説明

アタシセプトなどのTACI−Ig融合タンパク質を用いた自己免疫疾患を治療するための投薬法

種々の態様において、本発明は、全身性エリテマトーデス(SLE)を含む自己免疫疾患を治療するための方法、組成物、投薬、及び投与スケジュールを提供し、このような治療を必要とする患者にアタシセプトなどのTACI−Ig融合分子を投与することを含む。一態様では、TACI−Ig融合分子は、BLyS及びAPRILの増殖を誘導する機能を遅くし、抑制し、又は阻害するのに十分な量で投与し、特に、治療過程全体にわたって、相対的に低い投薬量で融合分子の複数回投与の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種々の態様では、本発明は、免疫系の自己免疫疾患又は障害を治療するための方法及び組成物に関し、TNFファミリーのリガンドの機能のブロッキングを最大にする特定の投薬処方計画を用いて、アタシセプト(atacicept)などのTACI−Ig融合タンパク質を投与することを含む。
【背景技術】
【0002】
BLySリガンド/受容体ファミリー
3つの受容体であるTACI(膜貫通活性化因子又はカルシウム調節シクロフィリンリガンド相互作用因子)、BCMA(B細胞成熟抗原)及びBAFF−R(B細胞活性化因子に対する受容体、TNFファミリーに属する)が同定され、それらは、2つの増殖因子であるBLyS(Bリンパ球刺激因子)及びAPRIL(増殖誘導リガンド)に対する独自の結合親和性を有する(Marsters et al.Curr Biol 2000;10(13):785−788;Thompson et al.Science 2001;293:2108−2111)。TACI及びBCMAは、BLyS及びAPRILの両方に結合し、一方、BAFF−Rは、高親和性でBLySだけに結合可能に見える(Marsters et al.Curr Biol 2000;10(13):785−788;Thompson et al.Science 2001;293:2108−2111)。結果として、BLySは、3つ全ての受容体を介してシグナル伝達することができ、一方、APRILだけは、TACI及びBCMAを介してシグナル伝達を可能にする。さらに、BLys及びAPRIL(3つのタンパク質の集団、BLys及びAPRILの各々を1又は2コピー含む)の循環ヘテロ三量体複合体は、全身性免疫系リウマチ性疾患の患者から採取した血清試料において同定され、インビトロにおいてB細胞増殖を誘導することが示されている(Roschke et al.J Immunol 2002;169:4314−4321)。3つ全ての受容体に対するIg融合タンパク質のうち、アタシセプトなどのTACI−Fc5だけは、ヘテロ三量体複合体の生物学的活性をブロックすることができる(Roschke et al.J Immunol 2002;169:4314−4321)。
【0003】
BLys及びAPRILは、B細胞の成熟、増殖及び生存の強力な刺激因子である(Gross et al.Nature 2000;404:995−999.Gross et al.Immunity 2001;15(2):289−302.Groom et al.J Clin Invest 2002;109(1):59−68)。BLys及びAPRILは、自己免疫疾患、特にB細胞が関与する疾患の持続に必要とされる場合がある。高レベルのBLySを発現するように遺伝子操作されたトランスジェニックマウスは、細胞障害を提示し、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者に見られるものと類似した症状を示す(Cheson et al.Revised guidelines for diagnosis and treatment.Blood 1996;87:4990−4997.Cheema et al.Arthritis Rheum 2001;44(6):1313−1319)。同様に、BLys及びAPRILのレベル上昇は、SLE患者、及び関節リウマチのような種々の自己免疫疾患の他の患者から採取した血清試料において測定され(Roschke et al.J Immunol 2002;169:4314−4321;Mariette X.,Ann Rheum Dis 2003;62(2):168− 171;Hahne et al.J Exp Med 1998;188(6):1185−1190)、動物モデルからヒトへ、BLyS及び/又はAPRILとB細胞を媒介した疾患との関連性が広がりつつある。
【0004】
全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己免疫疾患であり、臨床的には、漸増及び漸減過程によって特徴付けられ、並びに、皮膚、腎臓及び中枢神経系を含む多臓器の関与によって特徴付けられる(Kammer G M and Tsokos G C Eds.(1999)Lupus:Molecular and Cellular Pathogenesis 1st Ed,Human Press,N.J.;Lahita R G Ed.(1999)Systemic Lupus Erythromatosus,3rd Ed,Academic Press,Amsterdam)。SLEの全体的な有病率は、2000人に約1人であり、700人の白人女性のうちの約1人が一生涯でSLEを発症する(Lahita R G (1999)Curr.Opin.Rheumatol.Sep;11(5):352−6)。米国だけは、50万人がSLEであり、大部分が妊娠可能な時期にある女性である(Hardin J A(2003)J.Exp.Med.185:1101−1111)。
【0005】
SLEを診断するための単一な基準はない。米国リウマチ学会は、SLEを診断するための11個の基準を生み出し、それらは、皮膚、全身、及び実験室試験の局面のおけるSLEの臨床スペクトルを測るものである。これらの基準には、頬部発疹、円形発疹、太陽光に対する感受性、口内潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎臓及び中枢神経系の炎症、血液変性、並びに抗核抗体の存在が含まれる。患者は、SLE患者として分類されるためには、これらの基準のうち4つを満たす必要がある(Tan et al.(1982)Arthritis Rheumatol.25:1271−1277)。SLEは、通常、限定されないが、抗核抗体を検出するための血液試験;腎機能を評価する血液及び尿の試験;多くの場合、SLEと関連する低レベルの補体の存在を検出する補体試験;炎症レベルを測定するための沈降速度(ESR)又はC反応性タンパク質(CRP);肺障害を評価するためのX線、及び心臓障害を評価するためのEKGが含まれる。
【0006】
SLEの標準的な治療は、一般的な免疫応答阻害剤であるステロイドのグルココルチコイドの投与である。症状を軽減するためにそれを使用することができる;しかしながら、現在、SLEの治療に有効ではない。通常、0.5mg未満/kg/日レベルの低投薬量で、経口のプレドニソンが与えられる。残念なことに、この治療は、患者を寛解な状態に維持するには不十分であり、この疾患の再燃(flaring)は頻繁である。再燃は、連続して3日間、30mgのメチルプレドニソロン/kg/日で静脈パルスを介して高投薬量のグルココルチコイドを用いて制御可能である。しかしながら、高投薬量でのステロイド処置は、重篤な副作用を患者に与え得る。
【0007】
これらの標準的な治療は、一般的には非特異的であり、重篤な副作用と頻繁に関連付けられ、疾患の進行、又は生命を脅かす腎合併症(ループス腎炎、すなわち、LN)への移行に有意に影響を与えない。結論として、SLEを治療するための新規な方法を開発することが、当該技術分野において長年にわたって必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
様々な態様では、本発明は、自己免疫疾患を治療する方法に関する。具体的には、本発明の方法は、ヒト免疫グロブリン定常ドメイン及びTACI細胞外ドメイン、又はBLyS及び/又はAPRILに結合するその断片を含む組成物を患者に投与することを含む。
【0009】
別の態様では、本発明は、TACI細胞外ドメイン、又はBLyS及び/又はAPRILに結合する能力を保持するその任意の断片の融合体を含む分子、例えばアタシセプトを用いて、SLEを含む自己免疫疾患を治療する方法を含む。
【0010】
別の態様では、本発明は、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、TACI細胞外ドメインあるいはBLyS及び/又はAPRILに結合するTACI細胞外ドメインの断片とを含む有効量の融合分子をそれを必要とする患者に投与することを含む、SLEを治療する方法を含む。一態様では、TACIの細胞外ドメインの断片は、1又は2個のシステイン繰り返しモチーフを含む。別の態様では、この断片は、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸30〜110を含む断片である。なお別の態様では、この断片は、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸1〜154(配列番号1)を含む断片である。
【0011】
別の態様では、本発明は、配列番号2として記載される配列を有するヒト免疫グロブリン定常ドメインであるFc5と、配列番号1として記載される配列を有するTACI細胞外ドメインとを含む融合ポリペプチドであるTACI−Fc5を含む組成物を患者に投与することによって、SLEを治療する方法を含む。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、配列番号2として記載される配列を有するヒト免疫グロブリン定常ドメインと、BLyS及び/又はAPRILに結合し、配列番号1と少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約99%同一であるポリペプチドとを含む融合ポリペプチドを含む組成物を患者に投与することによって、SLEを治療する方法を含む。
【0013】
他の自己免疫疾患は、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、TACI細胞外ドメイン又はBLyS及び/又はAPRILに結合するTACI細胞外ドメインの断片とを含む融合タンパク質を患者に投与することによる本発明の方法によって治療することができる。このような自己免疫疾患には、限定されないが、関節リウマチ(RA)、グレーブス病、I型及びII型糖尿病、多発性硬化症、シェーグレン症候群、強皮症、糸球体腎炎、移植による拒絶反応、例えば、臓器及び組織同種移植及び異種移植拒絶反応、並びに移植片対宿主疾患が挙げられる。
【0014】
一態様では、本発明の方法は、患者の体重1kgあたり約0.01mg〜患者の体重1kgあたり約25mgの量でアタシセプト融合分子をSLE患者に投与することを含む。アタシセプト分子は、所定の間隔で複数回投与することができる。具体的には、該分子は、所定の投薬期間中に複数回投与することができる。例えば、投薬は、毎週又は3週間ごとの間隔で相対的に低い投薬量で行うことができる。アタシセプト融合ポリペプチドを用いた初期の治療は、2週に1回(bi−weekly)(隔週)又は3週に1回(tri−weekly)(第3週毎)を基準にして、それぞれ少なくとも2又は3週を超える更なる週の期間、該ポリペプチドの投与へと続く。例えば、ポリペプチドは、2週に1回を基準にして、さらに2〜30週間投与されてもよい。あるいは、該ポリペプチドは、毎週又は毎日を基準にして投与されてもよい。
【0015】
本発明の方法によれば、アタシセプトポリペプチドは、皮下、経口、又は静脈内に、他の薬剤と組み合わせて、SLE患者にすることができる。このような薬剤には、限定されないが、下記が含まれる:NSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)、オーバー・ザ・カウンターと処方箋を必要とするものの両方を含み、例えば、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシンジフルニサル、ナブメトン;抗マラリア薬、例えば、硫酸ヒドロキシクロロキン及びクロロキン;副腎脂質ステロイド、例えば、プレドニソン、ヒドロコルチゾン、及びメチルプレドニソロン;並びに、免疫抑制剤、例えば、アザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキセート、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、IVIg、DHEA、及びサリドマイド。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】主要な薬物動態測定である、皮下投与に関する数日間の時間に対するプロットされた遊離アタシセプト濃度を図式的に表す。グラフの各線は投薬量であり、記号表に示されている。
【0017】
【図2】主要な薬物動態測定である、皮下投与に関する数日間の時間に対するプロットされたアタシセプト:BLyS複合体濃度を図式的に表す。グラフの各線は投薬量であり、図1の記号表に示されている。
【0018】
【図3A】種々の免疫グロブリンレベル及びB細胞レベルにおける皮下投与の生物学的効果を図示する。
【0019】
【図3B】種々の免疫グロブリンレベル及びB細胞レベルにおける皮下投与の生物学的効果を図示する。
【0020】
【図4】アタシセプトの皮下及び静脈内投与のための遊離アタシセプト測定によって示される生物学的利用能における差を示す。
【0021】
【図5】IgM濃度対時間によって示される、2つの投与法を用いて観察された相対的に類似した生物学的活性を図示する。図4の記号表を参照されたい。
【0022】
【図6】遊離アタシセプト対時間によって示される、皮下と静脈内投与法の類似性を図示する。
【0023】
【図7】アタシセプト:BLyS複合体対時間によって示される、2つの投与法を用いて観察された相対的に類似した標的結合曲線を示す。図4の記号表を参照されたい。
【0024】
【図8】IgM対時間によって示される、どのようにして複数回投薬がより高い生物学的活性を生じるのかを図示する。
【0025】
【図9】アタシセプト:BLys複合体対時間によって示される、どのようにして標的結合が複数回投薬を用いてより高いかを図示する。図4の記号表を参照されたい。
【0026】
【図10】主要な薬物動態測定である、静脈内投与に関する数日間の時間に対するプロットされた遊離アタシセプト濃度を図式的に表す。グラフの各線は投薬量であり、記号表に示されている。
【0027】
【図11】主要な薬物動態測定である、静脈内投与に関する数日間の時間に対するプロットされたアタシセプト:BLys複合体濃度を図式的に表す。グラフの各線は投薬量であり、図10の記号表に示されている。
【0028】
【図12】静脈内投与を用いたバイオマーカー測定のグラフであり、特に免疫部グロブリンレベル及びB細胞レベルである。
【0029】
【図13】図13A及びBは、皮下投与に関する、複合アタシセプト濃度(遊離アタシセプト+アタシセプト−BLys複合体として定義される)対時間のグラフである(試験1)。(A)単回投薬群;(B)複数回投薬群。平均±SE値を示す。複数回投薬は、第0、7、14、及び21日に投与された。投薬中の点は、濃度ピークが投薬間で捕捉されないことを示すようにつながってはいない。
【0030】
【図14】図14A及びBは、静脈内投与に関する、複合アタシセプト濃度(遊離アタシセプト+アタシセプト−BLys複合体として定義される)対時間のグラフである(試験2)。(A)単回投薬群;(B)複数回投薬群。平均±SE値を示す。複数回投薬は、第0及び21日に投与された。
【0031】
【図15A】群による試験1(皮下投与)における免疫グロブリンサマリープロフィールである(基準の%、平均±SE)。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。この図は、図3A及び3Bにおいて示されたデータを延長している。
【0032】
【図15B】群による試験1(皮下投与)における免疫グロブリンサマリープロフィールである(基準の%、平均±SE)。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。この図は、図3A及び3Bにおいて示されたデータを延長している。
【0033】
【図15C】群による試験1(皮下投与)における免疫グロブリンサマリープロフィールである(基準の%、平均±SE)。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。この図は、図3A及び3Bにおいて示されたデータを延長している。
【0034】
【図16A】群による試験2(静脈内投与)における免疫グロブリンサマリープロフィールである(基準の%、平均±SE)。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。この図は、図12において示されたデータを延長している。
【0035】
【図16B】群による試験2(静脈内投与)における免疫グロブリンサマリープロフィールである(基準の%、平均±SE)。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。この図は、図12において示されたデータを延長している。
【0036】
【図16C】群による試験2(静脈内投与)における免疫グロブリンサマリープロフィールである(基準の%、平均±SE)。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。この図は、図12において示されたデータを延長している。
【0037】
【図17A】アタシセプト皮下投薬(試験1)と観察された最大免疫グロブリン応答との間液を図示する(基準からの減少%)。バーは、平均±SEを示す。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。
【0038】
【図17B】アタシセプト皮下投薬(試験1)と観察された最大免疫グロブリン応答との間液を図示する(基準からの減少%)。バーは、平均±SEを示す。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。
【0039】
【図17C】アタシセプト皮下投薬(試験1)と観察された最大免疫グロブリン応答との間液を図示する(基準からの減少%)。バーは、平均±SEを示す。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。
【0040】
【図18A】アタシセプト静脈内投薬(試験2)と観察された最大免疫グロブリン応答との間液を図示する(基準からの減少%)。バーは、平均±SEを示す。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。
【0041】
【図18B】アタシセプト静脈内投薬(試験2)と観察された最大免疫グロブリン応答との間液を図示する(基準からの減少%)。バーは、平均±SEを示す。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。
【0042】
【図18C】アタシセプト静脈内投薬(試験2)と観察された最大免疫グロブリン応答との間液を図示する(基準からの減少%)。バーは、平均±SEを示す。(A)IgM、(B)IgA、(C)IgG。
【0043】
【図19】皮下及び静脈内試験の同じ単回投薬群におけるIgMプロフィール(平均±SE)を示す。(A)3mg/kg;(B)9mg/kg。
【0044】
【図20】皮下及び静脈内試験の同じ単回投薬群におけるアタシセプト:BLyS複合体プロフィール(平均±SE)を示す。(A)3mg/kg;(B)9mg/kg。
【発明を実施するための形態】
【0045】
種々の態様では、本発明は、BLyS及び/又はAPRILとそれらの受容体との相互作用を阻害することによって、患者における自己免疫疾患を治療するための方法に関する。患者は、動物、例えばヒトであってもよい。一態様では、この方法は、1)TACI細胞外ドメイン又はBLyS及び/又はAPRILを結合するその断片と少なくとも部分的に同一であるドメインを含むポリペプチド;2)ヒト免疫グロブリン定常鎖を含む阻害剤を利用する。一態様では、本発明の方法は、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、TACI細胞外ドメインと少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約99%配列同一性を有する任意のポリペプチドとを含む融合分子を利用する。米国特許第5,969,102号、第6,316,222号、及び第6,500,428号、並びに米国特許出願第091569,245号及び第091627,206号(それらの教示は、全体として参照により本明細書中に援用される)は、TACIの細胞外ドメイン、並びにBLyS及びAPRILを含む、TACIリガンドと相互作用するTACI細胞外ドメインの特定の断片についての配列を開示する。1つは、TACIの細胞外ドメインの断片が1又は2つのシステイン繰り返しモチーフを含むことを例示する。別の例示的な断片は、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸30〜110又はその断片を含む断片である。なお別の例示的な断片は、TACI細胞外ドメインのアミノ酸1〜154(配列番号1)又はその断片を含む断片である。
【0046】
本発明の方法に有用な他の融合分子には、ヒト免疫グロブリン定常鎖と完全なTACI細胞外ドメイン又はそのオルソログとの間のポリペプチド、あるいは、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、BLyS及びAPRILリガンドに結合することができる細胞外TACIドメインの任意の断片との融合ポリペプチドが含まれる。本発明の方法に使用される融合分子のいずれかは、TACI−Ig融合分子と呼ばれ得る。
【0047】
TACI−Fc5は、本発明の方法に有用なTACI−Ig融合分子の1つである。TACI−Fc5は、アミノ酸約1〜アミノ酸約154(配列番号1)の受容体TACIの細胞外の受容体部分と、ヒトIgGの修飾されたFc部分であるFc5(配列番号2)とを含む組換え融合タンパク質である。本発明の方法に有用な他のTACI−Ig分子には、配列番号2を有するポリペプチドと、配列番号1と少なくとも約50%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも約99%同一であるBLySに結合することができるポリペプチドとを含む融合分子が含まれる。
【0048】
本発明の態様は、SLEを治療するためのTACI−Ig融合分子の方法を含む。本発明の方法を用いて治療され得る他の自己免疫疾患には、関節リウマチ(RA)、グレーブス病、I型及びII型糖尿病、多発性硬化症、シェーグレン症候群、強皮症、糸球体腎炎、移植による拒絶反応、例えば、臓器及び組織同種移植及び異種移植拒絶反応、移植片対宿主疾患、又は循環成熟B細胞及び免疫グロブリン分泌細胞の数の減少及び疾患と関連した可溶性免疫グロブリンによって治療され得る任意の他の自己免疫疾患が挙げられる。
【0049】
また、態様は、ヒト免疫グロブリン定常ドメインと、BLyS及び/又はAPRILに結合することができるTACI細胞外ドメインを含む融合分子を患者に投与することによって治療する方法を含む。
【0050】
TACI−Ig融合分子は、限定されないが、経口、静脈内又は皮下を含む、投与の任意の適切な経路に従って患者に投与され得る。
【0051】
本発明の方法に有用なTACI−Ig製剤は、凍結、滅菌、等張液として調製及び保存されてもよい。このような製剤には、他の有効成分、賦形剤、例えば塩化ナトリウム、リン酸バッファー、及び水酸化ナトリウム又はO−リン酸(pH6.0)が含まれ得る。TACI−Ig製剤は、他の薬剤を併用して患者に投与することができる。このような薬剤には、限定されないが、NSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)、オーバー・ザ・カウンターと処方箋を必要とするものの両方を含み、例えば、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシンジフルニサル、ナブメトン;抗マラリア薬、例えば、硫酸ヒドロキシクロロキン及びクロロキン;副腎脂質ステロイド、例えば、プレドニソン、ヒドロコルチゾン、及びメチルプレドニソロン;並びに、免疫抑制剤、例えば、アザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキセート、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、IVIg、DHEA、及びサリドマイドが挙げられる。
【0052】
本発明の方法は、自己免疫疾患を治療するための他の方法と組み合わせて使用することができる。このような他の治療方法には、限定されないが、外科、鍼療法、理学療法、及び遺伝子治療が挙げられる。TACI−Ig製剤は、他の治療方法の前に、同時に、又は後に投与されてもよい。
【0053】
TACI−Fc5は、インビトロにおけるB細胞増殖のBLyS活性化を阻害することが示されている。TACI−Fc5によるマウスの処置では、結果として、B細胞の発生を部分的にブロックする。このB細胞の発生は、骨髄にあるB細胞前躯体、末梢血T細胞、単球、及び好中球を含む他の細胞系統に対して最少の影響を有する。血中のTACI受容体の可溶性形態を過剰発現するように遺伝子操作されたトランスジェニックマウスは、ほとんど成熟B細胞を生産せず、循環抗体レベルの減少が示される。TACI−Fc5トランスジェニックマウスは、胸腺、骨髄及び腸間膜リンパ節中に細胞を正常な数で有する。胸腺、リンパ節、及び脾臓におけるT細胞集団において有意な差はない(Gross et al.Immunity 2001;15(2):289−302)。
【0054】
さらに、TACI−Igは、抗原に対する一次応答又は二次応答中に投与されるかどうかにかかわらず、マウスにおける免疫応答における抗原に特異的な抗体の産生を阻害することができる。これらの試験では、エクスビボの抗原接種に対するT細胞応答のおける効果がないことが観察された。全身性紅斑性狼瘡の動物モデルでは、TACI−Ig融合タンパク質を用いて処置は、疾患の開始及び進行を制限する点で有効であった(Gross et al.Nature 2000;404:995−999)。同様に、コラーゲンによって誘導された関節炎のマウスモデルでは、TACI−Igは、コラーゲン特異的な抗体の産生を阻害し、炎症の罹患率と疾患の発生率の両方を減少させることができた(Gross et al.Immunity 2001;15(2):289−302)。
【0055】
TACI−Ig融合分子を含む組成物は、患者に1回投与されてもよく、又は期間中に繰り返して患者に投与されてもよい。例えば、患者は、TACI−Ig分子の1回の皮下注射を受けてもよく、その後、彼又は彼女の状態をモニターしてもよい。状態の改善又は少なくとも安定化を示す患者は、追加の期間中に繰り返してTACI−Ig融合分子を投与されてもよい。その追加の期間は、約2〜約52週であってもよい。例えば、患者は、4週の期間内にTACI−Ig融合分子を3回投薬で投与されてもよい。あるいは、患者は、12週の期間内にTACI−Ig融合分子を7回投薬で投与されてもよい。患者へのTACI−Ig分子の投与は、1日に1回(daily)、2日に1回(bidaily)、週に1回(weekly)、2週に1回(bi−weekly)、3週に1回(tri−weekly)、月に1回(monthly)、2か月に1回(bi−montly)などであってもよい。
【0056】
TACI−Ig分子は、患者の状態を治療するために有効である量で患者に投与される。一態様では、所定の疾患又は障害に関連して、用語「治療すること」には、限定されないが、疾患又は障害を阻害すること、例えば、疾患又は障害の発生を阻止すること;疾患又は障害を軽減すること、例えば、疾患又は障害の抑制を引き起こすこと;あるいは、疾患又は障害によって引き起こされるか又はそれに起因する状態を軽減すること、例えば、疾患又は障害の症状を軽減、予防又は治療することが挙げられる。別の態様では、その量は、患者の体重1kgあたり約0.01mg〜患者の体重1kgあたり約20mgの範囲であってもよい。
【0057】
融合TACI−Ig分子は、任意の適切な方法で送達されてもよい。一態様では、分子は、腹腔内注射によって送達される。別の態様では、腹腔内注射は、皮下注射を介する。別の態様では、腹腔内注射は、腹部前壁内に投与される。投薬するために1回を超える注射が必要とされる場合、注射は、数センチあけて、時間的に比較的近接して、例えば、適度の可能であるほど近接して投与されてもよい。繰り返しの薬物投与については、腹部前壁への投与部位は、交代にするか又は変更されてもよい。腹部前壁への皮下注射に関する例示的なゾーンには、右上側外部領域、左下側外部領域、右下側外部領域、左上側外部領域、中央下側領域、並びに右及び左大腿及び上腕が挙げられる。あるいは、対象とするTACI−Ig融合分子は、錠剤、カプセル、液体組成物又はゲルなどの形態で静脈内注射又は経口的に送達されてもよい。
【0058】
現在、B細胞は、抗体依存性及び抗体非依存性のメカニズムを介して、SLE病因における重要な役割を果たすと考えられている。抗体産生に加えて、B細胞は、非常に多くのサイトカインを分泌し、抗原提示細胞として作用し、多様なエフェクター機能を提供する。このようにして、B細胞は、SLEにおける薬物開発のための合理的な標的として明確にされてきた(Browning JL.,Nat Rev Drug Discov 2006;5:564−76)。
【0059】
いくつかのB細胞に指向された戦略は、SLEのための可能な治療として提案されている。これらの戦略のいくつかは、B細胞に指向されたモノクローナル抗体(mAb)の使用を通じてB細胞を排除するように設計されている(Leandro MJ,Edwards JC,Cambridge GI Ehrenstein MR,lsenberg DA.Arthritis Rheum 2002;46:2673−3;Looney RJ,Anolik JH,Campbell Dl Felgar RE,Young F,Arend LJ,et al.,Arthritis Rheum 2004;50:2580−9;Leandro MJ,Cambridge G,Edwards JC,Ehrenstein MR,lsenberg DA.,Rheumatology 2005;44:1542−5;Dorner T,Kaufman J,Wegener WA,Teoh N,Goldenberg DM,Burmester GR.,Arthritis Res Ther 2006;8:R74)。一方、他は、B細胞刺激を妨げ(Baker KP,Edwards BM,Main SH,Choi GH,Wager RE,Halpern WG,et al.Arthritis Rheum 2003;48:3253−65;Wallace DJ,Lisse J,Stohl W,McKay J,Boling El Merrill JT,et al.,American College of Rheumatology Annual Scientific Meeting,2006;Gross JA,Dillon SR,Mudri S,Johnston J,Littau A,Roque R,et al.,Immunity 2001;15:289−302)、又は、自己抗体産生B細胞を選択的に標的化しようとする(Alarcon−Segovia D,Tumlin JA,Furie RA,McKay JD,Cardiel,MH,Strand V,et al.,Arthritis Rheum 2003;48:442−54;Luger D,Dayan M,Zinger H,Liu JP,Mozes E.J Clin Immunol 2004;24:579−90;Mauermann N,Sthoeger Z,Zinger H,Mozes E.,Clin Exp Immunol2004;137:513−20)。
【0060】
B細胞刺激を阻害しようとする試みは、主に、Bリンパ球刺激因子(BLys)及び増殖誘導リガンド(APRIL)と呼ばれる分子を伴う受容体−リガンド相互作用に焦点が当てられている。BLyS及びAPRILは、骨髄からの出た後に、B細胞の生存及び発達のために重要であるサイトカインの腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーのメンバーである。BLyS及びAPRILは、共通であるが、異なる受容体に結合する。両分子は、膜貫通活性化因子、及びカルシウム調節サイクロ(登録商標)フィリンリガンド(CAML)相互作用因子(TACI)、並びにB細胞成熟抗原(BCMA)に結合し、一方、BLySはまた、TNFファミリー−受容体(BAFF−R)に属するB細胞活性化因子に結合し、APRILはプロテオグリカンと相互作用する。
【0061】
動物モデル及びヒトにおける証拠の増加は、自己免疫疾患の発症におけるBLyS及びAPRILに関する重要な役割を支持する。BLySを過剰発現するトランスジェニックマウスは、B細胞増殖及びポリクローナル高ガンマグロブリン血を示す(Gross JA,Johnston J,Mudri S,Enselman R,Dillon S,Madden K,et al.,Nature 2000:404:995−9;Mackay F,Woodcock SA,Lawton P,Ambrose C,Baetscher M,Schneider P,et al.,J Exp Med 1999;190:1697−710;Khare SD,Sarosi I,Xia XZ,McCabe S,Miner K,Solovyev I,et al.,Proc Natl Acad Sci 2000;97:3370−5)。これらのマウスの中には、抗二本鎖DNA(dsDNA)抗体、腎臓における免疫グロブリン沈着、及び糸球体疾患の加速した発症からなる狼瘡様表現型を生じるものもあり、BLySレベルは、狼瘡になり易いNZBINZW F1(BIW)及びMRL−lpr/lprマウスにおいて蔵相する(Stohl W,Xu D,Kim KS,Koss MN,Jorgensen TN,Deocharan B,et al.,Arthritis Rheum 2005;52:2080−91)。また、ヒトでの試験は、全身性自己免疫疾患におけるBLyS及びAPRILに関する役割を示唆する。SLEの患者では、抗dsDNA抗体のレベルと正に相関するBLySの血清レベルが増加する(Zhang J, Roschke V,Baker K,Wang Z,Alarcon GS,Fessler BJ,et al.,J Immunol 2001,166:6−10;Cheema GS,Roschke V,Hubert DM,Stohl W.,Arthritis Rheum 2001;44:1313−19;Stohl W,Metyas S,Tan SM,Cheema GS,Oamar B,Xu D,et al.,Arthritis Rheum 2003;48:3475−86)。APRILの血清レベルは、健常な個体及び関節リウマチの患者と比較して、SLEの患者において上昇する(Koyama T,Tsukamoto H,Miyagi Y,Himeji D,Otsuka J,Miyagawa H,et al.Ann Rheum Dis 2005;64:1065−7)。BLyS及びAPRILは、炎症性関節炎の患者の唾液中に検出されている(Tan SM,Xu D,Roschke V,Perry JW,Arkfeld DG,Ehresmann GR,et al.,Arthritis Rheum 2003;48:982−92)。マウス及びヒトにおけるこれらの説得力のある観察は、いくつかのBLySアンタゴニストの発症へと導く。これらの薬物の1つは、ヒトIgG1 Fcドメインに接続されたTACI受容体の細胞外ドメインを含む組換え融合タンパク質である(アタシセプト、TACI−IGとして前記で言及される)。アタシセプトは、BLyS及びAPRILお両方によるB細胞刺激をブロックする。調査しているいくつかの菌株は、アタシセプトがインビボにおいて強力な効果を有するという期待を支持する。最初に、アタシセプトを発現するトランスジェニックマウスは、成熟B細胞がほとんどなく、免疫グロブリン濃度が減少し、アタシセプトを用いた治療は、コラーゲン誘導の関節炎のマウスモデルにおいて関節炎の重傷性を減少させる。また、抗コラーゲン抗体の生成が抑制される(Gross JA,Dillon SR,Mudri S,Johnston J,Littau A,Roque R,et al.,上述)。第3に、アタシセプトを用いた狼瘡になり易い雌性B/Wマウスの治療は、タンパク尿の発症を示し、生存性を高める(Gross JA,Johnston J,Mudri S,Enselman R,Dillon S,Madden K,et al.,上述)。最後に、狼瘡になり易い雌性BIWマウスにおけるマウスアタシセプトとBAFF−R−Ig(BLySのみの阻害剤)の直接的な比較では、アタシセプトだけがIgMの血清レベルを減少させ、腎臓における血漿細胞の頻度を低下させ、T細胞依存性抗原に対するIgM応答を阻害した。これは、これらのプロセスにおけるAPRILに関する役割を示唆する(Ramanujam M,Wang X,Huang W,Liu Z,Schiffer L,Tao H,et al.,J Clin Invest.2006;116:724−34)。これらの有望な前臨床データに照らして、本出願人は、SLEの患者での臨床試験において、アタシセプトの生物学的作用、薬物動態解析、薬力学、及び安全性を試験した。
【0062】
下記の実施例1及び2に記載の予備的なフェーズIにおいて、アタシセプトは、SLEの患者において、局所的及び全身的に十分に寛容された。この予想される兆候におけるアタシセプトの生物学的活性の明確なサインが観察され、その作用機序(MoA)に非常に沿っていた。
【0063】
アタシセプトについての作用機序(MoA)に関する現在の概念によれば、理論に制限されることなしに、BLyS及びAPRILの阻害は、B細胞に対する効果をもたらし、非特異的及び特異的抗体の分泌を含み、それは、最終的には、種々のSLE関連バイオマーカーと臨床効果マーカーに影響を及ぼす。フェールI試験に関して典型的であるように、現在の分析における着目は、MoAカスケードの初期段階、具体的には、BLyS及びAPRIL阻害の初期バイオマーカー(例えば、アタシセプト−BLyS複合体)を用いて開始される応答、及び生物学的効果に焦点(例えば、Igレベル)が当てられている。
【0064】
アタシセプトは、遊離した薬物曝露における投薬量に比例した値を超える増加、並びにアタシセプト−BLyS複合体の曝露における飽和した(投薬量に比例した値未満の)増加によって特徴付けられる、多面的な非線形PKを示した。このような挙動は期待され、RA患者において報告されている。それは、アタシセプトのPKがそのリガンドによって仲介されるという仮説を支持する。全体で、アタシセプトのPKは、非線形ではあるが、1回投薬及び複数回投薬の間で一定であり、投薬量の全体で予測可能であった。アタシセプトの3つのPKマーカーは、RA及びSLE患者における非常な類似性があるように振る舞い、それは、自己免疫疾患のタイプがアタシセプトPKの主要な決定因子ではないことを指す。
【0065】
遊離したアタシセプトの最小限蓄積と一緒に、複数回投薬(集団5及び6についての最大4週ごとの投薬、試験1)を用いた、アタシセプト−BLyS複合体の連続的な蓄積は、全身及び末梢において、可溶性遊離BLyS及びAPRILの考慮されるべき初期積載量の存在の証拠を与える。(文献による正常な対象と比較した)これらの試験において測定された基底のBLySレベルの増加は、この仮説に有意になるように発言する。
【0066】
また、可溶性リガンドとそれらの受容体との間の既存の予備投薬平衡がアタシセプトの投与によって崩壊されると、血液循環系、リンパ系及び周辺コンパートメントの間の複雑な動的な再分配プロセスが開始することが非常にあり得る。この再分配は、薬物とそのリガンドとの間に関与し、関与する分子の大きさを考慮すると、新しい平衡が達成されるまで、少なくとも数週間かかる可能性がある。
【0067】
他方、長期の複合体蓄積は、遊離リガンドの内因性の発生の有意な速度を含むことができる(また、血液循環及び腹腔組織の両方における)。リツキシマブ(rituximab)投与後の血清BLySの増加速度に関する公開されたデータ(Cambridge et al.,Arthritis Rheum 2006;54:723−732)は、内因性BLyS生成がBLyS阻害において重要な役割を果たし、考慮されるべきであるという追加の証拠を与えるようである。定常状態の獲得に対する長期間(週に1回の投薬の1カ月を超える期間)は、それらの仮説を支持する。
【0068】
アタシセプトの飽和動力学は、最初、観察され、以前のフェーズI試験の健常なボランティア及びRA患者に適用された1回のアタシセプト投薬を用いて報告され、BLyS(及びAPRIL)阻害が飽和可能であることを示し、即ち、飽和点を超えるアタシセプト曝露の増加が、BLyS(及び、結果的にはAPRIL)結合の観点での再発の阻止をもたらしたであろうことを示す。この現象は、治療的投薬処方計画が選択されると、考慮され、有効に活用されるべきである。
【0069】
BLyS(及びAPRIL)阻害の適切な飽和は、長期に維持されることが必要であるということを強調されるべきであり、時間内の適切なアタシセプト曝露パターンによって達成されるべきである。後者は、内因性BLyS及びAPRIL生成及び再分配の複雑かつ大部分は特徴付けられていないプロセスと、アタシセプトの創出された動的プロフィールとの間の原動力を必要とする。このようなバランスは、投薬レベルだけでなく、投薬頻度の観点からも、投薬処方計画の適切な設計によって達成可能であるに過ぎない。アタシセプト蓄積量とIg抗体応答との間の明確な関係は、区画化されていない方法によって達成されている;このような関係は、第一に、健常なボランティアにおける1回のアタシセプト投薬、並びにRAの患者における1回及び複数回のアタシセプト投薬を用いて検出された。現在の試験では、モニターされた3つ全てのIgマーカーは、アタシセプトの最初の投薬後に即座の減少を示した。4週間毎の投薬後、抗体応答の3つ全てのバイオマーカーは、明らかに投薬期間中に到達することなしに、定常状態に向けて、徐々にかつ確実に減少した。
【0070】
RA試験において最初になされた、投薬頻度が3つの全てのバイオマーカーの応答における投薬レベルと少なくとも同程度の重要な役割を果たす可能性があるという観察は、皮下投与後のSLEデータを用いて確かめられる(試験I)。一般に、バイオマーカーは、SLE及びRA集団に両方において、同様の投薬レベルで非常に類似して振る舞い、BLyS(及びAPRIL)阻害に基づく両方の指示のMoAにおける共通のルートを明確に示す。
【0071】
別の対象とする事実は、2つの試験のPK及び生物学的活性の結果の比較から見出される。それらのいずれも、皮下利用性問題を扱うように設計されていないが、同様の皮下及び静脈内投薬(集団3、試験1対集団1、試験2、及び集団4、試験1対集団2、試験2)後の遊離した及び複合のアタシセプトの濃度−時間曲線(AUC)下の部分及び全体の領域の比較は、「平均の」生物学的利用能の大体の見積りの誘導を可能にする。表2ab及び3abから、これらの見積りは、遊離した薬物と複合の薬物の両方について約35〜40%である−その数値は大きな分子量を有する分子に関する概数は除かない(Porter and Charman,J Pharm Sci 2000;89:297−310)。
【0072】
しかしながら、生物学的活性マーカーの検査は、図19のIgMについて例示されるように、類似の投薬は、投与経路に関係なく、類似した生物学的活性を生じることを示す。最初に、該薬物に対する2.5〜3倍の種々の全身的曝露が類似の生物学的効果をもたらし得るという観察が確立された実例と矛盾している;しかしながら、アタシセプトの場合では、この現象が十分に見出されてもよい。
【0073】
皮下投与後の巨大なタンパク質分子の吸収の現在の理解は、タンパク質が、末梢リンパと毛細血管の両方への注射部位から流出し、リンパ管への取り込みは分子サイズとともに増加するということである。アタシセプトに相応のMWを有する薬物に関して、70〜80%と同程度の皮下投薬は最初に末梢リンパに届くことが期待され得ることが期待可能である。しかしながら、血液循環及びリンパ系は、非常に密接に絡み合い、接続されているため、血液とリンパコンパートメントとの間の物質交換は、巨大分子についても、適正に迅速であり、スムーズでなければならない。後者は、静脈内及び皮下PKプロフィールの比較的に(MW73.4KDa)の高速平衡化によって、アタシセプトの場合に確かめられる。
【0074】
これらの考察は、少なくとも2つの可能な関連した、即ち、決して互いに矛盾がない、観察された現象の説明へと導く。「動力学的な」説明は、皮下投与を用いた場合でさえも、十分量の薬物が血液循環内に移動し、BLySの十分な阻害を確実にし、したがって、中心的コンパートメントにおいてMoAカスケードを開始するものと仮定する。多くの生物学的効果は、根本的な薬物動態に対して遅延されることは周知である。アタシセプトの場合ではPDラグは、(1回目の投薬後のIgマーカーにおける即時現象によって明らかにされるように)過度ではないが、吸収によって引き起こされるPKラグをほぼ無関係な状態にするには十分であるようである。この仮説は、皮下及び静脈内試験の同一の1回投薬集団(図20)におけるほとんど同一のアタシセプト:BLyS複合体プロフィールによって支持され、この場合、類似性は、特に、投与後の最初の7日に示される。
【0075】
「薬力学的な」説明は、血液循環及びリンパ系が、BLyS(及びAPRIL)については「作用部位」であり、同様に、アタシセプトについては標的物を示すことである。投与の静脈内経路を用いると、薬物は、最初に血流に注射され、そこから、リンパ及び他の(標的及び非標的)周辺組織に分布する。投与の皮下経路を用いると、薬物は、最初に、並行してリンパコンパートメント及び血流に流れ込み、後者からは、他の(標的及び非標的)周辺組織に分布する。両方の場合において、両方の作用部位への薬物の浸透は、即時かつ迅速であり、それらの各々において類似の生物学的活性プロフィールに至る。
【0076】
この対象の場合は、皮下に投与されたタンパク質薬物への曝露の評価は、全身又は「血清」生物学的利用能パラメーターを介して行わなければならないことを決定する実例の機械的応用が不適切であり、又はせいぜい不完全であり得るという仮説を支持する。「全身的な生物学的利用能が大きくなればなるほど、その効果も大きくなる」という規則は、この種の薬物において重要な例外を有する場合がある。
【0077】
後者は、アタシセプトを用いた治療的処方計画の開発に関連した重要な実用的意義を有する。皮下投薬の頻度は、投薬溶液の注射体積及び濃度によって限定される場合があることを考慮すれば、静脈内経路は、そのようなものを必要とする場合の患者へのより大きな投薬量の薬物を送達する運搬体に過ぎない可能性があることは明かとなる。
【0078】
良好な許容性、MoAに沿ったアタシセプト治療の顕著な生物学的活性、及び2つのSLEフェーズI試験において観察された他の好ましい傾向は、SLEの患者における薬物の更なるリサーチのための論拠を提供する。各段階での現代の薬物開発科学実例によれば、新たに生じた情報は、既にあるものに付加されたものでなければならず、一方、薬物の知識基盤はアップデートされ、拡張され、改善されて、典型的な「学習及び確認」サイクルにおける次の段階の情報に基づく設計のために実質的に使用される。その実例に従って、本発明者らは、非常に複雑な設計(連続的な投薬量漸増)を用いた2つの初期の試験において、多数の曝露(遊離した複合のアタシセプト)、特定の結合(アタシセプト−BLyS複合体)、生物学的活性(Ig及び免疫系細胞カウント)、並びにある種の疾患関連マーカー(抗dsDNA抗体)を観察及び分析するように選択する。厳密な方法で生じた多量のデータを分析し、データに含まれる情報を抽出することにより、アタシセプトの安全性プロフィールの特徴付けに必要とされる投薬量範囲及び更なる試行のための処方計画を規定し、そのMoAの理解を高め、臨床効果の初期の指示を確実にし、その最適な臨床的使用を規定することができる。
【実施例】
【0079】
実施例1−アタシセプトの皮下投与
このフェーズIbの、二重盲式の、プラセボを対照とした、投薬量漸増の試行は、3:1の比率でアタシセプト又プラセボを用いて処置された患者の6集団(各々n=8、集団5を除く、n=7)を含む。集団1〜4は、プラセボ、又は0.3、1、3、若しくは9mg/kgのアタシセプトを1回皮下投薬された。集団5及び6は、プラセボ、又は1若しくは3mg/kgのアタシセプトを週に4回投薬された(表1を参照)。患者は、6週間(1〜4集団)、又は9週間(5及び6集団)続けた。結果測定には下記が含まれる:(i)アタシセプトの全身的及び局所的寛容性;(ii)有害事象(AE)の頻度;(iii)アタシセプトの薬物動態及び薬力学、リンパ球亜集団及びIgレベルに対する効果を含む;並びに、(iv)SLE疾患活性の測定。
【0080】
軽度から中程度のSLEを有する患者が加わった。アタシセプトの生物学的活性は、免疫グロブリンレベル、並びに成熟及び総B細胞における投薬量に依存した減少によって示された。この効果は、繰り返しの投薬集団において最も顕著であり、観察期間全体で維持された。T細胞、ナチュラルキラー細胞、又は単球の数において変化はなかった。マイルドな注射部位反応は、プラセボ群よりも、アタシセプトのうちでより頻繁に生じた。アタシセプトで処置された患者において、有害事象の頻度又はタイプにおける相違はなく、重篤及び重大な有害事象はなかった。
【0081】
薬物動態は、遊離したアタシセプト(表2a)、アタシセプト/BLyS複合体(表3a)、及び複合アタシセプト(遊離したアタシセプト+アタシセプト−BLyS複合体として定義される、表4a)の血清レベルを測定することによって評価された。これらの各々の血清レベルは、酵素免疫吸着法を用いて定量した。ストレプトアビジン被覆されたマイクロプレート(Adaltis,Montreal,Quebec)に固定化された、アタシセプトに特異的なビオチン結合させたマウスmAb(遊離又は全体のアタシセプトの検出)(ZymoGenetics,Inc.,Seattle,WA)又はBLyS若しくはアタシセプトのいずれかに特異的なビオチン結合させたヤギポリクローナル抗体(アタシセプト/BLyS複合体の検出)(R&D Systems,Minneapolis,MN)とともに血清をインキュベートした。抗体は、1:10に希釈した患者試料、標準、又は対照試料とともに1時間インキュベートされた。洗浄後、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)に結合させたアタシセプト特異的なマウスmAb(遊離したアタシセプト又はアタシセプト−BLyS複合体を検出するため)、又は複合ELISAの場合には、アタシセプト及びBLySに対するmAb(ZymoGenetics,Inc.)を添加し、室温で1時間インキュベートした。3つの全てのアッセイでは、アタシセプトの血清レベルが検出され、標準的なケミルミネッセンス法を用いて定量した。即ち、洗浄後、テトラメチルベンジジン(TMB)をHRPの基質として添加した(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)。0.5Mの硫酸を用いて、20分後に反応を停止させ、450nmで吸光度を読み取った。患者試料の分析物濃度は、標準曲線を使用して、多項式二次フィッティングアルゴリズムを適用することによって再計算した。全ての試料は3点で測定した。標準試料については<15%の変動係数、及び患者試料の<20%の精度のアッセイ性能基準は許容された。アッセイの定量下限(LLOQ)は、遊離アタシセプトについては15.6ng/mL、アタシセプト−BLyS複合体(3:1のモル比で1.82ng/mLのアタシセプト−0.44ng/mLのBLySに対応する1U/mL)については5U/mL、及び複合分析物については25ng/mLであった。平均スパイク回収は、それぞれ3つのアッセイの82.5〜97.0%、93.9%、及び102.0〜125.8%の回収率に対応するRA患者試料の低、中、及び高分析物濃度についての精度を試験するために行った。血清PKマーカーは、下記のとおりにサンプリングした:(i)1回投薬の集団1〜4については、基準、投与当日の4、8、12時間、その後、試験日の2、3、4、8、15、22、29、及び43日;(ii)集団5及び6の複数回投薬の治療群については、基準、その後、試験日の8、15、22、29、36、43、64日。全ての集団において、投薬日のPK試料は、名目上、トラフ(trough)のように特定された。
【0082】
基準での血清中の未結合BLyS濃度を測定した。ELISAによってBLySを測定した。BLySに特異的なビオチニル化されたmAbは、ストレプトアビジンでプレコートされたマイクロプレート中で1時間、患者試料、標準又は対照試料(1:10に希釈)とともにインキュベートされた。洗浄後、抗BLyS、HRP−結合されたマウスmAbを室温で1時間インキュベートした。洗浄後、TMBをHRP基質として添加した。20分後、0.5Mの硫酸を用いて反応を停止させ、450nmで吸光度を読み取った。患者試料の分析物濃度は、多項式二次フィッティングアルゴリズムを適用することによって標準曲線を用いて再計算した。全ての試料は3点で測定された。<20%CVの精度のアッセイ性能基準は、患者試料における許容された測定であった。血清中のLLOQは、BLySで1.56ng/mLであった。RA患者試料中の低、中及び高濃度の分析物についての平均スパイク回収は、101〜113%の回収率に対応していた。
【0083】
薬力学は、免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA)、補体−3(C3)、及び抗核抗体(ANA)の血清レベルを測定すること、リンパ球小集団のフローサイトメトリー分析を行うことによって評価した。免疫グロブリン及びC3は、標準的な方法を用いて測定された。ANAは、Athena Multianalyte ANAテストシステム(Zeus Scientific Inc,Raritan,NJ,USA)を用いて測定された。血中のIgG、IgM、及びIgAは、生物学的活性のマーカーとして評価された。バイオマーカーは、基準、投与当日の8時間(集団1〜4のみ)、その後、試験日の8、15、22、29、36、43、及び64日に測定された。
【0084】
末梢血の単核細胞型(B及びT細胞小集団、ナチュラルキラー[NK]細胞、及び単球)は、4色フローサイトメトリーを用いて、抗体染色された末梢血試料において評価された。分析には下記が含まれる:総T細胞(CD45+、CD3+)、Tヘルパー細胞(CD45+、CD3+、CB4+、CD8−)、T細胞傷害性/サプレッサー細胞(CD45+、CD3+、CD4−、CD8+)、総B細胞(CDI9+)、成熟B細胞(CDI9+、IgD+、CD27−)、単球(CD45+、CD3−、CD14+、CD56−)、及びNK細胞(CD45+、CD3−、CD14−、CD56+)。開発業務受託機関(Esoterix,Groningen,The Netherlands)は、血液試料処理、抗体染色、データの取得、分析、品質管理を行った。本発明者らは、B細胞小集団に関する更なる分析及び品質管理を行った。B細胞小集団については、小リンパ球及び大リンパ球を含むように分析ゲートを拡大し、後者は、大きさにして単球と類似していた。
【0085】
病歴を包括的に回収し、身体検査を週に1回の基準で行った。血液学的、血清化学プロフィールは、週に1回の基準で行い、国立癌研究所の共通毒性基準(National Cancer Institute’s Common Toxicity Criteria)を用いて評価した。薬力学的評価のための血液試料は、繰り返し投薬集団については週に1回の基準で回収し、1回投薬の集団については1日目の4及び8時間、2、3、4及び8日、その後、週に1回の基準で回収した。
【0086】
D4後の心電図は、1回投薬の集団において2週に1回の基準で行い、試験薬物の繰り返し投薬を受けている患者においては週に1回の基準で行った。
【0087】
この試験は、治療が疾患活動性に及ぼす影響を決定するように供給されないが、下記の疾患活動性の測定が得られ、予備的な有効性データを提供した。SELENA SLEDAIスコアは、基準、29及び43日(集団1〜4)、22及び64日(集団5と6)で決定された。抗dsDNA抗体及びC3レベルは、基準、15、29、及び43日(集団1〜4)、15、22、29、43、及び64日(集団5と6)で測定された。
【0088】
濃度−時間プロフィールを提示することを含むデータ分析法は、非コンパートメント分析(NAC;WinNonLinソフトウェア、バージョン5.0.1)に供された。LLOQ下の全ての測定は、NCAについて無視された。バイオマーカー(IgM、IgG、又はIgA)データを「基準からの変化」フォーマットに変換し、次に、個々のバイオマーカー−時間プロフィールもNCAに供された。その後、曝露(PK)及び応答に関して得られたNCA誘導の測定は、既存の曝露−応答関係を調査するために一緒に分析された。
【0089】
リガンド−受容体の飽和結合薬物動態と一致しているという、非線形の薬物動態の証拠を示した(図1及び2)。遊離及び複合アタシセプトの濃度−時間プロフィールは、非常に速い吸収を伴う多面的な薬物動態を示し、Tmaxは、初回投薬後の約24時間であり、初期分布相は7〜14日続いた。遊離アタシセプトの低い蓄積は、繰り返し投薬の集団において観察された;複合アタシセプトの蓄積は僅かに高く、アタシセプト−BLyS複合体は、投薬期間全体で蓄積されることが分かった。
【0090】
アタシセプトを用いた処置は、成熟及び総B細胞における初期の一時的な増加と関連し、その後、持続的な投薬に関係した減少と関連した(図3B)。1回投薬の3mg/kgと9mg/kg群、及び繰り返し投薬群において、成熟B細胞における基準から約35%の減少が29日に見られた。1回投薬群では、この減少は、43日まで継続した;繰り返し投薬群では、約60%の減少が43日に見られ、64日の最後の評価まで45〜60%で持続した。総B細胞について観察されたパターンは、成熟B細胞と類似していた。3mg/kgの1回投薬群では、総B細胞における基準からの約30%の減少は、29日に見られ、43日まで持続した。繰り返し投薬群では、約40〜50%の減少は43日に見られ、64日の最後の評価まで35〜60%で持続した(図3B)。総T細胞、ヘルパーT細胞、又は傷害性T細胞、NK細胞、又は単球の数において有意な差がなかった。
【0091】
免疫グロブリンレベルの投薬量に依存した減少は、アタシセプト処置された患者において観察された(図3Aと3B、表5aも参照)。この効果は、繰り返し投薬群において最も顕著であった。IgMレベルは、処置により最大の減少を示し、3mg/kgの繰り返し投薬群では43日でほぼ50%に到達した。IgAレベルは、29日に3mg/kgの繰り返し投薬群において約33%まで減少し、IgGレベルは、36日に3mg/kgの繰り返し投薬群において約16%まで減少した。最低の状態は、1回投薬の集団では15〜29日の間で生じ、繰り返し投薬集団では29〜43日の間で生じた。
【0092】
その後、値が基準に向かって戻り始めた。最後に観察された値は、1回投薬集団では基準の約5〜30%を下回り(0.3mg/kg群を除く、この場合、IgM値は基準より上であった)、繰り返し投薬集団では基準の約8〜65%を下回った。
【0093】
これらの結果は、小さな投薬量のアタシセプトの多くの回数の投与が、高い投薬量を用いた少ない回数の投薬よりも良好な生物学的活性を生じることを示す(図7と図8)。
【0094】
実施例2−アタシセプトの静脈内投与
このフェーズIbの、二重盲式の、プラセボを対照とした、投薬量漸増の試行は、3:1の比率でアタシセプト又はプラセボを用いて静脈内に処置された患者の4つの集団(各々n=6)を含んだ。集団1〜3は、1回投薬のプラセボ、3、9、又は18mg/kgのアタシセプトを受けた。集団4は、2回投薬のプラセボ又は9mg/kgのアタシセプトを受け、第2の投薬は、第1の投薬の3週間後に生じた(表1を参照)。測定結果には下記が含まれる:(i)静脈内アタシセプトの全身的及び局所的寛容性;(ii)有害事象(AE)の頻度;(iii)静脈内アタシセプトの薬物動態及び薬力学、リンパ球亜集団及びIgレベルに対する効果を含む;(iv)SLE疾患活動性の測定。対象は、6週間(集団1〜3)又は9週間(集団4)で評価された;集団3及び4の対象は、PK及びバイオマーカーサンプリングのために試験日の84と120日に戻された。血清PKマーカーを下記のとおりサンプリングした:(i)1回投薬の集団1〜3については、基準、投与当日の0.25、0.5、4時間、その後、試験日の2、3、4、8、15、22、29、及び43日;(ii)複数回投薬の集団4については、基準、第1の投与当日の0.25、0.5、4時間、その後、8、22、22(第2の投薬前、第2の投与後の0.25及び0.5時間)、29、36、43、64日。集団3及び4は、試験日の85及び120日にPK測定された。全ての集団において、投薬日のPK試料は、名目上、トラフ(trough)のように特定された。血清中の未結合のBLyS濃度は、基準で測定された。血中のIgG、IgM、及びIgAは、生物学的活性のマーカーとして評価された。バイオマーカーは基準で測定され、その後、試験日2、3、4、8、15(集団1〜3のみ)、22、29、36、43、及び64(集団4のみ)で測定された。集団3及び4は、同様に試験日の85と120日にIg測定された。
【0095】
実施例1と同様に、軽度から中程度のSLEの患者が加わり、薬物動態は、遊離アタシセプト(表2b)、アタシセプト/BLyS複合体(表3b)、及び複合アタシセプト(遊離アタシセプト+アタシセプト−BLyS複合体として定義される、表4b)の血清レベルを測定することによって評価された。この効果は、繰り返し投薬集団において最も顕著であり、観察期間全体で持続された。T細胞、ナチュラルキラー細胞、及び単球の数に変化はなかった。マイルドな投与部位反応は、プラセボ群よりも、アタシセプトのうちでより頻繁に生じた。有害事象の頻度及びタイプに差がなく、アタシセプトで処置された患者において重篤及び重傷の有害事象はなかった。皮下投与(実施例1を参照)と静脈内投与経路との間の比較は、非常に類似した薬物動態(リガンドによって媒介された非線形PK)、並びに予測可能であり、1回及び複数回の投薬と一致した類似のPKを表した(図9及び10)。
【0096】
静脈内投与に対する利点がないように思われるが(この投与経路を用いたより高い生物学的利用能があるにもかかわらず、図4を参照)、これらの結果もまた、少量のアタシセプトの多くの投与が、高い投薬量を用いて少ない回数の投薬よりも良好な生物学的活性を生じるという結論を支持する(図7及び8)。また、これらの結果は、皮下の投与を用いた薬物の低い生物学的利用能にもかかわらず、これらの2つの方法の結合プロフィールは同程度であることを指す(図7を参照)。
【0097】
表1.フェーズIのSLE試験におけるアタシセプトを用いた投薬治療
【0098】
【表1】

【0099】
表2a.遊離アタシセプトについての非コンパートメント分析由来の薬物動態パラメーター、試験1
【0100】
【表2】

【0101】
AUC336、0時間〜336時間の濃度−時間曲線下の領域;AUCINF、0時間〜無限のAUC;Cmax、最大濃度;SD、標準偏差;T1/2、消失半減期;Tmax、最大濃度の時間。
最終投薬は504時間で投与された。
N=6SLE患者/集団。
N.E.−最終投薬後のサンプリングスキームに起因して評価されていない。
【0102】
表2b.遊離アタシセプトについての非コンパートメント分析由来の薬物動態パラメーター、試験2
【0103】
【表3】

【0104】
AUC336、0時間〜336時間の濃度−時間曲線下の領域;AUCINF、0時間〜無限のAUC;Cmax、最大濃度;SD、標準偏差;T1/2、消失半減期;Tmax、最大濃度の時間。
最終投薬は504時間で投与された。
N=6SLE患者/集団。
N.E.−第1の投薬後のサンプリングスキームに起因して評価されていない。
【0105】
表3a.複合アタシセプトについての非コンパートメント分析由来の薬物動態パラメーター、試験1
【0106】
【表4】

【0107】
AUC336、0時間〜336時間の濃度−時間曲線下の領域;AUCINF、0時間〜無限のAUC;Cmax、最大濃度;SD、標準偏差;T1/2、消失半減期;Tmax、最大濃度の時間。
最終投薬は504時間で投与された。
N=6SLE患者/集団;N.E.−最終投薬後のサンプリングスキームに起因して評価されていない。
【0108】
表3b.複合アタシセプトについての非コンパートメント分析由来の薬物動態パラメーター、試験2
【0109】
【表5】

【0110】
AUC336、0時間〜336時間の濃度−時間曲線下の領域;AUCINF、0時間〜無限のAUC;Cmax、最大濃度;SD、標準偏差;T1/2、消失半減期;Tmax、最大濃度の時間。
最終投薬は504時間で投与された。
N=6SLE患者/集団。
N.E.−第1の投薬後のサンプリングスキームに起因して評価されていない。
【0111】
表4a.BLyS−アタシセプト複合体についての非コンパートメント分析由来の薬物動態パラメーター、試験1
【0112】
【表6】

【0113】
AUC336、0時間〜336時間の濃度−時間曲線下の領域;AUCINF、0時間〜無限のAUC;Cmax、最大濃度;SD、標準偏差;T1/2、消失半減期;Tmax、最大濃度の時間。
最終投薬は504時間で投与された。N=6SLE患者/集団。
*1/2及びAUCINFはプロフィールの最終形態に起因してこの可変については信頼できる評価ではない。
【0114】
表4b.BLyS−アタシセプト複合体についての非コンパートメント分析由来の薬物動態パラメーター、試験2
【0115】
【表7】

【0116】
AUC336、0時間〜336時間の濃度−時間曲線下の領域;AUCINF、0時間〜無限のAUC;Cmax、最大濃度;SD、標準偏差;T1/2、消失半減期;Tmax、最大濃度の時間。
最終投薬は504時間で投与された。N=6SLE患者/集団。
N.E.−評価されていない。
*1/2及びAUCINFはプロフィールの最終形態に起因してこの可変については信頼できる評価ではない。
【0117】
表5a.免疫グロブリン(Ig)M、IgA、及びIgGバイオマーカーについての非コンパートメント分析結果−試験1
【0118】
【表8】

【0119】
*集団1〜6についての活性−服用患者(n=6)
†プラセボ集団、全てのプラセボ患者を一緒にプールした(n=12)。
max、Igの最大減少の時間。
n.d.−データなし。
【0120】
表5b.免疫グロブリン(Ig)M、IgA、及びIgGバイオマーカーについての非コンパートメント分析結果−試験2
【0121】
【表9】

【0122】
*集団1〜4についての活性−服用患者(n=5)
†プラセボ集団、全てのプラセボ患者を一緒にプールした(n=4)。
max、Igの最大減少の時間。
【0123】
参考文献
特許、公開された出願、及び他の刊行物を含む、本出願において引用された参考文献は参照により本明細書中に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるSLEを治療するための方法であって、
(i)BLySに結合するTACI細胞外ドメイン又はその断片;及び
(ii)ヒト免疫グロブリン定常ドメイン
を含む融合分子を含む組成物を前記患者に投与することを含み、ここで、前記投薬量が約1〜約10mg/kgであり、前記投与が初回投薬後に複数の間隔で生じる前記方法。
【請求項2】
前記TACI細胞外ドメインが配列番号1を含む配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TACl細胞外ドメインが配列番号1と少なくとも50%同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト免疫グロブリン定常ドメインが配列番号2を含む配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記融合分子がアタシセプト(atacicept)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が約1〜約9mg/kgの量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が前記量で投与され、毎週投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が前記量で投与され、週に3回投与され、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が前記量で1カ月の期間内に4回投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が前記量で1カ月の期間内に2回投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記治療が約2〜約52週間持続する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、前記患者に第2の薬剤を同時投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の薬剤が、NSAIDS、抗マラリア薬、副腎脂質ステロイド、免疫抑制剤、免疫IVIg、DHEA、及びサリドマイドからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記融合分子がアタシセプトである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、皮下に、経口的に又は静脈内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記患者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
患者におけるSLEを治療するための方法であって、アタシセプトを含む医薬組成物を前記患者に投与することを含み、ここで、前記投薬量は、約1〜約10mg/kgであり、前記投与が初回投薬後に複数の間隔で生じる前記方法。
【請求項18】
前記投与が皮下であり、前記投薬量が1mg/kgであり、前記複数の間隔が毎週である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記投与が皮下であり、前記投薬量が3mg/kgであり、前記複数の間隔が毎週である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記投薬量が9mg/kgであり、前記複数の間隔が週に3回である、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2010−530000(P2010−530000A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512390(P2010−512390)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/066945
【国際公開番号】WO2008/157369
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(500049831)ザイモジェネティクス,インコーポレイティド (37)
【出願人】(504104899)アレス トレーディング ソシエテ アノニム (59)
【Fターム(参考)】