説明

アンギオテンシンII受容体拮抗剤を含む固形製剤および固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性向上方法

【課題】本発明は、保存によるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の含量低下が抑制されている固形製剤と、固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性を向上するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る固形製剤は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤および糖アルコールを含むことを特徴とする。また、本発明に係る固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性向上方法は、賦形剤として糖アルコールを配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤を含む固形製剤と、固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性を向上するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管壁に与える圧力をいう。血圧が高いと、これに対抗するために血管壁が厚くなり、動脈硬化にもつながる。動脈硬化が進行するとさらに血圧が高まるという悪循環に陥り、いずれは心臓病や脳卒中などの疾患へと進行するおそれがある。
【0003】
高血圧の原因は明らかではなく、塩分や脂質の過剰摂取、運動不足、肥満、ストレス、喫煙、アルコール摂取などの生活習慣の関与が指摘されている。また、腎臓病などが高血圧に関与する場合もある。しかし、高血圧症は具体的な疾患として表面化するまでほとんど自覚症状がないため、恒常的な注意が必要である。また、高血圧症が見出された場合には、いずれ他の疾患に進行するおそれがあり、或いは他の疾患を増悪させる原因となり得るので、速やかな治療が必要である。
【0004】
高血圧症の治療薬としては、強力な昇圧作用を示す生理活性物質であるアンギオテンシンIIの受容体を競合的にブロックするアンギオテンシンII受容体拮抗剤が広く使われている。アンギオテンシンII受容体拮抗剤としては、ロサルタンカリウム(2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールのカリウム塩)が開発されており、その錠剤が市販されている。市販のロサルタンカリウム錠剤では、賦形剤として乳糖水和物が用いられている。
【0005】
また、特許文献1には、ロサルタンカリウムと乳糖(ラクトース)を含む製剤が開示されている。
【0006】
さらに特許文献2にはロサルタンカリウムを含む医薬組成物が開示されており、その希釈剤として、ラクチトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトールといった糖アルコールも例示されている。しかし、実際に実施例で用いられている希釈剤は乳糖であり、糖アルコールを含むロサルタンカリウム製剤の具体例は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−157309号公報
【特許文献2】特表2009−513622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、アンギオテンシンII受容体拮抗剤は高血圧の治療剤として広く使用されている。
【0009】
しかし本発明者らによる実験に基づく知見により、アンギオテンシンII受容体拮抗剤を含む錠剤を特に高温高湿度下で保存すると、アンギオテンシンII受容体拮抗剤自体が分解してその含量が低下する場合のあることが明らかにされた。
【0010】
そこで本発明は、保存によるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の含量低下が抑制されている固形製剤と、固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性を向上するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、賦形剤として糖アルコールを配合すれば、固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の分解を抑制できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明に係る固形製剤は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤および糖アルコールを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る固形製剤としては、アンギオテンシンII受容体拮抗剤としてロサルタンカリウムを含むものが好適である。本発明の効果は、ロサルタンカリウムを用いた実験で実証されている。また、ロサルタンカリウム製剤に配合する糖アルコールとしては、D−マンニトールが好適である。本発明者による実験的知見により、D−マンニトールの特に高い効果が実証されている。
【0014】
本発明製剤における糖アルコールの配合割合としては、アンギオテンシンII受容体拮抗剤1質量倍に対して0.2質量倍以上、5.0質量倍以下とすることが好ましい。当該割合が0.2質量倍以上であれば、糖アルコールによるロサルタンカリウムの保存安定性向上効果がより確実に発揮される。一方、当該割合が5.0質量倍を超えると、主薬であるロサルタンカリウムに対する製剤が大きくなり過ぎ、飲用し難くなるおそれがある。
【0015】
本発明製剤の剤形としては、錠剤が好ましい。アンギオテンシンII受容体拮抗剤を含む錠剤は既に市販されており、賦形剤として糖アルコールが配合された本発明錠剤も、製造直後には同様の効果を示すと考えられる。その上、高温高湿度下で保存した後においても、本発明錠剤では、アンギオテンシンII受容体拮抗剤の分解が抑制されている。
【0016】
本発明に係る固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性向上方法は、賦形剤として糖アルコールを配合することを特徴とする。
【0017】
本発明方法でも、アンギオテンシンII受容体拮抗剤としてはロサルタンカリウムが好適であり、糖アルコールとしてはD−マンニトールが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明者らによる実験的知見によれば、アンギオテンシンII受容体拮抗剤を含む錠剤を特に高温高湿度下で保存するとアンギオテンシンII受容体拮抗剤が分解し、その含有量が低下する場合がある。その原因は必ずしも明らかではないが、賦形剤によりアンギオテンシンII受容体拮抗剤の分解状況が異なり、特に乳糖がアンギオテンシンII受容体拮抗剤の分解を促進するとのデータが得られたので、乳糖が分解の原因であると考えられる。
【0019】
それに対して本発明によれば、製剤をたとえ高温高湿度下で保存した後においても、製剤中におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の分解を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る固形製剤は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤および糖アルコールを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明製剤の有効成分であるアンギオテンシンII受容体拮抗剤とは、強力な昇圧物質であるアンギオテンシンIIの受容体を競業的にブロックしてその作用を抑える血圧降下剤である。かかるアンギオテンシンII受容体拮抗剤としては、ビフェニルテトラゾール構造を共通して有するロサルタンカリウム、カンデサルタンシレキセチル、バルサルタンイルベサルタン、オルメサルタンメドキソミルなどのいわゆるサルタン系薬剤を挙げることができる。
【0022】
これらの中でもロサルタンカリウムは、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールのカリウム塩という化学構造を有し、高血圧症のみならず、高血圧症およびタンパク尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症の治療にも用いられる。本発明においては、ロサルタンカリウムを好適に用いる。
【0023】
アンギオテンシンII受容体拮抗剤の投与量は適宜調整すればよい。例えばロサルタンカリウムの場合、通常、成人に対して一日一回当たり25mg以上、50mg以下程度とすることができ、年齢や症状などにより適宜増減すればよく、一日当り100mg程度まで増量してもよい。よって、一錠または一袋当たり10mg以上、100mg以下程度配合すればよい。一製剤当たりに換算すれば、5質量%以上、50質量%以下程度の割合を配合すればよい。
【0024】
本発明製剤には、賦形剤として糖アルコールが配合される。一方、本発明製剤は、少なくとも、乳糖水和物や無水乳糖などの乳糖類を含まない。
【0025】
糖アルコールとは、糖のアルデヒド基とケトン基を還元して夫々第一アルコールと第二アルコールとしたものに相当する多価アルコールである。具体的には、グリセリンなどのトリトール;エリスリトールなどのテトリトール;キシリトールなどのペンチトール;D−マンニトール、L−マンニトール、ソルビトールなどのヘキシトールを挙げることができる。これらの中でも、ヘキシトールが好ましく、D−マンニトールが特に好ましい。
【0026】
従来のロサルタンカリウム錠剤では、賦形剤として乳糖類が用いられていた。しかし、特に高温高湿度下での保存中にロサルタンカリウムの分解が認められる。一方、本発明では、賦形剤として糖アルコールを用いることにより、保存中におけるロサルタンカリウムの分解も顕著に抑制することに成功した。
【0027】
本発明製剤における糖アルコールの配合割合は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤1質量倍に対して0.2質量倍以上、5.0質量倍以下とすることが好ましい。当該割合が0.2質量倍以上であれば、糖アルコールによるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性向上効果がより確実に発揮される。一方、当該割合が5.0質量倍を超えると、主薬であるアンギオテンシンII受容体拮抗剤に対する製剤が大きくなり過ぎ、飲用し難くなるおそれがある。
【0028】
本発明製剤の剤形は、必要に応じて適宜選択すればよい。例えば、錠剤、カプセル剤、フィルムコート錠剤、口腔内崩壊錠、顆粒剤、散剤、坐剤、注射剤とすることができる。好適には、錠剤とする。
【0029】
本発明製剤には、剤形に合わせてその他の添加剤を配合してもよい。例えば、錠剤には、賦形剤の他、結晶セルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、プルラン、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分α化デンプンなどの崩壊剤;マクロゴール、ヒドロキシプロピルセルロース、クエン酸トリエチル、トリアセチル、プロピレングリコール、グリセリンなどの可塑剤;ステアリン酸マグネシウムやタルクなどの滑沢剤;二酸化チタンなどの着色剤;ヒプロメロースなどのコーティング剤などを添加することができる。また、本発明に係る糖アルコールは甘味を有することから、矯味剤としても用いることができる。
【0030】
本発明製剤は、賦形剤として糖アルコールを配合することを前提として、剤形に応じた公知方法により製造することができる。例えば錠剤とする場合には、直接打錠法、半乾式顆粒圧縮法、乾式顆粒圧縮法、湿式顆粒圧縮法のいずれの方法も採用することができる。
【0031】
直接打錠法は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤とその他の添加成分を混合し、さらに滑沢剤を混合した上で直接打錠する製法である。半乾式顆粒圧縮法は、賦形剤、結合剤、崩壊剤などから予め湿式造粒法により調製した顆粒とアンギオテンシンII受容体拮抗剤を混合し、さらに滑沢剤を混合した上で打錠する製法である。乾式顆粒圧縮法は、乾式造粒法により調製した顆粒に滑沢剤を混合した上で打錠する製法であり、湿式顆粒圧縮法は、湿式造粒法により調製した顆粒に滑沢剤を混合した上で打錠する製法である。これら製法により得られた錠剤は、さらにコーティングを施してもよい。
【0032】
本発明製剤は、主に高血圧症の治療に有効である。その投与量は、患者の重篤度、年齢、性別などに応じて適宜調節すればよい。前述したように、ロサルタンカリウムの場合、通常、成人に対して一日一回当たり25mg以上、50mg以下程度、さらには100mg程度まで投与できるよう調節することが好ましい。
【0033】
本発明に係る固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性向上方法は、本発明製剤の製造方法とも共通するが、賦形剤として糖アルコール、より好ましくはD−マンニトールを配合することを特徴とする。
【0034】
より具体的な条件は、剤形に応じて適宜調整する。例えば直接打錠法で錠剤を製造する場合には、アンギオテンシンII受容体拮抗剤、糖アルコールおよびその他の添加剤を乾式で混合した上で、さらに滑沢剤などを混合した後に打錠すればよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0036】
試験例1 ロサルタンカリウムの分解促進成分の特定
アンギオテンシンII受容体拮抗剤を含む錠剤を特に高温高湿度下で保存するとアンギオテンシンII受容体拮抗剤が分解し、その含量が低下するという場合がある。そこで、アンギオテンシンII受容体拮抗剤であるロサルタンカリウムの分解を促進する添加成分を特定するために、実験を行った。
【0037】
具体的には、表1に示す賦形剤を30mg量り取り、メノウ乳鉢中、同量のロサルタンカリウムと混合した。
【0038】
【表1】

【0039】
各混合物(60mg)をガラス容器に移し、インキュベーター(YAMATO社製,製品名「ED910」)中、温度55℃、湿度75%RHで、2週間または4週間保存した。次いで、ガラス容器中の混合物をメタノール/水=1/1混合液と混合し、メスフラスコへ移し、メタノール/水=1/1混合液を加えて100mLとした。当該液を孔径0.45μm以下のメンブランフィルタで濾過し、濾液を下記条件のHPLCで分析し、得られたチャートのピーク強度から当初ロサルタンカリウム量に対する分解物の割合を算出した。結果を表2に示す。
【0040】
カラム: 内径2.1mm×長さ5cmのステンレス管に、粒径1.7μmφのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲル(Waters社製)を充填したもの
移動相: 移動相Aとして0.1%リン酸水溶液、移動相Bとしてアセトニトリルを用い、下記のとおり両者の濃度勾配を制御した。
サンプル注入後の時間 移動相A(容量%) 移動相B(容量%)
0分 90 10
0〜3分 90→50 10→50
3〜5分 50 50
5〜6分 50→10 50→90
移動相流速: 1.0mL/分
温度: 約40℃
検出器: 紫外吸光光度計(Waters社製)
測定波長: 220nm
【0041】
【表2】

【0042】
上記結果のとおり、乳糖水和物または無水乳糖と共にロサルタンカリウムを保存した場合、4週間後には約1%の分解物が生成した。一方、ロサルタンカリウムをD−マンニトールと共に保存した場合の分解物割合は0.07%であり、今回試験を実施した6種の賦形剤の中で、最も分解物の生成が抑制されていた。
【0043】
製造例1 ロサルタンカリウム錠剤の製造
表3に示す配合で、湿式造粒法によりロサルタンカリウム錠剤を製造した。詳しくは、精製水を攪拌しつつヒドロキシプロピルセルロースを加えて溶解させ、結合液とした。流動層造粒機(フロイント産業社製,FLO−1)に、表3中のロサルタンカリウムから部分α化デンプンまでの5成分を投入し、混合した。吸気温度80℃で当該混合物に上記結合液を噴霧し、造粒した。次いで、吸気温度80℃で15分間乾燥した。得られた顆粒に、32メッシュで篩過したステアリン酸マグネシウムを加え混合し、直径7.5mm、11mmRの杵を備えた打錠機(菊水製作所社製,VIRGO)で打錠することにより素錠を得た。
【0044】
精製水に、表3の皮膜成分を加えて溶解または分散させ、皮膜液を調製した。フィルムコーティング装置(フロイント産業社製,HC−LABO)中、吸気温度80℃、吸気風量0.4m3/分で上記皮膜液を上記素錠に噴霧し、皮膜錠を製造した。
【0045】
【表3】

【0046】
試験例2 ロサルタンカリウム錠剤の分解抑制性試験
上記製造例1で製造した各ロサルタンカリウム錠剤をガラス瓶に入れ、インキュベーター(YAMATO社製,製品名「ED910」)中、温度55℃、湿度75%RHで、2週間または4週間、蓋をすることなく開放したまま保存した。これら錠剤に加え、保存前の錠剤をメタノール/水=1/1混合液(100mL)に加え、よく振り混ぜることにより崩壊させた。次いで、メタノール/水=1/1混合液を加えて容量を200mLとした後、遠心分離した。得られた上澄液(6mL)を量り取り、メタノール/水=1/1混合液を加えて容量を25mLとした後、孔径0.45μm以下のメンブランフィルタで濾過し、濾液を試料溶液とした。別途、ロサルタンカリウム(約10mg)を定量した後、メタノール/水=1/1混合液に溶解して100mLとした。当該溶液(3mL)を定量し、メタノール/水=1/1混合液を加えて50mLとし、標準溶液とした。
【0047】
上記試料溶液と標準溶液を以下に示す条件のHPLCで分析し、各ピークの面積を自動積分法により測定した。但し、溶媒とプラセボ由来のピークは除外した。
【0048】
カラム: 内径4.6mm×長さ25cmのステンレス管に、粒径5μmのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲル(YMC社製)を充填したもの
移動相: 移動相Aとして0.1%リン酸水溶液、移動相Bとしてアセトニトリルを用い、下記のとおり両者の濃度勾配を制御した。
サンプル注入後の時間 移動相A(容量%) 移動相B(容量%)
0分 75 25
0〜25分 75→10 25→90
25〜35分 10 90
移動相流速: 1.0mL/分
温度: 約25℃
検出器: 紫外吸光光度計(Waters社製)
測定波長: 220nm
【0049】
得られた測定結果より、当初ロサルタンカリウム量に対する分解物の割合を算出した。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
上記結果のとおり、賦形剤として乳糖水和物を含む比較例1の錠剤では、4週間にわたる保存中に分解物の総量が0.81%まで増加した。それに対して、賦形剤としてD−マンニトールを含む本発明に係るロサルタンカリウム錠剤では、分解物総量が0.40%と、比較例に対して分解物が半量未満に抑制されていた。
【0052】
試験例3 ロサルタンカリウムの分解促進成分の特定
上記試験例1と同様の条件で、ロサルタンカリウムのみ、およびロサルタンカリウムに加えてD−マンニトールと同じく糖アルコールであるキシリトール(三菱商事フードテック社製,製品名「キシリット」)を用い、ロサルタンカリウムに与える影響を試験した。参考のため上記試験例1における乳糖水和物とD−マンニトールの結果と合わせ、結果を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
上記結果のとおり、D−マンニトールほどではないが、賦形剤としてキシリトールを用いた場合もロサルタンカリウムの分解を抑制できることが明らかとなった。
【0055】
製造例2 ロサルタンカリウム錠剤の製造
表6に示す配合で、直接打錠法によりロサルタンカリウム錠剤を製造した。詳しくは、表6中のロサルタンカリウム、乳糖水和物またはD−マンニトール、結晶セルロース、および部分α化デンプンを投入して混合した。さらに、32メッシュで篩過したステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、直径7.5mm、11mmRの杵を備えた打錠機(菊水製作所社製,VIRGO)で打錠することにより素錠を得た。
【0056】
精製水に、表6の皮膜成分を加えて溶解または分散させ、皮膜液を調製した。フィルムコーティング装置(フロイント産業社製,HC−LABO)中、吸気温度80℃、吸気風量0.4m3/分で上記皮膜液を上記素錠に噴霧し、皮膜錠を製造した。
【0057】
【表6】

【0058】
試験例4 ロサルタンカリウム錠剤の分解抑制性試験
上記製造例2で得られた各ロサルタンカリウム錠剤を高温高湿下で保存した場合の分解物総量を、上記試験例2と同様の条件で測定した。結果を表7に示す。
【0059】
【表7】

【0060】
上記結果のとおり、直接打錠法で製造された錠剤においても、賦形剤として乳糖水和物を含む錠剤では、4週間の保存で分解物の総量が1.11%まで増加した。一方、賦形剤としてD−マンニトールを含む本発明錠剤では、分解物総量は0.65%まで抑制されていることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンギオテンシンII受容体拮抗剤および糖アルコールを含むことを特徴とする固形製剤。
【請求項2】
アンギオテンシンII受容体拮抗剤がロサルタンカリウムである請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
糖アルコールがD−マンニトールである請求項1または2に記載の固形製剤。
【請求項4】
アンギオテンシンII受容体拮抗剤1質量倍に対して糖アルコールを0.2質量倍以上、5.0質量倍以下含む請求項1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項5】
錠剤である請求項1〜4のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項6】
賦形剤として糖アルコールを配合することを特徴とする固形製剤におけるアンギオテンシンII受容体拮抗剤の保存安定性向上方法。
【請求項7】
アンギオテンシンII受容体拮抗剤であるロサルタンカリウムの保存安定性を向上するためのものである請求項6に記載の保存安定性向上方法。
【請求項8】
糖アルコールとしてD−マンニトールを用いる請求項6または7に記載の保存安定性向上方法。

【公開番号】特開2011−136908(P2011−136908A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295785(P2009−295785)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(593077308)共和薬品工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】