説明

アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を製造するための方法

【課題】アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を提供する。
【解決手段】アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を、下記の工程を含む方法により製造する:(a)ヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する異性化オレフィンでアルキル化し、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;(b)上記アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を、任意の順序で中和および硫化し、中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして(c)中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中〜長鎖アルキル芳香族は、高容積の添加剤および界面活性剤を製造するために使用される。そのような化合物の例は、潤滑添加剤において使用されるアルキル芳香族フェネート類である。フェネート類は、それらの清浄性および抗酸化性のため、広く使用されている。
【0003】
低分子量アルキルフェノール類、例えば、テトラプロペニルフェノール(TPP)は、硫化過塩基性フェネート類の製造者により原材料として使用されてきた。硫化過塩基性フェネート類を製造する場合、一般に、最終反応生成物中に未反応のアルキルフェノールが存在する。米国化学協会の石油添加剤調査団が後援する最近のラットにおける生殖毒性に関する研究結果は、未反応のTPPが高濃度において、雄および雌の生殖器官に悪い影響を及ぼし得ることを示している。
【0004】
顧客に及ぶ可能性がある健康上の危険性を減らし、規制問題が起きる可能性を避けるため、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩において、未反応の低分子量アルキルヒドロキシ芳香族化合物の量を削減することが必要とされている。直鎖オレフィン類では、誘導されたアルキルフェノール類における生殖毒性を回避するための変更が可能である。しかし、オレフィンの直鎖性は、誘導された硫化過塩基性フェネート類を含む潤滑油において、不充分な低温性能をもたらす可能性がある。
【0005】
特許文献1は、フェノールのアルキル置換基が直鎖である処方が豊富なアルキルフェノールから誘導されたII族金属過塩基性硫化アルキルフェノール組成物を開示している。
【0006】
特許文献2は、実質的な直鎖アルキルが豊富なアルキルフェノールから誘導されたII族金属過塩基性硫化アルキルフェネート組成物を開示している。
【0007】
特許文献3は、アルキル化ヒドロキシル−含有芳香族化合物を生成させる方法を開示している。特許文献3は、さらに上記方法が(a)約16乃至約30の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物を、オレフィンの異性化と骨格の異性化との双方を誘導できる第一の酸性触媒の存在下で異性化し、異性化オレフィンの混合物を生成する工程;および(b)ヒドロキシル−含有芳香族化合物を、スルホン酸樹脂触媒もしくは酸性クレーを含む第二の酸性触媒の存在下で、上記異性化オレフィン類の混合物でアルキル化する工程を含むことも開示している。
【0008】
特許文献4は、下記の工程を含む方法により生成する添加剤を開示している:(a)オレフィンを、ペンタカルボニル鉄触媒を用いて異性化し、異性化オレフィンを生成させる工程;(b)オキシベンゼンを、上記異性化オレフィンでアルキル化し、アルキルオキシベンゼンを生成させる工程、ただし、上記「オキシ」は、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、およびヘキソキシからなる群より選ばれる;(c)上記アルキルオキシベンゼンを、スルホン酸化し、アルキルオキシベンゼンスルホン酸を生成させる工程;そして(d)上記アルキルオキシベンゼンスルホン酸を、過塩基化し、少なくとも200のTBNを有する過塩基性アルキルオキシベンゼンスルホネートを生成させる工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5318710号明細書
【特許文献2】米国特許第5320762号明細書
【特許文献3】米国特許第6670513号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/0091069号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
改良されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を製造するための方法を提供することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの態様に従うと、次の工程を含む少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を製造するための方法が提供される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【0012】
本発明の第二の態様に従うと、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩であって、上記のヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であり、下記の工程を含む方法により生産される少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩が提供される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを用いて異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンでアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【0013】
本発明の第三の態様に従うと、希釈剤と少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含み、上記ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であり、上記の少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩が下記の工程を含む方法により生産される添加剤濃縮物が提供される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程、
ただし、上記の濃縮物は約80乃至約450の全塩基価(TBN)を有する。
【0014】
本発明の第四の態様に従うと、(i)主要量の潤滑粘度の油と(ii)少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含み、上記のヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であり、上記少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩が下記の工程を含む方法により生産される潤滑油組成物が提供される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも1種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【0015】
本発明の第五の態様に従うと、(i)主要量の潤滑粘度の油と(ii)少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含み、上記ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であり、上記少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩が下記の工程を含む方法により生産されるエンジン油が提供される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【0016】
本発明の第六の態様に従うと、エンジンを、(i)主要量の潤滑粘度の油と(ii)少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含む潤滑油組成物の存在下で作動させることを含むエンジンを潤滑する方法が提供され、上記のヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であり、上記少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩が下記の工程を含む方法により生産される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明の過塩基性硫化塩は、雄および雌の生殖機能に悪い影響を及ぼす可能性について効果を定量化したところ、内分泌撹乱化学物質を実質的に含まないことが確認された。同時に、添加剤パッケージおよび潤滑油組成物における相溶性の改良、並びに低温での取り扱い性の改良が実現された。従って、本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩は、哺乳類と接触する場合において、内分泌撹乱作用が軽減されるか存在していない組成物として有利に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書が開示する主題の理解を容易にするため、本明細書で使用する多数の用語、略語、もしくは他の簡略表記を、以下で定義する。定義されていない用語、略語、もしくは簡略表記は、いずれも本願が出願された時期と同時代の当業者によって使用されている通常の意味を有すると理解される。
【0019】
(定義)
「アルカリ土類金属」の用語は、カルシウム、バリウム、マグネシウム、およびストロンチウムを意味する。
【0020】
用語「アルカリ金属」は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムを意味する。
【0021】
「オレフィン」の用語は、一つ以上の炭素−炭素間の二重結合を有する不飽和脂肪族炭化水素の分類を意味し、数多くの方法により得ることができる。一つの二重結合を含むものをモノ−アルケンと称し、二つの二重結合を有するものをジエン、アルキルジエン、もしくはジオレフィンと称する。アルファオレフィン類は、二重結合が第一の炭素と第二の炭素との間にあるため、特に反応性がある。アルファオレフィン類の例は、1−オクテンおよび1−オクタデセンを含み、これらは環境生分解が可能な界面活性剤に関し、出発点として利用される。直鎖および分岐オレフィンもオレフィンの定義に含まれている。
【0022】
「直鎖オレフィン」の用語は、直鎖アルファオレフィンを含み、直鎖で分岐がなく、少なくとも一つの炭素−炭素間の二重結合が鎖中に存在する炭化水素であるオレフィンを意味する。
【0023】
「異性化オレフィン」の用語は、オレフィンを異性化して得られたオレフィン類を意味する。一般に、異性化オレフィンは、それらを誘導する出発オレフィンとは異なる位置に、二重結合を有し、異なる性質を有することもできる。
【0024】
「石灰」の用語は、水酸化カルシウムを意味し、消石灰もしくは水和石灰としても知られている。
【0025】
「フェネート」の用語は、フェノールの塩を意味する。
【0026】
「全塩基価」もしくは「TBN」の用語は、1グラムの生成物を中和するために必要なミリグラム単位のKOHの当量数を意味する。従って、高いTBNは、強い過塩基性の生成物および、その結果として酸を中和するためにより高い塩基性が確保されていることを反映している。生成物のTBNは、ASTM標準番号D2896もしくは同等の操作により測定できる。
【0027】
本出願が開示する物質のすべての濃度は、別に特定しない限り、「活性」基準である。これは、記載する濃度が、例えば、希釈剤または未反応の出発物質もしくは中間体を含まないことである。
【0028】
一般に、本発明の少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩は次の工程を含む方法により生産される:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、約10乃至約40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【0029】
[ヒドロキシ芳香族化合物]
本発明におけるアルキル化反応のため、少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を用いることができる。ある態様において、上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物は、少なくとも一種の単環式ヒドロキシ芳香族、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、もしくはそれらの混合物を含む。上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物は、二環式および多環式のヒドロキシ芳香族化合物、例えば、2−ナフトールもしくは8−ヒドロキシキノリンも含むことができる。ある態様において、上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0030】
[ヒドロキシ芳香族化合物の供給源]
本発明において用いる上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物は、当業者に良く知られている方法によって製造される。
【0031】
[直鎖アルファオレフィン]
ヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化する前に異性化する直鎖アルファオレフィン類は、分子当たり約10乃至約40の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物である。ある態様において、直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物は、約14乃至約30の炭素原子を有する。ある態様において、直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物は、約16乃至約30の炭素原子を有する。ある態様において、直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物は、約18乃至約30の炭素原子を有する。ある態様において、直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物は、約20乃至約28の炭素原子を有する。ある態様において、直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物は、約18乃至約24の炭素原子を有する。
【0032】
適切な直鎖アルファオレフィンは、ろうの熱分解によって製造される、いわゆる「分解ろう」オレフィンもしくはエチレンのオリゴマー化生成物であってもよい。適切な直鎖アルファオレフィンは、市販品、例えば、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、アルファオレフィンC20−24、およびアルファオレフィンC26−28がCPケム社から、およびシェル社からネオデンとして利用できる。
【0033】
[オレフィン異性化触媒]
直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物を異性化するために用いる触媒は、直鎖アルファオレフィンに対して、他の点については直鎖アルファオレフィンを本質的にそのまま保ちながら、オレフィン異性化と骨格異性化との双方を導入できる任意の触媒でよい。本明細書で使用する場合、「オレフィン異性化」の用語は分子内における炭素−炭素間の二重結合の移動を意味し、「骨格異性化」の用語は分子内の炭素原子の再配置を意味する。そのような触媒の例は、少なくとも一種の金属酸化物と5.5オングストローム未満の平均孔径とを有する固体の酸性触媒を含む。ある態様において、上記の固体酸性触媒は、一次元孔系を伴う分子ふるいを含む。別の態様において、上記の触媒は、分子ふるいSM−3、MAPO−11、SAPO−11、SSZ−32、ZSM−23、MAPO−39、SAPO−39、ZSM−22、およびSSZ−20からなる群より選ばれる。ある態様において、上記の分子ふるいは、SAPO−11およびSSZ−32である。異性化に利用可能な別の固体酸性触媒は、分子ふるいZSM−35、SUZ4、NU−23、NU−87、および天然もしくは合成フェリエ沸石を含む。これらの分子ふるいは、この技術で良く知られており、ローズマリー・ツォスタク著、分子ふるいのハンドブック(ニューヨーク、バン・ノストランド・ラインホルド、1992年)および米国特許第5282958号明細書(1994年2月1日発行、Santilli外)に記載されており、それらの記載は参照するため、本明細書の記載とする。
【0034】
触媒は少なくとも1種のVIII族金属との混合物であってもよい。VIII族金属は、IUPAC命名法における8、9、および10族の金属に相当する。有用なVIII族は、少なくとも1種の白金およびパラジウム、任意に他の触媒的に活性な金属、例えば、モリブデン、ニッケル、バナジウム、タングステン、コバルト、亜鉛、およびそれらの混合物を含む。金属の量は、触媒の(金属の質量を計算しない)質量に対して、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲である。別の態様において、金属の量は、触媒の(金属の質量を計算しない)質量に対して、約0.2質量%乃至約5質量%の範囲である。触媒的活性金属を触媒に導入する技術は、文献に開示されており、予め存在している金属を導入する技術、および活性触媒を生成する触媒の処理、例えば、触媒の製造におけるイオン交換、注入もしくは吸蔵が適している。そのような技術は、米国特許第3236761号、同第3226339号、同第3236762号、同第3620960号、同第3373109号、同第4202996号、同第4440996号、および同第4710485号の各明細書に開示されており、それらは参照するため、本明細書の記載とする。
【0035】
本明細書で使用する「金属」もしくは「活性金属」は、元素の状態または硫化物、酸化物、もしくはそれらの混合物のようなある種の状態における一種以上の金属を意味する。金属性成分が実際に存在している状態を無視し、金属が元素の状態で存在していると仮定して、濃度を計算する。
【0036】
触媒は、異性化反応を触媒するために有効な量で使用する。
【0037】
[オレフィン異性化処理の条件]
直鎖アルファオレフィンもしくは直鎖アルファオレフィンの混合物を異性化する方法は、例えば、SAPO−11上に支持された白金分子ふるい触媒を用いて、NAOを含む原料を部分的に異性化する触媒的異性化を含む。上記および関連する触媒は、米国特許第5082986号明細書に記載されており、それを参照するため、本明細書の記載とする。SAPO−11上の白金触媒については、部分的な異性化が好ましい。従って、操作条件は、約100℃乃至約250℃の温度において、約0.5乃至約10の単位時間当たりの質量空間速度(WHSV)を含む。別の態様における条件は、約120℃乃至約160℃の温度において、約0.5乃至約5のWHSVを含む。別の態様における条件は、約120℃乃至約140℃の温度において、約0.5乃至約3.5のWHSVを含む。より低い温度では、オレフィンの二重結合の実質的な移動が生じ、より高い温度では、骨格の再配置が生じる。上記の方法は、添加した水素の存在下で実施できる。
【0038】
上記の異性化オレフィンは、分岐鎖オレフィンを含む。分岐は、炭素−炭素間の二重の一部である炭素原子もしくは二重結合の一部を構成しない炭素原子において、派生することができる。分岐鎖オレフィンの例は、限定される訳ではないが、下記を含む:
【0039】
【化1】

【0040】
式中、Rはオレフィンの残部である。ある態様において、少なくとも約15質量%の上記異性化オレフィンは分岐している。別の態様において、少なくとも約30質量%の上記異性化オレフィンは分岐している。一般に、得られた異性化オレフィンは、約15乃至約99質量%の分岐を含む。別の態様において、得られた異性化アルファオレフィンは、約25乃至約99質量%の分岐を含む。別の態様において、得られた異性化アルファオレフィンは、約30乃至約80質量%の分岐を含む。別の態様において、得られた異性化アルファオレフィンは、約30乃至60質量%の分岐を含み、約14乃至18の炭素原子を含む少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンから誘導される。別の態様において、得られた異性化アルファオレフィンは、約80乃至約99質量%の分岐を含み、約20乃至24の炭素原子を含む少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンから誘導される。
【0041】
上記のヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であるアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の使用が有利である。これは、上記の異性化オレフィンの分岐の比率と長さとが、他の一般的な添加剤と共に用いられる場合における優れた相溶性と、潤滑油組成物において添加剤として用いられる場合における優れた低温性能とを促進することが発見されたためである。
【0042】
一般に、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物は、アルキル置換基の大部分がパラ位に位置し、より少数がオルト位であるモノ置換異性体、相対的に少量のジ置換異性体の混合物を含み、メタ位はほとんど存在しない。本発明の利点は、パラ位におけるアルキル結合が、直鎖アルファオレフィンによるアルキル化の場合よりも多いことであり、それにより反応が容易となるように改良され、特に硫化工程において過塩基性硫化塩を生成する。
【0043】
さらに、直鎖アルファオレフィンが完全に反応せずに異性化オレフィンを生成する場合、残りのアルファオレフィンが得られる。残ったアルファオレフィンも、ヒドロキシ芳香族化合物と反応させて、主に直鎖アルキル基を有するアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成できる。直鎖アルキル基を有するアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物は、オルト位における直鎖アルキル置換基の割合がパラ異性体より大きいモノ置換異性体の混合物を含むことができる。
【0044】
一般に、得られた異性化オレフィンでは、残存するアルファオレフィンが20質量%未満である。別の態様において、得られた異性化アルファオレフィンでは、残存するアルファオレフィンが10質量%未満である。別の態様において、得られた異性化アルファオレフィンでは、残存するアルファオレフィンが5質量%未満である。
【0045】
ある態様において、上記の少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩は、ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基として、約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基を有する。別の態様において、上記の少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩は、ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基として、ヒドロキシ芳香族化合物と約15乃至約99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンとの反応の残基を有する。
【0046】
[オレフィン分岐測定手順」
(パートA:オレフィンの水素化)
分岐の量は、2グラムのオレフィンを磁気攪拌器を取り付けた反応管に加えて測定する。おおよそ50mgの酸化白金(アダムス触媒)を加え、管を水素化器に入れて、50℃まで加熱する。吸引し、系内に存在する吸気を完全に除く。水素を、圧力をおおよそ0.4psigに調節する圧力計を有する系に導入する。激しい撹拌を開始し、流量計を用いて水素の消費を観察する。水素が消費されなくなった時点、一般に3乃至4時間後に、反応を停止させる。水素化オレフィンの赤外線スペクトルを取得し、909cm−1および960cm−1におけるピーク、すなわち、それぞれアルファおよびトランス内部直鎖オレフィンの振動に対応するものの消失を検証する。水素化後、直鎖オレフィンのすべては、対応するn−アルカンに変換される。分岐オレフィンのすべては、対応する分岐アルカンに変換される。
【0047】
(パートB:水素化オレフィンのGC分析)
得られた水素化異性化オレフィンは、毛管状カラム(HP−5MS、5%フェニルメチルシロキサン、毛管30m、0.25mm内部直径)と炎イオン化検出器(FID)とを取り付けたHP6890クロマトグラムを用いるガスクロマトグラフィーで分析する。温度情報の概要を、分析対象の水素化オレフィンの分子量に適用する。一般に、相対的に重い分子量(20乃至24の炭素)については、初期温度が100℃で、210℃まで20℃/分で加熱し、さらに320℃まで10℃/分で温度を上昇させた。分岐の割合は、分岐アルカンに対応するすべての領域を積算し、ピーク領域の合計で割ることによって、計算する。これは、例えば0%の分岐を有するオレフィンの混合物は分岐化合物を全く含まないことを意味する一方、100%の分岐を有するオレフィンの混合物は分岐化合物のみを含むことを意味する。
【0048】
[アルキル化処理条件]
アルキル化反応は、一般に、ヒドロキシ芳香族化合物もしくはヒドロキシ芳香族化合物の混合物と異性化オレフィンの混合物とについて実施され、ヒドロキシ芳香族化合物:異性化オレフィンのモル比は、約10:1乃至約1:1である。処理温度は、約40℃乃至約150℃にすることができる。オレフィンは高い沸点を有しているため、処理は好ましくは液相中で実施する。アルキル化処理は、バッチ式もしくは連続式で実施できる。バッチ式における代表的な方法は、望ましい反応温度まで加熱することができる撹拌オートクレーブもしくはガラス製フラスコを用いる。連続処理は、固定床方法において最も有効に実施される。固定床方法における空間速度は、約0.01乃至約10以上のWHSVの範囲とすることができる。
【0049】
固定床方法では、触媒を反応器に加えて、少なくとも100℃の温度で吸引下もしくは不活性乾燥気体を流しながら、活性化もしくは乾燥させる。活性化後、触媒を周囲の温度まで冷却し、上記ヒドロキシ芳香族化合物を流入させる。任意に、ヒドロキシ芳香族化合物を反応温度において触媒に加えてもよい。次に、異性化オレフィンを流し込み、ヒドロキシ芳香族化合物と混合し、触媒の上を流れるようにする。アルキル化生成物と過剰のヒドロキシ芳香族化合物とを含む反応器からの流出液を集める。過剰のヒドロキシ芳香族化合物は、すべて蒸留、剥ぎ取り、吸引下の蒸発、もしくは他の当業者に知られている方法により除去することができる。本発明のある態様は、特定のY−ゼオライト触媒を用いる欧州特許出願第2095874号明細書に記載されているアルキル化方法を採用する。
【0050】
異性化そのものを実施するのではなく、上記少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するために用いられる市販の異性化オレフィンを購入することが可能である。この種のオレフィンとしては、CPケム社より異性化アルファオレフィンC18が利用できる。
【0051】
[中和、硫化、および過塩基化]
少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物は、引き続き、中和、硫化、および過塩基化され、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を生成させる。中和工程および硫化工程は、任意の順序で実施でき、それにより、本発明の過塩基性硫化塩を生成させる。多くの場合、中和工程と硫化工程とは同時に実施する。
【0052】
使用する試薬の量は、上記少なくとも一種のアルキルヒドロキシ芳香族化合物の総量に対する以下の当量比に対応させることができる:
(1)塩基の供給源: 約0.5乃至約4、好ましくは約1乃至約2;
(2)硫黄の供給源: 約0.5乃至約4、好ましくは約1乃至約2;および
(3)過塩基化化合物:約0.5乃至約4、好ましくは約1乃至約2。
【0053】
[中和工程]
アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の中和は、当業者に知られている方法に従い、連続もしくはバッチ方式で実施できる。この技術において、アルキル化ヒドロキシ芳香族を中和し、塩基の供給源を取り込んで塩基性フェネートを生成するための多数の方法が知られている。塩基の供給源は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩基の一種もしくは混合物であってもよい。この工程を実施するために用いることができるアルカリ土類金属塩基は、カルシウム、マグネシウム、バリウム、もしくはストロンチウムの酸化物もしくは水酸化物を含み、特に、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、およびそれらの混合物を含む。ある態様において、アルカリ土類金属塩基は、消石灰(水酸化カルシウム)である。
【0054】
以上のような方法は、一般に適切な希釈剤中で実施され、通常は他の促進剤、例えば、ジオール(例、C乃至Cのアルキレングリコール、好ましくはエチレングリコール);および/または高分子量アルカノール(一般にC乃至C16、例、デシルアルコール、2−エチルヘキサノール);および/またはカルボン酸を併用する。次に、反応混合物を、適切な時間をかけて反応温度まで加熱し、反応生成物を生成させる。任意に、生成物を蒸留し、不純物を除く。上記方法での使用に適した希釈油は、ナフテン油および混合油を含み、好ましくは100中性油のようなパラフィン油である。使用する希釈油の量は、最終生成物における油の量が、最終生成物の質量の約25%乃至約65%、好ましくは約30%乃至約50%を構成するようにする。
【0055】
一般に、中和工程は、約20乃至約180℃の範囲の温度で実施される。ある態様において、中和工程は、約40乃至約110℃の範囲の温度で実施される。
【0056】
[硫化工程]
硫化工程のため、任意の適切な硫黄の供給源を用いることができる。適切な硫黄の供給源の例は、元素状硫黄、塩化硫黄、二酸化硫黄、および硫化ナトリウム水和物を含む。硫黄は、溶融硫黄もしくは固体(例、粉末もしくは微粒子)のいずれかとして、または反応しない炭化水素液体中の固体懸濁液として、用いることができる。
【0057】
適切な促進剤も、硫化工程で使用できる。有用な促進剤は、ポリオール、例えば、アルキレンジオール(例、エチレングリコール)を含む。上記促進剤もしくは促進剤の混合物に関して、高分子量アルカノールを補助溶媒として使用できる。そのような高分子量アルカノールは、8乃至約16の炭素原子、好ましくは9乃至約15の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖のアルキルを有する。適切なアルカノールの代表的な例は、1−オクタノール、1−デカノール(デシルアルコール)、2−エチルヘキサノール、その他を含む。特に好ましくは、2−エチルヘキサノールである。当該方法において高分子量アルカノールを使用することは有益であって、それは、溶媒として機能し、水と共沸混合物を形成し、それにより中和によって生じる水もしくは他の系内の水を、反応後もしくは(好ましくは)反応中に、共沸蒸留による都合がよい方法で除くことを許容するためである。高分子量アルカノールは、反応における副生成物である水の除去を促進し、それにより、反応を反応式の右側に進めるとの観点で、化学反応機構においても一定の役割をする。
【0058】
硫化反応を実施する温度範囲は、一般に、約100℃乃至約170℃である。ある態様において、温度範囲は、約130℃乃至約160℃である。反応は、大気圧(もしくは、もう少し低い圧力)下、あるいは加圧下で実施できる。ある態様において、反応は吸引下で実施する。反応において実現する正確な圧力は、系の設計および操作、反応温度、並びに反応体および生成物の蒸気圧のような要素に依存し、反応の経過中に変化させることもできる。ある態様では、当該方法での圧力は大気圧乃至約680mmHgである。
【0059】
硫化において、かなりの量の副生成物として、硫化水素ガスが放出される。このガスは、硫化工程の最後で除くことができ、あるいは反応中での生成に応じて連続的に除去することができる。
【0060】
[過塩基化工程]
過塩基化工程は、塩基の供給源の存在下、酸性過塩基化化合物、例えば、二酸化炭素もしくはホウ酸との反応によって行われる。塩基の供給源は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩基の一種もしくは混合物であってもよい。この工程を実施するために使用できるアルカリ土類金属塩基は、カルシウム、マグネシウム、バリウム、もしくはストロンチウムの酸化物もしくは水酸化物を含み、特に酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、およびそれらの混合物を含む。ある態様において、アルカリ土類金属塩基は、消石灰(水酸化カルシウム)である。塩基の供給源は、中和工程からの過剰な塩基として、過塩基化工程に導入できる。あるいは、過塩基化工程もしくは双方において、別々に添加することもできる。
【0061】
特に好ましい過塩基化方法は、炭酸塩化、すなわち二酸化炭素との反応である。そのような炭酸塩化は、ポリオール、特にアルキレンジオール(例、エチレングリコール)と二酸化炭素とを上記アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩に添加することによって、好適に遂行できる。なお、反応は、反応混合物にガス状二酸化炭素の気泡を通すとの簡単な手段で好適に実施される。過剰な希釈剤および過塩基化反応において生成する任意の水は、反応中もしくは反応後のいずれかにおいて、蒸留により好適に除去することができる。
【0062】
ある態様では、塩基の供給源と過塩基化化合物とは分割して加える。
【0063】
[添加剤濃縮物]
本発明の別の態様において、本発明の過塩基性硫化塩は、添加剤パッケージもしくは濃縮物として提供できる。添加剤パッケージもしくは濃縮物において、添加剤は、実質的に不活性な通常は液体の有機希釈剤、例えば、鉱物油、ナフサ、ベンゼン、トルエン、もしくはキシレンに加えられ、添加剤濃縮物を生成する。これらの濃縮物は、通常は約20質量%乃至約80質量%の上記希釈剤を含む。一般に、100℃において約4乃至約8.5cSt、好ましくは100℃において約4乃至約6cStの粘度を有する中性油が希釈剤として使用されるが、合成油並びに添加剤および最終潤滑油と相溶性を有する他の有機液体も使用できる。添加剤パッケージは、一般に一種以上の上記の様々な他の添加剤を、望ましい量で、かつ必要な量の基油と直接組み合わせることが可能な比率で含むことができる。
【0064】
ある態様において、得られた添加剤濃縮物は、約80乃至約450の全塩基価(TBN)を有することができる。別の態様において、得られた添加剤濃縮物は、約105乃至約300のTBNを有することができる。別の態様において、得られた添加剤濃縮物は、約200乃至約280のTBNを有することができる。
【0065】
[潤滑油組成物]
本発明の別の態様は、少なくとも(a)潤滑粘度の油と(b)少なくとも一種の本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含む潤滑油組成物に関し、上記過塩基性硫化塩は潤滑油添加剤として有用である。潤滑油組成物は、従来からの技術により、適量の本発明の潤滑油添加剤を潤滑粘度の基油と混合することにより製造できる。特定の基油の選択は、予定している潤滑剤の適用分野と他の添加剤の存在とに依存する。一般に、本発明の少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.1質量%乃至約20質量%の範囲で変更できる。ある態様において、本発明の少なくとも1種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.1質量%乃至約2質量%の範囲で変更できる。
【0066】
本発明の潤滑油組成物において使用するための潤滑粘度の油は、基油とも呼ばれ、一般に主要量、例えば、組成物の全質量に基づき50質量%を超える量、好ましくは約70質量%を超える量、さらに好ましくは約80乃至約99.5質量%、最も好ましくは約80乃至約98質量%で存在する。本明細書で使用する表現「基油」は、単一の製造者により同一の仕様に(供給源や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同じ製造者の仕様を満たし、かつ各々特有の処方、製造物確認番号、もしくはそれらの両方によって識別される潤滑剤成分である、基材油もしくは配合された基材油を意味すると理解されたい。ここで使用される基油は、ありとあらゆる用途(例、エンジン油、舶用シリンダー油、機能液、具体的には油圧作動油、ギヤ油、変速機液等)で潤滑油組成物を処方する際に使用される、今日知られているか、あるいは後日発見されるいかなる潤滑粘度の油であってもよい。例えば、基油は、ありとあらゆる用途、例えば、乗用車エンジン油、高負荷ディーゼル発動機油、および天然ガスエンジン油のための潤滑油組成物の処方に際して用いることができる。さらに、本発明で使用するための基油は、任意に粘度指数向上剤(例、重合アルキルメタクリレート);オレフィン性コポリマー(例、エチレン−プロピレンコポリマーもしくはスチレン−ブタジエンコポリマー);その他、およびそれらの混合物を含むことができる。
【0067】
当業者であれば容易に理解できるように、基油の粘度は用途に依存する。従って、ここで使用する基油の粘度は、通常、摂氏100度(℃)で約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。一般にエンジン油として使用される個々の基油は、動粘度範囲が100℃で約2cSt乃至約30cSt、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStであり、そして所望の最終用途および最終油の添加剤に応じて選択または配合されて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30、もしくは15W−40の潤滑油組成物を与える。ギア油として使用される油は、100℃において約2cSt乃至約2000cStの範囲の粘度を有することができる。
【0068】
基材油は様々な種類の方法を用いて製造することができ、その例は、これらに限定されるものではないが、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、および再精製を含む。再精製基材油には、製造、汚染もしくは以前の使用において混入した物質が実質的に含まれない。本発明の潤滑油組成物の基油は、いかなる天然もしくは合成潤滑基油であってもよい。適切な炭化水素合成油は、限定されるものではないが、エチレンの重合または1−オレフィン類の重合でポリマーにすることにより製造された油、例えばポリアルファオレフィン(PAO)油もしくはフィッシャー・トロプシュ法のような一酸化炭素ガスと水素ガスとを用いた炭化水素合成法により製造された油を含む。例えば適切な基油は、重質留分を含む場合でもその量がわずかであり、例えば100℃で粘度が20cSt以上の潤滑油留分をほとんど含むことのない油である。
【0069】
基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、もしくはそれらの混合物から誘導することができる。適切な基油は、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られる基材油、並びに粗原料の芳香族および極性成分を(溶剤抽出というよりはむしろ)水素化分解することにより生成する水素化分解基材油を含む。適切な基材油は、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定されたAPI分類I、II、III、IV、およびVに属するものすべてを含む。IV種基材油はポリアルファオレフィン(PAO)類である。V種基材油には、I、II、III、もしくはIV種に含まれなかったその他すべての基材油が含まれる。II、III、およびIV種基材油が本発明で使用するために好ましいが、これらの基油を、一種以上のI、II、III、IV、およびV種基材油もしくは基油を組み合わせて製造することもできる。
【0070】
有用な天然油は、鉱物潤滑油、例えば液体石油、パラフィン系、ナフテン系、もしくは混合パラフィン−ナフテン系の溶剤処理もしくは酸処理鉱物潤滑油、石炭もしくは頁岩から誘導された油、動物油および植物油(例、ナタネ油、ヒマシ油、およびラード油)その他を含む。
【0071】
有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、炭化水素油およびハロゲン置換炭化水素油、例えば重合化および共重合化オレフィン類、具体的にはポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン・イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン類、ポリ(1−ヘキセン)類、ポリ(1−オクテン)類、ポリ(1−デセン)類その他およびそれらの混合物;アルキルベンゼン類、例えばドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類その他;ポリフェニル類、例えばビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類その他;アルキル化ジフェニルエーテル類およびアルキル化ジフェニルスルフィド類、並びにそれらの誘導体、類似物、および同族体その他を含む。
【0072】
他の有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、炭素原子が5未満のオレフィン類、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテン、およびそれらの混合物を重合することにより製造された油を含む。そのような重合油の製造方法は当業者によく知られている。
【0073】
別の有用な合成炭化水素油は、適正な粘度を有するアルファオレフィン類の液状ポリマーを含む。特に有用な合成炭化水素油は、C乃至C12のアルファオレフィンの水素化液状オリゴマー類、例えば1−デセン三量体である。
【0074】
有用な合成潤滑油の別の分類は、これらに限定されるものではないが、アルキレンオキシドポリマー、すなわち単独ポリマー、コポリマー、および末端ヒドロキシル基が、例えばエステル化もしくはエーテル化により変性したそれらの誘導体を含む。これらの油の例は、エチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドの重合により製造された油、これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびフェニルエーテル類(例、平均分子量1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量500乃至1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000乃至1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、もしくはそれらのモノおよびポリカルボン酸エステル類、例えば酢酸エステル類、C乃至Cの混合脂肪酸エステル類、もしくはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルである。
【0075】
有用な合成潤滑油のさらに別の分類は、これらに限定されるものではないが、ジカルボン酸類(例、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類、アルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類等)と各種アルコール類(例、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステル類を含む。これらエステル類の具体例は、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、セバシン酸1モルをテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルと反応させて生成した複合エステルその他を含む。
【0076】
合成油として有用なエステル類は、これらに限定されるものではないが、炭素原子が約5乃至約12のカルボン酸類と、アルコール類(例、メタノール、エタノール等、ポリオールおよびポリオールエーテル類、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールその他)とから製造されたものも含む。
【0077】
ケイ素系の油、例えばポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、もしくはポリアリールオキシ−シロキサン油およびシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な分類を構成する。これらの具体例は、これらに限定されるものではないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、およびポリ(メチルフェニル)シロキサン類その他を含む。さらに別の有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、リン含有酸の液状エステル類(例、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスフィン酸のジエチルエステル等)、および高分子量テトラヒドロフラン類その他を含む。
【0078】
潤滑油は、以上に開示した種類のうち、天然、合成、もしくは任意の二種以上の混合物の未精製、精製、および再精製の油から誘導することができる。未精製油は、天然もしくは合成原料(例、石炭、頁岩、もしくはタール・サンド・ビチューメン)から直接に、それ以上の精製や処理を施すことなく得られた油である。未精製油の例は、これらに限定されるものではないが、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化処理により直接得られたエステル油を含み、これらの各々はその後それ以上の処理なしで使用される。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製工程でさらに処理されたことを除いては、未精製油と同じである。これらの精製技術は、当業者に知られているが、例えば溶剤抽出、二次蒸留、酸もしくは塩基抽出、ろ過、パーコレート、水素処理、脱ろう等が挙げられる。再精製油は、精製油を得るのに用いたのと同様の方法で使用済みの油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生もしくは再処理油としても知られていて、消費された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術によりしばしばさらに処理される。
【0079】
ろうの水素異性化から誘導された潤滑油基材油も、単独で、あるいは前記天然および/または合成基材油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性化油は、天然もしくは合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒により水素異性化することにより生成する。
【0080】
天然ろうは一般に、鉱物油を溶剤脱ろうすることにより回収された粗ろうであり、合成ろうは一般に、フィッシャー・トロプシュ法により生成したろうである。
【0081】
本発明の潤滑油組成物は、補助機能を付与するための従来の潤滑油組成物添加剤も含有していてもよく、これら添加剤が分散または溶解した潤滑油組成物(最終配合物)をもたらす。例えば、酸化防止剤、耐摩耗剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、その他、およびそれらの混合物と、潤滑油組成物を配合することができる。様々な添加剤が知られていて市販もされている。これらの添加剤またはこれらに類似した化合物を通常の配合手段によって、本発明の潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0082】
酸化防止剤の例は、これらに限定されるものではないが、アミン型、例えば、ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレンジアミン類;フェノール系、例えばBHT、立体障害のあるアルキルフェノール類、具体的に2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール;およびそれらの混合物を含む。
【0083】
耐摩耗剤の例は、これらに限定されるものではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛、例えば「様々な潤滑の機構において幾つかのジアルキル−およびジアリール−ジチオリン酸金属の化学構造と効果との関係」との表題のボーン外の文献、潤滑の科学4−2、1992年1月において公表、例えば97〜100頁参照に記載のもの;アリールリン酸および亜リン酸、硫黄−含有エステル、リン硫黄化合物、金属もしくは灰を含有しないジチオカルバメート、キサンテート、硫化アルキル、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0084】
さび止め剤の例は、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート、例えば、金属ジノニルナフタレンスルホネート;その他、およびそれらの組合せを含む。さび止め剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0085】
摩擦緩和剤の例は、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪族アミン;ホウ酸化脂肪族エポキシド;脂肪族ホスファイト、脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪族イミダゾリン、その開示内容も参照のため本明細書の記載とする;C乃至C75、好ましくはC乃至C24、最も好ましくはC乃至C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤、その他、およびそれらの組合せを含む。摩擦緩和剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0086】
消泡剤の例は、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートポリマー;ジメチルシリコーンポリマー、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0087】
流動点降下剤の例は、これらに限定されるものではないが、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ジ(テトラ−パラフィンフェノール)フタレート、テトラ−パラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、およびそれらの組合せを含む。ある態様では、流動点降下剤はエチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン、その他、およびそれらの組合せを含む。流動点降下剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0088】
抗乳化剤の例は、これらに限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤(例、アルキル−ナフタレンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドポリマー(例、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のブロックコポリマー)、油溶性酸のエステル、ポリオキシエチレンのソルビタンエステル、その他、およびそれらの組合せを含む。抗乳化剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0089】
腐食防止剤の例は、これらに限定されるものではないが、ドデシルコハク酸、リン酸エステル、チオホスフェート、アルキルイミダゾリン、サルコシン、その他、およびそれらの組合せの半エステルもしくはアミドを含む。腐食防止剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0090】
極圧剤の例は、これらに限定されるものではないが、硫化した動物もしくは植物の脂肪もしくは油、硫化した動物もしくは植物の脂肪酸エステル、完全にもしくは部分的にエステル化したリンの3価もしくは5価の酸のエステル、硫化オレフィン、ジ炭化水素ポリスルフィド、硫化したディールス−アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルおよびモノ不飽和オレフィンの硫化もしくは共硫化混合物、脂肪酸の共硫化混合物、脂肪酸エステルおよびアルファ−オレフィン、官能基置換ジ炭化水素ポリスルフィド、チアアルデヒド、チアケトン、エピチオ化合物、硫黄−含有アセタール誘導体、テルペンおよび非環状オレフィンの共硫化混合物、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステルもしくはチオリン酸エステルのアミン塩、その他、およびそれらの組合せを含む。極圧剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0091】
本発明の潤滑油組成物を適用できるが、特に限定する訳ではない分野は、例えば、舶用シリンダー潤滑剤、トランクピストンエンジン油、およびシステム油;自動車のエンジン油;鉄道エンジン油;固定エンジン油、例えば、天然ガスエンジン油;グリース;および機能性液体、例えば、トラクターの油圧液、ギア油、耐摩耗油圧油、および変速機液を含む。ただし、本発明の塩は、その例外的な低温性能により、エンジン油、例えば、鉄道エンジン油、乗用車発動機油、低負荷ディーゼルエンジン油、および高負荷ディーゼルエンジン油において、特に有用である。従って、本発明のある態様は、エンジンを本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を含む潤滑油組成物の存在下で潤滑することを含むエンジンを作動させる方法である。
【0092】
以下の限定する意図のない実施例は、本発明を実証するものである。
【実施例】
【0093】
[実施例1]
CPケム社(シェブロン・フィリップス・ケミカル社、テキサス州、ウッドランド)から入手できる1−テトラデセンを、結晶ゼオライトSSZ−32(N−低級アルキル−N−イソプロピルイミダゾリウム陽イオンをテンプレートとする異性化触媒)を用いて異性化した。上記および類似の触媒は、米国特許第5053373号明細書に記載されている。異性化処理は、150℃乃至200℃の温度で実施した。オレフィンは高い沸点を有する傾向があるため、処理は液相において固体床方式で実施した。固体床方式では、空間速度、すなわち反応体と触媒床との間の接触の速度を測定したものは、0.5乃至2h−1WHSV(単位時間当たりの質量空間速度)の範囲であった。触媒を反応器に加えて、望ましい反応温度まで加熱した。オレフィンは、触媒床に接触する前に加熱することも可能であった。触媒床に沿って、約10℃乃至15℃の発熱が認められた場合が多い。次に、一部が分岐した異性化オレフィンを含む反応器からの流出液を集めた。
【0094】
異性化の程度は、供給速度と入口の温度について条件を選択することにより達成した。異性化の程度は、一般に、特定のオレフィン試料もしくは混合物における分岐の程度によって評価した。本実施例における異性化オレフィンの分岐の程度は、50.5%であると測定された。
【0095】
[実施例2]
上記実施例1の異性化オレフィンおよびフェノールを、1:4の全添加モル比で、4リットルのすりあわせフラスコに加えた。生成物をまとめて混合し、80℃まで加熱した。ローム・アンド・ハース社より入手できるアンバーリストTM36スルホン酸イオン交換樹脂を、オレフィンの添加量の12質量%で、反応に加えた。反応を130℃まで加熱し、窒素下で5時間、この温度と大気圧とを保った。その後、反応混合物を100℃未満まで冷却し、濾過して触媒を除去した。反応混合物を、おおよそ30mmHgにおいて230℃になるまで処理し、約15分間保って過剰なフェノールを留出させた。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0096】
モノアルキルフェノール91.1質量%(39.9質量%がオルトおよび52.0質量%がパラ);ジアルキルフェノール4.8質量%;未反応のオレフィン二量体2.9質量%;未反応のオレフィン0.4質量%;エーテル0.7質量%;およびフェノール0.1質量%。
【0097】
次に、914.8gのアルキル化フェノール組成物を、324.7gの130N油、35.3gのアルキルアリールスルホン酸、および0.2gの消泡剤SI200(ダウコーニング社より入手可能)と組合せ、周囲の温度にて4リットルのフラスコに加えた。混合物を25分間かけて110℃まで暖め、暖めながら304gの消石灰を加えた。暖める段階の後、石灰の添加が完了した後に、90.2gの硫黄を加え、反応温度を20分間かけて150℃まで上昇させた。硫黄の添加段階の後、反応器の圧力を680mmHgまで下げた。硫化において生成されたHSガスを、2つの苛性ソーダバブラーで捕捉した。155℃において、46.6gのエチレングリコールを45分間かけて加え、混合物を170℃まで加熱した。30分間の時間をかけて、393.6gの2−エチルヘキサノールを加え、反応を162℃まで冷却した。反応を発熱で170℃に戻るまで放置し、その時点で、76.4gのエチレングリコールを1時間かけて加えた。
【0098】
エチレングリコールの添加に続き、圧力を720mmHgまで僅かに高め、反応条件を20分間維持した。温度を170℃で維持しながら、圧力を760mmHgまで上昇させた。一度、大気圧において、9gの二酸化炭素を30分間かけて加えた。二酸化炭素の添加後、63.4gのエチレングリコールを1時間かけて加え、COの速度を0.8g/分に増加させた。この炭酸化工程を、おおよそ100gのCOが加えられた時に停止した。
【0099】
1時間後、溶媒を215℃および30mmHgで留出させた。次に、窒素を除きながら、80mmHgで1時間かけて、温度をさらに220℃まで上昇させた。生成物を165℃にてセライトで濾過し、濾過したフェネートを、150℃にて生成物当たり5リットル/時間/kgで、4時間かけて空気中に脱気した。生成物は、9.36%がCa、3.01%がS、9.5%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃にて41.3cStの動的粘度を有していた。TBNは、直接測定しなかったが、質量%によるCa含量を28倍して見積もることができ、それにより、約260mgKOH/gであると見積もられた。
【0100】
[実施例3]
14異性化オレフィンを、異性化の程度をさらに増加させたこと以外は、実施例1と実質的に同じ方法で製造した。上記異性化オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、82.1%であった。
【0101】
[実施例4]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、実施例3の上記異性化オレフィンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0102】
モノアルキルフェノール93.3質量%(29.7質量%のオルトおよび53.6質量%のパラ);ジアルキルフェノール3.6質量%;未反応のオレフィン二量体10.1質量%;未反応のオレフィン1.2質量%;エーテル0.9質量%;およびフェノール0.4質量%。
【0103】
得られた生成物のカルシウム含量は9.4%であり、3.03%が硫黄、5.0%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において66.2cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約260mgKOH/gであった。
【0104】
[実施例5]
異性化オレフィンを、CPケム社から入手可能な1−ヘキサデセンを異性化した以外は、実施例1と実質的に同じ方法で製造した。上記異性化オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、96.2%であった。
【0105】
[実施例6]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、実施例5の上記異性化オレフィンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0106】
モノアルキルフェノール72.3質量%(17.2質量%のオルトおよび55.1質量%のパラ);ジアルキルフェノール1.7質量%;未反応のオレフィン二量体16.8質量%;未反応のオレフィン5.9質量%;エーテル1.0質量%;およびフェノール1.1質量%。
【0107】
得られた生成物のカルシウム含量は9.47%であり、3.05%が硫黄、3.9%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において73.0cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約265mgKOH/gであった。
【0108】
[実施例7]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、CPケム社から入手可能な分岐の程度が34.8%と測定された異性化アルファオレフィンC18を用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0109】
モノアルキルフェノール92.7質量%(46.8質量%のオルトおよび45.9質量%のパラ);ジアルキルフェノール5.9質量%;未反応のオレフィン二量体0.0質量%;未反応のオレフィン0.3質量%;エーテル0.4質量%;およびフェノール0.6質量%。
【0110】
得られた生成物のカルシウム含量は9.35%であり、2.88%が硫黄、17.5%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において49.1cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約260mgKOH/gであった。
【0111】
[実施例8]
異性化オレフィンを、CPケム社から入手可能な1−オクタデセンを異性化した以外は、実施例1と実質的に同じ方法で製造した。上記異性化オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、96.9%であった。
【0112】
[実施例9]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、実施例8の上記異性化オレフィンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0113】
モノアルキルフェノール80.4質量%(21.5質量%のオルトおよび58.9質量%のパラ);ジアルキルフェノール2.6質量%;未反応のオレフィン二量体8.9質量%;未反応のオレフィン6.0質量%;エーテル1.0質量%;およびフェノール1.0質量%。
【0114】
得られた生成物のカルシウム含量は9.49%であり、3.04%が硫黄、5.0%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において89.0cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約265mgKOH/gであった。
【0115】
[実施例10]
異性化オレフィンを、CPケム社から入手可能なアルファオレフィンC20−24を異性化した以外は、実施例1と実質的に同じ方法で製造した。上記異性化オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、25.9%であった。
【0116】
[実施例11]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、実施例10の上記異性化オレフィンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0117】
モノアルキルフェノール92.7質量%(48.2質量%のオルトおよび44.5質量%のパラ);ジアルキルフェノール4.4質量%;未反応のオレフィン二量体0.0質量%;未反応のオレフィン1.4質量%;エーテル1.2質量%;およびフェノール0.3質量%。
【0118】
得られた生成物のカルシウム含量は8.98%であり、2.76%が硫黄、15.7%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において78.2cStの動的粘度を有していた。見積もられたTBNは、約250mgKOH/gであった。
【0119】
[実施例12]
異性化オレフィンを、CPケム社から入手可能なアルファオレフィンC20−24を異性化した以外は、実施例1と実質的に同じ方法で製造した。上記異性化オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、96.1%であった。
【0120】
[実施例13]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、実施例12の上記異性化オレフィンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0121】
モノアルキルフェノール91.89質量%(17.64質量%のオルトおよび74.25質量%のパラ);ジアルキルフェノール3.15質量%;未反応のオレフィン二量体0.0質量%;未反応のオレフィン3.81質量%;エーテル0.74質量%;およびフェノール0.37質量%。
【0122】
得られた生成物のカルシウム含量は9.23%であり、3.11%が硫黄、7.3%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において187.0cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約260mgKOH/gであった。
【0123】
[比較例A]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、シェブロン・オロナイト社から入手可能なプロピレン4量体を用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。上記異性化オレフィンにおける分岐の程度は測定しなかったが、このオレフィンの構造に基づき100%まで推定する。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0124】
このアルキル化フェノールは、以下の組成を有していた:
【0125】
モノアルキルフェノール95.71質量%(7.53質量%のオルトおよび88.14質量%のパラ);ジアルキルフェノール2.33質量%;未反応のオレフィン二量体0.00質量%;未反応のオレフィン1.12質量%;エーテル0.31質量%;およびフェノール0.53質量%。
【0126】
得られた生成物のカルシウム含量は9.66%であり、3.41%が硫黄、8.2%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において319cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約270mgKOH/gであった。
【0127】
[比較例B]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、CPケム社から入手可能な1−テトラデセンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。1−テトラデセンは、異性化しなかった。この直鎖オレフィンについて、分岐の程度を測定したところ、5.3%であった。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0128】
モノアルキルフェノール94.90質量%(57.38質量%のオルトおよび37.52質量%のパラ);ジアルキルフェノール3.94質量%;未反応のオレフィン二量体0.0質量%;未反応のオレフィン0.08質量%;エーテル0.79質量%;およびフェノール0.29質量%。
【0129】
得られた生成物のカルシウム含量は9.49%であり、2.47%が硫黄、14.5%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において38.4cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約265mgKOH/gであった。
【0130】
[比較例C]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、CPケム社から入手可能な1−ヘキサデセンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。1−ヘキサデセンは、異性化しなかった。この直鎖オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、6.4%であった。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0131】
モノアルキルフェノール94.10質量%(55.85質量%のオルトおよび38.25質量%のパラ);ジアルキルフェノール4.55質量%;未反応のオレフィン二量体0.00質量%;未反応のオレフィン0.18質量%;エーテル0.92質量%;およびフェノール0.25質量%。
【0132】
得られた生成物のカルシウム含量は9.35%であり、2.69%が硫黄、17.1%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において43.8cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約260mgKOH/gであった。
【0133】
[比較例D]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、CPケム社から入手可能な1−オクタデセンを用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。1−オクタデセンは、異性化しなかった。この直鎖オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、8.0%であった。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0134】
モノアルキルフェノール91.08質量%(5.38質量%のオルトおよび35.70質量%のパラ);ジアルキルフェノール4.22質量%;未反応のオレフィン二量体0.00質量%;未反応のオレフィン2.30質量%;エーテル2.11質量%;およびフェノール0.29質量%。
【0135】
得られた生成物のカルシウム含量は9.25%であり、2.59%が硫黄、17.5%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において43.8cStの動的粘度を有していた。見積もられたTBNは、約260mgKOH/gであった。
【0136】
[比較例E]
アルキル化フェノールおよびアルキル化フェネートを、CPケム社から入手可能なアルファオレフィンC20−24を用いて、実施例2と実質的に同じ方法で製造した。アルファオレフィンC20−24は、異性化しなかった。この直鎖オレフィンにおける分岐の程度を測定したところ、12.8%であった。得られたアルキル化フェノール組成物は、以下の通りであった:
【0137】
モノアルキルフェノール90.08質量%(53.29質量%のオルトおよび36.89質量%のパラ);ジアルキルフェノール4.87質量%;未反応のオレフィン二量体0.00質量%;未反応のオレフィン2.26質量%;エーテル2.17質量%;およびフェノール0.52質量%。
【0138】
得られた生成物のカルシウム含量は9.28%であり、2.56%が硫黄、17.5%が未反応のアルキルフェノールであって、100℃において87.7cStの動粘度を有していた。見積もられたTBNは、約260mgKOH/gであった。
【0139】
[添加剤パッケージにおける相溶性評価]
本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩の性能を示すため、基準となる添加剤パッケージの処方Iにおいて、実施例2、4、6、7、9、11、および13(本発明の範囲内)のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩の相溶性を、比較例A〜E(本発明の範囲外)のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩と対比して、評価した。
【0140】
基準となる添加剤パッケージの処方Iは、(a)35.2質量%の、2300MWのポリブテンから誘導され、エチレンカーボネート処理されたビスコハク酸イミド分散剤の油濃縮物;(b)10.6質量%の、低過塩基性カルシウムスルホネートの油濃縮物;(c)13.4質量%の、二級ジチオリン酸亜鉛耐摩耗剤の油濃縮物;(d)1.7質量%の、1000MWのポリブテンから誘導されたコハク酸イミド分散剤の酸硫化モリブデン錯体の油濃縮物;(e)3.11質量%のホウ素化グリセロールモノオレエート摩擦緩和剤;(f)0.05質量%の消泡剤;および(g)残りの150N基油を含む。
【0141】
実施例2、4、6、7、9、11、および13、並びに比較例A〜Eの各反応生成物は、基準となる添加剤パッケージの処方Iに、表1に示す濃度で加え、以下の相溶性試験を実施した。
【0142】
[添加剤パッケージの相溶性試験]
この試験では、添加剤パッケージが、時間の経過と共に、堆積物、凝集物、もしくはゲルを形成する傾向を評価する。添加剤パッケージをガラス製フラスコに流し込み、20℃で保存した。80℃におけるパッケージの相溶性を試験するため、パッケージを、80℃で8時間、そして20℃で14時間からなる加熱処理サイクルで毎日処理した。試料を毎週、目視により観察し、28日後に最終評価を決定した。評価は、以下の通りである:
【0143】
0=堆積物がない
1=濁っているが、堆積物はない
2=堆積物が存在
3=ゲル化した
【0144】
28日後の相溶性評価を表1に示す。
【0145】
表1
─────────────────────────────────────
生成物量 オレフィン オレフィン 分岐 相溶性 相溶性
例 (質量%) 炭素長 の構造 (質量%) 20℃ 80℃
─────────────────────────────────────
比較例A 23.6 12 プロピレン起源 100 0 0
実施例2 24.4 14 異性化 50.5 0 0
実施例4 24.3 14 異性化 82.1 0 0
比較例B 24.1 14 直鎖 5.3 3 0
実施例6 24.1 16 異性化 96.2 0 0
比較例C 24.4 16 直鎖 6.4 3 0
実施例7 24.4 18 異性化 34.8 0 0
実施例9 24.1 18 異性化 96.9 0 0
比較例D 24.7 18 直鎖 8.0 0 0
実施例11 25.4 20〜24 異性化 25.9 0 0
実施例13 24.7 20〜24 異性化 96.1 0 0
比較例E 24.6 20〜24 直鎖 12.8 0 2
─────────────────────────────────────
【0146】
0=堆積物がない
1=濁っている
2=堆積物が存在
3=ゲル化した
【0147】
上記結果は、異性化オレフィン(15質量%を超える分岐)から誘導されたフェネートを含む潤滑添加剤パッケージが、直鎖オレフィン(15質量%未満の分岐)から誘導されたフェネートを含む類似の潤滑添加剤パッケージと比較して、相対的に改善された相溶性を示すことを証明している。
【0148】
本発明の塩の改善された相溶性をさらに証明するため、実施例2、4、6、7、9、11、および13、並びに比較例A〜Eの反応生成物のそれぞれについて、添加剤パッケージの相溶性を上記の添加剤パッケージの相溶性試験に従い評価した。添加剤パッケージにおいて、反応生成物のそれぞれは、カルシウム基準で同量の高過塩基性スルホネートと組み合わせた。すなわち、各パッケージは、kg単位の添加剤パッケージ当たり100ミリモルのフェネートからのカルシウムとkg単位の添加剤パッケージ当たり100ミリモルのスルホネートからのカルシウムとを含んでいた。
【0149】
28日後の相溶性評価を表2に示す。
【0150】
表2
─────────────────────────────────────
生成物量 オレフィン オレフィン 分岐 相溶性 相溶性
例 (質量%) 炭素長 の構造 (質量%) 20℃ 80℃
─────────────────────────────────────
比較例A 4.14 12 プロピレン起源 100 0 0
実施例2 4.27 14 異性化 50.5 1 0
実施例4 4.26 14 異性化 82.1 0 0
比較例B 4.21 14 直鎖 5.3 0 2
実施例6 4.22 16 異性化 96.2 0 0
比較例C 4.28 16 直鎖 6.4 0 2
実施例7 4.28 18 異性化 34.8 0 0
実施例9 4.21 18 異性化 96.9 0 0
比較例D 4.32 18 直鎖 8.0 0 2
実施例11 4.45 20〜24 異性化 25.9 0 0
実施例13 4.33 20〜24 異性化 96.1 0 0
比較例E 4.31 20〜24 直鎖 12.8 0 2
─────────────────────────────────────
【0151】
0=堆積物がない
1=濁っている
2=堆積物が存在
3=ゲル化した
【0152】
データが示すように、異性化オレフィンから誘導されたフェネートを含む添加剤パッケージは、直鎖オレフィンから誘導されたフェネートを含む類似の添加剤パッケージと比較した場合、特により高い温度において、驚くほどに改良された相溶性を示す。
【0153】
[潤滑油組成物の低温評価]
5W30および5W40の基準となる潤滑油において、実施例2、4、6、7、9、11、および13(本発明の範囲内)の生成物を含む潤滑剤の低温粘度性能を、比較例A〜E(本発明の範囲外)の精製物を含む潤滑剤の場合と比較した。各基準となる潤滑油は、(a)3質量%の、1300MWのポリブテンから誘導されたホウ素化ビスコハク酸イミド分散剤の油濃縮物;(b)5質量%の、2300MWのポリブテンから誘導され、エチレンカーボネート処理されたビスコハク酸イミド分散剤の油濃縮物;(c)1.36質量%の、低過塩基性カルシウムスルホネートの油濃縮物;(d)0.4質量%の、テレフタル酸の塩と1300MWのポリブテンから誘導されたビスコハク酸イミドとの油濃縮物;(e)1.08質量%の、二級ジチオリン酸亜鉛耐摩耗剤の油濃縮物;(f)0.4質量%の、1000MWのポリブテンから誘導されたモノコハク酸イミド分散剤の酸硫化モリブデン錯体の油濃縮物;(g)0.5質量%のアルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤;(h)0.5質量%のフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社より、IRGANOXTML−135として入手可能);(i)30ppmの消泡剤;および(j)残りの基油を含む。実施例2、4、6、7、9、11、および13、並びに比較例A〜Eの反応生成物を基準となる潤滑油に、カルシウム基準で同量となるように表3に示す濃度で加え、最終的な潤滑剤の低温性能を、ASTM D4684のミニロータリー粘度計(MRV)試験を用いて評価した。
【0154】
[ASTM D4684のミニロータリー粘度計試験]
この試験では、ミニロータリー粘度計の隔室内で、最初に試験油を加熱し、次に試験温度(この場合は−35℃)まで冷却した。各室は、較正した回転子−固定子の組合せを含み、そこでは、回転子が、回転子の周囲に巻き付けられ、重りが取り付けられた糸によって回転する。糸に対して、10gの重りで開始し、回転が起きて降伏応力が測定されるまで連続して重りを増加させた。結果は、適用した力(パスカル)未満の降伏応力として記録する。次に、150gの重りを適用し、油の見掛け粘度を測定した。見掛け粘度が大きくなると、それに伴って、油が連続的かつ適切に油ポンプの入口に供給されなくなる。結果を、粘度(センチポイズ)として記録する。
【0155】
各潤滑油組成物について、MRV試験の結果を以下の表3に示す。
【0156】
表3
─────────────────────────────────────
オレ
フィ 分岐 生成物量 5W30 5W30 5W40 5W40
ン炭 (質 (質 降伏応力 粘度 降伏応力 粘度
例 素長 量%) 量%) (Pa) (cP) (Pa) (cP)
─────────────────────────────────────
A 12 100 2.32 <35 19000 <175 108000
2 14 50.5 2.40 <35 16800 <35 38900
4 14 82.1 2.39 <35 18600 <105 199000
B 14 5.3 2.37 <35 16200 <70 48300
6 16 96.2 2.37 <35 18500 <70 40300
C 16 6.4 2.40 <35 16000 <140 68900
7 18 34.8 2.40 <35 16600 <35 31600
9 18 96.9 2.37 <35 18500 <140 72300
D 18 8.0 2.43 <70 24600 <175 53900
11 20-24 25.9 2.50 <105 31200 <175 56200
13 20-24 96.1 2.43 <35 19000 <210 167000
E 20-24 12.8 2.42 <140 40700 <280 135000
─────────────────────────────────────
【0157】
表3における結果は、15質量%を超える分岐を有するオレフィンから誘導されたフェネートを含む潤滑剤に関する降伏応力および粘度が、一般に、一定の炭素長に対して15質量%未満の分岐を有するオレフィンから誘導されたフェネートを含む潤滑剤に関する降伏応力および粘度よりも低いため、より望ましいことを示している。これは、特にオレフィンの炭素数が16以上である場合の事例である。
【0158】
[アルキルフェノールの生殖毒性のスクリーニング研究]
実施例2および9、並びに比較例A〜Cのアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物について研究を行い、雄および雌の生殖機能に悪影響を及ぼす可能性について、予備的なデータを得た。研究は、OECD421の生殖毒性のスクリーニング研究の計画案に従い実施した。この試験において、親(F0)世代において、それぞれの性を含む12匹のラットからなる群に、試験アルキルフェノールを表4に示す経口(胃管栄養)投与基準で、毎日投与した。投与量は、5ml/kg/日であった。対照動物は賦形剤のみを受容し、賦形剤は毎週製造されるピーナッツ油の投与溶液であり、それら試験物質の濃度、均一性、および安定性は、化学分析により確認した。雄および雌の親世代の動物には、交尾する前(28日間)、交尾(15日まで)、妊娠(25日まで)、および授乳(4日)の期間、検死に至るまで、毎日投与した。
【0159】
F0動物は、それらの群内において1:1で組み合わせてつがいにした。雌は、交尾している間、膣内の膣栓もしくは精液の存在を毎日調べた。10日以内に交尾の証拠が認められない場合は、雌を5日まで同じ群から既に交尾した別の雄とつがいにした。分娩終了後、同腹子について生育力を調べた。繁殖指数(妊娠に至った雌の数/交尾した雌の数)のデータ、卵巣重量(g)、雌の肝臓重量(g)、および雌の腎臓重量(g)を以下の表4に示す。対照群の結果と比較して、有意性を伴って異なる結果は、悪影響の可能性を示す。
【0160】
表4
生殖毒性のスクリーニング研究
─────────────────────────────────────
アルキル 雌の肝 雌の腎
フェノー オレフィン オレフィン 処理 繁殖 卵巣重量 臓重量 臓重量
ル試料 炭素長 構造 比 指数 (g) (g) (g)
─────────────────────────────────────
対照 0 100% 0.1622 13.06 2.22
比較例A 12 プロピレン起源 125 13% 0.1135** 10.7** 1.90**
実施例2 14 異性化 375 100% 0.1581 17.21** 2.55**
比較例B 14 直鎖 375 100% 0.1687 17.85** 2.50**
実施例9 20−24 異性化 1000 92% 0.1405** 14.16 2.13
比較例C 20−24 直鎖 1000 92% 0.1457 15.97** 2.15
─────────────────────────────────────
処理比:アルキルフェノール処理比(mg/kg/日)
*: 有意性が95%を超える確率
**: 有意性が99%を超える確率
【0161】
表4のアルキルフェノールはすべて、プロピレン四量体から誘導された比較例Aのアルキルフェノールと比較して、生殖毒性の作用が大幅に減少することを示す。ただし、直鎖および異性化C14のオレフィンから誘導されたアルキルフェノールは、比較的低い投与量において(肝臓および腎臓の重量が大きいことで示されるように)全身への毒性作用を示し、高い処理比における生殖毒性についてデータの収集を妨害した。対照的に、直鎖C20乃至C24のオレフィンの混合物から誘導されたアルキルフェノールは、非常に高い投与量において、全身への毒性が非常に低かった。一方、異性化C20乃至C24から誘導されたアルキルフェノールは、非常に高い投与量において、全身への毒性が認められなかった。直鎖および異性化双方のC20乃至C24のオレフィンから誘導されたアルキルフェノールは、いずれも、非常に高い投与量において、比較的小さい生殖毒性作用を示した。以上のデータは、明らかに、C20乃至C24のオレフィンから誘導されたアルキルフェノールの生殖および全身への毒性作用が、低分子量オレフィンから誘導されたアルキルフェノールと比較して、軽減されたことを示している。
【0162】
本明細書に開示した態様には様々な変更を成しうることを理解されたい。従って、上記の説明は、限定的に構成されるものではなく、単に好ましい態様の例示であると解釈すべきである。例えば、上述した本発明を実施する最良の形態として遂行した機能は、説明のためでしかない。当該分野の熟練者であれば、本発明の範囲および真意から逸脱することなく、その他の配合や方法を遂行することが可能である。また、当該分野の熟練者であれば、本出願に添付した特許請求の範囲の真意および範囲内で、他の変更を考慮するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩を製造するための方法:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、10乃至40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた15乃至99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、任意の順序で中和と硫化を行い、少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;そして
(c)上記の少なくとも一種の中和された硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化する工程。
【請求項2】
下記の工程を含む請求項1に従う方法:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、10乃至40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた15乃至99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)得られたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物に対して、塩基と硫黄の供給源との混合物を用いて同時に中和と硫化とを行い、上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩を生成させる工程;そして
(c)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩を過塩基化酸で過塩基化する工程。
【請求項3】
下記の工程を含む請求項1に従う方法:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、10乃至40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた15乃至99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)得られたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を塩基で中和し、上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の塩を生成させる工程;
(c)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の塩を、硫黄の供給源を用いて硫化し、上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩を生成させる工程;そして
(d)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩を過塩基化酸で過塩基化する工程。
【請求項4】
下記の工程を含む請求項1に従う方法:
(a)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、10乃至40の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖アルファオレフィンを異性化して得られた15乃至99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンを用いてアルキル化し、少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(b)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を、硫黄の供給源を用いて硫化し、硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる工程;
(c)得られた硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を、塩基を用いて中和し、上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩を生成させる工程;そして
(d)上記のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩を過塩基化酸で過塩基化する工程。
【請求項5】
上記の異性化オレフィンが25乃至99質量%の分岐を有する請求項1乃至4のいずれか一項に従う方法。
【請求項6】
上記の異性化オレフィンが30乃至80質量%の分岐を有する請求項1乃至4のいずれか一項に従う方法。
【請求項7】
上記のヒドロキシ芳香族化合物がフェノールである請求項1乃至4のいずれか一項に従う方法。
【請求項8】
上記の塩基がアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の供給源である請求項1乃至4のいずれか一項に従う方法。
【請求項9】
上記の過塩基化酸が二酸化炭素である請求項1乃至4のいずれか一項に従う方法。
【請求項10】
少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩であって、上記のヒドロキシ芳香族化合物のアルキル置換基が15乃至99質量%の分岐を有する少なくとも一種の異性化オレフィンの残基であり、請求項1乃至9のいずれか一項に従う方法により製造された少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性硫化塩。
【請求項11】
希釈剤と請求項10に従う少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含む添加剤濃縮物であって、80乃至450の全塩基価(TBN)を有する添加剤濃縮物。
【請求項12】
(a)主要量の潤滑粘度の油と(b)請求項10に従う少なくとも一種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の少なくとも一種の過塩基性硫化塩とを含む潤滑油組成物。
【請求項13】
上記の過塩基性硫化塩が、組成物の全質量に基づき0.1質量%乃至20質量%の量で存在する請求項11に従う潤滑油組成物。
【請求項14】
さらに、酸化防止剤、耐摩耗剤、清浄剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む請求項11に従う潤滑油組成物。
【請求項15】
エンジンを請求項11乃至14のいずれか一項に従う潤滑油組成物の存在下で作動させることを含むエンジンを潤滑する方法。

【公表番号】特表2013−512238(P2013−512238A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541099(P2012−541099)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/056554
【国際公開番号】WO2011/066115
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(506297245)シェブロン・ユー.エス.エー.インク. (3)
【出願人】(598066514)シェブロン・オロナイト・エス.アー.エス. (20)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】