説明

アルカリ電池の製造方法

【課題】セパレータ内へ負極を充填する際、セパレータの円筒部の下端が内側に折れ曲がることにより、セパレータ内へ充填された負極がセパレータから溢れ出すのを抑制することが可能なアルカリ電池の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ電池の製造方法は、(1)電池ケース1の内面に密着する中空円筒形の正極2を成形する工程、(2)円筒形に巻いた円筒部と、円筒部の下端の開口を覆い、かつ円筒部の下部の外面に沿って延びる立ち上がり部を有する断面略U字状の底部とを備える有底円筒形のセパレータを正極の中空部内に挿入する工程、(3)セパレータ内に電解液を注入する工程、および(4)セパレータ内に負極を充填する工程を含む。工程(3)における電解液の量を、電解液が正極およびセパレータに含浸されてなおセパレータの下部に残存してセパレータの円筒部の下端が電解液に浸されて底部の立ち上がり部に接触させておくに十分な量とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池の製造方法、さらに詳しくはアルカリ電池の製造方法における電池ケースへの電解液の注入工程の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池の一般的な製造方法は、以下の工程(A)〜(E)を含む。
工程(A):有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの正極ペレットを挿入し、前記正極ペレットを加圧して、前記電池ケースの内面に密着する中空円筒形の正極を成形する。
工程(B):有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極の中空部内に挿入する。
工程(C):前記セパレータ内に電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記電解液を含浸させる。
工程(D):前記セパレータ内にゲル状の負極を充填する。
工程(E):前記負極内に負極集電体を挿入するとともに前記電池ケースの開口部を封口する。
【0003】
特許文献1では、工程(B)において、円筒形に巻いた円筒部と、前記円筒部の下端の開口を覆い、かつ前記円筒部の下部の内面に沿って延びる立ち上がり部を有する断面略U字状の底部とを備える有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極の中空部内に挿入する。
しかし、電池が落下したり、輸送時等で大きな衝撃や振動を受けたりした際に、負極の流動に伴ってセパレータの底部がずれることにより、セパレータの円筒部と、セパレータの底部の立ち上がり部との間から負極が漏れ出して、内部短絡を起こす場合がある。
【0004】
上記の負極の漏出を防ぐため、特許文献2では、工程(B)において、円筒形に巻いた円筒部と、前記円筒部の下端の開口を覆い、かつ前記円筒部の下部の外面に沿って延びる立ち上がり部を有する断面略U字状の底部とを備える有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極の中空部内に挿入している。
特許文献3では、特許文献1のセパレータの底部と、特許文献2のセパレータの底部とを組み合わせてセパレータの底部を構成しており、セパレータの円筒部の下端を、2枚のセパレータの底部の立ち上がり部で挟んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−163982号公報
【特許文献2】特開平11-329396号公報
【特許文献3】特開2005−071908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2では、セパレータの円筒部は、その大部分は正極の内側面に配されるが、セパレータの円筒部の下端は、セパレータの底部の立ち上がり部と重なり合うため、他の部分よりも内方へ膨らむように配されている。よって、工程(C)において、セパレータ内に注入された電解液がセパレータおよび正極内に吸収されると、セパレータの円筒部の下端がセパレータの底部の立ち上がり部から離れて、内側に折れ曲がる。その状態で負極を充填すると、セパレータの折れ曲がった部分のために、負極がセパレータ内の隅々まで行き渡らなくなる。そのため、セパレータ内から負極が溢れ出し、負極が正極と接触して、内部短絡を起こす。
【0007】
特許文献3では、セパレータの円筒部の内側への折れ曲がりは低減するものの、セパレータの底部を2枚用いるため、セパレータの底部の総厚みが増大し、負極の充填量(負極容量)が減少したり、電池の内部抵抗が増大したりして、電池性能が低下する。
よって、上記のセパレータの底部を2枚用いることによる電池性能の低下を抑制することと、セパレータの円筒部の下端が内側に折れ曲がるのを抑制することを両立することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルカリ電池の製造方法の一局面は、
(1)有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの正極ペレットを挿入し、前記正極ペレットを加圧して、前記電池ケースの内面に密着する中空円筒形の正極を成形する工程、
(2)円筒形に巻いた円筒部と、前記円筒部の下端の開口を覆い、かつ前記円筒部の下部の外面に沿って延びる立ち上がり部を有する断面略U字状の底部とを備える有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極の中空部内に挿入する工程、
(3)前記セパレータ内に電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記電解液を含浸させる工程、
(4)前記セパレータ内にゲル状の負極を充填する工程、および
(5)前記負極内に負極集電体を挿入するとともに前記電池ケースの開口部を封口する工程を含み、
前記工程(3)における電解液の量が、電解液が前記正極およびセパレータに含浸されてなおセパレータの下部に残存してセパレータの円筒部の下端が電解液に浸されて底部の立ち上がり部に接触させておくに十分な量であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セパレータ内へゲル状の負極を充填する際、セパレータの円筒部の下端はセパレータ内に残存する電解液に浸されて底部の立ち上がり部に接触している。そのためセパレータ内へ充填される所定量のゲル状の負極はセパレータ内に収まり、セパレータ外へ溢れ出すのが抑制される。
セパレータの円筒部の下端を、2枚のセパレータの底部で挟んで固定することなくセパレータの円筒部の下端の内側への折れ曲がりを抑制することができる。よって、セパレータの底部を2枚用いる場合のようにセパレータの底部の厚みが増大して、負極の充填量が減少したり、電池の内部抵抗が増大したりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のアルカリ電池の製造方法により得られるアルカリ電池の一例を示す一部を断面とする正面図である。
【図2】本発明のアルカリ電池の製造方法における工程(2)においてセパレータの円筒部および底部を正極の中空部内に挿入する状態を示す一部を断面とする要部正面図である。
【図3】図2の要部断面図である。
【図4】本発明のアルカリ電池の製造方法における工程(2)が完了した時の状態を示す図である。
【図5】本発明のアルカリ電池の製造方法における工程(3)が完了した時の状態を示す図である。
【図6】従来の工程(C)が完了した時のセパレータを示す概略縦断面図である。
【図7】図6中のセパレータの円筒部のVII−VII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の工程(1)〜(5)を含むアルカリ電池の製造方法の改良に関する。
工程(1):有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの正極ペレットを挿入し、前記正極ペレットを加圧して、前記電池ケースの内面に密着する中空円筒形の正極を成形する。
工程(2):円筒形に巻いた円筒部と、前記セパレータの円筒部の下端の開口を覆い、かつ前記セパレータの円筒部の下部の外面に沿って延びる立ち上がり部を有する断面略U字状の底部とを備える有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極の中空部内に挿入する。
工程(3):前記セパレータ内に電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記電解液を含浸させる。
工程(4):前記セパレータ内にゲル状の負極を充填する。
工程(5):前記負極内に負極集電体を挿入するとともに前記電池ケースの開口部を封口する。
【0012】
工程(2)の完了時には、セパレータの円筒部の大部分は正極の内側面に接して配されるが、セパレータの円筒部の下端は、セパレータの底部の立ち上がり部を介して正極の内側面に配される。このため、セパレータの円筒部の下端は、内方へ膨らむように配置される。
よって、工程(2)の後、要求される電池性能を発揮可能な適量の電解液を有底円筒形のセパレータ内に注入し、セパレータ内に注入した電解液の殆どをセパレータおよび正極に含浸させる従来の製法では、セパレータの円筒部の下端がセパレータの底部から離れて、内側に折れ曲がるという不具合を生じる。
【0013】
そこで、本発明では、工程(3)においてセパレータ内に注入する電解液の量を、電解液が正極およびセパレータに含浸されてなおセパレータの下部に残存して、セパレータの円筒部の下端が電解液に浸されて底部の立ち上がり部に接触させておくに十分な量とする。これにより、工程(3)から工程(4)までの間、電解液は、正極およびセパレータに含浸されてなおセパレータの下部に残存しており、セパレータの円筒部の下端が、電解液に浸されて底部の立ち上がり部に接触している状態を維持する。ここで、電解液に浸されるセパレータの円筒部の下端は、セパレータの底部の立ち上がり部と重なり合う部分(底部側端部)全部である必要はない。円筒部の下端が電解液に浸り、円筒部の底部側端部がほぼ電解液に濡れている状態が好ましい。セパレータの底部の立ち上がり部は、セパレータの円筒部の外面のみに配され、円筒部の内面には配されない。
【0014】
残存する電解液の表面張力によりセパレータの円筒部の底部側端部がセパレータの底部の立ち上がり部に密着するため、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がるのが抑制される。よって、セパレータの円筒部の底部側端部がセパレータの底部の立ち上がり部から離れて内側に折れ曲がることにより、セパレータの内容積(負極の充填体積)が減少して、セパレータ内へ負極を充填する際に負極がセパレータ外へ溢れ出すのが抑制される。
セパレータの底部を2枚用いてセパレータの円筒部の底部側端部を固定しなくてもセパレータの円筒部の底部側端部の内側への折れ曲がりを抑制することができる。よって、セパレータの底部を2枚用いる場合のようにセパレータの底部の厚みが増大して、負極の充填量が減少したり、電池の内部抵抗が増大したりすることがない。
また、工程(2)において、セパレータの底部が、その周縁部に、セパレータの円筒部の下部の外面に沿って延びる立ち上がり部を有するため、セパレータの下部からの負極の漏出が抑制される。
【0015】
工程(3)において、セパレータ内に注入する電解液の重量W1に対する、残存する電解液の重量W2の比:W2/W1は、好ましくは3/100〜11/100、より好ましくは5/100〜9/100である。W2/W1を3/100以上とすることで、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がるのを確実に抑制することができる。W2/W1を11/100以下とすることで、セパレータ内への負極充填時に残存する電解液とともに負極がセパレータ内から外部へ流出するのを確実に抑制することができる。
【0016】
セパレータおよび正極に十分量の電解液を短時間で吸収させるためには、工程(3)において、減圧下で正極およびセパレータに電解液を含浸させるのが好ましい。セパレータ内に遊離する電解液を残存させた状態で減圧する場合でも、残存する電解液の表面張力によりセパレータの円筒部の底部側端部がセパレータの底部に密着するため、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がるのが抑制される。
【0017】
工程(3)においてセパレータ内に注入する電解液は、好ましくは濃度32〜40重量%の水酸化カリウム水溶液であり、より好ましくは濃度34〜38重量%の水酸化カリウム水溶液である。電解液中の水酸化カリウムの濃度を32重量%以上とすることで、高い電気伝導度を有する電解液が得られる。電解液中の水酸カリウムの濃度を40重量%以下とすることで、優れた間欠放電特性を有する電池が得られる。
【0018】
繊維同士の結着力の観点から、セパレータの円筒部は、ポリビニルアルコール系繊維(ビニロン)を含むのが好ましい。
しかしながら、濃度が35重量%以下の水酸化カリウム水溶液からなる電解液中ではポリビニルアルコールの加水分解が進みやすい。このため、セパレータ内に注入した電解液の殆どをセパレータおよび正極に含浸させる従来の製法では、加水分解に伴い、セパレータの円筒部の強度が低下して、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がる傾向が顕著にみられる。
これに対して、本発明では、濃度が35重量%以下の水酸化カリウム水溶液からなる電解液を用いた場合でも、残存する電解液の表面張力によりポリビニルアルコール系繊維を含むセパレータの円筒部の底部側端部をセパレータの底部の立ち上がり部に密着させることができる。
【0019】
工程(1)で成形された正極は、二酸化マンガンおよび黒鉛を含み、工程(1)において、成形された正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンの重量M1および黒鉛の重量M2の合計:M1+M2を、3.05〜3.33gとするのが好ましい。
正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンの重量M1および黒鉛の重量M2の合計:M1+M2を3.05g以上とすることで、正極の容量および電解液の保持性を損なうことなく、工程(3)において、正極による電解液の吸収速度を適度に抑えることができ、セパレータの円筒部の底部側端部が内側へ折れ曲がるのを確実に抑制することができる。また、金型を用いて正極を成形する際、正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンの重量M1および黒鉛の重量M2の合計:M1+M2を3.33g以下とすることで、金型に過度に負荷をかけずに、正極を成形することができる。より好ましくは、M1+M2を3.14〜3.30gとする。
【0020】
以下、上記の製造方法で得られるアルカリ電池の一例を、図1を参照しながら説明する。
中空円筒形の正極2が、有底円筒形の電池ケース1の内面に密着している。正極2の中空部に、有底円筒形のセパレータ4が配されている。セパレータ4内にゲル状の負極3が充填されている。セパレータ4は、セパレータの円筒部4aおよびセパレータの底部4bからなる。セパレータの円筒部4aは正極2の内側面に配され、セパレータの底部4bは電池ケース1の底部に配される。セパレータの底部4bは、その周縁部にセパレータの円筒部4aの外面に沿って延びる立ち上がり部を有する。電池ケース1の開口部は、封口ユニット9により封口されている。封口ユニット9は、ガスケット5、負極端子を兼ねる負極端子板7、および負極集電体6からなる。負極集電体6は負極3内に挿入されている。負極集電体6の軸部6bはガスケット5の中央筒部5aに設けられた貫通孔に挿入され、負極集電体6の頭部6aは負極端子板7の中央部の平坦部に溶接されている。電池ケース1の開口端部は、ガスケット5の外周筒部5bを介して負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけられている。電池ケース1の外表面には外装ラベル8が被覆されている。
【0021】
以下、図1に示す構造のアルカリ電池の製造方法の一例を説明する。
[工程(1)]
正極活物質である粉末状の二酸化マンガンに導電剤である粉末状の黒鉛を加え、混合物を得る。この混合物に電解液を加え、ミキサー等で均一に混合した後、圧縮成形し、フレーク状の正極合剤を得る。ついで、フレーク状の正極合剤を粉砕して一定粒度に整粒し、顆粒状の正極合剤(以下、粒状合剤とする。)を得る。粒状合剤の平均粒径は、例えば0.4〜0.7mmである。粒状合剤を篩によって分級し、10〜100メッシュのものを中空円筒状に加圧成形し、正極ペレットを得る。
【0022】
正極の容量および導電性のバランスの観点から、黒鉛の添加量は、二酸化マンガン100重量部あたり3〜10重量部が好ましい。
正極の容量および充填性の観点から、二酸化マンガンの平均粒径は30〜70μmが好ましい。正極による電解液の吸収速度を適度に抑えて、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がるのをより確実に抑制するためには、二酸化マンガンの平均粒径は30〜50μmがより好ましい。ここでいう平均粒径とは、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)である。平均粒径は、例えば、(株)堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子分布測定装置(LA−920)を用いて求められる。
【0023】
正極の導電性および充填性の観点から、黒鉛の平均粒径は5〜20μmが好ましい。正極による電解液の吸収速度を適度に抑えて、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がるのをより確実に抑制するためには、より好ましくは、黒鉛の平均粒径は8〜15μmである。
正極の充填性、容量、および導電性のバランスの観点から、二酸化マンガンの平均粒径P1と、黒鉛の平均粒径P2との比:P1/P2は2〜6が好ましい。正極による電解液の吸収速度の観点から、より好ましくは、P1/P2は3〜4.5である。
工程(1)で用いられる電解液の添加量は、二酸化マンガンおよび黒鉛の合計100重量部あたり1〜5重量部が好ましい。
【0024】
有底円筒形の電池ケース1内に複数個の正極ペレットを挿入し、所定の金型を用いて加圧成形し、電池ケース1に密着する中空円筒形の正極2を得る。このとき、複数の正極ペレットの中空部が連通するように、複数個の正極ペレットを同軸上に積み重ねる。正極ペレットは1個でもよい。
【0025】
工程(1)で得られる正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンおよび黒鉛を合計した重量は、好ましくは3.05〜3.33g、より好ましくは3.14〜3.30gである。
正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンおよび黒鉛を合計した重量を3.33g以下とすることで、金型に過度に負荷をかけずに、正極を成形することができる。正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンおよび黒鉛を合計した重量を3.05g以上とすることで、正極の容量および電解液の保持性を損なうことなく、後述の工程(4)において、正極による電解液の吸収速度を適度に抑えることができる。よって、セパレータが内側へ折れ曲がるのをより確実に抑制することができる。
【0026】
電池ケース1内に密着する正極を得た後、セパレータおよび負極を配置する前に、電池ケース1の開口部近傍の外面に溝入れを施して電池ケース1内に突出する段部1aを形成する。電池ケース1は、例えば、ニッケルめっき鋼板を製缶加工することにより得られる。製缶加工としては、例えば、DI(Drawing and Ironing)工法が採用される。
【0027】
[工程(2)]
図2に示すように、円筒形のピン15と、このピン15に装着したセパレータを通過させるための穴部17を有する治具16を用いて、セパレータを、正極2の中空部内に挿入する。治具16は、穴部17が正極2の中空部と連通するように、電池ケース1の開口に装着される。治具16は、その上面に、セパレータの底部4bの材料を載せるための凹部18を有する。凹部18の底面は、穴部17と連通する開口を有する。ピン15が凹部18を通る際に、凹部18上に載せたセパレータの底部4bが安定してピン15の先端に配置されるように、凹部18の下部には段部が設けられている。
【0028】
具体的には、セパレータの円筒部4aを装着したピン15を、治具16におけるセパレータの底部4bの材料を載せた凹部18、および穴部17に通して正極2の中空部内に挿入する。セパレータの円筒部4aは、ピン15を回転させてピン15の周面に巻き付けることによりピン15に装着される。セパレータの円筒部4aを装着したピン15が凹部18を通過する際、凹部18に載せたセパレータの底部4bの材料は、セパレータの円筒部4aの下端を包み込むようにして、ピン15の先端に装着される。これにより、図2および3に示すように、ピン15とともにセパレータの円筒部4aおよび底部4bは正極2の中空内に挿入される。底部4bの大部分は、ピン15の下面に配され、ピン15の下面からはみ出す底部4bの周縁部は、円筒部4aの下端と重なり合うようにして、ピン15の側面に沿って立ち上がる。
ピン15にセパレータの円筒部4aおよび底部4bを装着した状態で、電池ケース1の底部までピン15を押し込む。その後、ピン15を、円筒部4aの巻き付け方向とは逆の方向に回転させて正極2の中空部から引き抜く。ピン15を円筒部4aの巻き付け方向とは逆の方向に回転させることによる円筒部4aの巻き緩みにより、ピン15だけが正極の中空部から引き抜かれ、セパレータの円筒部4aおよび底部4bは、ずれることなく正極の中空部に配置される。
【0029】
このようにして、図4に示すように、正極2の内側面にセパレータの円筒部4aを配置し、セパレータの円筒部4aの電池ケース1の底部側の開口を覆うようにセパレータの底部4bを電池ケース1の内底面に配置して、有底円筒形のセパレータ4を構成する。セパレータの底部4bの周縁部は、セパレータの円筒部4aの底部側端部12の外面に沿って延びる立ち上がり部を形成する。セパレータの底部4bは、円筒部4aの軸方向に平行な断面が略U字状である。
なお、上記のような円筒部と底部とを組み合わせたセパレータの電池ケースへの挿入方法は、特開平11−329456号公報に示されている。その開示をここに引用するものとする。
【0030】
セパレータの円筒部4aは、ピン15を回転させながら、ピン15の周面に、シート状の不織布を1回または複数回巻き付けることにより得られる。不織布は、例えば、厚さ40〜150μm、坪量が20〜75g/m2である。シート状の不織布には、1枚の不織布を用いてもよく、複数枚の不織布を重ね合わせて用いてもよい。複数枚の不織布を重ね合わせて用いる場合、互いに繊維の種類または配合が同じでもよく、異なっていてもよい。
セパレータの強度および電解液の保持量、ならびに電池の内部抵抗の観点から、セパレータの円筒部4aの厚みは、0.15〜1.50mmが好ましい。
【0031】
シート状の不織布には、主体繊維とバインダー繊維とを混抄したものが用いられる。
主体繊維としては、例えば、吸液性に優れたフィブリル化可能な耐アルカリ性セルロース繊維、または耐アルカリ性合成繊維が用いられる。
フィブリル化可能な耐アルカリ性セルロース繊維としては、例えば、レーヨン繊維(再生セルロース繊維を含むポリノジックレーヨン繊維等)、アセテート系繊維、マーセル化天然パルプ(木材パルプ、コットンリンターパルプ、麻パルプ等)が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セパレータの強度の観点から、耐アルカリ性セルロース繊維は、フィブリル化物が高い結晶性および強い配向性を有する溶剤紡糸セルロース繊維が好ましい。電池の放電が進むと、負極において酸化亜鉛の針状結晶が成長し、これがセパレータを貫通し、正極と接触して、内部短絡を生じる場合がある。これに対して上記のセルロース繊維は強度に優れているため、上記の針状結晶がセパレータを貫通するのが大幅に抑制される。
【0032】
耐アルカリ性合成繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール系繊維、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維、ポリプロピレン繊維とエチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維との複合繊維、ポリアミド繊維と変性ポリアミド繊維との複合繊維が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
バインダー繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール系繊維、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の繊維が挙げられる。ポリビニルアルコール系繊維、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ポリエチレン繊維、およびポリアミド繊維は、主体繊維およびバインダー繊維の両方を兼ねてもよい。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
セパレータの円筒部を構成する材料には、優れた耐デンドライト性を有する、セロファンやポリオレフィン系の微孔性薄膜(厚さ5〜30μm)を用いてもよい。上記のシート状の不織布と、上記の微孔性薄膜とを併用してもよい。例えば、微孔性薄膜の片面または両面にシート状の不織布を貼り合わせてもよい。
【0035】
セパレータの底部には、セパレータの円筒部と同じ材質のものを用いてもよい。セパレータの底部は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。多層構造の場合、いずれの層の周縁部も、セパレータの円筒部の底部側端部の外側において立ち上がり部を形成する。
負極で成長する針状結晶がセパレータを貫通するのを大幅に抑制するためには、セパレータの底部には、上記のシート状の不織布と上記の微孔性薄膜を併用したものを用いるのが好ましく、微孔性薄膜の片面あるいは両面に不織布を貼り合わせた多層構造のものを用いるのがより好ましい。
電池ケース1内にセパレータの底部4bを安定して配置するためには、セパレータの底部4bには、略正多角形(好ましくは略正方形)または略円形の微孔性薄膜(再生セルロース)の片面あるいは両面にポリビニルアルコール系繊維の不織布をラミネートしたシートを用いるのが特に好ましい。
【0036】
セパレータの底部4bの強度を十分に確保するとともに、電池の内部抵抗を十分に低減するためには、セパレータの底部4bの厚みは、100〜500μmが好ましい。セパレータの底部4bの厚みを500μm以下とすることで、電池の内部抵抗を十分に低減することができる。セパレータの底部4bの厚みを100μm以上とすることで、セパレータの底部の強度を十分に確保することができる。電池の内部抵抗および負極の充填量の観点から、セパレータの底部4bの厚みは、100〜180μmがより好ましい。
セパレータの円筒部4aの底部側端部12をセパレータの底部4bの立ち上がり部に安定して密着させるには、立ち上がり部の高さ(最大高さ)は、1〜10mmが好ましい。セパレータの底部4bのずれ防止および形状の安定性の観点から、立ち上がり部の高さは、1.5〜5mmがより好ましい。
【0037】
[工程(3)]
有底円筒形のセパレータ4内に電解液を注入する。このとき、注入する電解液の量を、電解液の大部分が、正極2およびセパレータ4に含浸され、電解液の一部が有底円筒形のセパレータ4の下部に残存する程度の量とする。セパレータの円筒部4aの底部側端部12は、その電解液で濡れた状態となり、底部側端部12は、セパレータの底部の立ち上がり部に接触した状態を維持する。
【0038】
ここで、工程(3)にて、正極およびセパレータが電解液を吸収した状態を図5に示す。
図5に示すように、正極およびセパレータに吸収されずに遊離する電解液13は、有底円筒形のセパレータの下部に残存する。
正極およびセパレータに吸収されずに遊離する電解液が、さらに、電池ケースの底部に形成される凹部10内に若干残存してもよい。凹部10は、電池ケース1の底部に設けられる正極端子である有底円筒形の突出部11により形成される。
【0039】
ここで、従来の工程(C)の完了時のセパレータの状態を図6に示す。また、図6中のセパレータの円筒部のVII-VII線断面図を図7に示す。図6および7では、一例として、セパレータの円筒部4aを、1枚のシート状の不織布を円筒状に約2周巻いて構成した場合を示す。従来は、工程(C)の完了時において、セパレータ内に注入した電解液をセパレータおよび正極内に吸収させていた。この時、図6および7に示すように、セパレータの円筒部4aの底部側端部12が内側に折れ曲がるという不具合を生じた。なお、セパレータの円筒部4aの底部側端部12は、セパレータの底部4bの立ち上がり部と重なり合う部分である。図6に示すように、セパレータの円筒部4aを構成するシート状の不織布における内周側に位置する部分が内側に大きく折れ曲がる。
これに対して、本発明では、セパレータの底部に残存する電解液13の表面張力により、セパレータの円筒部4aの端部12がセパレータの底部の立ち上がり部に密着し、内側に折れ曲がるのが抑制される。
【0040】
有底円筒形のセパレータ内に注入する電解液の重量W1に対する、セパレータ内に残存する電解液の重量W2の比:W2/W1は、好ましくは3/100〜11/100、より好ましくは5/100〜9/100である。
セパレータの円筒部の底部側端部の内側への折れ曲がり抑制の観点から、W2/W1の下限は、好ましくは3/100、より好ましくは5/100である。セパレータ内への負極充填時における残存する電解液のセパレータ内から外部への流出抑制の観点から、W2/W1の上限は、好ましくは11/100、より好ましくは9/100である。W2/W1の範囲については、上記の上限および下限を任意に組み合わせてもよい。
2/W1が3/100〜11/100の場合、残存する電解液13に浸される円筒部4aの底部側端部12の軸方向の高さHは、約0.4〜2mmである。
【0041】
工程(3)において、セパレータおよび正極に多くの電解液を短時間で吸収させるためには、減圧下でセパレータおよび正極に電解液を含浸させるのが好ましい。生産性および信頼性の観点から、減圧下で電解液を含浸させる時間は、1〜5分間が好ましい。電解液の飛散を防止するとともに、セパレータおよび正極の電解液の含浸を効率的に行うためには、5〜30秒間の間に大気圧(約1013hPa)から60〜500hPaまで減圧する工程を含むのが好ましい。その後、一定の減圧下で所定時間(例えば、0〜30秒間)放置してもよく、上記の減圧工程を繰り返し実施してもよい。また、減圧工程を実施する前に、大気下での電解液を含浸させる時間を、所定時間(例えば、3〜10分間)設けてもよい。
従来では、減圧速度が高いほど、電解液の吸収速度が高くなり、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がりやすくなる傾向がみられた。これに対して、本発明のアルカリ電池の製造方法を採用することにより、減圧速度を高めて、電解液を吸収させる時間を短縮するとともに、セパレータの円筒部の底部側端部の内側への折れ曲がりを抑制することができる。
【0042】
また、大気圧下で有底円筒形のセパレータおよび正極に電解液を含ませてもよい。生産性および信頼性の観点から、大気圧下で電解液を含浸させる時間は、5〜20分間が好ましい。
少なくとも、工程(3)にてセパレータ内に電解液を注入してから後述の工程(4)を実施するまでの間、セパレータの底部にて電解液が残存するように、セパレータおよび正極に電解液を含浸させればよい。
【0043】
電解液には、濃度が32〜40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いるのが好ましい。
電解液の電気伝導度の観点から、電解液中の水酸化カリウムの濃度の下限は、好ましくは32重量%、さらに好ましくは34重量%である。優れた間欠放電特性を得るためには、電解液中の水酸化カリウムの濃度の上限は、好ましくは40重量%、より好ましくは38重量%である。電解液中の水酸化カリウムの濃度の範囲については、上記の上限と下限とを任意に組み合わせればよい。
過充電時の負極からの水素ガス発生を抑制するために、電解液にさらに酸化亜鉛を添加してもよい。電解液中の酸化亜鉛の濃度は、1〜5重量%が好ましく、1〜3重量%がより好ましい。電解液中の酸化亜鉛の濃度が1重量%以上であると、過充電時の負極からの水素ガス発生を効果的に抑制することができる。電解液中の酸化亜鉛の濃度が5重量%以下であると、高負荷放電特性の低下を抑制することができる。
正極ペレット作製時および負極作製時に用いる電解液にも、上記と同じ電解液を用いればよい。
【0044】
繊維同士の結着力の観点から、円筒部のセパレータはポリビニルアルコール系繊維を含むのが好ましい。しかしながら、濃度が35重量%以下の水酸化カリウム水溶液からなる電解液中ではポリビニルアルコールの加水分解が進みやすい。このため、セパレータ内に注入した電解液の殆どをセパレータおよび正極に含浸させる従来の製法では、加水分解に伴い、セパレータの円筒部の強度が低下して、セパレータの円筒部の底部側端部が内側に折れ曲がる傾向が顕著にみられる。
これに対して、本発明では、濃度が35重量%以下の水酸化カリウム水溶液からなる電解液を用いた場合でも、残存する電解液の表面張力によりポリビニルアルコール系繊維を含むセパレータの円筒部の底部側端部をセパレータの底部の立ち上がり部に密着させることができる。
【0045】
[工程(4)]
有底円筒形のセパレータ4内に、ゲル状の負極3を充填する。このとき、工程(3)でセパレータ4内の底部に残存した電解液は負極3内に拡散する。
【0046】
セパレータ内に充填する負極は、負極活物質に、ゲル化剤および電解液を所定の割合で添加して調製する。
ゲル化剤の添加量は、負極活物質100重量部あたり0.5〜2重量部が好ましい。セパレータ3内で残存する電解液が負極内へ拡散し易くするためには、ゲル化剤の添加量は、負極活物質100重量部あたり1〜1.5重量部がより好ましい。ゲル化剤には、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムのようなポリアクリル酸塩が用いられる。
【0047】
負極容量および充填性の観点から、セパレータ内に充填する負極中の電解液量は、負極活物質100重量部あたり40〜60重量部が好ましい。工程(3)でセパレータ内に注入する電解液量および電池内の電解液の総量を考慮すると、セパレータ内に充填する負極中の電解液量は、負極活物質100重量部あたり44〜54重量部がより好ましい。
【0048】
負極活物質には、粉末状の亜鉛または亜鉛合金が用いられる。
負極の充填性および負極容量の観点から、負極活物質の平均粒径は80〜250μmが好ましい。セパレータ4内で残存する電解液が負極内へ拡散し易いことから、負極活物質の平均粒径は100〜200μmがより好ましい。
【0049】
耐食性の観点から、亜鉛合金は、Bi、In、およびAlの少なくとも1種を含むのが好ましい。亜鉛合金中のBi含有量は、0.0025〜0.05重量%が好ましい。亜鉛合金中のIn含有量は、0.01〜0.1重量%が好ましい。亜鉛合金中のAl含有量は、0.003〜0.03重量%が好ましい。亜鉛合金中にて、亜鉛以外の元素が占める割合は、0.02〜0.08重量%が好ましい。
【0050】
[工程(5)]
電池ケース1の段部1a上で封口ユニット9の外周筒部5bを受けるように、電池ケース1の開口部に封口ユニット9を設置する。封口ユニット9は、樹脂製のガスケット5、釘型の負極集電体6、および負極端子板7からなる。負極集電体6の頭部6aは、負極端子板7の中央部の平坦部に溶接されている。
負極集電体6の軸部を、負極3内に挿入する。電池ケース1の開口端部を、ガスケット5の外周筒部5bを介して、負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけて、電池ケース1の開口部を封口する。このとき、電池の製造条件および配置の仕方(正極端子面が下面となるように配置)等によっては、凹部内に遊離する電解液が若干存在する場合がある。また、電池の配置の仕方により、凹部内に存在する電解液は負極等に拡散する。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
以下の手順で図1に示す構造の電池を作製した。
[工程(1)]
正極活物質として電解二酸化マンガン粉末(東ソー(株)製、HHTF、平均粒径35μm)と、導電剤として黒鉛粉末(日本黒鉛(株)製、SP−20、平均粒径10μm)とを95:5の重量比で混合した。この混合物と、電解液とを100:2の重量比で混合し、充分に攪拌した後、フレーク状に圧縮成形した。電解液には、水酸化カリウム(KOH濃度:35重量%)および酸化亜鉛(ZnO濃度:2重量%)を含む水溶液を用いた。ついで、フレーク状の正極合剤を粉砕して顆粒状とし、これを篩によって分級し、10〜100メッシュのものを中空円筒状に加圧成形して正極ペレット2a(外径13.55mm、内径9.15mm、高さ22mm、重量5.55g)を得た。
【0052】
正極ペレットを2個準備し、それらを底部に突出部11(正極端子)を有する有底円筒形の電池ケース1(外径14mm、内径13.7mm、高さ51.8mm、側部の厚み0.15mm、底部の厚み0.4mm)内に挿入した後、加圧成形し、電池ケース1に密着する中空円筒形の正極2(外径13.7mm、内径9.05mm、高さ42.5mm、重量11.1g)を得た。正極2の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンおよび黒鉛を合計した重量は、3.21gであった。その後、電池ケース1の開口部近傍に溝入れを施して段部1aを形成した。
【0053】
[工程(2)]
円筒状のピン15を用い、1枚の不織布(厚み110μm、坪量27g/m2)を三重に巻いて、厚み0.33mmのセパレータの円筒部4aを得た。不織布には、レーヨン繊維50重量部とポリビニルアルコール系繊維50重量部とを混抄したものを用いた。
治具16を用い、セパレータの円筒部4aを装着したピン15の先端にセパレータの底部4bを配した。そして、セパレータの底部4bがセパレータの円筒部4aの端部を包み込むような状態で、ピン15とともにセパレータの円筒部4aおよび底部4bを正極2の中空部内に挿入した。このようにして、正極2の内壁にセパレータの円筒部4aを配し、電池ケース1の底部にセパレータの底部4bをそれぞれ配置した。このようにして、有底円筒形のセパレータ4を配置した。
【0054】
なお、セパレータの底部4bの材料には、再生セルロースからなる薄膜(厚み0.03mm)の両面にポリビニルアルコール系繊維からなる不織布(厚み0.04mm)をラミネートして得られた厚み0.110mmの原紙を、セパレータの円筒部4aの外径より大きな正方形(大きさ15mm×15mm)に切断したものを用いた。セパレータの底部4bの立ち上がり部の高さは、2〜3mmであった。
【0055】
[工程(3)]
セパレータ4内に、上記と同じ組成の電解液を注入した。このとき、セパレータ内に注入する電解液の重量W1を、表1および表2に示す値とした。
そして、下記の第1の条件または第2の条件で、セパレータおよび正極に電解液を十分に含浸させた。
第1の条件:大気圧下で15分間放置する。
第2の条件:大気圧下で10分間放置した後、密閉されたチャンバー内で、約10hPa/秒の速度で大気圧(約1013hPa)から100hPaまで15秒間かけて減圧する。
【0056】
[工程(4)]
その後、ゲル状の負極3をセパレータ4内に充填した。負極3には、ゲル化剤としてポリアクリル酸ナトリウムと、上記と同じ組成の電解液と、負極活物質として亜鉛粉末(平均粒径150μm)とを、0.8:33:66.2の重量比で混合したものを用いた。
【0057】
[工程(5)]
釘型の負極集電体6の頭部6aを負極端子板7の平坦部に溶接し、負極集電体6の軸部6bにおける頭部6a側の端部を、ナイロン製のガスケット5の中央筒部5aの穴部に挿入し、封口ユニット9を得た。電池ケース1の段部1a上で封口ユニット9におけるガスケット5の外周筒部5bを受けるように、封口ユニット9を電池ケース1の開口部に設置した。このとき、負極集電体6の軸部6bを、負極3内に挿入した。そして、電池ケース1の開口端部を、ガスケット5の外周筒部5bを介して、負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけ、電池ケース1の開口部を封口した。外装ラベル8で電池ケース1の外表面を被覆した。このようにして、No.1〜8の単3形アルカリ乾電池(LR6)を作製した。
【0058】
[評価]
(1)セパレータ内に注入した電解液の重量W1に対する残存する電解液の重量W2の比:W2/W1の測定
工程(3)において、残存する電解液の重量W2は、以下の方法により求めた。表1または表2に示す条件で電解液を吸収させた後、電池ケースを約30〜60度傾け、セパレータ内に残存する電解液を1ヶ所に集めた。この状態でセパレータ内に残存する電解液をスポイトで吸い取った。この作業を、セパレータの底部4bを懐中電灯で照らしながら行い、残存する電解液が視認できなくなるまで繰り返し実施した。吸い取った電解液の全液量を、残存する電解液の重量W2として求めた。
工程(3)で注入した電解液の重量W1および上記で求めた残存する電解液の重量W2から、W2/W1を求めた。なお、No.1〜8の条件に対して、試験数はそれぞれ5個とし、その平均値を求めた。
【0059】
(2)電池の評価
常温で製造直後から1週間放置した後、20℃の環境下で電池の開路電圧を測定した。開路電圧が1.620V未満である電池を選出し、その電池を分解し、負極がセパレータから溢れ出して短絡しているものを不良電池とした。No.1〜8の電池に対して、試験数はそれぞれ5000個とし、そのうちの不良電池の個数を求めた。
その評価結果を表1および2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
2/W1が3/100および11/100の場合、残存する電解液13に浸される円筒部セパレータ4aの底部側端部12の軸方向の高さHは、それぞれ約0.4mおよび約2mmであった。
なお、高さHは、以下の方法により求めた。工程(3)において表1のNo.3および5の条件で電解液を吸収させた。その直後、Al棒(φ1mm)をセパレータ内に挿入し、Al棒の先端をセパレータの底部に接触させてAl棒を垂直に立てた。このようにして、Al棒の下端を残存する電解液に浸した。Al棒の下端を残存する電解液に浸す時間は、1秒間とした。その後、Al棒をセパレータ内から取り出し、Al棒が残存する電解液で浸された部分の長さを計測した。具体的には、Al棒がアルカリ水溶液である電解液に浸されて表面が白く変色した部分の長さを計測し、その値を高さHとした。セパレータの底部4bにおいてAl棒を垂直に立てる箇所が電池ケースの凹部10の真上であると、セパレータの底部4bが変形する可能性がある。よって、Al棒を垂直に立てる箇所は、セパレータの底部4bにおける電池ケースの凹部10の真上から若干外側へずらした部分とした。セパレータの底部(φ約8mm)の面積に対するAl棒(φ1mm)の断面積の比が1/64と非常に小さいため、Al棒を残存する電解液に浸すことによるその液面の変化はごくわずかであり、その影響は実質的にないとして無視した。
【0063】
No.3〜5および8では、不良電池は存在しなかった。No.3〜5および8では、工程(3)において、セパレータの円筒部の底部側端部と接する量の電解液が電池の底部に残存したため、セパレータの円筒部の底部側端部が、内側に折れ曲がるのを確実に防ぐことができた。
No.1、2、6、および7では、不良電池が存在した。不良電池の内部は、SHIMAZU製SMX-225 CTSVを用いて、電池の胴体部をCTスキャンすることにより確認した。その結果、セパレータの底部側端部が内側に折れ曲がることにより、負極がセパレータ内から溢れ出して正極と接触し、内部短絡を生じていることが確認された。表2の減圧下で電解液の注入を行う条件において、残存する電解液が存在しないNo.6および7では、セパレータの底部側端部が内側に折れ曲がることにより内部短絡を生じた電池が多く見られた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のアルカリ乾電池は、高い信頼性を有するため、携帯機器および情報機器等の電子機器の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0065】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
4a セパレータの円筒部
4b セパレータの底部
5 ガスケット
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 封口ユニット
10 凹部
11 突出部
12 セパレータの円筒部の底部側端部
13 残存する電解液
15 ピン
16 治具
17 穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの正極ペレットを挿入し、前記正極ペレットを加圧して、前記電池ケースの内面に密着する中空円筒形の正極を成形する工程、
(2)円筒形に巻いた円筒部と、前記円筒部の下端の開口を覆い、かつ前記円筒部の下部の外面に沿って延びる立ち上がり部を有する断面略U字状の底部とを備える有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極の中空部内に挿入する工程、
(3)前記セパレータ内に電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記電解液を含浸させる工程、
(4)前記セパレータ内にゲル状の負極を充填する工程、および
(5)前記負極内に負極集電体を挿入するとともに前記電池ケースの開口部を封口する工程を含み、
前記工程(3)における電解液の量が、電解液が前記正極およびセパレータに含浸されてなおセパレータの下部に残存してセパレータの円筒部の下端が電解液に浸されて底部の立ち上がり部に接触させておくに十分な量であることを特徴とするアルカリ電池の製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)において、前記セパレータ内に注入する電解液の重量W1に対する、前記残存する電解液の重量W2の比:W2/W1が、3/100〜11/100である請求項1記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項3】
前記比:W2/W1が、5/100〜9/100である請求項2記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)において、注入された電解液を減圧下で前記正極およびセパレータに含浸させる請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項5】
前記セパレータの円筒部が、ポリビニルアルコール系繊維を含む請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項6】
前記工程(3)において、前記セパレータ内に注入する電解液は、濃度32〜40重量%の水酸化カリウム水溶液である請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項7】
前記電解液は、濃度34〜38重量%の水酸化カリウム水溶液である請求項6記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項8】
前記工程(1)で成形された正極は、二酸化マンガンおよび黒鉛を含む請求項1〜7のいずれかに記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)において、成形された正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンおよび黒鉛を合計した重量を、3.05〜3.33gとする請求項8記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項10】
前記工程(1)において、成形された正極の1cm3あたりに含まれる二酸化マンガンおよび黒鉛を合計した重量を、3.14〜3.30gとする請求項8記載のアルカリ電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−156002(P2012−156002A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14045(P2011−14045)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】