説明

アミロイド前駆体タンパク質又はβアミロイド断片に結合する物質を検出する方法及び結合化合物

アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はAPPの&bgr;−アミロイド(A&bgr;)断片への、物質の結合特性を同定及び評価するための方法が開示されている。APP又はA&bgr;と特異的に相互作用し、APP又はA&bgr;の、セクレアターゼ又はAPP若しくはA&bgr;結合抗体との相互作用を遮断する、式(I)のベンゾフラン誘導体のクラスも開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2004年4月7日に出願された米国仮出願第60/558,855号及び2004年7月15日に出願された第60/588,185号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般的には、アルツハイマー病(「AD」)に付随する神経学的及び生理学的な機能不全の分野に関する。より具体的には、本発明は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)への、又はAPPのβ−アミロイド(Aβ)断片への、物質の結合特性を同定及び評価するための方法に関する。本発明は、APP又はAβと特異的に相互作用し、APP又はAβの、セクレターゼとの又はAPP若しくはAβ結合抗体との相互作用を遮断する、ベンゾフラン誘導体のクラスにも関する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病は、高齢者を侵す一般的な神経変性疾患である。本疾患の主な特徴には、進行性の記憶障害、言語及び視覚空間能力の喪失並びに行動の不足が含まれる。これらの認知機能の変化は、大脳皮質、海馬、前脳基底部及び脳の他の領域中の神経細胞の変性の結果である。アミロイドβペプチド(Aβ)と名付けられた39−43個のアミノ酸ペプチドの蓄積が、アルツハイマー病の原因であると考えられる。Aβは、β−アミロイドタンパク質切断酵素(「β−セクレターゼ」又は「BACE」)及びγ−セクレターゼによるβ−アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセッシングによって脳内で産生される。このプロセッシングは、脳内のAβの蓄積をもたらす。
【0004】
ADの病因を解明する上での最近の進歩の多くは、この複雑な疾患の遺伝的に多様な形態の統一的な病理的特徴として、Aβの明白な役割に中心を据えている。ADに特徴的な神経病理学的特性は、アミロイド斑として知られる不溶性のタンパク質堆積物が罹病者の脳内に蓄積することである。これらのアミロイド斑堆積物の存在は、アミロイド仮説の基礎を成す不可欠な観察である。
【0005】
Aβの堆積が、アミロイド斑の発生及びADの発症に重要な役割を果たしていることが、証拠によって示唆されている。例えば、APPをコードする遺伝子(Aβタンパク質は、該遺伝子に由来する。)中に変異を有する個体は、アルツハイマー病を必ず発症する(Goate et al., 1991, Nature 353:844−846; Mullan et al., 1992, Nature Genet. 1:345−347; Murrell et al., 1991, Science 254:97−99; Van Broeckhoven, 1995, Eur. J. Neurol. 35:8−19)。同様に、ほぼ全てのアルツハイマー病患者の脳内にアミロイド斑が認められること、及びアミロイド斑の蓄積の程度が認知症の程度と相関することが、剖検によって示されている(Cummings & Cotman, 1995, Lancet 326:1524−1587)。
【0006】
Aβの細胞外蓄積と堆積がADの発症における中心的な現象であることが、多くの証拠によって示唆されている一方、Aβ又はアミロイド含有C末端断片(CTFβ)の細胞内蓄積の増加も、ADの病態生理に役割を果たしている可能性があることが、最近の研究によって提起されている。例えば、家族性ADを引き起こす変異を保有するAPPの過剰発現は、神経細胞培養物中へのCTFβの細胞内蓄積とHEK293細胞中へのAβ42の細胞内蓄積を増加させる。Aβ42は、Aβのより短い形態より、アミロイド斑形成の点でさらに有効であると考えられている、42アミノ酸のAβの長い形態である。さらに、海馬の神経細胞中の異なる細胞プール中に細胞内及び細胞外Aβが形成されること、並びにAβ42の細胞内蓄積の増加は、APP中の家族性AD突然変異の2つの種類(「スウェーデン」と「ロンドン」)に付随する共通の特徴である。このように、ADの病変における細胞外Aβ蓄積の関与を示唆するこれらの研究及びさらに初期の報告に基づけば、変化を受けたAPP異化作用が疾病の進行に関与している可能性があると思われる。
【0007】
APPは、様々なタンパク分解プロセッシング現象を実行する遍在性の膜貫通(1型)糖タンパク質である。(Selkoe, 1998, Trends Cell Biol. 8:447−453)。APPは、実際には、単一遺伝子からの選択的スプライシングによって産生されるペプチドのファミリーである。APPの主要な形態は、APP695、APP751及びAPP770として知られており、下付き文字は、各スプライスバリアント中のアミノ酸の数を表している(Ponte et al., 1988, Nature 331:525−527; Tanzi et al., 1988, Nature 331:528−530; Kitaguchi et al., 1988, Nature 331:530−532)。APPは、多くの細胞中で発現されており、恒常的に異化される。
【0008】
APPは、巨大な外部ドメイン、膜貫通領域及び短い細胞質尾部を有する受容体様構造を有する。Aβドメインは、APPの細胞外及び膜貫通両ドメインの一部を包含する。APPからのAβの放出は、AβのNH末端及びCOOH末端を生成するために、2つの異なるタンパク分解現象が存在することを示唆する。膜からAPPを放出し、APPの可溶性COOH末端切断形態(「分泌されたAPP」又は「sAPP」)を生成する、少なくとも2つの分泌機構が存在する。膜からAPP及びその断片を放出するプロテアーゼは、「セクレターゼ」と称されている。
【0009】
主要な異化経路は、α−セクレターゼによる、Aβ配列内でのAPPの切断であると思われ、可溶性細胞外ドメイン(sAPPα)の恒常的分泌及び非アミロイド産生性細胞内断片(約9kD)(恒常的カルボキシ末端断片(cCTFα)と称される。)の出現をもたらす。cCTFαは、γ−セクレターゼによる切断のための適切な基質であり、p3断片を与える。この経路は、種間で広く保存されており、多くの細胞種中に存在するようである(Weidemann et al., 1989, Cell 57:115−126; Oltersdorf et al., 1990, J. Biol. Chem. 265:4492−4497; and Esch et al., 1990, Science 24S:1122−1124)。この経路では、APPのプロセッシングは、Aβ領域の残基Lys16とLeu17間の部位でのタンパク分解切断を伴うが、APPは、なお、トランスゴルジ分泌コンパートメント中に存在する(Kang et al., 1987, Nature 325:773−776)。この切断は、APPのAβ部分内で起こるので、Aβの形成を伴わない。sAPPαは、神経栄養及び神経保護活性を有する(Kuentzel et al., 1993, Biochem. J. 295:367−378)。
【0010】
α−セクレターゼが関与する非アミロイド産生経路とは異なり、β−セクレターゼによるAPPのタンパク分解プロセッシングは、AβのN末端を露出させ、完全なAβドメインを含有するCOOH末端断片(C末端断片又はCTF)を産生する。様々なC末端におけるγ−セクレターゼ切断後に、Aβが解離される。γ−セクレターゼ活性は、単一のペプチド結合においてではなく、APPアミノ酸の短い連なりにわたって生じるので、C末端は、実際には、単一部位ではなく、むしろ切断部位の異種的集合物である。アミロイド産生経路では、APPは、β−セクレターゼによって切断されて、sAPPβ及びCTFβを解離し、次いで、CTFβは、γ−セクレターゼによって切断されて、有害なAβペプチドを解離する。
【0011】
このAβ産生経路において特に重要なのは、γ−セクレターゼ切断の位置である。γ−セクレターゼ切断が、残基711−712で起これば、短いAβ(Aβ40)が得られる。γ−セクレターゼ切断が残基713以降での切断であれば、長いAβ(Aβ42)が得られる。このように、γ−セクレターゼプロセスは、長さ40又は42アミノ酸のAβペプチド(それぞれ、Aβ40及びAβ42)の産生に対して中心的である。APP及びそのプロセッシングについて考察している概説については、「Selkoe, 1998, Trends Cell. Biol. 8:447−453; Selkoe, 1994, Ann. Rev. Cell Biol. 10:373− 403」を参照されたい。「Esch et al., 1994, Science 248:1122」も参照されたい。APPの切断は、タンパク質分解によって産生されるポリペプチド又はペプチド断片を検出することによる様式を含む、多数の慣用の様式で検出することが可能である。このような断片は、抗体結合など、任意の便利な手段によって検出することが可能である。タンパク質分解切断を検出するための別の便利な方法は、基質の切断によって色素源(例えば、有色産物又は蛍光産物)を放出する色素産生性β−セクレターゼ基質を使用することである。
【0012】
アルツハイマー病の症候を予防又は改善する手段として、アミロイド斑の発生を阻害する可能性に対して多大な興味が注がれている。この目的のために、有望な戦略は、一緒にAβの産生に関与している2つの酵素であるβ及びγセクレターゼの少なくとも1つの活性を阻害することである。Aβの堆積の結果としてのアミロイド斑の形成が、アルツハイマー病の原因であれば、2つのセクレターゼのうち一方又は両方の活性を阻害することは、炎症又はアポトーシスの発生などの後期段階での現象前に、疾病過程に初期段階で介入することになると思われるので、この戦略は魅力的である。このような初期段階での介入は、特に有益であると予想される(例えば、Citron, 2000, Molecular Medicine Today 6:392−397を参照)。
【0013】
これらの理由のため、APPからのAβの産生を阻害若しくは抑制し、又は脳内Aβの蓄積を阻害する能力について、試験化合物をスクリーニングするための方法及びシステムを提供することは望ましいであろう。特に、このような方法及びシステムは、試験化合物が変換をもたらす代謝経路を中断又は妨害することができる、このような変換に関わっている代謝経路に基づくことが望ましくいであろう。特に、適切な候補薬となる試験化合物の初期スクリーニングに特に適するように、当初の方法は、動物モデルではなく、むしろインビトロ系を使用すべきである。
【発明の開示】
【0014】
本発明は、一つには、アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はAPPのβ−アミロイド(Aβ)断片への、物質の結合特性を同定及び評価するためのアッセイに関する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、
アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はアミロイドβペプチド(Aβ)への物質の相互作用を測定する方法であり、前記方法は、
(a)第一の検査溶液(第一の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有するAPP又はAPPバリアント、(ii)物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのsAPPβ領域に対して特異的である第一の抗体を含む。)をsAPPβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、sAPPβ−抗体複合体の第一の検査シグナル読み取りを得ること、
(b)第二の検査溶液(第二の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有する前記APP又はAPPバリアント、(ii)前記物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのAβ領域に対して特異的である第二の抗体を含む。)を前記Aβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第二の検査シグナル読み取りを得ること、
(c)対照溶液(前記対象領域は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有する前記APP又はAPPバリアントおよび(ii)前記第一及び第二の抗体を含む。)をsAPPβ−抗体複合体及びAβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、sAPPβ−抗体複合体の第一の対照シグナル読み取りおよびAβ−抗体複合体の第二の対照シグナル読み取りを得ること、
(d)前記第一の検査シグナル読み取りと前記第一の対照シグナル読み取りを比較すること、並びに前記第二の検査シグナル読み取りと前記第二の対照シグナル読み取りを比較すること、を含み、
(i)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAPPと相互作用せず、
(ii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りより低く、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAPPのsAPPβ領域に特異的に結合し、
(iii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りより低ければ、前記物質はAPPのAβ領域に特異的に結合する、
前記方法に関する。
【0016】
ある種の実施形態において、Aβに対して特異的な抗体は、Aβのアミノ酸1ないし17又は28ないし40に対して特異的である。他の実施形態において、Aβに対して特異的な抗体は、Aβ領域のC末端に特異的である。他の実施形態において、Aβ領域に対して特異的な抗体は、Aβ領域のN末端に対して特異的である。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、
アミロイドβペプチド(Aβ)への物質の相互作用を測定する方法であり、前記方法は、
(a)第一の検査溶液[第一の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有するAPP又はAPPバリアント(前記Aβ領域は第一の亜領域及び第二の亜領域を有する。)、(ii)物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのAβ領域の前記第一の亜領域に対して特異的である第一の抗体を含む。]を前記Aβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第一の検査シグナル読み取りを得ること、
(b)第二の検査溶液[第二の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有するAPP又はAPPバリアント(前記Aβ領域は第一の亜領域及び第二の亜領域を有する。)、(ii)前記物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのAβ領域の前記第二の亜領域に対して特異的である第二の抗体含む。]を前記Aβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第二の検査シグナル読み取りを得ること、
(c)対照溶液[前記対象溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有する前記APP又はAPPバリアント(前記Aβ領域は第一の亜領域及び第二の亜領域を有する。)および(ii)前記第一及び第二の抗体を含む。]をAβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第一の対照シグナル読み取りとAβ−抗体複合体の第二の対照シグナル読み取りとりを得ること、
(d)前記第一の検査シグナル読み取りと前記第一の対照シグナル読み取りを比較すること、及び前記第二の検査シグナル読み取りと前記第二の対照シグナル読み取りを比較すること、を含み、
(i)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAβと相互作用せず、
(ii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りより低く、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAβの前記第一の亜領域に特異的に結合し、
(iii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りより低ければ、前記物質はAβの前記第二の亜領域に特異的に結合する、
前記方法に関する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、Aβの前記第一の亜領域はC末端であり、Aβの前記第二の亜領域はN末端である。
【0019】
本発明のアッセイでは、前記検査溶液及び対照溶液は、希釈剤、pH調整剤又はアッセイで一般的に使用される他の添加物及び不活性担体をさらに含んでよい。検査及び対照溶液は、最大約24時間インキュベートしてよい。
【0020】
ある種の実施形態において、前記物質は、約2kD未満、好ましくは約100Daないし1,000Daの範囲の分子量を有する。
【0021】
ある種の実施形態において、アッセイで使用されるAPPは、検出可能に標識されており、例えば、リガンドにより検出可能に標識されている。
【0022】
ある種の実施形態において、前記検査及び対照溶液は、受容体ビーズを含む。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、本発明のアッセイによって同定された、APP又はAβと相互作用する物質に関する。ある種の実施形態において、前記物質は、約2kD未満の分子量を有する小分子である。一実施形態において、前記物質は、式Iの化合物
【0024】
【化4】

(式中、
は、必要に応じて存在し、
(a)ハロゲン、
(b)C1−6アルキル及び
(c)C1−6アルコキシ
からなる群から選択され;
は、
(a)水素、
(b)(CH−C(=O)−OR(Rは、水素及びC1−6アルキルからなる群から選択され、mは、1、2又は3である。)
からなる群から選択され;
は、
(a)水素、及び
(b)
【0025】
【化5】

(R及びRは、
(i)水素、
(ii)ハロゲン、
(iii)C1−6アルキル、
(iv)C1−6アルコキシ及び
(v)テトラゾリル
からなる群から選択され;
nは、3、4又は5である。)
からなる群から選択される。)
からなる群から選択されるベンゾフラン誘導体又は薬学的に許容されるその塩である。
【0026】
(I)の化合物は、APP又はAβと相互作用することが可能であり、APP又はAβの、セクレターゼ又はAPP若しくはAβ結合抗体との相互作用を遮断することが可能である。従って、式Iの化合物は、アルツハイマー病の治療において潜在的に有用である。
【0027】
本発明は、式(I)の化合物の治療的有効量を、アルツハイマー病の治療を必要としている患者に投与することを含む、前記患者のアルツハイマー病を治療する方法にも関する。本発明は、式(I)の化合物の治療的有効量を、アルツハイマー病の改善又は抑制を必要としている患者に投与することを含む、前記患者のアルツハイマー病を改善又は抑制する方法にも関する。
【0028】
定義
本明細書において使用される「ベータ−セクレターゼ」又は「β−セクレターゼ」という用語は、文献において、「BACE」、「BACE1」(例えば、Vassar et al., 1999, Science 286:735−741参照)又はBACE2(例えば、Farzan et al., 2000, PNAS 97:9712−9717参照)としてときに知られている酵素を表す。BACE1は、501アミノ酸の膜結合アスパラギン酸プロテアーゼである。BACE1は、β−セクレターゼの公知の機能的特性及び特徴を全て有している。Asp−1又はメマプシン−1とも称されるBACE2は、膜結合型アスパラギン酸プロテアーゼのBACEファミリーの第二のメンバーである。 BACE1とBACE2との差のさらなる論述については、「Roggo, Current Topics in Medicinal Chemistry, 2002, 2:359− 370」を参照されたい。
【0029】
本明細書で使用されている「γセクレターゼ」又は「ガンマセクレターゼ」という用語は、膜結合型APPプロセッシング中間体からAβペプチドを放出する重要な酵素であるガンマセクレターゼ酵素を表す。ガンマセクレターゼは、2つのプレセニリン断片並びに補因子ニカストリン、Pen−2及びAph−1を含む、多タンパク質複合体であると考えられる。「Schroeter et al, 2003, Proc. Nat’l Acad. Sci, 100:13075−13080; Beher et al, 2003, Biochem 42:8133−8142」を参照されたい。
【0030】
さらに、本明細書において使用される「ベータ−セクレターゼ」及び「ガンマセクレターゼ」という用語には、それぞれ、APP中のβ部位及びγ部位で切断する能力を有する天然酵素の全ての哺乳類形態が含まれる。本明細書において使用される「ベータ−セクレターゼ」及び「ガンマセクレターゼ」という用語には、同一基質に対する天然β−セクレターゼ又はγセクレターゼの有効性の少なくとも約5%のレベルで、ベータセクレターゼ又はガンマセクレターゼ基質の切断を触媒する機能的能力を維持している限り、このような酵素の、全ての組換え形態、突然変異及びその他のバリアントも含まれる。
【0031】
本明細書において使用される「バリアント」という用語は、本発明において、元の配列の生物学的活性と実質的に同様の生物学的活性(機能的又は構造的の何れか)を保持する配列(核酸又はアミノ酸)を表す。このバリアント又は均等物は、同じ若しくは異なる種から得てもよく、天然バリアントであってもよく、又は合成的に調製されてもよい。このようなバリアントには、タンパク質の生物活性が保存されていれば、1以上のアミノ酸の置換、欠失又は付加を有するアミノ酸配列が含まれる。配列の生物活性が概ね維持されていれば、1以上のヌクレオチドの置換、欠失又は付加を有することが可能である核酸配列のバリアントに対しても、同じことが当てはまる。
【0032】
本明細書において使用される「APPバリアント」又は「バリアントβセクレターゼ基質」という用語は互換的に使用される。
【0033】
典型的なAPPバリアント(又はバリアントβ−セクレターゼ基質)は、WO02/094985として公開された国際出願PCT /US02/15590及び同じ所有者の米国特許出願US2003/020055A1(ともに、参照により、本明細書に組み込まれる。)に開示されている新規β−セクレターゼP2−P1−P1’−P2’切断部位の何れかを含有するポリペプチドであり、このような分子が分析を促進するためにさらなるエピトープを含むかどうかを問わない。例えば、β−セクレターゼP2−P1−P1’−P2’切断部位の一方又は両方側に付着された2、3、4、5又は6個のアミノ酸から構成されるポリペプチドは、修飾されたβ−セクレターゼ基質である。修飾されたβ−セクレターゼ基質には、その各々が少なくとも8個のアミノ酸の連続配列断片を含む非天然ペプチドが含まれ、このような断片は、合成β−セクレターゼ切断部位を含み、前記少なくとも8個のアミノ酸は、W02/094985及びUS 2003/0200555A1に開示されている配列の群から選択される配列を有する。これらに同様に記されているように、このような非天然ペプチドの断片及び相同体も、本発明によって包含される。完全長APP分子(695、751又は770アミノ酸長の何れでもよい。)、及び追加アミノ酸が一方又は両方末端に付加されたような分子は、それらが、上述のように、β−セクレターゼP2−P1−P1’−P2’切断部位を有している限り、修飾されたβ−セクレターゼ基質である。また、695、751又は770アミノ酸長の完全長APP分子より小さいが、最大16ポリペプチド長の前記マルチマーより大きく、APP配列から実質的に構成され且つβ−セクレターゼによって切断可能な中間サイズのポリペプチドは、それらが、上述のように、β−セクレターゼP2−P1−P1’−P2’切断部位を有している限り、修飾されたβ−セクレターゼ基質である。このような中間サイズのポリペプチドは、APPの「生物活性断片」又は「生物活性なアミノ酸断片」、「APP生物活性断片」又は「APP生物活性アミノ酸断片」とも称される。単独のβ−セクレターゼによる酵素的切断、又はγ−セクレターゼなどの他の酵素と組み合わせたβ−セクレターゼによる酵素的切断から得られるペプチド及びポリペプチドを表す場合には、「断片」という用語の使用との混同を避けるため、このような中間サイズのポリペプチドという表記(下記)は、これらの用語に限定される。
【0034】
「誘導体」という用語は、本来これらの分子の一部ではない追加の化学的部分を含む場合に、上記バリアントの全てを含むものとする。これらの化学的部分は、分子の溶解度、吸収、生物学的半減期の改善、毒性の減少及び望ましくない副作用の除去又は減少など、様々な目的を有することが可能である。さらに、これらの部分は、標識、結合の目的のために使用することが可能であり、又はこれらの部分は、融合産物中に含めてもよい。上記効果を媒介することが可能な様々な部分は、「Remington’s The Science and Practice of Pharmacy (1995)」に見出すことが可能である。このような部分を分子に結合するための方法は、本分野において周知である。
【0035】
「保存的アミノ酸置換」とは、別の、化学的に類似のアミノ酸残基による、あるアミノ酸残基の置換を表す。このような保存的置換の例は、ある疎水性残基(イソロイシン、ロイシン、バリン又はメチオニン)の置換を別の疎水性残基に置換すること、ある極性残基を同じ電荷の別の極性残基に置換すること(例えば、アルギニンをリジンに、グルタミン酸をアスパラギン酸に);ある芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシン又はフェニルアラニン)を別の芳香族アミノ酸に置換することである。
【0036】
上記定義の「保存的アミノ酸置換」は、さらに広義の用語である「保存的に修飾されたこれらのバリアント」という用語によって包含されるアミノ酸配列のリストのバリエーションの一種にすぎない。例えば、「保存的に修飾されたこれらのバリアント」という用語は、「M.P.E.P. § 2422.03, Eighth Edition, 2001」中の用語に対して与えられた意味を有するものと解釈され、「C末端における、1、2、3、4又は5個の残基」などの欠失を含むことが可能であるが、この例に限定されるものではない。
【0037】
例えば(但し、限定を加えるものではない。)、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列は、比較ウィンドウ上で最大の一致度が得られるように並列された場合に2個の配列が同一であれば、基準配列に対して「同一」であると考えられる。比較ウィンドウを並置するためのヌクレオチド及びアミノ酸配列の最適なアラインメントは、「Smith & Waterman, 1981, Adv. Appl. Math. 2:482」の局所相同性アルゴリズムによって、「Needleman & Wunsch, 1970, J. MoI. Biol. 48:443」の相同性アラインメントアルゴリズムによって、「Pearson & Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci, U.S.A. 85:2444−2448」の類似法に対する検索によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実行によって (GAP, BESFIT, FASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)又は検査によって実行してもよい。このような同一性の測定は、バリアントがβ−セクレターゼ基質として機能し続ける限り、あるアミノ酸配列又はヌクレオチド配列の「保存的に修飾されたバリアント」を表すものと考えることが可能である。
【0038】
あるいは、本発明において、バリアントの比較類似性は、比較類似性が指定された境界内に属し、且つバリアントがβ−セクレターゼ酵素に対する基質であり続ける限り、新規タンパク質又はポリペプチド配列に対するそのバリアントの「相対配列同一性」によって定義される。例えば、あるAPP骨格(又はそのポリペプチド領域)は、置換、欠失、挿入及び付加のうち全てを有することが可能である。置換、欠失、挿入及び/又は付加を有するバリアントを作製するためのある種のアプローチ及び具体的な方法は、当業者の知識に属する。このため、ある実施形態では、指定された特許請求の範囲に記載されている配列数と少なくとも95%同一である該配列数のタンパク質又はポリペプチドバリアント(アミノ酸配列相同性、すなわち「相対配列同一性」に基づく)は、このバリアントがβ−セクレターゼ酵素に対する基質であることが示されている場合には、本発明の範囲に属する。別の実施形態では、指定された特許請求の範囲に記載されている配列数と少なくとも85%同一である該配列数のタンパク質又はポリペプチドバリアント(アミノ酸配列相同性に基づく)は、このバリアントがβ−セクレターゼ酵素に対する基質であることが示されている場合には、本発明の範囲に属する。さらに別の実施形態では、指定された特許請求の範囲に記載されている配列数と少なくとも65%同一である該配列数のタンパク質又はポリペプチドバリアント(アミノ酸配列相同性に基づく)は、このバリアントがβ−セクレターゼ酵素に対する基質であることが示されている場合には、本発明の範囲に属する。このようなバリアントの全てについて、本明細書に記載されている試験系又は本分野で公知の他の方法などにおいて(又は、必要に応じて、本分野で後に公知となる方法を含む。)β−セクレターゼ酵素に対する「適切な基質」としての役割を果たす機能的能力が、本発明の操作及び任意の関連する請求項の範囲にこのようなバリアントの全てを含めることにとって、不可欠であることに留意すべきである。
【0039】
「Aβバリアントペプチド」とは、アミロイドβペプチド(Aβ)のバリアント(この用語は上で定義されている。)であるアミロイドペプチドである。
【0040】
β−セクレターゼ基質に関して「実質的にからなる」とは、基準配列に比べて、β−セクレターゼ基質の被切断能の大幅な減少を引き起こさないN末端及び/又はC末端の付加又は欠失によって、基準配列が修飾され得ることを表す。欠失の例は、N末端メチオニンの除去である。
【0041】
「抗体」という用語は、分析物(抗原)に特異的に結合し及び認識する、1つの免疫グロブリン遺伝子又は複数の免疫グロブリン遺伝子又はこれらの断片によって実質的にコードされるポリペプチドを表す。認められている免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。抗体は、完全な状態の免疫グロブリンとして、又は、様々なペプチダーゼでの消化によって生じた、十分に特性決定された多数の断片として存在する。これらには、例えば、Fab’及びF(ab)’断片が含まれる。「抗体」という用語には、完全な抗体の修飾によって作製された抗体断片又は組換えDNA法を用いて新規に合成された抗体断片が含まれ、慣用技術によって作製された「ヒト化」抗体をさらに含む。
【0042】
「イムノアッセイ」という用語は、分析物を特異的に結合するために抗体を使用するアッセイである。イムノアッセイは、分析物を単離し、標的とし、及び/又は定量するために、特定の抗体の特異的結合特性を使用することを特徴とする。
【0043】
タンパク質及びその他の生物物質の異種集団の存在下で、抗体が、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの存在を決定する結合反応において機能を果たす場合に、抗体は、タンパク質、ポリペプチド又はペプチド「に特異的に結合する」、又はタンパク質、ポリペプチド又はペプチドと「特異的に免疫反応性である」。このため、表記されたイムノアッセイ条件下で、指定された抗体は、特定のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドに優先的に結合し、試料中に存在する他のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドに有意な量で結合しない。このような条件下での、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドへの特異的な結合には、特定のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドに対する特異性について選択された抗体が必要である。特定のタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチド又はその中の領域若しくはエピトープへの抗体の会合に関連して、本明細書において使用される「認識する」という用語は、前記抗体が、そのタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチド又はその中の領域若しくはエピトープ「に特異的に結合する」こと、又はそのタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチド又はその中の領域若しくはエピトープ「と特異的に免疫反応性である」ことを意味するものとする。
【0044】
本発明において使用するのに適した抗体には、APP又はAβに対して特異的である任意の抗体、より正確には、APP又はAβの様々な特定領域に対して特異的である任意の抗体が含まれる。適切な抗体は文献に記載されており、当業者に公知である。APP又はAβの特定領域に対して特異的な抗体は、慣用技術を用いて、当業者によって開発され得る。本発明のアッセイで使用するのに適した抗体の1つの種類は、APPのsAPPβ領域に対して特異的な抗体である。典型的なsAPPβ特異的抗体には、カリフォルニア州南サンフランシスコのZymed Laboratoriesから購入できるLN27(APPのN末端200アミノ酸に対して特異的である。);コロラド州ゴールデンのAffinity BioReagentsから購入できるP2−1;インディアナ州のインディアナポリスのBoehringer Mannheimから購入できる22C11及びテキサス州サンアントニオのAlpha Diagnostic International, Inc.から購入できるS−12が含まれる。
【0045】
本発明のアッセイで使用するのに適した抗体の別の種類は、APPのAβ領域に対して特異的な抗体である。Aβ領域に対して特異的な典型的抗体には、東レ、東京、日本から購入できるWO−2及びマサチューセッツ州デドハムのSignet Laboratoriesから購入できる6E−10が含まれる。
【0046】
本発明のアッセイで使用するのに適した抗体の別の種類は、AβのC末端に対して特異的な抗体である。典型的なAβC末端抗体には、日本、東京の東レ、から購入できるG2−10が含まれる。
【0047】
本発明のアッセイで使用するのに適した抗体の別の種類は、AβのN末端に対して特異的な抗体である。
【0048】
抗体と特異的に結合するタンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、及び免疫細胞の細胞表面状態と特異的に結合する加工されたペプチドは、「抗原」と称される。
【0049】
「免疫原性ペプチド」は、適切な宿主動物中に濃度の適切な範囲で注入された場合に、適切な宿主動物中に免疫応答(液性及び/又は細胞媒介性)を誘導するのに十分な長さとアミノ酸組成を有するペプチド配列として定義される。修飾されたβセクレターゼ切断部位(例えば、WO02/094985及びUS2003/0200555A1に開示されている修飾されたβ−セクレターゼ切断部位など)の全部又は一部を含む免疫原性ペプチドは、修飾されたβ−セクレターゼ切断部位のペプチド配列を遊離ペプチドとして最終的に認識する抗体を、宿主動物中で産生させる(β−セクレターゼによって加工されたAPP及びAPPバリアントの末端時においても)。先述された免疫原性ペプチドは、抗原の特性も有する。すなわち、このような各免疫原性ペプチドは、このような特異的ペプチドに対して産生された特定の抗体と特異的に結合する点で抗原である。
【0050】
特定のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドと特異的に免疫反応する抗体を選択するために、様々なイムノアッセイフォーマットを使用し得る。例えば、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドと特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択するために、固相ELISAイムノアッセイが日常的に使用される。特異的な免疫反応性を決定するために使用することが可能なイムノアッセイフォーマット及び条件の説明については、「Harlow & Lane, 1988, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, N.Y.」を参照されたい。
【0051】
本明細書において使用される「物質」という用語は、APP又はAβと相互作用することが疑われ、且つセクレターゼ又はAPP結合抗体若しくはAβ結合抗体との、APP又はAβの相互作用を遮断することが可能である、いずれかの分子、化合物、分子若しくは化合物の混合物又はいずれかの他の組成物を意味する。本発明においてスクリーニングされる「物質」は、創薬過程中に薬学産業において一般的にスクリーニングされるあらゆる物質とすることができる。該物質は、タンパク質、多糖、核酸などの生物ポリマーのような巨大分子であってもよい。一般的に、物質は、約2kD未満、より一般的に1.5kD未満、しばしば1kD未満、及び通常100Daから1,000Da、さらに一般的に200Daから750Daまでの範囲の分子量を有する化合物又は小分子である。様々な基準に基づいて、1又は複数の物質を予め選択してもよい。例えば、公知のタンパク質分解阻害活性を有するとして、適切な物質を選択してよい。あるいは、無作為に前記物質を選択し、本発明のスクリーニング方法によって検査してよい。インビトロでの、セクレターゼ又はAPP結合抗体若しくはAβ結合抗体との、APP又はAβの相互作用を遮断することができる物質は、細胞及び/又は動物中においてこれらがAβ産生を減少する能力をさらにスクリーニングするための候補として考えられる。物質は、物質の巨大な集合物として、例えば、低分子量の有機化合物、ペプチド又は天然産物のライブラリーとして、本発明の方法において検査し得る。
【0052】
本明細書に記載されているアッセイ及びスクリーニング法は、明示的に、「一つ」の物質の検査に関するものであるが、当業者であれば、このような方法を、複数物質の検査(例えば、このような集合物の何れかの要素がAPPを結合するかどうかを決定するためのコンビナトリアルライブラリー)のために適合できることが明らかである。従って、物質の集合物の使用又はこのような集合物の各要素は、本発明の範囲に属する。
【0053】
本明細書において使用される「アッセイ条件」という用語は、アッセイにおいて望まれる結合関係の形成に対して伝導性(conductive)である条件である。例えば、アッセイ条件は、抗体と抗原間の複合体の形成に対して伝導性であり、又は該複合体の形成に適した条件(例えば、sAAPβ−抗体複合体の形成に適した条件)としてよい。アッセイ条件は、pH調整剤(例えば、酢酸ナトリウム)、希釈剤(例えば、DMSO)、緩衝剤(たとえば、PIPESを含む緩衝溶液)、界面活性剤(例えば、CHAPS)及び/又はブロッキング剤(例えば、BSA)の使用を含み得る。アッセイ条件は、市販のアッセイカクテル、例えば、市販のプロテアーゼ阻害剤カクテルの使用を含み得る。
【0054】
本明細書に使用されている「受容体ビーズ」という用語は、アッセイで一般に使用される不活性ビーズを表す。典型的な受容体ビーズには、「Perkin Elmer Life Sciences」から入手できるAlphaScreen General IgG検出キットから得られる受容体ビーズが含まれる。
【0055】
「断片」という用語は、同定されたアミノ酸配列の任意のセグメント及び/又は本明細書に上述されているバリアント又は誘導体の全ての任意のセグメントを表す。
【0056】
「sAPPβ断片」又は「sAPPβ」は、APPがβ−セクレターゼによって切断された場合に生じる、約100kDaのアミノ末端断片を表す。
【0057】
「C末端断片」又は「CTFβ」は、APPがβ−セクレターゼによって切断された場合に生じる、約12kDaの99アミノ酸(CTF99として知られる。)COOH末端断片を表す。あるいは、「C末端断片」又は「CTFβ」は、APPの99C末端アミノ酸及びN末端メチオニンを含有する、100アミノ酸の工作されたタンパク質(CTF100又はC100としても知られる。)を表し得る。CTFβは、Aβドメイン全体を含有する。
【0058】
本明細書に記載されているβ−セクレターゼアッセイは、切断によって産生されたアミノ末端又はカルボキシ末端断片が固相上に捕捉されている「サンドイッチ」アッセイを用いて便利に実施される。捕捉された断片は、次いで、β−セクレターゼ切断によって露出された断片の末端に対して特異的な抗体を用いて検出してもよい。典型的な抗体には、β−セクレターゼ活性の結果として生じた任意の切断産物に対して生じた抗体が含まれる。切断された切断産物への抗体の結合は、抗体に直接(共有結合で)結合された、又はビオチン及びアビジンなどの中間連結物質を通じて間接的に結合された、西洋ワサビペルオキシダーゼ又は他の検出可能な酵素標識などの慣用の標識系を用いて検出される。このような「サンドイッチ」アッセイは、IGENをベースとした技術、HTRF、Alpha Screen技術及び当業者に公知の他の技術など、様々な様式で実行することが可能である。
【0059】
本明細書において使用される「測定可能な信号」という用語は、放射性リガンド結合因子の、標的への結合に際して与えられる、生成された信号のあらゆる種類(例えば、放射性、比色、測光、分光光度、シンチレーション)を含む。
【0060】
本明細書において使用される「C末端」又は「カルボキシ末端」という用語は、末端α−カルボキシル基を含有するタンパク質又はペプチドの領域である。本用語は、本明細書において、アミロイドβペプチドの末端α−カルボキシル基を含有する領域を表すために使用される。
【0061】
本明細書において使用される「N末端」又は「アミノ末端」という用語は、末端α−アミノ基を含有するタンパク質又はペプチドの領域である。本用語は、本明細書において、アミロイドβペプチドの末端α−アミノ基を含有する領域を表すために使用される。
【0062】
本明細書において使用される「セクレターゼ」という用語は、APPを切断して、BACE1、BACE2及びγセクレターゼを含む、アミロイド産生ペプチドを形成するプロテアーゼを表す。
【0063】
本明細書において使用される「ビヒクル」という用語は、実験で対照として使用される担体用の不活性媒体又は活性物質を表す。例えば、本明細書に記載されている本発明のアッセイで使用する場合、目的の物質は、通常、希釈剤、pH調整剤及びアッセイを実施するために当業者によって一般的に使用される他の不活性担体とともにインキュベートされる。アッセイで対照として使用される「ビヒクル」中には、同一の希釈剤、pH調整剤及び他の不活性担体が存在する。
【0064】
本明細書において使用される「相互作用」という用語は、目的の物質、リガンド又は抗体と生物学的受容体との間の結合又は化学的引力の特性を表す。本明細書において使用される「相互作用」は、共有結合、水素結合又はイオン結合など、物質リガンド又は抗体と受容体との間の化学的結合のあらゆる種類を表す。
【0065】
一実施形態において、本発明は、APPのsAPPβ領域との物質の相互作用を検出及び評価するためのアッセイ、並びにAβとの物質の相互作用を検出及び評価するためのアッセイに関する。
【0066】
この実施形態において、完全なAPPタンパク質(又はAPPバリアントタンパク質)は、目的の物質とともに、及びAPPのsAPPβ領域に対して特異的である第一の抗体とともに、第一の検査溶液中でインキュベートされる。APPのAβ領域に対して特異的である第二の抗体と、目的の物質と、APP又はAPPバリアントとを含む第二の検査溶液が形成される。第二の抗体は、Aβの様々な領域に対して特異的であり得る。例えば、第二の抗体は、Aβのアミノ酸1ないし17又は28ないし40に対して特異的であり得る。あるいは、第二の抗体は、AβのC末端又はN末端に対して特異的であり得る。
【0067】
ビヒクル、第一の抗体及びAPP又はバリアント、並びにビヒクル、第二の抗体及びAPP又はバリアントを含む2つの対照溶液が、アッセイ条件下で形成される。それぞれ、第一の抗体及び目的の物質、並びに第二の抗体及び目的の物質を含む、第三及び第四の対照溶液も形成してもよい。
【0068】
第一及び第二の検査溶液並びに第一及び第二の対照溶液のそれぞれの中に存在する、第一及び第二の抗体のそれぞれの結合特性が測定される。結合測定は、目的の物質が、APPのsAPPβ領域と相互作用又は結合する程度及びAβと相互作用又は結合する程度を示す。
【0069】
目的の物質の結合特性を決定するために、APP又はバリアントは、リガンドの結合対の一つのリガンドによって、検出可能に標識され得る。適切な標識されたAPP又はバリアントは、ビオチン化されたAPP又はバリアントである。
【0070】
ある種の実施形態において、APPは、WO02/094985号及びUS 2003/0200555 A1に開示されている新規β−セクレターゼP2−P1−P1’−P2’切断部位の何れかを含有する修飾されたβ−セクレターゼ基質であるAPPバリアントである。
【0071】
前記物質とAPP(又はバリアント)は、最大約24時間、好ましくは約1時間、約37℃でインキュベートしてもよい。その後、インキュベートされた混合物の溶液を、マルチウェルプレートの1ウェル中に入れてもよい。安定化剤、例えば、1M Tris−Cl、pH8.0は、結合反応を中和するために、混合物に添加し得る。
【0072】
一実施形態において、アッセイにおいて使用するためのビーズが調製される。例えば、第一のビーズ混合物は、(1)ストレプトアビジンを含む供与体ビーズ、(2)Aβのアミノ酸28ないし40に対して誘導されたポリクローナル抗体を含有する受容体ビーズ(例えば、AlphaScreen General IgG Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesから得られるプロテインA受容体ビーズ)、(3)BSA及び(4)リン酸緩衝食塩水から形成され、並びに、第二のビーズ混合物は、(1)ストレプトアビジンを含む供与体ビーズ、(2)APPのN末端200アミノ酸に対して誘導されたモノクローナルマウス抗体を含有する受容体ビーズ(例えば、AlphaScreen General IgG Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesから得られるプロテインA受容体ビーズ)、(3)BSA及び(4)リン酸緩衝食塩水から形成される。
【0073】
その後、第一のビーズ混合物を、目的の物質とAPP(又はバリアント)のインキュベートされた混合物と混ぜ合わせて、この混合物を一晩インキュベートする。第二のビーズ混合物を、目的の物質とAPP(又はバリアント)のインキュベートされた混合物と混ぜ合わせる。ビヒクル、APP又はAPPバリアント、並びに、それぞれ上記第一及び第二の混合物由来の受容体ビーズを含む第三及び第四の混合物が形成される。次いで、ウェルプレートを読み取る。
【0074】
ストレプトアビジンでコートされた供与体ビーズは、APP(又はバリアント)上に存在するビオチン部分と相互作用し、受容体ビーズは、APPのN末端又はAβドメインの何れかに結合する抗体との相互作用を通じて、APP(又はバリアント)に結合する。APPの第1又は第二の抗体結合部位の何れとも相互作用しない物質は、ビヒクルと概ね同じシグナルを生じる。抗Aβ又はAPP N末端抗体混合物が使用される場合、APPはいずれのの抗体にも接近できず、シグナルがビヒクルに比べて減少するので、APPと非特異的に相互作用する物質は溶液からはずれる。第一及び第二の抗体の一つの結合部位近傍でAPPと特異的に相互作用する物質は、該物質の結合部位近傍の抗体に対して特異的に減少するが、さらに遠くの抗体に対しては減少しないシグナルを生じる。
【0075】
第二の実施形態において、本発明は、Aβ又はAβバリアントペプチドのN末端及びC末端との物質の相互作用を検出及び評価するためのアッセイに関する。この物質の結合特性の測定は、この物質がAβ又はAβバリアントペプチドと相互作用する又はAβ又はAβバリアントペプチドに結合する程度を決定することが可能である。
【0076】
この実施形態において、Aβ(又はバリアント)は、アッセイ条件下で、緩衝液と、例えば、リン酸緩衝生理食塩水中のBSAと混合される。結合緩衝液の対照混合液も形成される。その後、結合混合物の溶液を、マルチウェルプレートの1ウェル中に入れてもよい。次いで、結合反応物を、約1時間、約37℃でインキュベートする。各反応の溶液は、第二のアッセイプレートに移され、該プレートにおいて、Aβ(又はAβバリアントペプチド)と抗体間の相互作用が評価される。
【0077】
第一のビーズ混合物は、(1)ストレプトアビジンを含む供与体ビーズと、及び(2)AβのC末端に対して特異的である標識された抗体と、から形成され得る。第二のビーズ混合物は、(1)受容体ビーズ(例えば、AlphaScreen General IgG Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesから得られるプロテインA受容体ビーズ)と、及び(2)Aβのアミノ末端に対して特異的である抗体と、から形成され得る。
【0078】
アミロイド結合反応物の添加前に、混合物を、室温で約1時間インキュベートする。
【0079】
マルチウェルプレートの各ウェル中には、第一のビーズ混合物、第二のビーズ混合物及び緩衝液(例えば、PBS中のBSA)が添加される。次いで、プレートを一晩インキュベートし、AβのN末端に結合する抗体を検出する(例えば、ALPHAQUESTによって)。Aβと相互作用する物質の存在下で反応が実施されれば、シグナルの減少が示される。
【0080】
上記アッセイは、BioSignal Packard, Inc., Meriden, Coneecticutによって開発されたAlphaScreenTM技術を使用してもよい。本発明の基礎原理(すなわち、APPと物質の混合物を、APPのsAPP領域に対して特異的である第一の抗体と及びAPPのAβ領域に対して特異的である第二の抗体と接触させ、該物質の結合特性を決定する。)を使用することが可能である他の結合アッセイ技術が本分野に存在する。これらの他の結合アッセイには、リガンド結合アッセイ、例えば、比色及び分光光度アッセイ、例えば、生成された色又は蛍光、リン光の測定(例えば、ELISA、固相吸着アッセイ)及び波長の短い又は長い光放射が生じる他のラジオイムノアッセイ(紫外線及びγ線放射など)が含まれる。
【0081】
第三の実施形態において、本発明は、本発明のアッセイから同定された式(I)の化合物に関する。式(I)の化合物は、APP又はAβと特異的に相互作用し、セクレターゼとの又はAβ結合抗体との、APPの相互作用を遮断する。式(I)の化合物は、BACE1及びBACE2によるAPPプロセッシングを阻害し、BACE2によるAβプロセッシングを阻害し、γセクレターゼによるCTFβ(CTF99及びCTF100を含む。)プロセッシングを阻害する。式(I)の化合物は、APPのAβドメイン内でAPPを結合することによる、BACE及びγセクレターゼのプロセッシングを阻害する。
【0082】
本発明の化合物は、Aβ1−42の産生を選択的に弱めるために、γセクレターゼの作用の調節物質としても作用することができ、Aβのさらに短い鎖のイソフォーム(例えば、Aβ40)の優先的な分泌をもたらす。より短い鎖のイソフォームは、自己凝集及び斑形成の傾向が低下するため、脳から、より簡単に除去され、神経毒性も低いと考えられる。
【0083】
式Iの化合物は、以下のスキームによって形成され得る。
【0084】
【化6】

【0085】
本発明に記載されている方法のための出発材料及び試薬は、市販されているか、若しくは文献公知であり、又は類似の化合物に対して記載されている文献の方法に従って調製し得る。反応及び得られた反応産物の精製を実行する際に必要とされる技術は、当業者に公知である。精製手順には、結晶、蒸留、純相又は逆相クロマトグラフィーが含まれる。
【0086】
本発明は、さらに、本発明の式(I)の化合物を、薬学的に許容される担体又は希釈剤と組み合わせることを含む、ヒト及び動物のアルツハイマー病を治療するための医薬又は組成物の製造のための方法に関する。本発明は、APP又はAβと特異的に相互作用して、セクレターゼとの、又はAPP若しくはAβ結合抗体とのAPP又はAβの相互作用を遮断する化合物を含む医薬の製造方法にも関する。
【0087】
本発明の別の実施形態は、以下の実施例1ないし4の表題化合物及びこれらの薬学的に許容される塩から選択される、式(I)の化合物である。
【0088】
本発明の式(I)の化合物は、アルツハイマー病の治療、改善、抑制又はアルツハイマー病のリスクの低減において有用である。例えば、この化合物は、アルツハイマー型の認知症の予防、及びアルツハイマー型の認知症の初期段階、中間段階又は後期段階の治療に有用であろう。この化合物は、APPの異常な切断によって媒介される疾病及びAPPのBACE切断の阻害及びAβの凝集の阻害によって治療又は予防され得るその他の症状の治療、改善、抑制又はこれらのリスクの軽減においても有用であり得る。このような症状には、軽度の認知障害、トリソミー21(ダウン症候群)、脳アミロイドアンギオパチー、変性認知症、ダッチ型のアミロイドーシスを有する遺伝性脳出血(HCHWA−D)、クロイツフェルトヤコブ病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、頭部外傷、発作、ダウン症候群、膵炎、封入体筋炎、その他の末梢アミロイドーシス、糖尿病及びアテローム性硬化症が含まれる。
【0089】
本発明の式(I)の化合物は、ADの検出又は診断用の陽電子放出断層画像化法(PET)リガンドとしても有用であり得る。
【0090】
本発明の化合物は、PETリガンドとして、PET画像化において使用するために、陽電子放出放射性核種で標識してもよい。画像化の場合、適切なPET放射性核種には、H、11C、18F、125I、82Br、123I、131I、75Br、15O、13N、211At及び77Brが含まれる。最も一般的に使用されているPET放射性核種は、11C、18F、15O及び13Nである。本発明の放射性標識された化合物中に取り込まれる具体的な放射性核種は、所望される具体的な分析又は薬理学的適用に依存する。
【0091】
本発明は、本発明の化合物と薬学的に許容される少なくとも1つの担体又は賦形剤とを含む放射性薬学的組成物にも関する。本発明は、APPの又はAβの標識を必要としている哺乳動物に、本発明の放射性標識された化合物の有効量を投与することを含む、哺乳動物中にAPP又はAβを標識する方法にも関する。
【0092】
本発明は、APPの又はAβの診断画像化を必要としている哺乳動物に、本発明の放射性標識された化合物の有効量を投与することを含む、哺乳動物におけるAPPの又はAβの診断的画像化のための方法にも関する。
【0093】
本発明は、脳の診断画像化を必要としている哺乳動物に、本発明の放射性標識された化合物の有効量を投与することを含む、哺乳動物中の脳の診断的画像化のための方法にも関する。
【0094】
本発明の方法の好ましい実施形態では、前記哺乳動物はヒトである。「薬学的に許容される塩」という用語は、無機又は有機塩基及び無機又は有機酸を含む薬学的に許容される無毒の塩基又は酸から調製される塩を表す。無機塩基由来の塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン塩、亜マンガン、カリウム、ナトリウム、亜鉛などが含まれる。特に好ましいのは、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム及びナトリウム塩である。固体形態の塩は、2以上の結晶構造で存在する場合があり、水和物の形態で存在する場合もあり得る。薬学的に許容される無毒の有機塩基には、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレン−ジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチル−モルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの、一級、二級及び三級アミン、天然に存在する置換されたアミンを含む置換されたアミン、環状アミンの塩、及び塩基性イオン交換樹脂が含まれる。本発明の式(I)の化合物が塩基性である場合には、これらの塩は、無機及び有機酸を含む、薬学的に許容される無毒の酸から調製してもよい。このような酸には、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩化水素酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸などが含まれる。特に好ましいのは、クエン酸、臭化水素酸、塩化水素酸、マレイン酸、リン酸、硫酸、フマル酸及び酒石酸である。
【0095】
本明細書において使用される、単独での、又は別の置換基の一部としての「アルキル」という用語は、表記される炭素原子の数を有する飽和直鎖又は分枝鎖炭化水素基を意味する(例えば、C1−10アルキルは、1から10個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。)。本発明において使用するための好ましいアルキル基は、1から6個の炭素原子を有するC1−6アルキル基である。典型的なアルキル基には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが含まれる。
【0096】
本明細書において使用される、単独での、又は別の置換基の一部としての「アルコキシ」という用語は、Rが上記定義のアルキル基である、基−O−Rを意味する。本発明において使用するための好ましいアルコキシ基は、1から6個の炭素原子を有するC1−6アルコキシ基である。典型的なアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシなどが含まれる。
【0097】
「ハロ」又は「ハロゲン」という用語には、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードが含まれる。
【0098】
本発明の式(I)の化合物が投与される対象又は患者は、一般に、APP又はAβとの特異的相互作用が望まれる、男性又は女性であるヒトである。しかし、APP若しくはAβとの特異的相互作用又はAPP結合抗体若しくはAβ結合抗体との特異的相互作用が望まれる他の哺乳動物(イヌ、ネコ、ネズミ、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、サル、チンパンジー又は他の類人猿若しくは霊長類など)も包含し得る。
【0099】
本発明の式(I)の化合物は、本発明の式(I)の化合物が有用性を有する疾病又は症状の治療において、1又は複数の他の薬物と組み合わせて使用し得、この場合、薬物の組み合わせは、薬物単独より安全であるか、又はより効果的である。さらに、本発明の式(I)の化合物は、本発明の式(I)の化合物の副作用若しくは毒性を治療し、予防し、抑制し、改善し、又は副作用若しくは毒性のリスクを低減する1又は複数の他の薬物と組み合わせて使用してもよい。このような他の薬物は、だから一般的に使用される経路及び量で、本発明の式(I)の化合物と同時に又は逐次に投与してもよい。従って、本発明の薬学的組成物には、本発明の式(I)の化合物の他に、1又は複数の他の活性成分を含有する薬学的組成物も含まれる。前記組み合わせは、単位剤形組み合わせ産物の一部として、又はキットとして、又は一以上のさらなる薬物が治療計画の一部として別個の剤形で投与される治療プロトコールとして、投与し得る。
【0100】
単位投薬又はキット形態の何れかでの、本発明の式(I)の化合物の他の薬物との組み合わせの例には、抗アルツハイマー病薬(例えば、他のβ−セクレターゼ阻害剤又はγ−セクレターゼ阻害剤);HMG−CoA還元酵素阻害剤;イブプロフェンを含むNSAID;ビタミンE;ヒト化されたモノクローナル抗体を含む抗アミロイド抗体;カテプシンB阻害剤;CB−1受容体アンタゴニスト若しくはCB−1受容体インバースアゴニスト;ドキシサイクリン及びリファンピンなどの抗生物質;メマンチンなどのN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト;ガランタミン、リバスチグミン、ドネペジル、及びタクリンなどのコリンエステラーゼ阻害剤;イブタモレン、イブタモレンメシラート及びカプロモレリンなどの成長ホルモン分泌促進物質;ヒスタミンHアンタゴニスト;AMPAアゴニスト;PDE IV阻害剤;GABAインバースアゴニスト;神経ニコチンアゴニスト;又は本発明の式(I)の化合物の有効性、安全性、利便性を増加させるか、又は本発明の式(I)の化合物の望ましくない副作用若しくは毒性を低減する受容体又は酵素に影響を与えるその他の薬物の、1又は複数との組み合わせが含まれる。組み合わせの先述したリストは、例示にすぎず、いかなる意味においても、限定を意図したものではない。
【0101】
本明細書において使用される「組成物」という用語は、指定された成分を、所定の量又は割合で含む産物、並びに指定された量の指定された成分の組み合わせから、直接又は間接的に得られる任意の産物を包含するものとする。薬学的組成物に関するこの用語は、1又は複数の活性成分と、及び不活性成分を含む必要に応じて使用される担体とを含む産物、並びに、成分の任意の2以上の組み合わせ、錯化若しくは凝集から、又は成分の1もしくは複数の解離から、又は成分の一もしくは複数の反応若しくは相互作用の別の種類から、直接又は間接的に得られる任意の産物を包含するものとする。一般に、薬学的組成物は、活性成分を、液体担体又は細かく分割された固体担体又は両方と、均一且つ密接に混合し、次いで、必要であれば、産物を所望の製剤へと成形することによって調製される。この薬学的組成物において、活性な対象化合物は、疾病の過程又は症状に対して所望の効果を引き起こすのに十分な量で含められる。従って、本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物と薬学的に許容される担体とを混合することによって作製された組成物のどれでもを包含する。
【0102】
経口で使用することが意図された薬学的組成物は、薬学的組成物の製造の分野で公知のいずれかの方法に従って調製することができ、このような組成物は、薬学的に洗練された、口当たりのよい調製物を提供するために、甘味剤、着香剤、着色剤及び防腐剤からなる群から選択される1又は複数の薬剤を含有することができる。錠剤は、錠剤の製造に適した薬学的に許容される無毒の賦形剤と混合して活性成分を含有し得る。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウなどの不活性な希釈剤;造粒剤及び崩壊剤、例えば、コーンスターチ又はアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン又はアカシア;並びに、潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであってよい。錠剤は、コートしなくてもよく、又は、胃腸管での崩壊と吸収を遅延させることにより、長期間にわたって持続的な作用を提供するために、公知の技術によってコートしてもよい。
【0103】
経口用製剤は、活性成分が、不活性な固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム若しくはカオリンと混合された硬ゼラチンカプセルとして、又は活性成分が水若しくは油媒体、例えばピーナッツ油、液体パラフィン若しくはオリーブ油と混合された軟ゼラチンカプセルとして与えてもよい。
【0104】
他の薬学的組成物には水性懸濁液が含まれ、水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合された活性物質を含有する。さらに、油性懸濁液は、植物油、例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油若しくはココナッツ油、又は液体パラフィンなどの鉱物油中に活性成分を懸濁することによって調合し得る。油性懸濁液は、様々な賦形剤を含有し得る。本発明の薬学的組成物は、水中油エマルジョンの形態としてもよく、これは、甘味剤及び着香剤などの賦形剤も含有し得る。
【0105】
薬学的組成物は、注射可能な無菌水性又は油性懸濁液の形態としてもよく、注射可能な無菌水性又は油性懸濁液は、公知技術に従って調合し得、又は薬物の直腸投与のために坐剤の形態で投与し得る。
【0106】
本発明の式(I)の化合物は、当業者に公知の吸入装置を用いた吸入によって、又は経皮パッチによって投与してよい。
【0107】
「薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合性があり、および、その服用者に対して無害でなければならないことを意味する。
【0108】
化合物「の投与」又は「を投与する」という用語は、錠剤、カプセル、シロップ、懸濁液などの経口剤形;IV、IM又はIPなどの注射可能剤形;クリーム、ゼリー、粉末又はパッチなどの経皮剤形;口内剤形;吸入粉末、スプレー、懸濁液など;及び直腸坐剤を含む(これらに限定されない。)、治療的有用な形態及び治療的に有用な量で、個体の身体中に導入することが可能な形態で、治療の必要がある個体に、本発明の式(I)の化合物を与えることを意味するものと理解すべきである。
【0109】
「有効量」又は「治療的有効量」という用語は、研究者、獣医師、医師又はその他の臨床家によって求められている組織、系、動物又はヒトの生物学的又は医学的応答を惹起し得る本発明の化合物の量を意味する。本明細書において使用される「治療」という用語は、特に疾病又は疾患の症候を示している患者における、掲記されている症状の治療を表す。
【0110】
本明細書において使用される「治療」又は「治療する」という用語は、本発明の化合物のあらゆる投与を意味し、(1)疾病の病状又は症状を経験し、又は呈している動物中の疾病を阻害すること(すなわち、病状又は症状のさらなる進行を停止すること)、又は(2)疾病の病状又は症状を経験し、又は呈している動物中の疾病を改善すること(すなわち、病状及び/又は症状を回復させること)が含まれる。「抑制する」という用語には、抑制されている症状の重度を抑制し、治療し、根絶し、改善し又はその他軽減することが含まれる。
【0111】
本発明の式(I)の化合物を含有する組成物は、単位剤形で便利に与え得、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製し得る。「単位剤形」という用語は、患者又は患者に薬物を投与する者が、その中に含有されている全量を有する単一の容器又は包装を開封することが可能なように、および2以上の容器又は包装からの成分を一緒に混合する必要がないように、全ての活性及び不活性成分が適切な系中に混ぜ合わされている単一用量を意味するものとする。単一剤形の典型的な例は、経口投与用の錠剤若しくはカプセル、注射用の単一用量容器又は直腸投与用の坐剤である。単位剤形のこのリストは、いかなる意味においても限定を意図するものではなく、単位剤形の典型的な例を表したものにすぎない。
【0112】
本発明の式(I)の化合物を含有する組成物はキットとして便利に提供し得、このキットによって、活性又は不活性成分、担体、希釈剤などであり得る1つ又はそれ以上の構成成分が、患者又は患者に薬物を投与する者が実際の剤形を調製するための指示書と共に、提供される。このようなキットは、その中に含有される全ての必要な物質及び成分と共に提供し得、又はこのキットは、患者又は患者に薬物を投与する者が独立に取得しなければならない物質及び成分を使用又は製造するための指示書を含有し得る。
【0113】
アルツハイマー病の、又は本発明の式(I)の化合物が適応症となる他の疾病を治療し、改善し、抑制し、又はそのリスクを軽減する場合、本発明の式(I)の化合物が、好ましくは、単回1日用量として、又は1日に2ないし6回の分割用量で、又は徐放形態で、約0.1から約100mg/kg動物体重の1日投薬量で投与されるとき、一般に、満足すべき結果が得られる。総1日用量は、kg体重当たり約1.0mgから約2000mgまで、好ましくはkg体重当たり約0.1mgから約20mgまでである。70kgの成人の場合、総1日用量は、一般に、約7mgから約1,400mgまでである。この投薬計画は、最適な治療的応答を与えるために調整し得る。本発明の式(I)の化合物は、1から4回/日、好ましくは1又は2回/日の投与計画で投与してよい。
【0114】
本発明の式(I)の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩の、投与のための具体的な投与量は、1mg、5mg、10mg、30mg、80mg、100mg、150mg、300mg及び500mgを含む。本発明の薬学的組成物は、約0.5mgから約1000mgまでの活性成分を含む、より好ましくは約0.5mgから約500mgまでの活性成分又は0.5mgから250mgまでの活性成分又は1mgから100mgまでの活性成分を含む製剤形態として提供し得る。治療に有用な具体的な薬学的組成物は、活性成分約1mg、5mg、10mg、30mg、80mg、100mg、150mg、300mg及び500mgを含み得る。
【0115】
しかしながら、具体的な患者に対する具体的な投薬レベル及び投薬の頻度は変動する場合があり、使用される具体的な化合物の活性、化合物の代謝的安定性及び作用の長さ、年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与の様式及び時間、排泄の速度、薬物の組み合わせ、症状の重さ、並びに治療を受けている宿主など、様々な要因に依存し得ることが理解されるであろう。
【0116】
以下の実施例は、さらなる説明のためにのみ記載されており、開示されている発明に対する限定を意図するものではない。
【実施例1】
【0117】
{[6−(3−フェノキシプロピル)−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル]オキシ}酢酸
【0118】
【化7】

【0119】
段階A −78℃のTHF(2L)中の5−メトキシベンゾフラン(148g、1モル)の溶液に、ヘキサン(420mL、1.05モル)中の2.5Mのn−ブチルリチウムを滴加した。この混合物を、−78℃で1.5時間撹拌し、ついで、15分にわたってフェニルアセトアルデヒド(144g、1.2モル)を添加した。冷却槽を取り除き、混合物を、0℃まで、徐々に上昇させた。水(600mL)を添加した。エーテル層を分離し、MgSO上で乾燥させ、ろ過し、真空下で濃縮した。ヘキサン中の5%、10%、20%及び30%酢酸エチルの漸増極性の溶媒混合物を用いて、粗生成物をシリカゲル(2kg)中のクロマトグラフィーにかけて、2−(1−ヒドロキシ−2−フェニルエチル)−5−メトキシベンゾフラン、融点69−70℃を得る。
【0120】
段階B 5℃及び窒素雰囲気下のトルエン(2.5L)中の塩化アルミニウム(204g;1.5モル)の混合物に、50グラムずつ、t−ブチルアミンボラン(200グラム;2.3モル)を添加した。30分間撹拌した後、トルエン(600mL)中の化合物1−A(238g、880mmol)の溶液を滴加した。混合物を、5℃で2時間撹拌した後、10%の塩酸(3L)の撹拌氷冷混合物に、少しずつ添加した。発泡が停止するまで、撹拌を継続した。有機層を分離し、MgSO上で乾燥させ、ろ過し、真空中で濃縮した。15%酢酸エチルを溶出液として用いて、残留物をシリカゲル(2kg)中のクロマトグラフィーにかけて、2−(2−フェニルエチル)−5−メトキシベンゾフランを得た。
【0121】
段階C 5℃のトリエチルシラン(465mL;2.8モル)中の、段階1−Bから得られた2−(2−フェニルエチル)−5−メトキシベンゾフラン(128グラム;500mmol)の懸濁液に、15分にわたって、トリフルオロ酢酸(232mL;30モル)を添加した。混合物を、この温度で1時間撹拌し、室温で18時間撹拌した。混合物を濃縮し、エーテル中に溶解し、1N水酸化ナトリウムで洗浄し、MgSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮した。残留物をクロマトグラフィー(5%EtOAc/ヘキサン)にかけて、2−(2−フェニルエチル)−5−メトキシ−2,3−メトキシベンゾフランを得た。
【0122】
段階D 窒素雰囲気下で、DMF(700mL)中の水素化リチウム(8g;1.0mol)に、エタンチオール(62g、1モル)を滴加した。次いで、DMF(200mL)中の2−(2−フェニルエチル)−5−メトキシ−2,3−ジヒドロベンゾフラン(126g、500mmol)を一度に添加し、混合物を3時間還流した。1N塩酸中に混合物を注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル層を分離し、水で2回洗浄し、MgSO上で乾燥させ、ろ過し、真空中で濃縮して、5−ヒドロキシ−2−(2−フェニル−エチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン、融点56−58℃、123g(98%)を得た。
【0123】
段階E 5−ヒドロキシ−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン(5.0g、20.8mmol)、炭酸カリウム(5.5g、40.0mmol)、臭化アリル(4.8g、40.0mmol)及びアセトン(50mL)の混合物を、18時間還流した。この混合物を冷却し、ヘキサン(25mL)で希釈し、Celiteを通してろ過した。真空中でろ液を濃縮し、10%EtOAc/ヘキサンを使用して、残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィーにかけて、5−アリルオキシ−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフランを得る。
【0124】
段階F 1,2−ジクロロベンゼン(10mL)中の5−アリルオキシ−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン(4.7g、16.7mmol))の混合物を一晩撹拌した。混合物を濃縮し、10%EtOAc/ヘキサンを使用して、残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィーにかけて、純粋な異性体混合物4.1g(87%)を得て、クロマトグラフィー(50%ヘキサン/DCM)によって該異性体混合物をさらに分離して、6−アリル−5−ヒドロキシ−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン、融点79−80℃を得た。
【0125】
段階G 6−アリル−5−ヒドロキシ−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン(2.8g、10.0mmol)、炭酸カリウム(1.38g、10.0mmol)、臭化ベンジル(1.7g、10.0mmol)及びアセトン(50mL)の混合物を、18時間還流した。この混合物を冷却し、エーテル(25mL)で希釈し、Celiteを通してろ過した。溶媒の蒸発によって、所望のベンジルエーテル1−Gが残った。
【0126】
段階H 0℃のTHF中の、段階1−Gから得たオレフィン(2.0g、4.6mmol)の溶液に、THF(14mL、14mmol)中の1Mボランを添加し、反応混合物を2時間撹拌した。トリメチルアミン−N−オキシド(2.15g、19.4mmol)で反応混合物を処理し、その全体を8時間環流した。真空中で反応物を濃縮し、30%EtOAc/ヘキサンを溶出液として使用して、残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィーにかけて、所望の化合物を得た。
【0127】
段階I DCM20mL中のアルコール1−H(900mg、2.1mmol)の溶液に、トリフェニルホスフィン(1.1g、4.2mmol)及び四臭化炭素(1.4g、4.2mmol)を添加した。得られた混合物を、室温で15分間撹拌し、次いで、ヘキサン、次いで、5%EtOAc/ヘキサンを溶出液として使用するクロマトグラフィーにかけて、表題の化合物を得た。
【0128】
段階J DMF(20mL)中の95%水素化ナトリウム(365mg;14.5mmol)に、フェノール(1.4g、15.2mmol)を添加した。30分間撹拌した後、DMF(3mL)中の臭化物1−I(870mg、1.69mmol)の溶液を添加し、混合物を、室温で3時間撹拌した。過剰な1N HCl中に混合物を注ぎ、エーテルで抽出した。1N 水酸化ナトリウムでエーテル層を2回洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、真空中で濃縮した。残留物を、ヘキサン中の5%酢酸エチルを使用するシリカゲル上のクロマトグラフィーにかけて、5−ベンジルオキシ−2−(2−フェニルエチル)−6−(3−フェノキシプロピル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン630mg(82%)を油として得た。H NMR δ1.86−2.25(m,4H),1.15−2.95(m,5H),3.24(dd,1H,J=16Hz,J=8.5Hz),3.96(t,3H,J=6.5Hz),4.6−4.83(m,1H),4.99(s,2H),6.65(s,1H),6.77(s,1H),6.80−7.0(m,2H),7.1−7.5(m,13H)。
【0129】
段階K −78℃のジクロロメタン(30mL)中の、段階1−Jから得られたベンジルエーテルの溶液に、三臭化ホウ素溶液(1M DCM:1.9mL;1.88mmol)を滴加した。混合物を10分間撹拌し、次いで、メタノール(0.5mL)を滴加した。混合物を室温とし、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を添加した。有機層を分離し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、真空中で濃縮した。残留物を、20%EtOAc/ヘキサンを使用するシリカゲル上のクロマトグラフィーにかけて、5−ヒドロキシ−2−(2−フェニルエチル)−6−(3−フェノキシプロピル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン、融点65−70℃を得た。1H NMR δ 1.86−2.24(m,4H),2.68−2.95(m,5H),3.2(dd,1H,J=15Hz,J=7.4),4.0(t,2HE,J=5.5)4.67−4.83(m,1H),5.21(s,1H),6.58(s,1H),6.67(s,1H),6.88−7.04(m,3H),7.13−7.39(m,7H)。
【0130】
段階L DMF(12mL)中の、段階1−Kから得たフェノール(151mg、0.37mmol)と炭酸セシウム(120mg、0.37mmol)の溶液に、ブロモ酢酸tert−ブチル(0.05mL、0.37mmol)を添加し、混合物を18時間、室温で撹拌した。エーテルと飽和炭酸水素ナトリウムの間に反応混合物を分配し、分離した。有機相を、水で7回洗浄し、乾燥させ、濃縮した。得られた固体は、さらなる精製をせずに、次の反応で直接使用した。
【0131】
段階M DCM(2mL)中の、段階1−Lから得た化合物(195mg、0.37mmol)の溶液に、THF2mLを添加し、混合物を室温で1時間撹拌した。溶媒の蒸発及び逆相クロマトグラフィーによって、所望の化合物が得られた。H NMR δ(CDCl,250MHz)1.89−2.23(m,4H),2.71−3.30(m,6H),4.02(t,2H,J=7Hz)4.58(s,2H),4.76(m,1H),6.64(s,1H),6.66(s,1H),6.91−6.98(m,3H),7.18−7.33(m,8H)。
【実施例2】
【0132】
{[6−[3−(2クロロフェノキシ)プロピル]−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル]オキシ}酢酸
【0133】
【化8】

【0134】
該化合物は、化合物1と同様の様式で調製したが、段階1−Jで、フェノールを2−クロロフェノールに代えた。
【0135】
H NMR δ(CDCl,400MHz)1.89−2.23(m,4H),2.71−3.30(m,6H),4.02(t,2H,J=7Hz)4.58(s,2H),4.76(m,1H),6.64(s,1H),6.88−6.98(m,3H),7.2−7.4(m,7H)。
【実施例3】
【0136】
2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル]オキシ}酢酸
【0137】
【化9】

【0138】
段階A THF3mL中に、5−ヒドロキシ−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン120mg(0.5mmol)(実施例1−D)及びブロモ酢酸tert−ブチル0.088mL(0.6mmol)を含有する溶液に、NaH粉末15mg(0.6mmol)を添加した。反応物を5時間撹拌した後、水で反応を停止し、エーテルで抽出した。カラムクロマトグラフィー(30% EOAc/ヘキサン)によって、油として、所望のエステルを得た。LCMS(M+Na=377.11)。
【0139】
段階B 段階3−Bから得られたエステル(71mg、0.2mmol)の溶液を、DCM2mL中に溶解し、TFA2mLで処理した。反応混合物を3時間撹拌した後、濃縮し、逆相クロマトグラフィーによって精製した。 H NMR δ(CDCl,400MHz)1.85−1.91(m,1H),2.05−2.2(m,1H),2.71−2.91(m,3H),3.25(dd,1H),4.58(s,2H),4.77(m,1H),6.65(s,2H),6.80(s,1H),7.2−7−4(m,6H)。
【実施例4】
【0140】
6−{3−[2−クロロ−4−(1H−テトラゾル−5−イル)フェノキシ]プロピル}−2−(2−フェニルエチル)−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−オール
【0141】
【化10】

【0142】
この化合物は、「Lau et al, J. Med. Chem.,(1992),35(7),1299−318」の方法に従って合成した。
【0143】
実施例1ないし4は、完全長APPのBACE切断を阻害することが見出された。しかしながら、これらの化合物は、短いペプチド基質を用いたアッセイでは、BACEと相互作用しなかった。
【0144】
これらの化合物は、BACE酵素ではなく、APP基質と阻害し得るか、又は、これらの化合物、完全長APPに非特異的に結合して、APPタンパク質を不溶性とし、BACEに対して接近不能にし得るという仮説を立てた。
【0145】
実施例1ないし4の阻害の様式を決定するために、以下のアッセイを開発した。
【実施例5】
【0146】
ビオチン化されたAPPバリアント(400nM)を、アッセイ条件(50mM酢酸ナトリウム、pH4.5;1×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Rocheカタログ番号1836153);100μg/mLウシ血清アルブミン、0.2%CHAPS)下で、実施例1ないし3と混合した。DMSO(化合物希釈剤)を含むビヒクルとのインキュベーション、及びAPPバリアントを欠くインキュベーションを、各実験に対する対照として行った。各混合物を、37度で1時間インキュベートした。
【0147】
その後、各インキュベーション混合物70μLを、96ウェルプレートのそれ自身のウェル中に入れた。全ての結合反応を中和するために、1M Tris−Cl、pH8.0 5μLを各ウェルに添加した。
【0148】
実施例5Aでは、
(1)20μg/mLのストレプトアビジン供与体ビーズ;
(2)AβのC末端領域に対して誘導されたウサギポリクローナル抗体150ng/mLを含有する20μg/mLのプロテインA受容体ビーズ(AlphaScreen General IgG(プロテインA)Detection Kit Perkin Elmer Life Sciences;10,000pts(Part Number6760617M)から入手)、及び
(3)0.1%ウシ血清アルブミン
からALPHAビーズの混合物を調製した。
【0149】
ビーズを、リン酸緩衝食塩水中で混合した。
【0150】
実施例5Bでは、
(1)20μg/mLのストレプトアビジン供与体ビーズ;
(2)APPのN末端領域に対して誘導されたモノクローナル抗体LN27 160ng/mLを含有する、20μg/mLのプロテインA受容体ビーズ(AlphaScreen General IgG(プロテインA)Detection Kit Perkin Elmer Life Sciences;10,000pts(Part Number6760617M)から入手)、20μg/mLマウスIgG受容体ビーズ;及び
(3)0.1%ウシ血清アルブミン
からALPHAビーズの混合物を調製し、リン酸緩衝食塩水中で混合した。
【0151】
5A及び5Bでは、ALPHAビーズ混合物46μLを、インキュベーション混合物の各々4μLと混合した。暗所、室温で、ビーズを一晩インキュベートした。
【0152】
翌日、抗体の結合の程度を測定するために、ALPHAQUESTを用いて、プレートを読み取った。
【0153】
5A及び5Bの抗体の結合部位の何れにおいても、APP又はAPPバリアントと相互作用しない化合物は、ほぼビヒクルと同じである測定可能なシグナルを生じるであろう。APP又はAPPバリアントと非特異的に相互作用する化合物は、APP又はAPPバリアントを溶液から沈殿させるであろう。その結果、タンパク質は、全ての抗体に接近することができなくなるはずであり、測定可能なシグナルは、ビヒクルと比較して減少するはずである。抗体の一つの結合部位の付近でAPP又はAPPバリアントと相互作用する化合物は、化合物結合部位の近くで、抗体に対するシグナルの減少を示すであろう。しかしながら、シグナルは、非近接部位では、抗体に対して減少しないはずである。
【0154】
実施例5A及び5Bの結果は、実施例1及び2の化合物が、C末端結合部位の近傍で、そのAβドメイン内においてAPPバリアントと相互作用した。実施例3の化合物は、何れの抗体結合部位の近くでも、APPバリアントと殆ど又は全く相互作用しなかった。
【実施例6】
【0155】
AβドメインのC末端領域の近くでAPPバリアントを結合する化合物も、該化合物がAPPのγ−セクレターゼ切断を阻害するかどうかを決定するために評価を行った。従って、実施例1ないし4の、完全長CTFβ基質の両方のγ−セクレターゼ切断を阻害する能力について「Li, 2000, Proc. Natl Acad Sci 97:6138−6143」に記載されているようにして調べた。このアッセイは、以下のようにして行った。
【0156】
CTFβ切断の阻害
切断反応:
10μL 10×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche,カタログ番号1836153)
25μL 4×緩衝液(50mM PIPES pH7.0、150mM KCl、5mM MgCl、5mM CaCl
2μL 10%CHAPSO
5μL γ−セクレターゼ活性に対して特徴が明らかにされたHeLa細胞膜抽出物
7μL 25μM細菌によって発現されたCTFβ
51μL 水
1μL DMSO中の化合物。
【0157】
反応物を、37℃で150分間インキュベートし、5×RIPA緩衝液25μL(750mM NaCl、5% NP−40、2.5%DOC、0.5% SDS、250mM Tris pH8.0)によって反応停止した。
【0158】
検出:
AβのN末端領域に対して特異的である4μg/mLのビオチン化された抗体6E−10の25μL及びAβ40のC末端に対して特異的である1.5μg/mLのルチニル化された抗体G2−10の25μLとともに、反応物50μLをインキュベートすることによって、CTFβ基質のγ−セクレターゼ切断を評価した。C末端領域は、Aβのγセクレターゼ切断後にのみ存在する。抗体を、室温で一晩インキュベート結合させた。翌日、80μg/mLのストレプトアビジンコートされたDynabeads(M−280)25μLを、各反応に添加して、30分間結合させ、IGENアッセイ緩衝液275μLで反応停止させた。Origen Analyzerを用いて、γ−セクレターゼ切断産物の定量を行った。
【0159】
結果:
CTFβのγ−セクレターゼ切断の阻害について、実施例1ないし4をアッセイした。
【0160】
【表1】

【0161】
上述のように、実施例1−3のそれぞれが、γセクレターゼによるCTFβの切断を阻害する。
【実施例7】
【0162】
セクレターゼ又はAPP(又はAPPバリアント)のAβドメインに結合する抗体と相互作用する化合物も、Aβ又は関連するアミロイド産生ペプチドと相互作用すると予測することができる。ベンゾフランとアミロイドペプチド間の相互作用を評価するために、WO02/094985及びUS2003/0200555A1に記載されているような、Aβ1−40と類似しているが、N末端の2個のアミノ酸がGlu及びValによって置換されたAβバリアントペプチド(以下、「EV−アミロイド」と称する。)を使用した。実施例5の完全長APPバリアントと同様に、生じ得る相互作用をアッセイするために、抗体結合部位のマスキングを使用した。アッセイは、以下のように行った。
【0163】
1.結合緩衝液中のEV−アミロイドペプチドの主混合液は、以下のようにして作製した。リン酸緩衝食塩水中の0.1%ウシ血清アルブミン10650μL、10×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche、カタログ番号1836153)1200μL、EVアミロイドペプチド(DMSO中4μM)30μL。
【0164】
2.結合緩衝液の陰性対照混合液は、リン酸緩衝食塩水中の0.1%ウシ血清アルブミン、10×プロテアーゼ阻害剤カクテル及びDMSOを、同じ比で混ぜ合わせることによって調製した。
【0165】
3.主混合液及び陰性対照混合液99μLを、96ウェルプレート中の各ウェルに分配した。
【0166】
4.DMSO中の実施例1ないし4又はDMSOのみ(ビヒクル)1μLを各ウェルに添加した。
【0167】
5.次いで、結合反応物を、37℃で1時間インキュベートした。
【0168】
6.各反応物20μLを、第二のアッセイプレートに移した。ALPHA検出を用いた抗体サンドイッチアッセイによるEVアミロイドペプチドの定量によって、EVアミロイドと抗体の間の相互作用を評価した。
【0169】
7.EV−アミロイド検出の場合、以下の2つの溶液を調製した。
溶液1:ストレプトアビジン供与体ビーズ(5mg/mL、AlphaScreen General IgG(プロテインA)Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesより;10,000pts(Part Number 6760617M))、ビオチン化された抗体G2−10 2.3μL(AβのC末端領域に対して特異的である。)、50mM Hepes pH7.5 1173.7μL。
溶液2:プロテインA受容体ビーズ(5mg/mL、AlphaScreen General IgG(プロテインA)Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesより;10,000pts(Part Number 6760617M))、EVアミロイドのアミノ末端でNH−EVEFRと特異的に相互作用する抗体10.4μL、50mM Hepes pH7.5 1165.6μL。
EV−アミロイド結合反応への添加前に、溶液を、室温で1時間インキュベートした。
【0170】
8.EVアミロイド結合反応を含有する96ウェルプレート中の各ウェルに、溶液1 10μL、溶液2 10μL及びPBS中の0.1%BSA10μLを添加した。
【0171】
9.プレートを、暗所、室温で一晩インキュベートし、ALPHA Questを用いてEV−アミロイドへの抗体結合を検出した。
【0172】
Aβへの抗体結合を用いて、EV−アミロイドへの抗体結合の抑制を観察した。実施例1及び2(何れもAPPのBACEプロセッシング及びCTFβのγ−セクレターゼプロセッシングの両者を阻害し、何れもAPPへの抗体結合を遮断する。)は、EVアミロイドへの抗体結合の約40%を阻害する。APPのBACEプロセッシングも遮断せず、APPとの抗体相互作用も遮断しなかった実施例3は、EV−アミロイドとの抗体相互作用に対して全く効果を有していなかった。
【実施例8】
【0173】
BACE2酵素は、Aβドメイン内の幾つかの異なる位置で、APPを切断する。APPのAβドメイン内の異なる切断部位でのBACE2切断の異なる阻害は、阻害が、酵素切断ではなく、化合物の基質との相互作用によるものであることを示すのに役立つであろう。
【0174】
APPのBACE2切断の阻害
β−セクレターゼ切断部位での、APPの切断に対する実施例1−4の効果は、以下のようにしてアッセイした。
【0175】
切断反応:
25μL 0.2M酢酸ナトリウム、pH4.5
10μL 10×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche,カタログ番号1836153)、
10μL ウシ血清アルブミン(1mg/mL溶液)
4μL 5%CHAPS
1μL EDTA(150mM、pH4.5)
2μL DF2μL
4μL NFEV BACE切断部位を含有する、MBP(マルトース結合タンパク質)−ビオチン化APP融合タンパク質(細菌によって発現される、10μM溶液)
1μL DMSO又はDMSO中に溶解された化合物
2μL BACE2(CHO細胞によって発現されたタンパク質、250nM)
41μL 蒸留水
反応物を、37℃で30分間インキュベートし、次いで、1M TrisHCl、pH8.0 4μLで反応を停止した。
【0176】
ALPHAを用いたMBPビオチンAPP(NF)切断産物の検出
ALPHAアッセイ混合液は、以下のようにして調製した。
【0177】
20μL ストレプトアビジン供与体ビーズ(AlphaScreen General IgG(プロテインA)Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesより);10,000pts(Part Number 6760617M)
20μL プロテインA受容体ビーズ(AlphaScreen General IgG (プロテインA)Detection Kit Perkin Elmer Life Sciencesより);10,000 pts(Part Number 6760617M)
3.7μL アフィニティー精製された抗NF抗体(203μg/mL)(WO 02/094985に記載されている)
4.5mL PBS中の0.1% BSA
反応停止された反応混合物4μLを、アッセイ混合液46μLと混ぜ合わせた。反応物を、室温で一晩インキュベートし、ALPHAQuestプレートリーダーを用いて読み取った。
【0178】
結果:
【0179】
【表2】

【0180】
実施例3は、BACE1に対して不活性であり、BACE2に対して若干活性であった。実施例1、2及び4は、同一部位でのBACE1切断の阻害と同様の有効性で、β−セクレターゼ位置におけるAPPのBACE2切断を阻害することが可能であった。
【実施例9】
【0181】
「Shi et al, 2003,J.Biol.Chem.,278:21286−21294」に記載されているプロトコールを用いて、EVアミロイドのBACE2切断の阻害の効果をアッセイした。100μMの実施例1ないし4をアッセイする結果を以下に示す。
【0182】
【表3】

【0183】
調べた4つの化合物全てが、34位でのBACE2切断を破壊した。
シグナルが極めて弱かったために、実施例1、2及び3では、19及び20位での切断に対する効果は、決定することができなかった。しかしながら、実施例2は、19及び20位での切断を大幅に増加させ、APPのBACE2切断に対する位置依存的効果を示している。
【0184】
図1は、実施例4及び実施例1の化合物の100μMの存在下及び不存在下で、AβのBACE2切断の質量分析を示している。実施例4は、19及び20位でのAβの切断を増強したが、34位での切断を遮断した一方、実施例4は、全てのAβ部位での切断を抑制した。このデータは、本発明の化合物が、セクレターゼ切断の調節物質として作用し得ることを示している。
【実施例10】
【0185】
ウェスタンブロット分析を実施するために、増強されたBACE切断配列を含有する、細菌によって発現されたAPPバリアントを、実施例2及びBACE1タンパク質とともに37℃で1時間インキュベートした。反応物をゲル上に走行させて、ブロッティングした。BACE切断後に生じるN末端産物を特異的に認識する抗体を使用して、BACE特異的切断産物を検出した。図2(A)は、ウェスタンブロットを図示している。図2(B)は、ウェスタンブロットの濃度測定定量であり、APPのBACE切断が11μMのIC50で阻害されることを示している。
【実施例11】
【0186】
図3は、スタチン−Val及び実施例4による、完全長APP及びβ部位P5/P5’ペプチド及びAPP断片のBACE1切断の阻害を示している。図3(A)は、APP及びAPP断片のBACE切断(β部位P5/P5’ペプチド断片を含む。)の公知の阻害剤であるスタチン−Valによる阻害を図示している。図2(B)は、実施例4による阻害を図示している。これらのグラフは、完全長APP基質(白丸)又はβ部位P5/P5’断片(白四角)の切断の阻害を図示している。酵素活性は、DMSO処理されたBACE切断と比較して示されている。スタチン−Valは、APP及びペプチドをベースとする両基質の切断の阻害を示すのに対して、実施例4はAPPのみの切断を阻害する。
【実施例12】
【0187】
実施例1の化合物を、CTF99を発現しているH4神経膠腫細胞中に滴定した。実施例1の化合物で、該細胞を20時間処理し、馴化培地を採集した。ECLを用いて、分泌されたアミロイドx−42及びx−40のレベルをアッセイし(Li et al, 2000, Proc. Nat’l Acad.Sci.97:6138−6143)、Aβ42及びAβ40の産生を測定し、図4に示されているように、グラフにした。結果は、本発明の化合物が、Aβペプチドの産生を調節して、Aβ40の産生との比較においてAβ42の産生を減少させることを示している。
【実施例13】
【0188】
式(I)の化合物は、APPを結合することによってAPP切断機能を阻害すると考えられている。BiacoreS51によって、APPへの実施例1の化合物の結合をアッセイした。ビオチン化されたAPP及びビオチン化されたsAPPbを、SAコートされたセンサーチップに固定した。実施例1の滴定を注射し、両タンパク質について、実施例1の各濃度に対する結合応答を得た。図5は、APPに結合する、化合物2(白丸)又はBACE1阻害剤であるスタチン−Val(白四角)に対する反応単位のグラフである。
【0189】
実施例1の化合物はAPPに結合するが、sAPPβに結合しないこと、BACE阻害剤、スタチン−ValはAPP及びsAPPβの何れにも結合しないことを、これらデータは示している。幾つかの異なる酵素によるAPPプロセッシングが実施例1の化合物によって阻害されることを考え合わせると、実施例1の化合物のAPP結合能は、APPプロセシングの阻害が、化合物と酵素との間の相互作用ではなく、むしろ、化合物とAPPとの間の相互作用によって引き起こされ得ることを示している。
【0190】
本文書を通じて、以下の略号が使用される。
Me:メチル
Et:エチル
Bu:ブチル
tBu:tert−ブチル
Ar:アリール
Bn:ベンジル
THf:テトラヒドロフラン
TFA:トリフルオロ酢酸
TPP:トリフェニルリン酸
DMF:N,N’−ジメチルホルムアミド
DCM:ジクロロメタン
BSA:ウシ血清アルブミン
CHAPSO:3−[(クロルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート
CHAPS:3−[(クロルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート
DMSO:ジメチルスルホキシド
RIPA:放射性免疫沈降アッセイ
PIPES:ピペラジン−N,N’−ビス(エタンスルホン酸)
PBS:リン酸緩衝食塩水
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
【0191】
本発明のある種の具体的な実施形態を参照しながら、本発明を記述及び例示してきたが、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、手順及びプロトコールの様々な改変、変化、変更、置換、欠失又は付加を為し得ることが当業者には自明であろう。例えば、上述されている本発明の方法から化合物を調製するための試薬又は方法の改変の結果として、本明細書に上記されている具体的な条件以外の反応条件を適用してもよい。同様に、出発材料の具体的な反応性は、存在する具体的な置換基又は製造の条件に従って、及びこれらに応じて変動する場合があり得、本発明の目的及び実施に従って、このような予測される結果の変動又は相違が想定される。従って、本発明は、以下に記載されている特許請求の範囲によって定義され、このような特許請求の範囲は、合理的な限り、できるだけ広く解釈されるべきものとする。
【0192】
さらに、全ての値はおよその値であり、記述のために与えられていることを理解しなければならない。特許、特許出願、刊行物、製品の説明及びプロトコールが本願を通じて引用されているが、これらの開示内容は、参照により、その全体が、あらゆる目的のために、本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1A】実施例1及び4の化合物によって影響を受けたBACE2によるAβ切断の質量分析を図示している。
【図1B】実施例1及び4の化合物によって影響を受けたBACE2によるAβ切断の質量分析を図示している。
【図2A】図2(A)及び2(B)は、実施例2の化合物による、APPのBACE1切断の阻害のウェスタンブロット分析を図示している。
【図2B】図2(A)及び2(B)は、実施例2の化合物による、APPのBACE1切断の阻害のウェスタンブロット分析を図示している。
【図3A】スタチン−Val及び実施例4の化合物による完全長APP又はAPP断片のBACE1切断の阻害を図示している。
【図3B】スタチン−Val及び実施例4の化合物による完全長APP又はAPP断片のBACE1切断の阻害を図示している。
【図4】図4は、H4−C99細胞中のAβ40及び42レベルの減少を図示している。
【図5】図5は、実施例1の化合物によるAPPの結合のグラフを図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイド前駆体タンパク質(APP)又はアミロイドβペプチド(Aβ)への物質の相互作用を測定する方法であり、前記方法は、
(a)第一の検査溶液(第一の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有するAPP又はAPPバリアント、(ii)物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのsAPPβ領域に対して特異的である第一の抗体を含む。)をsAPPβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、sAPPβ−抗体複合体の第一の検査シグナル読み取りを得ること、
(b)第二の検査溶液(第二の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有する前記APP又はAPPバリアント、(ii)前記物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのAβ領域に対して特異的である第二の抗体を含む。)を前記Aβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第二の検査シグナル読み取りを得ること、
(c)対照溶液(前記対象領域は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有する前記APP又はAPPバリアントおよび(ii)前記第一及び第二の抗体を含む。)をsAPPβ−抗体複合体及びAβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、sAPPβ−抗体複合体の第一の対照シグナル読み取りおよびAβ−抗体複合体の第二の対照シグナル読み取りを得ること、
(d)前記第一の検査シグナル読み取りと前記第一の対照シグナル読み取りを比較すること、並びに前記第二の検査シグナル読み取りと前記第二の対照シグナル読み取りを比較すること、を含み、
(i)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAPPと相互作用せず、
(ii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りより低く、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAPPのsAPPβ領域に特異的に結合し、
(iii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りより低ければ、前記物質はAPPのAβ領域に特異的に結合する、
前記方法。
【請求項2】
前記検査溶液及び前記対照溶液の各々が希釈剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検査溶液及び前記対照溶液がpH調整剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記物質が約2kD未満の分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記APPが、リガンドにより検出可能に標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記検査溶液及び前記対照溶液が受容体ビーズを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第二の抗体が、Aβのアミノ酸1ないし17又は28ないし40に対して特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第二の抗体が、Aβ領域のC末端に対して特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第二の抗体が、Aβ領域のN末端に対して特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記APP又はAPPバリアントがAPPバリアントである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
アミロイドβペプチド(Aβ)への物質の相互作用を測定する方法であり、前記方法は、
(a)第一の検査溶液[第一の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有するAPP又はAPPバリアント(前記Aβ領域は第一の亜領域及び第二の亜領域を有する。)、(ii)物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのAβ領域の前記第一の亜領域に対して特異的である第一の抗体を含む。]を前記Aβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第一の検査シグナル読み取りを得ること、
(b)第二の検査溶液[第二の検査溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有するAPP又はAPPバリアント(前記Aβ領域は第一の亜領域及び第二の亜領域を有する。)、(ii)前記物質並びに(iii)前記APP又はAPPバリアントのAβ領域の前記第二の亜領域に対して特異的である第二の抗体含む。]を前記Aβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第二の検査シグナル読み取りを得ること、
(c)対照溶液[前記対象溶液は(i)sAPPβ領域とAβ領域とを有する前記APP又はAPPバリアント(前記Aβ領域は第一の亜領域及び第二の亜領域を有する。)および(ii)前記第一及び第二の抗体を含む。]をAβ−抗体複合体の形成に適した条件下で形成して、Aβ−抗体複合体の第一の対照シグナル読み取りとAβ−抗体複合体の第二の対照シグナル読み取りとりを得ること、
(d)前記第一の検査シグナル読み取りと前記第一の対照シグナル読み取りを比較すること、及び前記第二の検査シグナル読み取りと前記第二の対照シグナル読み取りを比較すること、を含み、
(i)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAβと相互作用せず、
(ii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りより低く、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りと等しければ、前記物質はAβの前記第一の亜領域に特異的に結合し、
(iii)前記第一の検査シグナル読み取りが前記第一の対照シグナル読み取りと等しく、且つ前記第二の検査シグナル読み取りが前記第二の対照シグナル読み取りより低ければ、前記物質はAβの前記第二の亜領域に特異的に結合する、
前記方法。
【請求項12】
Aβの前記第一の亜領域がC末端であり、Aβの前記第二の亜領域がN末端である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記検査溶液及び前記対照溶液の各々が希釈剤をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記検査溶液及び前記対照溶液の各々がpH調整剤をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記APP又はAPPバリアントがAPPバリアントである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記物質が約2kD未満の分子量を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記APP又はAPPバリアントが、リガンドにより検出可能に標識されている、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記検査溶液及び前記対照溶液が受容体ビーズを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
APP又はAβと相互作用し、その構造が請求項1に記載のアッセイによって同定される物質。
【請求項20】
APP又はAβと相互作用し、その構造が請求項11に記載のアッセイによって同定される物質。
【請求項21】
式Iの化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中、
は、必要に応じて存在し、
(a)ハロゲン、
(b)C1−6アルキル及び
(c)C1−6アルコキシからなる群から選択され;
は、
(a)水素、
(b)(CH−C(=O)−OR(Rは、水素及びC1−6アルキルからなる群から選択され、mは、1、2又は3である。)
からなる群から選択され;
は、
(a)水素、及び
(b)
【化2】

(R及びRは、
(i)水素、
(ii)ハロゲン、
(iii)C1−6アルキル、
(iv)C1−6アルコキシ及び
(v)テトラゾリル
からなる群から選択され;
nは、3、4又は5である。)
からなる群から選択される。)
【請求項22】
が、
【化3】

である、請求項21に記載の化合物。
【請求項23】
アルツハイマー病の治療を必要としている哺乳動物に、請求項21に記載の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩の治療的有効量を投与することを含む、前記哺乳動物中のアルツハイマー病を治療する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−502880(P2008−502880A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506477(P2007−506477)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/010538
【国際公開番号】WO2005/096730
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】