説明

アンテナシステムの放射特性の変更方法

【課題】アンテナシステムの放射特性を変更する。
【解決手段】アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備えており、前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの放射位相を変更することで、前記アンテナシステム全体の放射特性を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナシステムの放射特性の変更方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無指向性アンテナとして、例えば、スーパーターンスタイルアンテナ(以下、「STA」ともいう)が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
STAは、超短波(VHF帯、30MHz〜300MHz)のテレビ(FM)放送用アンテナとして広く利用されている。
【0003】
STAは、4つのバットウィング素子を平面視で十字状となるように、支柱の周囲に周方向で90°間隔おきに配置されるように、前記支柱に組みつけて構成されている。一般に、STAが組みつけられた支柱は、鉄塔の最上部に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−151946号公報
【特許文献2】特開平8−22923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、STAの利得を高くする場合、STAを多段化することによって行われていた。したがって、より大きな利得を得ようとすると、STAの段数を多くすることが必要となる。
しかし、STA自体の段数を増やすのは、設置箇所の制約等から困難な場合があった。
【0006】
例えば、STAを多段化する場合、その段数は、STAが組みつけられる支柱の長さに制約を受け、支柱に組み付け可能な数以上のSTAを支柱に組み付けることはできない。しかも、STAは、その構造上、支柱を支持する鉄塔部分には取り付けることができない。この結果、支柱に組み付け可能な数以上のSTA段数を確保して、利得を高めることはできなかった。
【0007】
そこで、本発明者は、特願2010−097943号において、STAのような無指向性アンテナに加えて利得向上用の指向性アンテナを設けることで、無指向性アンテナ単独の場合よりも利得を向上させたアンテナシステムを提案した。
【0008】
ところが、無指向性アンテナに指向性アンテナを加えたアンテナシステムの設置又は運用開始後に、ある特定の一方向の地域が、同一又は隣接周波数の電波の使用を開始することがある。この場合、その地域での混信を避けるため、当該特定の一の方向における利得を低下させて、電波放射を抑制する必要がある。
つまり、放送用アンテナでは、一般に、アンテナ設置位置から全方向に電波を放射する必要があるため、無指向性アンテナが望まれるのであるが、場合によっては、特定の方向における利得を調整して放射特性を変更することが必要となる。
逆に、予め混信を避けるため、当該特定の一の方向における利得を抑制してアンテナを設置したところ、実際に電波を出力してみると、影響が予想よりも少なく、利得を大きくしても混信のおそれが少ない場合がある。また、混信先(同一又は隣接周波数の電波を使用する地域)のサービスが終了した場合や周波数を変更した場合には、混信がなくなるため、特定の方向における利得抑制の必要性がなくなる。なお、先このような場合も、特定の方向の利得を調整して放射特性を変更することが必要となる。
【0009】
そこで、本発明は、アンテナシステムの放射特性の変更を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備えており、前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの放射位相を変更することで、前記アンテナシステム全体の放射特性を変更することを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法である。
上記本発明によれば、指向性アンテナの放射位相を変更すると、無指向性アンテナの放射電波との打ち消し又は強めあいが生じ、アンテナシステム全体の放射特性を変更することができる。
【0011】
(2)放射位相の変更前の前記指向性アンテナは、無指向性アンテナ単独の場合よりも、その指向性アンテナが向く所定方向における利得を向上又は低下させる利得調整用指向性アンテナであり、前記利得調整用指向性アンテナの放射位相を変更することで、無指向性アンテナ単独の場合よりも、前記所定方向における利得を低下又は向上させるのが好ましい。この場合、利得向上用に用いていた指向性アンテナであれば、放射位相を変更するだけで、逆に利得を低下させることができ、利得低下用に用いていた指向性アンテナであれば、放射位相を変更するだけで、逆に利得を向上させることができる。
【0012】
(3)放射位相の変更前においては、前記複数の指向性アンテナは、無指向性アンテナ単独の場合よりも、利得を向上又は低下させる複数の利得調整用指向性アンテナであり、
放射位相の変更は、前記複数の利得調整用指向性アンテナのうちの一部の利得調整用指向性アンテナの放射位相を変更することにより行われるのが好ましい。この場合、複数の指向性アンテナを利得向上用に用いていた場合、一部の方向については、利得を低下させることができるが、他の一部の方向については、利得を向上したままの状態が維持できる。また、複数の指向性アンテナを利得低下用に用いていた場合、一部の方向については、利得を向上させることができるが、他の一部の方向については、利得を低下したままの状態が維持できる
【0013】
(4)放射位相の変更前の前記指向性アンテナの放射位相は、その指向性アンテナが向く所定方向における前記無指向性アンテナの放射位相と、ほぼ同相又は逆相であり、前記指向性アンテナの放射位相を、変更前の放射位相からほぼ180°変更することで、前記アンテナシステム全体の放射特性を変更するのが好ましい。放射位相の変更前の前記指向性アンテナの放射位相が、その指向性アンテナが向く所定方向における前記無指向性アンテナの放射位相と、ほぼ同相であることで、所定方向における大きな利得向上効果が得られる状態となっている。そして、放射位相をほぼ180°変更することで、逆に大きな利得低下効果が得られる。
【0014】
(5)他の観点からみた本発明は、アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備えており、前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナを、その指向性アンテナが向く方向の軸線回りにほぼ180°回転させることを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法である。この場合も、指向性アンテナの放射位相を180°変更することができる。
【0015】
(6)他の観点からみた本発明は、アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備え、前記指向性アンテナは、アンテナ素子と、前記アンテナ素子の後方に配置された反射板と、を備えており、前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの前記アンテナ素子を、前記反射板に対して、その指向性アンテナが向く方向の軸線回りにほぼ180°回転させることを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法である。この場合も、指向性アンテナの放射位相を180°変更することができる。
【0016】
(7)アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備え、前記指向性アンテナは、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に設けられた給電部と、を備えており、前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの前記給電部を、前記アンテナ素子に対して、その指向性アンテナが向く方向の軸線回りにほぼ180°回転させることを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法である。この場合も、指向性アンテナの放射位相を180°変更することができる。
(8)アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備え、前記指向性アンテナの給電部には、給電用同軸線路の内導体及び外導体がそれぞれ接続されており、前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナに接続されている前記内導体及び前記外導体の前記給電部における接続先を互いに入れ替えて前記給電部へ接続することを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法である。この場合も、指向性アンテナの放射位相を180°変更することができる。
【0017】
なお、放射位相を変更する場合、アンテナシステムへの給電を一旦中断した上で、放射位相の変更(アンテナの回転など)を行い、その後、アンテナシステムへの給電を再開すればよい。
【0018】
(9)前記無指向性アンテナは、スーパーターンスタイルアンテナであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、指向性アンテナの放射位相を変更することで、アンテナシステム全体の指向性をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】スーパーターンスタイルアンテナが搭載された鉄塔の正面図(指向性アンテナは非取付)である。
【図2】図1の鉄塔の最上部付近の拡大正面図である。
【図3】図1の鉄塔の平面図である。
【図4】図2の鉄塔に指向性アンテナを取り付けた正面図である。
【図5】図4の指向性アンテナを平面視した平面図であり、(a)はスキューなし配置を示し、(b)はスキュー配置を示す。
【図6】給電回路の部分回路図である。
【図7】給電回路の部分回路図である。
【図8】図7において北向き指向性アンテナの上下向きを逆にした給電回路の部分回路図である。
【図9】2L双ループアンテナの放射位相変更方法のバリエーションを示す図である。
【図10】2ダイポールアンテナの放射位相変更方法のバリエーションを示す図である。
【図11】(a)は、第1実施形態(1−A)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートであり、(c)は、その垂直面指向性(方位0°)を示すチャートである。
【図12】(a)は、第1実施形態(1−B)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートであり、(c)は、その垂直面指向性(方位0°)を示すチャートであり、(d)は、その垂直面指向性(方位180°)を示すチャートである。
【図13】(a)は、第2実施形態(2−A)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図14】(a)は、第2実施形態(2−B)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図15】(a)は、第3実施形態(3−A)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図16】(a)は、第3実施形態(3−B)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図17】(a)は、第4実施形態(4−A)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図18】(a)は、第4実施形態(4−B)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図19】(a)は、第5実施形態(5−A)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図20】(a)は、第5実施形態(5−B)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【図21】(a)は、第6実施形態(6−A)の水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートであり、(b)は、方位0°の垂直指向性を示すチャートであり、(c)は方位180°の垂直指向性を示すチャートである。
【図22】(a)は、第6実施形態(6−B)のアンテナ概略配置図であり、(b)は、その水平面指向性(チルト角0°)を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.鉄塔の構造]
図1は、スーパーターンスタイルアンテナ9が搭載された鉄塔1の正面図である。
図1に示すように、この鉄塔1は、鉄骨製のトラス構造物であり、例えば、給電設備を有する建物2の天井部分に立設されている。この鉄塔1は、下から順に、第1トラス部3、第2トラス部4、第3トラス部5、及び支柱6を備えている。なお、支柱6は、円筒形状であるが、その形状が特に限定されるものではなく、断面が矩形状であってもよい。
【0022】
第1トラス部3は、鉄塔1の下部を構成するためトラス幅が最も大きく、この第1トラス部3の上端に、トラス幅2が2番目に大きい第2トラス部4が立設されている。
また、この第2トラス部4の上端に、トラス幅が最も小さい第3トラス部5が立設されている。従って、図1の鉄塔1では、支柱6が当該鉄塔1の最上部に配置されている。
【0023】
図2にも示すように、支柱6には、スーパーターンスタイルアンテナ(STA)9a〜9fが設けられている。
STA9a〜9fは、図3に示すように、4つのバットウィング素子12a,12b,12c,12dを平面視で、十字状となるように、中央支柱6の周囲に周方向で90°間隔おきに配置することによって構成され、この4つのバットウィング素子12a,12b,12c,12dよりなるSTA9a〜9fは、支柱6に対して、上下方向で一定間隔おきに複数段(図例では合計6段)設けられている。
なお、ここでは、各STA9a〜9fの4個のバットウィング素子12a〜12dは、それぞれ、北(N)、東(E)、南(S)、西(W)を向いているものとするが、方位が特に限定されるものではない。
【0024】
STA9a〜9fが組みつけられる支柱6は、その下部範囲が、トラス部5内に挿入されている。支柱6は、最下段のSTA9fのやや下方位置6a及び支柱最下端6bが、トラス部5の最上部5a及びトラス部5上下方向中途部における支持部5bの2点で支持されている。つまり、トラス部5の位置5aから位置5bの間が、支柱6の支持部となっている。
【0025】
また、トラス部5内部において、支柱が存在する範囲(位置5aから位置5bまでの範囲)には、STA9a〜9b用の給電線(給電回路)の配置部17とされている。
【0026】
[2.指向性アンテナを追加したアンテナシステム]
図4は、STA9a〜9fに加えて指向性アンテナを備えた第1実施形態に係るアンテナシステム10及び当該アンテナシステム10を備えた鉄塔1を示している。図1及び図2においては、支柱6に組み付けられていた6段のSTA9a〜9fだけが設けられていたのに対し、図4に示すアンテナシステム10では、6段のSTA9a〜9fに加えて、アンテナ利得調整のために、指向性アンテナ(利得調整用指向性アンテナ)15,16を、STA9a〜9fの下方に、2段配置して構成されている。これらの指向性アンテナ15,16を設けることで、図1及び図2のようにSTA単独の場合に比べてアンテナ利得が変化するように、調整することができる(詳細は後述する)。
【0027】
図5に示すように、指向性アンテナの各段15,16には、それぞれ、4面(4個)の指向性アンテナ15a,15b,15c,15d(16a,16b,16c,16d)が設けられている。STAは、支柱6の周囲に取り付ける必要があるため、鉄塔1のトラス部5に設けることはできないが、指向性アンテナは、トラス部5の周囲に配置できるため、支柱6にアンテナを追加する余裕がなくても、支柱6下方のトラス部5において、アンテナシステム10の段数を増加させることができる。つまり、アンテナシステム全体のアンテナ段数(8段)は、スーパーターンスタイルアンテナを支柱6に取り付けることが可能な段数(6段)を超えた段数となっている。
【0028】
このアンテナシステムが備えた鉄塔を得るには、STA9a〜9fを支柱に組み付ける工程と、指向性アンテナ15a,15b,15c,15d,16a,16b,16c,16dをトラス部5周囲に配置する工程と、を含む工程を実施すればよい。
【0029】
なお、図1及び図2に示すように、STA9a〜9fが既に設置されている場合には、既設のSTA9a〜9fを利用して、STA9a〜9fへ給電される信号と同じ信号が給電される指向性アンテナを追加することで、アンテナシステムを構成することができる。
また、STA9a〜9fが既に設置されている場合であっても、既設のSTA9a〜9fを除去した上で、新たなSTA9a〜9f及び指向性アンテナからなるアンテナシステムを設置してもよい。既設のSTA9a〜9fを除去して新たなSTAを設置する場合、STA9a〜9fを構成するバットウィング素子を支柱6から取り外すが、支柱6は既設のものをそのまま残しておき、既設の支柱6に新たなバットウィング素子を取り付けてもよいし、支柱6及びバットウィング素子の双方を鉄塔1から取り外して、新たな支柱6及びバットウィング素子を設置してもよい。
【0030】
図5に示すように、トラス部5の内部において、支柱6の周囲は、STAの給電線(多数のバットウィング素子に接続される多数の分岐ケーブル)の配置部17となっている。
本実施形態の指向性アンテナは、給電線の配置部17よりも外周側に配置されており、給電線配置部17との干渉を避けている。このため、STAの給電線の配置をさほど変更することなく、指向性アンテナを追加的に設けることが可能である。また、給電線配置部17付近は、アンテナが設けられていないデッドスペースとなっていたが、本実施形態のアンテナシステム10では、配置部17付近が有効活用できる。
【0031】
本実施形態の指向性アンテナ15,16は、その種類が特に限定されるものではなく、反射板付アンテナ、2L双ループアンテナ、ダイポールアンテナなど、いわゆるパネルアンテナとして用いられるものを利用可能である。以下では、指向性アンテナとして、2L双ループアンテナを採用した場合について説明する。
【0032】
なお、2L双ループアンテナ15a,15b,15c,15d(16a,16b,16c,16d)は、図4及び図5に示すように上下方向に所定間隔を空けて配置された一対のループ部22と、両ループ部22間の中央部に配置された給電部23と、給電部3から上下の各ループ部22側に向けて延びる一対の給電線路24と、ループ部22に対して所定間隔を空けて背面側に配置された反射板25と、この反射板5にループ部22を支持する支持器27とを備えている。
【0033】
図5(a)において、各段15,16の4面の指向性アンテナは、バットウィング素子12a〜12dの向きに合わせて、それぞれ、北(N)、東(E)、南(S)、西(W)を向いている。つまり、4面の指向性アンテナ15a,15b,15c,15dは、鉄塔1の周囲において、それぞれ90°異なる方向を向いて配置されている。
【0034】
図5(b)は、図5(a)に示す配置から、各指向性アンテナ15a,15b,15c,15dの幅方向中心位置を、幅方向に所定距離dほどずらして配置した、スキュー配置を示している。スキュー配置とすることで、4つの指向性アンテナ15a〜15dの水平面指向性を無指向により近づけることができる。
【0035】
スキュー配置の場合、第1指向性アンテナ15aがずれる方向は、−90°(=270°)位相のアンテナである第4指向性アンテナ15dから遠ざかる方向となる。同様に、第2指向性アンテナ15bは第1指向性アンテナ15aから、第3指向性アンテナ15cは第2指向性アンテナ15bから、第4指向性アンテナ15dは第3指向性アンテナ15cから、遠ざかる方向となる。
【0036】
各段15,16の指向性アンテナ15a,15b,15c,15dの配置としては、図5(a)のスキューなし配置のほか、図5(b)のスキュー配置を採用してもよい。
【0037】
図6及び図7は、6段のSTA9a〜9f及び2段の無指向性アンテナ15,16からなるアンテナシステム10の給電回路を示している。
なお、以下では、6段のSTA9a〜9fのうちの上側4段のSTA9a〜9dを、総称して「上段」といい、下側2段のSTA9e,9f及び2段の無指向性アンテナ15,16を総称して「下段」という。
【0038】
この給電回路は、6段のSTA9a〜9f及び2段の無指向性アンテナ15,16それぞれに同一の送信信号を給電する送信機30を備えている。給電回路は、送信機30から出力された送信信号が入力される2つの3dBカプラ(90°ハイブリッド回路)31a,31bを備えている。なお、図6のように、1台の送信機30から同一の信号を31a、31bに送るのではなく、同一の信号を出力する2台の送信機のうちの1台の送信機からの信号を一方の3dBカプラ31aに送信し、もう1台の送信機からの同一の信号を他方の3dBカプラ31bに送信してもよい。
これらの3dBカプラ31a,31bは、各アンテナへ給電される送信信号に90°の位相差を生じさせるものである。
各3dBカプラ31a,31bは、2入力2出力であり、2入力In1,In2のうちの一つIn1は、送信機30に接続され、他方In2は、ダミーロード32が接続されている。
各3dBカプラ31a,31bの2出力Out1,Out2からは、互いに90°の位相差を持つ信号が出力される。位相差は、給電線(ケーブル)の長さの調整によって確保することもできるが、給電線の長さの調整で位相差を確保する場合、周波数(波長)によって位相差がやや異なることになるが、3dBカプラ31a,31bを用いて位相差を実現すると、広帯域で正確に90°の位相差を生じさせることができる。
【0039】
2つの3dBカプラ31a,31bのうち、第1の3dBカプラ31aは、上段のアンテナ9a〜9d用である。第1の3dBカプラ31aの第1出力Out1には、上段の各北向きバットウィング素子12a及び各南向きバットウィング素子12cに接続されるN−S上段系給電線33dが接続されている。
また、第1の3dBカプラ31aの第2出力Out2には、上段の各東向きバットウィング素子12b及び各西向きバットウィング素子12dに接続されるE−W上段系給電線33bが接続されている。
上記給電線33d,33bには、互いに90°の位相差が生じる。
【0040】
2つの3dBカプラ31a,31bのうち、第2の3dBカプラ31bは、下段のアンテナ9e,9f,15,16用である。第2の3dBカプラ31bの第1出力Out1には、下段の各北向きバットウィング素子12a及び各南向きバットウィング素子12cに接続されるN−S下段系給電線33cが接続されている。
また、第2の3dBカプラ31bの第1出力Out1には、下段の各北向き指向性アンテナ15a,16a及び各南向き指向性アンテナ15c,16cに接続されるN−S下段系給電線33eも接続されている。
【0041】
第2の3dBカプラ31bの第2出力Out2には、下段の各東向きバットウィング素子12b及び各西向きバットウィング素子12dに接続されるE−W下段系給電線33aが接続されている。
また、第2の3dBカプラ31bの第2出力Out2には、下段の各東向き指向性アンテナ15b,16b及び各西向き指向性アンテナ15d,16dに接続されるE−W下段系給電線33fも接続されている。
【0042】
E−W下段系給電線33a,33fと、N−S下段系給電線33c,33eとの間には、互いに90°の位相差が生じる。
【0043】
STA9a〜9fの各バットウィング素子12a〜12dに接続される給電線33a,33b,33c,33dの中途には、位相調整部34a,34b,34c,34dが設けられている。これらの位相調整部34a〜34dは、指向性アンテナ15,16に接続される給電線33e,33fの給電位相に対して、所定の位相差を生じさせるためのものである。図6において、位相調整部34a〜34bは、ボックスで示しているが、本実施形態においては、所定の位相差を生じさせるように、長さが設定された給電線によって構成されている。ただし、位相調整は、給電線の長さの調整によるのではなく、移相器を用いても良い。
なお、上記位相調整部34a〜34bの詳細な役割については、後述する。
【0044】
N−S上段系給電線33dは、8分岐の分岐ケーブル(分岐給電線)35dを介して、上段の4個の北向きバットウィング素子12aの給電点及び上段の4個の南向きバットウィング素子12cの給電点に接続されている。
N−S下段系給電線33cは、4分岐の分岐ケーブル(分岐給電線)35cを介して、下の2個の北向きバットウィング素子12aの給電点及び下段の2個の南向きバットウィング素子12cの給電点に接続されている。
【0045】
8本の分岐ケーブル35d及び4本の分岐ケーブル35cは、それぞれ、同軸ケーブルであり、同軸ケーブル内導体と外導体が、バットウィング素子又は支柱6に接続される。例えば、北向きバットウィング素子(第1バットウィング素子)12aの給電点には同軸ケーブル(第1同軸給電線)35d,35cの内導体が接続され、その同軸ケーブル(第1同軸給電線)35d,35cの外導体は、支柱6(グランド電位)に接続される。
これに対し、南向きバットウィング素子(第3バットウィング素子)12cには、同軸ケーブル(第3同軸給電線)35d,35cの外導体が接続され、その同軸ケーブル(第3同軸給電線)35d,35cの内導体は、支柱6(グランド電位)に接続される。
【0046】
このように、180°間隔で配置されている北向きバットウィング素子(第1バットウィング素子)12aと南向きバットウィング素子(第3バットウィング素子)12cとに対し、同軸ケーブル(第1及び第3同軸給電線)35d,35cの内外導体の接続の仕方を逆にすることで、これらのバットウィング素子12a,12c間に180°の給電位相差を生じさせることができる。
【0047】
E−W上段系給電線33bは、8分岐の分岐ケーブル(分岐給電線)35bを介して、上段の4個の東向きバットウィング素子12bの給電点及び上段の4個の西向きバットウィング素子12dの給電点に接続されている。
E−W下段系給電線33cは、4分岐の分岐ケーブル(分岐給電線)35aを介して、下段の2個の東向きバットウィング素子12bの給電点及び下段の2個の西向きバットウィング素子12dの給電点に接続されている。
【0048】
8本の分岐ケーブル35b及び4本の分岐ケーブル35aも、それぞれ、同軸ケーブルであり、同軸ケーブル内導体と外導体が、バットウィング素子又は支柱6に接続される。例えば、東向きバットウィング素子(第2バットウィング素子)12bの給電点には同軸ケーブル(第2同軸給電線)25b,35aの内導体が接続され、その同軸ケーブル(第2同軸給電線)35b,35aの外導体は、支柱6(グランド電位)に接続される。
これに対し、西向きバットウィング素子(第4バットウィング素子)12dの給電点には、同軸ケーブル(第4同軸給電線)35b,35aの外導体が接続され、その同軸ケーブル(第4同軸給電線)35b,35aの内導体は、支柱6(グランド電位)に接続される。
【0049】
このように、180°間隔で配置されている東向きバットウィング素子(第2バットウィング素子)12bと西向きバットウィング素子(第4バットウィング素子)12dとに対し、同軸ケーブル(同軸給電線)35b,35aの内外導体の接続の仕方を逆にすることで、これらのバットウィング素子12b,12d間に180°の給電位相差を生じさせることができる。
【0050】
そして、N−S系給電線33d,33cと、E−W系給電線33b,33aと、の間には、90°の位相差が設けられていることから、北向きバットウィング素子12aの給電位相を0°とすると、東向きバットウィング素子12bには90°の位相差が生じ、南向きバットウィング素子12cには180°の位相差が生じ、西向きバットウィング素子12dには270°の位相差が生じる。
このように、4つの各バットウィング素子12a〜12dには、90°の位相差で給電される。
したがって、STA9a〜9fは、無指向性アンテナとして機能する。なお、本実施形態においては、STAの各段間において、位相差は生じないように設定されている。本実施形態のように、各段間において、位相差がない場合には、チルト角が0°となるが、チルト角の設定などの垂直面指向性の設計によっては、必要に応じて、段間で位相差を設けても良い。
【0051】
N−S下段系給電線33eは、4分岐の分岐ケーブル(分岐給電線)35eを介して、下段の2個の北向き指向性アンテナ15a,16aの給電点及び下段の2個の南向き指向性アンテナ15c,16cの給電点に接続されている。
また、E−W下段系給電線33fは、4分岐の分岐ケーブル(分岐給電線)35fを介して、下段の2個の東向き指向性アンテナ15bの給電点及び下段の2個の西向き指向性アンテナ15dの給電点に接続されている。
【0052】
図7に示すように、南向き指向性アンテナ(第3指向性アンテナ)15c及び西向き指向性アンテナ(第4指向性アンテナ)15dは、北向き指向性アンテナ(第1指向性アンテナ)15a及び東向き指向性アンテナ(第2指向性アンテナ)15bに対して、上下逆向きに設置されている。ここで、上下逆向きとは、アンテナを、アンテナ中心(給電点の位置)を通りかつ指向性アンテナが向く方向の軸線回りに180°回転対称に設置した状態をいう。
2L双ループアンテナの場合、2つのループ部22,22のうち、一方のループ部22が上側に位置し、他方のループ部22が下側に位置する場合を「上向き」とした場合、前記一方のループ部22が下側に位置し、前記他方のループ部22が上側に位置するように上下逆向にした場合を「下向き」ということができる。
なお、図7では、指向性アンテナ15a,15bが上向きであることを「上向き矢印」で示し、指向性アンテナ15c,15dが下向きであることを「下向き矢印」で示した。
このように、上下逆向き(アンテナを180°回転対称に設置)することで、アンテナ15,16に設けられたバルンの同軸給電点を左右入れ替えて設置することになり、放射位相を180°異ならせることができる。
【0053】
そして、N−S下段系給電線33eと、E−W下段系給電線33fと、の間には、90°の給電位相差が設けられていることから、北向き指向性アンテナ(第1指向性アンテナ)15aの放射位相を0°とすると、東向き指向性アンテナ(第2指向性アンテナ)15bの放射位相には90°の位相差が生じ、南向き指向性アンテナ(第3指向性アンテナ)15cの放射位相には180°の位相差が生じ、西向き指向性アンテナ(第4指向性アンテナ)15dの放射位相には270°の位相差が生じる。
【0054】
このように各段15,16の4つの指向性アンテナ15a〜15d,16a〜16dは、それぞれ、90°の位相差で電波放射を行う。つまり、4つの指向性アンテナには、これら4つの指向性アンテナの配置角度間隔(90°)に応じた、位相差(90°)が与えられている。
【0055】
本実施形態では、チルト角が0°とされるため、図6及び図7に示す給電回路は、同一方位(例えば、北)の各段(バットウィング素子12aの給電点及び指向性アンテナ)15a,16aの給電点には、給電位相が同相(位相調整部34a〜34dにおける位相調整量を除く)となるように、給電線の長さ等が設定されている。
例えば、位相調整部34a〜34dにおける位相調整量を除いて考えると、北向きバットウィング素子12aの給電位相を0°とすると、指向性アンテナ15aの給電位相も0°となり、給電位相差が生じないように構成されている。
【0056】
ただし、本実施形態では、位相調整部34a〜34dが設けられているため、同一方位のバットウィング素子及び指向性アンテナの間であっても、給電位相差が生じるようになっている。STAと指向性アンテナとでは、アンテナとしての構造が異なるため、同相で給電されても、放射位相には位相差が生じてしまう。そこで、位相調整部34a〜34dによって給電位相を調整することで、同一方位のバットウィング素子及び指向性アンテナの放射位相を揃える。
【0057】
指向性アンテナ15,16を設けることによって、STA9a〜9f単独の場合よりも、アンテナシステム10全体の利得を向上させるためには、可能な限り、同一方位のバットウィング素子及び指向性アンテナの放射位相が同相であるのが好ましい。両者の放射位相が異なると、互いに打ち消しあって、利得向上効果が低下するからである。
【0058】
例えば、位相調整部34a〜34dによる位相調整量が「0°」である場合(位相調整部を省略した場合)に、所定の基準方向(例えば、北方向)の遠方(遠方界)において、STAの放射位相と指向性アンテナの放射位相との間に、50°の位相差が生じれば、位相調整部34a〜34dによる位相調整量を−50°に設定すればよい。
具体的には、−50°の位相差が生じるように、各位相調整部34a〜34dを構成する給電線の長さを設定すればよい。
このような位相設定によって、利得向上が望まれる方向の遠方における放射位相を同相にして、アンテナシステム10全体の利得を効率的に向上させることができる。
なお、本実施形態では、STA9a〜9fに接続される給電線33a〜33dに位相調整部34a〜34dを設けたが、これに代えて/加えて、指向性アンテナに接続される給電線33e,33fに位相調整部を設けても良い。
また、放射位相差は、実測してもよいが、シミュレーションによって求めるのが簡便である。
【0059】
ここで、STA9a〜9dは、各バットウィング素子への給電位相差があることから、水平面でみた放射方向(0°〜360°)に応じて放射電波の位相が異なるものである。つまり、本実施形態のSTAでは、北方向の放射位相を0°とすると、東方向の放射位相差は90°、南方向の放射位相差は180°、西方向の放射位相差は270°となる。
【0060】
そして、本実施形態の各段15,16の複数の指向性アンテナは、90°間隔で4面配置であり、しかも、90°間隔であることに応じて、周方向に隣接する各指向性アンテナの位相差を90°としている。したがって、本実施形態の複数の指向性アンテナも、STAと同様に、放射方向に応じて放射電波の位相が異なったものとなっている。
つまり、本実施形態の指向性アンテナ15a〜15d,16a〜16dでは、北方向の放射位相を0°とすると、東方向の放射位相差は90°、南方向の放射位相差は180°、西方向の放射位相差は270°である。
【0061】
このため、本実施形態では、一つの基準方向(例えば、北方向)において、STAの放射位相と指向性アンテナの放射位相とを同相にするための位相調整量を把握し、その一つの基準方向において、遠方の放射位相が同相となるように位相調整すれば、自然に、他の全方向においても、遠方の放射位相を同相にすることができる。つまり、全方向における利得を向上させることができる。
【0062】
なお、放射位相を同相にする場合、完全に位相が一致している必要はなく、ほぼ同相であればよい。また、放射電波のチルト角を調整する場合等には、ある程度の位相差を生じさせたほうが良い場合もあるため、そのような場合には、ある程度の位相差があってもよい。つまり、位相調整部34a〜34dでは、利得が向上するように位相が調整されていればよい。
例えば、本実施形態では、チルト角が0°の場合を前提としたため、同一方位の各段15a,16aの給電点には、給電位相が同相(位相調整部34a〜34dにおける位相調整量を除く)となるように、給電線の長さ等が設定されているが、所定のチルト角α°(例えば、1°)を設ける場合には、当該チルト角α°に対応した位相差が各段15,16間に生じるように、給電線の長さ等が設定される。また、チルト角に対応した位相差は、指向性アンテナの各段15,16だけでなく、各段のSTA9a〜9f及び指向性アンテナ15,16それぞれに対し生じさせても良い。なお、チルト角に対応した位相差は、位相調整部に代えて/又は加えて、ケーブル長の調整で調整を行っても良い。
また、本実施形態のようにチルト角が0°の場合、前述のように、水平面における一つの基準方向において、ほぼ同相となるように位相調整部34a〜34dによる位相調整量が設定され、チルト角がα°の場合には、そのα°の面における一つの基準方向においてほぼ同相となるように位相調整部34a〜34dによる位相調整量を設定してもよい。
このように、利得を向上させるほか、所望の垂直面指向性を得ることを目的として、各段のSTA9a〜9f及び指向性アンテナ15,16それぞれに対して位相差を設けても良い。また、前記目的のため、各段のSTA9a〜9f及び指向性アンテナ15,16それぞれに給電する電力を変更してもよい。
【0063】
[3.放射特性の変更(無指向性から特定方向の電波方向が抑制された状態への変更)]
上記のアンテナシステムでは、4方向それぞれの指向性アンテナは、すべて利得向上用指向性アンテナとして機能しており、STA9a〜9f単独よりも、4方向全てにおいてアンテナ利得を向上させることができている。したがって、支柱6にSTAを増設する余裕がない場合であっても、高利得の無指向性アンテナシステムを構築し、運用することができる。
【0064】
放送用アンテナでは、一般に、アンテナ設置位置から全方向に電波を放射する必要があるため、4方向全てにおいてアンテナ利得を向上させるのが、望ましい。ところが、アンテナシステムの構築・運用後に、特定の方向の電波放射を抑制したい場合が生じることがある。例えば、特定の方向の地域において、同一又は隣接周波数の電波を使用しているため、その地域での混信が問題となった場合等である。
【0065】
このような場合、電波放射を抑制したい(利得を低下させたい)方向の指向性アンテナの放射電波の位相を変更することで、アンテナシステム全体でみると、その方向のアンテナ利得を低下させることができる。
【0066】
以下では、例として、アンテナ利得を低下させたい方向が「北方向(方位0°)」であるものとして説明する。この場合、北向き指向性アンテナ15a,16aの放射位相を180°変更することで、北方向(方位0°)については、STAの放射電波を北向き指向性アンテナ15a,16bで打ち消すことができる。つまり、利得向上用であって北向き指向性アンテナ15a,16bの放射位相を変更することで、北向き指向性アンテナ15,16bは、利得低下用に変更され、北方向(方位0°)の電波放射を抑制することができる。
【0067】
また、利得低下が所望されない他の方向(方位90°、180°、270°)を向く他の指向性アンテナ15b,16b,15c,16c,15d,16dについては、放射位相を変更しないことによって、STA単独の場合よりも利得を高めた状態を維持できる。つまり、東向き、南向き、及び西向きの各指向性アンテナ15b〜15d、16b〜16dは、利得向上用指向性アンテナとして機能したままの状態となる。
【0068】
このように、北向き指向性アンテナ15a,16aを、利得向上用から、利得低下用に変更することで、北方向(方位0°)に、同一周波数又は近い周波数でサービスする局が存在しても、北方向の電波放射を抑えて、混信を避けることができる。しかも、他の方向には、利得向上用指向性アンテナ15b〜15dが存在し続け、利得向上効果を維持できる。
なお、利得を低下させた方向の利得を再度向上させたい場合には、放射位相を変更した指向性アンテナ15a,1bの放射位相を元に戻せばよい。
【0069】
放射位相の変更対象となっている指向性アンテナ15a,16aの放射位相の変更量が180°である場合、指向性アンテナ15a,16aの向く方向において、その放射位相が、STAの放射位相とほぼ逆相になり、最大の利得低下効果が得られる。ただし、放射位相の変更量は180°に限られない。180°未満の放射位相の変更であっても、STAの放射位相と同相である場合よりは、利得を低下させることができる。
また、放射位相変更前において、STAと指向性アンテナは、完全に同相となっている必要はなく、例えば、利得向上効果が得られていれば良い。
【0070】
放射位相の変更対象となっている指向性アンテナ15a,16aの放射位相の変更は、給電線の長さを変更するなどして給電位相を変えることで実現してもよいが、アンテナ15a,16b等の回転によるのが簡便で好ましい。給電線の長さを変更する場合は、放射位相の変更量を任意に調整することが可能で、この観点からは好ましい一方、給電線の取替えなどが必要で、放射位相の変更のために大掛かりな作業が必要となる。
これに対し、放射位相の変更対象となっている北向き指向性アンテナ15a,16aの回転によって上下向きを変更すれば、容易に放射位相を180°変更することができる。
図8は、図7において「上向き」であった北向き指向性アンテナ15a,16bを、「下向き」に変更した様子を示している。この場合、北向き指向性アンテナ15a,16bの放射位相は、同じく「下向き」の南向き指向性アンテナ15c,16cと同相となる。
【0071】
図9は、指向性アンテナ15a,16aが2L双ループアンテナ(水平偏波)である場合において、放射位相を180°変更する方法のバリエーションを示している。ここでは、変更前後の各部材22,23,25の位置関係が容易に理解できるように、放射位相変更前において正面からみたときのループ部(アンテナ素子)22の左側を「22L」、同じくループ部22の右側を「22R」、同じくループ部22の上側を「22U」、同じくループ部22の下側を「22D」の符号で示す。
また、放射位相変更前において正面からみたときの給電部23の左側を「23L」、同じく給電部23の右側を「23R」の符号で示す。
さらに、放射位相変更前において正面からみたときの反射板25の左側を「25L」、同じく反射板25の右側を「25R」、同じく反射板25の上側を「25U」、同じく反射板25の下側を「25D」の符号で示す。
【0072】
図9(A)は、2L双ループアンテナにおける放射位相変更の第1例を示している。この第1例では、指向性アンテナアンテナ15a,16a全体を、アンテナ中心(給電点の位置)を通りかつ指向性アンテナが向く方向の軸線C回りに180°回転させる。これにより、指向性アンテナ15a,16aへの給電位相を変更しなくても、指向性アンテナ15,16aからの放射位相を180°変更することができる。
アンテナ15a,16b全体を回転させるには、まず、アンテナ15a,16bをトラス部5に取り付けている金具を取り外して、アンテナ15a,16bを回転させ、その後、再び、金具によってアンテナ15a,16bをトラス部5に取り付ければよい。
【0073】
図9(B)は、2L双ループアンテナにおける放射位相変更の第2例を示している。この第2例では、反射板25は回転させることなく、給電部23を含めたアンテナ素子(給電部23及びループ部22)を、反射板25に対して、軸線C回りに180°回転させる。これにより、指向性アンテナ15a,16aへの給電位相を変更しなくても、指向性アンテナ15,16aからの放射位相を180°変更することができる。
給電部23を含めてアンテナ素子22を回転させるには、給電部23及びループ部22を反射板25に取り付けている金具を外して、給電部23及びループ部22を回転させ、その後、再び、金具によって、給電部23及びループ部22を反射板25に取り付ければよい。
【0074】
図9(C)は、2L双ループアンテナにおける放射位相変更の第3例を示している。この第3例では、反射板25及びループ部(アンテナ素子)22は回転させることなく、給電部23を、軸線C回りに180°回転させる。これにより、ループ部(アンテナ素子)に給電される給電位相が180°変更される(右側給電/左側給電の切替がされる)。
給電部23を回転させるには、給電部23をループ部22及び反射板25に取り付けている金具を外して、給電部23を回転させ、その後、再び、金具によって給電部23をループ部22及び反射板25に取り付ければよい。
【0075】
図10は、指向性アンテナ15a,16aが2ダイポールアンテナ(水平偏波)である場合において、放射位相を180°変更する方法のバリエーションを示している。2ダイポールアンテナは、上下二つのダイポール部122と、給電部123と、反射板125と、を備えている。給電部123には、同軸ケーブル135(分岐給電線35e)の内導体135aと外導体135bとが接続される。
なお、図10(A)〜(D)において、同軸ケーブル(分岐給電線)135は、左右方向に延びるように描かれているが、これは理解の容易のために、単なるイメージとして示してものである。同軸ケーブル(分岐給電線)135は、実際には、給電部123の内部または側面に配置されている。
【0076】
ここでは、放射位相の変更前後の各部材122,123,125の位置関係が容易に理解できるように、放射位相変更前において正面からみたときのダイポール部(アンテナ素子)122の左側を「122L」、同じくダイポール部122の右側を「122R」、同じくダイポール部122の上側を「122U」、同じくダイポール部122の下側を「122D」の符号で示す。
また、放射位相変更前において正面からみたときの給電部123の左側を「123L」、同じく給電部123の右側を「123R」の符号で示す。
さらに、放射位相変更前において正面からみたときの反射板125の左側を「125L」、同じく反射板125の右側を「125R」、同じく反射板125の上側を「125U」、同じく反射板125の下側を「125D」の符号で示す。
【0077】
図10(A)は、2ダイポールアンテナにおける放射位相変更の第1例を示している。この第1例では、図9(A)の場合と同様に、指向性アンテナアンテナ15a,16a全体を、アンテナ中心(給電点の位置)を通りかつ指向性アンテナが向く方向の軸線C回りに180°回転させる。これにより、指向性アンテナ15a,16aへの給電位相を変更しなくても、指向性アンテナ15,16aからの放射位相を180°変更することができる。
アンテナ15a,16b全体を回転させるには、まず、アンテナ15a,16bをトラス部5に取り付けている金具を取り外して、アンテナ15a,16bを回転させ、その後、再び、金具によってアンテナ15a,16bをトラス部5に取り付ければよい。
【0078】
図10(B)は、2ダイポールアンテナにおける放射位相変更の第2例を示している。この第2例では、図9(B)と同様に、反射板125は回転させることなく、給電部123を含めたアンテナ素子(給電部123及びダイポール部122)を、反射板125に対して、軸線C回りに180°回転させる。これにより、指向性アンテナ15a,16aへの給電位相を変更しなくても、指向性アンテナ15,16aからの放射位相を180°変更することができる。
給電部123を含めてアンテナ素子122を回転させるには、給電部123及びアンテナ素子122を反射板125に取り付けている金具を外して、給電部123及びアンテナ素子122を回転させ、その後、再び、金具によって、給電部123及びアンテナ素子122を反射板125に取り付ければよい。
【0079】
図10(C)は、2ダイポールアンテナにおける放射位相変更の第3例を示している。この第3例では、反射板125及びアンテナ素子122は回転させることなく、給電部123を、軸線C回りに180°回転させる。これにより、アンテナ素子122に給電される給電位相が180°変更される(右側給電/左側給電の切替がされる)。
給電部123を回転させるには、給電部123をアンテナ素子122及び反射板125に取り付けている金具を外して、給電部123を回転させ、その後、再び、金具によって給電部123をアンテナ素子122及び反射板125に取り付ければよい。
【0080】
図10(D)は、2ダイポールアンテナにおける放射位相変更の第4例を示している。この第4例では、指向性アンテナ15a,16aを回転させることなく、信号の入力ケーブルである同軸ケーブル(給電同軸線路)135の接続位置を左右反転させる。つまり、放射位相変更前において、内導体135aが、給電部123における右側の給電点(第1の給電点)に接続され、外導体135bが、給電部123における左側の給電点(第2の給電点)に接続されている場合、放射位相を変更するには、内導体135aと外導体135bの接続先を互いに入れ替えればよい。具体的には、内導体135aを、給電部123における左側の給電点(第2の給電点)に接続し、外導体135bを、給電部123における右側の給電点(第1の給電点)に接続すればよい。これにより、アンテナ素子122に給電される給電位相が180°変更される。なお、給電同軸線路135としては、同軸ケーブルに限らず、同軸管であってもよい。
【0081】
[4.放射位相変更前後のアンテナシステムの放射特性]
[4.1 第1実施形態の放射特性]
図11は、上記第1実施形態に係るアンテナシステムにおいて、指向性アンテナ配置として、図5(b)に示すスキュー配置(d=0.3m)を採用した場合の放射位相変更前(実施形態1−A)の特性を示している。なお、参考のため、図11(a)に第1実施形態に係るアンテナシステム10の概略配置を示した。放射位相変更前において、第1実施形態に係るアンテナシステム10の水平面指向性(チルト角0°)は図11(b)に示すとおりであり、方位0°(北方向)の垂直面指向性は図11(c)に示すとおりである。
放射位相変更前の水平面指向性(チルト角0°)は図11(b)に示すとおりであり、方位0°(北方向)の垂直面指向性は図8(c)に示すとおりである。
【0082】
なお、放射電波の周波数は、80MHzであり、指向性アンテナの張り出し距離(アンテナシステム中心(支柱6の中心)からの距離)は、0.9mであり、これららの点については、後述の各実施形態及び参考例において共通である。
【0083】
また、図12は、第1実施形態に係るアンテナシステムにおいて、北向き指向性アンテナ15a,16bの放射位相を変更(180°変更)した後の放射特性(実施形態1−Bを示している。
図11(b)と図12(b)との対比から明らかなように、北向き指向性アンテナ15a,16bの放射位相を変更(180°変更)すると、北方向の放射電波強度を低下でき、北方向の利得を低下することができる。また、東方向(方位90°)、南方向(方位180°)、西方向(方位270°)では、第2〜第4指向性アンテナ15b,16b,15c,16c,15d,16dが利得向上用として機能しているため、利得が10.1dBdとなり、STA単独の場合の利得(7.8dBd)よりも向上する効果が維持できている。しかも、東方向(方位90°)、南方向(方位180°)、西方向(方位270°)では、放射位相変更前の利得(9.6dBd)よりも向上した。
【0084】
なお、後述の実施形態等を含めた各実施形態の条件および結果を下記表1及び表2に示す。
【表1】


【表2】



【0085】
[4.2 第2実施形態の放射特性]
図13は、第2実施形態に係るアンテナシステム10の概略配置(図13(a))及び放射位相変更前の水平面指向性(図13(b))を示している。第2実施形態は、第1実施形態に係るアンテナシステム(スキュー配置)10の指向性アンテナ15,16の位置を、周方向に45°回転させたものであり、その他の点は、第1実施形態と同様である。
【0086】
つまり、第2実施形態では、4つのバットウィング素子12a〜12dそれぞれの方位が北方向(0°)、東方向(90°)、南方向(180°)、西方向(270°)であるのに対し、各段の4つの指向性アンテナ15a〜15d、16a〜16dそれぞれが向く方位は、北東(45°)、南東(135°)、南西(225°)、北東(315°)となっている。
ただし、給電位相の条件は、第2実施形態においても、第1実施形態と同様である。
【0087】
北東向き(方位45°)の指向性アンテナ15a,16aの放射位相変更前(実施形態2−A)においては、図13に示すように、水平面指向性がほぼ完全な無指向性となっているのに対し、北東向き(方位45°)の指向性アンテナ15a,16aの放射位相を180°変更後(実施形態2−B)では、図14に示すように、北東方向付近の電波放射を抑制できた。また、放射位相変更後(実施形態2−B)においては、北東以外の方向の利得として9.7dBdが得られ、放射位相変更前(実施形態2−A)の利得8.0dBdよりも向上した。
【0088】
[4.3 第3実施形態の放射特性]
図15は、第3実施形態に係るアンテナシステム10の概略配置(図15(a))及び水平面指向性(図15(b))を示している。第3実施形態では、第2実施形態とアンテナ配置等が共通しており、相違する点は、指向性アンテナ15,16の位相だけである。
【0089】
放射位相変更前において、第2実施形態(第1実施形態)における第1指向性アンテナ15a,16aの位相が0°、第2利得向上用指向性アンテナ15b,16bの位相が90°、第3利得向上用指向性アンテナ15c,16cの位相が180°、第4利得向上用指向性アンテナ15d,16dの位相が270°であるのに対し、第3実施形態では、指向性アンテナの配置角度が45°回転していることにあわせて、位相も45°回転している。
【0090】
つまり、第3実施形態では、放射位相変更前(実施形態3−A)において、第1指向性アンテナ15a,16aの位相が45°、第2利得向上用向性アンテナ15b,16bの位相が135°、第3利得向上用指向性アンテナ15c,16cの位相が225°、第4利得向上用指向性アンテナ15d,16dの位相が315°である。
つまり、例えば、第1バットウィング素子12aを基準バットウィング素子とし、前記基準バットウィング素子12aが向く方向を基準方向(基準方位:0°;北方向)とし、前記基準方向の遠方界におけるSTA(第1〜第4バットウィング素子)の放射位相を基準放射位相(0°)としたときに、前記第1〜第4指向性アンテナ15a〜15d,16a〜16dは、各指向性アンテナが向く方向における放射位相が、前記基準位相に対して、指向性アンテナ15a〜15d,16a〜16dが向く方向と前記基準バットウィング素子12a〜12dが向く方向との角度差に対応した位相差(45°、135°、225°、315°)を持つように、給電位相が調整されている。
【0091】
放射位相変更前の第3実施形態(実施形態3−A)では、指向性アンテナの配置角度にあわせて位相も調整されているため、第1実施形態と同様に、放射電波抑制が所望される基準方向(ここでは、北東(方位45°))の遠方におけるSTAと指向性アンテナの放射位相を、ほぼ同相とすることができ、図15(b)に示すように、STA単独よりも、利得を全方向において向上させることができる。
【0092】
そして、北東向き(方位45°)の指向性アンテナ15a,16aの放射位相を180°変更すると(実施形態3−B)では、放射電波抑制が所望される基準方向(ここでは、北東(方位45°))の遠方におけるSTAと指向性アンテナの放射位相が、ほぼ逆相となり、図16に示すように、北東方向付近の電波放射を抑制できた。また、放射位相変更後(実施形態3−B)においては、北東以外の方向の利得として9.7dBdが得られ、放射位相変更前(実施形態3−A)の利得9.3dBdよりも向上した。
【0093】
[4.4 第4実施形態の放射特性]
図17は、第4実施形態に係るアンテナシステム10の概略配置(図17(a))及び水平面指向性(図17(b))を示している。
第4実施形態は、第1実施形態に係るアンテナシステム(スキュー配置)10の指向性アンテナ15,16の向きを、周方向に20°回転させたものであり、その他の点は、第1実施形態と同様である。換言すると、第4実施形態は、第2実施形態における指向性アンテナの45°回転配置から、指向性アンテナを−25°回転させた配置である。
【0094】
ここで、STAを含まないスキュー配置の指向性アンテナだけの水平面指向性は、最大レベル方向が、約25°、115°、205°、295°となり、指向性アンテナの向き(0°、90°、180°、270°)に対して、25°回転しているものとなる。
第4実施形態では、指向性アンテナの最大レベル方向を、STAの落ち込み方向(45°、135°、225°、315°)とを、ほぼ一致させるべく、指向性アンテナの向きを、第1実施形態の向きから周方向20°回転させたものである。
ただし、給電位相の条件は、第4実施形態においても、第1実施形態と同様である。
【0095】
放射位相変更前の第4実施形態(実施形態4−A)においても、図17(b)に示すように、STA単独よりも、利得を全方向において向上させることができる。
【0096】
そして、北東向き(方位45°)の指向性アンテナ15a,16aの放射位相を180°変更すると(実施形態4−B)では、図18に示すように、放射電波抑制が所望される基準方向(ここでは、北東(方位45°))付近の電波放射を抑制できた。また、放射位相変更後(実施形態4−B)においては、北東以外の方向の利得として10.2dBdが得られ、放射位相変更前(実施形態4−A)の利得9.0dBdよりも向上した。
【0097】
[4.5 第5実施形態の放射特性]
図19は、第5実施形態に係るアンテナシステム10の概略配置(図19(a))及び水平面指向性(図19(b)を示している。第5実施形態では、第4実施形態とアンテナ配置等が共通しており、相違する点は、指向性アンテナ15,16の位相だけである。
【0098】
第4実施形態(放射位相変更前;4−A)における第1指向性アンテナ15a,16aの位相が0°、第2指向性アンテナ15b,16bの位相が90°、第3指向性アンテナ15c,16cの位相が180°、第4指向性アンテナ15d,16dの位相が270°であるのに対し、放射位相変更前の第5実施形態(実施形態5−A)では、指向性アンテナの配置角度が20°回転していることにあわせて、位相も20°回転しており、第1指向性アンテナ15a,16aの位相が20°、第2指向性アンテナ15b,16bの位相が110°、第3指向性アンテナ15c,16cの位相が200°、第4指向性アンテナ15d,16dの位相が290°である。
【0099】
つまり、例えば、第1バットウィング素子12aを基準バットウィング素子とし、前記基準バットウィング素子12aが向く方向を基準方向(基準方位:0°;北方向)とし、前記基準方向の遠方界におけるSTA(第1〜第4バットウィング素子)の放射位相を基準放射位相(0°)としたときに、前記第1〜第4指向性アンテナ15a〜15d,16a〜16dは、各指向性アンテナが向く方向における放射位相が、前記基準位相に対して、指向性アンテナ15a〜15d,16a〜16dが向く方向と前記基準バットウィング素子12a〜12dが向く方向との角度差に対応した位相差(20°、110°、200°、300°)を持つように、給電位相が調整されている。
【0100】
放射位相変更前の第5実施形態(実施形態5−A)においても、図19(b)に示すように、STA単独よりも、利得を全方向において向上させることができる。
【0101】
そして、北東向き(方位20°)の指向性アンテナ15a,16aの放射位相を180°変更すると(実施形態5−B)では、図20に示すように、放射電波抑制が所望される基準方向(ここでは、北東(方位20°))付近の電波放射を抑制できた。また、放射位相変更後(実施形態5−B)においては、北東以外の方向の利得として10.2dBdが得られ、放射位相変更前(実施形態5−A)の利得9.1dBdよりも向上した。
【0102】
[4.6 第6実施形態の放射特性]
図21は、第6実施形態に係るアンテナシステム10の概略配置(図21(a))、水平面指向性(図21(b))を示している。第6実施形態では、STAの配置・位相等は、第1実施形態と同様であるが、各段15,16の指向性アンテナの数が、6個になっている。また、6個の指向性アンテナ15a〜15fは、スキューなし配置となっている。
【0103】
スキューなし配置の6個の指向性アンテナ15a〜15fのうち、第1指向性アンテナ15aは方位0°、第2指向性アンテナ15bは方位60°、第3指向性アンテナ15cは方位120°、第4指向性アンテナ15dは方位180°、第5指向性アンテナ15eは方位240°、第6指向性アンテナ15fは方位300°に向けられている。
【0104】
また、第1指向性アンテナ15aの給電位相を0°とすると、第2指向性アンテナ15bの給電位相は60°、第3指向性アンテナ15cの給電位相は120°、第4指向性アンテナ15dの給電位相は180°、第5指向性アンテナ15eの位相差は240°、第6指向性アンテナ15fの位相差300°とされており、周方向に隣接する指向性アンテナの配置間隔(360°/6個=60°)にあわせた位相差(60°)が設定されている。
【0105】
第6実施形態においても、放射位相変更前(実施形態6−A)においては、第1実施形態と同様に、所定の一の基準方向(例えば、方位0°方向)の遠方界において、STAと指向性アンテナの放射位相が同相になるように設定することで、他の全方向において放射位相が同相となっている。
【0106】
放射位相変更前の第6実施形態(実施形態6−A)においても、図21(b)に示すように、STA単独よりも、利得を全方向において向上させることができる。
【0107】
そして、北向き(方位0°)の指向性アンテナ15a,16aの放射位相を180°変更すると(実施形態6−B)では、図22に示すように、放射電波抑制が所望される基準方向(ここでは、北(方位0°))付近の電波放射を抑制できた。また、放射位相変更後(実施形態6−B)においては、北東以外の方向の利得として10.5dBdが得られ、放射位相変更前(実施形態6−A)の利得10.0dBdよりも向上した。
【0108】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
10 アンテナシステム
9a〜9f スーパーターンスタイルアンテナ(無指向性アンテナ)
12a 第1バットウィング素子
12b 第2バットウィング素子
12c 第3バットウィング素子
12d 第4バットウィング素子
15a,16a 第1指向性アンテナ
15b,16b 第2指向性アンテナ
15c,16c 第3指向性アンテナ
15d,16d 第4指向性アンテナ
17 給電線配置部
31a,31b 3dBカプラ
34a〜34d 位相調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、
前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備えており、
前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの放射位相を変更することで、前記アンテナシステム全体の放射特性を変更する
ことを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項2】
放射位相の変更前の前記指向性アンテナは、無指向性アンテナ単独の場合よりも、その指向性アンテナが向く所定方向における利得を向上又は低下させる利得調整用指向性アンテナであり、
前記利得調整用指向性アンテナの放射位相を変更することで、無指向性アンテナ単独の場合よりも、前記所定方向における利得を低下又は向上させる
請求項1記載のアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項3】
放射位相の変更前においては、前記複数の指向性アンテナは、無指向性アンテナ単独の場合よりも、利得を向上又は低下させる複数の利得調整用指向性アンテナであり、
放射位相の変更は、前記複数の利得調整用指向性アンテナのうちの一部の利得調整用指向性アンテナの放射位相を変更することにより行われる
請求項1又は2記載のアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項4】
放射位相の変更前の前記指向性アンテナの放射位相は、その指向性アンテナが向く所定方向における前記無指向性アンテナの放射位相と、ほぼ同相又は逆相であり、
前記指向性アンテナの放射位相を、変更前の放射位相からほぼ180°変更することで、前記アンテナシステム全体の放射特性を変更する
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項5】
アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、
前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備えており、
前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナを、その指向性アンテナが向く方向の軸線回りにほぼ180°回転させる
ことを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項6】
アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、
前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備え、前記指向性アンテナは、アンテナ素子と、前記アンテナ素子の後方に配置された反射板と、を備えており、
前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの前記アンテナ素子を、前記反射板に対して、その指向性アンテナが向く方向の軸線回りにほぼ180°回転させる
ことを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項7】
アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、
前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備え、前記指向性アンテナは、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に設けられた給電部と、を備えており、
前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナの前記給電部を、前記アンテナ素子に対して、その指向性アンテナが向く方向の軸線回りにほぼ180°回転させる
ことを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項8】
アンテナシステムの放射特性の変更方法であって、
前記アンテナシステムは、無指向性アンテナと、前記無指向性アンテナに給電される信号と同じ信号が給電される一又は複数の指向性アンテナと、を備え、前記指向性アンテナの給電部には、給電用同軸線路の内導体及び外導体がそれぞれ接続されており、
前記一又は複数の指向性アンテナのうちの少なくとも一つの指向性アンテナに接続されている前記内導体及び前記外導体の前記給電部における接続先を互いに入れ替えて前記給電部へ接続する
ことを特徴とするアンテナシステムの放射特性の変更方法。
【請求項9】
前記無指向性アンテナは、スーパーターンスタイルアンテナである
請求項1〜8のいずれか1項に記載のアンテナシステムの放射特性の変更方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−44441(P2012−44441A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183891(P2010−183891)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】