説明

アルミニウム平板の製造方法

【課題】従来の一枚板で用いられていたガラストレイと同等の平滑度を有して接合されたアルミニウム平板を工業的に提供する。
【解決手段】 アルミニウム平板(1)とアルミニウム平板(2)を接合して一枚の平板としたアルミニウム平板(3)の接合部(4)の一箇所の反り上がっている方の面をローラ(6)などの上側押さえ部材で押圧すると共に、アルミニウム平板(3)の前記反り上がっている方の面とは反対側の面の上側押さえ部材に対向する箇所は下側押さえ固定盤(7)で支持することにより、反り上がりをアルミニウム平板(3)の面内方向に矯正し、次いで、下側押さえ固定盤(7)によるアルミニウム平板(3)の支持状態は保持しつつ、上側押さえ部材を接合部(4)に沿って順次移動しながら接合部(4)の反り上がっている方の面を押圧して、アルミニウム平板(3)の平滑度を向上させるアルミニウム平板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム平板の製造方法に関し、詳しくはガラストレイ用アルミニウム平板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶テレビ用のパネルや液晶ディスプレイパネルあるいは太陽電池パネルの製造工程において用いられる運搬用のガラストレイは1枚ものアルミニウム板(平板)が使われている。トレイに乗せられるガラスは液晶テレビ用のパネルや液晶ディスプレイパネルあるいは太陽電池パネルに用いられる非常に薄いものであり、更に、現状最も大きいものでは、およそ2500×2500mmの大きさのものである。
上記のアルミニウム板の素材はJIS A3004PやJIS A5052Pが一般的には用いられている。また、トレイのアルミニウム板もガラスの大きさと同等以上で、板厚は薄板の部類に入る2.5mm程度、重量は約40kgであるものもある。
【0003】
更に現状のトレイには、対角線の直角度が4mm以内、全体のひずみが2mm以内、長さ方向のそり3mm以下、表面部にはキズ等の凹凸は不可といった特性が求められている。
通常は所定の回数の熱間圧延加工を行い最終的な仕上げの冷間圧延加工にて寸法出しを行い上記の特性を満足している。
【0004】
また、アルミニウム板の上にウレタン等の薄い緩衝材を密着させ張りつけ、その上にガラスを乗せている。トレイに所定以上のひずみやそりが生じていると、ガラス自体もキズや変形が伴い、最終製品となった際に色むらや寸法不具合等の問題が発生するため平滑度は非常に重要となる。
【0005】
更に、このトレイは通常、繰り返して使用するが、運搬中にガラスに破損等の不具合が生じた場合は再利用せずに、処分をするため極力安価で安定した製造方法も必要となる。
【0006】
ところが、近年、上記パネル類の大型化に伴い、ガラスも3500×3500mm程度まで大型化してきている。その場合、トレイも同等以上の大きさが必要となるが、3500×3500mmで、かつ板厚2.5mm程度の1枚板となると従来の熱間圧延加工で対応可能ではある。しかし、平滑度を重要視した厚みに仕上げる冷間圧延は現状の生産設備での対応できる幅を超えているため製造不可能となる。また、重量も1枚で約80kgとなり取り回しや運搬にも支障をきたしてしまう。
板厚を薄くすることで重量低減が可能となるが、更に圧延加工に難点が生じる。
【0007】
そこで、従来製造方法で得られたアルミニウム平板を接合することで必要とする大きさに対応することが考えられた一般的にアルミニウム平板を接合する方法を大別すると溶融接合と固相接合がある。
【0008】
まず、溶融接合であるが、最も広く用いられているのはティグ溶接やミグ溶接に代表されるアーク溶接である。また、同じく溶融接合には電子ビーム溶接とCOやYAG等に代表されるレーザ溶接がある。
一方、固相接合では摩擦撹拌接合法(Friction Stir Welding、以下「FSW」とも記載)が挙げられる。FSWは、熱ひずみや変形が少ない接合方法として注目されている(例えば特許文献1)。
【0009】
しかし、上記した各種接合を行なった場合に、接合の際の熱影響等に起因して当該接合部付近にどうしても反り上がりや変形が生じやすい。
【0010】
反り上がりの矯正を、一度に全体をプレス機のような装置を用いて押圧する方法も可能ではあるが、その場合、アルミニウム平板の全長に渡り均一で一定の荷重を与える必要があり、装置も大型で複雑なものとなってしまう。
【0011】
又、一般的な矯正方法としては被加工材の両端をクランプしてお互いを逆方向に引張加工を行うストレチャー加工がある。しかし、この方法をトレイ材である接合されたアルミニウム平板に適用すると種々の問題点が生じる。
まず、接合材全体を引張加工するため両端を全長に渡りクランプする必要があり非常に大きな装置となる。トレイ材は平滑度と必要としているためクランプ部にはキズ防止の対策を施す必要もある。更に反り上がりの矯正に必要な引張荷重を両端からかけることになり、場合によっては、もともとのアルミニウム素材自体の強度を超え、引張試験と同様な作用が起こり、接合部やクランプ部での破断が発生する可能性もある。
これらを考慮すると広いアルミニウム平板へのストレッチャー加工による矯正加工は現実的ではない。
【0012】
一方、重しを乗せ加熱炉に保持する熱処理加工も考えられる。しかし、均一な平滑度を得るにはトレイ全体をカバーする大きさの重しが必要となり、更にはその重しを乗せても耐えることができる剛性のある受けも必要となる。また、熱処理であるため反り上がりを矯正させるだけの温度(300度前後)と時間(5時間前後)にて熱処理炉の中で保持する必要となる。
一度の熱処理で複数枚を処理することも可能であるが、重しの乗せ下ろしや熱処理の時間を考慮すると簡便な方法とは言いがたく、やはり現実的ではない。
【0013】
ここで幅の広いアルミニウム形材を得る工法としての公知例として特許文献2がある。ひずみや変形の少ない工法としてFSWを採用しているが対象部材はアルミニウムの押出形材であり、押出プレス機では製造不可能な広さの幅を得るために用いている。
押出形材の接合面となる部位の断面の厚肉化と回転工具が接する部分の幅を設けることにより良好な接合が行えるとしている。これは、幅方向断面の厚みを変えることが可能な、まさに押出形材の特性を活かした工法であり、幅方向の断面の厚みを変えられない板材には適用できないため本願との関わりはない。
【0014】
また、板材への適用は圧延用のコイル同士を接合する方法の公知例として特許文献3がある。
板材を連続的に圧延する際、長尺化を図ることにより効率を向上させることを目的としている。
アーク溶接等の溶融接合では接合部に欠陥や不均一部が生じるがFSWの場合は個相接合のためその影響が無く良好な継手が形成されるとしている。
板材の接合と言う点の共通点はあるが、幅広の板材ではなく長尺材を得るためのものでありガラストレイ用アルミニウム平板を得るための技術ではない。
【0015】
ここでローラを用いて矯正を行う公知例として特許文献4がある。
FSW装置に矯正加工機を付随した一体型の装置であり、接合と同時に矯正加工を行っている。
その矯正加工は上下一対のローラにて押し付け加圧を行っている。
接合装置と一体化のためコンパクトで有効なものであるが、しかし反面、一体化ゆえに装置が複雑なとなってしまう欠点が有る。接合とローラの送りおよび加圧を同期さる必要があり制御も容易ではない等の問題もある。
【0016】
同様に接合時に加工を行う特許文献5もある。この公知例の接合方法はFSWを用いているが、接合線方向へ両側から引張力を加えておきながら接合する技術であり、前述した矯正加工の一種にあげたストレッチャー加工である。
また、接合方法は溶融溶接方法で被接合材に鋼板を用いた同様の特許文献6もある。
本発明において接合と矯正加工を同時に行う必要性はなく、また、ストレチャー加工では矯正加工の効果が得らにくいためいずれの公知例も有効な手段ではない。
【特許文献1】特許第2712838号公報
【特許文献2】特許第3283433号公報
【特許文献3】特開平10−230373号公報
【特許文献4】特許第4008535号公報
【特許文献5】特開平10−230320号公報
【特許文献6】特開昭53−5853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来の一枚板で用いられていたガラストレイと同等の平滑度を有して接合されたアルミニウム平板を工業的に提供するものである。
本発明は、幅の広いアルミニウム平板を得るために接合を行う際、その接合部に生じる可能のある反り上がりや変形を押さえ、従来の一枚板で用いられていたガラストレイと同等の平滑度を有するアルミニウム平板を工業的に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
<1>アルミニウム平板1の端面とアルミニウム平板2の端面を接合して一枚の平板としたアルミニウム平板3の当該接合部4がアルミニウム平板3の法線方向5に反り上がりを生じている場合において、アルミニウム平板3の当該接合部4の反り上がっている方の面の一箇所を上側押さえ部材で押圧すると共に、アルミニウム平板3の前記反り上がっている方の面とは反対側の面の前記上側押さえ部材に対向する箇所は下側押さえ固定盤7で支持することにより、前記反り上がりをアルミニウム平板3の面内方向8に矯正し、次いで、前記下側押さえ固定盤7によるアルミニウム平板3の前記反り上がっている方の面とは反対側の面の支持状態は保持しつつ、上側押さえ部材を接合部4に沿って順次移動しながらアルミニウム平板3の接合部4の前記反り上がっている方の面を押圧することにより前記反り上がりをアルミニウム平板3の接合部全体に渡って順次矯正して、アルミニウム平板3の平滑度を向上させることを特徴とするアルミニウム平板の製造方法、
<2>前記アルミニウム平板1の端面と前記アルミニウム平板2の端面を接合する接合方法が摩擦撹拌接合法であることを特徴とする<1>項に記載のアルミニウム平板の製造方法、
<3>前記上側押さえ部材がローラ6であることを特徴とする<1>または<2>項記載のアルミニウム平板の製造方法、
<4>前記上側押さえ部材を前記アルミニウム平板3の接合部4の一箇所から順次移動させる方法が、前記アルミニウム平板3の一方の端から他の一方の端まで移動させるものであることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1項に記載のアルミニウム平板の製造方法、および
<5>前記上側押さえ部材を前記アルミニウム平板3の接合部4の一箇所から順次移動させる方法が、アルミニウム平板3の一方の端から板の内部の所定箇所Aまでと他の一方の端から前記所定箇所Aまでとの組み合わせであることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載のアルミニウム平板の製造方法
を提供するものである。
なお、本発明において、アルミニウムとは純アルミニウム及びアルミニウム合金をいうものとする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、幅の広いアルミニウム平板を得るために接合を行う際、その接合部に生じる可能のある反り上がりや変形を押さえ、従来の一枚板で用いられていたガラストレイと同等の平滑度を有するアルミニウム平板を工業的に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の方法の好ましい実施態様を示す説明図である。上側押さえ部材がローラ6である例を示している。
アルミニウム平板1の端面とアルミニウム平板2の端面を接合して一枚の平板としたアルミニウム平板3の接合部4がアルミニウム平板3の法線方向5に反り上がりを生じている場合において、アルミニウム平板3の接合部4の反り上がっている方の面(以下「上面」という。)の一箇所をローラ6で押圧すると共に、アルミニウム平板3の反対側の面(以下「下面」という。)のローラ6に対応する箇所は下側押さえ固定盤7で支持することにより、前記反り上がりをアルミニウム平板3の面内方向8に矯正し、次に、下側押さえ固定盤7によるアルミニウム平板3の下面の支持状態は保持しつつ、ローラ6を接合部4に沿って順次移動しながらアルミニウム平板3の接合部4の上面を押圧することにより前記反り上がりをアルミニウム平板3の接合部4全体に渡って順次矯正する。
【0021】
この例におけるローラ6は、図示しない加圧機構を備えた回転自在な円柱状押さえローラ6が、アルミニウム平板3の接合部4が反り上がっている方の面にアルミニウム平板3の法線方向5に対向する態様にして配置される。ローラ6は、図示しないガイドレール等に支えられながらアルミニウム平板3の一方の端から接合部4に沿って他の一方の端まで移動させることができるものである。ローラ6を移動させてもローラ6と下側押さえ固定盤7との距離は移動に関係なく常に一定に保たれるようになされるのが好ましい。但し、それの代わりに又はそれに加えて、バネの力や重力などを利用して所望の大きさでローラ6を下方向に押し付ける力をローラ6に作用させても良い。この円柱状押さえローラ6は回転自在であることから、アルミニウム平板3の一方の端から接合部4に沿って他の一方の端まで移動するのに伴って、その周面を接合部の反り上がりに圧接させながら回転することとなり、反り上がりを矯正して平坦状にし得るものとなる。
なお、アルミニウム平板3の接合部4の長さが上記したガイドレールの長さを超えてしまうような大きな寸法のアルミニウム平板3を取り扱う必要が生じたときには、接合部4の一部に対して上記した矯正処理を行なった後に、アルミニウム平板3を適宜移動させてから上記した接合部4の一部の隣接部に対して上記した矯正処理を行なうという方法を順次繰り返せばよい。
【0022】
本発明において反り上がりの矯正を接合の方向に沿って順次移動しながら押圧している。一度に全体をプレス機のような装置を用いて押圧する方法も可能ではあるが、その場合、アルミニウム平板の全長に渡り均一で一定の荷重を与える必要があり、装置も大型で複雑なものとなってしまう。
【0023】
これに対して、本発明の順次押圧する方法であれば局部的に荷重をかければよく、保持するための台等は必要であるが装置も小型化でき取り扱いも容易となる。
【0024】
本発明に用いられるアルミニウム平板1,2は、特に限定されるものではなく、任意のアルミニウム平板を用いることができる。
【0025】
本発明において、アルミニウム平板1の端面とアルミニウム平板2の端面を接合にはFSWが好ましい。FSWは固相接合方法のひとつであり、が、熱ひずみや変形が少ない接合方法として注目されており、例えば、特許第2712838号公報を参照して、適宜行うことができる。図2は、そのFSWを斜視図により説明する説明図である。
この工法はアルミニウム合金板等の被接合材11a,11bを鋼材等の硬質の裏当に乗せ突合せ、その突合せ部分12に沿ってショルダー14およびプローブ15を供えた硬質の回転工具13を高速に矢印16方向に回転させながら矢印17移動させる方法である。接合部分が溶融しないために発生する熱も少なく、その結果、ひずみの発生も少ない比較的平滑な板材を得ることができる。
【0026】
一方、他の接合方法についてであるが、まず、溶融接合のなかで、最も広く用いられているのはティグ溶接やミグ溶接に代表されるアーク溶接である。本工法は非常に簡便で自動化も容易でコストも安く、あらゆる構造物に用いられている工法である。
ミグ溶接を本発明品に適用する場合は入熱が過大とならないような適正な接合条件を選定し、溶接時に発生する熱ひずみと余盛り高さを制限することで対応が可能である。
ティグ溶接の場合は溶加材を加えずに溶接するメルトランを行うことにより、余盛りの形成が無い溶接が可能である。ミグ溶接同様に入熱が過大とならないような適正な溶接条件を選定することにより本発明品への適用が可能である。
【0027】
同じく溶融接合の電子ビーム溶接とレーザ溶接についてであるが、まず、電子ビーム溶接は厚板の深い溶け込みを得意とする接合方法である。また、施工時は真空中で行う必要がありチャンバー内に被接合材を入れることが必須のため、あまり大型の製品には向いていない。したがって本発明品のような大型で薄板のものへの適用はやや向いていない。
【0028】
レーザ溶接についてはCOやYAGを始め、近年はファイバー、ディスク、半導体等、種々ある。一般的にいずれのレーザ溶接もアーク溶接に比べ、熱ひずみの発生が少ないといわれている。
非接触の工法であり溶接速度も速く、自動車の製造ラインにも使われているように本発明品のような薄板製品への適用は十分可能である。ただし、アーク溶接同様に適正な溶接条件を選定し熱ひずみ、変形を極力抑える必要はある。
【0029】
以上のことからいずれの接合方法も本発明への適用は可能であるが、最も望ましい接合方法はFSWである。
【0030】
次に上側押さえ部材および下側押さえ固定盤について説明する。
本発明においては上側押さえ部材は、局部的に荷重を掛けつつアルミニウム平板3の接合部4の反り上がっている方の面を順次移動しながら押圧することが出来る部材である。上記の作用を達成する点で、図1に示されるようなローラ6が好ましいものとして挙げられるが、ローラに限定されるものではなく、例えば弧状の作動外周面を持つ半月状又はアーチ状の治具などを用いることも出来る。ローラ6を形成する材料(材質)としては鋳鉄、ステンレス鋼、ダイス鋼、工具鋼、アダマイル高Cr鋼、ハイス鋼、合金鋼、セラミックスなどが好ましい。ローラ6の大きさ、回転数などは、対象となる接合されたアルミニウム平板の幅や、反り上がりの大きさなどに対応して適宜決定することができる。
【0031】
下側押さえ固定盤7としては、上面が平面状をなす固定盤であって、対象となる接合されたアルミニウム平板3の全体を載置できるものが特に好ましいが、必ずしもアルミニウム平板3の全体を載置できるものでなくてもよい。後者の例としては、上面が一定以上の寸法をもつ矩形の平面状をなす固定盤を挙げることができ、その長手方向に対してアルミニウム平板3の接合部4の方向を一致させるようにして、かつその上部にアルミニウム平板3の接合部4が位置するようにアルミニウム平板3を載置できるものならよい。上記矩形の長さは、例えば前記したローラ6のガイドレールの長さに見合う以上の長さを有すればよく、また、横幅は少なくとも接合部4に生じている反り上がり部分よりも広い幅を有するものであれば良い。固定盤を形成する材料(材質)としては鋳鉄、ステンレス鋼、ダイス鋼、工具鋼、アダマイル高Cr鋼、ハイス鋼、セラミックスなどが好ましい。なお、固定盤の大きさは、対象となる接合されたアルミニウム平板3の長さ、幅などに対応して適宜決定することができる。
【0032】
本発明においては、アルミニウム平板3の接合部4の一箇所の反り上がっている方の上面を上側押さえ部材で押圧すると共に、アルミニウム平板3の下面の上側押さえ部材に対向する箇所は下側押さえ固定盤7で支持し、反り上がりをアルミニウム平板3の面内方向に矯正し、次いで、下側押さえ固定盤7によるアルミニウム平板3の下面の支持状態は保持しつつ、上側押さえ部材を接合方向に沿って順次移動しながらアルミニウム平板3の接合部4の前記反り上がっている方の面を押圧することにより反り上がりをアルミニウム平板3の接合部4全体に渡って順次矯正する。
本発明においては接合と矯正加工は独立しており、装置の複雑さや、操作上の困難性はない。
【0033】
更にFSW接合終了時はFSW接合施工面の反対側にV字状に反り上がりが生じているため、平滑度を得るにはFSW接合と同じ面からの押圧では効果が得にくい。
本発明においては押圧の方向は自由に選べ、接合と同じ面、裏面を問わないためより平滑度を得やすいものとなる。
【0034】
また、特許第4008535号公報に記載の方法ではローラ同士での加圧ため、被加工材の反り上がり突起箇所と上側のローラとの接触は「点」、被加工材のそれに対向する側の下ローラとの接触は「線」となる。
これに対して本発明は下側の押さえを固定盤としているため、被加工材の反り上がり突起箇所と上側のローラとの接触は「点」であるものの、被加工材のそれに対向する側の固定盤との接触は「面」となり、加圧および矯正に対する効果は特許第4008535号公報に記載の方法に比較してより安定的かつ確実なものとなる。
【0035】
本発明において、押圧の方向を接合部の一箇所から接合方向に沿って順次移動させる方法が、アルミニウム平板の一方の端から他の一方の端まで移動させることができる。上記の特許第4008535号公報においても同様の方向で行っているが、接合方向と押圧方向が同一方向となっている。この場合、押圧によるひずみも発生し、矯正の効果が十分発揮できない可能性もありえる。
これに対して本発明は接合とは独立しているため接合方向と逆側から押圧することも可能であり、その場合には接合時に発生したひずみと押圧時に発生するひずみを緩和する効果も期待できる。
【0036】
更に本発明は押圧が独立しているため、上側押さえ部材をアルミニウム平板の接合部の一箇所から接合方向に沿って順次移動させる際、例えば、アルミニウム平板の一方の端から板の内部の所定箇所Aまでと他の一方の端からAまでとの組み合わせとすることなども可能である。図3は、この実施態様の説明図である。図3中の符号は、図1における符号と同じ意味である。
押圧を逐次、かつ、任意の個所から開始して適宜な個所に移動することが出来るので、それによりアルミニウム平板内に存在していたひずみを分散することが可能となり、大きなうねりを防ぎ、平滑度の向上に対してより効果的である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、反り上がり量は、図4の説明図に示すように、接合板の接合実施面の裏面21の接合中心部22の接合開始側(反り上がり量a)と終了側(反り上がり量b)にて測定した。
【0038】
実施例1
幅1750mm長さ3500mm厚み2.0mmのアルミニウム平板(JIS A5052P−H32)を2枚、FSWを用いて幅および長さ3500mmの接合板を得た。
本実施例の接合板では反り上がり量aが20mm、同じくbが20mmであった。
この得られた接合材を図1に示す方法により、合金鋼材質のローラ(径100×長さ100mm)を所定の荷重(10kN)にて一方向のローラ加工による矯正を行い、接合されたアルミニウム平板を得た。
【0039】
実施例2
幅1750mm長さ3500mm厚み2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚、FSWを用いて幅および長さ3500mmの接合板を得た。接合後の反り上がり量aは25mm、bは24mmであった。
この得られた接合材を図3に示す方法により、ダイス鋼材質のローラ(径150×長さ150mm)を所定の荷重(10kN)にて、両端からのローラ移動加工による矯正を行い、接合されたアルミニウム平板を得た。ローラは一端から1750mmずつの距離を移動させた。
【0040】
比較例1
実施例1にて作製した大きさおよび接合後の反り上がり量が同じ値であったA5052P−H32接合板を用いて、ローラによる押圧を接合実施面(反り上がってる面の反対側の面)で実施した以外は、実施例1と同様に矯正を行い、アルミニウム平板を得た。
【0041】
比較例2
実施例1にて作製した大きさおよび接合後の反り上がり量が同じ値であったA5052P−H32接合板を用いて両端をクランプし引張加工を行うストレチャー加工を行った。図5はこのストレッチャー加工の説明図である。図中、31はストレッチャークランプで、接合板32を矢印方向に引張する。
その際の条件は最大荷重3000tonの能力を持つ装置にて適宜、荷重を調整しながら実施した。
【0042】
比較例3
実施例2にて作製した大きさおよび接合後の反り上がり量が同じ値であったA3004P−H32接合板を用いて、重しを乗せ加熱炉に保持する熱処理加工による矯正加工を行った。図6は、断面図によりこの熱処理加工を説明する説明図である。図6中、41は接合材、42はダミー材、43は重し、44は保持パレットである。その際の条件は、幅および長さ3500mm、重量1.5tonの重し43にて上下から保持パレット44、およびダミー材42を介して接合材41をはさみ、250℃で5時間保持を行った。
【0043】
上記の実施例および比較例の接合後および矯正加工後の反り上がり量aおよびbの値を測定した結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明による実施例1および実施例2では矯正後の反り上がり量はいずれも0.6mm以下となり一枚板とほぼ同等の非常に良好な平滑度が得られた。
また、実施例1および2とは、押圧の方向を変えた比較例1では、一応、実用化に適用できうるレベルではあったが矯正後の反り上がり量は、実施例1および実施例2までの効果は得られず、いずれも1.0mmであった。
【0046】
一方、比較例2の従来技術の矯正加工であるストレチャー加工では、適宜、荷重の条件を変更させたがクランプ部において破断が生じ、製品への適用は不可能であった。
【0047】
また、比較例3は重しを乗せ加熱炉に保持する熱処理加工であるが、矯正加工の効果がほとんど得られない結果となった。従来、10mm以上の厚みのものに適用する技術であるため、本製品に対しては厚みが薄すぎた可能性が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一つの実施態様の説明図である。
【図2】摩擦攪拌接合法の説明図である。
【図3】本発明の別の実施態様の説明図である。
【図4】反り上がり量の説明図である。
【図5】比較例2にて行ったストレッチャーの説明図である。
【図6】比較例3にて行った熱処理加工の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 アルミニウム平板(被接合材)
2 アルミニウム平板(被接合材)
3 アルミニウム平板(接合材)
4 接合部
5 アルミニウム平板3の法線方向
6 ローラ
7 下側押さえ固定盤
8 アルミニウム平板3の面内方向
11a,11b 被接合材
12 突合せ部
13 回転工具
14 ショルダー
15 プローブ
16 接合板(裏面側)
17 押圧用ローラ
18 固定盤
21 接合板の接合実施面の裏面
22 接合中心部
31 ストレッチャークランプ部
32 接合板
41 接合板
42 ダミー材
43 重し
44 保持パレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム平板1の端面とアルミニウム平板2の端面を接合して一枚の平板としたアルミニウム平板3の当該接合部4がアルミニウム平板3の法線方向5に反り上がりを生じている場合において、アルミニウム平板3の当該接合部4の反り上がっている方の面の一箇所を上側押さえ部材で押圧すると共に、アルミニウム平板3の前記反り上がっている方の面とは反対側の面の前記上側押さえ部材に対向する箇所は下側押さえ固定盤7で支持することにより、前記反り上がりをアルミニウム平板3の面内方向8に矯正し、次いで、前記下側押さえ固定盤7によるアルミニウム平板3の前記反り上がっている方の面とは反対側の面の支持状態は保持しつつ、上側押さえ部材を接合部4に沿って順次移動しながらアルミニウム平板3の接合部4の前記反り上がっている方の面を押圧することにより前記反り上がりをアルミニウム平板3の接合部全体に渡って順次矯正して、アルミニウム平板3の平滑度を向上させることを特徴とするアルミニウム平板の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム平板1の端面と前記アルミニウム平板2の端面を接合する接合方法が摩擦撹拌接合法であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム平板の製造方法。
【請求項3】
前記上側押さえ部材がローラ6であることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム平板の製造方法。
【請求項4】
前記上側押さえ部材を前記アルミニウム平板3の接合部4の一箇所から順次移動させる方法が、前記アルミニウム平板3の一方の端から他の一方の端まで移動させるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム平板の製造方法。
【請求項5】
前記上側押さえ部材を前記アルミニウム平板3の接合部4の一箇所から順次移動させる方法が、アルミニウム平板3の一方の端から板の内部の所定箇所Aまでと他の一方の端から前記所定箇所Aまでとの組み合わせであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム平板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−255095(P2009−255095A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103754(P2008−103754)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】