説明

アンテナ装置およびそれを備えた通信機器

【課題】大型化するのを抑制しながら、送受信特性が低下するのを抑制するのが可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】このアンテナ装置1は、アンテナ本体部2と、アンテナ本体部2に取り付けられた誘電体レンズ3とを備え、誘電体レンズ3の放射面3aには、凹凸形状が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナ装置およびそれを備えた通信機器に関し、特に、誘電体レンズを含むアンテナ装置およびそれを備えた通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の大容量化に伴い、種々のブロードバンド無線通信システムやそれに用いる装置が提案されている。その中で、大容量通信に適している方式として、マイクロ波帯(300MHz〜30GHz)やミリ波帯(30GHz〜300GHz)の電磁波を送受信するアンテナ装置が知られている。
【0003】
図8は、従来のアンテナ装置の構造を示した側面図である。図9は、図8に示した従来のアンテナ装置の誘電体レンズの放射面に水滴が付着した状態を示した拡大断面図である。従来のアンテナ装置は、アンテナ本体部101と、アンテナ本体部101の上面に固定された誘電体レンズ102とを備えている。また、従来のアンテナ装置では、誘電体レンズ102の放射面102aは、凹凸の無い滑らかな表面に形成されており、誘電体レンズ102の放射面102aの撥水性を高めている。これにより、従来のアンテナ装置を、例えば屋外で使用する場合、降雨時などに誘電体レンズ102の放射面102aに付着した水滴を、誘電体レンズ102の放射面102aから滑り落ちやすくすることが可能である。このため、誘電体レンズ102の放射面102aに付着した水滴により、アンテナ装置により送受信される電磁波が減衰するのをある程度抑制することが可能である。
【0004】
しかしながら、従来のアンテナ装置では、アンテナ装置(誘電体レンズ102)が、例えば垂直上方に向かって設置されている状態(図8の状態)では、図9に示すように、水滴110が誘電体レンズ102の中心部102bに溜まって盛り上がった形状になる。このため、水滴110により、電磁波が送受信時に大きく減衰するという問題点がある。すなわち、降雨時などに、アンテナ装置の送受信特性が低下するのを抑制するのが困難であるという問題点がある。
【0005】
また、従来、アンテナ装置に水滴などが付着するのを抑制することが可能な距離計測装置(通信機器)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記特許文献1には、水平方向に電磁波が送受信されるアンテナ装置と、電磁波が送受信される方向(水平方向)に開口部が設けられているとともに、アンテナ装置の上面や側面などを覆うアンテナカバーとを備えた距離計測装置が開示されている。これにより、降雨時などにアンテナ装置に水滴が付着するのを抑制することが可能であるので、電磁波が送受信時に減衰するのを抑制することが可能である。
【特許文献1】特開平10−206521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された距離計測装置では、アンテナ装置の上面や側面などを覆うアンテナカバーを設けるので、装置全体が大型化するという問題点がある。また、上記特許文献1に開示された距離計測装置では、アンテナカバーに、電磁波が送受信される方向に開口部が設けられているので、アンテナ装置を、例えば垂直上方に向かって設置した場合、アンテナ装置に水滴が付着するのを抑制することが困難であり、アンテナ装置の送受信特性が低下するのを抑制するのが困難であるという問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、大型化するのを抑制しながら、送受信特性が低下するのを抑制するのが可能なアンテナ装置および通信機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面によるアンテナ装置は、アンテナ本体部と、アンテナ本体部に取り付けられた誘電体レンズとを備え、誘電体レンズの放射面には、凹凸形状が形成されている。
【0010】
この第1の局面によるアンテナ装置では、上記のように、誘電体レンズの放射面に、凹凸形状を形成することによって、誘電体レンズの放射面の親水性(濡れ性)を向上させることができるので、降雨時などに誘電体レンズに付着した水滴を、誘電体レンズの放射面上に濡れ拡がらせることができる。これにより、誘電体レンズの放射面に付着した水滴の膜厚を小さくすることができるので、電磁波が水滴により送受信時に減衰するのを抑制することができる。このため、アンテナ装置(誘電体レンズ)が、例えば垂直上方に向かって設置されている場合にも、電磁波が水滴により送受信時に大きく減衰するのを抑制することができる。その結果、降雨時などに、アンテナ装置の送受信特性が低下するのを抑制することができる。
【0011】
また、第1の局面によるアンテナ装置では、上記のように、誘電体レンズの放射面に凹凸形状を形成することにより、降雨時などにアンテナ装置の送受信特性が低下するのを抑制することができるので、アンテナ装置を覆うアンテナカバーなどを設ける必要がない。これにより、装置全体が大型化するのを抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面によるアンテナ装置において、好ましくは、誘電体レンズの放射面には、凹凸形状の段差よりも大きい高さを有する突起部が設けられている。このように構成すれば、突起部が、例えば下方に向かって突出するように設けられている場合、誘電体レンズの放射面に付着した水滴を、突起部を伝って流れ落とすことができる。これにより、誘電体レンズの放射面に付着した水滴の量を減少させることができるので、誘電体レンズの放射面に付着した水滴の膜厚を、より小さくすることができる。その結果、電磁波が水滴により送受信時に減衰するのを、より抑制することができるので、降雨時などにアンテナ装置の送受信特性が低下するのを、より抑制することができる。
【0013】
上記誘電体レンズの放射面に突起部が設けられているアンテナ装置において、好ましくは、突起部は、誘電体レンズの放射面から下方に向かって突出するように設けられている。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面に付着した水滴を、容易に突起部を伝って流れ落とすことができる。これにより、降雨時などにアンテナ装置の送受信特性が低下するのを、容易に、より抑制することができる。
【0014】
上記突起部が誘電体レンズの放射面から下方に向かって突出するように設けられているアンテナ装置において、好ましくは、突起部は、誘電体レンズの放射面の最も低い位置に設けられている。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面に付着した水滴を、効果的に、突起部を伝って流れ落とすことができる。
【0015】
上記誘電体レンズの放射面に突起部が設けられているアンテナ装置において、好ましくは、突起部は、誘電体レンズの放射面のうちの電磁波が送受信される方向の中央部に設けられている。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面のうちの電磁波が送受信される方向の中央部に付着した水滴の膜厚を小さくすることができるので、電磁波が水滴により送受信時に減衰するのを、効果的に抑制することができる。これにより、降雨時などにアンテナ装置の送受信特性が低下するのを、効果的に抑制することができる。
【0016】
上記誘電体レンズの放射面に突起部が設けられているアンテナ装置において、好ましくは、突起部は、誘電体レンズと一体的に形成されている。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面に、容易に突起部を形成することができる。
【0017】
上記第1の局面によるアンテナ装置において、好ましくは、誘電体レンズの凹凸形状は、0.5mm以下の段差を有し、凹凸形状の隣接する凸部の頂点同士間の距離は、0.5mm以下である。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面の親水性(濡れ性)を、容易に向上させることができる。
【0018】
上記第1の局面によるアンテナ装置において、好ましくは、誘電体レンズの放射面の凹凸形状は、三角錐形状、四角錐形状または半球形状の複数の凸部により形成されている。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面に、容易に凹凸形状を形成することができる。
【0019】
上記第1の局面によるアンテナ装置において、好ましくは、誘電体レンズの凹凸形状は、誘電体レンズの放射面のうちの電磁波が送受信される方向の中央部から放射状に拡がるように形成されている。このように構成すれば、誘電体レンズの放射面に付着した水滴を、誘電体レンズの放射面のうちの電磁波が送受信される方向の中央部から放射状に均一に濡れ拡がらせることができる。これにより、誘電体レンズの放射面に付着した水滴の膜厚を均一に小さくすることができる。
【0020】
上記第1の局面によるアンテナ装置は、好ましくは、300MHz〜300GHzの電磁波を送受信する。このように、アンテナ装置を、水滴により減衰しやすいマイクロ波帯(300MHz〜30GHz)やミリ波帯(30GHz〜300GHz)の電磁波を送受信するように構成すれば、送受信特性が低下するのを効果的に抑制することができる。
【0021】
この発明の第2の局面による通信機器は、請求項1〜10のいずれか1項に記載のアンテナ装置を備える。このように構成すれば、大型化するのを抑制しながら、送受信特性が低下するのを抑制するのが可能な通信機器を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、大型化するのを抑制しながら、送受信特性が低下するのを抑制するのが可能なアンテナ装置および通信機器を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の構造を示した側面図である。図2〜図4は、図1に示した本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の詳細構造を示した図である。図1〜図4を参照して、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置1の構造について説明する。
【0024】
本発明の第1実施形態によるアンテナ装置1は、アンテナ本体部2と、アンテナ本体部2の上面上に固定されるとともに、略半球形状に形成された誘電体レンズ3とを含んでいる。
【0025】
アンテナ本体部2は、図2に示すように、パッチアンテナ2aを有する高周波モジュール2bと、高周波モジュール2bが実装された基板2cとを含んでいる。
【0026】
パッチアンテナ2aは、マイクロ波帯(300MHz〜30GHz)およびミリ波帯(30GHz〜300GHz)の電磁波を送受信するための放射源として機能する。パッチアンテナ2aは、誘電体レンズ3の下面までの距離(焦点距離)(H1)が約12mmになるように配置されている。また、パッチアンテナ2aは、垂直上方に対してθ1(=約59°)傾斜した方向に誘電体レンズ3の下面の外周部が位置するように配置されている。また、誘電体レンズ3は、約40mmのレンズ径(D1)と、約21.9mmのレンズ厚(T1)とを有している。なお、レンズ径(D1)を変えることにより、任意の指向性を得ることが可能である。
【0027】
また、誘電体レンズ3は、高密度ポリエチレンなどの誘電体からなる。この誘電体レンズ3は、約2.3の比誘電率を有する。これにより、電磁波の減衰を小さくすることが可能であるとともに、安価に形成することが可能である。また、誘電体レンズ3は、高密度ポリエチレン以外のポリエチレンや、その他の誘電体により構成することも可能であるが、誘電正接(tanδ)の値は、小さい方が望ましく、比誘電率は、2〜5程度が望ましい。
【0028】
アンテナ装置1では、パッチアンテナ2aから送信(発信)された広角の電磁波は、誘電体レンズ3に入射し、誘電体レンズ3と空気との境界面(誘電体レンズ3の放射面3a)で屈折して誘電体レンズ3から平面波として送信される。
【0029】
なお、上記した構成のアンテナ装置1では、約58.0GHz〜約62.0GHzの周波数において、アンテナ利得は、約23dBiである。
【0030】
ここで、第1実施形態では、誘電体レンズ3の放射面3aには、図3および図4に示すように、凹凸形状が形成されている。この凹凸形状は、複数の三角錐形状の凸部3bが互いに接するように配置されることにより形成されている。また、誘電体レンズ3の凹凸形状は、図3に示すように、誘電体レンズ3の放射面3aのうちの電磁波が送信される方向の中心3cから放射状に規則的に拡がるように形成されている。なお、中心3cは、本発明の「中央部」の一例である。
【0031】
また、第1実施形態では、図4に示すように、誘電体レンズ3の凸部3b(凹凸形状)は、約0.1mm以下で、かつ、約0.002mm以上の高さ(段差)(H2)を有する。また、誘電体レンズ3の凸部3b(凹凸形状)は、隣接する凸部3bの頂点同士間の距離(W1)が約0.1mm以下で、かつ、約0.0003mm以上になるように形成されている。これにより、第1実施形態では、アンテナ装置1の誘電体レンズ3の放射面3aが凹凸の無い滑らかな表面に形成されている場合に比べて、アンテナ装置1の誘電体レンズ3の放射面3aの親水性(濡れ性)を向上させることが可能となる。このため、降雨時などに誘電体レンズ3に付着した水滴30は、誘電体レンズ3の放射面3a上に濡れ拡がるとともに膜厚が小さくなる。
【0032】
第1実施形態では、上記のように、誘電体レンズ3の放射面3aに、凹凸形状(凸部3b)を形成することによって、誘電体レンズ3の放射面3aの親水性(濡れ性)を向上させることができるので、降雨時などに誘電体レンズ3に付着した水滴30を、誘電体レンズ3の放射面3a上に濡れ拡がらせることができる。これにより、誘電体レンズ3の放射面3aに付着した水滴30の膜厚を小さくすることができるので、電磁波が水滴30により送受信時に減衰するのを抑制することができる。このため、アンテナ装置1(誘電体レンズ3)が、例えば垂直上方に向かって設置されている場合にも、電磁波が水滴30により送受信時に大きく減衰するのを抑制することができる。その結果、降雨時などに、アンテナ装置1の送受信特性が低下するのを抑制することができる。
【0033】
また、第1実施形態では、誘電体レンズ3の放射面3aに凹凸形状(凸部3b)を形成することにより、降雨時などにアンテナ装置1の送受信特性が低下するのを抑制することができるので、アンテナ装置1を覆うアンテナカバーなどを設ける必要がない。これにより、装置全体が大型化するのを抑制することができる。
【0034】
また、第1実施形態では、誘電体レンズ3の凸部3b(凹凸形状)を、約0.1mm以下の高さ(段差)を有するように形成し、隣接する凸部3bの頂点同士間の距離(W1)を、約0.1mm以下にすることによって、誘電体レンズ3の放射面3aの親水性(濡れ性)を、容易に向上させることができる。
【0035】
また、第1実施形態では、誘電体レンズ3の凹凸形状(凸部3b)を、誘電体レンズ3の放射面3aのうちの電磁波が送受信される方向の中心3cから放射状に規則的に拡がるように形成することによって、誘電体レンズ3の放射面3aに付着した水滴30を、誘電体レンズ3の放射面3aのうちの電磁波が送受信される方向の中心3cから放射状に均一に濡れ拡がらせることができる。これにより、誘電体レンズ3の放射面3aに付着した水滴30の膜厚を均一に小さくすることができる。
【0036】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置を備えた通信機器の全体構成を示した概略図である。図6および図7は、図5に示した本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の構造を示した図である。図5〜図7を参照して、この第2実施形態では、本発明を、屋外に配置されたアンテナ装置を備えた通信機器に適用する場合について説明する。
【0037】
第2実施形態では、図5に示すように、建物40の下層階に通信機器10が設置されており、建物40の上層階または屋上などに通信機器20が設置されている。通信機器10は、アンテナ装置10aと、アンテナ装置10aに接続された受信装置10bとにより構成されている。通信機器20は、アンテナ装置20aと、アンテナ装置20aに接続された信号発生装置20bとにより構成されている。
【0038】
アンテナ装置10aおよび20aは、屋外に設置されており、信号(電磁波)を無線伝送するように構成されている。
【0039】
アンテナ装置10aは、アンテナ装置20aから送信された信号(電磁波)を受信する機能を有する。なお、アンテナ装置10aおよび20aは、映像伝送や超高速無線LANなどの大容量伝送に用いることが可能であり、その他の伝送にも用いることが可能である。また、アンテナ装置10aは、アンテナ本体部11と、アンテナ本体部11の上面上に固定されるとともに、略半球形状に形成された誘電体レンズ12とを含んでいる。
【0040】
また、第2実施形態では、誘電体レンズ12は、略半球面の放射面12aの中心12bが、最も高い位置に位置するように配置されている。すなわち、誘電体レンズ12(アンテナ装置10a)は、垂直上方に向かって設置されている。なお、中心12bは、本発明の「中央部」の一例である。
【0041】
なお、アンテナ装置10aのその他の構造は、上記第1実施形態のアンテナ装置1と同様である。
【0042】
また、第2実施形態では、アンテナ装置20aは、図6に示すように、アンテナ本体部21と、アンテナ本体部21の下面上に固定されるとともに、略半球形状に形成された誘電体レンズ22とを含んでいる。
【0043】
また、第2実施形態では、誘電体レンズ22は、略半球面の放射面22aの中心22bが、最も低い位置に位置するように配置されている。すなわち、誘電体レンズ22(アンテナ装置20a)は、垂直下方に向かって設置されている。なお、中心22bは、本発明の「中央部」の一例である。
【0044】
また、第2実施形態では、図7に示すように、誘電体レンズ22の放射面22aには、上記第1実施形態と同様、複数の三角錐形状の凸部22cからなる凹凸形状が形成されている。
【0045】
ここで、第2実施形態では、誘電体レンズ22の放射面22aのうちの信号(電磁波)が送受信される方向の中心22bには、垂直下方に向かって突出する円柱形状の突起部22dが誘電体レンズ22に一体的に形成されている。この突起部22dは、凸部22cの高さ(凹凸形状の段差)(H12=約0.1mm以下)よりも大きい約2mm〜約20mmの高さH11と、約3mm以下の直径D11とを有する。これにより、第2実施形態では、降雨時などに誘電体レンズ22に付着した水滴31は、突起部22dを伝って流れ落ちる。そして、誘電体レンズ22の放射面22dに付着した水滴31の量は減少するとともに、水滴31の膜厚が、より小さくなる。
【0046】
なお、アンテナ装置20aのその他の構造は、上記第1実施形態のアンテナ装置1と同様である。
【0047】
第2実施形態では、上記のように、誘電体レンズ22の放射面22aに、凸部22cの高さ(凹凸形状の段差)(H12=約0.1mm以下)よりも大きい高さ(H11=約2mm〜約20mm)を有する突起部22dを設けることによって、誘電体レンズ22の放射面22aに付着した水滴31を、突起部22dを伝って流れ落とすことができる。これにより、誘電体レンズ22の放射面22aに付着した水滴31の量を減少させることができるので、誘電体レンズ22の放射面22aに付着した水滴31の膜厚を、より小さくすることができる。その結果、電磁波が水滴31により送受信時に減衰するのを、より抑制することができるので、降雨時などにアンテナ装置20a(通信機器20)の送受信特性が低下するのを、より抑制することができる。
【0048】
また、第2実施形態では、突起部22dを、誘電体レンズ22の放射面22aから垂直下方に向かって突出するように設けることによって、誘電体レンズ22の放射面22aに付着した水滴31を、容易に突起部22dを伝って流れ落とすことができる。
【0049】
また、第2実施形態では、突起部22dを、誘電体レンズ22の放射面22aの最も低い位置(中心22b)に設けることによって、誘電体レンズ22の放射面22aに付着した水滴31を、効果的に、突起部22dを伝って流れ落とすことができる。
【0050】
また、第2実施形態では、突起部22dを、誘電体レンズ22の放射面22aのうちの電磁波が送受信される方向の中心22bに設けることによっ、誘電体レンズ22の放射面22aのうちの電磁波が送受信される方向の中心22bに付着した水滴31の膜厚を小さくすることができるので、電磁波が水滴31により送受信時に減衰するのを、効果的に抑制することができる。これにより、降雨時などにアンテナ装置20a(通信機器20)の送受信特性が低下するのを、効果的に抑制することができる。
【0051】
また、第2実施形態では、突起部22dを、誘電体レンズ22と一体的に形成することによって、誘電体レンズ22の放射面22aに、容易に突起部22dを形成することができる。
【0052】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0053】
次に、上記第1実施形態および第2実施形態のアンテナ装置の誘電体レンズの放射面の凹凸形状の効果を確認するために行った比較実験について説明する。
【0054】
まず、実施例1によるアンテナ装置は、上記第1実施形態と同じ構造のアンテナ装置を準備した。すなわち、実施例1によるアンテナ装置は、誘電体レンズの放射面に凹凸形状が形成されているアンテナ装置を用いた。その一方、比較例1によるアンテナ装置は、誘電体レンズの放射面が凹凸形状が形成されておらず滑らかに形成されているアンテナ装置を準備した。なお、比較例1によるアンテナ装置のその他の構造は、実施例1によるアンテナ装置と同様とした。
【0055】
そして、実施例1によるアンテナ装置、および、比較例1によるアンテナ装置において、誘電体レンズの放射面の水滴の有無によるCS(Communications Satellite)放送の受信電力、および、BS(Broadcasting Satellite)放送の受信電力を測定した。その結果を、以下の表1に示す。なお、この比較実験では、誘電体レンズの放射面に水滴を付着させる際、降雨の代わりに、霧吹きを用いて水滴を付着させた。
【0056】
【表1】

【0057】
表1を参照して、実施例1によるアンテナ装置は、比較例1によるアンテナ装置に比べて、誘電体レンズの放射面に付着した水滴による減衰が小さくなることが判明した。具体的には、実施例1によるアンテナ装置では、CS放送の受信電力の水滴による減衰量は、約0.2dBm(=(−48.64dBm)−(−48.84dBm))であるとともに、BS放送の受信電力の水滴による減衰量は、約1.65dBm(=(−44.25dBm)−(−45.9dBm))であった。その一方、比較例1によるアンテナ装置では、CS放送の受信電力の水滴による減衰量は、約5.16dBm(=(−48.83dBm)−(−53.99dBm))であるとともに、BS放送の受信電力の水滴による減衰量は、約4.95dBm(=(−42.2dBm)−(−47.15dBm))であった。すなわち、実施例1によるアンテナ装置の水滴による減衰量が約2dBm以下であるのに対して、比較例1によるアンテナ装置の水滴による減衰量は約5dBmであった。これにより、誘電体レンズの放射面に凹凸形状を形成したアンテナ装置は電磁波の減衰を抑制する効果があることを、確認することができた。
【0058】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0059】
たとえば、上記実施形態では、アンテナ装置を、マイクロ波帯(300MHz〜30GHz)およびミリ波帯(30GHz〜300GHz)の電磁波を送受信するように構成した例について示したが、本発明はこれに限らず、アンテナ装置を、マイクロ波帯およびミリ波帯以外の電磁波を送受信するように構成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、誘電体レンズの放射面に三角錐形状の凸部を形成することにより、凹凸形状を形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、誘電体レンズの放射面に、三角錐形状以外の、例えば四角錐形状、その他の多角錐形状、円錐形状および半球形状などの凸部を形成することにより、凹凸形状を形成してもよい。また、誘電体レンズの放射面に、粒子を吹きつけることにより凹凸形状を形成してもよいし、誘電体レンズの放射面を削ることにより凹凸形状を形成してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、約0.1mm以下で、かつ、約0.002mm以上の高さ(段差)を有するように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、約0.1mmよりも大きい高さ(段差)、または、約0.002mmよりも小さい高さ(段差)を有するように形成してもよい。誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、約0.1mmよりも大きい高さ(段差)を有するように形成する場合、誘電体レンズの凸部(凹凸形状)の高さ(段差)が小さい方が放射面の親水性(濡れ性)を向上させることができるので、誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、約0.5mm以下の高さ(段差)を有するように形成するのが望ましい。
【0062】
また、上記実施形態では、誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、隣接する凸部の頂点同士間の距離が約0.1mm以下で、かつ、約0.0003mm以上になるように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、隣接する凸部の頂点同士間の距離が約0.1mmよりも大きく、または、約0.0003mmよりも小さくなるように形成してもよい。誘電体レンズの凸部(凹凸形状)を、隣接する凸部の頂点同士間の距離が約0.1mmよりも大きく形成する場合、誘電体レンズの隣接する凸部の頂点同士間の距離が小さい方が放射面の親水性(濡れ性)を向上させることができるので、隣接する凸部の頂点同士間の距離が約0.5mm以下になるように形成するのが望ましい。
【0063】
また、上記実施形態では、複数の凸部を、互いに接するように配置した例について示したが、本発明はこれに限らず、複数の凸部を、互いに所定の間隔を隔てて配置してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、複数の凸部を、放射状に規則的に拡がるように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、複数の凸部を、放射状に形成しなくてもよいし、規則的に形成しなくてもよい。
【0065】
また、上記第2実施形態では、一方の通信機器に受信装置を設けるとともに、他方の通信機器に信号発生装置を設けた例について示したが、本発明はこれに限らず、2つの通信機器のそれぞれに、受信装置および信号発生装置の両方を設けてもよい。
【0066】
また、上記第2実施形態では、突起部を、誘電体レンズの放射面に一体的に形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、突起部を、誘電体レンズとは別体で設けてもよい。この場合、突起部を、誘電体レンズとは異なる材質の誘電体により構成してもよい。
【0067】
また、上記第2実施形態では、垂直下方に向かって配置されたアンテナ装置に、突起部を形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、垂直下方に向かって配置されたアンテナ装置であっても、突起部を設けなくてもよい。
【0068】
また、上記第2実施形態では、円柱形状の突起部を設けた例について示したが、本発明はこれに限らず、例えば円錐形状、四角柱形状などの多角柱形状、多角錐形状、および、その他の形状の突起部を設けてもよい。
【0069】
また、上記第2実施形態では、突起部を、約2mm〜約20mmの高さを有するように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、突起部を、約2mmよりも小さい高さ、または、約20mmよりも大きい高さを有するように形成してもよい。突起部を約2mmよりも小さい高さを有するように形成する場合、誘電体レンズに付着した水滴を、突起部を伝って流れ落ちやすくするためには、突起部を約1mm以上の高さを有するように形成するのが望ましい。
【0070】
また、上記第2実施形態では、突起部を、約3mm以下の直径を有するように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、突起部を、約3mmよりも大きい直径を有するように形成してもよい。この場合、突起部の直径を、アンテナ装置の送受信特性に影響を与えない大きさにするのが望ましい。
【0071】
また、上記第2実施形態では、突起部を、垂直下方に向かって延びるように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、突起部を、斜め下方向に延びるように形成してもよい。
【0072】
また、上記第2実施形態では、2つのアンテナ装置を屋外に配置した例について示したが、本発明はこれに限らず、2つのアンテナ装置を、屋内に配置してもよい。
【0073】
また、上記第2実施形態では、2つのアンテナ装置を、垂直方向に送受信するように配置した例について示したが、本発明はこれに限らず、2つのアンテナ装置を、水平方向に送受信するように配置してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、本発明を、パッチアンテナを含むアンテナ装置に適用した例について示したが、本発明はこれに限らず、パッチアンテナ以外のアンテナを含むアンテナ装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の構造を示した側面図である。
【図2】図1に示した本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の詳細構造を示した側面図である。
【図3】図1に示した本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の誘電体レンズの詳細構造を示した拡大平面図である。
【図4】図1に示した本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の誘電体レンズの詳細構造を示した拡大断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置を備えた通信機器の全体構成を示した概略図である。
【図6】図5に示した本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の構造を示した側面図である。
【図7】図5に示した本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の誘電体レンズの詳細構造を示した拡大断面図である。
【図8】従来のアンテナ装置の構造を示した側面図である。
【図9】図8に示した従来のアンテナ装置の誘電体レンズの放射面に水滴が付着した状態を示した拡大断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1、10a、20a アンテナ装置
2、11、21 アンテナ本体部
3、12、22 誘電体レンズ
3a、12a、22a 放射面
3b、22c 凸部
3c、12b、22b 中心(中央部)
10、20 通信機器
22d 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ本体部と、
前記アンテナ本体部に取り付けられた誘電体レンズとを備え、
前記誘電体レンズの放射面には、凹凸形状が形成されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記誘電体レンズの放射面には、前記凹凸形状の段差よりも大きい高さを有する突起部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記突起部は、前記誘電体レンズの放射面から下方に向かって突出するように設けられていることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記突起部は、前記誘電体レンズの放射面の最も低い位置に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記突起部は、前記誘電体レンズの放射面のうちの電磁波が送受信される方向の中央部に設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記突起部は、前記誘電体レンズと一体的に形成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記誘電体レンズの凹凸形状は、0.5mm以下の段差を有し、
前記凹凸形状の隣接する凸部の頂点同士間の距離は、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記誘電体レンズの放射面の凹凸形状は、三角錐形状、四角錐形状または半球形状の複数の凸部により形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記誘電体レンズの凹凸形状は、前記誘電体レンズの放射面のうちの電磁波が送受信される方向の中央部から放射状に拡がるように形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
300MHz〜300GHzの電磁波を送受信することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のアンテナ装置を備えることを特徴とする通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−94939(P2009−94939A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265502(P2007−265502)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」のうち、「ミリ波帯無線装置の低コスト化の小型ワンチップモジュール化技術の研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】