説明

アラキドン酸を含有する植物体およびその利用

アラキドン酸を含有するアラキドン酸植物体やダイズおよびその利用法を提供する。アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入し、アラキドン酸を生産させるアラキドン酸生産工程を含む植物体の生産方法を用いて得られる油脂原料植物体によれば、簡便にアラキドン酸を含有する植物体やダイズを取得することができる。それゆえ、アラキドン酸を大量かつ安価に取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラキドン酸を含有する植物体(例えば、ダイズ(大豆、Glycine max))およびその利用に関するものであり、特にアラキドン酸の合成系に関与する酵素の遺伝子を導入するアラキドン酸を含有する植物体の生産方法を用いて得られる植物体およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は、生物にとっての三大栄養素の一つである脂質の主成分で、通常は天然の脂質の加水分解物である脂肪族モノカルボン酸を指すことが多い。一般的に、脂肪族鎖が飽和の場合は飽和脂肪酸と称し、二重結合または三重結合を含む場合は不飽和脂肪酸と称する。鎖長によって短鎖(炭素数2〜4)、中鎖(炭素数5〜14)、長鎖(炭素数16〜18)、超長鎖(炭素数20以上)と分類され、炭素数をn、二重結合の数をmとした場合、Cn:mと記述されることが多い。
【0003】
このような脂肪酸は、植物においても細胞膜の主成分であるとともに、エネルギー源として、主にトリグリセリドの形で種子や果実に蓄積される重要な成分である。また、植物に蓄積される脂質の量や脂肪酸組成は、植物の種類によって異なる。このような植物に蓄積される脂肪酸としては、例えば、炭素数16(C16)の飽和脂肪酸のパルミチン酸(C16:0)、炭素数18(C18)の飽和脂肪酸のステアリン酸(C18:0)や、炭素数18(C18)の不飽和脂肪酸として、以下順に1、2、3個の二重結合(不飽和結合)を有するオレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、α−リノレン酸(C18:3α)が主なものとして知られており、これら脂肪酸を比較的多く含む、ダイズ、アブラヤシ、ヒマワリ、ナタネ、ココヤシなどが油脂原料植物(油糧植物とも称される)として栽培されている。なお、炭素数が18以上で不飽和結合(二重結合または三重結合)を2個所以上もつ脂肪酸を総称して高度不飽和脂肪酸(ポリアンサチュレーティドファッティーアシド(PUFA:Poly Unsaturated Fatty Acid))と呼ばれている。
【0004】
ところで、高等動物は、一般にリノール酸やα−リノレン酸合成に関与する不飽和化酵素を有しないため、必ず植物(植物性食品)から上記PUFAを摂取する必要があり、それゆえ、リノール酸やα−リノレン酸は必須脂肪酸と呼ばれる。高等動物の体内では、これらの不飽和脂肪酸を基質として、さらに不飽和化と炭素鎖の伸長が繰り返され、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸(C20:4n−6)、エイコサペンタエンタエン酸(EPA)(C20:5n−3)、ドコサヘキサエン酸(DHA)(C22:6n−3)などが合成される。
【0005】
これらPUFAは、高等動物の体内での代謝において様々な機能を示すほか、プロスタグランジン類の直接の前駆体としても重要な役割を果たすことが知られている。特に、老人や乳児などでは、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、EPA、DHA等の生合成能が低下しているため、食物からの摂取が必要とされる。特にアラキドン酸は、老人性痴呆症の改善効果もあることが知られており、アラキドン酸を主成分とする健康食品も市販されており、アラキドン酸に対する需要が拡大している。
【0006】
このアラキドン酸は、魚油に比較的多く含まれ、現在も一部は魚油からの抽出によって供給されている。しかし、魚資源の枯渇、供給量の変動や環境汚染による油脂資源の汚染なども問題になっているため、近年では生産性の制御、長期の安定供給、清浄性などに優れ、精製が比較的容易なモルティエラ(Mortierella)などの微生物発酵により、アラキドン酸の生産が行われている(例えば、文献1:Appl.Microbiol.Biotechnol.,31,p11(1987)参照)。しかしながら現状では生産コストが高い、スケールアップに設備投資が必要である、スケールアップが容易ではないといった多くの問題点が指摘されている。
【0007】
このため、これらのPUFA、とりわけアラキドン酸を油糧植物で作ることができれば、生産過程の大幅な効率化とコストダウンが期待できる。近年、PUFA生合成に必須の不飽和化酵素や鎖長延長酵素遺伝子が動植物、カビや酵母から相次いで単離され、これらの遺伝子を高等植物へ導入することによって高等植物でのPUFA生産が可能と考えられている。
【0008】
実際に遺伝子組換えによって、植物に含まれる油脂の組成を改変した例として、(i)ラウリン酸生産ナタネ(ラウリン酸を比較的多く含む月桂樹から、C12:0−ACP(アシルキャリアプロテイン)に特異的に作用し、ラウリン酸を遊離する中鎖アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子をナタネの種子貯蔵タンパク質であるナピン遺伝子のプロモーターに連結しナタネに導入したもの:文献2:Science,257,p72(1992)参照)、(ii)高ステアリン酸含有ナタネ(C18:0−ACP不飽和化酵素遺伝子の発現をアンチセンス遺伝子の導入により抑制し、ステアリン酸含有量を40%に高めた組換え体ナタネ:文献3:Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89,p2624(1992)参照)、(iii)高エルカ酸(C22:1)ナタネ(酵母のLPAAT遺伝子を導入することにより、エルカ酸含有量を90%にまで高めたナタネ:文献4:Plant Cell,9,p909(1997)参照)、(iv)高オレイン酸生産ダイズ(ダイズ種子で発現しているΔ12不飽和化酵素遺伝子Fad2の発現を抑制することにより、オレイン酸からリノール酸への合成経路を抑制した結果、オレイン酸含有量が約23%から80%程度にまで高まったダイズ。なお、Fad2を制御するプロモーターとしては、ダイズ種子貯蔵タンパク質であるβ−コングリシニン遺伝子由来のものが用いられた。)、(v)γ−リノレン酸生産ナタネ(ルリチシャから単離されたΔ6不飽和化酵素遺伝子を導入したナタネ:文献5:Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,94,p4211(1997)参照)などが作製されている。また、ケイ藻由来のΔ6不飽和化酵素遺伝子とΔ5不飽和化酵素遺伝子とヒメツリガネゴケ由来の鎖長延長酵素遺伝子とをアマで発現させ、アラキドン酸およびEPAが生産された報告がある(文献6:J.Biol.Chem.278,p35115,(2003)参照)。
【0009】
また、高度不飽和脂肪酸を生産するダイズを生産すべく、高度不飽和脂肪酸生産菌モルティエラから単離したΔ6不飽和化酵素、鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素のcDNAを様々なプロモーターに連結し、遺伝子導入を行う試みも報告されている(例えば、文献11:平成14年度「植物利用エネルギー使用合理化生産技術の研究開発成果報告書」、12:田中良和著、地球環境・食糧・資源のための植物バイオ第160委員会 第8回研究会資料(日本学術振興会)、p14−16、平成15年6月13日開催参照)。なお、ここで記述した内容は、特段に述べない限り、文献7:「植物代謝工学」エヌ・ティー・エス社2002年(ISBN4−86043−004−2C3045)p574−586または文献8:J.Plant Physiol.160,p779(2003)に依った。
【0010】
しかしながら、アラキドン酸を植物体に生産させることを報告した上記文献6の記載は、明確ではなく、その開示は十分とはいえない。
【0011】
より詳細には、植物体に異種生物の遺伝子を導入し、油脂の組成や質を改変する場合は、炭素鎖長の決定に関与する酵素の遺伝子や、二重結合の数・位置を決定する不飽和化酵素の遺伝子の発現制御を行う必要がある。また、本来その植物がもたない脂肪酸を生産する場合は、当該脂肪酸が宿主植物の生育に悪影響を及ぼすことがないよう、脂肪酸合成の時期、部位、細胞内での存在形態などを考慮することが必要となる。
【0012】
さらに、植物において異種生物とくに植物以外の遺伝子を発現させる場合には、転写産物がプロセシングされる場合があり、このような場合には、例えば、コドンの改変を行うなどの処理を必要がある(例えば、文献9:Bio/Technology 11 p194,1993参照)。
【0013】
また、一連の生合成反応に関わる酵素は細胞内で複合体を形成しており、その代謝物は分子チャネルを経て代謝される場合があるとされている(例えば、文献10:Proc Natl Acad Sci USA.96 p12929(1999)参照)。このような場合、たとえ生合成に関わる酵素の遺伝子が公知であって、遺伝子の導入方法が公知であっても、導入した異種遺伝子由来の遺伝子によって生産された酵素が、宿主植物においてどの程度うまく機能し、目的の物質を生産できるか否かの予測は非常に困難である。
【0014】
しかし、上記文献6には、これらの問題点については全く記載されておらず、その開示は不十分といわざるを得ない。以上のように、脂肪酸生合成については未知な部分が多く、さらに異種生物、例えばモルティエラの脂肪酸生合成遺伝子の転写・翻訳が植物体において効率よく起こるかどうか、これらの遺伝子がコードする酵素が植物体の中で良好に機能するかどうか、これらの酵素が植物体の脂質合成酵素群と細胞内で協調して機能できるか、脂肪酸の蓄積にはトリグリセリドの形でオイルボディーとなることが必要であるがアラキドン酸が合成されてもそれが蓄積されるかどうか等は未知数である。つまり、異種生物の遺伝子を植物に導入し、アラキドン酸を生産させるためには、相当な試行錯誤が必要であるといえる。
【0015】
また、マメ科植物、とくにダイズは遺伝子導入による形質転換の困難性が指摘されており、ダイズの形質転換についての情報量も少ない。数件の報告例によるとダイズにおける形質転換効率、再生効率は極めて低く、形質転換可能な品種も限定されている(例えば、文献13:Santarem ER and Finer JJ(1999)、In Vitro Cell.Dev.Biol.−Plant 35:451−455参照)。このため、(i)遺伝子導入の困難なダイズの形質転換系の開発が必要であり、(ii)さらに、高度不飽和脂肪酸合成に必要な複数の遺伝子を安定に発現させる多重遺伝子安定発現系の開発も必要となる。加えて、(iii)異種生物由来の遺伝子産物(脂肪酸合成に関与する酵素)が実際にダイズにおいてタンパク質レベルで発現し、酵素活性を有するか否か、つまり形質転換ダイズの脂質組成が変化するか否かを確認する必要もある。
【0016】
このように、ダイズにて高度不飽和脂肪酸を生産させることは極めて困難な技術であり、多段階の技術の開発が必要とされる。それゆえ、上記文献11、12での報告においても、高度不飽和脂肪酸を生産する形質転換ダイズ(植物体)は未だ得られていない。
【0017】
さらに、上記文献6、11、12においても、次世代まで高度不飽和脂肪酸(例えば、アラキドン酸)を生産する形質が受けつがれる形質転換植物体が得られたという報告は一切なされていない。つまり、高度不飽和脂肪酸を生産するように植物を形質転換すること自体が、かなりの技術的な困難を伴うものであるため、その形質を受け継いだ次世代の植物体を得ることはさらに著しく困難であるといえる。
【0018】
したがって、上記種々の問題点を解決すべく試行錯誤を重ねて、実際に異種生物由来の遺伝子を植物に導入し、DNAレベルでの発現だけでなく、タンパク質レベルでの酵素発現、および酵素の機能確認を行い、現実にアラキドン酸を含有する植物体、特にダイズを生産することが強く求められている。さらにいえば、次世代まで高度不飽和脂肪酸を生産する形質が受け継がれる形質転換植物体を得ることが強く求められていた。
【発明の開示】
【0019】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アラキドン酸を含有する植物体およびその利用法を提供することにある。
【0020】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、モルティエラ由来のΔ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の3種の遺伝子をダイズ種子特異的プロモーターの下流に連結し、さらにターミネーターを付加して、同一のベクター上に配置した組換え発現ベクターを作製し、これをダイズ胚に導入することにより、形質転換ダイズを作製したところ、はじめて異種生物由来の遺伝子産物がダイズ内にてタンパク質レベルで発現されるとともに、酵素の機能をも発揮し、アラキドン酸が生産されることを明らかにし、当該形質転換ダイズがアラキドン酸を含有することを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明に係るアラキドン酸含有植物体は、上記課題を解決するために、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入し、アラキドン酸を生産させるアラキドン酸生産工程を含む植物体の生産方法により得られることを特徴としている。
【0022】
また、上記アラキドン酸生産工程は、上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターを、植物細胞に導入する形質転換工程を含むことが好ましい。
【0023】
さらに、上記アラキドン酸生産工程は、上記組換え発現ベクターを構築する組換え発現ベクター構築工程を含んでいることが好ましい。
【0024】
また、上記組換え発現ベクター構築工程には、ダイズ種子特異的プロモーターの下流領域に、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を連結する工程が含まれることが好ましい。
【0025】
また、上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素が、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、およびΔ5不飽和化酵素であることが好ましい。
【0026】
また、上記Δ6不飽和化酵素が、以下の(a)または(b)記載のタンパク質であることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質。
【0027】
また、上記Δ6不飽和化酵素をコードする遺伝子として、以下の(c)または(d)記載の遺伝子が用いられることが好ましい。
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0028】
また、上記脂肪酸鎖長延長酵素が、以下の(e)または(f)記載のタンパク質であることが好ましい。
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、脂肪族モノカルボン酸の炭素鎖の延長反応を触媒する機能を有するタンパク質。
【0029】
また、上記脂肪酸鎖長延長酵素をコードする遺伝子として、以下の(g)又は(h)記載の遺伝子が用いられることが好ましい。
(g)配列番号4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(h)配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸の炭素鎖の延長反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0030】
また、上記Δ5不飽和化酵素が、以下の(i)または(j)記載のタンパク質であることが好ましい。
(i)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(j)配列番号5に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質。
【0031】
また、上記Δ5不飽和化酵素をコードする遺伝子として、以下の(k)または(l)記載の遺伝子が用いられることが好ましい。
(k)配列番号6に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(l)配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0032】
上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素または該酵素をコードする遺伝子は、モルティエラ(Mortierella)属由来であることが好ましい。特に、上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素または該酵素をコードする遺伝子は、モルティエラ アルピナ(Mortierella alpina)由来であることが好ましい。
【0033】
また、上記アラキドン酸生産工程には、宿主のΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する発現抑制工程が含まれることが好ましい。
【0034】
さらに、上記発現抑制工程は、RNAi法によってΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する工程であることがより好ましい。
【0035】
また、上記いずれかの油脂原料植物体により生産されるアラキドン酸を含有した植物体も本発明に含まれる。なお、上記植物体には、植物細胞、植物組織、カルス、種子、成育した植物個体、もしくは該植物個体と同じ性質を有する植物個体の子孫が含まれることが好ましい。上記植物体としては、特にダイズであることが好ましい。
【0036】
また、上記アラキドン酸含有植物体から得られるアラキドン酸も本発明に含まれる。また、上記アラキドン酸を含んでいる組成物も本発明に含まれる。また、上記組成物を含んでいる食品も本発明に含まれる。また、上記いずれかのアラキドン酸含有植物体を作製するためのキットであって、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子と、プロモーターとを含む組換え発現ベクターを少なくとも含んでいることを特徴としている。さらに、上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入するための試薬群を含んでいることが好ましい。
【0037】
本発明を完成させるために、本発明者らは、試行錯誤を重ねて、実際に異種生物由来の遺伝子を植物体に導入し、アラキドン酸を含有する油脂原料植物体、特にダイズを生産することに成功している。これは従来の知見から容易になし得ることではない。
【0038】
以上のように、本発明に係るアラキドン酸含有植物体は、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入する構成を備えているので、植物体にアラキドン酸を生産させることができる。それゆえ、アラキドン酸を含有する植物体を容易に取得することができるという効果を奏する。すなわち、本発明により、アラキドン酸を植物体で作製することができるため、アラキドン酸を魚油や微生物から取得する場合に比べて、生産過程の大幅な効率化とコストダウンが可能となるだけでなく、アラキドン酸の大量生産・取得が可能になるという効果を奏する。
【0039】
さらに、本発明に係るアラキドン酸含有植物体は、高度不飽和脂肪酸を生産する形質が次世代まで受け継がれるという非常に顕著な効果を奏する。このため、本発明に係るアラキドン酸含有植物体の次世代の植物体にも改変された脂肪酸の形質が伝わる。したがって、このアラキドン酸含有植物体を栽培することにより、改変された脂肪酸組成を有するアラキドン酸含有植物体の種子を大量に得ることができ、アラキドン酸を大量かつ継続的に取得することができるという効果を奏する。
【0040】
なお、植物のなかでも形質転換が比較的難しいといわれているマメ科植物、例えば、ダイズにおいても、上述と同様の効果が得られる。すなわち、本発明にはアラキドン酸含有ダイズが含まれ、かかるアラキドン酸含有ダイズにおいても、上述の効果が得られる。
【0041】
アラキドン酸はヒトをはじめとする高等動物にとって必須の脂肪酸であって、健康食品や医薬品への応用が進められており、その需要が増加しているが、本発明によれば、このようなアラキドン酸の需要量の増加要求にも応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】高度不飽和脂肪酸の生合成経路を模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態に係るプラスミドベクターpSPB1877の作製工程を模式的に示す図である。
【図3】本実施の形態に係るプラスミドベクターpSPB1877の全体を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明は、高等動物にとって必須脂肪酸のPUFAの1つであるアラキドン酸を含有するアラキドン酸植物体やダイズを生産するための生産方法によって得られる植物体やダイズ、およびこれらの利用に関するものである。このため、本発明の詳細な説明に入る前に、高等植物における脂質生合成についての基本的な知見について簡単に説明する。
【0044】
高等植物の有する主要脂質は、主にC16またはC18で、1〜3個所に不飽和結合を有する構造をしている。これらの脂肪酸の大部分は、葉緑体などのプラスチド内で、アセチル−CoAを最初の基質として合成される。最初の反応はアセチル−CoAと二酸化炭素からマロニル−CoAを合成する反応で、アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACCase)によって行われる。本反応が、高等植物における油脂生合成の律速反応の1つであり、油脂生産量に影響を及ぼすと考えられており、ACCase遺伝子の過剰発現によってナタネの総油脂量が5%増加したという報告もある(Plant Physiol.,113,p75−81(1997))。
【0045】
マロニル−CoAのマロニル基は、この後ACPに転移され、マロニル−ACPとなった後、脂肪酸合成酵素複合体の酵素によって縮合、還元、脱水、還元という一連の反応を繰り返すことで炭素鎖が2つずつ伸長し、最終的にはC16:0−ACPやC18:0−ACPが生成する。このC18:0−ACPの大部分はプラスチドに局在するC18:0−ACP不飽和化酵素によって、Δ9位(カルボキシ末端の炭素から数えて9番目の炭素)に最初の不飽和結合が導入される。
【0046】
このようにして生じたC18:1−ACPの一部は、プラスチド内でのグリセロ脂質生合成に使われるが、残りはチオエステラーゼの作用でACPから外され、CoAエステルとなってプラスチドから出たのち、小胞体でのグリセロ脂質生合成に用いられる。つまりグリセロ脂質の生合成は葉緑体と葉緑体外(おもに小胞体)で並行して行われ、葉緑体での系は原核生物型経路、葉緑体外の経路は真核生物型経路と呼ばれる。
【0047】
これらの両経路とも、アシル基転移酵素によってアシル基がグリセロール3リン酸(G3P)のsn−1位、sn−2位に順次転移し、極性頭部が変換されることによって、ホスファチジルコリン(PC)やホスファチジルグリセロール(PG)など種々のグリセロ脂質となる。真核生物型経路で合成されたPCなどの脂質は、膜の主要構成成分となる他、sn−3位に3つめのアシル基が転移して、貯蔵脂質の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG)となる。
【0048】
ダイズをはじめとした植物の生体膜は、一般にリノール酸やα−リノレン酸を高い比率で含んでいる。高等植物は、共通して18:0−ACP不飽和化酵素、Δ12不飽和化酵素、Δ3不飽和化酵素を有する。18:0−ACP不飽和化酵素がプラスチドに局在するのに対して、Δ12不飽和化酵素、Δ3不飽和化酵素は、それぞれプラスチド局在型とER局在型の少なくとも2つのアイソザイムが存在することが知られている。さらに限られた種類の植物は、特殊な不飽和化酵素遺伝子を有する。例えば、月見草やルリチシャのΔ6不飽和化酵素は、リノール酸からγ−リノレン酸を生成し、リムナンテス(Limnanthes douglasii)のΔ5不飽和化酵素はC20:1(Δ5)の合成に関与する。
【0049】
植物に含まれる大部分の脂肪酸はC16またはC18であるが、植物は体表面を覆うワックスの主成分として、また細胞膜や液胞膜に多く含まれるスフィンゴ脂質の成分として、C20以上の超長鎖脂肪酸を必要する。また、一部の植物は、かなりの割合でC20やC22の超長鎖脂肪酸を貯蔵脂質として含有する。この超長鎖脂肪酸の合成経路は、脂肪酸合成酵素複合体による新規脂肪酸合成と類似しており、縮合、還元、脱水、還元からなる1サイクルでC2ユニット毎の鎖長の伸長が行われる。このため、上述したように、超長鎖脂肪酸の合成経路においても、既存のアシル基とマロニル−CoAとの縮合反応が鎖長延長の律速反応と考えられる。
【0050】
また、新規脂肪酸合成ではACPに結合したアシル基に対して鎖長伸長が行われたが、超長鎖脂肪酸合成経路では、鎖長延長にはACPを必要としない。近年、シロイヌナズナやホホバ(Simmondsia chinensis)から鎖長延長反応の最初の縮合反応をになう酵素遺伝子、FAE1(Plant Cell,7,p309(1995))やKCS遺伝子(Plant Cell,8,p281(1996))が得られ、C20以上の飽和脂肪酸合成に関与していることが示された。なお、酵母や動物、カビなどで報告されているELOファミリーの脂肪酸鎖長延長酵素(J.Biol.Chem.,271,p18413(1996)、J.Biol.Chem.,272,p17376(1997))と植物のFAE1/KCSファミリーの鎖長延長酵素は一次配列の上で全く類似性を持たない。
【0051】
また、貯蔵脂質の大部分はTAGである。このTAGは、細胞質から供給されるG3Pが順次アシル化されて生成する。このTAGにおける3つのアシル基は、それぞれ別のアシル基転移酵素によってグリセロール骨格に転移されるが、このうちsn−2位へのアシル基転移をになうリゾフォスファチジン酸アシル基転移酵素(LPAAT)には一般に高い基質特異性があり、このことが貯蔵脂質の脂肪酸組成を決定する1つの要因となっていると考えられている。
【0052】
また、TAGは、前項で述べた真核生物型経路で合成される主要脂質であるPCをもとにした経路でも生成される。このTAGは、滑面小胞体の膜上で合成され、脂質二重膜の間に蓄積される。TAGを蓄積して膨らんだ部分は、やがてオイルボディーとよばれる脂質一重膜に囲まれた球状体として小胞体から遊離する。植物によっては、C16、C18よりも短い、あるいは長い中鎖・超長鎖脂肪酸や、水酸化やエポキシ化された特殊な脂肪酸を多量に生成するものがあるが、これらの特殊な脂肪酸はほとんどがTAGの形で存在する。どのような機構によって、このような制御が行われているかは現在のところ明確ではないが、高い基質特異性を有するホスホリパーゼやアシル基転移酵素の存在などが示唆されている。このことは、本来その植物が持たない脂肪酸を高レベルで生産させる場合に結果を予測できなくさせている要因の1つである。以上の知見を踏まえつつ、本発明について説明する。
【0053】
本発明は、アラキドン酸を含有する油脂原料植物体およびその利用に関するものである。本発明によって得られる油脂原料植物体では、アラキドン酸が生産されるため、アラキドン酸を含有する油脂原料植物体を生産することができる。以下の説明では、本発明にかかるアラキドン酸を含有した油脂原料植物体(説明の便宜上、アラキドン酸含有植物体と称する場合もある)の生産方法について説明し、これにより得られる油脂原料植物体、およびその利用について順に説明する。
【0054】
〔1〕アラキドン酸含有植物体の生産方法
本発明に係るアラキドン酸植物体やダイズの生産方法は、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入することにより、アラキドン酸を生産させるアラキドン酸生産工程を含むものであればよく、その他の具体的な工程、条件、材料などは特に限定されるものではない。まず、「脂肪酸合成に関与する酵素」について説明する。
【0055】
〔1−1〕脂肪酸合成に関与する酵素
本発明に用いられる脂肪酸合成酵素としては、例えば、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素のうち、宿主となる植物体に存在しない脂肪酸合成酵素を挙げることができる。高等植物は、一般的にステアリン酸からリノール酸またはα−リノレン酸を生合成する酵素群を有しているため、かかる脂肪酸合成酵素は、より詳細には、リノール酸またはα−リノレン酸からアラキドン酸を生合成するために必要な酵素である。これらの酵素としては、具体的には、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素(以下、単に鎖長延長酵素と称する場合もある)、Δ5不飽和化酵素の3種類の酵素を挙げることができる。
【0056】
ここで、「Δ6不飽和化酵素」とは、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位(カルボキシ末端の炭素から数えて6番目の炭素)に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をいう。「脂肪酸鎖長延長酵素」とは、脂肪族モノカルボン酸の炭素鎖を延長する反応を触媒する機能を有するタンパク質をいう。「Δ5不飽和化酵素」とは、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位(カルボキシ末端の炭素から数えて5番目の炭素)に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をいう。なお、ここでいう「不飽和結合」とは炭素−炭素二重結合(C=C)のことである。例えば、高等植物のダイズ(Glycine max)において、アラキドン酸を生産させるためには、上記3種類の脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を構成的あるいは種子特異的プロモーターに連結し導入すればよい。
【0057】
また、高等動物ではステアリン酸からミード酸(C20:3)に至るn−9経路は存在するが、リノール酸やα−リノレン酸は合成できないため、これらを植物油から摂取する必要がある。一方、モルティエラ属(Mortierella)などの一部の真菌類や線虫などの下等動物は、高等植物と高等動物の両方の経路を併せもち、アラキドン酸やEPAを生産できる。
【0058】
したがって、上記Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の3種類の酵素は、高等動物またはモルティエラなどの微生物由来のものを利用することができる。なかでも、モルティエラ属の糸状菌は高度不飽和脂肪酸の発酵生産に利用されており、その生合成系の研究も進んでいる。特に、モルティエラ アルピナ(Mortierella alpina)は、リノール酸やα−リノレン酸などを経由してアラキドン酸を蓄積するn−6系生合成経路を主要経路として有する。なお、モルティエラ アルピナにおけるアラキドン酸生合成経路において、リノール酸やα−リノレン酸の生合成経路は、高等植物と同様である。一方、リノール酸からアラキドン酸が合成される経路では、まず、リノール酸がΔ6不飽和化酵素によりγ−リノレン酸が生成され、次いで、脂肪酸鎖長延長酵素(GLELO)によりジホモ−γ−リノレン酸が生成され、続いてΔ5不飽和化酵素によりアラキドン酸へと変換される。
【0059】
また、モルティエラ アルピナから、ステアリン酸からアラキドン酸にいたる生合成経路に関わるすべての酵素をコードする遺伝子が既に単離されている。Δ5不飽和化酵素遺伝子(J Biol Chem.273,p19055(1998))およびΔ6不飽和化酵素による生成物であるγ−リノレン酸やステアリドン酸(C18:4)に特異的に作用する脂肪酸鎖長延長酵素の遺伝子(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97,p8284(2000))は、本菌から最初に単離された。なお、脂肪酸の鎖長延長は縮合、水酸化、脱水、還元の4つの反応によるが、基質特異性を示すのは最初の縮合反応であるといわれている。
【0060】
このモルティエラ アルピナ由来のΔ6不飽和化酵素は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒することが知られている。また、本発明で用いられるΔ6不飽和化酵素としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するΔ6不飽和化酵素に限定されるものではなく、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質であればよい。具体的には、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、上記機能を有していれば本発明にて用いることができる。なお、本発明でいう「配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1個又は数個」の範囲は特に限定されないが、例えば、1個〜20個、好ましくは1個〜10個、より好ましくは1個〜7個、さらに好ましくは1個〜5個、特に好ましくは1個〜3個を意味する。
【0061】
上記アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記ペプチドをコードする塩基配列を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。塩基配列に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant−KやMutant−G(何れも商品名、TAKARA社製))等を用いて、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA社製)を用いて異変が導入される。
【0062】
また、モルティエラ アルピナ由来の脂肪酸鎖長延長酵素は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、脂肪族モノカルボン酸の脂肪酸鎖長を延長する反応を触媒することが知られている。また、本発明で用いられる脂肪酸鎖長延長酵素としては、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する脂肪酸鎖長延長酵素に限定されるものではなく、脂肪族モノカルボン酸の脂肪酸鎖長を延長する反応を触媒する機能を有するタンパク質であればよい。具体的には、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、上記機能を有していれば本発明にて用いることができる。
【0063】
また、モルティエラ アルピナ由来のΔ5不飽和化酵素は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒することが知られている。また、本発明で用いられるΔ5不飽和化酵素としては、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するΔ5不飽和化酵素に限定されるものではなく、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質であればよい。具体的には、配列番号5に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、上記機能を有していれば本発明にて用いることができる。
【0064】
また、本発明に係る植物体の生産方法には、後述するように、公知の遺伝子組み替え技術を利用して、上記Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素をコードする遺伝子を好適に用いることができる。上記Δ6不飽和化酵素をコードする遺伝子(説明の便宜上、Δ6不飽和化酵素遺伝子と称する)としては特に限定されるものではないが、具体的な一例としては、例えば、モルティエラ アルピナ由来のΔ6不飽和化酵素を用いる場合には、このΔ6不飽和化酵素をコードする遺伝子を挙げることができる。Δ6不飽和化酵素遺伝子の具体的な一例としては、例えば、配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として含むポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0065】
もちろん、本発明で用いられるΔ6不飽和化酵素遺伝子としては、上記の例に限定されるものではなく、配列番号2に示される塩基配列と相同性を有する遺伝子であってもよい。具体的には、例えば、配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子等を挙げることができる。なお、本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、より好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0066】
上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズし難くなる)。
【0067】
また、上記脂肪酸鎖長延長酵素をコードする遺伝子(説明の便宜上、脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子と称する)としては特に限定されるものではないが、具体的な一例としては、例えば、モルティエラ アルピナ由来の脂肪酸鎖長延長酵素を用いる場合には、この脂肪酸鎖長延長酵素をコードする遺伝子を挙げることができる。脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子の具体的な一例としては、例えば、配列番号4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として含むポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本発明でいうORFとは、開始コドンから終止コドンの直前までの範囲をいう。
【0068】
さらに、本発明で用いられる脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子としては、上記の例に限定されるものではなく、配列番号4に示される塩基配列と相同性を有する遺伝子であってもよい。具体的には、例えば、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸の鎖長を延長する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子等を挙げることができる。
【0069】
また、上記Δ5不飽和化酵素をコードする遺伝子(説明の便宜上、Δ5不飽和化酵素遺伝子と称する)としては特に限定されるものではないが、具体的な一例としては、例えば、モルティエラ アルピナ由来のΔ5不飽和化酵素を用いる場合には、このΔ5不飽和化酵素をコードする遺伝子を挙げることができる。Δ5不飽和化酵素遺伝子の具体的な一例としては、例えば、配列番号6に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として含むポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0070】
もちろん、本発明で用いられるΔ5不飽和化酵素遺伝子としては、上記の例に限定されるものではなく、配列番号6に示される塩基配列と相同性を有する遺伝子であってもよい。具体的には、例えば、配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子等を挙げることができる。
【0071】
上記遺伝子を取得する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、多くの動物、微生物、または植物から単離することができる。例えば、既知の酵素の塩基配列に基づき作製したプライマー対を用いることができる。このプライマー対を用いて、植物のcDNA又はゲノミックDNAを鋳型としてPCRを行うこと等により上記遺伝子を得ることができる。また、上記遺伝子は、従来公知の方法により化学合成して得ることもできる。
【0072】
〔1−2〕本発明にかかるアラキドン酸ダイズの生産方法の一例
本発明にかかるアラキドン酸ダイズの生産方法は、上記〔1−1〕欄で説明した脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入し、アラキドン酸を生産させる工程を含んでいれば特に限定されるものではないが、本発明にかかる植物体の生産方法を具体的な工程で示せば、例えば、組換え発現ベクター構築工程、形質転換工程、選抜工程等の工程を含む生産方法として挙げることができる。このうち、本発明では、少なくとも形質転換工程が含まれていればよい。以下、各工程について具体的に説明する。
【0073】
〔1−2−1〕組換え発現ベクター構築工程
本発明において行われる組換え発現ベクター構築工程は、上記〔1−1〕欄で説明した脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子と、プロモーター(配列)とを含む組換え発現ベクターを構築する工程であれば特に限定されるものではない。
【0074】
上記組換え発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
【0075】
上記プロモーターは、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、アクチンプロモーター、ノパリン合成酵素(ノパリンシンターゼ)のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニットプロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターまたはアクチンプロモーターをより好ましく用いることができる。また、ダイズで機能するプロモーターとしてはダイズ種子の貯蔵タンパク質コングリシニンのプロモーターを好適に用いることができる。さらに、上記プロモーターは、構成的プロモーターであってもよいし、あるいは組織特異的なプロモーターであってもよい。上記各プロモーターを用いれば、得られる組換え発現ベクターでは、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。なかでも、種子特異的プロモーターが好ましい。すなわち、種子特異的プロモーターの下流領域に、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を連結することが好ましい。より詳細には、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の3種類の酵素をそれぞれ種子特異的プロモーターの下流域に連結する場合を挙げることができる。例えば、ダイズ種子特異的プロモーターとして、後述する実施例に示すようにコングリシニンプロモーターなどが挙げられる。これにより、効率的かつ安定にアラキドン酸生合成に関与する酵素を発現させることができ、アラキドン酸を安定に生産させることができる。
【0076】
上記プロモーターは、上記〔1−1〕欄で説明した脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を発現しうるように連結され、ベクター内に導入されていればよく、組換え発現ベクターとしての具体的な構造は特に限定されるものではない。
【0077】
なお、脂肪酸合成酵素として、例えば、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の3種類の酵素を宿主植物にて発現させる場合、それぞれの酵素が発現されるように、これら3種類の酵素を同一のベクター上に配置した組換え発現ベクターを用いて形質転換してもよいし、また、3つのベクター上に、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の3種類の酵素をそれぞれ配置し、これら3つのベクターを同時に形質転換し、宿主植物細胞内にて、3種類の酵素を別々に発現させる方法を用いてもよいが、特に、3種類の酵素を同一のベクター上に配置した組換え発現ベクターを用いることがより好ましい。なお、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の3種類の酵素を同一のベクター上に配置した組換え発現ベクターを用いる場合は、これら3種類の遺伝子が同じ向きに転写されるように配置されることが好ましいが、これに限られるものではなく、たとえ逆向きに転写される場合でも、上記3種類の酵素が宿主植物にて発現すれば本工程に用いることができる。
【0078】
上記組換え発現ベクターは、上記プロモーターおよび上記脂肪酸合成酵素遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有していてもよい。T−DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0079】
ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)、マノピン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Masターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターあるいはMasターミネーターをより好ましく用いることできる。
【0080】
上記組換え発現ベクターにおいては、ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成したり、強力なプロモーターがプラスミドのコピー数の減少させたりするような現象の発生を防止することができる。
【0081】
上記選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
【0082】
上記翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記キメラ遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、上記組換え発現ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
【0083】
上記組換え発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター、脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子、および必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。例えば、Δ6不飽和化酵素をコードする遺伝子、脂肪酸鎖長延長酵素をコードする遺伝子、Δ5不飽和化酵素をコードする遺伝子が発現されるように、これら3種類の酵素遺伝子を連結し、次に、これら脂肪酸合成酵素遺伝子とプロモーターと(必要に応じてターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。なお、上述したように、3種類の遺伝子を同一ベクター上に配置する必要は無く、例えば、3つのベクターに別々に3種類の遺伝子を配置してもよいことはいうまでもない。
【0084】
3種類の脂肪酸合成酵素遺伝子の構築および発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記脂肪酸合成酵素遺伝子、ターミネーターの順となっていればよい。また、組換え発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
【0085】
また、上記組換え発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌内で増殖させればよい。このとき、ベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0086】
〔1−2−2〕形質転換工程
本発明において行われる形質転換工程は、上記〔1−2−1〕欄で説明した組換え発現ベクターを植物細胞に導入して、上記〔1−1〕欄で説明した脂肪酸合成酵素を生産させるようになっていればよい。
【0087】
上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入する方法(形質転換方法)は特に限定されるものではなく、植物細胞に応じた適切な従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。アグロバクテリウムを用いる方法としては、例えば、Transformation of Arabidopsis thaliana by vacuum inflitration(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)を用いることができる。
【0088】
組換え発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0089】
上記組換え発現ベクターが導入される植物細胞としては、例えば、花、葉、根等の植物器官における各組織の細胞、カルス、懸濁培養細胞等を挙げることができる。
【0090】
ここで、本発明にかかる植物体の生産方法においては、上記組換え発現ベクターは、生産しようとする種類の植物体に合わせて適切なものを適宜構築してもよいが、汎用的な組換え発現ベクターを予め構築しておき、それを植物細胞に導入してもよい。すなわち、本発明にかかる植物体の生産方法においては、上記〔1−2−1〕で説明した組換え発現ベクター構築工程が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0091】
また、宿主植物にΔ15不飽和化酵素が含まれている場合は、このΔ15不飽和化酵素の発現を抑制することが好ましい。これは、図1に示すように、ダイズ内にて生産されたリノール酸がΔ15不飽和化酵素によってα−リノレン酸に変換されてしまう。このため、ダイズ内で生産された全てのリノール酸をアラキドン酸の前駆物質であるγ−リノレン酸に変換させるためには、このΔ15不飽和化酵素の発現を抑制することが好ましいためである。このΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する方法としては、従来公知の遺伝子工学的手法である、アンチセンス法、センス(コサプレッション)法、二本鎖RNAを転写させるRNAi法を利用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、後述する実施例に示すようにRNAi法を用いることが好ましい。この方法によれば、簡便かつ確実にΔ15不飽和化酵素遺伝子の発現を抑制することができる。つまり、本発明のアラキドン酸生産工程には、宿主のΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する発現抑制工程が含まれることが好ましく、さらには、上記発現抑制工程は、RNAi法によってΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する工程であることがより好ましいといえる。
【0092】
〔1−2−3〕その他の工程、その他の方法
本発明にかかる植物体の生産方法においては、上記形質転換工程が含まれていればよく、さらに上記組換え発現ベクター構築工程が含まれていてもよいが、さらに他の工程が含まれていてもよい。具体的には、形質転換後の植物体から適切な形質転換体を選抜する選抜工程等を挙げることができる。
【0093】
選抜の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ハイグロマイシン耐性等の薬剤耐性を基準として選抜してもよいし、形質転換体を育成した後に、植物体そのもの、または任意の器官や組織に含まれるアラキドン酸含有量から選抜してもよい。また、例えば、GFPなどの蛍光性タンパク質を同時に形質導入し、視覚的に選抜することも可能である。
【0094】
本発明にかかる植物体の生産方法では、上記脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入するため、該植物体から、有性生殖または無性生殖により単にアラキドン酸を含有する子孫を得ることが可能となる。また、該植物体やその子孫から植物細胞や、種子、果実、株、カルス、塊茎、切穂、塊等の繁殖材料を得て、これらを基に該植物体を量産することも可能となる。したがって、本発明にかかる植物体の生産方法では、選抜後の植物体を繁殖させる繁殖工程(量産工程)が含まれていてもよい。
【0095】
なお、本発明における植物体とは、成育した植物個体、植物細胞、植物組織、カルス、種子の少なくとも何れかが含まれる。また、この繁殖工程にて繁殖した植物体の子孫も本発明に含まれる。つまり、本発明では、最終的に植物個体まで成育させることができる状態のものであれば、全て植物体と見なす。また、上記植物細胞には、種々の形態の植物細胞が含まれる。かかる植物細胞としては、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片等が含まれる。これらの植物細胞を増殖・分化させることにより植物体を得ることができる。なお、植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて、従来公知の方法を用いて行うことができる。したがって、本発明にかかる植物体の生産方法では、植物細胞から植物体を再生させる再生工程が含まれていてもよい。
【0096】
また、本発明にかかる植物体の生産方法は、組換え発現ベクターで形質転換する方法に限定されるものではなく、他の方法を用いてもよい。具体的には、例えば、上記脂肪酸合成酵素そのものを植物体に投与してもよい。この場合、最終的に利用する植物体の部位においてアラキドン酸を含有できるように、若年期の植物体に脂肪酸合成酵素を投与すればよい。また脂肪酸合成酵素の投与方法も特に限定されるものではなく、公知の各種方法を用いればよい。
【0097】
〔2〕本発明により得られるアラキドン酸植物体やダイズとその有用性、並びにその利用
本発明にかかるアラキドン酸植物体やダイズの生産方法では、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体やダイズに導入する。これにより、アラキドン酸の合成系に関与する脂肪酸合成酵素が発現され、当該脂肪酸合成酵素が本来高等植物には存在しないアラキドン酸生合成経路により、アラキドン酸を生産することになる。その結果、得られる植物体はアラキドン酸を含有することになる。したがって、本発明には、上記植物体の生産方法により得られる、アラキドン酸を含有する植物体やダイズが含まれる。
【0098】
〔2−1〕本発明の有用性
本発明では、植物体にアラキドン酸を生産させることができるが、本発明の有用性は特に限定されるものではなく、アラキドン酸を含む植物体をそのまま農作物、食品等として流通させることも可能であるし、さらに、該植物体からアラキドン酸を抽出して、このアラキドン酸を利用することができる。すなわち、本発明には、上記植物体の生産方法によって生産された植物体から得られるアラキドン酸も含まれる。
【0099】
ここで、上記アラキドン酸を含有する油脂原料植物体からアラキドン酸を取得する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の抽出・精製方法を利用することができる。例えば、形質転換ダイズから大豆油を取得する要領で油を搾り取り、そこからアラキドン酸を分離・精製する方法を挙げることができる。
【0100】
また、後述の実施例に示すように、本発明に係る形質転換ダイズでは、その改変された形質が次世代まで引き継がれることが実験的に確認されている。これは、本発明に係る形質転換ダイズを栽培することにより、アラキドン酸を含有するダイズを大量に生産可能なことを意味している。したがって、非常に産業上有用な発明であるといえる。
【0101】
また、上述したように、アラキドン酸は、動物の体内で様々な機能を示すほか、プロスタグランジン類の直接の前駆体としても重要な役割を果たすことが知られている。さらに、アラキドン酸は老人性痴呆症に対する改善効果も認められている。このため、アラキドン酸含有植物体または該植物体から得られるアラキドン酸は、老人性痴呆症に対する改善効果を謳った組成物(例えば、油脂組成物)、食品(健康食品など)や医薬品などへの応用が可能である。ここで、「組成物」とは、アラキドン酸以外にどのような成分が含まれていてもよく、特に限定されるものではない。例えば、アラキドン酸以外の油脂成分としてPC、DHA、EPAなどPUFAなどが含まれていてもよい。また、ここでいう「食品」とは、経口摂取により体内に取り込まれるものであればよく、錠剤、液体、粉末などの剤型などは限定されるものではない。例えば、体内にて可溶するカプセルにアラキドン酸を含有する油脂組成物を包含させて健康食品とすることができる。
【0102】
〔2−2〕本発明の利用の一例
本発明の利用分野、利用方法は特に限定されるものではないが、一例として、本発明にかかる植物体の生産方法を行うためのキット、すなわちアラキドン酸含有植物体作製キットを挙げることができる。
【0103】
このアラキドン酸含有植物体作製キットの具体例としては、上記脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターを少なくとも含んでいればよく、上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入するための試薬群を含んでいればより好ましい。上記試薬群としては、形質転換の種類に応じた酵素やバッファー等を挙げることができる。その他、必要に応じてマイクロ遠心チューブ等の実験用素材を添付してもよい。
【0104】
本発明に係るアラキドン酸含有植物体作製キットによれば、容易に上記植物体の生産方法を実施することができ、確実かつ簡易にアラキドン酸を含有する植物体を生産することができる。
【0105】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0106】
〔I〕脂肪酸の分析
脂質の抽出・分析は、公知の方法(藤野安彦編(1978)生物化学実験法9学会出版センター、山田晃弘編(1989)生物化学実験法24学会出版センター)にしたがった。まず、閉鎖系温室で栽培した形質転換タバコより葉を1枚根元より切り取った。切り取った葉は秤量した後水洗し、ハサミを用いて5mm角に切断した。切断した葉約1gをステンレス製の50mlのカップに入れ、クロロホルム/メタノール(1:2)溶液35ml、ガラスビーズ(直径0.4mm)7.5mlを入れ、ホモジナイザー(CELL MASTER CM−100、井内製作所)にて、10,000回転x 10分間の処理を行った。
【0107】
カップの内容物は、ろ紙にてろ過し、ろ液が90mlになるまで残渣をクロロホルム/メタノール(1:2)溶液で洗浄・ろ過を繰り返した。ろ液は22.5mlずつ50ml容のガラス製遠心管に分注し、各遠心管にクロロホルム7.5ml、1%KCl水溶液13.5mlを添加した。遠心管は10分間激しく撹拌した後、3,000rpmで20分間遠心した。溶液は2層に分かれ、そのうち下層のクロロホルム層を回収した。クロロホルム層は、あらかじめ秤量していたねじ口試験管(φ16mmx125mm)に移し、スピードバック(SAVANT社SC210)にて溶媒を蒸発除去した。ねじ口試験管の重さを量り試験管の重さとの差より回収された脂質の量を求めた。
【0108】
ねじ口試験管中の約4mgの油脂に10%塩酸メタノール2ml、ジクロロメタン1mlを添加し、フタをした後50℃、3時間の加熱処理を行い、脂質を脂肪酸メチルエステルとした。この反応後、蒸留水1ml、ヘキサン4mlを添加し、5分間激しく撹拌した後、3,000回転x5分間の遠心処理を行った。上層のヘキサン層を別の試験管に回収し、スピードバックにてヘキサンを蒸発除去した。この操作を2回繰り返し、脂肪酸メチルエステルを回収した。脂肪酸メチルエステルは50μlのアセトニトリルに溶解し、ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社 HP−6800)で分析した。分析条件は下記表1に示す。
【0109】
【表1】

クロマトグラム中の各ピークは標準脂肪酸のメチルエステルのリテンションタイムとGC−MASS(Hewltt Packard社HP−5973)分析により決定し、またピーク面積より各脂肪酸の割合を決定した。
【0110】
〔II〕タバコにおけるモルティエラ アルピナ(M.alpina)由来の遺伝子の発現
〔II−1〕Δ6不飽和化酵素遺伝子の発現
pE2113(Plant Cell Physiol.37,p45(1996))は、エンハンサー配列を繰り返したカリフラワーモザイクウイルス35S(El235S)プロモーターとノパリンシンターゼ(nos)ターミネーターとを有するプラスミドベクターである。このpE2113をSnaBIで消化し、XhoIリンカー(TAKARA)を挿入することにより得られたプラスミドをさらにSacIで消化・平滑末端化した後、BamHIリンカー(TAKARA)を挿入しpUE7を得た。
【0111】
pUE7をHindIIIとEcoRIとで消化することによって得られるDNA断片のうち、El235Sプロモーターを有する断片と、HindIIIとEcoRIとで消化した植物形質転換用バイナリーベクターpBINPLUS(Transgenic research 4,p288,(1995))とを連結することにより、pSPB505を得た。一方、モルティエラ由来のΔ6不飽和化酵素遺伝子を含むプラスミドPMLD101をXhoIにて消化後、BamHIにて部分消化して得られる約1.6kbのDNA断片を回収した。このDNA断片と、pSPB505をXhoIとBamHIで消化して得られるバイナリーベクター部分のDNA断片と連結し、pSPB559を得た。このプラスミドにおいてモルティエラΔ6不飽和化酵素遺伝子はEl235Sプロモーターとnosターミネーターの制御下にある。
【0112】
公知の方法(Plant J.5,81,(1994))に基づいて、pSPB559をアグロバクテリウムに導入し、この組換えアグロバクテリウムを用いてタバコに導入した。公知の方法(Plant J.5,81,(1994))に基づいて、得られた組換えタバコの葉からRNAを抽出し、ノザンハイブリダイゼーションによりモルティエラ由来のΔ6不飽和化酵素遺伝子を発現している系統を選択した。上記〔I〕欄に記載の方法で、これらのタバコの葉の脂肪酸を分析したところ、組換えタバコの葉では宿主のタバコにはないγ−リノレン酸が1.8〜7.3%含まれていた。この結果から、モルティエラ由来のΔ6不飽和化酵素遺伝子が植物で機能することがわかった。
【0113】
〔II−2〕Δ6不飽和化酵素遺伝子および脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子の共発現
pUCAP(Transgenic research 4,p288,(1995))をAscIで消化し、平滑末端化し、PacIリンカーを挿入することにより、pUCAPPとした。pE2113をSnaBIで消化し、BamHIリンカー(TAKARA)を挿入することにより、pUE6を得た。このpUE6をSacIで消化し、平滑末端化し、SalIリンカー(TAKARA)を挿入してpUE8を得た。
【0114】
このプラスミドpUE8をHindIIIとEcoRIとで消化して得られるDNA断片のうちEl235Sプロモーターを有する断片をpUCAPPのHindIII−EcoRIサイトに挿入した。このプラスミドをBamHIおよびSalIで消化したDNA断片と、脂肪酸鎖延長酵素のcDNAをBamHIおよびXhoIで消化して得られるDNA断片とを連結し、pSPB1130を得た。このプラスミドpSPB1130をPacIで消化し、得られる約2.3kbのDNA断片をpBinPLUSのPacIサイトに挿入した。脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子とpBinPLUS上のnptII遺伝子との転写方向が同じ向きになっているプラスミドを選択し、pSPB1157Pとした。
【0115】
また、pSPB599をPacIで消化した後平滑末端化し、AscIリンカーを挿入し、pSPB599Aとした。このpSPB599AをAscIで消化して得られるΔ6不飽和化酵素遺伝子を含むDNA断片をpSPB1157PのAscI部位に挿入し、pSPB1157を得た。
【0116】
このバイナリープラスミドpSPB1157を上述のようにタバコに導入し、形質転換タバコを取得した。その結果、脂肪酸鎖長延長酵素とΔ6不飽和化酵素の遺伝子が発現しているタバコの葉では、全脂肪酸量の0.1〜5%の割合でジホモ−γ−リノレン酸の生産が確認された。一方、形質転換していない宿主タバコの葉にはジホモ−γ−リノレン酸は認められなかった。この結果から、モルティエラ由来のΔ6脂肪酸不飽和化酵素遺伝子および脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子を同一ベクター上に配置したバイナリープラスミドを用いて形質転換したタバコにおいて、Δ6脂肪酸不飽和化酵素と脂肪酸鎖長延長酵素とが共発現するとともに、機能を発揮することがわかった。
【0117】
〔II−3〕Δ6不飽和化酵素遺伝子と脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子とΔ5不飽和化酵素遺伝子との共発現
pCGP1364(Plant Cell Physiol.36,p1023,(1995))をHindIIIとSacIIで消化して得られる約1.3kbのDNA断片と、pCGP1364をPstIで消化し、平滑末端化した後SacIIで消化して得られる約2.9kbのDNA断片と、pUCAPAをSacIで消化し、平滑末端化した後HindIIIで消化して得られる約2.7kbのDNA断片とを連結することにより、pSPB184を得た。これをXbaIとKpnIで消化し、pCR2にサブクローニングしてあるΔ5不飽和化酵素遺伝子断片をXbaIとKpnIで消化して回収し、これらのDNA断片を連結し、pSPB1519Aを得た。
【0118】
このpSPB1519AをAscIで消化し、pSPB1157のAscI部位に挿入し、pSPB1519を得た。このプラスミドpSPB1519上でptII、Δ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、Δ6不飽和化酵素遺伝子は同じ向きに転写され、Δ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、Δ6不飽和化酵素遺伝子は構成的プロモーターの制御下にある。
【0119】
上述と同様な方法で、pSPB1519を用いて形質転換されたタバコを取得し、Δ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、Δ6不飽和化酵素遺伝子が発現している形質転換タバコを同定した。この形質転換タバコの葉の脂肪酸を分析したところ、アラキドン酸の生産は認められなかった。この結果から、Δ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、Δ6不飽和化酵素遺伝子が転写されているにもかかわらず、アラキドン酸が合成されなかったのは、この形質転換タバコにおいては、アラキドン酸の生産のためにはΔ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、Δ6不飽和化酵素遺伝子が転写されるだけでは不十分であることを示している。
【0120】
〔II−4〕Δ5不飽和化酵素の機能確認
前述のように、形質転換タバコの葉ではΔ5不飽和化酵素遺伝子が転写されていたにもかかわらず、アラキドン酸が生産されなかった。その原因として、Δ5不飽和化酵素の基質となるジホモ−γ−リノレン酸の量が不足している可能性と、Δ5不飽和化酵素が機能していない可能性が考えられた。
【0121】
そこで、pSPB1519形質転換タバコに対して、外部からジホモ−γ−リノレン酸を与えることによって、アラキドン酸が生産されるかどうかを解析した。解析方法はQiuら(J.Biol.Chem.276,p31561(2001))の方法に従った。すなわち、新鮮重1gのタバコ葉をカミソリの刃を用いて小片に切り刻み、シャーレ中で10mlの0.05%ジホモ−γ−リノレン酸ナトリウム水溶液と24℃、4時間緩やかに振盪培養した。培養後、水で3回洗浄し、脂肪酸分析をおこなった。
【0122】
その結果、形質転換体2系統を用いた解析から、ジホモ−γ−リノレン酸と共培養した場合にアラキドン酸の合成が確認され、Δ5不飽和化酵素がタバコの葉で機能していることが示唆された。このことから、pSPB1519形質転換タバコでアラキドン酸が生産されなかった原因は、Δ5不飽和化酵素の基質となるジホモ−γ−リノレン酸が十分量存在しなかったためと考えられた。
【0123】
〔III〕ダイズの形質転換
ダイズ(Glycine max)の培養は、基本的にFinerらの方法に従い(In vitro Cell.Dev.Biol.Plant 35:451(1999))、品種Jackの未成熟子葉(3〜5mm)を誘導培地(30g/l sucrose、40mg/l 2,4−D、B5 vitamins添加MS培地、pH7.0)で体細胞胚を誘導した。
【0124】
誘導した体細胞胚を液体増殖培地(10g/l sucrose、1g/l asparagine、5mg/l 2,4−D、FNLite培地、pH5.8)で増殖させた後、パーティクルガン法(直径1.0μmの金粒子と1350dpiのラプチャーディスク)で遺伝子を導入した。この遺伝子を導入した体細胞胚を1週間増殖培地で培養した後、15mg/l、30mg/l、45mg/lのhygromycinを添加した増殖培地でそれぞれ1ヶ月選抜してから、液体分化・成熟培地(30g/l sucrose、30g/l D−Glucitol、298.4mg/l L−methionine、4.38g/l L−glutamin、FNLite培地、pH5.8)に移植して再分化させた。選抜された体細胞胚は、分化・成熟培地へ移すと、次第に大きさを増し(この段階は未熟胚に相当する)、発達するに従って明確な子葉と胚軸とに分化して、成熟するに至った(この段階は成熟胚に相当する)。成熟した体細胞胚を乾燥させてから発芽培地で発芽させ、完全な植物体を取得した。なお、液体振蘯培養は、回転シェーカーで行い、振蘯速度は100rpmとした。
【0125】
〔IV〕多重遺伝子発現用ベクターの改良
既存のベクターにおける制限酵素認識部位のほとんどは6塩基であり、目的遺伝子をプロモーター、ターミネーターと組み合わせた複数の発現カセットを1つのベクターに挿入する際には、目的遺伝子の中に認識部位が存在し、制限酵素認識部位を利用できない場合が多い。この場合、8塩基の制限酵素認識部位を用いることで、この問題を解決できると考え、8塩基の制限酵素認識部位を4ヶ所追加したベクターを作製した。具体的には、以下のように行った。
【0126】
まず、8塩基認識部位を2ヶ所持つpUCAPをAscIで消化しSgfIリンカーを挿入、さらに、PacIで消化しFseIリンカーを挿入し、8塩基認識の制限酵素認識部位を4ヶ所有するプラスミドpUCSAPFを作製した。他にサブクローニング用としてpUC19をHindIIIで消化しSgfIリンカーを挿入、さらに、EcoRIで消化しAscIリンカーを挿入したプラスミドpUCSA、pUC19をHindIIIで消化しPacIリンカーを挿入、さらに、EcoRIで消化しFseIリンカーを挿入したプラスミドpUCPF、pUC19をHindIIIで消化しSgfIリンカーを挿入、さらに、EcoRIで消化しSgfIリンカーを挿入したプラスミドpUCSS、pUC19をHindIIIで消化しFseIリンカーを挿入、さらに、EcoRIで消化しFseIリンカーを挿入したプラスミドpUCFFを作製した。
【0127】
〔V〕脂肪酸合成酵素遺伝子植物発現用ベクターの構築
アラキドン酸生産用ベクターとして、モルティエラ由来のΔ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素(GLELO)、Δ5不飽和化酵素の発現カセット、およびダイズ由来のΔ15不飽和化酵素のRNAiカセットを種子特異的プロモーターと組み合わせ、脂肪酸合成酵素遺伝子植物発現用ベクターを作製した。種子特異的プロモーターにはダイズ由来コングリシニンアルファ’サブユニットプロモーター(Proc.Nat.Acad.Sci.USA,83 p8560(1986))を用いた。具体的には、以下のように行った。
【0128】
まず、pUC19マルチクローニングサイトのHindIIIとXbaIとの間にPCRにより増幅、制限酵素処理、精製したコングリシニンプロモーターを、SacIとEcoRIとの間にPCRにより増幅、制限酵素処理、精製したマノピン合成酵素遺伝子ターミネーターを挿入した(pSPB1904)。PCR反応は目的配列をサブクローニングしてあるプラスミドを鋳型に行った。なお、PCR反応に用いたプライマーは、コングリシニンプロモーターについては、プライマーHinCprof(5’−AGTCAAGCTTAATTCAAACAAAAACG−3’)(配列番号7)、とXbaCpror(5’−CAGTTCTAGAAAATTCTTTAATACGG−3’)(配列番号8)とを使用した。また、マノピン合成酵素遺伝子ターミネーターについては、プライマーSacmasf(5’−AGTCGAGCTCCAGCTTCCCTGAAACC−3’)(配列番号9)と、Ecomasr(5’−CATCATCTCGAGGGTGGTGACCATGGTGATCGC−3’)(配列番号10)とを用いた。
【0129】
サブクローニングに使用するPCRで増幅したDNA断片は全て、高精度でDNAを増幅できるKOD+ポリメラーゼ(東洋紡株式会社)を用い、94℃で2分間保持した後、94℃・15秒、68℃・1〜3分のサイクルを25サイクルのPCR反応によって調製した。pSPB1904のXbaIとSacIとの間に、PCRで調製したΔ5不飽和化酵素、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素の各DNA断片をサブクローニングし、それぞれpSPB1909、pSPB1910、pSPB1911と命名した。
【0130】
pSPB1909をHindIII、EcoRIで消化して得たΔ5不飽和化酵素カセットをpUCSAに挿入し、またpSPB1911をHindIII、EcoRIで消化して得た鎖長延長酵素カセットをpUCPFに挿入した。これらをそれぞれpSPB1919、pSPB1920と称する。さらに、このpSPB1919をPacI、FseIで消化して得たΔ5不飽和化酵素カセットと、pSPB1920をSgfI、AscIで消化して得た脂肪酸鎖長延長酵素カセットと、pSPB1910をHindIII、EcoRIで消化して得たΔ6不飽和化酵素カセットとをpUCSAPFに組み込んで、3カセットを連結したプラスミドpSPB1944を作製した。
【0131】
また、35Sプロモーター−ハイグロマイシン耐性遺伝子−nosターミネーターからなるHPTカセットはpUCFFのHindIIIサイトに、また35Sプロモーター−緑色蛍光タンパク質遺伝子−nosターミネーターからなるGFPカセットはpUCSSのSphIとEcoRIとの間にそれぞれサブクローニングし、pSPB1918、pSPB1935を作製した。pPSB1944のFseIサイトにpSPB1918から切り出したHPTカセットを、またSgfIサイトにpSPB1935から切り出したGFPカセットを挿入しpSPB1852を作製した。
【0132】
また、Δ15不飽和化酵素遺伝子(Accession No.P48625)をサブクローニングするために、ダイズ未熟種子から抽出した全RNAを用いてRT−PCRを行った。具体的には、以下のように行った。
【0133】
逆転写反応はスーパースクリプトファーストストランド合成システムRT−PCR用(インビトロジェン株式会社)を用いて、Oligo(dT)12〜18プライマーで行った。逆転写産物を鋳型とし、プライマーdet15−2−F1(5’−ATGGTTAAAGACACAAAGCCTTTAGCC−3’)(配列番号11)と、det15−2−R1(5’−TCAGTCTCGTTGCGAGTGGAGG−3’)(配列番号12)とを用いてPCR反応を行った。
【0134】
PCR反応は94℃で2分間保持した後、94℃・30秒、55℃・30秒、72℃・30秒〜1分のサイクルを30サイクル行い、さらに72℃で1分間保持した。増幅されたDNA断片をTOPOクローニングキット(インビトロジェン株式会社)を用いてpCRIIベクターにサブクローニングし、シークエンスを確認した。サブクローニングしたΔ15不飽和化酵素遺伝子の開始コドンより5塩基下流〜591bpまでのDNA断片に対してBamHI、XhoI認識配列を付加した断片と、5塩基下流〜791bpまでのDNA断片に対してSacI、XhoI認識配列を付加した断片とをPCRにより増幅、精製した。
【0135】
この際用いたプライマーは、上記の約591bp断片についてはプライマーSOYF1−B(5’−TGGCCTGGGATCCTTAAAGACACAAAGCCTTTA−3’)(配列番号13)と、SOYR1−X(5’−GCACATCTCGAGGGATTGAAGTGAGAGCCTTC−3’)(配列番号14)とを用いた。また、上記の約791bp断片については、プライマーSOYF2−S(5’−GTCTGCGAGCTCTTAAAGACACAAAGCCTTTA−3’)(配列番号15)と、SOUR2−X(5’−CATCATCTCGAGGGTGGTGACCATGGTGATGC−3’)(配列番号16)とを用いた。
【0136】
これら2種類のDNA断片が、ヘアピン構造を作るように逆位にBamHI−XhoI−SacIで連結し、コングリシニンプロモーターとnosターミネーターとの間にBamHI、SacIサイトに挿入しRNAiカセットを作製した(pSPB1876)。このpSPB1876からΔ15RNAiカセットを切り出し、pSPB1852のAscIサイトに挿入し、pSPB1877を作製した。
【0137】
また、pSPB1877は、図2に示す手順でも作製することができる。具体的には、まず、pUCSAPF2.7kbpのSgfI−AscIサイトにGLELO遺伝子断片(図中Conで示すコングリシニンのプロモーターと、図中masで示すマノピン合成酵素遺伝子ターミネーターとの間にGLELOcDNAが連結されている断片)を、またAscI−PacIサイトにΔ6不飽和化酵素遺伝子断片(Conとmasとの間にΔ6不飽和化酵素cDNAが連結している断片)を、またPacI−FseIサイトにΔ5不飽和化酵素(Conとmasとの間にΔ5不飽和化酵素cDNAが連結している断片)を導入し、pSPB1944を作製した。次いで、pSPB1944をSgfIとFseIとで処理して、SgfIサイトに35Sプロモーター−緑色蛍光タンパク質遺伝子−nosターミネーターからなるGFPカセットを、FseIサイトに35Sプロモーター−ハイグロマイシン耐性遺伝子−nosターミネーターからなるHPTカセットを導入し、pSB1852を作製した。最後に、Δ15RNAiカセットを、pSPB1852のAscIサイトに挿入し、pSPB1877を作製した。
【0138】
このように作製したpSB1877の全体図を図3に示す。このように、pSB1877には、GFPカセット、GLELO、Δ15RNAiカセット、Δ6不飽和化酵素、Δ5不飽和化酵素、HPTカセットが連結されており、多重遺伝子を発現するベクターとなっている。
【0139】
〔VI〕ダイズの形質転換および発現解析
pSPB1877を導入したダイズ不定胚を未成熟と成熟との2ステージでサンプリングし、多重遺伝子の導入・発現解析を行った。具体的には以下のように行った。
【0140】
ゲノムDNAおよびRNAをそれぞれDNeasy Plant Mini KitとRNeasy Plant Mini Kit(株式会社キアゲン)とを用いることにより調製した。抽出したDNA200ngを鋳型に、PCR反応を行った。この際使用したプライマーは、det6f3(5’−TGGTGGAAGGACAAGCACAA−3’)(配列番号17)とdet6r2(5’−ACAGACCAGGGTGAACATCA−3’)(配列番号18)、プライマーdet5f4(5’−CTTTGGATCCTTGATCGCCT−3’)(配列番号19)とdet5r3(5’−AGAACATGACGGTGTGCCAA−3’)(配列番号20)、プライマーXbaGLf(5’−CAGTTCTAGAGCCTTCTCACATTCCC−3’)(配列番号21)とSacGLr(5’−AGTCGAGCTCTTACTGCAACTTCCTT−3’)(配列番号22)、プライマーHPTf1(5’−CCTGCGGGTAAATAGCTGCG−3’)(配列番号23)とHPTr1(5’−CGTCAACCAAGCTCTGATAG−3’)(配列番号24)、プライマーEGFP−F1(5’−ATGGTGAGCAAGGGCGAGGA−3’)(配列番号25)とEGFP−R1(5’−AATGAACATGTCGAGCAGGTA−3’)(配列番号26)を用いた。
【0141】
PCR反応は、酵素にExTaq(タカラバイオ株式会社)を用い、94℃で2分間保持した後、94℃・30秒、55℃・30秒、72℃・30秒〜1分のサイクルを30サイクル行い、さらに72℃で1分間保持した。これらの結果から、pSPB1877を導入したダイズにはΔ6不飽和化酵素、Δ5不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、HPT遺伝子が導入されているが、GFP遺伝子は導入されていないことが明らかになった。抽出した全RNAを用いて前述のようにRT−PCRを行った。RT−PCRは逆転写産物を鋳型とし、プライマーdet6f3(配列番号17)とdet6r2(配列番号18)、プライマーdet5f4とdet5r3、プライマーGLEf(5’−GTGCTCGCTTATTTGGTCAC−3’)(配列番号27)とGLEr(5’−CGACATCATGCAGAACTGTG−3’)(配列番号28)を用いた。ゲノムDNAと同じサイクルでPCRを行い、遺伝子発現を解析した。その結果、pSPB1877形質転換ダイズでは、Δ6不飽和化酵素、Δ5不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素の発現が確認された。
【0142】
〔VII〕形質転換ダイズの脂質分析
pSPB1877形質転換ダイズの成熟胚1gから上記〔I〕欄の方法に従って脂質を抽出し、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析装置によって、脂肪酸の解析を行った。その結果を下記表2に示す。
【0143】
【表2】

表2に示すように、pSPB1877形質転換ダイズの成熟胚では本来ダイズでは生合成されないγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸がそれぞれ全脂肪酸に対して、2.77%、1.73%、2.10%の割合で合成されていた。なお、野生型ダイズの脂質には、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸は含まれていなかった。
【0144】
以上の結果より、本発明に係る植物体の生産方法によれば、ダイズでアラキドン酸を生産することが可能になった。
【0145】
〔VIII〕
pSPB1877形質転換ダイズの種子1粒から上記〔I〕欄に記載の方法に従って脂質を抽出し、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析装置によって、形質転換ダイズの種子に含有される脂肪酸の解析を行った。その結果を下記表3に示す。
【0146】
【表3】

表3に示すように、pSPB1877形質転換ダイズの種子では、本来野生型のダイズでは生合成されないγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸がそれぞれ全脂肪酸量に対して、2.49%、1.05%、0.83%の割合で合成されていた。また、形質転換体のα−リノレン酸量が野生型ダイズの発現量の約20%に減少していたことから、RNAiによるΔ15不飽和化酵素の発現抑制が起こっていると考えられた。
【0147】
以上のように、形質転換体の種子の脂肪酸組成が変化していたことから、形質転換ダイズの次世代のダイズにも改変された脂肪酸の形質が伝わることが示された。したがって、この組換えダイズを栽培することにより、改変された脂肪酸組成を有するダイズ種子を大量に得ることができる。
【0148】
〔IX〕
アラキドン酸を蓄積していたpSPB1877形質転換ダイズのT1種子を播種し、次世代となるT2種子を採種した。T1植物の葉から抽出したDNAを鋳型に、Δ6不飽和化酵素、鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素のゲノミックPCRを上記〔VI〕欄の方法に従って行い、T1植物にはこれら3つの遺伝子が受け継がれていることを確認した。また、T1植物の葉のDNAをNucleon Phytopure(アマシャム)により調製し、DIG DNA labeling kit(ロシュ・ダイアグノスティックス)と上記〔VI〕欄記載のプライマーを用いて、Δ6不飽和化酵素、鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素のプローブを作製し、サザンブロット解析を行った。T1植物には少なくとも2コピーのコンストラクトが導入されていることが確認できた。T2種子の脂質分析を行った結果、表4に示すように本来野生型のダイズでは生合成されないγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸がそれぞれ全脂肪酸量に対して、1.71%、0.55%、0.53%の割合で合成されていた。また、種子のRT−PCRによりΔ6不飽和化酵素、鎖長延長酵素、Δ5不飽和化酵素の発現を確認した。よって、次世代にも安定に導入遺伝子が受け継がれ、脂肪酸組成改変の形質も受け継がれていることが確かめられた。
【0149】
また、RT−PCRによって内在性Δ15不飽和化酵素(Accession No.L22964)の転写物の量を調べたところ、転写物は検出できなかった。このことから、RNAiによってΔ15不飽和化酵素の転写が効果的に抑制されており、そのためにα−リノレン酸含量が低下していると考えられた。
【0150】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0151】
上述したように、本発明に係る油脂原料植物の生産方法によれば、本来、高等植物で生産されなかったアラキドン酸を含有する植物体を得ることができる。この植物体からアラキドン酸を大量かつ簡易に取得することができるため、このアラキドン酸を用いて、健康食品や医薬品の製造・販売が可能となる。すなわち、本発明では、食品産業、製薬産業およびその関連産業に利用可能である。また、本発明は、植物体へ新たな付加価値を与えるものであるため、農業分野への利用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素遺伝子を植物体に導入し、アラキドン酸を生産させるアラキドン酸生産工程を含む植物体の生産方法により得られることを特徴とするアラキドン酸含有植物体。
【請求項2】
上記アラキドン酸生産工程は、上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターを、植物細胞に導入する形質転換工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項3】
さらに、上記アラキドン酸生産工程は、上記組換え発現ベクターを構築する組換え発現ベクター構築工程を含んでいることを特徴とする請求項2に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項4】
上記組換え発現ベクター構築工程には、ダイズ種子特異的プロモーターの下流領域に、アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子を連結する工程が含まれることを特徴とする請求項3に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項5】
上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素が、Δ6不飽和化酵素、脂肪酸鎖長延長酵素、およびΔ5不飽和化酵素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項6】
上記Δ6不飽和化酵素が、以下の(a)または(b)記載のタンパク質であることを特徴とする請求項5に記載のアラキドン酸含有植物体。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質。
【請求項7】
上記Δ6不飽和化酵素をコードする遺伝子として、以下の(c)または(d)記載の遺伝子が用いられることを特徴とする請求項5に記載のアラキドン酸含有植物体。
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸のΔ6位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項8】
上記脂肪酸鎖長延長酵素が、以下の(e)または(f)記載のタンパク質であることを特徴とする請求項5に記載のアラキドン酸含有植物体。
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、脂肪族モノカルボン酸の炭素鎖の延長反応を触媒する機能を有するタンパク質。
【請求項9】
上記脂肪酸鎖長延長酵素をコードする遺伝子として、以下の(g)又は(h)記載の遺伝子が用いられることを特徴とする請求項5に記載のアラキドン酸含有植物体。
(g)配列番号4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(h)配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸の炭素鎖の延長反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項10】
上記Δ5不飽和化酵素が、以下の(i)または(j)記載のタンパク質であることを特徴とする請求項5に記載のアラキドン酸含有植物体。
(i)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(j)配列番号5に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質。
【請求項11】
上記Δ5不飽和化酵素をコードする遺伝子として、以下の(k)または(l)記載の遺伝子が用いられることを特徴とする請求項5に記載のアラキドン酸含有植物体。
(k)配列番号6に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(l)配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、脂肪族モノカルボン酸のΔ5位に不飽和結合を導入する反応を触媒する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項12】
上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素または該酵素をコードする遺伝子は、モルティエラ(Mortierella)属由来であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項13】
上記アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素または該酵素をコードする遺伝子は、モルティエラ アルピナ(Mortierella alpina)由来であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項14】
上記アラキドン酸生産工程には、宿主のΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する発現抑制工程が含まれることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項15】
上記発現抑制工程は、RNAi法によってΔ15不飽和化酵素の発現を抑制する工程であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項16】
上記植物体には、細胞、組織、カルス、種子、成育した植物個体、もしくは該植物個体と同じ性質を有する植物個体の子孫が含まれることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項17】
上記植物体は、ダイズであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のアラキドン酸含有植物体から得られることを特徴とするアラキドン酸。
【請求項19】
請求項18に記載のアラキドン酸を含んでいることを特徴とする組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物を含んでいることを特徴とする食品。
【請求項21】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のアラキドン酸を含有する植物体を作製するためのキットであって、
アラキドン酸生合成に関与する脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子と、プロモーターとを含む組換え発現ベクターを少なくとも含んでいることを特徴とするアラキドン酸含有植物体作製キット。
【請求項22】
さらに、上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入するための試薬群を含んでいることを特徴とする請求項21に記載のアラキドン酸含有植物体作製キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/059130
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516311(P2005−516311)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018638
【国際出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】