説明

アモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔及びその製造方法

【課題】アモルファスシリコン薄膜太陽電池の効率向上に適した表面凹凸構造を有すると同時に、高い絶縁抵抗と耐クラック性の両立が可能となるアモルファスシリコン薄膜太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔及びその製造法を提供する。
【解決手段】ステンレス箔1の表面に、ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAから形成される有機修飾シリケート層A2と、さらに前記有機修飾シリケート層Aの上部にポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート層B3とが被覆され、前記有機修飾シリケート層BにポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート粒子4が含有され、前記有機修飾シリケート層Bの表面粗さRaが15nm以上150nm以下で、前記表面の平均最短隣接凸部間距離が50nm以上500nm以下であるアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファスシリコン太陽電池用の基板として使用される絶縁被覆したステンレス箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン系薄膜太陽電池は、シリコン原料枯渇の観点から注目されている技術の1つであり、代表的なものとしては、アモルファスシリコン系と薄膜微結晶シリコン系がある。
【0003】
これらの薄膜太陽電池では、近年、10%を超える高い変換効率が得られるようになり(非特許文献1)、電卓・時計などの民生機器のみならず電力用途としての展開が期待されている。薄膜太陽電池においては、発電層がバルクの太陽電池に比べて薄いため、光路長を実効的に増大させられるように、表面に凹凸構造を有する基板を用いることが有効であることが知られている(非特許文献2)。アモルファスシリコンと微結晶シリコンでは、光吸収係数の波長依存性が異なるため、それぞれに合わせて最適な表面凹凸構造を作製することが必要である。微結晶シリコンに比べて、アモルファスシリコンは短波長側での光吸収係数が大きいので(非特許文献3)、500〜600nmより短波長ではほとんどの光が通常のアモルファスシリコン層の厚みである1μm以下のアモルファスシリコン層で吸収されるため表面凹凸構造による光閉じ込め効果の影響は受けない。しかしながら、600〜700nmより長い波長の光は、吸収されずにアモルファスシリコン層を透過する割合が多くなるので、裏面電極で反射されて再度アモルファスシリコン層に光が戻ってくる。よって、アモルファスシリコンでは、裏面電極が前記波長域の光が乱反射できるような凹凸構造を有していると、反射する光の光路が曲げられ光路長が増大するため、光吸収量も増加し入射光を有効に利用できることになる。
【0004】
アモルファスシリコン薄膜太陽電池基板として、前述の効果を得るための最適な凹凸構造は、600nm以上の波長の光に対する閉じ込め効果を発揮できるように、ガラス等の基板表面に数百nmレベルの凹凸構造(テクスチャ)にすることが重要である(非特許文献4、5)。ガラス基板表面上に前記凹凸構造を形成するには、主としてSnO2とZnOが用いられている。SnO2は四塩化スズや4-メチルスズを原料とし、熱CVD法(非特許文献6)、スプレー法(非特許文献7)により形成される。また、ZnOはジエチル亜鉛と水を原料としたMOCVD法(非特許文献8)やスパッタリングと酸によるウエットエッチング(非特許文献9)によりサブミクロンオーダーの凹凸構造が得られている。
【0005】
ガラス基板は薄膜太陽電池基板として広く用いられているが、薄膜太陽電池の特徴である軽量・フレキシブルな形状性を付与する点においては、金属箔・高分子フィルムのようなフレキシブル基板の方が優れている。これらのフレキシブル基板の場合、薄膜太陽電池の製造方法として連続成膜プロセスを採用することも可能であり低コスト化のメリットもある。しかしながら高分子フィルムの場合、耐熱性の観点から薄膜太陽電池形成時のプロセス温度に制約がでるため、十分な特性の太陽電池を得ることができない。
【0006】
金属箔を基板とする場合、ガラス基板のように同一基板上にセルを複数個作製しそれらを接続するためには、1つ1つのセルを電気的に絶縁させることが必要であり、その為には金属箔表面に絶縁膜を形成することになる。前記絶縁膜は、絶縁抵抗値としては金属箔上に形成した絶縁膜の上に1cm角の上部電極を形成したときに1×10Ωcm2以上の絶縁性が必要である。さらに、上述のように、光閉じ込め効果を発現できるような凹凸構造を絶縁膜表面に形成すると、変換効率の高いフレキシブルな太陽電池とすることができる。
【0007】
金属基板上に絶縁膜を形成し薄膜太陽電池基板として用いる例としては、樹脂系絶縁被膜をステンレス鋼板上に形成するものがある(特許文献1)が、樹脂の耐熱温度のために薄膜太陽電池形成のプロセス温度が制約される。また、耐熱性の高いシリコーン樹脂に3-300nmの無機充填材を配合したものをステンレスなどの金属基板上に形成し、凹凸形状つきの絶縁膜を形成し、薄膜多結晶シリコン太陽電池用絶縁基板するものがある(特許文献2)。しかしながら、結晶性シリコンはアモルファスシリコンと光吸収挙動が異なって(非特許文献3)、800nm以上の長波長領域で光閉じ込め効果が高くなる構造にすればよい。しなしながら、アモルファスシリコンでは、上述のように600nm以上の波長領域の乱反射を効果的に起こる凹凸構造に設計しなければならない。
【0008】
また、めっき鋼板にゾルゲル法による酸化物系絶縁被膜を形成する例(特許文献3)があり、光閉じ込め効果を発現させるために、めっき鋼板の表面に凹凸のうねりをつけてその上に絶縁膜を形成することで、めっき鋼板表面のうねりを保持した絶縁膜表面を得ている。また、ステンレス鋼板に凹凸やうねりを形成した上に絶縁被膜を形成し、絶縁膜表面に凹凸などの微細構造を形成することが提案されている(特許文献4)。しかしながら、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の光閉込めを効果的にできる表面凹凸構造については、記載も示唆もされいていない。さらに、前記のように金属基板上にあらかじめ凹凸などの構造を形成してその上に絶縁被膜を形成する例においては、絶縁膜表面の凹凸サイズの記載はないが、絶縁性保持の観点から絶縁被膜そのものの厚さとして最低でも0.5〜1.0μmは必要であることを考慮すると、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の光閉じ込め効果として求められるサブミクロンレベルの凹凸構造を得ることは難しいと推察される。
【0009】
また、薄膜太陽電池基板として絶縁膜被覆ステンレス箔を使用する例として、特許文献5で球状フィラーを入れた無機ポリマーを絶縁膜とすることが開示されている。前記無機ポリマーに球状のフィラーを入れることによって表面に微細な凹凸構造を持たせることが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開昭59-47776号公報
【特許文献2】特開2002-97365号公報
【特許文献3】特開平11-121773号公報
【特許文献4】特開平11-238891号公報
【特許文献5】特開2006-270024号公報
【非特許文献1】E. Maruyama et.al., Sol. Energy. Mater. Sol. Cell 74, 339 (2002)
【非特許文献2】T. Toedje, et.al., Proc. 16th IEEE Photovoltanic specialist Conf., (1982) p1425.
【非特許文献3】小長井誠編著 薄膜太陽電池の基礎と応用 オーム社 p6
【非特許文献4】野元他 シャープ技報第70号 (1998) p40
【非特許文献5】小長井誠編著 薄膜太陽電池の基礎と応用 オーム社 p123
【非特許文献6】A. K. Saxen et.al., Thin Solid Films 131 (1985) 121
【非特許文献7】P. Grosse et.al., Thin Solid Films 90 (1982) 309
【非特許文献8】A. Yamada et.al., Tech. Digest 5th Int. PVSEC (1990) 1032
【非特許文献9】A. Loffl et.al., 14th EU-PVSEC (1997)2089
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
絶縁被膜付きステンレス箔は、薄膜太陽電池基板とした場合、ガラス基板に比べると、曲面などのフレキシブルに形状を変形できる(形状付与性)という特徴がある。薄膜太陽電池基板の中でもアモルファスシリコン太陽電池基板の用途には、上述のように600nm以上の波長の光を有効に閉じ込められる数百nmサイズの凹凸構造を絶縁膜表面に施すことが長波長域までの光を有効に利用することにつながり、変換効率を向上できる。
【0012】
ステンレス箔に凹凸を形成する方法としては、非特許文献6〜9に記載のような凹凸構造付きガラス基板の凹凸構造を適用することが考えられるが、前記凹凸を構成するSnO2やZnOの結晶は曲げたときに結晶粒界にクラックが入るため、フレキシブル太陽電池とした場合、太陽電池が短絡したり特性が劣化したりするという問題がある。また、特許文献2〜4に開示されている方法では、いずれも、アモルファスシリコン太陽電池に適した凹凸構造をステンレス箔に形成できない。
【0013】
特許文献5では、薄膜太陽電池の基板として、無機ポリマーに球状のフィラーを入れることによって表面に微細な凹凸構造を持たせるが開示されているが、無機ポリマーの中にフィラー添加した膜の場合、絶縁膜層のマトリックスとなる無機ポリマーとフィラーの界面の密着性が低いため、前記絶縁膜を被覆したステンレス箔を撓ませたり曲げたりした場合に、無機ポリマーとフィラーの界面にクラックが発生しやすいという問題がある。特に、曲率半径10cm以下で曲げた場合に、クラックの発生が顕著になる。このような曲げにより無機ポリマーとフィラーの界面にクラックが発生すると、絶縁膜上に形成した太陽電池が短絡したり、特性が低下したりするため、フィラー添加型の絶縁被覆ステンレス箔を太陽電池基板として曲面形状で使用することが困難である。
【0014】
前記のような曲げに対する耐クラック性を向上させる手段として、フィラー(粒子)とマトリックス(膜)の界面の密着性を高めることが重要と考えられる。発明者らは、粒子と膜が同一構成成分として一体化することによって粒子と膜の界面の密着性を高めることができると考え、ポリジオルガノシロキサンと金属アルコキシドの反応で形成する有機修飾シリケート膜において、有機修飾シリケート膜の成膜時に、膜の構成成分の球状粒子を析出させる方法を見い出した。しかしながら、フレキシブルアモルファス太陽電池基板として必要な絶縁性と曲げに対する耐クラック性を両立させるには至っていない。
【0015】
発明者らが見出したポリジオルガノシロキサンと金属アルコキシドの反応で有機修飾シリケートを形成するときに球状粒子を析出させる方法では、1μm程度の薄膜の場合は曲げに対してクラックの発生が見られないが、絶縁抵抗値が1×10Ωcm2程度と低く、十分な絶縁性が得られない。また、膜厚を5μm程度に厚くすると絶縁抵抗は高くなるが、曲げに対する耐クラック性が低下する。
【0016】
また、前記有機修飾シリケート膜では、膜の構成成分の球状粒子を含有して膜表面に凹凸構造を形成させることが可能であるが、上述のようなアモルファスシリコン薄膜太陽電池の効率を向上させることができる凹凸構造の設計には至っていない。
【0017】
本発明は、ポリジオルガノシロキサンと金属アルコキシドの反応で形成する有機修飾シリケート膜において、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の効率向上に適した表面凹凸構造を有すると同時に、高い絶縁抵抗と耐クラック性の両立が可能となるアモルファスシリコン薄膜太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔及びその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明者らは、更に検討を進めた結果、ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAから形成する有機修飾シリケート層Aをステンレス箔上に施して十分な絶縁性を確保し、さらに前記有機修飾シリケート層Aの上にポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成する有機修飾シリケート層Bを施し、有機修飾シリケート層Bにはマトリックスである層Bと同じ構成要素からなる有機修飾シリケート粒子を含有させることで、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の効率向上に適した表面凹凸構造にして、かつ、基板が変形しても粒子脱落やクラック発生のない良好なアモルファスシリコン薄膜太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔とすることを見いだし、本発明に至った。更に、有機修飾シリケート層Aを形成する金属アルコキシドAを4価の金属元素とすること、有機修飾シリケート層B及び有機修飾シリケート粒子を形成する金属アルコキシドBを3価の金属元素とすることが、より有効であることを見いだした。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の要旨とするものである。
(1)ステンレス箔の表面に、ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAから形成される有機修飾シリケート層Aと、さらに前記有機修飾シリケート層Aの上部にポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート層Bとが被覆され、前記有機修飾シリケート層BにポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート粒子が含有され、前記有機修飾シリケート層Bの表面粗さRaが15nm以上150nm以下で、前記表面の平均最短隣接凸部間距離が50nm以上500nm以下であることを特徴とするアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
(2)前記ポリジオルガノシロキサンAの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする(1)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
(3)前記金属アルコキシドAが、金属元素が4価である金属アルコキシドであることを特徴とする(1)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
(4)前記ポリジオルガノシロキサンBの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする(1)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
(5)前記金属アルコキシドBが、金属元素が3価である金属アルコキシドであることを特徴とする(1)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
(6)ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAの混合物に中性の水を添加して調製した溶液をステンレス箔に塗布、乾燥、熱処理して有機修飾シリケート層Aを形成する工程と、さらに、ポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBの混合物に酸性の水を添加して調製した溶液を前記有機修飾シリケート層Aの表面に塗布、乾燥、熱処理して有機シリケート層Bを形成する工程と、を含むことを特徴とするアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
(7)前記ポリジオルガノシロキサンAの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする(6)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
(8)前記金属アルコキシドAが、金属元素が4価である金属アルコキシドであることを特徴とする(6)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
(9)前記ポリジオルガノシロキサンBの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする(6)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
(10)前記金属アルコキシドBが、金属元素が3価である金属アルコキシドであることを特徴とする(6)記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、表面にアモルファスシリコン薄膜太陽電池として最適なサブミクロンレベルの凹凸構造を有するために太陽電池としての変換効率が高く、金属箔上の絶縁膜として十分な絶縁性を有するために太陽電池セルの配列・接続が自由にでき、フレキシブル太陽電池基板として十分な曲げに対する耐クラック性を有するため曲率半径の小さい曲面形状に加工可能なアモルファスシリコン薄膜太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に、本発明のアモルファスシリコン薄膜太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の表面及び断面の模式図を示す。本発明の有機修飾シリケートは、高温でも安定なシロキサン(Si-O-Si)結合を主骨格としているので、耐熱性に優れた絶縁被膜とすることができる。且つ、前記シロキサンが有機基で修飾されているので、有機基を含まない無機シロキサンからなるシリケートに比べて柔軟性を有するので、ステンレス箔の変形に対しても被膜が壊れずに追従して変形できるようになる。特に、本発明では、ステンレス箔〔1〕にポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAから形成される有機修飾シリケート層A〔2〕を施して高い絶縁性を確保する。更に、有機修飾シリケート層A〔2〕の上部にポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート層B〔3〕を施した構造である。前記有機修飾シリケート層B〔3〕には、ポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される、すなわち、マトリックスである層Bと同じ構成要素からなる有機修飾シリケート粒子〔4〕を含有することで、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の効率向上に適した表面凹凸構造を形成し、且つ、マトリックスと粒子界面の密着性を向上させてステンレス箔の変形でも粒子脱落やクラック発生を抑制できるものである。
【0022】
本発明で用いるステンレス箔は、特に限定しないが、例えば、マルテンサイト系、オーステナイト系、フェライト系等が挙げられる。発電層となる半導体シリコン系材料は、基板とするステンレス箔に比べて熱膨張係数が1/2以下と小さいため半導体シリコンを積層したときに基板全体が上に凸に大きく撓むことがある。この撓みを軽減するにはステンレス箔の中でも熱膨張係数が低いステンレスがより好ましい。前記観点より、フェライト系ステンレスを選ぶことがより望ましい。本発明でいうステンレス箔とは、その厚さが10μm〜800μmの範囲内にあるステンレス板である。アモルファスシリコン薄膜太陽電池用の基板としては、50μm以上300μm以下がより望ましい。50μmより薄い場合、ステンレス箔の取り扱い中にしわが入ったり折れが入ったりする場合がある。300μmより厚い場合、曲げるために大きな力を必要とするためフレキシブルな形状付与性の特徴が活かしにくくなる場合がある。
【0023】
本発明の有機修飾シリケート層Aは、十分な絶縁性を得るための下地層として機能するものであり、膜厚は2μm以上50μm以下であることが望ましい。
【0024】
本発明の有機修飾シリケート層Aは、有機溶媒中でポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAを中性の水を用いて加水分解したゾルを塗布し、乾燥・熱処理をおこなうことにより形成される。ここで、金属アルコキシドAは加水分解され、ポリジオルガノシロキサンAを無機架橋して三次元骨格構造を形成し、有機修飾シリケートを構成する。前記金属アルコキシドAとしては、例えば、Li(I)、Na(I)、K(I)、Mg(II)、Ca(II)、Sr(II)、Y(III )、Al(III )、Si(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IV)、V(V)、Nb(V)、Ta(V)、W(VI)等のアルコキシドが挙げられる。ここで、括弧内の数字は価数である。前記金属アルコキシドAの金属元素は、3価〜5価がより好ましく、更に好ましくは4価である。金属元素の価数が1価または2価である金属アルコキシドを用いた膜は、ポリジオルガノシロキサンが金属アルコキシドによって十分に架橋されることができない場合があり、一様に膜を形成することができない場合がある。金属元素が3価である金属アルコキシドを用いた膜は一様に成膜可能であるが、2μm以上の膜厚になると成膜時の収縮が大きくなってクラックが発生する場合がある。ステンレス基板の表面は一般に圧延スジなどが入っているうえ、介在物などに起因する突起やピットがあるため、膜厚2μm未満の絶縁膜では絶縁抵抗値がばらつき十分な絶縁性を確保することができない場合がある。金属元素が5価又は6価である金属アルコキシドを用いた場合、2μm以上の厚膜形成が可能であるが、得られる膜が硬くなることがあり曲げに対する耐クラック性が低い場合がある。
【0025】
有機修飾シリケート層Bの機能は、有機修飾シリケート粒子を含有した層とすることで表面粗さを制御することにある。有機修飾シリケート層Bの厚さは、特に限定しないが、絶縁性は有機修飾シリケート層Aで確保されるので有機修飾シリケート層Bは0.1μm以上1.5μm以下の薄膜であってよく、次のような理由で前記範囲がより好ましい。有機修飾シリケート層Bの厚さが0.1μmより薄い場合は、前記層中に含有する有機修飾シリケート粒子の保持力が小さすぎて有機修飾シリケート粒子が脱落することがある。有機修飾シリケート層Bは粒子を含有した不均一構造膜となるので、厚さが1.5μmより厚い場合はクラックが入る場合がある。また、有機修飾シリケート粒子全体が膜中に埋没して、表面粗さRaが15nm〜150nmにならない場合がある。
【0026】
有機修飾シリケート層BはポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成され、有機修飾シリケート層Bと同一の構成要素であるポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート粒子を含有する。有機修飾シリケート粒子は、そのマトリックスとなる有機修飾シリケート層Bと同一の構成要素、すなわちポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケートであるため、マトリックスに対して強い相互作用(親和性)を有して優れた密着性を示す。すなわち、有機修飾シリケート層に無機粒子のフィラーや有機樹脂のフィラー等の異種材料の粒子を分散して表面粗さを制御した場合では、基板の変形やその繰り返しによってマトリックスと粒子との界面から亀裂が発生することが多いが、前記構成にすることで、表面粗さを制御する粒子を強く保持することができ、特に基板が変形しても(撓んでも)、粒子の脱落や有機修飾シリケート層Bの亀裂が起こらない。
【0027】
本発明の有機修飾シリケート層Bを形成する金属アルコキシドBとしては、例えば、Li(I)、Na(I)、K(I)、Mg(II)、Ca(II)、Sr(II)、Y(III )、Al(III )、Si(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IV)、V(V)、Nb(V)、Ta(V)、W(VI)等のアルコキシドが挙げられる。ここで、括弧内の数字は価数である。金属アルコキシドBは加水分解され、ポリジオルガノシロキサンBを無機架橋して三次元骨格構造を形成し、有機修飾シリケートを構成する。有機修飾シリケート層Bは有機修飾シリケート粒子を含んでいるので幾何学的に不均一構造膜であることから、ステンレス箔が変形した場合に、有機修飾シリケート層Aに比べて内部応力が不均一になり、クラックが発生しやすくなる。したがって、有機修飾シリケート層Aに比べて、柔軟性を高める必要がある。その為には、前記金属アルコキシドBの金属元素を、3価〜4価とするのがより好ましく、更に好ましくは3価である。有機修飾シリケート層を形成するときに用いる金属アルコキシドの価数の影響については、前述したように1価あるいは2価のときは一様な成膜ができない場合がある。金属アルコキシドの金属元素の価数が高くなるとともに、ポリジオリガノシロキサンの無機架橋が進み、硬い膜となる傾向がある。有機修飾シリケート層Aについては、絶縁性を確保できるだけの膜厚を得るために、金属元素が4価である金属アルコキシドがより有効であるが、有機修飾シリケート粒子を含む有機修飾シリケート層Bの場合は柔軟性を高めるために低い価数の金属元素の金属アルコキシドがより好ましい。また、前記金属アルコキシドにより、有機修飾シリケート粒子の保持力も高くなる。
【0028】
有機修飾シリケート層AおよびBを形成するそれぞれのポリジオルガノシロキサンA及びBは、質量平均分子量が500以上15000以下であることが望ましい。質量平均分子量が500より小さいと、有機修飾シリケート層の柔軟性がなくなりクラックが入りやすくなる場合がある。質量平均分子量が15000を超えると、ポリジオルガノシロキサンと金属アルコキシドの反応性が低下するために膜にベタツキが生じることがある。ポリジオルガノシロキサンの末端基は、反応性であることが望ましく、例えば、アルコキシ変性、シラノール変性、カルビノール変性、カルボキシル変性、メタクリル変性、エポキシ変性、アミノ変性などが挙げられる。中でも、アルコキシ変性又はシラノール変性の場合、特に耐熱性の高い膜が得られる。カルビノール変性の場合は、ゾル作製に用いることのできる溶媒の種類が多くなるためゾルの作製や貯蔵安定性の制御が容易になる。ポリジオルガノシロキサンA及びBの側鎖についている有機基としては、メチル基、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基などが挙げられる。特にメチル基とフェニル基の場合に高い耐熱性が得られ、具体的にはポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサンが挙げられる。この3種類の中ではポリジメチルシロキサンが最も柔軟性に富むため厚膜化や耐クラック性の向上に効果的であり、ポリジフェニルシロキサンは最も耐熱性の高い膜形成が可能になる。ポリジメチルジフェニルシロキサンは、この両者の中間的な位置づけとなり、耐熱性と膜の柔軟性のバランスをとることができる。
【0029】
有機修飾シリケート層Bの表面には、図1に示すように前記層Bに含有している有機修飾シリケート粒子による凸部が形成され、表面粗さRaは15nm以上150nm以下であり、平均最短隣接凸部間距離は50nm以上500nm以下である。本発明の被膜において前記表面構造にすることによって、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の光閉じ込め効果を高め、太陽電池の変換効率を高くできる。表面粗さRaが15nmより小さい場合は、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の光閉じ込め効果を向上させることができない。Raが150nmを超える場合は、薄膜太陽電池のセルを均一に形成することが難しくなる。粒子に起因する凸部の分布については、各凸部について最も高さが高い点を基準として、最も近くにある別の凸部の最も高さが高い点までの距離を最短隣接凸部間距離として定義する(図1)。任意に選んだ100点の凸部について前記最短隣接凸部間距離を測定し、その平均値を平均最短隣接凸部間距離とした。平均最短隣接凸部間距離が50nmより小さい場合はほとんど平面に近くなるため、アモルファスシリコン薄膜太陽電池の光閉じ込め効果を向上させることができない。平均最短隣接凸部間距離が500nmを超える場合は、(i)平坦部の面積が増加するためにアモルファスシリコン薄膜太陽電池の光閉じ込め効果を向上させることができない、若しくは、(ii)凹凸の高低差が太陽電池セルの各層に比べて大きすぎて均一なセルを形成することが難しい。(i)となるのは、凸部を形成する有機シリケート粒子が小さい場合である(すなわち、Raが50nm未満の場合)。(ii)となるのは、凸部を形成する有機シリケート粒子が大きい場合である(すなわち、Raで50nm以上の場合)。
【0030】
本発明の絶縁被覆ステンレス箔は、ゾルゲル法により被覆を行うことができる。ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAは有機溶媒中に分散させ、加水分解のために中性の水を添加してゾルを調製し、塗布・乾燥・熱処理を行うことで有機修飾シリケート層Aに相当する被膜を形成することができる。ここで形成する被膜は表面が平滑な膜である。さらに、ポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBは有機溶媒中に分散させ、加水分解のために酸性の水を添加して調製し、塗布・乾燥・熱処理を行うことで有機修飾シリケート層Bに相当する被膜を形成することができる。中性の水で加水分解したときには、加水分解した金属アルコキシドがポリジオルガノシロキサンを無機架橋していく反応が均一に比較的ゆっくり進み、その結果、均質な厚膜が形成されるので、有機修飾シリケート層Aを形成するのに好適である。一方、酸性の水で加水分解したときは、金属アルコキシドの加水分解反応、及び加水分解した金属アルコキシドがポリジオルガノシロキサンを無機架橋する反応が急激に進むので、架橋が進んだ部分と架橋が進んでない部分とが形成されて不均一になる。その結果、ポリジオルガノシロキサンの無機架橋が進んだ部分が粒子状となり、架橋が進んでいない残りが膜を形成する。前記のようにして、マトリックスと同一の構成要素として有機修飾シリケート粒子を含む有機修飾シリケート層Bを形成することが好ましい。但し、ポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから有機修飾シリケート粒子だけを別途形成し、同じポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから調製した塗布溶液に分散して、有機修飾シリケート層Bを形成することもできる。
【0031】
ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAの混合、ポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBの混合には、それぞれ、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの各種アルコール、アセトン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等の有機溶媒中で行うことができる。
【0032】
加水分解は、出発原料中の全アルコキシ基のモル数に対して0.1〜2倍の水を添加して行うことが望ましい。0.1倍未満では加水分解の進行が遅くなりゲル化に時間がかかる場合がある。一方2倍を超えると金属アルコキシドに由来する大きなクラスターが生成しゾル中に析出し沈殿を生じることが多くなるので好ましくない場合がある。
【0033】
有機修飾シリケート層Bの凹凸表面を得るために酸性の水で加水分解するときは、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの水溶液を用いることができる。例えば、塩酸の場合、2規定から12規定の塩酸水を加水分解水として直接用いることができる。
【0034】
中性の水で加水分解する際は、前記酸を添加していない、かつアンモニア等のアルカリ剤も添加していない水を使用する。具体的には、水道水、好ましくは、蒸留水、イオン交換水である。通常の放置状態で前記水に空気中から炭酸ガスが溶解している程度の水も、中性の水として加水分解に使用できる。したがって、発明で使用する中性の水は、pH6.5〜pH7.5の範囲が好ましく、さらに好ましくは、pH6.6〜pH7.2である。
【0035】
本発明の絶縁被覆ステンレス箔をゾルゲル法により作製する場合、ゾルの塗布はバーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法などで行うことができる。塗布後、乾燥及び熱処理にというプロセスを行うが、乾燥は、60℃以上250℃以下が好ましい。60℃未満で乾燥すると、乾燥に時間がかかり、膜中に溶媒を多量に残す場合がある。一方、250℃を越えると、急激な溶媒蒸発により、乾燥膜が壊れる場合がある。また、熱処理は、250℃以上400℃以下が好ましい。250℃未満では、絶縁膜として実用的な強度および絶縁性が得られない場合がある。一方、400℃を越えると、シロキサンに結合した有機基の熱分解が起こり、膜の柔軟性が損なわれる場合がある。
【実施例】
【0036】
まず、ゾルa〜iを合成した。各ゾルの合成手順は以下の通りである。
【0037】
ゾルa: イソプロピルアルコール5モルにTiイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて混合し、末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.2モルを加え、さらに混合を続けた。2モルの水で加水分解を行い、メチルイソブチルケトン5モルを加えてゾルaを調製した。
【0038】
ゾルb: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン5モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.09モルを加えてさらに混合を続けた。6規定の塩酸(6NHCl)1モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン5モルをさらに加えてゾルbを調製した。
【0039】
ゾルc: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン5モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.1モルを加えてさらに混合を続けた。8規定の塩酸(6NHCl)1モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン5モルをさらに加えてゾルbを調製した。
【0040】
ゾルd: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン5モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.075モルを加えてさらに混合を続けた。8規定の塩酸(8NHCl)2モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン5モルをさらに加えてゾルeを調製した。
【0041】
ゾルe: エチレングリコールモノエチルエーテル1.5モルにテトラメトキシシラン0.5モル、メチルトリエトキシシラン0.5モルを加えて混合し、水2モルで加水分解後、メチルエチルケトン1.5モルを加えてゾルeを調製した。
【0042】
ゾルf: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン7モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.1モルを加えてさらに混合を続けた。8規定の塩酸(8NHCl)2モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン7モルをさらに加えてゾルfを調製した。
【0043】
ゾルg: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン5モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.075モルを加えてさらに混合を続けた。6規定の塩酸(6NHCl)2モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン5モルをさらに加えてゾルgを調製した。
【0044】
ゾルh: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン25モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.3モルを加えてさらに混合を続けた。8規定の塩酸(8NHCl)1モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン25モルをさらに加えてゾルhを調製した。
【0045】
ゾルi: エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン5モルにチタンイソプロポキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.2モルを加えてさらに混合を続けた。8規定の塩酸(8NHCl)3モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン5モルをさらに加えてゾルiを調製した。
【0046】
(実施例1)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルbを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0047】
(実施例2)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルcを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0048】
(実施例3)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルdを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1.5mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0049】
(比較例1)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。
【0050】
(比較例2)
ゾルeを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度6mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、450℃で窒素中10分間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚1μmの膜を成膜をした。得られた平滑膜にはクラックなど見られなかった。その上に、ゾルbを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0051】
(比較例3)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜した。その上に、ゾルa100g中に粒径約1μmのシリコーン樹脂微粒子(東芝GEシリコーン製トスパール)を24g分散させた塗布液重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0052】
(比較例4)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜した。その上に、ゾルa100g中に平均粒径約0.3μmのシリカ微粒子(電気化学工業製)を10g分散させた塗布液重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0053】
(比較例5)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜した。その上に、ゾルa100g中に平均粒径約0.1μmの球状コロイダルシリカを10g分散させた塗布液重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0054】
(比較例6)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルfを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度2mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0055】
(比較例7)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルgを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0056】
(比較例8)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルhを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0057】
(比較例9)
ゾルaを塗布用タンクに入れ、厚さ135μmのSUS430の箔にディップコート法により、速度10mm/sで引き上げた。150℃で乾燥後、300℃で6時間熱処理を行い、表面が平滑で膜厚4μmの膜を成膜をした。その上に、ゾルiを重ね塗りした。重ね塗りの条件はディップコート法で引き上げ速度1mm/sである。150℃で乾燥後300℃で2時間熱処理を行った。
【0058】
実施例1〜3および比較例1〜9のようにゾルを成膜したSUS箔は、膜上に1cm角の白金電極を16個形成して上部電極とし、SUS箔を下部電極として100Vの電圧を印加して16箇所の絶縁抵抗を測定した。耐曲げ性について調べるために、5×20cmに切断した成膜済みのSUS箔を円筒に巻きつけて平面に伸ばすという曲げを100回繰り返したものについても同様の手法で絶縁抵抗を16箇所測定した。16箇所の測定点のうち、1×10Ωcm2以上の絶縁抵抗が得られた点の割合を絶縁達成率とした。曲げの試験に用いた円筒の直径は10cmである。
【0059】
また、SEM(走査型電子顕微鏡)で膜表面を真上から撮影した写真をもとに、前述の方法で平均最短隣接凸部間距離を測定した。
【0060】
これらの基板を用いて基板上に裏面電極を形成後、Si発電層の成膜を行い、最表面に透光性導電酸化膜を形成して上部電極としてアモルファス太陽電池のセルを形成した。このセルの変換効率を、SnO2によるテクスチャー付きガラス基板に同じセルを形成したセルの変換効率で割った値を表1の効率比の欄に示す。効率比が1のときテクスチャー付きガラス基板と同等の特性であり、1より大きければテクスチャー付きガラス基板より効率が優れることを意味する。評価結果を表1に示した。
【0061】
実施例1〜3は、絶縁性に優れ、表面粗さRaが15nm〜150nmの範囲内で、平均最短隣接凸部間距離が50nm〜500nmの範囲内であるために、アモルファス太陽電池基板として十分な光閉じ込め効果が得られ、効率が良いものである。
【0062】
比較例1は平坦膜であるため十分な光閉じ込め効果が得られず効率が悪い。比較例2ではゾルeが硬い有機修飾シリケートを生成するため、絶縁を確保するための下地層(A)としてクラックなく成膜できる限界の膜厚は1μm程度であるため、十分な絶縁達成率を得ることができない。比較例3〜5は凹凸層(B)の凸部を形成する粒子がマトリックスと異なる原料から合成されているため、曲げを繰り返すことにより粒子とマトリックスの界面から亀裂が生じ、下地層(A)にも亀裂が伝播したり、粒子が脱落することに伴い下地層(A)にも損傷が加わり、曲げ後の絶縁達成率の低下が見られる。比較例6は表面粗度Raが大きすぎるため太陽電池セルの短絡が起きた。比較例7は0.6μm程度の大きめの粒子が析出しており太陽電池セルの薄い電極層や発電層をを均一に形成することができず効率が低下した。比較例8は20nm程度の微粒子がほとんど隙間なく析出しているため平坦膜に近く、十分な光閉じ込め効果が得られず効率が悪い。比較例9は0.1〜0.2μmの小さい粒子がまばらに析出しており平坦部の面積が大きくなるため十分な光閉じ込め効果が得られず効率が悪い。
【0063】
次に、実施例4〜7について説明する。これらの実施例では1−ブタノール5モル中に表2に列挙した金属アルコキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを入れて混合し、末端カルビノールポリジメチルシロキサン(信越化学製KF6002)を0.15モル加えてさらに攪拌を行い、水2モルで加水分解後、メチルエチルケトンを5モル加えて有機修飾シリケート層Aを形成するゾルを調製した。これらのゾルを厚さ200μmのSUS430にスリットコーターにより成膜し、150℃で乾燥後320℃で1時間の熱処理を行った。得られた膜厚はいずれも4〜7μmであった。凹凸形成用の有機修飾シリケート層Bは、エチレングリコールモノエチルエーテル3モル、メチルエチルケトン5モルに表2に記載の金属アルコキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.09モルを加えてさらに混合を続けた。6規定の塩酸(6NHCl)1モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン5モルをさらに加えてゾルbを調製した。いずれも透明なゾルが得られた。有機修飾シリケート層Aの上に凹凸形成用のゾルをディップコートで成膜した。引き上げ速度は1mm/sである。評価は実施例1〜3および比較例1〜9と同様に行ったが、曲げ評価に用いた円筒の直径は10cmと5cmの2種類とした。
【0064】
実施例8〜9は、次のようにした。有機修飾シリケート層Aを形成するときに用いるポリジオルガノシロキサンを末端カルビノールポリジメチルシロキサン(信越化学製KF6003)0.05モルにしたこと以外はすべて実施例4〜7と同様にして、有機修飾シリケート層Aを作製した。有機修飾シリケート層Bを形成するポリジオルガノシロキサンを末端シラノールポリジメチルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.12モルにしたこと以外はすべて実施例4〜7と同様に、有機修飾シリケート層Bを作製した。評価は実施例4〜7と同様に行った。
【0065】
実施例10〜12は、次のようにした。有機修飾シリケート層Aを形成するときに用いるポリジオルガノシロキサンを末端シラノールポリジメチルシロキサン(GE東芝シリコーン製YK3800)0.10モルにしたこと以外はすべて実施例4〜7と同様にして、有機修飾シリケート層Aを作製した。有機修飾シリケート層Bは、エチレングリコールモノエチルエーテル5モル、メチルエチルケトン4モルに表2に記載の金属アルコキシド1モルとアセト酢酸エチル2モルを加えて攪拌した。末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(GE東芝シリコーン製YF3804)0.15モルを加えてさらに混合を続けた。8規定の塩酸(8NHCl)1モル(水が1モルになるように計算する)で加水分解後、メチルエチルケトン4モルをさらに加えてゾルbを調製した。いずれも透明なゾルが得られた。有機修飾シリケート層Aの上に凹凸形成用のゾルをディップコートで成膜した。引き上げ速度は1mm/sである。評価は実施例4〜7と同様に行った。
【0066】
実施例13は、次のようにした。有機修飾シリケート層Aを形成するときに用いるポリジオルガノシロキサンを末端メトキシ基のポリジメチルジエチルシロキサン0.06モルにしたこと以外はすべて実施例4〜7と同様にして、有機修飾シリケート層Aを作製した。有機修飾シリケート層Bを形成するポリジオルガノシロキサンを末端メトキシ基のポリジメチルジエチルシロキサン0.13モルにしたこと以外はすべて実施例4〜7と同様に、有機修飾シリケート層Bを作製した。評価は実施例4〜7と同様に行った。
【0067】
表2に示しているように、実施例4〜13は、いずれも、曲げ後の絶縁達成率(10cm)が16/16であり、変形しても十分な絶縁性を確保できている。特に、層Aの金属アルコキシドAが金属元素が4価である金属アルコキシドで、層Bの金属アルコキシドBが金属元素が3価である金属アルコキシドである実施例5、8、12が、更に厳しい変形に対しても(曲げ後の絶縁達成率(5cm))優れた性能を示している。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の表面と断面の模式図。
【符号の説明】
【0071】
1 ステンレス箔
2 有機修飾シリケート層A
3 有機修飾シリケート層B
4 有機修飾シリケート粒子
5 有機修飾シリケート粒子の最短隣接凸部間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス箔の表面に、ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAから形成される有機修飾シリケート層Aと、さらに前記有機修飾シリケート層Aの上部にポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート層Bとが被覆され、前記有機修飾シリケート層BにポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBから形成される有機修飾シリケート粒子が含有され、前記有機修飾シリケート層Bの表面粗さRaが15nm以上150nm以下で、前記表面の平均最短隣接凸部間距離が50nm以上500nm以下であることを特徴とするアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
【請求項2】
前記ポリジオルガノシロキサンAの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする請求項1記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
【請求項3】
前記金属アルコキシドAが、金属元素が4価である金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
【請求項4】
前記ポリジオルガノシロキサンBの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする請求項1記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
【請求項5】
前記金属アルコキシドBが、金属元素が3価である金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔。
【請求項6】
ポリジオルガノシロキサンAと金属アルコキシドAの混合物に中性の水を添加して調製した溶液をステンレス箔に塗布、乾燥、熱処理して有機修飾シリケート層Aを形成する工程と、
さらに、ポリジオルガノシロキサンBと金属アルコキシドBの混合物に酸性の水を添加して調製した溶液を前記有機修飾シリケート層Aの表面に塗布、乾燥、熱処理して有機シリケート層Bを形成する工程と、
を含むことを特徴とするアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
【請求項7】
前記ポリジオルガノシロキサンAの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする請求項6記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
【請求項8】
前記金属アルコキシドAが、金属元素が4価である金属アルコキシドであることを特徴とする請求項6記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
【請求項9】
前記ポリジオルガノシロキサンBの有機基が、メチル基、フェニル基、またはメチル基とフェニル基の両方であることを特徴とする請求項6記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。
【請求項10】
前記金属アルコキシドBが、金属元素が3価である金属アルコキシドであることを特徴とする請求項6記載のアモルファスシリコン太陽電池用絶縁被覆ステンレス箔の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−235474(P2008−235474A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71298(P2007−71298)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】