説明

アンテナ、その調整方法およびそのアンテナを実装する電子機器

【課題】異なる機種に対して同一のアンテナ形状、整合素子を使用することが困難である。
【解決手段】無線通信用のアンテナであって、誘電体基板と、誘電体基板上に配置された接地導体部と、誘電体基板上において、接地導体部と対向して配置された放射導体部と、放射導体部と接地導体部とを接続する短絡導体部と、放射導体部に高周波電流を給電する給電部とを備えるアンテナ素子と、接地導体部と高周波接続される開放導体部と、を有し、開放導体部は、接地導体部と短絡導体部との接続位置から対角方向にある接地導体部の位置から所定の長さ突出するように誘電体基板と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信用のアンテナ、その調整方法およびそのアンテナを実装する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、例えばパーソナルコンピュータでは、無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信機能を備えたものが普及してきている。無線LANやBluetoothなどの無線通信には、例えば2.5GHz帯や5GHz帯の電波が使用される。無線通信機能を備えたパーソナルコンピュータは、無線通信用のアンテナを内蔵しているが、例えばダイポールアンテナ、ヘリカルアンテナ、スロットアンテナ、逆Fアンテナなど、機種毎に種々のアンテナが使用されている。
【0003】
電子機器の小型化に伴い、各種のアンテナは、限られたスペースでの実装を余儀なくされると共に、コストの低減も要求される。従って、アンテナ単独で実装されるよりも無線モジュールチップと同一の基板上にパターン化された形で実装する事により低コスト化を図っている。
【0004】
しかし、パーソナルコンピュータ等の電子機器においてアンテナを実装した場合、アンテナの周囲に位置する部材によってアンテナの周波数特性が変化する。そのため、アンテナ単体での周波数特性と実装時の周波数特性とが異なってしまうという問題がある。従来、アンテナを電子機器に実装することによって生じるアンテナの周波数特性の変化は、アンテナ側で吸収する構成をとっている。例えば、アンテナの形状を調整するなどの方法により、実装時におけるアンテナの周波数特性が所望の特性となるようにしている。
【0005】
特許文献1では、空胴共振器として動作する放射素子のショートスタブの部分の長さを、スルーホール位置を変えて調整することにより、共振周波数を調整する技術が開示されている。共振周波数の調整は、放射素子の一部を構成するスタブの長さを変えることにより行われている。
【0006】
特許文献2では、マイクロストリップライン共振器に複数の先端開放スタブを予め接続形成し、スタブ先端部の近傍に開放パターンが予め形成されている状態で、はんだ付けにより短絡して共振器に接続されているスタブの容量を変えることにより、共振周波数を調整する技術が開示されている。共振周波数の調整は、同様に、放射素子の一部を構成するスタブの長さを変えることにより行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5483249号明細書
【特許文献2】特開平09−162642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のようにアンテナ実装時における周波数特性の変化をアンテナ形状の調整により所望の特性に合わせ込む方法では、アンテナを実装する電子機器の機種によって、実装する環境が異なるため、実装時における周波数特性の変化も一様でない。そのため、異なる機種に対して同一のアンテナを使用することができないという課題がある。
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、アンテナ実装時の反射特性を改善しつつ、異なる電子機器の機種に対して同一のアンテナを使用することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成する本発明に係るアンテナは、
無線通信用のアンテナであって
誘電体基板と、
前記誘電体基板上に配置された接地導体部と、
前記誘電体基板上において、前記接地導体部と対向して配置された放射導体部と、前記放射導体部と前記接地導体部とを接続する短絡導体部と、前記放射導体部に高周波電流を給電する給電部とを備えるアンテナ素子と、
前記接地導体部と高周波接続される開放導体部と、を有し、
前記開放導体部は、前記接地導体部と前記短絡導体部との接続位置から対角方向にある前記接地導体部の位置から所定の長さ突出するように前記誘電体基板と接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異なる電子機器の機種に対して同一のアンテナを使用することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る無線通信用のアンテナの基本構成を説明する図。
【図2】アンテナ実装基板のGND部の長さが短い場合の反射を示す図。
【図3】2GHz帯、Lb=15mm固定、開放導体長Lsが可変時の反射特性を示す図。
【図4】2GHz帯、Lb=20mm固定、開放導体長Lsが可変時の反射特性を示す図。
【図5】2GHz帯、Lb=25mm固定、開放導体長Lsが可変時の反射特性を示す図。
【図6】2GHz帯、開放導体のアンテナ実装基板への取り付け角度が可変時の反射特性を示す図。
【図7】2GHz帯でのアンテナ入力反射係数VSWR<2.0を満足する為の接地導体部長Lbと開放導体部長Lsの関係を表す図。
【図8】5GHz帯、Lb=8mm固定、開放導体部長Ls可変時の反射特性を示す図。
【図9】5GHz帯、Lb=11mm固定、開放導体部長Ls可変時の反射特性を示す図。
【図10】5GHz帯、Lb=14mm固定、開放導体部長Ls可変時の反射特性を示す図。
【図11】5GHz帯、開放導体部の接地導体部への取り付け角度可変時の反射特性を示す図。
【図12】5GHz帯でのアンテナ入力反射係数VSWR<2.0を満足する為の接地導体部長Lbと開放導体部長Lsとの関係を表す図。
【図13】第2実施形態におけるアンテナの開放導体部106を示す図。
【図14】複数の異なる機器への無線部実装を示す図。
【図15】複数の異なる機器へ同一のアンテナを実装した場合の例を示す図。
【図16】本発明の特徴である開放導体と誘電体基板の機器への取付の実施例を示す図。
【図17】開放導体の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の無線通信用アンテナの基本構成を示す。アンテナは、アンテナ素子101と、誘電体基板104と、接地導体部105と、開放導体部106と、取り付け穴107と、無線モジュールチップ109と、コネクタ110とを備える。アンテナは、不図示の電子機器に内蔵される。誘電体基板104上には、アンテナ素子101と、接地導体部105と、開放導体部106と、取り付け穴107と、無線モジュールチップ109と、コネクタ110とが形成されている。筺体板金108は、誘電体基板104が取り付けられる不図示の電子機器本体の板金である。
【0014】
アンテナ素子101は、一般的な逆Fアンテナであり、短絡導体部100と、給電点102と、放射導体部103とを備える。短絡導体部100は、放射導体部103と接地導体部105とを接続する。給電点102は、アンテナ素子101に高周波信号(高周波電流)を1点で給電する給電部である。放射導体部103は、接地導体部105と間隔を隔てて対向して配置されている。間隔は一定であってもよく、その場合放射導体部103と接地導体部105とは平行に配置されることになる。また、放射導体部103の短絡導体部100との接点とは逆の端部は、給電点102に対して高周波的に開放された開放端103である。誘電体基板104は、アンテナ素子101を実装するための基板であり、この基板上には上述した各構成要素の他に、ICなどの電子部品が設けられる。接地導体部105は、使用周波数の波長の四分の一以下の電気長を有する。接地導体部105は、誘電体基板上に、導体パターン形状で形成されたり、板状板金形状で形成されたりする。図1の例では、接地導体部105は矩形形状であるが、必ずしも矩形形状である必要はない。開放導体部106は、本発明の特徴部分であり、所定の接続位置で、接地導体部105と高周波接続される。
【0015】
開放導体部106の取り付け位置は、アンテナ素子101が備える短絡導体部100から観察して、破線矢印Aで示されるように、接地導体部105の対角方向の位置(端部位置)である。取り付け穴107を介して、ねじ等を用いて接地が行われる。コネクタ110は、電子機器本体または無線モジュールチップ109へ信号を供給するためのコネクタである。
【0016】
ここで、誘電体基板104の接地導体部105の電気長(放射導体部103と対向する方向の長さ)は、一般的にアンテナ素子101を動作周波数で十分な反射係数を持って共振させるために、λ/4以上の電気長が必要である。ここで、λは動作周波数の中心周波数の波長である。
【0017】
即ち、通常アンテナ素子101を実装している誘電体基板104のGND部分105の電気長がλ/4以上確保できない場合、アンテナ素子101の入力反射特性は十分な特性を得られない。
【0018】
図2(a)および図2(b)は、誘電体基板104上の接地導体部105の電気長がλ/4以上確保できない場合のアンテナ素子101の入力反射特性を示す。図2(a)において、誘電体基板104上の接地導体部105の長さをLbとする。
【0019】
例えば、使用周波数帯を2GHzの無線LANを想定した場合、2.45GHzを使用周波数帯の中心周波数とすると、λ/4は約30mm程度となる。従って、Lbが30mm以上の長さであれば、アンテナ素子101の反射特性が十分に得られる。一方、例えばLbが18mm程度しか確保できない場合、図2(b)に示されるスミス図における双方向矢印が示すように、中心から距離が遠いアンテナ素子101の反射特性になってしまう。
【0020】
反射特性を示す指標としてVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)(電圧定在波比)およびRL(Return Loss)(反射損失)があり、スミス図の中心からの距離が近い程良好な反射特性を示す。通常アンテナの反射特性としてVSWR<2.0、RL<−9.5dBを満たすようにするとよい。ここで、電圧定在波比VSWRと反射損失RLとの関係は以下のようになる。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
図2(b)におけるfl、fc、およびfuは、それぞれ使用周波数帯の下端、中心、および上端の周波数を示す。RLが概ね−5dB以上の値となり、アンテナの反射特性として通常要求される電圧定在波比VSWR<2.0(反射損失RL<−9.5dB)は確保できなくなる。これを改善する為には、アンテナ素子パターンの変更や、整合素子の変更などが必要になってしまい、アンテナ素子、整合素子の汎用性がなくなってしまう。本発明では、このような変更を必要としなくて済むように開放導体部106を構成する。開放導体部106は、アンテナ素子101が実装される誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbがλ/4以上確保できない場合に、アンテナ素子101の入力反射特性を改善するためのものである。
【0024】
図3(a)および図3(b)を参照して、誘電体基板104上に開放導体部106を取り付けた際の動作を説明する。図3(a)において、誘電体基板104上の接地導体部105の長さを15mmとして、開放導体部106の長さLsとする。図3(b)は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の入力反射特性の様子を示している。図3(b)は、測定周波数はWLANの2GHz帯の中心周波数2.44GHzとし、そのポイントでの反射係数の値を示すスミス図である。図3(b)のスミス図の8つのポイントはLs=0mmからLs=35mmまで、5mm間隔でLsの長さを変えたものに対応する。誘電体基板104上の接地導体部105の長さLb=15mmである場合、開放導体部106の長さLs=0mm、すなわち開放導体部106を取り付けていない場合、アンテナ素子101の入力からの反射が大きく、VSWR<2.0の確保が難しい。しかしながら、開放導体部106の長さLsを調整することにより反射特性が改善されている様子がわかる。開放導体部106部の長さLsを概ね20mm以上にすることにより、VSWR<2.0の反射係数が得られる。
【0025】
図4(a)および図4(b)を参照して、誘電体基板104に開放導体部106が取り付けられた際の動作を説明する。図4(a)において、誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbを20mmとする。図4(b)は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の入力反射特性の様子を示すスミス図である。誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbを20mmにした場合、図3(b)の反射特性の変化と比べて、接地導体部105の長さが5mm長くなっていることに起因して、開放導体部106の長さLsを概ね15mm以上にすることにより、VSWR<2.0の反射係数が得られる。
【0026】
図5(a)および図5(b)を参照して、誘電体基板104に開放導体部106が取り付けられた際の動作を説明する。図5(a)において、誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbを25mmとする。図5(b)は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の入力反射特性の様子を示すスミス図である。。図4(b)の反射特性の変化と比べて、接地導体部105の長さが5mm長くなっていることに起因して、開放導体部106の長さを概ね10mm以上にすることにより、VSWR<2.0の反射係数が得られる。
【0027】
以上のように、誘電体基板104の接地導体部105の長さLbに応じて、開放導体部106の長さLsを変える。例えば、誘電体基板104の接地導体部105の長さLbに反比例して開放導体部106の長さLsを変える。これにより、使用周波数の波長をλとした時、誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbがλ/4以上の長さを確保できない場合でも、Lbの長さに応じてLsの長さを調節することにより、アンテナ素子101のパターンや、整合素子を変えることなく、アンテナ素子101の入力反射特性を改善することができる。
【0028】
次に、図6(a)および図6(b)を参照して、誘電体基板104に対する開放導体部106の取り付け角度を変えた場合のアンテナ素子101の入力反射特性の変化を説明する。図6(a)において、誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbを15mm、開放導体部106の長さLsを25mmとする。図6(b)は、開放導体部106の取り付け角度θを誘電体基板104の側面に対して0度から180度まで変化させた時のアンテナ素子101の入力反射の様子を示したスミス図である。図3(b)は、測定周波数はWLANの2GHz帯の中心周波数2.44GHzとし、そのポイントでの反射係数の値を示している。また、表1は、各角度θにおけるアンテナ素子101の反射損失RLをdB単位で表した値である。
【0029】
【表1】

【0030】
図6(b)より、角度θが0度の場合は開放導体部106が接地導体部105と重なり合い、開放導体部106がない状態と同様になる。この場合、アンテナ素子101の入力端からの反射が大きく、RL=−7.0dBであり、VSWR<2.0(RL<−9.5dB)の条件を確保することができない。しかしながら、角度θを大きくするにつれて、反射特性が改善されている様子がわかる。表1より、角度θが30度以上であればVSWR<2.0(RL<−9.5dB)の条件を確保できることがわかる。
【0031】
図7は、アンテナ入力反射係数であるVSWR<2.0を満足するための、接地導体部105の長さLbと開放導体部106の長さLsとの関係を表すグラフである。横軸は接地導体部105の長さLbであり、縦軸は開放導体部106の長さLsである。ここで、Ls(min)は接地導体部105の長さLbに対して、VSWR<2.0という条件を満たすための最小の接地導体部105の長さを示す。また、Ls(max)は接地導体部105の長さLbに対して、VSWR<2.0という条件を満たすための最大の接地導体部105の長さを示す。図7より、LbとLsとの関係は、VSWR<2.0という条件を満たすための最小の長さLs(min)に対しては、概ねLs(min)=−Lb+35(15<Lb<25)の直線により関係付けられる。また、VSWR<2.0という条件を満たすための最大の長さLs(max)に対しては、概ねLs(max)=−Lb+50(15<Lb<25)の直線により関係付けられる。従って、アンテナ素子101の反射係数であるVSWR<2.0という条件を満たすLbとLsとの関係は、定数Kを用いると、Ls=−Lb+K、35<K<50(15<Lb<25)となる。
【0032】
次に、図8(a)および図8(b)を参照して、5GHz帯における開放導体部106の取り付け時の動作を説明する。図8(a)において、誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbを8mmとする。図8(b)は、その状態で開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の入力反射特性の様子を示すスミス図である。測定周波数はWLANの5GHz帯の低域周波数5.2GHzとし、そのポイントでの反射係数の値を示している。また、表2は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の反射損失RLをdB単位で表した値である。
【0033】
【表2】

【0034】
図8(b)のスミス図における各ポイントは、2GHz帯での測定と同様に、Ls=0mmからLs=24mmまで3mm間隔でLsの長さを変えたものである。誘電体基板104の接地導体部105の長さLbが8mmである場合、開放導体部106の長さLsが0mm、すなわち開放導体部106を取り付けない場合には、アンテナ素子101の入力からの反射が大きいため、VSWR<2.0という条件を確保することが難しい。しかしながら、開放導体部106の長さLsを調整するにつれて、反射特性が改善されている様子がわかる。表2から、概ね開放導体部106の長さLsを15mm近傍にすることによりVSWR<2.0という条件を満たす反射係数が得られる。また、開放導体部106の長さLsを24mm以上にすると、逆に反射特性が低下してしまうことがわかる。
【0035】
図9(a)および図9(b)を参照して、誘電体基板104に開放導体部106を取り付けた際の動作を説明する。図9(a)において、誘電体基板104の接地導体部105の長さLsを11mmとする。図9(b)は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の入力反射特性の様子を示すスミス図である。また、表3は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の反射損失RLをdB単位で表した値である。
【0036】
【表3】

【0037】
図9(b)のスミス図に示される各ポイントは、2GHz帯での測定と同様にLs=0mmからLs=24mmまで3mm間隔でLsの長さを変えたものである。先に説明したように誘電体基板104上の接地導体部105の長さLbは11mmである。この場合、図8(b)の反射特性の変化と比べて接地導体部105の長さLbを3mm長くしたことに起因して、開放導体部106の長さLsが12mmであっても、VSWR<2.0という条件を満たす反射係数が得られることがわかる。
【0038】
次に、図10(a)および図10(b)を参照して、誘電体基板104に開放導体部106を取り付けた際の動作を説明する。図10(a)において、誘電体基板104の接地導体部105の長さLbを14mmとする。図10(b)は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の入力反射特性の様子を示すスミス図である。また、表4は、開放導体部106の長さLsを変えた時のアンテナ素子101の反射損失RLをdB単位で表した値である。
【0039】
【表4】

【0040】
図10(b)のスミス図に示される各ポイントは、2GHz帯での測定と同様にLs=0mmからLs=24mmまで、3mm間隔でLsの長さを変えたものである。先に説明したように誘電体基板104の接地導体部105の長さLbは14mmである。この場合、図9(b)の反射特性の変化と比べて接地導体部105の長さLbを3mm長くしたことに起因して、開放導体部106の長さが9mmであっても、VSWR<2.0という条件を満たす反射係数が得られることがわかる。
【0041】
次に、図11(a)および図11(b)を参照して、5GHz帯において、開放導体部106の誘電体基板104に対する取り付け角度を変えた場合のアンテナ素子101の入力反射特性の変化を説明する。図11(a)において、誘電体基板104の接地導体部105の長さLbを14mmとする。図11(b)は、開放導体部106の長さLsを15mmとして、開放導体部106の取り付け角度θを誘電体基板104の側面に対して0度から180度まで変化させた時のアンテナ素子101の入力反射の様子を示すスミス図である。測定周波数はWLANの5GHz帯の周波数5.2GHzとし、そのポイントでの反射係数の値を示すものである。また、表5は、各角度θにおけるアンテナ素子101の反射損失RLをdB単位で表した値である。
【0042】
【表5】

【0043】
表5より、角度θが0度の場合は開放導体部106が接地導体部105と重なり合い、開放導体部106がない状態と同様となる。そのため、アンテナ素子101の入力からの反射が大きくなり、RL=−7.0dBとなるためVSWR<2.0(RL<−9.5dB)という条件を確保することができない。しかしながら、角度θを大きくするにつれて、反射特性が改善されている様子がわかる。表5より、角度θの範囲が30度<θ<180度であれば、VSWR<2.0という条件を満たすことがわかる。
【0044】
図12は、アンテナ入力反射係数がVSWR<2.0という条件を満たすための、接地導体部105の長さLbと開放導体部106の長さLsとの関係を表すグラフである。横軸は接地導体部105の長さLbであり、縦軸は開放導体部106の長さLsである。Ls(min)は、接地導体部105の長さLbに対して、VSWR<2.0という条件を満たすための最小の長さである。また、Ls(max)は、接地導体部105の長さLbに対して、VSWR<2.0という条件を満たすための最大の長さである。図12のグラフより、LbとLsとの関係は、VSWR<2.0という条件を満たすための最小の長さLs(min)に対しては概ねLs(min)=−Lb+23(8<Lb<14)の直線により関係づけられる。また、VSWR<2.0という条件を満たすための最大の長さLs(max)に対しては概ねLs(max)=−Lb+32(8<Lb<14)の直線により関係付けられる。よって、アンテナ素子101の反射係数がVSWR<2.0という条件を満たすLbとLsとの関係は、定数Lを用いて、Ls=−Lb+L、23<L<32(8<Lb<14)となる。
【0045】
なお、以上の説明では、角度θの調整と、開放導体部106の長さLsの調整と、を別個に行う構成を示したが、角度θと開放導体部106の長さLsとの両方を調整して、アンテナ素子101の反射係数がVSWR<2.0という条件を満たすようにしてもよい。
【0046】
以上説明したように誘電体基板104のGND部分105の長さに応じて開放導体106を所望の長さにする事でアンテナ素子101の入力反射特性が改善される。
【0047】
次に複数の異なる機器に対して同一のアンテナを共有して使用する場合の実施例について説明する。
【0048】
図14は同一のアンテナを実装する3種類の機器A,機器B、機器Cを示す。機器A、B、Cに対して異なる実装位置に同一のアンテナ素子を実装するものとする。
【0049】
図15は異なる機器A、B、Cに実装する同一のアンテナ素子を搭載した誘電体基板A、B、Cを示す図である。図15においてそれぞれの誘電体基板のGND部分の長さは異なり誘電体基板A、B、CのGND部分の長さはそれぞれLA、LB、LCとする。機器Aには誘電体基板A、機器Bには誘電体基板B、機器Cには誘電体基板Cをそれぞれ実装するものであり、誘電体基板GND長LA、LB、LCは使用周波数帯域の動作中心周波数の波長をλとした場合λ/4より短いGND長を有するものである。
【0050】
このような場合機器に実装した場合、各々の誘電体基板に実装されたアンテナ素子の反射特性は良好な特性が得られない。機器ごとに実装するアンテナ基板GND長が異なる為、機器ごとにアンテナ素子のパターン長を変えたり、整合素子の変更が必要になったりしてしまう。
【0051】
このような場合に今まで説明してきたように機器毎に本発明の特徴である開放導体の長さをそれぞれの機器に実装された誘電体基板のGND部分の長さに応じて調整する事によってアンテナ素子の反射特性を改善する事ができる。
【0052】
図16に本発明の特徴である開放導体と誘電体基板の機器への取付の実施例を示す。図16Aにおいて500は電子機器(図示せず)内部にある筺体板金であり、誘電体基板502を取り付けるネジ穴501を有するものである。504は本発明の特徴である開放導体で中央部にスリット部505を有し誘電体基板502と筺体板金500との間に挿入され、ネジ穴501にネジ止めされ誘電体基板502、開放導体504、筺体板金500は接続され高周波的に接地された状態になる。
【0053】
図16Bに開放導体と誘電体基板を筺体板金に取り付けた状態を示す。この取付状態と図1で示す状態は同一のものである。図1と図16において開放導体106と504は同一の部材である。また図1の108の筺体板金と図16の筺体板金500も同一部材である。
【0054】
図1の誘電体基板104と図16の誘電体基板502も同様に同一部材である。このように本発明の特徴である開放導体504は電子機器本体の筺体板金500と誘電体基板502の間に挟み込みネジ止めする事によって高周波接続される。
【0055】
図17に開放導体504の構成を示す。図17において504は開放導体であり505は開放導体を基板取付板金500のネジ止めする為の長穴もしくはスリットであり、図16Bに示すように誘電体基板502の端部から突出する長さLsを矢印方向に調節可能できる構成となっている。
【0056】
よってアンテナの反射特性の調整は、誘電体基板502の端部から突出する開放導体の長さLsを矢印方向にスライドさせて変える事で行う。
【0057】
その機種に実装される誘電体基板502のGND長に応じてアンテナ基板GND端部から突出させる開放導体Lsの長さを変える事で最適な反射特性に調整するものである。
【0058】
以上説明してきたように、本発明によれば、アンテナ素子形状や、整合素子を変更することなくアンテナ素子の反射特性を改善する事ができ、異なる機種に対しても同一のアンテナで良好な特性を得られる。このため、アンテナの製造、管理がきわめて容易となり、コストを低減することができる。
【0059】
(第2実施形態)
図13は、第2実施形態に係るアンテナの基本構成を示す。図1で説明したアンテナの基本構成と同様であるが、図13において、開放導体部106の形状が第1実施形態とは異なる。第2実施形態に係る開放導体部106は、板状の板金に拘らず、所望の長さを有する導体である。また、伝導率の高いフレキシブルな樹脂にコーティングされた所望の長さを有する銅箔から構成されてもよい。
【0060】
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信用のアンテナであって、
誘電体基板と、
前記誘電体基板上に配置された接地導体部と、
前記誘電体基板上において、前記接地導体部と対向して配置された放射導体部と、前記放射導体部と前記接地導体部とを接続する短絡導体部と、前記放射導体部に高周波電流を給電する給電部とを備えるアンテナ素子と、
前記接地導体部と高周波接続される開放導体部と、を有し、
前記開放導体部は、前記接地導体部と前記短絡導体部との接続位置から対角方向にある前記接地導体部の位置から所定の長さ突出するように前記誘電体基板と接続されていることを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記開放導体部の前記接地導体部から突出する長さが調節可能であることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記接地導体部は、矩形形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記開放導体部が前記接地導体部から突出する位置は、前記接地導体部の端部位置であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記開放導体の前記接地導体部から突出する長さが、前記短絡導体部が前記接地導体部へ向かう方向の前記接地導体部の長さに応じていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記放射導体部は、前記接地導体部と平行に配置されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項7】
前記端部位置は、前記接続位置から最も遠い端部位置であることを特徴とする請求項4に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記接地導体部は、前記短絡導体部が前記接地導体部へ向かう方向の前記接地導体部の長さが、前記アンテナ素子の動作中心周波数の波長の四分の一よりも短い長さであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記開放導体部は、前記接地導体部と所定の角度で接続されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項10】
誘電体基板に配置された接地導体部と、
前記誘電体基板上において、前記接地導体部と対向して配置された放射導体部と、前記放射導体部と前記接地導体部とを接続する短絡導体部と、前記放射導体部に高周波電流を給電する給電部とを備えるアンテナ素子と、
前記接地導体部と高周波接続される開放導体部とを有する、無線通信用のアンテナの調整方法であって、
前記開放導体部が前記接地導体部と前記短絡導体部との接続位置から対角方向にある前記接地導体部の位置から所定の長さ突出する長さを前記短絡導体部が前記接地導体部へ向かう方向の前記接地導体部の長さに応じて変えることにより前記アンテナ素子の入力反射係数を調節することを特徴とするアンテナの調整方法。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れか1項に記載のアンテナを内蔵する電子機器。

【図1】
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【図7】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−138894(P2012−138894A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219566(P2011−219566)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】