説明

アトピー性皮膚炎緩和剤

【課題】 高いアトピー性皮膚炎緩和機能を有し、かつ経口投与可能な優れたアトピー性皮膚炎緩和剤を提供すること。
【解決手段】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HSK201株(NITE P-589)の菌体、菌体培養物、菌体処理物又はその抽出物を有効成分として含有するアトピー性皮膚炎緩和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアレルギー性疾患のうちでも特にアトピー性皮膚炎の予防・治療に有用な機能を有する新規乳酸菌及び当該乳酸菌を有効成分として含有するアトピー性皮膚炎緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
先進国においてアレルギー疾患は最も頻度が高い疾患のひとつに数えられている。アレルギーの発症機構は通常I型からIV型に分類される。IgE抗体が関与している花粉症、喘息、じん麻疹などの典型的なアレルギー疾患はI型に分類され、他にアナフィラキシーショックなども含まれる。II型アレルギーはIgGやIgM抗体が関与しており、細胞障害型アレルギーであり、III型アレルギーは抗原・抗体・補体などが互いに結合して形成された免疫複合体が周囲の組織を傷害する反応である。そして、IV型アレルギーにはT細胞が関与し、ツベルクリン反応、接触性皮膚炎などに代表される遅延型アレルギーである。アトピー性皮膚炎の場合は、花粉症などと同様I型の反応の側面もあるが、遅延型アレルギーであるIV型の側面もあり、治療が難しい場合が多い。
花粉症などのI型アレルギーは、抗原に特異的なIgE抗体の誘導とヒスタミン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターの放出を特徴としている。体内に侵入したアレルゲンにより活性化されたヘルパーT細胞(Th2細胞)が放出したTh2サイトカイン(IL-4、IL-5)の作用で産生されたIgE抗体が組織内のマスト細胞や血中の好塩基球表面に結合する。このIgEが再度進入した同一アレルゲンを認識することにより引き起こされたマスト細胞や血中の好塩基球からのケミカルメディエーター爆発によってアレルギーの諸症状が発現する。
一方、アトピー性皮膚炎の発症のメカニズムは正確には解明されておらず、IgEの過剰生産に、皮膚のバリア機能が何らかの原因で低下するという条件が加わって発症すると考えられている。
アトピー性皮膚炎の予防・治療においては、I型アレルギーの予防・治療と同様の抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ステロイド剤が使用され、さらに皮膚症状の緩和目的で保湿剤が用いられている。しかしながら、そのいずれもが、長期服用による眠気、肝臓への負担など副作用が問題視されている上に、効果についても決定的に優れたものはない。
近年、結核菌、溶連菌や乳酸菌などある種の細菌が、主に細胞性免疫に関連するTh1免疫を増強することにより、即時型アレルギー反応に関連するTh2免疫を抑制し、IgE抗体を低下させることが報告されている(非特許文献1)。中でも、乳酸菌は安全性の面から食品への応用が容易であり、有用な素材であるため、主に花粉症などの抗I型アレルギー用としてではあるが、抗アレルギー活性向上機能を持つ種々の乳酸菌が見出されており、ラクトバチルス・パラカゼイ(特許文献1)、エンテロコッカス・フェカリス及びラクトバシルス・ロイテリー(特許文献2)については、アトピー性皮膚炎に対しても一定の効果を示すことが示されている。
【0003】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)は主として植物から分離される乳酸菌である。この菌は、漬物等に常在しているほか、この菌を用いた乳酸菌飲料などがすでに市販されており、安全性は公知の菌種である。このことから、ラクトバチルス・プランタラムを抗アレルギー物質・アトピー性皮膚炎緩和物質として、医薬品や食品に用いることができれば、安全性や効果そして経済性の面からもきわめて有効であるとして、有望視されている乳酸菌のひとつである。特許文献3には、そのラクトバチルス・プランタラムに属するラクトバチルス・プランタラム No.14株(微工研寄第11550号)に抗アレルギー活性向上機能があることが記載されている。しかしながら、抗アレルギー活性向上機能といっても、I型アレルギーの花粉症患者に対してすら、鼻かみの症状をおさえているに留まり、諸症状全般の顕著な効果は示されていない。まして、アトピー性皮膚炎の症状に関する知見もない。
【非特許文献1】Int.Arch.Allergy Immunol.115,278 (1998).
【非特許文献2】食品と開発、第43巻第4号(2008)第44頁
【特許文献1】特許第3585487号公報
【特許文献2】特開2000−95697号公報
【特許文献3】特開2007−126365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高いアトピー性皮膚炎緩和機能を有し、かつ経口投与可能な優れたアトピー性皮膚炎緩和剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明者らが以前に鼻アレルギーモデルマウスを用いた実験で、アレルギー症状緩和及びIgE抗体低下能を確認していたラクトバチルス・プランタラム HSK201株(非特許文献2)に、強い抗アレルギー活性向上機能のみならず、顕著なアトピー性皮膚炎緩和機能を有することを見出した。
本発明のHSK201菌株(NITE P-589)は、その菌学的性質(表1)及びr-DNAの配列検索によりラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する新規乳酸菌であることが確定され、その抗アレルギー活性向上機能も既知のラクトバチルス・プランタラムと比較し格段に優れていることを見出した。そして、特にそのアトピー性皮膚炎緩和機能における効果が顕著なものであることを確認し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は下記の通りである。
〔1〕 ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HSK201株(NITE P-589)の菌体、菌体培養物、菌体処理物又はその抽出物を有効成分として含有するアトピー性皮膚炎緩和剤。
〔2〕 前記〔1〕に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は治療のための経口投与用製剤。
〔3〕 前記〔1〕に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は治療のための皮膚外用製剤。
〔4〕 前記〔1〕に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、飲食品。
〔5〕 前記〔1〕に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、化粧料。
〔6〕 前記〔1〕に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤の有効成分として用いることのできる、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HSK201株(NITE P-589)。
【発明の効果】
【0007】
本発明におけるラクトバチルス・プランタラムHSK201菌株(NITE P-589)は、高い抗アレルギー活性向上機能と共に顕著なアトピー性皮膚炎緩和機能を有しているため、従来治療が困難であった重篤なアトピー性皮膚炎に対しても優れた緩和効果を発揮することができる。また、腸への生存到達性も高いので経口投与も可能であり、飲食品として摂取することにより、副作用や身体への負担なくアトピー性皮膚炎の症状を予防・改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.本発明に係る微生物
本発明による新規微生物はラクトバチルス・プランタラムHSK201株であり、この菌体はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌であり、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NITE)に寄託番号NITE P-589として寄託されている。
【0009】
<菌学的性質>
本発明によるラクトバチルス・プランタラム HSK201株の菌学的性質は表1の通りである。
【表1】

【表1】

【0010】
本菌株はメリビオース、ラフィノース、α-メチル-Dグルコシド、D-ツラノースに対する資化性がJCM1057基準株と異なり、ラムノース、乳糖、D-ツラノースに対する資化性がJCM1149基準株と異なっている、また、ラムノースに対する資化性が、抗アレルギー活性が報告されているラクトバチルス・プランタラム No.14(FERM P-11550)と異なっている。
本菌株と前記基準株JCM1057株、JCM1149株及びラクトバチルス・プランタラム No.14株との糖資化性を比較すると表2の通りになる。
【表2】

【表2】

【0011】
<菌学的同定>
上記の菌学的性質及び16srDNA遺伝子の5’末端から1437番目までの塩基についてシーケンスした結果ラクトバチルス・プランタラム標準菌株と100%の相同性が認められたこと、及び図1に示すようにラクトバチルス・プランタラム特異的なプライマーで陽性反応を示すことから、本発明の菌株はラクトバチルス・プランタラムと同定された(図1)。なお、ラクトバチルス・プランタラムHSK201菌株のDNAシーケンスデータの(16sDNA遺伝子の5’末端から1437番までの塩基配列)を(配列番号1)として示す。
【0012】
<培養法・分離法>
本発明による菌株ラクトバチルス・プランタラムHSK201は、菌体の培養法、分離法に特に制限はない。培地は、該菌用であれば特に制限はなく、天然培地、合成培地、半合成培地などの培地に培養することができる。培地としては、窒素源及び炭素源を含有するものが用いられる。窒素源の具体例としては、肉エキス、ペプトン、大豆粉、大豆加水分解物、グルテン、カゼイン、酵母エキス、アミノ酸等が挙げられ、炭素源の具体例としては、グルコース、フラクトース、ラクトース、ソルビトール、イノシトール、スクロース、水飴、麹汁、澱粉、バカス、フスマ、糖蜜、等が挙げられる。このほか、無機質として、例えば硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、食塩、炭酸カルシウム、鉄、マンガン、モリブデン更に各種ビタミン類その他を添加することができる。
培養温度は10〜50℃、更に好ましくは25〜45℃であり、培養時間は6〜36時間程度であり、通気振盪、通気撹拌してもよい、培地のpHは3〜10好ましくは5〜7である。
本発明による乳酸菌の分離法は、例えば培養終了後、菌体を採取し遠心分離や膜分離などの手段により上清を除き、蒸留水もしくは生理食塩水を加え、必要によりこの操作を繰り返し、遠心分離又は濾過等により菌体を採取することができる。
【0013】
2.本発明のアトピー性皮膚炎緩和剤に用いるラクトバチルス・プランタラムHSK201株乳酸菌の調製法について
本発明のアトピー性皮膚炎緩和剤は、ラクトバチルス・プランタラムHSK201株乳酸菌を生菌又は発酵物として利用する場合を含むものであり、乳酸菌の培養物は培養液ごとそのまま、もしくは濃縮して用いることができ、菌体のみを分離し、生菌体、死菌体として、又は菌体を加熱、凍結、磨砕、溶菌、抽出などの処理をした処理物として利用することができる。
また、分離した菌体又は分離後上記の処理をした菌体の処理物は採取した状態のまま、あるいは適当な液体(例えば、分岐デキストリン溶液)に懸濁して液体状で使用することができるが、さらにこれを乾燥させて使用することもできる。乾燥法としては、例えば自然乾燥法、加熱法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等の通常の方法を使用することができる。
また、本発明の乳酸菌の単離した生菌体をそのまま使用し、又は乳製品、果実類、穀物又はこれらの加工物(食品)にこの生菌を付与し乳酸発酵させた状態の発酵物(処理物)として利用することができる。
また、本発明の乳酸菌は、単離した菌体を、加熱、紫外線照射、ホルマリン処理等により不活性化して食品に添加、あるいは製剤化して使用することもできる。分離された生菌体、死菌体はさらに摩砕、破砕処理し、得られた処理物を必要により加熱滅菌、無菌濾過した後に、その濾液を凍結乾燥して使用することもできる。菌体の処理物は、例えば、上記摩砕物、破砕物、それらからの抽出液、凍結乾燥品等の形態が挙げられる。
【0014】
3.アトピー性皮膚炎緩和剤の製剤化について
本発明のアトピー性皮膚炎緩和剤は、抗アレルギー活性向上機能のうちでもとりわけアトピー性皮膚炎緩和機能が期待される。そして、味覚的にも安全性にも問題のない乳酸菌である上に、腸への生存到達性が高いため、経口投与用の製剤化が好ましい。
本発明のアトピー性皮膚炎緩和剤は、そのアトピー性皮膚炎緩和機能のための有効量を、単独で、又はアトピー性皮膚炎緩和効果を有する公知の乳酸菌製剤もしくはその他の薬剤と併用して、周知の賦形剤、増量剤等の薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。その際の製剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末、ゼリー、ドリンク剤などの種々の形態とすることができ、漬物類、菓子類、ヨーグルト、乳酸菌飲料等の飲食品又はサプリメントに対して直接添加するか、又は食品用添加剤などに配合して添加することができる。
また、軟膏剤、スプレー剤、貼付剤などの皮膚外用剤、又は乳液、クリーム、化粧水、パック、シャンプー、リンス、洗浄料などの化粧料に対して有効量配合することができる。
本発明によるアトピー性皮膚炎緩和剤の有効量は、具体的には一日1000万個〜1兆個、好ましくは10億〜1000億個相当量が投与されればよい。乳酸菌製剤中の本発明の乳酸菌含有量は、乾燥菌体重量に換算して0.02〜2000mg、好ましくは2〜200mgに設定し、投与するヒトの症状や年齢、性別等を考慮し、アトピー性皮膚炎緩和機能のための有効量の範囲内で適宜決定すればよい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
ラクトバチルス・プランタラムHSK201乾燥菌体(生菌)の製造
ラクトバチルス・プランタラムHSK201を以下に示す組成のMRS培地に摂取し(菌数:104個/ml)、37℃で15〜48時間培養し、生菌数約10個/mlの培養液を得た。得られた培養液を3,000xgで20分間遠心分離して集菌し、蒸留水で2回洗浄して菌体を得た。この菌体を蒸留水に懸濁し、凍結乾燥して、乾燥菌体を得た。(以下乾燥菌体)
MRS培地の組成を示す(Difco Lactobacilli MRS Broth #288130)。
プロテオースペプトンNo.3 10g
牛肉エキス 10g
酵母エキス 5g
D−グルコース 20g
ポリソルベート80 1g
クエン酸アンモニウム 2g
酢酸ナトリウム 5g
硫酸マンガン 0.1g
硫酸マグネシウム 0.05g
リン酸2カリウム 2g
蒸留水 1000ml
pH6.5
121℃で15分加熱滅菌
【0016】
(実施例2)
ラクトバチルス・プランタラムHSK201乾燥菌体(死菌)の製造
実施例1と同様の方法で得た生菌体を蒸留水に懸濁した後、100℃で30分加熱し、これを凍結乾燥して死菌乾燥菌体(以下乾燥死菌体)を得た。
【0017】
(実施例3)
マウス脾臓細胞からのTh1型サイトカイン(IL-12)産生促進作用
BALB/cマウス(7週齢・雌)に卵白アルブミン(以下OVAと略す)100μgをアジュバント(抗原と混合又は組み合わせることで抗体産生の増大、免疫応答の増強を起こす物質の総称)とともに腹腔内投与した。10日後に再度同量のOVAを追加感作した。追加感作7日後に脾臓細胞を採取し、10%FBSを含むRPMI1640培地を用いて2x106個/mLに調製した。96wellプレートに捲きこみ、終濃度1mg/mLのOVAと10μg/mLの各乳酸菌死菌体を添加し、48時間培養した。培養上清を回収後、Quantikine Immunoassay kit(R&D Systems社製)を用いてIL-12(p70)を測定した。
結果を図2に示す。図2Aに示されるとおり、ラクトバチルス属に属する各種乳酸菌のIL-12産生誘導能と比較したところ、本発明のラクトバチルス・プランタラムHSK201株は最も高いIL-12産生誘導能を有していた。同じラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌との比較においても、HSK201株のIL-12産生能は高かった(図2B)。
【0018】
(実施例4)
マウス脾臓細胞からのTh2型サイトカイン(IL-4)産生抑制作用
実施例3と同様に脾臓細胞をOVA、各乳酸菌死菌体とともに96時間培養し、Quantikine Immunoassay kit(R&D Systems社製)を用いて上清中のIL-4を測定した。
結果を図3に示す。図3に示されるとおり、OVA感作マウスの脾臓細胞は、抗原刺激によりIL-4を高産生するが、乳酸菌の添加により、IL-4産生が抑制された。ラクトバチルス属に属する各種乳酸菌の中で、HSK201株はIL-4産生抑制能が最も強く(図3A)、同一菌種での比較においてもより強く抑制された(図3B)。
【0019】
(実施例5)
アトピー性皮膚炎モデルマウスに対する投与の効果
アトピー性皮膚炎モデルマウスとして知られるNC/Ngaマウス(5週齢・雄)35匹を用いた。10匹にHSK201株生菌体0.375%含む餌を、10匹に加熱死菌体を同量含む餌を、実験終了時まで自由摂取させた。対照として、乳酸菌体を含まない餌を摂取させたコントロール食群(10匹)を設けた。腹部と頭首部を剃毛し、試験食切り替え2週間後に5%ピクリルクロライドを腹部に120μL、フットパットに30μL塗布した。その後、発症誘導試薬として、オリーブオイルに溶かした0.8%ピクリルクロライドとダニ抽出物を頭首耳部に毎週1回塗布(前半の4週間;667μg/mL、後半の3週間;1.6mg/mL)した。症状スコアは、耳、頭首部の皮膚炎症状(浮腫、乾燥、出血、組織欠損)を4段階(0:症状無し、1:軽度、2:中程度、3:重度)で毎週1回評価した。耳介部の厚さをシックネスゲージを用いて、週に1回測定した。また、経時的に計4回採血を実施し、血清総IgE、ダニ特異的IgE値を測定した。
結果を図4に示す。ピクリルクロライドとダニ抽出物の連続塗布により皮膚炎症状が発症した。HSK201株の摂取群では、8週後の血中の総IgE量を40%にまで抑制することができ、ダニ抗原特異的IgEも顕著に抑制できた。同時に、顕著な症状スコアの抑制及び耳介肥厚の抑制も観察された。そして、この抑制効果は、死菌体においても、生菌体とほぼ同等に観察された。
このように、HSK201株のアトピー性皮膚炎症状の緩和効果は極めて高いものであることから、重篤なアトピー性疾患用も含めて、アトピー性皮膚炎緩和剤の有効成分として用いることができる。
【0020】
(実施例6)
糞便中のラクトバチルス・プランタラムの変化
HSK201乳酸菌飲料又はプラセボ飲料を毎日170mLずつ、2ヶ月間連続摂取した。HSK201乳酸菌飲料中の生菌数は、3.7x108個/mLであった。摂取前と2ヶ月連続摂取後に糞便を採取した。糞便からQIAGEN社製のQIA amp DNA stool Mini Kitを用いてDNAを抽出し、L.plantarum特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRを行い、糞便中に含まれるL.plantarumを定量した。
結果を図5に示す。図5に示されるとおりラクトバチルス・プランタラムHSK201菌株を含む乳酸菌飲料を摂取した群で、糞中のラクトバチルス・プランタラムHSK201菌株量が有意に増加していた。このことによりラクトバチルス・プランタラムHSK201菌株は経口摂取により生きたまま腸まで到達することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
上記のように本発明のアトピー性皮膚炎緩和剤は効果が顕著なので重篤なアトピー性疾患用の医薬品として用いることができ、また経口投与可能なため、健康食品や各種飲食品として日常的に摂取可能なため、アトピー性皮膚炎の予防用食品として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】L.plamtarum特異的プライマーを用い、HSK201株遺伝子をPCR反応により増幅させた結果である。
【図2A】各種乳酸菌のin vitro刺激によるOVA感作マウス脾臓細胞からの、菌種の異なる乳酸菌間のIL-12産生誘導能を示した結果である。
【図2B】各種乳酸菌のin vitro刺激によるOVA感作マウス脾臓細胞からの、L.plantarum間のIL-12産生誘導能を示した結果である。
【図3A】各種乳酸菌のin vitro刺激によるOVA感作マウス脾臓細胞からの、菌種の異なる乳酸菌間のIL-4産生抑制能を示した結果である。
【図3B】各種乳酸菌のin vitro刺激によるOVA感作マウス脾臓細胞からの、L.plantarum間のIL-4産生抑制能を示した結果である。
【図4A】アトピー性皮膚炎様症状を誘発させたマウスに対するHSK201乳酸菌の投与による血清総IgE値の変化を示した結果である。図中の◆は生菌の投与、■は死菌の投与、×はコントロール食、○は発症試薬未塗布を示す。
【図4B】アトピー性皮膚炎様症状を誘発させたマウスに対するHSK201乳酸菌の投与による血清ダニ抗原特異的IgE値の変化を示した結果である。
【図4C】アトピー性皮膚炎様症状を誘発させたマウスに対するHSK201乳酸菌の投与による症状スコアの変化を示した結果である。
【図4D】アトピー性皮膚炎様症状を誘発させたマウスに対するHSK201乳酸菌の投与による耳介厚の変化を示した結果である。
【図5】HSK201発酵乳摂取前後の糞便中L.plantarumの菌数変化について示した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HSK201株(NITE P-589)の菌体、菌体培養物、菌体処理物又はその抽出物を有効成分として含有するアトピー性皮膚炎緩和剤。
【請求項2】
請求項1に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は治療のための経口投与用製剤。
【請求項3】
請求項1に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は治療のための皮膚外用製剤。
【請求項4】
請求項1に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、飲食品。
【請求項5】
請求項1に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤を配合した、化粧料。
【請求項6】
請求項1に記載のアトピー性皮膚炎緩和剤の有効成分として用いることのできる、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HSK201株(NITE P-589)。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−47504(P2010−47504A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212248(P2008−212248)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月13日日本食品免疫学会JAF2008実行委員会発行の「日本食品免疫学会2008年度大会要旨集」に発表
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】