説明

アンテナ分波器およびアンテナ分波器用表面弾性波フィルタ

【課題】アンテナ分波器において、低挿入損失を実現しつつ通過域低域での減衰量を確保する移相器を不要にする。
【解決手段】低域側SAWフィルタ20と高域側SAWフィルタ30によって構成するアンテナ分波器において、高域側SAWフィルタ30は、SAW共振子51とこれに並列にコイル52を接続した構成とし、低域側SAWフィルタの通過域周波数に対しては高インピーダンスを呈し、かつ高域側SAWフィルタの通過域周波数に対しては低インピーダンスを呈するSAWタンク回路50と、1つのIDTと、このIDTの両側で出力端を共通接続した一対のIDTおよび反射器で構成され、低域側SAWフィルタの通過域周波数に対して大きな減衰量を呈し、かつ高域側SAWフィルタの通過域周波数をフィルタ処理する縦結合共振器型フィルタ60とによって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通のアンテナで送受信するために、送信周波数と受信周波数を表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタによって分波するアンテナ分波器およびこのアンテナ分波器用SAWフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型電話機などの双方向無線通信機能をもつ装置およびこの種の装置を通信端末とする無線通信システムでは、通信端末がもつ1本のアンテナを使用した送信と受信を可能とするため、送信電波の周波数と受信電波の周波数に差を持たせ、この周波数差を利用して、アンテナ分波器で送信信号と受信信号を分離した送受信処理を可能としている。
【0003】
上記のアンテナ分波器として、VHF/UHFの周波数帯の信号処理に適した小型のSAWデバイスが多用されている。SAWデバイスは、弾性体表面に伝わる波を利用したもので、図15に構成例を示すように、圧電性基板上に櫛形電極(IDT:インターディジタルトランスデューサ)101を配置し、電気信号と弾性表面波間の電気−機械相互変換を行って周波数選択(帯域フィルタ)特性を持たせ、さらには反射器(リフレクタ)102を付して高いQの共振特性を持たせるようにしている。
【0004】
このようなSAWデバイスを使用した従来のアンテナ分波器の構成例を図16に示す。この例では、1本のアンテナ10に対して、受信電波(例えば、中心周波数826.5MHz)をフィルタ処理(周波数選択)して装置内の受信処理部(図示省略)に出力する低域側SAWフィルタ20と、装置内の送信処理部(図示省略)からの送信信号(例えば、中心周波数877.5MHz)をフィルタ処理(周波数選択)してアンテナ10に印加する高域側SAWフィルタ30を一体的に設けたSAWデュプレクサ構成としている。これら低域側SAWフィルタ20と高域側SAWフィルタ30は、複数のSAW共振子をラダー接続して所期のフィルタ特性を得るよう設計される。
【0005】
さらに、高域側SAWフィルタ30にはアンテナ10との間に移相器40が設けられる。この移相器40は、アンテナ10に現れる送信周波数信号を移相することで、低域側SAWフィルタ20の通過周波数帯域でのインピーダンスを高め、送信電流が低域側SAWフィルタ20側に分流して挿入損失を起こすのを減らす。逆に、移相器40はアンテナ10での受信電波を移相することで、高域側SAWフィルタ30の通過周波数帯域でのインピーダンスを高め、受信電波が高域側SAWフィルタ30側に分流して損失を起こすのを減らす。
【0006】
なお、送信電波と受信電波の周波数は、上記の場合とは逆に、低域側SAWフィルタ20を送信側とし、高域側SAWフィルタ30を受信側とする無線通信システムの場合もある。
【0007】
また、SAWデバイスを使用したアンテナ分波器は、図16の構成の他にも種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。この文献では、複数のSAWフィルタを1パッケージ化する際のスプリアスが低域側SAWフィルタのフィルタ特性に影響するのを抑制するため、例えば縦結合共振子型SAWフィルタを採用している。
【0008】
【特許文献1】特開2003−289234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、SAW共振子をラダー型に接続した一対のSAWフィルタを1本のアンテナに並列接続したSAWデュプレクサ構成では、図17に示すように、低域での減衰量において劣るフィルタ特性になり、低挿入損失を実現しつつ、通過域低域での減衰量を同時に確保するのが困難であった。
【0010】
この問題を解決する手段として、従来の図16に示す構成では、SAW共振子の他に、移相器40をアンテナポート直下に設けることとしている。この移相器40にはλ/4マイクロストリップ線路、集中定数回路部品などが用いられるが、この回路を実現するためにはSAWチップの他に外付け回路が付加的に必要となるため、デバイス面積や体積の増加、コストアップという問題があった。
【0011】
なお、前記の特許文献1には移相器の記載がないが、低挿入損失を実現しつつ、通過域低域での減衰量を同時に確保するには、図16の移相器40と同等のものを設けて分波器としての性能を高める必要があり、この場合には同様の問題がある。
【0012】
また、昨今の平衡(バランス)出力を有するSAWデュプレクサの要求に対して、従来のラダー型構成の場合ではフィルタに平衡出力が得られないという問題もあった。
【0013】
本発明の目的は、このような背景の下になされたものであり、移相器を用いなくとも低挿入損失を実現しつつ、通過域低域での減衰量を確保できるアンテナ分波器およびアンテナ分波器用SAWフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のアンテナ分波器は、高域側表面弾性波フィルタと低域側表面弾性波フィルタとからなる一対の表面弾性波フィルタを共通のアンテナに接続し、送信処理部からの送信信号を前記一対の表面弾性波フィルタの一方でフィルタ処理して前記アンテナに印加し、前記アンテナからの受信電波を前記一対の表面弾性波フィルタの他方でフィルタ処理して受信処理部に出力するアンテナ分波器において、
前記高域側表面弾性波フィルタは、
前記アンテナ側に設けられ、表面弾性波共振子とコイルとを並列接続して構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては高インピーダンスを呈し、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては低インピーダンスを呈する通過特性と反射特性を有する表面弾性波タンク回路と、
前記表面弾性波タンク回路に対して前記アンテナとは反対側に直列に設けられ、少なくとも1つのIDTと、このIDTの両側で出力端を共通接続した少なくとも一対のIDTとで構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号に対しては減衰させ、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号をフィルタ処理する縦結合共振器型フィルタと、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
縦結合共振器型フィルタについて、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号に対して減衰させるとは、例えばその減衰量が25dB程度の場合が挙げられる。本発明の具体的態様としては例えば前記表面弾性波タンク回路と前記縦結合共振器型フィルタとの間に、表面弾性波共振子とコイルとの直列回路を並列に接続した構成、前記アンテナと表面弾性波タンク回路との間に表面弾性波共振子を直列に接続した構成、あるいは前記縦結合共振器型フィルタは、出力ポートの出力がほぼ同じ位相になる縦結合共振器型フィルタを複数個並列接続し、フィルタ処理電流を各縦結合共振器型フィルタに分岐させる構成などが挙げられる。
【0016】
更に前記縦結合共振器型フィルタは、入力側の信号の位相を互いに逆位相で取り出されるようにIDT電極を接続した一対の縦結合共振器型フィルタを互いに並列接続し、これら一対の縦結合共振器型フィルタの出力ポートに平衡出力が得られるようにした構成としてもよい。なお入力側の信号の位相を互いに逆位相で取り出されるようにとは、入力側の信号の位相を例えば夫々0°及び180°ずらす(位相を0°ずらすとは、位相がそのままである)ようにして取り出されるという意味である。
【0017】
更に本発明は、上記の発明のアンテナ分波器において、高域側表面弾性波フィルタとしても成り立つものである。即ち、他の発明は、低域側表面弾性波フィルタと並列に接続されて一対の表面弾性波フィルタを構成し、共通のアンテナに接続されるアンテナ分波器用表面弾性波フィルタにおいて、
前記アンテナ側に設けられ、表面弾性波共振子とコイルとを並列接続して構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては高インピーダンスを呈し、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては低インピーダンスを呈する通過特性と反射特性を有する表面弾性波タンク回路と、
前記表面弾性波タンク回路に対して前記アンテナとは反対側に直列に設けられ、少なくとも1つのIDTと、このIDTの両側で出力端を共通接続した少なくとも一対のIDTとで構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては減衰させ、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数をフィルタ処理する縦結合共振器型フィルタと、を備え、
送信処理部からの送信信号をフィルタ処理して前記アンテナに印加するかまたは前記アンテナからの受信電波をフィルタ処理して受信処理部に出力するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低域側SAWフィルタと高域側SAWフィルタによってSAWデュプレクサ構成とするアンテナ分波器において、高域側SAWフィルタのアンテナに近い側でSAW共振子とこれに並列にコイルを接続したSAWタンク回路を設けることにより、低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対するインピーダンスを高インピーダンスにしている。そしてSAWタンク回路に直列に縦結合共振器型フィルタを設けることで、低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数よりも低い周波数領域の信号レベルを減衰させると共に、低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号レベルを大きく減衰させ、更にSAWタンク回路と相まって結果的に低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号レベルが大きく減衰する。そしてSAWタンク回路に着目すると、これは位相を反時計回りに回転して反射インピーダンスを高インピーダンス(オープンに近づける)作用と同時に、低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の減衰量も改善する作用がある。
【0019】
従って従来のように移相器を外部接続で設けることが不要になり、デバイスサイズを小型化できるメリットと、コストダウンが図れるメリットがある。またSAWタンク回路と縦結合共振器型フィルタの組み合わせにより、高域側SAWフィルタにラダー型フィルタを用いた従来のSAWデュプレクサ構成に比較して、高域側SAWフィルタの低周波数域の減衰量が改善できる。更にまた、高域側フィルタポートに最も近い部分に縦結合共振器型フィルタを並列に2個逆相で接続することで、平衡出力型のデュプレクサ構成も容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
一般に、SAWデュプレクサ構成のアンテナ分波器では、図1等に示すように、電気ポートとしてアンテナポート11、高域側ポート12、低域側ポート13の3つが必要となる。SAWデュプレクサ構成としては低域側SAWフィルタ20と高域側SAWフィルタ30が1系統ずつ実装されており、それらがアンテナポート11直下の“A”点にて接続される。
【0021】
低域側SAWフィルタ20の通過域での周波数をf−LOW、高域側SAWフィルタ30の通過域での周波数をf−Hiとすると、A点からみて、f−LOWの周波数においては高域側SAWフィルタ30の反射インピーダンスが高くなるように設計し、f−Hiの周波数においては低域側SAWフィルタ20の反射インピーダンスが高くなるように設計する必要がある。これらの特性をもたない場合、それぞれフィルタの挿入損失の劣化を招くことになる。
【0022】
本発明の第1の実施形態は、図1に基本構成として示すように、高域側SAWフィルタ30について、SAW共振子51とこれに並列にコイル52を接続したSAWタンク回路50をアンテナ側(アンテナポート11側)に設け、このSAWタンク回路50における高域側フィルタポート12側にSAW素子を用いた縦結合共振器型フィルタ60を直列接続して構成している。
【0023】
なお、図1において、低域側SAWフィルタ20の構成は、後述の例も含めて、SAW共振子21を5素子用いたT型ラダー型として示すが、基本的にはどのようなフィルタ構造でもよい。また、各SAW素子を構成する圧電基板には、LTaO,LNbO、水晶を始めとする、圧電作用のあるSAWデバイス用ウエハであればよい。
【0024】
以上の構成になるアンテナ分波器におけるSAWタンク回路50と縦結合共振器型フィルタ60の具体的な構成と動作を説明する。
【0025】
SAWタンク回路50は、その詳細な構成例を図2に示すように、1つのIDT53の両側に反射器54を設けたSAW共振子51と、このSAW共振子51に並列にコイル52を接続した構成とされる。この構成により、SAWタンク回路50は、図3(a)に横軸を周波数、縦軸を減衰量とした通過特性(ゲイン特性)を、(b)にスミス図表による反射特性(反射係数とインピーダンス特性)を示すように、低域側SAWフィルタ20の通過域周波数f−LOWに対してはOPENに近い位相特性(高インピーダンス)を呈してその通過を阻止することで周波数f−LOWの損失を抑制し、かつ高域側SAWフィルタ30の通過域周波数f−Hiに対しては低インピーダンスを呈してその減衰を少なくする。
【0026】
つまり、SAWタンク回路50は、低域側SAWフィルタの通過域周波数f−LOWに対しては、その位相を反時計回りに回転させて反射インピーダンスをOPEN(高インピーダンス)に近づける作用と同時に、f−LOWに於ける減衰量も改善する作用がある。なお実際の設計では、SAW共振子51の共振周波数、電極形状、電極ピッチ、電極膜厚、電極指交差幅、電極指数幅、電極指本数、励振重み付け、電極指反射量及びコイル52の定数を選定することで、こうした特性を得ることができる。コイル52について具体的には例えば0.1nH〜200nHのものを用いることができる。
【0027】
また、SAWタンク回路50のSAW共振子51を構成するIDT52には通常シングル電極が用いられるが、IDTのみをダブル電極としても良いし、シングル電極とダブル電極の混在としても良い。また、SAWタンク回路50のコイル52はディスクリート部品(外付け個別部品)によるもの、プリント板配線により実現するもの、ボンディングワイヤにより実現するもの、ストリップ線路によるもの、マイクロストリップ線路によるもの等、その構造は何でも厭わない。
【0028】
次に、縦結合共振器型フィルタ60は、高域側SAWフィルタ30の通過域周波数をフィルタ処理するもので、その構成例は図4に示すように、高域側SAWフィルタ30の通過域周波数信号f−Hiが印加される1つのIDT61と、この両側に一対のIDT62、62を設け、この一対のIDT62、62の両出力端を共通接続してフィルタ出力を得る3つのIDT構成とする。さらに、一対のIDT61、62の配列方向の両端には高いQ値を得るための一対の反射器63、63を設けた構成とする。
【0029】
この構成とする縦結合共振器型フィルタ60は、図5(a)に通過特性(ゲイン特性)を、(b)に反射特性(位相特性)を示すように、f−LOWを含めてこれよりも低い周波数領域の信号レベルを低下させる役割を果たし、そしてf−LOWに於ける減衰量は25dBと良好となる。ここで、縦結合共振器型フィルタ60単体の特性は、f−LOWにおける反射位相が高インピーダンスになっておらず、SAWデュプレクサ構成には不向きで、何らかの方法で位相を回してf−LOWに於けるインピーダンスを高める必要がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、縦結合共振器型フィルタ60に直列に前記のSAWタンク回路50を付加した高域側SAWフィルタ構成とする。この場合の周波数特性を図6に示す。同図に示すように、縦結合共振器型フィルタ60によってf−LOWにおける信号レベルについて良好な減衰量を実現している所に加えて、SAWタンク回路50にて更なる減衰量が改善されるため、総合的に45dBの減衰量が得られている。また、図6(b)の反射特性から解るように、SAWタンク回路50の位相回転作用によりf−LOWに於けるインピーダンスもOPENに近づき、デュプレクサ構成のフィルタ特性として良好なものとなる。
【0031】
また、図7は本実施の形態を適用した高域側SAWフィルタ30の通過特性を示し、低周波数域において、図16に示す従来特性に比較して良好な減衰量が得られていることが判る。
【0032】
図8は、図1における高域側SAWフィルタ30に、一般的なラダー型フィルタを低域側SAWフィルタ20として接続した場合の周波数特性を示す。同図からも明らかなように、f−LOWに於ける減衰量は50dB以上が実現され、また低域側SAWフィルタの挿入損失についても劣化が殆ど無いものが得られた。
【0033】
このように上述の実施の形態によれば、移相器を外部接続で設けることなく、アンテナ分波器として良好な特性が得られ、デバイスサイズを小型化できるメリットと、コストダウンが図れ、例えば携帯電話などに好適に用いることができる。
【0034】
(他の実施形態)
図9は、高域側SAWフィルタの、f−LOWにおける反射位相をさらにOPENに近づけるために、SAWタンク回路50と縦結合共振器型フィルタ60の接続点と基準電位(この例ではアース電位)間に、SAW共振子71とコイル72を直列接続した直列回路70を設けた構成とする。即ちこの直列回路70はSAWタンク回路50と縦結合共振器型フィルタ60との間に、並列に接続された並列SAWレゾネータ70に相当する。
【0035】
図10は、高域側SAWフィルタ30の、f−LOWにおける反射位相をさらにOPENに近づけるために、アンテナポート11とSAWタンク回路50との間にSAW共振子構成の直列SAWレゾネータ80を介挿した構成とする。なお、図10の構成において、図9に示す並列SAWレゾネータ70も併用した構成でもよい。
【0036】
図11は、図9の構成において、縦結合共振器型フィルタ60として、縦結合共振器型フィルタ60P,60Nを2つ並列に接続し、これらの2つの出力ポートの位相が互いに180°異なるようにIDT61、62、62を構成することで、平衡出力型のアンテナ分波器を実現するものである。図12はこの縦結合共振器型フィルタ60の構成例を示すものであり、一方の縦結合共振器型フィルタ60Pについては、アンバランス信号の入力に対してそのままの位相で出力信号が得られるように、また他方の縦結合共振器型フィルタ60Nについては、アンバランス信号の入力に対して位相が反転した出力信号が得られるように、各IDT61、62、62が構成されている。より具体的には両フィルタ60P,60Nにおける両側のIDT62、62については同じ構成とし、中央の各IDT61の電極指の配列を変えて、一方のフィルタ60PではIDT62、62に印加された信号と同位相でIDT61から信号が取り出され、他方のフィルタ60NではIDT62、62に印加された信号と逆位相でIDT61から信号が取り出されるようになっている。なお、図11において、並列SAWレゾネータ70を省略した構成としてもよいし、図10の直列SAWレゾネータ80を設けた構成としてもよい。また、高域側SAWフィルタ30を受信側とする場合には平衡入力ポートして機能させることができる。
【0037】
図13は、縦結合共振器型フィルタ60のSAW素子1個辺りに流れ込むフィルタ処理電流を低下させることで、フィルタ60の耐電力性能を向上させるものである。同図では、出力ポートがほぼ同じ位相になる一対の縦結合共振器型フィルタ60,60を並列接続し、電流を2分岐させて耐電力性の向上を図る。この例では2分岐であるが、更に複数個の縦結合共振器型フイルタを並列接続すれば更に耐電力性能を向上させることができる。なお、図12の構成において、並列SAWレゾネータ70を省略した構成としてもよいし、図10のように直列SAWレゾネータ80を設けた構成としてもよい。
【0038】
図14は、高域側SAWフィルタと低域側SAWフィルタを一体構造とせず、独立な圧電性基板に構成してそれらをパッケージングしたSAWデュプレクサ構成とする場合である。同図では、高域側SAWフイルタ30と低域側SAWフィルタ20を分離構成し、アンテナポート10A,10Bはそれぞれ両フィルタ20、30に1つずつ、計2つ設け、デュプレクサとして動作させるためにはこの2つのアンテナポート10A,10Bを接続する。この場合、接続はデバイスの外部回路(例えば、プリント板上やアンテナスイッチIC内部など)で行うことで済む。
【0039】
本発明は上述のように高域側表面弾性波フィルタ30と低域側表面弾性波フィルタ20とを組み合わせたアンテナ分波器として成り立つものであるが、図14のように構成された高域側表面弾性波フィルタ30からなるアンテナ分波器用SAWフィルタとしても成り立つものであり、この高域側表面弾性波フィルタ30を用いることにより既述の効果が得られる。
【0040】
なお、以上までの実施形態において、縦結合共振器型フィルタ60、60P、60Nは、3電極構造に限らず、少なくとも2つ以上のIDTを有する縦結合共振器型フィルタに適用可能である。例えば、5電極構造の縦結合共振器型フイルタとしてフィルタ特性を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の基本構成図。
【図2】SAWタンク回路の構成例を示す図(実施形態)。
【図3】SAWタンク回路の通過特性と反射特性。
【図4】縦結合共振器型フィルタの構成例を示す図(実施形態)。
【図5】縦結合共振器型フィルタの通過特性と反射特性。
【図6】縦結合共振器型フィルタとSAWタンク回路を接続した場合の通過特性と反射特性。
【図7】高域側SAWフィルタの周波数特性。
【図8】アンテナ分波器用SAWフィルタの周波数特性。
【図9】他の実施形態の構成図(その1)。
【図10】他の実施形態の構成図(その2)。
【図11】他の実施形態の構成図(その3)。
【図12】他の実施形態の構成図(その4)。
【図13】他の実施形態の構成図(その5)。
【図14】縦結合共振器型フィルタの構成例を示す構成図。
【図15】SAWデバイスの構成例。
【図16】従来のアンテナ分波器の構成例。
【図17】従来のアンテナ分波器の周波数特性。
【符号の説明】
【0042】
10 アンテナ
20 低域側SAWフィルタ
30 高域側SAWフィルタ
40 移相器
50 SAWタンク回路
51 SAW共振子
52 コイル
60、60P、60N 縦結合共振器型フィルタ
70 並列SAWレゾネータ
71 SAW共振子
72 コイル
80 直列SAWレゾネータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高域側表面弾性波フィルタと低域側表面弾性波フィルタとからなる一対の表面弾性波フィルタを共通のアンテナに接続し、送信処理部からの送信信号を前記一対の表面弾性波フィルタの一方でフィルタ処理して前記アンテナに印加し、前記アンテナからの受信電波を前記一対の表面弾性波フィルタの他方でフィルタ処理して受信処理部に出力するアンテナ分波器において、
前記高域側表面弾性波フィルタは、
前記アンテナ側に設けられ、表面弾性波共振子とコイルとを並列接続して構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては高インピーダンスを呈し、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては低インピーダンスを呈する通過特性と反射特性を有する表面弾性波タンク回路と、
前記表面弾性波タンク回路に対して前記アンテナとは反対側に直列に設けられ、少なくとも1つのIDTと、このIDTの両側で出力端を共通接続した少なくとも一対のIDTとで構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号に対しては減衰させ、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数の信号をフィルタ処理する縦結合共振器型フィルタと、
を備えたことを特徴とするアンテナ分波器。
【請求項2】
前記表面弾性波タンク回路と前記縦結合共振器型フィルタとの間に、表面弾性波共振子とコイルとの直列回路を並列に接続したことを特徴とする請求項1記載のアンテナ分波器。
【請求項3】
前記アンテナと表面弾性波タンク回路との間に表面弾性波共振子を直列に接続したことを特徴とする請求項1または2に記載のアンテナ分波器。
【請求項4】
前記縦結合共振器型フィルタは、入力側の信号の位相を互いに逆位相で取り出されるようにIDT電極を接続した一対の縦結合共振器型フィルタを互いに並列接続し、これら一対の縦結合共振器型フィルタの出力ポートに平衡出力が得られるように構成されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のアンテナ分波器。
【請求項5】
前記縦結合共振器型フィルタは、出力ポートの出力がほぼ同じ位相になる縦結合共振器型フィルタを複数個並列接続し、フィルタ処理電流を各縦結合共振器型フィルタに分岐させる構成にしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアンテナ分波器。
【請求項6】
低域側表面弾性波フィルタと共に一対の表面弾性波フィルタを構成し、共通のアンテナに接続されるアンテナ分波器用表面弾性波フィルタにおいて、
前記アンテナ側に設けられ、表面弾性波共振子とコイルとを並列接続して構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては高インピーダンスを呈し、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては低インピーダンスを呈する通過特性と反射特性を有する表面弾性波タンク回路と、
前記表面弾性波タンク回路に対して前記アンテナとは反対側に直列に設けられ、少なくとも1つのIDTと、このIDTの両側で出力端を共通接続した少なくとも一対のIDTとで構成されると共に、前記低域側表面弾性波フィルタの通過域周波数に対しては減衰させ、かつ前記高域側表面弾性波フィルタの通過域周波数をフィルタ処理する縦結合共振器型フィルタと、を備え、
送信処理部からの送信信号をフィルタ処理して前記アンテナに印加するかまたは前記アンテナからの受信電波をフィルタ処理して受信処理部に出力するものであることを特徴とするアンテナ分波器用表面弾性波フィルタ。
【請求項7】
前記表面弾性波タンク回路と前記縦結合共振器型フィルタとの間に、表面弾性波共振子とコイルとの直列回路を並列に接続したことを特徴とする請求項6記載のアンテナ分波器用表面弾性波フィルタ。
【請求項8】
前記アンテナと表面弾性波タンク回路の間に表面弾性波共振子を直列に接続したことを特徴とする請求項6または7に記載のアンテナ分波器用表面弾性波フィルタ。
【請求項9】
前記縦結合共振器型フィルタは、入力側の信号の位相を互いに逆位相で取り出されるようにIDT電極を接続した一対の縦結合共振器型フィルタを互いに並列接続し、これら一対の縦結合共振器型フィルタの出力ポートに平衡出力が得られるように構成されたことを特徴とする請求項6ないし8のいずれか一つに記載のアンテナ分波器用表面弾性波フィルタ。
【請求項10】
前記縦結合共振器型フィルタは、出力ポートの出力がほぼ同じ位相になる縦結合共振器型フィルタを複数個並列接続し、フィルタ処理電流を各縦結合共振器型フィルタに分岐させる構成にしたことを特徴とする請求項6ないし9のいずれか一つに記載のアンテナ分波器用表面弾性波フィルタ。



















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−157174(P2006−157174A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341006(P2004−341006)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】