説明

アスベストの廃棄処理方法

【課題】アスベストを無害化処理する際に、比較的低コストで、しかも確実にアスベストを浮遊させないような状態にして廃棄できるようにする。
【解決手段】ケイ酸塩水溶液を含有する水槽1内にアスベスト5を浸漬させる工程と、当該水槽1内に浸漬させたアスベスト5を水槽1から取り出し、一次乾燥させて固化させる工程と、乾燥させたアスベスト5の塊を微砕して微砕アスベストにする工程と、微砕アスベストをケイ酸塩水溶液を含有する水溶液に再び浸漬させる工程と、上記ケイ酸塩水溶液に浸漬させた微砕アスベストを水槽1から取り出して二次乾燥させ、再度、微砕させる工程とを備える。このとき、アスベストを袋詰めしたまま水槽内に浸漬させ、その後、袋に孔を開けてケイ酸塩水溶液を浸入および排出させる。また、その袋詰めされた状態でアスベスト5を水槽から取り出して乾燥させる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の壁面などに吹き付けられたアスベストやスレート板などを無害な状態にして廃棄できるようにしたアスベストの廃棄処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、アスベストを廃棄する方法として、下記のような方法が提案されている。
【0003】
まず、第一の方法は、建物に吹き付けられたアスベストをそのまま取り外し、1500度の温度で溶解して廃棄する方法である(特許第3085959号公報や特開平7−171536号公報など)。このような方法によれば、アスベストを溶解炉で溶解するので、アスベスト繊維を完全に固化させて無害化することができるというメリットがある。
【0004】
また、第二の方法は、壁面のアスベストに固化剤を吹き付けて、固化させたアスベストを廃棄する方法である(特開2002−137976号公報、特許第2596847号など)。このような固化剤としては、例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液を含有するものが使用される。このような方法によれば、アスベストを建物に吹き付けられた状態で固化させることができるので、壁面からのアスベスト繊維が飛散することを防止することができるとともに、アスベストを固化させた状態で壁面から剥ぎ取ることができるので、廃棄処理時におけるアスベスト繊維の飛散を防止することができるというメリットがある。
【特許文献1】特許第3085959号公報
【特許文献2】特開平7−171536号公報
【特許文献3】特開2002−137976号公報
【特許文献4】特許第2596847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような方法では、次のような問題がある。
【0006】
まず、第一の方法のようにアスベストを1500度で溶解する方法では、アスベスト繊維を溶解して無害化させることができるものの、アスベストを溶解するために大きな溶解炉を用意しなければならず、コストが高くつくというデメリットがある。
【0007】
これに対して第二の方法のように、壁面にケイ酸ナトリウム水溶液を吹き付ける方法では、溶解炉を設ける必要がないので、比較的低コストで処理することができるというメリットがある。しかしながら、この第二の方法では、アスベストの表面から固化剤を吹き付けるため、アスベストの深層部にまで固化剤を浸透させることができず、アスベストを廃棄する際に、固化していないアスベストの繊維束を空気中に浮遊させてしまう危険性がある。また、壁面から剥ぎ取ったアスベストを廃棄する際、深層部(すなわち、太く結束した内部に存在するアスベスト繊維)で固化していないアスベストを完全に無害化するために、溶解炉で処理しなければならないという問題もある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、アスベストを無害化処理する際に、比較的低コストで、しかも確実にアスベストを浮遊させないような状態にして廃棄できるようにしたアスベストの廃棄処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、アアスベストを無害化処理するためのアスベストの廃棄処理方法において、ケイ酸塩水溶液を含有する水槽内にアスベストを浸漬させる工程と、当該水槽内に浸漬させたアスベストを水槽から取り出し、一次乾燥させて固化させる工程と、乾燥させたアスベストの塊を微砕して微砕アスベストにする工程と、微砕アスベストをケイ酸塩水溶液を含有する水溶液に混合させる工程と、上記ケイ酸塩水溶液と混合させた微砕アスベストを二次乾燥させ、再度、微砕化処理する工程とを備えるようにしたものである。
【0010】
このような方法によれば、アスベストを固化させた状態で一次微砕し、深層部の繊維束を表出させて再び固化させ、さらに微砕させるようにしたので、深層部に存在するアスベスト繊維まで確実に無害化させることができる。しかも、アスベストを固化させてからすり鉢などで微砕化処理するので、微砕化処理中にアスベスト繊維が空気中に浮遊することが少なくなる。
【0011】
また、このような発明において、アスベストを袋詰めした状態で水槽内に浸漬させ、その後、袋に孔を開けてケイ酸塩水溶液を浸入および排出できるような状態にし、当該袋詰めされた状態でアスベストを水槽から取り出して乾燥させる。そして、その後、微砕化処理する。
【0012】
このようにすれば、水槽内にアスベストを出し入れする際に袋詰めした状態で作業をすることができるため、浸漬作業や取り出し作業を楽に行うことができるようになる。しかも、袋内で水溶液を浸漬させるようにしているので、アスベストの深層部内で固化されていないアスベスト繊維を、浸漬時に発生する気泡などによって空気中に飛散させてしまうといったこともなくなる。
【0013】
さらに、一次乾燥の後に微砕化した微砕アスベストを容器に入れ、蓋をした状態で当該容器内にケイ酸塩水溶液を流し込むようにする。
【0014】
このようにすれば、容器に蓋をした状態でケイ酸塩水溶液を流し込むので、微砕化したアスベストの粉が空気中に飛散してしまうことを防止することができる。しかも、水槽に微砕アスベストを入れないので、水槽内に浮遊している微砕アスベストをいちいち回収するといった手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アスベストをケイ酸塩水溶液で固化させた状態で一次微砕し、深層部の繊維束を表出させて再びケイ酸塩水溶液で固化させ、さらに微砕化処理するようにしたので、深層部に存在するアスベスト繊維まで確実に無害化させることができる。しかも、アスベストを固化させてからすり鉢などで微砕化処理するので、微砕化処理中にアスベスト繊維が空気中に浮遊することが少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態におけるアスベスト5の廃棄処理の工程を示したものであり、図2は、水槽1にアスベスト5を浸漬する際の状態を示したものである。また、図3は、乾燥工程と微砕化処理工程を示したものである。
【0017】
本実施の形態におけるアスベスト5の無害化処理方法は、具体的には、次の各工程からなる。
工程1:アスベストの除去工程
工程2:アスベストの一次浸漬工程
工程3:アスベストの一次乾燥・固化工程
工程4:アスベストの一次微砕化処理工程
工程5:アスベストの二次混合工程
工程6:アスベストの二次乾燥・固化工程
工程7:アスベストの二次微砕化処理工程
以下、各処理工程の内容について詳細に説明する。
【0018】
<工程1:アスベストの除去工程>
アスベストの除去工程では、建物の壁面に吹き付けられたアスベスト5を除去し、袋詰め作業を行う。壁面からアスベスト5を除去する場合は、そのアスベスト5が吹き付けられた室内空間を養生し、負圧の状態にしてからアスベスト5を剥ぎ取る。この時、アスベスト5をそのまま除去したのでは多量のアスベスト繊維が空気中に飛散してしまうため、事前に固化剤を表面から吹き付け、充分に浸透させた後にアスベスト5を取り除いていく。そして、このように取り除いたアスベスト5を所定の袋2に詰め込み、その状態で廃棄場まで搬送する。
【0019】
<工程2:アスベストの一次浸漬工程>
一次浸漬工程では、袋詰めされたアスベスト5をそのままの状態で水槽1に浸漬し、内部のアスベスト5に固化液を浸透させる。この際、水槽1としては、袋2を完全に浸漬させることのできる水槽1を用意し、その水槽1内にケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム)を含有する水溶液を満たしておく。また、アスベスト5を収納した袋2を水槽1に浸漬する場合には、事前に、袋2に無数の微小孔3を空けておき、そこからケイ酸塩水溶液を浸入させやすくしておく。この微小孔3としては、ケイ酸塩水溶液が充分内部に入り込むような大きさであればよく、しかも、内部のアスベスト5が容易に外へ飛び出してしまわないような大きさにしておくことが好ましい。そして、このように微小孔3を空けた後、その袋2を水槽1に入れてケイ酸塩水溶液を浸漬させ、充分にケイ酸塩水溶液を袋2の内部に充満させるように空気抜きや撹拌などを行う。このようにして、アスベスト5の深層部まで固化剤を浸透させた後、そのアスベスト5を袋2ごと水槽1から取り出し、微小孔3を介して余分なケイ酸塩水溶液を取り除く。
【0020】
<工程3:アスベストの乾燥・固化工程>
アスベストの乾燥・固化工程では、水槽1に浸されたアスベスト5を袋2ごと取り出し、乾燥処理させる。アスベスト5を乾燥させる場合は、袋2を載置できる程度の網棚51を用意しておき、その上に袋2を載せて破断して袋2を取り除く。その後、余分なケイ酸塩水溶液を網棚51から滴下させるとともに、網棚51の下方から空気に晒して乾燥・固化させる。このとき、固化させたアスベスト5は網棚51に固着してしまう可能性があるが、網棚51との接触面積が比較的小さいため、容易にアスベスト5の塊を取り外すことができる。この乾燥工程では、自然乾燥でもよく、あるいは、加熱などによって強制的に乾燥方法を採用してもよい。
【0021】
<工程4:アスベストの一次微砕化処理工程>
一次微砕化処理工程では、このようにアスベスト5を乾燥・固化させた後、このアスベスト5の塊をすり鉢41などの微砕器4に投入し、すり棒42などを用いて時間をかけて粉砕する。この微砕化処理工程では、固化されたアスベスト5の深層部に存在する固化されていない繊維束を表面に露出させるような状態にまで粉砕していく。このとき、定期的に顕微鏡を用いて繊維の状態を確認し、非固化繊維束がまだ存在するようであれば、再度、すり鉢41に戻して微砕化処理を行っていく。これにより、一次浸漬工程でケイ酸塩水溶液の浸透しなかったアスベスト繊維束を露出させる。なお、この実施の形態ではすり鉢41を用いて微砕化処理を行っているが、これに限らず、粉砕ローラーや臼などを用いて微砕化処理を行うようにしてもよい。
【0022】
<工程5:アスベストの二次混合工程>
次の二次混合工程では、このように微砕化処理したアスベスト5を再びケイ酸塩水溶液と混合させる。このとき、アスベスト5は前の微砕化処理工程で粉状になっているため、そのまま水槽1に入れたのでは水槽内に浮遊している微砕アスベストの回収作業が困難になる。一方、微小孔3を有する袋2に入れて水槽1に浸漬すると、その微小孔3から微砕アスベストが外部へ流れ出てしまう。そこで、この工程では、あらかじめ廃棄可能な蓋付きの容器を用意し、その容器内に蓋をした状態で空気抜きをしながらケイ酸塩水溶液を流し込んでいく。このとき、ケイ酸塩水溶液は比較的粘性を有しているため、一次浸漬工程で使用されたケイ酸塩水溶液よりも濃度の低いものを用いのが好ましく、これによって微砕アスベスト内にダマを作らないようにする。また、流し込み作業中にダマが作られるようであれば、容器ごと振動・撹拌させて十分内部までケイ酸塩水溶液を行き渡らせるようにする。
【0023】
<工程6:アスベストの二次乾燥・固化工程>
二次混合工程でアスベスト5に再度ケイ酸塩水溶液を混合させた後、次の二次乾燥・固化工程では、そのアスベスト5を再び乾燥・固化させる。この乾燥・固化工程においては、一次乾燥・固化工程と同様に、容器を載置できる程度の乾燥台を用意しておき、その上に容器を載せて乾燥させる。このとき、自然乾燥で容器内の微砕アスベストを乾燥させるようにしてもよいが、容器に封入された状態ではなかなか乾燥しないので、蓋を開けた状態で強制的に加温して乾燥させる。そして、十分に乾燥・固化したら、その容器を外して、中のアスベスト5の塊を取り出す。
【0024】
<工程7:アスベストの二次微砕化処理工程>
次に、このようにアスベスト5を充分乾燥させて固化させた後、二次微砕化工程では、再びその固化させたアスベスト5の塊を微砕器4に入れ、すり棒42などを用いて時間をかけて細かく粉砕する。この微砕化処理工程では、すでに一次微砕化処理工程で深層部の繊維束まで微砕化させているため、必要以上に細かく微砕化する必要はないが、確認のために顕微鏡を用いて繊維の状態を視認し、非固化繊維束がまだ存在するようであれば、再度、すり鉢41に戻して微砕化処理を行っていく。また、ケイ酸塩水溶液の浸漬ムラなどによってケイ酸水溶液の浸透していない部分があれば、その部分について、あるいは、全体を再度水槽1に入れて浸漬、乾燥・固化、微砕化処理していく。
【0025】
そして、このようにアスベスト繊維を細かく磨り潰した後、その微砕化粉を袋2に詰めて廃棄する。
【0026】
このようにすれば、深層部に存在するアスベスト繊維まで確実に無害化させることができ、しかも、アスベスト5を固化させてからすり鉢41などで粉砕化処理するので、微砕化処理中にアスベスト繊維が空気中に浮遊することがなくなる。
【0027】
また、アスベスト5を袋詰めされた状態で水槽1内に浸漬させ、その後、袋2に孔を開けてケイ酸塩水溶液を浸入および排出できるような状態にし、その袋詰めされた状態でアスベスト5を水槽1から取り出して乾燥させるようにしたので、袋詰めした状態で作業を行うことができる、浸漬作業や取り出し作業を楽に行わせることができるようになる。しかも、袋2の内部で水溶液を浸漬させるようにしているので、アスベスト5の深層部で固化されていないアスベスト繊維を、浸漬時の気泡などによって空気中に飛散させてしまうような不具合も防止できる。
【0028】
さらには、廃棄可能な蓋付き容器に微砕アスベストを入れ、その後、ケイ酸塩水溶液を入れて固化させるようにしたので、微砕アスベストの回収や固化が用意になる。しかも、蓋をした状態で空気抜きをしながらケイ酸塩水溶液を入れるようにしたので、ケイ酸塩水溶液の入れ込み作業中に微砕アスベストが飛散することがなくなる。
【0029】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0030】
例えば、上記実施の形態では、固化剤としてケイ酸塩水溶液を用いるようにしたが、主としてケイ酸塩を含むようなものであればどのようなものであってもよく、他にアスベスト5を分解、変性させるような成分を含ませるようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施の形態における一次浸漬工程では、水槽1に袋2ごと投入し、ケイ酸塩水溶液を微小孔3から浸漬させるようにしたが、微小孔3を空けることなく袋内にケイ酸水溶液を流し込み、その後、袋2に微小孔3を空けて余分なケイ酸水溶液を排出させるようにしてもよい。
【0032】
さらに、上記実施の形態では、最終工程で固化させたアスベスト5を微砕化処理しているが、固化させた状態のまま廃棄するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態ではアスベストの廃棄処理工程を示す図
【図2】同形態における水槽にアスベストを浸漬する際の状態を示した図
【図3】同形態における乾燥工程と微砕化処理工程を示した図
【符号の説明】
【0034】
1・・・水槽
2・・・袋
3・・・微小孔
4・・・微砕器
41・・・すり鉢
42・・・すり棒
51・・・網棚
52・・・受皿
6・・・アスベスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを無害化処理するためのアスベストの廃棄処理方法において、
ケイ酸塩水溶液を含有する水槽内にアスベストを浸漬させる工程と、
当該水槽内に浸漬させたアスベストを水槽から取り出し、一次乾燥させて固化させる工程と、
乾燥させたアスベストの塊を微砕して微砕アスベストにする工程と、
微砕アスベストをケイ酸塩水溶液を含有する水溶液に混合させる工程と、
上記ケイ酸塩水溶液と混合させた微砕アスベストを二次乾燥させ、再度、微砕化処理する工程とを備えてなることを特徴とするアスベストの廃棄処理方法。
【請求項2】
アスベストを袋詰めされた状態で水槽内に浸漬させ、その後、袋に孔を開けてケイ酸塩水溶液を浸入および排出させるような状態にし、当該袋詰めされた状態でアスベストを水槽から取り出して一次乾燥させるようにした請求項1に記載のアスベストの廃棄処理方法。
【請求項3】
一次乾燥の後に微砕化した微砕アスベストを容器に入れ、蓋をした状態で当該容器内にケイ酸塩水溶液を流し込むようにした請求項1に記載のアスベストの廃棄処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−119925(P2010−119925A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293960(P2008−293960)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(502271438)株式会社ナチュル (7)
【Fターム(参考)】