説明

アルミニウム酸化皮膜用除去液及びアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法

【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金表面の酸化皮膜を除去するための除去液であって、銀イオン及び/又は銅イオンと、該銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤と、水酸化第4級アンモニウム化合物とを含有し、pHが10〜13.5であることを特徴とするアルミニウム酸化皮膜用除去液。
【効果】本発明の除去液は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、その侵食を可及的に抑制しつつ、除去液に含まれる銀及び/又は銅化合物に由来する銀及び/又は銅を置換析出することができ、しかも、この銀や銅の置換析出物はアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を殆ど侵食することなく低温で、迅速に溶解除去することが可能であるため、アルミニウム又はアルミニウム合金の厚みが非常に薄い場合であっても、アルミニウム又はアルミニウム合金を確実に残存させつつその表面を活性化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム酸化皮膜用除去液及びアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関し、特にウェハにUBM(アンダーバンプメタル)又はバンプをめっきにより形成する場合の前処理に有効なアルミニウム酸化皮膜用除去液及びアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェハ上にUBM又はバンプを形成する方法として、ウェハ上にパターンニングされたアルミニウム薄膜電極に亜鉛置換処理を施して亜鉛皮膜を形成し、その後に無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法、前記亜鉛置換処理の代わりにパラジウム処理を施した後に無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法、又はアルミニウム薄膜電極の表面をニッケルで直接置換した後に自己触媒型無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法等が用いられている。
【0003】
ここで、このようないずれの方法を用いてUBM又はバンプを形成する際においても、その前処理段階として、通常前記アルミニウム薄膜電極に対する脱脂処理、前記アルミニウム薄膜電極上のアルミニウム酸化皮膜や金属不純物等を除去する処理等が行われる。この場合、同じアルミニウム酸化皮膜であっても、硝酸浸漬等により生ずる極薄い厚みの酸化皮膜に対しては、その後工程でそのままめっき処理を施しても問題なくめっき処理を行うことが可能であるが、けずり工程や焼きなまし工程のような製造工程で生ずる強固なアルミニウム酸化皮膜が表面に残存する場合や、アルミニウム表面に特定の結晶配向面が存在する場合には、その後工程で形成されるめっき皮膜の密着性が不充分となったり、めっき皮膜に穴が生じたりする場合があり、はなはだしい場合はめっきが付かないことも生じる。従って、このような強固なアルミニウム酸化皮膜については事前にこれを完全に除去することが望まれ、アルミニウム表面の特定の結晶配向面については、アルミニウム表面を均一に調整することが望まれる。
【0004】
このような問題に対処するため、アルミニウム酸化皮膜の溶解を行わずにドライプロセスでめっき下地を形成する方法(特許文献1:特開平11−87392号公報参照)が提案されている。しかし、この方法は工程が複雑である点、迅速性や生産コスト面で不利である点、更には、残存する酸化皮膜が電気を通さないため熱抵抗が増す結果、電気特性が悪くなる場合があるという点で、なお改善の余地を有するものであった。
【0005】
この強固なアルミニウム酸化皮膜の除去には、従来ウエット方式により、強烈なアルカリ性液や酸性液に浸漬することで、素地のアルミニウム又はアルミニウム合金も溶解して酸化皮膜を根こそぎ取るような方式で、酸化皮膜を除去してきた。それでも、素材の厚みが厚いものはよいが、アルミニウム又はアルミニウム合金の厚みが0.5μmとか1.0μm程度になると、エッチングのマージンがとれなくなる。
【0006】
また、有機溶媒を用いる方法(特許文献2:特開2002−151537号公報参照)や、数種の酸を混合したものを用いる方法(特許文献3:特開平5−65657号公報、特許文献4:特表2002−514683号公報参照)なども提案されている。
【0007】
しかし、これらの方法では、素材がかなりエッチングされることは避けられず、薄膜では消失したり、溶解したりして、処理条件の選定が難しいものであった。更に、薄膜には、従来のダイキャストのような研削とか機械式研磨工程は採用し得ず、製造工程での熱処理で形成された酸化皮膜がそのままアルミニウム薄膜表面に残存することになり、更に問題を悪化させていた。
【0008】
前記問題点を解決するため、アルミニウムと置換可能な金属を含む金属の塩又は酸化物と、該金属のイオンの可溶化剤と、アルカリと、好ましくは界面活性剤とを含有し、pHが10〜13.5である除去液が提案されている(特許文献5:特開2008−169446号公報)。前記除去液を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金上に生成したアルミニウム酸化皮膜を処理した場合、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の侵食を可及的に抑制しつつ、前記酸化皮膜を低温で、迅速に除去することが可能である。
【0009】
即ち、酸を主成分とする従来の処理液を用いてアルミニウム酸化皮膜を除去する際に、アルミニウム又はアルミニウム合金素地が大きく侵食されてしまう原因は、アルミニウム酸化皮膜と酸との反応性と、アルミニウム又はアルミニウム合金素地と酸との反応性との、両者の反応性の差異に対して有効な対応ができなかったことにある。
【0010】
これに対し、特開2008−169446号公報(特許文献5)は、アルミニウム又はアルミニウム合金素地と酸との高い反応性を回避し、アルミニウム酸化皮膜を溶解除去する方法を検討した結果、上述したように、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を、その金属のイオンの可溶化剤と共に添加したアルカリ(塩基)性の除去液が有効であることを開示している。
【0011】
図2は、従来のアルカリ性除去液によりアルミニウム又はアルミニウム合金の表面からアルミニウム酸化皮膜を除去する様子を順次示す概略断面図である。図2(1)〜(6)は、従来の処理液によりアルミニウム又はアルミニウム合金の表面から酸化皮膜を除去する各段階を示すものである。なお、図2中、1は(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金、2は(100)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金、3はアルミニウム酸化皮膜、4はアルミニウムと置換可能な添加金属に由来する金属を示す。
【0012】
まず、アルミニウム酸化皮膜3が形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金(図2(1))を従来のアルカリ性除去液(添加金属が亜鉛)に浸漬し、アルミニウム酸化皮膜3を除去する(図2(2))。ここで、アルミニウム又はアルミニウム合金が露出するが、(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金1の場合には、その表面上にアルカリ性除去液に含まれるアルミニウムと置換可能な添加金属に由来する金属4が速やかに置換析出する(図2(3))。
【0013】
アルミニウム酸化皮膜3中のアルミニウムは既にイオン化されているため、アルミニウム酸化皮膜3上に前記添加金属に由来する金属が置換析出することはなく、しかも、(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金1は、露出部位に形成された前記アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属4により保護されているため侵食されることはない。従って、この反応を継続することにより、アルミニウム酸化皮膜3の溶解が進むにつれて露出した(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金1の表面には、前記アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属4が次々に形成され(図2(4))、最終的にアルミニウム又はアルミニウム合金1の表面に存在していたアルミニウム酸化皮膜3は完全に溶解除去される一方、アルミニウム又はアルミニウム合金表面全体は前記アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属4で被覆されることとなる(図2(5))。なお、その後、酸洗浄をすることによって置換析出金属4は除去可能である(図2(6))。
【0014】
つまり、図2に示すように、特開2008−169446号公報(特許文献5)のアルカリ性除去液を用いれば、エッチングにより露出した(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金素地を置換析出金属が直ちに被覆するため、アルミニウム又はアルミニウム合金素地の侵食が抑制されることとなる。また、アルミニウム又はアルミニウム合金素地の溶解に伴う水酸化アルミニウムの濃度上昇によりアルミニウム酸化皮膜の溶解が抑制されることもないため、アルミニウム酸化皮膜の効果的な除去が継続的に進行することとなる。
【0015】
また、アルカリ(塩基)性にすることで、水酸化物イオン(OH-)が増加し、この水酸化物イオン(OH-)は、アルミニウム酸化皮膜を溶解する作用が強いので、酸性の処理液を用いた場合に比べて低温、短時間で処理することができる。
【0016】
しかし、(100)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金2を従来のアルカリ性除去液で処理する場合には、その表面に対しては添加金属の置換は生じにくく、アルミニウムの溶解のみが進行して添加金属(亜鉛)の置換(図2(3)、(4))は生じず、表面が平滑になり(図2(5)、(6))、後工程の亜鉛置換処理において、(100)面には亜鉛が置換しないという問題が生じていた。
【0017】
つまり、従来のアルカリ性除去液を用いると、特定の結晶配向面((100)面)においては、アルミニウム素材に対し添加金属が置換されずにエッチングだけが進行してしまうという問題が生じていた。それによって、その結晶面ではその後の亜鉛置換処理で亜鉛が置換せず、亜鉛置換の抜けが生じていた。それが原因でその後のニッケルめっきによるニッケル皮膜に欠損が生じてしまい、めっき皮膜の密着性が不十分になったり、めっき皮膜に穴が生じたりする場合があり、導電性にも影響をもたらし、外観も大きく損なわれるという問題が生じていた。
【0018】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、上記のもののほか、下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平11−87392号公報
【特許文献2】特開2002−151537号公報
【特許文献3】特開平5−65657号公報
【特許文献4】特表2002−514683号公報
【特許文献5】特開2008−169446号公報
【特許文献6】特開2004−263267号公報
【特許文献7】特開2004−346405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたもので、アルミニウム素材に対して、特定の結晶配向面((100)面)のみにエッチングが進行することなく、どの結晶配向面も均一にエッチングすることが可能であり、このエッチング処理の効果によりその後の亜鉛置換の抜けがなく、均一な亜鉛置換膜を形成することができるアルミニウム酸化皮膜用除去液及びこれを用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、アルカリとして水酸化第4級アンモニウム化合物を用いることで、アルミニウム又はアルミニウム合金へのアタック性を抑制できることを知見した。
【0022】
即ち、本発明者らは、銀イオン及び/又は銅イオンと、該銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤と、アルカリとして水酸化第4級アンモニウム化合物と、好ましくは界面活性剤及び/又は亜鉛イオンとを含有し、pHが10〜13.5である除去液にて、アルミニウム又はアルミニウム合金上に生成したアルミニウム酸化皮膜を処理した場合、過度にアルミニウム素地がエッチングされることがなく、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の侵食を可及的に抑制しつつ、前記酸化皮膜を迅速に除去し、更に特定の結晶配向面をもったアルミニウム素材に対しても均一にエッチングすることが可能であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0023】
従って、本発明は、下記のアルミニウム酸化皮膜用除去液及びアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供する。
請求項1:
アルミニウム又はアルミニウム合金表面の酸化皮膜を除去するための除去液であって、銀イオン及び/又は銅イオンと、該銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤と、水酸化第4級アンモニウム化合物とを含有し、pHが10〜13.5であることを特徴とするアルミニウム酸化皮膜用除去液。
請求項2:
更に、界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム酸化皮膜用除去液。
請求項3:
更に、亜鉛イオンを含有することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム酸化皮膜用除去液。
請求項4:
少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を請求項1乃至3のいずれか1項記載のアルミニウム酸化皮膜用除去液に浸漬し、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に、そのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれる銀又は銅を置換析出させることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項5:
被処理物が、非アルミニウム材の表面にアルミニウム又はアルミニウム合金皮膜が形成されたものであることを特徴とする請求項4記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項6:
銀及び/又は銅を置換析出させた後、その上にめっき層を形成することを特徴とする請求項4又は5記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項7:
銀及び/又は銅を置換析出させた後、この置換金属析出物を酸化作用を有する酸性液で除去することを特徴とする請求項4又は5記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項8:
銀及び/又は銅の置換析出物を酸化作用を有する酸性液で除去した後、アルミニウム又はアルミニウム合金に対し亜鉛置換処理又はパラジウム処理を行い、次いでめっきすることを特徴とする請求項7記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項9:
銀及び/又は銅の置換析出物を酸化作用を有する酸性液で除去した後、アルミニウム又はアルミニウム合金に対し直接めっきすることを特徴とする請求項7記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【0024】
ここで、特開2008−169446号公報(特許文献5)に記載されている銀及び銅以外の金属(例えば、亜鉛、マンガン、金、ニッケル、パラジウム等)のみを添加した水酸化第4級アンモニウム化合物を用いた酸化皮膜用除去液を使用しても、浸漬処理した後、形成された置換析出金属を酸化作用を有する酸性液で除去したものに亜鉛置換処理を施しても十分に亜鉛置換されない。そのために、このような酸化皮膜用除去液を使用したプロセスで、その後のニッケルめっき処理を行うと、ニッケルめっき不良が発生する。しかし、水酸化第4級アンモニウム化合物を用いたアルミニウム酸化皮膜用除去液に銀イオン及び/又は銅イオンを添加することにより、亜鉛置換されやすいアルミニウム表面を形成することが可能となり、その後の亜鉛置換処理により十分に亜鉛置換される。そのため、その後のニッケルめっき処理により正常なニッケル皮膜を形成できるものである。
【0025】
図1は、本発明のアルカリ性除去液によりアルミニウム又はアルミニウム合金の表面からアルミニウム酸化皮膜を除去する様子を順次示す概略断面図である。図1(1)〜(6)は、本発明の処理液によりアルミニウム又はアルミニウム合金の表面から酸化皮膜を除去する各段階を示すものである。なお、図1中、1は(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金、2は(100)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金、3はアルミニウム酸化皮膜、4はアルミニウムと置換可能な添加金属に由来する金属を示す。
【0026】
まず、アルミニウム酸化皮膜3が形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金(図1(1))を本発明のアルカリ性除去液(添加金属が銀及び/又は銅)に浸漬し、アルミニウム酸化皮膜3を除去する(図1(2))。従来のアルカリ性除去液と同様に、本発明のアルカリ性除去液を用いると、アルミニウム酸化皮膜3の溶解が進むにつれて露出した(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金1の表面には、前記アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属(銀及び/又は銅)4が次々に形成され(図1(3)、(4))、最終的にアルミニウム又はアルミニウム合金1の表面に存在していたアルミニウム酸化皮膜3は完全に溶解除去される一方、アルミニウム又はアルミニウム合金表面全体は前記アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属(銀及び/又は銅)4で被覆されることとなる(図1(5))。なお、その後、酸洗浄をすることによって置換析出金属4は除去可能である(図1(6))。
【0027】
しかし、従来のアルカリ性除去液と異なり、本発明のアルカリ性除去液を用いると、(111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金1と同様に、(100)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金2に対しても、その表面にアルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属(銀及び/又は銅)4が置換析出することが可能となり(図1(3))、アルミニウムの溶解のみが進行することなく置換析出金属(銀及び/又は銅)4が次々に置換析出し(図1(4))、最終的にアルミニウム又はアルミニウム合金2の表面に存在していたアルミニウム酸化皮膜3は完全に溶解除去される一方、アルミニウム又はアルミニウム合金表面全体は前記アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する置換析出金属(銀及び/又は銅)4に被覆されることとなる(図1(5))。前記と同様に、この場合も酸洗浄をすることによって置換析出金属(銀及び/又は銅)4は除去可能である(図1(6))。
【0028】
通常、当該技術分野においては、緻密な亜鉛皮膜を形成するため、亜鉛置換処理は2回行う必要があった。しかし、本発明の酸化皮膜用除去液を使用した場合、1回の亜鉛置換処理でも十分に緻密な亜鉛皮膜が形成されることが明らかとなった。
【0029】
それ故、本発明の銀イオン及び/又は銅イオンを含む除去液は、ウエット法で、アルミニウム又はアルミニウム合金素地の侵食を最小限に抑え、かつアルミニウム酸化皮膜を継続して迅速に溶解除去し、更に特定の結晶配向面をもったアルミニウム素材に対しても均一にエッチングすることが可能となる除去液である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の除去液は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、その侵食を可及的に抑制しつつ、除去液に含まれる銀及び/又は銅化合物に由来する銀及び/又は銅を置換析出することができ、しかも、この銀や銅の置換析出物は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面を殆ど侵食することなく低温で迅速に溶解除去することが可能であるため、アルミニウム又はアルミニウム合金の厚みが非常に薄い場合であっても、アルミニウム又はアルミニウム合金を確実に残存させつつその表面を活性化することができる。本発明の表面処理方法は、特にシリコンウェハ上に形成されたアルミニウム薄膜電極表面の活性化処理の際などに好適に用いることができる。
【0031】
更に、本発明の除去液は、銀イオン及び/又は銅イオンを含有することで、その後の亜鉛置換工程において亜鉛置換されやすいアルミニウム表面を形成することができ、緻密な亜鉛皮膜を形成することができる。また、水酸化第4級アンモニウム化合物を使用することで、過度にアルミニウム素地がエッチングされることを抑制することができる。本発明の除去液を使用することで、亜鉛置換処理が1回でも、その後のニッケルめっき処理において、良好なニッケル皮膜形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のアルカリ性除去液によりアルミニウム又はアルミニウム合金の表面からアルミニウム酸化皮膜を除去する様子を順次示す概略断面図である。
【図2】従来のアルカリ性除去液によりアルミニウム又はアルミニウム合金の表面からアルミニウム酸化皮膜を除去する様子を順次示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のアルミニウム酸化皮膜用除去液は、銀イオン及び/又は銅イオンと、銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤と、水酸化第4級アンモニウムとを含有し、pHが10〜13.5である。
【0034】
本発明の除去液には、銀イオン及び/又は銅イオンが含まれる。銀イオン及び/又は銅イオンを含むことによって、除去液によって処理した後、亜鉛置換されやすいアルミニウム表面が形成される。これは、酸化皮膜除去工程でアルミニウム表面に銀及び/又は銅が析出し、その後の剥離工程で銀及び/又は銅が剥離した際に、細かい凹凸のある表面が露出するためである。
【0035】
前記銀イオンを供給する化合物として、具体的には、硝酸銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、酢酸銀、炭酸銀、バナジン酸銀、硫酸銀、チオシアン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、p−トルエンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、前記銅イオンを供給する化合物として、具体的には、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、ヨウ化銅(I)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、硫酸銅(II)、硫化銅(I)、硫化銅(II)、チオシアン酸銅(I)、テトラフルオロホウ酸銅(II)、ピロリン酸銅(II)、ギ酸銅(II)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらの銀及び/又は銅の化合物は1種を単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記銀イオン及び/又は銅イオンの濃度は、特に制限されるものではないが、0.1〜5,000ppmであることが好ましく、1〜2,000ppmであることがより好ましい。0.1ppm未満では酸化皮膜の除去が不十分となって、めっき不良が発生することがあり、5,000ppmを超えると、浴が不安定になることがある。
【0037】
本発明の除去液に含まれる銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤(錯化剤)としては、特に制限されるものではないが、通常の錯化剤、キレート剤が使用できる。具体的には、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ポリアミノカルボン酸等のアミノカルボン酸及びその塩、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチルホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチルホスホン酸等の亜リン酸系キレート剤及びその塩、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン系キレート剤及びその塩、ヒダントイン化合物、バルビツール酸化合物、イミド化合物等が使用できる。これらのうち、銀イオンの可溶化剤としては、特に浴安定性の観点からヒダントイン化合物、バルビツール酸化合物等が好ましく、銅イオンの可溶化剤としては、特にエチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸等が好ましい。これらの化合物は1種を単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の除去液に用いられる可溶化剤の濃度は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.01〜50g/L、より好ましくは0.1〜30g/Lである。0.01g/L未満では、浴が不安定になるおそれがあり、50g/Lを超えると、めっき外観不良が生じるおそれがある。
【0039】
本発明の除去液には、アルカリ化合物として水酸化第4級アンモニウム化合物が含まれる。水酸化第4級アンモニウム化合物は、アルミニウム酸化膜に対するエッチング速度がアルカリ金属の水酸化物に比べて小さいため、アルミニウム又はアルミニウム合金へのアタック性を抑えることができる。
【0040】
水酸化第4級アンモニウム化合物としては、炭素数1〜4のアルキル基及び/又はヒドロキシアルキル基を有する水酸化第4級アンモニウム化合物が好適に使用できる。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム(コリン)、水酸化トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらのうち、特に酸化皮膜除去効果、安定性、コスト等の観点から、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及び水酸化トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム(コリン)が好ましい。
【0041】
なお、水酸化第4級アンモニウム化合物の添加量は、除去液のpHを規定の範囲とする量、即ち、pHを10〜13.5、好ましくは11〜13とする量である。
【0042】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金用の酸化皮膜用除去液には、水濡れ性を与える観点から、界面活性剤が含まれることが好ましい。用いられる界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合型活性剤等のノニオン型界面活性剤、脂肪酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等のアニオン型界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等のカチオン型界面活性剤等が挙げられ、均一処理性の観点から、中でもノニオン型及びアニオン型界面活性剤が好ましい。これらは1種を単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0043】
例えば、界面活性剤としてポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量としては特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは200以上、上限として通常20,000以下、好ましくは6,000以下である。分子量が大きすぎると、溶解性が悪い場合があり、一方、分子量が小さすぎると、水濡れ性が与えられない場合がある。なお、ポリエチレングリコールとしては市販品を使用し得る。なお、この分子量は、例えば日本薬局方記載の方法で測定し得る。
【0044】
また、界面活性剤の除去液中の濃度は、特に制限されるものではないが、通常1ppm以上(mg/L)、好ましくは10ppm(mg/L)以上、上限として通常5,000ppm(mg/L)以下、好ましくは2,000ppm(mg/L)以下である。界面活性剤の除去液中の濃度が小さすぎると、界面活性剤の添加によって得られる水濡れ性の効果が低い場合があり、一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材上に置換金属が析出してしまう場合がある。
【0045】
なお、本発明の除去液は、操作の安全性の観点から水溶液として調製されることが好ましいが、その他の溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等の水溶性有機溶媒を用いてもよく、水との混合溶媒とすることも可能である。なお、これらの溶媒は1種を単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の除去液のpHは、10〜13.5であり、好ましくは11〜13である。pHをアルカリ性にすることで、アルミニウム酸化皮膜がエッチングされやすくなるため、短時間で処理することができる。なお、pHが10未満だと酸化皮膜の溶解速度が著しく低下し、pHが13.5を超えると、酸化皮膜の溶解速度が速くなりすぎて制御ができない。
【0047】
また、本発明の除去液には、次工程の亜鉛置換処理によるジンケート皮膜の緻密性の向上を目的として、更に亜鉛イオンを別途添加してもよい。前記亜鉛イオンを供給する化合物として、具体的には、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、リン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、酒石酸亜鉛、テトラフルオロホウ酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、p−トルエンスルホン酸亜鉛、臭化亜鉛、酢酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。前記亜鉛イオンを添加する場合、その濃度は、0.01〜50g/Lが好ましく、より好ましくは、0.1〜10g/Lである。濃度が0.01g/L未満では、次工程の亜鉛置換処理によるジンケート皮膜の緻密性に寄与しない場合があり、50g/Lを超えると、めっき外観不良が生じる場合がある。
【0048】
前記除去液を用いて被処理物を表面処理する方法としては、前記除去液に少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を処理して、当該被処理物のアルミニウム又はアルミニウム合金表面に、除去液に含まれる銀や銅化合物に由来する銀及び/又は銅が置換析出する。この場合、銀及び/又は銅を置換析出させた後、酸化作用を有する酸性液により当該銀及び/又は銅の置換析出物を除去することができ、また前記置換銀析出物及び/又は置換銅析出物上、又は当該置換銀析出物及び/又は置換銅析出物を除去したアルミニウム又はアルミニウム合金上に直接、又は亜鉛置換処理やパラジウム処理を行った後にめっきを行うことができる。
【0049】
除去液にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を浸漬する際の浸漬条件としては、特に制限されるものではなく、除去すべきアルミニウム酸化皮膜の厚み等を鑑み適宜設定することができるが、通常10秒以上、好ましくは30秒以上、上限として通常10分以下、好ましくは5分以下である。浸漬時間が短すぎると、置換が進まずに酸化皮膜の除去が不充分となる場合があり、一方、浸漬時間が長すぎると、置換金属間の隙間から除去液が侵入し、アルミニウム又はアルミニウム合金が溶出してしまうおそれがある。
【0050】
また、浸漬時の温度としても、特に制限されるものではないが、通常25℃以上、好ましくは30℃以上、上限として通常100℃以下、好ましくは95℃以下である。浸漬温度が低すぎると、酸化皮膜を溶解できない場合があり、一方、浸漬温度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材を侵す場合がある。なお、浸漬時には、均一に処理するという観点から、液撹拌や被処理物の揺動を行うことが好ましい。
【0051】
本発明が対象とする少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物としては、被処理物の全てがアルミニウム又はアルミニウム合金にて形成されていても、非アルミニウム材(例えばシリコン、FRA(プリント基板の基材))の表面の全部又は一部をアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆してあるものでもよい。また、そのアルミニウムやアルミニウム合金の形態としても特に限定されず、例えば、ブランク材、圧延材、鋳造材、皮膜等に対して良好に適用することができる。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金の皮膜を非アルミニウム材表面に形成する場合、この皮膜の形成方法としても特に限定されるものではないが、その形成方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相めっき法が好適である。
【0052】
この皮膜の厚みとしては、本発明の表面処理方法を用いる際にアルミニウム又はアルミニウム合金素地を確実に残存させる観点から、通常0.5μm以上、好ましくは5μm以上である。なお、その厚みの上限は、特に制限されず、通常100μm以下であるが、本発明の除去液は、素地であるアルミニウム又はアルミニウム合金をほとんど侵食することがないことから、特に5μm以下の、従来の処理液では処理後の素地が薄くなってしまう問題から適用が困難であった厚みのものに対しても有効に使用することができる。
【0053】
更に、前記皮膜の成分としても、アルミニウム又はアルミニウム合金であれば特に限定されるものではないが、例えばAl−Si(Si含有率0.5〜1.0質量%)、Al−Cu(Cu含有率0.5〜1.0質量%)等の皮膜に対し、本発明の表面処理方法を好適に適用可能である。
【0054】
また、前記置換金属は、後処理の前に除去してもよい。前記置換金属を溶解するに際しては、下地であるアルミニウム又はアルミニウム合金との反応性を緩和する観点から酸化作用を有する酸性液が用いられる。この場合、酸化作用を有する酸性液としては、硝酸等の酸化作用を有する酸又はその水溶液(場合によっては硝酸鉄、硫酸セリウム(IV)、メタバナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム等を添加してもよい。)、硫酸、塩酸等の酸化作用を有さない酸又はその水溶液に酸化剤、例えば過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の1種又は2種以上を添加したもの等が好ましく使用される。この場合、酸は置換金属を溶解させる作用を有し、酸化剤はアルミニウム又はアルミニウム合金素地に対する反応性を緩和する作用を有する。なお、酸化剤のうちでは、水素と酸素とからなり、還元されると水になる点から過酸化水素が好ましく、また安定性があり、取り扱いが容易であるという点からは、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0055】
ここで、酸(及び酸化剤)として硝酸を用いる場合には、溶解液(水溶液)中の硝酸量として通常200mL/L以上、好ましくは300mL/L以上、上限として通常1,000mL/L以下、好ましくは700mL/L以下である。硝酸量が少なすぎると、酸化力が低く、反応が止まらない場合がある。なお、硝酸1,000mL/Lとは全量が硝酸である場合である。
【0056】
また、酸化剤を用いる場合の、溶解液中の酸化剤量としては通常50g/L以上、好ましくは75g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸化剤量が少なすぎると、酸化力が低く、反応が止まらない場合があり、一方、多すぎると、経済性が悪い場合がある。また、このように、酸化剤と共に用いられる塩酸、硫酸等の酸の濃度は、通常10g/L以上、好ましくは15g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸の濃度が小さすぎると、置換金属が溶解し難い場合が生じ、一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材を侵食するおそれがある。なお、ここで用いる酸は、非酸化性のものであることが好ましいが、硝酸等の酸化性の酸であってもよく、また酸化性の酸を非酸化性の酸と混合して使用してもよい。
【0057】
このような溶解処理において、処理時間としても特に制限はなく、例えば5〜300秒で溶解処理を行うことができ、溶解処理温度としては、例えば10〜40℃の条件を採用することができる。また、溶解処理中、めっき被処理物は静止していても揺動していてもよく、液撹拌を行ってもよい。
【0058】
本発明の除去液を用いて表面処理を行った後、めっき皮膜を形成する場合には、前記のように被処理物のアルミニウム又はアルミニウム合金表面に置換金属を形成した後に、そのままその上にめっき処理を行ってもよいし、置換金属を除去した後にめっき処理を行ってもよいが、後者の場合、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の酸化膜が完全になくなっていることにより、例えば無電解ニッケルめっきを施すと、素材のアルミニウムとニッケルが直接置換するものである。また、置換金属を除去した後に、更に亜鉛置換処理又はパラジウム処理等により、被処理物表面への活性化処理を行ってからめっき処理を行ってもよい。このような活性化処理としては特に亜鉛置換処理、中でもアルカリ亜鉛置換処理を施すことにより、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に亜鉛皮膜を形成することが、めっき皮膜の密着性向上の観点から好適である。
【0059】
ここで、亜鉛置換処理としては、具体的には亜鉛塩を含む溶液を用い、亜鉛を置換析出させる処理を行うことを指すものである。アルカリ亜鉛置換処理の場合には、アルカリ性の亜鉛酸溶液を用いるものであり、また、酸性亜鉛置換処理としては、酸性の亜鉛塩を含む溶液を用いて亜鉛を置換析出させる処理を行うもので、これらは公知の方法で行うことができる。更に、パラジウム処理としても、パラジウム塩を含む溶液を用いてパラジウムを置換析出させる処理を行うもので、公知の方法で行うことができる。
【0060】
前記のような亜鉛皮膜の形成は、特に半導体デバイスの分野において、ウェハ上にパターンニングされたアルミニウム薄膜電極の表面を活性化処理し、ニッケルめっきを行うことでバンプを形成する際の前処理として、バンプを安定して形成する観点から好適に行われるものであるが、その際に用いられる亜鉛置換処理は、アルミニウム又はアルミニウム合金素地を侵食するおそれのある処理方法である。しかしながら、本発明の除去液を用いることによりアルミニウム薄膜電極の侵食は可及的に抑制されており、亜鉛置換処理によって素地が若干侵食されても、亜鉛置換処理後にアルミニウム薄膜電極がより確実に残存することとなる。
【0061】
前記亜鉛置換処理は、1回又は2回行うことが好ましいが、1回でも十分に亜鉛置換される。従来の酸化皮膜除去液を用いた場合は、1回の亜鉛置換処理では粗くしか亜鉛置換されなかったが、本発明の酸化皮膜除去液を用いた場合は1回の亜鉛置換処理でも従来と比べて緻密な亜鉛置換が可能となり、その後のニッケルめっき処理において、良好なニッケル皮膜形成が可能となる。
【0062】
本発明の表面処理方法を用いて被処理物の表面を処理した後、めっき処理を行う際のめっき方法としては、特に限定されるものではなく、電気めっき法であっても、無電解めっき法であってもよい。
【0063】
無電解めっき法は電気めっき法に対してエネルギーが低く、めっき層を不良なく形成するためには前処理が特に重要であるが、本発明によれば、アルミニウム酸化皮膜等の不純物が完全に除去されるため、無電解めっき法によってもめっき層を密着よく形成することが可能である。
【0064】
なお、電気めっき法を採用する際には配線が必要であるため、装置の組み立てに手間がかかったり、めっき密度を上げられなかったり、ノイズが生じて均一なめっき皮膜の形成が困難である場合があるが、それらの問題は無電解めっき法を用いることで解決し得る。
【0065】
また、めっき金属の種類は、その用途に応じ適宜選択されるが、通常、Cu、Ni、Au等が挙げられ、これらは2層以上の層としてもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0067】
[実施例1〜6、比較例1〜7]
めっき被処理物として、スパッタリング法により(111)面と(100)面の配向面を有する5μm厚みの多結晶アルミニウム層を被覆したシリコン板を、表1(実施例1〜6)及び表2(比較例1〜7)に示す配合にて調製した除去液に、60℃にて60秒間浸漬した。なお、除去液のpHはいずれも12.8とした。その後、500mL/Lの硝酸水溶液に25℃にて30秒間浸漬し、前記除去液への浸漬によって前記被処理物のアルミニウム層上に置換析出した金属を溶解除去した。更に、アルカリ性の亜鉛酸溶液に浸漬してアルカリ亜鉛置換処理を1回行なった後、無電解ニッケルめっき法により1μm厚みのニッケルめっきを施し、その上に置換めっき法により0.05μm厚みの金めっきを施した。
【0068】
得られためっき物について外観観察を行ない、それぞれ(111)面、(100)面のめっき皮膜の外観を評価した。この場合、無電解ニッケルめっき膜を薄く形成し、更にその上に金めっき膜を形成することで、酸化皮膜が除去されずに残存した場合はニッケル(及び金)が析出せず、穴(白色)となるので、金色との対比でめっき膜非付着状態(酸化皮膜残存状態)を評価したものである。結果を表1及び表2に併記する。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【符号の説明】
【0071】
1 (111)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金
2 (100)面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金
3 アルミニウム酸化皮膜
4 アルミニウムと置換可能な添加金属に由来する金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金表面の酸化皮膜を除去するための除去液であって、銀イオン及び/又は銅イオンと、該銀イオン及び/又は銅イオンの可溶化剤と、水酸化第4級アンモニウム化合物とを含有し、pHが10〜13.5であることを特徴とするアルミニウム酸化皮膜用除去液。
【請求項2】
更に、界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム酸化皮膜用除去液。
【請求項3】
更に、亜鉛イオンを含有することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム酸化皮膜用除去液。
【請求項4】
少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を請求項1乃至3のいずれか1項記載のアルミニウム酸化皮膜用除去液に浸漬し、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に、そのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれる銀又は銅を置換析出させることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項5】
被処理物が、非アルミニウム材の表面にアルミニウム又はアルミニウム合金皮膜が形成されたものであることを特徴とする請求項4記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項6】
銀及び/又は銅を置換析出させた後、その上にめっき層を形成することを特徴とする請求項4又は5記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項7】
銀及び/又は銅を置換析出させた後、この置換金属析出物を酸化作用を有する酸性液で除去することを特徴とする請求項4又は5記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項8】
銀及び/又は銅の置換析出物を酸化作用を有する酸性液で除去した後、アルミニウム又はアルミニウム合金に対し亜鉛置換処理又はパラジウム処理を行い、次いでめっきすることを特徴とする請求項7記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項9】
銀及び/又は銅の置換析出物を酸化作用を有する酸性液で除去した後、アルミニウム又はアルミニウム合金に対し直接めっきすることを特徴とする請求項7記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−26029(P2012−26029A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106928(P2011−106928)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】