説明

アルカリ電池

【課題】ガス発生量を抑えつつ、パルス放電特性、重負荷放電特性及び軽負荷放電特性を向上することが可能なアルカリ電池を提供する。
【解決手段】40〜60質量%の水酸化ニッケル系化合物と60〜40質量%の二酸化マンガンとの混合物を含む正極4と、無汞化亜鉛合金粒子を含むゲル状負極6とを具備するアルカリ電池であって、前記無汞化亜鉛合金粒子は、最大粒径が710μm以下で、平均粒径d50が90〜210μmの範囲で、粒径75μm以下の粒子の比率が0〜40質量%の範囲で、かつ粒径210μm以上の粒子の比率が35〜50質量%の範囲であることを特徴とするアルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛アルカリ電池のようなアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉型アルカリ亜鉛一次電池のようなアルカリ電池の負極作用物質としては、亜鉛の腐食によるガス発生の抑制および電気特性の向上の観点から、水銀で亜鉛をアマルガム化した汞化亜鉛合金粉末が用いられていた。最近は、使用済み電池による環境汚染が問題視されるようになってきたことから低公害化が社会的な要望となり、亜鉛合金粉末を無汞化(無水銀)にするための亜鉛合金組成や防食剤(インヒビター)等の研究が進められ、すでに実用化されている。
【0003】
この無汞化亜鉛合金としては、鉛、ビスマス、インジウム、アルミニウム、カルシウムなどを含有する亜鉛合金が知られているが、近年鉛に対しても環境を汚染するおそれが大きいことから、鉛を排除する合金組成が検討され、インジウム、ビスマス、アルミニウムを含有する亜鉛合金が開発され使用されている。これらの亜鉛合金においては、負極からの水素ガス発生を各種改善によって抑制してきており、通常の使用において、ほとんど水素ガス発生は問題とならない段階に来ている。
【0004】
例えば特許文献1の図3には、水酸化ニッケル系化合物のみを正極作用物質とした場合、無汞化亜鉛合金粉末の最大粒径を710μm以下、平均粒径d50を90〜210μm、粒径75μm以下の粒子の比率を0〜40質量%、粒径210μm以上の粒子の比率をおよそ25質量%以下にすることによって、水素ガス発生量が抑えられ、かつパルス放電特性が向上されることが記載されている。
【0005】
また、水酸化ニッケル系化合物を正極作用物質として使用した正極合剤の製造については、例えば、特許文献2〜4に記載されている。
【特許文献1】特開2003−17077号公報
【特許文献2】特開平10−233229号公報
【特許文献3】特開平10−275620号公報
【特許文献4】特開平10−188969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ガス発生量を抑えつつ、パルス放電特性、重負荷放電特性及び軽負荷放電特性を向上することが可能なアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアルカリ電池は、40〜60質量%の水酸化ニッケル系化合物と60〜40質量%の二酸化マンガンとの混合物を含む正極と、無汞化亜鉛合金粒子を含むゲル状負極とを具備するアルカリ電池であって、
前記無汞化亜鉛合金粒子は、最大粒径が710μm以下で、平均粒径d50が90〜210μmの範囲で、粒径75μm以下の粒子の比率が0〜40質量%の範囲で、かつ粒径210μm以上の粒子の比率が35〜50質量%の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガス発生量を抑えつつ、パルス放電特性、重負荷放電特性及び軽負荷放電特性を向上することが可能なアルカリ電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、40〜60質量%の水酸化ニッケル系化合物と60〜40質量%の二酸化マンガンとの混合物を含む正極を使用する際、無汞化亜鉛合金粒子の最大粒径が710μm以下で、平均粒径d50が90〜210μmの範囲で、粒径75μm以下の粒子の比率が0〜40質量%の範囲で、かつ粒径210μm以上の粒子の比率が35〜50質量%の範囲であると、水素ガス発生量を抑えつつ、パルス放電特性、重負荷放電特性及び軽負荷放電特性が向上されることを見出したことに基づくものである。
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るアルカリ電池を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明をいわゆるインサイドアウト構造(電池缶体が正極側、電池蓋側が負極側となっている構造)と呼ばれている密閉型電池に応用した例である。
【0011】
正極缶(外装缶)1は、有底円筒状で、底面が外側に凸状に張り出しており、この凸部は正極端子2として機能する。また、正極缶1の開口端付近には、内方に突出した段差3(ビード部)が設けられている。正極缶1は、例えば、表面にニッケルメッキもしくはニッケル合金メッキが施された鋼板から形成されている。
【0012】
円筒形状の正極合剤4は、正極缶1内に収納され、その外周面が正極缶1の内周面と電気的に接している。有底円筒状のセパレータ5は、正極合剤4の中空部内に配置され、正極合剤4の内周面と接している。セパレータ5には、ポリビニルアルコール繊維等の親水性繊維から形成された不織布等を使用することができる。亜鉛を含む負極作用物質と電解液とを含有するゲル状負極6は、セパレータ5内に充填されている。
【0013】
正極缶1の開口部には二重環状構造の絶縁樹脂(例えばポリアミド樹脂)からなる絶縁ガスケット7が配置されている。例えば黄銅製の負極集電棒8は、絶縁ガスケット7の内側環状部に挿入され、先端部がゲル状負極6と接している。金属製ワッシャー9は、絶縁ガスケット7の内側環状部と外側環状部の間に配置されている。金属製で帽子形をなす負極端子板10は、負極集電棒8の頭部と電気的に接するように金属製ワッシャー9上に配置されている。正極缶1の開口部上端を内方に屈曲させることにより正極缶1に負極端子板10が絶縁ガスケット7を介してかしめ固定されている。
【0014】
以下に、ゲル状負極、正極、電解液について詳細に説明する。
【0015】
(ゲル状負極)
ゲル状負極は、負極作用物質である無汞化亜鉛合金粒子を主成分とし、これにゲル化剤およびアルカリ電解液などを添加することによりゲル化したものである。
【0016】
無汞化亜鉛合金は、現在通常用いられている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができ、例えば、インジウム0.01〜0.1質量%、ビスマス0.001〜0.05質量%、アルミニウム0.001〜0.01質量%を含む亜鉛合金が、水素ガス発生の抑制効果があり望ましいが、本発明において、負極作用物質はこれらの亜鉛合金に限定されるものではない。負極作用物質として純亜鉛ではなく亜鉛合金を用いる理由は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くし、密閉系の電池製品とした場合の電池内部での水素ガス発生を抑制して、漏液による事故を防止するためである。
【0017】
無汞化亜鉛合金の粒径の積算分布曲線の一例を図2に示す。図2において、横軸は粒径(μm)を表し、縦軸は積算量(質量%)を表す。図2に示す粒径分布を有する無汞化亜鉛合金粒子の最大粒径は、425μm以下である。線分A−Cは、粒径75μm以下の粒子の比率が0〜40質量%の範囲である領域を示している。特に、線分A−Bは、粒径75μm以下の粒子の比率が20〜40質量%の範囲である領域を示している。線分E−Fは、平均粒径d50が90〜210μmの範囲である領域を示している。また、線分D−Eは粒径210μm以上の粒子の比率が35〜50質量%である領域を示している。
【0018】
本実施形態で用いる無汞化亜鉛合金粒子は、積算分布曲線が線分A−Cと線分D−Eと線分E−Fの3つの線分と交差する。積算分布曲線が粒径75μmにおいて線分A−Cを通過しない場合、ガス発生が著しく、漏液するおそれが大きい。また、積算分布曲線が積算量50質量%において線分E−Fよりも左側を通過する場合も、ガス発生が著しく、漏液するおそれが大きい。一方、積算分布曲線が粒径210μmにおいて線分D−Eより上方の領域を通過する場合は、亜鉛合金粉末を電池内に多く充填することが困難になり、亜鉛合金粉末の絶対量が少なくなるため、軽負荷放電特性が低下する。積算分布曲線が粒径210μmにおいて線分D−Eより下方の領域を通過する場合には、亜鉛合金粉末が粗すぎて粒子同士の隙間が大きくなり、亜鉛合金粉末を電池内に多く充填することが困難になり、軽負荷放電特性が低下する。また、線分D−Eの下方の領域を通過し、かつ、線分A−C、特に線分A−Bを同時に通過するような亜鉛合金粉末の製造は困難で、歩留まりの点からも好ましくない。
【0019】
以上のことから、積算分布曲線が線分A−Cと線分D−Eと線分E−Fの3つの線分と交差する無汞化亜鉛合金粒子を使用する。また、積算分布曲線が粒径75μmにおいて線分A−Bよりも下方を通過する場合、十分なパルス放電特性を得られない恐れがある。よって、パルス放電特性、重負荷特性および軽負荷放電特性を向上させると共に、ガス発生による漏液を低減するために、積算分布曲線が線分A−Bと線分D−Eと線分E−Fの3つの線分と交差することがより望ましい。
【0020】
また、本実施形態において用いられるゲル化剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸などを用いることができる。特に、ポリアクリル酸が、強アルカリに対する耐薬品性に優れているために好ましい。このゲル化剤は、負極作用物質100質量部に対して、5〜10質量部の割合で配合して用いられることが望ましい。ゲル化剤の量を上記範囲内にすることによって、内部電気抵抗を上昇させることなく、ゲル状負極の粘度を液漏れ回避に必要な十分な大きさにすることができる。また、ゲル状負極に用いられるアルカリ電解液は、正極と負極のイオン伝導に用いるアルカリ電解液と同じものを用いることが望ましい。例えば、水酸化カリウムなどのアルカリ物質の水溶液を用いることが可能である。
【0021】
(正極)
正極作用物質には、40〜60質量%の水酸化ニッケル系化合物と60〜40質量%の二酸化マンガンとの混合物が用いられる。水酸化ニッケル系化合物の比率が40質量%より少ない場合、つまり二酸化マンガンの比率が60質量%より多い場合、重負荷放電特性が低下する。一方、水酸化ニッケル系化合物の比率が60質量%より多い場合、つまり二酸化マンガンが40質量%より少ない場合、軽負荷放電特性が低下する。よって、正極作用物質においては、水酸化ニッケル系化合物が40〜60質量%、二酸化マンガンが60〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
水酸化ニッケル系化合物は、オキシ水酸化ニッケル粒子を主体とするものが望ましい。さらに、亜鉛もしくはコバルト単独あるいはその両方を共晶しているオキシ水酸化ニッケル粒子は、低電解液比率でもその構造変化を少なくできるので好ましい。オキシ水酸化ニッケル粒子に共晶させる亜鉛もしくはコバルトの量としては、1〜7%の範囲が好ましい。共晶量を上記範囲にすることによって、ニッケル純度を低下させることなく、正極の膨潤を抑制することができる。
【0023】
また、水酸化ニッケル系化合物には、表面に高次コバルト化合物を被着させた複合オキシ水酸化物を使用しても良い。前記表面に被着するコバルト化合物としては、出発原料として、例えば、水酸化コバルト(Co(OH)2)、一酸化コバルト(CoO)、三酸化二コバルト(Co23)などをあげることができ、これを酸化処理してオキシ水酸化コバルト(CoOOH)、四酸化三コバルト(Co34)などの高導電性高次コバルト酸化物に転化させる。
【0024】
上記水酸化ニッケル系化合物は、例えば、次の方法によって製造することができる。亜鉛及びコバルトをドープした水酸化ニッケル粒子に、水酸化コバルトを添加し、大気雰囲気中で攪拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する。引き続きマイクロウェーブ加熱を施すことにより水酸化ニッケル表面にコバルト高次酸化物の層が形成された複合水酸化ニッケル粒子を生成させる。さらに、この反応系に次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を添加して酸化を進め、コバルト高次酸化物が被着した複合オキシ水酸化ニッケルを製造することができる。これによって導電性が極めて優れた正極作用物質を得ることができる。
【0025】
かかる際に用いるコバルト粒子あるいはコバルト化合物粒子は、比表面積が2.5〜30m2/gである水酸化コバルトを用いることが好ましい。コバルト粒子あるいはコバルト化合物粒子としてこの範囲のものを採用することによって水酸化ニッケルと水酸化コバルトとの接触面積が確保され、正極の利用率の向上につながる。このような正極合剤の製造については、前述した特許文献2〜4などに説明されており、本実施形態においてもこれらの正極合剤の製造方法を採用することができる。
【0026】
また、正極作用物質にY、Er、Yb、Caの化合物を添加することにより、貯蔵時の容量維持率を改善することができる。上記化合物としては、例えばY23、Er23、Yb23などの金属酸化物、CaF2などの金属フッ化物があげられる。これらの金属酸化物および金属フッ化物は、正極作用物質に対して、0.1〜2質量%の範囲で用いることができる。上記範囲にすることによって、容量を損なうことなく、貯蔵特性を改善することができる。
【0027】
本実施形態においては、正極の導電性を改善するために、正極に炭素粒子を含有させることが望ましい。かかる炭素粒子としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック等を用いることができる。配合量は、正極作用物質:炭素粒子=100:3〜10(質量比)の範囲が適切である。この配合量にすることによって、容量を損なうことなく、正極の電子電導性を向上させて出力特性を改善することができる。
【0028】
(電解液)
本実施形態で用いられる電解液は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ塩を溶質として用いた水溶液が好ましく、特に、水酸化カリウムを用いることが、好ましい。また、上記水酸化カリウムなどのアルカリ塩を水に溶解して電解液とするが、さらに電解液中に亜鉛化合物を添加することが望ましい。かかる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛などの化合物が挙げられるが、特に酸化亜鉛が好ましい。
【0029】
電解液として少なくとも亜鉛化合物を含有するアルカリ性水溶液を用いるのは、アルカリ性水溶液中での亜鉛合金の自己溶解が酸性系の電解液と比較して格段に少なく、更には亜鉛合金のアルカリ性電解液中での自己溶解を亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛を溶解して亜鉛イオンを予め存在させておくことにより更に抑制するためである。
【0030】
以上に記載したゲル状負極、正極、およびアルカリ電解液については、上記各成分以外に、アルカリ亜鉛一次電池において通常用いられている添加成分を採用することもできる。
【0031】
[実施例]
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0032】
(実施例1)
大気雰囲気で5% Zn、1% Coをドープした水酸ニッケル粒子100重量部に7重量部のCo(OH)2を加えて攪拌しながら、10N NaOHを15重量部噴霧しつつ、マイクロウェーブによる加熱によって表面にコバルト高次酸化物を配した複合水酸化ニッケル粒子を作製し、更にこの系に次亜塩素酸ナトリウムを加えて酸化を進め、コバルト高次酸化物を配した複合オキシ水酸化ニッケルとした。これが複合オキシ水酸化ニッケル粒子であることの確認は、XRDによる同定と、硫酸第一鉄アンモニウム/過マンガン酸カリウムの逆滴定でNiのほぼ総量が3価になっていることから確認した。またこの時の複合オキシ水酸化ニッケルのNi純度は、EDTA滴定並びにICP分析によって測定したところ54%であった。
【0033】
上記方法によって得られた複合オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンの混合物を正極作用物質とし、さらにカーボン及び電解液を添加して成形し正極合剤を形成した。正極合剤を形成する各成分の量は、正極合剤の成形強度などを考慮し、次の質量比で配合し、成形した。すなわち、複合オキシ水酸化ニッケル:二酸化マンガン:カーボン:アルカリ電解液(12N KOH水溶液)=50:50:6:5の配合割合が望ましい。この時の成形体密度は、3.22g/cm3程度であった。
【0034】
負極作用物質としては、インジウム0.06質量%、ビスマス0.014質量%、アルミニウム0.0035質量%を含む亜鉛合金で、図2において、曲線[1]で示される粒度分布を有する亜鉛合金粉末を用いた。すなわち、粒径の積算分布曲線が線分A−Bと線分D−Eと線分E−Fの3つの線分と交差する粒度分布を有する。最大粒径(μm)、平均粒径d50(μm)、粒径75μm以下の比率(質量%)及び粒径210μm以上の比率(質量%)を下記表1に示す。
【0035】
この負極作用物質をゲル化剤およびアルカリ電解液と混合して、負極合剤(ゲル状負極)を形成した。負極合剤の亜鉛ゲル組成は次の様な組成とした。すなわち、負極作用物質(上記亜鉛合金粉末):ゲル化剤(ポリアクリル酸ソーダ):アルカリ電解液(12N KOH水溶液)=100:1.5:55である。この時の亜鉛ゲルの密度は2.70g/cm3程度であった。
【0036】
また、実施例1において、セパレータに吸収させて用いるアルカリ電解液としては、12NのKOH水溶液を用いた。
【0037】
こうして得られた正極合剤、ゲル状負極およびアルカリ電解液を、図1に示す電池の正極缶に順次収納した後、集電体/ガス・リリース・ベントを具備した金属板/負極トップを、一体化した封口体でクリンプ封口して、図1に示すJIS規格のLR6形(単3形)の密閉型アルカリ亜鉛一次電池を作製した。
【0038】
こうして得られた密閉型アルカリ亜鉛一次電池について、以下に記載する方法によってガス発生量、漏液発生率、パルス放電特性、重負荷放電特性、および軽負荷放電特性の測定を行った。
【0039】
[ガス発生試験]
電池を2Ω負荷で1時間放電した後、60℃乾燥空気中に20日間貯蔵する。電池を分解し、内部に溜まったガスを水上置換により捕集する。捕集したガスの体積をガス発生量として評価した。
【0040】
[漏液発生率]
45℃93%RHの環境下で150日間貯蔵したときの漏液が発生した電池の比率を計数し、評価した。
【0041】
[パルス放電特性]
1200mA定電流にて3秒間導通、7秒間遮断の放電を繰り返し、作動電圧が0.9Vに達するまでの導通時間を積算し、その持続時間によって評価した。
【0042】
[重負荷放電特性]
1500mA定電流にて連続放電し作動電圧が0.9Vに達するまでの持続時間を測定し、評価した。
【0043】
[軽負荷放電特性]
50mA定電流にて連続放電し作動電圧が0.9Vに達するまでの持続時間を測定し、評価した。
【0044】
(実施例2)
負極作用物質として、図2において、曲線[2]で示される粒度分布を有する亜鉛合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして密閉型アルカリ亜鉛一次電池を作製した。すなわち、粒径の積算分布曲線が線分A−Bと線分D−Eと線分E−Fの3つの線分と交差する粒度分布を有する。最大粒径(μm)、平均粒径d50(μm)、粒径75μm以下の比率(質量%)及び粒径210μm以上の比率(質量%)を下記表1に示す。この電池についても、実施例1と同じ手法で、ガス発生量、漏液発生率、パルス放電特性、重負荷放電特性及び軽負荷放電特性を測定した。
【0045】
(比較例1,2,3)
無汞化亜鉛合金粉末として、図2のグラフにおいて、曲線[3]に示す粒度分布を有する(比較例1)、曲線[4](比較例2)および曲線[5](比較例3)の3種類の無汞化亜鉛合金粉末を用意し、実施例と同様の条件でゲル状負極を作製した。比較例1は、粒径の積算分布曲線が線分A−Cと線分E−Fの2つの線分と交差する粒度分布を有していた。比較例2は、積算分布曲線が粒径75〜210μmにおいて3つの線分(線分A−B、線分D−E及び線分E−F)の上方を通過する粒度分布を有していた。比較例3は、積算分布曲線が粒径75μmにおいて線分A−Cを通過し、粒径75〜210μmにおいて線分D−Eと線分E−Fの2つの線分の下方を通過する粒度分布を有していた。最大粒径(μm)、平均粒径d50(μm)、粒径75μm以下の比率(質量%)及び粒径210μm以上の比率(質量%)を下記表1に示す。これを用いて実施例1と同様にアルカリ電池を作製した。これらの電池に対して、実施例1と同様に電池特性を評価する試験を行った。その結果を表1に併記する。
【0046】
(比較例4)
複合オキシ水酸化ニッケルのみを正極作用物質として用いること以外は、前述した実施例1と同様な構成のアルカリ電池を作製した。この電池に対して、実施例1と同様に電池特性を評価する試験を行った。その結果を表1に併記する。
【0047】
実施例1,2及び比較例1〜4の結果を表1に示す。なお、以上の試験の内、漏液発生率以外は、比較例1の値を100%として相対値を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
上記試験の結果、微粉末の割合が増えるほど亜鉛粉の表面積が大きくなり、ガス発生量が増加している。ガス発生量が125%まで増加した比較例2では、漏液発生率が8%であり、安全上好ましくない。逆にパルス放電、重負荷放電においては、微粉末の割合が増えるほど性能が向上している。また、粒径210μm以上の亜鉛合金粉末を増加させることによりゲル状負極の充填量が増加され、負極容量が向上して軽負荷放電が改善されるが、粒径210μm以上の亜鉛合金粉末の比率が50質量%を超えている比較例3では、粉末同士の隙間が多くなるためにゲル状負極の充填量を増加することが困難になり、軽負荷放電に適さない。
【0050】
実施例1,2においては、比較例1とほとんど変わらない少ないガス発生量を実現しつつ、パルス放電特性と重負荷放電特性および軽負荷放電特性が比較例1よりも向上していた。特に、実施例1が良好な結果であった。
【0051】
さらに、比較例4の結果から、水酸化ニッケル系化合物のみを正極作用物質として使用した際には、実施例1と同様な粒度分布を有する負極作用物質を使用しても、軽負荷放電特性に劣ることがわかる。
【0052】
本発明の実施形態によれば、水酸化ニッケル系化合物と二酸化マンガンの混合物を正極作用物質とするアルカリ電池において、放電特性に優れ、かつ、負極からの水素ガス発生を効果的に抑制した安全な電池を実現することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係るアルカリ電池を示す模式的な断面図。
【図2】実施例1〜2及び比較例1〜3のアルカリ電池に用いられる負極作用物質の粒度分布を示す特性図。
【符号の説明】
【0055】
1…正極缶、2…正極端子、3…ビード部、4…正極合剤、5…セパレータ、6…ゲル状負極、7…絶縁ガスケット、8…負極集電棒、9…金属ワッシャー、10…負極端子板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40〜60質量%の水酸化ニッケル系化合物と60〜40質量%の二酸化マンガンとの混合物を含む正極と、無汞化亜鉛合金粒子を含むゲル状負極とを具備するアルカリ電池であって、
前記無汞化亜鉛合金粒子は、最大粒径が710μm以下で、平均粒径d50が90〜210μmの範囲で、粒径75μm以下の粒子の比率が0〜40質量%の範囲で、かつ粒径210μm以上の粒子の比率が35〜50質量%の範囲であることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
前記無汞化亜鉛粒子の最大粒径が425μm以下であり、かつ粒径75μm以下の粒子の比率が20〜40質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−227011(P2007−227011A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44017(P2006−44017)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】