説明

アトルバスタチン中間体の調製

アトルバスタチンのジケトンを、最初に反応容器を非ケトン系溶媒、特にテトラヒドロフランを用いて水分を除去することにより調製する。次に、4−フルオロベンズアルデヒドを前記反応容器内でベンジリジンイソブチリルアセトアニリドと反応させて、4−フルオロ−アルファ−(2−メチル−1−オキソプロピル)−ガンマ−オキソ−N,ベータ−ジフェニルベンゼン−ブタンアミドを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトルバスタチンラクトンの調製における主要な中間体であるアトルバスタチンのジケトンを調製するための方法に関する。アトルバスタチンラクトンは、化学名(2R−トランス)−5−(4−フルオロフェニル)−2−(1−メチルエチル)−N,4−ジフェニル−1−〔2−(テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル)エチル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミドで知られるトランス−6−〔2−(置換ピロール−1−イル)アルキル〕ピラン−2−オンである。
【背景技術】
【0002】
アトルバスタチンラクトンは、化学名〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸ヘミカルシウム塩で知られる別のトランス−6−〔2−(置換ピロール−1−イル)アルキル〕ピラン−2−オン、アトルバスタチンカルシウムの調製におけるペナルティメート中間体である。
【0003】
アトルバスタチン及びその中間代謝物の幾つかは、人体において薬理学的に活性であり、低脂血症薬及び低コレステロール血症薬として有用である。特に、アトルバスタチンは、酵素3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムA(HMG−CoA)レダクターゼ、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムAをコレステロールのようなステロールの前駆体、メバロン酸に転換する律速酵素の選択的及び拮抗阻害剤として有用である。HMG−CoAのメバロン酸への転換は、コレステロールの生合成における初期及び律速過程である。
【0004】
米国特許第4,681,893号明細書は、トランス(±)−5−(4−フルオロフェニル)−2−(1−メチルエチル)−N,4−ジフェニル−1−〔(2−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル)エチル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミドを含む特定のトランス−6−〔2−(3−又は4−カルボキサミド−置換−ピロール−1−イル)アルキル〕−4−ヒドロキシ−ピラン−2−オンを開示しており、その記載内容はこれを引用することにより本明細書中に記載されているものとする。
【0005】
米国特許第5,273,995号明細書は、トランス−5−(4−フルオロフェニル)−2−(1−メチルエチル)−N,4−ジフェニル−1−〔(2−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル)エチル〕−1H−ピロール−3−カルボキサミド、即ち〔R−(R*,R*)〕−2−(4−フルオロフェニル)−β,δ−ジヒドロキシ−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−〔(フェニルアミノ)カルボニル〕−1H−ピロール−1−ヘプタン酸の開環酸のR型を有するエナンチオマを開示しており、その記載内容はこれを引用することにより本明細書に記載されているものとする。
【0006】
上述したアトルバスタチン化合物は、本明細書中に引用することによりその内容が記載されているものとする米国特許第5,003,080号、第5,097,045号、第5,103,024号、第5,124,482号及び第5,149,837号各明細書、並びにBaumann K.L., Butler D.E., Deering C.F.外、Tetrahedron
Letters 1992;33:2283-2284に開示されている優れた収束性経路によって調製されている。
【0007】
米国特許第5,097,045号明細書に概略説明した重要な中間体の1つが、本明細書中に引用することによりその内容が記載されているものとする米国特許第5,155,251号明細書及びBrower P.L., Butler D.E.,
Deering C.F.外、Tetrahedron Letters 1992;33:2279-2282に記載されるような新規な化学を用いて製造されている。
【0008】
米国特許第5,216,174号、第5,245,047号、第5,248,793号、第5,280,126号、第5,397,792号、第5,342,952号、第5,298,627号、第5,446,054号、第5,470,981号、第5,489,690号、第5,489,691号、第5,5109,488号各明細書、及び国際公開WO97/03960、WO98/09543、WO99/32434は、アトルバスタチンを調製するための様々な方法及び主要な中間体を開示しており、その記載内容はこれらを参照することにより本明細書中に記載されているものとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アトルバスタチン中間体を調製するための方法は、生成物の拒絶及び収量の減少を生じさせ得るプロセス不純物の形成に特に敏感かつ脆弱である。
【0010】
従って、本発明の目的は、反応生成物の形成が最小となる、アトルバスタチン中間体を調製するための改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、アトルバスタチンのジケトンを製造するための方法であって、
反応容器を非ケトン系溶媒で洗浄して水分を除去する過程と、
前記反応容器内で4−フルオロベンズアルデヒドをベンジリジンイソブチリルアセトアニリドと反応させて、下記の反応スキームに従って4−フルオロ−アルファ−(2−メチル−1−オキソプロピル)−ガンマ−オキソ−N,ベータ−ジフェニルベンゼン−ブタンアミドを形成する過程とからなる方法、
【化2】

が提供される。
【0012】
好ましくは、前記非ケトン系溶媒がテトラヒドロフランである。
【0013】
別の実施例では、前記方法が、ウォッシュオフ材料を収集し、かつそれを前記容器から反応体の導入以前に排出する過程を含む。
【0014】
更に別の実施例では、前記非ケトン系溶媒を前記反応容器内にスプレボールを介して導入し、前記容器の全内面を被覆する。前記反応容器は、同様に非ケトン系溶媒で乾燥させる撹拌機を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、以下に単なる実施例として記載される詳細な説明からより明確に理解することができる。
【0016】
アトルバスタチンのジケトン即ち4−フルオロ−アルファ−(2−メチル−1−オキソプロピル)−ガンマ−オキソ−N,ベータ−ジフェニルベンゼン−ブタンアミドを、スキーム1に示すようにステッター反応において4−フルオロベンズアルデヒドの2−ベンジリジンイソブチリルアセトアニリドとの反応により単一の過程で調製する。
【0017】
【化3】

【0018】
アトルバスタチンのジケトン中に検出されている不純物は、未反応の出発材料、出発材料の汚染物に由来する不純物及び反応副産物が原因である。前記方法は特に、デスフルオロジケトンのような幾つかの反応不純物の形成を生じさせ得る痕跡量の水分の存在に敏感である。
【0019】
本願発明者らは、反応設備を非ケトン系溶媒で洗浄しかつ乾燥させることによって、不純物形成の大幅な減少を達成し得ることを見出した。従前、反応設備は、そのような用途のために入手し易いこと、比較的低価格であること、沸点が低いこと及び水混和性の観点から選り抜きの溶媒であるアセトンを用いて洗浄していた。
【0020】
しかしながら、本願発明者らは、痕跡量のアセトンでさえアルデヒド出発材料と反応して水を形成することを見出した。水分の存在は、次に好ましくないデスフルオロジケトン不純物の形成を助長する。
【0021】
デスフルオロジケトン不純物は、スキーム2から明らかなように、所望のジケトンと非常に類似した構造を有する。
【0022】
【化4】

【0023】
他の不純物が再結晶化を用いて反応過程から容易に除去し得るのに対し、デスフルオロジケトン不純物は特に問題となる。デスフルオロ不純物が0.45%以上であると、生成物が十分でなく、回収することができない。前記デスフルオロ不純物が約0.45%未満であると、生成物を1回又は2回以上の再結晶化過程の後に回収することが可能な場合がある。
【0024】
テトラヒドロフラン(THF)は、環境温度においてジケトンに溶解し、反応溶媒として既に利用されていることから反応に悪影響を与えないという利点を有するので、理想的な非ケトン系溶媒であることが分かった。また、これは0.03%の低い水分仕様の乾燥溶媒である。
【0025】
従って、本発明によれば、アトルバスタチンラクトンの調製における主要な中間体でアトルバスタチンのジケトンの調製のための改良された方法が提供される。
【実施例】
【0026】
実施例1:4−フルオロ−アルファ−(2−メチル−1−オキソプロピル)−ガンマ−オキソ−N,ベータ−ジフェニルベンゼン−ブタンアミドの調製
反応容器を、少なくとも4サイクルの真空を用い、該真空を毎回窒素で解放して不活性化する。前記反応容器に250リットルのテトラヒドロフランをスプレノズルを介して充填する。スプレボールノズルによって確実に、前記反応容器の全表面積、特に該容器の上部内面及び反応容器の内部に存在する撹拌装置も同様に浸透させる。テトラヒドロフラン洗液を流出させ、かつ廃棄物のリサイクルのために回収する。
【0027】
前記反応容器を乾燥させると、2−ベンジリジンイソブチリルアセトアミド(BIBEA)480kg、エチルヒドロキシエチルメチルチアゾリウムブロミド(MTB又はエチルヒドロキシエチルMTB)60kg、4−フルオロベンズアルデヒド200リットル、216kg、及びトリエチルアミン120kgを前記反応容器に充填し、かつ撹拌しながら60〜70℃に加熱する。前記反応混合物を、65+/−5℃の温度を維持しつつ16〜24時間熟成させる。次に、内容物を54〜66分掛けて60+/−5℃に冷却する。600リットルのイソプロパノールを前記反応混合物に入れ、かつ該混合物を約100℃に加熱して溶液を作る。
【0028】
600リットルの脱イオン水を前記反応容器に60+/−5℃の温度を維持しつつ30分掛けて入れる。このバッチを54〜66分間熟成させ、かつ内容物を1時間当たり15/20℃の速度で2〜4時間掛けて25+/−5℃に冷却する。この温度で前記バッチを少なくとも1時間熟成させ、かつ内容物を更に0+/−5℃に冷却しかつ少なくとも1時間熟成させる。
【0029】
前記バッチをフィルタに分離し、かつイソプロパノールで洗浄する。生成物を真空下で50+/−5℃で0.5%未満の含水量に乾燥させる。次に、前記内容物を排出する前におおよそ30℃未満に冷却する。
【0030】
本発明は、上述した実施例に限定されるものでなく、詳細部分において様々に変化させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトルバスタチンのジケトンを製造するための方法であって、
反応容器を非ケトン系溶媒で洗浄して水分を除去する過程と、
前記反応容器内で4−フルオロベンズアルデヒドをベンジリジンイソブチリルアセトアニリドと反応させて、下記の反応スキーム(化1)に従って4−フルオロ−アルファ−(2−メチル−1−オキソプロピル)−ガンマ−オキソ−N,ベータ−ジフェニルベンゼン−ブタンアミドを形成する過程とからなる方法。
【化1】

【請求項2】
前記非ケトン系溶媒がテトラヒドロフランである請求項1に記載の方法
【請求項3】
ウォッシュオフ材料を収集し、かつそれを前記容器から反応体の導入以前に排出する過程を有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記非ケトン系溶媒を前記反応容器内にスプレボールを介して導入し、前記容器の全内面を被覆する請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記反応容器が、前記非ケトン系溶媒で乾燥させる撹拌機を有する請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。



【公表番号】特表2009−507822(P2009−507822A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529774(P2008−529774)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/IE2005/000095
【国際公開番号】WO2007/029217
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(507141262)ファイザー・サイエンス・アンド・テクノロジー・アイルランド・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】