説明

アルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法および圧延装置

【課題】熱間圧延時における圧延性の低下を防止すると共に、優れた板表面品質の圧延板を得ることができるアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法およびこの圧延方法に用いる圧延装置を提供する。
【解決手段】アルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法であって、熱間圧延時における熱間圧延油の灰分量をq(ppm)、平均油粒子径をp(μm)としたときに、q≦900/p+700を満足する熱間圧延油を用いることを特徴とする。また、前記の圧延方法に用いる圧延装置であって、熱間圧延油を貯留する熱間圧延油貯留タンクと、熱間圧延油の上部に浮上するスカムを除去するスカム除去手段と、スカムを除去した後の熱間圧延油をフィルタリングして熱間圧延油の灰分を所定量に規制するフィルタと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延油を使用して熱間圧延するアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法および圧延装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム板またはアルミニウム合金板(以下、適宜「アルミニウム板」ともいう)の熱間圧延(圧延)では、圧延板表面から圧延ロール表面へアルミニウム(またはアルミニウム合金)が移着して、ロールコーティングが形成される。従って、圧延板はロールコーティングと接触して圧延されることになるので、圧延板の表面品質はロールコーティングの性状によって左右される。ここで、熱間圧延時に発生したアルミニウム板の表面欠陥は、冷間圧延後のアルミニウム板表面品質(板表面品質)にも影響するので、熱間圧延におけるロールコーティング性状は非常に重要であるといえる。
【0003】
また、このロールコーティング性状は圧延諸条件(板材質、板温度、板表面粗さ、ロール温度、ロール表面粗さ、圧下率、圧延速度、ブラシロール操業条件等)と熱間圧延油により変化するため、熱間圧延油の選択は、ロールコーティングを制御する上で不可欠なものである。そして、熱間圧延では充分なロール冷却性が必要となるため、この熱間圧延油は、エマルションの形で使用されており、また、アルミニウム板の熱間圧延油に要求される性能としては、圧延潤滑性、ロールコーティング性、板表面品質性、乳化安定性、耐鉄腐食性等が挙げられる。
【0004】
従来、アルミニウム板の圧延に用いられる熱間圧延油としては、鉱物油を基油として、脂肪酸、天然油脂、脂肪酸エステル等の油性向上剤や、極圧剤、防錆剤、酸化防止剤等を配合し、これを、主に陰イオン性界面活性剤である乳化剤で乳化した熱間圧延油組成物を、通常2〜10質量%濃度のエマルションとしたものが使用されている。しかし、従来の乳化剤を用いたアルミニウム板用熱間圧延油は、圧延潤滑性と乳化安定性とが相反する傾向を示すことから、両性能を共に満足させることは出来なかった。すなわち圧延潤滑性を増すと乳化安定性は低下し、その結果圧延潤滑性の経時安定性も低下するため、アルミニウム板表面の品質安定性が問題となった。一方、乳化安定性を増すと充分な圧延潤滑性は得られず、その結果、アルミニウム板表面に種々の欠陥が発生した。
【0005】
このように相反する特性である圧延潤滑性、乳化安定性および板表面品質性を同時に満足させるために、特定の潤滑油成分と特定の水溶性陽イオン性高分子化合物とを組み合わせたアルミニウム(アルミニウム合金)熱間圧延油組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、耐鉄腐食性を悪化させず、圧延潤滑性を向上させる工夫として、天然油脂、合成エステルを比較的多量に使用することによって、脂肪酸の含有量の制限と圧延潤滑性の向上を図ったアルミニウム用熱間圧延油が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2869850号公報(段落0009〜0022)
【特許文献2】特開平8−170090号公報(段落0006、0023)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のアルミニウム(アルミニウム合金)の熱間圧延油組成物(熱間圧延油)を使用したアルミニウム板の圧延においては、以下に示す問題があった。
水分散型の熱間圧延油を使用した熱間圧延においては、アルミニウム板や圧延機のロールから発生する金属粉が熱間圧延油に混入し、熱間圧延油の灰分が上昇することで、圧延潤滑性(以下、適宜「圧延性」ともいう)の低下による圧延時のロールの噛み込み不良や圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生する場合があった。
【0008】
また、特許文献1に記載の熱間圧延油組成物(熱間圧延油)においては、近年、大量生産化とアルミニウムまたはアルミニウム圧延品の高品質指向から、圧延潤滑性を向上させる油性向上剤である脂肪酸を所定量添加している。しかし、脂肪酸の添加により圧延潤滑性や板表面品質性は向上するものの、多量に添加すると、腐食性を高める場合があり、また、圧延の進行に伴い高粘度物質の金属石鹸が生成しやすくなり、この金属石鹸により圧延機周辺を汚染させる場合があるという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献2に記載の熱間圧延油においては、天然油脂、合成エステルを比較的多量に使用し、脂肪酸の含有量を制限することにより圧延潤滑性の向上を図っているが、圧延潤滑性、板表面品質性を共に満足させるものではなく、さらなる改善が望まれていた。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、熱間圧延時における圧延性の低下を防止すると共に、優れた板表面品質の圧延板を得ることができるアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法およびこの圧延方法に用いる圧延装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等が鋭意研究した結果、熱間圧延時における熱間圧延油の灰分量と、熱間圧延時における熱間圧延油の平均油粒子径とを所定の関係に規定することにより、圧延性の低下によるロールの噛み込み不良の発生を防止すると共に、板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥のない優れた表面品質の圧延板を得ることができることを見出した。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するために、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法は、熱間圧延油を使用して熱間圧延するアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法であって、前記熱間圧延時における前記熱間圧延油の灰分量をq(ppm)とし、前記熱間圧延時における前記熱間圧延油の平均油粒子径をp(μm)としたときに、q≦900/p+700を満足する熱間圧延油を用いることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の熱間圧延時において、熱間圧延油の灰分量と、熱間圧延油の平均油粒子径とが、所定の関係に規定されていることにより、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の熱間圧延時において、圧延性の低下が抑制される。
【0014】
また、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法は、前記熱間圧延油は、熱間圧延油組成物および乳化剤を含有し、前記熱間圧延油組成物が(a)動粘度80mm/s(40℃)以下の鉱物油と、(b)炭素数10〜22の脂肪酸と、(c)天然油脂および、1価高級脂肪酸または多塩基酸とアルコールから得られる合成エステルから選ばれる少なくとも1種と、(d)炭素数8〜26の高級アルコールと、を含有することを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、熱間圧延油の成分である熱間圧延油組成物が、所定の動粘度である鉱物油を基油として、炭素数10〜22の脂肪酸や、天然油脂および1価高級脂肪酸または多塩基酸とアルコールから得られる合成エステルから選ばれる少なくとも1種と、炭素数8〜26の高級アルコールを含有するので、圧延潤滑性および板表面品質性に優れた熱間圧延油を使用した熱間圧延を行うことができる。
【0016】
さらに、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法は、前記乳化剤が、下記一般式(1)で表される単量体またはその塩もしくはその4級化物の重合体または共重合体であって、その質量平均分子量が10,000〜1,000,000である高分子化合物の少なくとも1種であることを特徴とする。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基、mは1〜3の整数を示す。)
【0019】
このような構成によれば、熱間圧延油の成分である乳化剤が、前記した高分子化合物の少なくとも1種であるので、熱間圧延油の油粒子が大粒子径となり、かつ、乳化分散性が良好となるため、圧延潤滑性および長期循環安定性に優れた熱間圧延油を使用した熱間圧延を行うことができる。
【0020】
本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置は、前記記載のアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法に用いる圧延装置であって、熱間圧延油を貯留する熱間圧延油貯留タンクと、前記熱間圧延油貯留タンクに貯留された前記熱間圧延油の上部に浮上するスカムを除去するスカム除去手段と、前記スカムを除去した後の前記熱間圧延油をフィルタリングして、前記熱間圧延油の灰分量を所定量に規制するフィルタと、を有することを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、熱間圧延油貯留タンクにより、熱間圧延時に使用された使用済みの熱間圧延油や、新油交換の際の新油(熱間圧延油)が貯留される。また、スカム除去手段により、熱間圧延油貯留タンクに溜められた熱間圧延油の上部に浮上するスカムが除去される。そして、フィルタにより、スカム除去手段によりスカムが除去された熱間圧延油がフィルタリングされ、熱間圧延油の灰分が所定量となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法によれば、圧延性の低下を防止することができ、熱間圧延時のロールの噛み込み不良の発生を防止することができる。また、熱間圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥の発生を防止することができ、優れた表面品質の圧延板を得ることができる。
本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置によれば、アルミニウム板またはアルミニウム合金板において、熱間圧延油の灰分量と、平均油粒子径を所定の関係に規定することができるため、圧延性の低下を防止することができ、また、熱間圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥の発生を防止することがでる。そのため、熱間圧延時のロールの噛み込み不良の発生を防止することができ、優れた表面品質の圧延板を得るための安定した圧延が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
≪アルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法≫
本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板(以下、適宜「アルミニウム板」ともいう)の圧延方法は、熱間圧延時における熱間圧延油の灰分量q(ppm)と平均油粒子径p(μm)とを、所定の関係に規定した熱間圧延油を使用して熱間圧延するアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法である。
【0024】
<熱間圧延油>
熱間圧延油は、アルミニウム板の圧延方法に使用するものであり、この熱間圧延油は、後記する熱間圧延油組成物および乳化剤を水に分散させた水分散型圧延油(熱間圧延油組成物および乳化剤を含有する水溶液)である。
【0025】
<灰分量q(ppm)>
水分散型の熱間圧延油においては、灰分が所定量の場合、油の粒子径を所定の大きさに保持しても熱間圧延油の油切り性が低下し、圧延性の低下による熱間圧延時におけるロールの噛み込み不良や圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生する原因となる。
【0026】
そこで、熱間圧延油の灰分量を、以下に説明する平均油粒子径との関係において、所定量に制限する。
なお、灰分量の調節は、以下に説明するように、スカム除去装置や圧延装置のフィルタにより、スカムを除去することや熱間圧延油をフィルタリングすることにより行い、その測定は、JIS K2272に従って行う。
すなわち、熱間圧延油を所定量坩堝に採取して、質量を測定し(X1g)、水分を蒸発させた後、800℃の炉で焼き、質量を測定する(X2g)。そして、坩堝の質量、X2とX1の質量から坩堝に残った残さ(酸化した金属粉等)を灰分として測定する。
また、ここでいう灰分とは、例えば、酸化した金属粉、熱間圧延油に含まれるリン粉等のことである。
【0027】
<平均油粒子径p(μm)>
熱間圧延油においては、熱間圧延油中に分散されている油が、アルミニウム板や圧延機のロールから発生する金属粉を取り囲むことで、熱間圧延油の灰分が上昇する。したがって、油の平均粒子径と、灰分量とを、以下に説明するように、所定の関係に規定する。
なお、熱間圧延油の平均油粒子径の調節は、以下に説明するように、圧延装置において、カチオン系高分子化合物(後記(f)成分)の熱間圧延油貯留タンクへの投入量(濃度)の調節、熱間圧延油貯留タンクでの熱間圧延油の撹拌条件(熱間圧延油の油粒子のせん断条件)および新油交換量の調節等によって行う。
【0028】
<q≦900/p+700>
熱間圧延時における熱間圧延油の灰分量をq(ppm)とし、熱間圧延時における熱間圧延油の平均油粒子径をp(μm)としたときに、これらの関係を「q≦900/p+700」に規定する。
【0029】
図1は、圧延性の低下による熱間圧延時のロールの噛み込み不良の発生や圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生しない範囲を示すグラフ図である。
図1に示すように、熱間圧延油の灰分量q(ppm)と、熱間圧延油における平均油粒子径p(μm)との関係が、不等式「q≦900/p+700」を満足する場合に、圧延性の低下による圧延時のロールの噛み込み不良や圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥の発生が防止される。
すなわち、本発明においては、図1中のAの部分(実線部分を含む)が、灰分量q(ppm)と、平均油粒子径p(μm)との関係における適切な範囲である。
【0030】
「q≦900/p+700」(図1中のAの部分(実線部分を含む))であれば、圧延性の低下による圧延時のロールの噛み込み不良の発生が防止されると共に、圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥の発生が防止される。
【0031】
「q>900/p+700」(図1中のAの部分よりも上の部分(実線部分を含まない))であると、圧延性の低下による圧延時のロールの噛み込み不良や圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生する。
【0032】
次に、本発明に用いる熱間圧延油に含有される熱間圧延油組成物の好ましい成分について、説明する。
<熱間圧延油組成物>
熱間圧延油組成物は、(a)動粘度80mm/s(40℃)以下の鉱物油、(b)炭素数10〜22の脂肪酸、(c)天然油脂および、1価高級脂肪酸または多塩基酸とアルコールから得られる合成エステルから選ばれる少なくとも1種、(d)炭素数8〜26の高級アルコールを含有するものであることが好ましい。
以下、熱間圧延油組成物の各成分について説明する。
【0033】
[(a)成分:鉱物油]
(a)成分である鉱物油としては、例えば、スピンドル油、マシン油、タービン油、シリンダー油、ニュートラル油等が挙げられ、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油のいずれを使用してもよいが、耐熱性および圧延潤滑性の点から、パラフィン系鉱物油を使用することが好ましい。(a)成分の動粘度は、80mm/s(40℃)以下であることが必要であり、動粘度が80mm/s(40℃)以下であればアルミニウム板の表面品質性(板表面品質性)は優れており、熱間圧延したアルミニウム板への残油も少なく良好である。なお、動粘度が80mm/s(40℃)を超えると板表面品質性が低下するので好ましくない。
(a)成分は基油であり、熱間圧延油組成物中の(a)成分の含有量は、特に制限されるものではないが、10〜95質量%が好ましく、30〜65質量%がより好ましい。
【0034】
[(b)成分:脂肪酸]
(b)成分である炭素数10〜22の脂肪酸は、圧延潤滑性を向上させる目的で添加するものである。脂肪酸は、ロールコーティング性や板表面品質性への悪影響が少なく、境界潤滑性の非常に優れた油性向上剤である。
(b)成分としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、牛脂脂肪酸等を1種以上用いることができるが、取扱い上、常温(25℃)液体の脂肪酸(例えば、カプリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、ヤシ油脂肪酸等)を使用することが好ましい。
【0035】
熱間圧延油組成物中の(b)成分の含有量は、1〜14質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。(b)成分の含有量が1〜14質量%の範囲であれば、圧延潤滑性、耐金属腐食性および耐汚れ性に優れる。
なお、脂肪酸の含有量が14質量%を超えると金属腐食性が高くなる。また、圧延の進行に伴い生成する金属石鹸は、圧延機周辺を汚染すると共に、製品汚れの原因となる。
【0036】
[(c)成分:天然油脂および/または合成エステル]
(c)成分である天然油脂および/または合成エステルは、前記した(b)成分に次ぐ優れた油性向上剤であり、圧延潤滑性を向上させる目的で添加する。
【0037】
天然油脂としては、例えば、鯨油、牛脂、豚脂、ナタネ油、ヒマシ油、パーム油、ヤシ油等の動植物油脂が挙げられるが、圧延潤滑性、板表面品質性および融点の点から、豚脂、パーム油を使用することが好ましい。
熱間圧延油組成物中の天然油脂の含有量は、熱間圧延油の融点の点から2〜30質量%が好ましい。
【0038】
合成エステルとしては、炭素数10〜22の1価高級脂肪酸または多塩基酸とアルコールとのエステルが好ましく、フルエステルまたは部分エステルのいずれであってもよい。
アルコールとしては、例えば、炭素数1〜22の脂肪族1価アルコールや、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。
なお、脂肪酸やアルコールは、飽和のもの不飽和のものいずれも使用することができるが、板表面品質性の点から、飽和のものがより好ましい。
【0039】
合成エステルの具体例としては、カプリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、イソステアリン酸ラウリル等の飽和脂肪酸モノエステル;アジピン酸ジラウリル、フタル酸ジラウリル、トリメリット酸トリデシル等の多塩基酸と飽和脂肪族1価アルコールとのエステル;ネオペンチルポリオール飽和脂肪酸エステル(ネオペンチルグリコールジラウレート、トリメチロールプロパン椰子油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンジラウレート、ペンタエリスリトールモノラウレート、ペンタエリスリトールテトララウレート、ペンタエリスリトールイソステアリン酸テトラエステル等)、グリセリン飽和脂肪酸エステル(グリセリン椰子油脂肪酸ジエステル、グリセリントリラウレート等)、ジエチレングリコール飽和脂肪酸エステル等の1価高級脂肪酸と多価アルコールとのエステル等が挙げられる。
【0040】
合成エステルは、圧延潤滑性、板表面品質性および融点の点から、炭素数10〜22の1価高級脂肪酸と多価アルコールとのエステルが好ましく、炭素数10〜22の1価飽和高級脂肪酸と多価アルコールとのエステルがより好ましい。
熱間圧延油組成物中の合成エステルの含有量は、熱間圧延油の価格の点から、2〜30質量%が好ましい。
【0041】
このような(c)成分は、単独で使用してもよいが、それぞれ1種以上を混合して使用してもよい。天然油脂や合成エステルは、一般に、ロールコーティング性や板表面品質性への悪影響があるため過度の多量配合は好ましくないが、高級アルコールと共存させることで、その含有量を増加させることができる。
熱間圧延油組成物中の(c)成分の含有量は、圧延潤滑性、融点、板表面品質性および価格等のバランスの点から、2〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0042】
[(d)成分:高級アルコール]
(d)成分である炭素数8〜26の高級アルコールは、圧延潤滑性および板表面品質性を向上させる目的で添加する。
(d)成分を、熱間圧延油のような、冷間圧延油よりも高温・高潤滑の油に使用した場合でも、前記した(b)成分と同等の境界潤滑性を示し、熱的にも分解・揮発がなく比較的安定であるので、板表面品質性を向上させることができる。
【0043】
(d)成分は、直鎖でも分岐鎖でもよく、飽和のもの不飽和のものいずれも使用することができる。また、1価アルコールでも2価以上の多価アルコールでもよい。なお、圧延潤滑性の点から、直鎖部分の炭素数が8〜18のものが好ましい。
このような(d)成分の具体例としては、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、椰子油還元アルコール、パーム油還元アルコール、牛脂還元アルコール、炭素数11〜18のオキソアルコール、炭素数12〜18のチーグラーアルコール、炭素数12〜26のゲルベアルコール、オクタデカン1,2−ジオール、ラウリルアルコールエチレンオキサイド付加物(2モル以下)等が挙げられる。なお、圧延潤滑性および板表面品質性の点から、直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を有する1価アルコールが好ましく、1価飽和アルコールがより好ましい。
【0044】
(d)成分は、多量に添加すると熱間圧延油組成物の粘度を低下させるので、熱間圧延油組成物中の(d)成分の含有量は、2〜30質量%が好ましく、圧延潤滑性の点から、10〜30質量%がより好ましい。
また、(d)成分を添加すると、前記した(c)成分を多量配合しても板表面品質性の低下を抑制することができる。なお、熱間圧延油組成物中の(c)成分と(d)成分との質量比は、圧延潤滑性および板表面品質性の点から、(d)成分/(c)成分=1/1〜1/10が好ましく、1/1〜1/5がより好ましい。
【0045】
[リン系極圧剤]
以上が、熱間圧延油組成物の(a)〜(d)成分についての説明である。
なお、熱間圧延油組成物には、前記した(a)〜(d)成分の他に、必要に応じて、板表面品質性を向上させる目的でリン系極圧剤(以下(e)成分という)を添加してもよい。
【0046】
(e)成分であるリン系極圧剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリブチルホスファイト、ジイソオクチルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリオレイルホスファイト等が挙げられる。
熱間圧延油組成物中の(e)成分の含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。(e)成分は、1種でもよいが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0047】
<乳化剤>
次に、本実施形態で使用する乳化剤について説明する。乳化剤は、前記した熱間圧延油組成物((a)〜(d)成分または(a)〜(e)成分)を水に分散させるため、すなわち、エマルションとするために添加する。
【0048】
乳化剤としては、例えば、オレイン酸トリエタノールアミン塩、石油スルホネートナトリウム塩等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン性界面活性剤、ベンザルコニウム型等の4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、一般の高分子型分散剤等が挙げられる。
熱間圧延油を作製するための全成分中の乳化剤の含有量は、0.1〜5質量%が好ましい。
【0049】
このような乳化剤の中でも、下記一般式(1)で表される単量体またはその塩もしくはその4級化物の重合体または共重合体であって、その質量平均分子量が10,000〜1,000,000である高分子化合物(以下(f)成分という)の少なくとも1種を使用することが好ましい。乳化剤として、このような高分子化合物の少なくとも1種を使用することで、大粒子径で、かつ、安定した乳化分散性のエマルションを得ることができる。
【0050】
【化2】

【0051】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基、mは1〜3の整数を示す。)
【0052】
(f)成分において、一般式(1)で表される単量体の具体例としては、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジエチルアミノメチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0053】
一般式(1)で表される単量体の塩を得るための好ましい酸としては、例えば、酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、リン酸、酸性アルキルリン酸エステル(ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート等)、ホウ酸等が挙げられる。なお、塩は、単量体を、または、重合後に重合体を中和することにより形成される。
【0054】
一般式(1)で表される単量体の4級化物を得るための好ましい4級化剤としては、例えば、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ−n−プロピル等の一般的なアルキル化剤が挙げられる。
【0055】
(f)成分は、一般式(1)で表される単量体と、(メタ)アクリル酸もしくはその塩、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド等の共重合可能な単量体との共重合体でもよい。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
共重合可能な単量体の具体例としては、アルキル基が炭素数1〜22の直鎖または分岐鎖のアルキル基である、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸塩の具体例としては、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0056】
一般式(1)で表される単量体またはその塩もしくはその4級化物由来の構成単位は、(f)成分中、50〜100質量%が好ましい。
【0057】
(f)成分の質量平均分子量は、10,000〜1,000,000が好ましく、30,000〜300,000がより好ましい。質量平均分子量が10,000〜1,000,000の範囲であれば、乳化安定性に優れ、高分子化合物自体の安定性も良好で取扱いも容易である。
なお、(f)成分の質量平均分子量は、(f)成分を加水分解(試料1gにN/2 KOH溶液20mlを添加し、約95℃で2時間加熱する)後、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で分子量を分析し、その結果から元の分子量を換算したものである。
【0058】
−条件−
・カラム:G2000SW(東ソー(株)製)×2本
・カラム温度:40℃
・溶離液:0.1N塩化ナトリウム水溶液/アセトニトリル=70/30
・検出器:RI(屈折率計)
・注入量:1質量%溶離液溶液、20μl
・液流速:0.4ml/min
・分子量標準:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
【0059】
熱間圧延油の油粒子の表面電位は負であるが、(f)成分を添加するに従い油粒子の表面電位はほぼ零となり、油粒子は凝集して粗大粒子径となる。(f)成分をさらに添加すると、油粒子の表面電位は正になると共に、保護コロイド作用により、油粒子は大粒子径で、かつ、乳化分散性も良好となるため、プレートアウト性が良好となり優れた圧延潤滑性を示し、長期循環安定性も良好となる。(f)成分をさらに添加すると、乳化分散性は非常に良好となるが、油粒子径は中粒子径となるため、プレートアウト性が不十分となり潤滑性不良を示す。
【0060】
したがって、熱間圧延油を作製するための全成分中の(f)成分の含有量は、油粒子径と長期循環安定性の点から、0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜2質量%がより好ましい。(f)成分の含有量が0.1〜5質量%の範囲であれば、油粒子径は大きく、長期循環安定性にも優れる。(f)成分は、1種でもよいが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0061】
<その他>
なお、熱間圧延油には、前記した(a)〜(f)成分の他に、必要に応じて、添加剤、例えば、防錆・防食剤、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0062】
防錆・防食剤としては、例えば、アルケニルコハク酸およびその誘導体、オレイン酸等の脂肪酸、ソルビタンモノオレート等のエステル、アミン類等を用いることができる。
熱間圧延油を作製するための全成分中の防錆・防食剤の含有量は、2質量%以下が好ましい。
【0063】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系化合物、フェニルα−ナフチルアミン等の芳香族アミン等を用いることができる。
熱間圧延油を作製するための全成分中の酸化防止剤の含有量は、5質量%以下が好ましい。
【0064】
本実施形態で使用する熱間圧延油は、前記したとおり、熱間圧延油組成物および乳化剤を水に分散させた水分散型圧延油(熱間圧延油組成物および乳化剤を含有する水溶液)である。したがって、熱間圧延油は、熱間圧延油組成物および乳化剤を水に希釈することによって作製・使用される。
熱間圧延油中の熱間圧延油組成物の含有量は、圧延潤滑性や板表面品質性の点から、1〜10質量%が好ましい。
なお、熱間圧延油組成物、乳化剤および水は、どの順序で混合してもよいが、水と乳化剤とを混合した後、熱間圧延油組成物を混合することが好ましい。
【0065】
次に、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置について、図面を参照して説明する。
≪アルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置≫
図2は、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置の概略図である。
図2に示すように、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板(アルミニウム板)の圧延装置20は、前記したアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法に用いる圧延装置20であって、熱間圧延油を貯留する熱間圧延油貯留タンク4と、この熱間圧延油貯留タンク4に貯留された熱間圧延油の上部に浮上するスカムを除去するスカム除去手段であるスカム除去装置1と、スカムを除去した後の熱間圧延油をフィルタリングして、熱間圧延油の灰分を所定量に規制するフィルタ6と、を有するものである。
【0066】
<熱間圧延油>
アルミニウム板の圧延装置20に使用される熱間圧延油については、前記説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0067】
<熱間圧延油貯留タンク>
熱間圧延油貯留タンク(以下、「第1タンク」という)4は、熱間圧延油を貯留するものであり、貯留する熱間圧延油としては、熱間圧延時に使用された使用済みの熱間圧延油の他、以下に説明するような、油粒子径を調節するための新油交換の際の新油が挙げられる。
【0068】
<スカム除去手段>
スカム除去手段としては、スカム除去装置1が挙げられ、このスカム除去装置1は、第1タンク4に溜められた熱間圧延油の上部に浮上するスカムを除去する装置である。
スカム除去装置1は、第1タンク4の上部に取り付ける。第1タンク4の中部または下部に取り付けると、第1タンク4中の熱間圧延油が撹拌されるため、スカムに随伴する金属粉の浮上が阻害されるためである。また、スカム除去装置1はベルト状の金属帯10でスカムを掻き出す機構(ベルト型)のもの等を使用することが出来る。
【0069】
<フィルタ>
フィルタ6は、スカムを除去した後の熱間圧延油をフィルタリングして、熱間圧延油の灰分を所定量に規制するものである。
フィルタ6はカートリッジ式でもよいが、熱間圧延を連続的に操業する場合に、フィルタ交換の手間を考慮して、連続的にフィルタ布(紙)を供給できる構造のものが好ましい。また、フィルタ6に使用するろ紙としては、例えば、通気量50〜300cm/cm sec(JIS L−1096A)を使用することができる。
【0070】
次に、このアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置20の動作について説明する。
アルミニウム板またはアルミニウム合金板は、熱間圧延機3により熱間圧延される。この熱間圧延時に使用された使用済みの熱間圧延油は、熱間圧延後に配管9aを介して、一旦第1タンク4に回収され、貯留される。なお、第1タンク4に貯留する熱間圧延油は、油粒子径を調節するための新油交換を行った場合には、この新油である。この第1タンク4の上部には、スカム除去装置1が設置されている。このスカム除去装置1は、第1タンク4に貯留された熱間圧延油の上部に比重の差により浮いてきたスカムをベルト状の金属帯10を上下方向に連続回転させることにより、第1タンク4から除去する。この除去されたスカムは、ドレンタンク2に溜められた後に廃棄される。なお、第1タンク4内の金属粉もスカムと共に上昇し、スカム除去装置1により粗除去される。
【0071】
次いで、金属粉が粗除去された熱間圧延油は、第1タンク4の底部に設けられた排出口から配管9bを介して圧送ポンプ7により、以下に説明するように、金属粉の調整後の熱間圧延油を貯留するタンク(金属粉調整熱間圧延油貯留タンク)(以下、「第2タンク」という)5に送給される。配管9bには圧送ポンプ7の下流側にフィルタ6が設けられている。このフィルタ6は微粒の金属粉等を除去し、灰分を所定の量に規制する。このように、灰分量がフィルタ6により最終調整された後、熱間圧延油は第2タンク5に貯留される。そして、第2タンク5内の熱間圧延油は配管9cを介して圧送ポンプ8により熱間圧延機3に供給される。このように、熱間圧延油は熱間圧延機3と、第1タンク4および第2タンク5との間を循環している。
【0072】
本発明に係る圧延装置20においては、灰分が所定量になるように熱間圧延油をフィルタ6により清浄化(フィルタリング)すると共に、カチオン系の高分子化合物((f)成分)の投入量の調節、第1タンク4での熱間圧延油攪拌条件および新油交換量の調節等で、油粒子径を所定の範囲に制御する。すなわち、カチオン系高分子化合物((f)成分)の第1タンク4への投入量の調節は、第1タンク4にカチオン系高分子化合物((f)成分)を投入して、その濃度を調整することによって行う。また、第1タンクでの熱間圧延油の撹拌条件の調節は、第1タンク4の熱間圧延油を撹拌するポンプ(図示せず)の出力や稼働台数等を調節して、熱間圧延油の撹拌条件(熱間圧延油の油粒子のせん断条件)を調節することによって行う。さらに、第1タンク4での新油交換量の調節は、第1タンク4の熱間圧延油の一部(または全部)を交換(更油)して、熱間圧延油の劣化度を調整することによって行う。
【0073】
そして、これらを所定の関係に規定することにより、熱間圧延油の灰分の上昇を抑制でき、圧延性の低下によるロールの噛み込み不良の発生が防止される共に、板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥のない優れた表面品質の圧延板を得ることができる。
【0074】
また、鉱物油を基油として、脂肪酸、油脂、合成エステル等の油性向上剤や高級アルコール、また、必要に応じて、極圧剤、防錆剤、酸化防止剤等を配合し、これを主に、陰イオン性界面活性剤で乳化することにより、潤滑不足による焼き付きも無く、長期使用時の油劣化による板表面の油切り性の悪化も無い安定した熱間圧延が可能になる。
【0075】
以上説明したように、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法および圧延装置によれば、熱間圧延油の灰分量と、熱間圧延油の油粒子径とを所定の関係で規定したので、圧延性の低下による圧延時の噛み込み不良の発生を防止すると共に、スリップ疵や油残り模様等の発生がなく、優れた表面品質の圧延板を安定して得ることができる。また、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の安定した圧延が可能となる。
【0076】
また、建浴初期の潤滑性が極めて優れ、建浴直後から高強度材の圧延が可能になり、さらに、乳化性の長期安定性およびロールコーティング制御に優れるため、長期使用時でも従来の圧延油のような噛み込み不良またはスリップ疵の発生を抑制することができる。そして、カチオン系高分子化合物(前記(f)成分)の機能により、タンク、ミル周辺等のハウジングの汚れが改善され、また、抗菌機能により、バクテリアの発生も防止することができるため、排水処理性にも優れる。さらに、油粒子径の過大化がなく、油粒子径制御安定化にも優れる。
【実施例】
【0077】
本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法および圧延装置の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
表1に示す成分を水で希釈することで濃度4質量%に調整し、熱間圧延油を作製した。この熱間圧延油を使用して、入側板厚;30mm、板幅;2000mmのアルミニウムコイル(JIS3000系材)を、圧延装置として、圧延4段圧延機(ワークロール径;725mm、ワークロールバレル長;2900mm、バックアップロール径;1530mm、バックアップロールバレル長;2900mm)を4機連ねた4スタンドタンデムを使用して熱間圧延した。
熱間圧延条件は、圧延速度;300mpm、圧下率;30乃至60%、材料温度;300℃である。
【0078】
【表1】

【0079】
熱間圧延油の灰分量については、圧延機(圧延装置)の熱間圧延油をサンプリングして、JIS K2272に従って熱間圧延油の灰分量を測定し、灰分が少ない場合には金属粉(アルミニウム)の添加によって調整した。熱間圧延油の油粒子径は、平均油粒子径をコールカウンタで確認しながら、カチオン系高分子化合物(表1・(f)成分)の投入量および熱間圧延油の攪拌条件を調節することによって、平均油粒子径を調節した。熱間圧延油の灰分量および熱間圧延油の平均油粒子径を表2に示す。
【0080】
このように熱間圧延したアルミニウムにおいて、熱間圧延時の圧延性および熱間圧延後の板表面性状について調べた。
<圧延性>
圧延性は、熱間圧延時におけるロールの噛み込み不良の発生の有無により行った。噛み込み不良が発生しなかったものを圧延性が良好(○)、噛み込み不良が発生したものを圧延性が不良(×)とし、圧延性が良好(○)のものを合格とした。
【0081】
<板表面性状>
次に、熱間圧延後の板表面性状につて、目視により観察を行った。
板表面に、スリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生しなかった場合を板表面性状(表面品質)が良好(○)、スリップ疵や油残り模様等が発生した場合を板表面性状(表面品質)が不良(×)とし、板表面性状(表面品質)が良好(○)のものを合格とした。
これらの結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
この表2から明らかなように、実施例1〜12は、熱間圧延油の灰分量qと、熱間圧延油の平均油粒子径pとの関係が「q≦900/p+700」を満たすため、熱間圧延時の噛み込み不良の発生も無く、圧延性は良好であった。また、スリップ疵や油残り模様等の表面欠陥も生じなかった。一方、比較例1〜8は、熱間圧延油の平均油粒子径pとの関係が「q≦900/p+700」を満たさないため、圧延性や板表面性状に不具合を生じた。
以下、これらについて説明する。
【0084】
比較例1、2に示すように、平均油粒子径が2μmの場合、灰分量が1150ppmを超えると、熱間圧延時にロールの噛み込み不良が発生し始め、更に灰分量が増えると板表面にスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生した。
また、比較例3、4に示すように、平均油粒子径が4μmの場合、灰分量が925ppmを超えると、熱間圧延時にロールの噛み込み不良が発生し始め、更に灰分量が増えると板表面にスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生した。
【0085】
比較例5、6に示すように、平均油粒子径が10μmの場合、灰分量が790ppmを超えると、熱間圧延時にロールの噛み込み不良が発生し始め、更に灰分量が増えると板表面にスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生した。
また、平比較例7、8に示すように、平均油粒子径が15μmの場合、灰分量が760ppmを超えると、熱間圧延時にロールの噛み込み不良が発生し始め、更に灰分量が増えると板表面にスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生した。
【0086】
このように、本発明においては、水分散型圧延油を使用するに際して、熱間圧延油の灰分量と、油粒子径とを所定の関係に規定することにより、圧延性の低下による熱間圧延時の噛み込み不良の発生を起こさず、また、スリップ疵や油残り模様等の発生もなく、優れた表面品質の圧延板を得ることができる。
【0087】
以上、本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法および圧延装置について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されるものではない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】圧延性の低下による熱間圧延時のロールの噛み込み不良の発生や圧延後における板表面のスリップ疵や油残り模様等の表面欠陥が発生しない範囲を示すグラフ図である。
【図2】本発明に係るアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置の概略図である。
【符号の説明】
【0089】
1 スカム除去装置
2 ドレンタンク
3 熱間圧延機
4 熱間圧延油貯留タンク(第1タンク)
5 金属粉調整熱間圧延油貯留タンク(第2タンク)
6 フィルタ
7、8 圧送ポンプ
9a、9b、9c 配管
10 ベルト状の金属帯
20 圧延装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延油を使用して熱間圧延するアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法であって、
前記熱間圧延時における前記熱間圧延油の灰分量をq(ppm)とし、
前記熱間圧延時における前記熱間圧延油の平均油粒子径をp(μm)としたときに、
q≦900/p+700
を満足する熱間圧延油を用いることを特徴とするアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法。
【請求項2】
前記熱間圧延油は、熱間圧延油組成物および乳化剤を含有し、
前記熱間圧延油組成物が
(a)動粘度80mm/s(40℃)以下の鉱物油と、
(b)炭素数10〜22の脂肪酸と、
(c)天然油脂および、1価高級脂肪酸または多塩基酸とアルコールから得られる合成エステルから選ばれる少なくとも1種と、
(d)炭素数8〜26の高級アルコールと、
を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法。
【請求項3】
前記乳化剤が、下記一般式(1)で表される単量体またはその塩もしくはその4級化物の重合体または共重合体であって、その質量平均分子量が10,000〜1,000,000である高分子化合物の少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基、mは1〜3の整数を示す。)
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延方法に用いる圧延装置であって、
熱間圧延油を貯留する熱間圧延油貯留タンクと、
前記熱間圧延油貯留タンクに貯留された前記熱間圧延油の上部に浮上するスカムを除去するスカム除去手段と、
前記スカムを除去した後の前記熱間圧延油をフィルタリングして、前記熱間圧延油の灰分量を所定量に規制するフィルタと、
を有することを特徴とするアルミニウム板またはアルミニウム合金板の圧延装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−200690(P2008−200690A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37178(P2007−37178)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】