説明

アミノ酸挿入を含む遺伝子操作されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ

本発明は、アシネトバクターカルコアセティカス(Acinetobactor calcoaceticus)由来の公知のアミノ酸配列に対応する428位と429位との間のアミノ酸挿入を含む可溶性ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(s−GDH)の改善されたバリアント、そのようなバリアントsGDHをコードする遺伝子、グルコースに対して改善された基質特異性を有するそのようなs−GDHバリアントのタンパク質および特に、試料中の糖、とりわけグルコースの濃度を決定するためのこれらs−GDHバリアントの異なる応用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus)由来の既知であるアミノ酸配列、かかるバリアント s-GDHをコードする遺伝子、グルコースに対する改善された基質特異性を伴うかかるs-GDHバリアントのタンパク質、および特に糖、とりわけ試料中のグルコースの濃度の決定のための該 s-GDHバリアントの種々の応用物に対応する場合、428位と429位の間にアミノ酸挿入を含む可溶性ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(s-GDH)の改善されたバリアントに関する。
【0002】
(発明の分野)
臨床的診断および糖尿病の管理において、血液グルコース濃度の決定は極めて重要である。世界的におよそ1億5000万の人々が慢性疾患の真性糖尿病に罹患しており、WHOによると数字は2025年までに2倍になり得る。糖尿病は容易に診断、治療されるが、首尾よい長期間の管理には迅速にかつ正確に血液グルコース濃度を知らせる低コストの診断手段が必要とされる。PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.99.17)は、グルコースがグルコノラクトンに酸化される反応を触媒する。結果的に、この種類の酵素は血糖の測定に用いられる。これらの手段の一つは、もともとアシネトバクター・カルコアセチカスに由来するピロロキノリンキノン含有酵素である可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ(s-GlucDOR、EC 1.1.99.17)に基づく診断用ストリップ(strip)である。
【0003】
キノプロテインはアルコール、アミンおよびアルドースを、それらの対応するラクトン、アルデヒドおよびアルドリン酸(aldolic acid)に酸化する補因子としてキノンを用いる(Duine, J. A. 「The Biology of Acinetobacter」のEnergy generation and the glucose dehydrogenase pathway in Acinetobacter (1991) 295-312, New York, Plenum Press; Duine, J. A., Eur J Biochem 200 (1991) 271-284; Davidson, V. L., 「Principles and applications of quinoproteins」の本全体における (1993) New York, Marcel Dekker; Anthony, C, Biochem. J. 320 (1996) 697-711; Anthony, C. およびGhosh, M., Current Science 72 (1997) 716-727; Anthony, C, Biochem. Soc. Trans. 26 (1998) 413-417; Anthony, C. およびGhosh, M., Prog. Biophys. Mol. Biol. 69 (1998) 1-21)。キノプロテインの中で、非共有結合的に結合された補因子2,7,9-トリカルボキシ-1H-ピロロ[2,3-f]キノリン-4,5-ジオン(PQQ)を含有するこれらのものは、最大のサブグループを構成する(Duine 1991上述)。これまでに知られている全ての細菌性キノングルコースデヒドロゲナーゼは、補因子としてPQQを伴うこのサブグループに属する(AnthonyおよびGhosh 1997上述, Goodwin, P.M.およびAnthony, C, Adv. Microbiol. Physiol. 40 (1998) 1-80; Anthony, C, Adv. in Phot, and Resp. 15 (2004) 203-225)。
【0004】
2種類のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.99.17)が細菌において特徴付けられている:一つは膜結合型(m-GDH)であり、もう一つは可溶型(s-GDH)である。両型は、有意な配列相同性を全く共有しない(Cleton-Jansen, A. M.ら, MoI. Gen. Genet. 217 (1989) 430-436; Cleton-Jansen, A. M.ら, Antonie Van Leeuwenhoek 56 (1989) 73-79; Oubrie, A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 96 (1999) 11787-11791)。また、それらはその速度論および免疫学的特性の両方においても異なる(Matsushita, K.ら, Bioscience Biotechnol. & Biochem. 59 (1995) 1548-1555)。m-GDHはグラム陰性菌に広く存在しているが、s-GDHはアシネトバクター株のアシネトバクター・カルコアセチカス等(Duine, J.A., 1991a; Cleton-Jansen, A.M.ら, J. Bacteriol. 170 (1988) 2121-2125; MatsushitaおよびAdachi, 1993)およびA・バウマニ(baumannii)(JP 11243949)の原形質辺縁領域(periplasmatic space)においてのみ見つかっている。
【0005】
配列のデータベースを調査することにより、完全長のアシネトバクター・カルコアセチカス s-GDHに相同な二つの配列が、大腸菌(E.coli)K-12およびシアノバクテリア(Synechocystis)種で同定された。さらに、アシネトバクター・カルコアセチカス s-GDHに相同な二つの不完全配列が緑膿菌(P. aeruginosa)および 百日咳菌(Bordetella pertussis)(Oubrieら、 1999 a, b, c)ならびにエンテロバクター・インターメディウム(Enterobacter intermedium) (Kim, CH. ら, Current Microbiol. 47 (2003) 457-461)それぞれのゲノムにおいても見つかった。これら四つのまだ特徴付けられてないタンパク質の推定アミノ酸配列は、絶対的に保存された推定活性部位中の多くの残基に関して、A. カルコアセチカス s-GDHに密接に関連がある。これらの相同タンパク質は、同様の構造を有し、同様のPQQ依存性反応を触媒する可能性がある(Oubrieら, 1999 a, b, c; Oubrie A., Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 143-151; Reddy, S.および Bruice, T.C., J. Am. Chem. Soc. 126 (2004) 2431-2438; Yamada, M.ら, Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 185-192)。
【0006】
細菌性 s-GDHおよびm-GDHは、全く異なる配列および全く異なる基質特異性を有することが分かっている。例えば、アシネトバクター・カルコアセチカスは、二つの異なるPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含有しており、一つはインビボで活性であるm-GDHで、もう一つはインビトロでのみ活性を示し得る、s-GDHと呼ばれるものである。Cleton-Jansenら, 1988; 1989 a, bにより二つのGDH酵素をコードする遺伝子がクローン化され、これらのGDH遺伝子の両方のDNA配列が決定された。m-GDHと s-GDHの間に明らかな相同性はないので、m-GDHおよび s-GDHが完全に異なる二つの分子を示している事実が確証される。(Laurinavicius, V.ら, Biologija (2003) 31-34)。
【0007】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来のs-GDHの遺伝子を大腸菌中でクローニングした。細胞内で産生した後、細胞膜を通してs-GDHを原形質辺縁領域にトランスロケートした(Duine, J. A., 「The Biology of Acinetobacter」のEnergy generation and the glucose dehydrogenase pathway in Acinetobacter (1991) 295-312, New York, Plenum Press; Matsushita, K. および Adachi, O., 「Principles and applications of Quinoproteins」のBacterial quinoproteins glucose dehydrogenase and alcohol dehydrogenase (1993) 47-63, New York, Marcel Dekker)。アシネトバクター・カルコアセチカス 由来の天然のs-GDH様の、大腸菌中で発現させた組換えs-GDHは、単量体当り一つのPQQ分子および三つのカルシウムイオンを伴ったホモ二量体である(Dokter, P.ら, Biochem. J. 239 (1986) 163-167; Dokter, P.ら, FEMS Microbiol. Lett. 43 (1987) 195-200; Dokter, P.ら, Biochem. J. 254 (1988) 131- 138; Olsthoorn, A.および Duine, J. A., Arch. Biochem. Biophys. 336 (1996) 42-48; Oubrie, A.ら, J. MoI. Biol. 289 (1999) 319-333, Oubrie, A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 96 (1999) 11787-11791, Oubrie, A.ら, Embo J. 18 (1999) 5187- 5194)。s-GDHは、広い範囲の単糖および二糖を酸化して、さらにアルドン酸に加水分解される対応するケトンを生じ、また、PMS(フェナジンメトスルフェート)、DCPIP(2,6-ジクロロ-フェノールインドフェノール)、WB(Wurster 青)ならびにユビキノンQ1およびユビキノンQ2等の短鎖ユビキノン(Matsushita, K.ら, Biochem. 28 (1989) 6276-6280; Matsushita, K.ら, Antonie Van Leeuwenhoek 56 (1989) 63-72)、N-メチルフェナゾニウムメチルスルフェート等のいくつかの人工電子受容体(Olsthoorn, A. J. およびDuine, J. A., Arch. Biochem. Biophys. 336 (1996) 42-48; Olsthoorn, A. J.および Duine, J. A., Biochem. 37 (1998) 13854-13861)、ならびに電子導電性ポリマー(Ye, L.ら, Anal. Chem. 65 (1993) 238-241)に電子を供与し得る。s-GDHのグルコースに対する高い特異的活性(Olsthoorn, A. J.および Duine, J. A., (1996) 上述)およびその広域な人工電子受容体特異性を考慮すると、該酵素は分析的な応用について、特に診断的応用のグルコース決定に関する(生体-)センサーまたはテストストリップに使用されることについてよく適合している(Kaufmann, N.ら, 「Glucotrend」のDevelopment and evaluation of a new system for determining glucose from fresh capillary blood and heparinised blood (1997) 1-16, Boehringer Mannheim GmbH; Malinauskas, A.; ら, Sensors and Actuators, B: Chemical BlOO (2004) 395-402)。
【0008】
グルコース酸化は少なくとも三つの全く区別された酵素の群、すなわちNAD/P依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、フラビンタンパク質グルコースオキシダーゼ、またはキノプロテインGDHにより触媒され得る(Duine, J.A., Biosens. Bioelectronics 10 (1995) 17-23)。減少したs-GDHの少しゆっくりとした自己酸化が観察され、これにより酸素はs-GDHに対する非常に弱い電子受容体であることが示される(Olsthoornおよび Duine, 1996)。s-GDHは、還元されたキノンからPMS、DCPIP、WBならびにQ1およびQ2等の短鎖ユビキノンのようなメディエータへと効率的に電子を供与し得るが、直接酸素へは効率的に電子を供与し得ない。
【0009】
例えば糖尿病患者由来の血液、血清および尿中のグルコース値をモニタリングするための典型的なテストストリップおよびセンサーには、グルコースオキシダーゼが使用される。該酵素の性能は酸素濃度に依存する。空気中、異なる酸素濃度を有する異なる高度でのグルコース測定は、誤った結果を生じ得る。PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの主な利点は、酸素非依存性である。この重要な特徴は、例えば、膜結合型GDHのいくつかの特徴が調査されたUS 6,103,509において議論される。
【0010】
該分野への重要な貢献は、s-GDHを適切なメディエータと共に使用することである。s-GDHに基づくアッセイ法およびテストストリップデバイスは、US 5,484,708に詳細に開示される。本特許もまた、グルコースの測定に関するアッセイの企画およびs-GDHベースのテストストリップの作成について詳述された情報を包含する。そこで、および引用された文書中で記載された方法は、参照によって本明細書に包含される。
【0011】
該分野に関連し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を伴った酵素について、種々の応用の形態における特定の情報を包含する他の特許または出願は、US 5,997,817; US 6,057,120; EP 0 620 283; および JP 11-243949-Aである。
【0012】
s-GDH、および反応が起こった際に色の変化を生じるインジケータ(Kaufmannら. 1997上述)を用いる市販の系は、Roche Diagnostics GmbHにより配給されるGlucotrend(登録商標)系である。
【0013】
PQQ依存性GDHの使用に関する利点を上記で議論したが、グルコースの決定において短所も考慮しなければならない。該酵素は、m-GDHと比べるとかなり広い基質領域を有する。つまり、s-GDHはグルコースだけでなく、マルトース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、キシロースおよびリボースを含むほかの複数の糖も酸化する(Dokterら. 1986 a; Oubrie A., Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 143-151)。ある場合に、グルコース以外の糖に対する反応性は、血中グルコース値の決定の精度を損ない得る。イコデキストリン(グルコースポリマー)による治療を受け、腹膜透析中の特定の患者において、体液中、例えば血中に、高レベルの他の糖、特にマルトースが含有され得る(Wens, R. ら, Perit. Dial. Int. 18 (1998)603-609)。
【0014】
従って、例えば糖尿病患者、特に腎臓合併症を患う患者、および特に透析中の患者から採取した臨床試料は、有意なレベルの他の糖、特にマルトースを含み得る。このような危険な状態の患者から採取した試料のグルコース決定はマルトースにより阻害され得る(Davies, D., Perit. Dial. Int. 14 (1994) 45-50; Frampton, J. E.; および Plosker, G. L, Drugs 63 (2003) 2079-2105)。
【0015】
基質特異性を変化させた、改変したPQQ依存性s-GDHを作製する試みについて、文献中にほとんど報告がない。Igarashi, S.ら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 264 (1999) 820-824には、Glu277位に点変異を導入することで変化した基質特異性プロフィールを有する変異体を生じることが報告される。
【0016】
Sode、EP 1 176 202には、s-GDH内の特定のアミノ酸置換により、グルコースに対する親和性が改善された変異体s-GDHが生じることが報告される。EP 1 167 519において、同一の著者は安定性が改善された変異体s-GDHについて報告される。さらに、JP2004173538において、同一の筆者により、グルコースに対する親和性が改善された他のs-GDH変異体について報告する。
【0017】
Kratzsch, P. ら, WO 02/34919により、他の糖基質と比較した際に、特にマルトースと比較した際に、s-GDHの特定の位置のアミノ酸置換によってs-GDHのグルコースに対する特異性が改善され得ることが報告される。
【0018】
Takeshima, S. ら(EP 1 367 120)には、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知のアミノ酸配列に対応する場合、特定のアミノ酸置換または427位と428の間のアミノ酸挿入を含む、変異型s-GDHが報告される。
【0019】
しかしながら、さらに改善された特性を有するs-GDHの変異体またはバリアントの作製に関してかなりの改良が報告されてきたが、代替的および/またはさらなる改良がなお要求される。
【0020】
従って、単独で、または既知の変異体と組み合わせることで基質としてのグルコースに対する改善された特異性を生じる、s-GDHのさらなる変異体またはバリアント形態についての大きな需要および臨床的必要性が存在する。
【0021】
単独または既知の変異体と組み合わせることのいずれかで、例えばガラクトースまたはマルトース等の他の選択された糖分子と比較した際に、グルコースに対する有意に改善された基質特異性を生じる、新しいs-GDHの変異体またはバリアントを提供することが、本発明の課題であった。
【0022】
驚くべきことに、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知のアミノ酸配列に対応する場合、s-GDHの428位と429位の間にアミノ酸挿入を作製することで、他の糖と比べてグルコースに対するs-GDHの基質特異性を有意に改善させることが可能であること、ならびにそれにより当該分野で公知の上述の課題が少なくとも部分的に克服されることが発見された。
【0023】
本発明に従って、ならびに本明細書中以下および添付の特許請求の範囲に記載されるように、s-GDHの挿入バリアントを提供することで、他の選択された糖分子と比べて、グルコースに対する基質特異性は有意に改善された。
【0024】
s-GDHの新しい形態の改善された基質特異性のために、種々の分野の応用におけるグルコース決定について重大な技術的進歩が可能である。生物試料中、特にテストストリップデバイスまたはバイオセンサーにおけるグルコースの特異的な検出または測定のために大きな利点を有する、改善されたs-GDHバリアントが用いられ得る。
【0025】
(発明の概要)
本発明は、EC 1.1.99.17の可溶型形態のバリアントに関し、これはアシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間に、少なくとも一つのアミノ酸残基挿入を含み、任意に一つ以上のアミノ酸置換、好ましくは348位および428位での置換をさらに含む、PQQ依存性可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ(s-GDH)としても公知である。
【0026】
改善された特性、特に増大したグルコースに対する特異性を示すs-GDHの好ましいバリアントおよびかかるバリアントをコードするポリヌクレオチド配列、かかるポリヌクレオチド配列を含む発現ベクター、ならびに前記発現ベクターを含有する宿主細胞も提供される。
【0027】
本発明はさらに、グルコースの測定方法、特にテストストリップデバイスまたはバイオセンサーによる方法における、本発明に従ったバリアントの使用に関する。
【0028】
以下の実施例、参考文献、配列表および図面は本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。本発明の精神を逸脱することなく、記載の手順において変更がなされ得ることが理解されよう。
【0029】
(発明の詳細な説明)
上述のように、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する二つの完全に異なるキノプロテイン酵素型(膜結合型および可溶型)は、共にEC 1.1.99.17の下に分類される。これら二種類は、互いに関連がないように思われる。
【0030】
本発明の目的に関して、GDHの可溶型形態(s-GDH)のみが意味のあるものであり、その改善されたバリアントが本明細書中、以下で議論される。
【0031】
第一の態様において、本発明は、EC 1.1.99.17の可溶型形態のバリアントに関し、これはアシネトバクター・カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間に少なくとも一つのアミノ酸残基挿入を含み、任意に一つ以上のアミノ酸置換をさらに含む、PQQ依存性可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ(s-GDH)前記バリアントとしても公知である。
【0032】
好ましくは、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間に、ただ一つのアミノ酸が挿入される。
【0033】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間に、アミノ酸挿入を含むs-GDHバリアントが、前記の挿入アミノ酸がロイシン、フェニルアラニン、メチオニンおよびプロリンからなる群より選択されるという特徴を有することがさらに好ましい。好ましくは、挿入アミノ酸はプロリンである。
【0034】
可溶性のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型DNA配列は、アシネトバクター株より単離され得ることが、当該分野で公知である。アシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株より単離されることが最も好ましい。この野生型s-GDH(成熟型タンパク質)の配列は配列番号2に与えられる。アシネトバクターの他のLMD株も野生型s-GDHの供給源として使用され得る。かかる配列はアシネトバクター・カルコアセチカスから得られた配列と整列され、配列比較され得る。他の細菌株、例えば大腸菌K-12について記載されるようなDNAライブラリーをスクリーニングすること(Oubrie, A.ら, J. MoI. Biol. 289 (1999) 319-333)、および該ゲノム中のs-GDHに関連のある配列を同定することも実現可能であるように思われる。かかる配列、および依然未同定の相同配列は、改善された基質特異性を有するs-GDHバリアントを作製するために使用され得る。
【0035】
本発明の意味において、用語「バリアント」は、対応する野生型配列と比較してアシネトバクター・カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間にアミノ酸挿入を有する、s-GDHタンパク質に関する。
【0036】
本発明の意味において、用語「変異体」は、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)と比較される際に、対応する野生型配列と比較して少なくとも一つのアミノ酸置換を有する、s-GDHタンパク質に関する。
【0037】
従って、用語「バリアント」または「変異体」は、対応する野生型配列と比較してアシネトバクター・カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間にアミノ酸挿入に加えて少なくとも一つのアミノ酸置換を有する、s-GDHタンパク質に対して両方相互に適用する。
【0038】
さらに好ましい態様において、s-GDHの改善されたバリアントの酵素的または機能的特性を、野生型酵素または428位と429位の間にアミノ酸挿入を有さない変異体それぞれと比較する。
【0039】
本発明に従った好ましいバリアントは、対応する野生型酵素に対して、少なくとも一つの他の選択された糖基質と比較した際に、少なくとも2倍の改善されたグルコースに対する基質特異性を有するという特徴を有する。
【0040】
基質特異性または交差反応性を計算するためのある簡便な方法は、基質としてグルコースを用いて測定された活性を100%に設定して、他の選択された糖で測定された活性をグルコースの値と比較することである。時々、重複にならないために、一方でグルコースについて、他方で他の選択された糖について特別に言及することがないよう、用語特異性を単純に使用する。
【0041】
十分に規定されたアッセイ条件を用いて、調査される基質分子の等モル濃度で、酵素活性の比較が最も良くなされることを当業者は理解するであろう。そうでないならば、濃度の差の修正を行わなければならない。
【0042】
基質特異性(の改善)を評価するために標準化され十分に規定されたアッセイ条件を選択する必要がある。基質としてグルコースに対する、ならびに他の選択された糖基質に対するs-GDHの酵素活性を、実施例7に記載のように測定する。
【0043】
グルコースまたは選択される種々の糖、好ましくはマルトースに対するこれらの酵素活性の測定に基づいて、交差反応性(およびその改善したもの)を評価する。
【0044】
選択された糖に対するs-GDH(交差)反応性のパーセントは、
交差反応性[%]=(選択された糖の活性/グルコースの活性)×100%
で計算される。
【0045】
上述の式に従い、野生型s-GDHのマルトースに対する(交差)反応性は、約105%と決定された。ガラクトースに対する野生型s-GDH(交差)反応性は、約50%と測定された(表1参照)。
【0046】
(改善された)特異性は以下の式:


に従って計算される。
【0047】
野生型酵素と比較した場合、基質としてマルトースを用いることによってマルトースに対するグルコースの特異性(マルトース/グルコース)において、少なくとも10倍の改善を有するs-GDH形態は、基質としてグルコースを用いて測定した場合に多くて10.5%の活性を有する。または、例えば変異体s-GDHが、マルトースに対して20%の交差反応性(上述のように決定され、計算された)を有する場合、これにより野生型s-GDHと比較した際にこの変異体は5.25倍の改善された基質特異性(マルトース/グルコース)を有する。
【0048】
用語、基質に対する「比活性」は、当該分野において周知であり、好ましくはタンパク質の量当りの酵素活性を述べるために使用される。基質としてグルコースまたは他の糖を使用してGDH分子の特異的な活性を測定するために、当該分野には種々の方法が知られている(Igarashi, S.ら, (1991)上述)。かかる測定に利用可能な方法の一つは実施例の部に詳細に記載される。
【0049】
多くの異なる糖分子を選択すること、および任意のかかる選択された糖分子と比較してs-GDHのグルコース特異性を調査することは可能であるが、かかる比較のために臨床的に関係のある糖分子を選択することが好ましい。好ましい選択された糖は、マンノース、アロース、ガラクトース、キシロース、およびマルトースからなる群より選択される。好ましくは、マルトースまたはガラクトースが選択され、ガラクトースまたはマルトースと比較した際に、グルコースに対する改善された特異性について変異体s-GDHが試験される。さらに好ましい態様において、選択される糖はマルトースである。
【0050】
本発明に従った、s-GDHバリアントのグルコース特異性、例えばマルトース対グルコースの改善は、相当に考慮すべきものであるということが分かった。従って、選択された他の糖基質の少なくとも一つに対する基質特異性と比較した場合、グルコースに対する前記基質特異性は、少なくとも3倍改善することがさらに好ましい。他の好ましい態様には、選択された他の糖分子と比較した際に、少なくとも5倍高いかまたは好ましくは少なくとも10倍高いグルコースに対する改善された基質特異性により特徴付けられるs-GDH変異体が含まれる。
【0051】
多くの場合、s-GDH内の変異によって基質グルコースに対して劇的に減少した比活性を有する酵素バリアントが生じる。しかしながら、基質グルコースに対する比活性の10倍より大きい減少(絶対的または全体的)は常套的な応用に対しては重大であり得る。従って、基質グルコースに対して改善された特異性を有するs-GDHが、野生型酵素で測定したのに比べてグルコースに対して少なくとも10%の比活性を示すことが好ましい。いうまでもなく、これらの変異型酵素がそれぞれの野生型s-GDHのグルコース活性の少なくとも20%、またはより好ましくは少なくとも30%を示すことがより好ましい。
【0052】
テストストリップまたは液体試験で対応する野生型酵素を測定した場合に比べて、マルトース比活性が10%以下またはわずか5%以下のみのマルトース比活性である変異がさらに好ましいが、対応する野生型酵素のグルコースに対する比活性と比較した場合に、グルコースに対する比活性は、10%以上である。
【0053】
明確に規定された特定のアミノ酸位置で、かかるバリアントに一つ以上のアミノ酸置換をさらに含ませるように、さらに改変することで、428位と429位の間に挿入を含むs-GDHバリアントの基質特異性をさらに改善させることが可能であると分かる。
【0054】
アシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株より単離されたs-GDHの野生型配列である配列番号2由来の公知であるアミノ酸位置を参照することで、本発明の功績が非常に詳細に記載される。適切な配列比較により、配列番号2の位置に対応する異なるs-GDH単離物のアミノ酸位置は容易に同定される。
【0055】
GCG Packageバージョン10.2のPileUpプログラム(Genetics Computer Group, Inc.)によりs-GDH配列と配列番号2の野生型配列とのマルチプルアライメントおよび比較を行う。PileUpにより、Feng, D. F.および Doolittle, R. F., J. MoL Evol. 25 (1987) 351-360のプログレッシブアライメント法を簡略化したものを用いて、マルチプル配列アライメントを作成し、同一、類似または異なるアミノ酸残基についてのスコアリングマトリクスが結果的に定義される。最も類似した二つの配列のペアワイズアライメントでこのプロセスは開始され、整列された二つの配列のクラスターを作成する。次いで、このクラスターは次の最も関連のある配列、または整列された配列のクラスターと整列され得る。二つの各個の配列のペアワイズアライメントの単純な拡張により、二つの配列クラスターが整列される。最終的なアライメントは、全配列が最終的なペアワイズアライメントに含まれるまで、だんだん類似しない配列およびクラスターを含む一連のプログレッシブペアワイズアライメントにより達成される。この方法で、配列番号1および2のそれぞれのアシネトバクター・カルコアセチカス s-GDHについての所定の位置に対応する場合に、他の相同なs-GDH分子内の位置が容易に同定される。これは、本明細書中に定められたアミノ酸位置が、配列番号2のアミノ酸位置または別の相同なs-GDH分子内の位置に対応する位置として理解されるためである。
【0056】
s-GDHの428位と429位の間にアミノ酸挿入を有する組み合わせにおいて、348位に対応する位置にアミノ酸置換を含むs-GDHの変異体は、グルコースに対する特異性に関して著しい正の効果を示すとわかっている。表1に示されるように、グルコースに対して改善された特異性を有する種々のs-GDHバリアントが同定され、産生される。348位トレオニンであるアミノ酸が適切な他のアミノ酸に置換され、適切なアミノ酸が428位と429位の間に挿入される限り、バリアントs-GDHについてのグルコース特異性の改善は見られる。従って、本発明の非常に好ましい態様は、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知のs-GDH野生型配列(配列番号2)のアミノ酸428と429の間に挿入を含み、さらに348位に対応するアミノ酸位置でアミノ酸残基の置換を含む、PQQ依存性s-GDHのバリアントタンパク質に関する。
【0057】
配列番号2の169位、171位、245位、341位、349位および/または428位に対応するアミノ酸位置でのさらなる置換は、アミノ酸428と429の間に挿入、および348位にアミノ酸残基置換を含むs-GDHバリアントのグルコースに対する特異性をさらに改善する努力において有利であるということもわかっている。
【0058】
348位のトレオニン残基、またはアシネトバクター・カルコアセチカス型LMD79.41株から単離されたs-GDHの428位と429位の間のアミノ酸の挿入のいずれも、s-GDHの基質結合に貢献する技術から公知ではない(Oubrie, A.ら, Embo J. 18 (1999) 5187-5194; Oubrie, A. およびDijkstra, B. W., Protein Sci. 9 (2000) 1265-1273)。目的の他の糖分子、特にマルトースと比較した際に、s-GDHの特にこれら二つの改変がグルコースに対する基質特異性を改善する理由について、化学的または物理的な説明は手近にはない。
【0059】
さらに好ましい態様において、バリアントs-GDHは348位のアミノ酸残基トレオニンがアラニン、グリシンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸残基で置換されることで特徴付けられる。より好ましい態様において、グリシンを用いて348位のトレオニンを置換する。専門用語T348Gは当業者に公知であり、348位のトレオニンがグリシンに置き換わったことを示す。
【0060】
さらに好ましい態様は、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号:2)の428位と429位に対応するアミノ酸位置の間の少なくとも一つのアミノ酸残基挿入、および428位に対応するアミノ酸位置の少なくとも一つのアミノ酸残基置換を含む、PQQ依存性可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ(s-GDH)としても公知であるEC 1.1.99.17の可溶性形態バリアントである。好ましくは、428位でのアスパラギンの置換は、ロイシン、プロリンおよびバリンによってなされる。428位でのより好ましい置換は、プロリンによってなされる。
【0061】
本発明に従った、好ましいs-GDHのバリアントのある群には、348位でのアミノ酸残基の置換、および/または428位でのアミノ酸置換、ならびに428位と429位の間のアミノ酸挿入が包含される。これらのバリアントは、任意に、さらに改変されて、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の、169位、171位、245位、341位、および/または349位に対応するアミノ酸位置で、一つ以上のアミノ酸置換を含み得る。
【0062】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の169位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸ロイシンがフェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンに置換されることが好ましい。169位におけるより好ましい置換は、フェニルアラニンによってなされる。
【0063】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の171位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸チロシンがアラニン、メチオニン、グリシンからなる群より選択されるアミノ酸によって置換されることが好ましい。171位におけるより好ましい置換は、グリシンによってなされる。
【0064】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の245位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸グルタミン酸がアスパラギン酸、アスパラギンまたはグルタミンによって置換されることが好ましい。245位におけるより好ましい置換は、アスパラギン酸によってなされる。
【0065】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の341位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸メチオニンがバリン、アラニン、ロイシンまたはイソロイシンによって置換されることが好ましい。341位におけるより好ましい置換は、バリンによってなされる。
【0066】
アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の349位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸バリンがアラニン、グリシンによって置換されることが好ましい。349位におけるより好ましい置換は、アラニンによってなされる。
【0067】
WO 02/34919に記載されるように、アシネトバクター・カルコアセチカスから単離された野生型配列に対応するs-GDH配列の348位におけるアミノ酸の置換を用いて、s-GDHのグルコース特異性を有意に改善させ得る。当業者はWO 02/34919において、本発明に従った挿入と共に置換され、組み合わせられ得る他の適切な位置を見つける。
【0068】
さらに好ましい態様において、本発明に従ったs-GDHバリアントはアミノ酸残基428と429の間の挿入に加えて、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)のアミノ酸位置に対応する171位、245位、341位、348位および349位からなる群より選択される、少なくとも二つのアミノ酸置換を含む。
【0069】
さらに好ましい態様において、本発明に従ったs-GDHバリアントはアミノ酸残基428と429の間の挿入に加えて、アシネトバクター・カルコアセチカス由来の既知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)のアミノ酸位置に対応する171位、245位、341位、348位および349位からなる群より選択される、少なくとも三つのアミノ酸置換を含む。
【0070】
当業者が理解するように、s-GDHの特性に有意な程度にまで影響しない、サイレント変異等のアミノ酸置換を計画することは可能である。しかしながら、配列番号2と比較した際に、本発明に従ったバリアントは、45個以下のアミノ酸の交換を有する。好ましくは、バリアントは20個以下のアミノ酸置換を含み、より好ましくは10個のみのアミノ酸置換、またはそれ未満の置換が存在する。
【0071】
本発明に従ったs-GDHバリアントは、実施例の部に提供される。また、これらのバリアントは本発明の好ましい態様を提示する。これまでに見つかっている、最小のグルコース干渉を有するバリアントは、アミノ酸428と429の間に、好ましくはプロリンによる挿入、ならびに変異Y171G、E245D、M341VおよびT348G、または変異L169F、Y171G、E245D、M341VおよびT348Gをそれぞれ含む。これら二つのバリアントも、本発明のさらに好ましい態様である。
【0072】
アミノ酸配列分析により、一方でアシネトバクター・カルコアセチカスおよびもう一方でA・バウマニ由来の野生型s-GDHに見られる配列動因(motive)は、本発明において同定されたような、すなわちアシネトバクター・カルコアセチカス由来の野生型s-GDHに対応する428位および429位の周辺の挿入部位のような、グルコースに対する特異性の改善に大きく関連する位置の周辺で、非常に保存的であると思われることが明らかとなった。
【0073】
アミノ酸配列AGNXaaVQK(配列番号2)を含むPQQ依存性s-GDHのバリアントは、本発明の好ましい態様を示す。配列番号2はアシネトバクター・カルコアセチカス野生型s-GDHの位置426-431、またはA・バウマニ野生型s-GDHの位置427-432に対応するが、428位と429位の間(アシネトバクター・カルコアセチカス)または429位と430位の間(A・バウマニ)それぞれに一つのアミノ酸挿入(Xaa)を含む。
【0074】
好ましい態様において、本発明は配列G-N-Xaa-V-Q-K-D(配列番号11)を含むバリアントs-GDHに関する。好ましくは、配列番号11を含むs-GDHバリアントは、前記の挿入されたアミノ酸Xaaがロイシン、プロリン、フェニルアラニンおよびメチオニンからなる群より選択され、より好ましくはXaaがプロリン残基であるという点でさらに特徴的である。
【0075】
さらに上述されるように、野生型s-GDHの428位で、アミノ酸アスパラギンはアミノ酸置換にかけられ得る。この場合配列番号11はP428の代わりの置換されたアミノ酸を含む。
【0076】
変異体タンパク質を作るための多くの可能性が当該分野に公知である。428位と429位の間のアミノ酸挿入についての決定的な重要性を開示する本発明の重要な発見に基づいて、当業者は今日、s-GDHのさらに適切なバリアントを容易に作製し得る。かかるバリアントは、例えばランダム変異誘発(Leung, D. W.ら, Technique 1 (1989) 11-15)および/または直接変異誘発(Hill, D. E.ら, Methods Enzymol. 155 (1987) 558-568)として公知の方法により得ることができる。所望の特性を有するタンパク質を作製する代替的な方法により、少なくとも二つの異なる供給源由来の配列エレメントを含有するキメラ(chimaeric)構築物が提供されるか、または適切なs-GDH遺伝子が完全に合成され得る。当該分野に公知のかかる手法は、配列番号2の428位と429位の間の開示された挿入と組み合わせた付加的なアミノ酸置換等を含む、s-GDHの変異体またはバリアントを提供するように、本発明中に開示された情報と組み合わせて使用され得る。
【0077】
本発明に従ったs-GDHバリアントは、例えばアシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株から単離されたs-GDH遺伝子から開始すること、ならびに相同配列から開始することにより作製され得る。本願文脈中の用語「相同な」は、配列番号2と比較した際に少なくとも90%の同一性を有するs-GDHアミノ酸配列を含むことを意味する。言い換えれば、PileUpプログラムを用いた適切なアライメント後に、かかる相同なs-GDHのアミノ酸の少なくとも90%が配列番号2に記されるアミノ酸と同一である。
【0078】
DNAおよびアミノ酸の配列のバリエーションは、天然に存在するかまたは当該分野に公知の方法を用いて意図的に誘導され得ることが理解されよう。これらのバリエーションは、配列番号2と比較した際に前記配列中の一つ以上のアミノ酸残基の欠損、置換、挿入、逆位または付加のために、全配列中で10%以下のアミノ酸相違を生じ得る。かかるアミノ酸置換は、例えば含まれる残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性における類似性に基づいてなされ得る。例えば、負に帯電したアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ;正に帯電したリジンおよびアルギニンが挙げられ;同様の親水性値を有する非荷電極性ヘッドグループまたは非極性ヘッドグループを有するアミノ酸としては以下、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシンが挙げられる。他の企図されるバリエーションとしては、前述のポリペプチドの塩およびエステル、ならびに前述ポリペプチドの前駆体、例えばメチオニン、リーダー配列として用いられるN-ホルミルメチオニン等のN末端置換を有する前駆体が挙げられる。かかるバリエーションは、本発明の範囲および精神を必然的に逸脱することなく作製され得る。
【0079】
当該分野の情勢において公知の手法に従って、または実施例の部に与えられる手法に従って、上述の任意のs-GDH変異体をコードするポリヌクレオチドを得ることは可能である。従って、本発明は上述のs-GDH変異体タンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド配列も含む。
【0080】
本発明は、宿主細胞中で発現を指向し得るプロモーター配列に作動可能に連結された本発明に従う核酸配列を含む発現ベクターをさらに包含する。
【0081】
本発明は、宿主細胞中で発現を指向し得るプロモーター配列に作動可能に連結された本発明に従う核酸配列を含む発現ベクターをさらに包含する。好ましいベクターは、図2および3に示されるpACSGDHのようなプラスミドである。
【0082】
本発明に有用な発現ベクターは、典型的には、複製の起点、選択のための抗生物質耐性、発現のためのプロモーターおよびs−GDH遺伝子バリアントの全部または一部を含む。発現ベクターはまた、シグナル配列(よりよい折り畳み、ペリプラズムへの輸送または分泌)、発現のよりよい調節のための誘発因子、またはクローニングのための切断部位などの、当該分野に公知の他のDNA配列を含む。
【0083】
選択された発現ベクターの特徴は、使用されるべき宿主細胞に適合性がなければならない。例えば、大腸菌細胞系でクローニングする場合、発現ベクターは、大腸菌細胞のゲノムから単離されたプロモーター(例えば、lacまたはtrp)を含むべきである。ColE1プラスミド複製起点のような適切な複製の起点が使用され得る。適切なプロモーターとしては、例えば、lacおよびtrpが挙げられる。発現ベクターが抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーをコードする配列を含むこともまた好ましい。選択可能なマーカーとして、アンピシリン耐性またはカナマイシン耐性が都合よく使用され得る。これらの物質の全ては、当該分野において公知であり、市販される。
【0084】
所望されるコード配列および制御配列を含む適切な発現ベクターは、当該分野で公知の標準的な組換えDNA技術を使用して構築され得、これらの多くは、Sambrookら、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual” (1989) Cold Spring Harbor, NY, Cold Spring Harbour Laboratory Pressに記載される。
【0085】
本発明はさらに、変異体s−GDHの全てまたは一部をコードするDNA配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞に関する。好ましくは、宿主細胞は、実施例2〜8に示される1つ以上の変異を有するDNA配列の1つの全てまたは一部を含む発現ベクターを含む。適切な宿主細胞としては、例えば、Pomega (2800 Woods Hollow Road, Madison, WI, USA)から入手可能な大腸菌HB101(ATCC33694)、Stratagene (11011 North Torrey Pine Road, La Jolla, CA, USA)から入手可能なXL1-Blue MRF’などが挙げられる。
【0086】
発現ベクターは、当該分野で公知の種々の方法によって宿主細胞に導入され得る。例えば、発現ベクターでの宿主細胞の形質転換は、ポリエチレングリコール媒介プロトプラスト形質転換法によって実施され得る(Sambrookら、1989 前記)。しかし、宿主細胞に発現ベクターを導入するための他の方法、例えばエレクトロポレーション、微粒子銃注入またはプロトプラスト融合がまた、使用され得る。
【0087】
s−GDHバリアントを含む発現ベクターが、いったん適切な宿主細胞に導入されると、宿主細胞は、所望されるs−GDHバリアントの発現を可能にする条件下で培養され得る。変異体s−GDHの全てまたは一部をコードするDNA配列を有する所望の発現ベクターを含む宿主細胞は、すなわち抗生物質選択によって容易に同定され得る。s−GDHバリアントの発現は、s−GDH mRNA転写物の産生を測定すること、遺伝子産物を免疫学的に検出することまたは遺伝子産物の酵素活性を検出することのような異なる方法によって同定され得る。好ましくは、酵素活性が適用される。
【0088】
本発明はまた、s−GDHバリアントの産生およびスクリーニングを教示する。ランダム突然変異誘発および飽和突然変異誘発は、当該分野で公知として実施される。バリアントは、グルコースに対する基質特異性(マルトースに比べたグルコースでの活性)およびKM値についてスクリーニングされる。選択されたアッセイ条件は、単一のアミノ酸置換によって引き起こされた期待される小さな増大が測定され得ることを確実にするように適合される。適切な変異体の選択またはスクリーニングの1つの様式は、実施例3に与えられる。このように、野生型酵素と比較した場合任意の変化または改善は、明らかに検出され得る。
【0089】
もちろん、全ての発現ベクターおよびDNA調節配列が本発明のDNA配列を発現するように等しく良好には機能しないことが理解されるべきである。全ての宿主細胞もまた同じ発現系と共に等しく良好には機能しない。しかし、当業者は、過度の実験をせずに本明細書中に提供される手引きを使用して、発現ベクター、DNA調節配列および宿主細胞の間で適切な選択をする。
【0090】
本発明はまた、本発明の変異体s−GDHの産生に適切な条件下で本発明の宿主細胞を培養する工程を包含する、本発明のs−GDHバリアントを産生するためのプロセスに関する。細菌宿主細胞に対する、典型的な培養条件は、炭素および窒素源、適切な抗生物質ならびに誘導剤(使用された発現ベクターに依存して)を含む液体培地である。典型的で適切な抗生物質としては、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリンなどが挙げられる。典型的な誘導剤としては、IPTG、グルコース、ラクトースなどが挙げられる。
【0091】
本発明のポリペプチドは、変異体s−GDHをコードするDNA配列を発現する宿主細胞中での産生によって得られるのが好ましい。本発明のポリペプチドはまた、変異体s−GDHをコードするDNA配列によってコードされるmRNAのインビトロ翻訳によって得られる。例えば、DNA配列は、上記のように合成され、適切な発現ベクターに挿入され、次いで、この発現ベクターは、インビトロ転写/翻訳系において使用され得る。
【0092】
無細胞ペプチド合成系において発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結される、規定され上記されるとおりの単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、本発明の別の好ましい態様を示す。
【0093】
次いで、例えば、上記されるような手順によって産生されるポリペプチドは、単離され、種々の常套的なタンパク質精製技術を使用して精製され得る。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーおよび親和性クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー手順が使用され得る。
【0094】
本発明の改善されたs−GDHバリアントの主要な応用の1つは、糖尿病患者において血中グルコースレベルをモニターするためのテストストリップにおける使用のためである。PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの酸素に対する無反応性は、上記されるように、グルコースオキシダーゼに比べての大きな利点である。より重要なことに、s−GDHバリアントがグルコースに対して改善された特異性を有し他の糖に対して有意に減少した酵素活性を有するので、マルトース、ガラクトース、および/または分析されるべき試料中に存在し得るほかの関連する糖による干渉が有意に減少される。もちろん、多くの種類の試料が調査され得る。血清、血漿、腸液または尿のような体液は、このような試料にとって好ましい供給源である。
【0095】
本発明はまた、本発明に従うs−GDH変異体を使用して試料中のグルコースを検出、決定または測定する方法を包含する。グルコースの該検出、決定または測定がセンサーまたはテストストリップデバイスを使用して実施されることにおいて、試料中のグルコースの検出のための改善された方法が特徴付けられることは特に好ましい。
【0096】
本発明に従うs−GDH変異体および前記測定に必要な他の試薬を含む試料中のグルコースの検出または測定のためのデバイスはまた、本発明の範囲内である。
【0097】
本発明の改善された基質特異性を有するs−GDHバリアントはまた、試料または反応物中のグルコースのオンラインモニタリングのためのバイオセンサー(D'Costa, E. J.ら、Biosensors 2 (1986) 71-87; Laurinavicius, V.ら、Analytical Letters 32 (1999) 299-316; Laurinavicius, V.ら、Monatshefte fuer Chemie 130 (1999) 1269-1281; Malinauskas, A.ら、Sensors and Actuators, B: Chemical 100 (2004) 395-402)における大きな利点に対して使用され得る。この目的のために、s−GDHバリアントは、例えば、グルコース濃度のより正確な決定のために酸化還元伝導性エポキシネットワーク(Yeら、1993 上述)を含むオスミウム複合体を有する酸素無反応ガラス製電極をコートするために使用され得る。
【0098】
本発明に従う改善された基質特異性を有するs−GDHバリアントの他の可能な応用もまた存在する。例えば、これらのs−GDHバリアントは、アルドン酸生成プロセスにおいて使用され得る。野生型s−GDHは、グルコン酸および他のアルドン酸を生成する基質酸化において高いターンオーバーを有する。グルコースに対してより特異的なs−GDHバリアントを使用することによって、グルコン酸の生成は、より少ない副産物を生じる。異なる基質特異性の他のs−GDHバリアントを用いて、必要に応じて異なるアルドン酸を生成することが可能である。
【0099】
以下の実施例において、全ての試薬、制限酵素および他の物質は、他の市販供給源が特定されていない限りRoche Diagnostics Germanyから入手し、製造業者によって与えられる指示書にしたがって使用された。DNAの精製、特徴付けおよびクローニングのために使用される操作および方法は、当該分野で周知であり(Ausubel, F.ら、「Current protocols in molecular biology」(1994) Wiley Verlag)、当業者によって必要に応じて適合され得る。
【0100】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定することを意図されないが、本発明のさらなる理解を提供する。
【0101】
(実施例1)
野生型Aカルコアセティカス可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの大腸菌でのクローニングおよび発現
S−GDH遺伝子を、標準的な手順に従ってアシネトバクターカルコアセティカスLMD 79.41株から単離した。野生型s−GDH遺伝子を、調節可能な発現のためのmglプロモーターを含むプラスミド(参考、特許出願WO88/09373)にサブクローニングした。新しい構築物をpACSGDHと呼んだ(図2および3を参照)。組換えプラスミドを大腸菌群から選択した宿主生物体に導入した。次いで、これらの生物体を適切な条件下で培養し、s−GDH活性を示すコロニーを選択した。
【0102】
プラスミドpACSGDHを製造業者のプロトコルに従ってQIAGEN Plasmid Maxi Kit (Qiagen)を使用して上記したクローンの200ml一晩培養物から単離した。プラスミドを1mlのビデスト(bidest)水に再懸濁した。プラスミドの濃度をBeckman DU 7400 Photometerを使用して決定した。
【0103】
収量は600μgであった。プラスミドの質をアガロースゲル電気泳動によって決定した。
【0104】
(実施例2)
変異体T348Gの作製
挿入バリアントの産生のための重要な開始テンプレートとして、変異T348Gを有する変異体s−GDHを作製した。それがグルコースに比べてマルトースに対して減少した活性を有することが公知なので、このs−GDHの変異体を選択した(WO02/34919を参照)。
【0105】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene, Cat. 200518)を使用して、348位のトレオニンをグリシンに置換した。適切なプライマーを設計した。
【0106】
突然変異誘発のために使用された5’−および3’−プライマーは、互いに相補的であり、中央位置にトレオニンからグリシンに交換するための変更されたコドン(ACAからGGG)を含んだ。これらのヌクレオチドの各末端に12〜16ヌクレオチドを位置させた。ヌクレオチドの配列は、アミノ酸交換のためのコドンの横に位置するセンスDNA鎖およびアンチセンスDNA鎖に同一であった。センス鎖に対するコドンACA=トレオニンおよびアンチセンス鎖に対するTGTの代わりに、プライマーは、センス鎖に対してGGG=グリシンおよびアンチセンス鎖に対してCCCを含んだ(配列番号3および4を参照)。
【0107】
PCR反応およびDpnI消化を、説明書にしたがって実施した。その後、1μlの試料を、XL−MRF’細胞のエレクトロポレーションのために使用した。エレクトロポレーションを、BioRad E. coli Pulser (BioRad)を使用して0.2cmキュベットにおいて2.5KVで達成した。1mlのLB中37℃1時間の培養の後、細菌をLB−アンピシリン寒天プレート(100μg/mlアンピシリン)上にプレートし、37℃で一晩増殖した。変異されたs−GDHクローンを以下のスクリーニング法を使用して試験した。
【0108】
(実施例3)
スクリーニング
上記される寒天プレート上の変異体コロニーを、拾って200μlのLB−アンピシリン培地/ウェルを含むマイクロタイタープレート(MTP)に入れ、37℃で一晩インキュベートした。これらのプレートをマスタープレートと呼ぶ。
【0109】
各マスタープレートから、5μl試料/ウェルを細胞破砕のために5μl/ウェルのB(B=細菌タンパク質抽出試薬;Pierce番号78248)を含むMTPに移し、s−GDHの活性化のために1ウェルあたり240μlの0.0556mMピロロキノリンキノン(PQQ);50mM Hepes;15mM CaCl pH7.0を添加した。ホロ酵素の形成を完了するために、MTPを25℃で2時間および10℃で一晩インキュベートした。このプレートを作業プレートと呼ぶ。
【0110】
作業プレートから、3×10μl試料/穴を3つの空のMTPに移した。その後、1つを標準濃度のグルコースで試験し、第二のものを低い濃度(30mMの代わりに1.9mM)のグルコースで試験し、第三のものを基質としてマルトースまたは別の選択された糖分子で試験した。全ての選択された他の糖分子を等モルの標準濃度、すなわち30mMで使用した。全てのアッセイについて、分析されるべき糖をすでに含む90μlのメディエータ溶液(実施例7を参照)を使用した。
【0111】
dE/分を計算し、基質として30mMのグルコースを使用する値を100%活性に設定した。他の糖を用いて得られた値をグルコースの値と比較して、パーセント活性を計算した((例えば、マルトースについてdE/分 マルトース/dEグルコース)×100)。これは(バリアント)酵素の交差活性と等価である。
【0112】
1.9mMのグルコースを用いて得られた値を30mMグルコースの値と比較して、パーセント活性を計算した((dE/分 1.9mMグルコース/30mMグルコース)×100)。これは分析されたバリアントに対するKM値の間接的な指標である%値を与える。この計算に従うと、より高い%値は、より低い(=より良好な)KM値を示す。
【0113】
以下の変異体が同定された。
【表1】

【0114】
(実施例4)
部位特異的変異誘発からの変異体s−GDH遺伝子の配列決定
25〜30%のマルトース/グルコース交差反応性を有する変異体s−GDH T348Gに対する遺伝子を含むプラスミドを単離し(High Pure Plasmid Isolation Kit, Roche Diagnostics GmbH, No. 1754785)、ABI Prism Dye Terminator Sequencing KitならびにABI 3/73および3/77シーケンサー(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して配列決定した。
【0115】
以下のプライマーを使用した。
センス鎖: GDH 1: 5´-TTA ACG TGC TGA ACA GCC GG-3´ (=配列番号5)
GDH 2: 5`-ATA TGG GTA AAG TAC TAC GC -3´ (=配列番号6)
【0116】
(結果)
DNAおよびアミノ酸レベルの所望される変異を達成し、348位でTからGへの交換を生じた(成熟酵素)。遺伝子上にさらなる変異を見出さなかった。
【0117】
(実施例5)
変異体T348Gを基本とした挿入バリアントの作製
挿入バリアントをQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene, Cat. 200518)を使用して作製した。アミノ酸428位と429位との間の挿入に対する適切なプライマー(配列番号2を参照)を設計し、s−GDHの変異体(変異体T348G、実施例4を参照)を用いたPCRを製造業者の記載に従って実施した。
【0118】
プライマーに対して、挿入位置でのそれぞれのコドンをランダムに合成し、全ての可能な20のアミノ酸交換を得た。これらのコドンヌクレオチドの各末端に11〜13ヌクレオチドを位置させた。

センス鎖:
in429X_F: 5’- CTGCCGGAAATNNNGTCCAAAAAGATG -3’
(=配列番号7)

アンチセンス鎖:
in429X_R 5’- CATCTTTTTGGACNNNATTTCCGGCAG -3’
(=配列番号8)

【0119】
PCR反応およびDpnI消化を説明書にしたがって実施した。その後、1μlの各反応物を、上記されるようにXL1F細胞のエレクトロポレーションに使用した。1ml LB中37℃で1時間の増殖の後、細菌を、LB−アンピシリン寒天プレート(100μg/mlアンピシリン)上にプレートし、37℃で一晩増殖した。変異したs−GDHクローンを記載されるスクリーニング手順に供した。20の可能なアミノ酸挿入を有するバリアントをスクリーニングすることを統計的に確実にするために、200クローンを試験した。変化した基質特異性を有するクローンをプラスミド単離に供し、上記のように配列決定した。
【0120】
(結果)
(表1)
【表2】

【0121】
(実施例6)
マルトースと比べた場合グルコースに対して高い基質特異性を有するさらなる挿入変異体の作製
WO02/34919において、例えばマルトースに比べてグルコースに対する基質特異性を上昇するために、s−GDHの異なる位置でのいくつかのアミノ酸交換を同定した。アミノ酸交換T348Gと、他の位置、例えば169位、171位、245位、341位および/または349位でのアミノ酸交換との組み合わせは、基質特異性をさらに上昇した。3、5および7%のマルトース/グルコースに対する基質特異性を有するそこに記載される変異体の2つを、それぞれ、428位と429位との間に本発明に従う挿入(この場合プロリン)受容するように選択した。配列番号9および10のプライマーを使用することによって挿入を達成した。

配列番号9 insP429_F:
5’-GATACTGCCGGAAATCCAGTCCAAAAAG -3’
配列番号10 insP429_R:
5’-CTTTTTGGACTGGTCCTCCGGCAGTATC -3’
【0122】
テンプレートのプラスミドDNAの単離、部位特異的変異誘発PCR、エレクトロポレーション、スクリーニング、選択された変異体のDNA配列決定を、上記のように実施した。
【0123】
(結果)
【表3】

【0124】
マルトース/グルコース基質特異性が劇的に変化したことは上記表から明確に見られ得る。マルトース転化は、野生型s−GDHのマルトース/グルコース転化に比べた場合105%〜2〜4%まで減少されることが見出された。変異体C/1およびD/1を詳細に試験した。
【0125】
(実施例7)
野生型およびバリアントs−GDHそれぞれの精製およびその酵素活性の分析
増殖した細胞(LB−Amp 37℃)を回収し、リン酸カリウムバッファpH7.0に再懸濁した。細胞破砕をフレンチプレス通過(700〜900bar)によって実施した。遠心分離の後、上清を10mMリン酸カリウムバッファpH7.0で平衡化したS−セファロース(AmershamBiosciences)カラムにかけた。洗浄後、s−GDHを塩勾配0〜1MのNaClを使用して溶出した。s−GDH活性を示す画分をプールし、リン酸カリウムバッファpH7.0に対して透析し、再平衡化されたS−セファロースカラム上でリクロマトした。活性画分をプールし、Superdex(登録商標)200カラム(Amersham Biosciences)を使用してゲル濾過に供した。活性画分をプールし−20℃で保存した。
【0126】
精製された野生型およびバリアントs−GDHそれぞれの酵素アッセイおよびタンパク質決定
タンパク質決定を、Pierceから入手したプロテインアッセイ試薬番号23225 (BSAを用いた較正曲線、30分 37℃)を使用して実施した。
【0127】
GDH試料を0.0556mMピロロキノリンキノン(PQQ);50mM Hepes;15mM CaCl2 pH7.0を用いて1mgタンパク質/mlまで希釈し、再構成または活性化のために25℃で30分インキュベートした。
【0128】
活性化の後、試料を50mM Hepes;15mM CaCl2 pH7.0を用いて約0.02U/mlまで希釈し、50μlの各希釈試料を、メディエータとして0.315mg (4-(ジメチルホスフィニルメチル)-2-メチル-ピラゾロ-[1.5a]-イミダゾール-3-イル)-(4-ニトロソフェニル)-アミン(米国特許5,484,708を参照)/mlおよび30mMの糖を含む1000μlの0.2Mクエン酸バッファ溶液(pH5.8;25℃)に添加した。
【0129】
620nmでの吸光度を最初の5分間25℃でモニターする。
【0130】
1ユニット酵素活性は、上記アッセイ条件下で1mMolメディエータ/分の転化に対応する。

計算:活性=(全体積×dE/分[U/ml]):(ε×試料体積×1)

(ε=吸光計数;ε620nm=30[1×mmol−1×cm−1])
【0131】
グルコースおよびマルトース(Merck, Germany)それぞれを用いて、アッセイを実施した。
【0132】
(結果)
【表4】

【0133】
s−GDHの428位と429位との間に挿入を含む新規バリアントC/1およびD/1がマルトース/グルコース交差反応性に関してさらなる改善を示すことは上記表から明らかである。種々のアミノ酸置換および挿入に関わらず、mg/タンパク質あたりのグルコースに対する酵素活性はなお、対応する野生型酵素活性の10%より大きい。
【0134】
(実施例8)
マルトースの存在下または非存在下でグルコースの決定
野生型s−GDHならびにs−GDHのバリアントC/1およびD/1はそれぞれ、マルトースの存在下または非存在下でのグルコースの決定に適用される。参照試料は、50mgグルコース/dlを含む。「試験」試料は、50mgグルコース/dlおよび100または200mg/dlマルトースをそれぞれ含む。同じ量のGDH活性(U/ml;上記酵素アッセイを参照)を各アッセイのために使用する。
【0135】
キュベット中で、
1mlの0.315mg (4-(ジメチルホスフィニルメチル)-2-メチル-ピラゾロ-[1.5a]-イミダゾール-3-イル)-(4-ニトロソフェニル)-アミンml/0.2M クエン酸pH 5.8
0.033 mlの参照または試験試料
が混合される。
【0136】
キュベットに0.050mlのs−GDH(グルコースの転化に対して過剰のs−GDHである)を添加することによって、アッセイを開始する。620nmでの吸収の変化をモニターする。2〜5分後定常値を観測し、dE/5分を計算する。参照試料を野生型s−GDHと共に測定することによって得られた値を100%に設定する。他の値をこの参照値と比較し、%で計算する。
【0137】
(結果)
新規のバリアントを使用する場合、試験試料において明確により低いマルトースの干渉を検出する。試料中でマルトースからグルコースを最良に区別するためにs−GDHの濃度をさらに最適化し得ることは明らかである。多すぎる酵素がマルトース転化を増加し、少なすぎる酵素が全てのグルコースを転化せず、したがって、吸光の終点に達しない。
【0138】
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【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、配列相同性に従って整列されたアシネトバクター・カルコアセチカスPQQ依存性s-GDH(上)およびA・バウマニ s-GDH(下)のタンパク質配列である。
【図2】図2は、可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型または変異型DNA配列のそれぞれを含む、実施例1で言及されるpACSGDHベクターの図解である。
【図3a】図3aは、可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型DNA配列を含む、実施例1で言及されるpACSGDHベクターのヌクレオチド(DNA)配列である。
【図3b】図3bは、可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型DNA配列を含む、実施例1で言及されるpACSGDHベクターのヌクレオチド(DNA)配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.カルコアセティカス由来の公知のs−GDH野生型配列(配列番号2)の428位および429位に対応するアミノ酸位置の間に少なくとも1つのアミノ酸残基挿入を含み、随意に、1つ以上のアミノ酸置換をさらに含む、PQQ依存性可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ(s−GDH)としても公知の、EC1.1.99.17の可溶性形態のバリアント。
【請求項2】
前記挿入されたアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、メチオニンおよびプロリンからなる群から選択されることによってさらに特徴付けられる、請求項1記載のバリアント。
【請求項3】
前記挿入されたアミノ酸がプロリンである、請求項1または2記載のバリアント。
【請求項4】
348位に対応するアミノ酸位置にアミノ酸残基置換を含むことによってさらに特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか記載のバリアント。
【請求項5】
348位のトレオニンがアラニン、グリシンおよびセリンからなる群から選択されるアミノ酸で置換されることによってさらに特徴付けられる、請求項4記載のバリアント。
【請求項6】
428位に対応するアミノ酸位置で少なくとも1つのアミノ酸置換を含むことによってさらに特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか記載のPQQ依存性s−GDHのバリアント。
【請求項7】
428位のアスパラギンがロイシン、プロリンおよびバリンからなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されることによってさらに特徴付けられる、請求項6記載のPQQ依存性s−GDHのバリアント。
【請求項8】
348位および428位両方に置換を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のバリアント。
【請求項9】
171位に置換をさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載のバリアント。
【請求項10】
245位に置換をさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載のバリアント。
【請求項11】
341位に置換をさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載のバリアント。
【請求項12】
169位に置換をさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載のバリアント。
【請求項13】
349位に置換をさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載のバリアント。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のs−GDHバリアントタンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項15】
宿主細胞においてポリヌクレオチドの発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結された、請求項14に規定されるような単離されたポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項15の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項17】
酵素バリアントの産生に適切な条件下で請求項16の宿主細胞を培養する工程を包含する、s−GDHバリアントを産生するプロセス。
【請求項18】
無細胞ペプチド合成系において発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結された、請求項14に規定されるような単離されたポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項19】
酵素バリアントの産生に適切な条件下で無細胞ペプチド合成系において、請求項18に記載の構築物でs−GDHバリアントを産生するプロセス。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれかに記載のs−GDHバリアントを使用して試料中のグルコースを検出、決定または測定する方法であって、前記改善が試料を前記バリアントと接触させる工程を包含する方法。
【請求項21】
グルコースの前記検出、決定または測定がセンサーまたはテストストリップデバイスを使用して実施される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれかに記載のs−GDHバリアントおよび測定に必要な他の試薬を含む、試料中のグルコースの検出または測定のためのデバイス。



【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2008−506375(P2008−506375A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520784(P2007−520784)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007844
【国際公開番号】WO2006/008132
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】