説明

アニールウェハおよびアニールウェハの製造方法

【課題】Cuに対するゲッタリング効果を向上してなるアニールウェハの製造方法を提供する。
【解決手段】窒素濃度5×1014〜1×1016/cm、炭素濃度1×1015〜5×1016/cm、酸素濃度6×1017〜11×1017/cmを含むシリコン基板に対して、650℃以上800℃以下の温度で、4時間以上の熱処理を行い、しかる後に、1100℃以上1250℃以下の温度で、アルゴンアニールを行い、アニール後の内部積層欠陥密度5×10/cm以上であることを特徴とするアニールウェハの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニールウェハおよびアニールウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、特にシリコン単結晶ウェハ(以下単に基板とも称する)は、高集積MOSデバイスを制作するための基板として用いられる。シリコン単結晶ウェハの多くは、チョクラルスキー(CZ)法により製造されたシリコン単結晶のインゴットから切り出した基板である。
【0003】
このようなシリコン単結晶ウェハには、単結晶製造中に混入した酸素が過飽和に存在しており、それが後のデバイスプロセス中に析出して、基板内部に酸素析出物(シリコン酸化物析出物の通称;BMD:Bulk Micro Defectとも呼ぶ)が形成される。この酸素析出物はデバイス活性領域に発生すると、ゲート酸化膜の絶縁耐圧低下や接合リーク電流の増大等のデバイス特性劣化要因となるが、デバイス活性領域以外のバルク中に発生した場合にはデバイスプロセス中に混入した重金属汚染を捕獲するゲッタリング源として有効に作用し、デバイス活性層である基板表面を清浄に保つ効果が知られている。
【0004】
このような効果を技術的に応用したものがイントリンシックゲッタリング(IG)と呼ばれており、重金属汚染によるデバイス特性劣化を防止するために用いられている。したがって、シリコン単結晶ウェハには、デバイスプロセス中に適度の酸素析出が起こることが求められている。
【0005】
これらの要求に対し、様々なアプローチが試みられている。例えば、CZ法によってシリコン単結晶を育成する際に、窒素をドープすることが行われており、それによって、grown−in欠陥の成長が抑制されまた酸素析出が促進されたシリコン単結晶インゴットを製造することができる。そして、この窒素をドープしたシリコン単結晶からスライスされ、研磨された鏡面ウェハに対してアルゴンガスや水素ガスなどを用いて高温(1100〜1350℃)で長時間熱処理を施す(以後アニールと称す)ことにより、表層の完全性とバルク中の酸素析出核密度増加の両方を実現させたシリコン半導体基板(以後アニールウェハと称す)を製造することができる。こうしたIG材(酸素析出物主体)であるアニールウェハは、プロセス中に混入する重金属不純物に対するゲッタリング能力があることが知られている。
【0006】
しかしながら、非特許文献1の報告によれば、図1に示すように、上記IG材でも、高速デバイスの配線材料であるCuに対するゲッタリング効果が弱く、配線工程のような低温デバイスプロセスでの熱処理(400℃程度)においても、ゲッタリング(捕獲)したCuが再放出され、Cu汚染によるデバイス信頼性を劣化させる問題があることが指摘されている。また、一般的なDZ−IGウェハでは、3段の熱処理が行われている。酸素濃度の高いCZ基板に対して、高温(1100℃程度)、低温(650℃程度)、中温(1000℃程度)の3段階で熱処理を施して、IG効果を得ている。しかしながら、一般的なDZ−IGウェハを3段階で熱処理したウェハでも、Cuに対するゲッタリング効果が弱く、配線工程のような低温デバイスプロセスでの熱処理(400℃程度)においても、ゲッタリング(捕獲)したCuが再放出され、Cu汚染によるデバイス信頼性を劣化させる問題がある。
【非特許文献1】朴澤一幸,由上二郎、「半導体製造プロセスにおけるCu汚染によるデバイス信頼性劣化とそのメカニズム」、社団法人 電子情報通信学会発行、電子情報通信学会技術研究報告(信学技報) SDM2002−188(2002年10月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、Cuに対するゲッタリング効果を向上してなるアニールウェハおよびアニールウェハの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物が、5×1011/cm以上あり、積層欠陥密度が5×10/cm以上であることを特徴とするアニールウェハである。
【0009】
上記目的を達成するための本発明のアニールウェハの製造方法は、窒素濃度5×1014〜1×1016/cm、炭素濃度1×1015〜5×1016/cm、酸素濃度6×1017〜11×1017/cmを含むシリコン基板に対して、650℃以上800℃以下の温度で、4時間以上の熱処理を行い、しかる後に、1100℃以上1250℃以下の温度で、アルゴンアニールを行い、アニール後の内部積層欠陥密度5×10/cm以上であることを特徴とするアニールウェハの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Cuに対するゲッタリング効果を向上し、低温デバイスプロセスでの熱処理においても、ゲッタリングしたCuの再放出を抑制し、Cu汚染を防止しデバイス信頼性を高めることのできるアニールウェハおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した最良の実施形態を説明する。
【0012】
[I.アニールウェハの製造方法]
本発明に係るアニールウェハの製造方法は、(1)窒素濃度5×1014〜1×1016/cm、炭素濃度1×1015〜5×1016/cm、酸素濃度6×1017〜11×1017/cmを含むシリコン基板に対して、650℃以上800℃以下の温度で、4時間以上の熱処理を行い(以下、「熱処理工程」という)、(2)しかる後に、1100℃以上1250℃以下の温度で、アルゴンアニールを行い(「アニール工程」という)、アニール後の内部積層欠陥密度5×10/cm以上にするとともに表層を、無欠陥にすることを特徴とするものである。かかる製法方法によれば、積層欠陥がIG材(酸素析出物主体)の酸素析出物(核)からなる微小欠陥(BMD)の周りに形成することができる。そのため、該積層欠陥をCuに対するゲッタリングサイトとすることにより、Cuに対するゲッタリング効果、特に高温処理後の冷却中に1度はゲッタリングされたCuの低温熱処理(400℃程度)での再放出抑制効果を高めることができるものである。加えて、IG材(酸素析出物主体)の酸素析出物(核)の持つゲッタリング能力により、他の重金属等の不純物に対しても優れたゲッタリング能力を十分に発現することができる。
【0013】
以下、構成要件ごとに説明する。
【0014】
(1)熱処理工程
(a)シリコン基板
熱処理工程に用いられるシリコン基板は、CZ法によってシリコン単結晶を育成する際に、窒素、炭素及び酸素をドープないし含有濃度を調整することが行われている。このうち、窒素ドープによって、いわゆるボイドgrown−in欠陥といわれる結晶成長中に形成される欠陥を小さくすることが出来、しかる後に行われるアルゴンアニールにより表面のボイドを消滅させることが出来るほか、酸素析出が促進されたシリコン単結晶インゴットを製造することができる。そして、窒素濃度が増えるほど酸素析出物密度は増える。これは、窒素を添加することで、シリコン基板中に高温でも安定な酸素析出核が形成され、それが高温アニール(1100〜1250℃)後も消えずに残る為である。酸素析出核がシリコン基板中に残っているアニールウェハは、その後のデバイス工程熱処理で酸素析出物が形成される。高温でも安定な酸素析出核の個数は窒素濃度に依存する。そのため、窒素濃度が増えると、酸素析出物密度も増える。また、炭素ドープないし炭素量のコントロールによって、本発明の5×1011/cmを越えるBMDを形成することができる。さらに酸素ドープないし酸素量のコントロールによって、本発明の5×1011/cm以上、その大きさが、10nm以上120nm以下のBMDを形成することができる。そして、この窒素、炭素及び酸素を適量ドープしたシリコン単結晶からスライスされ、研磨された鏡面ウェハ(シリコン基板)において、窒素濃度5×1014〜1×1016/cm、炭素濃度1×1015〜5×1016/cm、酸素濃度6×1017〜11×1017/cmを含むものである。
【0015】
ここで、上記シリコン基板の窒素濃度は、5×1014〜1×1016/cm、好ましくは1×1015〜5×1015/cmの範囲である。窒素濃度を上記範囲にすることが、その後のデバイス工程熱処理で10〜120nmサイズの酸素析出物密度を5×1011/cm以上、また積層欠陥密度を5×10/cm以上のCuゲッタリング能力に優れたアニールウェハを得る上で、必要不可避と言える。窒素濃度が5×1014/cm未満の場合には、窒素濃度が少なく、grown−in欠陥の消滅が難しい。一方、窒素濃度が1×1016/cmを超える場合には、単結晶の成長が難しい。
【0016】
また、上記シリコン基板の炭素濃度は、1×1015〜5×1016/cm、好ましくは2×1015〜1×1016/cmの範囲である。炭素濃度が1×1015/cm未満の場合には十分なBMD密度が得られない。一方、炭素濃度が5×1016/cmを超える場合には、積層欠陥の発生が少ない。
【0017】
また、上記シリコン基板の酸素濃度は、6×1017〜11×1017/cm(JEIDA)、好ましくは7×1017〜10×1017/cmの範囲である。酸素濃度が6×1017/cm未満の場合には、BMDサイズが小さく、密度も少ない。一方、酸素濃度が11×1017/cmを超える場合にはBMDサイズが大きくなりすぎる。
【0018】
上記シリコン基板のように、CZ法によってシリコン単結晶を育成する際に、窒素、炭素及び酸素をドープないし含有濃度を調整する方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、窒素添加は、窒化珪素の膜をシリコン基板上に形成したウェハを添加することにより、炭素添加は、炭素板をシリコン融液に浸漬することによって添加できる。酸素は、坩堝回転速度などの結晶引き上げ条件により調整することができる。但し、本発明は、これらの方法に何ら制限されるものではなく、従来公知の技術を適宜利用して、シリコン単結晶を育成する際に窒素、炭素及び酸素をドープないし含有濃度を調整することができる。
【0019】
ここで、シリコン基板の窒素濃度は、SIMS(二次イオン質量分析法)により測定でき、炭素濃度および酸素濃度は、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光法)により測定することができる。
【0020】
(b)熱処理
本工程では、上記シリコン基板を、650℃以上800℃以下の温度で、4時間以上の熱処理を行うものである。該熱処理の温度が650℃未満の場合には、所定のBMD密度に対して、時間がかかりすぎる。一方、熱処理の温度が800℃を超える場合には、十分なBMD密度が得られない。
【0021】
また、熱処理の時間が4時間未満の場合には、BMD密度が少ない。なお、熱処理の時間の上限値は特に制限されるものではないが、コストの観点から、10時間以下とするのが望ましい。
【0022】
また、熱処理の雰囲気としては、特に制限されるものではないが、ウェーハ表面の窒化を防ぐために、窒素及び酸素を含む雰囲気とするのが望ましい。具体的には、窒素ガスをベースに、体積%で、酸素濃度0.1〜1%、好ましくは0.3〜0.8%である。
【0023】
但し、後述する第2の熱処理形態のように、熱処理(熱処理工程)から高温のアルゴンアニール(アニール工程)を連続処理する場合には、熱処理もアルゴン雰囲気で行うのが望ましい。これは、高温のアルゴンアニールは、酸化膜なしの条件でアニールを行う必要がある。したがって、熱処理工程からアニール工程に移行する途中で、窒素、酸素を含む雰囲気からアルゴン雰囲気に置換することは、酸化膜等の除去が必要となり連続処理が困難となるなど望ましくないためである。
【0024】
本発明の熱処理では、少なくとも上記要件を満足すればよい。以下、熱処理条件の代表的な実施形態を例に挙げて説明するが、本工程が、これらの実施形態に何ら制限されるものでないことはいうまでもない。
【0025】
(b1)第1の熱処理形態
第1の形態は、窒素、酸素を含む雰囲気で、650℃以上800℃以下の温度範囲内のある一定温度Tで4時間以上保持して熱処理する形態(第1実施形態)である。本形態の場合、一定温度Tまでの加熱形態は、特に制限されるものではない。例えば、窒素、酸素を含む雰囲気の炉内にシリコン基板を挿入後、一定温度Tまで所定の昇温速度で加熱する形態であってもよいし、あるいは一定温度Tに加熱された炉内にシリコン基板を挿入して急速に昇温する形態であってもよく、何ら制限されるものではない。本形態では、一定温度Tまでの昇温速度を遅く、また保持時間tを長くした方が酸素析出核をより成長させることができることから望ましい。こうした観点から、シリコン基板挿入時の温度である昇温開始温度から一定温度Tまでの昇温速度は、0.1〜2℃/分、好ましくは0.3〜1℃/分とするのが望ましい。昇温速度が0.1℃/分未満では、一定温度Tに達するまで長持間を要するため、不経済である。一方、昇温速度が2℃/分を超える場合には、酸素析出核の成長には不十分である。
【0026】
本形態での一定温度Tは、650℃以上800℃以下の温度範囲であればよい。
【0027】
また、本形態では、一定温度Tに所定時間4時間以上保持後は、ただちにシリコン基板を炉外に引き出して熱処理を終えても良い。
【0028】
(b2)第2の熱処理形態
第2の形態では、熱処理工程とアニール工程を連続して行うものである。具体的には、上記した第1の熱処理形態で、アルゴン雰囲気で、一定温度Tで所定時間保持して熱処理を施した後に、炉外に取り出したり、降温することなく、引き続き、アルゴン雰囲気の炉内で高温のアニール工程を施すものである。かかる第2の熱処理形態では、上述したように、熱処理工程及びアニール工程をアルゴン雰囲気で行うものである。
【0029】
以上が、本発明の650℃以上800℃以下の温度で、4時間以上の熱処理を行う熱処理工程の代表的な実施形態であるが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。例えば、二段階以上の熱処理形態としてもよいなど、650℃以上800℃以下の温度範囲内であれば、任意に温度を昇降可能であるし、また昇降時の昇温ないし降温速度も任意に決定すればよい。また熱処理時間も全体で4時間以上であればよく、一定温度に保持することなく絶えず温度変化させながら熱処理してもよいなど、特に制限されるものではない。
【0030】
(2)アニール工程
上記熱処理工程の後に、1100℃以上1250℃以下の温度で、アルゴンアニールを行う。1100℃以上1250℃以下の温度でアルゴンアニールを行うことにより、高温熱処理で消滅するサイズの酸素析出核を予め消滅しないサイズに十分成長させるとともに表層の結晶欠陥を消滅させることができる。
【0031】
また、アルゴンアニールの雰囲気としては、具体的には、体積%で、アルゴン濃度100%とするアルゴンガスを利用するのが望ましいが、アルゴンガスをベースに、水素ガスの混合雰囲気でもよい。通常、アニールウェハの作製には、水素ガス、アルゴン等の不活性ガスを用いて高温のアニールを行うことができるが、本発明ではコストの観点から、上記雰囲気下でアルゴンアニールを行うこととしたものである。
【0032】
本工程では、熱処理工程が上記第1形態の場合には、上記第1の形態にて炉外に取り出されたシリコン基板を、表面の酸化膜をエッチングした後、アルゴン雰囲気の炉内に挿入し、あるいはまた熱処理工程が上記第2の形態の場合には、上記第2の形態にて、アルゴン雰囲気で熱処理されたシリコン基板を、引き続きアルゴン雰囲気の炉内で、あるいはアルゴン雰囲気の熱処理炉からアルゴン雰囲気のアニール処理炉に移し替えて(炉外を移動中のシリコン基板もアルゴン雰囲気におくのが望ましい)、アニール温度T2として1100℃以上1250℃以下の温度で、アニール時間tとして5分〜4時間、好ましくは1150〜1250℃の温度で、10分〜4時間、アルゴンアニールする。ここで、アニール温度Tが1100℃未満の場合には、表面のgrown−in欠陥が消滅しない。一方、1250℃を超える場合には、1×1012/cmの析出物が溶解する。また、アニール時間tが5分未満の場合には、grown−in欠陥の消滅が不十分であり、4時間を超える場合には生産性が悪い。
【0033】
(a)アニール形態
本発明のアニール形態は、アルゴン雰囲気で、1100℃以上1250℃以下の温度範囲内のある一定のアニール温度Tに所定時間t保持してアニール処理する形態である。上記アニール温度Tまでの昇温速度は、650℃から1000℃まで4〜10℃/分、1000℃から1250℃まで0.4〜6℃/分とし、好ましくは、上記アニール温度Tまでの昇温速度は、650℃から1000℃まで5〜9℃/分、1000℃から1250℃まで0.5〜5℃/分とするのが望ましい。650℃から1000℃までの昇温速度が4℃/分未満または1000℃から1250℃までの昇温速度が0.4℃/分未満では、上記アニール温度Tに達するまで長持間を要するため、不経済である。一方、650℃から1000℃までの昇温速度が10℃/分を超える場合または1000℃から1250℃までの昇温速度が6℃/分を超える場合には、酸素析出物や積層欠陥の成長には不十分である。
【0034】
また、熱処理工程が上記第2の形態の場合でも、例えば、アルゴン雰囲気で熱処理されたシリコン基板を、引き続きアルゴン雰囲気の炉内で、上記アニール温度Tの範囲まで所定の昇温速度で加熱する形態であってもよいし、あるいはアルゴン雰囲気の熱処理炉からアルゴン雰囲気で上記アニール温度Tの範囲に加熱されたアニール処理炉にシリコン基板を移し替えて(炉外を移動中のシリコン基板もアルゴン雰囲気におくのが望ましい)急速に昇温する形態であってもよいなど、何ら制限されるものではない。本形態でも、上記アニール温度Tまでの昇温速度を、1000℃まで4〜10℃/分、1000℃から1250℃まで0.4〜6℃/分とし、またアニール時間tを10分から4時間とした方が、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物の濃度(密度)を5×1011/cm以上に高め、尚且つ積層欠陥密度を5×10/cm以上まで高める上で有利である。こうした観点から、上記アニール温度Tまでの昇温速度は、好ましくは、1000℃まで5〜9℃/分、1000℃から1250℃まで0.5〜5℃/分とするのが望ましい。1000℃までの昇温速度が4℃/分未満、または1000℃から1250℃までの昇温速度が0.4℃/分未満では、上記アニール温度Tに達するまで長持間を要するため、不経済である。一方、1000℃までの昇温速度が10℃/分を超える場合、または1000℃から1250℃までの昇温速度が6℃/分を超える場合には、酸素析出物や積層欠陥の成長には不十分である。
【0035】
また、本発明のアニール形態では、上記アニール温度Tに所定時間t保持後は、アルゴン雰囲気の炉内で、所定温度Tまで降温速度1〜5℃/分で冷却した後に、シリコン基板(アニールウェハ)を炉外に引き出してアニール処理を終えても良い。
【0036】
この場合、所定温度Tは、700〜800℃である。所定温度Tが700℃未満の場合には時間がかかる。一方、所定温度Tが800℃を超える場合には、スリップを生じる場合がある。また、降温速度が1℃/分未満では、時間がかかる。5℃/分を超える場合にはスリップを生じる場合がある。
【0037】
以上が、本発明の1100℃以上1250℃以下の温度で、アルゴンアニールを行うアニール工程の代表的な実施形態であるが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。例えば、アニール温度Tまでの昇温速度を三段階以上の異なる速度で昇温する形態としてもよいなど、上記した各温度域における昇温速度の範囲内であれば、任意の速度で昇温可能であり、同様に所定温度Tまでの降温速度も二段階以上の異なる速度で降温する形態としてもよいなど、昇降時の昇温ないし降温速度は任意に決定すればよい。またアニール温度Tも1100℃以上1250℃以下の温度範囲内であれば、任意に温度を昇降可能であるし、アニール時間tも10分から4時間の範囲内であればよく、一定温度に保持することなく絶えず温度変化させながらアルゴンアニール処理してもよいなど、特に制限されるものではない。
【0038】
(3)アニールウェハの内部積層欠陥密度
本発明では、上記アニール後のアニールウェハにおける内部積層欠陥密度が5×10/cm以上であることが必要であり、内部積層欠陥密度が1×10〜1×1010/cmが望ましい。該アニール後の内部積層欠陥密度が5×10/cm未満の場合にはゲッタリング能力が弱い。
【0039】
ここで、アニール後の内部積層欠陥密度は、アニール後のアニールウェハをへき開し、へき開面をライトエッチングし、光学顕微鏡を用いて測定した。
【0040】
[II.アニールウェハ]
本発明に係るシリコンウェハ(アニールウェハ)は、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物が、5×1011/cm以上あり、積層欠陥密度が5×10/cm以上であることを特徴とするものである。上記要件を全て満足することで、既存のIG材としての特性に加えて、本発明の所期の目的であるCuに対するゲッタリング効果を向上し、低温デバイスプロセスでの熱処理においても、ゲッタリングしたCuの再放出を抑制し、Cu汚染を防止しデバイス信頼性を高めることのできるアニールウェハを提供できる。そのため、高集積MOSデバイス等の高密度高集積デバイス等に好適に利用することができる。
【0041】
(酸素析出物)
本発明のシリコンウェハ(アニールウェハ)では、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物が、5×1011/cm以上、好ましくは1×1012〜1×1013/cmである。上記サイズの酸素析出物が5×1011/cm未満の場合には、RTA(Rapid−Thermal−Annealing)などスリップ耐性が弱い。なお、上記サイズの酸素析出物の密度の上限値は特に制限されるものではないが、その密度を増やすために低温長時間の熱処理が必要となり、1×1013/cm以下が望ましい。
【0042】
ここで、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置とは、具体的には50μmから中央までの範囲を示すものとする。本発明では、シリコンウェハ表面から50μm未満までの表層範囲を含めなかったのは、ウェハ表面近傍のデバイス活性領域から充分に離れたウェハ内部に発生した酸素析出物や積層欠陥が汚染重金属のゲッタリング効果を有するためである。よって、本発明では、当該範囲を除く、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置における酸素析出物及び積層欠陥密度を規定したものと言える。
【0043】
また酸素析出物のサイズとして10nm以上120nm以下の範囲を特定したのは、該酸素析出物のサイズが10nm未満のものも本発明のアニールウェハには数多く含まれ得るが、透過型電子顕微鏡(TEM)法で析出物密度を測定するには、酸素析出物のサイズが10nmを超える必要がある(=10nm未満のものはTEM法で測定できない)ため、当該範囲を加えなかったものである。一方、酸素析出物のサイズが120nmを超えるものも本発明のアニールウェハには含まれ得るが、120nmを超えるものでは、欠陥密度が少なくなるため、当該範囲を加えなかったものである。
【0044】
上記酸素析出物は、シリコンウェハの内部酸素析出物を透過型電子顕微鏡で観察を行い、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置での、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物を測定することにより求めることができる。なお、本明細書中において、「酸素析出物のサイズ」とは、透過型電子顕微鏡で観察される8面体の酸素析出物の対角線長さを析出物サイズとした。
【0045】
(積層欠陥密度)
また、本発明のアニールウェハでは、シリコンウェハ表面から50μm以上の位置に、積層欠陥密度が5×10/cm以上、好ましくは1×10〜1×1010/cmである。上記積層欠陥密度が5×10/cm未満の場合には、ゲッタリング能力が弱くなる。なお、上記積層欠陥密度の上限値は特に制限されるものではない。
【0046】
ここで、本発明のアニールウェハの積層欠陥密度は、シリコンウェハをへき開し、断面を2分ライトエッチングし、光学顕微鏡を用いて測定した。
【0047】
本発明のアニールウェハは、上記した本発明に係るアニールウェハの製造方法により製造することができる。
【実施例】
【0048】
実施例1
CZ法により、窒素濃度3×1015/cm(SIMSによる測定)、炭素濃度8×1015/cm、酸素濃度9×1017/cm(JEIDA規格FT−IRによる測定方法)を含むシリコン単結晶を引き上げた。
【0049】
得られたシリコン単結晶からスライスされ、研磨された鏡面ウェハ(シリコン基板)を加工プロセスの中、窒素、酸素を含む雰囲気、具体的には窒素ガスをベースに、体積%で酸素濃度0.2%とする炉内に700℃で挿入した後、700℃4時間熱処理し、その後炉から引き出した。
【0050】
しかる後に、熱処理済みのシリコン基板の酸化膜をエッチングして除去した後、アルゴン雰囲気、具体的にはアルゴンガス100%とする炉内に挿入し、700℃から1000℃まで8℃/分、1000℃から1100℃まで4℃/分、1100℃から1200℃まで1℃/分の昇温速度で昇温した後、1200℃で1時間アルゴンアニールを行い、炉から引き出した。
【0051】
アニール後の内部酸素析出物を透過型電子顕微鏡で観察を行い、アニールウェハ(シリコンウェハ)表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物は1×1012/cmであった。また、アニール後のアニールウェハをへき開し2分ライトエッチングし、断面構造にて表面から50μmの深さを光学顕微鏡で観察した結果、積層欠陥密度は5×10/cmであった。
【0052】
図2は、実施例1で得られたアニールウェハ断面の表面から100μmの位置の深さを観察した様子を表す図面(写真)である。図中、酸素析出物は小さなピットとして、積層欠陥は線状欠陥として映し出されている。
【0053】
実施例2
CZ法により、窒素濃度2×1015/cm(SIMSによる測定)、炭素濃度8×1015/cm、酸素濃度9×1017/cm(JEIDA規格FT−IRによる測定方法)を含むシリコン単結晶を引き上げた。
【0054】
得られたシリコン単結晶からスライスされ、研磨された鏡面ウェハ(シリコン基板)を加工プロセスの中、アルゴンガスの濃度100%とする炉内に挿入温度700℃で挿入し4時間保持し、引き続き炉内で1000℃まで8℃/分の昇温速度で昇温し、昇温後、引き続き、1100℃まで4℃/分、1200℃まで1℃/分の昇温速度で昇温し、1200℃で1時間アルゴンアニールを行い、炉から引き出した。
【0055】
アニール後の内部酸素析出物を透過型電子顕微鏡で観察を行い、アニールウェハ(シリコンウェハ)表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物は1×1012/cmであった。また、アニール後のアニールウェハをへき開し2分ライトエッチングし、断面構造にて表面から50μmの深さを光学顕微鏡で観察した結果、積層欠陥密度は1×10/cmであった。
【0056】
比較例1
窒素濃度1×1015〜5×1015/cm(SIMSによる測定)、炭素添加なし、酸素濃度7×1017〜10×1017/cm(JEIDA規格FT−IRによる測定方法)を含むシリコン単結晶を引き上げた。
【0057】
得られたシリコン単結晶からスライスされ、研磨された鏡面ウェハ(シリコン基板)を挿入温度700℃でアルゴン雰囲気、具体的にはアルゴン濃度100%とする炉内に挿入し、引き続き1000℃まで8℃/分、1100℃まで4℃/分、1200℃まで1℃/分の昇温速度で昇温し、1200℃の温度で、1時間アルゴンアニールを行い、炉から引き出した。
【0058】
アニール後の内部酸素析出物を透過型電子顕微鏡で観察を行い、アニールウェハ(シリコンウェハ)表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物は1×10/cmであった。また、アニール後のアニールウェハをへき開し2分ライトエッチングし、断面構造にて表面から50μmの深さを光学顕微鏡で観察した結果、積層欠陥密度は1×10/cmであった。
【0059】
<ゲッタリング評価方法>
意図的にウェハにCu汚染を行い、ゲッタリング効果を評価した。
【0060】
(ウェハ汚染)
実施例1〜2および比較例1で得られたシリコンウェハ(アニールウェハ)をアンモニア−過酸化水素水(APM)+希HF水溶液(DHF)+塩酸−過酸化水素水(HPM)にて洗浄し、表面を親水性にした。次に、スピンコート法を用いてCuをウェハ表面に汚染処理を行った。表面Cu汚染量は、原子吸光分析で、4×1012/cmである。表面のCuをウェハ内部に拡散させる処理として、950℃5分間窒素雰囲気で拡散を行った。Cuは、拡散後の室温までの冷却中に1度は、ゲッタリングされるが、引き続き、窒素雰囲気で、400℃2時間熱処理を行い、ゲッタリングサイトからの再放出処理を行った。汚染量は、原子吸光分析を行い、表面への放出量を調べた。その結果得られた表面検出量は、下記表1の通りである。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1、2では、比較例1より、表面のCuの検出量が少なく、ゲッタリング能力、特に1度ゲッタリングしたCuに対する該ゲッタリングサイトからの再放出抑制効果が高いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】非特許文献1で報告されているデータから、IG材とCZ法で得られたウェハにつき、950℃5分間窒素雰囲気で熱処理後、大気雰囲気で低温熱処理を2時間加えた場合のCuゲッタリング能力と熱処理温度の関係を抜粋して表した図面である。
【図2】実施例1で得られたアニールウェハ(シリコンウェハ)をへき開し、断面内の表面から100μmの深さをライトエッチング2分した後に光学顕微鏡で観察した様子を表す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェハ表面から50μm以上の位置に、10nm以上120nm以下のサイズの酸素析出物が、5×1011/cm以上あり、積層欠陥密度が5×10/cm以上であることを特徴とするアニールウェハ。
【請求項2】
アニールウェハの製造方法であって、
窒素濃度5×1014〜1×1016/cm、炭素濃度1×1015〜5×1016/cm、酸素濃度6×1017〜11×1017/cmを含むシリコン基板に対して、
650℃以上800℃以下の温度で、4時間以上の熱処理を行い、
しかる後に、1100℃以上1250℃以下の温度で、アルゴンアニールを行い、
アニール後の内部積層欠陥密度5×10/cm以上であることを特徴とするアニールウェハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−147248(P2010−147248A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322874(P2008−322874)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】