説明

アルミニウム塗装材及びその製造方法

【課題】アルミニウム材の表面に親水性皮膜を介してシリコン含有塗膜を形成することにより、廃液処理や有害物質の使用を必要とすることなく、耐食性及び密着性に優れた塗膜を有するアルミニウム塗装材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材であり、上記アルミニウム材の表面には、オゾン含有ガスを用いたオゾン表面処理により形成され、接触角が30°以下である親水性皮膜が、また、必要によりこの親水性皮膜の上に更に珪素酸化物含有皮膜が設けられているアルミニウム塗装材及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材及びその製造方法に係り、特にクロメート処理やリン酸クロメート処理等のクロム系処理剤を用いた表面処理を必要とすることなく、耐食性及び密着性が共に優れたアルミニウム塗装材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム塗装材は、アルミニウム材が軽量で優れた加工性を有することから、押出形材や板材等として鉄道車両内装、建物の窓や玄関建具等の建物の内外装、ビル外壁や内装等の各種建築部材、道路資材、各種キャビネット、冷凍車コンテナ内外装、冷凍ショーケース、各種家電製品、各種日用品等極めて多岐に亘って利用されている。
【0003】
そして、このようなアルミニウム塗装材を製造するに際しては、一般に、アルミニウム材の耐食性を向上させ、また、塗膜との密着性を向上させることを目的として、アルミニウム材の表面にいわゆる塗装下地処理が行われており、また、この塗装下地処理としては、陽極酸化処理を施して陽極酸化皮膜層を形成したり、あるいは、クロム酸クロメート処理やリン酸クロメート処理等のいわゆるクロメート処理を施して化成皮膜層を形成することが行われている。
【0004】
しかるに、近年、環境負荷物質の規制の動きが世界的に高まっており、クロメート処理に用いられている6価のクロムが有害であることから、EUでは既にこの6価クロムに関する法規制が始まっており、また、国内においても企業による自主規制が始まっている。また、リン酸クロメート処理については、使用されるクロム化合物が3価クロムであって今のところ法規制はないが、加熱すると一部が6価クロムに変化するという報告もあり、クロムを全く使用しない、いわゆるノンクロムであって環境に優しい塗装下地処理の開発が望まれている。
【0005】
そこで、本発明者らは、先に、ノンクロムであって優れた耐食性能を有するアルミニウム塗装材として、接触角が30°以下のアルミニウム材の表面にシリコン元素を含むシリコン含有塗膜を設けたアルミニウム塗装材を提案した(特開平2004-283,824号公報)。
【0006】
このアルミニウム塗装材は、ノンクロムでありながら優れた耐食性能を発揮するという初期の目的を達成するものではあるが、アルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を形成する前に、アルミニウム材の表面を接触角30°以下にするための前処理が不可欠であり、この前処理としてアルカリ処理、酸処理、界面活性剤溶液処理、有機溶剤による脱脂処理、シリコン含有化合物溶液を塗布して乾燥する第二の前処理等から選ばれた1種の処理又は2種以上の組合せからなる処理が行われるが、これらの前処理で使用した溶液や溶剤の廃液処理が必要になる。このため、地球環境保全の観点から、廃液の出ない塗装前処理や、有害物質を使用しない塗装下地処理の開発が望まれている。
【0007】
更に、環境問題を突き詰めていくと、上記の廃液の出ない塗装前処理や有害物質を使用しない塗装下地処理の開発に加えて、塗装に用いる塗料についても、従来の有機溶剤を用いた溶剤系塗料から水系塗料に移行することが望まれるが、水系塗料を用いてアルミニウム材の表面に塗膜を設けるためには、アルミニウム材の表面が疎水性であってはならず、このアルミニウム材の表面を親水性化する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-283,824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、アルミニウム材の表面については廃液の出ない塗装前処理や有害物質を使用しない塗装下地処理によって親水性化されて水系塗料の塗布が可能であり、しかも、耐食性及び密着性に優れた塗膜を有するアルミニウム塗装材について鋭意研究した結果、アルミニウム材の表面に予めオゾン含有ガスを用いたオゾン表面処理により接触角30°以下の親水性皮膜を形成し、この親水性皮膜の上にシリコン含有塗膜を設けることにより、目的を達成できることを見い出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明の目的は、アルミニウム材の表面に親水性皮膜を介してシリコン含有塗膜を形成することにより、廃液処理や有害物質の使用を必要とすることなく、耐食性及び密着性に優れたシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、アルミニウム材の表面にオゾン表面処理により親水性皮膜を形成し、廃液処理や有害物質の使用を必要とする前処理を行うことなくアルミニウム材の表面を親水性化して水系塗料の塗布が可能であり、しかも、耐食性及び密着性に優れたシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材を容易に製造することができるアルミニウム塗装材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材であり、上記アルミニウム材の表面には、オゾン含有ガスを用いたオゾン表面処理により形成され、接触角が30°以下である親水性皮膜が設けられていることを特徴とするアルミニウム塗装材である。
【0013】
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材の製造方法であり、上記アルミニウム材の表面にオゾン含有ガスによるオゾン表面処理を施して接触角30°以下の親水性皮膜を形成し、次いでこの親水性皮膜の上にシリコン含有塗膜を形成することを特徴とするアルミニウム塗装材の製造方法である。
【0014】
本発明において、使用するアルミニウム材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる圧延材、押出形材、ダイカスト材、鋳物材等や、これらを適宜加工して得られた加工材等が挙げられる。
【0015】
また、このアルミニウム材の表面にオゾン含有ガスによるオゾン表面処理を施して形成される親水性皮膜は、少なくともその接触角が30°以下である必要があり、好ましくは20°以下、より好ましくは10°以下の親水性であるのがよい。この親水性皮膜の親水性が接触角30°より高い値になると、シリコン含有塗膜の密着性が低下し、結果として所望の耐食性を発揮し得なくなり、また、接触角が10°以下になると親水性皮膜が緻密になり、耐久性が向上するという利点が生じる。
【0016】
更に、この親水性皮膜は、その膜厚が1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上であるのがよく、1nmより小さくなると接触角30°以下を達成するのが難しくなり、シリコン含有塗膜の密着性が低下する。
【0017】
このアルミニウム材の表面に親水性皮膜を形成するオゾン表面処理は、通常オゾン濃度1vol%以上50vol%以下、好ましくは1vol%以上30vol%以下で処理温度10℃以上300℃以下、好ましくは20℃以上200℃以下で行われる。このオゾン表面処理において、オゾン濃度が1vol%未満ではアルミニウム材の表面に親水性皮膜を形成するのに時間がかかりすぎて生産性が低下し、反対に、50vol%を超えると効果が飽和するために製造コストが高くなるという不具合が生じる。また、処理温度が10℃より低いと親水性皮膜の形成に時間がかかりすぎて生産性が低下し、反対に、300℃を超えるとアルミニウム材が変形する場合がある。
【0018】
そして、このオゾン表面処理については、オゾン表面処理の前及び/又は後に、オゾン水を用いたオゾン水洗浄処理や紫外線を用いた紫外線照射処理を施してもよく、これらオゾン水洗浄処理や紫外線照射処理を併用することによってより効率的かつ効果的に必要な親水性皮膜を形成することができ、塗料の密着性がより向上するという効果が得られる。
【0019】
本発明においては、このようにしてアルミニウム材の表面に形成された親水性皮膜の上にシリコン含有塗膜を設けることによりアルミニウム塗装材が形成されるが、必要により、耐食性、特にキャス試験における耐食性をより一層向上させることを目的に、上記親水性皮膜の表面に更に珪酸化合物含有皮膜を形成し、この珪酸化合物含有皮膜の上にシリコン含有塗膜を形成してもよい。
【0020】
このような目的で親水性皮膜の表面に形成される珪素酸化物含有皮膜は、親水性皮膜の表面に珪素酸化物を含有する処理液を塗布して形成することができ、通常そのシリコン(Si)量が1mg/m2以上200mg/m2以下、好ましくは5mg/m2以上100mg/m2以下であり、このシリコン(Si)量が1mg/m2より低いと十分な耐食性向上効果が得られず、反対に、200mg/m2より多くなるとシリコン含有塗膜との密着性が低下するという問題が生じる。また、この珪素酸化物含有皮膜中のシリコン(Si)量は、30質量%以上、好ましくは35質量%以上であるのがよい。
【0021】
このような珪素酸化物含有皮膜を形成する処理液中に含まれる珪素酸化物としては、好ましくは水分散性シリカであるのがよく、この水分散性シリカとしてはコロイダルシリカ、気相シリカ等があり、より好ましくはコロイダルシリカである。そして、コロイダルシリカとしては、特に限定されるものではないが、例えば、球状のコロイダルシリカとして、日産化学工業社製のスノーテックス-C、スノーテックス-O、スノーテックス-N、スノーテックス-S、スノーテックス-OL、スノーテックス-XS、スノーテックス-XL等があり、また、鎖状のコロイダルシリカとして、日産化学工業社製のスノーテックス-UP、スノーテックス-OUP等がある。また、気相シリカとしては、日本アエロジル社製のアエロジル130、アエロジル200、アエロジル200CF、アエロジル300、アエロジル300CF、アエロジル380、アエロジルMOX80等がある。
【0022】
また、この珪素酸化物含有皮膜を形成する処理液中には、更により一層耐食性を向上させるという目的で、上記珪素酸化物に加えて、リン酸を、珪素酸化物含有皮膜中にリン(P)量が1.0mg/m2以上20mg/m2以下、好ましくは3.0mg/m2以上15mg/m2以下の範囲で含まれるように添加されていてもよい。この珪素酸化物含有皮膜中にリン(P)量が1.0mg/m2より低いと十分な耐食性向上効果が得られず、反対に、20mg/m2より多くなるとシリコン含有塗膜との密着性が低下するという問題が生じる。
【0023】
そして、上記の珪素酸化物を含有する処理液については、好ましくは水溶液あるいはアルコール溶液であり、必要に応じて無機系添加物、樹脂、表面調整剤、溶剤等を添加してもよい。
【0024】
また、上記の珪素酸化物含有皮膜は、メタ珪酸ナトリウム等の珪酸塩を含む珪酸塩含有のアルカリ溶液を用いても形成することができ、この珪酸塩含有のアルカリ溶液としては、例えば、日本ペイント製のサーフクリーナー53、サーフクリーナー155、サーフクリーナーSE136や、日本パーカライジング製のファインクリーナー4327等を水に溶解して0.5質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下のアルカリ溶液として調製したもの等を挙げることができる。
【0025】
本発明において、上記親水性皮膜の上に、あるいは、この親水性皮膜の表面に形成された珪素酸化物含有皮膜の上に形成されるシリコン含有塗膜については、特に制限はなく、種々の系統のシリコン含有塗膜を挙げることができる。そして、このようなシリコン含有塗膜を形成するための塗料についても、シリコンを含む塗料であれば特に制限はなく、例えば、アクリルシリコン系塗料、ウレタンシリコン系塗料、アクリルウレタンシリコン系塗料、アルカリシリケート系塗料、コロイダルシリカ等を使用したシリカゾル系塗料や、セラミックス系塗料等を挙げることができる。このシリコン含有塗膜は、ただ一層の単層塗膜であってもよく、また、二層以上の多層塗膜であってもよく、塗膜の膜厚は好ましくは1μm以上100μm以下であり、より好ましくは2μm以上50μm以下である。
【0026】
このようにアルミニウム材の表面に形成された親水性皮膜の上には、あるいは、この親水性皮膜の表面に形成された珪素酸化物含有皮膜の上にはシリコン含有塗膜が形成されるが、その際の塗装方法については、特に制限はなく、プレコート法やポストコート法の何れでもよい。プレコート法の具体的な塗装方法としては、ロールコート法、スプレーコート法、浸漬法、バーコート法、静電塗装法等を挙げることができ、また、ポストコート法の具体的な塗装方法としては、スプレーコート法、スピンコート法、浸漬法、静電塗装法等を挙げることができる。更に、塗装後の乾燥についても、塗料に応じた乾燥条件を採用することができ、例えば、エアーブロー、ドライヤー、オーブン等を用いて室温〜300℃の範囲で5秒〜24時間の条件で行われる。
【0027】
また、シリコン含有塗膜の形成に先駆けて親水性皮膜の上に珪素酸化物含有皮膜を設ける場合も、その塗装方法には特に制限はなく、シリコン含有塗膜形成の場合と同様に、プレコート法やポストコート法の何れでもよく、また、塗装後の乾燥についても、塗料に応じた乾燥条件を採用することができ、例えば、エアーブロー、ドライヤー、オーブン等を用いて室温〜300℃の範囲で5秒〜1時間の条件で行われる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、アルミニウム材の表面にオゾン表面処理により親水性皮膜を形成し、廃液処理や有害物質の使用を必要とすることなくアルミニウム材の表面を親水性化して水系塗料の塗布が可能であり、しかも、耐食性及び密着性に優れたシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材を提供することができ、また、その製造方法を提供することができる。
【0029】
また、上記オゾン表面処理により得られた親水性皮膜の表面に更に珪素酸化物含有皮膜を形成し、この珪素酸化物含有皮膜の上にシリコン含有塗膜を形成することにより、耐食性、特にキャス試験における耐食性をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例、参考例、及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0031】
〔実施例1〜4、参考例1〜4、及び比較例1〜6〕
70mm×150mm×0.8mmの大きさのアルミニウム板(JIS 1100)を用意し、実施例1〜4、参考例1〜4、及び比較例1については、このアルミニウム板をガラス製オゾン処理容器内に入れ、表1に示すオゾン濃度のオゾン含有酸素ガスを1L/min.の通気速度及び表1に示す処理温度及び処理時間の条件で通気し、アルミニウム板の表面をオゾン表面処理してこの表面に親水性皮膜を形成した。
【0032】
また、参考例1〜4については、オゾン表面処理によりアルミニウム板の表面に親水性皮膜を形成した後、この親水性皮膜の表面に更に以下の珪素酸化物含有皮膜を形成した。
すなわち、参考例1では、シリケート系のアルカリ性脱脂剤(日本ペイント社製商品名:サーフクリーナー155)の2wt%水溶液を用い,60℃で30秒浸漬した後、水洗して乾燥させ、珪素酸化物含有皮膜を形成した。
【0033】
また、参考例2では、5wt%コロイダルシリカ水溶液(日産化学製商品名:スノーテックスST-C)をバーコーター(番手#3)で塗布し、乾燥させ、珪素酸化物含有皮膜を形成した。更に、参考例3では、0.5wt%コロイダルシリカ水溶液(日産化学製商品名:スノーテックスST-C)をバーコーター(番手#3)で塗布し、乾燥させ、珪素酸化物含有皮膜を形成した。更にまた、参考例4では、2.5wt%エチルシリケート加水分解液(コルコート社製商品名:HAS-1)をバーコーター(番手#3)で塗布し、乾燥させ、珪素酸化物含有皮膜を形成した。
【0034】
また、比較例2〜6については、以下に示すオゾン表面処理以外の他の方法で親水性皮膜又は親水性表面を形成した。
比較例2(アルカリシリケート処理)では、シリケート系のアルカリ性脱脂剤(日本ペイント社製商品名:サーフクリーナー53)の2重量%水溶液を用い、この溶液中にアルミニウム板を60℃で1分間浸漬した後、水洗して乾燥させ、親水性皮膜として珪酸皮膜を形成した。
【0035】
比較例3(酸処理+コロイダルシリカ)では、10重量%硫酸水溶液中にアルミニウム板を40℃で5分間浸漬し、水洗して乾燥した後、5重量%コロイダルシリカ水溶液(日産化学社製商品名:スノーテックスST-C)をバーコーター(番手#5)で塗布し、乾燥させ、親水性皮膜として珪酸皮膜を形成した。
【0036】
比較例4(アルカリ処理+エチルシリケート)では、5重量%水酸化ナトリウム水溶液中にアルミニウム板を40℃で3分間浸漬して水洗した後、10重量%硝酸水溶液中に室温で1分間浸漬して中和し、水洗して乾燥した後、5重量%エチルシリケート加水分解液(コルコート社製商品名:HAS-1)をバーコーター(番手#5)で塗布し、乾燥させ、親水性皮膜として珪酸皮膜を形成した。
【0037】
比較例5(酸処理)では、10重量%硫酸水溶液中にアルミニウム板を40℃で5分間浸漬し、水洗して乾燥させ、親水性皮膜として酸処理表面を形成した。
また、比較例6(アルカリ処理)では、5重量%水酸化ナトリウム水溶液中にアルミニウム板を40℃で3分間浸漬して水洗した後、10重量%硝酸水溶液中に室温で1分間浸漬して中和し、水洗して乾燥させ、親水性皮膜としてアルカリ処理表面を形成した。
【0038】
以上のようにして得られたアルミニウム板の親水性皮膜について、接触角計(協和界面化学社製:CA-A型)を用い、純水を使用して表面の接触角を測定することにより、この親水性皮膜の親水性の程度を調べた。また、この親水性皮膜の特性を調べるために、親水性皮膜の珪素(Si)量を蛍光X線分析により測定した。これらの結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜4及び参考例1〜4のオゾン表面処理で得られた親水性皮膜と比較例2〜6で得られた親水性皮膜とは、共に接触角が30°以下の親水性を示したが、オゾン表面処理で得られた親水性皮膜では珪素が検出されず、これに対して、比較例2〜4では珪素が検出されており、珪酸皮膜により親水性が発現していることが判明した。また、比較例5及び6では、酸処理又はアルカリ処理でアルミニウム板の表面が溶解し、脱脂されて親水性が発現したものと考えられる。
【0041】
更に、同様に実施例1〜4及び比較例1〜6のアルミニウム板の親水性皮膜の上に、また、参考例1〜4のアルミニウム板の珪素酸化物含有皮膜の上に、シリコン含有塗料(ダイセル化学工業社製商品名:アクアブリッドASi91)を膜厚10μmとなるようにバーコーター塗装し、190℃で15分間の焼付乾燥を行い、アルミニウム塗装材を作製した。
【0042】
以上のようにして得られた各実施例1〜4、参考例1〜4、及び比較例1〜6のアルミニウム塗装材について、耐食性試験として1000時間の塩水噴霧試験(SST:JIS K5600)及び48時間及び120時間のキャス試験〔キャス(CASS):JIS Z2371〕を実施し、耐食性を評価すると共に、耐水性試験後の密着性評価として沸騰水浸漬試験後の碁盤目密着試験〔沸騰水浸漬試験:ARS2123(アルミ表面処理技術研究組合試験規格)〕を実施し、塗膜の密着性を評価した。
【0043】
塩水噴霧試験(SST)の評価は、○:腐食や膨れの発生がなく、塗膜外観に変化がないもの、及び、×:腐食や膨れの発生が認められ、塗膜に異常が生じたものとし、また、キャス試験(キャス)の評価は、○:腐食面積率0.1%以下(レイティングナンバ9以上)、△:腐食面積率0.25%(レイティングナンバ8)、及び、×:腐食面積率0.5%以上(レイティングナンバ7以下)とし、更に、沸騰水浸漬試験後の密着性試験(密着性)の評価は、クロスカット法(JIS K5600)で評価し、○:分類1以下(≦5%)、△:分類2(5〜15%)、×:分類3以上(15%≦)とした。
結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示す結果から明らかなように、シリコン含有塗料を塗装したアルミニウム塗装材については、この場合も、実施例1〜4のアルミニウム塗装材が塩水噴霧試験(SST)、キャス試験(キャス)48時間及び密着試験(密着性)のいずれの評価結果も○であった。参考例1〜4については、キャス試験120時間の場合も○であった。
【0046】
これに対して、比較例1おいては全ての試験で不良(×)であり、比較例2においては、塩水噴霧試験(SST)の評価結果が○で、密着試験(密着性)の評価結果が△であったが、キャス試験(キャス)48時間及び120時間が共に不良(×)であった。比較例3及び4の評価結果は、塩水噴霧試験(SST)の評価結果が○で、キャス試験(キャス)48時間の評価結果が△であったが、キャス試験120時間及び密着試験(密着性)の評価結果は不良(×)であった。比較例5及び6は、塩水噴霧試験(SST)の評価結果が○だった以外は全て不良(×)であった。
【0047】
なお、シリコン含有塗料を塗装したアルミニウム塗装材において、シリコン含有塗料の下に珪酸皮膜からなる親水性皮膜が形成されている場合は、塩水噴霧試験(SST)での耐食性とキャス試験(キャス)48時間は良好であるが、密着試験(密着性)とキャス試験(キャス)120時間での耐食性には問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のアルミニウム塗装材は、アルミニウム材の表面に親水性皮膜を介してシリコン含有塗膜を形成することにより、廃液処理や有害物質の使用を必要とすることなく、塗膜の耐食性及び密着性に優れており、また、本発明のアルミニウム塗装材の製造方法によれば、廃液処理や有害物質の使用を必要とすることなくアルミニウム材の表面を親水性化して水系塗料の塗布が可能であり、しかも、耐食性及び密着性に優れたシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材であり、上記アルミニウム材の表面には、オゾン含有ガスを用いたオゾン表面処理により形成され、接触角が30°以下である親水性皮膜が設けられていることを特徴とするアルミニウム塗装材。
【請求項2】
親水性皮膜の膜厚が1nm以上である請求項1に記載のアルミニウム塗装材。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面にシリコン含有塗膜を有するアルミニウム塗装材の製造方法であり、上記アルミニウム材の表面にオゾン含有ガスによるオゾン表面処理を施して接触角30°以下の親水性皮膜を形成し、次いでこの親水性皮膜の上にシリコン含有塗膜を形成することを特徴とするアルミニウム塗装材の製造方法。
【請求項4】
親水性皮膜の膜厚が1nm以上である請求項3に記載のアルミニウム塗装材の製造方法。
【請求項5】
オゾン表面処理は、オゾン濃度1〜50vol%及び処理温度10〜300℃の条件で行われる請求項3又は4に記載のアルミニウム塗装材の製造方法。

【公開番号】特開2012−81468(P2012−81468A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243121(P2011−243121)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【分割の表示】特願2007−66167(P2007−66167)の分割
【原出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】