説明

アルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む積層膜構造体、およびそれを含む酸素吸着剤、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜またはガス選択分離膜

【課題】ナノメートルサイズでの膜厚調節、異なる成分どうしの複合化、さらには大きな分子表面積の作製等、分子レベルで構造、組成および形態制御が可能なアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む積層膜構造体、およびそれを含む酸素吸着剤等を提供する。
【解決手段】金属ポルフィリンをアルブミンに包接させてなるアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む第1の層と、前記アルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質を含む第2の層が、1つの該第1の層と1つの該第2の層が直接接するように積層されてなる積層膜構造体、およびそれを含む酸素吸着剤等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ポルフィリンを血清アルブミンに包接させてなるアルブミン−金属ポルフィリン複合体と、その表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質との積層膜構造体、およびそれを含む酸素吸着剤、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜またはガス選択分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で酸素運搬・貯蔵の役割を担うヘム蛋白質、すなわちヘモグロビンやミオグロビンの機能を人工的に再現し、酸素結合機構を詳しく解明するとともに、これを完全合成系の酸素運搬体として利用しようとする試みは、1970年代から精力的に開始された。1975年、ジェイ・ピー・コールマンらは、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体(以下、FeTpivPP錯体と呼ぶ)(非特許文献1)を合成し、これが室温で安定な酸素錯体を形成できることを示した。FeTpivPP錯体は、軸塩基、例えば1−アルキルイミダゾール、1−アルキル−2−メチルイミダゾール等を共存させると、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒中で、酸素を可逆的に結合解離することができる。その後、多くの研究者によりFeTpivPP誘導体が合成され、置換基構造と酸素結合能の相関が報告されている。初期の代表的な研究例は、非特許文献2、非特許文献3等にまとめられており、最近の開発動向は非特許文献4、非特許文献5等に記載されている。
【0003】
しかし、実際に人工赤血球としての使用を具現化するためには、それらのヘム誘導体を生理塩水溶液に溶解しなければならない。鉄ポルフィリンが可逆的に酸素を結合解離できるのは、その中心鉄が2価の状態にある場合のみで、中心鉄が酸化して、鉄(III)錯体になると、酸素配位活性は消失する。一般的に、水溶液中では中心鉄(II)の酸化反応が加速されるため、得られる酸素錯体の安定度は著しく低下する。
【0004】
本発明者らの研究グループは、FeTpivPP錯体をリン脂質からなる二分子膜小胞体の疎水的な分子空間に包接させることにより、この問題を克服し、生理条件下(生理塩水溶液中、pH7.4、37℃)で同様の酸素吸脱着機能を発揮させることに成功した(例えば、非特許文献6等)。さらに、本発明者らの研究グループは、鉄(II)ポルフィリンの分子にアルキルイミダゾール誘導体を共有結合させたFeTpivPP類縁体を合成し(特許文献1、非特許文献7)、これをヒト血清アルブミンに包接させるという方法で、アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体を調製し、これが生理条件下でヘモグロビンやミオグロビンと同じように酸素を吸脱着できることを示している(特許文献2、3)。アルキルイミダゾール誘導体を共有結合させた鉄(II)ポルフィリンは、酸素配位に必要不可欠でありながら毒性の高いイミダゾール配位子の量が必要最小限に抑えられるため、生体安全性はきわめて高い。実際にヒト血清アルブミンに分子内塩基結合型FeTpivPPを包接させて得たアルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体が、生体内で酸素を輸送できる人工赤血球として機能することが実証されている(非特許文献8)。
【0005】
さらに、本発明者らの研究グループは、このアルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体の分子表面をポリ(エチレングリコール)基で表面修飾すると、アルブミン内部から金属ポルフィリンが脱離することを抑制できるため、生体内へ投与した後の血中半減期が、ポリ(エチレングリコール)基で修飾していない場合に比べ、大幅に延長されることも明らかにした(特許文献4)。また、ポリ(エチレングリコール)修飾アルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液を基板上にキャストし、分散媒である水を乾燥除去すると、赤色のフィルム状薄膜が得られ、それが酸素を可逆的に結合解離できる酸素吸着膜として機能することも見いだした(特許文献5)。この固相膜における酸素錯体の安定度は、水溶液中に比べ著しく高い。得られた表面修飾アルブミン−金属ポルフィリン複合体からなる固相膜は、酸素吸着膜のほか、人工皮膚、各種コーティング剤、表面改質(親水化処理)剤、人工血管表面処理剤、人工臓器表面処理剤、医療器具表面処理剤、細胞シート、薄膜として携帯できる人工血漿増量剤、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜、ガス選択分離膜として提供される。
【0006】
しかしながら、アルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液をキャストする方法で作製する固相膜では、膜厚の精密な制御や、ナノメートルサイズの超薄膜の作製、さらには、ナノメートルスケール間隔で異なるアルブミン−金属ポルフィリン複合体が緻密に積層された複合膜の作製等は難しい。また、酸素吸着膜として利用する場合には、当然、表面積の大きな膜として調製したほうが、酸素分子の結合解離も迅速で、かつ酸素結合保持量も格段に大きくなる。
【0007】
そこで、キャスト法ではなく、分子レベルで構造、組成および形態制御のできるアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む新しい構造体の確立と、得られた構造体の特性や機能発現に関する開発が待たれていた。
【非特許文献1】J. P. Collman, et al., J. Am. Chem. Soc., 97: 1427 (1975)
【非特許文献2】F. Basolo, B. M. Hoffman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8: 384 (1975)
【非特許文献3】J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10: 265 (1977)
【非特許文献4】Momentau et al., Chem. Rev., 110: 7690 (1994)
【非特許文献5】J. P. Collman, Chem. Rev., 104: 561 (2004)
【非特許文献6】E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1984: 1147 (1984)
【非特許文献7】E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1995: 747 (1995)
【非特許文献8】E. Tsuchida et al., J. Biomed. Mater. Res. 64A, 257 (2003)
【特許文献1】特開平06−271577号公報
【特許文献2】特開平08−301873号公報
【特許文献3】特開2003−040893号公報
【特許文献4】特開2006−045173号公報
【特許文献5】特願2006−032809号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、ナノメートルサイズでの膜厚調節や、異なる成分同士の複合化、さらには大きな分子表面積の作製等、分子レベルで構造、組成および形態制御が可能なアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ヒト血清アルブミンの等電点は4.8であり、これはヒトヘモグロビンの値7.0に比べると低い。つまり、ヒト血清アルブミンの分子表面は、生理的pH(7.3付近)では、常に負に帯電している。その分子表面は、pH4.8付近では中性となり、それより低いpH領域では、正に帯電している。アルブミン−金属ポルフィリン複合体の等電点も、アルブミンと変わらないことから、その水溶液のpHを変化させることにより、分子表面の総電荷を正または負に調整することができる。
【0010】
本発明者らは、分子レベルで構造、組成および形態制御が可能なアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む新しい膜構造体の設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、金属ポルフィリンをアルブミンに包接させて得たアルブミン−金属ポルフィリン複合体と、その表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質を、交互に積層することにより、ナノメートルスケールで構造および組成を制御できる積層膜構造体が作製できるばかりでなく、これを、電荷を有する鋳型(テンプレート)内で作製することにより、鋳型の内部構造に対応する構造の積層膜構造体を作製することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、第1の側面によれば、金属ポルフィリンをアルブミンに包接させてなるアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む第1の層と、前記アルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質を含む第2の層が、1つの該第1の層と1つの該第2の層が直接接するように積層されてなる積層膜構造体が提供される。
【0012】
さらに、本発明の第2の側面によれば、本発明の積層膜構造体を含む酸素吸着剤、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜、ガス選択分離膜が提供される。この場合、金属ポルフィリンは、中心金属として、鉄(II)またはコバルト(II)を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む積層膜構造体は、異なる極性の表面電荷を持つ分子間に作用する静電引力を利用して、各分子を層状に積層する方法で作製されるため、ナノメートルサイズの膜厚を有する超薄膜の調製や、分子レベルでの構造、組成の制御が可能である。また、例えば、電荷を有する多孔質膜を鋳型(テンプレート)として、その内部に同様に積層膜構造体を作製すると、細孔の内壁を被覆して積層膜構造体が生成するため、得られる構造体の総表面積は非常に大きなものとなる。さらに、その鋳型を除去することにより、細孔径のサイズと同じサイズの外径を有する管(チューブ)状の積層膜構造体が得られる。これらの積層膜構造体は、いずれも酸素分子を可逆的に結合解離できる特徴を持つ。つまり、本発明の積層膜構造体は、アルブミン−金属ポルフィリン複合体が水相系で発現できた酸素の結合能を保持したまま、実用に耐える酸素吸着剤として提供できる。また、本発明の積層膜構造体は、酸素吸着剤のほかにも、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜、ガス選択分離膜として提供される有用な材料である。特に、極性の異なる表面電荷を有するアルブミン−金属ポルフィリン複合体同士を積層させる場合や、第2の層としてリン脂質等を使用して形成された積層膜構造体は、生体適合性、環境調和性もきわめて高い先端材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の積層膜構造体は、金属ポルフィリンをアルブミンに包接させてなるアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む第1の層と、そのアルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質を含む第2の層との積層膜構造体である。ここで、1つの第1の層と1つの第2の層が直接接するように積層される。第1の層と第2の層の積層順に制限はない。例えば、本発明の積層膜構造体は、第1の層/第2の層、または第2の層/第1の層の順からなる2層構造、第1の層/第2の層/第1の層、または第2の層/第1の層/第2の層の順からなる3層構造をとることができる。以下、下地の層の表面電荷とは反対極性の電荷を有する層が順次積層される。
【0015】
第1の層は、金属ポルフィリンをアルブミンに包接させて得たアルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液から形成することができ、第2の層は、第1の層を構成するアルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質の水溶液から形成することができる。
【0016】
第2の層を形成する反対極性の電荷を有する物質としては、アルブミン、アルブミン−金属ポルフィリン複合体、イオン性基を有する脂質またはイオン性基を有する高分子(高分子電解質)が好ましい。第1の層を形成するヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体水溶液のpHが4.8を超える場合には、ヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷は負であるため、それとは反対極性の電荷(すなわち正電荷)を有する物質(第2の層を形成する物質)の水溶液としては、pHが4.8未満、このましくはpHが2.0〜4.5、より好ましくはpHが3.0〜4.0のアルブミンまたはアルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液(この場合、アルブミンまたはアルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷は正となる)、カチオン性基を有する脂質、カチオン性基を有する高分子の水溶液を好適に使用することができる。また、第1の層を形成するアルブミン−金属ポルフィリン複合体水溶液のpHが4.8未満の場合には、アルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷は正となるため、それとは反対極性の電荷(すなわち負電荷)を有する物質(第2の層を形成する物質)の水溶液としては、pHが4.8を超える、このましくはpHが5.0〜10.0、より好ましくはpHが6.0〜8.0のアルブミンまたはアルブミン−金属ポルフィリン複合体水溶液(この場合、アルブミンまたはアルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷は負となる)、アニオン性基を有する脂質、アニオン性基を有する高分子の水溶液を好適に使用することができる。
【0017】
上記カチオン性基を有する脂質としては、アルキルアンモニウム塩、カチオン性アミノ酸脂質が好ましく、カチオン性基を有する高分子としては、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン、カチオン性基を側鎖に有するポリスチレンが好ましい。アニオン性基を有する脂質としては、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸塩、アルキルフォスファチジン酸、アルキルフォスファチジルセリン、アニオン性アミノ酸脂質が好ましく、アニオン性基を有する高分子としては、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリスルホン酸、アニオン性基を側鎖に有するポリスチレンが好ましい。
【0018】
本発明で用いるアルブミンは、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体であることが好ましい。
【0019】
また、アルブミンに包接される金属ポルフィリンは、下記一般式[I]、一般式[II]、一般式[III]、または一般式[IV]で示されるものが好ましい。一般式[I]で示される金属ポルフィリンは、特開平06−271577号公報および特開2003−40893号公報に、一般式[II]で示される金属ポルフィリンは、特開2002−128781号公報に、一般式[III]で示される金属ポルフィリンは、特開2006−8622号公報に、一般式[IV]で示される金属ポルフィリンは、Nakagawa et al., Org. Biomol. Chem. 2; 3108-3112 (2003)に、それぞれ開示されている。
【化5】

【0020】
一般式[I]において、R1は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R1は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここでR’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0021】
一般式[I]において、R2はアルキレン基であり、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0022】
一般式[I]において、R3はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基である。かかるR3の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【化6】

【0023】
一般式[II]において、R4は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R4は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0024】
一般式[II]において、R5はアルキレン基、好ましくはC1〜C6アルキレン基である。
【0025】
一般式[II]において、R6はアルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基である。
【0026】
一般式[II]において、Mは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【化7】

【0027】
一般式[III]において、R7は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R7は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−に置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0028】
一般式[III]において、R8はアルキレン基、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0029】
一般式[III]において、R9はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、好ましくは水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基であり、Rはメチレン基またはエチレン基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【化8】

【0030】
一般式[IV]において、R10は水素原子または炭化水素基である。R10は水素原子、ビニル基、エチル基、ホルミル基、アセチル基が好ましい。
【0031】
一般式[IV]において、R11はアルキル基であり、好ましくはC1〜C10アルキル基である。
【0032】
一般式[IV]において、R12はアルキレン基であり、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0033】
一般式[IV]において、R13はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基である。かかるR13の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0034】
本発明の積層膜構造体において、金属ポルフィリンを包接したアルブミンは、金属ポルフィリンと配位結合するアミノ酸を遺伝子組換え技術により少なくとも一つ導入した組換えアルブミンに、金属ポルフィリンを軸配位結合させて得た組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体であってもよい。導入されるアミノ酸はヒスチジンが好ましく、導入位置はサブドメインIBが好ましい。この場合の金属ポルフィリンは、軸塩基配位子を分子内に持っていない金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジホルミルポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属オクタエチルポルフィリンが好ましい。
【0035】
中心遷移金属イオンMは、好ましくはFeまたはCoである。Feの原子価は+2価または+3価であり得、Coの原子価は+2価であり得る。
【0036】
いずれの場合でも、本発明に使用するアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、アルブミン濃度が0.05〜10wt%、好ましくは0.2〜1.0wt%であり、金属(鉄等)ポルフィリン/アルブミンモル比が1〜10、好ましくは1〜8であることが望ましい。
【0037】
また、血清アルブミンやリン脂質を素材とした積層膜構造体は、生体適合性、環境調和性はきわめて高く、生体利用にも適している。
【0038】
本発明の積層膜構造体は、酸素を可逆的に結合解離できるので、酸素吸着膜、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜、ガス選択分離膜として利用できる。その場合、ポルフィリンが例えば第4〜5周期に属する金属イオンの錯体である場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高い。中心金属(特に、Fe(II)またはCo(II))に配位結合する気体分子としては、酸素のほかに、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、シアン化物等がある。
【0039】
アルブミンには、上記した金属ポルフィリンの他に、様々な低分子化合物が非特異的に包接されることが広く知られている。つまり、金属ポルフィリン以外の低分子化合物や機能分子を包接させたアルブミンを調製し、それを用いて同様な方法で作製したアルブミン−機能分子複合体からなる積層膜構造体も、きわめて有用な材料となる。
【0040】
本発明の積層膜構造体は、上記アルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液と、上記反対極性の電荷を有する物質の水溶液を用いて作製することができる。今、簡便のため、アルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液および上記反対極性の電荷を有する物質の水溶液のうちの一方を水溶液A、他方を水溶液Bとし、水溶液Aから得られる膜を膜A、水溶液Bから得られる膜を膜Bとすると、本発明の積層膜構造体は、以下のようにして作製することができる。
【0041】
まず、水溶液Aを、ガラス板、石英板、シリコンウエファー、グラファイト板、ITOガラス電極等の基板と接触させたのち、これを水で洗浄した後、窒素ガス等の不活性ガスを吹き付けることにより乾燥させて膜Aを作る。次に、膜Aを、水溶液Bと接触させた後、同様に洗浄および乾燥を行って膜Bを作る。膜Aと膜Bは、それら膜を構成する異なる極性の表面電荷を持つ分子間に作用する静電引力により強固に結合する。これらの操作は、それぞれ1〜100回、好ましくはそれぞれ3〜10回繰り返すことができる。こうして、基板上に、所望の積層膜構造体が得られる。
【0042】
基板と水溶液Aの接触時間、膜Aと水溶液Bの接触時間、および膜Bと水溶液Aの接触時間は、それぞれ、通常、0.5〜10分、好ましくは1〜5分である。
【0043】
また、上記操作を、電荷を有する鋳型(テンプレート)内で行うことにより、鋳型の構造に対応する構造を有する積層膜構造体が得られる。そして、この鋳型を除去することにより、鋳型の構造に沿って制御されて作製された積層膜構造体が単離できる。例えば、負の表面電荷を有する多孔質酸化アルミニウム膜(メンブラン)の細孔を鋳型(テンプレート)として利用することができる。すなわち、液体流入ポートと液体排出ポートを有するメンブランホルダー内に多孔質酸化アルミニウム膜を固定し、シリンジから正電荷を有する物質の水溶液を液体流入ポートからメンブランホルダー内に注入し、メンブランを通過させる。ついで水を流して洗浄した後、負電荷を有する物質の水溶液を同様にしてメンブランを通過させ、水洗する。この操作を所望回繰り返すことにより、多孔質酸化アルミニウム膜の細孔内に管(チューブ)状の積層膜構造体が得られる。なお、水溶液の多孔質膜通過を促進するために、多孔質膜の液体排出側を吸引減圧することができる。
【0044】
こうして得られる積層膜構造体を含む多孔質酸化アルミニウムメンブランを、基板上(ガラス板、石英版、シリコンウエファー、グラファイト、ITOガラス電極)に接着剤で固定し、水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜3M、好ましくは0.5〜1.0M)中に浸漬することにより、酸化アルミニウムを溶解除去すると、積層膜構造体が単離される。
【0045】
いずれの場合でも、基板上に作製される本発明の積層膜構造体の形態、膜厚は、走査型電子顕微鏡観察から測定できる。
【0046】
本発明のヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体は、中心金属が鉄(II)またはコバルト(II)の場合、酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成し、その酸素結合解離は酸素分圧に依存して可逆的に繰り返し生起することができるので、酸素吸着剤として作用する。また、有効な酸素吸着膜、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜、ガス選択分離膜として、さらに中心金属が例えば第4〜5周期に属する金属イオンの錯体である場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての応用価値も高い。
【実施例】
【0047】
以下、この発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明が実施例のものに限定されないことは、言うまでもないことである。
【0048】
例1
特開2003−040893号に記載の方法により合成した2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.2wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))の水溶液(pH3.0)中にガラス板(1cm×3cm(厚さ0.5mm))を浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。次に、そのガラス板を2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.2wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))の水溶液(pH7.0)中に浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。その操作を交互に3回ずつ実施することにより、ガラス基板上にヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体が得られた。
【0049】
走査型電子顕微鏡観察から実測したガラス基板上のヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体の膜厚は、約100nmであった。
【0050】
このヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体を固定したガラス板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、最大吸収波長λmaxが、427、537nmに現れ、積層膜構造体に固定されている鉄(II)ポルフィリンが一酸化炭素錯体を形成していることがわかった。酸素を通気しながら、ハロゲンランプ(500W)で光照射(10分)すると、吸収スペクトルのλmaxが427、547nmにシフトし、積層膜構造体中の鉄(II)ポルフィリンが酸素錯体へ移行したことが明らかとなった。さらに、窒素を通気することにより脱酸素を行うと、λmaxは443,537,564nmに移動し、包接されている鉄(II)ポルフィリンが5配位高スピン錯体を形成していることがわかった。これは、ヘモグロビンのデオキシ体に相当する。この酸素−窒素の吹き込みに伴うスペクトルの変化は、酸素分圧に応答して観測されたことから、酸素の吸脱着が可逆的に生起することが明らかとなった。
【0051】
例2
特開2003−40893号公報に記載の方法により合成した2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−アダマンタンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.3wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))の水溶液(pH3.0)中に石英板(1cm×3cm(厚さ1.0mm))を浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。次に、その石英板をジミリストイルフォスファチジン酸の水分散液(0.3wt%、pH7.0)中に浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。その操作を交互に3回ずつ実施することにより、ガラス基板上にヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体とジミリストイルフォスファチジン酸との積層膜構造体を得た。
【0052】
走査型電子顕微鏡観察から実測したガラス基板上の積層膜構造体の膜厚は、約90nmであった。
【0053】
この積層膜構造体を固定した石英板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、例1と同じ方法により紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、鉄(II)ポルフィリンに酸素が可逆的に吸脱着することが明らかとなった。
【0054】
例3
特開平6−271577号公報に記載の方法により合成した2−(N−(10−(イミダゾリル)デカノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.2wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:8(モル/モル))の水溶液(pH3.0)中にガラス板(1cm×3cm(厚さ0.2mm))を浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。次に、その石英板をポリスチレンスルホン酸の水溶液(0.1wt%、pH7.0)中に浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させる。その操作を交互に5回ずつ実施することにより、ガラス基板上にヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体とポリスチレンスルホン酸との積層膜構造体を得られた。
【0055】
走査型電子顕微鏡観察から実測した、ガラス基板上の積層膜構造体の膜厚は、約150nmであった。
【0056】
この積層膜構造体を固定した石英板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、例1と同じ方法により紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、鉄(II)ポルフィリンに酸素が可逆的に吸脱着することが明らかとなった。
【0057】
例4
ポリエチレンイミン水溶液(0.2wt%、pH7.0)中にガラス板(1cm×3cm(厚さ0.2mm))を浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。次に、その石英板を特開2002−128781号公報に記載の方法により合成した2−(4−(O−メチル−L−ヒスチジルカルボニル)ブタノイルオキシ)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.2wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))の水溶液(pH7.0)水溶液(0.1wt%、pH7.0)中に浸漬し、1分後に取り出し、純水で軽く洗浄した後、空気中で窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。その操作を交互に5回ずつ実施することにより、ガラス基板上にポリエチレンイミンとヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体との積層膜構造体を得た。
【0058】
走査型電子顕微鏡観察から実測した、ガラス基板上の積層膜構造体の膜厚は、約250nmであった。
【0059】
この積層膜構造体を固定した石英板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、例1と同じ方法により紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、鉄(II)ポルフィリンに酸素が可逆的に吸脱着することが明らかとなった。
【0060】
例5
特開2003−040893号公報に記載の方法により合成した2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.25wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))の水溶液(pH3.0、5mL)をシリンジから、メンブランホルダー内に固定したアノディスク25メンブラン(酸化アルミニウム製、21mmφ、ワットマン)を通過させた。通過性をよくするため、場合によっては、メンブランの排出側を減圧吸引した。続いて、5mLの純水を通過させることにより、軽く洗浄した後、同じく2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.25wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:4(モル/モル))の水溶液(pH7.0)を通過させ、続いて5mLの純水で洗浄した。この操作を3回繰り返すことにより、アノディスク膜内にヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体を得た。
【0061】
この積層膜構造体を含むアノディスク膜を、ガラス基板上にエポキシ系接着剤で固定し、1M水酸化ナトリウム水溶液中に12時間浸漬することにより、アノディスク膜成分を溶解除去すると、ヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体が得られた。
【0062】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察から実測したガラス基板上のヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体は、図1のSEM写真に示すように、アノディスクの細孔の形に対応し、管(チューブ)状をしており、その外径は約350nm、内径は約150nmであった。図1(A)は、積層膜構造体(チューブ)の側面形状を示し、図1(B)は、積層膜構造体(チューブ)の端面を示す。
【0063】
このヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体(ナノチューブ)を固定したガラス板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、最大吸収波長λmaxが、425、538nmに現れ、積層膜構造体に固定されている鉄(II)ポルフィリンが一酸化炭素錯体を形成していることがわかった。酸素を通気(フロー)しながら、ハロゲンランプ(500W)で光照射(30分)すると、吸収スペクトルのλmaxが426、548nmにシフトし、積層膜構造体中の鉄(II)ポルフィリンが酸素錯体へ移行したことが明らかとなった。さらに、窒素を通気しながら脱酸素を行うと、λmaxは440、535、563nmに移動し、包接されている鉄(II)ポルフィリンが5配位高スピン錯体を形成していることがわかった。これは、ヘモグロビンのデオキシ体に相当する。この酸素−窒素の吹き込みに伴うスペクトルの変化は、酸素分圧に応答して観測されたことから、酸素の吸脱着が可逆的に生起することが明らかとなった。
【0064】
例6
例5で用いた2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体の水溶液の代わりに、Nakagawa et al., Org. Biomol. Chem. 2; 3108-3112 (2003)に記載の方法により合成した3,18−ジビニル−8−(3−エトキシカルボニル)エチル−12−(N−イミダゾリルプロピルアミド)−9−オキシメチル)カルボニル)エチル−2,7,13,17−テトラメチルポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体(アルブミン濃度:0.2wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:1(モル/モル))の水溶液を用いた以外は例5と全く同様な方法により、ヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体(ナノチューブ)を得た。
【0065】
この積層膜構造体を固定した石英板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、例5と同じ方法により紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、鉄(II)ポルフィリンに酸素が可逆的に吸脱着することが明らかとなった。
【0066】
例7
例5で用いた2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接したヒト血清アルブミン複合体の水溶液の代わりに、鉄(II)プロトポルフィリンIXを軸配位で固定した遺伝子組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)(アルブミン濃度:0.2wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:1(モル/モル))の水溶液を用いた以外は例5と全く同様な方法により、遺伝子組換えヒト血清アルブミン−鉄(II)ポルフィリン複合体からなる積層膜構造体(ナノチューブ)を得た。
【0067】
この積層膜構造体を固定した石英板を、光路長1cmの石英製分光用セルに入れてセプタムラバーで密栓し、例5と同じ方法により紫外可視吸収スペクトル測定を行うと、鉄(II)ポルフィリンに酸素が可逆的に吸脱着することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】例5で得られた積層膜構造体(ナノチューブ)のSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ポルフィリンをアルブミンに包接させてなるアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む第1の層と、前記アルブミン−金属ポルフィリン複合体の表面電荷とは反対極性の電荷を有する物質を含む第2の層が、1つの該第1の層と1つの該第2の層が直接接するように積層されてなる積層膜構造体。
【請求項2】
前記反対極性の電荷を有する物質が、アルブミンまたはアルブミン−金属ポルフィリン複合体である請求項1に記載の積層膜構造体。
【請求項3】
前記反対極性の電荷を有する物質が、イオン性基を有する脂質、またはイオン性基を有する高分子である請求項1に記載の積層膜構造体。
【請求項4】
前記第1の層と、前記第2の層とが、電荷を有する鋳型(テンプレート)内で積層されることにより形成される請求項1〜3いずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項5】
内部に積層膜構造体が形成された前記鋳型から、該鋳型を除去することにより得られる請求項4に記載の積層膜構造体。
【請求項6】
前記鋳型が、多孔質酸化アルミニウムの細孔により提供される請求項5に記載の積層膜構造体。
【請求項7】
前記金属ポルフィリンが、一般式[I]:
【化1】

(ここで、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2は、アルキレン基、R3は、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、X-はハロゲン化物イオン、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数)で示される請求項1〜6いずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項8】
1が、1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R2が、C1〜C10アルキレン基であり、R3が、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である請求項7に記載の積層膜構造体。
【請求項9】
1が1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項8に記載の積層膜構造体。
【請求項10】
前記金属ポルフィリンが、一般式[II]:
【化2】

(ここで、R4は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R5は、アルキレン基、R6は、アルキル基、Mは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)、X-はハロゲン化物イオン、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数)で示される請求項1〜6いずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項11】
4が、1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R5が、C1〜C6アルキレン基であり、R6が、C1〜C6アルキル基である請求項10に記載の積層膜構造体。
【請求項12】
4が、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項11に記載の積層膜構造体。
【請求項13】
前記金属ポルフィリンが、一般式[III]:
【化3】

(ここで、R7は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R8は、アルキレン基、R9は、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、X-はハロゲン化物イオン、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数)で示される請求項1〜6いずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項14】
7が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R8がC1〜C10アルキレン基であり、R9が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基で示される請求項13に記載の積層膜構造体。
【請求項15】
7が、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項14に記載の積層膜構造体。
【請求項16】
前記金属ポルフィリンが、一般式[IV]:
【化4】

(ここで、R10は、水素原子または炭化水素基、R11は、アルキル基、R12は、アルキレン基、R13は、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、X-はハロゲン化物イオン、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数)で示される請求項1〜6いずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項17】
10が、水素原子、ビニル基、エチル基、ホルミル基、もしくはアセチル基であり、R11が、C1〜C10アルキル基であり、R12が、C1〜C10アルキレン基であり、R13が、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基で示される請求項16に記載の積層膜構造体。
【請求項18】
前記アルブミン−金属ポルフィリン複合体が、金属ポルフィリンと配位結合するアミノ酸を遺伝子組換え技術により少なくとも一つ導入した組換えアルブミンに、金属ポルフィリンを軸配位結合させてなる組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項19】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、またはアルブミン多量体である請求項1〜18のいずれか1項に記載の積層膜構造体。
【請求項20】
前記金属ポルフィリンが、中心金属として、FeまたはCoを有する請求項1〜19に記載の積層膜構造体。
【請求項21】
Feの価数が+2価である請求項20記載の積層膜構造体。
【請求項22】
Coの価数が+2価である請求項21記載の積層膜構造体。
【請求項23】
請求項21または22に記載の積層膜構造体を含む酸素吸着剤、酸素富化膜、酸素透過膜、酸素除去膜またはガス選択分離膜。

【図1】
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【公開番号】特開2007−301734(P2007−301734A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129472(P2006−129472)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】