説明

アムロジピンを含有する安定化された医薬品組成物

【課題】遮光のために酸化チタンを配合したフィルムで被覆されたアムロジピンフィルムコート錠を提供する。
【解決手段】アムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠において、主薬を含有する裸錠と外層の間に酸化チタンを含まない水溶性高分子からなる中間層を設け、該外層が酸化チタンを含むフィルムコート層であることを特徴とするアムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アムロジピンを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アムロジピンはジヒドロピリジン骨格を有するカルシウム拮抗剤であり、高血圧症や狭心症の治療に用いられている薬物である。アムロジピンにはマレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩のような薬理学的に許容しうる塩の形態が存在する。日本では、ベンゼンスルホン酸塩(ベシレート塩、ベシル酸塩)が承認、販売されている(以下、アムロジピンと称する)。
【0003】
ジヒドロピリジン骨格を有するカルシウム拮抗剤、例えば、ニフェジピン、ニカルジピンなどは光に対して変色、含量の低下を起こしやすい。そのため光への直接の暴露を避けることを目的として、遮光包装や主薬を含有する裸錠にフィルムコートや糖衣を施して変質を防止することが多い。
【0004】
フィルムコーティングの場合、さらに薬物の光に対する安定性を向上させるために、フィルムコーティング剤皮に酸化チタンを配合することが慣用の技術として利用されている。
【0005】
ところが、アムロジピンを含む裸錠に酸化チタンを含むフィルムコーティングを施すとアムロジピンの含量低下、分解物の増加が発生した。この問題を回避するためにフィルムコーティング剤皮中の酸化チタンの含有量を低下させて影響を少なくすることが考えられるが、酸化チタンの光遮蔽効果が減少するためにフィルム層を厚くすることが必要となり、溶出遅延や工程時間の延長を招いてしまう。
【0006】
特開2001−81033号公報に、塩酸エピナスチン錠において主薬を含んでいる裸錠と前記着色フィルム層の中間に、酸化チタン顔料を含まないポリマーフィルム層を設けた塩酸エピナスチンフィルムコート錠が記載されている。また、特開2004−210711号公報は5−[(1Z,2E)−2−メチル−3−フェニル−2−プロペニリデン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸を含む裸錠に、少なくとも一層の酸化チタンを含むか、または実質的に酸化チタンを含まない内膜層と、酸化チタンを含む外膜層とが設けられたコーティング製剤、およびその製造方法が開示されている。ここではコーティング機械内で錠剤の一部が崩れ、その粉末が錠剤表面に付着する問題があるとされている。このようにジヒドロピリジン系薬剤と酸化チタンの接触による含量低下の事例は知られていない。
【0007】
また主薬と添加物の配合試験において、通常流動化剤として用いる軽質無水ケイ酸,含水二酸化ケイ素およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどのケイ酸化合物がアムロジピンと接触すると分解物の生成が促進されることを発見した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は光に対して安定で、変色がないアムロジピンを含有するフィルムコーティング医薬品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
アムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠において、主薬を含有する裸錠と外層の間に酸化チタンを含まない水溶性高分子からなる中間層を設け、外層に酸化チタンを含むフィルムコート層を施す。遮光包装を使用することなく光への暴露により変色しないフィルムコート錠が得られる。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のコーティング製剤およびその製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明で用いるアムロジピンはマレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩のような薬理学的に許容しうる塩の形態が存在するが、ベシル酸塩が特に好ましい。
【0012】
本発明で用いるアムロジピンまたはその塩を含む裸錠は乾式造粒、湿式造粒、攪拌造粒、流動層造粒など常法により造粒後、打錠して製造される。水分の主薬に対する影響を考慮すると直接打錠または乾式造粒による打錠が好ましい。その際、賦形剤(例えば、ラクトース、D−マンニトール、グルコース、結晶セルロース、デンプン、無水リン酸水素カルシウム)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、硬化油)、安定化剤から選ばれる補助剤を1またはそれ以上含有させることができる。
【0013】
本発明のアムロジピンのように主薬が難水溶性の場合は溶出性やハンドリング改善のために、流動化剤による主薬の表面改質を行ってもよい。ただし流動化剤としては上述のケイ酸化号物が配合性が悪いため好ましくない。例を挙げれば軽質無水ケイ酸,含水二酸化ケイ素およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等以外であればタルク、第三リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムなどを用いることができる。
【0014】
本発明のアムロジピンまたはその塩を含む裸錠に対して設けられる外層には、フィルム基剤に対して20〜60質量%の酸化チタンを含有せしめることが好ましい。より好ましくは30〜40質量%である。
【0015】
本発明でアムロジピンまたはその塩を含む裸錠に対して設けられる中間層および外層には、水溶性高分子のフィルム基剤が含まれる。水溶性高分子とは、水に可溶性の高分子成分であり、特に吸湿性が低く、膨潤性の小さいものが好ましい。フィルム基剤としては、水溶性コーティング、腸溶性コーティング、徐放性コーティング等で用いられる高分子物質が挙げられる。本発明で好ましい水溶性高分子としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールをあげることができる。それらは単独または2種類以上を混合して用いることもできる。
【0016】
本発明の製剤のコーティング層は上記以外の可塑剤、顔料などの添加剤を含んでいてもよい。可塑剤にはマクロゴール6000、クエン酸トリエチル、トリアセチンが挙げられる。顔料には酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型)、黄色三二酸化鉄が挙げられる。可塑剤は、コーティング層中の酸化チタンに対して、65質量%未満の量が好ましい。より好ましい含有量は50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【発明の効果】
【0017】
アムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠において、主薬を含有する裸錠と外層の間に酸化チタンを含まない水溶性高分子からなる中間層を設け、外層に酸化チタンを含むフィルムコート層を施す。この方法により、光に対して安定で、変色がないアムロジピンを含有するフィルムコーティング医薬品組成物が製造できる。遮光包装を使用することなく光への暴露により変色しないフィルムコート錠が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例、比較例および試験例により本発明をさらに詳細に説明する。
(配合変化試験)
実験例
主薬であるベシル酸アムロジピンと各添加物を1:1の割合で配合し均一に混合してから、50℃75%RHの条件下で開放保存し2週間後、錠剤中に含まれる主薬の分解物 2−[(2−アミノエトキシ)メチル]−4−(O−クロロフェニル)−6−メチル−3,5−ピリジンカルボン酸3−エチルエステル5−メチルエステルの主薬に対する割合を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0019】
【表1】

【0020】
配合変化試験の結果からアムロジピンは酸化チタンおよびケイ酸化合物と共存させると分解物の生成が促進し、それらの中でも含水二酸化ケイ素物は顕著に悪影響を与えることを示した。
【0021】
(ケイ酸化合物の有無による安定性)
ケイ酸化合物として軽質無水ケイ酸を例に挙げて実施する。
実施例1
ベシル酸アムロジピン 6.94mg
結晶セルロース 97.06mg
無水リン酸水素カルシウム 80mg
カルボキシメチルスターチナトリウム 4mg
ヒドロキシプロピルセルロース 10mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
【0022】
ステアリン酸マグネシウム以外の主薬および添加物を均一に混合後、ステアリン酸マグネシウムを投入し混合する。この混合物をロータリー打錠機(杵直径8.0mm)で直接打錠することにより、1錠あたり200mgの裸錠を得る。
【0023】
比較例1
ベシル酸アムロジピン 6.94mg
結晶セルロース 96.06mg
無水リン酸水素カルシウム 80mg
カルボキシメチルスターチナトリウム 4mg
ヒドロキシプロピルセルロース 10mg
軽質無水ケイ酸 1mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
【0024】
実施例1において、軽質無水ケイ酸を添加したことを除き、実施例1に同じ。
【0025】
得られた製剤を50℃75%RHの条件下で開放保存し、各経過ポイントで錠剤中に含まれるアムロジピンの分解物(実験例に同じ)の主薬に対する割合を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0026】
【表2】

【0027】
このように、軽質無水ケイ酸がベシル酸アムロジピンの分解を促進させることからアムロジピンと軽質無水ケイ酸を共存させないほうが、より安定な製剤を導き出せることが示された。
【0028】
(中間層の有無による安定性)
実施例2
裸錠部
ベシル酸アムロジピン 3.47mg
結晶セルロース 48.53mg
無水リン酸水素カルシウム 40mg
カルボキシメチルスターチナトリウム 2mg
ヒドロキシプロピルセルロース 5mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
中間層
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 3.4mg
外層部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 1.84mg
ポリエチレングリコール6000 0.31mg
タルク 0.26mg
酸化チタン 0.79mg
【0029】
ステアリン酸マグネシウム以外の主薬および添加物を均一に混合後、ステアリン酸マグネシウムを投入し混合する。この混合物をロータリー打錠機(杵直径6.0mm、打錠圧400kg)で直接打錠することにより、1錠あたり100mgの裸錠を得る。
【0030】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースを精製水に溶解し、中間層用コーティング液を調整する。上記錠剤を通気乾燥式コーティング装置に入れ、中間層用コーティング液をスプレーすることにより中間層が施された錠剤を得た。
【0031】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール6000、タルクおよび酸化チタンを精製水に溶解又は分散し外層用コーティング液を調整する。
上記中間層が施された錠剤を通気乾燥式コーティング装置に入れ、外層用コーティング液をスプレーすることにより、さらに外層が施された錠剤を得た。
【0032】
比較例2
裸錠部
ベシル酸アムロジピン 3.47mg
結晶セルロース 48.53mg
無水リン酸水素カルシウム 40mg
カルボキシメチルスターチナトリウム 2mg
ヒドロキシプロピルセルロース 5mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
中間層
なし
外層部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 3.28mg
ポリエチレングリコール6000 0.55mg
タルク 0.46mg
酸化チタン 0.91mg
【0033】
実施例2において、中間層を施さなかったことおよび外層部の分量を変更したことを除き、実施例2に同じ。
【0034】
比較例3
裸錠部
ベシル酸アムロジピン 3.47mg
結晶セルロース 48.53mg
無水リン酸水素カルシウム 40mg
カルボキシメチルスターチナトリウム 2mg
ヒドロキシプロピルセルロース 5mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
中間層
なし
外層部
なし
【0035】
実施例2において、中間層及び外層を施さなかったことを除き、実施例2に同じ。
【0036】
湿度、温度に対する安定性試験
得られた製剤を実施例1と同じ条件で保存し、各経過ポイントで錠剤中に含まれる分解物(実験例に同じ)の主薬に対する割合を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。アムロジピンの分解物の割合を保存前後において比較することにより、各処方におけるアムロジピンの安定性を判断した。
【0037】
【表3】

【0038】
表3において、中間層および外層を有する製剤が中間層および外層を有しない製剤とほぼ同等であり、一方中間層を有しないが外層に酸化チタンを含む製剤はこれらに劣る結果となった。このことから、高温度、高湿度の環境に対してアムロジピンと酸化チタンは接触しない方が安定であることを示している。
【0039】
光に対する安定性試験
得られた製剤を光安定性試験装置((株)日本医化器械製作所製)内の白色蛍光灯下、装置内温度25℃で曝光した。総照度として60万lux・hrで製剤を採取し、錠剤中に含まれる分解物(実験例に同じ)の主薬に対する割合を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。アムロジピンの分解物の割合を保存前後において比較することにより、各処方におけるアムロジピンの安定性を判断した。
【0040】
【表4】

【0041】
表4において、コーティングされた製剤はコーティングされていない製剤に比較して光に対して安定であるが、中間層を設けることにより酸化チタンを含む外層と直接接触しない製剤は更に安定であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠において、主薬を含有する裸錠と外層の間に酸化チタンを含まない水溶性高分子からなる中間層を設け、該外層が酸化チタンを含むフィルムコート層であることを特徴とするアムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠。
【請求項2】
裸錠がケイ酸化合物を含まない請求項1のフィルムコート錠。
【請求項3】
アムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠において、主薬を含有する裸錠と外層の間に酸化チタンを含まない水溶性高分子からなる中間層を設け、該外層が酸化チタンを含むフィルムコート層であることを特徴とするアムロジピンまたはその塩を含有するフィルムコート錠の製造方法。

【公開番号】特開2007−126407(P2007−126407A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321200(P2005−321200)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】