説明

アントラセン誘導体、硬化性組成物、硬化物及びアントラセン誘導体の製造方法

【課題】高い光屈折性及び蛍光特性を有し、樹脂原料等として好適な化合物及びこの製造方法、この化合物を含む組成物並びに硬化物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、下記式(1)で表されるアントラセン誘導体である。


(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアントラセン誘導体、これを含む硬化性組成物、この硬化物及び新規なアントラセン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香環及び複数のアリル基を有する化合物は、芳香環の剛直性及びアリル基の反応性等を利用し、各種樹脂原料等に用いられている。
【0003】
上記化合物としては、ナフトール環を含む特定の構造及びアリル基を有し、高耐熱性と低吸水性とを兼ね備える樹脂を得ることができる化合物(特開平5−86157号公報参照)や、フルオレン骨格及びアリル基を有し、機械的特性等に優れた樹脂を得ることができる化合物(特開2004−137200号公報参照)等が開発されている。
【0004】
このような中、各種樹脂原料等となる化合物に対する要求は高まり、例えば、高い光屈折性や蛍光特性等の機能を有する高付加価値化された化合物等の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−86157号公報
【特許文献2】特開2004−137200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高い光屈折性及び蛍光特性を有し、樹脂原料等として好適な化合物及びこの製造方法、この化合物を含む硬化性組成物並びに硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記式(1)で表されるアントラセン誘導体である。
【化1】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【0008】
当該アントラセン誘導体は、アントラセン骨格を有するため、アントラセン特有の諸特性、例えば高光屈折性及び紫外線に対する蛍光性能等を備えている。また、当該アントラセン誘導体は、2つ以上のアリル基を有するため、重合性を有し、耐熱性、難燃性等に優れた硬化物を得ることができる。従って、当該アントラセン誘導体によれば、各種樹脂原料用等の高い汎用性を発揮することができる。
【0009】
当該アントラセン誘導体は、上記X及びYがフェニレン基であり、n及びnが1であるとよい。当該アントラセン誘導体は、炭素密度が高いため、融点や光屈折率が高く、得られる硬化物等の上記諸特性をさらに高めることができる。また、このような構造のアントラセン誘導体は、この化合物自体及びこの化合物の硬化物を効率よく製造することができる。
【0010】
本発明の硬化性組成物は、上記アントラセン誘導体及び/又はこのアントラセン誘導体から得られる重合体を含むものである。当該組成物は硬化性を有し、蛍光特性などのアントラセン骨格を有する化合物に特有な性質を備え、高い汎用性及び付加価値を有する様々な樹脂を合成する樹脂原料組成物等として用いることができる。
【0011】
本発明の硬化物は、上記硬化性組成物を硬化して得られるものである。当該硬化物は、アントラセン骨格を有することで、高光屈折性や蛍光特性を備えることができ、多分野への応用が可能な樹脂となる。
【0012】
本発明のアントラセン誘導体の製造方法は、
塩基性化合物の存在下、下記式(2)で表されるアントラセン誘導体にハロゲン化アリルを反応させる工程を有する下記式(1)で表されるアントラセン誘導体の製造方法である。
【化2】

(式(2)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【化3】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【0013】
当該製造方法によれば、上記式(2)で表されるアントラセン誘導体の種類を選択すること等によって、所望する当該アントラセン誘導体を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明のアントラセン誘導体は高い光屈折性及び蛍光特性等の諸特性を備え、また、反応性に優れるアリル基を複数有することから、汎用性に優れ、各種樹脂原料等として好適に用いることができる。また、このアントラセン誘導体及び/又はこのアントラセン誘導体から得られる重合体を含む硬化性組成物や、この硬化性組成物から得られる硬化物も、蛍光特性等のアントラセン特有の諸特性を発揮することができるため、例えば接着剤、塗料、積層板、成型材料、注型材料、半導体封止材料、プリント基板絶縁材料、コーティング材料、光学材料、構造材料、フォトレジスト原料等の多岐にわたる技術分野での応用展開をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1のアントラセン誘導体のH−NMRチャートを示す図である。
【図2】実施例1のアントラセン誘導体の13C−NMRチャートを示す図である。
【図3】実施例1のアントラセン誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1のアントラセン誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2のアントラセン誘導体のH−NMRチャートを示す図である。
【図6】実施例2のアントラセン誘導体の吸収スペクトルを示す図である。
【図7】実施例2のアントラセン誘導体の蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態をアントラセン誘導体、この製造方法、硬化性組成物及びこの硬化物の順に詳説する。
<アントラセン誘導体>
本発明のアントラセン誘導体は、上記式(1)で表される化合物である。
【0017】
上記式(1)中、X及びYで表される芳香族基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、トリフェニレン等の芳香族炭化水素から、水素原子を(n+1)個又は(n+1)個除いた基等が挙げられる。
【0018】
上記X及びYで表される芳香族基は、どちらも置換基を有していてもよいが、これらの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの置換基は、X及びYごとに、1又は複数であってもよい。なお、X及びYの価数としては、これらの置換基の有無及び置換基の数に依存せず、Xは(n+1)価であり、Yは(n+1)価である。
【0019】
上記アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルキル基、又は1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルキル基等が挙げられる。
【0020】
直鎖状、分岐鎖状、単環状又は縮合多環状アルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、tert−オクチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、ボロニル基、4−デシルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
また、1個以上の−O−で中断されている直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の具体例としては、−CH−O−CH、−CH−CH−O−CH−CH、−CH−CH−CH−O−CH−CH、−(CH−CH−O)m1−CH(ここでm1は1〜8の整数である)、−(CH−CH−CH−O)p1−CH(ここでp1は1〜5の整数である)、−CH−CH(CH)−O−CH−CH、−CH−CH−(OCH等が挙げられる。1個以上の−O−で中断されている単環状又は縮合多環状アルキル基としては、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、7−オキサノルボルニル基等が挙げられる。
【0022】
上記アルコキシ基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシ基、又は1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシ基等が挙げられる。
【0023】
直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、ボロニルオキシ基、4−デシルシクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。
【0024】
また、1個以上の−O−で中断されている直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基の具体例としては、−O−CH−O−CH、−O−CH−CH−O−CH−CH、−O−CH−CH−CH−O−CH−CH、−O−(CH−CH−O)m2−CH(ここでm2は1〜8の整数である)、−O−(CH−CH−CH−O)p2−CH(ここでp2は1〜5の整数である)、−O−CH−CH(CH)−O−CH−CH、−O−CH−CH−(OCH等を挙げることができる。1個以上の−O−で中断されている単環状又は縮合多環状アルコキシ基としては、テトラヒドロフラニルオキシ基、テトラヒドロピラニルオキシ基、7−オキサノルボルニルオキシ基等が挙げられる。
【0025】
上記アリール基としては、置換基を有していてもよい芳香環から1個の水素原子を除いた基が挙げられ、具体例としてはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントスリル基、9−アンスリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、5−ナフタセニル基、1−インデニル基、2−アズレニル基、1−アセナフチル基、2−フルオレニル基、9−フルオレニル基、3−ペリレニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,5−キシリル基、メシチル基、p−クメニル基、p−ドデシルフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、p−シクロヘキシルフェニル基、4−ビフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−ブロモフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、m−カルボキシフェニル基、o−メルカプトフェニル基、p−シアノフェニル基、m−ニトロフェニル基、m−アジドフェニル基等を挙げることができる。
【0026】
上記アルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状又は縮合多環状アルケニル基等が挙げられ、それらは構造中に複数の炭素−炭素二重結合を有していてもよく、具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、1,3−ブタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等を挙げることができる。
【0027】
上記X又はYとしての芳香族基が置換基を有する場合は、当該アントラセン誘導体の特徴を維持したまま、さらに機能を付加又は調整することができる。例えば、X又はYにおいて、置換基としてアルキル基を有する芳香族基を備える当該アントラセン誘導体によれば、当該アントラセン誘導体の反応性を低下させることなく屈折率や融点等を調整することができる。なお、この置換基としてのアルキル基は、立体配座の安定性の点から、低分子量であることが好ましく、具体的には炭素数が5以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0028】
上記X又はYで表される芳香族基の中でも、高光屈折性、高融点等の点から、置換基を有さないベンゼン及びナフタレンから水素原子を(n+1)個、又は(n+1個)除いてなる基が好ましく、置換基を有さないベンゼンから水素原子を(n+1)個、又は(n+1)個除いてなる基がさらに好ましい。またXとYとは、異なっていてもよいが高光屈折性、製造の容易さ等の点から、同一であることが好ましい。
【0029】
上記式(1)中の、n及びnは、1〜3の整数であるが、合成の容易性、硬化の制御性等の点から、n及びnともに、1又は2が好ましく、1がさらに好ましい。
【0030】
当該アントラセン誘導体において、n及びnがともに1であり、X及びYが置換基を有さないベンゼンから水素原子を2個除いた基(フェニレン基)であるものが、高融点、高光屈折性等、及び合成の容易性等において好ましい。さらに、この場合は、高融点、製造の容易さ等の点から、フェニレン基においてアリルオキシ基がアントラセン骨格に対してそれぞれパラ位に位置することが好ましい。
【0031】
当該アントラセン誘導体としては、具体的には、以下の式(1−1)〜(1−4)で表される化合物を例示することができる。
【0032】
【化4】

【0033】
当該アントラセン誘導体は、このようにアントラセン骨格を有することによりアントラセン特有の諸特性である高炭素密度、高光屈折性、高融点及び紫外線に対する蛍光性能等を備えている。
【0034】
上記の各特性の中でも、例えば光屈折性においては、当該アントラセン誘導体は、アリル基を有するビスフェノールフルオレン等のフルオレン化合物と比しても、アントラセン骨格を備えていることで同等以上の高屈折率を有している。具体的には、当該アントラセン誘導体の屈折率は1.6以上となることができる。なお、当該アントラセン誘導体の屈折率、その他炭素密度、融点等は、X及びYが有する置換基を選択すること等により調整することができる。
【0035】
当該アントラセン誘導体は、複数のアリル基を有することから、アントラセン特有の諸特性を備えた上で、重合性や架橋性等のアリル基含有化合物が備える多様な反応性を有する。
【0036】
さらに、当該アントラセン誘導体は、芳香環がアントラセン環の9位及び10位に配置されていることで、対称性が高く、また、2つ以上のアリル基により架橋することでポリマーの主鎖内にアントラセン骨格を導入することが可能である。従って、当該アントラセン誘導体によれば、アントラセン骨格に由来する剛直さを生かした機械的特性に優れたポリマーを得ることができ、かつアントラセン骨格の短軸となる9位及び10位に芳香環が配置されているため、ポリマー骨格へ導入された際、当該ポリマーが極めて高い炭素密度を有する等の特有な機能が発揮される。
【0037】
<アントラセン誘導体の製造方法>
本発明のアントラセン誘導体は、例えば、
非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒の存在下で、フェノール類とアントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させ、上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)を得る第一工程、及び、
塩基性化合物の存在下、得られた上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)にハロゲン化アリルを反応させる第二工程
により製造することができる。
【0038】
なお、上記式(2)中、X及びYの定義及び例示は式(1)と同様である。
【0039】
<第一工程>
この製造方法の第一工程におけるフェノール類とは芳香環上にヒドロキシル基を有する化合物をいい、フェノール系化合物、ナフトール系化合物等が挙げられる。上記フェノール系化合物とは、フェノール及び芳香環上の水素が他の置換基で置換されたフェノールをいう。上記置換基としては、アルキル基やヒドロキシル基等が挙げられる。この置換基の数としては、アントラセン−9−カルボアルデヒドとの反応性から、4以下が好ましく、2以下が更に好ましく、0が特に好ましい。また、アントラセン−9−カルボアルデヒドとの反応性から、ヒドロキシル基のパラ位に置換基が配置されていないことが好ましい。
【0040】
上記フェノール系化合物としては例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、2−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、2−シクロヘキシルフェノール、4−シクロヘキシルフェノール、2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、チモール、2−tert−ブチル−5−メチルフェノール、2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール、レゾルシン、2−メチルレゾルシン、カテコール、4−メチルカテコール、ハイドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。
【0041】
上記ナフトール系化合物とは、ナフトール及び芳香環上の水素が他の置換基で置換されたナフトールをいう。上記置換基としてはアルキル基やヒドロキシル基等が挙げられる。この置換基の数としては、アントラセン−9−カルボアルデヒドとの反応性の点から、6以下が好ましく、2以下が更に好ましく、0が特に好ましい。
【0042】
上記ナフトール系化合物としては、1−ナフトール、2−ナフトール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0043】
なお、上記フェノール類は、特にこれらに限定されるものではなく、所望する本発明のアントラセン誘導体の構造に応じて適宜選択される。例えば、上記フェノール類としてフェノールを選択することで、上記式(2)におけるX及びYがフェニレン基であるアントラセン誘導体を製造することができる。なお、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、このフェノール類の配合量の下限としては、アントラセン−9−カルボアルデヒド1モルに対し2モルが好ましく、4モルがさらに好ましい。このフェノール類の配合量の上限としては、アントラセン−9−カルボアルデヒド1モルに対し100モルが好ましく、50モルがさらに好ましく、20モルが特に好ましい。フェノール類の配合量が上記下限未満では、原料の高次縮合物が生成する等の所望でない副反応が生じることがあり、精製に多大なエネルギーを要し、逆に上記上限を超えると未反応のフェノール類を除去するのに多大なエネルギーを要する為、共に非経済的である。
【0045】
第一工程においては、反応溶媒として、分子中に1以上の酸素原子を備える非反応性含酸素有機溶媒を用いるとよい。なお「非反応性」とは、この反応系におけるフェノール類、アントラセン−9−カルボアルデヒド及び合成されるアントラセン誘導体とは反応しないことをいう。この非反応含酸素有機溶媒としては、例えばアルコール類、多価アルコール系エーテル、環状エーテル類、多価アルコール系エステル、ケトン類、アルキルエステル類、スルホキシド類、カルボン酸類等を用いることができる。
【0046】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン等の三価アルコールが挙げられる。
【0047】
多価アルコール系エーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。
【0048】
環状エーテル類としては、例えば、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。多価アルコール系エステルとしては、例えば、エチレングリコールアセテート等のグリコールエステル類が挙げられる。ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。アルキルエステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。カルボン酸類としては、例えば、酢酸等が挙げられる。
【0049】
これらの中でもアルコール類及び多価アルコール系エーテルが好ましく、メタノール、エチレングリコール及びエチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
【0050】
非反応性含酸素有機溶媒としては、上記の例示に限定されず、また、それぞれを単独又は2種以上を混合して用いても良い。非反応性含酸素有機溶媒の配合量の下限としては、フェノール類100質量部に対して、1質量部が好ましく、2質量部が更に好ましく、5質量部が特に好ましい。また、非反応性含酸素有機溶媒の配合量の上限としては、フェノール類100質量部に対して、1,000質量部が好ましく、500質量部が更に好ましく、100質量部が特に好ましい。非反応性含酸素有機溶媒の配合量が上記下限未満であると、反応副生物の生成が顕著となり、生産性が低下するおそれがある。逆に、非反応性含酸素有機溶媒の配合量が上記上限を超えると、反応速度が低下して生産性が低下するおそれや、精製エネルギーが増大するおそれがある。
【0051】
第一工程における酸触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸などの無機酸、蓚酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸などの有機酸、強酸性イオン交換樹脂等を挙げることが出来る。これらの触媒は、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、メルカプト酢酸等の反応助触媒を併用しても良い。酸触媒の使用量としては、反応が適当に進む範囲で適宜設定すればよいが、一般的には、フェノール類100質量部に対して、0.1〜20質量部である。
【0052】
第一工程の反応は、上記のフェノール類、アントラセン−9−カルボアルデヒド、非反応性含酸素有機溶媒及び酸触媒を反応容器に投入して、所定時間撹拌して行われる。なお、上記反応容器への投入物の投入順序は問わない。
【0053】
第一工程の反応における反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは25〜60℃の範囲で行われる。反応温度が低すぎると、反応時間が長くなる可能性があり、一方、反応温度が高すぎると、高次縮合物及び異性体等の反応副生物の生成が助長され、当該アントラセン誘導体の純度が低下する可能性がある。
【0054】
第一工程の反応における反応容器内の圧力は、通常は常圧であるが、加圧又は減圧で行っても良く、具体的には内部圧力(ゲージ圧)が−0.02〜0.2MPaの範囲であることが好ましい。
【0055】
第一工程の反応における反応時間は、用いるフェノール類、非反応性含酸素有機溶媒の種類と量、原料モル比、反応温度、圧力等に左右され、一概に定めることは出来ないが一般的には、1〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0056】
第一工程の反応終了後、酸触媒を除去し、生成物を分離する。この触媒除去の方法としては、一般的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の難水溶性有機溶媒に生成物を溶解し、水洗により除去を行うが、その他中和処理を行った後析出した中和塩を濾別する方法や、アニオン性充填剤の詰まったカラムに反応液を通過させる方法等、特に制限はない。
【0057】
第一工程においては触媒除去後、精製により上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)を取り出す。一般的には、目的物に対して貧溶媒として作用し、その他の副生成物や未反応原料には良溶媒として作用する溶媒(キシレン等)を添加し、析出させた後、濾別、乾燥する方法や、カラムクロマトグラフィーによる方法等によって第一工程の目的物である上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)を精製することができる。
【0058】
<第二工程>
第二工程においては、塩基性化合物の存在下、第一工程で得られた上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)にハロゲン化アリルを反応させることにより当該アントラセン誘導体が製造される。
【0059】
第二工程における塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。これらの塩基性化合物の中でも、アルカリ金属の炭酸塩が好ましく、炭酸カリウムがさらに好ましい。この塩基性化合物の使用量としては、上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)1モルに対して例えば0.1〜10モルであり、好ましくは、1〜6モルである。
【0060】
第二工程におけるハロゲン化アリルの配合量は、上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)1モルに対して、例えば2〜30モルであり、好ましくは、2.5〜10モルである。上記ハロゲン化アリルとしては、アリルクロリド、アリルブロミド等が挙げられるが、アリルブロミドが好ましい。
【0061】
第二工程における反応時間は、反応モル比、反応温度、圧力等に依存するため一概に定めることはできないが、通常2時間以上12時間以下であることが好ましい。
【0062】
第二工程における反応圧力は、通常は常圧であるが、加圧又は減圧下で反応を行っても良く、具体的には内部圧力(ゲージ圧)が−0.02〜0.2MPaが好ましい。
【0063】
第二工程においては、反応物である上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)の溶解性を高めるため、反応溶媒を用いても良い。この反応溶媒としては、副反応を起こさない限りにおいて特に制限はないが、一般的にはアルコール類が好ましく、その中でも特にメタノールが好ましい。この反応溶媒の使用量としては、上記式(2)で表されるアントラセン誘導体(ビスフェノールアントラセン化合物等)100質量部に対して、100〜1,000質量部が好ましい。
【0064】
この第二工程の反応終了後、生成物を分離する。この生成物の分離は、反応液にメタノール等のアルコールを加え、結晶として析出させることで効率的に行うことができる。このようにして析出した結晶は、公知の方法で、濾過、洗浄、乾燥等を行い、本発明のアントラセン誘導体を精製することができる。
【0065】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、上記式(1)で表されるアントラセン誘導体及び/又はこのアントラセン誘導体から得られる重合体を含むものである。当該組成物は硬化性を有し、蛍光特性などのアントラセン骨格を有する化合物に特有な性質を備え、高い汎用性と付加価値を有する様々な樹脂を合成する樹脂原料や、接着剤、塗料等に用いることができる。なお、アントラセン誘導体から得られる重合体としては、上記アントラセン誘導体が熱により架橋した重合体や、上記アントラセン誘導体と他のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0066】
当該硬化性組成物においては、上記アントラセン誘導体及び/又はこのアントラセン誘導体から得られる重合体以外の他の成分を含んでいてもよく、この他の成分としては、各樹脂を製造する際に使用される公知のものが挙げられる。この他の成分としては、例えば溶媒、無機充填剤、顔料、揺変性付与剤、流動性向上剤、他のモノマー等を挙げることができる。
【0067】
上記溶媒としては、組成物構成によって異なるが、例えば、エーテル類、ジエチレングリコールアルキルエーテル類、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート類、芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類等を挙げることができる。
【0068】
また、無機充填剤としては、球状あるいは破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、また、顔料としては、有機系又は無機系の体質顔料、鱗片状顔料等が挙げられる。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができ、流動性向上剤としては、フェニルグリシジルエーテル、ナフチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0069】
<硬化物>
本発明の硬化物は、上記硬化性組成物を硬化して得られるものである。当該硬化物は各種樹脂として使用することができる。当該硬化物は、アントラセン骨格に由来する高融点、高屈折率、及び蛍光性能といった様々な特性を有する高汎用性の材料として様々な用途に用いることができる。なお、当該硬化物は、上記硬化性組成物への光照射、加熱等、各組成に対応した公知の方法を用いることによって得ることができる。
【0070】
これらの硬化物は、機能性を活かして、例えばレンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料等として用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、合成例及び実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
なお、得られたアントラセン誘導体についての測定は下記測定機器及び測定方法により行った。
【0073】
<GPC純度>
GPC純度は、東ソー製HLC−8220型GPC、RI検出器、TSK−Gel SuperHZ2000+HZ1000+HZ1000(4.6mmφ×150mm)カラムを用い、展開溶媒としてテトラヒドロフランを0.35mL/分で送液し、目的物ピークの面積比によって求めた。
【0074】
<HPLC純度>
HPLC純度及び反応の終点確認は、島津製作所製HPLC Prominenceシリーズ、UV検出器SPD−20A(246nm)、GLサイエンス製ODS−3(4.6mmφ×250mm)カラムを用い、展開溶媒として水/アセトニトリル=40/60(体積比)を1.0mL/分で送液し、目的物ピークの面積比によって求めた。
【0075】
<融点>
融点は、リガク製DSC8230型示差走査熱量計にて、窒素雰囲気下5℃/分の昇温速度によるピークトップ法にて求めた。
【0076】
H−NMR及び13C−NMR>
H−NMR及び13C−NMRは、バリアン社製UNITY−INOVA 400MHzを用い、TMSを基準物質としてクロロホルム−d又はDMSO−d溶媒で測定した。
【0077】
<屈折率>
屈折率は、京都電子工業製RA−520N型屈折率計を用い、25℃にて1、5及び10質量%の各濃度でプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解して測定し、検量線を作成して100質量%時の換算屈折率を求めた。
【0078】
<吸収スペクトル及び蛍光スペクトル>
吸収スペクトルは、日本分光製分光光度計V−570を用いて1×10−5mol/L濃度でDMSOに溶解して、250nmから600nmの波長範囲にて測定を行った。蛍光スペクトルは、日立ハイテクノロジーズ社製蛍光分光光度計F−4010を用い、1×10−5mol/L濃度でDMSOに溶解して極大波長で励起させて測定を行った。また、アズワン製ハンディーUVランプSLUV−4を用いて、365nmの紫外線を照射し、発光の有無を観察した。
【0079】
[合成例1]ビスフェノールアントラセンの合成
300mLの還流管付き反応容器に、フェノール(112.8g,1.20mol)、アントラセン−9−カルボアルデヒド(49.4g,0.24mol)及びメタノール(11.3g)を入れ、40℃にて溶解した。濃硫酸(5.6g)を投入し、40℃で24時間反応を行った。次いで、反応液をメチルイソブチルケトン(169.2g)に溶解し、蒸留水(56.4g)にて水洗を数回行って触媒を除去した。減圧下にて、メチルイソブチルケトン及びフェノールを留去した後、キシレン(169.2g)及び蒸留水(11.3g)を投入して10℃で攪拌した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、淡黄色の9−(4−ヒドロキシベンジル)−10−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセン48.3g(収率53.3%)を得た。
【0080】
[合成例2]ビスクレゾールアントラセンの合成
300mLの還流管付き反応容器に、o−クレゾール(108.1g,1.00mol)、アントラセン−9−カルボアルデヒド(41.3g,0.20mol)及びメタノール(54.0g)を入れ、40℃にて溶解した。35質量%塩酸(10.8g)を投入し、40℃で24時間反応を行った。次いで、反応液をメチルイソブチルケトン(216.0g)に溶解し、蒸留水(216.0g)にて水洗を数回行って触媒を除去した。減圧下にて、メチルイソブチルケトン及びフェノールを留去した後、キシレン(324.3g)及びシクロヘキサン(21.5g)を投入して10℃で攪拌した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、淡黄色の9−(3−メチル−4−ヒドロキシベンジル)−10−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アントラセン45.1g(収率55.7%)を得た。
【0081】
[実施例1]アントラセン誘導体の合成(ビスフェノールアントラセンのアリル化)
300mLの還流管付き反応容器に、得られた上記ビスフェノールアントラセン(37.6g,0.1mol)、メタノール(75.2g)、及び炭酸カリウム(27.6g,0.2mol)を入れ、撹拌溶解した。アリルブロミド(36.3g,0.3mol)を添加後、加熱して還流反応を5時間行った。30℃以下に冷却後、メタノール(65.0g)を投入し、減圧濾過にて析出していた結晶物97.0gを得た。得られた結晶物に酢酸エチル(300g)を加えて、60℃で溶解後、蒸留水(100.0g)にて水洗を数回行って残留している塩基性化合物を除去した。減圧下にて、残留している純水を留去した後、冷却しメタノール(150.0g)を加えて30℃で晶析した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、薄黄色結晶である目的のアントラセン誘導体31.1g(収率68.3%)を得た。
【0082】
得られた結晶は、GPC純度99.0%、HPLC純度98.3%、融点140.9℃、換算屈折率1.663(25℃)であった。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。H−NMR(400MHz,クロロホルム−d,δ,ppm/4.4,4.6,4H,−O−C−vinyl/4.9,2H,−CH−/5.2〜5.5,4H,−CH=C/6.1〜6.2,2H,−C=CH/6.7,7.0〜7.1,7.3,8H,Phenyl−/7.2〜7.3,7.4〜7.5,7.7,8.2,8H,Anthryl−)及び13C−NMR(400MHz,クロロホルム−d,δ,ppm/32.8,−−/68.7,68.8,−O−−vinyl/117.5,117.7,133.2,133.3,−vinyl/114.5,114.6,130.4,130.0,132.3,133.0,156.8,157.9,−Phenyl/124.6,124.8,125.5,127.7,129.0,131.3,131.9,136.5,−Anthryl)にて、9−(4−ヒドロキシベンジル)−10−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセンジアリルエーテル(上記式(1−1)で表される化合物)であることを確認した。図1にH−NMRチャート、図2に13C−NMRチャートを示す。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。図3に吸収スペクトル、図4に蛍光スペクトル(励起波長:380nm)を示す。
【0083】
[実施例2]アントラセン誘導体の合成(ビスクレゾールアントラセンのアリル化)
300mLの還流管付き反応容器に、得られた上記ビスクレゾールアントラセン(16.2g,0.04mol)、メタノール(81.0g)、及び炭酸カリウム(11.2g,0.08mol)を入れ、撹拌溶解した。アリルブロミド(14.6g,0.12mol)を添加後、加熱して還流反応を5時間行った。30℃以下に冷却後、メタノール(36.6g)を投入し、減圧濾過にて析出していた結晶物28.7gを得た。得られた結晶物にトルエン(48.6g)を加えて、60℃で溶解後、蒸留水(48.6g)にて水洗を数回行って残留している塩基性化合物を除去した。減圧下にて、残留している純水を留去した後、冷却しメタノール(97.8g)を加えて20℃で晶析した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、黄緑色結晶である目的のアントラセン誘導体13.1g(収率67.5%)を得た。
【0084】
得られた結晶は、GPC純度100.0%、HPLC純度98.7%、融点119.5℃、換算屈折率(25℃)1.655であった。また、UVランプ(365nm)照射時の黄緑色の発光を目視にて確認した。H−NMR(400MHz,DMSO−d,δ,ppm/2.0,2.2,6H,−C/4.4〜4.7,4H,−O−C−vinyl/4.9,2H,−C−/5.1〜5.3,5.3〜5.5,4H,−CH=C/5.9〜6.2,2H,−C=CH/6.7,6.8,7.0,7.1〜7.2,6H,Phenyl−/7.3〜7.4,7.4〜7.5,7.6,8.3,8H,Anthryl−)にて、9−(3−メチル−4−ヒドロキシベンジル)−10−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アントラセンジアリルエーテル(上記式(1−2)で表される化合物)であることを確認した。図5にH−NMRチャートを示す。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。図6に吸収スペクトル、図7に蛍光スペクトル(励起波長:377nm)を示す。
【0085】
実施例1及び実施例2で得られた本発明のアントラセン誘導体は、高い光屈折性及び蛍光特性を有することがわかる。また、実施例1で得られた上記式(1)においてX及びYがフェニレン基であり、n及びnが1であるアントラセン誘導体は、実施例2のアントラセン誘導体と比して、光屈折率及び融点がより高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のアントラセン誘導体は、高い光屈折性及び蛍光性能といった特性を有する硬化性組成物を提供することができる。さらに、このアントラセン誘導体を含む硬化性組成物は、例えば接着剤、塗料、積層板、成型材料、注型材料、半導体封止材料、プリント基板絶縁材料、コーティング材料、光学材料、構造材料、フォトレジスト原料などに用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアントラセン誘導体。
【化1】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【請求項2】
上記X及びYがフェニレン基であり、n及びnが1である請求項1に記載のアントラセン誘導体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアントラセン誘導体及び/又はこのアントラセン誘導体から得られる重合体を含む硬化性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項5】
塩基性化合物の存在下、下記式(2)で表されるアントラセン誘導体にハロゲン化アリルを反応させる工程を有する下記式(1)で表されるアントラセン誘導体の製造方法。
【化2】

(式(2)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【化3】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131749(P2012−131749A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286685(P2010−286685)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】