説明

アルミニウム酸化物−鉄複合部材およびその製造方法

【課題】アルミニウム酸化物に鉄が分散した形態を有するアルミニウム酸化物−鉄複合部材を提供する。また、該アルミニウム酸化物−鉄複合部材を安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム酸化物−鉄複合部材であって、アルミニウム酸化物と鉄粒子を有し、前記アルミニウム酸化物中に前記鉄粒子が分散していることを特徴とする。アルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法において、酸化鉄粉末とアルミニウム粉末の混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を非酸化性不活性ガス雰囲気中で熱処理する熱処理工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム酸化物と鉄の複合部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Alで表されるアルミニウム酸化物(アルミナ)は、高電気抵抗率、高熱的安定性、高硬度を有し、例えば絶縁部材、耐火部材、研磨材料として広く使用されている。また、アルミニウム酸化物は、単体の部材等に限らず、例えば特許文献1に示すように金属微粒子の被覆としても用いられている。特許文献1では、絶縁性に優れたAl膜に被覆されたFe粒子が開示されている。該微粒子はインダクタや軟磁性部材等に用いられる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−120470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁性材料であるFeをAlで被覆した特許文献1に記載の金属微粒子は、簡易な方法で製造することができるとともに、複合材として優れた特性を発揮するが、該金属微粒子を用いてバルク体を構成することは困難であった。一般にAl粉末の焼結には1500〜1600℃の高い焼結温度を必要とするが、特許文献1に開示の金属微粒子は金属であるFeをコアとしているため、前記温度で焼結すると酸化してしまうからである。特に特許文献1に開示の金属微粒子は、Alの被覆が薄いため、耐酸化性、絶縁性の観点からは、必ずしも十分ではなかった。また、高い焼結温度を必要とする点は、一般のAl粉末を用いた構造体の焼結においても事情は同じである。この場合、Al粉末を用いた構造体の製造において、設備は複雑になり、また多くの電力を消費するため、製造コストは高くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明のアルミニウム酸化物−鉄複合部材は、アルミニウム酸化物と鉄粒子を有し、前記アルミニウム酸化物中に前記鉄粒子が分散していることを特徴とする。かかる構成によれば、高い絶縁性を備えたアルミニウム酸化物−鉄複合部材を提供することができる。
【0006】
また、前記アルミニウム酸化物−鉄複合部材において、前記鉄粒子のうち少なくとも一部の最大径は1μm未満であることが好ましい。1μm未満の微細な鉄粒子は、アルミニウム酸化物で確実に被覆するうえで有利である。さらに、前記アルミニウム酸化物−鉄複合部材において、前記鉄粒子のうち一部の最大径は10μm超であることが好ましい。かかる構成によれば、アルミニウム酸化物−鉄複合部材を磁性体として用いる場合、酸化による磁気特性の低下を抑制するとともに、軟磁気特性が向上する。
【0007】
さらに、前記アルミニウム酸化物−鉄複合部材において、実質的に酸化鉄を含有しないことが好ましい。飽和磁化の低下に繋がる酸化鉄を含有しないことによって、より高い飽和磁化が得られる。ここで、実質的に酸化鉄を含有しないとは、X線回折パターンにおいて酸化鉄のピークが視認できない程度をいう。
【0008】
本発明のアルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法は、酸化鉄粉末とアルミニウム粉末の混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を非酸化性不活性ガス雰囲気中で熱処理する熱処理工程とを有することを特徴とする。ここで非酸化性不活性ガスとは、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノンまたはこれらの混合ガスのことを示す。これらの非酸化性不活性ガスのうち、生産性や低コスト性に鑑みると窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることが好ましい。かかる構成によれば、樹脂等の結合剤を用いなくても、アルミニウム酸化物−鉄複合部材、すなわちアルミニウム酸化物と鉄のバルクの構造体を得ることができる。
【0009】
前記アルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法において、前記熱処理工程における熱処理温度は1000℃以上、かつ1400℃以下であることが好ましい。本発明に係るアルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法によれば、従来のアルミニウム酸化物の焼結温度よりも低い温度で処理することでアルミニウム酸化物を含む構造体が得られる。かかる処理温度を1000℃以上、かつ1400℃以下とすることで、製造設備が簡略化され、製造コストも抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム酸化物に鉄が分散した形態を有するアルミニウム酸化物−鉄複合部材を提供することができる。また、本発明によれば、該アルミニウム酸化物−鉄複合部材を安価に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、アルミニウム酸化物と鉄粒子を有し、前記アルミニウム酸化物中に前記鉄粒子が分散していることを特徴とするアルミニウム酸化物−鉄複合部材である。アルミニウム酸化物中に前記鉄粒子が分散している形態は、アルミニウム酸化物が鉄粒子を包含している状態であり、鉄粒子の周囲に球形等のアルミニウム粒子が配置されている形態とは異なる。ここでいうアルミニウム酸化物−鉄複合部材は、微粒子としての形態とは異なり、アルミニウム酸化物と鉄を有するバルク状の構造体である。したがって、アルミ酸化物(Al)の焼結体と同様の用途に用いることができる。また、鉄を含有させることによって、かかる構造体に、磁界を利用した吸着能や、高周波磁界を利用した加熱能を付与することができる。飽和磁化は酸化物磁性体であるマグネタイトFeの飽和磁化(92A・m/kg)を超えることが好ましい。特に、アルミニウム酸化物中の鉄粒子の比率を高めることによって、磁性コア等の磁性体として用いることができる。この場合、磁性材料である金属鉄(Fe)の周りを電気抵抗率の高いアルミニウム酸化物(Al)で被覆する構造となっているため、コアの高抵抗化が実現される。絶縁性確保の観点からは、電気抵抗率は1×10Ω・cm以上であることが好ましい。また、かかる構造体は樹脂を用いずバルク化されているので耐熱性にも優れる。
【0012】
本発明に係るアルミニウム酸化物−鉄複合部材は、アルミニウム酸化物中に鉄粒子が分散している形態であるため、鉄粒子が小さいほどアルミニウム酸化物による被覆状態が良好になる。かかる観点からは鉄粒子のうち少なくとも一部の最大径は1μm未満であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。但し、最大径が小さすぎると鉄の磁気特性が低下するため10nm以上であることが好ましい。また、アルミニウム酸化物−鉄複合部材において、鉄粒子の一部として最大径が10μm超である鉄粒子を含んでもよい。かかる構成によればアルミニウム酸化物−鉄複合部材を磁性体として用いる場合、酸化による磁気特性低下を抑制するとともに、軟磁気特性が向上する。また、アルミニウム酸化物−鉄複合部材において、実質的に酸化鉄を含有しないことが好ましい。従来、鉄粒子を用いて磁性コアなどのバルク体を構成する場合、意図的な徐酸化または自然酸化によって鉄粒子の表面には酸化鉄の層が形成される。しかし、かかる層は、磁性層が非磁性化されたものであるため、磁性相の比率の低下につながる。飽和磁化の低下につながる酸化鉄の生成を抑制することによって、より高い飽和磁化が得られる。かかる構成は、以下の本発明に係るアルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法において実現される。
【0013】
本発明に係るアルミニウム酸化物−鉄複合部材は、酸化鉄粉末とアルミニウム粉末の混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を非酸化性不活性ガス雰囲気中で熱処理する熱処理工程とを有する製造工程によって得られる。素原料である酸化鉄粉末とアルミニウム粉末は、乳鉢、V型ミキサー、ライカイ機、ボールミルなどの混合装置により混合すればよい。酸化鉄粉末はFe、Fe、FeOなどから選択されるが、原料費が安価であるという点でFeが好適である。上記酸化鉄粉末の粒径は0.01〜1μmが好ましい。粒径0.01μm未満の酸化鉄粉末は凝集が激しく取り扱いが困難である上、原料コストが上昇してしまう。粒径が1μmを越える酸化鉄粉末は比表面積が小さくなるため、熱処理時にAl粉末による還元が不十分となる場合がある。熱処理は非酸化性不活性ガス雰囲気中で行う。非酸化性不活性ガス雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノンまたはこれらの混合ガスでもよいが、コストの観点からは窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガス雰囲気が好ましい。窒素ガス雰囲気がさらに好ましい。Al粉末は酸化鉄粉末との反応を促進させるため、粒径0.1〜10μmが好ましい。粒径0.1μm未満であると大気中で容易に酸化してアルミナに変質してしまう。粒径10μmを越えると比表面積が小さくなるため、熱処理時に酸化鉄粉末との反応が不十分となりやすい。本発明のアルミニウム酸化物−鉄複合部材では、混合物を反応前に、直方体、リングその他の所望の形状に成形する。混合物の成形は、通常の加圧成形等によって行えばよい。熱処理工程における熱処理温度は、1000〜1400℃で熱処理されるのが好ましい。熱処理温度が1000℃未満であるとAlが酸化鉄を十分に還元しない。熱処理温度が1400℃を越える温度であるとAlが酸化鉄を急激に還元し(テルミット反応)、還元反応に伴う著しい発熱により反応物が溶融してしまう恐れがある。より好ましくは1000〜1300℃である。
【0014】
上記熱処理によって、酸化鉄が鉄に還元されるととも、アルミニウム酸化物が形成されて、アルミニウム酸化物中に鉄粒子が分散した構造が得られる。アルミニウム酸化物に被覆された鉄粒子を用いて成形、焼結してもかかる構造を得ることは困難である。これに対して本発明に係る製造方法によれば、上記構造を有するアルミニウム酸化物−鉄複合部材を簡易に得ることができる。これは鉄の還元とアルミニウム酸化物の形成が進行しつつ、バルク化も実現されるためである。鉄はこのバルク化の過程で生成するとともに、アルミニウム酸化物中に分散される。したがって、製造工程において鉄を酸化雰囲気に曝すことなく、酸化を抑制することができる。また、通常のアルミニウム酸化物の焼結とはメカニズムが異なるので、バルク化に1500℃以上の高温を必要としない。
【0015】
上記本発明のアルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法は、アルミニウム酸化物以外の酸化物と鉄との複合部材の製造方法にも適用できる。例えば上記還元反応も含め、元素M2を含む粉末において、酸化物の標準生成自由エネルギーがΔGM1−O>ΔGM2−Oの関係を満足するものであればM1酸化物を還元することができる。ここでΔGMi−OとはMi酸化物の標準生成エネルギーの値を表している(iは1または2)。例えばM1酸化物としてFeを考えた場合、ΔGFe2O3=−740kJ/molよりも小さいΔGM2−Oを有するものは、Al、CeO、Ce、Co、Cr、Ga、HfO、In、Mn、Mn、Nb、TiO、Ti、Ti、V、V、V、SiO、ZrO、Sc、Y、Ta、希土類元素の酸化物各種、などが挙げられる。すなわち元素M2はAl、Ce、Co、Cr、Ga、Hf、In、Mn、Nb、Ti、V、Si、Zr、Sc、Y、Ta、各希土類元素、の中から選択されるのが好ましく、M2を含む粉末であればFeを還元することができる。また、M2を含む粉末は、異種または同種のM2を含む2種類以上の粉末を使用してもよい。特にAl、Mn、Nb、Ti、Vについては、Al、Mn、Nb、Ti、Ti、V、VのΔGFe2O3が小さく、酸化鉄を還元しやすいのでM2元素として好ましい。これらの元素を含む粉末と酸化鉄粉末の混合物を本発明と同様に処理することによって、これらの元素の酸化物と鉄の複合部材を得ることができる。
【0016】
以下、本願発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本願発明がかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
平均粒径60nmのα−Fe粉(堺化学株式会社製、FRO−6)と平均粒径3μmのAl粉を質量比で7:3となるように秤量し、ボールミル混合機で1000分間混合した。得られた混合粉を大気中、室温にて24時間乾燥後、乳鉢で粉砕し500メッシュの篩で造粒した。造粒粉を200MPaの圧力で成形し、内径3mm、外径7mmのリング形状および直方体形状の混合物の成形体を得た。成形体をアルミナ製の板上に載せ、窒素ガス中にて1200℃で2時間の熱処理を行ない、バルク状の複合体を得た。
【0018】
上記のようにして得られた試料を粉砕した試料の粉末X線回折パターンを図1に示す。図1の回折パターンから試料中の生成物はα−Fe、Al(コランダム)および少量のAlNおよびFeAlに同定された。AlNは試料表面が熱処理中に雰囲気ガスであるNと反応し、生成したものと考えられる。なお、X線回折パターンにおいて、酸化鉄(Fe)のピークは確認されなかった。
【0019】
上記熱処理後の試料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図2に示す。図2の(a)は低倍率の観察像、(b)は高倍率の観察像である。Fe及びAlの同定はEDX分析により実施した。図中、白く見える分析点1および分析点2ではFeが検出されるとともに、酸素Oは0.0at%と検出されなかった。図中グレーに見える分析点3〜5ではAlとOが主として検出されており、これらの領域はAl相であることが確認できた。図2から1μm未満の微細なFe粒子がAl中に分散していることがわかる。また、最大径が10μmを超える、細長い形状のFe粒子も形成されている。この結果から、試料中にはFeおよびAlが形成しており、Fe微粒子がAlマトリックス中に分散していることが確認できた。以上、粉末X線回折測定及びSEM解析により、上記試料はアルミニウム酸化物(Al)中に鉄粒子が分散した構造を有する複合部材であることが確認された。
【0020】
更に上記複合部材を粉砕した粉末の磁気特性をVSM(振動型磁力計)により測定した。最大印加磁界を1.6MA/mとして測定した結果、飽和磁化Msは97A・m/kg、保磁力Hcは3.7kA/mであった。飽和磁化の値はバルクFeの飽和磁化値(=218A・m/kg)の44.5%に相当するため、本実施例の複合部材のFe含有率は質量比で44.5%である。なお、焼結体の密度をアルキメデス法で測定した結果、3.8×10kg/mであった。更に、上記複合部材の電気抵抗を測定した。測定用試料は下記の手順で作製した。外径13mm、高さ5mmの円柱状の試料の上面と下面を研磨した。電気抵抗の測定にはHiresta−UP MCP−HT450(MITSUBISHI CHEMICAL CORPORATION製)を使用し、印加電圧10V、印加時間30秒で測定した。その結果、体積抵抗率は9.38×10Ω・cmであり、高抵抗の複合部材が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例の複合部材のX線回折図である。
【図2】実施例の複合部材の走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0022】
1〜5:分析点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム酸化物と鉄粒子を有し、前記アルミニウム酸化物中に前記鉄粒子が分散していることを特徴とするアルミニウム酸化物−鉄複合部材。
【請求項2】
前記鉄粒子のうち少なくとも一部の最大径は1μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム酸化物−鉄複合部材。
【請求項3】
実質的に酸化鉄を含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム酸化物−鉄複合部材。
【請求項4】
酸化鉄粉末とアルミニウム粉末の混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を非酸化性不活性ガス雰囲気中で熱処理する熱処理工程とを有するアルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程における熱処理温度は1000℃以上、かつ1400℃以下であることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム酸化物−鉄複合部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155700(P2009−155700A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336616(P2007−336616)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】