説明

アルミニウム合金製集電体を用いた二次電池用正極、及びその二次電池用正極の生産方法

【課題】正極活物質との密着性に優れ、そのために充放電特性も良好な二次電池用正極を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金箔からなる正極集電体100表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極であって、正極集電体100表面は凹凸を有し、正極集電体100の凹凸を有する面の表面粗さRaの平均が0.07〜4.0μmであり、凹凸の局部山頂06の平均間隔が20〜50μmであり、凹凸を構成するピット04の円相当径の平均が4.0〜600μmであり、ピット04の密度が300個/m以上5000個/m以下である、二次電池用正極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製集電体を用いた二次電池用正極、及びその二次電池用正極の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極材を製造するには、まず、LiCoOなどの活物質と、カーボンなどの導電材と、PVDFなどの結着剤と混練してペーストを作製する。次いで、このペーストを10〜30μm程度のアルミニウム硬質箔あるいはアルミニウム軟質箔(以下、単に「アルミニウム合金箔」という)の両面に50〜200μm程度の厚みに塗布し乾燥させる。その後、このアルミニウム合金箔にプレス、スリット、裁断の各工程を順次、施すことによりリチウムイオン二次電池の正極材が製造される。
【0003】
上述した電極用基材となるアルミニウム合金箔への塗布から電池組み立てまでの加工工程において、より低コストで精度の良い電極材の製造が要求されている。更に、電池の寿命を高くするため、電極用基材となるアルミニウム合金箔と上記の活物質との密着力を高めた正極ならびにアルミニウム集電体が、強く要望されている。
【0004】
上記の正極集電体を構成するアルミニウム合金箔は、一般的に冷間圧延を施して製造されるために、その表面が比較的平滑であり、正極集電体に対する正極活物質の密着力は低い。特にリチウムイオン二次電池の容量を増大させるために正極活物質に含まれる活物質の量を増加させると相対的にバインダー量が減少するため、正極集電体に対する正極活物質の密着力は一層減少し、この密着力が不足するとリチウムイオン二次電池は少ない充放電サイクル回数で放電容量が低下する。
【0005】
そのため、特許文献1には、アルミニウム合金箔の表面をサンドブラストにより粗面化して正極集電体に対する正極活物質の密着力を向上させるなどの工夫も成されている。
【0006】
また、特許文献2には、純Al製箔を陽極酸化して表面に陽極酸化皮膜を形成し、ついでその陽極酸化皮膜を燐酸により脱膜すると、表面に平均ピット径:0.05〜0.10μmの範囲内のピットが平均密度:100〜500個/μmで形成された純Al製箔が得られることが記載されている。また、このピットを有する純Al製箔を正極集電体膜とし、正極集電体膜の表面に正極活物質とバインダーを含むスラリーを塗布したのち乾燥して正極活物質膜を形成すると、正極集電体膜に対する正極活物質膜の密着性が向上することが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、水または不燃性有機溶媒を媒介としてアルミニウム合金箔の表面にアルミナ粒子を噴射することによってアルミニウム合金箔の表面を粗化し、少なくとも一方の表面の粗さとして平均粗さRaが0.3μm以上1.5μm以下で最大高さRyが0.5μm以上5.0μm以下の二次電池や電気二重層コンデンサに用いられる集電体用アルミニウム合金箔が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、アルミニウム合金箔をエッチング等の表面処理することで楔状の形態のピッチを製造することが記載されている。
【0009】
また、非特許文献1には、リチウムイオン二次電池の正極材とは全く関係ない技術分野ではあるが、アルミニウム合金箔の表面に生じるオイルピットについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−22699号公報
【特許文献2】特開2000−113892号公報
【特許文献3】特開平11−162470号公報
【特許文献4】特開2008−060124号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】福田ら;「純チタン薄板の圧延技術」R&D KOBE STEEL ENGINEERING REPORT/Vol.49 No.3 (Dec.1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1及び特許文献3のように、サンドブラストやアルミナ粒子の噴射により表面を粗面化した場合には、アルミニウム合金箔からなる正極集電体に対する正極活物質の密着性は確かに向上する。しかしながら、このような場合でも、アルミニウム合金箔からなる正極集電体に対する正極活物質の密着性は未だ十分ではなく、正極集電体に対する正極活物質の密着性の一層の改善が求められていた。
【0013】
第二に、特許文献2の陽極酸化皮膜によるピット形成は、通常使用される正極集電体のアルミニウム合金箔の厚さが僅か15〜30μmであり、この厚さの材料を陽極酸化するためには、低い電圧で長時間処理しなければならず、長時間の陽極酸化処理を行うと、アルミニウム合金箔にピンホール(孔)が開いてしまったり、時には溶解して箔切れが生じてしまったりすることがある。また、陽極酸化で上記不具合がない場合でもその後の燐酸処理でさらに箔厚が薄くなり、ラインで切れやすいなど、生産性やコストの点で問題であった。
【0014】
第三に、特許文献4には、アルミニウム合金箔をエッチング等の表面処理する場合には非常に高価な製品となり、今後ますます軽量化、高機能化とともに低コストが求められると予想される要求に対して満足することが困難となる。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層とアルミニウム合金箔からなる正極集電体との間の密着性に優れた二次電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意試行錯誤を繰り返した結果、非特許文献1に示すように、従来の技術常識では表面欠陥であるとされてきたアルミニウム合金箔表面のオイルピットをむしろ積極的に活用することに想到した。そして、本発明者等は、この着想に基づいて、アルミニウム合金箔表面において欠陥として悪影響が出ないようなオイルピットの形状、分布状態を突き止め、正極集電体と正極活物質との密着性を向上させることに成功した。
【0017】
その過程で、本発明者等は、さらに、アルミニウム合金箔表面にオイルピットを作成するために冷間圧延を行う際に、アルミニウム合金箔表面にうねりが発生することがあることに気づき、そのうねりをむしろ積極的に利用できる可能性に気づいた。そして、本発明者等は、この着想に基づいて、アルミニウム合金箔表面のオイルピットにくわえて、適度な条件のうねりを設けることによって、互いに性質の異なるオイルピット及びうねりの組合せによって絶妙な形状及び分布の凹凸ができあがることになり、その結果、正極集電体と正極活物質との密着性がさらに飛躍的に向上することを見出した。
【0018】
すなわち、本発明によれば、アルミニウム合金箔からなる正極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極であって、正極集電体表面は凹凸を有し、正極集電体の凹凸を有する面の表面粗さRaの平均が0.07〜4.0μmであり、凹凸の局部山頂の平均間隔が20〜50μmであり、凹凸を構成するピットの円相当径の平均が4.0〜600μmであり、ピットの深さの平均が0.3〜3.0μmであり、ピットの密度が300個/m以上5000個/m以下である、二次電池用正極が提供される。
【0019】
この構成によれば、アルミニウム合金箔表面において欠陥として悪影響が出ないようなピットの形状、分布状態が実現されており、それらのピットを含めて絶妙なバランスを有する形状及び分布の凹凸が設けられていることによって、正極集電体と正極活物質との密着性に著しく優れた二次電池用正極が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、アルミニウム合金箔からなる正極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極の生産方法であって、アルミニウム合金板を、圧延油の動粘度が1.9〜3.5×10−3Pa・sであり、圧延速度が400〜1200m/minであり、ロール表面粗さRaの平均が0.10〜5.0μmであり、仕上げ圧延率が20〜50%である、条件で冷間圧延して前記アルミニウム合金箔を得る工程を含む、二次電池用正極の生産方法が提供される。
【0021】
この方法によれば、オイルピットはアルミニウム合金箔を製造する際の冷間圧延で形成されるものであるため、通常のアルミニウム合金箔の製造工程に対して特別な工程を増やすことなくオイルピットを有するアルミニウム合金箔を作りだすことができる。また、アルミニウム合金箔表面にオイルピットを作成するために冷間圧延を行う際に、アルミニウム合金箔表面にうねりが発生するため、互いに性質の異なるオイルピット及びうねりの組合せによって絶妙なバランスを有する形状及び分布の凹凸ができあがることになり、その結果、正極集電体と正極活物質との密着性がさらに飛躍的に向上する。すなわち、この方法によれば、アルミニウム合金箔を製造する際の冷間圧延で凹凸を形成するため、エッチングなどで凹凸を形成する場合に比べてピンホールが少ないので、高速で搬送しても切断することはなく、低コストの製造工程によって正極集電体と正極活物質との密着性に著しく優れた二次電池用正極が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の二次電池用正極は、上述の如き絶妙なバランスを有する形状及び分布の凹凸がアルミニウム合金箔の表面に設けられているため、正極集電体と正極活物質との密着性が著しく優れている。
【0023】
また、本発明の二次電池用正極の生産方法は、アルミニウム合金箔を製造する際の冷間圧延でアルミニウム合金箔の表面の凹凸を形成するため、正極集電体と正極活物質との密着性に著しく優れた二次電池用正極を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本実施形態に係る二次電池用正極に用いられるアルミニウム合金箔の表面のうねり及びオイルピットにより構成される凹凸を説明するためのアルミニウム合金箔の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、本実施形態に置いて、A〜Bと記載した場合には、A以上B以下であることを意味する。
【0026】
<二次電池用正極>
図1は、本実施形態に係る二次電池用正極に用いられるアルミニウム合金箔の表面のうねり及びオイルピットにより構成される凹凸を説明するためのアルミニウム合金箔の概念図である。本実施形態に係る二次電池用正極は、アルミニウム合金箔からなる正極集電体100表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極である。
【0027】
本実施形態において、「二次電池」とは、蓄電池、充電式電池を含み、充電を行うことにより電気を蓄えて電池として使用できる様になり、繰り返し使用することができる電池を含む概念である。また、「正極」とは、カソードを含み、溶液から電極に向って正電荷が移動する側の電極(溶液に向って電子が放出される側の電極)を含む概念である。
【0028】
ここで、上記の二次電池用正極に含まれる正極活物質は、コバルト系材料、燐酸鉄系材料、スピネルマンガン系材料、コバルト−ニッケル−マンガン3元系材料およびコバルト−ニッケル−アルミ3元系材料からなる群から選ばれる1種以上の材料を含むことが、二次電池の性能を高めるためには好ましい。
【0029】
なお、この正極活物質層をアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100表面に塗工する際には、上記の正極活物質と、カーボンなどの導電材と、PVDFなどの結着剤とを混練してペーストを作製した上でアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100表面に塗工することが好ましい。また、その塗工前にアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100表面にカーボンコートなどの下地処理を施しても良い。
【0030】
また、上記のアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100表面は凹凸を有している。そして、この凹凸が後述する特定の条件をみたすため、このアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100は、正極活物質との密着性が良く、かつ、充放電後のサイクル特性に優れており、二次電池の高寿命に貢献できる特性を有している。
【0031】
具体的には、上記の正極集電体100の表面の凹凸は、この正極集電体100を構成するアルミニウム合金箔02が冷間圧延される際に、そのアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100表面に形成されるうねり及びピット04により構成されていることが、正極集電体100と正極活物質との間の密着性を向上するためには好ましい。そして、この凹凸を構成するピット04は、上記のアルミニウム合金箔が冷間圧延される際に形成される楔状のオイルピット04であることが、正極集電体100と正極活物質との間の密着性を向上するためには好ましい。
【0032】
ここで、「オイルピット」とは、冷間圧延中に油による潤滑、ロールによる圧力や張力の不均一によってできる表面の凹部を含む概念であり、通常、圧延材に存在する。オイルピット04の大きさ、分布密度等は、圧延油の動粘度、圧延速度、ロール表面粗さ、仕上げ圧延率および圧延荷重の各因子の条件を制御することによって変化させることができる。この内、圧延荷重は主に所望のアルミニウム合金箔100の厚さを出すために制御されるため、オイルピット04の性状を変えることに寄与させることが難しい。従って、オイルピット04の大きさ、分布密度等は、後述するように、圧延油の動粘度、圧延速度、ロール表面粗さおよび仕上げ圧延率の各因子によって主に決定される。
【0033】
一方、非特許文献1には、「オイルピットはロールバイト(1対の上下2本のロールの間の空隙のことをいう)中に潤滑剤が封じ込められて被圧延材に凹み状の表面欠陥として現れるものである。」と記載されているように、オイルピット04は表面欠陥であるが故に減少させる努力を払うべきであるという技術常識が従来は存在していた。
【0034】
これに対して、本発明者等は、非特許文献1に示すように、従来の技術常識では表面欠陥であるとされてきたアルミニウム合金箔02表面のオイルピット04をむしろ積極的に活用することに想到した。そして、本発明者等は、この着想に基づいて、アルミニウム合金箔02表面において欠陥として悪影響が出ない後述するようなオイルピット04の形状、分布状態を突き止め、正極集電体100と正極活物質との密着性を向上させることに成功した。
【0035】
また、その過程で、本発明者等は、さらに、アルミニウム合金箔02表面に後述するような形状、分布状態からなるオイルピット04を作成するために冷間圧延を行う際に、アルミニウム合金箔02表面にうねりが発生することがあることに気づき、そのうねりをむしろ積極的に利用できる可能性に気づいた。そして、本発明者等は、この着想に基づいて、アルミニウム合金箔02表面にオイルピット04にくわえて後述するような適度な条件のうねりを設けることによって、互いに性質の異なるオイルピット04及びうねりの組合せによって絶妙な形状及び分布の凹凸がアルミニウム合金箔02表面にできあがることになり、その結果、正極集電体100と正極活物質との密着性がさらに飛躍的に向上することを見出した。
【0036】
その結果、本実施形態の二次電池用正極では、従来の二次電池の正極が抱えていた、正極活物質中の長期にわたるリチウムイオンのドープ・脱ドープに伴う活物質層の伸縮を受けることにより、層間の界面剥離が生じ、電池のサイクル寿命が低下し易いという難点を克服することに成功した。すなわち、本実施形態の二次電池用正極では、アルミニウム合金箔02表面に後述するような形状、分布状態のオイルピット04を形成することにくわえて、さらに後述するような適度な条件のうねりを設けることによって、活物質層の伸縮による密着性の低下を克服することに成功した。
【0037】
具体的には、上記の正極集電体100の凹凸を有する面の表面粗さRa(JIS B0601−1994に規定される)(上述のオイルピット04及びうねりの両方の形状及び分布の影響を受ける)の平均が0.07〜4.0μmであることが好ましい。この表面粗さRaの平均が0.07μm以上であると、正極集電体100と正極活物質との間の密着性が向上するため好ましい。一方、この表面粗さRaの平均が4.0μm以下であれば表面のうねりが大きくなり過ぎず、地キズやピンホールの原因となりにくいため好ましい。この表面粗さRaの平均は、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。逆に、表面粗さRaの平均が0.07μm未満では十分な活物質との密着性が得られず、また、表面粗さRaの平均が4.0μmを超えると、密着性は良くなるが、地キズやピンホールの原因となり易いため好ましくない。
【0038】
また、上記の正極集電体100の表面の凹凸の局部山頂06の平均間隔(例えば、上述の隣接するうねりの山頂間の間隔08の平均値)が20〜50μmであることが好ましい。この凹凸の局部山頂06の平均間隔が20μm以上であると、圧延ロールに細かく凹凸を付ける必要が少なくなり、製造コストを低減できるため好ましい。一方、この凹凸の局部山頂06の平均間隔が50μm以下であると、正極集電体100と正極活物質との間の密着性が向上するため好ましい。この凹凸の局部山頂06の平均間隔は、20、25、30、35、40、45、50μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。一方、正極集電体100の表面の凹凸の局部山頂06の平均間隔〔例えば、上述の隣接するうねりの山頂間の間隔08の平均値〕が20μm未満であると非常に細かい凹凸を圧延ロールに作らねばならず、効率が悪いばかりかコストアップとなり好ましくない。また、50μmを超えると活物質との密着力に乏しくなるため好ましくない。
【0039】
また、上記の正極集電体100の表面のオイルピット04は、既に上述したように、正極集電体100表面に形成されている冷間圧延によってできる凹凸を構成する一要素であるが、そのオイルピット04の円相当径の平均が4.0〜600μmであることが正極集電体100と正極活物質との間の密着性を向上するためには好ましい。このオイルピット04の円相当径の平均が4.0μm以上であると、正極集電体100と正極活物質との間の密着力が強くなるため好ましい。一方、このオイルピット04の円相当径の平均が600μm以下であると、オイルピット04の深さも大きくなりすぎず、ピンホールが生じにくいため好ましい。このオイルピット04の円相当径の平均は、4.0、5.0、10、20、30、40、50、100、200、300、400、500、600μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。一方、オイルピット04の円相当径の平均が4.0μ未満では、活物質と十分な密着力が得られず、また、円相当径の平均が600μmを超えると、付着油分量が多くなり過ぎて活物質のはがれが生じるため、好ましくない。特に好ましい範囲は50〜500μmである。
【0040】
また、上記の正極集電体100の表面のオイルピット04の深さの平均が0.3〜3.0μmであることが正極集電体100と正極活物質との間の密着性を向上するためには好ましい。このオイルピット04の深さの平均が0.3μm以上であれば、正極集電体100と正極活物質との間の密着力が大きくなるため好ましい。また、このオイルピット04の深さの平均が3.0μm以下であると、ピンホールや破断の原因となりにくいため好ましい。このオイルピット04の深さの平均は、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
一方、オイルピット04の深さの平均が0.3μm未満では、正極集電体100と正極活物質との間の密着力が小さくなるため好ましくなく、また、オイルピット04の深さが3.0μmを超えると、正極集電体であるアルミニウム箔にピンホールが生じ易くなるため好ましくない。特に好ましい範囲は、0.4〜2.0μmである。
【0041】
また、上記の正極集電体100の表面のオイルピット04の密度が300個/m以上5000個/m以下であることが正極集電体100と正極活物質との間の密着性を向上するためには好ましい。このオイルピット04の密度が300個/m以上であると、正極集電体100と正極活物質との間の密着力が大きくなるため好ましくい。また、このオイルピット04の密度が5000個/m以下であれば、表面粗さが大きくなりすぎず、電池に組み込んだ後に内巻き部の曲率が小さい部分で折れ・切れが生じにくいため好ましい。このオイルピット04の密度は、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000個/mに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。このオイルピット04の密度が300個/m未満では正極活物質との密着性の向上が図れず、一方、オイルピットの密度が5000個/mを超えると表面粗さが大きくなり過ぎ、電池に組み込んだ後に内巻き部の曲率が小さい部分で折れ・切れが生じ易くなるため好ましくない。
【0042】
なお、上記の正極集電体100の表面のオイルピット04の大きさ、分布密度は以下のようにして測定される。具体的には、マイクロスコープでアルミニウム合金箔表面を撮影し、得られた画像を二値化し、ロール目に相当する画像を除去した後、画像解析装置により、大きさ、分布密度が求められる。
【0043】
また、上記の正極集電体100の表面の凹凸の局部山頂の間隔08は以下のようにして測定される。具体的には、JIS B0601(1994)に規定された方法にて局部山頂の平均間隔(Sr,Sf)を測定できる。
【0044】
また、上記の正極集電体100を構成するアルミニウム合金箔02の厚さは、二次電池の品質の向上の面からは6.0〜30μmが好ましく、より好ましくは、10〜20μmである。このアルミニウム合金箔02の厚さが6.0μm以上又は10μm以上であれば、アルミニウム合金箔02のピンホールが少なくなり、リチウムイオン二次電池の正極材の製造工程中において切断し或いはシワなどの不具合が発生し難くなる。一方、30μm以下又は20μm以下であれば、一定容積のリチウムイオン二次電池容器内へ組み込む正極材として、アルミニウム合金箔02上に塗工する活物質を含むペースト層の厚みを厚くすることができ、その結果、電池の出力密度が向上する。このアルミニウム合金箔02の厚さは、6.0、7.0、8.0、9.0、10、15、20、25、30μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。このアルミニウム合金箔02の厚さが6.0μm未満又は10μm未満の場合、如何に製造条件を制御してもピンホールが多くなるのを防止することが難しく、一方、30μm以上又は20μm以上では集電体の厚さが厚くなり過ぎて、電池そのものの体積が大きくなってしまい、限られた容積の中に電池を納めることが難しくなる。
【0045】
本実施形態の二次電池用正極では、上記の正極集電体100の一方の表面に上記の凹凸を有し、その一方の表面に上記の正極活物質層を有する構成としてもよい。また、本実施形態の二次電池用正極では、上記の正極集電体100の両表面に上記の凹凸を有し、それらの両表面に上記の正極活物質層を有する構成としてもよい。いずれの構成にしても、正極集電体100と正極活物質との間の密着力が大きくなるという利点が得られる。
【0046】
<二次電池用正極の生産方法>
本実施形態に係る二次電池用正極の生産方法は、上記のアルミニウム合金箔02からなる正極集電体100表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極の生産方法である。この生産方法は、アルミニウム合金板を、後述する条件で冷間圧延してアルミニウム合金箔02を得る工程を含む。
【0047】
この生産方法では、オイルピット04はアルミニウム合金箔02を製造する際の冷間圧延(具体的には、後述する箔圧延のための冷間圧延)で形成されるものであるため、通常のアルミニウム合金箔02の製造工程に対して特別な工程を増やすことなくオイルピット04を有するアルミニウム合金箔02を作りだすことができる。また、アルミニウム合金箔02表面にオイルピット04を作成するために冷間圧延を行う際に、アルミニウム合金箔02表面にうねりが発生するため、互いに性質の異なるオイルピット04及びうねりの組合せによって絶妙なバランスを有する形状及び分布の凹凸ができあがることになり、その結果、正極集電体100と正極活物質との密着性がさらに飛躍的に向上する。すなわち、この方法によれば、アルミニウム合金箔02を製造する際の冷間圧延で凹凸を形成するため、エッチングなどで凹凸を形成する場合に比べてピンホールが少ないので、高速で搬送しても切断することはなく、低コストの製造工程によって正極集電体100と正極活物質との密着性に著しく優れた二次電池用正極が得られる。
【0048】
この生産方法では、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、オイルピット04の大きさ、分布密度、うねりの幅及び高さ等は、圧延油の動粘度、圧延速度、ロール表面粗さ、仕上げ圧延率および圧延荷重の各因子の条件を制御することによって変化させることができる。この内、圧延荷重は主に所望のアルミニウム合金箔02の厚さを出すために制御されるため、オイルピット04及びうねりの性状を変えることに寄与させることが難しい。従って、オイルピット04の大きさ、分布密度、うねりの幅及び高さ等は、後述するように、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、圧延油の動粘度、圧延速度、ロール表面粗さおよび仕上げ圧延率の各因子によって主に決定される。
【0049】
具体的には、オイルピット数(n)を多く存在させるためには、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、入側材料であるアルミニウム合金箔02の油膜厚さを厚くすることであり、油膜厚さを厚くするためには、圧延油の動粘度(v)は高く、圧延速度(s)は速く、ロール表面粗さ(f)は粗く、仕上げ圧延率(r)は小さく(圧延入り側の材料の噛み込み角度を小さく)すればよい。
【0050】
因みにこれらの関係を式(1)で示せば、
n=k・v・s・f/r・p ・・・・・(1)
の関係となる。(pは圧延荷重,kは定数で材料,設備によって随時変化する)
【0051】
また、うねりを多く発生させるためには、圧延油の動粘度(v)を高くすればよい。なお、本発明者は、オイルピットのみ多くしたり、うねりのみを多くしたりすることは困難であることを見いだしている。すなわち、通常の製造方法では、双方が同じ傾向で変化してしまう。
これら条件の好ましい範囲は、後述する通りである。
【0052】
すなわち、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、上述の好ましい形状及び分布の凹凸を形成するためには、圧延油の動粘度は1.9〜3.5×10−3Pa・sにすることが好ましい。この圧延油の動粘度が1.9×10−3Pa・s以上であれば、油膜厚さが厚くなり、箔をより薄く圧延し易いという利点がある。また、この圧延油の動粘度が3.5×10−3Pa・s以下であれば、動粘度と蒸留点とが相関関係にあることから、箔表面に残存する圧延油が少なくなり、より正極活物質が密着し易いという利点がある。この圧延油の動粘度は、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5×10−3Pa・sに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0053】
また、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、上述の好ましい形状及び分布の凹凸を形成するためには、圧延速度は400〜1200m/minにすることが好ましい。この圧延速度が400m/min以上であれば、圧延時の材料の発熱が多くなり、自己回復により薄い箔に圧延し易いという利点がある。また、この圧延速度が1200m/min以下であれば、箔表面に残存する圧延油が多くならず、正極活物質との密着力が低下しないという利点がある。この圧延油の動粘度は、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200m/minに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0054】
また、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、上述の好ましい形状及び分布の凹凸を形成するためには、ロール表面粗さ(Ra)は0.10〜5.0μmにすることが好ましい。このロール表面粗さ(Ra)が0.10μm以上であれば、圧延時の油膜が厚くなり、オイルピットが多くでき易くなるとともに、箔圧延速度を増速し易くなるという利点がある。上述の通り、圧延速度が大きくなるほどオイルピットを多く形成できる。また、このロール表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であれば、圧延後の表面に残存する圧延油が多くならず、正極活物質との密着力が低下しないという利点がある。このロール表面粗さ(Ra)は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0055】
また、後述する箔圧延のための冷間圧延の際に、上述の好ましい形状及び分布の凹凸を形成するためには、仕上げ圧延率は20〜50%にすることが好ましい。この仕上げ圧延率が20%以上であれば、箔圧延回数が多くならず低コストを維持して製造できるという利点がある。また、この仕上げ圧延率が50%以下であれば、圧延ロールへの噛み込み角が大きくならず、箔表面に残存する圧延油が多くならず、正極活物質との密着力が低下しないという利点がある。この仕上げ圧延率は、20、25、30、35、40、45、50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0056】
本実施形態に係る二次電池用正極の生産方法では、上記のアルミニウム合金箔02は例えば以下のようにして製造できる。具体的には、上記のアルミニウム合金箔02は、半連続鋳造により得られたアルミニウム鋳塊に均質化処理、熱間圧延、冷間圧延及び箔圧延を順次施して得ることができる。また、半連続鋳造によるアルミニウム鋳塊の熱間圧延に代えて、連続鋳造板を冷間圧延以降の工程に投入しても良い。なお、必要に応じて熱間圧延直後又は冷間圧延の途中で圧延板にバッチ式焼鈍炉で250〜450℃で1〜10時間あるいは、連続焼鈍炉で380〜580℃で1秒〜3分のいずれかの方法で中間焼鈍を施してもよく、又、箔圧延されたアルミニウム合金箔02に最終焼鈍を施してもよい。
【0057】
アルミニウム鋳塊の均質化処理は、アルミニウム鋳塊に含有する元素成分の偏析を極力小さくするためにアルミニウム鋳塊を均質加熱するものである。具体的には、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、480〜620℃にて1〜20時間に亘って均質化処理を施す。
【0058】
次に、アルミニウム鋳塊に均質化処理を施した後に熱間圧延を施す。この熱間圧延では、熱間粗圧延と熱間仕上げ圧延とを順次行う。熱間粗圧延とは、均質化処理後の高温のアルミニウム鋳塊を約20〜40mmの厚さのアルミニウム合金板に圧延する工程である。
【0059】
次に、アルミニウム鋳塊を熱間粗圧延して得られた圧延板に熱間仕上げ圧延を施して熱間圧延板を製造する。熱間仕上げ圧延とは、熱間粗圧延後の圧延板を更に薄く圧延して最終的に約250〜350℃にてアルミニウム合金板をコイル状に巻き上げる圧延工程である。熱間仕上げ圧延は、一般的に、一対のロールを一組とし、複数組のロールを並列して各ロール間に圧延板を供給して連続的に圧延板の厚さを薄くしていく方法が採用される。
【0060】
続いて、得られた熱間圧延板に冷間圧延及び箔圧延をこの順序で施す。この冷間圧延は、通常のアルミニウム合金箔02を製造するときと同様の要領で行われ、具体的には、40〜60℃に維持された一対のロール間に熱間圧延板を供給して圧延板の厚みを薄くして冷間圧延板を製造する。この冷間圧延を複数回繰り返して、厚さが0.3〜0.5mmの冷間圧延板を製造する。なお、一対のロール間には通常、潤滑油が供給される。
【0061】
次に、冷間圧延板を箔圧延する。この箔圧延も通常のアルミニウム合金箔02を製造するときと同様の要領で行われ、汎用の冷間圧延機に冷間圧延板を供給して圧延し、厚さが0.2mm以下、好ましくは6.0〜30μmのアルミニウム合金箔02を製造する。
【0062】
こうして得られたアルミニウム合金箔02は、上述するように、冷間圧延板を箔圧延する際に、圧延油の動粘度、圧延速度、ロール表面粗さおよび仕上げ圧延率の制御が行われているために、得られたアルミニウム合金箔02の表面には、好ましいオイルピット04の大きさ、分布密度、うねりの幅及び高さ等が実現されている。
【0063】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0064】
例えば、上記の実施形態では、アルミニウム合金箔からなる正極集電体を備える二次電池用正極について説明したが、上記のアルミニウム合金箔は、負極集電体にも利用でき得るものである。この場合にも、上記のアルミニウム合金箔は、表面に特定の条件を満たす凹凸を有するため、そのアルミニウム合金箔からなる負極集電体の表面に負極活性物質を付着させて二次電池用負極を形成する場合の密着性が向上することになる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、アルミニウム合金箔からなる正極集電体を備える二次電池用正極に関するものであるが、負極、正極どちらにも利用でき得るものである(例えば、LiTi12の活物質では負極にもアルミニウム箔が使える)。以下の実施例は、正極において本アルミニウム合金箔に適用した例について示す。
【0066】
(実施例1〜13、比較例1〜2)
表1に示したNo.Aの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0067】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に520℃にて6時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が94%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は360℃であった。
【0068】
なお、上記圧延率とは、熱間粗圧延を施す前のアルミニウム鋳塊の厚さをt、熱間粗圧延終了時の圧延板の厚さをtとして下記式に基づいて算出された値をいう。
圧延率(%)=100×(t−t)/t
【0069】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を0.65mmとした後、アルミニウム合金板に300℃にて4時間に亘って中間焼鈍を施した。
【0070】
続いて、これらのアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0071】
ワークロールの表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)は、所望の砥石と研削液を用い、所望の条件にて研磨することにより得られる。
【0072】
得られたリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔について、アルミニウム合金箔表面の表面粗さ、局部山頂の平均間隔(Sf)、オイルピット平均サイズ、オイルピット平均深さを求めた。
【0073】
〔ワークロールおよびアルミニウム合金箔表面の表面粗さ、局部山頂の平均間隔(Sr,Sf)〕
JIS B0601(1994)に規定された方法にて表面粗さRaおよび局部山頂の平均間隔(Sr,Sf)を測定した。
【0074】
〔オイルピット平均深さ〕
キーエンス製レーザー顕微鏡(本体:VK−8500、顕微鏡:VK−8510、解析ソフト:VK−HIW)を用い、焦点深度:0.01μm、対物レンズ×10倍にて観測された10個のオイルピットの深さを求め、それらの数値を平均した。
【0075】
得られた各アルミニウム合金箔に下記の方法にて正極活物質を含むスラリーを塗布し、150℃で乾燥させた。すなわち、まず、炭酸リチウム(LiCO)と二酸化マンガン(MnO)をLiとMnのモル比が1:2となるように混合し、この混合物を800℃の温度で24時間加熱することにより組成式がLiMnOで表される粒子状のリチウムマンガン複合酸化物を調製した。つづいて、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン(VDF−HFP)の共重合体(HFP)の共重合比率;12重量%)をアセトンに11重量%溶解してアセトン溶液を調製した後、このアセトン溶液に前記リチウムマンガン複合酸化物およびアセチレンブラックを上記の共重合体の固形物が10重量%、前記リチウムマンガン複合酸化物が81重量%、上記のアセチレンブラックが9重量%になるように添加混合した。この懸濁物をキャスティングにより成膜し、常温に放置して自然乾燥することにより厚さ100μmのシート状正極層を作製した。
【0076】
また、ビニリデンフロライドーヘキサフルオロプロピレン(VDF−HFP)の共重合体(HFPの共重合比率;12重量%)をアセトンに11重量%溶解してアセトン溶液を調製した後、このアセトン溶液にピッチ系炭素繊維(株式会社ペトカ社製商品名;メルブロンミルド)を上記の共重合体の固形物が20重量%、上記のピッチ系炭素繊維が80重量%になるように添加混合した。この懸濁物をキャスティングにより成膜し、常温に放置して自然乾燥することにより厚さ100μmのシート状負極層を作製した。
【0077】
さらに、ビニリデンフロライドーヘキサフルオロプロピレン(VDF−HFP)の共重合体(HFPの共重合比率;12重量%)をアセトンに11重量%溶解してアセトン溶液を調製し、このアセトン溶液をキャスティングにより成膜し、常温に放置して自然乾燥することにより厚さ30μmのシート状固体ポリマー電解質層を作製した。
【0078】
次いで、上記のシート状正極層と表面が粗面化された前記アルミニウム合金箔(正極集電体)とをダブルロールラミネータを用いてそれぞれ積層し、シート状正極とし、同時に上記のシート状負極層と銅箔(負極集電体)とをダブルロールラミネータを用いて積層してシート状負極とし、これらの正極、負極の間に前記シート状固体ポリマー電解質層を介在させ、ダブルロールラミネータを用いて積層した。この5層積層物を六フッ化リン酸リチウム(LiPF)がエチレンカーボネート(EC)−ジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒(混合比2:1)に1モル/L溶解された電解液に上記のシート状物を10分間浸漬して上記のシート状正極層、シート状負極層およびシート状固体ポリマー電解質層に前記電解液を含浸させることによりポリマー電解質二次電池を製造した。
【0079】
(実施例14)
正極活物質をコバルト酸リチウム(LiCoO)に変えた他は、実施例13と同様にして、ポリマー電解質二次電池を製造した。
【0080】
(実施例15)
正極活物質をコバルト−ニッケル−マンガン3元系材料を含むリチウム複合酸化物に変えた他は、実施例13と同様にして、ポリマー電解質二次電池を製造した。
【0081】
(90°剥離試験)
実施例、比較例で得られた幅20mm、長さ100mmの正極の、正極スラリーを塗布した面を両面テープ(日東電工製535A)で剥離試験用治具に貼り付けて、正極を貼り付けた面に対して垂直に、長さ方向の片端をつまんで電極を引っ張り、正極活物質層が剥がれるときの強度を測定した。その結果を表2および表3に示す。
【0082】
(電気化学特性試験)
・試験用セルの作製
作用極として、実施例、比較例で得られた円盤状の正極をセル容量が5Ahとなるように大きさを調製し、リチウム金属を対極とし、電解液として1molのLiPFを溶解したエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネートとの混合溶媒(混合体積1:1)を使用したビーカーセルを作製した。
【0083】
・電気化学特性試験
上記の試験用セルを用いて、正極の充放電性能を評価する試験を行った。
作用極の電位を卑な方向(還元側)に走査する過程を充電と称し、作用極の貴な方向(酸化側)に走査する過程を放電と称するものとする。
【0084】
まず、初回充放電はCC(定電流)で0.2CAで、その後、CV(定電圧)に切り替え、充電は4.2Vまで8hかけて行った。放電は0.2CAで2.7Vまで行った。充放電は50サイクル繰り返した。評価温度は25℃とした。
【0085】
初回充放電サイクルの放電容量と50サイクル目の放電容量から容量維持率を求めた。尚、容量維持率の定義は次のようにした。容量維持率(%)=(50サイクル目の放容量/初回サイクルの放電容量)×100。結果を表2に示す。尚、表2に示す容量維持率は、正極活物質の重量あたりで算出した容量である。
【0086】
50サイクル実施後に、試験用セルを解体して正極を取り出し、正極活物質層の状態観察を行った。正極活物質層が正極集電体に完全に残っている状態を「○」、一部剥がれ落ちているが半分以上残っている状態を「△」、半分以上剥がれ落ちている状態を「×」とした。結果を表2および表3に示す。
【0087】
(実施例16、比較例3)
表1に示したNo.Bの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0088】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に520℃にて1時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が95%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して2mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は250℃であった。
【0089】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を0.75mmとした後、アルミニウム合金板に300℃にて4時間に亘って中間焼鈍を施した。
【0090】
続いて、これらのアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0091】
このようにして得られた各アルミニウム合金箔を前記と同じ方法で測定した各特性を同様に表2および表3に示す。
【0092】
(実施例17、比較例4)
表1に示すNo.Cの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0093】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に600℃にて6時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が94%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は350℃であった。
【0094】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を0.65mmとした後、アルミニウム合金板に420℃にて4時間に亘って中間焼鈍を施した。
【0095】
続いて、これらのアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0096】
このようにして得られた各アルミニウム合金箔を前記と同じ方法で測定した各特性を同様に表2および表3に示す。
【0097】
(実施例18、比較例5)
表1に示すNo.Dの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0098】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に520℃にて3時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が93%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して2.4mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は300℃であった。
【0099】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を0.54mmとした後、アルミニウム合金板に385℃にて4時間に亘って中間焼鈍を施した。
【0100】
続いて、これらのアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0101】
このようにして得られた各アルミニウム合金箔を前記と同じ方法で測定した各特性を同様に表2および表3に示す。
【0102】
(実施例19、比較例6)
表1に示すNo.Eの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0103】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に600℃にて3時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が93%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して4mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は300℃であった。
【0104】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を0.50mmとした後、アルミニウム合金板に360℃にて2時間に亘って中間焼鈍を施した。
【0105】
続いて、これらのアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0106】
このようにして得られた各アルミニウム合金箔を前記と同じ方法で測定した各特性を同様に表2および表3に示す。
【0107】
(実施例20、比較例7)
表1に示すNo.Fの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0108】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に600℃にて7時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が95%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は250℃であった。
【0109】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、中間焼鈍は行わずに、熱間圧延板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0110】
このようにして得られた各アルミニウム合金箔を前記と同じ方法で測定した各特性を同様に表2および表3に示す。
【0111】
(実施例21、比較例8)
表1に示すNo.Gの化学成分を含有するアルミニウム鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により製造した。なお、各アルミニウム鋳塊には表1に示されていない不可避不純物成分がそれぞれ0.05重量%以下含有されていた。
【0112】
次に、アルミニウム鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム鋳塊に600℃にて7時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が95%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は250℃であった。
【0113】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、中間焼鈍は行わずに、熱間圧延板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした後に、表2に示す表面粗度および局部山頂の平均間隔(Sr)のワークロールおよび表2に示す粘度の圧延油を用いて、表2に示す圧延速度、仕上げ圧延率にて箔圧延を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0114】
このようにして得られた各アルミニウム合金箔を前記と同じ方法で測定した各特性を同様に表2および表3に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
<結果の考察>
表2および表3に示すように、実施例1〜実施例19は、リチウムイオン二次電池の正極集電体として十分な剥離強度を有している。また、充放電50サイクル後も正極活物質が剥がれていないため、正極活物質との密着性が良いことがわかる。さらに容量維持率も高く、リチウムイオン二次電池の正極として十分使用に耐えるような高い品質を提供することができる。
【0119】
比較例1〜比較例8は、十分な剥離強度が確保できず、容量維持率が低くなった。
【0120】
これらの結果から、アルミニウム合金箔表面のオイルピットの形状及び分布を特定の条件をみたすように制御することにくわえて、適度な条件のうねりを設けることによって、互いに性質の異なるオイルピット及びうねりの組合せによって絶妙な形状及び分布の凹凸ができあがることになり、その結果、正極集電体と正極活物質との密着性が飛躍的に向上することが明らかである。
【0121】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0122】
たとえば、上記実施例では、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質としてLiMnを用いたが、他の正極活物質としてもよい。例えば、LiCoO,LiNiO,LiFePO,LiCoNiMnなどをリチウムの吸蔵および放出可能な正極活物質として好適に用いることができる。この場合にも、上記の条件を満たす凹凸を表面に有するアルミニウム合金箔を用いれば、正極集電体と正極活物質との密着性が良いことが、当業者であれば上記の実施例・比較例から容易に理解できる。
【符号の説明】
【0123】
100 正極集電体
02 アルミニウム合金箔
04 ピット(オイルピット)
06 凹凸の局部山頂
08 隣接するうねりの山頂間の間隔(凹凸の局部山頂の間隔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金箔からなる正極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極であって、
前記正極集電体表面は凹凸を有し、
前記正極集電体の前記凹凸を有する面の表面粗さRaの平均が0.07〜4.0μmであり、
前記凹凸の局部山頂の平均間隔が20〜50μmであり、
前記凹凸を構成するピットの円相当径の平均が4.0〜600μmであり、
前記ピットの深さの平均が0.3〜3.0μmであり、
前記ピットの密度が300個/m以上5000個/m以下である、
二次電池用正極。
【請求項2】
前記ピットが冷間圧延時に形成される楔状のオイルピットである、請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記凹凸が冷間圧延時に形成される前記正極集電体表面のうねり及び前記ピットにより構成されている、請求項1又は2に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記アルミニウム合金箔からなる正極集電体の厚さが6.0〜30μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極集電体の両表面に前記凹凸を有し、
前記両表面に前記正極活物質層を有する、
請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項6】
前記正極活物質が、コバルト系材料、燐酸鉄系材料、スピネルマンガン系材料、コバルト−ニッケル−マンガン3元系およびコバルト−ニッケル−アルミ3元系材料からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項7】
アルミニウム合金箔からなる正極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する二次電池用正極の生産方法であって、
アルミニウム合金板を、
圧延油の動粘度が1.9〜3.5×10−3Pa・sであり、
圧延速度が400〜1200m/minであり、
ロール表面粗さRaの平均が0.10〜5.0μmであり、
仕上げ圧延率が20〜50%である、
条件で冷間圧延して前記アルミニウム合金箔を得る工程を含む、
二次電池用正極の生産方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−26063(P2013−26063A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160712(P2011−160712)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000231626)日本製箔株式会社 (49)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】