説明

アンテナシート及び情報記録媒体

【課題】設計段階で定めたアンテナコイルの位置と、実際に製造時に配置したアンテナコイルの位置とが多少ずれてしまってもアンテナ性能を損なうことがない技術の提供を課題とする。
【解決手段】ICカード10は、アンテナシート20と、ICチップ30と、カード基材部40とを備える。アンテナシート20は、フィルム基材21と、フィルム基材21の表裏面に形成された平行四辺形状のアンテナコイル22F,22Bとを備える。表面側の上辺22F−Uと裏面側の上辺22B−U、及び、表面側の下辺22F−Dと裏面側の下辺22B−Dは、表面側から見て交差する位置に配置されている。このように、表裏面のアンテナコイルを予め交差する位置に配置させておくことで、設計時に定めた配置位置から多少ずれてアンテナコイルを形成しても、重複面積が大きく変化することがなく、共振周波数の変動を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースシートの表裏面に形成されたアンテナコイルを備えるアンテナシート、及びそのアンテナシートを備える情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触ICカード等に用いられるアンテナシートは、ベースシートの片面にスパイラル状のアンテナコイルが形成された形態を有している。一般にアンテナコイルは、その面積(いわゆる開口面積)が大きいほど、通信効率(感度)を高めることができるため、ベースシートの外周に沿った形状でアンテナパターンが形成されることが多い。その一方で、通常サイズ(例えばクレジットカードサイズ)のICカードよりも小さいサイズのICカードを活用する場面もあり、このような小さいサイズのICカードにおいて、限られた面積内でより高いインダクタンスを得るには、高密度にアンテナコイルを形成する必要がある。
【0003】
通常、より高いインダクタンスを得る方法としては、アンテナコイルを高密度にして巻き数を稼ぐ方法があるが、製造上の限界から片面に形成できるコイル巻き数には上限がある。そこで、ベースシートの表裏面に跨ってアンテナコイルを形成することにより、限られた面積内で巻き数を稼ぐ方法が考えられる。この方法であれば、ベースシートの片面側の領域のみを用いた場合に比べて、約2倍の面積を用いてコイルパターンを形成することができるため、結果として、アンテナコイルの巻き数を2倍程度にすることができる。アンテナは、コイルパターンの巻き数を増やした方が、当該コイルで得られる誘導起電力が大きくなるため、それだけアンテナの効率を高めることができる。
【0004】
このように、片面にアンテナコイルが形成されたものより、両面にアンテナコイルが形成されたアンテナシートの方が、アンテナの効率の観点から見れば優れてはいるが、表裏面のアンテナパターンは、表裏面のアンテナパターンが重なる部分でコンデンサを形成する。このため、表裏面のアンテナパターンがずれた場合、この重なる部分の面積の増減でコンデンサの容量が変化し、それに伴って共振周波数が変動するという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、ICカードに備えられた基板の表面側と裏面側との領域に一続きの導体をコイル状に形成する構成として、基板の表面側の領域に形成されたコイルのパターン(表面パターン)とずれた位置に、裏面側の領域におけるコイルのパターン(裏面パターン)を形成したカード状アンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。このカード状アンテナは、基板の表面側の領域におけるコイルパターンと裏面側の領域におけるコイルパターンとが重なって配置された場合に比べて、両コイルパターン間の距離が大きくなり、両コイルパターン間に生じるコンデンサのキャパシタンスが小さくなる。これにより、基板の表面側と裏面側とに形成された導体部分間に生じるコンデンサに起因してアンテナの共振周波数に与える影響を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−195921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術をいざ採用しようとすると、基板の表面側の領域に形成されたコイルのパターン(表面パターン)と、基板の裏面側の領域に形成されたコイルのパターン(裏面パターン)とを、設計時に定めた正確な位置に配置しなければ、表面パターンと裏面パターンとをずらしたことによる効果が得られないという問題がある。
【0008】
すなわち、実際にアンテナシートを製造する過程では、表面のパターンと裏面のパターンとを1つ1つ貼り合わせてアンテナパターンを形成するのではなく、大きな樹脂フィルムの両面に銅等の金属箔を積層した後、エッチング処理を施すことにより、数多くの回路パターン層を基材の両面に形成する。このようなアンテナパターンの形成過程において、表裏のアンテナパターンの位置を繰り返し正確に合わせる作業は、人為的でも機械的でも、技術的には困難であり誤差が生じる。
【0009】
そこで本発明は、設計段階で定めたアンテナコイルの位置と、実際に製造時に配置したアンテナコイルの位置とが多少ずれた場合であっても、アンテナ性能を大きく変化させない技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、第1にアンテナシートを提供する。第2に本発明は、情報記録媒体を提供する。
【0011】
[アンテナシート]
本発明のアンテナシートは、ベースシートと、ベースシートの表裏面に形成された四辺形状のアンテナコイルとを備え、アンテナコイルは、表裏合わせて8つの辺のうち、表面側から見たときの方向を基準として、表面側の上辺と裏面側の上辺、表面側の左辺と裏面側の左辺、表面側の下辺と裏面側の下辺、表面側の右辺と裏面側の右辺をそれぞれ1つの組とみなしたときに、少なくとも1つの組の表面側の辺と裏面側の辺とが、表面側から見て交差する位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、表裏面の上辺同士等を1つの組とみなし、少なくとも1つの組の表面側の辺と裏面側の辺とが、表面側から見て交差する位置に配置されている。例えば、表面側の上辺と裏面側の上辺とが表面側から見て交差する位置に配置されている場合には、両面の上辺に着目すると、両面の上辺が表裏面でぴったり重なっているわけではなく、両面の上辺が表裏面ですべて重なっていないわけでもなく、その一部だけが重なっていることになる。これにより、アンテナコイルをベースシートの表裏面に形成する際に、表面側と裏面側とで、設計時に定めた配置位置から多少ずれてアンテナコイルを形成しても、上辺同士が重なっている重複面積が大きく変化することがないため、共振周波数の変動が少なく、アンテナ性能を損なうことがない。
【0013】
ここで、表面側の上辺、表面側の左辺、表面側の下辺、表面側の右辺は、この順に配置された表面側の第1の辺、表面側の第2の辺、表面側の第3の辺、表面側の第4の辺とすることもできる。これと同様に、裏面側の上辺、裏面側の左辺、裏面側の下辺、裏面側の右辺は、この順に配置された裏面側の第1の辺、裏面側の第2の辺、裏面側の第3の辺、裏面側の第4の辺とすることもできる。この場合、第1から第4までの番号の振り方は、まず、表面側の所定の辺を第1の辺として、その辺から一定の回転方向(例えば、反時計回り)で、順に番号を振るものとする。裏面側は、表面側の第1の辺と定めた辺の真裏(すぐ裏、まうしろ)に形成された裏面側の辺を裏面側の第1の辺として、上記回転方向と同一の回転方向(例えば、反時計回り)で、順に番号を振るものとする。
【0014】
また本発明のアンテナシートは、ベースシートと、ベースシートの表裏面に形成された四辺形状のアンテナコイルとを備え、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとは、少なくとも一部が厚み方向で重なる位置に配置されており、裏面側のアンテナコイルは、表面側のアンテナコイルの所定の部分を基準として、回転させた位置に配置されているものでもよい。
【0015】
本発明によれば、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとが少なくとも一部で重なる位置に配置されており、裏面側のアンテナコイルが表面側のアンテナコイルの所定の部分を基準として、回転させた位置に配置されているので、表面側のアンテナコイルのいずれかの辺と、裏面側のアンテナコイルのいずれかの辺とが、表面側から見て交差する位置に配置されるようになる。従って、上述した発明と同様に、表面側と裏面側とで、設計時に定めた配置位置から多少ずれてアンテナコイルを形成しても、重複面積が大きく変化することがないため、共振周波数の変動が少なく、アンテナ性能を損なうことがない。
一般に、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとは、両者が平行に形成されるものである。例えば、表面側の上辺に配置されるアンテナコイルと裏面側の上辺に配置されるアンテナコイルとは、厚み方向で見て(表面側・正面側から見て)互いに重なる位置又は重ならないまでも略平行となる位置に配置される。また、左辺,下辺,右辺に配置されるアンテナコイルも、上辺のアンテナコイルと同様に、表面側と裏面側のアンテナコイルが、厚み方向で見て互いに重なる位置又は重ならないまでも略平行となる位置に配置されるものである。しかし、このような配置関係で表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとを配置しようとすると、表面側と裏面側とで、設計時に定めた配置位置から多少ずれてアンテナコイルを形成した場合に、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとが重なっている重複面積が大きく変動してしまう。これに対して、本発明では、裏面側のアンテナコイルを回転させて配置させている。これは、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとが上述したように平行となることを防止して、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとを厚み方向にて交差させるためである。裏面側のアンテナコイルを回転させて配置することにより、例えば表面側の上辺に配置されるアンテナコイルと裏面側の上辺に配置されるアンテナコイルとは、互いに平行でない状態で配置されるようになり、表面側の上辺のアンテナコイルと裏面側の上辺のアンテナコイルとは、厚み方向で見て互いに交差する状態となる。また、左辺,下辺,右辺のアンテナコイルについても同様である。このように、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとを予め交差させておくことで、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとがずれた場合の面積変動を最小限に抑えることができる。
【0016】
アンテナシートの構成として、アンテナコイルは、四辺形状の少なくとも1つの内角が鋭角であることが好ましい。
【0017】
上記の態様であれば、アンテナコイルは、四辺形状の少なくとも1つの内角が鋭角であるので、アンテナコイルの形状が正方形形状や長方形形状を除いた四辺形状となり、その鋭角を挟み込んだ辺が一定の角度を持って傾斜するため、表裏面のアンテナコイルの各辺が表面側から見て互いに交差しやすい形状とすることができる。
【0018】
アンテナシートの構成として、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとは、表面側から見たときに、両者の中心線を基準として、左右対称の形状であることが好ましい。
【0019】
上記の態様であれば、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとは、左右対称の形状であるため、製造時には、同じようなコイルパターンを製造すればよく、製造しやすいアンテナシートを提供することができる。
【0020】
アンテナシートの構成として、アンテナコイルは、その形状が平行四辺形形状であることが好ましい。
【0021】
上記の態様であれば、アンテナコイルは、その形状が平行四辺形形状であるため、表面側のアンテナコイルと裏面側のアンテナコイルとの間で、平行な2辺が交差するようになり、1辺が交差する場合と比較して、アンテナパターンが表裏面でずれた場合の重複面積の変化をより小さくすることができ、周波数変動をより小さいものとすることができる。
【0022】
[情報記録媒体]
また本発明の情報記録媒体は、上述したアンテナシートと、アンテナシートのアンテナコイルに接続されたICチップとを備えるものである。
【0023】
本発明によれば、上述したアンテナシートを備える情報記録媒体とすることで、上述したアンテナシートの効果を得つつ、多少の製造誤差が発生したとしても品質の安定した情報記録媒体を提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、小型のICカードやICタグを設計するにあたり、アンテナコイルを小さい面積に集約し、製造上の誤差により表裏のパターンがずれた場合であっても、周波数変動が小さいアンテナの製造が可能となり、ICカードやICタグの品質も安定する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。
【図2】第1実施形態のアンテナシート20を拡大して示す図である。
【図3】第1実施形態のアンテナシート20を拡大して示す図である。
【図4】比較例のアンテナシート20Aを示す図である。
【図5】比較例のアンテナシート20Aを示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。
【図7】第2実施形態のアンテナシート20−2を拡大して示す図である。
【図8】第2実施形態のアンテナシート20−2を拡大して示す図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。
【図10】第3実施形態のアンテナシート20−3を拡大して示す図である。
【図11】第3実施形態のアンテナシート20−3を拡大して示す図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。
【図13】第4実施形態のアンテナシート20−4を拡大して示す図である。
【図14】第4実施形態のアンテナシート20−4を拡大して示す図である。
【図15】本発明の変形形態に係るアンテナシートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のアンテナシート及び情報記録媒体の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。図1(A)は、正面図であり、図1(B)は、B−B断面図である。なお、図1(A)においては、説明の便宜上、アンテナコイル22F−U等、スルーホール23、ICチップ30を図示しているが、実際には目視できない。また、以下の図においては、表面側のアンテナコイル22F等を実線で示し、裏面側のアンテナコイル22B等を破線で示している。
【0027】
ICカード10は、情報記録媒体の一例として挙げる非接触式のICカードであり、その中央部は、所定の切れ込みやミシン目状の孔等の切り離し部11によって、小型ICカード10aとして取り外し可能になっている。ユーザは、ICカード10から小型ICカード10aを取り外して利用することもできるし、小型ICカード10aを取り外さずにICカード形状のまま利用することもできる。
【0028】
また、ICカード10は、アンテナシート20、ICチップ30、及びカード基材部40から構成されている。
【0029】
上記のアンテナシート20は、図1(B)に示すように、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等で形成されたフィルム基材(ベースシート)21を有している。このフィルム基材21の表裏面には、金属箔をエッチングすることにより平行四辺形形状のアンテナコイル22F,22Bが形成されている。なお、アンテナコイル22F,22Bは、エッチング工法以外にもワイヤーを引き回してアンテナコイルを形成する方法やアンテナコイル用の転写箔を転写させてアンテナコイルを形成する方法によっても形成することができる。
【0030】
アンテナコイル22F,22Bは、実際には、何重にも巻かれているものであるが、煩雑化を防止するため、図1(A)では1重巻き以外の部分は省略している。表面側のアンテナコイル22Fと、裏面側のアンテナコイル22Bとは、両者の一端がスルーホール23にて接続されており、両者の他端が後述するICチップ30に接続されている。なお、2つのスルーホールを配置して、その2つのスルーホールで表面側のアンテナコイル22Fと裏面側のアンテナコイル22Bとを接続し、いずれか一方のアンテナコイル上にICチップ30を配置してもよい。
【0031】
アンテナコイル22F,22Bは、全体として平行四辺形形状をなしており、その形状ゆえに2つの内角が鋭角である。また、表面側のアンテナコイル22Fと裏面側のアンテナコイル22Bとは、アンテナシート20を表面側から見たときに、両者の上下方向に延びた中心線C1を基準として、左右対称の形状である。
【0032】
アンテナコイル22F,22Bは、表裏合わせて8つの辺を有する。ここで、アンテナシート20を表面側から見たときの方向(図1(A)の状態)を基準として、表面側の上辺22F−Uと裏面側の上辺22B−U、表面側の左辺22F−Lと裏面側の左辺22B−L、表面側の下辺22F−Dと裏面側の下辺22B−D、表面側の右辺22F−Rと裏面側の右辺22B−Rをそれぞれ1つの組とみなす。
【0033】
つまり、各組の関係を示すと以下のようになる。
第1組:(表面側の上辺22F−U,裏面側の上辺22B−U)
第2組:(表面側の左辺22F−L,裏面側の左辺22B−L)
第3組:(表面側の下辺22F−D,裏面側の下辺22B−D)
第4組:(表面側の右辺22F−R,裏面側の右辺22B−R)
【0034】
本実施形態では、2つの組、すなわち、上側の組(第1組)と下側の組(第3組)の表面側の辺と裏面側の辺とが、アンテナシート20の表面側から見て交差する位置に配置されている。具体的には、表面側の上辺22F−Uと裏面側の上辺22B−U、及び、表面側の下辺22F−Dと裏面側の下辺22B−Dが、アンテナシート20の表面側から見て交差する位置に配置されている。
【0035】
アンテナコイル22F,22Bの辺の数は、その巻き数によって変化するが、例えば、1巻きであろうが10巻きであろうが、表面側の上辺部分にあるアンテナコイルは、すべて合わせて1つの辺と考えるものとする。また、表面側の上辺22F−Uは、表面側の第1の辺であり、表面側の左辺22F−Lは、表面側の第2の辺であり、表面側の下辺22F−Dは、表面側の第3の辺であり、表面側の右辺22F−Rは、表面側の第4の辺である。一方、裏面側の上辺22B−Uは、裏面側の第1の辺であり、裏面側の左辺22B−Lは、裏面側の第2の辺であり、裏面側の下辺22B−Dは、裏面側の第3の辺であり、裏面側の右辺22B−Rは、裏面側の第4の辺である。
【0036】
ICチップ30は、アンテナコイル22F,22Bに接続され、CPUやRAM、ROM、EEPROM等の半導体メモリを搭載したチップであり、樹脂等によって封止されている。
【0037】
またカード基材部40は、アンテナシート20及びICチップ30を表裏面から挟み込んでおり、PET等の材料で形成されている。
【0038】
図2及び図3は、第1実施形態のアンテナシート20を拡大して示す図である。図1のアンテナコイル22F,22Bを詳細に図示すると図2に示す形状となる。
第1実施形態のアンテナシート20では、図2に示すように、表裏のアンテナコイル22F,22Bともに3重に巻き、アンテナコイル部分のX方向の長さX1を例えば44.50mm程度とし、Y方向の長さY2を例えば26.06mm程度とした。また、アンテナコイル22F,22Bの線幅は、例えば1mm程度とし、アンテナコイル間の間隔は、例えば2mm程度とした。この例の場合、表裏のアンテナコイル22F,22Bの重複面積(図中、黒で塗りつぶした部分)は、例えば66.1mm程度であった。
【0039】
このアンテナシート20について、図3に示すように、裏面側のアンテナコイル22Bを+X方向,+Y方向ともに、0.75mm程度ずらした。この場合、表裏のアンテナコイルの重複面積は、73.1mm程度であった。このように、ずれた前後の面積変動は、1.1倍となるだけなので、共振周波数の変化を小さく抑えることができる。
【0040】
図4及び図5は、比較例のアンテナシート20Aを示す図である。
図4に示すように、比較例のアンテナシート20Aは、表裏面のアンテナコイル22F−A,22B−Aともに長方形形状のものである。アンテナコイル部分のX方向の長さX1−Aを、例えば43.00mm程度とし、Y方向の長さY1−Aを、例えば25.00mm程度とした。アンテナコイル22F−A,22B−Aの線幅や、アンテナコイル22F−A,22B−A間の間隔は、図2の第1実施形態のものと同様である。この例の場合、表裏のアンテナコイル22F−A,22B−Aの重複面積(図中、黒塗り部分)は、例えば6.3mm程度であった。
【0041】
図5に示すように、この比較例のアンテナシート20Aについて、上述した第1実施形態の例と同様に、裏面側のアンテナコイル22B−Aを+X方向,+Y方向ともに、0.75mm程度ずらした。この場合、表裏のアンテナコイルの重複面積は、例えば73.2mm程度であった。このように、ずれた前後の面積変動は、11.6倍となり、製造上表裏パターンにずれが生じると、重複した部分でコンデンサが形成され、そのコンデンサに起因して本来の共振周波数から大きくずれてしまうことが分かった。
【0042】
ここで、本実施形態における表面側のアンテナコイル22Fと裏面側のアンテナコイル22Bとのずらし方について説明する。上述した例では、裏面側のアンテナコイル22Bを+X方向,+Y方向ともに、0.75mm程度ずらしているため、ずれた前後の面積変動は、比較例のものと比べるとある程度小さい値に抑えることができている。この点、例えば0.75mm程度のずれではなく、もっと大きなずれ(例えば1.0mm以上のずれ)が発生すると、表面のアンテナコイルが隣接する裏面のアンテナコイルに重なってしまい、比較例の面積変動とさほど変わらない結果となることも想定される。つまり、図3の例で説明すれば、表面側の左辺側には3本のアンテナコイルがあり、裏面側の左辺側にも3本のアンテナコイルがあるが、裏面側のアンテナコイル22Bが+X方向,+Y方向に1.0mm程度ずれると、表面側の左辺側の中央のアンテナコイルと、裏面側の左辺側の一番左のアンテナコイルとがぴったり重なってしまうこともあり得るということである。
【0043】
しかし、実際の製造過程においては、表面のアンテナコイルが裏面の隣接するアンテナコイルに重なる程ずれることはありえず(そこまでの製造誤差は発生しないし、許容もしていない)、多少の製造誤差(例えば最大でも0.75mm程度のずれ)が発生するだけである。
したがって、本実施形態では、表面と裏面とで隣接するコイルパターン同士が重なってしまうような場面を想定しているわけではなく、製造過程で生じる若干のずれのみを想定しているものである。なお、以下の実施形態でも同様である。
【0044】
このように、本実施形態のアンテナシート20によれば、表面側の上辺22F−Uと裏面側の上辺22B−U、及び、表面側の下辺22F−Dと裏面側の下辺22B−Dが、アンテナシート20の表面側から見て交差する位置に配置されている。したがって、両面の上辺及び下辺に着目すると、両面の上辺及び下辺が表裏面でぴったり重なっているわけではなく、両面の上辺及び下辺が表裏面ですべて重なっていないわけでもなく、その一部だけが重なっていることになる。これにより、アンテナコイル22F,22Bをフィルム基材21の表裏面に形成する際に、表面側と裏面側とで、設計時に定めた配置位置から多少ずれてアンテナコイル22F,22Bを形成しても、上辺及び下辺同士が重なっている重複面積が大きく変化することがないため、共振周波数の変動が少なく、アンテナ性能を損なうことがない。
【0045】
また、アンテナコイル22F,22Bは、平行四辺形形状であり、その2つの内角が鋭角であるので、鋭角を挟み込んだ辺が一定の角度を持って傾斜するようになり、表裏面のアンテナコイル22F,22Bの各辺が表面側から見て互いに交差しやすい形状とすることができる。
【0046】
さらに、表面側のアンテナコイル22Fと裏面側のアンテナコイル22Bとは、左右対称の形状であるため、製造時には、同じようなコイルパターンを製造すればよく、製造しやすいアンテナシート20を提供することができる。
【0047】
さらにまた、アンテナコイル22F,22Bは、その形状が平行四辺形形状であるため、表面側のアンテナコイル22Fと裏面側のアンテナコイル22Bとの間で、平行な2辺が交差するようになり、1辺が交差する場合と比較して、アンテナパターンが表裏面でずれた場合の重複面積の変化をより小さくすることができ、周波数変動をより小さいものとすることができる。
【0048】
一方、本実施形態のICカード10によれば、上述したアンテナシート20を備える情報記録媒体とすることで、上述したアンテナシート20と同様な効果を得つつ、多少の製造誤差が発生したとしても品質の安定した情報記録媒体を提供することができる。また、小型のICカード10aを設計するにあたり、小さい面積にアンテナコイル22F,22Bを集約した場合、製造上の誤差により表裏のパターンがずれやすくなることも考えられるが、本実施形態の構成によれば、周波数変動が小さいICカードのアンテナ設計が可能となり、小型のICカード10aであっても品質が安定する。
【0049】
〔第2実施形態〕
図6は、本発明の第2実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。なお、以下の説明では、第1実施形態と共通する事項については同じ符号を付与するものとし、その重複した説明を適宜省略する。
第2実施形態に係るアンテナシート20−2は、アンテナコイル22F−2,22B−2が、第1実施形態のように平行四辺形形状のものではなく、台形形状のものである。また、表面側のアンテナコイル22F−2と裏面側のアンテナコイル22B−2とは、左右対称の形状であり、一方をひっくり返せば(裏返せば)、互いに重なり合う形状である。台形形状のアンテナコイル22F−2,22B−2は、上辺の組における表面側の辺22F−U2と裏面側の辺22B−U2とが、アンテナシート20−2の表面側から見て交差する位置に配置されている。
【0050】
図7及び図8は、第2実施形態のアンテナシート20−2を拡大して示す図である。図6のアンテナコイル22F−2,22B−2を詳細に図示すると図7に示す形状となる。
第2実施形態のアンテナシート20−2では、図7に示すように、表裏のアンテナコイル22F−2,22B−2ともに3重半程度に巻き、アンテナコイル部分のX方向の長さX2を例えば43.00mm程度とし、Y方向の長さY2を例えば25.00mm程度とした。また、アンテナコイルの線幅や、アンテナコイル間の間隔は、第1実施形態のものと同様である(以下の実施形態でも同様である)。さらに、表面側のアンテナコイル22F−2の上辺22F−U2と、表面側のアンテナコイル22F−2の左右方向に延びた中心線C2とのなす角θ1を約10度程度とし、裏面側のアンテナコイル22B−2の上辺22B−U2と、裏面側のアンテナコイル22B−2の左右方向に延びた中心線C2とのなす角θ2を約10度程度とした。この例の場合、表裏のアンテナコイル22F−2,22B−2の重複面積(図中、黒で塗りつぶした部分)は、例えば34.16mm程度であった。
【0051】
このアンテナシート20−2について、図8に示すように、表面側のアンテナコイル22F−2を+X方向,+Y方向ともに、例えば0.75mm程度ずらした。この場合、表裏のアンテナコイルの重複面積は、例えば56.25mm程度であった。このように、ずれた前後の面積変動は、1.6倍となるだけなので、共振周波数の変化を小さく抑えることができる。
【0052】
このように、第2実施形態のアンテナシート20−2によれば、表面側に台形形状のアンテナコイル22F−2を配置し、裏面側に同じく台形形状であって表面側のアンテナコイルをひっくり返した形状のアンテナコイル22B−2を配置しているので、台形の斜辺部分(22F−U2,22B−U)に関しては、上述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0053】
〔第3実施形態〕
図9は、本発明の第3実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。
第3実施形態に係るアンテナシート20−3は、アンテナコイル22F−3,22B−3が、第1実施形態のように平行四辺形形状のものであるが、アンテナコイル22F−3,22B−3の角部分(コーナー部分)を、ゆるやかな円弧状の形状としているものである。アンテナコイルの角部分において、どの箇所を円弧状にするかは、適宜変更することができる。この点、少なくとも1つの角部分を円弧状にすればよく、すべての角部分を円弧状としてもよい。第3実施形態では、第1実施形態のものと同様に、表面側の上辺22F−U3と裏面側の上辺22B−U3、及び、表面側の下辺22F−D3と裏面側の下辺22B−D3が、アンテナシート20−3の表面側から見て交差する位置に配置されている。アンテナコイルの角部分を丸める理由は、磁束の集中を避けてできる限り均一な磁束分布を実現するためである。
【0054】
図10及び図11は、第3実施形態のアンテナシート20−3を拡大して示す図である。図9のアンテナコイル22F−3,22B−3を詳細に図示すると図10に示す形状となる。
第3実施形態のアンテナシート20−3では、図10に示すように、表裏のアンテナコイル22F−3,22B−3ともに3重半程度に巻き、アンテナコイル部分のX方向の長さX3を例えば43.00mm程度とし、Y方向の長さY3を例えば25.00mm程度とした。また、各なす角θ1,θ2は、第2実施形態と同様に約10度程度とした。この例の場合、表裏のアンテナコイル22F−3,22B−3の重複面積(図中、黒で塗りつぶした部分)は、例えば68.33mm程度であった。
【0055】
このアンテナシート20−3について、図11に示すように、裏面側のアンテナコイル22B−3を−X方向,−Y方向ともに、例えば0.75mm程度ずらした。この場合、表裏のアンテナコイルの重複面積は、例えば78.98mm程度であった。このように、ずれた前後の面積変動は、1.2倍となるだけなので、共振周波数の変化を小さく抑えることができる。
【0056】
〔第4実施形態〕
図12は、本発明の第4実施形態に係るアンテナシート及びICカードを示す図である。
第4実施形態に係るアンテナシート20−4は、アンテナコイル22F−4,22B−4が、第1実施形態のように平行四辺形形状のものではなく、長方形形状のものである。
表面側のアンテナコイル22F−4と裏面側のアンテナコイル22B−4とは、少なくとも一部が厚み方向で重なる位置に配置されており、裏面側のアンテナコイル22B−4は、表面側のアンテナコイル22F−4の左右方向に延びた中心線C2及び中心点C3を基準として、約20度(図中θ3)反時計回りに回転させた位置に配置されている。
【0057】
図13及び図14は、第4実施形態のアンテナシート20−4を拡大して示す図である。図12のアンテナコイル22F−4,22B−4を詳細に図示すると図13に示す形状となる。
第4実施形態のアンテナシート20−4では、図13に示すように、表裏のアンテナコイル22F−4,22B−4ともに3重半程度に巻き、アンテナコイル部分のX方向の長さX4を例えば43.00mm程度とし、Y方向の長さY4を例えば25.00mm程度とした。また、各なす角θ1,θ2は、第2実施形態と同様に約10度程度とした。さらに、上述したように、なす角θ3は、約20度程度とした。なお、なす角θ3は、なす角θ1となす角θ2との合計の角度となる。この例の場合、表裏のアンテナコイル22F−4,22B−4の重複面積(図中、黒で塗りつぶした部分)は、例えば78.84mm程度であった。
【0058】
このアンテナシート20−4について、図14に示すように、表面側のアンテナコイル22F−4を+X方向,+Y方向ともに、例えば0.75mm程度ずらした。この場合、表裏のアンテナコイルの重複面積は、例えば76.64mm程度であった。このように、ずれた前後の面積変動は、0.97倍となるだけなので、共振周波数の変化を小さく抑えることができる。
【0059】
このように、第4実施形態によれば、表面側のアンテナコイル22F−4と裏面側のアンテナコイル22B−4とが少なくとも一部で重なる位置に配置されており、裏面側のアンテナコイル22B−4が表面側のアンテナコイル22F−4の中心線C2及び中心点C3を基準として、約20度反時計回りに回転させた位置に配置されているので、表面側のアンテナコイル22F−4のすべての辺と、裏面側のアンテナコイル22B−4のすべての辺とが、表面側から見て交差する位置に配置されるようになる。従って、表面側と裏面側とで、設計時に定めた配置位置から多少ずれてアンテナコイルを形成しても、重複面積が大きく変化することがないため、共振周波数の変動が少なくなり、アンテナ性能を損なうことがない。
【0060】
〔変形形態〕
図15は、本発明の変形形態に係るアンテナシートを示す図である。なお、図15では、アンテナシートのアンテナコイル22についてのみ図示してある。
図15(A)に示すように、長方形形状のアンテナコイル22F−5と、平行四辺形形状のアンテナコイル22B−5とを併用してもよい。この形態は、第1,3実施形態のものと同様に、上辺の組と下辺の組の表面側の辺と裏面側の辺とが、表面側から見て交差する位置に配置されている形態である。
【0061】
一方、第4実施形態と同様なタイプとして、図15(B)に示すような、2つの長方形形状のアンテナコイル22を用いたものが挙げられる。この形態は、裏面側のアンテナコイル22B−6が、表面側のアンテナコイル22F−6の中心線C4及び中心点C5を基準として、約90度回転させた位置に配置されている形態である。
これらの形態であっても、上述した各実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0062】
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、各種の変形や置換を伴って実施することができる。本発明の情報記録媒体は、ICカードの例で説明したが、ICタグ等であってもよい。また、一実施形態で挙げたアンテナシート及びICカードの構成はいずれも好ましい例示であり、これらを適宜変形して実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
10 ICカード
20 アンテナシート
21 フィルム基材
22F,22B アンテナコイル
30 ICチップ
40 カード基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースシートと、
前記ベースシートの表裏面に形成された四辺形状のアンテナコイルとを備え、
前記アンテナコイルは、表裏合わせて8つの辺のうち、表面側から見たときの方向を基準として、表面側の上辺と裏面側の上辺、表面側の左辺と裏面側の左辺、表面側の下辺と裏面側の下辺、表面側の右辺と裏面側の右辺をそれぞれ1つの組とみなしたときに、少なくとも1つの組の表面側の辺と裏面側の辺とが、表面側から見て交差する位置に配置されていることを特徴とするアンテナシート。
【請求項2】
ベースシートと、
前記ベースシートの表裏面に形成された四辺形状のアンテナコイルとを備え、
前記表面側のアンテナコイルと前記裏面側のアンテナコイルとは、少なくとも一部が厚み方向で重なる位置に配置されており、
前記裏面側のアンテナコイルは、前記表面側のアンテナコイルの所定の部分を基準として、回転させた位置に配置されていることを特徴とするアンテナシート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンテナシートにおいて、
前記アンテナコイルは、
前記四辺形状の少なくとも1つの内角が鋭角であることを特徴とするアンテナシート。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載のアンテナシートにおいて、
前記表面側のアンテナコイルと前記裏面側のアンテナコイルとは、
表面側から見たときに、両者の中心線を基準として、左右対称の形状であることを特徴とするアンテナシート。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載のアンテナシートにおいて、
前記アンテナコイルは、
その形状が平行四辺形形状であることを特徴とするアンテナシート。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載のアンテナシートと、
前記アンテナシートのアンテナコイルに接続されたICチップと
を備える情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−254307(P2011−254307A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126953(P2010−126953)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】