含量が72.40モル%である
特徴を有する、請求項1に記載の単離菌株。
【請求項3】
アクロカルポスポラ・プニカ(Acrocarpospora punica) 04107M-2と指定され、登録番号PTA-8410でATCCに寄託される、アクロカルポスポラ・プニカの単離菌株、あるいはアクロカルポスポラ・プニカ 04107M-2の特徴と実質的に同一の特徴を有する前記単離菌株のバリアント、または変異体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の単離菌株をインキュベートすることを含む、ヨージニンを調製する方法。
【請求項5】
ヨージニンをさらに単離または精製する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞をヨージニンと接触させることを含む、動物の細胞に細胞毒性を誘導するin vitroの方法。
【請求項7】
ヨージニンが請求項1から3のいずれか一項に記載の単離菌株により生産される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞が癌細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
癌細胞が以下の癌細胞系統:AGS、HeLa、HepG2、およびMCF-7
の1種類に由来する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
動物が哺乳類である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
動物がヒトである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
動物の癌を治療するための薬剤の製造における、ヨージニンの使用。
【請求項13】
請求項1から3のいずれか一項に記載の単離菌株によりヨージニンを生産する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
動物が哺乳類である、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
動物がヒトである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
動物の癌細胞に細胞毒性を導入することにより癌を治療する、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
癌が、子宮頸部癌、肝臓癌、胃癌、および乳癌より選択される、請求項16に記載の使用。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−17878(P2009−17878A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−167502(P2008−167502)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(595096431)財團法人食品工業發展研究所 (4)
【Fターム(参考)】