説明

アスベストからの高周波用フォルステライト磁器の製造方法

【課題】アスベスト(クリソタイル:Mg3Si2O5(OH)4)を使って、高周波フォルステライト(Mg2SiO4)磁器を作製する。アスベストは天然鉱物であるため不純物が多く、そのままフォルステライトの原料に使っては、その高周波特性の性能指標であるQ・f値の大きなものが得られない。そのためアスベストから酸処理により鉄などの不純物を取り除くことで得た原料を使って高品質なフォルステライトを作製する。
【解決手段】アスベスト(クリソタイル:Mg3Si2O5(OH)4)を塩酸処理することによってMg2+イオンと同時に不純物の鉄を溶出でき、高純度の非晶質SiO2ファイバーとすることができた。このSiO2ファイバーと反応活性なMgOとを固相反応させることによりフォルステライト粉末を作製できた。得られたフォルステライト粉末をパルス通電焼結させることにより緻密なフォルステライト磁器が得られ、その磁器のQ・f値は100,000GHzを超えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストあるいはアスベスト建築廃棄物の無害化およびその有効活用に関する。
【背景技術】
【0002】
フォルステライト(Mg2SiO4)はマイクロ波に対する損失が小さく、高温の絶縁性にも優れ、電子管部品、回路部品基板などに用いられている。現在、アスベストの輸入は禁止されているが、これまでに生産されたアスベスト製品は大量に存在しており、これらの廃棄が大きな社会問題となっている。本発明はアスベスト製品から取り出したアスベストを用いることが出来るので、廃棄アスベストを無害化した上に有効活用することができる。
【0003】
非特許文献1において、アスベストのクリソタイルを加熱後に粉砕した試料を成形し、それを焼成して得たフォルステライト磁器のQ・f値(品質係数Qと周波数fの積;高周波特性を知る性能指標)を測定した結果が記されており、その値は2,922GHzであった。この値は、非特許文献2に記されている一般的な市販品のフォルステライト磁器のQ・f値とされている30,000GHzの値を大きく下回るものである。この原因は、クリソタイルが天然鉱物であるため、それに含まれている鉄などの不純物の影響とみられる。品質係数Qは、誘電損失の逆数であり、Q値が大きいほど誘電損失の小さい優れた高周波用磁器である。そして不純物が少ないほどフォルステライトのQ・f値は高く高品質である。
【0004】

【非特許文献1】橋本忍ら、「アスベストの無害化とその有効利用」、金属、Vol.76、No.2、161-166 (2006).
【非特許文献2】大里ら、「Millimeter-wave Dielectric Ceramics of Almina and Forsterite with High Quarity Factor and Low Dielectric Constant」、Journal of the Korean Ceramic Society、Vol.40、No4、pp350-353,2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アスベストを原料として誘電損失の小さい、そして高周波特性の性能指標の一つであるQ・f値の大きいフォルステライト磁器を作製することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフォルステライト磁器の製造方法は、アスベストを酸処理によって非晶質なSiO2を得る工程と当該SiO2にMgOを混合し、それを高温固相反応によりフォルステライト粉末とする工程と、前記粉末を緻密に焼結する工程とからなる。
【0007】
アスベストの酸処理によって得た非晶質なSiO2とMgOを混合し、それを高温固相反応によりフォルステライト粉末とした。さらにこの粉末を緻密に焼結することによってQ・f値の大きい高品質なフォルステライト磁器を作製することができた。
【0008】
前記の酸処理は、たとえば塩酸によって行う。塩酸で処理することによりMg2+が容易に溶出し、アスベストは無害な非晶質SiOファイバーに変化し、Fe2O3等の不純物も同時に除去された。ただしこの場合、塩酸以外の酸溶液であっても処理は可能である。
【0009】
前記の混合するMgOは、反応活性なものが望ましい。たとえば、塩基性炭酸マグネシウムを仮焼して得られるMgOがある。またこの場合、酸処理後の溶液に含まれるアスベストから溶出したMg2+イオンを、酸アルカリ反応を用いて再凝縮させて固相として回収し、これを高純度MgOの原料として再利用することも可能である。
【0010】
前記の焼成技術は緻密なフォルステライト磁器が得られる方法であれば良く、例えば、ホットプレス焼結法やパルス通電焼結法などがある。さらに、加熱時に加圧する必要性も特にはない。
【0011】
本発明を具体化した実施例について図1乃至3を参照しつつ説明する。
【発明の効果】
【0012】
以上で説明したように、アスベストを原料として、市販品よりも高周波特性値(Q・f値)の優れたフォルステライト磁器を作製することができた。この発明により、廃棄アスベスト建築材料からアスベストを無害化し、さらにそれを付加価値の高いエレクトロセラミックスの原料として有効活用することが期待される。

【実施例】
【0013】
まず、アスベストのクリソタイルを6N塩酸に2日間浸漬して無害化した。得られた試料の粉末X線回折スペクトルを図2に示す。図2で示されたように試料の回折線はブロードになり、これは試料が非晶質のSiO2になったことを示しており、クリソタイルは検出されなくなった。加えて、塩基性炭酸マグネシウムを900℃で仮焼して、反応活性なMgOを作製した。生成した非晶質SiO2とこの反応活性なMgOをフォルステライトの化学量論比になるように秤量し、ボールミルを用いて24時間十分に混合かつ粉砕した。
【0014】
上記で得られた混合粉末を出発原料とし、図1に示す工程に従って、フォルステライト粉末を作製するために1200℃で1時間焼成した。得られた試料の粉末X線回折スペクトルを図3に示す。得られた粉末の主たる結晶相はフォルステライトと判明したが、わずかだが未反応のMgOも同定された。
【0015】
上記で得られたフォルステライト粉末を、図1に示す工程に従ってパルス通電焼結装置を用いて、フォルステライトの緻密焼結体を作製した。その場合の加熱条件としては、30MPの圧力を加えながら1400℃で20分間保持した。
【0016】
実施例で得られたフォルステライト焼結体の密度特性、および電気的諸特性を測定した。その測定結果を表1に示す。高周波誘電体特性の性能指標の一つであるQ・f値は100,000GHzを超えており、一般市販品の30,000GHzより大きな値となった。加えて、誘電率およびその他の電気的特性は市販品と同程度であった。

【0017】
【表1】



【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例のフォルステライト磁器の作製方法
【図2】実施例の工程で作製された非晶質SiO2粉末のX線回折スペクトル
【図3】実施例の工程で作製されたフォルステライト粉末のX線回折スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを酸処理によって非晶質なSiO2を得る工程と当該SiO2にMgOを混合し、それを高温固相反応によりフォルステライト粉末とする工程と、前記粉末を緻密に焼結する工程とからなるフォルステライト磁器の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−215144(P2009−215144A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63497(P2008−63497)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】