説明

アルカリ電池の製造方法

【課題】ばらつきが少ない優れた強負荷放電特性を有するアルカリ電池の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、および第1のアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程、(2)正極合剤を中空円筒形の正極ペレットに成型する工程、(3)有底円筒形の電池ケース1内に正極ペレットを挿入して、中空円筒形の正極2を構成する工程、(4)正極2の中空部にセパレータ4を配置する工程、(5)セパレータ4内に第2のアルカリ電解液を注入し、正極2およびセパレータ4にアルカリ電解液を含浸させる工程、(6)セパレータ4内に負極3を充填する工程、および(7)電池ケース1の開口部を封口する工程を含み、工程(1)〜(4)における正極合剤、正極ペレット、または正極2のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じて工程(5)における第2のアルカリ電解液の注入量を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池の製造方法に関し、さらに詳しくは、アルカリ電解液の注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルカリ電池は様々な機器の電源として用いられており、その用途に応じて種々の特性が要求されている。とりわけ、近年、この電池が用いられる機器の負荷が増大する傾向にあることから、特に強負荷放電特性に優れた電池が要望されている。電池のさらなる高容量化とともに、強負荷放電特性の向上が必要であり、その要求を満足することができる電池設計および製造技術が検討されている。
【0003】
アルカリ電池の一般的な製造方法は、以下の工程(A)〜(H)を含む。
工程(A):二酸化マンガン粉末を正極活物質として黒鉛粉末やカーボンブラック等の導電材および水酸化カリウムを主成分とするアルカリ電解液を混合して正極合剤を形成する。
工程(B):正極合剤を円筒状に圧縮成型して正極ペレットを形成する。
工程(C):有底円筒形の電池ケースの内に、少なくとも一つの正極ペレットを挿入した後に所定の高さとなるように加圧して正極ペレットを電池ケースに密着させて中空円筒形の正極を形成する。
工程(E):有底円筒形のセパレータを前記電池ケース内の前記正極内の中空部内に配置する。
工程(F):前記セパレータ内に所定の量のアルカリ電解液を注入し、前記アルカリ電解液を前記正極およびセパレータへ含浸させる。
工程(G):前記セパレータ内へ亜鉛を負極活物質としてゲル化剤およびアルカリ電解液と混合した所定の量の負極を充填する。
工程(H):前記負極内に負極集電体を挿入するとともに、前記電池ケースの開口部を封口する。
【0004】
電池の高容量化には、上記の正極活物質の二酸化マンガンや負極活物質の亜鉛等の活物質の充填量の増量が必要である。そして、強負荷放電特性の向上には、活物質の増量だけでなく、活物質の反応効率の向上も図る必要があるため、放電反応が効率良く進行するように正極、負極、電解液の設計がなされる必要がある。
【0005】
特許文献1では、電池組み立てに使用する正極合剤中に含有させる水分量を、電解液を含めた正極合剤の質量に対して3.0〜4.2wt%とし、電池組み立て後の正極合剤が含有する水分量が、電解液を含めた正極合剤の質量に対して8.4〜10wt%とする構成が開示されている。また、上記の正極合剤中の水分量を得る方法として、工程(A)において正極合剤内に含有させる電解液と、工程(F)の電池組み立て時に注入する電解液あるいは工程(G)の負極に含有させる電解液のアルカリ濃度の間に大きな差を設けて、それを駆動力とすることにより電池組み立て後の正極合剤中に、反応に必要な十分な水分を含有させ、また、電池内の水分の配分を適正化することができることから、負荷特性や短絡時の安全性および高温貯蔵性に優れたアルカリ電池を提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−146294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の発明では、電池組み立て後の正極合剤が含有する水分量が、電解液を含めた正極合剤の重量に対して8.4〜10wt%を得るために、あらかじめ正極合剤に含有させる電解液と、電池組み立て時に注入する電解液あるいは負極に含有させる電解液のアルカリ濃度の間に大きな差を設けてそれを駆動力とするとされている。しかし、大きな駆動力を得るには正極合剤に含有させるアルカリ電解液の水酸化カリウム濃度を50wt%以上にしなければならず、そうすると水酸化カリウムの飽和溶解度を超えないように、工程(A)の正極合剤の作製条件として35℃〜70℃の温度制御が必要であり、安定した品質を得るためには製造条件の管理が複雑になるばかりでなく製造コストが増大してしまう。
【0008】
また、実際の電池の製造時に用いられる正極活物質の二酸化マンガン粉末は、表面に吸着水を持つことが知られている。そして、その吸着水の量は、二酸化マンガン粉末の比表面積が大きいことから周囲の環境の影響を受けやすい。材料ロット間や季節間および天候間による温度や湿度の変動などにより使用する材料自身が含有している水分量は大きく変動しているのが実態であり、正極合剤中の水分量のばらつき、および電池全体の水分量のばらつきを発生させる要因となっている。
【0009】
さらに、これら正極中および電池電体の水分量のばらつきは、電池の放電特性と密接に関係しており、上記の水分量のばらつきを抑制しなければ放電特性に優れた電池を安定して製造することは困難である。したがって、従来は、材料ロット間に由来する水分量のばらつきや製造工程中の水分の蒸発量のばらつきを制御するためには、材料の含水率の管理や調整および工場内の空調管理などを実施する必要があり、電池の製造コストが増大する要因となっていた。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、ばらつきが少ない優れた強負荷放電特性を有するアルカリ電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のアルカリ電池の製造方法は、
(1)二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、および第1のアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程、
(2)前記正極合剤を中空円筒形の正極ペレットに成型する工程、
(3)有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの前記正極ペレットを挿入して、中空円筒形の正極を構成する工程、
(4)前記正極の中空部にセパレータを配置する工程、
(5)前記セパレータ内に第2のアルカリ電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記アルカリ電解液を含浸させる工程、
(6)前記セパレータ内に負極を充填する工程、および
(7)前記電池ケースの開口部を封口する工程を含み、
前記工程(1)から工程(4)における前記正極合剤、前記正極ペレット、または前記正極のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じて、前記工程(5)における前記第2のアルカリ電解液の注入量を定めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極合剤、正極ペレットまたは正極のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じてアルカリ電解液の注入量を定めることによって、材料ロット間や季節間あるいは天候間の環境変動に影響されることなく、電池全体の水分量のばらつきを抑制することができるため、ばらつきが少ない優れた強負荷放電特性を有するアルカリ電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態としてのアルカリ電池の半断面の正面図
【図2】本発明の課題に関する説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルカリ電池の製造方法は、
(1)二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、および第1のアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程、
(2)前記正極合剤を中空円筒形の正極ペレットに成型する工程、
(3)有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの前記正極ペレットを挿入して、中空円筒形の正極を構成する工程、
(4)前記正極の中空部にセパレータを配置する工程、
(5)前記セパレータ内に第2のアルカリ電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記アルカリ電解液を含浸させる工程、
(6)前記セパレータ内に負極を充填する工程、および
(7)前記電池ケースの開口部を封口する工程を含み、
前記工程(1)から工程(4)における前記正極合剤、前記正極ペレット、または前記正極のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じて、前記工程(5)における前記第2のアルカリ電解液の注入量を定めることを特徴とする。
【0015】
本発明は、正極の含水率とアルカリ電解液の注入方法に関するものであるが、本発明を説明する前に、本発明を想到するに至った経緯をまず説明する。
【0016】
図2は、本発明の課題に関する説明図である。図2は、実際の製造工程において、材料の含水率の管理や調整、および工程内の空調管理等を行わない場合の正極ペレットの含水率の変動を年間を通して調査し、月毎の平均値として示している。そして、それらの正極ペレットで構成され、全て同一の前記工程(1)〜(7)を経て構成されたアルカリ電池の強負荷放電特性を示した。
【0017】
なお、前記強負荷放電特性としては、デジタルカメラを想定した放電様式で、20±2℃の環境で、1.5Wで2秒間放電した後、0.65Wで28秒間放電するサイクルを繰り返すパルス放電を1時間あたり10サイクル行い続けたとき、1.05Vに達するまでの累計サイクル数を計測して示した。
【0018】
図2に示すように、正極ペレットの含水率は、空気の乾燥しやすい冬季の12月から4月までは比較的低く推移し、湿気の高い夏季の6月から10月までは比較的高く推移していることから、季節の影響を大きく受けて変動しているものと考えられる。
【0019】
また、放電負荷の強弱や放電様式(連続放電/間欠放電)の相違による種々の放電特性と正極ペレットの含水率との関係を調査した結果、図2に示すように、強負荷放電特性が正極ペレットの含水率と極めて強い相関を有していることが判明した。
【0020】
これらの知見に基づき、本願発明者等は、従来よりも簡易で経済的な製造条件の管理方法で、正極の水分量のばらつき、如いては電池全体の水分量のばらつきを、材料ロット間や季節間あるいは天候間などの環境変動に影響されることなく抑制することができる方法を検討した。そして、その結果、アルカリ電池の製造工程の工程(5)において、工程(1)から工程(4)における正極合剤、正極ペレットまたは正極のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じて第2のアルカリ電解液の注入量を定めることにより、ばらつきの少ない優れた強負荷放電特性が得られることを見出した。
【0021】
ある好適な実施形態において、工程(1)における二酸化マンガン粉末の平均粒径が20〜60μmの範囲であり、黒鉛粉末の平均粒径が5〜20μmの範囲である。
【0022】
ある好適な実施形態において、二酸化マンガン粉末100質量部あたり2.5〜4.5質量部の黒鉛粉末を混合すればよい。
【0023】
ある好適な実施形態において、二酸化マンガン粉末の平均粒径P1と黒鉛粉末の平均粒径P2との比(P1/P2)が、2.5〜6.0の範囲である。
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施の形態としてアルカリ電池の半断面の正面図である。
【0025】
正極端子と正極集電体を兼ねた有底円筒形の電池ケース1には、中空円筒状の正極2が内接するように収納されている。正極2の中空部には有底円筒形のセパレータ4を介して負極3が配置されている。電池ケース1の開口部は、正極2、負極3等の発電要素を収納した後、釘型の負極集電体6と電気的に接続された負極端子板7とガスケット5を一体化した封口ユニット9により封口される。電池ケース1の外表面は、外装ラベル8により被覆されている。以下、図1に示す構造のアルカリ電池の製造方法の一例を説明する。
【0026】
[工程(1)]
正極活物質である二酸化マンガン粉末に黒鉛粉末を加え、混合物を得る。この混合物に第1のアルカリ電解液を加え、ミキサー等で均一に混合した後、圧縮成型し、フレーク状の正極合剤を得る。ついで、フレーク状の正極合剤を粉砕して一定粒度に整粒し、顆粒状の正極合剤(以下、粒状合剤とする。)を得る。粒状合剤の平均粒径は、例えば0.5〜1.5mmである。
【0027】
第1のアルカリ電解液は、水酸化カリウムを30〜42質量%および酸化亜鉛を0.5〜5質量%を含む水溶液が好ましい。
【0028】
第1のアルカリ電解液の添加量は、二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末の合計100質量部あたり1〜5質量部が好ましい。
【0029】
二酸化マンガン粉末の平均粒径は20〜60μmが好ましく、この範囲であると、正極の容量および充填性が良好である。
【0030】
黒鉛粉末の平均粒径は5〜20μmが好ましく、この範囲であると、正極の導電性および充填性が良好である。
【0031】
黒鉛粉末の添加量は、二酸化マンガン粉末100質量部あたり2.5〜10質量部が好ましく、この範囲であると、正極の容量と導電性のバランスが良好である。
【0032】
従来より、容量を確保するために二酸化マンガン粉末の添加量を上げると、黒鉛粉末の添加量が必然的に下がって正極の導電性が悪化していた。そして、この導電性の悪化は強負荷放電特性の悪化につながっていたが、本発明のように電池内部の水分を確保することによって強負荷放電特性を補うことができる。したがって、二酸化マンガン粉末100質量部あたり2.5〜4.5質量部の黒鉛粉末の添加量であっても強負荷放電特性に優れている。
【0033】
ここでいう平均粒径とは、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)である。平均粒径は、例えば、(株)堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子分布測定装置(LA−920)を用いて求められる。
【0034】
年間を通した粉末の水分量の変化を加味した上で、正極の充填性、容量、および導電性のバランスの観点から、二酸化マンガン粉末の平均粒径P1と黒鉛粉末の平均粒径P2との比(P1/P2)は、2.5〜6.0が好ましい。この範囲であると、水分を介した粉末同士の接触や結着が良好で、水分の蒸発や吸着を効果的に抑えることができると考えられる。
【0035】
また、正極合剤にバインダーや添加剤等を適宜含有していても差し支えない。
【0036】
[工程(2)]
粒状合剤を篩によって分級し、10〜100メッシュのものを中空円筒状に加圧成型し、正極ペレットを得る。このとき、成型された正極ペレットの密度は、好ましくは3.05〜3.45g/cmであり、より好ましくは、3.10〜3.40g/cmである。これにより、成型体として十分な強度を確保しながら、必要な正極活物質量も確保できる。
【0037】
[工程(3)]
有底円筒形の電池ケース1内に複数個の正極ペレットを挿入し、所定の金型を用いて加圧成型し、電池ケース1に密着する中空円筒形の正極2を得る。このとき、複数の正極ペレットの中空部が連通するように、複数個の正極ペレットを同軸上に積み重ねる。正極ペレットは1個でもよい。
【0038】
加圧成型された正極2の密度は、好ましくは2.95〜3.40g/cmであり、より好ましくは、3.00〜3.35g/cmである。正極2の密度を2.95g/cm以上とすることで、必要な正極の容量および電解液の保液性を損なうことなく優れた強負荷放電特性を有する電池が得られる。また、金型を用いて正極2を成型する際、正極2の密度を3.40g/cm以下とすることで、金型に過度の負荷をかけずに、安定して正極2を成型することができる。
【0039】
電池ケース1内に密着する正極を得た後、セパレータ4を配置する前に、電池ケース1の開口部近傍の外面に溝入れを施して電池ケース1内に突出する段部を形成する。
【0040】
[工程(4)]
有底円筒形のセパレータ4は、例えば、厚さ40〜150μm、坪量が20〜75g/m2のポリビニルアルコール系繊維を主体としたシート状の不織布を用いる。不織布を円筒状に形成した後に、底部のセパレータが円筒部の下端を包み込むようにして、電池ケース1に密着する中空円筒形の正極2の中空部内に装着される。ここで、シート状の不織布は、1枚の不織布を用いてもよく、複数枚の不織布を重ね合わせて用いてもよい。複数枚の不織布を重ね合わせて用いる場合、互いに繊維の種類または配合が同じでもよく、異なっていてもよい。
【0041】
セパレータの強度および電解液の保液性、ならびに電池の内部抵抗の観点から、セパレータの円筒部の厚みは、0.15〜1.5mmが好ましい。
【0042】
[工程(5)]
有底円筒形のセパレータ4内に第2のアルカリ電解液を注入する。このとき、工程(1)から工程(4)における正極合剤、正極ペレットまたは正極のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じて、第2のアルカリ電解液の注入量を定める。
【0043】
第2のアルカリ電解液は、水酸化カリウムを30〜42質量%および酸化亜鉛を0.5〜5質量%を含む水溶液が好ましく、第1のアルカリ電解液と同じ組成であってもよい。
【0044】
前記含水率の測定は、前述した対象の中から少なくとも1つを測定すればよい。好ましくは工程(4)でセパレータを配置した後の正極2を対象として含水率を測定すればよい。
【0045】
前記含水率は、工程(1)から工程(4)における正極合剤、正極ペレット、または正極のうちいずれか約10gを採取し、赤外線水分計を用いて含水率を測定すればよい。例えば、ザルトリウス社製の赤外線水分計(品番MA150)を用い、採取した測定対象を140℃で10分間保持して測定した値を含水率(%)とすればよい。
【0046】
正極ペレットを採取した場合は、直径3mm程度の粒子が視認できなくなる程度に粉砕してから測定すればよい。7メッシュの篩い目を通過する程度の粒子を用いて測定してもよい。
【0047】
ここで、電池の内部に含まれる水分量は、工程(1)〜(4)を経た正極の水分量Aと、工程(5)の第2のアルカリ電解液中の水分量Bと、工程(6)の負極を構成するアルカリ電解液中の水分量Cとの総和の水分量Sである。
【0048】
電池の設計上、水分量A、B、C、およびSは、予め定められるべきものである。
【0049】
ばらつきが少なく優れた強負荷放電特性を実現するために、水分量Sを一定に維持する必要がある。
【0050】
このうち、正極に関わる水分量Aが、前述してきたように環境変動の影響を受けてばらつきやすい。
【0051】
一方、負極は、後述するように、正極よりも多量の水分を有する構成である。したがって、負極を構成する原材料が保持している水分量の環境変動によるばらつきを無視しても差し支えなく、負極に関わる水分量Cは基本的にばらつかずに安定している。
【0052】
すなわち、水分量Sを一定に保たせるために、水分量Aを計測し、予め定めた水分量Aの設計値に対する増減分を、水分量Bで是正すればよい。第2のアルカリ電解液の注入量は、この水分量Bに基づいて決定すればよい。さらに詳細は、本発明の実施例にて後述する。
【0053】
[工程(6)]
有底円筒形のセパレータ4内に、ゲル状の負極3を充填する。セパレータ内に充填する負極3は、負極活物質にゲル化剤およびアルカリ電解液を所定の割合で添加して調製する。
【0054】
負極活物質には、亜鉛または亜鉛合金の粉末が用いられる。負極の充填性および負極容量の観点から、亜鉛または亜鉛合金の粉末の平均粒径は80〜250μmが好ましい。
【0055】
亜鉛または亜鉛合金は、環境負荷を考慮して水銀を含まないことが好ましい。耐食性の観点から、亜鉛合金は、Bi、In、およびAlの少なくとも1種を含むのが好ましい。亜鉛合金中のBi含有量は、0.0025〜0.05質量%が好ましい。亜鉛合金中のIn含有量は、0.01〜0.1質量%が好ましい。亜鉛合金中のAl含有量は、0.003〜0.03質量%が好ましい。亜鉛合金中にて、亜鉛以外の元素が占める割合は、0.02〜0.08質量%が好ましい。
【0056】
ゲル化剤の添加量は、負極活物質100質量部あたり0.5〜2質量部が好ましい。ゲル化剤には、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムのようなポリアクリル酸塩が用いられる。
【0057】
負極容量および充填性の観点から、セパレータ内に充填する負極3のアルカリ電解液量は、好ましくは負極活物質100質量部あたり45〜65質量部であり、より好ましくは負極活物質100質量部あたり49〜59質量部である。
【0058】
[工程(7)]
電池ケース1の開口部に封口ユニット9を設置する。封口ユニット9は、樹脂製のガスケット5、釘型の負極集電体6、および負極端子板7からなる。負極集電体6の頭部は、負極端子板7の中央部の平坦部に溶接されている。
【0059】
負極集電体6の軸部を、負極3内に挿入する。電池ケース1の開口端部を、ガスケット5の外周筒部を介して、負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけて、電池ケース1の開口部を封口する。封口した電池ケース1の外周円筒部に外装ラベル8を巻きつけた後、熱収縮により外装ラベルを電池ケース1に密着させて被覆する。このようにして本発明のアルカリ電池を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。以下に示す材料と設計値を用い、後述する工程(1)から工程(7)を経て図1に示したものと同様の単3形のアルカリ電池を5ロット作製し、強負荷放電特性を評価した。材料の含水率の管理や調整、および製造工程内の空調管理等は行わずに、各々のロットは季節変動の影響を与えるために1〜2ヶ月程度の間隔を空けて作製した。
【0061】
なお、本発明の効果を確認するための比較として、従来の方法(詳細は後述の工程(5)参照)でも5ロット作製した。
【0062】
[材料]
二酸化マンガン粉末 :東ソー(株)製の品番HH−XFA
黒鉛粉末 :日本黒鉛(株)製の品番SP−20M
第1のアルカリ電解液:水酸化カリウム39質量%および酸化亜鉛2質量%を含む水溶液
第2のアルカリ電解液:水酸化カリウム35質量%および酸化亜鉛2質量%を含む水溶液
【0063】
[設計値]
工程(1)〜(4)を経た正極の水分量A :0.18g
工程(5)の第2のアルカリ電解液中の水分量B :1.10g
工程(6)の負極を構成するアルカリ電解液中の水分量C:1.36g
【0064】
[工程(1)]
二酸化マンガン粉末と黒鉛粉末とを93:7の質量比でミキサーにて均一に混合した。この混合物と、第1のアルカリ電解液とを100:2の質量比で混合し、十分攪拌した後、フレーク状に圧縮成型した。ついで、フレーク状の正極合剤を粉砕して一定粒度に整粒し、顆粒状の正極合剤を得た。
【0065】
[工程(2)]
顆粒状の正極合剤を篩によって分級し、10〜100メッシュのものを中空円筒状に加圧成型し、正極ペレット(外径:13.5mm、内径:9.20mm、高さ:22.65mm、質量:5.65g)を得た。得られた正極ペレットの成型密度は、3.26g/cmであった。
【0066】
[工程(3)]
正極ペレットを2個準備し、それらを電池ケース1(外径:14.0mm、内径:13.7mm、高さ51.8mm、側部の厚み:0.15mm)内に挿入した後、加圧成型し、電池ケース1に密着する中空円筒形の正極2(外径:13.7mm、内径:9.05mm、高さ:43.0mm、質量11.3g)を得た。得られた正極2の密度は、3.16g/cmであった。その後、電池ケース1の開口部近傍に溝入れを施して段部を形成した。
【0067】
[工程(4)]
1枚の不織布(厚み:110μm、坪量:27g/cm)を3重に巻いて、厚み0.33mmの有底円筒状のセパレータ4を形成した。不織布には、レーヨン繊維50質量部とポリビニルアルコール系繊維50質量部とを混抄したものを用いた。
【0068】
[工程(5)]
工程(4)のセパレータ4を配置した後の正極2の含水率を測定した。また、正極2の重量から水分量Aを算出した。そして、以下の2種類の方法で第2のアルカリ電解液を注入した。
<本発明の方法>:正極2の含水率に応じて第2のアルカリ電解液の注入量を調整する。
<従来の方法>:正極2の含水率に関わらず第2のアルカリ電解液の注入量は一定。
【0069】
従来の方法では、第2のアルカリ電解液の注入量は一定の1.74g(水分量Bは1.10gに相当)とした。
【0070】
本発明の方法では、正極2の含水率を測定して算出した正極2の水分量Aと、水分量Aの設計値の差を、第2のアルカリ電解液中の水分量Bを増減させて、電池の水分量Sが一定となるようにした。すなわち、正極2の含水率に応じて第2のアルカリ電解液の注入量を定めた。正極2の含水率とともに第2のアルカリ電解液の注入量等を、後掲する表1に示した。
【0071】
[工程(6)]
負極3には、負極活物質である亜鉛合金の粉末(平均粒径150μm)と、アルカリ電解液と、ゲル化剤とを182:100:2.1の質量比で混合したものを用いた。亜鉛合金の粉末には、0.005質量%のアルミニウムと、0.01質量%のビスマスと、0.05質量%のインジウムとを含み、200メッシュの篩い目を通過し得るものの割合が34質量%含むものを用いた。また、アルカリ電解液には、第2のアルカリ電解液と同様のものを用いた。ゲル化剤には、架橋分岐型ポリアクリル酸からなる増粘剤、および高架橋鎖状型ポリアクリル酸ナトリウムからなる吸水性ポリマーの混合物を用いた。増粘剤と吸水性ポリマーとの質量比は、0.7:1.4とした。ゲル状の負極3を有底円筒形のセパレータ4内に6.12g充填した。負極3中の水分量Cは1.36gに相当する。
【0072】
[工程(7)]
釘型の負極集電体6の頭部を負極端子板7の平坦部に溶接し、負極集電体6の軸部における頭部側の端部を、ナイロン製のガスケット5の中央円筒部の穴部に挿入し、封口ユニット9を得た。電池ケース1の開口部に封口ユニット9を設置して電池ケース1をかしめつけて封口した。封口した電池ケース1の外周円筒部に外装ラベル8を巻きつけた後、熱収縮により外装ラベルを電池ケース1に密着させて被覆した。
【0073】
[強負荷放電特性の評価]
各々の電池を、20±2℃の環境で、1.5Wで2秒間放電した後、0.65Wで28秒間放電するサイクルを繰り返すパルス放電を1時間あたり10サイクル行い続けたとき、1.05Vに達するまでの累計サイクル数を計測した。その評価結果を表1に示した。
【0074】
【表1】

表1に示すように、従来の方法では強負荷放電特性が99〜152サイクル(平均値131、標準偏差22)であったのに対し、本発明の方法では136〜143サイクル(平均値140、標準偏差3)と、ばらつきが少なく優れた強負荷放電特性を有するアルカリ電池が得られた。
【0075】
このように、本発明の製造方法のように、正極の含水率を測定し、その含水率に応じて第2のアルカリ電解液の注入量を適切に定めることにより、環境変動にかかわらず、ばらつきが少なく優れた強負荷放電特性を有するアルカリ電池が製造することができる。
【0076】
また、材料管理や製造工程内の空調管理などを省くことができる。
【0077】
なお、本実施例では、工程(4)における正極の含水率を測定した例を説明したが、工程(1)における正極合剤や、工程(2)または工程(3)における正極ペレットの含水率を測定して第2のアルカリ電解液の注入量を定める方法であっても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるアルカリ電池は、ばらつきが少なく優れた強負荷放電特性を有するため、アルカリ電池を電源とするあらゆる機器に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0079】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 封口ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、および第1のアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程、
(2)前記正極合剤を中空円筒形の正極ペレットに成型する工程、
(3)有底円筒形の電池ケース内に少なくとも1つの前記正極ペレットを挿入して、中空円筒形の正極を構成する工程、
(4)前記正極の中空部にセパレータを配置する工程、
(5)前記セパレータ内に第2のアルカリ電解液を注入し、前記正極およびセパレータに前記アルカリ電解液を含浸させる工程、
(6)前記セパレータ内に負極を充填する工程、および
(7)前記電池ケースの開口部を封口する工程を含み、
前記工程(1)から工程(4)における前記正極合剤、前記正極ペレット、または前記正極のうちいずれかの含水率を測定し、その含水率に応じて、前記工程(5)における前記第2のアルカリ電解液の注入量を定めることを特徴とするアルカリ電池の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、前記二酸化マンガン粉末の平均粒径が20〜60μmの範囲であり、前記黒鉛粉末の平均粒径が5〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項3】
前記二酸化マンガン粉末100質量部あたり2.5〜4.5質量部の前記黒鉛粉末を混合することを特徴とする請求項2記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項4】
前記二酸化マンガン粉末の平均粒径P1と黒鉛粉末の平均粒径P2との比(P1/P2)が、2.5〜6.0の範囲であることを特徴とする請求項2記載のアルカリ電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−45619(P2013−45619A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182382(P2011−182382)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】