アンカークランプ
【課題】この発明は、押さえ部の変形量を増大させて肉厚の厚い取付箇所に取り付けできるとともに、耐久性のあるアンカークランプを提供することを目的とする。
【解決手段】下方外側方向に広がるカサ部20と、前記カサ部20の上面側に備えたワイヤーハーネス200に取り付ける装着部40と、前記カサ部20の下面側略中央から下向きに配設された支柱部31と、該支柱部31の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部32とで構成し、車両パネル100に設けた取付孔101に前記支柱部31及び前記脚部32を挿入し、前記カサ部20と前記脚部32とで前記車両パネル100を挟み込んで前記ワイヤーハーネス200を前記車両パネル100に取り付けるアンカークランプ1であって、前記カサ部20の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の変形溝21を備えた。
【解決手段】下方外側方向に広がるカサ部20と、前記カサ部20の上面側に備えたワイヤーハーネス200に取り付ける装着部40と、前記カサ部20の下面側略中央から下向きに配設された支柱部31と、該支柱部31の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部32とで構成し、車両パネル100に設けた取付孔101に前記支柱部31及び前記脚部32を挿入し、前記カサ部20と前記脚部32とで前記車両パネル100を挟み込んで前記ワイヤーハーネス200を前記車両パネル100に取り付けるアンカークランプ1であって、前記カサ部20の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の変形溝21を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、車両パネル等にワイヤーハーネスを取り付けるアンカークランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両パネルに配索するワイヤーハーネスを取り付けるアンカークランプが存在している。このような、アンカークランプは、下方外側方向に広がる押さえ部と、前記押さえ部の上面側に備えたワイヤーハーネスを取り付ける取付部と、前記押さえ部の下面側略中央から下向きに配設された支柱部と、該支柱部の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部とで構成し、車両パネルに設けた取付孔に前記支柱部及び前記脚部を挿入し、前記押さえ部と前記脚部とで前記車両パネルを挟み込んで前記ワイヤーハーネスを前記車両パネルに取り付けるものである。
しかし、このようなアンカークランプは押さえ部を弾性変形させて車両パネルに取り付けるため、取付圧力が高く、作業者の取付作業性が低かった。
【0003】
そこで、平面視円形の押さえ部の周縁部に切欠きを設けたアンカークランプが提案されている(特許文献1参照)。これにより、押さえ部の周縁付近の変形性能を向上させ、取付圧力を低減することができた。
【0004】
しかし、このアンカークランプは、押さえ部の周縁部のうち対向する2ヶ所に切欠き部を設けているため、この切欠き部に押さえ部の変形力が集中して、切欠き部が損傷して、押さえ部が破損する可能性があった。したがって、作業者は押さえ部の破損に留意しながら取り付ける必要があり、作業者の取付作業性の向上には至らなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−276633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、取付時の取付圧力が低減し、作業者の取付作業性が向上するアンカークランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、下方外側方向に広がる押さえ部と、前記押さえ部の上面側に備えたワイヤーハーネスを取り付ける取付部と、前記押さえ部の下面側略中央から下向きに配設された支柱部と、該支柱部の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部とで構成し、パネルに設けた取付孔に前記支柱部及び前記脚部を挿入し、前記押さえ部と前記脚部とで前記パネルを挟み込んで前記ワイヤーハーネスを前記パネルに取り付けるアンカークランプであって、前記押さえ部の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の溝部を備えたアンカークランプであることを特徴とする。
【0008】
上記下方外側方向に広がる押さえ部は、底面視楕円形、円形あるいは多角形で形成された根元部分から全周あるいは全方向にわたって連続する下方外側方向の面部材で形成された下面開放の逆すり鉢形状に形成された部分であることを含む。
上記ワイヤーハーネスは、複数の電線や光ケーブル線等を束ね、鞘管やテーピングによってケーブル状に形成されたものであることを含む。
【0009】
上記押さえ部と脚部とでパネルを挟み込む際の態様は、外側向きに付勢する脚部で取付孔の側面下端に固定し、押さえ部でパネルの上面を押圧する態様であることを含む。
上記周状の溝部は、押さえ部の平面視中央の周囲を周回する円形、楕円形、多角形、とぐろ形状等で形成された溝部であり、適宜の幅の有底溝形状、或いは押さえ部の表裏を貫通するスリット形状で形成することを含む。
【0010】
上記押さえ部の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の溝部を備えた構成は、押さえ部の表面と裏面のうち片面或いは両面に、1本あるいは複数本の周状の溝部を備えることを含む。
【0011】
上記構成により、溝部を周状に形成したため、溝部において押さえ部の全方向を均等、且つ容易に変形させることができる。これにより、アンカークランプ取付時の取付圧力が低減し、作業者の取付作業性が向上する。
【0012】
この発明の態様として、前記溝部を、前記押さえ部の内外方向の中間部分に配することができる。
上記内外方向は、例えば円形における半径方向のように、平面形状中心から周縁部に向かう方向であることを含む。
上記押さえ部の内外方向の中間部分は、例えば押さえ部の平面視中央の根元部分と周縁部との間の部分であることを含む。
【0013】
これにより、押さえ部本来の形状に由来して変形支点となる押さえ部の根元部分に加えて、溝部を変形支点として押さえ部を変形することができる。したがって、一箇所の変形支点によって同量の変形量を確保する場合と比較して、変形支点となる各箇所にかかる変形負荷を低減することができ、耐久性のあるアンカークランプを得ることができる。なお、上記変形支点は、押さえ部の断面形状において押さえ部の変形の中心となる点であり、変形の際の屈曲点となり得る点であることを指す。
【0014】
また、押さえ部の断面強度が低下する溝部を変形応力の小さい中間部分に配したことによって、溝部を設けたことによる押さえ部の断面強度低下の影響を抑えることができる。
【0015】
また、この発明の態様として、前記溝部を、前記押さえ部の表面及び裏面の両方に配し、表面に配する表面溝と裏面に配する裏面溝との内外方向の配設位置をずらすことができる。
【0016】
これにより、押さえ部の変形性能をさらに向上させることができる。なお、表面溝と裏面溝との内外方向の配設位置をずらしたことによって、溝部を押さえ部の表裏両側に備えたことによる押さえ部の断面強度低下の影響を抑えることができる。
【0017】
また、押さえ部の変形内側および変形外側の両側に周状の上記表面溝と裏面溝とを備えているため、押さえ部を所望の形状に変形させることができ、アンカークランプを取り付けるパネルの肉厚や表面形状に応じて取り付けることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、取付時の取付圧力が低減し、作業者の取付作業性が向上するアンカークランプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
車両パネル100にワイヤーハーネス200を取り付けた状態のアンカークランプ1の側面図を示す図1と、同状態のアンカークランプ1の正面図を示す図2と、同状態のアンカークランプ1の左右方向の中央付近の断面図を示す図3と、同状態のアンカークランプ1の前後方向の中央付近の縦断面図を示す図4と、同状態のアンカークランプ1の底面図を示す図5と、カサ部20に備えた変形溝21について説明する説明図を示す図6とともに、アンカークランプ1について説明する。
【0020】
図1から図5に示すように、車両パネル100は、車体の一部を構成する適宜の肉厚のパネルであり、所定箇所にアンカークランプ1を取り付ける取付孔101を備えている。ワイヤーハーネス200は車体内部に配索する電装系のケーブルであり、複数の被覆電線を束ねて形成している。
【0021】
アンカークランプ1は、上記ワイヤーハーネス200を車両パネル100に取り付けるための取付治具であり、平面視長方形の本体部10、該本体部10の上面に備えた装着部40、ならびに本体部10の下面に備えたカサ部20及び挿入部30で構成され、適宜の弾性を有する樹脂で一体形成されている。
【0022】
カサ部20は、底面視横長の楕円形状であり、適宜の肉厚で、本体部10の底面から下方に向かって外側に広がる底面開放の逆すり鉢形状に形成し、カサ部20の表面側の内外方向の中間部分に、カサ部20の周縁形状と平面視形状が相似する平面視楕円形状の変形溝21を備えている。なお、上記カサ部20の表面側の中間部分Mは、図6(a)における斜線部分に示すように、下方に向かって外側に広がる逆すり鉢形状の辺部分の中央付近であることを示している。
【0023】
なお、本実施例においては、図6(a)に示すように、カサ部20を、内側から2:6:2の割合で設定した根元部分B、中間部分M、周縁部分Eで構成しているが、これらの配置割合は、上記割合に限定されない。また、変形溝21は、図6(b)に示すように、適宜の幅且つカサ部20の肉厚の半分の深さの断面四角形の溝形状に形成している。
【0024】
挿入部30は、図2から図4において詳細に示すように、本体部10の左右方向中央の底面から下方に突き出すように配置され、適宜の厚みを有し、前後の下端を斜め方向に大きく面取りした六角形形状の支柱部31と、該支柱部31の下端の左右両側から上方外向きに配した脚部32とで構成され、支柱部31と脚部32とで正面視いかり形状を形成している。各脚部32の上端外側には、上記取付孔101の下端の角部が係止する係止フック32aを3段備えている。なお、各脚部32を幅方向内側に押圧することによって、外側方向の付勢力を得ることができる。また、3段の係止フック32aは、取り付ける車両パネル100の肉厚や取付孔101の径に適した係止フック32aが係止する構成である。
【0025】
アンカークランプ1をワイヤーハーネス200に装着する装着部40は、適宜の幅と長さを有するバンド部41と、挿入されたバンド部41の抜け出しを防止するバックル42とで構成している。なお、バックル42は本体部10の上面に本体部10と一体構成され、バンド部41の挿入を許容する挿入孔42aを備えている。バンド部41は一端がバックル42上面に固定され、他端がフリーの帯状で形成され、バンド部41の外側面の中央に段状部41aを備えている。なお、挿入孔42aに挿入されたバンド部41の該段状部41aが挿入孔42aに備えた逆行防止フック(図示省略)に係止し、挿入されたバンド部41が挿入方向と逆方向である抜け出し方向に逆行することを防止している。
【0026】
上述したような構成のアンカークランプ1をワイヤーハーネス200に装着し、車両パネル100に取り付ける取り付け方法について以下において説明する。
まず、アンカークランプ1をワイヤーハーネス200の所定箇所に装着する。詳述すると、バンド部41をワイヤーハーネス200の所定箇所の外側を回して、先端を挿入孔42aに挿入し、出口側からバンド部41を引っ張りだして、ループ状を形成する。これにより、バックル42で抜け出し防止され、ワイヤーハーネス200の外周を周方向に締めつけるバンド部41によって、アンカークランプ1をワイヤーハーネス200の所定箇所に装着することができる。
【0027】
この状態で、アンカークランプ1を車両パネル100の取付孔101に取り付ける。詳述すると、カサ部20で車両パネル100の上面を押圧するまで、取付孔101に挿入部30を挿入して、アンカークランプ1を車両パネル100の上面側から取り付ける。
【0028】
このとき、脚部32は取付孔101の側面によって内側に押圧され、最下段の係止フック32aが取付孔101の下端角部に係止する。このとき、係止フック32aで取付孔101の下端角部に係止するとともに、取付孔101の側面を外側に付勢する脚部32によって車両パネル100の下面側に固定したアンカークランプ1は、車両パネル100の上面を変形したカサ部20で押圧する。すなわち、車両パネル100の下面側に係止フック32aで固定した脚部32と、車両パネル100の上面を押圧するカサ部20とで車両パネル100を上下方向から挟み込んでアンカークランプ1を車両パネル100に取り付けることができる。
【0029】
また、図6(b)に示すように、カサ部20の表面側に変形溝21を備えたことによってカサ部20の変形性能が向上し、肉厚の厚い車両パネル100であっても、変形溝21によって大きく変形したカサ部20と脚部32とで肉厚の厚い車両パネル100を上下から挟み込んで固定することができる。したがって、肉厚の厚い車両パネル100にワイヤーハーネス200を取り付けることができる。
【0030】
なお、カサ部20を弾性変形させてアンカークランプ1の取り付ける必要があるが、上述したようにカサ部20の表面側に変形溝21を備えたことによってカサ部20の変形性能が向上しているため、アンカークランプ1を取り付ける取付圧力を低減することができる。
【0031】
以下において、変形溝21による取付圧力低減効果確認試験について説明する。この取付圧力低減効果確認試験は、変形溝を備えていない通常のカサ部を有するアンカークランプと、カサ部20に変形溝21を備えた本実施例のアンカークランプ1とについて挿入部30を取付孔101に挿入して取り付ける取付圧力を計測し、それぞれの5回の計測結果を比較する試験であり、その試験結果を以下の表に示す。
【0032】
【表1】
上記表中の平均値に示すように、変形溝21を備えることによってアンカークランプの取付圧力を約28%低減できることを確認した。このように、変形溝21を備えたことでアンカークランプ1を取り付ける際の取付圧力が低減し、作業者による取付作業性が向上するとともに、取り付けのために係る負荷によりアンカークランプ1が損傷を受ける可能性を低減することができる。さらに、カサ部20の変形力を周状の変形溝21の全体に分散でき、変形力が集中して変形溝21やカサ部20が破損する可能性を低減している。
【0033】
なお、本実施例においては図6(b)に示すように、カサ部20の表面側に1本の変形溝21を備えたが、図7(a)に示すように、カサ部20の裏面側に1本の変形溝21aを備えてもよい。また、図7(b)に示すように、カサ部20の表面側や裏面側に複数本の変形溝21を備えてもよい。さらには、図7(c)に示すように、カサ部20の表面側及び裏面側にそれぞれ配設位置をずらして変形溝21、21aを備えてもよい。
【0034】
これによって、カサ部20を形成する素材の弾性によらずとも、所望の変形性能を有するカサ部20を得ることができる。
また、カサ部20及び変形溝21を形成する金型の離型方法に応じて、変形溝21を設置するカサ部20の面を設定することができる。
【0035】
また、図7(c)に示すように、カサ部20の表面側及び裏面側にそれぞれ配設位置をずらして変形溝21を備えた場合、カサ部20の変形性能をさらに向上することができるとともに、配設位置をずらしたことによって、変形溝21をカサ部20の表裏両側面に配設したことによるカサ部20の断面の強度低下を抑制することができる。
【0036】
また、本実施例において、変形溝21を断面四角形の溝形状で形成したが、開放された表面側の溝幅を底部の溝幅より広げた断面台形の溝形状や、底側に凸な断面三角形の溝形状に形成してもよい。これにより、上述したような本実施例の変形溝21と同様の効果を得ることができるとともに、これらの溝部を形成する金型の離型性を向上することができ、アンカークランプ1の生産性を向上することができる。
【0037】
また、変形溝21を有底溝形状で形成せずとも、図8に示すように、破線状の底面視楕円形状を形成する貫通孔21bで形成してもよい。これにより、貫通孔21bの大きさと、貫通孔21b同士の間隔を適宜調整することで所望の変形性能を有するカサ部20を得ることができる。
【0038】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の押さえ部は、カサ部20に対応し、
以下同様に、
取付部は、装着部40に対応し、
パネルは、車両パネル100に対応し、
溝部及び表面溝は、変形溝21に対応し、
裏面溝は、変形溝21aに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】取付状態のアンカークランプの側面図。
【図2】取付状態のアンカークランプの正面図。
【図3】取付状態のアンカークランプの左右方向の中央付近の断面図。
【図4】取付状態のアンカークランプの前後方向の中央付近の縦断面図。
【図5】取付状態のアンカークランプの底面図。
【図6】カサ部に備えた変形溝について説明する説明図。
【図7】別の実施例の変形溝について説明する説明図。
【図8】別の実施例のアンカークランプの底面図。
【符号の説明】
【0040】
1…アンカークランプ
20…カサ部
21,21a…変形溝
31…支柱部
32…脚部
40…装着部
100…車両パネル
101…取付孔
200…ワイヤーハーネス
M…中間部分
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、車両パネル等にワイヤーハーネスを取り付けるアンカークランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両パネルに配索するワイヤーハーネスを取り付けるアンカークランプが存在している。このような、アンカークランプは、下方外側方向に広がる押さえ部と、前記押さえ部の上面側に備えたワイヤーハーネスを取り付ける取付部と、前記押さえ部の下面側略中央から下向きに配設された支柱部と、該支柱部の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部とで構成し、車両パネルに設けた取付孔に前記支柱部及び前記脚部を挿入し、前記押さえ部と前記脚部とで前記車両パネルを挟み込んで前記ワイヤーハーネスを前記車両パネルに取り付けるものである。
しかし、このようなアンカークランプは押さえ部を弾性変形させて車両パネルに取り付けるため、取付圧力が高く、作業者の取付作業性が低かった。
【0003】
そこで、平面視円形の押さえ部の周縁部に切欠きを設けたアンカークランプが提案されている(特許文献1参照)。これにより、押さえ部の周縁付近の変形性能を向上させ、取付圧力を低減することができた。
【0004】
しかし、このアンカークランプは、押さえ部の周縁部のうち対向する2ヶ所に切欠き部を設けているため、この切欠き部に押さえ部の変形力が集中して、切欠き部が損傷して、押さえ部が破損する可能性があった。したがって、作業者は押さえ部の破損に留意しながら取り付ける必要があり、作業者の取付作業性の向上には至らなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−276633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、取付時の取付圧力が低減し、作業者の取付作業性が向上するアンカークランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、下方外側方向に広がる押さえ部と、前記押さえ部の上面側に備えたワイヤーハーネスを取り付ける取付部と、前記押さえ部の下面側略中央から下向きに配設された支柱部と、該支柱部の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部とで構成し、パネルに設けた取付孔に前記支柱部及び前記脚部を挿入し、前記押さえ部と前記脚部とで前記パネルを挟み込んで前記ワイヤーハーネスを前記パネルに取り付けるアンカークランプであって、前記押さえ部の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の溝部を備えたアンカークランプであることを特徴とする。
【0008】
上記下方外側方向に広がる押さえ部は、底面視楕円形、円形あるいは多角形で形成された根元部分から全周あるいは全方向にわたって連続する下方外側方向の面部材で形成された下面開放の逆すり鉢形状に形成された部分であることを含む。
上記ワイヤーハーネスは、複数の電線や光ケーブル線等を束ね、鞘管やテーピングによってケーブル状に形成されたものであることを含む。
【0009】
上記押さえ部と脚部とでパネルを挟み込む際の態様は、外側向きに付勢する脚部で取付孔の側面下端に固定し、押さえ部でパネルの上面を押圧する態様であることを含む。
上記周状の溝部は、押さえ部の平面視中央の周囲を周回する円形、楕円形、多角形、とぐろ形状等で形成された溝部であり、適宜の幅の有底溝形状、或いは押さえ部の表裏を貫通するスリット形状で形成することを含む。
【0010】
上記押さえ部の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の溝部を備えた構成は、押さえ部の表面と裏面のうち片面或いは両面に、1本あるいは複数本の周状の溝部を備えることを含む。
【0011】
上記構成により、溝部を周状に形成したため、溝部において押さえ部の全方向を均等、且つ容易に変形させることができる。これにより、アンカークランプ取付時の取付圧力が低減し、作業者の取付作業性が向上する。
【0012】
この発明の態様として、前記溝部を、前記押さえ部の内外方向の中間部分に配することができる。
上記内外方向は、例えば円形における半径方向のように、平面形状中心から周縁部に向かう方向であることを含む。
上記押さえ部の内外方向の中間部分は、例えば押さえ部の平面視中央の根元部分と周縁部との間の部分であることを含む。
【0013】
これにより、押さえ部本来の形状に由来して変形支点となる押さえ部の根元部分に加えて、溝部を変形支点として押さえ部を変形することができる。したがって、一箇所の変形支点によって同量の変形量を確保する場合と比較して、変形支点となる各箇所にかかる変形負荷を低減することができ、耐久性のあるアンカークランプを得ることができる。なお、上記変形支点は、押さえ部の断面形状において押さえ部の変形の中心となる点であり、変形の際の屈曲点となり得る点であることを指す。
【0014】
また、押さえ部の断面強度が低下する溝部を変形応力の小さい中間部分に配したことによって、溝部を設けたことによる押さえ部の断面強度低下の影響を抑えることができる。
【0015】
また、この発明の態様として、前記溝部を、前記押さえ部の表面及び裏面の両方に配し、表面に配する表面溝と裏面に配する裏面溝との内外方向の配設位置をずらすことができる。
【0016】
これにより、押さえ部の変形性能をさらに向上させることができる。なお、表面溝と裏面溝との内外方向の配設位置をずらしたことによって、溝部を押さえ部の表裏両側に備えたことによる押さえ部の断面強度低下の影響を抑えることができる。
【0017】
また、押さえ部の変形内側および変形外側の両側に周状の上記表面溝と裏面溝とを備えているため、押さえ部を所望の形状に変形させることができ、アンカークランプを取り付けるパネルの肉厚や表面形状に応じて取り付けることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、取付時の取付圧力が低減し、作業者の取付作業性が向上するアンカークランプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
車両パネル100にワイヤーハーネス200を取り付けた状態のアンカークランプ1の側面図を示す図1と、同状態のアンカークランプ1の正面図を示す図2と、同状態のアンカークランプ1の左右方向の中央付近の断面図を示す図3と、同状態のアンカークランプ1の前後方向の中央付近の縦断面図を示す図4と、同状態のアンカークランプ1の底面図を示す図5と、カサ部20に備えた変形溝21について説明する説明図を示す図6とともに、アンカークランプ1について説明する。
【0020】
図1から図5に示すように、車両パネル100は、車体の一部を構成する適宜の肉厚のパネルであり、所定箇所にアンカークランプ1を取り付ける取付孔101を備えている。ワイヤーハーネス200は車体内部に配索する電装系のケーブルであり、複数の被覆電線を束ねて形成している。
【0021】
アンカークランプ1は、上記ワイヤーハーネス200を車両パネル100に取り付けるための取付治具であり、平面視長方形の本体部10、該本体部10の上面に備えた装着部40、ならびに本体部10の下面に備えたカサ部20及び挿入部30で構成され、適宜の弾性を有する樹脂で一体形成されている。
【0022】
カサ部20は、底面視横長の楕円形状であり、適宜の肉厚で、本体部10の底面から下方に向かって外側に広がる底面開放の逆すり鉢形状に形成し、カサ部20の表面側の内外方向の中間部分に、カサ部20の周縁形状と平面視形状が相似する平面視楕円形状の変形溝21を備えている。なお、上記カサ部20の表面側の中間部分Mは、図6(a)における斜線部分に示すように、下方に向かって外側に広がる逆すり鉢形状の辺部分の中央付近であることを示している。
【0023】
なお、本実施例においては、図6(a)に示すように、カサ部20を、内側から2:6:2の割合で設定した根元部分B、中間部分M、周縁部分Eで構成しているが、これらの配置割合は、上記割合に限定されない。また、変形溝21は、図6(b)に示すように、適宜の幅且つカサ部20の肉厚の半分の深さの断面四角形の溝形状に形成している。
【0024】
挿入部30は、図2から図4において詳細に示すように、本体部10の左右方向中央の底面から下方に突き出すように配置され、適宜の厚みを有し、前後の下端を斜め方向に大きく面取りした六角形形状の支柱部31と、該支柱部31の下端の左右両側から上方外向きに配した脚部32とで構成され、支柱部31と脚部32とで正面視いかり形状を形成している。各脚部32の上端外側には、上記取付孔101の下端の角部が係止する係止フック32aを3段備えている。なお、各脚部32を幅方向内側に押圧することによって、外側方向の付勢力を得ることができる。また、3段の係止フック32aは、取り付ける車両パネル100の肉厚や取付孔101の径に適した係止フック32aが係止する構成である。
【0025】
アンカークランプ1をワイヤーハーネス200に装着する装着部40は、適宜の幅と長さを有するバンド部41と、挿入されたバンド部41の抜け出しを防止するバックル42とで構成している。なお、バックル42は本体部10の上面に本体部10と一体構成され、バンド部41の挿入を許容する挿入孔42aを備えている。バンド部41は一端がバックル42上面に固定され、他端がフリーの帯状で形成され、バンド部41の外側面の中央に段状部41aを備えている。なお、挿入孔42aに挿入されたバンド部41の該段状部41aが挿入孔42aに備えた逆行防止フック(図示省略)に係止し、挿入されたバンド部41が挿入方向と逆方向である抜け出し方向に逆行することを防止している。
【0026】
上述したような構成のアンカークランプ1をワイヤーハーネス200に装着し、車両パネル100に取り付ける取り付け方法について以下において説明する。
まず、アンカークランプ1をワイヤーハーネス200の所定箇所に装着する。詳述すると、バンド部41をワイヤーハーネス200の所定箇所の外側を回して、先端を挿入孔42aに挿入し、出口側からバンド部41を引っ張りだして、ループ状を形成する。これにより、バックル42で抜け出し防止され、ワイヤーハーネス200の外周を周方向に締めつけるバンド部41によって、アンカークランプ1をワイヤーハーネス200の所定箇所に装着することができる。
【0027】
この状態で、アンカークランプ1を車両パネル100の取付孔101に取り付ける。詳述すると、カサ部20で車両パネル100の上面を押圧するまで、取付孔101に挿入部30を挿入して、アンカークランプ1を車両パネル100の上面側から取り付ける。
【0028】
このとき、脚部32は取付孔101の側面によって内側に押圧され、最下段の係止フック32aが取付孔101の下端角部に係止する。このとき、係止フック32aで取付孔101の下端角部に係止するとともに、取付孔101の側面を外側に付勢する脚部32によって車両パネル100の下面側に固定したアンカークランプ1は、車両パネル100の上面を変形したカサ部20で押圧する。すなわち、車両パネル100の下面側に係止フック32aで固定した脚部32と、車両パネル100の上面を押圧するカサ部20とで車両パネル100を上下方向から挟み込んでアンカークランプ1を車両パネル100に取り付けることができる。
【0029】
また、図6(b)に示すように、カサ部20の表面側に変形溝21を備えたことによってカサ部20の変形性能が向上し、肉厚の厚い車両パネル100であっても、変形溝21によって大きく変形したカサ部20と脚部32とで肉厚の厚い車両パネル100を上下から挟み込んで固定することができる。したがって、肉厚の厚い車両パネル100にワイヤーハーネス200を取り付けることができる。
【0030】
なお、カサ部20を弾性変形させてアンカークランプ1の取り付ける必要があるが、上述したようにカサ部20の表面側に変形溝21を備えたことによってカサ部20の変形性能が向上しているため、アンカークランプ1を取り付ける取付圧力を低減することができる。
【0031】
以下において、変形溝21による取付圧力低減効果確認試験について説明する。この取付圧力低減効果確認試験は、変形溝を備えていない通常のカサ部を有するアンカークランプと、カサ部20に変形溝21を備えた本実施例のアンカークランプ1とについて挿入部30を取付孔101に挿入して取り付ける取付圧力を計測し、それぞれの5回の計測結果を比較する試験であり、その試験結果を以下の表に示す。
【0032】
【表1】
上記表中の平均値に示すように、変形溝21を備えることによってアンカークランプの取付圧力を約28%低減できることを確認した。このように、変形溝21を備えたことでアンカークランプ1を取り付ける際の取付圧力が低減し、作業者による取付作業性が向上するとともに、取り付けのために係る負荷によりアンカークランプ1が損傷を受ける可能性を低減することができる。さらに、カサ部20の変形力を周状の変形溝21の全体に分散でき、変形力が集中して変形溝21やカサ部20が破損する可能性を低減している。
【0033】
なお、本実施例においては図6(b)に示すように、カサ部20の表面側に1本の変形溝21を備えたが、図7(a)に示すように、カサ部20の裏面側に1本の変形溝21aを備えてもよい。また、図7(b)に示すように、カサ部20の表面側や裏面側に複数本の変形溝21を備えてもよい。さらには、図7(c)に示すように、カサ部20の表面側及び裏面側にそれぞれ配設位置をずらして変形溝21、21aを備えてもよい。
【0034】
これによって、カサ部20を形成する素材の弾性によらずとも、所望の変形性能を有するカサ部20を得ることができる。
また、カサ部20及び変形溝21を形成する金型の離型方法に応じて、変形溝21を設置するカサ部20の面を設定することができる。
【0035】
また、図7(c)に示すように、カサ部20の表面側及び裏面側にそれぞれ配設位置をずらして変形溝21を備えた場合、カサ部20の変形性能をさらに向上することができるとともに、配設位置をずらしたことによって、変形溝21をカサ部20の表裏両側面に配設したことによるカサ部20の断面の強度低下を抑制することができる。
【0036】
また、本実施例において、変形溝21を断面四角形の溝形状で形成したが、開放された表面側の溝幅を底部の溝幅より広げた断面台形の溝形状や、底側に凸な断面三角形の溝形状に形成してもよい。これにより、上述したような本実施例の変形溝21と同様の効果を得ることができるとともに、これらの溝部を形成する金型の離型性を向上することができ、アンカークランプ1の生産性を向上することができる。
【0037】
また、変形溝21を有底溝形状で形成せずとも、図8に示すように、破線状の底面視楕円形状を形成する貫通孔21bで形成してもよい。これにより、貫通孔21bの大きさと、貫通孔21b同士の間隔を適宜調整することで所望の変形性能を有するカサ部20を得ることができる。
【0038】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の押さえ部は、カサ部20に対応し、
以下同様に、
取付部は、装着部40に対応し、
パネルは、車両パネル100に対応し、
溝部及び表面溝は、変形溝21に対応し、
裏面溝は、変形溝21aに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】取付状態のアンカークランプの側面図。
【図2】取付状態のアンカークランプの正面図。
【図3】取付状態のアンカークランプの左右方向の中央付近の断面図。
【図4】取付状態のアンカークランプの前後方向の中央付近の縦断面図。
【図5】取付状態のアンカークランプの底面図。
【図6】カサ部に備えた変形溝について説明する説明図。
【図7】別の実施例の変形溝について説明する説明図。
【図8】別の実施例のアンカークランプの底面図。
【符号の説明】
【0040】
1…アンカークランプ
20…カサ部
21,21a…変形溝
31…支柱部
32…脚部
40…装着部
100…車両パネル
101…取付孔
200…ワイヤーハーネス
M…中間部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方外側方向に広がる押さえ部と、
前記押さえ部の上面側に備えたワイヤーハーネスを取り付ける取付部と、
前記押さえ部の下面側略中央から下向きに配設された支柱部と、
該支柱部の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部とで構成し、
パネルに設けた取付孔に前記支柱部及び前記脚部を挿入し、前記押さえ部と前記脚部とで前記パネルを挟み込んで前記ワイヤーハーネスを前記パネルに取り付けるアンカークランプであって、
前記押さえ部の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の溝部を備えた
アンカークランプ。
【請求項2】
前記溝部を、
前記押さえ部の内外方向の中間部分に配した
請求項1に記載のアンカークランプ。
【請求項3】
前記溝部を、
前記押さえ部の表面及び裏面の両方に配し、
表面に配する表面溝と裏面に配する裏面溝との内外方向の配設位置をずらしたことを特徴とする
請求項1又は2に記載のアンカークランプ。
【請求項1】
下方外側方向に広がる押さえ部と、
前記押さえ部の上面側に備えたワイヤーハーネスを取り付ける取付部と、
前記押さえ部の下面側略中央から下向きに配設された支柱部と、
該支柱部の下端から上方外側方向に向けて配設され、外側向きに付勢する少なくとも2本の脚部とで構成し、
パネルに設けた取付孔に前記支柱部及び前記脚部を挿入し、前記押さえ部と前記脚部とで前記パネルを挟み込んで前記ワイヤーハーネスを前記パネルに取り付けるアンカークランプであって、
前記押さえ部の表面、或いは裏面の少なくとも一方に、周状の溝部を備えた
アンカークランプ。
【請求項2】
前記溝部を、
前記押さえ部の内外方向の中間部分に配した
請求項1に記載のアンカークランプ。
【請求項3】
前記溝部を、
前記押さえ部の表面及び裏面の両方に配し、
表面に配する表面溝と裏面に配する裏面溝との内外方向の配設位置をずらしたことを特徴とする
請求項1又は2に記載のアンカークランプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−182781(P2008−182781A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12318(P2007−12318)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]