説明

アレイアンテナ装置

【課題】アレイアンテナで観測した電波の到来する方位と仰角から推定した送信位置に含まれる誤差の低減を図る。
【解決手段】演算処理部15は、アンテナ11a〜11nで受信した到来電波に輻輳した複数の信号から所望の信号を分離するとともに、各アンテナ11a〜11nにおける所望の信号の位相差情報を用いて到来電波の受信方位および仰角を算出し、この算出した受信方位および仰角と、電離層の任意の位置における電子密度を求めるための電離層電子密度分布モデルを用いて推定される電離層の電子密度分布とを用いて、到来電波の伝搬経路を算出して到来電波の送信位置を算出するとともに、この送信位置の幾何学的方位を算出し、到来電波の送信位置における送信仰角を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを配置し、電波を受信するアレイアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナを配置し、電波を受信するアレイアンテナ装置では、各アンテナで受信した電波の位相差あるいは相関から、電波の到来する方位および仰角を推定することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】菊間信良、“アレーアンテナによる適用信号処理”、科学技術出版、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電離層の影響を受ける電波の場合、電波が電離層を通過する際、空間に分布している電子により伝搬経路が屈折する。そのため、幾何学的に考慮した伝搬経路からずれて電波は伝搬する。この結果、アレイアンテナ装置で観測した受信方位と仰角から推定した送信位置には誤差が含まれるという問題があった。
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、電離層の影響を受ける電波の受信方位と仰角から推定した送信位置に含まれる誤差を低減することができるアレイアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のアレイアンテナ装置は、電離層を通過して到来する到来電波を受信する複数のアンテナと、これら複数のアンテナで受信した前記到来電波に輻輳した複数の信号から所望の信号を分離するとともに、各アンテナにおける前記所望の信号の位相差情報を用いて前記到来電波の受信方位および仰角を算出する受信方向算出手段と、この受信方向算出手段で算出した前記受信方位および仰角と、電離層の任意の位置における電子密度を求めるための電離層電子密度分布モデルを用いて推定される電離層の電子密度分布とを用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出して前記到来電波の送信位置を算出するとともに、算出した前記送信位置の幾何学的方位を算出し、前記到来電波の前記送信位置における送信仰角を推定する修正方向算出手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段を備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、および前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデルのうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0007】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段を備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、および前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状のうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段を備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段と、複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段とを備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル、および前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状のうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段と、複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段とを備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段と、複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段とを備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段と、複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段と、複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段とを備え、前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル、前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のアレイアンテナ装置は、前記受信方向算出手段は、MUSIC法あるいは独立成分分析の手法を用いて、前記到来電波に輻輳した複数の信号から所望の信号を分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアレイアンテナ装置は、電離層電子密度分布モデルを用いて推定される電離層の電子密度分布を用いて、到来電波の伝搬経路、送信位置を算出するので、電離層の影響を受ける電波の受信方位と仰角から推定した送信位置に含まれる誤差を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の実施の形態に係るアレイアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように本実施の形態に係るアレイアンテナ装置は、信号処理部1と、衛星観測部2と、電離層観測部3と、インターネットデータ処理部4と、データサーバ部5とを備える。
【0017】
信号処理部1は、複数のアンテナ11a,11b,…,11nからなるアレイアンテナ11と、アンプ12a,12b,…,12nと、周波数変換部13a,13b,…,13nと、A/D変換部14a,14b,…,14nと、演算処理部15と、表示操作部16とを備える。
【0018】
アンテナ11a,11b,…,11nは、複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する。アンプ12a,12b,…,12nは、それぞれアンテナ11a,11b,…,11nからの信号を増幅し、周波数変換部13a,13b,…,13nは、アンプ12a,12b,…,12nで増幅された信号をベースバンドの信号に変換する。A/D変換部14a,14b,…,14nは、周波数変換部13a,13b,…,13nからの信号をA/D変換してデジタル受信信号を出力する。
【0019】
演算処理部15は、各A/D変換部14a,14b,…,14nからのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号から、デジタルフィルタ、MUSIC(Multiple Signal Classification)法、独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)の手法などを用いて所望の信号を分離する。
【0020】
また、演算処理部15は、各アンテナ11a,11b,…,11nにおける所望の信号の位相差情報を用いて、アレイアンテナ11で受信した電波の受信方位および仰角を算出し、算出した受信方位および仰角、所望信号の周波数、電離層電子密度モデルなどから求めた3次元的な電離層電子密度分布を用いて、電波の伝搬経路、送信位置を算出するとともに、算出した送信位置の幾何学的方位を算出し、送信位置における電波の送信仰角を推定する。
【0021】
表示操作部16は、ユーザによる入力信号の受付、また、演算処理部15で得られた演算結果の表示を行う。
【0022】
衛星観測部2は、衛星信号受信アンテナ21と、衛星信号受信部22と、衛星信号処理部23とを備える。衛星信号受信部22は、衛星信号受信アンテナ21を介して受信したGPS(Global Positioning System)衛星、Galileo衛星、Glonass衛星、準天頂衛星などの航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を衛星信号処理部23へ供給する。衛星信号処理部23は、衛星信号受信部22からの複数周波数の衛星信号から、各周波数の伝搬遅延量の違いを用いて、衛星信号の通過経路に存在する総電子数を算出し、その結果をネットワーク7を介して演算処理部15へ出力する。
【0023】
電離層観測部3は、イオノゾンデ用アンテナ31と、イオノゾンデ32と、イオノゾンデ収集データ処理部33とを備える。イオノゾンデ32は、イオノゾンデ用アンテナ31を介して複数の周波数の観測信号を電離層に送信し、送信した観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、観測信号の往復時間等のデータを収集する。イオノゾンデ収集データ処理部33は、イオノゾンデ32で収集されたデータから、電離層の高さ方向の電子密度分布情報(電離層のE層、F1層、F2層のピーク電子密度の各高さ、電子密度等)を求め、その結果をネットワーク7を介して演算処理部15へ出力する。
【0024】
インターネットデータ処理部4は、GEONET収集データ処理部41と、中継部42とを備える。GEONET収集データ処理部41は、国土地理院などが配置しているGPS受信観測網(GEONET)による観測データをインターネット6を介して取得する。
【0025】
また、GEONET収集データ処理部41は、電離層電子密度分布モデルであるIRI電子密度モデルへ入力するためのパラメータ(太陽黒点数、太陽フラックス強度の指標であるF10.7、イオノゾンデ観測データ(E層、F1層、F2層ピーク高度)等)をインターネット6を介して取得する。
【0026】
中継部42は、スイッチングハブあるいはルータにより構成され、GEONET収集データ処理部41で取得した各種データをネットワーク7を介して演算処理部15へ出力する。インターネットデータ処理部4は外部とのつながりあるため、GEONET収集データ処理部41および中継部42は、ファイアオール機能を有するものとする。
【0027】
データサーバ部5は、記録処理部51と、記録部52とを備える。記録処理部51は、信号処理部1の演算処理部15の演算結果をネットワーク8を介して受け取り、記録部52に記録する処理を行う。
【0028】
なお、本発明のアレイアンテナ装置は、衛星観測部2、電離層観測部3、およびインターネットデータ処理部4のすべてを備える必要はなく、これらのいくつかを削除した構成でもよい。
【0029】
次に、本実施の形態に係るアレイアンテナ装置の動作を説明する。
【0030】
各アンテナ11a,11b,…,11nは、複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する。アンプ12a,12b,…,12nは、それぞれアンテナ11a,11b,…,11nからの信号を増幅し、周波数変換部13a,13b,…,13nは、アンプ12a,12b,…,12nで増幅された信号をベースバンドの信号に変換する。そして、A/D変換部14a,14b,…,14nは、周波数変換部13a,13b,…,13nからの信号をA/D変換してデジタル受信信号を演算処理部15に出力する。
【0031】
演算処理部15は、各A/D変換部14a,14b,…,14nからのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号から、デジタルフィルタ、MUSIC法、独立成分分析(ICA)の手法などを用いて所望の信号を分離する。
【0032】
また、演算処理部15は、信号分離の際に得られる、各アンテナ11a,11b,…,11nにおける所望の信号の位相差情報を用いて、アレイアンテナ11で受信した電波の受信方位および仰角を算出する。さらに、演算処理部15は、算出した受信方位および仰角、所望信号の周波数、電離層電子密度モデルなどから求めた3次元的な電離層電子密度分布を用いて、電波の伝搬経路、送信位置を算出するとともに、算出した送信位置の幾何学的方位を算出し、送信位置における電波の送信仰角を推定する。
【0033】
ここで、MUSIC法は、複数のアンテナから受信した信号の相関行列の固有値を求め、雑音に相当する固有ベクトルが、信号の固有ベクトルと直交する性質を利用し、受信した信号の方向ベクトルを決める方法である。MUSIC法については、非特許文献1に詳細な手法が記述されている。
【0034】
MUSIC法では、信号分離の際の固有ベクトルから、所望の信号の受信方位と仰角とを推定することができる。この固有ベクトル方向は、信号の位相差情報から作られたベクトルの方向と一致する。一方、独立成分分析は、複数のデータの中から、隠された因子や成分を、統計的な手法を使用し見つけ出す方法であり、本発明では、輻輳する信号を分離するために用いる。
【0035】
独立成分分析では、分離の際に信号強度情報を失うが、分離の際に使用した分離行列は、信号到来方向に関連した信号の位相差情報を持っている。この位相差情報を利用し、所望の信号の受信方位と仰角とを推定する。
【0036】
ここで、独立成分分析について説明する。独立成分分析は、統計的な独立性と確率分布の非ガウス性を仮定し、複数の信号(雑音を含む)を分離する方式である。統計的に独立とは、例えば、アレイ入力信号X1(t)とX2(t)の2つの信号があった場合、どちらか一方の信号が他方の信号の生成に影響を与えていない、あるいは関係していないという状態である。
【0037】
複数の信号S(t),S(t),…,S(t)が独立で、信号自体は未知であるとし、これらの信号が、アンテナ素子の特性により決まるウエイトW(混合行列)により合成されy(t)が出力される状況を示した式を以下の(数式1)に示す。ここで、Kはアンテナ素子数を示す。
【数1】

【0038】
(t)〜S(t)が統計的に独立である場合、各信号の相関はゼロであるという条件から、これらの相関行列は、(数式2)に示すように、対角部分だけに成分がある行列になる。
【数2】

【0039】
上記(数式2)の対角要素λ(k=1〜K)は、各信号の信号強度に関連した値になっている。Sを求めるために出力y(t)へ作用させる行列をCとすると、
【数3】

となる。このときCがWの逆行列になっていれば、完全に未知信号を分離できたことになる。
【0040】
また、出力y(t)の相関行列は、
【数4】

となる。
【0041】
次に、Λを対角化する行列Vを求める。
【数5】

【0042】
行列Dの対角要素は、Λの固有値になっている。ここで、出力y(t)を次の(数式6)のように変換する。
【数6】

【0043】
この変換は、固有ベクトル方向への射影になっており、統計解析の主成分分析における主成分を求めたことになる。
【数7】

【0044】
変換後の相関行列が単位行列となり、分散が1であるガウス分布と同じ状態になっている。このため、この操作は白色化と言われる。さらに、相関行列が単位行列で、各対角要素の値が同じであるため、信号強度に関する情報が失われていることが分かる。このとき、Z(t)には、RR=RR=Iを満足するユニタリ変換の不定性が残っている。
【0045】
ここで、複数の信号S(t),S(t),…,S(t)より構成される信号y(t)がガウス分布に従っている場合、このユニタリ変換の不定性を決定することができず、信号の分離はできない。ここで、y(t)が非ガウス分布に従うものと仮定することにより、ユニタリ変換の不定性を解くことができる。
【0046】
このユニタリ変換の不定性を解く方法として、いくつかの手法が提案されている。(数式6)で変換されたZ(t)を使い、エントロピー最小化、4次キュムラント最大化などの手法を用いて、独立性を最大限に表せるウエイト(混合行列)Wを求める。
【0047】
エントロピーは、アレイ入力信号X1(t)とX2(t)とが統計的に独立であるとき最小となる。すなわち、X1(t)とX2(t)とを同時に発生させる確率q(X1,X2)が、X1(t)の発生確率q1(X1)と、X2(t)の発生確率q2(X2)との積で表されることである。
【数8】

【0048】
この(数式8)には、X1(t)とX2(t)の相関に関する項はない。そのため、相関行列あるいは共分散行列の相関項がゼロになる。
【0049】
確率q(X1,X2)のエントロピーH(X1,X2)は次の(数式9)で計算される。
【数9】

【0050】
X1(t)とX2(t)とが独立であれば、エントロピーは、X1(t)のエントロピーとX2(t)のエントロピーとの単純な和になるが、独立でない場合は、相関に相当する項が発生する。
【数10】

【0051】
そのため、X1(t)とX2(t)とが独立である場合、q(X1,X2)のエントロピーH(X1,X2)は最小になる。X1(t)とX2(t)とを独立とした場合、エントロピーを最小になるよう、先に不定であったユニタリ変換を決めれば、(数式6)の不定性がなくなり、信号を分離することができる。このとき、(数式6)では信号強度に関する情報は失われている。
【数11】

【0052】
もともとの信号S(t)として輻輳した信号の信号強度がすべて1である場合には、上記(数式11)の括弧内の分離行列が混合行列Wの逆行列になっていると考えられる。混合行列Wは、信号の到来方向とアンテナとの関係から作られる位相差情報により構成されている行列であるので、分離行列も同様の位相差情報から作られている。このため、この行列を利用することにより、信号の到来方向(方位角、仰角)が分かる。
【0053】
また、ガウス分布の特質として、4次キュムラントがゼロになる性質がある。X1(t)とX2(t)とを含む信号が非ガウス性である場合、この4次キュムラントがゼロにならない。逆に、この4次キュムラントを最大化するような、ユニタリ変換を求めれば、信号を分離するための分離行列を求めたことになる。以上が独立成分分析の説明である。
【0054】
MUSIC法が信号の方向を決め、その方向の信号を空間的に選択して信号を分離するのに対し、独立成分分析は、信号の統計的な独立性と確率分布の非ガウス性を仮定することにより統計的な立場から信号を分離する。
【0055】
分離された所望の信号は、特定のキャリア周波数を持ち、この所望の信号をフーリエ変換し、周波数ピークを抽出することにより、その周波数を把握することができる。所望の信号は、電離層を通過することにより屈折の影響を受け方位、仰角が変動する。そのため、観測された方位、仰角だけから判断された送信位置は大きな誤差を含む。本実施の形態では、この誤差を低減するため、電離層電子密度モデルなどから求めた3次元的な電離層電子密度分布を用いて、伝搬経路を計算して送信位置を推定し、幾何学的な方位(修正されたもの)および推定送信仰角を算出する。
【0056】
ここで、演算処理部15において電波の伝搬経路、送信位置、送信位置の幾何学的方位、送信位置における電波の推定送信仰角を算出する手順を、図2に示すフローチャートを参照して詳しく説明する。
【0057】
上述のように、演算処理部15は、各A/D変換部14a,14b,…,14nからのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号から、デジタルフィルタ、MUSIC法、独立成分分析(ICA)の手法などを用いて所望の信号を分離するとともに、アレイアンテナ11で受信した電波の受信方位角および仰角を算出する(ステップS10)。
【0058】
次に、演算処理部15は、ステップS10で算出した受信方位角および仰角から、電波の到来方向ベクトルと、到来電波が電離層の最下層から出てきた位置である受信側貫通点とを算出する(ステップS20)。
【0059】
到来方向ベクトル、受信側貫通点の算出について説明する。ステップS10で算出した受信方位角AZ、仰角ELとし、この受信方位角AZ、仰角ELを決定するのに使用した場所を原点とし、東方向をx軸、北方向をy軸、上方向をz軸とするローカル座標系の初期方向ベクトルからこの方向ベクトルを地球の質量中心を原点にとり、グリニッジ方向をx軸とし、z軸を‘84年極方向にとる右手系のWGS84系 XYZ座標系に変換する。
【数12】

【0060】
ここで、RzはZ軸を軸とした座標回転を示す行列、RyはY軸を軸とした座標回転を示す行列であり、Lontrs,Lattrsはそれぞれ、ローカル座標系の原点の経度、緯度である。上記(数式13)により、電波の到来方向ベクトルVWGS84が算出される。
【0061】
さらに、地球半径をRe、電離層最下層の高さをHlowとすると、図3に示すように、受信側貫通点(到来電波が電離層の最下層から出てきた位置)は、受信位置を通り、VWGS84ベクトル方向の直線と(Re+Hlow)を半径とする球との交点と考えられる。そのため、以下の(数式14),(数式15)に示す2次方程式を解いて受信側貫通点が求められる。
【数13】

【0062】
ここで、XWGS84,trsは、ローカル座標系の原点をWGS84系で表した位置を示している。球の交点は2つあるため、受信位置に近い点を受信側貫通点とする。求めた受信側貫通点は、WGS84 XYZ座標系であるため、これを緯度、経度、高さに変換する。
【0063】
変換後、演算処理部15は、受信側貫通点の位置の電子密度を算出する(ステップS30)。ここで、任意の位置の電子密度を求めるためには、以下の(1)〜(4)のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層電子密度分布を用いる。
【0064】
(1)電離層電子密度分布モデル
月平均レベルの電離層電子密度分布モデルとして、IRI(International Reference Ionosphere)モデルやBentモデルなどの複数のモデルがある。なお、IRIモデルについては、例えば、“International Reference Ionosphere 1990”(Dieter Bilitza,et.al.,November,1990)に記載されている。
【0065】
演算処理部15は、これらの電離層電子密度分布モデルに、日時、場所などのパラメータを入力することにより、その場所の電子密度を算出する。IRIモデルでは、その他に太陽黒点数、太陽フラックス強度F10.7、E層高度、F1層高度、F2層高度を入力するオプションもある。このオプションでIRIモデルへ入力するためのパラメータは、URLで公開されているので、それをインターネットデータ処理部4を介して取得する。
【0066】
さらに、空間をメッシュ状に区切り、メッシュ毎に電子密度の値を割りふるモデルがある。このモデルの場合、電子密度を求めるには、求めたい場所の緯度、経度、高さに相当するメッシュの電子密度をデータベースより検索し読み込む。
【0067】
(2)衛星観測部2で算出した航法衛星の通過経路における総電子数を用いて電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル
航法衛星より送信される複数周波数の衛星信号は、電離層で異なる伝搬遅延を被る。この異なる周波数に生じる伝搬遅延量の差から、逆に衛星信号の通過経路における総電子数を求めることができる。
【0068】
衛星観測部2の衛星信号処理部23は、航法衛星から送信される複数周波の信号(GPSのL1,L2,L5信号、GalileoのE1,E5等)に基づいて、衛星信号通過経路の総電子数(TEC)を求める。ここでは、例としてGPSのL1,L2信号を用いる場合について説明する。
【0069】
以下の(数式16)により擬似距離(コード距離、シュードレンジ)が算出され、(数式17)により位相距離(フェーズ距離)が算出される。
【数14】

【0070】
2つの周波数の観測値を引いた結果と総電子数(TEC)との関係を以下の(数式18),(数式19)に示す。
【数15】

【0071】
ここで、ρは擬似距離、φは位相距離、rは真の距離、Cは光速、fは衛星信号の周波数、λは衛星信号の波長、δtは衛星観測部2の時刻誤差、δtは航法衛星の時刻誤差、Iは電離層伝搬遅延量、Tは対流圏伝搬遅延量、Nambは整数不確定値、εは観測誤差である。
【0072】
したがって、(数式19)より、総電子数(TEC)は次の(数式20)のように求められる。
【数16】

【0073】
また、このままでは誤差ε’が大きいため、これを小さくするために、位相を使ったスムージングを実施する。
【数17】

【0074】
ここで、mはデータ収集の時間順につけた番号、Kはスムージングの定数であり、適宜変更していく。Kはサンプリング時間間隔にも依存し、時定数を180秒程度に取る。したがって、K=180/dt(dt:サンプリング時間間隔)となる。
【0075】
また、演算処理部15は、以下の(数式22)のように、総電子数(TEC)についての考えから、通過経路の電子密度を積分することにより求める。
【数18】

【0076】
ここで、関数fをIRIモデルなどの電離層電子密度分布モデル関数とし、モデル値を決めるパラメータを、s,α,β,…等とする。P(s)は、位置を示すパラメータで、その他は、電子密度の分布形状を決めるものである。Mは衛星信号を受信する衛星信号受信アンテナ21の位置で、Rは航法衛星の位置を示している。
【0077】
演算処理部15は、(数式21)で求めた衛星観測から算出した総電子数を衛星信号処理部23から受け取り、この総電子数と、(数式22)で求めた電離層電子密度分布モデルより求めた総電子数とを比較し、電離層電子密度分布モデルを修正して修正モデルを生成する。電離層電子密度分布モデルを修正する方法としては、パラメータα,β,…等を乱数で変化させ、もっとも誤差が小さくなるパラメータを使用するなどの方法がある。演算処理部15は、修正モデルを用い、任意の場所の電子密度を求めることができる。
【0078】
(3)電離層観測部3で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状
イオノゾンデ32は、イオノゾンデ用アンテナ31を介して複数の周波数の観測信号を電離層に送信し、送信した観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、観測信号の往復時間等のデータを収集する。イオノゾンデ収集データ処理部33は、イオノゾンデ32で収集されたデータから、電離層の高さ方向の電子密度分布情報(電離層のE層、F1層、F2層のピーク電子密度の各高さ、電子密度等)を生成する。
【0079】
電離層観測部3による観測では、イオノゾンデ用アンテナ31の真上の情報しか得ることができないが、上述のように、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を得ることができる。
【0080】
演算処理部15は、イオノゾンデ収集データ処理部33から電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得し、電離層電子密度分布モデルに電離層の高さ方向の電子密度分布情報を入力することにより、電離層電子密度3次元分布プロファイル(高さ方向の電子密度分布形状)を求める。
【0081】
IRIモデルでは、電離層のE層、F1層、F2層のピーク電子密度の各高さ、電子密度等のパラメータを入力できるオプションがあり、実測されたデータを使用し任意の場所の電離層電子密度3次元分布プロファイルを求めることができる。演算処理部15は、この電離層電子密度3次元分布プロファイルを導入し、任意の場所の電子密度を求めることができる。
【0082】
(4)インターネットデータ処理部4で取得した観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数
国土地理院は、日本全国に複数のGPS受信機を配置し、常時GPS衛星の観測を行っている。また、IGS(International GPS Service for Geodynamics)は、世界各国のGPS観測データをURLで公開している。インターネットデータ処理部4は、これらの複数の観測地点で複数のGPS衛星を観測して得られた観測データをインターネット6を介して取得し、取得した観測データを演算処理部15に送信する。演算処理部15は、取得した観測データを用い、衛星信号の遅延量の差から通過経路の総電子数(TEC)を求める。
【0083】
総電子数(TEC)を求める方法を説明する。まず、空間をメッシュに区切り、このメッシュ中の電子数(n,n,…,n)を未知変数として衛星信号が通過した部分について足し合わせる。これを、行列表現で表すと(数式23)のようになる。
【数19】

【0084】
ここで、Tは観測されたGPS衛星により計算した総電子数(TEC)からなる行列、Aは衛星信号が通過したメッシュを示し、足し合わせる電子数を決める行列、Nは求めたいメッシュの電子数を示す行列である。観測データが十分にあれば、行列Aは正則となり、総電子数(TEC)を、上記(数式23)に示すように、最小二乗法により求めることができる。
【数20】

【0085】
しかしながら、十分に空間全体を衛星信号が通過していない場合、メッシュの中でまったく衛星信号が通らない部分ができる。この部分の総電子数は、IRIモデル値を使用する。これにより、演算処理部15は、3次元の電離層電子密度分布を求めることができ、任意の場所の電子密度を求めることができる。
【0086】
上記(1)〜(4)のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層電子密度分布を用いて、受信側貫通点の位置の電子密度を算出すると、演算処理部15は、所定のステップ分だけ位置を更新する(ステップS40)。受信側貫通点を通る電波は、電離層内を伝搬し、伝搬経路上の各位置における電子密度に伴う屈折率指数に従い屈折して進行する。この伝搬状態を示す方式としては、大きく2種類ある。1つの方式は、近似なしで解く方式(Full wave方式)であり、他の方式は、波長内で電子密度分布がゆっくりと変化すると仮定し近似した方式である。伝搬状態を示す方式として、いずれか1つの方式を使用する。
【0087】
伝搬状態の説明の例として、6つの微分方程式を以下の(数式25)〜(数式30)に示す。これらの微分方程式については、例えば、“Effects of ions on whister−mode ray−tracing”(木村磐根,Radio Sei,1,269−283,1966)に詳述されている。
【数21】

【0088】
ここで採用されている座標系は、WGS84座標系の極座標である。位置Pは、極座標(r、θ、φ)で指定し、電波の伝搬方向は、大きさがその位置の屈折率指数nに等しい方向ベクトルを持つ極座標系のベクトル(n,nθ,nφ)である。この方向ベクトル(n,nθ,nφ)は、Wave Normalベクトルと言われる。
【0089】
位置の更新においては、初期位置と初期Wave Normalベクトルを指定し、(数式25)〜(数式27)の右辺を計算し、(r、θ、φ)方向の微分値を求める。この位置に関連した微分値は、Wave Normalベクトルに関連した(数式28)〜(数式30)で使用し、Wave Normalベクトルに関する微分値を求める。
【数22】

【0090】
ここで、kはデータの更新番号を示す識別子、Δはステップ増加量である。
【0091】
次いで、演算処理部15は、更新位置の電子密度を算出する(ステップS50)。電子密度は、ステップS30と同様に、上述の(1)〜(4)のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層電子密度分布を用いて算出する。
【0092】
そして、演算処理部15は、算出した電子密度が所定の閾値より小さいかどうかを判断する(ステップS60)。電子密度が所定の閾値以上のとき(ステップS60:NO)、ステップS40に戻り、以降の処理を繰り返す。電子密度が所定の閾値より小さいとき(ステップS60:YES)、演算処理部15は、ステップS50で電子密度を算出した位置が電離層から大気へ出たと判断し、ステップS70に進む。
【0093】
次いで、演算処理部15は、電離層から大気へ出た位置である送信側貫通点から、進行方向の直線と地球表面との交点とを求める(ステップS70)。ここで、送信側貫通点は、図3に示すように、送信位置から送信された電波が電離層の最下層に入った位置となっている。また、このときの進行方向は、Wave Normalベクトル方向とする。このWave Normalベクトルは極座標系であり、進行方向ベクトルをWGS84座標系に変換する。
【数23】

【0094】
ここで、Lonionは送信側貫通点の経度、Lationは送信側貫通点の緯度である。(数式14),(数式15)でHlow=0とし、XWGS84,trsを、送信側貫通点のWGS84座標系位置とすれば、(数式14)で算出されるPWGS84が地球表面との交点となる。球の交点は2つあるため、2つある交点の送信側貫通点に近い方を解とする。求めた交点は、WGS84 XYZ座標系であるため、これを緯度、経度、高さに変換する。
【0095】
そして、演算処理部15は、送信位置の幾何学的方位および推定送信仰角を算出する(ステップS80)。ここで、到来電波の伝搬経路と、受信方位と、送信位置の幾何学的方位との関係を示す平面図を図4に示す。図4に示す送信位置の幾何学的方位は、ステップS20で用いたローカル座標系の原点の経度Lontrs,緯度Lattrsと、ステップS70で算出した進行方向の直線と地球表面との交点の緯度、経度とから、球面三角法を用いて算出する。
【数24】

【0096】
ここで、AZALGは幾何学的方位、ψ,λはそれぞれステップS70で算出した進行方向の直線と地球表面との交点の緯度、経度である。
【0097】
推定送信仰角ELTRSは、(数式33)で算出したWGS84座標系の方向ベクトルVWGS84を、ステップS70で算出した進行方向の直線と地球表面との交点となるPWGS84を原点としたローカル座標系に変換して求めることができる。
【数25】

【0098】
このように本実施の形態によれば、電離層電子密度分布モデルを用いて推定される電離層の電子密度分布を用いて、到来電波の伝搬経路、送信位置を算出するので、電離層の影響を受ける電波の受信方位と仰角から推定した送信位置に含まれる誤差を低減することができる。
【0099】
また、衛星観測部2で受信した衛星信号、電離層観測部3で電離層を観測して取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報、およびインターネットデータ処理部4で取得した航法衛星の観測データも電離層の電子密度分布の推定に用いることで、演算処理部15における算出結果の精度を向上することができる。
【0100】
なお、上記実施形態は、あくまでも本発明の説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であれば、これらの各要素または全要素を含んだ各種の実施形態を採用することが可能であるが、これらの実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態に係るアレイアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すアレイアンテナ装置の演算処理部の処理を説明するためのフローチャートである。
【図3】到来電波の伝搬経路を説明するための図である。
【図4】到来電波の伝搬経路と、受信方位と、送信位置の幾何学的方位との関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0102】
1 信号処理部
2 衛星観測部
3 電離層観測部
4 インターネットデータ処理部
5 データサーバ部
11 アレイアンテナ
11a,11b,…,11n アンテナ
12a,12b,…,12n アンプ
13a,13b,…,13n 周波数変換部
14a,14b,…,14n A/D変換部
15 演算処理部
16 表示操作部
21 衛星信号受信アンテナ
22 衛星信号受信部
23 衛星信号処理部
31 イオノゾンデ用アンテナ
32 イオノゾンデ
33 イオノゾンデ収集データ処理部
41 GEONET収集データ処理部
42 中継部
51 記録処理部
52 記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離層を通過して到来する到来電波を受信する複数のアンテナと、
これら複数のアンテナで受信した前記到来電波に輻輳した複数の信号から所望の信号を分離するとともに、各アンテナにおける前記所望の信号の位相差情報を用いて前記到来電波の受信方位および仰角を算出する受信方向算出手段と、
この受信方向算出手段で算出した前記受信方位および仰角と、電離層の任意の位置における電子密度を求めるための電離層電子密度分布モデルを用いて推定される電離層の電子密度分布とを用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出して前記到来電波の送信位置を算出するとともに、算出した前記送信位置の幾何学的方位を算出し、前記到来電波の前記送信位置における送信仰角を推定する修正方向算出手段と
を備えることを特徴とするアレイアンテナ装置。
【請求項2】
航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段を備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、および前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデルのうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項3】
複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段を備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、および前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状のうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項4】
複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段を備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項5】
航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段と、
複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段とを備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル、および前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状のうちのいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項6】
航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段と、
複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段とを備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項7】
複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段と、
複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段とを備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項8】
航法衛星から送信される複数周波数の衛星信号を受信し、この受信した複数周波数の衛星信号の電離層での伝搬遅延量の差を用いて、前記衛星信号の通過経路における総電子数を算出する衛星観測手段と、
複数周波数の観測信号を電離層に送信し、前記観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、電離層の高さ方向の電子密度分布情報を取得する電離層観測手段と、
複数の観測地点で複数の航法衛星を観測して得られる観測データを外部から取得するデータ取得手段とを備え、
前記修正方向算出手段は、前記電離層電子密度分布モデル、前記衛星観測手段で算出した前記衛星信号の通過経路における総電子数を用いて前記電離層電子密度分布モデルを修正して得られる修正モデル、前記電離層観測手段で取得した電離層の高さ方向の電子密度分布情報と前記電離層電子密度分布モデルとを用いて求めた高さ方向の電子密度分布形状、および前記データ取得手段で取得した前記観測データを用いて算出した各航法衛星から各観測地点への衛星信号の通過経路における総電子数のいずれか1つ以上の組み合わせにより推定される電離層の電子密度分布を用いて、前記到来電波の伝搬経路を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項9】
前記受信方向算出手段は、MUSIC法あるいは独立成分分析の手法を用いて、前記到来電波に輻輳した複数の信号から所望の信号を分離することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアレイアンテナ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−122246(P2008−122246A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306750(P2006−306750)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】