説明

アルコール揮散剤

【課題】アルコールガスの揮散ロスが少なく、食品の官能面に影響を与えることが少ないアルコール揮散剤を提供する。
【解決手段】アルコールを吸着材に吸着させたアルコール吸着体をガスバリア性有孔フィルム製の袋に封入して成るアルコール揮散剤であって、25℃、相対湿度55%の大気下における2時間後のアルコール揮散率が2〜10%であるアルコール揮散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封包装内又は密封容器内に食品と共に封入して用いるアルコール揮散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食品を保存するための保存剤として、乾燥剤、酸素吸収剤、アルコール揮散剤等の包装系内の雰囲気を調節するものが知られている。その中でもアルコール揮散剤はカビの増殖抑制効果が高く、パン類や菓子類を中心に広く普及している。
【0003】
食品の保存に用いられるアルコール揮散剤は、エタノールを雲母やシリカ等の吸着材に吸着させたアルコール吸着体をアルコールガス透過性の小袋に充填したものであり、食品と共に封入し、包装系内でアルコールを揮散させることにより食品の保存性を改善するものである。アルコール揮散剤はアルコールガスを殆ど通さないプラスチックフィルム製の袋に20〜5000個程度を収納したものが製品として流通している。食品に使用する際には、この袋をユーザーが開封して必要数のアルコール揮散剤を取り出し、食品と共に密封包装もしくは密封容器内へ封入することになる。
【0004】
従来のアルコール揮散剤は25℃、相対湿度55%の大気下における2時間あたりのアルコール揮散率が約11〜20%程度と高い。このため、袋の開封後食品と共に封入されるまでの間に大気中へ揮散するアルコールの量が多く、作業が長時間に及んだ場合には、封入後の食品保存効果が十分に得られなくなる。アルコール揮散剤の封入作業は、開封後1〜2時間以内に終了する必要があり、作業量が制限されるため効率的に封入することができなかった。
【0005】
アルコール揮散剤の中には、大気中への揮散ロスを考慮して、過剰量のアルコールを吸着させたものもあるが、このようなアルコール揮散剤は流通過程や保管中にアルコールの染み出しが発生することがあり、製品としての価値を低下させていた。さらに染み出しが発生したアルコール揮散剤を使用した場合、アルコールが直接食品に付着するため、食品の風味を低下させる一因となっていた。
【0006】
また、アルコール揮散剤中に過剰量のアルコール吸着体を封入したアルコール揮散剤や、過剰個数のアルコール揮散剤を食品と共に封入した場合、食品が保存されている密封系内のアルコール蒸気の濃度が高くなりすぎることにより、食品の風味が低下する可能性がある。
従って、アルコールガスの揮散ロスが少なく、流通過程や保管中にアルコールの染み出しが無く、適量のアルコールを効率良く食品包装系内で揮散させることが可能なアルコール揮散剤が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のアルコール揮散剤において問題となっていたアルコールガスの揮散ロスが少なく、食品の官能面に影響を与えることが少ないアルコール揮散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究の結果、アルコール揮散開始から2時間が経過するまでのアルコール揮散率を2〜10%に調整することにより、アルコールガスの揮散ロスを低減し、流通過程や保管中のアルコールの染み出しが抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、アルコールを吸着材に吸着させたアルコール吸着体をガスバリア性有孔フィルム製の袋に封入して成るアルコール揮散剤であって、25℃、相対湿度55%の大気下における2時間後のアルコール揮散率が2〜10%であるアルコール揮散剤に関する。
【0010】
本発明のアルコール揮散剤は、25℃、相対湿度55%の大気下における2時間後のアルコール揮散率を2〜10%に調整することにより得られる。アルコール揮散率は、3〜9%に調整したものが好ましく、4〜8%に調整したものがさらに好ましい。
【0011】
アルコール揮散率が2%未満の場合、食品と共に封入した際に十分な保存効果が得られず、10%を超える場合は流通過程でアルコールの染み出しが発生し易い傾向を示す。アルコール揮散率を上記範囲に調整することにより、アルコールガスの揮散ロスを低減し、且つアルコールの染み出しも抑制することができる。
【0012】
本発明者らは、種々の種類および粒径の吸着材へアルコールを吸着させて得たアルコール吸着体のアルコール揮散率を試験したが、いずれのアルコール吸着体もほぼ同じアルコール揮散率を示した。
【0013】
本発明においては、アルコール揮散率はアルコール吸着体を充填する袋(以下、アルコール揮散剤袋と記載する。)に孔を設けることによりアルコール揮散率を調整することができる。
【0014】
開孔方法としては、例えば加熱針、剣山状の金属ブラシ金型、レーザー光等を用いた方法が挙げられる。
孔径はアルコール吸着体が流出しない大きさであれば、特に限定されない。また、孔数は孔径、アルコール揮散剤袋のサイズ、開孔面(両面あるいは片面)およびアルコール吸着体量によって適宜定めればよい。例えば、アルコール吸着体1g程度を含有するアルコール揮散剤(サイズ:6×4cm,開孔面:両面)を製造する場合、孔径50μm程度の孔を1平方センチメートルあたり3〜10個程度開孔することにより、本発明で規定するアルコール揮散率に調整される。
【0015】
孔の形状についても限定されるものではないが、アルコール揮散剤袋の強度の点で円形または楕円形が好ましい。
【0016】
本発明で使用するアルコール揮散剤袋は、ガスバリア性を有するフィルムにより製造される。ガスバリア性フィルムの中でもアルコールガス透過性が低いものがアルコール揮散率の調整が容易であるため好ましく、実質的にアルコールガス非透過性のフィルムであればより好ましい。
【0017】
上記袋を製造するためのフィルムは単層フィルムでも積層フィルムでもよいが、袋の強度の点で積層フィルムを使用するのが好ましい。
【0018】
使用するフィルムのアルコールガス透過量の目安としては、JIS Z−0208に示される樹脂フィルムの水蒸気透過量の測定方法に準じてアルコールガス透過量を測定した場合の測定値が、20g/m/24hr/RH50%/40℃未満のものが好ましく、10g/m/24hr/RH50%/40℃以下のものがより好ましい。前記条件を満たすフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンの積層フィルム、ポリプロピレンとポリエチレンの積層フィルム、塩化ビニリデンコートナイロンとポリエチレンの積層フィルム等が例示される。その中でもポリエチレンテレフタレートとポリエチレンの積層フィルムがガスバリア性、強度、ヒートシール性およびコストのバランスに優れるので、特に好ましい。
【0019】
本発明のアルコール揮散剤に使用するアルコールとしては、特に制限は無く、一般に食品工業用途に用いられているエタノールのいずれを用いてもよい。また、フレーバーH No.1,3,4,6,9〜13,100〜103,107,201等の変性剤を含有するものであってもよい。
【0020】
本発明のアルコール揮散剤に使用されるアルコール吸着体を調製するための吸着材は、アルコールを吸着することが可能であれば特に限定されず、シリカ、バーミキュライト、タルク、ゼオライト、パーライト、ベントナイト、珪藻土、アルミナ等、従来からアルコール揮散剤に使用されているものを使用することができる。その中でもシリカ、バーミキュライトが好ましく、アルコールの吸着力の点でシリカがより好ましい。
【0021】
吸着材へアルコールを吸着させる態様、吸着材自体のアルコール吸着量は、従来からアルコール揮散剤に用いられているものを適宜用いればよい。
【0022】
本発明のアルコール揮散剤中に含まれるアルコール量としては、保存対象となる食品の包装単位当たりの重量および食品の水分活性によって、決定される。水分活性が高い食品については、食品中の水分にアルコール蒸気が溶解するため、袋内蒸気濃度を十分に上げるため、比較的多量のアルコールを用いることが必要である。一方、水分活性が低い食品については、食品中の水分へのアルコール蒸気の溶解をあまり考慮しなくてもよいことから、比較的少量のアルコールを含有させればよい。
【0023】
一般には広い範囲の食品に汎用可能とすべく、対象となる食品に応じて予めさまざまな外寸法のアルコール揮散剤を用意する。例えば1個のアルコール揮散剤中のアルコール量が0.1〜10g程度となるよう、アルコール吸着体を投入すればよい。
【0024】
なお、アルコール揮散剤として市販されているものについては、食品の水分活性に応じて単位重量当たりのアルコール吸着体の好適な配合量についての情報が提供されている。本発明のアルコール揮散剤において、封入されるアルコール吸着体についてかかる情報が利用できる場合、封入するアルコール吸着体の量としてはかかる情報に基づいて適宜定めればよい。
【0025】
例えば平均粒径100μmのシリカ100g当たりアルコールを146g吸着させてなるアルコール吸着体の場合、食品100gに対し、図1に示したグラフに記載の量以上のアルコール吸着体が含まれるよう、アルコール揮散剤を調製する。図1において、短期保存とは1ヶ月迄の保存を、長期保存とは、2〜6ヶ月間の保存を目的とするものである。なお、アルコール吸着体配合量の上限としては図1に示される下限量の110%まで、より好ましくは108%までとすればよい。
【0026】
また本発明のアルコール揮散剤には活性炭、イオン交換樹脂等の副資材を添加してもよい。これら副資材を添加する際の割合は、アルコール100重量部に対して1〜15重量部程度が好ましく、3〜10重量部がより好ましい。
以下、実施例により本発明を更に説明する。
【0027】
実験例(アルコール揮散剤の製造)
方法:
表1に示すアルコール揮散剤(サンプル1〜8)を製造し、25℃、相対湿度55%の大気下に静置し、0時間後、2時間後の重量から、下記計算式によりアルコール揮散率を算出した。
【0028】
アルコール揮散率(%)=(B−C)/A ×100
A:アルコール保持量(g)
B:製造直後のアルコール揮散剤重量(g)
C:2時間後のアルコール揮散剤重量(g)
結果:2時間後のアルコール揮散率を表2に示す。
【0029】
【表1】

PET:ポリエチレンテレフタレート
PE:ポリエチレン
アルコールガス透過量の単位:g/m/24hr/RH50%/40℃
【0030】
【表2】

【0031】
実施例1〜4および比較例1〜5
カビの増殖抑制試験
方法:
上記で製造した各サンプルをポリ塩化ビニリデンコートナイロン/ポリエチレン/無延伸ポリプロピレン製の密封容器に投入し、脱気した後、常温で保存したアルコール揮散剤を用いた。
グリセリン270g、ポテトデキストロース寒天培地39g、イオン交換水730gからなる培地をシャーレに50g分注し、培地を作成した。作成した培地に菌液(Penicillium 1.0×10個/ml)200μLを接種し、アルコール揮散剤サンプル1個と共に塩化ビニリデンコートナイロン/ポリエチレン製の袋に密封し、25℃にて培養した。5日間培養後のカビの状態を表3に示す判定基準(A〜E)に従い、コロニーの色で判定した。
アルコール揮散剤としては、密封容器を開封直後のもの、および25℃、相対湿度55%の大気下に2時間静置したものを用い、それぞれについて判定した。
【0032】
【表3】

【0033】
結果:
サンプル3〜8のアルコール揮散剤は、開封直後に封入した場合には良好なカビの増殖抑制を示したが、開封後2時間放置した後に封入した場合の増殖抑制は十分とは言えなかった。結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
アルコール揮散剤の保存安定性試験
方法:
実験例で製造したアルコール揮散剤サンプル1〜8各200個を各々塩化ビニリデンコートナイロン/ポリエチレン製の袋に入れ、脱気した後、密封し、40℃で8時間保存した。保存後の袋の状態およびアルコールの染み出しの有無を確認した。
【0036】
結果:
サンプル7および8のアルコール揮散剤を封入した袋は膨脹し、アルコールの染み出しが確認された。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】食品分活性とアルコール吸着体必要量の関係を示すグラフである。食品100gに対するアルコール吸着体の必要量の下限値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを吸着材に吸着させたアルコール吸着体をガスバリア性有孔フィルム製の袋に封入して成るアルコール揮散剤であって、25℃、相対湿度55%の大気下における2時間後のアルコール揮散率が2〜10%であるアルコール揮散剤。
【請求項2】
アルコール揮散率が4〜8%である請求項1記載のアルコール揮散剤。
【請求項3】
ガスバリア性有孔フィルムが、アルコールガス透過量20g/m/24hr/RH50%/40℃未満のガスバリア性フィルムに孔を設けたものである請求項1記載のアルコール揮散剤。
【請求項4】
ガスバリア性有孔フィルムが、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンの積層フィルムに孔を設けたものである請求項1記載のアルコール揮散剤。
【請求項5】
アルコールを吸着させる吸着材が、シリカまたはバーミキュライトである請求項1記載のアルコール揮散剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−236245(P2007−236245A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61144(P2006−61144)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】