説明

アムルビシン合成法

アムルビシン及びその類似構造体の製法。本発明は、アムルビシン(式I)及びその類似構造体を生成する酵素触媒反応を含む。出発原料として一般式IIのアントラサイクリン化合物を本発明の酵素触媒反応に使用することが好ましい。R1、R2、R3、R4及びR8をH、OH又はアルコキシ基とし、R5をH、アルキル基又はアルコキシカルボニル基とし、R6をH又はアルキル基とし、R7をOH又はアルキル基とすることができるとき、式IIの化合物は、表示する部位に対する前記識別基の全組合せを含むことができる。特定の実施の形態では、式IIによる出発原料として、ε-ロドマイシノン又はダウノマイシノンを使用できる。本発明は、従来の化学合成工程と生合成工程と組み合わせる半合成法の一部として式IIの化合物を使用してアムルビシン、その誘導体及びその類似構造体を生成する。本発明の方法は、アムルビシンのアグリコン又はその類似構造体をグリコシル化して、最終生産物を生成するグリコシル化反応を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、米国特許法第119条(e)の規定に基づき、2009年4月28日に出願された米国仮特許出願第61/173,440号の早期出願日を適用する権利を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、広義には癌治療又は抗癌剤に有効な細胞毒性又は細胞障害性の製薬となるアムルビシンを製造する新規な方法に関連する。また、本明細書に記載する方法は、薬剤開発目的の新規4−デオキシ−9−アミノアントラサイクリンの生成に有用である。
【背景技術】
【0003】
アムルビシン(下式I)は、米国及び日本の市場で現在販売される小細胞肺癌を治療するアントラサイクリン抗生物質である。アムルビシン(登録番号(CASNo.):110267−81−7)は、例えば、用量制限心臓(心)毒性を低減しかつ肺癌への有効性等の改善された癌化学療法を提供する(非特許文献1及びその参考文献を参照されたい)。アムルビシンの全化学合成法は、非特許文献1及び特許文献1に開示される。大型多重環構造と多側鎖基とを有するアムルビシンの合成法は、複雑でありかつ多段精製工程を要する。
また、アムルビシン及びその構造類似体を生成する従来の合成法は、何れも高毒性のシアン化カリウムとバリウム塩とを多量に使用しなければならない。
【0004】
【化1】

【0005】
更に、分子内の複数の不斉(キラル)中心に立体化学構造を合成時に維持する注意が必要である。生成物の立体化学構造を合成時に維持しなければ、高価かつ煩瑣な操作により、エンチオマを分離して、生物学的に活性なアムルビシン・エナンチオマを生成しなければならない。
【0006】
半合成法は、天然資源の出発原料から産出される化合物を使用する化学合成法の一形式である。従来の化学合成法より少ない工程で、複合体として多く産出される天然の出発原料から最終生産物を合成することができる。また、酵素活性を利用して化学的に変換する方法、即ち生合成工程を利用して、エナンチオマ純度の非常に高いかつ複雑な構造を有する有機化合物を効率的に合成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,673,668号公報
【特許文献2】米国特許第5,986,077号公報
【特許文献3】国際特許公開WO01/87814号公報
【特許文献4】米国公開特許第2006/0047108号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】石墨紀久夫著「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリ」1987年、第52巻、第4477頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、出発原料の生合成製造法と従来の化学手法とを組み合わせることにより、アムルビシンの従来の合成方式を改善して、安全にかつ効率的にアムルビシンとその類似構造体の製法を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アムルビシン(式I)とその類似構造体とを生成する合成酵素触媒反応を含む。本発明の合成酵素触媒反応では、一般式IIで表わすアントラサイクリン化合物を出発原料として用いることが好ましい。
【0011】
【化2】

【0012】
1、R2、R3、R4及びR8を−H、−OH又はアルコキシ基とし、R5を−H、アルキル基又はアルコキシカルボニル基とし、R6を−H、アルキル基又はアシル基とし、R7を−OHとすると、式IIで表わす化合物は、表示する部位への識別基の全組合せを含むことができる。式IIで表わす化合物を化学的に改質し、これにより、各糖残基と化学的にグリコシル化されてアムルビシン(又はその各類似構造体)を形成するアムルビシンのアグリコン(式III)又はその類似構造体を生成することができる。
【0013】
【化3】

【0014】
非特許文献1に開示される式IIIで表わす化合物及びその類似物のグリコシル化を本明細書に引用する。
【0015】
現在好適な特定の実施の形態では、式IVで表わすε−ロドマイシノンを出発物質のアントラサイクリンに使用できる。
【0016】
【化4】

【0017】
現在好適な他の実施の形態では、式Vで表わすダウノマイシノンを出発物質のアントラサイクリンに使用できる。
【0018】
【化5】

【0019】
現在好適な他の実施の形態では、式VIで示す4−デメトキシーダウノマイシノン(イダルビシノン)を出発物質のアントラサイクリンに使用できる。
【0020】
【化6】

【0021】
本発明では、半合成法の生合成される出発原料として式IIに示す化合物を使用することが好ましく、半合成法は、従来の化学合成工程を生合成出発原料と組み合わせて、アムルビシン、その誘導体及びその類似構造体を生成するものである。出発化合物(式II)の生合成法により、生成物のエナンチオマ純度は、部分的に達成される。基R1〜R7に対し選択される特定の化学的部位は、生成物がアムルビシン・アグリコン又はその類似構造体であるかを決定する。
【0022】
式IIを有する出発化合物の合成は、従来技術で公知であるが、(アムルビシンのアグリコンのように)R7を−NH2とし又は生化学合成される式IIの化合物のR7を−NH2に改質する各アントラサイクリン類似物の生化学合成は、最先端技術では新規である。困難な多段階工程を構成する全化学合成によってのみ、R7を−NH2とする式IIで表わされるアントラサイクリン化合物を合成できた。
【0023】
従って、本発明は、分子中の全不斉炭素原子の構造を維持しつつ、R7を−OHとする式IIを有する化合物を、R7を−NH2とする類似体に変換する化学改質法を提供することを目的とする。
【0024】
式IIで表わされる化合物を適当なニトリルでリッター反応させて環状中間体を形成し、その後、酸性雰囲気(酸性条件)で環状中間体を加水分解し、R7を−NH2とする各誘導体を生成することにより、本目的を達成できる。
【0025】
適当なキラリティ(対掌性)を維持しながら、置換基R7を−OHから−NH2に変換する化学反応に式IIで示す出発化合物を暴露して、アムルビシンのアグリコン又はその類似構造体を合成することが好ましい。アムルビシンのアグリコン又はその類似構造体を最終的に化学的にグリコシル化して、アムルビシン又はその類似構造体に変換することができる。
【0026】
本発明は、従来技術に対して多くの利点を提供するものである。危険な廃物の減少生成量で本発明の反応全体を温和な条件で実施することができる。出発化合物の生合成によりアグリコン分子のエナンチオマ純度を決定できる。従って、不斉触媒反応、不斉合成又は生成物からのエナンチオマ分離等の化学的手法は、本発明に不要である。
【0027】
従来では、大量のシアン化カリウムとバリウム塩とを消費して、アムルビシン及びその類似構造体の全化学的合成を行ったがこれとは対照的に、本発明は、合成時に前記有毒な試薬又は危険な薬剤を必要としない。また、光化学反応を防止する本発明では、光化学反応に使用する特別な装置を要しない。
【0028】
本発明は、より短時間、少資源で費用対効果が高く環境にやさしいアムルビシン・アグリコンとその類似構造体の製法も提供する。本発明では、高価な装置を用いずに、より少ない化学工程数、より少量の危険廃物量でアムルビシン・アグリコンを商業上製造でき、効率的かつ安価にアムルビシンとその類似構造体を製造することができる。全ての前記要因により、強力なこの薬剤の癌患者への利用可能性が増加する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を明確に理解するため、他の周知事項を省略しかつ関連する構成を例示して、本発明を簡略に説明する。
【0030】
本発明は、アムルビシンとその類似構造体の合成法を提供する。発酵作用又は半合成法により生成されるアントラサイクリン出発化合物から本発明の合成法を開始することが好ましい。前記出発化合物は、下式を有する。
【0031】
【化2】

【0032】
1、R2、R3、R4及びR8をH、OH又はアルコキシ基とし、R5をH、アルキル基又はアルコキシカルボニル基とし、R6を−H、アルキル基又はアシル基とし、R7を−OHとすると、式IIに示す化合物は、式中に示す部位に結合される前記識別基の全組合せを含むことができる。周知の工程により式IIの化合物を生化学的に合成することができる。本明細書に全体的に引用する特許文献2を参照されたい。更に、R1を−H、R2を−OCH3、R3を−OH、R4を−OH、R5を−H、R6を−COCH3、R7を−OH及びR8を−OH(式V)とすると、4−デメトキシダウノマイシノン(イダルビシノン)にダウノマイシノンを改質することができ、この場合に、特許文献3及び特許文献4に開示されるように、R1は、−H、R2は、−OCH3、R3は、−OH、R4は、−OH、R5は、−H、R6は、−COCH3、R7は、−OHかつR8は、−OH(式VI)である。
【0033】
本発明の方法を使用すると、イダルビシノンをアムルビシンのアグリコンに直接アミノ化することができる。
【0034】
式IIの化合物からアムルビシン又はアムルビシンの類似構造体を得る合成工程は、各部位の特性に依存するが、多重酵素触媒反応を本発明の範囲内で利用できることは当業者には認識されよう。通常一連の化学反応により式IIの出発化合物を改質して、アムルビシンのアグリコンとその類似構造体が生成される。
【0035】
本発明の実施の形態では、式IIを有するアントラサイクリンは、R7を−OHとし、R8を−OHとする式IIを有するアントラサイクリンが好ましいが、アントラサイクリンをアミノ化する選択法は、式VIIを有する環状中間体又は式VIIaを有する非環状中間アミドを得る前記アントラサイクリンと適当なニトリル類とのリッター反応である。但し、R1〜R6を式IIに示す通りとし、R9を使用ニトリルに依存するアルキル基、ハロゲン化アルキル基、水素基又はアリール基とし、続いて酸性条件下で式VIIに示す中間体を加水分解する。
【0036】
【化7】

【0037】
【化7a】

【0038】
強酸、好適には強無機酸、最適には硫酸の水溶液を使用して、式VIIの化合物を加水分解することが好ましい。例えば、テトラヒドロフラン等の有機溶剤を加水分解反応混合物に添加して、アントラサイクリンの溶解性を改善すると共に、反応生成物を容易に抽出分離することができる。
【0039】
光延反応等他の化学反応、逐次的なガブリエル反応によるトシル化又は他の化学的なアミノ化方法を理論的に使用して、水酸基をアミノ基に置換できるが、前記化学反応の大部分は、分子中の他の水酸基及び他の官能基を保護しなければならない。また、リッター反応で生成される式VIIを有する環状中間物の形成は、アグリコンのエナンチオマ純度の維持を促進する。
【0040】
次に、6−ブロモテトラヒドロ−2H−ピラン−3,4−ジイルジアセテート又は2−デオキシ−D−リボースジアセチル−リボシルブロマイドの他の被保護誘導体によりアグリコン生成物をグリコシル化し、更に脱保護化して、アムルビシンを生成することが好ましい(非特許文献1を参照されたい)。
【実施例】
【0041】
より明確に本発明を説明するため、本発明の実施例を以下説明する。下記実施例は、本発明の限定を意味せず、本発明の技術的範囲の総合的な手引きとなる例示的な実施の形態を意味する。下記実施例では、収率を最適化するものではない。当業者に周知の方法で、反応器設計法と回収法を含む多数の要因を評価して収率を最適化できよう。前記評価努力により収率を改善できるが、収率の最適化は、開示する本発明の方法を構成する主要な要素に影響を与えない。
【実施例1】
【0042】
本実施例では、4−デヒドロキシ−ε−ロドマイシノン(R1=R2=H、R3=R4=R8=OH、R7=OH、R6=C25、R5=COOCH3)中、R7は、リッター反応のアミノ化によりNH2に変換される。
【0043】
工程1:リッター反応
トリフルオロ酢酸(40ml)とアセトニトリル(20ml)とを混合し、4−デヒドロキシ−ε−ロドマイシノン1g(0.0024モル)を混合溶液に添加した。温度60℃で3時間混合溶液を撹拌し、その後、回転蒸発装置により混合溶液を濃縮して粘着性残留物を得た。残留物をクロロホルム(80ml)に溶解し、水(100ml)で洗浄した。クロロホルムを用いて、溶解液の水相を2回(いずれも20ml)抽出し、飽和重炭酸ナトリウム水溶液(100ml)、水(100ml)及び飽和塩化ナトリウム溶液(80ml)により、溶解液の混合クロロホルム抽出物を洗浄した。硫酸ナトリウムで混合クロロホルム抽出物の有機相を乾燥(脱水)し、真空中で溶媒を除去した。シリカゲルクロマトグラフィ(溶出剤:メタノール/クロロホルム1:40)により乾燥残留物を浄化精製し、橙色の結晶質固体として環状リッター反応生成物948mgを得た。収率90%を達成した。
【0044】
工程2:リッター反応生成物の加水分解
濃硫酸1ml、水2ml及びテトラヒドロフラン9mlの混合液を作成し、実施例1で得たリッター反応生成物100mgを混合液中に溶解した。反応混合液を還流状態で5日間加熱した。10mlのジエチルエーテルで反応混合液から副生成物を2回抽出し除去した。その後、物質量0.5Mの水酸化ナトリウムで反応混合物をpH〜5に中和し、更に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液でpH7.8に中和して、クロロホルム(20ml2回)で反応混合物を抽出した。水(30ml)と飽和塩化ナトリウム溶液(20ml)で、反応混合物の混合クロロホルム留分を洗浄した。洗浄した混合クロロホルム留分の有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を蒸発させて、残留固体を真空下で乾燥した。9−アミノ−4−デヒドロキシ−ε−ロドマイシノンの収量は、39mgであった。
【実施例2】
【0045】
ダウノマイシノン(R1=−H、R2=−OCH3、R3=R4=R8=−OH、R5=H、R6=−COCH3、R7=OH、式IV)のR7をリッター反応アミノ化によりNH2に変換した。
【0046】
工程1:リッター反応
トリフルオロ酢酸(100ml)とアセトニトリル(40ml)とを混合した溶液中にダウノマイシノン2g(0.005モル)を添加した。温度60℃で3時間その混合液を撹拌した後、真空下で濃縮した。得られた固体をクロロホルム(100ml)中に溶解し、水(100ml)で洗浄した。クロロホルム(150ml及び120ml)で水相溶解液を2回抽出し、飽和重炭酸ナトリウム水溶液(100ml)で混合クロロホルム抽出物を洗浄した。有機相の混合クロロホルム抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥して、真空下で溶媒を除去した。シリカゲルクロマトグラフィ(溶出剤:2.5%メタノール/クロロホルム)で乾燥残留物を純化・精製し、リッター反応中間物(イミダゾリン・サイクル)900mgを得た。
【0047】
工程2a リッター反応中間物の加水分解 実験1
テトタヒドロフラン(33.75ml)、濃硫酸(3.75ml)及び水(7.5ml)の混合液を作成し、実施例2で得られたリッター反応中間物450mgを混合液中に溶解し、温度60℃で30時間加熱した。エーテル(2×200ml)と酢酸エチル(4×100ml)で反応混合物を抽出し、0.5M水酸化ナトリウム溶液でpH3.5に調質した。反応混合物の水酸化ナトリウム溶液をクロロホルム(200ml)で抽出した。飽和重炭酸ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウム溶液に添加して、pH7.5に調質し、その後、クロロホルム(200ml)で抽出した。得られたクロロホルム抽出物を水(200ml)と塩水(400ml)により洗浄し、その後、クロロホルム(200ml)で逆抽出した。クロロホルム相を結集させて、硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた溶液を濾過し、減圧下で溶媒を除去して、真空下で残留物を乾燥した。クロロホルム(5ml)中に蒸発残留物(200mg)を溶解し、その後、3Mメタノール塩酸(3当量)とエーテル(5ml)を添加して、温度−20℃に一晩放置した。得られた溶液を濾過し、真空下で乾燥し、9−デオキシ−9−アミノ−ダウノマイシノン塩酸塩145mgを得た。
【0048】
工程2b リッター反応中間物の加水分解 実験2
実施例2で得られたリッター反応中間物450mgを3N硫酸(45ml)に溶解し、温度60℃で30時間加熱した。実験1 2と同様の方法で後処理を実施した。得られた9−デオキシ−9−アミノ−ダウノマイシノン200mgをクロロホルム(5ml)に溶解し、その後、3Mメタノール塩酸(3当量)とエーテル(5ml)を添加し、温度−20℃で一晩放置した。得られた溶液を濾過し、真空下で乾燥して、9−デオキシ−9−アミノ−ダウノマイシノン塩酸塩115mgを得た。
【0049】
工程2c リッター反応中間物の加水分解 実験3
テトラヒドロフラン525ml、濃硫酸116.7ml及び水58.3mlの混合液を使用して、実施例2で得られたリッター反応の中間物700mgを実験1と同様に処理し、温度60℃で7時間加熱した。得られた9−デオキシ−9−アミノ−ダウノマイシノン600mgをクロロホルム(10ml)中に溶解した。3Mメタノール塩酸(2当量)とエーテル(10ml)を添加した後、溶液を濾過し、真空下で乾燥して、9−デオキシ−9−アミノ−ダウノマイシノン塩酸400mgを得た。
【実施例3】
【0050】
アムルビシンのアグリコンを生成するため、まず、最先端技術で公知の方法により、ダウノマイシノン(R1=−H、R2=−OCH3、R3=R4=R8=−OH、R5=H、R6=−COCH3、R7=OH;前記式V)の脱メトキシ化を行い、R2=−OCH3をR2=−OHに変換し、次に、特許文献1及び特許文献2に開示される方法により、R2=OHをR2=Hに脱ヒドロキシル化した。得られた4−デメトキシダウノマイシノン(イダマイシノン、式VI)を下記の工程でアムルビシンのアグリコンに変換した。
【0051】
工程1:リッター反応
トリフルオロ酢酸(32ml)とアセトニトリル(32ml)とを混合して、混合物を温度55℃に加熱し、4−デメトキシダウノマイシノン456mg(1.24mmol)を加熱溶液に配合した。温度60℃で45分間混合液を撹拌し、その後、回転蒸発装置で濃縮して粘性残留物を生成した。クロロホルム(75ml)中で残留物を溶解し、1.6%重炭酸ナトリウム溶液(75ml)で洗浄し、2回水洗した(いずれも75ml)。有機相の溶解液を硫酸ナトリウムで乾燥し、真空下で溶媒を除去した。シリカゲルクロマトグラフィにより乾燥残留物を浄化・精製(溶出剤:第1メタノール/クロロホルム1:50、その後、メタノール:クロロホルム1:10)した。橙色の結晶質固体を構成するリッター反応の環状生成物212mgを得た。収率44%を達成した。
【0052】
工程2 リッター反応中間物の加水分解
工程1で得られたリッター反応環状生成物10mgを3N硫酸中で分解し、3日間温度80℃で加熱した。飽和NaHCO3(炭酸水素ナトリウム)溶液で混合液を中和し、3×10mlジクロロメタンで生成物を抽出した。複数の抽出物を混合して、真空下で蒸発させた。分離用薄層クロマトグラフィー(TLC)により粗生成物を浄化・精製した。生成物の分子量(366.09732)は、高分解能質量分析計で算出したアムルビシンのアグリコンの分子量(負イオン検出モードで366.09831)にほぼ一致した。
【0053】
6−ブロモテトラヒドロ−2H−ピラン−3,4−ジイルジアセタート又は2−デオキシ−D−リボースの他の被保護誘導体との化学結合(R1=R2=−H、R3=R4=R8=−OH、R7=NH2、R5=−H、R6=−COCH3)によりアムルビシンのアグリコンをグリコシル化することができる。
【0054】
実施例1と2に説明した出発化合物に加えて、本発明は、出発化合物としてアクラビノンを使用する反応法も包含する。出発化合物は、通常最終生産物の構造を決定する。このように、本発明の技術的範囲に包含される異なる出発化合物を使用すれば、新規な生物学的活性化合物の導入に役立つ新規な化合物の集合体を見出せよう。
【0055】
前記詳細な説明は何れも、特定の材料、特定の幾何学的構造又は特定の原子配向に本発明を限定するものではない。配向性置換/その大部分は、本発明の範囲内に該当することは当業者に自明であろう。本明細書で説明する実施の形態は、例示で開示する目的に過ぎず、本発明の範囲を制限するために使用すべきではない。
【0056】
特定な実施の形態の適用について本発明を説明したが、本請求項の発明の趣旨を逸脱せず又は範囲を越えずに、当業者は、本明細書の開示を考慮して、追加の実施の形態及び変更態様を作成できよう。従って、本明細書の説明及び添付図面は、本発明を容易に理解する目的に過ぎず、本発明の範囲を制限すると解釈してはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1、R2、R3、R4及びR8をそれぞれ−H、−OH又はアルコキシ基とし、R5を−H、アルキル基又はアルコキシカルボニル基とし、R6を−H、アシル基又はアルキル基とし、R7を−OHとすると、天然の又は半合成のアントラサイクリン・アグリコン(式II)を化学的又は生合成的な方法により、アムルビシンのアグリコン(式III)に変性する工程と、
アムルビシンのアグリコンをグリコシル化して、アムルビシンを生成する工程とを含むことを特徴とするアムルビシン(式Iに表わす)の製法。
【化1】


【化2】


【化3】

【請求項2】
7=−OHをR7=−NH2に化学的に改質することにより、式VI(イダルビシノン、4−デメトキシダウノマイシノン)を有するアントラサイクリン中間体をアムルビシンのアグリコン(式III)に変換する工程を含む請求項1に記載のアムルビシンの製法。
【化6】

【請求項3】
9をアルキル基、ハロゲン化アルキル基、水素基又はアリール基とすると、式VIIIを有する環状中間体又は式VIIIaを有する非環状中間体を形成する式R9−CNを有する適切なニトリルとのリッター反応により、R7の化学的改質を行う工程と、
酸性状態下で中間体の加水分解を行ってアムルビシンのアグリコン(式III)を生成する工程とを含む請求項2に記載のアムルビシンの製法。
【化8】


【化8a】

【請求項4】
等量のアセトニトリルとトリフルオロ酢酸との混合物と4−デメトキシダウノマイシノン(式VI)とを温度60℃でリッター反応を行う工程と、
規定度3Nの硫酸水溶液中温度80℃で式VIII(R9=−CH3)を有する生成された環状中間体を加水分解して、式IIIのアムルビシンのアグリコンを生成する工程とを含むことを特徴とするアムルビシンのアグリコンの製法。
【請求項5】
適切な酸の存在下でアントラサイクリンをアセトニトリル(R9=−CH3)と反応させながら、式VIを有するアントラサイクリンのリッター反応を行う工程を含む請求項3に記載のアムルビシンの製法。
【請求項6】
リッター反応に使用する適切な酸は、トリフルオロ酢酸である請求項5に記載のアムルビシンの製法。
【請求項7】
リッター反応に使用する適切な酸は、硫酸である請求項5に記載のアムルビシンの製法。
【請求項8】
7を−OHとし、R8をOHとする式IIを有するアントラサイクリン・アグリコンのR7をNH2、R8をOHとするアントラサイクリン・アグリコンに化学的に改質する工程を含むことを特徴とするアントラサイクリン・アグリコンの化学的改質法。
【請求項9】
適切な酸の存在下でアルキル基又はハロゲン化アルキルニトリル基とのリッター反応により化学的に改質する請求項8に記載の化学的改質法。
【請求項10】
改質するアントラサイクリン・アグリコンは、ダウノマイシノンである請求項8に記載の化学的改質法。
【請求項11】
改質するアントラサイクリンは、4−デヒドロキシ−ε−ロドマイシノンである請求項8に記載の化学的改質方法。
【請求項12】
式IIIを有するアムルビシンのアグリコンを更にグリコシル化して、式Iのアムルビシンを生成する工程を含む請求項3に記載のアムルビシンの製法。

【公表番号】特表2012−525372(P2012−525372A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507845(P2012−507845)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001049
【国際公開番号】WO2010/125466
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511262706)
【Fターム(参考)】