説明

アスファルトラバーおよびその製造方法

【課題】加熱貯蔵時の粘度低下を低減した加熱貯蔵に適したアスファルトラバーおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ストレートアスファルトに組成比(質量比)が軟化型ゴム≧硬化型ゴムであるゴム組成物からなるゴム粉を含有するアスファルトラバーであり、軟化型ゴム/硬化型ゴムの組成比(質量比)は50/50〜80/20の範囲であることが好ましい。軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の含有量は5〜30質量%の範囲であることが好ましく、また、軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の粒径は10〜5000μmの範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスファルトラバーおよびその製造方法に関し、詳しくは加熱貯蔵に適したアスファルトラバーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃タイヤを粉砕したゴムを弾性舗装材として使用することが知られている。この弾性舗装材を歩道に適用した場合には、ゴムの有する弾力性により衝撃吸収性、転倒時の安全性に効果があり、また、車道に適用した場合には、内部に空隙があるため排水性、通気性に加えて吸音性に優れており、そのためタイヤと路面内で発生する騒音の低減にも有効である。しかし、ゴムの弾性により締固めが不十分となりやすく、また摩耗しやすいため、耐久性には問題が残されていた。
【0003】
また、廃タイヤを粉砕して得られるゴム粉をアスファルトに混ぜたアスファルトラバーも知られている。通常のアスファルトの代わりにアスファルトラバーを使用すると、石や砂等の骨材を被覆する膜が厚くなり、舗装の耐久性が向上し、ひび割れができにくくなるといわれている。かかるアスファルトラバーは、加熱溶融したストレートアスファルトに廃タイヤのゴム粉を所定量添加し、所定温度に保持して攪拌・混合した後、これを所定温度で熟成することにより製造される。通常、ゴム粉は、バス・トラック等の廃タイヤを粉砕したもの(以下「TBゴム粉」と称する)を使用し、攪拌・混合および熟成は180℃で行われる(例えば、特許文献1)。
【0004】
かかるアスファルトラバーの特徴は、TBゴム粉が膨潤して高粘度のバインダへと改質されることであり、これにより、改質アスファルトと類似した性能が期待できるとされている。このようにして得られたアスファルトラバーは耐流動性、耐摩耗性、疲労抵抗性、すべり抵抗性および耐候性等に優れていることが報告されている。
【特許文献1】特開2006−328139号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
わが国では、アスファルトバインダは多現場少量出荷が多いため、通常、加熱貯蔵されることが多い。これはストレートアスファルトに限らず、他の改質アスファルトについても同様である。しかしながら、この加熱貯蔵により、従来知られているいずれのアスファルトラバーバインダも粘度低下を起こすことが知られており、これはアスファルトラバーの貯蔵を考えると、舗装用バインダとして機能が不安定な状態であることを意味している。
【0006】
そこで本発明の目的は、加熱貯蔵時の粘度低下を低減した加熱貯蔵に適したアスファルトラバーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、従来、アスファルトに添加しているTBゴム粉をゴム成分の組成比(質量比)が所定の範囲である軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉へと変更することにより、加熱貯蔵を行ってもアスファルトラバーが粘度低下を起こさないことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のアスファルトラバーは、ストレートアスファルト中にゴム粉として、組成比(質量比)が軟化型ゴム≧硬化型ゴムであるゴム組成物からなるゴム粉を含有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、前記組成比(質量比)は50/50〜80/20の範囲であることが好ましい。また、前記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の含有率は5〜30質量%の範囲であることが好ましく、さらに、前記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の粒径は10〜5000μmの範囲であることが好ましい。さらにまた、前記軟化型ゴムが天然ゴムであり、前記硬化型ゴムがスチレンブタジエンゴムであることが好ましい。
【0010】
また、本発明のアスファルトラバーの製造方法は、前記ストレートアスファルトを加熱して溶融させる溶融工程と、溶融後にストレートアスファルトを溶融温度以上で攪拌しながら前記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉を添加する添加工程と、添加後さらに溶融温度以上に保ったまま攪拌し続ける攪拌工程と、攪拌後、恒温槽内で熟成させる熟成工程と、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、加熱貯蔵においても、粘度低下を低減したアスファルトラバーを得ることができ、また、本発明の製造方法により加熱貯蔵に適したアスファストラバーを製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のアスファルトラバーは、ストレートアスファルト中にゴム粉として、組成比(質量比)が軟化型ゴム≧硬化型ゴムであるゴム組成物からなるゴム粉を含有することが肝要である。ここで軟化型ゴムとはゴムの劣化現象において、分子鎖が切断して重合度の低い軟らかいゴムに変質するゴムをいい、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エピクロルヒドリンゴム(CO)等が挙げられる。また、硬化型ゴムとは劣化現象において、網状化が進行し、屈曲性も伸びもなくなり、堅くてもろいゴムに変質するゴムをいい、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等が挙げられる。本発明においては軟化型ゴムとしてはNR、硬化型ゴムとしてはSBRを好適に使用することができる。
【0013】
本発明に用いるストレートアスファルトとしては、ストレートアスファルト40/60、60/80、80/100、100/120等を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、アスファルトは、脱色アスファルトであってもよい。
【0014】
本発明においては、軟化型ゴム/硬化型ゴムの組成比(質量比)は50/50〜80/20の範囲であることが好ましい。軟化型ゴムの組成比(質量比)が80を超えると加熱貯蔵中にゴム粉が分解してしまうためアスファルトラバーの粘度が低下してしまい、一方、硬化型ゴムの組成比(質量比)が50を超えるとゲル化が起こるため、アスファルトとの相溶性が悪化してしまうためである。
【0015】
本発明において用いる軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の含有率は、アスファルトラバー全量に対し、好ましくは5〜30質量%の範囲であり、より好ましくは10〜20質量%である。軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の含有量が30質量%を越えると高温での流動性が低く、施工が困難となり、一方、5質量%未満であると高温での流動性が大きく、また、ゴム弾性の低い材料になり、いずれも好ましくない。
【0016】
また、本発明において用いる軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の粒径は、好ましくは10〜5000μmの範囲である。軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の粒径が5000μmを越えるとゴム粉がゲル化しにくく、本発明の効果を良好に得ることができない。
【0017】
また、上記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物には、ゴム工業界で通常使用されている配合剤、例えば、補強性充填剤、軟化剤、老化防止剤、カップリング剤、加硫剤、加硫促進剤等を必要に応じて、通常使用される配合量の範囲内で配合されていてもよい。尚、本発明の効果を損なわない範囲内で、少量の他のゴム粉が含まれていてもよい。
【0018】
また、本発明のアスファルトラバーには必要に応じ、その他の添加剤として、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着性改良剤、老化防止剤、金属不活性剤、光安定剤、発泡剤、水分除去剤、希釈溶剤、物性調整用高分子または低分子添加剤などを配合してもよい。
【0019】
次に本発明のアスファルトラバーの製造方法について説明する。
本発明のアスファルトラバーの製造方法は、ストレートアスファルトを加熱して溶融させる溶融工程と、溶融後にストレートアスファルトを溶融温度以上で攪拌しながら軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉を添加する添加工程と、添加後さらに溶融温度以上に保ったまま攪拌し続ける攪拌工程と、攪拌後、恒温槽内で熟成させる熟成工程と、を含む。
【0020】
溶融工程において、ストレートアスファルトの加熱溶融温度は、130℃〜180℃の範囲が好ましい。130℃未満ではストレートアスファルトが十分に溶融せず、一方、180℃を超えても溶融効果は変わらないためである。
【0021】
添加工程において、加熱溶融したストレートアスファルトに軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉を添加する際の温度は、150℃〜200℃が好ましい。150℃未満では軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉が十分にゲル化せず、一方、200℃を超えるとアスファルトが熱劣化を起こしてしまうからである。この時、軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の添加は、加熱溶融したストレートアスファルトを攪拌しながら添加しても、添加後に攪拌してもよいが、軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉のゲル化の促進と均一な混合を考慮すると、ストレートアスファルトを攪拌しながら添加することが好ましい。この際、攪拌速度は50rpm〜3000rpmであることが好ましい。攪拌速度が50rpm未満であると添加した軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の分散が不十分となり均一な混合物が得られず、一方、3000rpmを超えても攪拌効果は変わらないためである。
【0022】
攪拌工程において、加熱溶融したストレートアスファルトに軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉を添加後、攪拌する時間は、10分以上が好ましい。加熱溶融したストレートアスファルトと添加した軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉がゲル化して均一に混合されるには10分程度の時間が必要であるからである。また、攪拌速度は50rpm〜3000rpmであることが好ましい。攪拌速度が50rpm未満であると均一なアスファルトラバーが得られず、一方、3000rpmを超えても攪拌効果は変わらないためである。なお、この際のアスファルトラバーの温度は、150℃〜200℃が好ましい。150℃未満では軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉が十分にゲル化せず、一方、200℃を超えるとアスファルトが熱劣化を起こしてしまうからである。
【0023】
熟成工程において、ストレートアスファルトに添加した軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉がゲル化して均一に混合された後、所定温度、所定時間にて熟成を行うが、この時の温度は150℃〜200℃の範囲が好ましい。150℃未満ではストレートアスファルトと軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の正常な溶融状態を維持することができず、200℃を超えるとアスファルトラバーが熱劣化を起こしてしまうからである。また、熟成時間は30分未満では熟成効果が十分に得られないので、30分以上が好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例)
本発明である、アスファルトラバーを以下の手順で調製した。尚、ストレートアスファルトとして新日本石油社製ストレートアスファルト60−80を、また、ゴム粉として組成比(質量比)が63/37であるNR/SBR組成物からなるゴム粉を用いた。
【0025】
まず、ストレートアスファルトをマントルヒーター(大科電器株式会社製)を用いて溶解し、180℃まで加熱した。その後攪拌機を用いて200〜400rpmで撹拌しながら、12.5質量%のゴム粉を添加し、180℃に保ったまま、約30分間撹拌し、その後180℃恒温槽内で2.5時間熟成してアスファルトラバーを調製した。
【0026】
上記手順で調製したアスファルトラバーを180℃にて加熱貯蔵し、所定日数経過後、アスファルトラバーの粘度を測定した。粘度測定にはリオン社製ビスコテスタVT−04Fを使用した。尚、熟成直後を0日とした。得られた結果を図1に示す。
【0027】
(比較例1)
アスファルトラバーを、ゴム粉としてNRからなるゴム粉を用いたこと以外は、実施例と同様な手順で調製し、同様な手順で粘度測定を行った。得られた結果を図1に併記する。
【0028】
(比較例2)
アスファルトラバーを、ゴム粉として組成比(質量比)が37/63であるNR/SBR組成物からなるゴム粉を用いたこと以外は、実施例と同様な手順で調製し、同様な手順で粘度測定を行った。得られた結果を図1に併記する。
【0029】
(比較例3)
アスファルトラバーを、ゴム粉としてSBRからなるゴム粉を用いたこと以外は、実施例と同様な手順で調製し、同様な手順で粘度測定を行った。得られた結果を図1に併記する。尚、実施例、比較例1〜3において用いたゴム粉の配合内容は下記の表1に示す通りである。
【0030】
【表1】

※1 JSR(株)製 #1500
※2 大内新興化学(株)製 ノクラック6C
※3 大内新興化学(株)製 リターダーCTP
※4 大内新興化学(株)製 ノクセラーDM
※5 大内新興化学(株)製 ノクセラーD
【0031】
図1より、組成比(質量比)が63/37であるNR/SBR組成物からなるゴム粉(実施例)を用いた場合は、加熱貯蔵してもアスファルトラバーの粘度が安定していることがわかる。このことは、長期にわたる加熱貯蔵が可能であることを意味している。一方、NRからなるゴム粉(比較例1)を用いた場合は、ゴム粉が分解してしまうため、時間経過とともに粘度が低下し、アスファルトラバーの特徴である高粘度が維持できない。また、組成比(質量比)が37/63であるNR/SBR組成物からなるゴム粉(比較例2)、SBRからなるゴム粉(比較例3)を用いた場合では、SBRの含有率が高いためゲル化が起こり、アスファルトとの相溶性が低下し、安定した粘度を得ることができず、いずれの場合も加熱貯蔵は困難であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例、および比較例1〜3にかかるアスファルトラバーの180℃における加熱貯蔵時の粘度変化を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレートアスファルト中にゴム粉として、組成比(質量比)が軟化型ゴム≧硬化型ゴムであるゴム組成物からなるゴム粉を含有することを特徴とするアスファルトラバー。
【請求項2】
前記組成比(質量比)が50/50〜80/20の範囲である請求項1記載のアスファルトラバー。
【請求項3】
前記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の含有率が5〜30質量%の範囲である請求項1または2記載のアスファルトラバー。
【請求項4】
前記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉の粒径が10〜5000μmの範囲である請求項1〜3のうちいずれか一項記載のアスファルトラバー。
【請求項5】
前記軟化型ゴムが天然ゴムであり、前記硬化型ゴムがスチレンブタジエンゴムである請求項1〜4のうちいずれか一項記載のアスファルトラバー。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載のアスファルトラバーの製造方法において、前記ストレートアスファルトを加熱して溶融させる溶融工程と、溶融後にストレートアスファルトを溶融温度以上で攪拌しながら前記軟化型ゴム/硬化型ゴム組成物からなるゴム粉を添加する添加工程と、添加後さらに溶融温度以上に保ったまま攪拌し続ける攪拌工程と、攪拌後、恒温槽内で熟成させる熟成工程と、を含むことを特徴とするアスファルトラバーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−209194(P2009−209194A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50970(P2008−50970)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 社団法人土木学会 〔刊行物名〕 第62回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM) 〔発行年月日〕 平成19年9月1日
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(390019998)東亜道路工業株式会社 (42)
【出願人】(591063453)日進化成株式会社 (8)
【Fターム(参考)】