説明

アライナ装置

【課題】第1に、マスクパターンのエッジ付近で生じる回折像の波形パターンのスイングを抑制し、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジ形成位置のばらつきを低減することができ、第2に、マスクパターンのエッジ付近における回折像の波形パターンのスロープを急峻化することで、パターン線幅のばらつきを抑えることができるアライナ装置を提供する。
【解決手段】斜入射光学系40を駆動させて、少なくとも入射角度±θの2つの照明光で露光対象基板2を露光し、照明光の入射角度±θに応じて露光対象基板2上で略平行にシフトする2つの回折像を重複させ、これら回折像の回折によるスイングを抑制する構成としてある。また、偏光変換光学系20により、照明光の偏光方向を、マスクパターン1Aのエッジ1aと平行な方向に揃えて、露光対象基板2上に形成される回折像の回折によるスロープを急峻化する構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクをウエハ等の露光対象基板に近接又は接触させて露光するアライナ装置に関し、特に、種々の露光条件に応じて、照明光を任意の入射角度に変動させることができ、露光対象基板上に形成される回折像のコントラストを向上させ、高解像を実現するアライナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィは、例えば、半導体素子、光学素子、プリント基板、ディスプレイパネル等の製造において、露光対象基板上に微細なパターンを形成する技術に多用されている。このフォトリソグラフィでは、露光対象基板上のレジストを露光するための露光装置が用いられる。
【0003】
主に量産に用いられる光学式露光装置は、投影式露光装置と接触式露光装置(アライナ装置)とに大別される。投影式露光装置は、フォトマスクと露光対象基板との間に投影光学系を配置し、投影光学系によってフォトマスクの像を露光対象基板上に投影して露光する構成となっている。一方、接触式露光装置は、投影光学系を用いずに、フォトマスクを露光対象基板に近接又は接触させて露光する構成となっている。本発明のアライナ装置は、後者の接触式露光装置であり、フォトマスクと露光対象基板とを接触させるコンタクト露光装置のほかに、フォトマスクと露光対象基板の間に数μm〜数十μm程度の微小間隔をあけて近接させるプロキシミティ露光装置が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ズースマイクロテック社の実機「MA100e-Exposure System」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、アライナ装置は、フォトマスクと露光対象基板との間に投影光学系が介在しないので、マスクパターンを透過した照明光により露光対象基板上に形成される回折像は、フレネル回折で決定される定型的な光強度分布の波形パターンを示す。ここで、図1は、スリット状のマスクパターン1Aに平行光(入射角度θ=0°)を照射した場合の回折像の波形パターンを示すものである。同図に示すように、回折像の波形パターンは、フレネル回折に従って、フォトマスク1と露光対象基板2との間隔z及びマスクパターンの幅wにより定型的に決定される。
【0006】
ところが、平行光を用いて露光対象基板2を露光した場合には、マスクパターン1Aのエッジ(マスクパターンの輪郭を画定する縁)1a付近において、回折像の波形パターンに回折によるスイングSW、緩やかなスロープSLといったばらつきが生じ、マスクパターン1Aを再現した矩形の光強度分布を得ることができないという問題があった。
【0007】
すなわち、図1中の点線で囲った墨塗り四角い領域は、アライナ装置のプロセスウインドウを示すものである。このプロセスウインドウは、露光対象基板2上にパターンを形成する際に、レジストの感度や現像条件などのプロセス条件が最適な状態から変動したときの許容範囲を示すものである。このプロセスウインドウ内において、波形パターン1Aに回折によるスイングSWが生じた場合は、露光対象基板2上に形成されるパターンのエッジ形成位置にばらつきが生じてしまう。また、波形パターン1AのスロープSLが穏やかな場合は、露光対象基板2上に形成されるパターンの線幅のばらつきが増大してしまう。
【0008】
このような問題を解決するために、従来のアライナ装置には、照明光の経路にフライアイレンズを配設し、このフライアイレンズで多数の回折像を形成するとともに、照明光の角度分布に広がりをもたせる構成を採用したものがあった。このような構成により、露光対象基板上に形成された多数の回折像が、照明光の角度分布に応じて重なり合い、光強度分布のばらつきが平均化される。
【0009】
しかし、従来のフライアイレンズを用いた構成では、照明光の角度分布を広げすぎると、露光対象基板上に形成される回折像のコントラストを却って損ねることになり、角度分布の最適値を特定することが困難であるという問題があった。特に、回折像の波形パターンのばらつきは、フォトマスクと露光対象基板との間隔z及びマスクパターンの幅wによって異なるので、これら間隔z及び幅wの条件が変更された場合には、単一のフライアイレンズで対応することができず、種々の間隔z及び幅wに応じた専用のフライアイレンズを用意しなければならなかった。
【0010】
また、ズースマイクロテック社の実機「MA100e-Exposure System」は、IFP(Illumination Filter Plates)と呼ばれる複数枚の光学フィルタを切り換えて、照明光の入射角度を変更する構成を採用している。このIFPは、特殊形状の開口を有する複数枚の光学フィルタからなり、これら光学フィルタを切り換えて、特殊形状の開口を通過する照明光の入射角度を一定の角度に変更させている。
【0011】
しかし、IFPを構成する各光学フィルタは、その特殊形状の開口に応じた一定の角度にしか、照明光の入射角度を変更することができない。このため、上述したフライアイレンズと同様に、種々の間隔z及び幅wに応じて照明光の入射角度を任意に変更することができないという問題があった。
【0012】
さらに、上述したフライアイレンズ及びIFPは、回折像を重ね合わせて波形パターンのスイングSWを軽減することはできるが、マスクパターンのエッジ付近における波形パターンのスロープSLを急峻化することはできない。このため、従来のアライナ装置は、露光対象基板2上に形成されるパターンの線幅のばらつきが大きく、エッジ付近の解像力が低いという問題があった。特に、フライアイレンズ及びIFPは、いずれも照明光の角度分布に広がりをもたせているので、重なり合った波形パターンのスイングSWが軽減される反面、波形パターンのスロープSLがより穏やかになってしまう傾向があり、露光対象基板上に形成されるパターンの線幅ばらつきが大きくなるという問題もあった。
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、第1に、マスクパターンのエッジ付近で生じる回折像の波形パターンのスイングを抑制し、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジ形成位置のばらつきを低減することができ、第2に、マスクパターンのエッジ付近における回折像の波形パターンのスロープを急峻化し、エッジから発生する回折光のコントラストを向上させることができ、これらが相俟って、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジの高解像を実現することが可能なアライナ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のアライナ装置は、フォトマスクを露光対象基板に近接又は接触させ、照明光学系からの照明光を、前記フォトマスクのマスクパターンを介して前記露光対象基板上に入射させ、前記露光対象基板を露光するアライナ装置であって、前記照明光学系の全部又は一部を駆動させ、前記露光対象基板上に入射される照明光の入射角度を0°以外の任意の角度θに変動させることが可能な照明角度変動手段を備え、前記マスクパターンを透過した照明光により前記露光対象基板上に形成される回折像の光強度分布に応じて、照明光の入射角度θを決定し、少なくとも、入射角度±θの2つの照明光で前記露光対象基板を露光し、照明光の入射角度±θに応じて前記露光対象基板上で略平行にシフトする2つの回折像を重複させ、これら回折像の回折によるスイングを抑制する構成としてある。
【0015】
本発明のアライナ装置は、露光対象基板上に形成される回折像の光強度分布が、フレネル回折で定型的に決定されることに着目したものである。上記構成によれば、フォトマスクと露光対象基板との間隔z及びマスクパターンの幅wによって定まる回折像を、平行にシフトさせた状態で重複させることで、その光強度分布のばらつきを相殺させることができる。これにより、マスクパターンのエッジ付近で生じる回折像の波形パターンのスイングを抑制し、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジ形成位置のばらつきを低減することが可能となる。
【0016】
また、照明光学系の全部又は一部を駆動させて、照明光の入射角度を任意の角度θに変動させることができ、1台のアライナ装置で、様々な間隔z及び幅wに対応することが可能となり、条件の異なる種々のパターン形成に広く汎用することができる。
【0017】
ここで、本発明の「照明角度変動手段」は、例えば、光源、レンズ、反射鏡、プリズム等を含む照明光学系の全部又は一部を、ステッピングモータやサーボモータで機械的に駆動させ、露光対象基板上に入射される照明光の入射角度を任意の角度θに変動させるものであり、従来のアライナ装置に備わっていたフライアイレンズやIFPのような固定された光学系の光学特性により、照明光の入射角度を一定の角度にしか変動させられないものとは異なる。また、「照明角度変動手段」は、照明光学系の全部又は一部を機械的に駆動させるものに限らず、例えば、単位面積あたりに多数のLD又はLEDなどの発光素子をアレイ化した構造の光源を用い、多数の発光素子のうちの任意のもの選択して発光させる制御処理により、露光対象基板上に入射される照明光の入射角度を任意の角度θに変動させてもよい。
【0018】
また、本発明は、少なくとも、入射角度+θの照明光によって形成される回折像と、入射角度−θの照明光によって形成される回折像とを露光対象基板上で重複させ、これら回折像を合成したときの光強度分布のばらつきを補正するものである。ここで、「少なくとも・・・2つの照明光」としたのは、ばらつきを補正するために3つ以上の回折像(例えば、入射角度+θ、0°及び−θの照明光によって形成される回折像)を重複させてもよいからである。
【0019】
なお、露光に用いる照明光の入射角度の広がりが小さいほど、重複させた回折像の波形パターンのスロープが穏やかになる傾向を抑えることができ、露光対象基板上に形成されるパターンの線幅ばらつきが低減される。
【0020】
さらに、本発明における「露光」は、一括露光又は時分割露光のいずれを適用することも可能である。例えば、入射角度±θの照明光を同時に照射して露光対象基板を一括露光してもよいし、又は入射角度+θの照明光で露光対象基板を露光した後、入射角度−θの照明光で露光対象基板を露光する時分割露光としてもよい。また、時分割露光を採用する場合は、各回の露光量の合計が、露光対象基板の適正露光量となるようにすればよい。
【0021】
好ましくは、上述した本発明のアライナ装置が、データベース及び制御手段を備え、前記データベースは、前記フォトマスクと前記露光対象基板との間隔z、z、z…及び前記マスクパターンの幅w、w、w…によって定まる、複数の回折像の光強度分布の波形パターンp、p、p…の回折によるスイングを抑制するための照明光の入射角度θ、θ、θ…が記憶してあり、前記制御手段は、前記露光対象基板の露光を行うときの前記間隔z及び前記幅wに基づいて照明光の入射角度θを選択するとともに、前記照明角度変動手段を制御して、照明光の入射角度を少なくとも±θに変動させる構成とする。
【0022】
上記構成によれば、回折像の光強度分布のばらつきを補正するための適正な角度θを、コンピュータ制御による処理で容易に特定することが可能となる。例えば、フォトマスクと露光対象基板との間隔z、マスクパターンの幅wで実際に露光を行う場合、ユーザは、本アライナ装置に間隔z及び幅wの値を入力する。すると、制御手段が、データベースに記憶されたデータの中から、間隔z及び幅wと同一又は近似する間隔z及び幅wを特定し、これら間隔z及び幅wによって定まる波形パターンpのばらつきを補正するための照明光の入射角度θを選択する。その後、制御手段は、照明角度変動手段を制御して照明光学系の全部又は一部を駆動させ、照明光の入射角度を少なくとも±θに変動させて露光を行う。
【0023】
ここで、フォトマスクと露光対象基板との間隔zは、目標とする解像力に応じたレベル(一般には間隔zが小さいほど高解像)又は露光対象基板の平坦度に伴いレジストがフォトマスクに接しないレベルに設定されることが多い。一方、マスクパターンの幅wは、フォトマスクに混在する種々の幅w、w、w…のマスクパターンのうち、最も高い解像性を得たいマスクパターンの幅に設定することが望ましい。
【0024】
好ましくは、前記照明光学系が、光源光から所定の直線偏光成分を分離、変換して照明光を生成する偏光変換光学系を備え、前記偏光変換光学系が、照明光の偏光方向を、前記マスクパターンのエッジと平行な方向に揃えて、前記露光対象基板上に形成される回折像の回折によるスロープを急峻化する構成とするとよい。
【0025】
一般に、ナイフエッジ(半平面)の方向と照射される光の偏光方向とによって、発生する回折光が変化する現象が知られている(例えば、鶴田匡夫著「続光の鉛筆―光技術者―のための応用光学」210〜219頁「19章 回折の厳密解」を参照)。本発明は、この現象をアライナ装置に応用したものである。本発明者らが鋭意検討した結果、照明光を直線偏光とし、その偏光方向(電場ベクトルの方向)をマスクパターンのエッジと平行にすることで、エッジから発生する回折光のコントラストが向上することを見出した。すなわち、照明光をエッジと平行な直線偏光とした場合は、エッジに垂直な直線偏光やランダム偏光と比較して、エッジ付近における回折像の波形パターンのスロープが急峻化し、エッジから発生する回折光のコントラストを向上させることができる。
【0026】
好ましくは、前記照明光学系が、前記フォトマスクに照明光を集光させる集光レンズを有するとともに、前記照明角度変動手段が、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させ、前記集光レンズを通過した照明光の入射角度を0°以外の任意の角度θに変動させる構成にするとよい。
【0027】
上記構成によれば、照明光学系の一部又は全部を駆動させて、照明光の入射角度を任意の角度θに変動させることができ、1台のアライナ装置で、様々な間隔z及び幅wに対応することが可能となり、条件の異なる種々のパターン形成に広く対応することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のアライナ装置によれば、第1に、フォトマスクと露光対象基板との間隔z及びマスクパターンの幅wによって定まる回折像を、平行にシフトさせた状態で重複させることで、マスクパターンのエッジ付近で生じる回折像の波形パターンのスイングを抑制し、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジ形成位置のばらつきを低減することができる。また、第2に、照明光の偏光方向を、マスクパターンのエッジと平行な方向に揃えて、前記露光対象基板上に形成される回折像の回折によるスロープを急峻化することにより、エッジから発生する回折光のコントラストを向上させることができる。これら第1及び第2の効果が相俟って、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジの高解像を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】露光対象基板上に形成される回折像の光強度分布を示す説明図である。
【図2】露光に用いるフォトマスクと露光対象基板との間隔z、マスクパターンの幅w、露光対象基板上に形成される回折像の波形パターンの関係を示す説明図である。
【図3】照明光の入射角度θと、その回折像との関係を示す説明図である。
【図4】本発明に係るアライナ装置の基本原理を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るアライナ装置の光学配置を示す概略図である。
【図6】上記アライナ装置の光路(入射角度θ=0°)を示す概略図である。
【図7】上記アライナ装置の偏光変換光学系を示す拡大図である。
【図8】同図(a)〜(c)は、上記アライナ装置の斜入射操作光学系を示す拡大図である。
【図9】上記アライナ装置の光路(入射角度θ>0°)を示す概略図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るアライナ装置の斜入射操作光学系を示す拡大図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係るアライナ装置を示す概略図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係るアライナ装置を示す概略図である。
【図13】本発明の第5実施形態に係るアライナ装置を示す概略図である。
【図14】入射角度0°の照明光で、スリット状のマスクパターンを照明した場合のエッジ付近の光強度分布を示す波形パターンである。
【図15】入射角度±θ(θ≠0°)の照明光で、スリット状のマスクパターンを照明した場合のエッジ付近の光強度分布を示す波形パターンである。
【図16】エッジが延びる方向と、照明光の偏光特性との関係を、FDTD法を用いて電磁場解析したシミュレーション結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<本発明の前提となる自然法則>
まず、本発明のアライナ装置の基本原理について、図1〜図4を参照しつつ説明する。図1において、一般的なアライナ装置では、フォトマスク1と露光対象基板2との間に投影光学系が介在しない。このため、マスクパターン1Aを透過した照明光(図中の白抜き矢印を参照)によって、露光対象基板2上に形成される回折像の光強度分布は、フレネル回折に従って、フォトマスク1と露光対象基板2との間隔z及びマスクパターン1Aの幅wにより定型的に決定される。このようにフレネル回折の下では、間隔z及び幅wが指定されると、露光対象基板2上に形成される回折像の光強度分布の波形パターンは、図2に示すように自動的に決定される。
【0031】
そして、既に述べたように、平行光を用いて露光対象基板2を露光した場合には、マスクパターン1Aのエッジ1a付近において、回折像の波形パターンに回折によるスイングSW、緩やかなスロープSLといったばらつきが生じ、マスクパターン1Aを再現した矩形の光強度分布を得ることができない。アライナ装置の高解像化のポイントは、エッジ1a付近に生じる回折像の波形パターンのスイングSWを抑制し、エッジにおける光学コントラストに対応するスロープSLを急峻化することにある。
【0032】
一方、フレネル回折には、図3に示すように、照明光の入射角度θに応じて回折像が平行にシフトする性質がある。この性質を利用して、互いにシフトする複数の回折像を重複させ、光強度分布の強弱(例えば、図中の円で囲った部分を参照)を相殺すれば、これら回折像を総合したときの波形パターンのスイングSWを抑制することができる。
【0033】
そこで、本発明のアライナ装置では、図4に示すように、フォトマスク1に照明光を集光させる集光レンズ3の瞳面上で、照明光の経路を平行に移動させ、集光レンズ3を通過した照明光の入射角度を任意の角度θに変動させる構成を採用する。このような構成により、照明光の入射角度を、回折像の波形パターンのスイングSWを抑制するために最適な任意の角度θに変動させることができるようになり、アライナ装置の解像性を向上させることが可能となる。
【0034】
また、既に述べたように、エッジが延びる方向と照射される光の偏光方向とによって、発生する回折光が変化する現象が知られている。本発明は、この現象をアライナ装置に応用するものであり、本発明者らは、照明光を直線偏光とし、その偏光方向をマスクパターンのエッジと平行にすることで、エッジ付近における回折像の波形パターンのスロープSLが急峻化することを見出した(図16を参照)。以下、回折像の波形パターンのスイング抑制及びスロープの急峻化を実現するための第1〜第5実施形態について、図5〜図13を参照しつつ説明する。
【0035】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るアライナ装置について、図5〜図9を参照しつつ説明する。
【0036】
<<全体構成>>
第1実施形態に係るアライナ装置の光学配置を図5に示し、その光路を図6に示す。これら図面において、本実施形態のアライナ装置は、主たる光学系として、光源10、偏光変換光学系20、照度均一化光学系30、斜入射光学系40、σ絞り50及び集光レンズ3を備えた構成となっている。また、本実施形態のアライナ装置は、斜入射光学系40を駆動させるための照明角度変動手段101、制御手段102及びデータベース103を備えている。
【0037】
<<光源>>
光源10は、回転楕円面の反射面を有する楕円鏡11に包囲されている。光源10から出射された光束は、楕円鏡11に反射され、所定の位置に集光される。本実施形態では、光源10の種類は、特に限定されるものではなく、一般的なフォトリソグラフィに用いられるg線、i線、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーなどを適用することができ、マスクパターン1Aの幅wの微細度に応じた波長のものを選択すればよい。
【0038】
<<偏光変換光学系>>
偏光変換光学系20は、コリメータレンズ21、偏光ビームスプリッタ(偏光分離手段)22、1/2波長板24A及び24B、レンズ25を備えた構成となっている。この偏光変換光学系20は、図7に示すように、光源10から出射された光束から所定の偏光成分を分離、変換して照明光を生成する。
【0039】
図7において、光源10から出射された光束は、コリメータレンズ21によって平行光線に変換される。この平行光線は、あらゆる方向に振動する光が混合されたランダム偏光であり、偏光ビームスプリッタ22に入射される。偏光ビームスプリッタ22は、ランダム偏光に含まれるp偏光を透過させるとともに、s偏光を反射させてミラー23に入射させる。ミラー23は、s偏光を直角方向に反射させる。ここで、p偏光は照明光の入射面に対して平行な方向に振動する光であり、s偏光は照明光の入射面に対して垂直な方向に振動する光である。
【0040】
偏光ビームスプリッタ22及びミラー23の光路の下流側には、光軸を中心に回転可能な1/2波長板24A、24Bがそれぞれ配置してある。1/2波長板24A、24Bは、偏光ビームスプリッタ22を透過したp偏光、及びミラー23に反射されたs偏光の偏光方向を、マスクパターン1Aのエッジ1aと平行な方向に揃えるためのものである。
【0041】
例えば、図7中の上の拡大図に示すように、マスクパターン1Aのエッジ1aが、図中のy方向に延びる場合には、1/2波長板24Aのみを45°回転させて、偏光ビームスプリッタ22を透過したp偏光をs偏光に変換し、偏光ビームスプリッタ22及びミラー23からの直線偏光を、それぞれy方向に延びるエッジ1aと平行なs偏光に揃える。
【0042】
図示しないが、マスクパターン1Aのエッジ1aが、図中のx方向に延びる場合には、1/2波長板24Bのみを45°回転させて、ミラー23に反射されたs偏光をp偏光に変換し、偏光ビームスプリッタ22及びミラー23からの直線偏光を、それぞれx方向に延びるエッジ1aと平行なp偏光に揃える。
【0043】
また、例えば、図7中の下の拡大図に示すように、マスクパターン1Aのエッジ1aが、図中のx、y以外の方向に延びる場合は、1/2波長板24A、24Bをそれぞれ所定の角度に回転させて、偏光ビームスプリッタ22及びミラー23からの直線偏光を、それぞれエッジ1aと平行な任意の偏光方向に揃えることができる。
【0044】
1/2波長板24A、24Bを透過したエッジ1aと平行な直線偏光は、共にレンズ25に入射され、このレンズ25の焦点で互いの光路が合流される。このような偏光変換光学系20によれば、光源21から出射されたトータルの光量を失わずに、エッジ1aと平行な直線偏光を生成することが可能である。
【0045】
<<照度均一化光学系>>
図5に戻り、照度均一化光学系30は、照明光の照度を均一に近づけるためのものであり、例えば、フライアイレンズ又はロッドレンズなどの公知のインテグレータ光学系を適用することができる。例えば、照度均一化光学系30として、フライアイレンズを使用し、各フライアイエレメントによって生成された複数の2次光源で照明を行うことにより照明ムラを無くす。また、例えば、照度均一化光学系30として、四角柱状のロッドレンズを光路上に配置し、入射した照明光を四角柱内部で繰り返し反射させて照度を均一に近づける。フライアイレンズ又はロッドレンズのいずれを採用した場合も、照度均一化光学系30の出射面は、σ絞り50を配置した集光レンズ3の瞳面と光学的に共役となる位置に配置されており、集光レンズ3の瞳面及び物体面(すなわち、フォトマスク1の照明領域)において、照明光の照度が均一化される。
【0046】
<<斜入射操作光学系、照明角度変動手段>>
斜入射操作光学系40は、集光レンズ3の瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させ、集光レンズを通過した照明光の入射角度を0°以外の任意の角度θに変動させるためのものである。本実施形態の斜入射操作光学系40は、互いに対向する一対の第1及び第2レンズ41及び42を備えている。図8(a)に示すように、第1レンズ41は、上述した照度均一化光学系30の出射面側に配置され、この照度均一化光学系30から出射された照明光が入射される。第2レンズ42は、σ絞り50側に配置され、集光レンズ3の瞳面上で焦点を結ぶ。
【0047】
このような斜入射操作光学系40は、図示しないレール、モータ、位置センサ等を備えた照明角度変動手段101(図5を参照)に組み付けられており、照明角度変動手段101は、後述する制御手段102からの制御信号に基づいて、斜入射操作光学系40を、図8(a)に示すx−y方向(照明光の光軸に対して垂直方向)に駆動させる。
【0048】
図8(b)及び(c)に示すように、斜入射操作光学系40がx−y方向に駆動されると、照度均一化光学系30から第1レンズ41に入射される照明光の位置が平行移動して、第1レンズ41から第2レンズ42に入射される照明光の位置も平行移動する。これにより、第2レンズ42からσ絞り50に向かって出射される照明光の経路が平行移動し、瞳面上で焦点を結ぶ照明光の像も平行移動する。
【0049】
すると、図9に示すように、σ絞り50を通過して集光レンズ3に入射される照明光の位置が平行移動し、集光レンズ3を通過した照明光の入射角度が0°以外の任意の角度θに変動される。この結果、露光対象基板2上に形成される回折像が、入射角度0°のときの位置から平行にシフトする(図中の点線を参照)。
【0050】
<<制御手段、データベース>>
図5において、制御手段102は、ユーザが所望する、フォトマスク1と露光対象基板2との間隔z及びマスクパターン1Aの幅wに基づいて、照明光の入射角度θを決定する。また、制御手段102は、マスクパターン1Aのエッジ1aが延びる方向に基づいて、1/2波長板24A及び24Bの回転角度を決定する。
【0051】
一方、データベース103には、間隔z、z、z…、幅w、w、w…及びこれらの組み合わせによって定まる種々の回折像の波形パターンp、p、p…(図2を参照)を対応させた第1のデータテーブルが記憶されている。また、データベース103には、波形パターンp、p、p…と、これら波形パターンp、p、p…のスイングSWを抑制するために最適な照明光の入射角度θ、θ、θ…とを対応させた第2のデータテーブルが記憶されている。さらに、データベース103には、エッジ1aが延びる各種方向と、照明光の偏光方向をエッジ1aと平行にするための1/2波長板24A及び24Bの回転角度とを対応させた第3のデータテーブルが記憶されている。以下、データベース103に記憶される各種データの作成方法の具体例について説明する。
【0052】
<<<回折像の波形パターンp>>>
図2に示すような種々の回折像の波形パターンp、p、p…は、照明光の入射角度θ=0°、間隔z、z、z…と幅w、w、w…との組み合わせでシミュレーション又は実験を行って取得する。例えば、FDTD法(Finite-difference time-domain method)などの電磁場解析ソフトを用いたシミュレーションにより、種々の回折像の波形パターンp、p、p…を取得することができる。また、例えば、露光対象基板2上に光強度計測センサを載置して、入射角度0°の照明光で実験を行い、種々の回折像の波形パターンp、p、p…を取得してもよい。そして、間隔z、z、z…、幅w、w、w…及び波形パターンp、p、p…を対応づけた第1のデータテーブルを作成する。
【0053】
<<<照明光の入射角度θ>>>
上記方法により取得した回折像の波形パターンp、p、p…のそれぞれについて、図1に示すようなスイングSWが抑制される照明光の入射角度θ、θ、θ…をシミュレーションにより決定する。例えば、一の波形パターンpについて、照明光の入射角度±θ、±θ、±θ…でシミュレーションを行い、平行にシフトさせた波形パターンpの光強度分布の強弱する部分(例えば、図3中の円で囲った部分を参照)が互いに重複して、スイングSWが抑制される最適な入射角度θを決定する。このようなシミュレーションを各種の波形パターンp、p、p…のそれぞれについて行い、波形パターンp、p、p…と、最適な入射角度θ、θ、θ…とを対応づけた第2のデータテーブルを作成する。
【0054】
ここで、1つの波形パターンpに対して、最適な照明光の入射角度θは1つとは限らず、複数の入射角度0°、θ、θ、θ…の照明光によりスイングSWが抑制される場合もある。このような場合は、上述したデータテーブル上で、1つの波形パターンpに対して2以上の入射角度0°、θ、θ、θ…を対応付けておき、実際には、入射角度0°、±θ、±θ、±θ…の照明光で複数回の露光を行うようにする。
【0055】
<<<エッジの延びる方向、1/2波長板の回転角度>>>
マスクパターン1Aのエッジ1aが延びる各種方向を設定し、照明光の偏光方向が、エッジ1aが延びる各種方向と平行になるような、1/2波長板24A及び24Bの回転角度の組み合わせを決定する。そして、エッジ1aが延びる各種方向と、1/2波長板24A及び24Bの回転角度の組み合わせとを対応づけた第3のデータテーブルを作成する。
【0056】
<<制御手段の処理>>
図5に示す本アライナ装置に、ユーザが実際に露光を行うときの間隔z及び幅wを入力すると、制御手段102は、上述した第1のデータテーブルを参照して、間隔z及び幅wの組み合わせによって定まる回折像の波形パターンpを特定する。次いで、制御手段102は、上述した第2のデータテーブルを参照して、波形パターンpのスイングSWが抑制される最適な照明光の入射角度θを選択する。
【0057】
その後、制御手段102は、照明角度変動手段101に制御信号を出力し、斜入射光学系40をx−y方向に所定量だけ駆動させ、照明光の入射角度0°を±θに変動させて2回の時分割露光を実施する。例えば、入射角度+θの照明光で1回目の露光を行った後、入射角度−θの照明光で2回目の露光を行う。露光対象基板2上に時分割で形成された2つの回折像の波形パターンpは、入射角度±θに応じた量だけ平行にシフトして互いに重複し、そのスイングSWが抑制される。
【0058】
ここで、上述した2回の時分割露光を行う場合には、各回の露光量e、eの合計が、露光対象基板2の適正露光量eとなるようにする。また、上述した第2のデータテーブルで、波形パターンpのスイングSWを抑制するための照明光の入射角度が0°、θ、θ、θ…と2つ以上対応づけられている場合には、入射角度0°、±θ、±θ、±θ…の照明光で、少なくとも3回以上の時分割露光を繰り返し行う。3回以上の時分割露光を行う場合にも、上記と同様に、各回の露光量e、e、e…の合計が、露光対象基板2の適正露光量eとなるようにする。なお、本発明のアライナ装置は、時分割露光に限定されるものではなく、入射角度±θの照明光を同時に照射して露光対象基板2を一括露光する構成としてもよい(例えば、図12に示す第4実施形態のアライナ装置を参照)。
【0059】
一方、図5に示す本アライナ装置に、ユーザがマスクパターン1Aのエッジ1aの延びる方向を入力した場合には、制御手段102は、上述した第3のデータテーブルを参照して、照明光の偏光方向がエッジ1aの延びる方向と平行になる、1/2波長板24A及び24Bの回転角度の組み合わせを選択する。
【0060】
そして、制御手段102は、上述した時分割露光などを実施する際に、1/2波長板24A、24Bの一方又は両方を所定角度だけ回転させ、偏光ビームスプリッタ22及びミラー23からの直線偏光を、それぞれエッジ1aと平行な偏光方向に揃える。このように、照明光をエッジ1aと平行な直線偏光とした場合は、エッジ1aに垂直な直線偏光やランダム偏光と比較して、エッジ1a付近における波形パターンpのスロープが急峻化し、エッジ1aから発生する回折光のコントラストが向上する。
【0061】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るアライナ装置について、図10を参照しつつ説明する。図10は、本発明の第2実施形態に係るアライナ装置の斜入射操作光学系を示す拡大図である。
【0062】
本実施形態のアライナ装置は、図5に示す斜入射操作光学系40を、図10に示すライトガイド43に置き換えた構成としてある。ライトガイド43は、多数本のファイバ素線を隙間なく結束し、このファイバ素線の結束体をフレキシブル管内に収納した構成となっている。このようなライトガイド43は、斜入射操作光学系のみならず照度均一化光学系の機能を兼ね備えている。
【0063】
同図において、照度均一化光学系30から出射された照明光は、レンズ32に集光され、ライトガイド43に入射される。ライトガイド43は、入射した照明光を多数本のファイバ素線の内部で繰り返し反射して、照明光の照度をより均一に近づける。また、ライトガイド43の出射面は、σ絞り50を配置した集光レンズ3の瞳面に配置されており、集光レンズ3の瞳面及び物体面(すなわち、フォトマスク1の照明領域)において、照明光の照度が均一化される。
【0064】
このようなライトガイド43は、図示しない照明角度変動手段101に組み付けられており、照明角度変動手段101は、制御手段102からの制御信号に基づいて、ライトガイド43の出射面を、図10に示すx−y方向(照明光の光軸に対して垂直方向)に駆動させる。これにより、ライトガイド43から出射される照明光の経路が瞳面上で平行移動し、第1実施形態と同様に、集光レンズ3を通過した照明光の入射角度が0°以外の任意の角度θに変動される。この結果、露光対象基板2上に形成される回折像が、入射角度0°のときの位置から平行にシフトする(図4を参照)。
【0065】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るアライナ装置について、図11を参照しつつ説明する。図11は、本発明の第3実施形態に係るアライナ装置を示す概略図である。なお、同図において、第1実施形態と同様の箇所については同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0066】
同図において、本実施形態のアライナ装置は、照明光の入射角度を変動させるための斜入射操作光学系として、可動ミラー45を備えた構成としてある。照度均一化光学系30によって照度が均一化された照明光は、レンズ44を介して、可動ミラー45に入射される。可動ミラー45は、入射した照明光をレンズ46に向かって反射する。このレンズ46は、σ絞り50の手前に配置され、集光レンズ3の瞳面上で焦点を結ぶ。
【0067】
ここで、可動ミラー45は、図示しない照明角度変動手段101に組み付けられており、そのピボット軸45aを中心に回動自在となっている。照明角度変動手段101は、制御手段102からの制御信号に基づいて、可動ミラー45を所定の角度だけ回動させ、レンズ46に入射される照明光の位置を平行移動させる。すると、レンズ46からσ絞り50に向かって出射される照明光の経路が平行移動し、瞳面上で焦点を結ぶ照明光の像も平行移動する。これにより、第1実施形態と同様に、集光レンズ3を通過した照明光の入射角度が0°以外の任意の角度θに変動される。この結果、露光対象基板2上に形成される回折像が、入射角度0°のときの位置から平行にシフトする。
【0068】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係るアライナ装置について、図12を参照しつつ説明する。図12は、本発明の第4実施形態に係るアライナ装置を示す概略図である。なお、同図において、第1実施形態と同様の箇所については同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0069】
<<可動円錐ミラー>>
同図において、本実施形態のアライナ装置は、照明光の入射角度を変動させるための斜入射操作光学系として、可動円錐ミラー49を備えた構成としてある。この可動円錐ミラー49は、第1円錐ミラー49Aの外周に、図中の上下方向に可動自在な第2円錐ミラー49Bを配置した構成となっている。
【0070】
第1円錐ミラー49Aは、その全体が円錐形となっており、その外面が凸状の円錐形反射面となっている。一方、第2円錐ミラー49Bは、その全体が中心に開口を有する略環状となっており、その内面が凹状の円錐形反射面となっている。これら第1及び第2円錐ミラー49A、49Bは、共に照明光の光軸を中心に配置してあり、レンズ48の出射面側に固定した第1円錐ミラー49Aに対して、第2円錐ミラー49Bが光軸に沿って上下方向に可動する。第2円錐ミラー49Bは、図示しない照明角度変動手段101に組み付けられており、制御手段102によって動作制御される。第2円錐ミラー49Bの動作範囲内において、第1円錐ミラー49Aの反射面は、常に、第2円錐ミラー49Bの反射面に対向する。
【0071】
<<動作>>
図12に示すように、照度均一化光学系30により照度が均一化された照明光は、レンズ45を介して、ミラー47に入射される。ミラー47は、入射した照明光をレンズ48に向かって反射する。このレンズ48を介して、照明光が第1円錐ミラー49Aに入射される。第1円錐ミラー49Aは、入射した照明光を略円形に反射し、第2円錐ミラー49Bに入射させる。第2円錐ミラー49Bは、入射した照明光を略円環状に反射し、集光レンズ3に入射させる。集光レンズ3を透過した略環状の照明光は、360°の方向から入射角度θでマスクパターン1Bに向かって照射される。これにより、露光対象基板2上に複数の回折像が同時に形成され、これら回折像は、入射角度θに応じた量だけ平行にシフトした状態で互いに重複する。
【0072】
ここで、照明角度変動手段101が、制御手段102からの制御信号に基づいて、第2円錐ミラー49Bを上下方向に可動させると、第2円錐ミラー49Bに反射された略円環状の照明光の内径が拡縮し、集光レンズ3に入射される照明光の位置が平行移動する(図中の参考図を参照)。この結果、集光レンズ3を透過した略円環状の照明光の入射角度が、360°の方向にわたり任意の角度θに変動される。
【0073】
上述した本実施形態のアライナ装置によれば、360°の方向から入射角度θの照明光をマスクパターン1Bに向かって照射することができるので、上述した第1〜第3実施形態と異なり、露光対象基板2を一括露光することが可能である。これにより、本アライナ装置のスループットの向上を図ることができる。
【0074】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係るアライナ装置について、図13を参照しつつ説明する。図13は、本発明の第5実施形態に係るアライナ装置を示す概略図である。なお、同図において、第1実施形態と同様の箇所については同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0075】
同図において、本実施形態のアライナ装置は、光源10、偏光変換光学系20、照度均一化光学系30を含む光源ユニット4を、図中のx−y方向に駆動可能とした構成となっている。光源ユニット4は、図示しない照明角度変動手段101に組み付けられており、照明角度変動手段101は、制御手段102からの制御信号に基づいて、光源ユニット4を所定のx−y座標位置に移動させる。すると、光源ユニット4からσ絞り50に向かって出射される照明光の経路が平行移動し、瞳面上で焦点を結ぶ照明光の像も平行移動する。これにより、第1実施形態と同様に、集光レンズ3を通過した照明光の入射角度が0°以外の任意の角度θに変動される。この結果、露光対象基板2上に形成される回折像が、入射角度0°のときの位置から平行にシフトする。
【0076】
<作用効果>
以上のように、本発明の第1〜第5実施形態に係るアライナ装置によれば、第1に、マスクパターン1Aのエッジ1a付近で生じる回折像の波形パターンpのスイングSWを抑制し、露光対象基板2上に形成されるパターンのエッジ形成位置のばらつきを低減することができる。また、第2に、マスクパターン1Aのエッジ1a付近における回折像の波形パターンpのスロープSLを急峻化し、エッジ1aから発生する回折光のコントラストを向上させることができる。これら第1及び第2の作用効果が相俟って、露光対象基板2上に形成されるパターンのエッジの高解像を実現することが可能となる。
【0077】
第3に、本発明の第1〜第5実施形態に係るアライナ装置によれば、照明光学系の一部又は全部を駆動させて、照明光の入射角度を任意の角度θに変動させることができ、1台のアライナ装置で、様々な間隔z及び幅wに対応することが可能となり、条件の異なる種々のパターン形成に広く対応することができる。
【0078】
<<波形パターンのスイング抑制>>
マスクパターンのエッジ付近における照明光のフレネル回折を、スカラー理論に基づいてシミュレーションした結果を、図14及び15に示す。このうち、図14は、入射角度0°の照明光で、スリット状のマスクパターンを照明した場合のエッジ付近の光強度分布を示す波形パターンである。一方、図15は、入射角度±θ(θ≠0°)の照明光で、スリット状のマスクパターンを照明した場合のエッジ付近の光強度分布を示す波形パターンである。いずれの場合も照明光は、ランダム偏光のi線に設定した。
【0079】
まず、図14に示すように、入射角度0°の単一照明光では、マスクパターンのエッジ付近において、回折による光強度の大小のばらつきが生じ、波形パターンがスイングしてしまう。このような波形パターンのスイングがプロセスウインドウ内で生じた場合は、露光対象基板上に形成されるパターンのエッジ形成位置にばらつきが生じてしまう。
【0080】
一方、図15に示すように、点線で示す入射角度+θの照明光の波形パターン、及び一点鎖線で示す入射角度−θの照明光の波形パターンは、いずれも図14に示す波形パターンと同様にスイングしている。しかし、適切な入射角度θを選択しているので、入射角度±θの照明光の波形パターンは、互いの光強度の大きい部分と小さい部分とが重複し合い、エッジ付近における光強度分布のばらつきが相殺される。これにより、入射角度±θの照明光の合成は、図中の実線で示す波形パターンのように、エッジ付近におけるスイングが抑制され、パターンエッジのコントラストが向上する。
【0081】
なお、露光に用いる照明光の入射角度の広がりが小さいほど、重複させた回折像の波形パターンのスロープが穏やかになる傾向を抑えることができ、露光対象基板2上に形成されるパターンの線幅ばらつきが低減される。
【0082】
<<波形パターンのスロープ急峻化>>
図16は、エッジが延びる方向と、照明光の偏光特性との関係を、ベクトル理論に基づいて電磁場解析したシミュレーション結果を示すものである。本シミュレーションにおいて、エッジはy方向に延びるものとし、照明光は、エッジと平行な直線偏光Ey(図中の実線の波形を参照)、エッジに垂直な直線偏光Ex(図中の点線の波形を参照)とした。また、電磁場解析の計算は、任意の構造体を扱うFDTD法を用いた数値解析により行った。その他の条件として照明光Ey、Exの入射角度は0°とし、マスクパターンと露光対象基板との間隔zは15μmに設定した。
【0083】
図16に示すように、エッジと平行な直線偏光の照明光Eyは、エッジと垂直な直線偏光の照明光Exと比較して、回折像の波形パターンのスロープが急峻化している(図中の円で囲った部分を参照)。この結果、エッジから発生する回折光のコントラストを向上させることができ、上述した波形パターンのスイング抑制と相俟って、エッジの解像性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0084】
1 フォトマスク
1A マスクパターン
1a エッジ
1B 遮光領域
2 露光対象基板
3 集光レンズ
4 光源ユニット
10 光源
20 偏光変換光学系
21 コリメータレンズ
22 偏光ビームスプリッタ(偏光分離手段)
23 ミラー
24A、24B 1/2波長板
25 レンズ
30 照度均一化光学系
32 レンズ
40 斜入射光学系
41 第1レンズ
42 第2レンズ
43 ライトガイド
44、46、48 レンズ
45 可動ミラー
45a ピボット軸
47 ミラー
49 可動円錐ミラー
49A 第1円錐ミラー
49B 第2円錐ミラー
50 絞り
101 照明角度変動手段
102 制御手段
103 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクを露光対象基板に近接又は接触させ、照明光学系からの照明光を、前記フォトマスクのマスクパターンを介して前記露光対象基板上に入射させ、前記露光対象基板を露光するアライナ装置であって、
前記照明光学系の全部又は一部を駆動させ、前記露光対象基板上に入射される照明光の入射角度を0°以外の任意の角度θに変動させることが可能な照明角度変動手段を備え、
前記マスクパターンを透過した照明光により前記露光対象基板上に形成される回折像の光強度分布に応じて、照明光の入射角度θを決定し、
少なくとも、入射角度±θの2つの照明光で前記露光対象基板を露光し、照明光の入射角度±θに応じて前記露光対象基板上で略平行にシフトする2つの回折像を重複させ、これら回折像の回折によるスイングを抑制することを特徴とするアライナ装置。
【請求項2】
データベース及び制御手段を備え、
前記データベースには、前記フォトマスクと前記露光対象基板との間隔z、z、z…及び前記マスクパターンの幅w、w、w…によって定まる、複数の回折像の光強度分布の波形パターンp、p、p…の回折によるスイングを抑制するための照明光の入射角度θ、θ、θ…が記憶してあり、
前記制御手段は、前記露光対象基板の露光を行うときの前記間隔z及び前記幅wに基づいて照明光の入射角度θを選択するとともに、前記照明角度変動手段を制御して、照明光の入射角度を少なくとも±θに変動させる請求項1記載のアライナ装置。
【請求項3】
前記照明光学系が、光源光から所定の偏光成分を分離、変換して照明光を生成する偏光変換光学系を備え、前記偏光変換光学系が、照明光の偏光方向を、前記マスクパターンのエッジと平行な方向に揃えて、前記露光対象基板上に形成される回折像の回折によるスロープを急峻化する請求項1又は2記載のアライナ装置。
【請求項4】
前記照明光学系が、前記フォトマスクに照明光を集光させる集光レンズを有するとともに、前記照明角度変動手段が、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させ、前記集光レンズを通過した照明光の入射角度を0°以外の任意の角度θに変動させる請求項1〜3のいずれか1項に記載のアライナ装置。
【請求項5】
前記照明光学系が、照明光の入射角度を変動させる斜入射操作光学系として、光源側に配置された第1のレンズと、前記集光レンズ側に配置された第2のレンズとを備え、
前記第1及び第2のレンズは、互いの光軸を一致させた状態で、照明光の光路上に所定の間隔をあけて対向配置されるとともに、前記第2のレンズは、前記集光レンズの瞳面上で焦点を結び、
前記照明角度変動手段が、前記第1及び第2のレンズを照明光の光軸に対して垂直方向に移動させることで、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させることとした、請求項4記載のアライナ装置。
【請求項6】
前記照明光学系が、照明光の入射角度を変動させる斜入射操作光学系として、入射面を光源側、出射面を前記集光レンズ側に配置した可撓性を有するライトガイドを備え、
前記照明角度変動手段が、前記ライトガイドの出射面を照明光の光軸に対して垂直方向に移動させることで、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させることとした、請求項4記載のアライナ装置。
【請求項7】
前記照明光学系が、照明光の入射角度を変動させる斜入射操作光学系として、照明光の光路上に配置された可動ミラーを備え、
前記照明角度変動手段が、前記可動ミラーの傾き角を変動させることで、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させることとした、請求項4記載のアライナ装置。
【請求項8】
前記照明光学系が、照明光の入射角度を変動させる斜入射操作光学系として、照明光の光路上に配置された可動円錐ミラーを備え、
前記可動円錐ミラーは、照明光を反射する凸状の円錐形反射面を有する第1円錐ミラーと、前記第1円錐ミラーの前記凸状の円錐形反射面を包囲し、前記第1円錐ミラーが反射した照明光を前記集光レンズに向けて反射する凹状の円錐形反射面を有する第2円錐ミラーとを含み、
照明角度変動手段が、前記第1円錐ミラーに対する前記第2円錐ミラーの位置を、照明光の光軸に沿って相対的に変動させることで、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させることとした、請求項4記載のアライナ装置。
【請求項9】
前記照明角度変動手段が、前記集光レンズを除く前記照明光学系を平行に移動させることで、前記集光レンズの瞳面を通過する照明光の経路を平行に移動させることとした、請求項4記載のアライナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−253143(P2012−253143A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123563(P2011−123563)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(501466938)株式会社目白プレシジョン (31)
【Fターム(参考)】