説明

アンテナ装置及びそれを用いた携帯無線通信機

【課題】 エレメント間の干渉による放射効率の低下をなくし、小型化を可能としかつ使用周波数帯切替スイッチによるロスをできるだけ少なくしたデュアルバンドアンテナ装置を得る。
【解決手段】 単一のアンテナエレメント1と、このエレメント1の両端である第一及び第二の給電部2,3に夫々接続され第一及び第二の使用周波数帯に対応した第一及び第二の整合回路4,5と、これら整合回路4,5を択一的に無線回路7に接続する単一のスイッチ6とを含み、スイッチ6により第一の整合回路4が選択されたとき第二の給電部3が略開放状態となり、第二の整合回路5が選択されたとき、第一の給電部2が略開放状態となるように、これら整合回路を構成する。これにより、単一エレメント及び単一スイッチを用いるのみで、デュアルバンド対応アンテナが実現でき、エレメント間の干渉による放射効率の劣化やスイッチロスの増大を抑止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ装置及びそれを用いた携帯無線通信機に関し、特に互いに異なる周波数帯域に対応可能なデュアルバンドアンテナ装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯無線機の1つである携帯電話機においては、加入者の増加に伴って、従来から使用されている800MHz帯の周波数のみでは通話チャネルが不足してきており、1.5GHz帯や1.9GHz帯以上の周波数への加入も推奨されている。従来、携帯電話機は周波数帯域毎に機種が存在し、異なる周波数帯域を用いて通話を行う場合には、それら周波数帯域に対応した複数機種を購入する必要があり、電話番号が共用できなかったり、複数の携帯電話機を携帯しなければならないという不便がある。
【0003】
そこで、1台の携帯電話機で2つの周波数帯域を使用できるようにしたデュアルバンド機が開発されている。例えば、800MHz帯とその2倍程度の1.5GHz帯との2つの周波数帯域で使用可能なものや、800MHz帯と1.9GHz帯との2つの周波数帯域で使用可能なものなどがある。このようなデュアルバンド機では、無線回路部のみならず、アンテナも2つの周波数帯域において動作可能な構成とすることが要求されることになる。
【0004】
一方、近年の携帯電話機では、筐体内にアンテナを内蔵した機種が主流となっているが、筐体サイズは従来のものよりも小さくなる傾向があり、よってアンテナの体積も小さくなる一方である。
【0005】
このようなデュアルバンド機における二周波アンテナについて、図12を用いて説明する。このような二周波アンテナは、低い周波数帯域で動作する第一のアンテナエレメント10と、高い周波数帯域で動作する第二のアンテナエレメント20とを用いて構成されており、各々の周波数帯域で約λ/4になるように電気長が調整されている。これらアンテナエレメントとしては、コイル状のものやメアンダ(meander)状のものを用いることにより、アンテナの体積をできるだけ小さくしているために、アンテナの放射抵抗が小さくなってしまう。そのために、アンテナ単体では無線回路との整合が図れないので、アンテナの給電部30と無線回路50との間に、整合回路40を設け、第一の周波数帯域と第二の周波数帯域とに対して、それぞれ整合を図るようになっている。
【0006】
しかしながら、整合回路40を構成するインピーダンス素子は、周波数によりそのインピーダンスが異なるために、第一の周波数帯域と無線回路との間の整合を最適に調整すると、第二の周波数帯域との整合がとれず、また逆に第二の周波数帯域との整合を最適に調整すると、第一の周波数帯域との整合がとれないという問題がある。そこで、図13に示す如く、2つの整合回路40及び41を設けて、帯域切り替えスイッチ60及び61を用いて、2つのアンテナエレメント10及び20にそれぞれ最適な整合回路を選択する構成のものがある。
【0007】
また、特許文献1を参照すると、2つのアンテナエレメントを用いる代りに、1つのアンテナエレメントを用いて、2つの給電部によりエレメントの電気長を変化させて、2つの周波数帯域に対応させるようにした技術が開示されている。この場合にも、2つの周波数帯域の各々に対して、無線回路との間の整合を最適化すべく、2つの整合回路を設け、これら2つの整合回路を、給電部の切り替えと同時に切り替えるようになっている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−172714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図13に示した構成では、整合回路40及び41を選択するために、これら整合回路の前後にスイッチが2つ必要となり、電力の通過損失が増加し、アンテナの放射効率が劣化してしまうという欠点があると共に、2つのアンテナエレメント10,20が必要になり、装置の小型化の阻止要因の1つになるという欠点もある。更に、使用していないアンテナエレメントが使用しているアンテナエレメントに対して干渉し、放射効率の劣化を招くという欠点もある。
【0010】
特許文献1の技術においても、給電部の切り替えと整合回路の切り替えのために、やはり整合回路の前後にスイッチが設けられており、電力の通過損失が増加するという問題がある。
【0011】
また、1つのアンテナエレメントの電気長を変化させる場合に、低い周波数帯域に対応する長い電気長に対応する長さのアンテナエレメントを準備しておき、高い周波数帯域に対応する短い電気長に対応させるときには、給電部をその中間点に切り替えるようになっているので、結果的には、図12や図13に示すように、2つのアンテナエレメントを使用することと同じであり、装置の小型化には寄与しないという問題がある。
【0012】
更に、高い周波数帯域で使用している場合には、アンテナエレメントの約半分は不使用となるが、これが使用アンテナエレメントへの干渉を招来し、放射効率の劣化を招くことにもなる。
【0013】
本発明の目的は、スイッチロスをなくし、小型化を図りかつ放射効率の劣化を招来することのないアンテナ装置及びそれを用いた携帯無線通信機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるアンテナ装置は、互いに異なる第一及び第二の周波数帯域に適応可能なアンテナ装置であって、アンテナエレメントと、このアンテナエレメントの両端である第一及び第二の端子に夫々接続され前記第一及び第二の周波数帯域に対応した第一及び第二の整合回路と、これら第一及び第二の整合回路を択一的に無線回路に接続するスイッチとを含み、前記スイッチにより前記第一の整合回路が選択されたとき前記第二の端子が略開放状態となり、前記スイッチにより前記第二の整合回路が選択されたとき、前記第一の端子が略開放状態となるように、これら整合回路を構成してなることを特徴とする。
【0015】
そして、前記第一及び第二の整合回路の各々は、前記スイッチにより互いに他の整合回路が選択されたときに、前記第一及び第二の端子の各々からみたインピーダンスが、前記第二及び第一の周波数帯域の各々に対して大となるよう構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、前記第一の整合回路は、前記第一の端子に対して直列及び並列に挿入されたインピーダンス素子を有し、前記第二の整合回路は前記第二の端子に対して直列に挿入されたインピーダンス素子を有することを特徴とし、また前記第一及び第二の整合回路の各々は、前記第一及び第二の端子の各々に対して直列及び並列に挿入されたインピーダンス素子と、前記並列に挿入されたインピーダンス素子の並列接続をオンオフ制御するスイッチ素子とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明による携帯無線通信機は、上記のアンテナ装置を用いたことを特徴とする。
【0018】
本発明の作用を述べる。互いに異なる第一及び第二の周波数帯域に適応可能なアンテナ装置において、単一のアンテナエレメントの両端である第一及び第二の端子に夫々接続されて上記第一及び第二の周波数帯域に対応した第一及び第二の整合回路を設け、これら第一及び第二の整合回路を択一的に無線回路に接続するための単一のスイッチを設ける。そして、当該スイッチにより第一の整合回路が選択されたとき、アンテナエレメントの第二の端子が略開放状態となり、第二の整合回路が選択されたとき、第一の端子が略開放状態となるように、これら整合回路を構成する。
【0019】
これにより、単一のアンテナエレメント及び単一のスイッチを用いるのみで、デュアルバンド対応アンテナが実現でき、エレメント間の干渉による放射効率の劣化や、スイッチロスの増大を抑止できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1つのアンテナエレメントを用いても、アンテナエレメント間の干渉がなく、またスイッチロスなどもなく、異なる2つの周波数帯域にそれぞれ最適に整合を調整することが可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す図である。図1を参照すると、本発明による二周波アンテナ装置は、アンテナエレメントとしてのメアンダアンテナ1と、このメアンダアンテナ1の両端における第一及び第二の給電部2,3と、これら給電部2,3に一端が接続され他端がスイッチ6に接続された第一及び第二の整合回路4及び5と、帯域切り替えスイッチ6と、アンテナ1に対する無線回路7とからなっている。
【0022】
メアンダアンテナ1は図2のスミスチャートに示す如く、第一の周波数帯域と、この第一の周波数帯域よりも高い第二の周波数帯域との間で、約λ/4となるように電気長が調整されており、第一及び第二の給電部2及び3は、このメアンダアンテナ1の両端部に接続されている。そして、これら第一及び第二の給電部2及び3は、それぞれ対応する第一及び第二の整合回路4及び5を介して、単一の帯域切り替えスイッチ6に接続されており、この単一のスイッチ6を介して、無線回路7と第一及び第二の整合回路4及び5が接続されている。
【0023】
本アンテナ装置の整合回路の調整方法について説明する。先ず、第一の周波数帯域での整合を図るのであるが、この場合、スイッチ6が第一の給電部2に接続される。このときの回路図を図3に示しており、第二の給電部3は開放されるので、第一の給電部2がアンテナ1への給電点となり、第二の給電部3が開放端となって、逆L字型アンテナとして動作する。
【0024】
この状態で、第一の整合回路4を調整して、第一の周波数帯域に整合するよう調整する。本例では、直列にインダクタンスL1を、並列にインダクタンスL2をそれぞれ接続した回路構成として示している。図4(A)は整合後の第一の周波数帯域における入力インピーダンスを示し、(B)はそのスミスチャートである。このように、第一の周波数帯域で良好な特性を示していることが判る。
【0025】
次に、第二の周波数帯域の整合を調整する。この場合、スイッチ6を第二の給電部3と接続する。従って、第一の給電部2は開放されるので、第一の整合回路4は、第一の給電部2において、直列にインダクタンスL1,L2が挿入されたことと等価になる。ここで、インダクタンスL1,L2の合成インピーダンスを第二の周波数帯域において十分に大なるようにしておけば、第一の給電部2はメアンダアンテナ1からみると開放と等価になり、よってこのアンテナは第二の給電部3を給電点とし、第一の給電部2が略開放端となって、逆L字型アンテナとして動作することになる。
【0026】
この状態において、第二の整合回路5を調整して第二の周波数帯域に整合をとるようにする。本例では、直列にコンデンサC1を挿入して整合を図っている。図6(A)は整合後の第二の周波数帯域における入力インピーダンスを示し、(B)はそのスミスチャートを示している。このように、第二の周波数帯域でも良好な特性が得られることが判る。
【0027】
なお、第二の周波数帯域において整合をとった後に、第一の周波数帯域に切り替えた場合には、第二の整合回路5には、直列にコンデンサが挿入されているのみであるために、スイッチ6が第二の整合回路5から切り離されても、コンデンサがアンテナ1には接続されてはいるものの、第二の給電部3は開放であるために、第一の周波数帯域に対しては何等影響はなく、それぞれの周波数帯域において良好な特性が得られることになる。
【0028】
上記例では、アンテナエレメントとしてメアンダアンテナを用いているが、これに限定されることなく、例えば、図7に示す如く板状アンテナ11や、図8に示す如く線状アンテナ12や、図9に示す如くヘリカルアンテナ13や、図10に示す如く誘電体15上に形成された誘電体装荷アンテナ14などを用いることができる。
【0029】
上述したように、異なる2つの周波数帯域で良好な整合が図れることになるが、第一の整合回路4のインピーダンス条件が、第二の周波数帯域に対しては十分に大きくできない場合や、第二の整合回路5において、並列インピーダンス素子が必要になり、この回路5のインピーダンスが第一の周波数帯域で十分に大きくできない場合などについては、図11の構成とするのが良い。
【0030】
図11において、図1と同等部分は同一符号により示している。図11を参照すると、両整合回路4,5において、PINダイオードD1,D2をそれぞれ用いて、これらPINダイオードD1,D2に対して、切り替え信号を供給制御してオン/オフすることにより、使用していない整合回路のインピーダンスを十分に大きくするようになっている。
【0031】
すなわち、第一の整合回路4では、抵抗R1、コンデンサC3及びチョークコイルL3を用いて、PINダイオードD1に対して切り替え信号を供給するようにし、この第一の整合回路4が使用されない場合には、PINダイオードD1をオフとして、並列接続素子X2の並列接続状態をオフとすることにより、メアンダアンテナ1の第一の給電部2を開放状態とするのである。なお、C2は直流阻止用コンデンサであり、X1,X2は図3のL1,L2に相当するものであり、直列、並列の整合用インピーダンス素子である。
【0032】
第二の整合回路5では、抵抗R2、コンデンサC5及びチョークコイルL4を用いて、PINダイオードD2に対して切り替え信号を供給するようにし、この第二の整合回路5が使用されていない場合には、PINダイオードD2をオフとして、並列接続素子X4の並列接続状態をオフとすることにより、メアンダアンテナ1の第二の給電部3を開放状態とするのである。なお、C4は直流阻止用コンデンサであり、X3,X4は直列、並列の整合用インピーダンス素子である。
【0033】
上述した各実施の形態は、携帯電話機に用いて好適であるが、これに限定されることなく、PHSや無線通信機能を有するPDAなど、広く携帯型の無線通信機に適用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】図1のアンテナ装置のスミスチャートの例である。
【図3】図1のアンテナ装置の第一の周波数帯域に対する整合の調整を説明する図である。
【図4】図3による整合結果の特性を示す図である。
【図5】図1のアンテナ装置の第二の周波数帯域に対する整合の調整を説明する図である。
【図6】図5による整合結果の特性を示す図である。
【図7】本発明の他の実施の形態を示す図である。
【図8】本発明の更に他の実施の形態を示す図である。
【図9】本発明の別の実施の形態を示す図である。
【図10】本発明の更に別の実施の形態を示す図である。
【図11】本発明の他の実施の形態を示す図である。
【図12】従来のアンテナ装置の一例を示す図である。
【図13】従来のアンテナ装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 メアンダアンテナ
2 第一の給電部
3 第二の給電部
4 第一の整合回路
5 第二の整合回路
6 帯域切り替えスイッチ
7 無線回路
11 板状アンテナ
12 線状アンテナ
13 ヘリカルアンテナ
14 誘電体装荷アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる第一及び第二の周波数帯域に適応可能なアンテナ装置であって、アンテナエレメントと、このアンテナエレメントの両端である第一及び第二の端子に夫々接続され前記第一及び第二の周波数帯域に対応した第一及び第二の整合回路と、これら第一及び第二の整合回路を択一的に無線回路に接続するスイッチとを含み、
前記スイッチにより前記第一の整合回路が選択されたとき前記第二の端子が略開放状態となり、前記スイッチにより前記第二の整合回路が選択されたとき、前記第一の端子が略開放状態となるように、これら整合回路を構成してなることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記第一及び第二の整合回路の各々は、前記スイッチにより互いに他の整合回路が選択されたときに、前記第一及び第二の端子の各々からみたインピーダンスが、前記第二及び第一の周波数帯域の各々に対して大となるよう構成されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第一の整合回路は、前記第一の端子に対して直列及び並列に挿入されたインピーダンス素子を有し、前記第二の整合回路は前記第二の端子に対して直列に挿入されたインピーダンス素子を有することを特徴とする請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第一及び第二の整合回路の各々は、前記第一及び第二の端子の各々に対して直列及び並列に挿入されたインピーダンス素子と、前記並列に挿入されたインピーダンス素子の並列接続をオンオフ制御するスイッチ素子とを有することを特徴とする請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナエレメントは、メアンダアンテナ、板状アンテナ、線状アンテナ、ヘリカルアンテナ、誘電体装荷アンテナのいずれかであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のアンテナ装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のアンテナ装置を含むことを特徴とする携帯無線通信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−310995(P2006−310995A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128813(P2005−128813)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】