説明

アバランシェフォトダイオード及びそれを用いた受信機

【課題】
低暗電流で、高速かつ高利得な光通信用アバランシェフォトダイオード及びそれを用いた受信機を提供する。
【解決手段】
光吸収層4と増倍層7を有するアバランシェフォトダイオードにおいて、光吸収層4と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に空間的かつ電気的に分離して配置し、光吸収層4と増倍層7間を導電性配線により電気的に接続することで、増倍層7の薄膜化が可能となり、さらに光吸収層4と増倍層7は高品質の結晶から形成されるため、アバランシェフォトダイオードの低暗電流化、高速化かつ高利得化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用のアバランシェフォトダイオード及びそれを用いた受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信の伝送容量は、大都市間を結ぶ幹線系の通信のみならず、インターネットの普及に伴い、年率1.5倍の割合で爆発的に増加している。光通信システムは、次のような基本構成からなる。送信側において音声・画像などの電気信号を半導体レーザなどの光源を用いて光信号に変換する。この光信号を伝送媒体である光ファイバを用いて伝送した後、受信側の受信素子により伝送してきた光信号を再び電気信号に変換し、必要な信号処理により所望の信号に戻す。この通信システムでは、発光素子や光ファイバのみならず、光信号を電気信号に変換する受光素子の性能は光通信システムを左右する非常に重要なものである。
【0003】
光通信用受光素子には、大きく分けて半導体を材料としたPINフォトダイオードとアバランシェフォトダイオードがある。PINフォトダイオードは、p型半導体、アンドープ半導体、n型半導体から構成される。入力光が入射されると、バイアス電界のかかったアンドープの半導体層で吸収された後、電子と正孔に変換され、電気信号として検出される。アバランシェフォトダイオードは、PINフォトダイオードに加えて、なだれ増幅層が含まれており、光の増幅機能を有し、長距離伝送システム用受光素子として用いられている。アバランシェフォトダイオード及び信号増幅機能は、半導体のアバランシェ降伏現象を用いている。アバランシェ降伏現象における信号増幅が発生するメカニズムは次にようになる。
【0004】
半導体内を走行する電子あるいは正孔は結晶格子に衝突して散乱される。半導体に大きな電界を印加すると、半導体内の電子ならびに正孔(以下、キャリア)は電界によって加速される。半導体内での移動速度が大きくなり、その運動エネルギーがエネルギーバンドギャップより大きくなると、結晶格子にキャリア衝突したときに、結晶格子の結合ボンドを切る確率が高くなり、新たに自由に移動できる電子・正孔対を生成する。
【0005】
結合ボンドを切られた原子は電荷が不足し、イオン化したように見えるため、この現象は衝突電離あるいは衝突イオン化と呼ばれている。電子または正孔が単位距離進んだときに衝突電離によってどれほどの電子・正孔対が発生したかをイオン化率という。また、電子によるイオン化率と正孔によるイオン化率の比をイオン化率比と呼ぶ。この衝突イオン化によって新たに生成された電子、正孔の速度も印加電界によって加速され、さらなる衝突イオン化によって新たな電子・正孔対を生成する。このように、衝突電離が繰り返されると、急激なキャリア数の増加が生じ、大きな電流が流れることになる(アバランシェ現象)。すなわち、小さな信号(少数キャリア)が入力した場合でも、このようなアバランシェ現象により信号を増幅することが可能となる。
【0006】
広く知られているように、アバランシェフォトダイオードの高速・構造倍率の点で重要になるパラメーターとしてイオン化率比がある。イオン化率比が、1より大きければ大きいほど、または1より小さければ小さいほど、すなわち電子によるイオン化率と正孔によるイオン化率に大きな差があればあるほど、高速化と高増倍率化が可能になる。このことは、直感的に、イオン化率が1に近い場合、電子と正孔の両方で生じたイオン化が増倍層内で長時間継続して生じることで、特に高速化が困難になることからわかる。
【0007】
これまで光通信用として用いられてきたアバランシェフォトダイオードは、光通信に用いる光の波長が1.3μm帯または1.55μm帯(赤外線領域)であるため、材料としてInPまたはInGaAsの化合物半導体が用いられてきた。しかし、InPのイオン化率比はおよそ0.5程度と比較的1に近い値である。InAlAsでもせいぜい0.25から0.5である。このため、InP系半導体を用いたアバランシェフォトダイオードの帯域はせいぜい10GHzまでであり(増倍率を10程度と仮定)、それを超える、例えば25GHz,40GHzの高速のアバランシェフォトダイオードは未だに実現されていないのが現状である。
【0008】
これに対して、Siのイオン化率比は0.1から0.01と極めて小さな値を持ち、高速かつ高感度のアバランシェフォトダイオードを実現できる。しかし、Siは光通信に用いられる1.3μm帯または1.55μm帯の赤外線領域光を吸収できないため、光通信には用いることができなかった。
【0009】
このようなSiを用いたアバランシェフォトダイオードの欠点を克服するため、これまで赤外線領域の光に感度を有する化合物半導体とSiを組合せる試みがなされてきた。すなわち、これまで、光の吸収層を赤外線領域の光を吸収できる半導体で、増倍率層をSiで形成したアバランシェフォトダイオードを作製する試みがなされてきた。たとえば、Si上に化合物半導体をエピタキシャル成長させる試みが長い間行われてきたが、未だに高品質な結晶が得られていない。その他の方法として、InP基板上にエピタキシャル成長したInGaAs層に直接ウエハボンディング技術によりSi増倍層を融着により接合させて、アバランシェフォトダイオードを作製している(非特許文献1参照)。アバランシェフォトダイオードの性能としては、動作帯域10GHzで増倍率が30である。帯域(Bandwidth)と増倍率(Gain)の積、いわゆるGB積は300であり、従来のInP系化合物半導体を用いた場合のGB積150〜200と比べて改善されている。さらに、近年、Si上に高品質のGeを結晶成長する技術が開発されてきており、この技術を用いてアバランシェフォトダイオードを作製している(非特許文献2参照)。この場合のアバランシェフォトダイオードの性能も、今のところ、ウエハボンディング技術で作製した素子と同程度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. R. Hawkins et al., Appl. Phys. Lett.、Vol. 70、pp.303-305 (1997)
【非特許文献2】Y. Kang et al., Nature Photonics、 Published Online、7 December 2008, pp.1-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
「背景技術」で述べたように、ウエハボンディング技術を用いて作製したアバランシェフォトダイオードの性能は、動作帯域10GHzで増倍率が30であり、GB積で比較した場合、従来のInP系アバランシェフォトダイオードより優れた特性を示した。しかし、帯域は10GHzと従来のInP系アバランシェフォトダイオードと同程度である。この理由として、ウエハボンディングの際に、光吸収層のInGaAsまたはInP層とSi層との界面でそれぞれの材料の内部拡散がおこり、界面が急峻でないことが挙げられる。Si層内にInGaAsまたはInPが拡散するとSiのイオン化率比が1に近くなることが考えられる。比較的低速なアバランシェフォトダイオードの場合は、Siの増幅層を厚くできるため、この内部拡散の影響は小さいと考えられる。ところが、より高速化を図るため、増倍層の厚さを薄くすると(0.1μm程度)、この内部拡散の影響は無視できなくなる。非特許文献1において、GB積が300と改善されたにも関わらず、帯域が改善されていない原因として、以上のことが考えられる。
【0012】
非特許文献2においても、非特許文献1と同様、GB積に関しては、従来のInP系アバランシェフォトダイオードより優れた特性(この場合もGB積は300程度)を示しているが、帯域は10GHzと従来のInP系アバランシェフォトダイオードと同程度である。この場合は、Si上にGeを積層した際、SiとGeの格子定数の差から生じる歪による転位欠陥密度を、高温アニールを繰り返すことにより減少させている。この高温アニールの際に内部拡散が起こり、Si層へのGeの拡散が生じる。この内部拡散により、Si層を薄くした場合、Si特有の低いイオン化率比が保持されず、アバランシェフォトダイオードの高速化が実現されていない。このSi/Geアバランシェフォトダイオードに関しては、Ge層の転位欠陥により暗電流が大きくなることも報告されている(非特許文献2)。
【0013】
本発明の目的は、低暗電流で、高速かつ高利得な光通信用のアバランシェフォトダイオード及びそれを用いた受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための一実施形態として、光吸収層と増倍層を有するアバランシェフォトダイオードにおいて、当該光吸収層と増倍層は基板上の第1領域と第2領域に、各層を構成する結晶の結晶面に対して平行方向にそれぞれ互いに離間して配置されており、当該光吸収層と増倍層との間は導電性配線により電気的に接続されていることを特徴とするアバランシェフォトダイオードとする。
【0015】
また、前記アバランシェフォトダイオードと、前記アバランシェフォトダイオードが形成されている前記基板上に形成され、電気信号を増幅する機能を有する電子回路とを有することを特徴とする受信機とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成とすることにより、低暗電流で、高速かつ高利得な光通信用アバランシェフォトダイオード及びそれを用いた受信機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1(a)】第1の実施例に係る、Ge光吸収層とSi増倍層を有するアバランシェフォトダイオードの概略鳥瞰図である。
【図1(b)】第1の実施例に係る、Ge光吸収層とSi増倍層を有するアバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図2】第1の実施例に係るアバランシェフォトダイオードに対する増倍率と3dB帯域との関係を計算した結果を示す図である。
【図3】第2の実施例に係る、InGaAs光吸収層とSi増倍層を有するアバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図4】第3の実施例に係る、2端子アバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図5】第3の実施例に係る、3端子アバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図6】第4の実施例に係る、メサ構造の上面の結晶面が(100)を有するアバランシェフォトダイオードの概略鳥瞰図である。
【図7】第4の実施例に係る、メサ構造の上面の結晶面が(110)を有する他のアバランシェフォトダイオードの概略鳥瞰図である。
【図8】第5の実施例に係る、レンズを集積した裏面入射型のアバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図9】第6の実施例に係る、基板端面から光を入射する導波路型のアバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図10】第7の実施例に係る、Siの増倍層がSi基板上に形成されたアバランシェフォトダイオードの概略断面図である。
【図11】第8の実施例に係る、アバランシェフォトダイオードと電子回路が集積された受信機の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明が解決しようとする課題で述べたように、非特許文献1、2において、Si増幅層への他の材料の内部拡散により、アバランシェフォトダイオードの高速化に必要な増倍層の薄膜化が困難である。そこで、この課題を解決する方法として、本実施の形態では、光吸収層と増倍層を有するアバランシェフォトダイオードにおいて、当該光吸収層と増倍層が結晶面に対して平行方向に離間して配置されており、当該光吸収層と増倍層との間を導電性配線により電気的に接続することを特徴とするアバランシェフォトダイオードを提案する。この構造では、光吸収層(メサ部)と増倍層(メサ部)が空間的に分離されているため、増倍層の薄膜化は容易に実現でき、アバランシェフォトダイオードの高速化が実現できる。
【0019】
Si/GeアバランシェフォトダイオードにおけるGe層の転位欠陥による暗電流増大に関しては、GeOI(Germanium on Insulator)基板を用いる。GeOI基板はSi基板に形成されたSiO層に高品質のGe層を貼り付けて作製されており、Si上にGeをエピタキシャル成長した場合と比べて、転位欠陥密度が低いと考えられる。さらに、SiO上にGe層が積層されているため、Si上にGeが積層されている場合に比べて、SiO上では転位欠陥が動きやすく、アニールした場合、転位欠陥が減少(消滅)しやすくなる。さらに転位欠陥を少なくするために、アバランシェフォトダイオードをメサ構造とし、このメサ構造の上面の結晶面を(100)面、側面の結晶面を(110)とする。また、その他のメサ構造として、メサ構造の上面の結晶面を(110)面、側面の内向かい合う2面が(110)面、その他の向かい合う2面を(110)面となるメサ構造とする。メサ構造をとる効果は、Si上でなくSiO2上にGeを形成する効果と同様に、転位を運動させて膜側面から解放させることにより転位密度を下げることができる。さらに、上面ないし側面を(110)とすることで、<110>方向の転位線と垂直な自由端が形成されることになり、転位密度低減に効果がある。このように、転位欠陥を減らすことで、暗電流の低減が図れる。
【0020】
以下、実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
第1の実施例について図1(a),図1(b)を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態に記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0022】
図1(a)は、Ge光吸収層とSi増倍層を有するフォトダイオードの概略鳥瞰図,図1(b)はその概略断面図である。本実施例に係るアバランシェフォトダイオードは、Si基板1上に、SiO層2、p−Geのコンタクト層3、アンドープのGeの光吸収層4、n−Geのコンタクト層5、n−Siのコンタクト層6、n−Siの増倍層7、n−Siのコンタクト層8、誘電体層9、保護膜10、電極11から構成される受光素子である。本アバランシェフォトダイオードは、光吸収層4と増倍層7が、結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層4と増倍層7との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。なお、符号12は入力光を示す。
【0023】
まず、本アバランシェフォトダイオードの作製方法を以下に示す。
【0024】
高品質のGe吸収層4を得るため、基板として、次のような2種類の基板を使用する。一つは、SOI基板(Silicon on Insulator:Si基板と表面Si薄膜層の間にSiO層を挟んだ構造を有する基板)を用いて、酸化濃縮法により高品質のGe薄膜をSiO層2の上に形成し、その後、エピタキシャル成長にてGe層を厚く積層する。濃縮酸化法とは、まずSOI上にSiGe層を基板温度約500℃で分子線エピタキシー法で成長し、その後900℃〜1100℃で1時間熱酸化すると、SiGeのGeがSiO上に堆積し、元々SOI上にあったSiはSiOとなってGe上に堆積する。この状態で、最上部のSiO層を選択エッチングにより除去すると、高品質のGe層が最上部に形成された基板ができる。基板構造は、下からSi基板、SiO層、Ge層である。上記のGe層は、酸化濃縮法の特性上、概ね1%未満程度の微量なSiが含まれる場合もあるが、本明細書においては、そのような微量Siを含有する場合もGe層と称する。
【0025】
もう一つの基板は、GeOI基板(Germanium on Insulator:Si基板と表面Ge薄膜層の間にSiO層を挟んだ構造を有する基板)である。この基板は、高品質のGe基板をウエハボンディングによりSi基板/SiO上に貼り付けた構造を有する。このGe層を用いると、従来のGe基板を用いたGeフォトダイオード程度の暗電流値を期待できる。市販のGeフォトダイオードの暗電流値は、たとえば受光径0.25mmで0.5μA以下である。10G以上の高速化PDの場合、受光径は20μmであるため、暗電流が受光径に比例することを考慮すると、1nA以下の低暗電流が期待できる。因みに、現状、Si基板上にGeを積層して作製した受光径20μmPDの暗電流は1μA以上である。
【0026】
上記2種類の基板を用いて、高品質のGe薄膜層上にエピタキシャル成長により、アバランシェフォトダイオードを形成するに必要な厚さのGe層を形成する。コンタクト層形成に必要なGe層の不純物ドーピングは、エピタキシャル成長時に行ってもよいし、または、Ge層形成後にイオンドーピングによって不純物ドーピングを行ってもよい。
【0027】
次に、Ge層の不純物ドーピングの後、メサ構造を形成する。さらに、増幅層を含むメサ構造を形成する領域のGe層をエッチングにより除去し、Si層をエピタキシャル成長する。コンタク層に不純物ドーピングした後、メサ構造を形成する。さらに、Geのメサ構造部とSiのメサ構造部の間にポリイミドなどの誘電体で埋め込み平坦化した後、保護膜として例えば、SiOとSiN膜からなる保護膜10を形成する。その後、Au/TiまたはAl材料を用いて電極11を形成する。ここで、SiN膜を圧縮歪膜とすることで、Geの光吸収層4に引張の歪が入り、エネルギーバンドギャップが小さくなる。すなわち、1.55μm帯の長波長の光の吸収も可能になる。
【0028】
本実施例の表面入射型の場合、SiO層2の厚さを適当に選ぶことで、コンタクト層3とSiO層2の界面での反射を大きくした反射ミラー構造とすることが可能であり、量子効率(光の吸収効率)を改善できる。
【0029】
図1に示す構造を基に、本アバランシェフォトダイオードの性能について解析を行った。その結果(増倍率と3dB帯域の関係)を図2に示す。計算に用いたパラメーターは次の通りである。光吸収層i−Ge層厚:0.5μm、Si増倍層厚:0.1μm、受光径:15μm、光吸収層と増倍層を接合する電極面線:5x50μm、総静電容量(素子容量50fFと寄生容量3.4fFの和):53.4fF、Si増倍層のイオン化率比:0.1、Geの電子飽和速度6x10cm/s、Siの電子飽和速度1x10cm/sとした。素子抵抗Rsは、25Ωから100Ωまで変えて計算を行った。以上の結果から、素子抵抗Rsが50Ω以下であると、3dB帯が40GHz以上、増倍率が10以上の高速かつ高増幅率のアバランシェフォトダイオードが実現可能であることがわかる。
【0030】
本実施例によれば、上記構成とすることにより、低暗電流で、高速かつ高利得な光通信用アバランシェフォトダイオードを提供することができる。また、本アバランシェフォトダイオードは受信機に用いることが可能である。
【実施例2】
【0031】
第2の実施例について図3を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態又は実施例1に記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0032】
図3は、InGaAs光吸収層とSi増倍層を有するアバランシェフォトダイオードの断面図である。本アバランシェフォトダイオードは、Si基板1上に、SiO層2、p−InPのコンタクト層13、アンドープのInGaAsの光吸収層14、n−InPのコンタクト層15、n−Siのコンタクト層6、n−Siの増倍層7、n−Siのコンタクト層8、誘電体層9、保護膜10、電極11から構成される受光素子である。本実施例において、光吸収層14と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層14と増倍層7との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。
【0033】
なお、実施例1と異なる点について説明する。ここで、p−InPのコンタクト層13は、p−InGaAsPまたはp−InGaAlAsでもよい。さらに、、n−InPのコンタクト層15は、n−InGaAsPまたはn−InGaAlAsでもよい。
【0034】
本実施例において用いる基板は、III−V OI基板(III-V on Insulator:Si基板と表面III−V化合物半導体薄膜層の間にSiO層を挟んだ構造を有する基板)である。この基板は、高品質のIII−V結晶基板をウエハボンディングによりSi基板/SiO上に貼り付けた構造を有する。この基板を用いて、実施例1で述べた方法により本実施例におけるアバランシェフォトダイオードを作製する。
【0035】
本実施例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、InPを用いているので波長1.5μmが可能であり、長距離用として用いることができる。
【実施例3】
【0036】
第3の実施例について図4と図5を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態又は実施例1や2に記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0037】
図4は本実施例に係る2端子のアバランシェフォトダイオードの断面図であり、図5は3端子のアバランシェフォトダイオードの断面図である。なお、同一の符号は同一の構成を示す。本実施例において、光吸収層17と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層17と増倍層7との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。なお、符号16は電圧電源を示す。素子動作方法に関して以下に説明する。
【0038】
素子動作に必要な電界印加法として、2つの方法がある。1つは2端子間に電圧を印加する方法である(図4参照)。2つめは光吸収層17に印加する電界の制御と増幅層7に印加する電界の制御が各々独立に制御することが可能である3端子で電圧を印加する方法である(図5参照)。2端子の場合は、電圧電源が1つのため、電子回路が簡素化できる。一方、3端子の場合は、2つの電圧電源が必要なため、電子回路が複雑化する懸念があるが、各層に印加する印加電圧を正確に制御できるメリットがある。印加電圧を正確に制御できるもとにより、増倍率の正確な制御が可能になる。また、光吸収層17にのみ電圧を印加することにより、増幅機能のない通常のPINフォトダイオードとしても機能する。なお、符号18は光吸収層電界印加用電圧電源、符号19は増倍層電界印加用電圧電源を示す。
【0039】
本実施例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、3端子とすることにより、増倍層における像倍率の正確な制御が可能となる、また、アバランシェフォトダイオードと通常のPINフォトダイオードとの切り替えが可能な受光素子を提供することがきる。
【実施例4】
【0040】
第4の実施例について図6と図7を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態、実施例1〜3のいずれかに記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0041】
図6はメサ構造上面の結晶面が(100)面を有するアバランシェフォトダイオードの、図7は結晶面が(110)面を有するアバランシェフォトダイオードの鳥瞰図である。なお、同一の符号は同一の構成を示す。本実施例において、光吸収層17と増倍層が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層と増倍層との間は導電性配線により電気的に接続される。メサ構造の結晶面に関して以下について説明する。
【0042】
光吸収層を含むメサ構造において、Geの転位欠陥密度を減らすために、メサ構造を構成する結晶面を次の通りにするとよい。まず、図6に示すように、メサ構造の上面の結晶面20が(100)面、メサ構造の側面の結晶面21,22,23,24が(110)面とする。その他の構造として、図7に示すように、メサ構造の上面の結晶面25が(110)面、メサ構造の側面の内向かい合う2面の結晶面26と27が(100)面、その他の向かい合う2面の側面の結晶面28,29を(110)面とする。
【0043】
本実施例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、メサ構造の上面の結晶面を(100)面や(110)面とすることにより、欠陥密度が低減され、更なる低暗電流化を図ることができる。
【実施例5】
【0044】
第5の実施例について図8を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態、実施例1〜4のいずれかに記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0045】
図8はレンズを集積した裏面入射型アバランシェフォトダイオードの断面図を示す。本実施例において、光吸収層4と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層と増倍層との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。裏面入射型アバランシェフォトダイオードに関して以下に説明する。
【0046】
本実施例に関するアバランシェフォトダイオードは、Si基板1上に、SiO層2、p−Geのコンタクト層3、アンドープのGeの光吸収層4、n−Geのコンタクト層5、n−Siのコンタクト層6、n−Siの増倍層7、n−Siのコンタクト層8、誘電体層9、保護膜10、電極11、集積レンズ30から構成される受光素子である。ここで、実施例2で記載した構造である、コンタクト層3をp−InP、p−InGaAsPとp−InGaAlAsのどれか1層、光吸収層4をアンドープのInGaAs、コンタクト層5をn−InP、n−InGaAsPとn−InGaAlAsのどれか1層としてもよい。なお、符号31は入力光を示す。
【0047】
集積レンズ30により、受光部に入射時のビームスポットサイズを小さくでき、光結合トレランスを大幅に改善できる。この場合、SiO層2の厚さを適当に選ぶことで、Si基板1とSiO層2の界面での反射と、コンタクト層3とSiO層2の界面での反射を低減することが必要である。
【0048】
本実施例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、集積レンズを備えたことにより、結合トレランスを改善することができる。
【実施例6】
【0049】
第6の実施例について図9を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態、実施例1〜5のいずれかに記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0050】
図9は、基板端面から光を入射する導波路型のアバランシェフォトダイオードの断面図である。導波路型にすることで、光電変換効率を損なうことなく、吸収層を薄くすることができ高速動作が可能になる。本実施例において、光吸収層17と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層17と増倍層7との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。
【0051】
本実施例に関するアバランシェフォトダイオードは、Si基板1上に、SiO層2、コンタクト層3、光吸収層17、クラッド層32、コンタクト層5、コンタクト層6、増倍層7、コンタクト層8、誘電体層9、保護膜10、電極11から構成される受光素子である。基板端面から入射した光(入力光)33は、SiO層2とクラッド層32により光吸収層17付近に閉じ込められ、アバランシェフォトダイオード内を伝播する。
【0052】
本実施例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例7】
【0053】
第7の実施例について図10を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態、実施例1〜6のいずれかに記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0054】
図10は、Siの増倍層がSi基板上に形成されたアバランシェフォトダイオードの断面図である。本実施例における、光吸収層4と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層4と増倍層7との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。
【0055】
本実施例に関するアバランシェフォトダイオードは、Si基板1上に、SiO層2、p−Geのコンタクト層3、アンドープのGeの光吸収層4、n−Geのコンタクト層5、n−Siのコンタクト層6、n−Siの増倍層7、n−Siのコンタクト層8、誘電体層9、保護膜10、電極11から構成される受光素子である。ここで、実施例1と異なる点は、n−Siのコンタクト層6とn−Siの増倍層7とn−Siのコンタクト層8をSi基板上にエピタキシャル成長した高品質のSiにより形成することである。高品質Siにより暗電流の低減が可能になる。
【0056】
本実施例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、コンタクト層と増倍層がエピタキシャル層のため、暗電流が更に低減される。
【実施例8】
【0057】
第8の実施例について図11を用いて説明する。なお、発明を実施するための形態、実施例1〜7のいずれかに記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0058】
図11は、アバランシェフォトダイオードと、電気信号を増幅する機能を有する電子回路が集積された受信機の断面図である。本実施例において、光吸収層4と増倍層7が結晶面に対して平行方向(基板1上方において水平方向)に離間して配置されており、光吸収層4と増倍層7との間は導電性配線(電極)11により電気的に接続されている。
【0059】
本実施例に関するアバランシェフォトダイオードは、Si基板1上に、SiO層2、p−Geのコンタクト層3、アンドープのGeの光吸収層4、n−Geのコンタクト層5、n−Siのコンタクト層6、n−Siの増倍層7、n−Siのコンタクト層8、誘電体層9、保護膜10、電極11から構成される受光素子である。さらにここでは、誘電体層9を介して、Si層34、高ドープSi層35、絶縁膜36、ソース電極37、ゲート電極38、ドレイン電極39から構成されるCMOS回路を基本とした電気信号を増幅する機能を有する電子回路が形成され、受信機を構成している。電子回路作製の際に必要な高温アニールは、アバランシェフォトダイオード部分をSiO層と金属(Al,Cuなど)でマスキングした後、レーザアニールを用いて行う。
【0060】
本実施例によれば、低暗電流で、高速かつ高利得な光通信用アバランシェフォトダイオードを用いた受信機を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
帯域10GHz、増倍率10を超える光通信用アバランシェフォトダイオードは未だに開発されておらず、帯域10GHz超の長距離伝送には、PINフォトダイオードと半導体光増幅器が用いられている。しかし、PINフォトダイオードと半導体光増幅器では、消費電力が大きく、動作波長帯域も半導体光増幅器の帯域(約50nm)で制限されている。そこで、帯域10GHz、増倍率10を超える光通信用アバランシェフォトダイオードが実現できれば、低消費電力かつ広帯域であるため、高速長距離伝送における受信機として、PINフォトダイオードと半導体光増幅器に取って代わる技術となると考えられる。
【符号の説明】
【0062】
1…Si基板、2…SiO層、3…コンタクト層、4…Ge光吸収層、5…コンタクト層、6…コンタクト層、7…増倍層、8…コンタクト層、9…誘電体、10…保護膜、11…電極、12…入力光、13…コンタクト層、14…InGaAs光吸収層、15…コンタクト層、16…電圧電源、17…光吸収層、18…光吸収層電界印加用電圧電源、19…増倍層電界印加用電圧電源、20…(100)面、21…(110)面、22…(110)面、23…(110)面、24…(110)面、25…(110)面、26…(100)面、27…(100)面、28…(110)面、29…(110)面、30…集積レンズ、31…入力光、32…クラッド層、33…入力光、34…Si層、35…高ドープSi層、36…絶縁膜、37…ソース電極、38…ゲート電極、39…ドレイン電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収層と増倍層を有するアバランシェフォトダイオードにおいて、
当該光吸収層と増倍層は基板上の第1領域と第2領域に、各層を構成する結晶の結晶面に対して平行方向にそれぞれ互いに離間して配置されており、
当該光吸収層と増倍層との間は導電性配線により電気的に接続されていることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項2】
請求項1記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記光吸収層がGeまたはInGaAs,前記増倍層がSiで形成されていることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項3】
請求項2に記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記光吸収層と前記増倍層を形成する部分はメサ構造を有し、当該メサ構造の上面の結晶面が(100)面、当該メサ構造の側面の結晶面が(110)面であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項4】
請求項2に記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記光吸収層と前記増倍層を形成する部分はメサ構造を有し、当該メサ構造の上面の結晶面が(110)面、当該メサ構造の側面の内向かい合う2面が(110)面、その他の向かい合う2面が(100)面であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項5】
請求項2に記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記基板は、GeOI基板またはIII−V OI基板であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項6】
請求項5に記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記光吸収層に印加する電界の制御と前記増幅層に印加する電界の制御が各々独立に制御することが可能であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項7】
請求項6に記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記基板裏面側に形成したレンズを有し、光を前記基板裏面側から入射する裏面入射型アバランシェフォトダイオード。
【請求項8】
請求項6に記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
光を基板端面から入射する導波路型アバランシェフォトダイオード。
【請求項9】
請求項6に記載のアバランシェフォトダイオードと、
前記アバランシェフォトダイオードが形成されている前記基板上に形成され、電気信号を増幅する機能を有する電子回路とを有することを特徴とする受信機。
【請求項10】
基板と、
前記基板上の第1領域に形成された光吸収層と、
前記基板上であって、前記第1の領域とは異なる第2の領域に前記光吸収層とは互いに離間して形成された増倍層と、
前記光吸収層と前記増倍層との間を電気的に接続する導電性配線とを有することを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項11】
請求項10記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記増倍層は、Si層であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項12】
請求項10記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
入力光は、前記基板側から前記光吸収層へ入射する裏面入射型であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項13】
請求項10記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
入力光は、前記基板端面から前記光吸収層へ入射する導波路型であることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項14】
請求項10記載のアバランシェフォトダイオードにおいて、
前記導電性配線は、外部から電圧を印加することができるものであることを特徴とするアバランシェフォトダイオード。
【請求項15】
請求項10記載のアバランシェフォトダイオードと、
前記アバランシェフォトダイオードが形成されている前記基板上に形成され、電気信号を増幅する機能を有する電子回路とを有することを特徴とする受信機。

【図1(a)】
image rotate

【図1(b)】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−80728(P2013−80728A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2124(P2010−2124)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】