説明

アルカリ電池用正極合剤の製造方法、アルカリ電池

【課題】放電性能に優れたアルカリ電池の構成部品として好適な正極合剤を、工数増やコスト高を伴わずに確実に得ることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のアルカリ電池用正極合剤の製造方法では、まず、正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料を混合して混合物を得る混合工程を行う。その際に、前記材料に二酸化マンガンを還元する還元剤を添加する。次に、混合物を圧延して造粒する圧延造粒工程を行う。そして、この製造方法により得られた正極合剤を使用したアルカリ電池は、初度ばかりでなく保存後の放電性能についても良好なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質として二酸化マンガンを含有するアルカリ電池用正極合剤の製造方法、及びそのような正極合剤を用いたアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なアルカリ電池は、有底円筒形の正極缶の内部に正極合剤、負極合剤、セパレータ等といった発電要素を収納し、その開口部を負極端子板、負極集電子及び封口ガスケットからなる負極集電体で閉塞した構造を有している。また、アルカリ電池に使用される正極合剤は、正極活物質、導電材、バインダ、電解液等を混合した後、この混合物を圧延、造粒、篩別することにより作製される。そして、さらにこれを円筒状に成形することで正極合剤成形体が作製される。なお、従来における正極活物質としては、二酸化マンガンが通常よく使用されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
ところで、高電位の二酸化マンガンを正極活物質として使用することでアルカリ電池の開路電圧も高くなり、結果として放電性能が良好になり持続時間が長くなることが知られている。また、二酸化マンガンが高電位のままであると、JIS C 8515(一次電池個別製品仕様)等に規定されているアルカリ電池(LR)の開路電圧(OCV)の上限値(1.65V)を超過してしまう。
【0004】
しかしながら、高電位の二酸化マンガンは自己放電による保存劣化が大きいため、初度の放電性能は良好であるものの、保存後の放電性能が低調になるという欠点がある。このような問題の対応策として、例えば上述の特許文献1では、二酸化マンガンを電解した後にその表面電位の調整を行うようにしている。
【特許文献1】特許2806233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術の場合、二酸化マンガン粒子の表面全体の活性が低下するため放電性能の向上が十分に達成できないという欠点がある。しかも、表面電位調整工程が余分に必要になるため、工数も増えコスト高につながってしまうという欠点もある。
【0006】
なお、正極合剤の表面電位またはアルカリ電池の開路電圧を調整する方法としては、例えば、1)正極合剤の圧延回数を増加する、2)負極酸化亜鉛濃度を増加する、3)予備放電を行う等の方法があるが、いずれも放電性能の低下、工数増、コスト高といった欠点がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、初度ばかりでなく保存後の放電性能についても良好なアルカリ電池を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の優れたアルカリ電池の構成部品として好適な正極合剤を、工数増やコスト高を伴わずに確実に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段[1]〜[8]を以下に列挙する。
【0009】
[1]正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料を混合して混合物を得る混合工程を行った後、前記混合物を圧延して造粒する圧延造粒工程を行うアルカリ電池用正極合剤の製造方法であって、前記混合工程の際に前記材料に二酸化マンガンを還元する還元剤を添加することを特徴とするアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【0010】
従って、手段1によると、混合工程で添加した還元剤が二酸化マンガンの表面に作用することで表面電位が下げられる。ただし、混合工程において二酸化マンガンは単独で存在するのではなく少なくとも黒鉛と共存しているため、還元剤が二酸化マンガン粒子の表面の全体に作用するのではなく部分的に作用する。その結果、放電性能を損なわない程度に二酸化マンガンの活性を低下させることができる。従って、初度ばかりでなく保存後の放電性能についても良好なアルカリ電池用正極合剤を得ることができる。しかも、この方法によれば、既存の混合工程において還元剤を添加することで足りるため、表面電位調整工程などが不要であり、工数増、コスト高を回避することができる。
【0011】
[2]前記混合工程では、正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料に前記還元剤を添加して乾式混合することを特徴とする上記手段1に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【0012】
従って、手段2によると、固体状の還元剤を選択した場合にその還元剤を二酸化マンガン、導電材等と均一にかつ確実に混合することができ、二酸化マンガンの表面電位にばらつきが生じにくくなる。
【0013】
[3]前記混合工程では、正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料を乾式混合した後、その材料にアルカリ電解液とともに前記還元剤を添加して湿式混合することを特徴とする上記手段1に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【0014】
従って、手段3によると、液体状または水溶性の還元剤を選択した場合にその還元剤を二酸化マンガン、導電材等と均一にかつ確実に混合することができ、二酸化マンガンの表面電位にばらつきが生じにくくなる。
【0015】
[4]前記還元剤として、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、フェノール、ヒドラジン及び亜硝酸塩の中から選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする上記手段1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【0016】
従って、手段4によると、上記の還元剤は重金属を含むものではないため、好適な還元作用を奏する反面で放電性能に悪影響を及ぼすリスクも小さい。また、比較的安価であるためコスト高も回避できる。
【0017】
[5]前記二酸化マンガン1当量に対して、前記還元剤を0.02当量以上0.20当量以下の範囲で添加することを特徴とする上記手段1乃至4のいずれか1項に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【0018】
従って、手段5によると、還元剤を上記の好適な分量で添加すれば、放電性能を損なわない程度に二酸化マンガンの活性を低下させることができる。
【0019】
[6]上記手段1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法を経て製造された正極合剤を使用したことを特徴とするアルカリ電池。
【0020】
[7]負極電解液中の酸化亜鉛濃度が1重量%以上5重量%以下の範囲であることを特徴とする上記手段6に記載のアルカリ電池。
【0021】
[8]開路電圧が1.60V以上1.65V以下の範囲であることを特徴とする上記手段6または7に記載のアルカリ電池。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように、請求項1〜5に記載の発明によると、放電性能に優れたアルカリ電池の構成部品として好適な正極合剤を、工数増やコスト高を伴わずに確実に得ることができる製造方法を提供することができる。請求項6〜8に記載の発明によると、初度ばかりでなく保存後の放電性能についても良好なアルカリ電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態のアルカリ電池11を図1〜図3に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態の筒形のアルカリ電池11(LR6:単3形)を構成する正極缶21は、正極集電体を兼ねる有底円筒状の電池用金属部品であり、例えばニッケルめっき鋼板を深絞りプレス加工することで形成されている。正極缶21の内部空間には、発電要素(即ち、正極合剤成形体31、セパレータ41及びゲル状負極合剤51)が装填可能となっている。正極缶21の内部には、中空円筒状に成形された複数個の正極合剤成形体31が縦積みかつ同心状に圧入装填されている。発電要素の一部をなす正極合剤成形体31は、正極活物質、導電材、バインダ等を含む正極合剤を中空円筒状に成形した部材である。これら正極合剤成形体31の内側には有底円筒状のセパレータ41が挿入されている。セパレータ41及び正極合剤成形体31中には、アルカリ電解液が浸潤されている。セパレータ41の中空部には、亜鉛合金粉末、ゲル化剤、アルカリ電解液などを混合してなるゲル状負極合剤51が充填されている。アルカリ電解液として、本実施形態では水酸化カリウム水溶液を用いている。亜鉛合金粉末として、本実施形態では数十〜数百ppmのインジウム、ビスマス及びアルミニウムを含有するものを用いている。また、ゲル化剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸及びその塩類、アルギン酸ソーダ、エーテル化デンプン等が好適である。
【0025】
正極缶21の開口部内面側には、負極端子板61と集電棒71と封口ガスケット81とを組み付けてなる電極用集電体60が配置されかつカシメ付けられている。その結果、正極缶21が液密的に封口されている。また、正極缶21の胴部外面側には外装ラベル23が貼り付けられている。
【0026】
この封口ガスケット81は中央部にボス部82を備えており、そのボス部82を貫通する断面円形状のボス孔82a内には集電棒71が挿通可能となっている。ボス部82の周囲には薄肉部を介して中間隔壁部85が形成され、さらにその外周部にはコ字状をなす屈曲部84を介して周縁パッキング部83が形成されている。この封口ガスケット81は、平面視で円形状を呈する合成樹脂製の部材であって、例えばナイロン等のようなポリアミド樹脂からなる射出成形部品である。なお、ポリアミド樹脂の代わりに、ポリプロピレン等のようなポリオレフィン樹脂等を用いてもよい。
【0027】
負極端子板61は導電性金属製の板材からなる。この負極端子板61は、外側面に平坦な端子面が形成された中央平板部と、この中央平板部の外周部に一体的に形成された環状凹部とを備えている。
【0028】
集電棒71は導電性金属からなる棒材であって、その先端部73がゲル状負極合剤51中に挿入配置されるようになっている。一方、集電棒71の基端部72は、ボス部82のボス孔82aに挿通されるとともに、負極端子板61の内面側中央部に対してスポット溶接等により固着されている。なお、本実施形態では、集電棒71を構成する母材としてスズめっき真鍮線を使用している。
【0029】
以上のように構成された集電体60は、正極缶21の開口部に配置されるとともに、開口部側の端部が周縁パッキング部83とともに径方向中心に向けて直角に折曲されている。その結果、集電体60が正極缶21の開口部に強固にかつ液密的に取り付けられている。
【0030】
本実施形態のアルカリ電池11に使用する正極合剤は、正極活物質として二酸化マンガンを含有し、導電材として黒鉛を含有している。成形性や機械的強度を向上させるため、必要に応じて正極合剤にポリアクリル酸等のバインダを含有させてもよい。二酸化マンガンの平均粒径は特に限定されないが、例えば30μm〜60μm程度に設定される。黒鉛の平均粒径も特に限定されないが、例えば10μm〜50μm程度に設定される。また、黒鉛の種類については特に限定されないが、低コスト化の観点から、膨張化黒鉛よりも、天然黒鉛や人造黒鉛などといった非膨張化黒鉛を選択することが望ましい。
【0031】
本実施形態の正極合剤は、その製造過程(具体的には混合工程)において還元剤を添加することにより製造される。ここで使用する「還元剤」とは、二酸化マンガンを還元することができる化学物質のことを指す。本実施形態における還元剤としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されず、性状や組成を問わず様々なものが使用可能であるが、好ましくは組成中に重金属を含まないことがよい。即ち、重金属が含まれていると、放電性能に悪影響を及ぼしたり、電池内部にガスを発生させたりするリスクが高くなり、好ましくないからである。
【0032】
本実施形態において使用する還元剤としては、有機系及び無機系のいずれでもよいが、反応生成物が電池反応に対して無害なものとなりやすい点で、有機系還元剤が好ましい。有機系還元剤としては、例えば、アルコール類(メタノール、イソプロピルアルコール等)、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等)、カルボン酸類(ギ酸、シュウ酸等)、フェノール類(カテコール等)、還元糖(グルコース等)などの有機化合物がある。アスコルビン酸やヒドロキシルアミンなどの有機化合物も還元性を有するため、有機系還元剤として使用可能である。また、無機系還元剤としては、例えば、ヒドラジン類(ヒドラジン等)、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム等)などの無機化合物がある。ここに列挙した有機化合物及び無機化合物は、いずれも組成中に重金属を含まず、反応生成物も電池反応に対して無害であり、放電性能に悪影響を及ぼさないという点で、好適である。
【0033】
本実施形態の正極合剤は、例えば、下記のような手順を経て製造することができる。
【0034】
還元剤が粉体等のような固体である場合には、混合工程において乾式混合を行う。具体的には、図2のフローチャートに示すように、まず、正極活物質である適量の二酸化マンガンと、導電材である適量の黒鉛とを含有する材料に、適量の還元剤を添加して乾式混合する。このとき、必要に応じて適量のバインダを添加してもよい。乾式混合後、前記混合材料にさらに適量のアルカリ電解液を添加して湿式混合し、さらに従来周知の方法に準じて圧延、造粒、篩別を行い、正極合剤を得る。なお、得られた正極合剤を金型により円筒状に成形すれば、正極缶21内に圧入装填可能な正極合剤成形体31が作製される。このような混合方法によれば、固体状の還元剤を二酸化マンガン、導電材等と均一にかつ確実に混合することができる。それゆえ、二酸化マンガンの表面電位にばらつきが生じにくくなり、放電性能を向上させるうえで有利になる。
【0035】
還元剤が液体または水溶性である場合には、混合工程において湿式混合を行う。具体的には、図3のフローチャートに示すように、まず、正極活物質である適量の二酸化マンガンと、導電材である適量の黒鉛とを含有する材料を乾式混合する。このとき、必要に応じて適量のバインダを添加してもよい。乾式混合後、前記混合材料にさらに適量のアルカリ電解液とともに適量の還元剤を添加して湿式混合する。そして、従来周知の方法に準じて圧延、造粒、篩別を行い、正極合剤を得る。なお、得られた正極合剤を金型により円筒状に成形すれば、正極缶21内に圧入装填可能な正極合剤成形体31が作製される。このような混合方法によれば、液体状または水溶性の還元剤を二酸化マンガン、導電材等と均一にかつ確実に混合することができる。それゆえ、二酸化マンガンの表面電位にばらつきが生じにくくなり、放電性能を向上させるうえで有利になる。
【0036】
なお、二酸化マンガンに対する還元剤の添加量はごく少量でよく、例えば、二酸化マンガン1当量に対して還元剤を0.02当量以上0.20当量以下の範囲で添加することが好ましい。還元剤を上記の好適な分量で添加すれば、放電性能を損なわない程度に二酸化マンガンの活性を低下させることができるからである。
【0037】
このような正極合剤成形体31を用いてアルカリ電池11を構成した場合、負極電解液中の酸化亜鉛濃度が1重量%以上5重量%以下の範囲とすることが好ましく、この範囲内としておけばJISに規定された所望の開路電圧(1.60V以上1.65V以下)を達成しやすくなる。
【0038】
以下、本発明の実施形態をより具体化した実施例を説明する。
[実施例a]
A.試作例の作製及び評価試験の方法
【0039】
ここでは、まず、正極活物質である二酸化マンガン、導電材である黒鉛、バインダであるポリアクリル酸、電解液である水酸化カリウム水溶液を混合、圧延、造粒、篩別することによりアルカリ電池用正極合剤を作製し、さらにこれを加圧成形して中空円筒状の正極合剤成形体31とした。なお、二酸化マンガン電位(vs.Hg/HgO(40wt%KOH))、還元剤の種類、還元剤の添加量などを任意に変更することで、複数の試作例(従来例1,2、実施例1〜5、比較例1〜4)を作製した。
【0040】
そして次に、上記の正極合剤成形体31を用いて、下記の手順で単3形(LR6)のアルカリ電池11を作製した。まず、有底円筒形状の正極缶21内に正極合剤成形体31を圧入装填し、その正極合剤成形体31の内側に有底円筒状に成形されたセパレータ41を装填した。次に、そのセパレータ41の中空部に、電解液である水酸化カリウム水溶液を注入するとともに、亜鉛合金粉末、ゲル化剤、水酸化カリウム水溶液を主材料とするゲル状負極合剤51を充填した。この後、発電要素を収容した正極缶21の開口部を集電体60で封口し、アルカリ電池11の試作例とした。なお、特に断らない限り、製作条件は同一にした。
【0041】
得られた試作例については下記の条件で放電性能評価試験を行った。なお、各々の評価用サンプルはn=5とし、それらの持続サイクル数の平均値を算出した。そして、これらの値を、従来例1における初度の放電性能(持続サイクル数)を100とした場合の相対値で示して比較した。その結果を表1に示す。
・保存条件:初度及び60℃20日保存後
・放電条件:(1500mW 2秒/650mW 28秒)×10サイクル/時間
・終止電圧:1.05V ・放電温度:20℃
【0042】
B.評価試験の結果
【表1】

【0043】
(1)従来例1,2
還元剤未添加の場合、高電位(300mV)の二酸化マンガンを使用した実施例1では、開路電圧が1.68Vとなり、JIS等における開路電圧の規格外となった。なお、実施例1の初度における放電性能を100としたところ、保存後の放電性能は70となった。また、低電位(240mV)の二酸化マンガンを使用した実施例2では、開路電圧が1.62VとなりJIS等における開路電圧の規格内となったが、初度における放電性能が実施例1と比較して低調(90)となった。
【0044】
(2)実施例1〜3
実施例1〜3では、正極合剤に添加する還元剤として、4電子還元剤の一種であるエタノールを使用した。二酸化マンガン1当量(1モル)に対して、エタノール0.02当量〜0.20当量(0.005モル〜0.050モル)を添加した結果、開路電圧は1.60V〜1.65Vとなり、JIS等における開路電圧の規格内となった。初度の放電性能については99〜100となり、いずれも従来例1の初度の放電性能と同等であった。また、保存後の放電性能については、従来例1では70であったのに対し、実施例1〜3では87〜89となり良好であった。
【0045】
(3)比較例1,2
比較例1,2でも、正極合剤に添加する還元剤としてエタノールを使用した。二酸化マンガン1当量(1モル)に対して、エタノール0.01当量(0.0025モル)を添加した比較例1では、開路電圧は1.66Vとなり、JIS等における開路電圧の規格外となった。初度の放電性能については従来例1の初度の放電性能と同等であったが、保存後の放電性能が実施例1〜3に比較して低調(78)であった。
【0046】
二酸化マンガン1当量(1モル)に対して、エタノール0.21当量(0.053モル)を添加した比較例2では、開路電圧は1.59Vとなった。保存後の放電性能については従来例2の保存後の放電性能と同等であったが、初度の放電性能に関しては従来例1の初度の放電性能に比べて低調であった。
【0047】
(4)実施例2,4,5
負極電解液中の酸化亜鉛濃度[酸化亜鉛/(酸化亜鉛+KOH+水)](重量%)を、1重量%〜5重量%の範囲とした結果、開路電圧は1.60V〜1.65Vとなり、JIS等における開路電圧の規格内となった。初度の放電性能については99〜101となり、いずれも従来例1の初度の放電性能と同等であった。また、保存後の放電性能については、従来例1では70であったのに対し、実施例2,4,5では87〜88となり良好であった。
【0048】
(5)比較例3,4
負極電解液中の酸化亜鉛濃度[酸化亜鉛/(酸化亜鉛+KOH+水)](重量%)を、0重量%(未添加)とした比較例3では、開路電圧は1.66Vとなり、JIS等における開路電圧の規格外となった。初度の放電性能については従来例1の初度の放電性能と同等であったが、保存後の放電性能については従来例2に比べて低調であった。また、ガス発生量が増加し、耐漏液性能が低下した。
【0049】
負極電解液中の酸化亜鉛濃度[酸化亜鉛/(酸化亜鉛+KOH+水)](重量%)を、6重量%とした比較例4では、開路電圧は1.59Vとなった。初度の放電性能については従来例1の初度の放電性能に比較べて低調であり、保存後の放電性能については従来例2に比べて低調であった。
【0050】
[実施例b]
A.試作例の作製及び評価試験の方法
基本的に実施例aの方法に準じて複数の試作例(実施例6〜8、比較例5,6)を作製した。そして、これらについて実施例aと同様の評価試験を行った。ただし、本実施例bでは還元剤の種類を変更していくつかの試作例を作製した。二酸化マンガンの電位は300mVとし、負極酸化亜鉛濃度は3重量%とした。その結果を表2に示す。
【0051】
なお、2電子還元剤としてイソプロピルアルコール(表中<2>で示す。)、アセトアルデヒド(表中<4>で示す。)、ギ酸(表中<5>で示す。)、シュウ酸(表中<6>で示す。)、カテコール(表中<7>で示す。)、亜硫酸ナトリウム(表中<9>で示す。)を添加し、4電子還元剤としてホルムアルデヒド(表中<3>で示す。)、ヒドラジン(表中<8>で示す。)を添加し、6電子還元剤としてメタノール(表中<1>で示す。)を添加した。二酸化マンガン1モルに対し、n電子還元剤xモルを添加した場合、還元剤の添加量が(n×x)当量であるとして計算した。
【0052】
B.評価試験の結果
【表2】

【0053】
(1)実施例6〜8
二酸化マンガン1当量(1モル)に対して、n電子還元剤0.02当量〜0.20当量(0.02/nモル〜0.20/nモル)を添加した場合、開路電圧は1.60V〜1.65Vとなり、JIS等における開路電圧の規格内となった。初度の放電性能については99〜100となり、いずれも従来例1の初度の放電性能と同等であった。また、保存後の放電性能については、従来例1では70であったのに対し、実施例6〜8では87〜89となり良好であった。
【0054】
(2)比較例5,6
二酸化マンガン1当量(1モル)に対して、n電子還元剤0.01当量(0.01/nモル)を添加した場合、開路電圧は1.66Vとなり、JIS等における開路電圧の規格外となった。初度の放電性能については従来例1の初度の放電性能と比べて同等であったが、保存後の放電性能については従来例2と比べて低調であった。
【0055】
二酸化マンガン1当量(1モル)に対して、n電子還元剤0.21当量(0.21/nモル)を添加した場合、開路電圧は1.59Vとなった。初度の放電性能については従来例1の初度の放電性能と比べて低調であったが、保存後の放電性能については従来例2と同等であった。
【0056】
[結論]
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0057】
(1)本実施形態では、混合工程の際に材料に還元剤を添加した後、圧延造粒工程を行うことで正極合剤を製造している。このため、還元剤が二酸化マンガンの表面に作用することで表面電位が下げられる。混合工程において二酸化マンガンは単独で存在するのではなく少なくとも黒鉛と共存しているため、還元剤が二酸化マンガン粒子の表面の全体に作用するのではなく部分的に作用する。その結果、放電性能を損なわない程度に二酸化マンガンの活性を低下させることができる。従って、初度ばかりでなく保存後の放電性能についても良好なアルカリ電池用正極合剤を得ることができる。
【0058】
(2)しかも、本実施形態の製造方法によれば、既存の混合工程において還元剤を添加することで足りるため、表面電位調整工程などが不要であり、工数増、コスト高を回避することができる。
【0059】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、本発明を正極活物質として二酸化マンガンを含有するものに具体化したが、二酸化マンガン以外の活物質(例えば、オキシ水酸化ニッケル、酸化銀など)を含有するものに具体化してもよい。
【0061】
・上記実施形態では、本発明をLR6(単3形)の円筒形アルカリ電池に具体化したが、他のタイプの円筒形アルカリ電池、例えば、LR20(単1形)、LR14(単2形)、LR03(単4形)、LR1(単5形)などに具体化してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、アルカリ電池用正極合剤をあらかじめ中空円筒状に成形して正極合剤成形体31を作製し、これを正極缶21内に圧入装填することでアルカリ電池11を作製したが、これとは異なる製造方法を採用してもよい。例えば、正極缶21内に未成形のアルカリ電池用正極合剤を入れ、この状態で正極合剤を突き固めて中空円筒状にする、という方法でもよい。
【0063】
・封口ガスケット81の構造は上記実施形態に限定されず、これとは異なる構造を有する封口ガスケットを使用しても勿論構わない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を具体化した一実施形態のアルカリ電池を示す断面図。
【図2】実施形態における正極合剤の配合例を説明するための図。
【図3】実施形態における正極合剤の別の配合例を説明するための図。
【符号の説明】
【0065】
11…アルカリ電池
21…正極缶
31…正極合剤成形体
41…セパレータ
51…ゲル状負極合剤
60…集電体
61…負極端子板
71…集電棒
81…封口ガスケット
82…ボス部
82a…ボス孔
83…周縁パッキング部
84…屈曲部
85…中間隔壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料を混合して混合物を得る混合工程を行った後、前記混合物を圧延して造粒する圧延造粒工程を行うアルカリ電池用正極合剤の製造方法であって、前記混合工程の際に前記材料に二酸化マンガンを還元する還元剤を添加することを特徴とするアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程では、正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料に前記還元剤を添加して乾式混合することを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程では、正極活物質である二酸化マンガン及び導電材である黒鉛を少なくとも含有する材料を乾式混合した後、その材料にアルカリ電解液とともに前記還元剤を添加して湿式混合することを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤として、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、フェノール、ヒドラジン及び亜硝酸塩の中から選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【請求項5】
前記二酸化マンガン1当量に対して、前記還元剤を0.02当量以上0.20当量以下の範囲で添加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルカリ電池用正極合剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法を経て製造された正極合剤を使用したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項7】
負極電解液中の酸化亜鉛濃度が1重量%以上5重量%以下の範囲であることを特徴とする請求項6に記載のアルカリ電池。
【請求項8】
開路電圧が1.60V以上1.65V以下の範囲であることを特徴とする請求項6または7に記載のアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−80397(P2010−80397A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250335(P2008−250335)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】