説明

アルミニウム鋳塊の製造方法、アルミニウム鋳塊、およびアルミニウム鋳塊の製造用保護ガス

【課題】溶湯表面の酸化を防止し、酸化物の少ないアルミニウム鋳塊の製造方法と、これによって製造されるアルミニウム鋳塊と、を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るアルミニウム鋳塊の製造方法は、地金を溶解して溶湯にする溶解工程(溶解炉1)、溶湯を保持する保持工程(保持炉2)、溶湯から水素ガスを除去する脱水素ガス工程(脱水素ガス装置3)、溶湯から介在物を除去するろ過工程(ろ過装置4)、および溶湯を所定の形状に固化する鋳造工程(鋳造装置5)を含むアルミニウムまたはアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊の製造工程において、各工程のうち少なくとも一つを、フッ化ガスと、炭酸ガスと、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスとを混合した保護ガス雰囲気中で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウム(Al)やアルミニウム合金でなるアルミニウム鋳塊(以下、単に「アルミニウム鋳塊」という)は、地金を溶解して溶湯にする溶解工程、溶湯を保持する保持工程、溶湯から水素ガスを除去する脱水素ガス工程、溶湯から介在物を除去するろ過工程、および溶湯を水冷鋳型で所定の形状の鋳塊に成形して固化する鋳造工程を経て鋳造される。
【0002】
アルミニウム鋳塊は、地金から鋳塊に鋳造する過程、例えば、溶解工程や鋳造工程などで、700℃以上に加熱されて溶湯として取り扱われることになるが、アルミニウムは活性に富む金属であるため、大気等と反応して酸化物が生成されやすい。
【0003】
特に、アルミニウムよりも活性に富むマグネシウム(Mg)を添加したアルミニウム合金の溶湯では、MgOやMgAl等の酸化物が大量に生成されて、凝集して凝集体(ドロス)を形成することが知られている。ドロスは非常に硬く、岩状に形成されるので除去するのに手間がかかるだけでなく、その一部が崩れて溶湯中に混入したアルミニウム鋳塊を用いて製造された最終製品(例えば、缶材、ディスク材などのアルミニウム薄板)の表面に表面疵や割れが発生する原因となる。
【0004】
そこで、アルミニウム鋳塊の製造においては、最終製品の表面疵や割れを防止し、所定の性能を確保するため、溶解から鋳造までの間に、例えば、炉中精錬やインライン精錬、そして鋳造直前に行われるフィルターろ過など、複数回の酸化物除去処理を行っている。特に、フィルターろ過では、10μm程度の非常に微細なサイズの酸化物まで除去することができ、鋳塊の品質、ひいては最終製品の品質を保証している。
【0005】
このような処理を行った溶湯は、次に鋳造工程に供せられ鋳塊となる。
アルミニウム鋳塊は、まず水冷鋳型に溶湯を注湯し、水冷鋳型と接触する溶湯を冷却凝固させて凝固殻を形成し、この凝固殻および内部の溶湯を下方に引き出しながら鋳型下方にて当該凝固殻にさらに冷却水を直接噴射することで、凝固殻内側の溶湯を凝固させる半連続鋳造などによって製造される。
なお、水冷鋳型内での冷却を一次冷却、凝固殻に直接冷却水を噴射する工程を二次冷却と呼んでいる。
【0006】
このとき、水冷鋳型はアルミニウム合金製または銅製であるため、溶湯と水冷鋳型の直接接触による焼きつきを防止する必要がある。焼きつきを防止するため、一般的には、水冷鋳型の内壁に潤滑油を塗布しながら鋳造することが行われている。
【0007】
しかし、従来は、フィルターろ過(ろ過工程)以降に生成される酸化物、特に水冷鋳型内などで溶湯表面に生じる酸化物については、十分な対策がなされていなかった。
例えば、鋳造工程における処理を開始すると、まず、溶湯が樋から水冷鋳型に落下することになるが、この溶湯落下時に大量の酸化物が生成することがあった。また、鋳造工程の処理を開始した後に定常状態で鋳造を行っているときも、水冷鋳型内で溶湯表面に生じた酸化物が凝集し、鋳塊表層に入り込むとともに、その部分で鋳塊の表面に凹みが生じることがあった。
そのため、鋳造開始時に製造される部分、即ち、鋳塊の最下部を切断除去したり、定常部においても面削により鋳塊表面を必要以上に削り取ったりしなければならなかった。
【0008】
これらの酸化物に起因する問題は、特に高い濃度のMgを添加した合金では顕著である。
そこで、特許文献1に記載されているように、塩素(Cl)および六フッ化硫黄(SF)などのガスを事前に溶湯に作用させ、溶湯表面の酸化を抑制する方法が検討されたが、この方法はインライン精錬等で行われるものであり、鋳型内における溶湯表面の酸化を抑制する効果が十分でない。
さらに、Clは、毒物であるために環境面に問題があるばかりでなく周辺装置の劣化を著しく促進するという問題がある。
【0009】
他方、SFは、地球温暖化係数が20000と非常に高いので地球温暖化防止の観点から使用は好ましくない。
また、SFは、スニフ(SNIF;Spining Nozzle Inert Floatation)やポーラスプラグを用いた脱水素ガス工程で溶湯中の水素ガスと化学反応を起こしてフッ化水素(HF)を生成する。HFは、激しい腐食性をもっているために炉が傷みやすく、また、生体への毒性も極めて強いという問題がある。
【0010】
そこで、酸化を防止するためのガスとして、炭酸ガス(CO)を主として含む保護ガスを用いることも検討されているが、COを大量に用いると、COの一部が溶湯に還元され、一酸化炭素、酸素、炭素を生じ、却って溶湯表面の酸化や炭化を促進して酸化物や炭化物などの介在物を生成してしまうことがある。
【0011】
その他にも、現在主に行われている製造方法でアルミニウム鋳塊を鋳造すると、鋳塊の表面に粗大セル層またはサブサーフェスバンドと呼ばれる粗い組織が形成される場合がある。この粗い組織は、水冷鋳型内で形成される凝固殻が凝固収縮した後、鋳型から若干離れ、結果として形成されたエアーギャップにより断熱されて冷却が緩やかになるために生じる組織である。
この粗い組織が鋳塊に存在すると、最終製品に表面疵や割れが発生する原因になるため、高品位を要求される場合には過大な面削を行い除去することが行われている。
【0012】
この問題を解決するためにいくつかの手法が提案されている。
そのなかの一つの手法として、例えば、電磁場鋳造法がある。電磁場鋳造法は、電磁気力により溶湯を所定形状に保持する方法であり、水冷鋳型による一次冷却が無いため粗い組織を形成することなく鋳塊を鋳造することができる。しかし、電気を必要とするためにコストがかかるだけでなく、制御が非常に難しいため、実用化に至っていない。
【0013】
また、他の一つの手法として、水冷鋳型の内壁の少なくとも溶湯と接触する部分を黒鉛で形成する手法がある。黒鉛を内壁に用いた鋳型では、一般的に用いられるアルミニウム合金もしくは銅合金製の鋳型に比較して、自己潤滑作用および自己消耗により溶湯と焼きつきを起こし難いので、後述する鋳型に塗布する潤滑油の量(厚さ)を低減することができる。そのため、溶湯と鋳型の接触状態が改善されるとともに冷却効果が高くなり、アルミニウム鋳塊の鋳造時に粗い組織の形成を抑制することができるので、エアーギャップの形成を抑制する効果がある。
【0014】
また、さらに他の一つの手法として、例えば、ホットトップ法がある。ホットトップ法は、鋳型上部に略鋳型と同形状の耐火物容器を設置し、その耐火物容器内部に溶湯を溜めておきながら鋳造する方法であり、一般的に黒鉛の鋳型が用いられている。この方法では前記した耐火物容器内の溶湯によって鋳型内に圧力がかかる。つまり、鋳型に溶湯が強制的に押し付けられることとなって、エアーギャップが形成され難くなるために、小径の丸棒材を製造する場合において、粗い組織の形成を抑制する効果に優れており、実用化もされている。
しかし、大型の鋳塊を鋳造する場合にこれを用いると、溶湯漏れする場合があるため実用化には至っていない。そのため、大型の鋳塊を鋳造する場合は、前記したように水冷鋳型の内壁の溶湯と接触する部位に黒鉛を適用する方法が用いられている。
【特許文献1】特公昭63−48935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、黒鉛は酸化消耗が著しいために、例えば1日使用しただけで交換が必要になるなどの問題があった。
この問題を解決するために、黒鉛に潤滑油を染み込ませたり、常時供給したりする方法が提案されている。
【0016】
しかし、潤滑油を染み込ませる方法では、染み込ませた潤滑油が溶湯の熱で常に燃焼し続ける状態であるため、黒鉛の酸化消耗の抑制効果が十分でないという問題がある。
【0017】
また、潤滑油を常時供給する方法では、過剰な潤滑油が、凝固殻を形成するための冷却水に混入するという問題がある。通常、冷却水は循環して使用しているため、潤滑油が混入すると、混入した潤滑油を栄養源として大量のバクテリアや藻などが冷却水回路や水槽内に発生してしまい、冷却水回路が目詰まりすることがある。また、冷却水の廃棄時に潤滑油の分離に多大のコストがかかるという問題もある。
【0018】
さらに、水冷鋳型の内壁を黒鉛としたのみでは、溶湯表面に生じる酸化物を抑制することができないため、酸化物の生成に関する問題を解決することができない。そのため、面削する量を軽減したり、面削自体を完全になくしたりすることは困難である。
【0019】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであり、溶湯表面に生成する酸化物の生成量を抑制することができるとともに、水冷鋳型の内壁に用いられる黒鉛の酸化消耗を抑制することができるアルミニウム鋳塊の製造方法、アルミニウム鋳塊、およびこのようなアルミニウム鋳塊を得るのに好適なアルミニウム鋳塊の製造用保護ガスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決した本発明に係るアルミニウム鋳塊の製造方法は、地金を溶解して溶湯にする溶解工程、溶湯を保持する保持工程、溶湯から水素ガスを除去する脱水素ガス工程、溶湯から介在物を除去するろ過工程、および溶湯を水冷鋳型で所定の形状の鋳塊に成形して固化する鋳造工程を含む、純アルミニウムまたはアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊における製造方法において、前記した各工程のうち少なくとも一つの工程における処理を、フッ化ガスを含んでなる保護ガス雰囲気中で行うことを特徴としている。
【0021】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法は、前記の各工程において、フッ化ガスを含む溶湯酸化抑制用の保護ガス雰囲気中で地金または溶湯を溶解、保持、水素ガスの除去、介在物の除去、固化等の各処理を行うので、溶湯表面に生成する酸化物の生成を抑制することができる。
【0022】
そして、このとき用いる保護ガスは、フッ化ガスを0.001〜1質量%、炭酸ガスを0.01〜10質量%含有し、残部が窒素ガスおよびアルゴンガスのうち少なくとも1つを含んで構成するのが好ましく、そのフッ化ガスは、フルオロケトンとするのがより好ましい。
【0023】
このように、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法は、保護ガスの主要な成分を窒素ガスおよび/またはアルゴンガスとしているので溶湯表面の酸化を防止することができる。なお、当該保護ガスは、従来用いられてきた炭酸ガスを主体とする保護ガスと比較して、含有する炭素ガスの含有量が相対的に少ないので、アルミニウムまたはアルミニウム合金の酸化を防止するだけでなく、炭化も低減させることができる。
特に、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法では、フッ化ガスとしてフルオロケトンを用いることによって、溶湯の表面にフッ化アルミニウム(AlF)の被膜を形成することができるので、溶湯表面の酸化をさらに防止することが可能となる。
【0024】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法は、水冷鋳型内の溶湯の触れる少なくとも一部が、黒鉛または黒鉛を含む素材を用いて形成されているのが好ましい。
【0025】
このように、水冷鋳型内の溶湯の触れる少なくとも一部を黒鉛または黒鉛を含む素材を用いて形成しているので、溶湯の酸化を防止することができる。したがって、酸化物の生成をさらに抑制することができる。
また、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法では、前記した保護ガス雰囲気中で鋳造を行うので、当該黒鉛の酸化消耗を抑制し、良好な状態に保つことができる。そのため、鋳造される鋳塊は、酸化物の生成の防止を図ることができるとともに、粗い組織の形成を抑制することができるので、エアーギャップの形成の防止を図ることが可能である。
【0026】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法における鋳造工程では、溶湯を所定の形状に成形する際に、鋳造用の潤滑油を用いないで行うのが好ましい。
【0027】
このように、潤滑剤を用いないで鋳造を行うと、循環する冷却水に潤滑油が混入することがないので、バクテリアや藻などの発生を防止することができる。そのため、冷却水回路の目詰まりを防止することができるとともに、冷却水の廃棄時における潤滑油の分離に多大のコストがかかるということもなくなる。
【0028】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法で用いるアルミニウム合金は、7〜40質量%のMgを含有したものであってもよい。
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によれば、フッ化ガスを含んでなる保護ガス雰囲気中で鋳造などの処理を行うので、活性に富むMgを高含有量で含有するアルミニウム合金であっても、溶湯表面に酸化物を生成させることなくアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0029】
また、前記課題を解決した本発明に係るアルミニウム鋳塊は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊であって、AlおよびMgAlの含有率が10ppm以下、かつ、AlおよびAlの含有率が4ppm以下であることを特徴としている。このとき、本発明のアルミニウム鋳塊は、7〜40質量%のMgを含有するものであってもよい。
【0030】
このように、本発明のアルミニウム鋳塊は、AlおよびMgAlといった酸化物やAlおよびAlといった炭化物が少ないので、かかるアルミニウム鋳塊を用いると、例えば、缶材、ディスク材などのアルミニウム薄板を製造したときに、表面疵や割れなどを発生しにくくすることができる。
特に、活性に富むMgを高含有量で含有するアルミニウム合金であっても、酸化物および炭化物などをほとんど含まない鋳塊を得ることができる。
【0031】
前記課題を解決した本発明に係るアルミニウム鋳塊の製造用保護ガスは、フッ化ガスを0.001〜1質量%、炭酸ガスを0.01〜10質量%含有し、残部が窒素ガスおよびアルゴンガスの少なくとも一つを含んで構成するのがよい。
このようなアルミニウム鋳塊の製造用保護ガスを用いれば、保護ガスの主要な成分が窒素ガスおよび/またはアルゴンガスであるので、溶湯表面の酸化を防止することができる。また、このアルミニウム鋳塊の製造用保護ガスは、従来用いられてきた炭酸ガスを主体とする保護ガスと比較して、含有する炭素ガスの含有量が相対的に少ないので、アルミニウムまたはアルミニウム合金の酸化を防止するだけでなく、炭化も低減させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によれば、溶湯表面の酸化を防止することができるので、酸化物の凝集体(ドロス)や粗い組織をほとんど含まないアルミニウム鋳塊を製造することができる。
そして、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によって製造されたアルミニウム鋳塊はドロスをほとんど含まないので、アルミニウム鋳塊を面削する場合において、面削する量を軽減することができるだけでなく、面削自体をなくすことも可能である。また、粗い組織をほとんど含まないので、最終製品を製造したときに表面疵や割れが発生するのを抑制することができる。
【0033】
また、本発明のアルミニウム鋳塊によれば、酸化物(ドロスを含む)や粗い組織をほとんど含まないので、これを用いて最終製品を製造しても、当該最終製品に表面疵や割れが発生するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図1を参照して本発明に係るアルミニウム鋳塊の製造方法、これによって製造されたアルミニウム鋳塊、および、アルミニウム鋳塊を製造するのに好適な保護ガスについて詳細に説明する。
なお、図1は、地金を溶解してアルミニウム鋳塊を製造するまでの工程の概要を説明する説明図である。
【0035】
図1に示すように、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の地金を溶解し、アルミニウム鋳塊10にするまでのいずれかの工程において適用できるものである。
具体的には、溶解工程、保持工程、脱水素ガス工程、ろ過工程、および鋳造工程を含む各工程のうち少なくとも一つの工程において、フッ化ガスと、炭酸ガスと、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスとを混合した保護ガス雰囲気中で行うものである。
なお、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法は、前記した各工程の全てに適用するのが最も好適であるが、アルミニウム鋳塊10に形成する直前の工程である脱水素ガス工程および/またはろ過工程に適用すると優れた酸化防止効果を発揮することができる。
【0036】
溶解工程は、図1の溶解炉1においてアルミニウムまたはアルミニウム合金の地金を溶解して溶湯9にする工程である。
このとき、溶解炉1内の溶湯9の温度は750〜800℃程度となる。一般的に、溶湯9は、750℃を超えると表面が酸化して酸化物が生成されやすい状態となる。しかし、後に詳述する本発明の保護ガスを用いて溶湯9の表面を保護する(以下、保護ガス雰囲気中という)ことによって、溶湯9の表面が酸化するのを防止することができる。
【0037】
保持工程は、図1の保持炉2において一時的に溶湯9を保持し、必要に応じてマグネシウム(Mg)などの組成成分の添加、最終チェックやアルミニウム鋳塊10を製造するのに最適な温度に調整する工程である。
このときの溶湯9の温度は、溶解工程の溶湯9とほぼ同じ温度に保たれている。そのため、保持工程においても溶湯9の表面が酸化されやすい状態になっているといえる。したがって、本発明の保護ガスを用いて保護ガス雰囲気中で溶湯9を保持することによって溶湯9の表面の酸化を防止することができる。本工程ではMgなどを添加した際に大量に酸化物が生じることがあるが、既に原料が溶解しているためバーナーなどによる過剰な加熱もなく大気の乱れが小さいために、効率的に保護ガスを適用できる。
【0038】
脱水素ガス工程は、図1の脱水素ガス装置3において溶湯9中の水素ガスを除去する工程である。
水素ガスは、燃料中の水素や地金などに付着している水分、その他有機物などから発生する。水素ガスが多く含まれていると、アルミニウム鋳塊10を圧延した際にピンホールの原因となったり、製品の強度が弱くなったりする。また、圧延中に表面が膨れるブリスターの原因ともなる。そのため、水素ガスは、溶湯100g中0.15ml以下、より好ましくは0.1ml以下とする必要がある。
脱水素ガス工程における水素ガスの除去は、前記した温度で溶湯9をフラクシング、塩素精錬、またはインライン精錬などを行うことによって好適に行うことができるが、脱水素ガス装置3にスニフ(図2(a)参照)やポーラスプラグ(特開2002−146447号公報参照)を用いて行うと、より好適に除去することができる。
そして、この脱水素ガス工程も前記と同様、本発明の保護ガス雰囲気中で行うことによって、溶湯9の表面の酸化を防止することができる。
【0039】
ろ過工程は、図1のろ過装置4において主として酸化物や非金属の介在物を除去する工程である。
ろ過装置4には、例えば1mm程度の粒子のアルミナが用いられたセラミックチューブ(不図示)が設けられており、これに溶湯9を通すことによって前記の酸化物や介在物を除去することができる。
【0040】
そして、ろ過工程以降に保護ガスを用いれば、それ以降の工程における酸化物などの混入が抑制でき、脱水素ガスやろ過により高度に品質を確保した溶湯をそのままアルミニウム鋳塊10とすることができる。また酸化物の堆積物(ドロス)の堆積を抑制できるので、ドロス除去の手間を低減することができる。
【0041】
鋳造工程は、図1に示される、水冷鋳型51を含んで構成されている鋳造装置5で、溶湯9を直方体形状などの所定の形状に形成して固化することでアルミニウム鋳塊10を製造するための工程である。
具体的には、水冷鋳型51に溶湯9を注湯し、水冷鋳型51と接触する溶湯9に向けて冷却水を噴射して当該溶湯9を冷却凝固させて凝固殻を形成し、この凝固殻および内部の溶湯を保持台52によって下方に引き出しながら水冷鋳型51の下方にて当該凝固殻にさらに冷却水を直接噴射することで、凝固殻内側の溶湯を凝固させる半連続鋳造などによって製造することを一例として挙げることができる。
このように、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法を用いることによって、従来は溶湯9の表面の酸化を防止することが困難であった鋳造工程であっても、アルミニウム鋳塊10中に酸化物が混入するのを防ぐことができる。
【0042】
そして、前記した全ての工程において、溶湯9の表面の酸化を防止するために本発明に係る保護ガスは、フッ化ガスと、炭酸ガスと、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスとを混合したものを用いている。
【0043】
保護ガスの組成としては、フッ化ガスを0.001〜1質量%、炭酸ガスを0.01〜10質量%含有し、残部が窒素ガスおよびアルゴンガスのうち少なくとも1つを含んで構成されているのが好ましいが、本発明の効果を妨げない限りにおいて、その他のガスを含んでもよい。その他のガスとしては、任意に含有させた不活性ガスや不可避的に混入し得るガスなどを挙げることができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスを挙げることができ、不可避的に混入し得るガスとしては、酸素ガスを挙げることができる。
【0044】
保護ガスにおけるフッ化ガスの含有率を前記の範囲とすることによって、溶湯9表面のアルミニウムと結合してAlFの被膜を形成することができる結果、溶湯9が酸化するのを防止することが可能となる。
一方、フッ化ガスの含有率が前記の範囲未満であると、フッ化ガスと溶湯9中のアルミニウムとの反応生成物(AlF)からなる被膜の形成が不十分となるために、溶湯9の酸化を防止することが困難となる。また、フッ化ガスの含有率が前記の範囲を超えると、COFなどの有害物質が発生しやすくなる。
なお、炭酸ガスの含有率が前記の範囲となることについての理由は、後述する。
【0045】
また、保護ガスの組成のうち窒素ガスを多く含んでいることによって酸化を防止することができるとともに、炭素源を少なくすることができるために溶湯9の炭化を防止することが可能となる。
なお、窒素ガスと溶湯9のアルミニウムが反応することによって窒化アルミニウムが生成され得る。この窒化アルミニウムは、炭化アルミニウムを窒素ガス雰囲気中で加熱することによって生成されるものである。したがって、保護ガス中の炭素ガスの含有量を減らし、炭化アルミニウムの生成量を少なくしている本発明においては、このような窒化アルミニウムは生成されにくく、アルミニウム鋳塊10中にもほとんど含まれることがない。
【0046】
本発明に用いるフッ化ガスとしては、フルオロケトン(fluorinated ketone)ガスを好適に用いることができる。特に、パーフルオロケトンガス、水素化フルオロケトンガス、およびこれらを混合したガスを好適に用いることができる。
【0047】
ここで、フルオロケトンは、通常、常温で液体であるため、保護ガスとして用いるには気化させる必要がある。
気化させた保護ガスを得るためには、まず、図1に示すように、耐圧容器6に所定量(0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜2質量%)の液体のフルオロケトンを入れ、次いで残部が炭素ガスとなるように液化炭酸ガスを入れて液化元ガスを調製する。これによって、フルオロケトンを液化炭酸ガス中で均一化させることができる。なお、炭素ガスは耐圧容器内で超臨界液体となり、フルオロケトンを均一に溶解するものである。この超臨界作用を有する範囲で窒素、アルゴン等の他のガスを混合しても問題は無い。
【0048】
そして、耐圧容器6に収容されたフルオロケトンと液化炭酸ガスの液化元ガスを、例えば40℃以下に加熱してガス化し、元ガスとする。そして、この元ガスと窒素ガスとを例えば1:9の混合比で混合することによって、フッ化ガスを0.001〜1質量%、炭酸ガスを0.01〜10質量%含有し、残部が窒素ガスで構成される保護ガスを得ることができる。なお、この窒素ガスは、アルゴンガスなどの他の不活性ガスであってもよく、さらには、窒素ガスとアルゴンガスとを混合させて用いてもよい。
このようにして得られた保護ガスを流量計8などでモニターしながら、連続的または間歇的に溶解炉1などに供給することで、溶湯9の表面の酸化を防止することができる。
【0049】
フルオロケトンの分子量は、250以上であるのが好ましく、300以上であるのがより好ましい。分子量がこの範囲にあるものを使用するとフルオロケトンが液化炭酸ガス中で均一となりやすい。なお、1分子のフルオロケトンに含まれるカルボニル基の数は、1が好ましい。
【0050】
パーフルオロケトンとしては、炭素数が5〜9であるものが好ましい。
パーフルオロケトンとしては、CFCFC(O)CF(CF、(CFCFC(O)CF(CF、CF(CFC(O)CF(CF、CF(CFC(O)CF(CF、CF(CFC(O)CF、CFCFC(O)CFCFCF、CFC(O)CF(CF、およびパーフルオロシクロヘキサノンからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。すなわち、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
水素化フルオロケトンとしては、炭素数が4〜7であるものが好ましい。
水素化フルオロケトンとしては、HCFCFC(O)CF(CF、CFC(O)CHC(O)CF、CC(O)CF(CF、CFCFC(O)CH、(CFCFC(O)CH、CFCFC(O)CHF、CFCFC(O)CHF、CFCFC(O)CHCF、CFCFC(O)CHCH、CFCFC(O)CHCHF、CFCFC(O)CHCHF、CFCFC(O)CHCHF、CFCFC(O)CHFCH、CFCFC(O)CHFCHF、CFCFC(O)CHFCHF、CFCFC(O)CFCH、CFCFC(O)CFCHF、CFCFC(O)CFCHF、(CFCFC(O)CHF、(CFCFC(O)CHF、CFCF(CHF)C(O)CHF、CFCF(CHF)C(O)CHF、およびCFCF(CHF)C(O)CFからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。すなわち、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
なかでも特に、ペンタフルオロエチル−ヘプタフルオロプロピルケトン、すなわちC(CO)C(例えばCFCFC(O)CF(CF、CFCFC(O)CFCFCF)を用いるのが好ましい。
【0053】
以上、説明した保護ガスによれば、溶湯表面の酸化を防止することができるだけでなく、従来用いられてきた炭酸ガスを主体とする保護ガスと比較して、さらに溶湯表面の炭化を防止することができる。
また、この保護ガスは、一酸化炭素の生成量も低く、かつ地球温暖係数が低いので、安全保安や環境保全に優れている。
【0054】
このように、本発明に係る保護ガスを用いて行う本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によれば、特定の組成を有する保護ガス雰囲気中でアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯9を処理するので、組織中に酸化物などの介在物をほとんど含まないアルミニウム鋳塊10を製造することができる。
また、前記した保護ガス雰囲気中で鋳造を行う本発明のアルミニウム鋳塊の鋳造方法では、黒鉛が消耗しないので潤滑剤を用いる必要がない。そのため、冷却水回路の目詰まりや冷却水の廃棄を容易に行うことが可能となる。
【0055】
なお、本発明の保護ガスは、前記した溶解工程、保持工程、脱水素ガス工程、ろ過工程、および鋳造工程で使用する各炉内または装置内において溶湯9の表面を保護するだけでなく、溶湯9を運搬するための桶(不図示)についても同様に適用するのが好ましい。
つまり、溶湯9を運搬する際に、予め桶内を本発明の保護ガスで満たしておき、しかる後に当該桶内に溶湯9を注ぎ入れることによって溶湯9の表面を保護することができ、溶湯9の表面の酸化を防止することができる。
【0056】
以上説明したように、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法は、溶湯9の表面の酸化を防止し、酸化物をほとんど含まないアルミニウム鋳塊10を製造することができる。
【0057】
より詳細には、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によって製造されたアルミニウム鋳塊10は、JISH4000に規定される1000系の純アルミニウムを用いて製造することができるほか、マグネシウム(Mg)を多く含むJISH4000に規定される5000系(Mg含有率:約0.5〜5.5質量%)などのアルミニウム合金を用いて製造することができる。
また、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によって製造されたアルミニウム鋳塊10は、さらに多くのMgを含有するアルミニウム合金であっても、好適に製造することができる。
【0058】
つまり、本発明のアルミニウム鋳塊10は、6質量%を超えるMg、より好ましくは7〜40質量%のMgを含む高Mg含有アルミニウム合金であっても、AlやMgAlなどの酸化物の含有率が10ppm以下、かつ、AlやAlなどの炭化物の含有率が4ppm以下という、酸化物および炭化物の少ないアルミニウム鋳塊10を製造することができる。
【0059】
なお、Mgが40質量%を超えると、アルミニウム合金の反応性が高すぎるために酸化物ができやすく好ましくない。
また、酸化物の含有率が10ppmを超えたり、炭化物の含有率が4ppmを超えたりすると、酸化物や炭化物が多く含まれるために好ましくない。
【0060】
次に、図2および図3を参照して、保護ガスの供給手段について説明する。参照する図面において、図2(a)〜(c)および図3(a)〜(c)はいずれも保護ガスの供給手段を説明するための説明図である。
なお、図2および図3では、保護ガスの供給例として、脱水素ガス装置3における保護ガスの供給手段を表しているが、これに限定されることはなく、溶解炉1、保持炉2、ろ過装置4、鋳造装置5および桶(不図示)においても同様に行うことができることはいうまでもない。
【0061】
図2(a)に示すように、脱水素ガス装置3は、容器31の側面下方側に設けられた溶湯9の導入口32からアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯9を導入し、当該溶湯9をスニフなどの撹拌手段33によって撹拌しながら溶湯9中に存在する水素ガスを除去する。そして、導入口32と対向する側面下方側に設けられた溶湯9の排出口34から水素ガスを除去した溶湯9を排出する。
【0062】
このような構成の脱水素ガス装置3における保護ガスの供給手段としては、図2(a)に示すように、保護ガスを供給するための供給口35を、容器31に設けられた導入口32と同じ側面に設ける構成を一例として挙げることができる。
このような構成の脱水素ガス装置3は、供給口35が導入口32に設けられているため早い段階で溶湯9の表面の酸化を防止することが可能である。また、供給口35が容器31の密閉側を向いているために、容器31内に供給された保護ガスは、容器31外に排気されにくい。そのため、保護ガスの濃度を高く保つことができる。その結果、溶湯9表面を大気に触れにくくすることが可能となり、溶湯9の表面の酸化を防止する効果を高めることができる。
【0063】
また、保護ガスの供給手段としては、図2(b)に示すように、溶湯9の排出口34側の側面に供給口35を設ける構成とすることや、図2(c)に示すように、容器31の上方中央部付近に供給口35を設ける構成とすることも他の一例として挙げることができる。これらのような供給手段であっても溶湯9の表面の酸化を有効に防止することができる。
【0064】
なお、図3(a)〜(c)に示すように、水素ガスを除去した溶湯9の排出口34が大気と接触し得る構成の脱水素ガス装置3であっても前記と全く同様に保護ガスの供給口35を設けることができ、溶湯表面の酸化を防止することが可能である。
【0065】
図2(a)および図3(b)(c)のように、溶湯9の導入口32側に保護ガスの供給口35を設けると、溶湯9が導入された当初から高い酸化防止作用を得ることができるので、酸化物のドロスの発生防止に効果がある。
また、図2(b)および図3(a)のように、溶湯9の排出口34側に保護ガスの供給口35を設けると、溶湯品質の確保および向上を図ることができる。
【実施例】
【0066】
次に、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法、これによって製造されたアルミニウム鋳塊、およびアルミニウム鋳塊の製造方法に用いるのに好適な保護ガスについて、下記の≪実施例1≫〜≪実施例3≫で具体的な検討を行ったので、以下に説明する。
【0067】
≪実施例1≫
大気ガス(すなわち、保護ガス無し)、比較例ガス(すなわち、従来の保護ガス)および実施例ガスのうちのいずれかと、2質量%Mg、7質量%Mgおよび10質量%Mgのいずれかを含有するアルミニウム合金(表1においてそれぞれAl−2%Mg,Al−7%Mg,Al−10%Mgと表す。)と、保護ガスの供給位置および保護ガス等の換気口の有無と、を適宜に組み合わせて表1に示す試験No.1〜13とした。
【0068】
なお、比較例ガスと実施例ガスは、元ガスとして約1%のフルオロケトンと約99%の炭酸(二酸化炭素)ガスを混合した大陽日酸(株)社製エムジーシールド(登録商標)を用いて作製した。
すなわち、比較例ガスは、このエムジーシールドを炭酸ガスと混合し、0.1質量%のフルオロケトンと約100質量%の炭酸ガスで構成した。
また、実施例ガスは、窒素と混合し、0.1質量%のフルオロケトンと約1質量%の炭酸ガスと約99質量%の窒素ガスで構成した。
【0069】
まず、開口部が0.9mφ、長さ1.5m、溶湯上部の空間の高さが0.5mである容器に、大気ガス、比較例ガスまたは実施例ガスのいずれかを満たした。
その後、かかる容器に試験No.1〜13のいずれかに示すアルミニウム合金の溶湯を750℃で通湯した。その際、大気ガス、比較例ガスおよび実施例ガスは、いずれも10L/分の流量で10分間ごとに2分間、間歇的に供給した。
【0070】
かかる条件下、800kg/分の流量で50tの溶湯を通湯した後、溶湯表面に生じた介在物、すなわち酸化物および炭化物の生成の有無を確認した。
酸化物の生成の有無は、通湯後の溶湯表面を容器にサンプリングしそのまま固め、垂直方向に切断し目視観察およびEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー;JEOL製JSM−6340F)による元素分析を行うことにより確認した。その結果、粗大な塊状の酸化物が生成されたものを不良「×」、一部に塊状の酸化物が確認されるか、厚い被膜状の酸化物が生成されたにとどまるものを良「△」、薄い被膜状の酸化物のみが生成されたものを優良「○」と評価した。
また、炭化物の生成の有無は、通湯後の溶湯表面を容器にサンプリングしそのまま固め、塩化第二水銀分解ガスクロマトグラフ法により分析して確認した。その結果、炭化物が生成していたものを不良「×」、炭化物が生成していなかったものを優良「○」と評価した。
【0071】
【表1】

【0072】
試験No.1〜3は、保護ガスが無かった(大気ガス)ために、酸化物が増えてしまい(×)、良好な結果を得ることができなかった(いずれも比較例)。
【0073】
また、試験No.4〜6は、保護ガスが比較例ガス(0.1質量%のフルオロケトンと約100質量%の炭酸ガス)であったために酸化物の生成も少なく(○または△)、良好な結果を得ることができた。
しかし、炭酸ガスの濃度が高いために溶湯表面に炭化物が生成してしまい(×)、良好な結果を得ることができなかった(いずれも比較例)。
【0074】
これに対し、実施例ガス(0.1質量%のフルオロケトンと約1質量%の炭酸ガスと約99質量%の窒素ガス)を用いた試験No.7〜13は、いずれも酸化物の生成が少なく(○または△)、かつ、炭化物の生成もみられず(○)、良好な結果を得ることができた(いずれも実施例)。
特に、試験No.7〜10に示すように、保護ガス等を排気するための換気口を設けない方が、酸化物および炭化物の生成を防止する効果が高く、より良好な結果を得ることができることがわかった。
【0075】
≪実施例2≫
試験用小型溶解炉でアルミニウムの地金100kgを溶解し、その後、Al−7%MgとなるようにMgを添加して溶湯を作製した。そして、この溶湯を精錬およびろ過することによって当該溶湯中から酸化物を除去した。ろ過には約1mmメッシュのガラスクロスを用いた。
【0076】
次に、この溶湯を厚さ150×幅400の試験用小型水冷鋳型を用いてアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊を鋳造した。
このとき、アルミニウム鋳塊を鋳造する際の保護ガスを表2の試験No.14〜21に示す条件に種々変更し、溶湯表面の酸化物濃度および環境負荷について評価を行った。
【0077】
なお、≪実施例2≫における水冷鋳型の内壁は、アルミニウム合金製とした。また、アルミニウム鋳塊を鋳造する際に潤滑油(菜種油)を適時供給した。
【0078】
そして、試験No.14〜21に係るアルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度および環境負荷について評価を行った。
【0079】
アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度は、ヨウ素メタノール法、すなわち酸化物抽出法により測定した。測定の結果、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が30ppm以上だったものを好ましくない(×)、10〜30ppmだったものをやや好ましくない(△)、10ppm以下だったものを好ましい(○)と評価した。
【0080】
環境負荷に関しては、地球温暖化ガスであるものを好ましくない(×)、地球温暖化ガスでないものを好ましい(○)と評価した。
試験No.14〜21の保護ガスの種類、およびこれらの評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示すとおり、試験No.14〜19は、本発明の要件を満たしていないので、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度の評価において好ましくない(×)またはやや好ましくない(△)という評価結果を得ることとなり、環境負荷の評価において好ましくない(×)という評価結果を得ることとなった(比較例(備考参照))。
一方、試験No.20,21は、本発明の要件を満たしているので、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度および環境負荷のいずれにおいても好ましい(○)という評価結果を得ることができた(実施例(備考参照))。
【0083】
具体的に説明すると、試験No.14は、保護ガスが無かった(大気ガスであった)ために、環境負荷は好ましい(○)という評価結果を得ることができたものの、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が30ppm以上となり、好ましくない(×)という評価結果となった。
【0084】
また、試験No.15および試験No.16は、それぞれ六フッ化硫黄ガスおよび塩素ガスを用いたため、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度は10ppm以下となり、好ましい(○)という評価結果を得ることができたものの、環境負荷が好ましくない(×)という評価結果となった。
【0085】
試験No.17は、アルゴンガスを用いたために、環境負荷は好ましい(○)という評価を得ることができたものの、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が10〜30ppmとなり、やや好ましくない(△)という評価結果となった。
【0086】
試験No.18は、窒素ガスを用いたために、環境負荷は好ましい(○)という評価を得ることができたものの、酸化防止の効果が十分でなく、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が30ppm以上となり、好ましくない(×)という評価結果となった。
【0087】
そして、試験No.19は、フルオロケトン100ppm、二酸化炭素(炭酸ガス)約100%であったので、環境負荷は好ましい(○)という評価結果を得ることができたものの、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が10〜30ppmとなり、やや好ましくない(△)という評価結果となった。これは、高濃度の二酸化炭素から還元されて生成した酸素ガス(活性酸素)によるものと考えられる。
【0088】
以上、≪実施例2≫の結果から、フルオロケトンを含有し、さらに、不活性ガスとして窒素ガスを多く含む保護ガスを用いる本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法とすれば、環境に負荷をかけることなくアルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度を低くすることができる、つまり、アルミニウム溶湯の表面に形成される酸化物(ドロスを含む)の生成を抑制することができることがわかった。
【0089】
≪実施例3≫
≪実施例3≫では、試験用小型炉によりアルミニウム地金100kgを溶解し、その後、Al−5%MgとなるようにMgを添加して溶湯を作製した。そして、この溶湯を精錬およびろ過することによって当該溶湯中から酸化物を除去した。ろ過には約1mmメッシュのガラスクロスを用いた。
【0090】
次に、この溶湯を150L×400Wの試験用小型水冷鋳型を用いてアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊を鋳造した。
このとき、アルミニウム鋳塊を鋳造する際の保護ガスを表3の試験No.22〜28に示す条件に種々変更し、溶湯表面の酸化物濃度および環境負荷について評価を行った。
【0091】
なお、≪実施例3≫における水冷鋳型の内壁は、黒鉛製とした。また、アルミニウム鋳塊を鋳造する際に、潤滑油は使用しなかった。
【0092】
そして、≪実施例2≫と同様に、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度と環境負荷の評価を行うとともに、黒鉛の消耗についての評価を行った。
アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度と環境負荷の評価は、≪実施例2≫に準じて行った。
黒鉛の消耗についての評価は、10回以上鋳造できたものを好ましい(○)と評価し、10回未満のものを好ましくない(×)と評価した。
試験No.22〜28の保護ガスの種類、およびこれらの評価結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
表3に示すとおり、試験No.22〜27は、本発明の要件を満たしていないので、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度の評価において好ましくない(×)またはやや好ましくない(△)という評価結果を得ることとなり、環境負荷および黒鉛の消耗のいずれかの評価において好ましくない(×)という評価結果を得ることとなった(比較例(備考参照))。
一方、試験No.28は、本発明の要件を満たしているので、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度、環境負荷および黒鉛の消耗のいずれにおいても好ましい(○)という評価結果を得ることができた(実施例(備考参照))。
【0095】
具体的に説明すると、試験No.22および試験No.23は、それぞれ六フッ化硫黄ガスおよび塩素ガスを用いたため、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度は10ppm以下となり、好ましい(○)という評価結果を得るとともに、黒鉛の消耗も好ましい(○)という評価を得ることができた。しかし、環境負荷が好ましくない(×)という評価結果となった。
【0096】
試験No.24は、アルゴンガスを用いたために、環境負荷は好ましい(○)という評価を得ることができたものの、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が10〜30ppmとなり、やや好ましくない(△)という評価結果となった。また、黒鉛の消耗の評価については、好ましくない(×)という評価結果となった。
【0097】
試験No.25は、窒素ガスを用いたために、環境負荷は好ましい(○)という評価を得ることができたものの、酸化防止の効果が十分でなく、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が30ppm以上となり、好ましくない(×)という評価結果となるとともに、黒鉛の消耗の評価については、好ましくない(×)という評価結果となった。
【0098】
試験No.26は、保護ガスが無かった(大気ガスであった)ために、環境負荷は好ましい(○)という評価結果を得ることができたものの、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が30ppm以上となり、好ましくない(×)という評価結果となった。
【0099】
そして、試験No.27は、フルオロケトン100ppm、二酸化炭素(炭酸ガス)約100%であったので、環境負荷および黒鉛の消耗についての評価は、好ましい(○)という評価結果を得ることができたものの、アルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度が10〜30ppmとなり、やや好ましくない(△)という評価結果となった。これは、高濃度の二酸化炭素から還元されて生成した酸素ガス(活性酸素)によるものと考えられる。
【0100】
以上、≪実施例3≫の結果から、フルオロケトンを含有し、さらに、不活性ガスとして窒素ガスを多く含む保護ガスを用いる本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法とすれば、環境に負荷をかけることなくアルミニウム鋳塊の表面の酸化物濃度を低くすることができる、つまり、アルミニウム溶湯の表面に形成される酸化物(ドロスを含む)の生成を抑制することができることがわかった。また、かかる保護ガスを用いる本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法とすれば、水冷鋳型に黒鉛を用いた場合であっても、その消耗を抑制できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】地金を溶解してアルミニウム鋳塊を製造するまでの工程の概要を説明する説明図である。
【図2】(a)〜(c)は、いずれも保護ガスの供給手段を説明するための説明図である。
【図3】(a)〜(c)は、いずれも保護ガスの供給手段を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0102】
1 溶解炉
2 保持炉
3 脱水素ガス装置
4 ろ過装置
5 鋳造装置
6 耐圧容器
7 蒸発器
8 流量計
9 溶湯
10 アルミニウム鋳塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地金を溶解して溶湯にする溶解工程、前記溶湯を保持する保持工程、前記溶湯から水素ガスを除去する脱水素ガス工程、前記溶湯から介在物を除去するろ過工程、および前記溶湯を水冷鋳型で所定の形状の鋳塊に成形して固化する鋳造工程を含む、純アルミニウムまたはアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊における製造方法において、
前記した各工程のうち少なくとも一つの工程における処理を、フッ化ガスを含んでなる保護ガス雰囲気中で行うことを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項2】
前記保護ガスは、前記フッ化ガスを0.001〜1質量%、炭酸ガスを0.01〜10質量%含有し、残部が前記窒素ガスおよびアルゴンガスのうち少なくとも1つを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項3】
前記フッ化ガスが、フルオロケトンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項4】
前記鋳造工程で用いられる前記水冷鋳型内の溶湯の触れる少なくとも一部が、黒鉛または黒鉛を含む素材を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項5】
前記鋳造工程において、前記溶湯を所定の形状に成形する際に、鋳造用の潤滑油を用いないことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、7〜40質量%のMgを含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項7】
純アルミニウムまたはアルミニウム合金のアルミニウム鋳塊であって、
AlおよびMgAlの含有率が10ppm以下、かつ、AlおよびAlの含有率が4ppm以下であることを特徴とするアルミニウム鋳塊。
【請求項8】
7〜40質量%以上のMgを含有していることを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム鋳塊。
【請求項9】
フッ化ガスを0.001〜1質量%、炭酸ガスを0.01〜10質量%含有し、残部が窒素ガスおよびアルゴンガスの少なくとも一つを含んで構成されていることを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造用保護ガス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−167863(P2007−167863A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365040(P2005−365040)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】