説明

アルカリ電池

【課題】 重負荷の用途に適した電池において、電池反応が早いことにより生じるガス発生を抑制し、実用上ガス発生に問題なくかつ重負荷放電性能のすぐれたアルカリ電池を実現する。
【解決手段】 本発明のアルカリ電池は、無汞化亜鉛合金粉末とゲル化剤及びアルカリ電解液を含むゲル状亜鉛負極を備えたアルカリ電池において、前記無汞化亜鉛合金粉末として、75μm以下の粒子の比率を7質量%以下とし、かつ、106μm以下の粒子の比率を22〜40質量%の範囲とし、更に425μm以上の粒子を除去することにより、高容量化および重負荷パルス特性を向上させ、ガスの発生を抑止するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池に関し、詳しくは無汞化亜鉛合金粉末を用いたゲル状亜鉛負極を備えたアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ電池の負極作用物質としては、亜鉛の腐食によるガス発生の抑制及び電気特性の向上を目的として、汞化亜鉛合金粉末が用いられていたが、近年、使用済み電池による環境汚染が問題視されるようになってきたことから低公害化が社会的な要望となり、亜鉛合金粉末を無汞化(無水銀)にするための亜鉛合金組成や防食剤(インヒビター)等の研究が進められ、ついに実用上ガス発生に問題のない無水銀アルカリ電池用ゲル状亜鉛負極が開発されるに至っている。そして、これまでの種々の検討の結果、亜鉛粉末の粒径は、ガス発生速度が大きくなる75μm以下の微紛および充填作業性が悪くなる500μmを超える粗目を極力除去して使用しているのが現状である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平07−169463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アルカリ電池は、近年の携帯用機器の増加により、デジタルスチルカメラ、ポータブルMDプレーヤー等により重負荷用途に使用される機会が増大してきた。一方、ヘッドホンステレオ、携帯用ゲーム機器等の軽負荷用途の需要も依然としてあるために、高容量かつ重負荷放電に対応した電池が強く求められている。
【0004】
ところで、これまで、重負荷用途に適したアルカリ電池は、電池反応が早く、重負荷が電池に印加された場合、速やかにこれに応答して電力を供給することが可能となっている。しかしながら、このように反応が速い電池は、同時にガス発生が顕著になるという特性を有している。一方、ガス発生が少ない電池は、電池反応が遅く、重負荷の用途に適していないという、相反する性質があった。
【0005】
本発明は、アルカリ電池における上述の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、実用上ガス発生に問題がなく高容量で重負荷放電性能の優れたアルカリ電池を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、無汞化亜鉛合金粉末とゲル化剤およびアルカリ電解液を含むゲル状亜鉛負極を備えたアルカリ電池において、前記無汞化亜鉛合金粉末は、75μm以下の粒子の比率が7質量%以下であり、かつ、106μm以下の粒子の比率が22〜40質量%の範囲であり、更に425μm以上の粒子が除去される構成になっている。この構成により、高容量化および重負荷パルス特性が向上すると共にガスの発生が抑止される。
【0007】
上記本発明においては、電池の重負荷パルス特性は、亜鉛粉末の表面積による影響を大きく受けるため、75μm以下の亜鉛比率を増加させることで、表面積を増大させ特性を向上させることができるが、同時に粘度が高くなりゲル状亜鉛負極の電池内への充填量のバラツキが大きくなる。
そこで、75μm以下の亜鉛を篩分により除去し、かつ、425μm以上の粒径の亜鉛粉を篩い分けにより除去し、そして亜鉛合金粉末の分級・配合を行い特定の粒径分布の亜鉛粉末を原料とすることにより、ゲル状亜鉛負極の充填作業性に問題を生じさせないで、ガス発生を抑止し、重負荷パルス特性を向上することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、アルカリ電池の製造においてその作業性に問題なく、ガス発生を抑制し、高容量であり重負荷パルス放電性能に優れた電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の電池の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明をいわゆるインサイドアウト構造(電池缶体が正極側、電池蓋側が負極側となっている構造)と呼ばれているJIS規格のLR6形(単3形)の電池に応用した例である。
【0010】
図1において、アルカリ電池の正極端子を兼ねる有底円筒形の金属缶1の内部には、中空円筒状に成形された正極作用物質を含有する正極合剤2が金属缶1の内面に接触するように収容されている。この正極合剤2の中空内部には有底円筒状のセパレータ3を介して、ゲル状亜鉛負極4が充填されている。そして、このゲル状亜鉛負極4には黄銅製の金属棒からなる負極集電棒5が挿着され、この負極集電棒5の一端はゲル状亜鉛負極4の表面から突出してリング状金属板7及び陰極端子を兼ねる金属封口板8に電気的に接続されている。そして、正極となる金属缶1内面と、負極集電棒5の突出部外周面には、二重環状のポリアミド樹脂からなる絶縁ガスケット6が配設され、これらは絶縁されている。また、金属缶1の開口部はかしめられて液密に封止されている。
【0011】
以下に、本実施の形態で用いられる負極材料、セパレータ、正極合剤、及び電解液について詳細に説明する。
【0012】
(負極材料)
本実施の形態で用いられるゲル状亜鉛負極4の負極材料は、負極作用物質である亜鉛合金を主成分とする負極材料であり、公知の二酸化マンガン−亜鉛一次電池で使用されている亜鉛ゲルを用いる。この負極材料をゲル状とするためには、負極作用物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化することができる。
【0013】
本発明においては、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いる。具体的には、インジウム0.01〜0.06質量%、ビスマス0.005〜0.02質量%、アルミニウム0.0035〜0.015質量%を含む亜鉛合金が、水素ガス発生の抑制効果があり望ましい。そして、上記インジウム、ビスマスは放電性能を向上させる。本発明の亜鉛合金としては、特にインジウム0.02質量%、ビスマス0.01質量%、アルミニウム0.01質量%を含む亜鉛合金が好適である。
負極作用物質として上記亜鉛合金を用いる理由は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を適宜にし、密閉系の電池製品とした場合の電池内部での水素ガス発生を抑制して、漏液による事故を防止するためである。
【0014】
また、亜鉛合金の形状は、表面積を適宜に大きくして大電流放電にも対応できるような粉末状とし、無汞化亜鉛合金粉末の好ましい粒径分布は、上記粉末の分級・配合により、前述の通り75μm以下の粒子(微小径粒子)の比率を7質量%以下とし、106μm以下の粒子(前記微小径粒子と小径粒子(75μm〜106μm)の合計)の比率を22〜40質量%の範囲とし、更に425μm以上の粒子(大径粒子)を除去している。従って、微小径粒子と小径粒子の合計量である22〜40質量%の残部である60〜78質量%は、中径粒子(106μm〜425μm)である。ここで、無汞化亜鉛合金粉末は、その原料となる無汞化亜鉛合金をいわゆるアトマイズ法により粒子状にした後、JIS規格による所定のサイズを有する篩にかけることによって容易に作製することができる。
【0015】
また、本実施の形態において用いられるゲル化剤(増粘剤)としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸などを用いることができる。特に、ポリアクリル酸が、強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0016】
(セパレータ)
本実施の形態で用いられるセパレータは、セルロース系繊維と、ポリビニルアルコール系繊維とからなっている。これらの繊維においては、セルロース系繊維が、アルカリ電解液との親和性がよいため、保液性を高めるために用いられ、一方、ポリビニルアルコール系繊維は、耐アルカリ性に優れており、セパレータ紙の基本骨格を形成するために用いられるもので、これらを併用することによって好適なセパレータが得られる。ここで、セルロース系繊維とは、セルロース繊維、アセチルセルロース繊維、マーセル化パルプ、レーヨン、ポリノジックレーヨンなどを単独でもしくは混合して用いることができる。また、ポリビニルアルコール系繊維(PVA系繊維)としては、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維などを単独でもしくは混合して用いることができる。
そして、これらのセルロース系繊維およびポリビニルアルコール系繊維をそれぞれ複数種混抄して製造したセパレータが本発明の目的に適した特性を有するため好ましく、特にマーセル化パルプ、レーヨン、ビニロン、およびポリビニルアルコール繊維の混抄物が、セパレータ紙の保液性と強度とをバランスよく両立させることが可能になるという理由からもっとも好ましい。
【0017】
また、上記繊維の構成比が、質量比で35:65〜75:25の範囲とすることが必要である。さらに、これらの構成比が、50:50〜70:30の範囲がより好ましい。セルロース系繊維がこの範囲を上回ると、保液力が大きくなるものの、膨潤も合わせて過大となり、作用物質を収容する電池の内容積が減少してしまう。一方、ポリビニルアルコール系繊維が、上記範囲を上回ると、保液力が低下し、内部電気抵抗が増加して電池容量の低下につながる。
【0018】
本実施の形態においては、このセパレータ紙の保液率は、400〜600質量%の範囲が望ましい。この保液率が、この範囲を下回った場合、電池の内部抵抗が増加して、電池容量の低下につながる。一方、保液率が上記範囲を上回った場合、繊維の膨潤などにより電池内部の容積を過大に占めることになり、電池容量の低下に結びつく。
【0019】
そして、これらのセルロース系繊維とポリビニルアルコール系繊維は、それぞれの繊維を混合して抄紙してもよいし、それぞれを個別に抄紙した後、張り合わせてもよい。そして、これらのセパレータ紙の最大気孔径は、10〜50μmの範囲が望ましい。最大気孔径がこの範囲を下回った場合、電解液の流通の抵抗となり、イオン電導性が低下して、電池の内部抵抗が増大し放電容量が低下する。一方、最大気孔径がこの範囲を上回った場合、作用物質粒子が対極に移動しやすく、電気ショートの原因となり、電池寿命を低下させる。
【0020】
このセパレータ紙を用いてセパレータとするには、セパレータ紙を捲回し、底部を接着して有底円筒状に形成する。この際、捲回セパレータ紙の側部を接着しても差し支えない。この接着は、セパレータ紙を成形した後熱接着してもよいし、また、接着剤を使用してもよい。接着剤を使用する場合には、耐薬品性のある接着剤である必要がある。
ここで、このセパレータ紙を捲回する際に、3重もしくは4重に重ね合わさるように捲回する必要がある。捲回数が2重以下の場合、作用物質粒子移動防止の機能が発揮されず、電気ショートの原因となる。一方、捲回数が5重以上の場合、極間距離が大きくなり、内部抵抗が増加して好ましくない。
また、本実施の形態において捲回したセパレータの合計の厚さが、0.2〜0.4mmの範囲である必要がある。このセパレータの合計厚さが、この範囲を下回った場合、セパレータ紙としては、機械的強度が十分ではなく、捲回作業が困難になる。一方、セパレータ厚さが上記範囲を上回った場合、電池の極間距離が増加して、内部抵抗が増加することになり好ましくない。
【0021】
(正極合剤)
本実施の形態において、正極合剤は、従来の二酸化マンガンを主体とする正極合剤でもよいし、近年重負荷特性に優れている電池として知られているオキシ水酸化ニッケル系化合物を主体とする正極合剤であってもよい。
以下オキシ水酸化ニッケル系化合物を用いた正極合剤について説明する。正極合剤は、オキシ水酸化ニッケル化合物粒子からなる正極作用物質、黒鉛からなる導電材、およびアルカリ電解液、また必要に応じてポリエチレン、ポリプロピレンなどのバインダなどを混合し、プレスにより、その外径が金属缶の内径にほぼ等しい中空円筒形状に成形して製造される。そして、成形された正極合剤は、正極作用物質粒子、および導電材粒子が相互に結着し、粒子間の粒界には電解液が充填されている。
【0022】
本実施の形態において用いられる前記正極作用物質であるオキシ水酸化ニッケル化合物は、水酸化ニッケルを一部酸化した化合物であり、ニッケル原子の価数が3価のγ−オキシ水酸化ニッケルでもよいし、水酸化ニッケルのニッケル原子の価数である4価のニッケル原子と、完全にオキシ水酸化物となっているニッケル原子の3価の中間的な価数を持っている化合物であってもよい。このオキシ水酸化ニッケル化合物粒子の表面は、オキシ水酸化コバルト、三酸化二コバルト、一酸化コバルト、水酸化コバルト、金属ニッケル、金属コバルトより選ばれる少なくとも一つの物質により被覆されている。
このオキシ水酸化ニッケル化合物粒子表面が電気伝導度の高い物質により被覆されることで、正極全体の電気伝導性が高まり、放電容量、高率放電特性を向上させる。これらの物質の内でも、オキシ水酸化コバルト、金属ニッケル、金属コバルトを用いることが、より導電性が高いという理由で好ましい。
かかる被覆層の量は、正極作用物質に対して、2〜6質量%の範囲が望ましい。被覆層の量がこの範囲を上回ると、コスト高の問題が生じ、またこの範囲を下回ると、集電性低下の問題が生じて好ましくない。
【0023】
さらに、正極作用物質であるオキシ水酸化ニッケル化合物自体が、亜鉛もしくはコバルト単独あるいはその両方と共晶しているものであってもよい。この正極作用物質は低電解液比率でも安定した放電が行えるという特徴を有している。このオキシ水酸化ニッケル化合物に共晶させる亜鉛もしくはコバルトの量としては、4〜12%の範囲が好ましい。亜鉛の量がこの範囲を下回ると、利用率低下の問題が発生し、またこの範囲を上回ると、比重低下により容量密度が低下する問題があるからである。
【0024】
また、上記オキシ水酸化ニッケル化合物正極作用物質に、Y、Er、Yb、Caの化合物を添加することにより、貯蔵時の容量維持率を改善することができる。本実施の形態において用いられる上記化合物としては、例えばY、Er、Yb、などの金属酸化物、およびCaFなどの金属フッ化物があげられる。これらの金属酸化物および金属フッ化物は、正極作用物質であるオキシ水酸化ニッケル化合物に対して、0.1〜10質量%の範囲で用いることができる。金属酸化物もしくは金属フッ化物の配合量が上記範囲を下回った場合、十分な効果が得られない。一方配合量が上記範囲を上回った場合、容量低下の問題が発生し好ましくない。ここで、オキシ水酸化ニッケル化合物に金属酸化物あるいは金属フッ化物を添加するには、水性媒体に分散したニッケル水酸化物粒子に、上記金属酸化物粒子もしくは金属フッ化物粒子を添加することにより製造することができる。
【0025】
上記正極作用物質は、次の方法によって製造することができる。すなわち、亜鉛及びコバルトをドープした水酸化ニッケル粒子に、水酸化コバルトを添加し、大気雰囲気中で攪拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する。引き続きマイクロウェーブ加熱を施すことにより水酸化ニッケル表面にコバルト高次酸化物の層が形成された複合水酸化ニッケル粒子が生成する。
そして、この反応系に次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を添加して酸化を進め、コバルト高次酸化物が被着した複合オキシ水酸化ニッケルを製造することができる。これによって導電性が極めて優れた正極作用物質を得ることができる。
【0026】
また、前記正極合剤中に炭素粒子を配合し導電性を改善する。炭素粒子として、平均粒径が5〜40μmの黒鉛を用いる。その理由は、平均粒径が、この範囲を下回った場合には、本来黒鉛が持っている正極合剤成分を結着する能力が低下し、成形した正極合剤の強度が低下して電池製造の作業性に問題があるばかりでなく、正極合剤の導電性が低下するからである。一方、黒鉛の平均粒径が上記範囲を上回った場合、作用物質の粒子と比較して径が大きくなるため、導電性が低下するからである。
そして、本実施の形態においては、前記正極合剤中のかかる黒鉛粒子の含有量を10質量%以下とすることが望ましい。正極合剤中の黒鉛粒子の含有量を大きくしすぎると、限られた金属缶の容積中に充填することのできる正極作用物質量自体が減少することと、黒鉛粒子が酸化されて生じる炭酸イオンが自己放電を加速して、放電容量が減少するからである。
そのためには、正極合剤中の炭素粒子の含有量は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。
【0027】
(電解液)
本実施の形態で用いられる電解液は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ物質を電解質として用いた水溶液が好ましく、特に、水酸化カリウムを電解質として用いることが、好ましい。また、上記水酸化カリウムなどの電解質を水に溶解して電解液とするが、さらに電解液中に亜鉛化合物を添加することが望ましい。かかる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛などの化合物が挙げられるが、特に酸化亜鉛が好ましい。
【0028】
電解液として少なくとも亜鉛化合物を含有するアルカリ性水溶液を用いるのは、アルカリ性水溶液中での亜鉛合金の自己溶解が酸性系の電解液と比較して格段に少なく、更には亜鉛合金のアルカリ性電解液中での自己溶解を亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛を溶解して亜鉛イオンを予め存在させておくことにより更に抑制するためである。
電解液の濃度は、7〜11mol/lの範囲とすることが、高い電気導電率を得るために最適である。
【実施例】
【0029】
以下のようにして、単3形アルカリ電池を試作し、それぞれのガス発生量、ゲル状亜鉛負極素材のゲル粘度および電池の放電性能を比較評価した。ここで、試作品(試験例)の作製では、亜鉛合金粉末の粒径を適宜に分級・配合し、配合率の異なる15種類のゲル状亜鉛の負極材料を調製した。そして、その15種類の負極材料を負極作用物質とし、その他は同じ構成で単3形アルカリ電池をそれぞれ100個作製した。
【0030】
(負極の作製)
JIS規格のサイズの網目を有する篩により、亜鉛合金粉末の75μm以下と425μm以上を篩い分けて除去し、別途篩い分けし分級した75μm以下の亜鉛粒子、75μmを超え106μm以下となる亜鉛粒子を種々に配合し、下記表1に示す試験例15種類の粒径分布の負極原料粉末を作製した。これに、アルカリ電解液(40%KOH、4%ZnO)とゲル化剤を加えて混合してゲル状亜鉛負極を調製した。ここで、亜鉛合金粉末は、インジウム0.02質量%、ビスマス0.01質量%、アルミニウム0.01質量%を含む亜鉛合金をアトマイズ法で粒子状にしたものである。
(正極の作製)
オキシ水酸化コバルトにより被覆されたオキシ水酸化ニッケル粉末90質量%に対して、黒鉛粉末5.4質量%を10分間混合し、これに、40質量%濃度の水酸化カリウム水溶液4.6質量%を添加し、汎用混合器で30分間混合し、混合粉末を得た。これを外径13.3mm、内径9.0mm、高さ13.7mmの中空円筒状に加圧成形し、正極合剤ペレットを得た。
【0031】
(セパレータの作製)
セルロース系繊維とポリビニルアルコール系繊維を、質量比で35:65の割合で混合し、抄紙して、厚さ0.1mmのセパレータ紙を作製した。このセパレータ紙の保液率を測定した結果、403質量%であった。また、最大気孔径は、30μmであった。
このセパレータ紙を、3重に捲回し、底部に厚さ0.3mmの円形のセパレータ紙を接着して、有底円筒状のセパレータを作製した。この捲回部の厚さは0.3mmであった。
【0032】
(電池の組立)
図1において、金属缶1内には円筒状に加圧成形した正極合剤ペレットを3個積み重ねた状態で、再度加圧成形し正極合剤2を9.0g充填した。また、正極合剤2の中空部には、上記方法によって得た有底円筒状のセパレータ3を介して前記方法で製造した15種類のゲル状亜鉛負極をそれぞれに充填し、それぞれ異なるゲル状亜鉛負極4を形成した。ゲル状亜鉛負極4内には真鍮製の負極集電棒を、その上端部をゲル状亜鉛負極4より突出するように挿着した。負極集電棒5の突出部外周面及び金属缶1の上部内周面には二重環状のポリアミド樹脂からなる絶縁ガスケット6を配設した。また、絶縁ガスケット6の二重環状部の間にはリング状金属板7を配設し、かつ金属板7には負極端子を兼ねる帽子形の金属封口板8が集電棒5の頭部に当接するように配設した。そして、金属缶1の開口縁を内方に屈曲させることによりガスケット6および金属封口板8で金属缶1内を密封口した。このようにして製造された15種類の異なるゲル状亜鉛負極4を用いて図1に示す15種類の単3形アルカリ電池を試作品として組み立てた。
【0033】
(評価)
上記工程で作製したゲル状亜鉛負極の充填作業性及びガス発生速度を測定し、さらにこれを用いて作製した電池について、1000mAの電流で10秒間放電、50秒間開放のサイクルを繰り返す(1000mA10s-on/50s-offテストと略称する)パルス放電試験を実施した。そして、15種類の試作品のそれぞれ10個の平均値を求めた。その結果を表1に示している。なお、表1では、試験例1を100とした相対値で示している。表1の試験例では、106μm以下の粒子比率から75μm以下の粒子比率を差し引いた値が、75μmを超え106μm以下となる亜鉛粒子の配合比率になる。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果から明らかなように、75μm以下の微小径粒子比率を7質量%に固定し、75μmを超え106μm以下となる小径の亜鉛粒子の配合比率を7〜33質量%に増加させていくと、試験例1〜11に見られるように、ガス発生量は僅かに増加していく。そして、小径粒子が38〜43質量%含まれている試験例12、13においてその増加量が顕著になってくる。また、小径粒子が7〜33質量%含まれている試験例1〜11までは、ゲル状亜鉛負極のゲル粘度は単調に増加し、試験例12、13において、ゲル粘度が急増するようになる。そして、試験例14,15に示すように、75μm以下の微小粒子比率を7質量%を超えて高くすると、上記ガス発生量およびゲル粘度が共に大きく増加する。ところで、前述のゲル粘度の上昇はゲル状亜鉛負極の充填作業性に大きく影響を及ぼしている。すなわち、電池内へのゲル状亜鉛負極の充填は、ゲル状亜鉛負極を注入ノズルを用いて電池内へ所定量吐出・注入を間欠的に行っているが、ゲル状亜鉛負極内に残留する気体成分の膨張圧縮による影響が、ゲル粘度が上昇すると顕著にあらわれ、ゲル状亜鉛負極の電池内への充填時に、ゲル状亜鉛負極の定量的な吐出・注入が不安定となり、電池内への充填量のばらつきが生じる結果となる。この注入量のばらつきは電池容量などの性能に影響を及ぼすことから、厳密に管理しており、上記不安定要因を解決するために、慎重な作業を必要とすることから、作業性が大きく損なわれることになる。
【0036】
このように、上記ガス発生量の低減、ゲル状亜鉛負極のゲル充填作業性の観点から、微小粒子径の粒子が7質量%以下で、微小粒子径と小粒子径の粒子の合計量が40質量%以下である試験例1〜11で作製したアルカリ電池が好ましいことが判る。
【0037】
また、これらのアルカリ電池試作品の放電性能では、小粒子径粒子の含有比率が7〜13質量%である試験例1〜4までは、その持続時間は可成り急激に増加するが、十分に改善されているとはいえず、一方小粒子径粒子が15質量%の比率で含まれている試験例5に示すような電池では持続時間テストの相対値が110%を越え、それ以降は余り増加しなくなる。このために、放電性能の向上の観点からは、試験例5〜15に示すアルカリ電池が好ましいことが判る。
【0038】
そして、上述したゲル充填作業性、ガス発生の抑制および電池の重負荷放電性能の観点からして、亜鉛合金粉末の粒度分布が本発明の好ましい範囲である試験例5〜11が所期の目的を達成するに好適な条件を備えることが判る。
【0039】
なお、75μm以下の粒子比率を7質量%以下にし、それに併せて106μm以下となる亜鉛粒子が表1の試験例1〜11に示す値になるように、75μmを超え106μm以下となる亜鉛粒子の配合比率を増加させていくと、ガス発生量およびゲル粘度は共に表1の試験例11よりも低い値になる。また、その場合の放電性能は、試験例5よりも高い値を示すことが判明している。
【0040】
上述した結果から、亜鉛合金粉末を75μm、106μmおよび425μmの篩を用いて上記粒径分布となるように選別して使用することで、1000mA10s−on/50s−offのような重負荷パルス特性が改善される。そして、ガス発生が抑制されると共に、ゲル状亜鉛負極の粘度変化に与える影響も少なく良好なゲル充填作業性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例であるアルカリ電池の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 金属缶
2 正極合剤
3 セパレータ
4 ゲル状亜鉛負極
5 負極集電棒
6 絶縁ガスケット
7 リング状金属板
8 金属封口板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無汞化亜鉛合金粉末とゲル化剤およびアルカリ電解液を含むゲル状亜鉛負極を備えたアルカリ電池において、前記無汞化亜鉛合金粉末は、75μm以下の粒子の比率が7質量%以下であり、かつ、106μm以下の粒子の比率が22〜40質量%の範囲であり、425μm以上の粒子が除去されていることを特徴とするアルカリ電池。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−92892(P2006−92892A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276496(P2004−276496)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】