説明

アリールエーテル類の製造方法

【課題】工業的に有利なアリールエーテル類の製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)


(式中、RおよびRは、それぞれ同一または相異なって、置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または置換もしくは無置換のアルキル基を表す。Yはフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表す。また、0<x≦1である。)で示されるアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物とフェノール類とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールエーテル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリールエーテル類は、医農薬原体、電子材料をはじめとする各種化学製品およびそれらの合成中間体等として極めて重要な化合物である(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
求核置換反応を利用して、アリールエーテル類を合成する方法が種々、開発されている。例えば、フォスファゼニウムクロライドの存在下に、4−ニトロフルオロベンゼンとナトリウムフェノラートとを無水ジメチルスルホキシド中で加熱する方法(例えば、特許文献1参照。)、ニトロ置換ハロベンゼン類とフェノラート類とを加圧条件下に液体アンモニア中で加熱する方法(例えば、特許文献2参照。)、ナトリウムフェノラート類を単離してからジメチルホルムアミド中でハロピリジン類と加熱する方法(例えば、特許文献3参照。)、フッ化カリウム−アルミナと18−クラウン−6の存在下にシアノ置換ハロベンゼン類とフェノール類とを非プロトン性極性溶媒中で加熱する方法(例えば、非特許文献1参照。)、4−ニトロハロベンゼンとフェノール類とを塩基の存在下にマイクロ波を用いて加熱する方法(例えば、非特許文献2参照。)、強塩基と第4級塩基性塩の存在下にフェノール類とアルキルハライドとを共沸脱水しながら反応させる方法(例えば、特許文献4参照。)、フッ化セシウム−セライトの存在下にフェノール類とアルキルハライドとを反応させる方法(例えば、非特許文献3参照。)、イオン性液体と水との混合溶媒中、過剰量の強塩基存在下にフェノール類とベンジルブロマイドとを反応させる方法(例えば、非特許文献4参照。)等が知られている。しかしながら、これらはいずれも、高価な反応試剤や取り扱いに問題のある化合物を用いたり、特殊な装置が必要であったり、塩基に不安定な置換基を有する基質が使用できなかったりするなど、工業的な製法として十分なものとはいえなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−3427号公報
【特許文献2】特公平6−86410号公報
【特許文献3】仏国公開特許第1527714号公報
【特許文献4】特開平6−128185号公報
【非特許文献1】J.Org.Chem.,63,6338(1998)
【非特許文献2】Eur.J.Org.Chem.,1278(2002)
【非特許文献3】Tetrahedron Lett.,43,8603(2002)
【非特許文献4】Tetrahedron,59,789(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者は、工業的により有利なアリールエーテル類の製造方法を開発すべく、鋭意検討したところ、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物とフェノール類との反応を、リサイクル使用可能なフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に実施すれば、中性〜弱塩基性条件下においてもアリールエーテル類が効率よく生成することを見出し、さらには、無機塩基と併用すれば、フッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の量を削減しても効率よく反応が進行することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ同一または相異なって、置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または置換もしくは無置換のアルキル基を表す。Yはフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表す。また、0<x≦1である。)
で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物とフェノール類とを作用させることを特徴とするアリールエーテル類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、取り扱いに問題のある化合物や特殊な装置を用いることなく、比較的温和な条件下でアリールエーテル類を効率よく安価に製造することができるため、工業的に有利である。また、本発明のフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩は、それ自体がイオン性液体の性質も有しているため回収・再利用が容易であり、さらに、上記式(1)においてxを適宜選択することにより融点を室温以下にすることもできるため幅広い温度条件で反応を実施可能である等、工業的な取り扱いや環境の面においても有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、上記式(1)で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩(以下、イミダゾリウム塩(1)と略記する。)について説明する。
【0009】
式中、RおよびRは、それぞれ同一または相異なって、置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または置換もしくは無置換のよいアルキル基を表す。
【0010】
〜Rで示される無置換アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜10のアルキル基が例示される。
【0011】
アルキル基上に有していてもよい置換基としては、例えば、後述する置換もしくは無置換のアリール基、後述する置換もしくは無置換のアルコキシ基、後述する置換もしくは無置換のアリールオキシ基、後述する置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、後述する置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、カルボキシ基、フッ素原子等が例示される。置換アルキル基の具体例としては、例えばフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、ベンジル基、4−フルオロベンジル基、4−メチルベンジル基、フェノキシメチル基、2−オキソプロピル基、2−オキソブチル基、フェナシル基、2−カルボキシエチル基等が挙げられる。
【0012】
無置換アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10の炭化水素系芳香族基が挙げられる。アリール基上に有していてもよい置換基としては、例えば、前記置換もしくは無置換のアルキル基、後述する置換もしくは無置換のアルコキシ基、アリール基、後述する置換もしくは無置換のアリールオキシ基、後述する置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、後述する置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、カルボキシ基、フッ素原子等が例示される。置換アリール基の具体例としては、例えば4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基等が挙げられる。
【0013】
置換もしくは無置換のアルコキシ基におけるアルキル基としては、前記置換もしくは無置換のアルキル基が例示される。置換もしくは無置換のアルコキシ基の具体例としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0014】
置換もしくは無置換のアリールオキシ基におけるアリール基としては、前記置換もしくは無置換のアリール基が例示される。置換もしくは無置換のアリールオキシ基の具体例としては、例えばフェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等が挙げられる。
【0015】
置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基におけるアルキル基としては、前記置換もしくは無置換のアルキル基が例示される。置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等が挙げられる。
【0016】
置換もしくは無置換のアリールカルボニル基におけるアリール基としては、前記置換もしくは無置換のアリール基が例示される。置換もしくは無置換のアリールカルボニル基としては、例えばベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等が挙げられる。
【0017】
はフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表し、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のフッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン;テトラフルオロホウ酸アニオン等のホウ酸イオン類;ヘキサフルオロリン酸アニオン等のリン酸イオン類;ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン等のアンチモン酸イオン類;トリフルオロメタンスルホン酸アニオン等のスルホン酸イオン類;ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン等のアミドイオン類;などが挙げられる。
【0018】
xは、イミダゾリウム塩(1)に含まれる全アニオンに対するフッ化物イオンの比率を表し、0<x≦1の範囲で任意に選択できる。xが0に近くなれば求核置換反応の活性化剤としての効率が低下するため、0.4<x≦1程度の範囲が好ましい。
【0019】
かかるイミダゾリウム塩(1)としては、x=1の場合は、例えば1,3−ジメチルイミダゾリウムフルオライド、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムフルオライド、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウムフルオライド、1,2,3,4,5−ペンタメチルイミダゾリウムフルオライド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムフルオライド、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムフルオライド、1,3−ジエチルイミダゾリウムフルオライド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムフルオライド、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムフルオライド、1,2−ジメチル−3−ブチルイミダゾリウムフルオライド、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムフルオライド、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムフルオライド、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウムフルオライド、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムフルオライド、1,3−ジメチル−2−ブチルイミダゾリウムフルオライド、1−ドデシル−2−メチル−3−ドデシルイミダゾリウムフルオライド、1−エトシキシメチル−3−メチルイミダゾリウムフルオライド、1−トリフルオロメチル−3−メチルイミダゾリウムフルオライド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムフルオライド等のアルキル置換イミダゾリウムフルオライドが挙げられ、0<x<1の場合は、例えば上記アルキル置換イミダゾリウムフルオライドのフッ化物イオンの一部が、それぞれ塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン等で置き換えられた混合アルキル置換イミダゾリウム塩が挙げられる。
【0020】
これらは、例えば水や極性溶媒等の求核置換反応に不活性な化合物と錯体を形成していてもよい。
【0021】
かかるイミダゾリウム塩(1)は、例えばフッ化銀やフッ化カリウム等のフッ化物と上記式(1)においてx=0であるアルキル置換イミダゾリウム塩との塩交換反応などの方法を用いて製造することができる。また、上記式(1)においてx=0であるアルキル置換イミダゾリウム塩とx=1であるアルキル置換イミダゾリウムフルオライドとを混合することにより調製してもよい。
【0022】
次に、イミダゾリウム塩(1)の存在下における、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物とフェノール類との反応について説明する。
【0023】
求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物としては、例えば、
置換もしくは無置換の芳香族化合物上の1または2以上の水素原子が求核置換反応を受ける置換基で置換された有機化合物;
置換もしくは無置換の飽和炭化水素上の1または2以上の水素原子が求核置換反応を受ける置換基で置換された有機化合物;
が挙げられ、本発明の反応により、それぞれ対応する、
置換もしくは無置換の芳香族化合物上の1または2以上の水素原子がアリールオキシ基またはアリールチオ基で置換されたジアリールエーテル類;
置換もしくは無置換の飽和炭化水素上の1または2以上の水素原子がアリールオキシ基またはアリールチオ基で置換されたアルキルアリールエーテル類;
が得られる。
【0024】
求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する芳香族化合物としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環等の炭化水素系芳香環上またはピリジン環、ピリミジン環、キノリン環などの複素芳香環上に少なくとも一つの求核置換反応を受ける置換基が結合したものであれば特に限定されず、これらの芳香環上に求核置換反応を受ける置換基以外の置換基を有していてもよい。
【0025】
求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する飽和炭化水素としては、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、デカン、シクロプロパン、2,2−ジメチルシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜10の飽和炭化水素上に少なくとも一つの求核置換反応を受ける置換基が結合したものであれば特に限定されず、飽和炭化水素上に求核置換反応を受ける置換基以外の置換基を有していてもよい。
【0026】
かかる求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物としては、例えば式(2)
【化2】

(式中、Rは置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のアルキル基を表し、Zはハロゲン原子、ニトロ基、スルホ基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルオキシ基、置換もしくは無置換のアリールスルホニルオキシ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基または置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基を表す。)
で示される化合物(以下、有機化合物(2)と略記する。)が挙げられる。
【0027】
Rで示される無置換アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10の炭化水素系芳香族基、およびピリジル基、ピリミジル基、キノリル基等の炭素数4〜10の複素芳香族基が挙げられる。
【0028】
アリール基上に有していてもよい置換基としては、例えば、アリール基、後述する置換もしくは無置換のアルキル基、後述する置換もしくは無置換のアルコキシ基、後述する置換もしくは無置換のアリールオキシ基、後述する置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、後述する置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、トリハロメチル基、カルボキシ基、スルファモイル基、シアノ基、カルバモイル基等が例示される。また、これら置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して、その結合炭素原子とともに環を形成していてもよい。置換アリール基の具体例としては、例えば2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−フェノキシフェニル基等が挙げられる。
【0029】
無置換アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜10のアルキル基が例示される。アルキル基上に有していてもよい置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、前記置換もしくは無置換のアリール基、後述する置換もしくは無置換のアルコキシ基、後述する置換もしくは無置換のアリールオキシ基、後述する置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、後述する置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、カルボキシ基、スルファモイル基、シアノ基、カルバモイル基等が例示される。置換アルキル基の具体例としては、例えばメトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、3−フェノキシベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルプロピル基、ベンゾイルメチル基、4−メチルベンゾイルメチル基等が挙げられる。
【0030】
置換もしくは無置換のアルコキシ基におけるアルキル基としては、前記置換もしくは無置換のアルキル基が例示される。置換もしくは無置換のアルコキシ基の具体例としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、デシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、メンチルオキシ基、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
置換もしくは無置換のアリールオキシ基におけるアリール基としては、前記置換もしくは無置換のアリール基が例示される。置換もしくは無置換のアリールオキシ基の具体例としては、例えばフェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等が挙げられる。
【0032】
置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基におけるアルキル基としては、前記置換もしくは無置換のアルキル基が例示される。置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基の具体例としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等が挙げられる。
【0033】
置換もしくは無置換のアリールカルボニル基におけるアリール基としては、前記置換もしくは無置換のアリール基が例示される。置換もしくは無置換のアリールカルボニル基の具体例としては、例えばベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等が挙げられる。
【0034】
トリハロメチル基としては、メチル基上の水素原子が全て、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子で置換された置換基であり、例えば、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ジフルオロクロロメチル基、ジクロロフルオロメチル基等が挙げられる。
【0035】
Rで示される無置換アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0036】
アルキル基上に有していてもよい置換基としては、例えば、前記置換もしくは無置換のアリール基、前記置換もしくは無置換のアルコキシ基、前記置換もしくは無置換のアリールオキシ基、前記置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、前記置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、カルボキシ基、スルファモイル基、シアノ基、カルバモイル基等が例示される。また、これら置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して、その結合炭素原子とともに環を形成していてもよい。置換アルキル基の具体例としては、例えばメトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、3−フェノキシベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルプロピル基、ベンゾイルメチル基、4−メチルベンゾイルメチル基等が挙げられる。
【0037】
求核置換反応を受ける置換基としては、例えばハロゲン原子、ニトロ基、スルホ基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルオキシ基、置換もしくは無置換のアリールスルホニルオキシ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基または置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基等が挙げられる。かかる置換基を2以上有する場合には、それらは互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
【0038】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルオキシ基としては、例えばメタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等が挙げられ、置換もしくは無置換のアリールスルホニルオキシ基としては、例えばパラトルエンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、1−ナフタレンスルホニルオキシ基等が挙げられ、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基としては、例えばトリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロエタンカルボニルオキシ基等が挙げられ、置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基としては、例えば2,3,5,6−テトラフルオロベンゾイルオキシ基、ベンソイルオキシ基等が挙げられる。
【0039】
かかる求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物のうち、芳香族化合物としては、例えば4−クロロニトロベンゼン、4−ブロモニトロベンゼン、4−フルオロニトロベンゼン、2−クロロニトロベンゼン、2−ブロモニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン、4−シアノクロロベンゼン、4−シアノブロモベンゼン、4−クロロ−3−ニトロベンゾニトリル、4−メチル−2−ブロモフルオロベンゼン、2−ニトロ−5−クロロ安息香酸メチル、4−トリフルオロメチル−2−クロロフルオロベンゼン、4−トリフルオロメチル−1,2−ジクロロベンゼン、2−クロロ−3−ニトロベンゾニトリル、2−シアノフルオロベンゼン、4−シアノフルオロベンゼン、2,6−ジフルオロシアノベンゼン、3,4−ジフルオロシアノベンゼン、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン、テトラクロロテレフタロニトリル、テトラフルオロテレフタロニトリル、テトラクロロオルソフタロニトリル、1,3−ジクロロ−4,6−ジニトロベンゼン、3,5−ジクロロ−4−フルオロニトロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、3,4−ジフルオロクロロベンゼン、2−クロロ−5−ニトロピリジン、2−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン、2−クロロ−3−ニトロピリジン、2−クロロ−3−トリフルオロメチルピリジン、2,3−ジクロロ−5−トリフルオロメチルピリジン、2,6−ジクロロピリジン、2,6−ジブロモピリジン、2−クロロキノリン、4−ブロモキノリン、4,8−ジクロロキノリン、4,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジフルオロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリフルオロピリミジン、2−クロロ−4,6−ジメトキシピリミジン等が挙げられる。
【0040】
また、求核置換フッ素化反応を受ける置換基を1または2以上有する飽和炭化水素としては、例えば1−クロロブタン、1−ブロモブタン、1−ヨードブタン、1−クロロシクロブタン、1−クロロペンタン、1−ブロモペンタン、1−クロロシクロペンタン、1−クロロ−4−ブロモブタン、1−クロロヘキサン、1−ブロモヘキサン、1,6−ジブロモヘキサン、1−クロロヘプタン、1−ブロモヘプタン、2−クロロへプタン、2−ブロモヘプタン、1−クロロオクタン、1−ブロモオクタン、2−クロロオクタン、2−ブロモオクタン、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、(1−ブロモエチル)ベンゼン、4−メトキシベンジルクロライド、4−メチルベンジルブロマイド、3,4,5−トリフルオロベンジルブロマイド、パラトルエンスルホン酸ブチル、メタンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸ペンチル、メタンスルホン酸ペンチル、パラトルエンスルホン酸ヘキシル、メタンスルホン酸ヘキシル、パラトルエンスルホン酸ヘプチル、メタンスルホン酸ヘプチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、メタンスルホン酸オクチル、トリフルオロ酢酸ブチル、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸ブチル、トリフルオロ酢酸オクチル等が挙げられる。
【0041】
これら求核置換フッ素化反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物は、市販されているものを用いてもよいし、種々の公知反応に準じて製造したものを用いてもよい。
【0042】
求核置換反応を受ける置換基を2以上有する有機化合物を用いる場合、反応条件によって1つの置換基のみが反応する場合もあるし、2以上の置換基の全てまたはその一部のみが反応することもある。また、求核置換反応を受ける置換基を2以上有する芳香族化合物を用いる場合、通常は以下のような反応性を示し、最も反応性が高い置換基のみが反応することもある。
【0043】
求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する芳香族化合物において、置換もしくは無置換の芳香族化合物が炭化水素系芳香族化合物の場合は、通常、パラ位やオルト位に電子吸引性の置換基を有する求核置換反応を受ける置換基が優先的にアリールオキシ基またはアリールチオ基に置換される。電子吸引性の置換基としては、例えば置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、トリハロメチル基、カルボキシ基、スルファモイル基、シアノ基等が挙げられる。例えば、4−クロロニトロベンゼンの反応において、塩素原子とニトロ基はともに求核置換反応を受ける置換基であるが、より電子吸引性の高いニトロ基をパラ位に有する塩素原子が優先的に置換され、通常は4−アリールオキシニトロベンゼンまたは4−アリールチオニトロベンゼンが選択的に生成する。
【0044】
また、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する芳香族化合物において、置換もしくは無置換の芳香族化合物が複素芳香族化合物である場合は、通常、複素芳香環を構成するヘテロ原子のα位またはγ位に結合した求核置換反応を受ける置換基が優先的にアリールオキシ基またはアリールチオ基に置換される。例えば、2−クロロ−3−ニトロピリジンでは、通常、2位の塩素原子が優先的に置換され2−アリールオキシ−3−ニトロピリジンまたは2−アリールチオ−3−ニトロピリジンが選択的に生成する。また、α位およびγ位の両方に求核置換反応を受ける置換基が結合している場合、他の置換基の影響や反応条件等によって、α位の置換基のみが反応することもあるし、γ位の置換基のみが反応することもある。もちろん、両方の位置の置換基が反応することもある。
【0045】
フェノール類としては、置換もしくは無置換の芳香族化合物上の1または2以上の水素原子が−OH基または−SH基で置換された芳香族化合物であれば、特に限定されない。
【0046】
芳香族化合物としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環等の炭化水素系芳香環上またはピリジン環、キノリン環などの複素芳香環上に少なくとも一つの求核置換反応を受ける置換基が結合したものであれば特に限定されず、これらの芳香環上に−OH基または−SH基以外の置換基を有していてもよい。
【0047】
かかるフェノール類としては、例えば式(3)
【化3】

(式中、Arは置換もしくは無置換のアリール基を表し、Qは酸素原子または硫黄原子を表す。)
で示される化合物(以下、フェノール類(3)と略記する。)が挙げられる。
【0048】
Arで示される無置換のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10の芳香族基、およびピリジル基、キノリル基等の炭素数4〜10の複素芳香族基が挙げられる。
【0049】
アリール基上に有していてもよい置換基としては、例えばハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、トリハロメチル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルファモイル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、カルバモイル基等が挙げられる。なお、これら置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して、その結合炭素原子とともに環を形成していてもよい。
【0050】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0051】
置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールカルボニル基およびトリハロメチル基としては、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物のアリール基上に有していてもよい置換基として例示したものと同様の置換基が挙げられる。
【0052】
置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基におけるアルキル基および置換もしくは無置換のアリールスルホニル基におけるアリール基としては、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物のアリール基上に有していてもよい置換基として例示した置換もしくは無置換のアルキル基および置換もしくは無置換のアリール基が、それぞれ例示される。置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基および置換もしくは無置換のアリールスルホニル基の具体例としては、例えばメチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等が挙げられる。
【0053】
かかるフェノール類としては、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2−フルオロフェノール、3−フルオロフェノール、4−フルオロフェノール、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール、2−ブロモフェノール、3−ブロモフェノール、4−ブロモフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,4−ジフルオロフェノール、3,5−ジフルオロフェノール、2−クロロ−4−フルオロフェノール、4−トリフルオロメチルフェノール、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2−エトキシフェノール、3−エトキシフェノール、4−エトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、4−ニトロフェノール、4−フェニルフェノール、4−フェノキシフェノール、3−フェノキシフェノール、バニリン、チオフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、1−チオナフトール、2−メチルチオフェノール、4−クロロチオフェノール、2−フルオロチオフェノール、2−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシピリジン、4,6−ジヒドロキシピリミジン、4−ヒドロキシキナゾリン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0054】
これらフェノール類は、市販されているものを用いてもよいし、公知の方法に準じて製造したものを用いてもよい。
【0055】
フェノール類として、−OH基または−SH基を2以上有するフェノール類を用いる場合には、反応条件により1つの−OH基または−SH基のみが反応することもあるし、2以上の−OH基または−SH基の全てまたはその一部のみが反応することもある。
【0056】
フェノール類の使用量は、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物上の反応を所望する置換基に対して、フェノール類上の反応を所望する−OH基または−SH基基準で1モル倍程度用いれば、通常、本発明の目的を達成できる。求核置換反応を受ける置換基を1つのみ有する場合は、反応効率の観点から好ましくは1〜5モル倍の範囲である。また、求核置換反応を受ける置換基を2以上有する場合は、上記反応性の優先順位に基づいて反応を所望しない置換基が求核置換反応を受けない範囲で使用量を設定すればよい。
【0057】
イミダゾリウム塩(1)の使用量は通常、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物上の、反応を所望する置換基に対し、フッ化物イオン基準で1モル倍以上用いる。その上限は特にないが、求核置換反応を受ける置換基を1つのみ有する場合は、反応効率の観点から好ましくは1〜5モル倍の範囲である。また、求核置換反応を受ける置換基を2以上有する場合は、上記反応性の優先順位に基づいて反応を所望しない置換基が求核置換反応を受けない範囲で使用量を設定すればよい。
【0058】
本反応は、有機溶媒の存在下において実施することもできるし、無溶媒で実施することもできる。
【0059】
溶媒を用いて実施する場合の有機溶媒としては、反応に不活性な有機溶媒であれば特に限定されず、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含イオウ溶媒;などが挙げられる。
【0060】
溶媒を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、実用的には、イミダゾリウム塩(1)に対して、通常100重量倍以下である。反応温度は、通常−20〜200℃の範囲である。
【0061】
本反応においては、必要に応じて、無機塩基を用いることにより、イミダゾリウム塩(1)の使用量を削減することが可能である。無機塩基としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物などが挙げられる。具体的には、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム等の炭酸水素塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物;およびこれらの任意の混合物が挙げられる。好ましくは炭酸塩が用いられる。
【0062】
無機塩基の使用量は特に制限されないが、イミダゾリウム塩(1)の使用量を効果的に削減するために、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物上の、反応を所望する置換基に対し、通常1モル倍以上用いる。その上限は特にないが、多く用いても操作性や経済性が悪くなるため、通常は10モル倍以下である。
【0063】
かかる無機塩基を使用した場合のイミダゾリウム塩(1)の使用量は、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物上の反応を所望する置換基に対し、フッ化物イオン基準で、通常0.01モル倍以上である。その上限は特にないが、求核置換反応を受ける置換基を1つのみ有する場合は、反応効率の観点から好ましくは0.1〜1モル倍の範囲である。また、求核置換反応を受ける置換基を2以上有する場合は、上記反応性の優先順位に基づいて反応を所望しない置換基が求核置換反応を受けない範囲で使用量を設定すればよい。
【0064】
反応試剤の混合順序は、反応温度以下で混合する場合は、特に制限されない。反応温度条件で混合する場合は、必要に応じて溶媒や無機塩基を共存させたフェノール類とイミダゾリウム塩(1)の混合物に、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物を加えることが好ましい。
【0065】
本反応は、常圧条件下で実施してもよいし、加圧条件下で実施してもよい。また、反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィ、薄層クロマトグラフィ、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0066】
本反応の主生成物は、アリールエーテル類である。例えば、有機化合物(2)とフェノール類(3)とを反応させれば、式(4)
【化4】

(式中、R、QおよびArは、それぞれ前記と同一の意味を表す。)
で示される化合物が得られる。
【0067】
反応終了後、晶析処理や蒸留処理等を行ったり、必要に応じて水および/または水に不溶の有機溶媒を加え、抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理したりすることにより、アリールエーテル類を単離することができる。得られたアリールエーテル類は、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィ等の手段によりさらに精製してもよい。
【0068】
ここで、水に不溶の有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられる。
【0069】
かくして得られるアリールエーテル類としては、例えば1−ニトロ−4−フェノキシベンゼン、1−ニトロ−4−(フェノキシフェノキシ)ベンゼン、4−フルオロ−3−フェノキシトルエン、1−メチル−3−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼン、1−シアノ−2−フェノキシベンゼン、1−シアノ−3−(4−クロロフェノキシ)ベンゼン、1−メチル−3−(4−クロロフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジクロロ−1−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼン、4−メチル−2−フェノキシ−1−フルオロベンゼン、2,4−ジクロロ−6−フルオロ−1−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼン、2−クロロ−4−トリフルオロメチル−1−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼン、3−(2−クロロ−4−トリフルオロメチルフェノキシ)トルエン、4−(2−フルオロ−4−シアノフェノキシ)アニソール、4−フェニルチオニトロベンゼン、2−フェノキシピリジン、4−フェノキシピリジン、2−(4−クロロフェノキシ)ピリジン、3−トリフルオロメチル−2−(3−メチルフェノキシ)ピリジン、3−フルオロ−5−クロロ−2−(4−メトキシフェノキシ)ピリジン、3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−(4−メトキシフェノキシ)ピリジン、3−ニトロ−2−(3−クロロフェノキシ)ピリジン、6−ブロモ−2−(3−メチルフェノキシ)ピリジン、2,6−ビス(3−メチルフェノキシ)ピリジン、8−クロロ−4−(2−クロロ−4−フルオロフェノキシ)キノリン、2−クロロ−4−[4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェノキシ]ピリジン、ベンジルフェニルエーテル、4−クロロフェニルベンジルエーテル、4−メチルフェニルベンジルエーテル、4−クロロベンジルフェニルエーテル、アニソール、エチルフェニルエーテル、3−メチルフェニルプロピルエーテル、イソプロピルフェニルエーテル、シクロヘキシルフェニルエーテル、オクチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0070】
反応後は、求核置換反応を受けた置換基をYとして含んだイミダゾリウム塩として、アルキル置換イミダゾリウムカチオンを回収できる。反応液からろ過処理、分液処理等により回収されたイミダゾリウム塩は、必要に応じて、例えばフッ化銀やフッ化カリウム等を用いてイオン交換し、Yの一部または全部をフッ化物イオンとすることにより、イミダゾリウム塩(1)として再使用することができる。回収されたイミダゾリウム塩にフッ化物イオンが含まれている場合は、イオン交換することなくイミダゾリウム塩(1)として再使用してもよい。もちろん、求核置換反応を受ける置換基がフッ素原子の場合は、回収されたイミダゾリウム塩(1)をそのまま再使用すればよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0072】
実験例1(x=1のイミダゾリウム塩(1)の製造例)
3角フラスコに、1−メチル−3−(n−ブチル)イミダゾリウムクロライド22gと水200gを仕込み、溶解させた。別の3角フラスコに、フッ化銀(I)16.1gと水120gを仕込み、溶解させた後、2つの水溶液を25℃で混合し、同温度で30分攪拌を続けた。反応後に析出した結晶を濾過し、結晶を水洗した。得られた濾液と洗液を合一して濃縮し、無色オイル24.5gを得た。このオイルは、室温で放置すると結晶化した。元素分析の結果、得られた結晶は1−メチル−3−n−ブチルイミダゾリウムフルオライドの2水和物と同定された。収率:100%。
【0073】
元素分析値: C:49.5、H:9.9、N:14.5、F:9.2
計算値 : C:49.5、H:9.9、N:14.4、F:9.8
1H−NMR(δppm、DMSO−d6、TMS基準):0.90(t、3H)、1.25(m、2H)、1.72(m、2H)、3.88(s、3H)、4.19(t、2H)、7.79(d、2H)、10.1(bs、1H)
【0074】
実験例2(0<x<1のイミダゾリウム塩(1)の製造例)
3角フラスコに、1−メチル−3−(n−ブチル)イミダゾリウムクロライド5.0gと水50gを仕込み、溶解させた。別の3角フラスコに、フッ化銀(I)1.72gと水30gを仕込み、溶解させた後、2つの水溶液を25℃で混合し、同温度で30分攪拌を続けた。反応後に析出した結晶を濾過し、結晶を水洗した。得られた濾液と洗液を合一して濃縮し、無色オイル5.8gを得た。このオイルは、0℃でも液体であった。元素分析の結果、得られたオイルはフッ化物イオン47.5モル%、塩化物イオン52.5モル%の混合アニオンと1−メチル−3−n−ブチルイミダゾリウムカチオンとからなる塩の2水和物と同定された。
収率:100%。
【0075】
元素分析値: C:48.2、H:9.5、N:14.1、F:4.6、Cl:9.5
計算値 : C:47.4、H:9.5、N:13.8、F:4.5、Cl:9.2
1H−NMR(δppm、DMSO−d6、TMS基準):0.88(t、3H)、1.25(m、2H)、1.78(m、2H)、3.90(s、3H)、4.19(t、2H)、7.85(d、2H)、10.0(bs、1H)
【0076】
実施例1
還流冷却管を付した50mLフラスコに、m−クレゾール140mgと実験例2で合成したイミダゾリウム塩(1)600mgとジメチルアセトアミド2gを仕込み、混合した後、3−ニトロ−4−クロロベンゾニトリル183mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、5%水酸化ナトリウム水5gで2回洗浄後に、濃縮し、淡黄色結晶を242mg得た。このものは、GC−MSとNMR解析により、1−メチル−3−(2−ニトロ−4−シアノフェノキシ)ベンゼンと同定され、ガスクロマトグラフィー(面積百分率法)にて分析したところ、純度は100%であった。
収率:95%(3−ニトロ−4−クロロベンゾニトリル基準)
GC−MS:M+=254
1H−NMR(δppm、DMSO−d6、TMS基準):2.40(s、3H)、6.8−7.2(m、4H)、7.25(d、1H)、7.72(d、1H)、8.22(s、1H)
【0077】
実施例2
還流冷却管を付した50mLフラスコに、2−ナフトール144mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)300mgとジメチルアセトアミド2gを仕込み、混合した後、4−ニトロクロロベンゼン158mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。2−(4−ニトロフェノキシ)ナフタレンを含む、その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2−(4−ニトロフェノキシ)ナフタレンの収率は85%であった(4−ニトロクロロベンゼン基準)。
【0078】
実施例3
還流冷却管を付した50mLフラスコに、m−クレゾール120mg、実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)30mg、炭酸カリウム200mgおよびジメチルアセトアミド2gを仕込み、混合した後、4−ニトロクロロベンゼン158mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。3−メチル−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンを含む、その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、3−メチル−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンの収率は91%であった(4−ニトロクロロベンゼン基準)。
【0079】
比較例
実施例3において、実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)を用いないこと以外は、実施例3と同様に実施した。3−メチル−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンの収率は68%であった(4−ニトロクロロベンゼン基準)。
【0080】
実施例4
還流冷却管を付した50mLフラスコに、m−クレゾール130mg、実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)300mgおよびジメチルアセトアミド2gを仕込み、混合した後、3−トリフルオロメチル−2−クロロピリジン182mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、5%水酸化ナトリウム水5gで2回洗浄後に、濃縮し、黄色オイルを209mg得た。このものは、GC−MSにより、3−トリフルオロメチル−2−(3−メチルフェノキシ)ピリジンと同定され、ガスクロマトグラフィー(面積百分率法)にて分析したところ、純度は58%であった。
収率:48%(3−トリフルオロメチル−2−クロロピリジン基準)
GC−MS:M+=253
【0081】
実施例5
還流冷却管を付した50mLフラスコに、m−クレゾール240mg、実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)40mg、炭酸カリウム400mgおよびジメチルアセトアミド3gを仕込み、混合した後、2,6−ジブロモピリジン237mgを仕込み、120℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、6−ブロモ−2−(3−メチルフェノキシ)ピリジンの収率は51%、2,6−ビス(3−メチルフェノキシ)ピリジンの収率は45%であった(2,6−ジブロモピリジン基準)。
【0082】
実施例6
還流冷却管を付した50mLフラスコに、チオフェノール120mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)240mgとジエチレングリコールジメチルエーテル2gを仕込み、混合した後、4−ニトロクロロベンゼン158mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。4−フェニルチオニトロベンゼンを含む、その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、4−フェニルチオニトロベンゼンの収率は91%であった(4−ニトロクロロベンゼン基準)。
【0083】
実施例7
還流冷却管を付した50mLフラスコに、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル202mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)300mgと4−ニトロ−2−クロロピリジン155mgを仕込み、80℃で5時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。有機層を濃縮して、黄色固体340mgを得た。このものはGC-MSにより、2−クロロ−4−[4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェノキシ]ピリジンと同定され、ガスクロマトグラフィー(面積百分率法)にて分析したところ、純度は60%であった。
収率:65%(4−ニトロ−2−クロロピリジン基準)
GC−MS:M+=313
【0084】
実施例8
還流冷却管を付した50mLフラスコに、フェノール188mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)400mgとベンジルクロライド253mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。ベンジルフェニルエーテルを含む、その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、ベンジルフェニルエーテルの収率は75%であった(フェノール基準)。
【0085】
実施例9
還流冷却管を付した50mLフラスコに、フェノール188mgと実験例1で合成したイミダゾリウム塩(1)400mgと1−オクチルブロマイド386mgを仕込み、100℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル10gと水5gを加えて攪拌・静置すると2層に分離した。オクチルフェニルエーテルを含む、その上層を、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、オクチルフェニルエーテルの収率は62%であった(フェノール基準)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ同一または相異なって、置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または置換もしくは無置換のアルキル基を表す。Yはフッ化物イオンを除く1価のアニオンを表す。また、0<x≦1である。)
で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩の存在下に、求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物とフェノール類とを作用させることを特徴とするアリールエーテル類の製造方法。
【請求項2】
で示される1価のアニオンが、ハロゲン化物イオン類、ホウ酸イオン類、リン酸イオン類、アンチモン酸イオン類、スルホン酸イオン類またはアミドイオン類である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
求核置換反応を受ける置換基を1または2以上有する有機化合物が、式(2)
【化2】

(式中、Rは置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のアルキル基を表し、Zはハロゲン原子、ニトロ基、スルホ基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルオキシ基、置換もしくは無置換のアリールスルホニルオキシ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基または置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基を表す。)
で示される化合物であり、
フェノール類が、式(3)
【化3】

(式中、Arは置換もしくは無置換のアリール基を表し、Qは酸素原子または硫黄原子を表す。)
で示される化合物であり、
アリールエーテル類が、式(4)
【化4】

(式中、R、QおよびArは、それぞれ前記と同一の意味を表す。)
で示される化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
式(2)におけるRが置換もしくは無置換のアリール基である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
無機塩基の共存下に実施する請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
無機塩基がアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸塩である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法において、アリールエーテル類の製造後に式(1)で示されるフッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩を回収し、該フッ化物イオンを含有するアルキル置換イミダゾリウム塩をリサイクル使用する方法。

【公開番号】特開2006−89463(P2006−89463A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217023(P2005−217023)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】