説明

アダプティブアレイアンテナ装置

【課題】大開口面のアレイアンテナを使用した場合にアダプティブビームフォーミング処理の演算量を軽減できる。
【解決手段】サブアレイごとに対応して設けられ、サブアレイを構成する各素子アンテナによるそれぞれの受信信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してサブアレイごとの合成信号を算出する複数のサブアレイビーム形成部と、複数のサブアレイビーム形成部からそれぞれ算出される合成信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してアレイアンテナとしての合成信号を算出するトータルアレイビーム形成部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置に適用するアダプティブアレイアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アダプティブアレイアンテナ装置は、周知のように、複数配列された素子アンテナを用い、個々の素子アンテナごとに受信信号の位相と振幅を重み付け制御し、それぞれのビームを合成して所望信号の到来方向に主ビームを形成し、かつ干渉波の到来方向には指向性の零点を形成することにより、所望信号を受信できるようにするものである。また、そのためのアダプティブな処理(アダプティブビームフォーミング:Adaptive Beam Forming)には、各素子アンテナで受信された信号をデジタル信号処理装置に送ってデジタル信号に変換して行うデジタルビームフォーミング(Digital Beam Forming)が用いられる(例えば特許文献1参照)。このようなアダプティブアレイアンテナ装置をレーダ装置に適用することによって到来方向が未知である受信波の自動追尾を良好に行うことができる。
【0003】
デジタルビームフォーミングを適用したアダプティブアレイアンテナ装置の基本構成を図4により説明する。アレイアンテナは、例えば複数個(例:M=10,000)の素子アンテナe1 〜eM が平面上に配列された構成を持つ。素子アンテナe1 〜eMで受信された信号は、それぞれ対応する受信器RCV1 〜RCVM において増幅、周波数変換(ダウンコンバート)され、さらにIF帯以降の低周波段においてA/D変換され、ビーム形成部ABFに与えられる。ビーム形成部ABFでは、デジタル化された各受信信号は、対応する振幅・位相調整器W1 〜WM に与えると共に、ウェイト演算部WOPに与えられる。ウェイト演算部WOPでは、入力された全ての受信信号について、所定のアルゴリズムを用いて演算し、アレーアンテナの総出力または外部から与えられた信号に応じて各受信信号の振幅と位相に対するウェイト値を算出する。振幅・位相調整器W1 〜WM では、算出された各ウェイト値に応じて受信信号の振幅と位相を可変調整する。振幅・位相調整器W1 〜WM で調整された信号は加算器ADRで合成され、受信ビームが主要な電波到来方向に合致した状態の受信信号を得る。すなわち希望波方向の利得が大きくなり、干渉方向の利得が小さくなる。レーダ装置の場合、信号処理部SPRにおいて、加算器ADRで合成された受信信号に基づいて目標の方位、距離等を算出し、送信アレーアンテナTRにより目標の方位に向けて送信ビームを形成し送信機TRにより発生させた繰り返し周期のパルス波を送信する。
【0004】
【特許文献1】特開2001−7627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーダ装置の場合、目標を正確に捉えるため受信波の利得を大きくする必要があるため、多数(数千〜1万)の素子アンテナで構成した大開口のアンテナを使用する。上述したように、アレイアンテナを構成する素子アンテナ全てに対して直接デジタルビームフォーミング処理を行う演算量は素子数に比例するため、膨大な素子アンテナで構成されるレーダ装置ではアダプティブアレイアンテナ装置における演算量の規模が増大するという問題がある。
【0006】
この発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、大開口面のアレイアンテナを使用した場合にアダプティブビームフォーミング処理の演算量を軽減できるアダプティブアレイアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るアダプティブアレイアンテナ装置は、複数の素子アンテナを配列した複数個のサブアレイからなるアレイアンテナに対してアダプティブビームフォーミング処理を実施するアダプティブアレイアンテナ装置であって、サブアレイごとに対応して設けられ、サブアレイを構成する各素子アンテナによるそれぞれの受信信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してサブアレイごとの合成信号を算出する複数のサブアレイビーム形成部と、複数のサブアレイビーム形成部からそれぞれ算出される合成信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してアレイアンテナとしての合成信号を算出するトータルアレイビーム形成部を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、アダプティブビームフォーミング処理をサブアレイビーム形成とトータルアレイビーム形成による2段階の演算処理を行うようにしたので、多数の素子アンテナからなる開口面のアレイアンテナに対して直接アダプティブビームフォーミング処理を行う従来の方法に比べて演算量を大幅に軽減することができる。特に、膨大な素子アンテナで構成されるアレイアンテナを使用するレーダーシステムに適用した場合、ビーム形成の最適化を効率的に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るアレイアンテナの処理配置を示す説明図である。
アレイアンテナは、例えば図1(a)に示すように、多数(例:M=10,000)の素子アンテナが平面上に配列された構成を持つ。この発明では、デジタルフォーミング技術を用いてアダプティブビームフォーミング処理を行うにあたり、図1(b)に示すように、N(例:100)個ずつの素子アンテナをK(例:100)個の受信サブアレイに分割する。この発明では、このK個に分割した受信サブアレイ対して個々にアダプティブビームフォーミングを実施する。
【0010】
図2は、この発明の実施の形態1によるアダプティブアンテナ装置の構成を示すブロック回路図である。
アレイアンテナを構成しているM個の素子アンテナe11〜eKN(ただし、e11は1個目の素子を表わし、eKNはM個目の素子を表わす)の配列を、N個ずつ含むK個のサブアレイSA1 〜SAK (ただし、N×K=Mとする)に分割する。ここで、例えば1個のサブアレイSA1 について見ると、N個の素子アンテナe11〜e1Nの配列と、これら素子アンテナごとに対応する受信器RCV11〜RCV1Nとからなるものとする。残りのサブアレイSA2 〜SAK も同様な構成を持つ。
素子アンテナe11〜e1Nで受信された信号は、それぞれ対応する受信器RCV11〜RCV1Nにおいて増幅、周波数変換(ダウンコンバート)され、さらにIF帯以降の低周波段においてA/D変換され、このサブアレイSA1 に対して設けられたサブアレイビーム形成部SABF1 に与えられる。
【0011】
サブアレイビーム形成部ABF1 では、デジタル化された各受信信号は、対応する振幅・位相調整器W11〜W1M に与えると共に、ウェイト演算部WOP1 に与えられる。ウェイト演算部WOP1 では、サブアレイSA1 から入力された全ての受信信号について所定のアルゴリズムを用いて演算し、サブアレイSA1 の総出力または外部から与えられた信号に応じて各受信信号の振幅と位相に対するウェイト値を算出する。振幅・位相調整器W11〜W1Nでは、算出された各ウェイト値に応じて受信信号の振幅と位相を可変調整する。振幅・位相調整器W11〜W1Nで調整された信号は加算器ADR1 で合成され、サブアレイSA1 における受信ビームが主要な電波到来方向に合致した状態の受信信号を得る。
残りのサブアレイSA2 〜SAK に対してもサブアレイビーム形成部SABF2 〜SABFk が設けられており、対応するサブアレイからの受信信号に対して、同様なアダプティブビームフォーミング処理が行われる。サブアレイビーム形成部SABF1 〜SABFk のそれぞれで得られた各サブアレイに対してアダプティブビームフォーミング処理した合成信号はトータルアレイビーム形成部TABFに与えられる。
【0012】
次に、トータルアレイビーム形成部TABFでは、サブアレイビーム形成部SABF1 〜SABFk からの合成信号は、対応する振幅・位相調整器W1 〜WKに与えると共に、ウェイト演算部TWOPに与えられる。ウェイト演算部TWOPでは、入力された全ての合成信号について、所定のアルゴリズムを用いて演算し、総合成出力または外部から与えられた信号に応じて各合成信号の振幅と位相に対するウェイト値を算出する。振幅・位相調整器W1 〜WK では、算出された各ウェイト値に応じて合成信号の振幅と位相を可変調整する。振幅・位相調整器W1 〜WK で調整された合成信号は加算器TADRで総合成され、アレイアンテナにおける受信ビームが主要な電波到来方向に合致した状態の受信信号を得る。
なお、上記サブアレイビーム形成部のウェイト演算部WOP1 〜WOPk およびトータルアレイビーム形成部のウェイト演算部TWOPによる処理は同じアダプティブプロセッサ(CPU)で行うようにしてもよい。
【0013】
図1(a)のようなM個の素子アンテナからなる開口面のアレイアンテナに対して従来のアダプティブアレイアンテナ装置によりデジタルビームフォーミング技術を用いてアダプティブビームフォーミング処理を行う場合、その演算量は使用するアルゴリズムによって異なるが、一般的にM3 あるいはM2 のオーダと見込むことができる。これに対し、この発明のアダプティブアレイアンテナ装置の場合、サブアレイビーム形成部とトータルアレイビーム形成部による2段階の演算処理を行うため、次のような演算量になる。
K個のサブアレイビーム形成部により、それぞれN個の素子アンテナに対してデジタルビームフォーミング技術を用いたアダプティブビームフォーミング処理を行う場合の総演算量は、K×N2 となる。次にトータルアレイビーム形成部により、K個のサブアレイに対して、デジタルビームフォーミング技術を用いたアダプティブビームフォーミング処理を行う場合の演算量はK3 となる。したがって、2段階の演算処理量はK×N2+K3となる。ここで、素子アンテナ数をM=10,000個の場合を想定すると、素子毎に演算処理を実施する従来の場合の演算量はM3 =1012になる。一方、2段階で演算処理するこの発明の場合の演算量は、N=100、K=100とすると、K×N2 +K3 =2×106 となる。したがって、両者を比較すると、2段階で演算処理の方が大幅な演算量の低減が図れることが分かる。
【0014】
以上のように、この実施の形態1によれば、サブアレイSA1 〜SAK ごとに対応して設けられた複数のサブアレイビーム形成部SABF1 〜SABFk により、サブアレイを構成する各素子アンテナによるそれぞれの受信信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してサブアレイごとの合成信号を算出し、トータルアレイビーム形成部TABFにより、複数のサブアレイビーム形成部SABF1 〜SABFk からそれぞれ算出される合成信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してアレイアンテナとしての合成信号を算出するようにしている。したがって、アダプティブビームフォーミング処理をサブアレイビーム形成とトータルアレイビーム形成による2段階の演算処理を行うことで、多数の素子アンテナからなる開口面のアレイアンテナに対して直接アダプティブビームフォーミング処理を行う従来の方法に比べて演算量を大幅に軽減することができる。特に、膨大な素子アンテナで構成されるアレイアンテナを使用するレーダーシステムに適用した場合、ビーム形成の最適化を効率的に行うことが可能になる。
【0015】
実施の形態2.
アレイアンテナを複数のサブアレイに分割し、各サブアレイを間隔を設けて分散配置し、各サブアレイアンテナに対して実施の形態1のように2段階のアダプティブビームフォーミング処理をすることで開口合成すれば大開口のアレイアンテナとして用いること可能となる。この場合、サブアレイごとのビームパターンは、開口面積が小さいためブロードであるが、アレイアンテナ全体としては所望信号の到来方向に主ビームを形成できる。
【0016】
ところで、アレイアンテナは、素子アンテナを等間隔に配置するが、その間隔が1/2波長以上になると、グレーティングローブと呼ばれる不要なローブが発生すること、また、素子アンテナの間隔を不規則にするすることによりグレーティングローブを抑えられることが知られている。
ここで、サブアレイを素子とみると、大開口を目指す等間隔に配置したサブアレイの間隔は1/2波長以上となる可能性が大であるからグレーティングローブが発生することになる。そのため、この実施の形態1では、サブアレイの間隔を不規則になるように設定する。
【0017】
サブアレイをランダム配置(不等間隔リニア配置)する場合、サブアレイの配置位置の最適解は、2次元的、3次元的に考えても無限に存在する。ここでは、簡単にランダム配置の准最適解を得るため、サブアレイの8割をランダムに配置して、残り2割の配置位置を調整して、トータルビームパターンの準最適解を求めるようにする。例えば図3(a)に示すように、10個のサブアレイを等間隔dで線上に配置したアレイアンテナを基本として考えた場合、図3(b)に示すように、両端の2個のサブアレイの位置は図3(a)の位置と同じに固定し、中間にある残り8個のサブアレイの隣接サブアレイとの配置間隔を調整して等間隔の並びができないように配置する。図3の例では1次元上の配列について説明したが、2次元上に素子アンテナを配置する場合には、x軸、y軸のいずれの方向にもランダム性が保証されるように上記1次元の方法を拡張して適用すればよい。
【0018】
以上のように、この実施の形態2によれば、ランダムに分散配置された複数のサブアレイがに対して、実施の形態1の2段階のアダプティブビームフォーミング処理を実施するようにしたので、少ない数のサブアレイを用いてレーダ装置に適用する大開口のアレイアンテナを、グレーティングローブを考慮して構成することができるため、サブアレイに対するビーム形成部の数を減らすことが可能となり、その分、アダプティブビームフォーミング処理の演算量は実施の形態1の場合よりも削減可能になる。また、各サブアレイは開口面の分割数に応じて小型化が可能であり、一部破損時の継続運用、展開位置情報の不透明化など、抗たん性が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1に係るアレイアンテナの処理配置を示す説明図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるアダプティブアンテナ装置の構成を示すブロック回路図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るアダプティブアンテナ装置に適用するサブアレイの配列例を示す説明図である。
【図4】レーダ装置に適用した従来のアダプティブアンテナ装置の基本構成を示すブロック回路図である。
【符号の説明】
【0020】
SA1 〜SAK サブアレイ、e11〜eKN 素子アンテナ、RCV11〜RCV1N,RCVKN 受信器、SABF1 〜SABFK サブアレイビーム形成部、TABF トータルビーム形成部、W11〜W1M,W1 〜WK 振幅・位相調整器、WOP1 ,WOPk ,TWOP ウェイト演算部、ADR1 ,TADR 加算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子アンテナを配列した複数個のサブアレイからなるアレイアンテナに対してアダプティブビームフォーミング処理を実施するアダプティブアレイアンテナ装置であって、
サブアレイごとに対応して設けられ、サブアレイを構成する各素子アンテナによるそれぞれの受信信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してサブアレイごとの合成信号を算出する複数のサブアレイビーム形成部と、
前記複数のサブアレイビーム形成部からそれぞれ算出される合成信号の全てに対してデジタルビームフォーミング処理を実施してアレイアンテナとしての合成信号を算出するトータルアレイビーム形成部を備えたことを特徴とするアダプティブアレイアンテナ装置。
【請求項2】
ランダムに分散配置された複数のサブアレイに対して請求項1記載のアダプティブビームフォーミング処理を実施することを特徴とするアダプティブアレイアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−290294(P2009−290294A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138137(P2008−138137)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】